説明

超電導コイルの製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はコイル内部の熱伝導を高め得る超電導コイルの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】高エネルギ物理分野での粒子計測用超電導マグネット等においては、宇宙空間等無重力条件下で使用されることを考慮して、超電導コイルを真空中に設置し、別途に設置された冷媒容器、冷却管等から固体熱伝導の作用により間接的にコイルを冷却する構造が採用されている。これらの多くは直径および長さが1m以上と比較的大形のものが多い。
【0003】ところで、真空外部からの輻射熱等により上記冷媒容器、冷却管等(以下冷却体と呼ぶ)と超電導コイルとの間に生じる温度差が著しく大きくなると超電導コイルは、所要の性能を保つことができない。また、超電導コイルに外部からのじょう乱を受け、クエンチ現象が発生した場合には、コイルのエネルギの集中によるコイル焼損を防止しなければならないため、クエンチ発生箇所からコイル全体へのクエンチ伝搬を速やかに行う必要がある。これらは超電導コイルを運転する上において、コイルの健全性を守るための基本的に必要な事項である。
【0004】一般に間接冷却を行う超電導コイルと冷却体との間は、アルミニウム等の金属からなる冷却体および超電導線材と、これらの間に介在する絶縁材料の相互の接着により固体熱伝導が作用する構成が採られている。そして、冷却体は通常超電導コイルに作用する強大な電磁力に対してコイルを支持する構造体と一体になっている。しかしながら、超電導コイルはしばしば過酷な冷熱サイクルや電磁力、機械力を受け、コイルと冷却体の間に局部的な剥離等が発生する恐れがある。
【0005】このため、コイルの内面側に分割された金属板からなるインナープレートを被着し、コイルの巻回間方向に冷却体とは別体の熱伝導路を形成し、コイル全体の温度が均一に保持されるように形成したものが知られている。
【0006】図5はインナープレートを備えた従来の内巻超電導コイルの側面図である。図において、1は外巻枠となる良熱伝導性金属円筒からなる冷却体、2は冷却体1の内面側に被着された第1の対地絶縁層、3は絶縁された超電導線を巻回して相互に固着したコイル、4はコイル3の内面側に密接して形成された第2の対地絶縁層、5は第2の対地絶縁層4の内周面に接着剤により被着されたインナープレートである。
【0007】このインナープレート5は、図示するようにコイル3と同一方向に鎖交する電気的周回路が形成され、誘導損失による発熱を防ぐため、円周方向に複数に分割された長方形板で構成されている。また、インナープレート5は超電導コイルと共に極低温に冷却されている状態において、熱伝導特性を最大限得るために、通常99.999%以上の高純度のアルミニウムが用いられる。さらに、インナープレートの目的の一つはあくまでコイルに局所的な高温度部分を発生させず、速やかにコイル全体をクエンチさせることにあり、インナープレート自体が過大な熱容量を有してはならない。これらの条件からインナプレートは、通常1mm以下の薄板となり、材料は非常に軟質な特性を持つ。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかし、このような構成の超電導コイルを製造するには、前述したインナープレートを第2の対地絶縁層4に被着する工程において、コイル曲率に対する曲げ加工、接着剤の塗布、インナープレートの固定、接着剤の硬化等の作業があるため、1m以上にも及ぶ長方形の板を変形させることなく、また僅かの隙間も生じさせずに施工することは極めて困難である。このため、作業時間が長くなり、不経済であるばかりでなく、インナープレートに所要の伝熱効果が得られなくなる恐れがある。本発明はコイル内部の熱伝導を高めて温度上昇を低く抑制できる超電導コイルの製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明は上記の目的を達成するため、外巻枠となる筒状の冷却体の内面側に密接して配設される第1の対地絶縁層、超電導線よりなるコイルおよび第2の対地絶縁層を一体的に固着し、且つ前記第2の対地絶縁層側の表面を覆うようにインナープレートを被着してなる超電導コイルの製造方法において、前記コイルの巻装前に仮巻枠の外周にインナプレートを配設して前記超電導線を前記第2の対地絶縁層を介して外巻してコイルを形成し、次にこのコイルの外周側に前記第1の対地絶縁層を介して冷却体を嵌込んだ後、これらインナプレート、コイル、第1および第2の対地絶縁層を樹脂含浸してこれらを一体的に固着し、しかる後前記仮巻枠を取外して超電導コイルを得る。
【0010】
【0011】
【作用】このような超電導コイルの製造方法によれば、仮巻枠の外周にインナプレートを配設して超電導線を外巻することにより、コイルの張力で仮巻枠の外周側に配設されたインナプレートに対して一様な面圧をかけることが可能となり、この状態で樹脂含浸すればインナプレートは樹脂で含浸される際に殆ど隙間なしにコイルに密着する。従って、このような製造方法で得られた超電導コイルにおいては、コイル、第2の対地絶縁層およびインナープレートが相互に良好な固体熱伝導が行われる状態となし得る。
【0012】
【0013】
【実施例】以下本発明の実施例を図面を参照して説明する。
【0014】図1は本発明による超電導コイルの製造方法を説明するための第1の実施例を示す側断面図である。図において、外巻枠となる冷却体1はコイルの電磁力に対する支持機能を有し、この冷却体1の内周側には第1の対地絶縁層2、絶縁された超電導導体を巻回して相互に固着したコイル3、第2の対地絶縁層4、さらにインナープレート5を順に配して超電導コイルが構成されることは従来と同様であるが、本実施例ではかかる構成の超電導コイルを次のようにして製造する。
【0015】すなわち、本実施例では、冷却体1より小さな径の仮巻枠6を用いてその外周面上にインナープレート5を仮固定し、その外周面に第2の対地絶縁層4を形成した上で超電導線を適度な張力で巻回してコイル3を形成し、さらにコイル3の外周面に第1の対地絶縁層2を形成した後、冷却体1を焼嵌め等の手段により第1の対地絶縁層2に密着させて組立てる。従って、仮巻枠6を用いてインナープレート5の仮固定を行い、超電導線をその外周側に外巻されることによってコイル全体に均一な加圧力が作用することになる。
【0016】次にこのように組立てられた各部材を一体としてエポキシ樹脂を注入して真空含浸を行うと、これら冷却体1、第1の対地絶縁層2、コイル3、第2の対地絶縁層4および仮巻枠6の各部材相互間は隙間の非常に小さい状態で固着される。その後、仮巻枠6を取外すことにより超電導コイルが得られる。この場合、仮巻枠6は容易に取外し可能なように複数に分割され、これらを組立てることで構成される強固なものが使用される。
【0017】このような製造方法により得られる超電導コイルにおいては、各部材の全てが一体に真空含浸されて固体熱伝達が作用する。特にインナプレート5は高純度のアルミ材料を用いた熱伝導を主たる目的とした部材で、インナープレート5の接着が殆ど隙間なしで可能であり、接着作業そのものには取扱い上の不確実さ、すなわちインナープレート5を曲げる、折る等によりコイル表面に密着しない等の恐れが殆どなくなる。
【0018】従って、コイル3の内周面におけるインナープレート5の接着作業が極めて簡易になると共に、インナープレート5とコイル3との間の熱伝達が良好に行われるので、コイル全体が常に均一に冷却され、クエンチ防止の機能を良好に保つことができる。また、外的なじょう乱によってコイルがクエンチしたときでも局所的な高温部分を緩和して速やかにコイル全体にエネルギが拡散されるので、コイルが損傷することなく、信頼性の向上を図ることができる。
【0019】図2は本発明方法が適用される超電導コイルの第2の実施例を示す断面図であり、図1と同一部品には同一記号を付して示してある。本実施例では超電導コイルが単層巻きの場合であり、かかる構成の超電導コイルであっても仮巻枠6の外周側にインナープレート5、第2の対地絶縁層4、超電導線を単層巻きしたコイル3、第1の対地絶縁層2を順に配して組立て、これを第1の実施例と同様の方法によってインナープレート5をコイル3と密着させることにより、前記実施例と同様の作用効果を得ることができる。
【0020】このように第1および第2の実施例で述べた超電導コイルの製造方法によれば、インナプレート5とコイル3の密着性が極めて良好になり、このことによってインナープレート5の機能である定常運転時における冷却作用としては、間接冷却のコイルにおいて長さ、直径とも1mを越えるような比較的大型のコイルでも温度分布を高々0.5°K程度の温度差に抑え、またクエンチ時に局所的に温度上昇が生じても速やかにコイル全体を均熱化し、クエンチ伝搬を促進するイコライザ機能についても、コイルが成形され固着された後からインナープレートを張り付ける作業方法に比べて飛躍的に向上する。従って、超電導コイルとしては、クエンチ防止性能が高く、また万一クエンチした場合でもコイルの損傷を防止できるので、信頼性の高い超電導コイルとなし得る。
【0021】以上はインナープレート5とコイル3との密着性の観点からの解決手段であるが、冷却能力およびクエンチ保護能力が不十分となる他の要因として、特にコイルが多層巻構成の場合、冷却板から最も離れた層の超電導線にクエンチが発生すると、常電導抵抗部の拡散は超電導線の長手方向に対しては比較的速く伝搬するが、コイルの横方向および層間方向にはホルマールおよびエポキシ樹脂の比較的熱伝導率の小さい絶縁層が介在するため、横方向のクエンチ伝搬は非常に遅く、実験によれば縦方向の1/100 〜1/1000程度になる。このため、初めにクエンチの発生した部分の線材は局所的に発熱が大きくなり、さらに冷却板から離れた位置のために冷却されにくく、線材周囲の樹脂のクラック発生原因となる。さらに、コイルの蓄積エネルギが大きい場合には絶縁層の損傷、あるいは線材の溶損に至る場合も考えられる。
【0022】図3および図4はコイル内部の熱伝導を向上させ得る本発明による超電導コイルの製造方法の実施例を説明するための図であり、図3は超電導コイルの一部を示す断面図、図4は同じく正面図である。図3において、超電導線11はNbTiと銅のモノリス導体に純アルミの安定化材が添付された平角導体で、表面をホルマールにより絶縁処理されている。この超電導線11をソレノイド巻きして多層コイルとする際、純アルミのストリップ13を巻線方向と直角に配置し、次の層の巻線を行う時に挟み入れる。このアルミストリップ13は高純度のアルミニウムを0.25mm程度の厚さに圧延したもので、幅はコイル12の周長の1/50〜1/60程度とし、コイルの周方向に上記ストリップの幅と同等以上の間隔を空けて断続的に配置する。
【0023】上記アルミストリップ13は配置した上層に2層分の巻線を介した上層に連続的に折返され、さらに次の層の巻線との層間に挟み入れられる。この場合、アルミストリップ13は図4に示すように2層毎に互いに連続して巻線の層間に挟み入れられ、位相をずせて順次次の2層間が結ばれる配置となる。なお、15はコイル13を外側から支持する冷却機能を有する冷却板である。
【0024】このようにして巻回された超電導コイル12は一体にエポキシ樹脂16により含浸固着されて超電導線11とアルミストリップ13および他の絶縁物スペーサ17相互の間は全て埋められ、接着されて多層超電導コイルとなる。
【0025】このような方法により得られた多層超電導コイルにおいて、励磁中に発生する局所的な発熱ないしクエンチ発生時の局所的なエネルギの集中による温度上昇は、各層間に挟み入れられた熱伝導率の大なるアルミストリップの作用により、線材と直角方向、特に層間での熱伝達が高速になり、局所的な温度上昇が抑制されると共に、クエンチバック機能が増大する。
【0026】また、局所的な発熱、例えばレジンクラックによる発熱等も冷却能力が高いことから、クエンチに至らず安定化され易くなる。また、ある層から1枚のアルミストリップは次の2層上方の導体へ熱伝達が行われるが、その熱は導体を線材方向(周方向)に高速で伝わるので、次の位相に配置されたアルミストリップに伝えられ、さらに次の2層上方の導体へ熱伝達される。
【0027】従って、かかる超電導コイルにおいては、層間に挟み入れられたアルミストリップにコイル幅の約2倍の寸法に切断された材料を用いているので、第1の層を巻線した後、第2の層の巻線終了までアルミストリップを仮固定しておくことが比較的容易に行うことができる。さらに加えて、高純度のアルミストリップはその目的とする熱伝導率が機械的歪みにより容易に低下する性質があるので、曲げ戻しの回数が増えることにより、上記クエンチバックの性能が低下する可能性が大となる。その点本構成の場合、曲げ戻しは1度のみで次の層の巻線を行うことができる。
【0028】他方、超電導線の長手方向に対しては非常に熱伝搬が速いので、アルミストリップが周方向に断続的に配置され、全ての層間のアルミストリップが連続している場合より、純アルミの機能が向上し、巻線作業も容易に行うことができる。さらに、多層コイルの内径、外径差が大きければ、層によってアルミストリップの幅を変えて熱伝導能力の増強を図ることもできる。また、本構成の超電導コイルの励磁中に、万一クエンチが発生した場合にコイル内部に発生する電圧は数kVに達することがあるが、コイル内に挟み入れたアルミストリップは対地電位と導体電位の間で浮遊した電位となる。しかし、アルミストリップが上記実施例の如く2層毎に分割されているので、導体との電位差が小さく抑えられ、絶縁物の量の低減、ひいてはコイルの寸法、重量の低減を行いながらコイルの局部的な温度上昇の少ない多層超電導コイルが実現できる。
【0029】なお、上記実施例では、アルミストリップの連続性を第1〜第3の層、第3〜第5の層の如く、2層おきとしていたが、各層でも効果は同等以上と考えられ、またアルミストリップの連続性を3〜5層おきとしても、同様の効果が期待できる。さらに、上記実施例では純度の高いアルミストリップを用いたが、他の金属ストリップ、例えば銅の場合でも同様の効果が得られる。
【0030】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、超電導内部の熱伝導を高めて温度上昇を低く抑制できる超電導コイルの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による超電導コイルの製造方法を説明するための第1の実施例を示すコイル一部の断面図。
【図2】本発明の第2の実施例を示すコイル一部の断面図。
【図3】本発明による多層超電導コイルの製造方法を説明するための実施例を示すコイル一部の断面図。
【図4】同実施例を示すコイル一部の正面図。
【図5】従来の超電導コイルの製造方法を説明するための側断面図。
【符号の説明】
1……外枠を兼ねた冷却体、2……第1の対地絶縁層、3……コイル、4……第2の対地絶縁層、5……インナープレート、6……仮巻枠、11……超電導線、12……超電導コイル、13……アルミストリップ、15……冷却板、16……エポキシ樹脂、17……絶縁スペーサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 外巻枠となる筒状の冷却体の内面側に密接して配設される第1の対地絶縁層、超電導線よりなるコイルおよび第2の対地絶縁層を一体的に固着し、且つ前記第2の対地絶縁層側の表面を覆うようにインナープレートを被着してなる超電導コイルの製造方法において、前記コイルの巻装前に仮巻枠の外周にインナープレートを配設して前記超電導線を前記第2の対地絶縁層を介して外巻してコイルを形成し、次にこのコイルの外周側に前記第1の対地絶縁層を介して冷却体を嵌込んだ後、これらインナープレート、コイル、第1及び第2の対地絶縁層を樹脂含浸してこれらを一体的に固着し、しかる後前記仮巻枠を取外して超電導コイルを得るようにしたことを特徴とする超電導コイルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3199782号(P3199782)
【登録日】平成13年6月15日(2001.6.15)
【発行日】平成13年8月20日(2001.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−228001
【出願日】平成3年9月9日(1991.9.9)
【公開番号】特開平5−67516
【公開日】平成5年3月19日(1993.3.19)
【審査請求日】平成9年3月10日(1997.3.10)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【参考文献】
【文献】特開 昭61−125105(JP,A)