説明

超電導コイル及びその製造方法

【課題】良好な中心磁場の超電導コイル、及び該超電導コイルを良好な効率で製造可能な超電導コイルの製造方法の提供。
【解決手段】超電導コイル30の製造方法は、長尺の超電導線材を長手方向に沿って幅方向に分断して、3本以上の超電導細線とする工程と、前記超電導細線を巻回して複数のコイル体とする工程と、前記複数のコイル体を同軸的に積層して超電導コイルとする工程と、を備え、積層方向中央部のコイル体より積層方向端部側のコイル体の方が、臨界電流が大きくなる前記分断方向中央側の超電導細線からなるコイル体を積層する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導コイル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルは、磁気共鳴画像診断装置(MRI)や超電導磁気エネルギー貯蔵装置(SMES)といった様々な用途に使用される。これまで超電導線材として、NbTi等の金属系超電導体が広く用いられてきたが、近年、BiSrCaCu8+δ(Bi2212)、BiSrCaCu10+δ(Bi2223)などのビスマス系超電導体や、REBaCu7−δ(RE123、RE:希土類元素)で表される希土類系超電導体を用いた酸化物高温超電導線材の開発が進んでいる。この酸化物高温超電導線材は、金属系超電導線材に比べて臨界温度が高温であるため、より高い温度での使用が可能であることから、コイル等への応用の開発も進んでいる。
【0003】
酸化物高温超電導線材は、そのほとんどがテープ状であり、長尺の基材上に酸化物超電導体が2軸配向して積層されている。この酸化物高温超電導線材は、線材にかかる磁場の角度や大きさにより臨界電流密度が異なるという特性を有しており、超電導線材に対して垂直方向の磁場がかかった場合に、最も臨界電流密度が小さくなる。
酸化物高温超電導線材を用いた超電導コイルとしては、断面積が異なる超電導線材より形成した複数のコイルを積層させたもの(特許文献1参照)や、複数のダブルパンケーキコイルを積層した超電導コイルにおいて、その端部のコイルの幅を小さくしたもの(特許文献2参照)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−142245号公報
【特許文献2】特開2009−238888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の超電導コイル100は、1本の超電導線材が巻回されて形成されたドーナツ盤状のコイル体が、複数個積層されて構成されている。このような構造の超電導コイル100に通電した場合に発生する磁場の分布を図3に示す。図3(b)においては、図3(a)に示す超電導コイル100の領域Aにおける磁場分布を示しており、矢印は磁場の向きと大きさ(強さ)をベクトルとして表している。図3に示すように、超電導コイル100では、積層方向外側に行くほど超電導線材のテープ面に垂直方向(X方向)の磁場成分が多くなっていることがわかる。それに対し、超電導コイル100の中央部に近くなるほど、超電導線材のテープ面に平行な方向(Y方向)の磁場成分が多くなっている。
【0006】
図4に、超電導線材にかかる磁場の角度と、臨界電流の関係の一例をプロットして示す。図4において、θ[deg]は超電導線材の垂直方向(図3におけるX方向:テープ状の超電導線材に垂直方向)に対する磁場の角度を示し、θ=0°は超電導線材に対して垂直方向に磁場がかかっている場合であり、θ=90°は超電導線材に対して水平方向(図3におけるY方向:テープ状の超電導線材に平行方向)に磁場がかかっている場合である。また、図4におけるIc/Ic0は、超電導線材に磁場がかかっていない場合の臨界電流Ic0(自己磁場下での臨界電流)に対して、超電導線材に角度θで0.5Tの磁場をかけた場合の臨界電流Icの割合を示したものである。Ic/Ic0の値が小さいほど臨界電流の変化(減少率)が大きく、Ic/Ic0の値が大きいほど臨界電流の変化(減少率)が小さいことを示す。図4に示すように、テープ状の超電導線材にかかる磁場が垂直に近くなるほど、臨界電流が低下していることがわかる。そのため、図3に示すような従来の超電導コイル100では、コイル体の積層方向両端部に行くほど垂直方向の磁場成分が多くなることから、コイル体の積層方向両端部の臨界電流が小さくなる。
【0007】
特許文献1に記載の超電導コイルは、コイルの積層方向両端部に行くほど臨界電流が小さくなり、それに伴い臨界電流密度が小さくなってしまう問題を解決するために、コイルの積層方向両端部に行くに従って、コイルを構成する線材の断面積を大きくして臨界電流を大きくして、臨界電流密度を確保している。しかしながら、特許文献1の超電導コイルでは、超電導線材の垂直方向の磁場が大きいコイルの積層方向両端部の線材の断面積を大きくしているため、交流損失が大きくなってしまうという問題があった。また、特許文献1に記載の超電導コイルは、コイル中心磁場を向上させることができるものの、断面積の異なる複数の線材を製造してコイルを形成するため、コイル製造工程の効率が低下してしまうという問題があった。
【0008】
特許文献2に記載の超電導コイルでは、交流損失を小さくするために、超電導線材の垂直方向の磁場が大きいコイルの積層方向両端部の線材の幅(断面積)を小さくしている。しかしながら、このようにコイルの積層方向両端部の線材の断面積を小さくすると、交流損失は小さくなるが、臨界電流が小さくなり、それに伴い臨界電流密度も小さくなってしまい、コイル中心磁場が低下してしまうという問題があった。
また、超電導線材の交流損失を小さくするために、基材上に酸化物超電導層が形成された超電導線材について、その酸化物超電導層を幅方向に分割する手法が知られている。しかしながら、本発明者の検討の結果、基材上に成膜法により形成された酸化物超電導層は、成膜条件などにより線材の幅方向に超電導特性の分布が生じる場合があることが確認された。すなわち、線材の幅方向端部の超電導層の結晶配向性が、線材の幅方向中央部の超電導層の結晶配向性と比較して、若干低下する場合がある。このような超電導線材の超電導層を分割した場合、複数の分割細線において超電導特性の分布が生じてしまう。高特性の超電導コイルを作製するには、特性の良好な分割細線のみを用いる方法も考えられるが、この手法ではコイル製造工程の効率が低下してしまう。
【0009】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、良好な中心磁場の超電導コイル、及び該超電導コイルを良好な効率で製造可能な超電導コイルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用した。
本発明の超電導コイルの製造方法は、長尺の超電導線材を長手方向に沿って幅方向に分断して、3本以上の超電導細線とする工程と、前記超電導細線を巻回して複数のコイル体とする工程と、前記複数のコイル体を同軸的に積層して超電導コイルとする工程と、を備え、積層方向中央部のコイル体より積層方向端部側のコイル体の方が、臨界電流が大きくなる前記分断方向中央側の超電導細線からなるコイル体を積層することを特徴とする。
本発明の超電導コイルの製造方法において、積層方向中央部のコイル体から積層方向両端部のコイル体まで、各コイル体毎に臨界電流が段階的に大きくなるように前記複数のコイル体を積層することが好ましい。
本発明の超電導コイルの製造方法において、前記超電導細線の幅を、1mm以上とすることが好ましい。
本発明の超電導コイルの製造方法において、前記超電導線材が、長尺の基材と、該基材上に中間層を介し設けられた超電導層と、該超電導層上に設けられた安定化層とを備えることも好ましい。
【0011】
本発明の超電導コイルは、長尺の超電導線材を長手方向に沿って幅方向に分断して、3本以上の臨界電流が異なる超電導細線が形成され、これら3本以上の超電導細線から個別に臨界電流の異なる複数のコイル体が構成され、これら複数のコイル体のうち、臨界電流の高いコイル体が積層方向端部側に、臨界電流の低いコイル体が積層方向中央側にそれぞれ配されて同軸的に積層されてなることを特徴とする。
本発明の超電導コイルにおいて、積層方向中央部のコイル体から積層方向両端部のコイル体まで、各コイル体毎に臨界電流が段階的に大きくなるように前記複数のコイル体が積層されてなることが好ましい。
本発明の超電導コイルにおいて、前記超電導細線の幅を、1mm以上とすることが好ましい。
本発明の超電導コイルにおいて、前記超電導線材が、長尺の基材と、該基材上に中間層を介し設けられた超電導層と、該超電導層上に設けられた安定化層とを備えることも好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の超電導コイルは、通電時にコイル体積層方向端部の臨界電流の低下が大きくなるため、臨界電流の低下が大きい積層方向端部側に臨界電流値の大きな超電導細線より形成したコイル体を配し、臨界電流の低下が少ない積層方向中央部に積層方向両端部側のコイル体よりも臨界電流特性が低いコイル体を配した構成とした。これにより、積層方向端部側のコイル体の臨界電流特性が、積層方向中央部のコイル体の臨界電流特性に近づき、超電導コイル全体的に、臨界電流特性が均一な状態に近づく。そのため、超電導コイルに流すことのできる電流値を、従来の超電導コイルよりも大きくすることができるので、超電導コイル全体の臨界電流及び臨界電流密度を向上させて、超電導コイルの中心磁場を向上させることができる。
本発明の超電導コイルの製造方法によれば、超電導線材を分断して作製した超電導細線を無駄なく使用しつつ、各超電導細線及びそれらにより形成された各コイル体の臨界電流特性により、各コイル体の配置を決定することにより、中心磁場を向上させることが可能な超電導コイルを製造することができる。従って、本発明の超電導コイルの製造方法によれば、良好な中心磁場の超電導コイルを良好な効率で製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)は、本発明の超電導コイルの一例を示す概略斜視図であり、図1(b)は同超電導コイルを構成する各コイル体を示す概略斜視図である。
【図2】図2(a)は、本発明の超電導コイルに使用される超電導線材の一例を示す概略斜視図であり、図2(b)は、同超電導線材を分割して得られる超電導細線の一例を示す概略斜視図である。
【図3】従来の超電導コイルにおいて発生する磁場の方向と大きさを示す図である。
【図4】臨界電流の磁場角度依存性の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の超電導コイルに使用される超電導線材の製造で用いられる成膜装置の一例を示す概略斜視図である。
【図6】実施例1の超電導細線の臨界電流値を示すグラフである。
【図7】実施例1の超電導コイルを構成する各コイルに使用された各超電導細線の臨界電流値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の超電導コイル及びその製造方法について、図面に基づき説明する。
本発明の超電導コイルは、長尺の超電導線材を長手方向に沿って幅方向に分断して、3本以上の臨界電流が異なる超電導細線が形成され、これら3本以上の超電導細線から個別に臨界電流の異なる複数のコイル体が構成され、これら複数のコイル体のうち、臨界電流の高いコイル体が積層方向端部側に、臨界電流の低いコイル体が積層方向中央側にそれぞれ配されて同軸的に積層されてなることを特徴とする。
【0015】
図1は、本発明の超電導コイルの実施形態の一例を示す斜視図である。図1(a)は、本実施形態の超電導コイル30の全体図であり、図1(b)は超電導コイル30を構成する各コイル体を示す図である。
本実施形態の超電導コイル30は、第1コイル体31と、第2コイル体32と、第3コイル体33と、第4コイル体34とが、この順に同軸的に積層されて構成されている。
【0016】
本実施形態の超電導コイル30は、図2(a)に示すテープ状の超電導線材10を長手方向に沿って幅方向に分断した図2(b)に示す超電導細線21、22、23、24を巻回して形成された4つのコイル体のうち、臨界電流値の大きな分断方向中央側の超電導細線22、23より形成されたコイル体31、34が積層方向端部側に配され、臨界電流値が小さな分断方向端部側の超電導細線21、24より形成されたコイル体32、33が積層方向中央部側に配されて構成されている。すなわち、超電導コイル30は、臨界電流特性の良好なコイル体31、34が積層方向端部側に、コイル体31、34よりも臨界電流特性が低めのコイル体32、33が積層方向中央部側に配されて構成されている。
【0017】
超電導コイル30の最下部の第1コイル体31は、第2超電導細線22が後述する安定化層14側を外側にして同心円状に時計周りに巻回され形成されている。第1コイル体31上に積層され、超電導コイル30の下から2段目に位置する第2コイル体32は、第1超電導細線21が安定化層14側を外側にして同心円状に反時計周りに巻回され形成されている。第2コイル体32上に積層され、超電導コイル30の上から2段目に位置する第3コイル体33は、第4超電導細線24が安定化層14側を外側にして同心円状に時計周りに巻回され形成されている。第3コイル体33上に積層され、超電導コイル30の最上部に位置する第4コイル体34は、第3超電導細線23が安定化層14側を外側にして同心円状に反時計周りに巻回され形成されている。
超電導コイル30において、各コイル体31、32、33、34は、隣接するコイル体同士の巻回方向が逆とされており、巻回始端または巻回終端で銅などの良導電性材料よりなる接続板でその超電導層13同士あるいは安定化層14同士が、電気的および機械的に接続され、コイル体31、32、33、34にわたって超電導電流を流すことができるように接続されている。
【0018】
図2(a)は、本実施形態の超電導コイルに使用される超電導線材の一例を示す概略斜視図である。図2(a)に示す超電導線材10は、長尺テープ状の基材11上に、中間層12、超電導層13及び安定化層14がこの順に積層されて構成されている。
【0019】
基材11は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状又はシート状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金又は銅(Cu)合金がより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。
基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで強度が一層向上し、上限値以下とすることで臨界電流密度を一層向上させることができる。
【0020】
中間層12は、超電導層13の結晶配向性を制御し、基材11中の金属元素の超電導層13への拡散を防止するものである。そして、基材11と超電導層13との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基材11と超電導層13との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層12の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物が例示できる。
中間層12は、単層でも良いし、複数層でも良い。例えば、前記金属酸化物からなる層(金属酸化物層)は、結晶配向性を有していることが好ましく、複数層である場合には、最外層(最も超電導層13に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0021】
中間層12と基材11との間には、ベッド層が介在されていてもよい。ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y)、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
【0022】
さらに、本発明においては、基材11とベッド層との間に拡散防止層が介在された構造としても良い。拡散防止層は、基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。なお、拡散防止層の結晶性は問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
このように基材11とベッド層との間に拡散防止層を介在させることにより、後述する中間層12や超電導層13等の他の層を形成する際に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合に、基材11の構成元素の一部がベッド層を介して超電導層13側に拡散することを効果的に抑制することができる。基材11とベッド層との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl、ベッド層としてYを用いる組み合わせを例示することができる。
【0023】
また中間層12は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、超電導層13の配向性を制御する機能を有するとともに、超電導層13を構成する元素の中間層12への拡散や、超電導層13積層時に使用するガスと中間層12との反応を抑制する機能等を有するものである。そして、前記金属酸化物層により配向性が制御される。
【0024】
キャップ層は、前記金属酸化物層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0025】
中間層12の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
中間層12が、前記金属酸化物層の上にキャップ層が積層された複数層構造である場合には、キャップ層の厚さは、通常は、0.1〜1.5μmである。
【0026】
中間層12は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシストスパッタ法(以下、IBAD法と略記する)、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、超電導層13やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層12は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0027】
超電導層13は通常知られている組成の超電導体からなるものを広く適用することができ、酸化物超電導体からなるものが好ましい。具体的には、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものが例示できる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
超電導層13の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
超電導層13は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法)等で積層でき、なかでも生産性の観点からパルスレーザ蒸着法(PLD法)が好ましい。
【0028】
PLD法により超電導層13を形成する場合の一実施形態について説明する。
図5は、PLD法による超電導層13の成膜に使用されるレーザ蒸着装置の一例を示す概略斜視図である。
【0029】
図5に示すレーザ蒸着装置40は、基材11上に中間層12が積層された長尺の薄膜積層体45を巻回するリールなどの巻回部材を複数個同軸的に配列してなり、離間して対向配置された一対の巻回部材群43、44と、巻回部材群43の外側に配置された薄膜積層体45を送り出すための送出リール41と、巻回部材群44の外側に配置された薄膜積層体45を巻き取るための巻取リール42と、巻回部材群43、44の巻回により複数列とされた薄膜積層体45を支持する基板ホルダ46と、基板ホルダ46に内蔵された薄膜積層体45を加熱するための加熱手段(図示略)と、薄膜積層体45と対向配置されたターゲット47と、ターゲット47にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段48とを備えて構成されている。巻回部材群43、44、送出リール41及び巻取リール42を駆動装置(図示略)により互いに同期して駆動させることにより、送出リール41から送り出された薄膜積層体45が巻回部材群43、44を周回し、巻取リール42に巻き取られるようになっている。
【0030】
一対の巻回部材群43、44に巻回された長尺の薄膜積層体45は、これらの巻回部材群43、44を周回することにより、蒸着粒子の堆積領域内にて複数列レーンを構成するように配置されている。そのため、レーザ蒸着装置40は、レーザ光Lをターゲット47の表面に照射し、ターゲット47から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子の噴流(以下、プルーム49と記す。)を、ターゲット47に対向する領域を走行する薄膜積層体45の表面に向けて蒸着粒子を堆積させることができる。
【0031】
ターゲット47は、形成しようとする超電導層13と同等または近似した組成、又は、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物あるいは酸化物超電導体の焼結体などの板材からなっている。
【0032】
ターゲット47にレーザ光Lを照射するレーザ光発光手段48としては、ターゲット47から蒸着粒子を叩き出すことができるレーザ光Lを発生するものであれば、Ar−F(193nm)、Kr−F(248nm)などのエキシマレーザ、YAGレーザ、CO2レーザなどのいずれのものを用いても良い。
【0033】
図5に示す構成のレーザ蒸着装置40を用いて長尺の薄膜積層体45の上(基材11上の中間層12の上面)に超電導層13を成膜するには、ターゲット47を所定の位置に設置し、次いで、送出リール41に巻回されている薄膜積層体45を引き出しながら、巻回部材群43、44に順次巻回し、その後、薄膜積層体45の先端側を巻取リール42に巻き取り可能に取り付ける。
これによって、一対の巻回部材群43、44に巻回された薄膜積層体45が、これらの巻回部材群43、44を周回し、ターゲット47に対向する位置に複数列並んで移動するようになる。その後、排気装置(図示略)を駆動し、少なくとも巻回部材群43、44間を走行する薄膜積層体45を覆うように設置された処理容器(不図示)内を減圧する。この際、必要に応じて処理容器内に酸素ガスを導入して容器内を酸素雰囲気としても良い。
【0034】
次に、ターゲット47にレーザ光Lを照射して成膜を開始するよりも前の適当な時に、加熱手段(図示略)に通電して少なくとも成膜領域を走行する薄膜積層体45を加熱し、一定温度に保温する。成膜時の薄膜積層体45の表面温度は、適宜調整可能であり、例えば、780〜850℃とすることができる。
【0035】
続いて、送出リール41から薄膜積層体45を送り出しつつ、レーザ光発光手段48からレーザ光Lを発生させ、レーザ光Lをターゲット47に照射する。この時、レーザ光Lの照射位置をターゲット47の表面上で移動させる走査を行いながらレーザ光Lをターゲット47に照射することが好ましい。また、ターゲット47は、ターゲット移動機構(図示略)によって、平行な面に沿って移動させることも好ましい。このように、ターゲット47におけるレーザ光Lの照射位置を移動させることにより、ターゲット47の表面全域から順次プルーム49を発生させてターゲット47の粒子を叩き出すか蒸発させることができ、レーン状に複数配列した薄膜積層体45の個々に可能な限り均一な超電導層13を成膜することができる。
【0036】
ターゲット47から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子は、その放射方向の断面積が拡大したプルーム49となり、複数列並んで移動している薄膜積層体45の表面に、蒸着粒子を堆積させることができ、薄膜積層体45がこれらの巻回部材群43、44を周回する間に、超電導層13が繰り返し成膜され、必要な厚さに積層される。超電導層13の成膜後、得られた超電導導体は巻取リール41に巻き取られる。
以上の工程により、薄膜積層体45上(基材11上の中間層12の上面)に、超電導層13を形成することができる。
【0037】
安定化層14は、超電導層13の一部領域が常電導状態に遷移しようとした場合に、電流のバイパス路として機能することで、超電導層13を安定化させて焼損に至らないようにする、主たる構成要素である。
安定化層14は、導電性が良好な金属からなるものが好ましく、具体的には、銀又は銀合金、銅などからなるものが例示できる。安定化層14は1層構造でも良いし、2層以上の積層構造であってもよい。
安定化層14は、公知の方法で積層できるが、銀層をメッキやスパッタ法で形成し、その上に銅テープなどを貼り合わせるなどの方法を採用できる。安定化層14の厚さは、3〜300μmの範囲とすることができる。
【0038】
このような構成の超電導コイルを得るため、本発明の超電導コイルの製造方法は、長尺の超電導線材を長手方向に沿って幅方向に分断して、3本以上の超電導細線とする工程と、前記超電導細線を巻回して複数のコイル体とする工程と、前記複数のコイル体を同軸的に積層して超電導コイルとする工程と、を備え、積層方向中央部のコイル体より積層方向端部側のコイル体の方が、臨界電流が大きくなる前記分断方向中央側の超電導細線からなるコイル体を積層することを特徴とする。
【0039】
本発明の超電導コイルを製造するには、まず、前記構成の超電導線材10を準備し、超電導線材10を、超電導線材10の長手方向に沿って幅方向に分断して、3本以上(図2(b)に示す例では4本。)の超電導細線を作製する。
図2(b)に示す第1超電導細線21、第2超電導細線22、第3超電導細線23、第4超電導細線24は、図2(a)に示す超電導線材10が、長手方向に沿って幅方向に4分割に分断されて形成される。超電導線材10を分断する方法は特に限定されず、超電導線材10の基材11、中間層12、超電導層13及び安定化層14の全てを分断することができる方法であれば良く、従来公知の分断方法から適宜選択すれば良い。具体的には、レーザ照射、金属製の回転刃又は固定刃による切断、エッチング、フォトリソグラフィー等が挙げられ、中でも、レーザ照射、金属製の回転刃又は固定刃による切断が好ましい。レーザは金属を蒸発させることができるものであれば良く、具体的には、YAGレーザ、ファイバレーザ、エキシマレーザ等が挙げられる。
【0040】
超電導線材10を分断する際に失われる線材部分である分断幅は、特に限定されないが、分断幅は小さいほど望ましい。レーザ照射による切断の場合、照射するレーザのスポット径を調整することにより、その分断幅(切断幅)を適宜調整可能であるが、20μm以下とすることが望ましい。また、金属製の回転刃又は固定刃による切断の場合、使用する刃の厚さを調整することによりその分断幅(切断幅)を適宜調整可能であるが、20μm以下とすることが望ましい。
【0041】
第1超電導細線21の線幅d1、第2超電導細線22の線幅d2、第3超電導細線23の線幅d3、及び、第4超電導細線24の線幅d4は、同一でも異なっていても良いが、第1〜第4超電導細線21、22、23、24を巻回してコイル体を作製して各コイル体を同軸的に積層して電気的及び機械的に接続する際に、各超電導細線の線幅d1、d2、d3、d4が略同一である方が、簡便に超電導コイルを製造することができるため好ましい。
【0042】
図6は、後述する実施例1で作製した4本の超電導細線の臨界電流値Icを示すグラフである。図6に示す如く、1本の超電導線材10を該線材の長手方向に沿って、幅方向に略同一の線幅となるように分断して形成された4本の超電導細線21、22、23、24の臨界電流値には、バラつきがある。すなわち、超電導線材10の幅方向中央部に位置する第2超電導細線22及び第3超電導細線23の臨界電流値Icは、同線材の幅方向端部に位置する第1超電導細線21及び第4超電導細線24の臨界電流値Icと比較して、良好となっている。これは、基材11上にレーザ蒸着法や化学気相蒸着法などの成膜法により形成された超電導層13は、成膜条件などにより線材の幅方向端部の超電導層13の結晶配向性が、線材の幅方向中央部の超電導層13の結晶配向性と比較して、若干低下する場合があるためであると考えられる。
【0043】
長尺の超電導線材10を製造する場合、成膜速度の向上や、ターゲットからの蒸着粒子の有効利用による生産性向上の観点より、化学気相蒸着法、特に、前述した図5に示すレーザ蒸着装置40のような成膜装置を用いたPLD法により超電導層13を成膜することが望ましい。超電導層13の成膜には、成膜温度(成膜される基材(薄膜積層体35)表面の温度)が非常に重要であり、成膜温度が適正な温度範囲を外れると成膜される超電導層13の結晶配向性が低下してしまう。そのため、超電導層13の結晶配向性を良好とし、超電導特性の良好な超電導線材10を製造するためには、非常に狭い温度範囲内に成膜温度を制御する必要がある。
【0044】
図5に示すレーザ蒸着装置40による成膜では、巻回部材群43、44間を走行する被成膜基材(薄膜積層体45)は加熱と冷却が繰り返されている状態であり、ターゲット47に対向してレーン状に複数配列した被成膜基材群において、基材幅方向の中央部と、基材幅方向の端部とでは、加熱冷却条件が若干異なる場合がある。本発明者らの検討では、被成膜基材群の基材幅方向の端部の成膜温度は、適正温度範囲より若干バラツク場合があることを確認している。また、被成膜基材群の基材幅方向の端部は、ターゲットからのプルームの状態が中央部よりも不安定になりやすく、蒸着粒子の堆積状態や堆積速度などが変動しやすい。そのため、図5に示すレーザ蒸着装置40で成膜された超電導線材では、線材の幅方向端部側の結晶配向性が低下し、臨界電流値Icが低下してしまう場合があると考えらる。
このような現象は、図5に示すレーザ蒸着装置40のように、被成膜基材をレーストラック状に複数回走行させてPLD法により超電導層13を成膜する場合に限らず、幅広で長尺の被成膜基材をターゲット上を1回だけ通過させて成膜する場合や、PLD法以外の化学気相蒸着法により超電導層13を成膜した場合にも同様に起こり得ると考えられる。
【0045】
このように、成膜条件等により超電導線材10の幅方向に超電導特性(臨界電流値)の分布が生じる傾向がある。そのため、各超電導細線21、22、23、24の線幅d1、d2、d3、d4は、1.0mm以上とすることが好ましい。各超電導細線の線幅d1〜d4が狭すぎると、超電導線材10の幅方向端部に位置する超電導細線(第1超電導細線21、第4超電導細線24)の超電導特性が著しく低下したり、電流が流れずに超電導特性を発現できなる場合がある。
各超電導細線21、22、23、24の線幅d1、d2、d3、d4の上限値は特に限定されるものではなく、分断前の超電導線材10の線幅に合わせて適宜調整可能である。しかしながら、超電導線材はその断面積が大きくなるほど交流損失が大きくなることが知られており、この観点から、交流損失を低下させる効果を得るためには、各超電導細線21、22、23、24の線幅d1、d2、d3、d4の上限値は3.0mm程度とすることが好ましい。
【0046】
なお、超電導線材10の線幅は、使用する基材11の幅や、成膜装置、成膜方法等により適宜調整可能であり、特に限定されないが、例えば、0.5〜30mm程度とすることができる。
また、超電導線材10を長手方向に沿って分断して複数の超電導細線を形成する際の分割数は、3以上とし、1本の超電導線材10から3本以上の超電導細線を形成することが望ましい。図6に示す実施例では超電導線材の幅方向に超電導特性が非対称となっているが、超電導線材の幅方向に結晶配向性及び超電導特性が対称に近い状態となる場合も多くあると考えられる。そのため、1本の超電導線材を2分割し、2本の超電導細線を形成しても、線材の幅方向に略同等な超電導特性であれば、分割して細線化した意味を成さず、本発明の効果を奏することができない場合がある。
【0047】
各超電導細線21、22、23、24は、さらにその外周面を絶縁層で被覆することで、各コイル体を構成する超電導細線とすることができる。
絶縁層は、通常使用される各種樹脂等、公知の材質からなるものである。前記樹脂として具体的には、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、シリコン樹脂、アルキッド樹脂、ビニル樹脂等が例示できる。絶縁層による被覆の厚さは特に限定されず、被覆対象部位等に応じて、適宜調節すれば良い。絶縁層は、その材質に応じて公知の方法で形成すれば良く、例えば、原料を塗布して、これを硬化させれば良い。また、シート状のものが入手できる場合には、これを使用して被覆しても良い。
【0048】
次に、上述の方法により作製した第1〜第4超電導細線21、22、23、24を、安定化層14側を外側として同心円状に巻回させてパンケーキ型のコイル体を4個作製する。ここで、各コイル体の固定方法は、特に限定されず、従来公知の方法で行うことができる。例えば、各超電導細線21〜24をプリプレグテープ等の含浸固定の役割を兼ねた絶縁テープと重ねて筒状の巻枠等に巻回させてパンケーキ型のコイル体とし、これを加熱処理して一体的に固化することにより固定することができる。ここで、各コイル体の含浸固定方法は、プリプレグテープによる含浸の他、真空加圧含浸、各超電導細線21〜24の巻回時の含浸樹脂塗布による含浸などでもよい。
【0049】
次いで、作製したコイル体のうち、臨界電流値が大きい超電導細線より形成されたコイル体が積層方向端部側に、臨界電流値が小さい超電導細線より形成されたコイル体が積層方向中央部側になるように、各コイル体を同軸的に積層させる。図6に示す如く、第1超電導細線21及び第4超電導細線24の臨界電流値は、第2超電導細線22及び第3超電導細線23の臨界電流値よりも低くなっている。そのため、本実施形態においては、臨界電流値の大きい第2超電導細線22より形成されたコイル体を、第1コイル体31として積層方向端部(最下部)に配置し、臨界電流値の大きい第3超電導細線23より形成されたコイル体を、第4コイル体34として積層方向端部(最上部)に配置する。また、臨界電流値の小さい第1超電導細線21より形成されたコイル体を、第2コイル体32として積層方向中央部(下から2段目)に配置し、臨界電流値の小さい第4超電導細線24より形成されたコイル体を、第3コイル体33として積層方向中央部(上から2段目)に配置する。
【0050】
各コイル体31〜34を同軸的に積層させた後、隣接するコイル体の巻回始端同士または巻回終端同士を隣接配置させてその隣接部において安定化層14を露出させ、銅などの良導電性材料よりなる接続板を、隣接する安定化層14、14上、又は超電導層13、13上に跨る様に接合することにより、隣接するコイル体同士を電気的および機械的に接続する。
隣接する各コイル体の安定化層14、14、又は超電導層13、13と、接続板との接合は、電気的および機械的に接続されていればよく、例えば、半田付け、超音波溶接、抵抗溶接、導電性接着剤等により接合することができる。中でも、汎用性、接合性、取り扱いの容易性の点で半田が好ましい。半田としては、特に限定されず、例えば、Pb−Sn系合金半田、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金等の鉛フリー半田、共晶半田、低温半田等が挙げられ、これらの半田を1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
以上により、本実施形態の超電導コイル30を製造することができる。
【0051】
本実施形態の超電導コイル30は、超電導線材10を長手方向に沿って幅方向に分断した超電導細線21、22、23、24を巻回して形成された4つのコイル体のうち、臨界電流値の大きな超電導細線22、23より形成されたコイル体31、34が積層方向端部側に配され、臨界電流値が小さな超電導細線21、24より形成されたコイル体32、33が積層方向中央部側に配されて構成されている。すなわち、超電導コイル30は、臨界電流特性の良好なコイル体31、34が積層方向端部側に、コイル体31、34よりも臨界電流特性が低めのコイル体32、33が積層方向中央部側に配されて構成されている。
【0052】
図3に示す如く、複数のコイル体が積層されて構成された超電導コイルでは、積層方向両端部において、超電導線材(超電導細線)の垂直方向の磁場成分が多くなり、交流損失が大きくなり、臨界電流が低下してしまう。このため、基材は分割せず、超電導層を分割して、その配列順を変更せずに線材を巻回して形成するような従来の超電導コイルでは、積層方向両端部側に位置する超電導細線及びコイル体の臨界電流値が、積層方向中央部側に位置する超電導細線及びコイル体の臨界電流値よりも低くなる。このような従来の超電導コイルでは、積層方向両端部のコイル体の臨界電流値が元々低く、さらに、交流損失により低下するため、積層方向両端部のコイル体は低い電流値で臨界電流に達してしまい、電流値を上げることができない。その結果、超電導コイル全体に流すことのできる電流値が低下し、臨界電流密度が低下し、当該コイルの中心磁場が低くなってしまう問題があった。
【0053】
本実施形態の超電導コイル30では、交流損失が大きい積層方向両端部側に、臨界電流値の大きな超電導細線22、23より形成したコイル体31、34を配した構成としたことにより、交流損失により臨界電流が低下しても、元々、臨界電流特性の良好なコイル体であるため、その臨界電流は、臨界電流値を考慮せずに配置された通常の超電導コイル端部のコイル体と比較して良好となる。また、本実施形態の超電導コイル30では、交流損失の少ない積層方向中央部側に、コイル体31、34よりも臨界電流特性が低めのコイル体32、33を配した構成としたことにより、積層方向中央部のコイル体32、33の臨界電流は殆ど変化しない。従って、積層方向両端部のコイル体31、34の臨界電流特性が、積層方向中央部のコイル体32、33の臨界電流特性に近づき、超電導コイル30全体的に、臨界電流特性が均一な状態に近づく。これにより、超電導コイル30に流すことのできる電流値を、従来の超電導コイルよりも大きくすることができるので、超電導コイル30全体の臨界電流及び臨界電流密度を向上させて、超電導コイル30の中心磁場を向上させることができる。従って、本発明の超電導コイルによれば、良好な中心磁場を発生することが可能となる。
【0054】
また、超電導特性の良好な超電導コイルを製造する方法としては、交流損失を考慮し、超電導線材を分割して作製した複数の超電導細線のうち、臨界電流値の良好な超電導細線のみを使用してコイル体を形成し、超電導コイルを製造する方法も考えられる。しかしながら、この手法では、使用されない超電導細線が生じるので、コイル製造工程の効率が低下してしまう。
本発明の超電導コイルの製造方法によれば、作製した超電導細線を無駄なく使用しつつ、各超電導細線及びそれらにより形成された各コイル体の臨界電流特性により、各コイル体の配置を決定することにより、従来の方法よりも、中心磁場を向上させることが可能な超電導コイルを製造することができる。従って、本発明の超電導コイルの製造方法によればは、良好な中心磁場の超電導コイルを良好な効率で製造することが可能となる。
【0055】
本実施形態の超電導コイル及びその製造方法においては、1本の超電導線材10が4本の超電導細線21、22、23、24に分断される例を示したが、本発明はこれに限定されない。1本の超電導線材が3本の超電導細線に分断されても良いし、5本以上の超電導細線に分断されていても良い。同様に、本実施形態の超電導コイル及びその製造方法においては、4個のコイル体が同軸的に積層された超電導コイル30を例示したが、本発明はこれに限定されない。超電導コイルは、3個のコイル体が積層されて構成されていても良いし、5個以上のコイル体が積層されて構成されていても良い。
【0056】
本発明において、5本以上の超電導細線より形成された5個以上のコイル体を積層して超電導コイルを形成する場合、積層方向中央部のコイル体から積層方向両端部のコイル体まで、各コイル体毎に臨界電流が段階的に大きくなるように複数のコイル体を積層させることが好ましい。図3に示す如く、複数のコイル体より積層形成された超電導コイルでは、該コイルの積層方向中央部では基材(超電導細線)に垂直な磁場成分が少なく臨界電流の低下が殆どないが、積層方向両端部側に行くにつれて基材(超電導細線)に垂直な磁場成分が徐々に多くなり臨界電流の低下も大きくなっていく。そのため、積層方向中央部から積層方向両端部のコイル体まで、各コイル毎に段階的に臨界電流が大きくなるように複数のコイル体を配置することにより、積層方向中央部側のコイル体から積層方向端部側のコイル体まで、徐々に大きくなる交流損失(臨界電流の低下)が起こると、各コイル体における臨界電流値は、積層方向中央部に配されたコイル体の臨界電流値に近づき、超電導コイル全体的に、臨界電流特性が均一な状態に近づく。これにより、本発明の超電導コイルでは、コイル全体に流すことのできる電流値を、従来の超電導コイルよりも大きくすることができるので、コイル中心磁場を向上させることができる。
【0057】
また、本実施形態の超電導コイル及びその製造方法においては、1本の超電導線材10より超電導コイル30を製造する例を示したが、本発明はこれに限定されない。2本以上の超電導線材を長手方向に沿って幅方向に分断して複数の超電導細線を作製し、これらの超電導細線のうち、積層方向中央部のコイル体から積層方向両端部のコイル体まで、各コイル体毎に臨界電流が段階的に大きくなるように、複数のコイル体を同軸的に積層させて超電導コイルを形成することも好ましい。
【0058】
本実施形態の超電導コイル及びその製造方法においては、パンケーキコイル型のコイル体を例示したが、本発明はこれに限定されず、レーストラック形状等の他の形状のコイル体としてもよい。
【0059】
以上、本発明の超電導コイル及び超電導コイルの製造方法について説明したが、上記実施形態において、超電導線材の各部、超電導コイルを構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
幅10mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基材上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)により1.2μm厚のGdZr(GZO;中間層)を形成した上に、パルスレーザ蒸着法(PLD法)により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のYBaCu(超電導層)を形成し、さらに超電導層上にスパッタ法により10μmの銀層(安定化層)を積層し、図2に示す構造の超電導線材を作成した。
次に得られた幅10mm、長さ10mの超電導線材を、回転刃により超電導線材の長手方向に沿って、超電導線材の幅方向に4分割することにより、幅2.5mmの超電導細線を4本作製した。得られた4本の超電導細線の臨界電流値を図6に示す。各超電導細線の臨界電流値は、超電導線材幅方向の一端から多端へ向けて順に、夫々、59A、100A、113A、89Aであり、超電導線材の幅方向部の超電導細線は、同線材の幅方向中央部の超電導線材よりも臨界電流が低くなっていた。
続いて、同様の手順で、3本の超電導線材を作製した後、各超電導線材を4分割することにより、幅2.5mmの超電導細線を12本作製した。
【0061】
得られた合計16本の超電導細線について臨界電流値を測定した後、各超電導細線を安定化層側が外側となるようにして、同心円状に複数回巻回させて内径70mmのコイル体を16個作製した。次に、図7に示すように、各コイル体を形成する超電導細線の臨界電流値の大きいものが積層方向両端側に、臨界電流値の小さいものが積層方向の中央部側となるように、これらのコイル体を同軸的に積層させて、各コイル体を電気的および機械的に接続することにより、高さ2.5mmのコイル体が16個積層された構造の超電導コイル(軸長(高さ)40mm)を作製した。なお、図7において、「コイルNo.1〜16」は、積層された16個のコイル体のうち、1段目〜16段目のコイル体をそれぞれ示す。
【0062】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で、幅10mmの超電導線材を作製し、回転刃により超電導線材の長手方向に沿って、超電導線材の幅方向に10分割することにより、幅1.0mmの超電導細線を10本作製した。得られた超電導細線の臨界電流値を表1に示す。
次に、同様の手順で、3本の超電導線材を作製した後、各超電導線材を10分割することにより、幅1.0mmの超電導細線を30本作製した。続いて、実施例1と同様の手順で、40個のコイル体を作製し、各コイル体を形成する超電導細線の臨界電流値の大きいものが積層方向両端側に、臨界電流値の小さいものが積層方向の中央部側となるように、これらのコイル体を同軸的に積層させて、各コイル体を電気的および機械的に接続することにより、高さ1.0mmのコイル体が40個積層された構造の超電導コイル(軸長(高さ)40mm)を作製した。
【0063】
【表1】

【0064】
(比較例1)
実施例1と同様の手順で、幅10mmの超電導線材を4本作製した。
得られた超電導線材を分割せずに、各超電導線材を安定化層側が外側となるようにして、同心円状に複数回巻回させて、高さ10mm、内径70mmのコイル体を4個作製した。次に、これらのコイル体を同軸的に積層させて、各コイル体を電気的および機械的に接続することにより、高さ10mmのコイル体が4個積層された構造の超電導コイル(軸長(高さ)40mm)を作製した。
【0065】
(比較例2)
実施例1と同様の手順で、幅10mmの超電導線材を作製し、回転刃により超電導線材の長手方向に沿って、超電導線材の幅方向に20分割することにより、幅0.5mmの超電導細線を20本作製した。得られた超電導細線の臨界電流値を表2に示す。
次に、同様の手順で、3本の超電導線材を作製した後、各超電導線材を20分割することにより、幅0.5mmの超電導細線を60本作製した。続いて、実施例1と同様の手順で、80個のコイル体を作製し、各コイル体を形成する超電導細線の臨界電流値の大きいものが積層方向両端側に、臨界電流値の小さいものが積層方向の中央部側となるように、これらのコイル体を同軸的に積層させて、各コイル体を電気的および機械的に接続することにより、高さ0.5mmのコイル体が80個積層された構造の超電導コイル(軸長(高さ)40mm)を作製した。
【0066】
【表2】

【0067】
実施例1、2および比較例1、2の超電導コイルについて、液体窒素中(77K)、自己磁場下(0T)における、臨界電流密度Jc[MA/cm]とコイル中心磁場B0[T]を測定した。結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
表1の結果より、本発明に係る実施例1および2の超電導コイルでは、比較例1の超電導コイルと比較して、臨界電流密度が高く、コイル中心磁場も強くなっていた。また、超電導細線の線幅が0.5mmである比較例2では、超電導線材の幅方向端部の超電導細線(表2のNo.20)の臨界電流が0Aであるため、超電導コイルとして機能しなかった。
【符号の説明】
【0070】
10…超電導線材、11…基材、12…中間層、13…超電導層、14…安定化層、21…第1超電導細線、22…第2超電導細線、23…第3超電導細線、24…第4超電導細線、30…超電導コイル、31…第1コイル体、32…第2コイル体、33…第3コイル体、34…第4コイル体、40…レーザ蒸着装置、41…送出リール、42…巻取リール、43、44…巻回部材群、45…薄膜積層体、46…基板ホルダ、47…ターゲット、48…レーザ光発光手段、49…プルーム、L…レーザ光。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の超電導線材を長手方向に沿って幅方向に分断して、3本以上の超電導細線とする工程と、
前記超電導細線を巻回して複数のコイル体とする工程と、
前記複数のコイル体を同軸的に積層して超電導コイルとする工程と、を備え、
積層方向中央部のコイル体より積層方向端部側のコイル体の方が、臨界電流が大きくなる前記分断方向中央側の超電導細線からなるコイル体を積層することを特徴とする超電導コイルの製造方法。
【請求項2】
積層方向中央部のコイル体から積層方向両端部のコイル体まで、各コイル体毎に臨界電流が段階的に大きくなるように前記複数のコイル体を積層することを特徴とする請求項1に記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項3】
前記超電導細線の幅を、1mm以上とすることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項4】
前記超電導線材が、長尺の基材と、該基材上に中間層を介し設けられた超電導層と、該超電導層上に設けられた安定化層とを備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の超電導コイルの製造方法。
【請求項5】
長尺の超電導線材を長手方向に沿って幅方向に分断して、3本以上の臨界電流が異なる超電導細線が形成され、これら3本以上の超電導細線から個別に臨界電流の異なる複数のコイル体が構成され、これら複数のコイル体のうち、臨界電流の高いコイル体が積層方向端部側に、臨界電流の低いコイル体が積層方向中央側にそれぞれ配されて同軸的に積層されてなることを特徴とする超電導コイル。
【請求項6】
積層方向中央部のコイル体から積層方向両端部のコイル体まで、各コイル体毎に臨界電流が段階的に大きくなるように前記複数のコイル体が積層されてなることを特徴とする請求項5に記載の超電導コイル。
【請求項7】
前記超電導細線の幅を、1mm以上とすることを特徴とする請求項5または6に記載の超電導コイル。
【請求項8】
前記超電導線材が、長尺の基材と、該基材上に中間層を介し設けられた超電導層と、該超電導層上に設けられた安定化層とを備えることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−258696(P2011−258696A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131050(P2010−131050)
【出願日】平成22年6月8日(2010.6.8)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】