説明

超電導ケーブル

【課題】 冷却時の超電導線材の収縮分を簡易な構成にて吸収できる超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】 本発明超電導ケーブルは、螺旋状に巻回されて超電導層(導体層13、帰路導体17)を構成する超電導線材と、超電導層の内側に設けられた応力緩和層(内側応力緩和層12、絶縁層兼外側応力緩和層16)と、応力緩和層よりも内側に設けられたケーブル構成部材(フォーマ11)とを有するケーブルである。応力緩和層により、冷媒による超電導線材の冷却に伴う超電導層の径方向への収縮分を吸収するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導ケーブルに関するものである。特に、冷却による超電導線材の熱収縮を吸収可能な直流超電導ケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルとして、図4に記載の超電導ケーブルが提案されている。この超電導ケーブル100は、3心のケーブルコア10を断熱管20内に収納した構成である(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
ケーブルコア10は、中心から順にフォーマ11、導体層13、絶縁層16A、シールド層17A、保護層18を具えている。導体層13は、フォーマ11上に超電導線材を多層に螺旋状に巻回して構成される。通常、超電導線材には、酸化物超電導材料からなる複数本のフィラメントが銀シースなどのマトリクス中に配されたテープ状のものが用いられる。絶縁層16Aは絶縁紙を巻回して構成される。シールド層17Aは、絶縁層16A上に導体層13と同様の超電導線材を螺旋状に巻回して構成する。そして、保護層18には絶縁紙などが用いられる。
【0004】
また、断熱管20は、内管21と外管22とからなる二重管の間に断熱材(図示せず)が配置され、かつ二重管内が真空引きされた構成である。断熱管20の外側には、防食層23が形成されている。そして、フォーマ11(中空の場合)内や内管21とコア10の間に形成される空間に液体窒素などの冷媒を充填・循環し、絶縁層16Aに冷媒が含浸された状態で使用状態とされる。
【0005】
【特許文献1】特開2003-249130号公報(図1)
【特許文献2】特開2002-140944(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような超電導ケーブルでは、運転時、超電導線材は冷媒により極低温に冷却されて収縮するため、その収縮分を吸収する構成が求められる。しかし、この収縮分を吸収する機構として、簡易な構成が見出されていない。
【0007】
3心のケーブルコアを有する構成では、これらコアの撚り合わせにたるみを持たせるなどにより収縮分を吸収する対策を講じることができるが、単心の超電導ケーブルでは、そのような対策を採ることができない。そのため、冷却時の収縮に伴って超電導線材に応力が作用することを許容するか、或いは超電導ケーブルの端末部をケーブルの熱収縮に応じてスライドさせるなどにより対応することが考えられる。
【0008】
しかし、前者の場合は、超電導線材に収縮による応力の作用を許容するため、応力の大きさによっては超電導線材に大きな張力が発生し、超電導線材の劣化を招いたり、ケーブルの収縮に伴って、ケーブルの曲がり部において断熱管に側圧が加わり、断熱性能が低下する場合がある。また、後者の場合は、超電導ケーブルの端末をスライドするための機構が必要になり、大掛かりな収縮対策となりがちである。特に、スライド機構を用いる収縮対策は、ジョイントを介して複数の超電導ケーブルが接続された長距離の超電導ケーブル線路に対しては不適切である。
【0009】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたもので、その主目的は、冷却時の超電導線材の収縮分を簡易な構成にて吸収できる超電導ケーブルを提供することにある。
【0010】
また、本発明の別の目的は、冷却時の超電導線材の収縮分を簡易な構成にて吸収できる直流超電導ケーブルを提供することにある。
【0011】
さらに、本発明の他の目的は、冷却時の超電導線材の収縮分を簡易な構成にて吸収でき、かつ超電導線材の使用量をも極力低減できる超電導ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ケーブルコア自身に超電導層の熱収縮機構を持たせることで上記の目的を達成する。
【0013】
本発明超電導ケーブルは、螺旋状に巻回されて超電導層を構成する超電導線材と、超電導層の内側に設けられた応力緩和層とを有し、前記応力緩和層により、冷媒による超電導線材の冷却に伴う超電導層の径方向への収縮分を吸収するように構成されていることを特徴とする。
【0014】
超電導層の内側に応力緩和層を設けることで、冷却により超電導線材が収縮した際、この収縮に伴う超電導層の縮径量(螺旋状に巻回された超電導線材の径が冷却により小さくなる量)に相当する分の少なくとも一部を応力緩和層で吸収することにより、超電導線材に過度の張力が作用することを回避することができる。
【0015】
以下、本発明超電導ケーブルの構成要件を詳しく説明する。
【0016】
本発明超電導ケーブルは、代表的には、ケーブルコアと、ケーブルコアを収納する断熱管とから構成される。そのうち、ケーブルコアは、応力緩和層、導体層、絶縁層を有することを基本構成とする。通常は、ケーブルコアにケーブル構成部材となるフォーマも設けられている。その他、外部導体層(シールド層)、押え巻き層、クッション層を設けてもよい。
【0017】
フォーマは、導体層を所定形状に保形するもので、パイプ状のものやスパイラルに成形した帯状体あるいは撚り線構造のものが利用できる。その材質には、銅やアルミニウムなどの非磁性の金属材料が好適である。その他、各種プラスチック材料も利用できる。フォーマをパイプ状のものとした場合、屈曲性を考慮してコルゲート管とすることが好ましい。パイプ状のフォーマであれば、フォーマ内を冷媒の流路とできる。
【0018】
応力緩和層は、超電導層の熱収縮分を吸収するための層である。超電導層は、超電導線材を螺旋状に巻回して形成した層で、後述するように、導体層や外部導体層(シールド層)が含まれる。この超電導層は、ケーブル運転時に、冷媒により極低温に冷却されて熱収縮する。超電導線材の熱収縮に伴い、径方向への収縮も生じるため、超電導層の内側に設けられた応力緩和層が超電導線材の熱収縮に対応して収縮すれば、超電導線材に過度の張力が作用することを抑制できる。
【0019】
応力緩和層は、冷媒により極低温下におかれた際、この超電導層の縮径分の少なくとも一部を吸収できるような収縮量を持ったものとすれば良い。つまり、応力緩和層と、応力緩和層よりも内側に設けられたケーブル構成部材とにより、冷却に伴う超電導層の径方向への収縮分を吸収するように構成してもよいし、応力緩和層のみにより、冷却に伴う超電導層の径方向への収縮分を吸収するように構成してもよい。
【0020】
前者の場合、応力緩和層とケーブル構成部材の双方の収縮により超電導層の収縮を吸収するため、応力緩和層自体を薄くすることができる。応力緩和層よりも内側に設けられたケーブル構成部材の代表例としてはフォーマが挙げられる。後者の場合、超電導層の縮径分を全て応力緩和層で吸収するため、応力緩和層よりも内側の構成部材、例えばフォーマの材質や構造を自由に選択できる。
【0021】
応力緩和層の配置箇所は、超電導層の内側とする。例えば、導体層の内側(フォーマの外側)に内側応力緩和層として設けたり、外部導体層(シールド層)の内側に外側応力緩和層として設けることが挙げられる。外部導体層の内側に設ける応力緩和層は、絶縁層自体を利用しても良いし、絶縁層に加えて別途応力緩和層を形成しても良い。絶縁層自体を外側応力緩和層として利用すれば、絶縁層とは別に応力緩和層を設ける必要がなく、ケーブルコアの小径化に寄与することができる。
【0022】
この応力緩和層の構成材料としては、クラフト紙、プラスチックテープおよびクラフト紙とプラスチックテープとの複合テープの少なくとも1種が好適に利用できる。プラスチックテープには、ポリオレフィンテープが、特にポリプロピレンが好適に利用できる。通常、クラフト紙は安価であるが、冷却による収縮量が少なく、クラフト紙とポリプロピレンとの複合テープは高価であるが、冷却による収縮量が大きい。特に、複合テープの場合、ポリプロピレンの厚みの大きなものを用いれば、大きな収縮量を確保することができ、超電導線材の縮径量が大きい場合でも超電導線材に過度の張力がかからないような応力緩和層を形成することができる。その他、クラフト紙ではクレープクラフト紙や調湿クラフト紙が大きな収縮量を確保することができる。そして、これらの材料を単独で或いは組み合わせて、超電導線材の縮径量の少なくとも一部を吸収できるような厚みの応力緩和層を構成すればよい。
【0023】
導体層は、超電導線材から構成される導体部分である。例えば、超電導線材をフォーマの外側に螺旋状に多層に巻回することで導体層を形成する。超電導線材の具体例としては、Bi2223系酸化物超電導材料からなる複数本のフィラメントが銀シースなどのマトリクス中に配されたテープ状のものが挙げられる。超電導線材の巻回は単層でも多層でもよい。また、多層とする場合、層間絶縁層を設けてもよい。層間絶縁層は、クラフト紙などの絶縁紙やPPLP(住友電気工業株式会社製、登録商標)などの複合紙を巻回して設けることが挙げられる。
【0024】
絶縁層は、導体層の電圧に応じた絶縁耐力を有する絶縁材料で構成する。例えば、クラフト紙、プラスチックテープおよびクラフト紙とプラスチックテープとの複合テープの少なくとも1種が好適に利用できる。
【0025】
以上の各材料において、クラフト紙だけで絶縁層を構成する構造が最も低コストである。複合テープとクラフト紙とを複合して用いれば、複合テープのみで絶縁層を構成する場合に比べて高価な複合テープの使用量を低減でき、ケーブルコストを下げることができる。
【0026】
特に、クラフト紙とポリプロピレンフィルムをラミネートした複合テープを用いる場合、複合テープ全体の厚みに対するポリプロピレンフィルムの厚みの比率kが60%以上の複合テープを用いることが好ましい。複合テープを構成するクラフト紙とポリプロピレンフィルムの各抵抗率の違いにより、電界ストレスは耐電圧特性に優れたプラスチックフィルムに大きくかかる。そのため、絶縁層に占めるプラスチックフィルムの比率を高めることで絶縁層の耐電圧特性(特に直流耐電圧特性)を改善し、絶縁層の厚みを低減することが可能となる。
【0027】
また、後述する外部導体層を設けた場合、絶縁層自体を応力緩和層として利用することが好ましい。絶縁層とは別に応力緩和層を形成しても良いが、絶縁層自体を外部導体層の縮径量を吸収するための応力緩和層として利用することで、超電導ケーブルの外径の増加を抑制することができる。
【0028】
その他、絶縁層の内外周の少なくとも一方、つまり導体層と絶縁層との間や、絶縁層とシールド層との間に半導電層を形成しても良い。前者の内部半導電層、後者の外部半導電層を形成することで、電気性能の安定に有効である。
【0029】
上記の絶縁層の外側に外部導体層を設けてもよい。特に、直流超電導ケーブルにおいて、外部導体層は単極方式の送電を行う際に必要な構成である。交流超電導ケーブルでは、超電導線材の交流損失を減らすためにも導体層の外周に漏れる磁束を遮蔽するためのシールド層が必要であるが、直流超電導ケーブルでは、交流超電導ケーブルのシールド層に相当する箇所に外部導体層を設けて帰路導体とする必要がある。つまり、絶縁層の外側に超電導線材からなる外部導体層(帰路導体)を設けることで、導体層を単極送電における往路電流流路とし、外部導体層を帰路電流流路として用いることができる。この外部導体層は、導体層と同一の電流容量を具える構成とする必要がある。なお、超電導ケーブルを複数のコアが断熱管内に収納された多心一括型とし、単極送電方式または双極送電方式を採用することも可能である。後者の場合、本発明ケーブルにおける外部導体層は、中性線としての機能を有する。
【0030】
上述の導体層や外部導体層を構成する超電導線材の巻き付けピッチは、巻き付け径の4〜6倍であることが好ましい。巻き付け径とは、超電導線材が巻き付けられる部材の径、つまり超電導線材により構成された層の内径のことである。巻き付け径に対する巻き付けピッチの比率を上記のように限定することで、冷却により超電導線材が収縮した際の縮径量を小さくできる短ピッチで、かつ超電導線材の使用量も抑制できる巻き付けピッチとすることができる。
【0031】
交流超電導ケーブルでは、導体層やシールド層は、多層に巻回された超電導線材の各層における電流を均一にして(均流化)交流損失を低減するため、超電導線材の巻き付けピッチを各層で調整している。例えば、超電導線材の巻き付けやコアの曲げ履歴で超電導線材が劣化しない範囲で、短ピッチから長ピッチまでが組み合わされている。そのため、巻き付けピッチの選択に対する制約が大きい。
【0032】
一方、直流超電導ケーブルでは、均流化を考慮する必要がないため、巻き付けピッチの選択に対する制約が少なく、比較的自由な巻き付けピッチを選択でき、全ての層を同じピッチで巻回することも可能である。
【0033】
超電導線材の巻き付けピッチが小さくなれば、冷却により超電導線材が収縮した際の縮径量、すなわち応力緩和層で吸収すべき量も小さくなるため、応力緩和層を形成しやすくできる。ところが、巻き付けピッチが小さくなると、超電導線材の使用量が増え、コスト増につながるため、超電導線材の使用量の増加を極力抑えた巻き付けピッチの選択が重要となる。そこで、巻き付け径に対する巻き付けピッチの比率を上記のように限定することで、冷却により超電導線材が収縮した際の縮径量を小さくできる短ピッチで、かつ超電導線材の使用量も比較的抑えたピッチにて超電導ケーブルを構成することができる。より好ましい超電導線材の巻き付けピッチは巻き付け径の5倍である。
【0034】
このような超電導線材の好ましい巻き付けピッチは、次のように試算することで求めることができる。まず、超電導層を構成する超電導線材の巻き付けピッチと巻き付け径の比率「(ピッチ/径)比」と超電導線材の冷却時の縮径量との関係を調べる。次に、「(ピッチ/径)比」と超電導線材の使用量との関係を調べる。そして、超電導線材の縮径量を規定値以下にでき、かつ超電導線材の使用量を規定値以下にできる超電導線材の巻き付けピッチおよび巻き付け径を選択する。
【0035】
その他、超電導層の外側に押え巻き層を形成してもよい。超電導層の外側に押え巻き層を形成することで、超電導層に対して内側に締め付ける作用が期待できる。その締付作用により、超電導層の縮径を円滑に挙動させることができる。押え巻き層の材質は、超電導層に所定の締付力を生じさせられるものであればよく、例えば金属テープ、特に銅テープなどが好適に利用できる。
【0036】
この押え巻き層を用いた場合、押え巻き層と超電導層との間にクッション層を介在させることも好ましい。押え巻き層に金属テープを用いた場合、通常、超電導線材も銀などの金属が用いられているため、押え巻き層と超電導層とは金属同士の接触となり超電導線材が損傷する可能性がある。そのため、両層の間にクッション層を介在させれば、これら金属同士の直接接触を回避して、超電導線材の損傷を防止することができる。クッション層の具体的材質としては、絶縁紙やカーボン紙が好適に利用できる。
【0037】
さらに、ケーブルコアの最外周に保護層を設けることが好ましい。この保護層は、外部導体層の機械的保護と共に、断熱管との絶縁の機能を有する。保護層の材質としては、クラフト紙などの絶縁紙やプラスチックテープが利用できる。
【0038】
一方、断熱管は、冷媒の断熱が維持できる構造であれば、どのような構造でも構わない。例えば、外管と内管とからなる二重構造の二重管の間に断熱材を配置し、内管と外管間を真空引きする構成が挙げられる。通常、内管と外管の間には、金属箔とプラスチックメッシュを積層したスーパーインシュレーションが配置される。内管内には、少なくとも導体層が収納されると共に、導体層を冷却する液体窒素などの冷媒が充填される。
【0039】
この冷媒は、超電導線材を超電導状態に維持できるものとする。現在、冷媒には液体窒素の利用が最も実用的と考えられているが、その他、液体ヘリウム、液体水素などの利用も考えられる。特に、液体窒素の場合、ポリプロピレンを膨潤させない液体絶縁であり、比率kが高い、つまりポリプロピレンの厚みの大きい複合テープで絶縁層を構成した場合でも直流耐電圧特性やImp.耐圧特性に優れた超電導ケーブルを構成することができる。
【0040】
本発明は、直流・交流のいずれの超電導ケーブルにおいても適用できる。特に、上述したように超電導層における超電導線材の巻き付けピッチの制約が少ない直流超電導ケーブルに適用することが好ましい。ただし、交流ケーブルであっても、例えば、(1)導体層・シールド層が各々単層で構成される場合や、(2)導体層・シールド層が多層に構成されているが、ピッチ調整の必要性が少なく、熱収縮対策を優先したい場合は、超電導線材の巻き付けピッチとして短ピッチを採用することが可能である。そのため、交流ケーブルであっても、ケーブルコア自身に熱収縮吸収機構を持たせることが可能である。
【発明の効果】
【0041】
本発明超電導ケーブルによれば、次の効果を奏することができる。
【0042】
(1)超電導層の内側に応力緩和層を設けることで、冷却により超電導線材が収縮した際、この収縮に伴う超電導層の縮径量に相当する分の少なくとも一部を応力緩和層で吸収することができる。そのため、超電導線材に過度の張力が作用することを回避することができ、超電導特性の低下を抑制することができる。
【0043】
(2)超電導層の内側に応力緩和層を設けるという簡易な構成にて、ケーブルコア自身に熱収縮分を吸収する機構を構成することができる。そのため、超電導線材の熱収縮分を確実に吸収できる構成としながら、ケーブルの端末部をスライドするなどの大掛かりな構成を採る必要がない。
【0044】
(3)ケーブルコア自身に熱収縮を吸収する機構を設けたことで、多心超電導ケーブルはもちろん、従来、吸収機構を設けることが難しいと考えられていた単心超電導ケーブルにおいても超電導線材の収縮分を吸収することが可能になる。
【0045】
(4)絶縁層自体を外部導体層の縮径分を吸収する応力緩和層とすることで、新たに外部導体層用の応力緩和層を形成する必要がなく、ケーブル径の増大を抑制することができる。
【0046】
(5)前記超電導線材の巻き付けピッチが、巻き付け径の4〜6倍とすることで、冷却時の超電導線材の収縮分を簡易な構成にて吸収でき、かつ超電導線材の使用量をも極力低減できる超電導ケーブルとすることができる。
【0047】
(6)超電導層の外側に押え巻き層を設けることで超電導層を内周側に押え付け、超電導線材の熱収縮に伴う縮径を円滑に挙動させて、応力緩和層による縮径量の吸収を円滑に行わせる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0048】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0049】
(実施例1)
[全体構造]
図1に示すように、本発明直流超電導ケーブル100は、1心のケーブルコア10と、そのコア10を収納する断熱管20とから構成される。
【0050】
[コア]
このコア10は、中心から順に、フォーマ11、内側応力緩和層12、導体層13、クッション層14A、押え巻き層15A、絶縁層(兼外部応力緩和層)16、外部導体層(帰路導体17)クッション層14B、押え巻き層15Bおよび保護層18を有する。
【0051】
<フォーマ>
フォーマ11には、ステンレス製のコルゲート管を用いた。中空のフォーマ11を用いた場合、その内部を冷媒(ここでは液体窒素)の流路とできる。
【0052】
<内側応力緩和層>
フォーマ11の上に、クラフト紙とポリプロピレンフィルムをラミネートした住友電気工業株式会社製複合テープPPLP(登録商標)を巻き付けて内側応力緩和層12を形成する。ここでは、次述する導体層13の冷却時における縮径量を吸収できるような材質および厚みを選択した。より具体的には、複合テープ全体の厚みに対するポリプロピレンフィルムの厚みの比率kが60%のPPLPを用いた。
【0053】
<導体層>
導体層13には、厚さ0.24mm、幅3.8mmのBi2223系Ag-Mnシーステープ線材を用いた。このテープ線材を内側応力緩和層12の上に多層に巻回して導体層13を構成する。ここでは、4層に超電導線材を巻き付ける。
【0054】
<クッション層と押え巻き層>
導体層13の上にクッション層14Aを形成し、さらにその上に押え巻き層15Aを形成した。クッション層14Aは、導体層上に数層のクラフト紙を巻きつけることで構成し、押え巻き層15Aは銅テープを巻き付けることで構成した。クッション層14Aは導体層と押え巻き層15Aによる金属同士の接触を回避し、押え巻き層15Aはクッション層14Aを介して導体層13を内周側に締め付けて冷却時の導体層13の縮径を円滑に挙動させる。
【0055】
<絶縁層兼外部応力緩和層>
押え巻き層15Aの上には絶縁層16が形成される。ここでは、比率kが60%のPPLPで絶縁層16を構成した。この絶縁層16は、導体層13の電気絶縁の機能を有すると共に、次述する外部導体層の冷却に伴う縮径量を吸収する外部応力緩和層としての機能も有する。絶縁層16自体を外部応力緩和層とすることで、別個に外部応力緩和層を形成する必要がなく、ケーブルコアの外径が大きくなることを抑制できる。
【0056】
また、図示していないが、この絶縁層の内周側には内部半導電層が、外周側には外部半導電層が形成されている。いずれの半導電層もカーボン紙の巻回により形成した。
【0057】
<外部導体層(帰路導体)>
絶縁層16の外側には、外部導体層(帰路導体17)を設けた。直流では電流の往復流路が必要なため、単極送電では帰路導体17を設けて帰路電流の流路として利用する。帰路導体17は、導体層13と同様の超電導線材で構成され、導体層13と同様の送電容量を有している。
【0058】
<クッション層と押え巻き層>
続いて、外部導体層の上にクッション層14Bを形成し、さらにその上に押え巻き層15Bを形成した。このクッション層14Bと押え巻き層15Bは導体層13の外側に設けられたクッション層14Aおよび押え巻き層15Aと同様の材料で構成される。このクッション層14Bは帰路導体17と押え巻き層15Bによる金属同士の接触を回避し、押え巻き層15Bはクッション層14Bを介して帰路導体17を内周側に締め付けて冷却時の帰路導体17の縮径を円滑に挙動させる。
【0059】
<保護層>
この帰路導体17の外側には絶縁材料で構成される保護層18が設けられている。ここでは、クラフト紙の巻回により保護層18を構成している。この保護層18により、帰路導体17の機械的保護と共に、断熱管(内管21)との絶縁をとり、断熱管20への帰路電流の分流を防ぐことができる。
【0060】
[断熱管]
断熱管20は内管21および外管22を具える2重管からなり、内外管21、22の間に真空断熱層が構成される。真空断熱層内には、プラスチックメッシュと金属箔を積層したいわゆるスーパーインシュレーションが配置されている。内管21の内側とコア10との間に形成される空間は冷媒の流路となる。また、必要に応じて、断熱管20の外周にポリ塩化ビニルなどで防食層23を形成しても良い。
【0061】
(試算例)
次に、上記の超電導ケーブルを作製するのに際し、縮径量を小さくできるように超電導線材の短ピッチ化を目指しながら、超電導線材の使用量を少なくできるように以下の試算を行った。
【0062】
まず、超電導層を構成する超電導線材の巻き付けピッチと巻き付け径の比率「(ピッチ/径)比」と超電導線材の縮径量との関係を調べてみた。ここでは、巻き付け径を20mmφ、30mmφ、40mmφの3通りとして、各場合における「(ピッチ/径)比」と、運転時の冷却により超電導線材が0.3%収縮するとした場合の縮径量を各材料の線膨張係数を用いて試算した。その結果を図2のグラフに示す。
【0063】
このグラフに示すように、「(ピッチ/径)比」が同じであれば、巻き付け径が大きいほど縮径量は小さいことがわかる。また、同じ巻き付け径であれば、「(ピッチ/径)比」が小さい方が縮径量も小さいことがわかる。この結果からすれば、短ピッチを選択した方が吸収すべき縮径量が小さくて済むことがわかる。
【0064】
次に、「(ピッチ/径)比」と超電導線材の使用量との関係を調べてみた。ここでは、超電導線材を巻き付け対象の長手方向に沿わせた場合、つまり縦添えした場合の超電導線材の使用量を1.0とし、「(ピッチ/径)比」を変えた場合に超電導線材の使用量がどのように変化するかを相対値で示した。その結果を図3のグラフに示す。
【0065】
このグラフに示すように、「(ピッチ/径)比」が6.0程度までは超電導線材の使用量は極端に多くはならないが、同比が4.0未満となったあたりから急激に超電導線材の使用量が大きくなることがわかる。
【0066】
以上の2つの試算結果から、冷却時の超電導線材の収縮分を容易に吸収しやすい程度として、かつ超電導線材の使用量も少なくしようとすれば、「(ピッチ/径)比」を4.0〜6.0程度にすればよいことがわかる。
【0067】
この試算結果を元に設計した本発明超電導ケーブル(50kV、10000A)の構成材料と各部の寸法を表1にまとめる。なお、導体層および外部導体層における超電導線材の巻き付けピッチは、巻き付け径の5倍である。つまり、導体層では210mm、外部導体層では約274mmである。
【0068】
【表1】

【0069】
この表1の構成において、フォーマ自身も冷却により縮径する。その冷却時の収縮率が0.3%とすると、フォーマの縮径量は0.09mmとなる。一方、巻き付け径42mm、巻き付けピッチ210mmの条件で0.3%の収縮率による超電導線材の縮径量は0.45mmである。従って、フォーマの縮径量だけでも導体層の縮径量の20%は吸収できることがわかる。従って、内側応力緩和層の縮径量が0.36mmであれば、フォーマと内側応力緩和層の合計縮径量により、導体層の縮径量の100%を吸収できることがわかる。そして、縮径量が0.45mmの内側応力緩和層を形成すれば、導体層の縮径量の全てを内側応力緩和層のみで吸収できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明超電導ケーブルは、電力輸送手段として利用することができる。特に、単心の直流電力輸送手段として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明超電導ケーブルの横断面図である。
【図2】「(ピッチ/径)比」と超電導線材の冷却時の縮径量との関係を示すグラフである。
【図3】「(ピッチ/径)比」と超電導線材の使用量との関係を示すグラフである。
【図4】従来の超電導ケーブルの横断面図である。
【符号の説明】
【0072】
100 直流超電導ケーブル
10 コア
11 フォーマ 12 内側応力緩和層 13 導体層 14A、14B クッション層
15A、15B 押え巻き層 16 絶縁層兼外部応力緩和層
16A 絶縁層 17 帰路導体 17A シールド層 18 保護層
20 断熱管
21 内管 22 外管 23 防食層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状に巻回されて超電導層を構成する超電導線材と、
超電導層の内側に設けられた応力緩和層とを有し、
前記応力緩和層により、冷媒による超電導線材の冷却に伴う超電導層の径方向への収縮分を吸収するように構成されていることを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項2】
さらに応力緩和層よりも内側に設けられたケーブル構成部材を有し、
前記応力緩和層とケーブル構成部材とにより、冷媒による超電導線材の冷却に伴う超電導層の径方向への収縮分を吸収するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項3】
前記超電導層には導体層が含まれ、
前記応力緩和層には導体層の内側に形成された内側応力緩和層が含まれることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導ケーブル。
【請求項4】
前記応力緩和層には、導体層の外側に設けられた絶縁層を外側応力緩和層として利用し、
前記超電導層には絶縁層の外側に形成される外部導体層が含まれることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル。
【請求項5】
前記超電導線材の巻き付けピッチが、巻き付け径の4〜6倍であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の超電導ケーブル。
【請求項6】
前記ケーブル構成部材にはフォーマが含まれ、
そのフォーマがコルゲート管、スパイラル帯状体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の超電導ケーブル。
【請求項7】
前記応力緩和層が、クラフト紙、プラスチックテープおよびクラフト紙とプラスチックテープとの複合テープの少なくとも1種から構成されることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の超電導ケーブル。
【請求項8】
超電導層の外側に押え巻き層を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の超電導ケーブル。
【請求項9】
前記超電導ケーブルが直流超電導ケーブルであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の超電導ケーブル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−164571(P2006−164571A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350327(P2004−350327)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】