説明

超電導体への最適化された着磁方法

【課題】 短時間で強度の強い捕捉磁場を着磁させることができる超電導体への最適化された着磁方法を提供する。
【解決手段】 超電導転移温度以下に冷却されたバルク超電導体近傍に着磁コイルを保持し、前記着磁コイルが発生するパルス磁場により前記バルク超電導体を着磁させる着磁方法において、前記パルス磁場の磁場波形は、時間に対する磁場強度の増加の比率が小さくなるように制御された増磁段階と、バルク超電導体に磁束線を侵入させることができる高磁場領域に所定時間保持された着磁段階と、 時間に対する磁場強度の減少の比率が小さくなるように制御された減磁段階と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導体への着磁方法に関する。
【0002】
特に、本発明は、短時間でバルク形状の高温超電導体に高い磁場を捕捉させる「超電導体への最適化された着磁方法」に関する。
【背景技術】
【0003】
バルク形状の高温超電導体(バルク超電導体)は、超電導材料中にピン止め効果を示す非超電導相を分散して溶融成長させた高温超電導体の固まりである。
【0004】
近年は、高温超電導材料の開発により、バルク超電導体は大きな磁場(強度の強い磁場)を捕捉することができるようになり、着磁させたのちに磁石として用いて高性能のモーターや発電機等に有効に利用できるようになってきている。
【0005】
上記バルク超電導体の着磁方法は、大別して静磁場着磁法とパルス着磁法がある。
【0006】
静磁場着磁法は、着磁対象のバルク超電導体を超電導転移温度以下に冷却した後に、大きな静的磁場を印加して着磁させ、バルク超電導体内に十分に磁束線が侵入した状態で冷却し、磁束線がバルク超電導体内にピン止めされる方法である。
【0007】
静磁場着磁法によれば、77ケルビンにおいて磁束密度4テスラを超える磁界をバルク超電導体に着磁させることができ、強い磁界を得ることができる。
【0008】
しかし、静磁場着磁法を行う着磁装置は小型化に限界がある。そのため、静磁場着磁法は、バルク超電導体を組み込んだ機器において該バルク超電導体を着磁させるには不利であった。
【0009】
これに対して、パルス着磁法は、図8に示すように、バルク超電導体の側面にコイルを配置し、該コイルにパルス電流を流してパルス着磁させるものである。
【0010】
パルス着磁法を行う装置は静磁場着磁法の装置より一般に小型化が容易であり、バルク超電導体を組み込んだ機器でバルク超電導体を着磁させるのに適している。
【0011】
パルス着磁法について、従来から、効率よく着磁させるための方法が種々提案されている。
【0012】
特開平10−154620号公報には、1回のパルス磁場を印加するよりも、複数回のパルス磁場を印加するパルス着磁法が記載されている。さらに、該パルス着磁法は、複数回のパルス磁場のうち、最大のパルス磁場を印加した後に、その最大パルス磁場以下のパルス磁場を1回以上印加するようにしている。
【0013】
この方法は、1回のパルス磁場の印加でバルク超電導体内に所定量の磁束線が捕捉され、再度パルス磁場を印加するとすでに捕捉されている磁束線に加えてさらに所定量の磁束線が捕捉され、全体としてバルク超電導体に捕捉される磁束線が増大することを利用したものである。
【0014】
特開平10−154620号公報によれば、一回のパルス磁場を印加する場合に比して複数回のパルス磁場を印加する場合は、同等の印加磁場によってより強度が大きい捕捉磁場を得られるという。
【0015】
特開2001−110637号公報には、特開平10−154620号公報に記載された複数回のパルス磁場より強度が弱いパルス磁場で着磁させるパルス着磁法が記載されている。
【0016】
特開2001−110637号公報に記載されたパルス着磁法は、相対的に臨界電流密度が異なる複数の部分を有するバルク超電導体に対して初期パルス磁場と中期パルス磁場と後期パルス磁場とからなる3回のパルス磁場を印加するものである。
【0017】
初期パルス磁場と中期パルス磁場と後期パルス磁場は、同一の波形で異なる振幅のパルス電流を使用する。
【0018】
初期パルス磁場は、磁束線がバルク超電導体の外縁部の臨界電流密度が低い部分から侵入してから、侵入磁束線がバルク超電導体の中心部に到達するまでの間は、印加磁場が着磁可能な高磁場領域にあるように、パルス電流の振幅を選択した磁場である。
【0019】
中期パルス磁場は、前記初期パルス磁場の後に印加される、初期パルス磁場より強度が強い磁場である。
【0020】
後期パルス磁場は、前記中期パルス磁場の後に印加される、中期パルス磁場より強度が弱い磁場である。
【0021】
特開2001−110637号公報に記載されたパルス着磁法は、初期パルス磁場により、強度が弱い印加磁場によって超電導体の外縁部の臨界電流密度が低い部分、つまり超電導特性が低い部分から磁束線を侵入させ、バルク超電導体の中心部に磁束線を到達させ、バルク超電導体中心部に磁束線を保持させ、次に中期パルス磁場を印加し、バルク超電導体の外縁部全体に磁束線を侵入させ、最後に後期パルス磁場を印加し、バルク超電導体全体の捕捉磁束線を増大させるものである。
【0022】
初期パルス磁場によりバルク超電導体の中心部は捕捉磁場を有し、その後にかなり強度が強い中期パルス磁場を印加しても、磁束線はバルク超電導体中心部には入らずにバルク超電導体の外縁部全体に侵入する。後期パルス磁場は、強度が小さい磁場を用いるため、バルク超電導体の温度上昇が少なく、侵入した磁束線が有効に捕捉されるようになり、バルク超電導体の中心部から外縁部に向けてさらに着磁され、捕捉磁場を増やすことができる。
【特許文献1】特開平10−154620号公報
【特許文献2】特開2001−110637号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかし、上記特開平10−154620号公報および特開2001−110637号公報に記載された着磁方法は、複数回の着磁の間に、バルク超電導体を冷却する長い時間が必要であった。
【0024】
特開平10−154620号公報に記載された着磁方法は、各着磁している間の時間自体はきわめて短いが(0.05秒程度)、一回の着磁によってバルク超電導体が発熱し、次の着磁までの間に長い時間(約30分程度)冷却しなければならない。
【0025】
そのため、着磁が完了するまでに1時間以上かかることになる。
【0026】
特開2001−110637号公報に記載された着磁方法においても、初期パルス磁場と中期パルス磁場の間、および、中期パルス磁場と後期パルス磁場の間に長い冷却時間が必要となって、全体として着磁する時間が長くなっていた(やはり1時間以上)。
【0027】
着磁する時間が長くなれば、実用上適用できる装置が限られるようになり、そのため、短い時間で強い磁場を捕捉させることができる着磁方法の開発が待たれていた。
【0028】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、短時間で強度の強い捕捉磁場を着磁させることができる超電導体への最適化された着磁方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
本発明に係る超電導体への最適化された着磁方法は、
超電導転移温度以下に冷却されたバルク超電導体近傍に着磁コイルを保持し、前記着磁コイルが発生するパルス磁場により前記バルク超電導体を着磁させる着磁方法において、
前記パルス磁場の磁場波形は、
時間に対する磁場強度の増加の比率が小さくなるように制御された増磁段階と、
バルク超電導体に磁束線を侵入させることができる高磁場領域に所定時間保持された着磁段階と、
時間に対する磁場強度の減少の比率が小さくなるように制御された減磁段階と、
を有することを特徴とするものである。
【0030】
また、本発明に係る超電導体への最適化された着磁方法は、
超電導転移温度以下に冷却されたバルク超電導体近傍に着磁コイルを保持し、前記着磁コイルが発生するパルス磁場により前記バルク超電導体を着磁させる着磁方法において、
前記パルス磁場の磁場波形は、
時間に対する磁場強度の増加の比率が大きくなるように制御された増磁段階と、
バルク超電導体に磁束線を侵入させることができる高磁場領域に所定時間保持された着磁段階と、
時間に対する磁場強度の減少の比率が小さくなるように制御された減磁段階と、
を有することを特徴とするものである。
【0031】
少なくとも前記着磁段階の磁場波形はパルス状の小波形を有するようにすることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、バルク超電導体を着磁させるためのパルス磁場の磁場波形は、時間に対する磁場強度の増加の比率が小さくなるように制御された増磁段階と、バルク超電導体に磁束線を侵入させることができる高磁場領域に所定時間保持された着磁段階と、 時間に対する磁場強度の減少の比率が小さくなるように制御された減磁段階と、を有している。
【0033】
本発明は、増磁段階と減磁段階等の磁束線が動く段階で、時間に対する磁場強度の増減の比率を小さくなるように制御している。すなわち、時間に対する磁場強度の増減を緩やかになるように制御している。
【0034】
これにより、バルク超電導体に侵入するときあるいは減磁段階で抜けていくときの磁束線の時間あたりの増減が少なくなる。このため、バルク超電導体内における磁束線の移動が少なくなり、バルク超電導体の発熱を抑えることができる。バルク超電導体の発熱を抑えることができれば、ピン止め効果が高くなり、また、減磁段階での磁束線の抜けが少なくなって着磁しやすくなる。
【0035】
また、本発明は、着磁段階において、バルク超電導体に磁束線を侵入させることができる高磁場領域にバルク超電導体を所定時間保持する。
【0036】
ここで、所定時間とは、バルク超電導体内に侵入した磁束線が十分にバルク超電導体内で散開してそれぞれ不純物や結晶の欠陥部でピン止めされるまでの時間をいう。
【0037】
着磁は、最初にバルク超電導体の超電導特性が低いところから磁束線が侵入し、いったん磁束線が侵入した部分は、温度が上がってさらに超電導特性が低くなり、そこを通してさらに磁束線が侵入する(フラックス・ジャンプという)。バルク超電導体の内部に侵入した磁束線は、バルク超電導体の内部を移動し、超電導体の結晶の欠陥部や意図的に混入させた不純物のところでピン止めされる。
【0038】
前記特開平10−154620号公報および特開2001−110637号公報に記載された着磁方法のように、着磁段階の時間がきわめて短いと、バルク超電導体の内部に侵入した磁束線が十分に散開してピン止めされる前に減磁段階に入ってしまい、減磁段階で捕捉磁束線が抜けることになる。
【0039】
特開2001−110637号公報には、初期パルス磁場として最適印加磁場を選ぶのが好ましいことが記載されているが、最適印加磁場とは、磁束線がバルク超電導体の外縁部から侵入して中心部に到達するときに減磁に転じるように振幅が選択された磁場である。
【0040】
最適印加磁場は、やはり侵入磁束線がバルク超電導体の外縁部から侵入して中心部に到達するときには減磁に転じるので、きわめて短い時間で磁束線がバルク超電導体内に侵入し消失する。
【0041】
要するに、従来の着磁方法は、一回の着磁において急速に磁束線がバルク超電導体に侵入し、十分にピン止めされる前に減磁段階に入って磁束線が失われ、かつ、このような激しい磁束線の出入りによって発熱し、このために次の着磁をするために長い時間をかけて冷却していたのである。
【0042】
これに対して、本発明による着磁方法は、着磁段階で高磁場領域にバルク超電導体を所定時間保持するようにすることにより、その間にバルク超電導体に侵入した磁束線が、互いに反発力を受けながらバルク超電導体の内部で移動し、超電導体の結晶の欠陥部や不純物のところでピン止めされる。
【0043】
前記増磁段階と減磁段階の緩やかな磁場の変化とあいまって、本発明によれば、一回の着磁段階で十分に強い強度の捕捉磁場を得ることができる。
【0044】
また、一回の着磁によって十分に強い強度の捕捉磁場を得ることができるので、長い冷却のための時間が必要なくなり、きわめて効率がよい着磁を行うことができる。
【0045】
ところで、超電導体の着磁は、メカニズムが不明なところが多く、着磁コイルの形状とインダクタンス超電導体の組成によって増磁段階を急激に行った方が高い着磁効率を得られることがあることも事実である。
【0046】
そのような場合には、時間に対する磁場強度の増加の比率が大きくなるように制御された増磁段階を有する磁場波形で着磁させることにより、全体として高い着磁効率を得ることができる。なお、この場合の着磁段階や減磁段階については前述したことと同様である。
【0047】
着磁段階にパルス状の小波形を有するようにした場合、小波形の山の部分では磁束線を侵入させ、谷の部分では磁束線の運動を沈静化させることができる。
【0048】
すなわち、山の部分では一時的に磁場の強度がきわめて強くなって超電導特性が高い部分に対しても磁束線を侵入させ、谷の部分では侵入した磁束線が反発力によって散開してピン止めされることを繰り返すことができる。
【0049】
これにより、さらに着磁効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下に本発明の実施の形態について説明する。
【0051】
図1は本発明の着磁方法を行う着磁装置の一実施形態の回路構成を示している。
【0052】
本施形態による着磁装置1は、充電回路2と、パルス波形整形回路3(PFN回路3)と、パルス波形制御用スイッチ回路4と、着磁コイル5と、パルス波形整形回路3またはパルス波形制御用スイッチ回路4と着磁コイル5の間に配置された第1半導体6と、着磁コイル5と並列に接続された第2半導体7とを有している。
【0053】
符号8は着磁対象のバルク超電導体を示している。
【0054】
なお、本発明が対象とするバルク超電導体8は、高温超電導体のうち液体窒素で簡単に冷却できる77ケルビン付近で高い臨界電流密度を示し超電導の状態が破れないRE−Ba−Cu−O超電導体(REはLa,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Yなどの希土類元素のいずれか一種)を用いるのが好ましい。本発明においてはREがGdの場合は特に好ましい。RE−Ba−Cu−Oにおけるは、任意の正数である。
【0055】
RE−Ba−Cu−O等のバルク超電導体は、原料中にピン止め効果を示す非超電導相を分散して溶融成長させた高温超電導体の固まり(バルク)である。
【0056】
充電回路2は、電源9とスイッチ10が直列に接続されている。
【0057】
PFN回路3は、並列に接続されたn段のキャパシタ11と、キャパシタ11の間に接続されたインダクタ素子12と切り替えスイッチ13とからなる。
【0058】
パルス波形制御用スイッチ回路4は、IGBT、MOSFET、SITを含むパルス波形制御用スイッチ14と、パルス波形制御用スイッチ14に対してゲート電圧を与える高周波電源15とからなる。なお、高周波電源15は直流定電圧を発生することができる。
【0059】
着磁装置1は、PFN回路3とパルス波形制御用スイッチ回路4のいずれかを選択し、PFN回路3とパルス波形制御用スイッチ回路4のいずれか一方によってパルス磁場の磁場波形を制御することができる装置である。
【0060】
PFN回路3によってパルス磁場の磁場波形を制御する場合、切り替えスイッチ13を図1に示す位置にし、充電回路2で十分電圧が高い状態でスイッチ10をオンにする。電流はキャパシタ11とインダクタ素子12を流れ、キャパシタ11によって電荷の貯留が行われる。
【0061】
充電回路2とキャパシタ11で電圧が等しい状態で切り替えスイッチ13を図1に示す位置にし、パルス波形制御用スイッチ14をオンにする。
【0062】
電流はキャパシタ11とインダクタ素子12を流れるとともに、着磁コイル5と、キャパシタ11とインダクタ素子12から生じるインピーダンスによって制限され、その結果、充電回路2の鋭いパルス状の着磁電流が緩やかな波形の着磁電流に変換され、第1半導体6から着磁コイル5に流れ、パルス磁場をバルク超電導体8に印加する。
【0063】
これにより、PFN回路3により制御された磁場波形のパルス磁場がバルク超電導体8に印加され、バルク超電導体8が着磁する。
【0064】
第2半導体7は、高い電圧がパルス波形制御用スイッチ14に印加されないように、パルス波形制御用スイッチ14を保護する。
【0065】
PFN回路3はその段数によって着磁用磁場波形の整形効果が異なる。
【0066】
上記着磁装置1によるパルス磁場の磁場波形の制御を説明する。
【0067】
図2は、PFN回路による着磁用のパルス電流の波形を示している。
【0068】
なお、着磁用のパルス電流の波形はほぼ着磁用のパルス磁場の磁場波形ほぼ比例の関係にあるので、以下着磁用のパルス電流の波形を用いて本発明のパルス磁場の磁場波形の制御を説明する。
【0069】
図2は縦軸が電流、横軸が時間のグラフである。
【0070】
図2に示すように、着磁装置1による制御後の着磁波形(制御後着磁波形)は、制御前着の磁波形(制御前着磁波形)に比して、立ち上がり時間が長い、すなわち時間に対する磁場強度の増加の比率が小さい増磁段階と、長く高磁場領域に保持された着磁段階と、立ち下がり時間が長い、すなわち時間に対する磁場強度の減少の比率が小さい減磁段階とを有している。
【0071】
ここにいう高磁場領域とは、バルク超電導体8に磁束線を侵入させることができる領域である。高磁場領域以下の磁場の領域を低磁場領域という。
【0072】
図2から明らかなように、本実施形態では、増磁段階と減磁段階等の磁束線が動く段階で、時間に対する磁場強度の増減の比率を小さくなるように制御し、着磁段階において高磁場領域にバルク超電導体8を制御前に比して相対的に長い所定時間保持する。
【0073】
時間に対する磁場強度の増減の比率を小さくなるように制御された増磁段階と減磁段階により、バルク超電導体内における磁束線の移動も少なくなり、バルク超電導体の発熱を抑えることができる。バルク超電導体の発熱を抑えることにより、ピン止め効果が高くなり、また、減磁段階での磁束線の抜けが少なくなる。
【0074】
着磁段階においては、最初にバルク超電導体8の超電導特性が低いところから磁束線が侵入し、いったん磁束線が侵入した部分は、温度が上がってさらに超電導特性が低くなり、そこを通してさらに磁束線が侵入する(フラックス・ジャンプという)。
【0075】
本発明では、着磁段階で所定時間高磁場領域に保持されることにより、バルク超電導体の内部に侵入した磁束線は、バルク超電導体の内部を移動し、十分散開して超電導体の結晶の欠陥部や意図的に混入させた不純物のところでピン止めされ、たくさんの磁束線が捕捉される。
【0076】
本発明は着磁段階の時間が長くなるように制御されているとはいえ、増磁段階と着磁段階と減磁段階とを含めてきわめて短い時間で行われ、バルク超電導体8の温度が上昇する前に着磁を完了することができる。
【0077】
かかる短い時間の着磁にもかかわらず、上述した制御された増磁段階と着磁段階と減磁段階とを有する着磁波形により、本発明は、バルク超電導体を十分に着磁させることができる。
【0078】
本発明においても、着磁後にバルク超電導体8の温度が上昇するが、バルク超電導体8の温度が超電導転移温度より高くならなければ、着磁された磁束線が失われることがない。
【0079】
そこで、着磁に投入する全エネルギーの量を制御することにより、バルク超電導体8の温度が超電導転移温度より高くならないように制御することができる。
【0080】
上がったバルク超電導体8の温度を冷却するにしても、本発明の着磁方法は、一回のみの冷却時間で済むので、全体としてきわめて短い時間で着磁が完了できる。
【0081】
すなわち、特開平10−154620号公報および特開2001−110637号公報に記載された着磁方法は、増磁・着磁・減磁の各段階で不要に磁束線が移動することにより発熱が増大し、その発熱による温度上昇を冷却するために長時間冷却時間が必要であった。これに対して、本発明は、増磁・減磁の各段階では磁束線の急激な移動を抑え、着磁段階では侵入磁束線が十分に散開してピン止めされるまで高磁場領域を保持するので、磁束線が無駄にバルク超電導体内を移動することが少なく、高い効率でバルク超電導体を着磁させることができるのである。
【0082】
このようにして本発明の着磁方法によれば、きわめて高効率の着磁を行うことができるのである。
【0083】
次に、パルス波形制御用スイッチ回路4によって着磁波形を整形する場合について説明する。
【0084】
パルス波形制御用スイッチ回路4によって着磁波形を整形する場合は、図1において、切り替えスイッチ13を上側に切り替え、PFN回路3をバイパスするようにする。
【0085】
一方、高周波電源15でパルス波形制御用スイッチ14にゲート電圧を加え、パルス波形制御用スイッチ14をオンオフする。
【0086】
パルス波形制御用スイッチ14のオンオフにより、充電回路2から流れた着磁電流の波形にパルス波形制御用スイッチ14のオンオフの影響が現れる。
【0087】
パルス波形制御用スイッチ14のオンオフを行った着磁波形は、時間に対する磁場強度の増加の比率が小さい増磁段階と、長く高磁場領域に保持された着磁段階と、時間に対する磁場強度の減少の比率が小さい減磁段階とを有し、かつ、着磁用パルス電流の波形にパルス状の小波形が加わる。
【0088】
図3は、パルス波形制御用スイッチ回路4によって着磁波形を整形した着磁用のパルス電流の波形を示している。
【0089】
図3から明らかなように、パルス波形制御用スイッチ回路4によって整形した着磁波形は、長い高磁場領域の保持時間を有し、さらに、高磁場領域の着磁波形にパルス状の小波形が加わっている。
【0090】
パルス状の小波形が加わった場合、小波形の山の部分では磁束線を侵入させ、谷の部分では磁束線の運動を沈静化させることができる。
【0091】
すなわち、小波形の山の部分では一時的に磁場の強度がきわめて強くなって超電導特性が高い部分に対しても磁束線を侵入させ、谷の部分では侵入した磁束線が反発力によって散開してピン止めされ、磁束線の動きが沈静化される。
【0092】
このように、磁束線の侵入と沈静化を繰り返すことにより、より多くの磁束線がバルク超電導体8に捕捉される。
【0093】
図4と図5はパルス電流の着磁波形、すなわちパルス磁場の磁場波形の整形の方法を示している。
【0094】
図4は、PFN回路3によって着磁波形の整形を行う場合を示している。
【0095】
前述したように、着磁波形はPFN回路3の段数によって影響される。
【0096】
図4に示すように、段数が多いほど、低磁場領域が占める時間が短くなり、高磁場領域が占める時間が長くなる。
【0097】
一方、図5は、パルス波形制御用スイッチ回路4によって着磁波形の整形を行う場合を示している。
【0098】
パルス波形制御用スイッチ回路4によって着磁波形を整形する場合、図5に示すように、パルス波形制御用スイッチ14がオンになっている時間Tonの長さが短くなるほど制御後の着磁波形はなだらかになる。
【0099】
なお、超電導体の着磁は、超電導体の組成と、着磁コイルの形状と着磁コイルのインダクタンスによって増磁段階の立ち上がり時間を短くした方が高い着磁効率を得られることがある。
【0100】
そのような場合には、PFN回路3の段数の選択またはパルス波形制御用スイッチ回路4のTon時間の選択により増磁段階の立ち上がり時間を短くすればよい。
【0101】
図6,7は本発明による着磁効果を確かめた実施例を示している。
【0102】
図6は着磁波形(1),(2),(3)を示している。着磁波形(1)は制御前の波形を示し、着磁波形(2)は本発明による制御を行った波形を示し、着磁波形(3)は(2)より顕著に本発明による制御を行った波形を示している。
【0103】
図7は、円柱形のバルク超電導体8の着磁後の表面の捕捉磁場の強さの分布を示している。
【0104】
図7において、捕捉磁場の分布線が密なほど強い捕捉磁場が存在することを示している。
【0105】
図7から明らかなように、本発明による着磁波形の制御を行うことにより、短い時間で強度の強い捕捉磁場を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の着磁方法を行うための一実施形態による着磁装置の回路構成図。
【図2】パルス波形整形回路によって制御した着磁用パルス電流の着磁波形を示したグラフ。
【図3】パルス波形制御用スイッチ回路によって制御した着磁用パルス電流の着磁波形を示したグラフ。
【図4】パルス波形整形回路の段数を変えて制御した着磁用パルス電流の着磁波形を示したグラフ。
【図5】パルス波形制御用スイッチ回路のスイッチオン時間Tonを変えて制御した着磁用パルス電流の着磁波形を示したグラフ。
【図6】本発明の着磁方法の効果を検証するグラフ。
【図7】本発明の着磁方法の効果を検証するグラフ。
【図8】従来の着磁方法を行うための着磁装置の回路構成図。
【符号の説明】
【0107】
1 着磁装置
2 充電回路
3 パルス波形整形回路
4 パルス波形制御用スイッチ回路
5 着磁コイル
6 第1半導体
7 第2半導体
8 バルク超電導体
9 電源
10 スイッチ
11 キャパシタ
12 インダクタ素子
13 切り替えスイッチ
14 パルス波形制御用スイッチ
15 高周波電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導転移温度以下に冷却されたバルク超電導体近傍に着磁コイルを保持し、前記着磁コイルが発生するパルス磁場により前記バルク超電導体を着磁させる着磁方法において、
前記パルス磁場の磁場波形は、
時間に対する磁場強度の増加の比率が小さくなるように制御された増磁段階と、
バルク超電導体に磁束線を侵入させることができる高磁場領域に所定時間保持された着磁段階と、
時間に対する磁場強度の減少の比率が小さくなるように制御された減磁段階と、
を有することを特徴とする超電導体への最適化された着磁方法。
【請求項2】
超電導転移温度以下に冷却されたバルク超電導体近傍に着磁コイルを保持し、前記着磁コイルが発生するパルス磁場により前記バルク超電導体を着磁させる着磁方法において、
前記パルス磁場の磁場波形は、
時間に対する磁場強度の増加の比率が大きくなるように制御された増磁段階と、
バルク超電導体に磁束線を侵入させることができる高磁場領域に所定時間保持された着磁段階と、
時間に対する磁場強度の減少の比率が小さくなるように制御された減磁段階と、
を有することを特徴とする超電導体への最適化された着磁方法。
【請求項3】
少なくとも前記着磁段階の磁場波形はパルス状の小波形を有することを特徴とする請求項1または2に記載の超電導体への最適化された着磁方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−66801(P2006−66801A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−250368(P2004−250368)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(504196300)国立大学法人東京海洋大学 (83)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(503018032)北野精機株式会社 (4)