説明

超電導コイルの冷却装置

【課題】 超電導コイルでのクエンチに伴う圧力変動に起因する冷媒圧縮機の急停止や安全弁の開弁を阻止し、または有効に遅延させる。
【解決手段】 冷媒圧縮機から吐出される冷媒を保冷箱16内で冷却し、冷媒供給通路18を通じてクライオスタット10内の超電導コイル12内に供給した後、冷媒戻り通路20を通じて前記冷媒圧縮機に戻す。保冷箱16内またはクライオスタット10内においては、超電導コイル12でのクエンチによる冷媒供給通路18内の圧力変動を吸収する上流側圧力バッファ44を設け、当該圧力変動に起因する冷媒圧縮機の急停止や安全弁40の開弁を阻止し、または遅延させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオスタット内に設けられた超電導コイルの内部に超臨界ヘリウム等の冷却済冷媒を流すことにより当該コイルを冷却する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超臨界ヘリウム等の冷却済冷媒を用いて超電導コイル等の被冷却体を冷却する装置として、下記特許文献1に記載されるものが知られている。この装置は、ヘリウム冷凍装置によって液体ヘリウムを生成するとともに、ヘリウム圧縮機から吐出されるヘリウムを前記液体ヘリウムと熱交換させることにより冷却して流れ抵抗の低い超臨界ヘリウムとし、この超臨界ヘリウムを前記被冷却体に供給して当該被冷却体を冷却するものである。
【特許文献1】特開平6−241594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記超臨界ヘリウム等の冷却済冷媒を被冷却体である超電導コイル内に流す場合、同コイル内での流路面積は非常に小さく、かつ通路長が大きい上に、流れ抵抗が大きいため、同コイル内での超臨界ヘリウムの流速についてはかなり低めに設計がなされる。例えば、図3に示すように中心スパイラル管90の周囲に超電導線92が撚り合わされてこれらがコンジット材94により被覆された超電導コイルでは、このコンジッド材94と前記中心スパイラル管90及び超電導線92との僅かな隙間96にのみ前記冷媒が流されるため、その流路面積は小さく、また、前記冷媒が前記コンジッド材94の内周面や前記中心スパイラル管90及び超電導線92の外周面と接触する面積が大きくてその摩擦抵抗が高くなるために、この超電導コイル内での冷媒流速は低く設定せざるを得ない。
【0004】
このような超電導コイルにおいて、何らかの要因でクエンチが発生して急激な熱変動及び圧力変動が生じると、前記のようにコイル内の流速が低いために冷媒が逆流しやすく、これによって冷媒圧縮機の通常運転が直ちに不能となるおそれがある。このようにして運転が急停止してしまうと、クエンチの挙動解析は不可能となる。さらに、前記超電導コイルの上流側に安全弁が設けられている場合には、当該安全弁が前記圧力変動に伴って直ちに開弁して系内の冷媒を多量に逃がしてしまうことにより、その時点で運転が即時的に不可能になるのに加え、再起動時には多量の冷媒を補充しなければならず、通常運転を再開するまでに長時間を要するという不都合が生ずる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、クライオスタット内に設けられた超電導コイルの内部に冷却済冷媒を流すことにより当該超電導コイルを冷却する装置であって、前記冷媒を圧縮する冷媒圧縮機と、保冷箱を通じて前記冷媒圧縮機と前記超電導コイルとの間で前記冷媒を循環させる冷媒循環通路を形成する冷媒循環系と、前記冷媒循環通路のうち前記冷媒圧縮機の吐出側から前記保冷箱を通じて前記超電導コイルの入口に至る冷媒供給通路中の冷媒を冷却することにより冷却済冷媒を生成する冷媒冷却手段とを備え、かつ、前記保冷箱内または前記クライオスタット内に、前記冷媒供給通路内の圧力変動を吸収する上流側圧力バッファが設けられているものである。
【0006】
この構成によれば、前記超電導コイルにクエンチが発生してその上流側に急激な圧力変動が生じても、その圧力変動を前記上流側圧力バッファが吸収することにより、当該圧力変動に起因して冷媒圧縮機が運転不能となるのを抑止することができ、当該運転の急停止を回避することができる。
【0007】
特に、前記冷媒供給通路中に、当該通路内の圧力が一定以上となったときに開弁して当該通路内の冷媒を冷媒循環系の外部へ逃がす安全弁が設けられている場合には、前記上流側圧力バッファを、前記超電導コイルでのクエンチ発生時に生じる圧力変動を吸収することにより当該圧力変動に起因する前記安全弁の開弁を防止または遅延させるように構成することにより、多量の冷媒の抜出しに起因する運転停止を防止または遅延させることができるとともに、再起動時に補充しなければならない冷媒の量を削減してその復帰に要する時間を短縮することができる。
【0008】
その場合、前記圧力バッファ及び前記安全弁はともに前記クライオスタット内に設けられていることが、より好ましい。このように超電導コイルの直近の位置に圧力バッファ及び安全弁を設けることにより、クエンチ時の圧力上昇に起因する他の機器の破損をより確実に防止することができ、かつ、前記安全弁の開弁をその近くの圧力バッファによって有効に阻止もしくは遅延させることができる。
【0009】
また、前記上流側圧力バッファは前記安全弁よりも前記超電導コイルの入口に近い位置に設けられていることが、より好ましい。このように上流側圧力バッファを超電導コイルの入口と安全弁との間に介在させる配置にすれば、この上流側圧力バッファによる効果、すなわち、超電導コイルでのクエンチに起因する冷媒の圧力上昇が安全弁に伝わるのを抑止する効果をより顕著にすることができる。
【0010】
さらに、前記安全弁と前記超電導コイルの入口との間の位置に設けられ、前記安全弁の開弁圧力よりも低い圧力で開弁する圧力調節弁と、この圧力調節弁に接続され、当該圧力調節弁の開弁時に当該圧力調節弁から抜出される冷媒を冷却した後に前記超電導コイルの出口側に戻す冷媒バイパス系とを備えるようにすれば、クエンチ発生による圧力上昇過程において前記安全弁が開く前に前記圧力調節弁を開いて余剰の冷媒を冷却してから超電導コイルの出口側にバイパスさせることにより、前記安全弁の開弁をより有効に阻止しもしくは遅延させることが可能になる。
【0011】
ここで、前記冷媒バイパス系としては、液体の冷媒を貯留するデュワーと、前記圧力調節弁から抜出される冷媒を前記デュワー内の冷媒と熱交換させた後に前記保冷箱内に戻すための冷媒バイパス配管とを備え、この冷媒バイパス配管は、前記デュワー内の冷媒中に浸漬されて当該液体の冷媒と前記圧力調節弁から抜出された冷媒とを熱交換させる放熱配管を含み、この放熱配管には前記デュワー内の冷媒との接触面積を増大させるフィンが設けられているものが、好適である。
【0012】
この構成によれば、超電導コイルのクエンチによって冷媒に急激な温度上昇が生じても、その冷媒をフィン付放熱配管を媒介とするデュワー内冷媒との熱交換により迅速に冷却しながらバイパスさせることにより、系内の運転を保つことができる。
【0013】
また本発明は、前記上流側圧力バッファのみならず、前記保冷箱内または前記クライオスタット内に、前記超電導コイルの出口側から前記冷媒圧縮機の吸込み側に至る冷媒戻り通路内の圧力変動を吸収する下流側圧力バッファが設けられることを妨げない。この構成によれば、クエンチ発生時に冷媒戻り通路側に圧力上昇が伝播するのも前記下流側圧力バッファによって有効に抑止することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、超電導コイルにクエンチが発生したときにその圧力変動を前記超電導コイルよりも上流側の上流側圧力バッファで吸収することにより、冷媒圧縮機が急停止するのを抑止することができ、特に、冷媒供給通路中に安全弁が設けられている場合には、前記安全弁が前記圧力変動に起因して開弁するのを防止しまたは遅延させて多量の冷媒が系外へ逃がされるのを有効に抑止することにより、クエンチ後の再起動の迅速化も図ることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の好ましい実施の形態を図1及び図2に基づいて説明する。なお、この実施の形態では、冷媒としてヘリウムを用い、このヘリウムを冷却して得られる超臨界ヘリウムによって超電導コイル12を冷却するものを示すが、本発明で用いる冷媒はこれに限らず、例えば液体窒素を冷媒として用いる場合にも本発明を有効に適用することが可能である。
【0016】
図1に示す装置は、真空容器として構成されたクライオスタット10を備え、このクライオスタット10内に収納された超電導コイル12内に冷却済冷媒である超臨界ヘリウムを流すことによって当該超電導コイル12を冷却する。
【0017】
この冷却装置は、冷媒であるヘリウムを圧縮するヘリウム圧縮機14と、保冷箱16と、ヘリウム循環系とを備えている。
【0018】
このヘリウム循環系は、前記保冷箱16を通じて前記ヘリウム圧縮機14と前記クライオスタット10内の超電導コイル12との間でヘリウムを循環させるヘリウム循環通路を形成する。具体的には、前記ヘリウム圧縮機14の吐出側から超電導コイル12のヘリウム入口に至るヘリウム供給通路18と、この超電導コイル12のヘリウム出口から前記ヘリウム圧縮機14の吸込み側に至るヘリウム戻り通路20とを形成する。
【0019】
なお、前記ヘリウム圧縮機14の近傍領域(保冷箱16よりもヘリウム圧縮機14に近い領域)には、当該圧縮機の吐出側及び吸込み側での微妙な圧力変動を吸収する小容量の圧力バッファ15A,15Bが設けられている。
【0020】
前記保冷箱16内には、ヘリウム熱交換器22が収納されている。このヘリウム熱交換器22は、前記ヘリウム供給通路18を流れる比較的高温のヘリウムと前記ヘリウム戻り通路20内を流れる低温のヘリウムとの間で熱交換を行わせる。
【0021】
さらに、この装置には、前記ヘリウム供給通路18内のヘリウムを冷却して超臨界ヘリウムを生成するヘリウム冷却手段(冷媒冷却手段)を備えている。より具体的に、このヘリウム冷却手段は、前記保冷箱16内において前記ヘリウム熱交換器22から流出したヘリウムを冷却して超臨界ヘリウムを生成し、この超臨界ヘリウムを前記ヘリウム供給通路18に戻して前記超電導コイル12内に流入させるものであり、ヘリウムガスを冷凍して液体ヘリウムを生成するヘリウム冷凍装置24と、その生成された液体ヘリウムを貯留するデュワー26と、この液体ヘリウムの寒冷を利用して前記ヘリウム供給通路18内のヘリウムを超臨界温度まで冷却するヘリウム冷却配管30とを備えている。
【0022】
前記ヘリウム冷凍装置24は、ヘリウム冷凍用圧縮機37と、複数段の熱交換器及び膨張タービンを収納する保冷箱38とを備え、前記ヘリウム冷凍用圧縮機37から吐出されたヘリウムガスを前記熱交換器及び膨張タービンにより冷却して液体ヘリウムを生成し、デュワー26内に貯留するとともに、このデュワー26内の蒸発ヘリウムガスを前記保冷箱38内の熱交換器により昇温させてヘリウム冷凍用圧縮機37に戻すサイクルを形成する。
【0023】
前記ヘリウム冷却配管30は、前記ヘリウム供給通路18内を流れるヘリウムを導出して前記液体ヘリウム28との間で熱交換させることにより当該ヘリウムを冷却して超臨界ヘリウムとし、これを前記ヘリウム供給通路18内に戻すものであり、前記液体ヘリウム28内に浸漬された放熱配管34と、前記ヘリウム供給通路18から前記放熱配管34の入口に至るヘリウム導出配管32と、前記放熱配管34の出口から前記ヘリウム供給通路18内に至るヘリウム戻し配管36とで構成されている。
【0024】
なお、前記保冷箱16内には、ヘリウム冷却温度や超電導コイル12の冷却温度を調整するための弁が設けられている。具体的には、前記ヘリウム導出配管32の途中部分、ヘリウム供給通路18において前記ヘリウム導出配管32とヘリウム返還通路36とをバイパスする部分、及び前記超電導コイル12をバイパスして前記ヘリウム供給通路18とヘリウム戻り通路20とをバイパスする配管の途中部分に、それぞれ弁17A,17B,17Cが設けられている。
【0025】
次に、前記クライオスタット10内におけるフローの詳細を図2(a)を参照しながら説明する。
【0026】
クライオスタット10内において、前記超電導コイル12の入口に至るヘリウム供給通路18の途中には安全弁40が接続され、同様に前記超電導コイル12の出口につながるヘリウム戻り通路20の途中にも安全弁42が接続されている。これらの安全弁40,42は、その一次圧(弁接続位置におけるヘリウム圧力)が各弁40,42について設定された設定圧を超えたときに開弁して各通路18,20内を流れるヘリウムを系外(図例では大気)に逃がすものであり、その設定圧は、配管や各機器の破損を防止できるように設定されている。
【0027】
さらに、この装置の第1の特徴として、前記超電導コイル12の入口と安全弁40との間には、上流側圧力バッファ44が設けられている。この上流側圧力バッファ44は、圧力容器により構成され、その容積は、前記超電導コイル12でのクエンチ発生に伴い生ずる当該コイル12の上流側でのヘリウムの圧力変動を吸収して当該圧力変動に起因する前記安全弁40の開弁を阻止しまたは遅延させることができる程度に大きく設定されている。
【0028】
具体的に、クエンチ発生時におけるコイル上流側でのヘリウムの圧力上昇分ΔPまたはクエンチ発生区間でのヘリウム体積増加分ΔQが既知であれば、次式(1)を満たすように上流側圧力バッファ44の容積QBを設定することにより、クエンチ発生による安全弁40の開弁を回避することが可能である。
【0029】
ΔP=P×ΔQ/(QH+QB)<PS−P…(1)
ここで、Pは運転圧力(絶対圧力)、QHはコイル上流側の配管容積、PSは安全弁40の設定圧(開弁圧力)である。
【0030】
なお、この実施の形態では、前記超電導コイル12の出口と安全弁42との間にも下流側圧力バッファ46が設けられ、前記クエンチ発生に伴い生ずる前記超電導コイル12の下流側でのヘリウムの圧力変動も吸収可能となるように当該下流側圧力バッファ46の容積が設定されている。
【0031】
次に、この装置の第2の特徴として、前記ヘリウム供給通路18における前記上流側圧力バッファ44と安全弁40との間の位置に、圧力調節弁48の一次側が接続されており、当該圧力調節弁48の二次側がヘリウムバイパス配管50を介して前記ヘリウム戻り通路20に接続されている。
【0032】
前記圧力調節弁48は、その一次圧(弁配設位置におけるヘリウム圧力)が予め設定された設定圧を超えたときに開弁するものであり、その設定圧は前記安全弁40の設定圧よりも低い圧力に設定されている。
【0033】
前記ヘリウムバイパス配管50は、前記圧力調節弁48から抜出されるヘリウムを前記デュワー26内の液体ヘリウム28と熱交換させた後に前記保冷箱16内に戻すためのものであり、前記デュワー26内の液体ヘリウム28中に浸漬される放熱配管54と、この放熱配管54の入口と前記圧力調節弁48の二次側とを接続するヘリウム抜出し配管52と、前記放熱配管54の出口と前記ヘリウム戻り通路20とを接続するヘリウム戻し配管56とで構成されている。
【0034】
なお、このヘリウムバイパス系において用いるデュワーと前記ヘリウム冷却手段において超臨界ヘリウムの生成のために用いるデュワーとは必ずしも共用しなくてもよく、ヘリウムバイパス系専用のデュワーを設置するようにしてもよい。また、図示のヘリウム冷却手段は、超電導コイル冷却装置とは別に設けられたヘリウム冷凍装置24が生成する液体ヘリウム28を利用するものであるが、例えば膨張タービンを含むヘリウム冷凍手段を超電導コイル冷却装置内に一体に組み込むようにしてもよい。
【0035】
次に、この超電導コイル冷却装置の作用を説明する。
【0036】
図1において、ヘリウム圧縮機14から吐出されるヘリウムガスは、保冷箱16内のヘリウム供給通路18を通るうちに冷却されて超臨界ヘリウムとなり、クライオスタット10内の超電導コイル12内に導入される。具体的に、前記ヘリウムガスは保冷箱16内のヘリウム熱交換器22でヘリウム戻り通路20内の低温ヘリウムと熱交換することにより予冷却された後、ヘリウム導出配管32を通じて放熱配管34内に送られる。そして、この放熱配管34でデュワー26内の液体ヘリウム28と熱交換することにより冷却されて超臨界ヘリウムとなり、ヘリウム戻し配管36を通じてヘリウム供給通路18に戻され、クライオスタット10内の超電導コイル12の入口に供給される。このようにして超電導コイル12の内部に超臨界ヘリウムが流されることにより、当該超電導コイル12が冷却されてその超電導状態が保たれる。
【0037】
ここで、何らかの要因により超電導コイル12にクエンチが発生すると、そのコイル12内を流れるヘリウムに大きな熱変動及び圧力変動が生ずる。特に、この超電導コイル12内ではヘリウム流路面積が小さく、流れ抵抗が大きいため、当該コイル12の上流側でヘリウムの逆流が生ずるおそれがある。
【0038】
このとき、前記圧力変動がそのまま上流側に伝わると、ヘリウム圧縮機14の正常な運転が直ちに妨げられるのみならず、安全弁40の配設位置におけるヘリウム圧力が設定圧を超えることにより当該安全弁40が直ちに開弁して系内のヘリウムを大気に放出させてしまう。従って、正常な運転が即時的に停止してしまうだけでなく、再起動時の際に多量のヘリウムを系内に補充する必要が生じ、復帰までに多大な時間を要することになる。
【0039】
ところが、この装置では、超電導コイル12のすぐ上流側に圧力バッファ44が設けられており、この圧力バッファ44によって前記クエンチ時の圧力変動が吸収されるため、当該圧力変動に起因する前記ヘリウム圧縮機14の急停止や安全弁40の開弁が阻止され、もしくは十分に遅延される。これにより、クエンチ発生時の挙動解析が容易となり、また運転復帰の際に要するヘリウム補充量を抑えて再起動の迅速化を図ることができる。
【0040】
さらに、この装置では、前記上流側圧力バッファ44に加え、前記安全弁40よりも超電導コイル12の入口に近い位置に当該安全弁40よりも設定圧の低い圧力調節弁48が接続されているので、前記安全弁40の開弁前に前記圧力調節弁48が開いて逆流ヘリウムをヘリウムバイパス配管50内の放熱配管54に導き、当該放熱配管54で液体ヘリウム28との熱交換によりヘリウムを冷却してからヘリウム戻り通路20側に戻す(すなわち超電導コイル12をバイパスさせる)ことにより、前記安全弁40の開弁の阻止または遅延をより確実なものとすることができる。
【0041】
特に、図2(b)に示すように前記放熱配管54の外側面に多数枚のフィン58が設けられた構成とすれば、当該放熱配管54の外側面と液体ヘリウム28との接触面積が増やされることによりヘリウムの冷却効果が高まるので、前記クエンチに伴うヘリウムの熱変動を有効に吸収して運転を持続することが可能となる。
【0042】
また、この実施の形態では、超電導コイル12の下流側にも下流側圧力バッファ46が設けられているので、ヘリウム戻り通路20内での圧力変動も有効に吸収することができる。
【0043】
なお、本発明において安全弁40及び上流側圧力バッファ44の配列順序は問わず、また、これらのいずれかもしくは双方が保冷箱16内に設けられていてもよい。ただし、図示のように上流側圧力バッファ44が安全弁40よりも超電導コイル12の入口に近い位置に配設されていれば、前記超電導コイル12でのクエンチ発生時における圧力変動が安全弁40に伝わるのをより確実に抑止することが可能であり、さらに、これら上流側圧力バッファ40及び安全弁40がクライオスタット10内に設けられていれば、それよりも上流側の配管や各機器(特に保冷箱16内の配管や機器)の破損をより確実に防ぐことが可能になる。
【実施例1】
【0044】
前記図1及び図2に示した装置において、超電導コイル12のコイル内全ヘリウム容積を0.125m3、ヘリウム配管系容積を0.1m3とし、その合計0.225m3の14%程度、すなわち約0.03m3程度だけ、超電導コイル12のクエンチ時に同コイル12内でヘリウム体積が膨張するものとする。
【0045】
このとき、主としてコイル上流側への逆流による圧力上昇の影響により安全弁40が開弁作動する可能性が考えられる。
【0046】
そこで、ヘリウム配管系容積0.1m3のうちのコイル上流側分0.05m3にヘリウム膨張分0.03m3のうちの逆流分0.015m3が逆流したとして、当該コイル上流側の圧力上昇を安全弁40の設定圧以下に抑えるための上流側圧力バッファ44に求められるタンク容積を考察する。
【0047】
いま、定常運転圧力を約0.8MPaA、安全弁40の設定圧を0.98MPa(1.08MPaA)とすると、約20%のヘリウム圧力増加で安全弁40が開弁作動することになる。この場合、前記のようにコイル上流側配管系への逆流分が0.015m3であるならば、その5倍のボリュームすなわち0.075m3のボリュームがコイル上流側に求められることになる。
【0048】
その一方、当該コイル上流側の配管系容積は前記のように0.05m3であるので、安全弁40の開弁作動を阻止するために上流側圧力バッファ44に求められる最小限の容積は、前記必要ボリューム0.075m3と、前記配管系容積0.05m3との差、すなわち0.025m3ということになる。ただし、実際には余裕を持たせてその倍の0.05m3程度に設定しておくことがより好ましい。
【0049】
同様に、コイル下流側についても、下流側圧力バッファ46の容積は0.05m3程度に設定しておくことが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の実施の形態にかかる超電導コイルの冷却装置の全体構成を示すフローシートである。
【図2】(a)は前記冷却装置の要部を示すフローシート、(b)は当該要部に含まれる放熱配管の構造例を示す断面図である。
【図3】超電導コイルの具体的構造の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0051】
10 クライオスタット
12 超電導コイル
14 ヘリウム圧縮機(冷媒圧縮機)
16 保冷箱
18 ヘリウム供給通路(冷媒供給通路)
20 ヘリウム戻り通路(冷媒戻り通路)
26 デュワー
28 液体ヘリウム
30 ヘリウム冷却配管(冷媒冷却配管)
40 安全弁
44 上流側圧力バッファ
46 下流側圧力バッファ
48 圧力調節弁
50 ヘリウムバイパス配管(冷媒バイパス配管)
54 放熱配管
58 フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオスタット内に設けられた超電導コイルの内部に冷却済の冷媒を流すことにより当該超電導コイルを冷却する装置であって、前記冷媒を圧縮する冷媒圧縮機と、保冷箱を通じて前記冷媒圧縮機と前記超電導コイルとの間で前記冷媒を循環させる冷媒循環通路を形成する冷媒循環系と、前記冷媒循環通路のうち前記冷媒圧縮機の吐出側から前記保冷箱を通じて前記超電導コイルの入口に至る冷媒供給通路中の冷媒を冷却することにより冷却済冷媒を生成する冷媒冷却手段とを備え、かつ、前記保冷箱内または前記クライオスタット内に、前記冷媒供給通路内の圧力変動を吸収する上流側圧力バッファが設けられていることを特徴とする超電導コイルの冷却装置。
【請求項2】
請求項1記載の超電導コイルの冷却装置において、前記冷媒供給通路中に、当該通路内の圧力が一定以上となったときに開弁して当該通路内の冷媒を冷媒循環系の外部へ逃がす安全弁が設けられ、前記上流側圧力バッファは、前記超電導コイルでのクエンチの発生時に生じる圧力変動を吸収することにより当該圧力変動に起因する前記安全弁の開弁を阻止しまたは遅延させるように構成されていることを特徴とする超電導コイルの冷却装置。
【請求項3】
請求項2記載の超電導コイルの冷却装置において、前記圧力バッファ及び安全弁がともに前記クライオスタット内に設けられていることを特徴とする超電導コイルの冷却装置。
【請求項4】
請求項2または3記載の超電導コイルの冷却装置において、前記上流側圧力バッファは前記安全弁よりも前記超電導コイルの入口に近い位置に設けられていることを特徴とする超電導コイルの冷却装置。
【請求項5】
請求項4記載の超電導コイルの冷却装置において、前記安全弁と前記超電導コイルの入口との間の位置に設けられ、前記安全弁の開弁圧力よりも低い圧力で開弁する圧力調節弁と、この圧力調節弁に接続され、当該圧力調節弁の開弁時に当該圧力調節弁から抜出される冷媒を冷却した後に前記超電導コイルの出口側に戻す冷媒バイパス系とを備えたことを特徴とする超電導コイルの冷却装置。
【請求項6】
請求項5記載の超電導コイルの冷却装置において、前記冷媒バイパス系は、液体の冷媒を貯留するデュワーと、前記圧力調節弁から抜出される冷媒を前記デュワー内の液体の冷媒と熱交換させた後に前記保冷箱内に戻すための冷媒バイパス配管とを備え、この冷媒バイパス配管は、前記デュワー内の冷媒中に浸漬されて当該冷媒と前記圧力調節弁から抜出された冷媒とを熱交換させる放熱配管を含み、この放熱配管には前記デュワー内の冷媒との接触面積を増大させるフィンが設けられていることを特徴とする超電導コイルの冷却装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の超電導コイルの冷却装置において、前記保冷箱内または前記クライオスタット内に、前記超電導コイルの出口側から前記冷媒圧縮機の吸込み側に至る冷媒戻り通路内の圧力変動を吸収する下流側圧力バッファが設けられていることを特徴とする超電導コイルの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−105533(P2006−105533A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−294896(P2004−294896)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】