説明

超電導バルク体

【課題】本発明は、小電流・小電力領域でも高性能で、大電流・大電力領域でも特性低下の小さい超電導バルク体を提供する。
【解決手段】超電導バルク体1において、該超電導バルク体1の少なくとも表面の一部の臨界電流密度が、該超電導バルク体内部の臨界電流密度よりも大きい表面超電導領域2が設けられていることを特徴とする超電導バルク体である。表面超電導領域2は、(a)のように、超電導バルク体1の一つの表面全面に形成しても良いし、また、(b)のように、超電導バルク体1の一つの表面の一部に形成しても良い。あるいは、(c)のように、超電導バルク体1の2つの表面形成しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流リードや限流器、永久電流スイッチ等の通電素子やアンテナ、フィルタ等の通信素子、磁気シールド装置等に用いられる超電導バルク体に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導体は、超電導状態では電気抵抗がほぼゼロであるために、電流リードや限流器、永久電流スイッチ等の通電素子、アンテナやフィルタ等の通信素子のジュール発熱や損失を大幅に低減できる材料として期待されている。特に、臨界温度の高い酸化物超電導体は、冷却に必要なコストが小さく、実用化の期待が大きい。
【0003】
超電導体の利用形態の1つに「膜」がある。超電導膜は、一般には、厚さがサブミクロンから数μm程度と薄く、チタン酸ストロンチウムやマグネシア、サファイア等の基板の上に作製される。酸化物超電導膜の臨界電流密度は、77Kで100万A/cm程度と高く、膜厚が厚くなると低下する傾向にある。
【0004】
一方、超電導体の別の利用形態に「バルク体」がある。液体He温度(4K)付近の極低温領域では比熱が非常に小さく、バルク体のような形態は熱的安定性が低いため、従来あまり注目されていなかったが、臨界温度の高い酸化物超電導体の発見以来、バルク体応用開発も期待され始めた。
【0005】
超電導バルク体は、一般には、数mmから数cm程度の大きさであり、酸化物の一般的な製法である焼結法や一度半溶融状態にした後に単結晶状に結晶成長させる溶融法で作製される。
【0006】
特許文献1に開示されているように、焼結法で作製された酸化物超電導バルク体の臨界電流密度は77Kで数百A/cm程度と低いが、溶融法で作製された単結晶状の酸化物超電導バルク体の臨界電流密度は77Kで数万A/cm程度と比較的高い。
【0007】
【特許文献1】特開平2−153803号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
超電導体を通電素子や通信素子に利用する場合、超電導膜は臨界電流密度が非常に高いので、高性能な通電素子や通信素子の作製が可能である。
【0009】
しかしながら、臨界電流密度が高くても膜厚が薄いために、超電導膜に実質的に抵抗ゼロで流せる電流値は小さく、その電流値を越えると超電導状態が破れ、逆にジュール発熱や損失が大きくなり、使用できなくなると言う問題があった。
【0010】
さらに、超電導膜の臨界電流密度は膜厚が厚くなると小さくなる傾向があるので、膜厚を厚くしても、超電導膜に実質的に抵抗ゼロで流せる電流値はそれほど大きくならなかった。そのため、超電導膜の用途が小電流や小電力に限定されていた。
【0011】
一方、従来の超電導バルク体は、大電流や大電力でも使用可能であるが、臨界電流密度が超電導膜よりも低いので、小電流や小電力領域では、超電導膜を利用した通電素子や通信素子に比べて、高性能化することが難しかった。
【0012】
そこで、本発明は、上記の問題を解決し、小電流・小電力領域でも高性能で、大電流・大電力領域でも特性低下の小さい超電導バルク体及びこれを用いた超電導装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による超電導バルク体の要旨は、以下のとおりである。
【0014】
(1) 超電導バルク体において、該超電導バルク体の少なくとも表面の一部の領域における臨界電流密度が、該超電導バルク体内部の臨界電流密度よりも大きいことを特徴とする超電導バルク体。
【0015】
(2) 前記超電導バルク体が酸化物超電導バルク体である(1)に記載の超電導バルク体。
【0016】
(3) 前記酸化物超電導バルク体が、単結晶状のREBaCu相(REはY又は希土類元素から選ばれた少なくとも1つの元素、6.5≦x≦7)中に、REBaCuO相あるいはBa(Ce1−a)O相(MはZr、Hf、Sn等の金属元素、0<a<0.5、0≦b<0.5)が微細分散した酸化物超電導体である(1)又は(2)に記載の超電導バルク体。
【0017】
(4) 前記酸化物超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域における前記REBaCuO相あるいはBa(Ce1−a)O相の大きさが、前記酸化物超電導バルク体内部のREBaCuO相あるいはBa(Ce1−a)O相の大きさよりも小さい(3)に記載の超電導バルク体。
【0018】
(5) 前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域の厚さが、10μm以下である(1)〜(4)のいずれかに記載の超電導バルク体。
【0019】
(6) 前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域の臨界電流密度が、10万A/cm以上である(1)〜(5)のいずれかに記載の超電導バルク体。
【0020】
(7) 前記超電導バルク体と、前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域との間に中間層を有する(1)〜(6)のいずれかに記載の超電導バルク体。
【0021】
(8) 前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域と前記中間層が多層化している(1)〜(7)のいずれかに記載の超電導バルク体。
【0022】
(9) 前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域の上に保護層を有する(1)〜(8)のいずれかに記載の超電導バルク体。
【0023】
(10) 超電導バルク体の少なくとも表面の一部に真空蒸着やスパッタリング等の成膜プロセスを施すことにより、該超電導バルク体表面上に表面膜を形成してなることを特徴とする超電導バルク体。
【0024】
(11) 前記表面膜が超電導膜である(10)に記載の超電導バルク体。
【0025】
(12) 前記超電導バルク体と、前記超電導膜との間に中間層を有する(11)に記載の超電導バルク体。
【0026】
(13) 前記超電導膜と前記中間層が多層化している(11)に記載の超電導バルク体。
【0027】
(14) 超電導バルク体の少なくとも表面の一部にレーザ照射等による加熱・溶融後に再結晶成長させるプロセスを施すことにより、該超電導バルク材の表面超電導特性を改善してなることを特徴とする超電導バルク体。
【0028】
(15) 超電導バルク体の少なくとも表面の一部にイオン注入プロセスを施すことにより、該超電導バルク材の表面超電導特性を改善してなることを特徴とする超電導バルク体。
【0029】
(16) 前記超電導バルク体の表面に保護層を有する(9)〜(15)のいずれかに記載の超電導バルク体。
【0030】
また、本発明による超電導バルク体を用いた超電導装置の要旨は、以下のとおりである。
【0031】
(17) (1)〜(16)のいずれかに記載の超電導バルク体を用いた超電導装置。
【発明の効果】
【0032】
本発明の超電導バルク体によれば、小電流・小電力領域でも高性能で、大電流・大電力領域でも特性低下の小さい超電導バルク体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下に、本発明の実施の形態について、図に沿って説明する。図1は、本発明における超電導バルク体の実施例を示す斜視図である。図1では、超電導バルク体1の表面の一部に超電導バルク体内部よりも臨界電流密度の高い超電導領域(ここでは、「表面超電導領域2」と呼ぶことにする)が設けられている。
【0034】
表面超電導領域2は、図1(a)のように、超電導バルク体1の1つの表面全面に形成してもよいし、また、図1(b)のように、超電導バルク体1の1つの表面の一部に形成してもよい。あるいは、図1(c)のように、超電導バルク体1の2つ以上の表面に形成してもよい。また、図示していないが、超電導バルク体1の全表面に表面超電導領域を形成してもよい。
【0035】
超電導バルク体の材料としては、特に制約がある訳ではないが、バルク体と言う材料形態でも熱的に安定である、高い臨界温度を有する超電導材料が好ましい。例えば、臨界温度が液体窒素温度(77K)より高い超電導材料としては、RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導材料や、Bi系酸化物超電導材料がある。その中でも、溶融法で作製したRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体は、臨界電流密度が77Kで数万A/cmと高く、より好ましい。
【0036】
図1の超電導バルク体1の表面超電導領域における臨界電流密度は、超電導バルク体内部の臨界電流密度より大きくしなければならず、超電導バルク体を溶融法で作製したRE−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体とすると、表面超電導領域2の臨界電流密度は、77Kで10万A/cm以上のものが好ましい。
【0037】
また、表面超電導領域2の厚さを厚くすることは、表面超電導領域を形成するための時間が非常にかかるため、現実的ではない。表面超電導領域の臨界電流密度は非常に高いので、膜厚が10μm以下でも十分効果は見られる。
【0038】
また、超電導バルク体本体と表面超電導領域とは、同じ材料・成分系であってもよいし、異なる材料・成分系であってもよい。
【0039】
また、超電導バルク体の表面性状は、一般には、数μm〜数十μm程度の表面凹凸を有しているので、成膜前には超電導バルク体表面を鏡面研磨し、表面凹凸を1μm以下にすることが好ましく、さらには0.1μm以下にすることがより好ましい。
【0040】
図1のように、表面の一部に臨界電流密度を有する超電導バルク体1では、小電流・小電力に対しては、表面の臨界電流密度が高い領域に超電導電流が流れるので、従来の超電導バルク体に比べて高性能である。
【0041】
表面超電導領域の臨界電流を越える大電流・大電力に対しては、超電導電流は超電導バルク体部分にも流れるため、超電導状態が破れクエンチすることがなく、性能を大きく低下させることなくそのまま使用可能である。
【0042】
次に、本発明における超電導バルク体の作製方法のについて説明する。
【0043】
RE−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体を作製する溶融法では、一般的には、原料粉末であるRE、BaO、CuOを所定の量を秤量し、微量のPt、Rh又はCe粉末を加え、十分に混練し、仮焼したものを成形し、その成形体を半溶融状態になる温度以上に加熱した後、徐冷させながら結晶成長させる。
【0044】
試料全体を単結晶状にするために、種結晶を用いる。このような溶融法で作製した試料は、単結晶状のREBaCu相中にREBaCuO相が微細分散した微細組織を有しており、REBaCuO相のサイズは1〜2μm程度である。
【0045】
本発明の作製方法の一例では、一般的な溶融法作製プロセスにおける成形体に改良を施したものである。
【0046】
成形体の表面に、事前にボールミル等で0.1μm程度に細かく砕いたREBaCuO相の粉末を薄く敷き、再度、静水圧によって成形体と一体化させた新しい成形体を用いる。この新しい成形体を用いることにより、最終的な超電導バルク体の表面層におけるREBaCuO相の大きさが0.1μm程度と微細化し、超電導バルク体内部の臨界電流密度よりも大きくすることができる。
【0047】
REBaCuO相のサイズを微細化することにより、超電導バルク体全体の臨界電流密度を向上させることが期待できるが、REBaCuO相のサイズを1μm以下に微細化すると、単結晶状の超電導相であるREBaCu相の結晶成長が阻害されて、実用レベルの大きさの試料を作製することができないと言う問題があった。
【0048】
本発明の超電導バルク体では、REBaCuO相を微細化する部分をバルク体表面に限定することで、この問題を解決した。
【0049】
次に、本発明における超電導バルク体の別の作製方法例について説明する。上述の作製方法の例では、超電導バルク体を作製する途中の工程を改良することで、本発明の超電導バルク体を作製したが、別の作製方法例では、一度、超電導バルク体を作製し、その後、超電導バルク体の表面の少なくとも一部に、表面超電導領域を形成するものである。
【0050】
表面超電導領域を形成する方法の例として、超電導バルク体を基板として、その上に真空蒸着やスパッタリング、レーザ蒸着、化学気相成長(CVD)、金属有機物堆積(MOD)法等の成膜プロセスを利用して、超電導膜を形成する方法である。
【0051】
高い臨界電流密度の超電導膜を作製するためには、基板となる超電導バルク材として単結晶状のものを用い、その上に超電導膜をエピタキシャル的な成長をさせることが有効である。エピタキシャル的な成長をさせるには、基板と膜の結晶格子定数が近い方が好ましい。
【0052】
超電導薄膜の形成には、一般的には、酸化マグネシウムやチタン酸ストロンチウム等の単結晶基板が用いられるが、超電導体と基板材料が違う材料系であるため格子定数も異なっているが、超電導バルク体を基板とすることで、格子定数を同じか、あるいは非常に近いものにすることができる。
【0053】
例えば、Dy−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体上にDy−Ba−Cu−O系酸化物超電導膜を形成する場合には、基板と膜の格子定数が同じになる。Dy−Ba−Cu−O系酸化物超電導バルク体上にGd−Ba−Cu−O系酸化物超電導膜を形成する場合には、REサイトの元素が異なるため極僅か格子定数が異なるが、一般的な基板材料よりも格子定数は近く、結晶構造が同じなのでエピタキシャル膜が形成し易い。
【0054】
超電導バルク体の少なくとも表面の一部に、表面超電導領域を形成する別の方法の例として、超電導バルク体の表面にレーザ照射し、表面の極薄い部分のみ加熱・溶融させ、再度結晶成長させる方法がある。表面の極薄い部分のみを溶融させるので、再結晶成長の再には、その下の溶融していない超電導バルク体の結晶構造を引き継いでエピタキシャル的に結晶成長される。
【0055】
このように再結晶成長した部分は、超電導バルク体の上に形成された超電導膜のように、良質な結晶構造を有し、高い臨界電流密度を有する。
【0056】
また、超電導バルク体の表面の極薄い部分にイオンを注入する方法によっても、本発明の超電導バルク体を形成することができる。
【0057】
超電導バルク体の表面の極薄い部分にイオン注入することで、超電導バルク体の表面にピン止め点となる欠陥を生じさせたり、超電導バルク体の表面の極薄い部分の電子密度やホール密度を変化させることができ、その結果、その部分の臨界電流密度が改善する。
【0058】
どちらの作製方法においても、表面超電導領域形成の前と後に超電導バルク体の表面を鏡面研磨することにより、表面超電導領域の境界が明確になり、特性の優れた超電導バルク体を得ることができる。
【0059】
図2は、本発明における超電導バルク体の別の実施例を示す構造断面図である。図2(a)では、超電導バルク体1の表面に、直接、表面超電導領域2を形成しているが、図2(b)は、超電導バルク体1と、超電導バルク体1の表面に形成された表面超電導領域2の間に中間層3がある例である。
【0060】
中間層3には、中間層3を形成することで超電導バルク体1の表面の平滑性を改善でき、その結果、超電導バルク体1の表面上に、表面超電導領域2を形成するプロセスを容易にすると言う機能がある。
【0061】
基板となる超電導バルク体と、その上に形成された表面超電導領域とを電気的に接続したい通電用途や、あるいは磁気シールド用途には、中間層としてAg、Ag合金等の電気抵抗率が10−5Ωcm以下の電気良導体が好ましい。
【0062】
磁気シールド用途では、電気良導体の中間層は交流磁場を遮蔽する効果を有する。逆に、基板となる超電導バルク体と、その上に形成された表面超電導領域とを電気的に絶縁したいような用途、例えば、高周波デバイス応用な用途においては、中間層を設けることにより、両者を電気的に絶縁することができる。
【0063】
このように、中間層に電気的絶縁機能を付与するためには、中間層として、CeO、MgO、SrTiO等の電気抵抗率が10Ωcm以上の電気絶縁体が好ましい。
【0064】
RE元素をPrとしたPr−Ba−Cu−O系材料は、超電導性を示すRE−Ba−Cu−O系材料と同じ結晶構造であるが、超電導性を示さない非超電導材料なので、絶縁的な中間層として用いることができる。
【0065】
さらに、中間層と表面超電導領域を多層化することで、磁気シールド用途や高周波用途での性能を向上させることができる。多層化する場合、中間層や表面超電導領域の各層の厚さや材質は必ずしも同じでなくてよく、用途や機能により適宜設計すればよい。
【0066】
図2(c)は、超電導バルク体1の表面に形成された表面超電導領域2の上に、保護層4がある例である。
【0067】
超電導バルク体の表面に形成された表面超電導領域は超電導特性が非常に高く、それ故、本発明の超電導バルク体が高性能を発揮するのであるが、その表面超電導領域の厚さは薄く、外的な機械的衝撃に対して損傷し易く、表面超電導領域を保護するための保護層を設けた方が好ましい。
【0068】
また、保護層には、空気中の水分と反応して、表面超電導領域の超電導特性が劣化することを防ぐ効果もある。
【0069】
図2(c)では、保護層4は表面超電導領域2の上に形成されているが、超電導バルク体の表面に形成してもよい。保護膜としては、用途や機能に応じて、CeO、MgO、SrTiO、エポキシ系樹脂等の電気絶縁体や、AgやAg合金等の電気良導体を用いればよい。
【0070】
表面超電導領域との間に中間層を有する超電導バルク体の中間層は、中間層がPr−Ba−Cu−O系材料の場合には、超電導バルク体を作製するプロセスの工程の一部を改良することで作製することができる。即ち、超電導バルク体の結晶成長前の成形体を作製する際に、中間層を形成したい位置にPr−Ba−Cu−O系材料を挿入すればよい。
【0071】
それ以外の材料にて中間層を作製する場合には、超電導バルク体を基板として、その上に、真空蒸着、スパッタリング、レーザ蒸着、MOD法等の成膜プロセスを用いて、中間層を形成することができる。
【0072】
中間層を設けた後に、その上に再度成膜プロセスを用いて、表面超電導領域を形成することで、表面超電導領域との間に中間層を有する超電導バルク体を作製することができる。中間層と表面超電導領域を多層化する場合には、上述した成膜プロセスを繰返し実施すればよい。保護層も同じく成膜プロセスを用いて形成することができる。
【0073】
図3は、本発明における超電導バルク体の別の実施例を示す構造断面図である。図2(a)では、超電導バルク体1の表面に超電導膜を形成し、超電導膜を臨界電流密度が高い表面超電導領域2としたが、超電導バルク体1の表面に形成する膜が超電導膜でなくても、表面超電導領域の形成は可能である。
【0074】
図3では、超電導バルク体1の表面に超電導以外の表面膜5が形成されている。超電導バルク体の表面膜をエピタキシャル的に結晶成長させると、超電導バルク体の表面膜付近の結晶格子が極僅か歪み、その領域の臨界電流密度が超電導バルク体内部の臨界電流密度よりも大きくなる。即ち、超電導バルク体に臨界電流密度が高い表面超電導領域が形成される。
【0075】
表面膜の材質としては、エピタキシャル成長し易いCeO、MgO、SrTiO等が好ましい。この表面膜は、上述した保護膜のように、超電導バルク体や表面超電導領域の機械的外力の保護膜や水分等による劣化の防止膜としても作用する。
【0076】
また、本発明の超電導バルク体によれば、小電流・小電力領域でも高性能で、大電流・大電力領域でも特性低下の小さい超電導バルク体を提供できる。したがって、本発明の超電導バルク体を用いれば、小電流・小電力領域でも高性能で、大電流・大電力領域でも特性低下の小さい超電導装置を製作することが可能となる。
【0077】
超電導装置としては、電流リードや限流器、永久電流スイッチ等の通電素子やアンテナ、フィルタ等の通信素子、磁気シールド装置等がある。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
本発明の効果を調べるために、図4に示したような試料を作製し、液体窒素中のI−V特性を測定し、臨界電流を比較した。
【0079】
図4(a)は、溶融法で作製したGd−Ba−Cu−O系バルク体を厚さ1mmに加工し、表面を表面粗度が最大高さ粗さで0.5μmに鏡面研磨した後に、厚さ1μmのGd−Ba−Cu−O系超電導膜を金属有機物堆積法で成膜したものである(試料A)。
【0080】
図4(b)は、厚さ1mmのチタン酸ストロンチウムの基板上に、厚さ1μmのGd−Ba−Cu−O系超電導膜を金属有機物堆積法で成膜したものである(試料B)。図4(c)は、溶融法で作製したGd−Ba−Cu−O系バルク体を厚さ1mmに加工したものである(試料C)。
【0081】
図5に、図4の各試料を幅5mmの通電試験片にしたものを用いて、液体窒素中でI−V特性を測定した結果を示す。図5では、試料A、B、Cの臨界電流はそれぞれ600A、100A、500Aであった。臨界電流の結果から、本実験で用いた超電導バルク体の臨界電流密度は10,000A/cm程度、超電導膜の臨界電流密度は2,000,000A/cm程度と見積もれる。
【0082】
本実験により、本発明の超電導バルク体(試料A)は、外見上の寸法がほとんど変わらないのに、臨界電流が大幅に改善することが確認できた。
【0083】
(実施例2)
本発明の別の効果を調べるために、77Kでのマイクロ波表面抵抗の電力依存性を評価した。用いた試料は、図4中に図示していない中間層の有無を除くと、図4と同じ構造の3種類のものに対して比較した。
【0084】
即ち、溶融法で作製したDy−Ba−Cu−O系バルク体を厚さ1mmに加工し、表面を表面粗度が最大高さ粗さで0.05μmに鏡面研磨した後に、厚さ0.1μmのCeO中間層と厚さ1μmのDy−Ba−Cu−O系超電導膜をスパッタリング法で成膜したもの(試料D)、厚さ1mmのサファイアの基板上に、厚さ0.1μmのCeO中間層と厚さ1μmのDy−Ba−Cu−O系超電導膜をスパッタリング法で成膜したもの(試料E)、溶融法で作製したDy−Ba−Cu−O系バルク体を厚さ1mmに加工したもの(試料F)の3種類について比較した。
【0085】
図6に、各試料に対して10GHzのマイクロ波について表面抵抗を測定した結果を示す。図6では、試料Eは、小電力領域では表面抵抗は小さいものの、電力が大きくなると表面抵抗も急激に増加し、また、試料Fは、表面抵抗が増加し始める電力値は大きいものの、表面抵抗がやや大きかった。
【0086】
一方、本発明である試料Dは、小電力領域で表面抵抗が小さく、大電力領域まで表面抵抗がほぼ一定であった。本実験により、本発明の超電導バルク体は、小電力領域では高性能で、大電力領域でも特性低下が小さいことが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
前述したように、本発明の超電導バルク体によれば、小電流・小電力領域でも高性能で、大電流・大電力領域でも特性低下の小さい超電導バルク体を提供できるので、工業上顕著な効果を奏することができる。
【0088】
さらに、本発明の超電導バルク体を用いた超電導装置によれば、小電流・小電力領域でも高性能で、大電流・大電力領域でも特性低下の小さい超電導装置を提供できるので、工業上顕著な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の超電導バルク体の一実施例を示す斜視図である。
【図2】本発明の超電導バルク体の別の実施例を示す構造断面図である。
【図3】本発明の超電導バルク体の別の実施例を示す構造断面図である。
【図4】本発明の効果を調べるために作製した試料の斜視図である。
【図5】液体窒素中のI−V特性測定結果例を示す図である。
【図6】マイクロ波表面抵抗と電力の関係の測定結果例を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
1 超電導バルク体
2 表面超電導領域
3 中間層
4 保護層
5 表面膜
6 基板(SrTiO、MgO)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導バルク体において、該超電導バルク体の少なくとも表面の一部の領域における臨界電流密度が、該超電導バルク体内部の臨界電流密度よりも大きいことを特徴とする超電導バルク体。
【請求項2】
前記超電導バルク体が酸化物超電導バルク体である請求項1に記載の超電導バルク体。
【請求項3】
前記酸化物超電導バルク体が、単結晶状のREBaCu相(REはY又は希土類元素から選ばれた少なくとも1つの元素、6.0≦x≦7)中に、REBaCuO相あるいはBa(Ce1−a)O相(MはZr、Hf、Sn等の金属元素、0<a<0.5、0≦b<0.5)が微細分散した酸化物超電導体である請求項1又は2に記載の超電導バルク体。
【請求項4】
前記酸化物超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域における前記REBaCuO相あるいはBa(Ce1−a)O相の大きさが、前記酸化物超電導バルク体内部のREBaCuO相あるいはBa(Ce1−a)O相の大きさよりも小さい請求項3に記載の超電導バルク体。
【請求項5】
前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域の厚さが、10μm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導バルク体。
【請求項6】
前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域の臨界電流密度が、10万A/cm以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導バルク体。
【請求項7】
前記超電導バルク体と、前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域との間に中間層を有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の超電導バルク体。
【請求項8】
前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域と前記中間層が多層化している請求項1〜7のいずれか1項に記載の超電導バルク体。
【請求項9】
前記超電導バルク体の少なくとも表面の一部に形成された臨界電流密度が大きい領域の上に保護層を有する請求項1〜8のいずれか1項に記載の超電導バルク体。
【請求項10】
超電導バルク体の少なくとも表面の一部に真空蒸着やスパッタリング等の成膜プロセスを施すことにより、該超電導バルク体表面上に表面膜を形成してなることを特徴とする超電導バルク体。
【請求項11】
前記表面膜が超電導膜である請求項10に記載の超電導バルク体。
【請求項12】
前記超電導バルク体と、前記超電導膜との間に中間層を有する請求項11に記載の超電導バルク体。
【請求項13】
前記超電導膜と前記中間層が多層化している請求項12に記載の超電導バルク体。
【請求項14】
超電導バルク体の少なくとも表面の一部にレーザ照射等による加熱・溶融後に再結晶成長させるプロセスを施すことにより、該超電導バルク材の表面超電導特性を改善してなることを特徴とする超電導バルク体。
【請求項15】
超電導バルク体の少なくとも表面の一部にイオン注入プロセスを施すことにより、該超電導バルク材の表面超電導特性を改善してなることを特徴とする超電導バルク体。
【請求項16】
前記超電導バルク体の表面に保護層を有する請求項9〜15のいずれか1項に記載の超電導バルク体。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の超電導バルク体を用いた超電導装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−137619(P2006−137619A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326248(P2004−326248)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】