説明

超電導ケーブル

【課題】臨界電流密度の対温度特性が安定した超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】超電導導体層2の少なくとも1層がBi系超電導テープ線材21によって形成される。そのBi系超電導テープ線材21は、超電導導体層2の内側の層に配設され、Bi系超電導テープ線材21の外側に、Y系超電導薄膜線材11,11が配設される。また、超電導シールド層4の少なくとも1層がBi系超電導テープ線材21によって形成される。そのBi系超電導テープ線材21は、超電導シールド層4の外側の層に配設され、Bi系超電導テープ線材21の内側にY系超電導薄膜線材11が配設される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導薄膜線材を主材とする超電導ケーブルにおいて、超電導薄膜線材に異種の超電導線材を含めて形成される超電導導体層又は超電導シールド層を備え、特に、臨界電流密度の対温度特性の安定化を図った超電導ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導線材として、Bi-Sr-Ca-Cu-Oテープ線材に代表されるBi系超電導テープ線材(BSCCO(商品名))が実用化されつつある。このBi系超電導テープ線材は、例えばBi2223相からなる複数本の超電導フィラメントを銀などの安定化材中に埋設した構造のテープ線材である。その断面は、例えば図3に示すように、ビスマス系酸化物超電導体からなる多数本の超電導フィラメント21aを銀材等からなる金属シース(金属安定化材)21bで覆ってテープ状に形成される。このようなBi系超電導テープ線材21は、後で説明するように、液体窒素の沸点である77K付近で、温度変化に対する臨界電流(臨界電流密度(Jc))の変化率が少なく、臨界温度も高いという特徴を備えているが、冷媒温度を下げても臨界電流(臨界電流密度(Jc))の大きな増加が望めないという難点がある。
【0003】
一方、次世代超電導線材として、いわゆる超電導薄膜線材であるY系超電導薄膜線材(YBCO)の開発が進められている(例えば特許文献1)。Y系超電導薄膜線材の構成は図4に示される。このY系超電導薄膜線材11は、テープ状の金属基板12上に順次中間層13、超電導薄膜14、保護層15を積層して形成される。具体例としては、金属基板12としてハステロイ(登録商標)、中間層13としてYSZ、超電導薄膜14としてY系123構造(YBa2Cu3Oy)薄膜、保護層15として銀が利用されている。通常、これら中間層13や超電導薄膜14はレーザ蒸着などにより金属基板12の片面のみに形成されている。このようなY系超電導薄膜線材11は、後で説明するように、77K付近で、温度変化に対する臨界電流(臨界電流密度(Jc))の変化率が大きいことから、冷媒温度を下げることによって臨界電流(臨界電流密度(Jc))が大きく上昇するという特徴を備えているが、運転温度が上昇した場合の臨界電流(臨界電流密度(Jc))の減少が大きいという難点がある。
【0004】
Y系超電導薄膜線材とBi系超電導テープ線材の臨界電流密度(Jc)の対温度特性は、例えば図5に示すように、かなり明瞭な差異が認められる。即ち、超電導ケーブルの運転温度近傍の65K〜77K(液体窒素の沸点)においては、一点鎖線で示すY系超電導薄膜線材は、二点鎖線で示すBi系超電導テープ線材に比べて、温度の上昇に対する臨界電流密度(Jc)の減少がかなり大きく、両線材の臨界電流密度曲線の対温度勾配に明瞭な相違が認められる。
【0005】
このような両線材の臨界電流密度(Jc)の対温度特性の相違に起因して、短絡事故時に一時的に大きな電流が流れた場合において、瞬時復帰が可能な温度上昇幅に大きな相違が認められる。通常、送電線路システムに大きな短絡電流が流れた場合、遮断器の仕様によって決まる所定の時間の後に、ケーブルは線路より遮断されるが、遮断されるまでの間に超電導ケーブルに流れる短絡電流によってケーブルの温度が上昇する。瞬時復帰とは、このような大電流が流れた場合においても、超電導ケーブルが常電導転移することなく、事故除去後にすぐに運転が再開される状態をいう。Y系超電導薄膜線材は、Bi系超電導テープ線材よりも瞬時復帰を可能とする許容温度上昇幅も小さい。許容温度上昇幅とは、運転時における冷媒の設定温度から、瞬時復帰できる最大の温度に至るまでの温度上昇幅をいう。
【0006】
従来、このようなBi系超電導テープ線材又はY系超電導薄膜線材により、例えば交流用の超電導ケーブルを構成する場合、超電導導体層と超電導シールド層は、Bi系超電導テープ線材又はY系超電導薄膜線材の何れか1種類の線材のみで構成されていた。つまり、Bi系超電導ケーブルでは、Bi系超電導テープ線材のみによって超電導導体層と超電導シールド層が形成されていた(例えば特許文献2参照)。また、Y系超電導ケーブルでは、Y系超電導薄膜線材のみによって超電導導体層と超電導シールド層が形成されていた(例えば特許文献3参照)。
【特許文献1】特開2001-31418号公報
【特許文献2】特開2006-331893号公報
【特許文献3】特開2007-188844号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Y系超電導ケーブルは、Bi系超電導ケーブルに比して、運転温度から常電導転移するまでの温度幅が小さいため、送電線路システムの中間ジョイント部や端末接続部での発熱によりクエンチが発生しやすい。また、短絡電流に対して瞬時復帰を可能とする許容温度上昇幅が小さく、瞬時復帰しない場合でも、回復するまでに要する時間が長くなる。従って、Y系超電導ケーブルでは、システムの安定性を確保するための対策が望まれていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされ、臨界電流密度の対温度特性を安定化させた超電導ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、超電導導体層と超電導シールド層を備えた超電導ケーブルであって、
前記超電導導体層が、超電導薄膜線材に異種の超電導線材を含めて形成され、前記超電導線材が、Bi系超電導テープ線材で形成されることを特徴とする。
【0010】
このような構成によれば、運転温度が上昇した際の臨界電流密度(Jc)の減少率が大きいというY系超電導薄膜線材の難点を、Bi系超電導テープ線材によって補うことができる。即ち、超電導導体層に、Bi系超電導テープ線材が含まれるので、運転温度が上昇した際の臨界電流密度(Jc)の減少率が少ないというBi系超電導テープ線材の特性を超電導導体層に加味することができる。これにより、超電導導体層全体として、運転温度が上昇した際の臨界電流密度(Jc)の減少率を小さくすることができ、超電導導体層における臨界電流密度(Jc)の対温度特性を改善することができる。
【0011】
前記Bi系超電導テープ線材は、前記超電導導体層の内側の層に配設されるようにしてもよい。超電導導体層は、外層ほど外部平行磁場が大きくなるため、Bi系超電導テープ線材を超電導導体層の内側の層に配設することによって、外部平行磁場に対する交流損失が少なく外部平行磁場に対する臨界電流の減少が少ない超電導薄膜線材を外層側に配置することができる。従って、全体として、交流損失が少なく大容量な超電導導体層を形成することができる。その超電導薄膜線材には、例えばY系超電導薄膜線材を用いることができる。
【0012】
また、別の発明は、超電導導体層と超電導シールド層を備えた超電導ケーブルであって、
前記超電導シールド層が、超電導薄膜線材に異種の超電導線材を含めて形成され、前記超電導線材が、Bi系超電導テープ線材で形成されることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、運転温度が上昇した際の臨界電流密度(Jc)の減少率が大きいというY系超電導薄膜線材の難点を、Bi系超電導テープ線材によって補うことができる。即ち、超電導シールド層にBi系超電導テープ線材が含まれるので、運転温度が上昇した際の臨界電流密度(Jc)の減少率が少ないというBi系超電導テープ線材の特性を超電導シールド層に加味することができる。これにより、超電導シールド層全体として、運転温度が上昇した際の臨界電流密度(Jc)の減少率を小さくすることができ、超電導シールド層における臨界電流密度(Jc)の対温度特性を改善することができる。
【0014】
前記Bi系超電導テープ線材は、前記超電導シールド層の外側の層に配設されるようにしてもよい。超電導シールド層は、内層ほど外部平行磁場が大きくなるため、Bi系超電導テープ線材を超電導シールド層の外側の層に配設することによって、外部平行磁場に対する交流損失が少なく外部平行磁場に対する臨界電流の減少が少ない超電導薄膜線材を内層側に配置することができる。従って、全体として、交流損失が少なく大容量な超電導シールド層を形成することができる。その超電導薄膜線材には、例えばY系超電導薄膜線材を用いることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の超電導ケーブルは、超電導導体層の少なくとも1層がBi系超電導テープ線材で形成されるので、超電導導体層における臨界電流密度(Jc)の対温度特性が改善され、事故電流に対して瞬時復帰しうる許容温度上昇幅が拡大された送電線路システムを構築することができる。
【0016】
本発明の別の超電導ケーブルは、超電導シールド層の少なくとも1層がBi系超電導テープ線材で形成されるので、超電導シールド層における臨界電流密度(Jc)の対温度特性が改善され、事故電流に対して瞬時復帰しうる許容温度上昇幅が拡大された送電線路システムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の実施の形態に係る超電導ケーブルについて図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0018】
図1は、超電導ケーブルのケーブルコアの主要な構成を示す斜視図である。このケーブルコアは、中心から順に、フォーマ1と、超電導導体層2と、絶縁層3と、超電導シールド層4と、を備えている。フォーマ1は、Cuなどの常電導材料からなる素線を撚り合せた撚り線又は中空パイプ等で形成され、絶縁層3は、クラフト紙やクラフト紙とポリオレフィンフィルムをラミネートした複合紙等で形成される。そして、超電導導体層2は、例えば図3に示すようなBi系超電導テープ線材21で形成される内側層と、Y系超電導薄膜線材11で形成される中間層と外側層と、を備えている。また、超電導シールド層4は、Y系超電導薄膜線材11で形成される内側層と、Bi系超電導テープ線材21で形成される外側層と、を備えている。
【0019】
このようなケーブルコアを備えた超電導ケーブルにおける超電導導体層2では、外層ほど外部平行磁場が大きくなるため、その中間層と外側層は、外部平行磁場に対する交流損失が少なく外部平行磁場に対する臨界電流(Ic)の減少が少ないY系超電導薄膜線材11で形成している。そして、その内側層(例えば層数で1〜2層)を、温度上昇に対して臨界電流密度(Jc)の減少が少ないBi系超電導テープ線材21で形成している。このような構成によって、磁場による臨界電流(Ic)の低下が少なく磁場特性に優れているY系超電導薄膜線材11の特徴を生かしつつ、超電導導体層2における臨界電流密度(Jc)の対温度特性を改善することができ、かつ、交流損失を少なくして大容量を確保することができる。
【0020】
また、超電導シールド層4では、内層ほど外部平行磁場が大きくなるため、その内側層を、外部平行磁場に対する交流損失が少なく外部平行磁場に対する臨界電流(Ic)の減少が少ないY系超電導薄膜線材11で形成している。そして、その外側層を、温度上昇に対して臨界電流密度(Jc)の減少が少ないBi系超電導テープ線材21で形成している。このような構成により、外部平行磁場による臨界電流(Ic)の低下が少なく磁場特性に優れているY系超電導薄膜線材11の特徴を生かしつつ、超電導シールド層4における臨界電流密度(Jc)の対温度特性を改善することができ、かつ、交流損失を少なくして大容量を確保することができる。
【0021】
従って、上述のようなBi系超電導テープ線材を混用した超電導導体層2と超電導シールド層4を備えた超電導ケーブルによって送電線路システムを構成した場合、事故電流に対して瞬時復帰が可能となる温度領域も拡大される。また、瞬時復帰が許容されず送電停止状態(シャットダウン)になった場合であっても、運転を再開までの冷却に要する時間が短縮化される。
【0022】
このような超電導ケーブルの対温度特性については、Bi系超電導テープ線材とY系超電導薄膜線材の臨界電流密度(Jc)の対温度特性を比較して示す図2のグラフによって確認することができる。尚、図2では、横軸に冷媒の温度(絶対温度K)、縦軸にY系超電導薄膜線材とBi系超電導テープ線材の臨界電流密度(Jc)を、冷媒の沸点77Kにおける値を基準値(=1.0)として、その基準値に対する比率で表示している。図示のように、77K付近では、Y系超電導薄膜線材の臨界電流密度曲線の勾配がBi系超電導テープ線材よりもかなり大きいことが判る。つまり、Y系超電導薄膜線材は、冷媒温度を下げれば、臨界電流密度(Jc)が大きく上昇し、温度変化に対する臨界電流密度(Jc)の変化率が大きい。従って、冷媒温度を下げることによって臨界電流密度(Jc)を大きく上昇させることができる反面、運転温度が上昇した場合の臨界電流密度(Jc)の減少が大きいため、事故電流に対して瞬時復帰を可能とする許容温度上昇幅も小さい。これに対して、Bi系超電導テープ線材は、運転温度が上昇した場合の臨界電流密度(Jc)の減少率が少なく、臨界温度も高いことから、事故電流に対して瞬時復帰を可能とする許容温度上昇幅も大きい。
【0023】
例えば、送電線路システムで、短絡事故等の原因で、超電導ケーブルに一時的に大電流が流れると、超電導ケーブルの温度が上昇するが、その上昇幅が、常電導転移しない温度範囲内であれば、瞬時復帰が可能となり、継続的に超電導状態を維持して送電を継続することができる。従来のY系超電導薄膜線材のみで超電導層が形成されるY系超電導ケーブルでは、瞬時復帰を可能とする許容温度上昇幅が小さいため、送電停止状態に至るケースが多くなる。これに対して、従来のBi系超電導テープ線材のみで超電導層を形成したBi系超電導ケーブルでは、瞬時復帰を可能とする許容温度上昇幅も比較的大きいため、Y系超電導ケーブルよりも送電停止状態になるケースは少なくなる。
【0024】
Y系超電導ケーブルで構築された送電線路システムでBi系超電導ケーブルと同等の許容温度上昇幅を確保するためには、線材量を増やすことで負荷率を低下させて運転せざるを得ない。しかし、このような対応をとれば、コンパクトで高密度送電という超電導ケーブルの特徴が失われ、ケーブルのコストも増加してしまう。そこで、本発明の超電導ケーブルでは、超電導導体層2と超電導シールド層4に、運転温度が上昇した際の臨界電流密度(Jc)の減少率が小さいBi系超電導テープ線材21をそれぞれ混用した構成として、Y系超電導薄膜線材11の特徴を生かしつつ、臨界電流密度(Jc)の対温度特性の改善を図り、事故電流に対して瞬時復帰が可能な許容温度上昇幅の大きい送電線路システムを構築できるようにしている。尚、本発明は、実施の形態に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、適宜、必要に応じて改良、変更等は自由である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の超電導ケーブルは、臨界電流密度(Jc)の対温度特性が安定化されているので、システムの安定化や大容量化が求められる送電線路システムの構築に好適に採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態に係る超電導ケーブルのケーブルコアの要部構成を示す斜視図である。
【図2】Bi系超電導テープ線材とY系超電導薄膜線材の臨界電流密度(Jc)の対温度特性を比較して示すグラフである。
【図3】Bi系超電導テープ線材の断面図である。
【図4】Y系超電導薄膜線材の破断した構成説明図である。
【図5】Y系超電導薄膜線材とBi系超電導テープ線材の臨界電流密度(Jc)の対温度特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0027】
1 フォーマ 2 超電導導体層 3 絶縁層 4 超電導シールド層
11 Y系超電導薄膜線材 12 金属基板 13 中間層
14 超電導薄膜 15 保護層 21 Bi系超電導テープ線材
21a 超電導フィラメント 21b 金属シース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導導体層と超電導シールド層を備えた超電導ケーブルであって、
前記超電導導体層が、超電導薄膜線材に異種の超電導線材を含めて形成され、前記超電導線材が、Bi系超電導テープ線材で形成されることを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項2】
前記Bi系超電導テープ線材は、前記超電導導体層の内側の層に配設されることを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項3】
超電導導体層と超電導シールド層を備えた超電導ケーブルであって、
前記超電導シールド層が、超電導薄膜線材に異種の超電導線材を含めて形成され、前記超電導線材が、Bi系超電導テープ線材で形成されることを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項4】
前記Bi系超電導テープ線材は、前記超電導シールド層の外側の層に配設されることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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