説明

超電導コイル装置

【課題】樹脂含浸された超電導コイル装置において、超電導線材に働く剥離力を十分に低減することができとともに、巻き数の異なる超電導線材同士のコイル径方向の伝熱経路を確保し、超電導線材の幅方向に対する伝熱性能を向上させる。
【解決手段】テープ状の超電導線材4と絶縁材5とを巻回してなる超電導コイル装置において、絶縁材5の表面に超電導線材4に働く剥離力を低減する離形処理を、テープ状絶縁材1の面内における幅方向両端部を除く部分の少なくとも一部に施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導コイル装置に係り、特に磁気共鳴画像診断装置、超電導磁気エネルギ貯蔵装置、単結晶引き上げ装置等の超電導応用機器に適用される超電導コイル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超電導技術の向上に伴い、例えば磁気共鳴画像診断装置(MRI)、超電導磁気エネルギ貯蔵装置(SMES)、金属の単結晶引き上げ装置等の超電導応用機器が実用化されている。
【0003】
これらの機器は、超電導線材を巻回した超電導コイルを内蔵した構成となっており、さらに高磁場中での臨界電流特性に優れた高温超電導線材を使用した超電導コイルの開発が進められている。
【0004】
超電導コイルを構成する高温超電導線材としては、例えばテープ状の金属基板、中間層、超電導層および保護金属層を積層した多層構造の薄膜超電導線材が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
ところで、超電導コイルは一般に樹脂を含浸した状態で使用されることが多く、このような薄膜超電導線材においては、冷却時に樹脂と線材との熱収縮率の差に起因する積層方向に対する引張り力(剥離力)が働き、層間剥離あるいは超電導薄膜内で亀裂が生じて、安定した超電導特性を得られない可能性がある。
【0006】
なお、これまでには超電導線材に働く剥離力を低減する対策として、共巻きする絶縁材の表面を全面離形処理することにより、離形材と樹脂との界面で意図的に剥離を起こし、超電導線材自体が引張られないようにする手段が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−280710号公報
【特許文献2】特開2008−243588号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、絶縁材を全面離形処理してしまうと、冷却時等に巻き数が異なる超電導線材同士のコイル径方向の伝熱経路が断たれてしまうため、コイル発熱時に熱損傷が発生する虞れがある。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、樹脂含浸された超電導コイル装置において、超電導線材に働く剥離力を十分に低減することができとともに、巻き数が異なる超電導線材同士のコイル径方向の伝熱経路を確保し、超電導線材の径方向に対する伝熱性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するため、本発明では、テープ状の超電導線材と絶縁材とを巻回してなる超電導コイル装置において、前記絶縁材の表面に前記超電導線材に働く剥離力を低減する離形処理を、前記テープ状絶縁材の面内における幅方向両端部を除く部分の少なくとも一部に施してなることを特徴とする超電導コイル装置を提供する。
【0011】
また、本発明では、絶縁被覆が成されたテープ状の超電導線材と金属テープとを巻回してなる超線材コイル装置において、前記金属テープの表面に前記超電導線材に働く剥離力を低減する離形処理を、前記金属テープの面内における幅方向両端部を除く部分の少なくとも一部に施してなることを特徴とする超電導コイル装置を提供する。
【0012】
また、本発明では、前記超電導線材は、テープ状の金属基板と、この金属基板上に中間層を介して形成された高温超電導線材からなる超電導層と、この超電導層の上に形成された保護金属層とを有し、前記超電導層に近い側の絶縁材表面のみが離形処理されている超電導コイル装置を提供する。
【0013】
また、本発明では、前記離形材は、フッ素系樹脂テープ、パラフィン、グリース、シリコンオイルからなる群より選ばれた少なくとも一種からなる超電導コイル装置を提供する。
【0014】
また、本発明では、超電導線材に超電導線材よりも幅広な幅広テープ線が取付けられ、この幅広テープ線のテープ面内で長手方向と垂直な方向の両端が非離形処理部とされている超電導コイル装置を提供する。
【0015】
また、本発明では、前記テープ線は超電導線材の金属基板に近い側に取付けられている超電導コイル装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、絶縁材の表面に超電導線材に働く剥離力を低減する離形処理を、テープ状絶縁材または金属テープの面内における幅方向両端部を除く部分の少なくとも一部に施し、テープ状の超電導線材がこの超電導線材の幅方向の両端において樹脂と接する構成とすることにより、巻き数が異なる超電導線材同士のコイル径方向の伝熱経路を確保することができ、超電導線材の幅方向に対する伝熱性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態による超電導コイル装置を示す構成図。
【図2】図1に示した超電導線材の構成を示す拡大断面図。
【図3】本発明の第2実施形態による超電導コイル装置を示す構成図。
【図4】本発明の第3実施形態による超電導コイル装置を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る超電導コイル装置の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0019】
[第1実施形態](図1,図2)
図1は本発明の第1実施形態による超電導コイル装置1Aの全体を示す構成図であり、図2は図1に示した超電導コイル装置1Aの円環状部分を径方向で切断した状態を示す拡大縦断面図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の超電導コイル装置1Aは、全体として円環状をなす超電導コイル2から構成されている。
【0021】
図1において、超電導コイル2は内径側から外径側に向って順次に、テープ状の超電導線材4、絶縁材5および離形材6を備えている。これらの超電導線材4、絶縁材5および離形材6は、樹脂7によって固定されている。
【0022】
そして、テープ状の超電導線材4と、離形材6により離形処理された絶縁材5とを巻き回した構成としてあり、これらの間に樹脂7が充填されている。なお、保護金属層4dの上にまたは上記多層構造体の周囲にさらに安定化金属層4e(銅、ステンレス鋼等)を形成してもよい。
【0023】
そして、超電導線材4は図2に示すように、テープ状の金属基板4aと、この金属基板4a上に中間層4bを介して形成された高温超電導線材からなる超電導層4cと、この超電導層4cの上(表面)に形成された保護金属層4dとを有する多層構造体から成り、超電導層4cに接している側の絶縁材5表面のみが離形処理されている。なお、保護金属層4dの上にまたは上記多層構造体の周囲にさらに安定化金属層4e(銅、ステンレス鋼等)を形成してもよい。
【0024】
これにより、本実施形態ではテープ状の絶縁材5がテープ面内で長手方向と垂直な方向、すなわち幅方向の両端が離形されない構成となる。なお、図2においては両端以外の全てが離形処理されている例で示したが、本発明の効果が得られるよう、少なくとも一部に離形処理が成されて良いのはもちろんである。
【0025】
このように、テープ状の超電導線材4にこれと同幅の絶縁材5を重合してリング状に巻回することにより、絶縁材5表面に部分的に超電導線に働く剥離力を低減する離形処理を施してあり、テープ状の絶縁材5におけるテープ面内で、長手方向と垂直な方向の両端を除いて離形処理されている。
【0026】
なお、離形材6としては、フッ素系樹脂テープ、パラフィン、グリース、シリコンオイルからなる群より選ばれる少なくとも一種が適用されている。また、テフロン(登録商標)製のテープの適用も可能である。
【0027】
また、超電導線材4が絶縁被覆されている場合は、絶縁材5は不要となる。さらに、補強の目的でCu、ステンレス鋼などの金属テープを共巻きしても良く、この場合、金属テープに離形処理を施しても良い。
【0028】
このように構成された本実施形態において、離形材6によって離形処理された絶縁材5の表面は樹脂7と直接接することがない。
【0029】
また、離形材6と樹脂7との接着力は、絶縁材5と樹脂7との直接の接着力に比べて相対的に弱いため、超電導線材4と絶縁材5との間にある樹脂7が収縮した時、離形材6と樹脂7との界面で剥離が生じ、両者の間に空間が形成される。一方、離形処理されていない絶縁材5の幅方向両端は、樹脂7と直接接する。
【0030】
本実施形態の超電導コイル装置1Aによれば、超電導線材4と絶縁材5との間に設けられた樹脂7が収縮した時、通常では超電導線材4の表面が引張られるが、本実施形態では離形材6と樹脂7との界面で剥離が生じ、これら離形材6と樹脂7との間に空間が生じるため、超電導線材4に働く剥離力を大幅に低減することができる。
【0031】
また、絶縁材5の幅方向両端は離形処理されていないため、巻き数が異なる超電導線材4同士のコイル径方向の伝熱経路を確保することができる。
【0032】
[第2実施形態](図3)
図3は、本発明の第2実施形態による超電導コイル装置1Bの全体を示す構成図である。
【0033】
なお、本実施形態において、第1実施形態と同一の構成については図1および図2と同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0034】
図3において、本実施形態では超電導線材4が、図2に示したテープ状の金属基板4aと、この金属基板4a上に中間層4bを介して形成された高温超電導線材からなる超電導層4cと、この超電導層4cの上(表面)に形成された保護金属層4dとを有する多層構造体から成り、前記超電導層4cに接している側の絶縁材5表面のみが離形処理されている。
【0035】
高温超電導線材は、一般的にCoated Conductorと呼ばれる線材構造をしており、積層された複数の部材により構成されている。すなわち、金属基板4a(ハステロイ(登録商標)等)と、この上に中間層4b(多結晶薄膜等)を介して形成された超電導層4c(Re123系等の高温超電導薄膜等)、およびこの超電導層4cの上に形成された保護金属層4d(金、銀等)である。なお、保護金属層4dの上にまたは上記多層構造体の周囲にさらに安定化金属層4e(銅、ステンレス鋼等)を形成してもよい。
【0036】
このように構成された高温超電導線材4は積層方向に対して非対称であり、本実施形態では、超電導層4cに近い側の絶縁材5表面のみが離形材6によって部分的に離形処理された構成となる。
【0037】
そして、超電導層4cに近い側の絶縁材5表面は離形処理されているが、金属基板4aに近い側の絶縁材5表面は離形処理されておらず、樹脂7と直接接する構成としてある。
【0038】
金属基板4aには強度の高い部材が使用されることが多く、超電導線材4は、超電導層4cに近い側の線材表面に垂直な引張り力に比べて、金属基板4aに近い側の線材表面に垂直な引張り力には強い。
【0039】
このため、本実施形態の超電導コイル装置1Bによれば、巻き数の異なる超電導線材4同士のコイル径方向の伝熱経路が確保できるだけでなく、金属基板4aに近い側の超電導線材4の表面からの伝熱性能を向上させることができる。
【0040】
[第3実施形態](図4)
図4は本発明の第3実施形態による超電導コイル装置1Cの全体を示す構成図である。
【0041】
なお、第1実施形態1および第2実施形態までの構成と同一の構成については、図示の同一部分に同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0042】
図4に示すように、本実施形態の超電導コイル装置1Cにおいては、超電導線材4に、この超電導線材4よりも幅広な幅広テープ線8が取付けられ、この幅広テープ線8において、テープ面内で長手方向と垂直な方向の両端は非離形処理部としてある。
【0043】
また、幅広テープ線8は超電導線材4の金属基板4aに近い側に取付けられている。
【0044】
このように、本実施形態によれば、金属基板4aに近い側の線材表面において、超電導線材4よりも幅広な幅広テープ線8が取付けられている。なお、幅広テープ線8としては、金属基板(ハステロイ(登録商標)等)よりも熱伝導率の良い部材(銅、ステンレス鋼、アルミニウム等)が好ましい。
【0045】
本実施形態の超電導コイル装置1Cによれば、超電導線材4に線材よりも幅広な幅広テープ線8が取付けられることにより、この幅広テープ線8の幅方向両端で樹脂7と多く接する構成とすることができる。
【符号の説明】
【0046】
1A〜1C 超電導コイル装置
1 超電導線材
2 超電導コイル
4a 金属基板
4b 中間層
4c 超電導層
4d 保護金属層
4e 安定化金属層
4 超電導線材
5 絶縁材
6 離形材
7 樹脂
8 幅広テープ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テープ状の超電導線材と絶縁材とを巻回してなる超電導コイル装置において、前記絶縁材の表面に前記超電導線材に働く剥離力を低減する離形処理を、前記テープ状絶縁材の面内における幅方向両端部を除く部分の少なくとも一部に施してなることを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項2】
絶縁被覆が成されたテープ状の超電導線材と金属テープとを巻回してなる超線材コイル装置において、前記金属テープの表面に前記超電導線材に働く剥離力を低減する離形処理を、前記金属テープの面内における幅方向両端部を除く部分の少なくとも一部に施してなることを特徴とする超電導コイル装置。
【請求項3】
前記超電導線材は、テープ状の金属基板と、この金属基板上に中間層を介して形成された高温超電導線材からなる超電導層と、この超電導層の上に形成された保護金属層とを有し、前記超電導層に近い側の絶縁材表面のみが離形処理されている請求項1または2記載の超電導コイル装置。
【請求項4】
前記離形材は、フッ素系樹脂、パラフィン、グリース、シリコンオイルからなる群より選ばれた少なくとも一種からなる請求項1または2記載の超電導コイル装置。
【請求項5】
前記超電導線材に前記超電導線材よりも幅広な幅広テープ線が取付けられ、この幅広テープ線において、テープ面内で長手方向と垂直な方向の両端が非離形処理部とされている請求項1または2記載の超電導コイル装置。
【請求項6】
前記テープ線は前記超電導線材の金属基板に近い側に取付けられている請求項1または2記載の超電導コイル装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−267822(P2010−267822A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118070(P2009−118070)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】