説明

超電導化合物用基板及びその製造方法

【課題】優れた密着強度を銅の高配向と同時に実現できる超電導化合物用基板およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】圧下率90%以上で加工された銅箔の表面をスパッタエッチングして表面の吸着物を除去し、非磁性の金属板をスパッタエッチングし、前記銅箔と前記金属板とを圧延ロールにより加圧して接合し、前記接合した積層体を加熱して前記銅を結晶配向させるとともに、前記銅を前記金属板に10nm以上熱拡散させ、前記積層体の銅表面上に保護層を積層することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導化合物の基板として用いられる超電導化合物用基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
優れた高温酸化物超電導化合物用の基板は、金属基板上に結晶配向性の高い中間層(CeOやジルコニア添加酸化イットリウム(YSZ))が設けられ、さらにその上に超電導化合物層(RE123膜:RE:Y、Gd、Hoなど)が形成されている。
これらの酸化物膜の成膜方法には、従来、イオン・アシスト・ビーム成膜法(IBAD法)や、予め結晶配向させた金属基板上に酸化物を成膜していくRABITS法が知られている。
【0003】
成膜速度など、将来の生産効率を考えた場合、RABITS法により製造する酸化物超電導化合物用の基板は有利であるが、この製造方法にて超電導特性を向上させるには、金属基板を高度に結晶配向させておくことが重要である。
【0004】
このような金属基板としては、ステンレス基板に銅を積層して銅を高度に結晶配向させ、その上にニッケルの中間層を積層する基板が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、このような金属基板の製造方法として、高圧下された銅を加熱処理して高度に結晶配向させ、これをステンレス基板に冷間圧延により積層し、その上にニッケル層を積層する技術が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−127847号公報
【特許文献2】特開2008−266686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法は、ステンレス基板に積層された銅の配向性が十分でなく、表面に傷や溝が生成するおそれがあるという問題がある。
また、特許文献2に記載の製造方法は、銅を結晶配向させてから冷間圧延によりステンレス基板に積層する手段を採用しており、結晶配向した銅を圧延することになるので、この圧延により銅の配向の低下や銅の表面に傷や溝ができる場合が有る。このため、その上に積層するニッケル層、超電導層等の配向が低下してしまい、超電導体の特性が低下するおそれがあるという問題がある。
また、上記特許文献1や特許文献2に記載の製造方法では、基板とその上に積層された銅との密着強度が弱く、これらの金属基板を用いた製品の信頼性に問題があった。
【0008】
本発明は、このような課題を解決し、基板に求められる優れた密着強度を銅の高配向と同時に実現できる超電導化合物用基板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の超電導化合物用基板は、
非磁性の金属板と、
その上層に設けられた銅層と、
その上層に設けられた保護層とを有する、超電導化合物用基板であって、
前記非磁性金属板に前記銅が10nm以上拡散している、
ことを特徴とする。
(2)本発明の超電導化合物用基板は、前記(1)において、前記金属板が非磁性ステンレス鋼板であることを特徴とする。
(3)本発明の超電導化合物用基板の製造方法は、
圧下率90%以上で加工された銅箔の表面をスパッタエッチングして表面の吸着物を除去する工程と、
非磁性の金属板の表面をスパッタエッチングする工程と、
前記銅箔と前記金属板とを圧延ロールにより加圧して接合し積層体を形成する工程と、
前記積層体を加熱して前記銅を結晶配向させるとともに、前記銅を前記金属板に10nm以上熱拡散させる熱処理工程と、
前記積層体の銅表面上に保護層を積層する工程と、を有することを特徴とする。
(4)本発明の超電導化合物用基板の製造方法は、前記(3)において、前記金属板が非磁性ステンレス鋼板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の超電導化合物用基板では金属板とその上に積層された銅との密着性が向上する。請求項3に記載の超電導化合物用基板の製造方法によれば、銅を金属板に積層した後に加熱処理をして銅の結晶配向を行うので、従来技術に比べて、銅を高度に配向させ、表面に傷や溝が生成するのを防止できる。
また、銅の再結晶開始温度未満の温度に保持して銅をスパッタエッチングすることで、従来技術よりも銅の圧下状態の変化を少なくして銅を基板に積層でき、その後の加熱処理により圧下された銅を配向させるときに従来技術に比べて銅を高度に配向させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明で使用される表面活性化接合装置の概略図を示す。
【図2】本発明の実施の形態1である超電導化合物用基板5の構成を示す概略断面図である。
【図3】本発明の実施の形態2である超電導化合物用基板10の構成を示す概略断面図である。
【図4】保護層コーティング前の銅/SUS316L積層体の熱処理後に銅/SUS316L界面から銅がSUS316L方向へ拡散した距離と180°ピール強度との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施の形態1の超電導化合物用基板を、600℃で1時間熱処理したときの銅/SUS316L界面のTEM像を示す。
【図6】本発明の超電導化合物用基板に超電導化合物を積層した参考形態1の超電導化合物積層板15を示す概略断面図である。
【図7】本発明の超電導化合物用基板に超電導化合物を積層した参考形態2の超電導化合物積層板20を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態の超電導化合物用基板においては、非磁性の金属板と、その上層に設けられた銅層と、その上層に設けられた保護層とを有し、前記非磁性金属板に前記銅層が10nm以上拡散している、ことを特徴とする。
このような超電導化合物用基板は、圧下率90%以上で加工された銅箔の表面をスパッタエッチングして表面の吸着物を除去する工程と、非磁性の金属板の表面をスパッタエッチングする工程と、前記銅箔と前記金属板とを圧延ロールにより加圧して接合し積層体を形成する工程と、前記積層体を加熱して前記銅を結晶配向させるとともに、前記銅を前記金属板に10nm以上熱拡散させる熱処理工程と、前記積層体の銅表面上に保護層を積層する工程と、を有して製造される。
【0013】
[実施の形態1]
図2は、本発明の実施の形態1の超電導化合物用基板5の構成を示す概略断面図である。
図2に示すように、実施の形態1の超電導化合物用基板5は、基板となる非磁性金属板T1、非磁性金属板T1の上に積層された銅層T2、銅層T2の上に設けられた保護層T3からなり、前記非磁性金属板T1に前記銅層T2が10nm以上拡散している。
10nm以上の拡散により非磁性金属板T1と銅層T2との密着強度が確保される。
【0014】
<非磁性金属板>
非磁性金属板T1は、銅層の補強板の役割のために用いられるため、非磁性金属板T1としては、超電導化合物用基板が使用される77K下で非磁性(反強磁性体または常磁性体)であり、かつ、銅層T2として用いられる銅箔より高強度のものが使用される。
また、非磁性金属板T1は、軟化した状態、いわゆる焼鈍材(O材)が好ましい。この理由は、接合相手である銅箔が高圧下率で冷間圧延を施し硬化させたものであるため、金属板の硬度が高すぎると接触面積を確保するのにより高い圧下率が必要となり、圧延後の反りが大きくなる場合がある。したがって、接合界面の接触面積を極力低圧下で確保させ、圧延後の反りを低減させるため、金属板T1は軟化した状態が好ましい。
非磁性金属板T1の具体例として、例えばSUS316Lなどのステンレス鋼板の焼鈍材などが挙げられ、その厚みは前記ステンレス鋼板であれば0.05mm以上0.2mm以下のものとすることが好ましい。0.05mm以上とする理由は非磁性金属板T1の強度の確保であり、0.2mm以下とする理由は超電導材を加工するときの加工性確保のためである。
【0015】
<銅層>
銅層T2として用いる銅箔は、圧下率90%以上で冷間圧延された銅または銅合金からなる、フルハード材を用いることが好ましい。本明細書におけるフルハード材とは、強圧下率での冷間圧延を最終工程とするものを言う。
圧下率90%以上とする理由は、圧下率90%未満の銅箔は、後に行う熱処理において銅が配向しないおそれがあるからである。
また、銅箔T2の厚みは、強度面や加工性の点から、厚み7μm以上50μm以下のものが好ましい。
【0016】
なお、銅箔の組成は、銅中に、Ag、Sn、Zn、Zr、O、Nなどの添加元素をトータルで100ppm以上、1%以下添加したものであることが好ましい。これらの元素をトータルで100ppm以上添加することにより、銅を固溶強化するとともに、結晶配向性が純銅に比べ向上し、同じ圧下率でより高い2軸配向性を得ることができる。
しかしながら、これらの添加元素のトータル添加量が1%を超えると、銅箔中に酸化物などが形成され、銅箔表面に異物ができることにより、非磁性の金属板との密着性が低下したり、保護層のエピタキシャル成長が阻害されたりするため、好ましくない。
上記添加元素の中で、結晶配向性を向上させることについてはAgの添加が特に効果があり、Ag添加量を100ppm〜300ppmとすることが好ましい。
【0017】
<保護層>
本実施形態の超電導化合物用基板上には、後の工程にてCeOやYSZなどの酸化物中間層が600℃以上の高温酸化雰囲気中で成膜される。そのため、直接銅層T2表面上に上記酸化物中間層をコーティングすることは、銅の表面酸化が起因して密着性を均一に確保することが困難となる場合がある。そのため、上記熱処理後に銅箔表面上に保護層をコーティングすることが望ましい。前記保護層は、保護層が銅箔上にエピタキシャル成長し、かつ、保護層の上に酸化物中間層がエピタキシャル成長するようなものであれば、その組成は問わないが、特にニッケル層が好ましい。
【0018】
上記ニッケル層のコーティングの方法は、上記銅箔の高度な2軸結晶配向性を引き継ぐよう、エピタキシャル成長する方法であれば何でもよいが、生産性を考慮すると、電解ニッケルめっき法が好ましい。
電解ニッケルめっき浴は、通常のワット浴、塩化物浴やスルファミン酸浴などの無光沢めっきおよび半光沢めっきであれば何れの浴を用いて実施してもよい。
【0019】
ニッケルが強磁性体であるためニッケルめっき層の厚みは極力薄いほうがよいが、後の処理において酸化物中間層を成膜する際、銅の金属拡散を防止する必要があり、1μm〜3μmとすることが好ましい。なお、本実施形態においてはニッケル層にはニッケル合金層も含まれる。
【0020】
<製造方法>
図1に示すように、非磁性の金属板L1および銅箔L2を、幅150mm〜600mmの長尺コイルとして用意し、表面活性化接合装置D1のリコイラー部S1,S2のそれぞれに設置する。リコイラー部S1,S2から搬送された非磁性の金属板L1および銅箔L2は、連続的に表面活性化処理工程へ搬送され、そこで接合する2つの面を予め活性化処理した後、冷間圧接する。
【0021】
表面活性化処理は、接合面を有する非磁性の金属板L1と銅箔L2をそれぞれアース接地した一方の電極A(S3)とし、絶縁支持された他の電極B(S4)との間に1〜50MHzの交流を印加してグロー放電を発生させ、且つグロー放電によって生じたプラズマ中に露出される電極の面積が電極Bの面積の1/3以下でスパッタエッチング処理することで行われる。不活性ガスとしては、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトンなどや、これらを少なくとも1種類含む混合気体を適用することができる。
【0022】
スパッタエッチング処理では、非磁性の金属板L1および銅箔L2の接合する面を不活性ガスによりスパッタすることにより、少なくとも表面吸着層を除去し、さらに表面酸化膜を除去してもよく、この処理により接合する面を活性化させる。このスパッタエッチング処理中は、電極A(S3)が冷却ロールの形をとっており、各搬送材料の温度上昇を防いでいる。
【0023】
その後、連続的に圧接ロール工程(S5)に搬送し、活性化された面同士を圧接する。圧接下の雰囲気は、Oガスなどが存在すると、搬送中、活性化処理された面が再酸化され密着に影響を及ぼす。上記圧接工程を通って密着させた積層体は、巻き取り工程(S6)まで搬送され、そこで巻き取られる。
【0024】
なお、上記スパッタエッチング工程において、接合面の吸着物は完全に除去するものの、表面酸化層は完全に除去する必要はない。表面全体に酸化層が残留していても、接合工程で圧下率を上げ、接合面での摩擦により素地を露出させることで、金属板と銅箔との接合性を確保することができるからである。
【0025】
また、乾式エッチングで酸化層を完全に除去しようとすると、高プラズマ出力、または長時間のエッチングが必要となり、材料の温度が上昇してしまう。特に銅箔の再結晶開始温度は150℃付近であるため、スパッタエッチング処理中において、銅箔の温度が150℃以上に上昇すると銅箔の再結晶が起こり、銅箔は接合前に結晶配向してしまうこととなる。結晶配向した銅箔を圧延すると、銅箔に歪が導入され、銅箔の2軸結晶配向性が劣化する。このような理由から、スパッタエッチング工程では、銅箔の温度を150℃未満に保持する必要がある。好ましくは、100℃以下に保持し銅箔の金属組織を圧延集合組織のまま保持する。
【0026】
また、非磁性の金属板をスパッタエッチングする処理においても、高プラズマ出力で処理したり、時間をかけ金属板温度を150℃以上にしたりすると、圧接時に銅箔との接触で銅箔温度が上昇し、圧延と同時に銅箔の再結晶が起こり、2軸結晶配向性が劣化するおそれがある。
このため、非磁性の金属板のスパッタエッチング工程においても、金属板の温度を150℃未満に保つことが望ましい。好ましくは常温〜100℃に保つのがよい。
このように非磁性の金属板および銅箔の表面を活性化処理した後、両者を真空中で圧延ロールにて接合する。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、10−5Pa以上10−2Pa以下であればよい。
【0027】
また、非磁性の金属板表面や銅箔表面への酸素の再吸着によって両者間の密着強度が低下するので、非酸化雰囲気中、例えばArなどの不活性ガス雰囲気中で前記圧延ロール接合をすることも好ましい。
【0028】
圧延ロールによる加圧は、接合界面の密着面積の確保、および圧下時の接合界面で起こる摩擦により一部表面酸化膜層を剥離させ、素地を露出させるために行い、300MPa以上加えることが好ましい。
スパッタエッチングにより吸着物を完全に除去し、300MPa以上の加圧にて圧接を行うことにより、接合の密着強度は180°ピール強度で0.1N/cm以上を得ることができる。
特に、金属板は強度補強材であり、接合する銅箔もフルハードとなっており、両材料とも硬いため600MPa以上1.5GPa以下での加圧が好ましい。
加圧はこれ以上かけてもよく、圧下率で30%までは後の熱処理後に結晶配向性が劣化しないことは確認している。
しかしながら、これ以上の加工を加えると、銅箔表面にクラックが発生するとともに、圧延、熱処理後の銅箔の結晶配向性が悪くなる。
【0029】
また、接合による密着強度は、スパッタエッチング時間が短い場合や加圧が低い場合、接合界面の密着面積や素地露出度が少ないため低くなる。しかしながら密着強度は、180°ピール強度で、板全面において0.1N/cmあれば、不具合なく研磨工程や連続熱処理工程などの別の工程を通板させることができる。
なお、上記説明のとおり、密着強度は180°ピールで0.1N/cm以上あれば、研磨工程や、熱処理の通板工程など、ハンドリングさえ注意すれば剥離などの問題はないものの、さらに品質の観点から、180°ピールで3N/cm以上の強度を確保することが望ましい。
【0030】
圧延ロールによる銅箔と非磁性の金属板との接合工程後、非酸化性雰囲気中で積層体を150℃以上の温度で熱処理を施して銅箔を2軸結晶配向させる。150℃未満では銅箔の2軸結晶配向性が確保できない。
さらに、密着強度の向上のために非磁性の金属板の元素の熱拡散が起こる温度より高温で処理することが必要となる。例えばSUS316Lでは400℃以上に保持すると、接合界面で金属拡散、特に銅原子の金属板への移動が起こり、密着強度が向上する。
【0031】
本発明における熱処理条件については、温度と時間を調整することで上記銅原子の金属板への拡散を図る。後述するが、銅の拡散距離を10nm以上とすれば、180°ピールが3N/cm以上に向上することがわかっており、そのような熱処理であればどのような熱処理条件で行ってもよい。例えば金属板としてSUSを用いた場合、熱処理温度が400℃であれば、熱処理時間はバッチ式焼鈍炉にて1時間〜10時間保持すればよい。
また、700℃以上の高温で処理する場合は連続焼鈍炉で数秒〜5分保持するとよい。
好ましくは800℃以上950℃以下で1分〜5分処理し、銅の拡散距離を60nm以上とするとよい。
【0032】
本実施形態では、非磁性の金属板としてステンレス鋼板の焼鈍材を用いた場合、熱処理による強度の変化はほとんどない。また、焼鈍を行っていない圧延材を用いた場合でも、1000℃での熱処理条件において大きな強度低下はなく、強度補強材としての役割を十分果たす。
【0033】
[実施の形態2]
図3は、本発明の実施の形態2の超電導化合物用基板10の構成を示す概略断面図である。
実施の形態2の超電導化合物用基板10は、基板となる非磁性金属板T1の両面に、表面活性化接合にて銅層T2を設け、熱処理後、積層体の両面の銅層T2上にニッケルめっきからなる保護層T3を設けたものである。
実施の形態2の超電導化合物用基板10においても、銅層T2と接する非磁性金属板T1に銅層T2が10nm以上拡散している。
【実施例】
【0034】
以下、実施例によって、本発明の超電導化合物用基板をさらに詳細に説明する。
<実験例1>
幅200mm、厚み18μm、Agが200ppm添加された高圧下銅箔と100μm厚のSUS316L(焼鈍材)を、図1のような表面活性化接合装置を用い接合し、銅/SUS316L積層体を形成した。
スパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力を200W、接合面へのスパッタ照射時間を20秒とし、銅箔および金属板の吸着物層を完全に除去した。また圧延ロールでの加圧は600MPaとした。
次に、前記積層体に、500℃、1時間の条件にて熱処理を施した。この熱処理後の積層体において、銅拡散距離の測定、ピール強度の測定、ならびに銅表面上の(200)面結晶配高度(CuのΔΦ)の測定を行った。
また、前記熱処理後の積層体の銅表面上に保護層として1μm厚のニッケルめっきを施した後、そのニッケル層の(200)面結晶配向度(NiのΔΦ)の測定を行った。ニッケルめっきは一般のワット浴を使用し、電流密度を4A/dm、浴温度を60℃、pH3にて行った。
【0035】
<銅拡散距離の測定>
保護層(ニッケルコーティング)形成前の銅/SUS316L積層体について、SUS316Lへ銅が拡散した距離を、透過電子顕微鏡(TEM 日本電子製 JEM−2010F)観察及びエネルギー分散型X線スペクトル分析(EDS ノーラン製 UTWSi−Li)により測定した。
銅拡散距離の定義は、銅/SUS316L積層界面からSUS316L側をEDSにて元素分析し、銅濃度が2at%以上検出される位置までの距離を銅拡散距離とした。
【0036】
<結晶配高度の測定>
結晶配高度は、X線回折装置(リガク製 RINT2500)を用い、銅(111)およびニッケル(111)の極点図を作成し、α=35°に現れる4本ピークの半値幅(°)を測定した。
【0037】
<実験例2−6>
表1に記載の熱処理条件以外は実験例1−1と同様とした。
【0038】
<比較実験例1>
表1に記載のように、熱処理を施さないこと以外は実験例1−1と同様とした。
【0039】
表1に、以上の実験例の熱処理条件および各測定結果を示す。また、図4に銅/SUS316L界面から銅がSUS316L方向へ拡散した距離と180°ピール強度との関係を、図5に実験例2の600℃、1時間の熱処理を施したときの銅/SUS316L界面のTEM像を示す。
【表1】

【0040】
熱処理を施さない比較実験例1では180°ピール強度が0.1N/cmであったのに対し、500℃で1時間保持し銅拡散距離を10nmとした実験例1では、3.0N/cmとなった。
また、実験例2〜6に示すように、熱処理温度を上昇させると銅の拡散距離も増すとともに、ピール強度も上昇していき、100nmの拡散距離を確保した段階で、測定中に銅箔が破断してしまうほどピール強度が向上することがわかった。
【0041】
さらに、実験例1〜6の本発明の実施例において、熱処理後の銅およびめっき後のニッケルの2軸結晶配向度は、何れもΔΦが6°以下の値を示し優れて良好であった。なお、比較実験例1については、熱処理を施さず結晶配向をさせていないため結晶配高度の測定は不可能である。
【0042】
<参考形態1>
図6は、本発明の超電導化合物用基板に超電導化合物を積層した参考形態1の超電導化合物積層板を示す概略断面図である。
参考形態1の超電導化合物積層板15は、実施の形態1(図2参照)の超電導化合物用基板10の保護層T3の上に、さらに、CeOやジルコニア添加酸化イットリウム(YSZ)などの中間層T4、RE123膜などの超電導化合物層T5、表面保護膜T6を形成したものである。
参考形態1の超電導化合物積層板15は、非磁性金属板T1に銅層T2が10nm以上拡散しているので、非磁性金属板T1と銅層T2との密着強度が強く、優れた超電導化合物積層板15となっている。
【0043】
<参考形態2>
図7は、本発明の超電導化合物用基板に超電導化合物を積層した参考形態2の超電導化合物積層板を示す概略断面図である。
参考形態2の超電導化合物積層板20は、実施の形態2(図3参照)の超電導化合物用基板10の両面の保護層T3上に、さらに、CeOやジルコニア添加酸化イットリウム(YSZ)などの中間層T4、RE123膜などの超電導化合物層T5、表面保護膜T6を、それぞれ形成したものである。
参考形態2の超電導化合物積層板20は、非磁性金属板T1の両面上の銅層T2がそれぞれ10nm以上拡散しているので、非磁性金属板T1と銅層T2との密着強度が強く、優れた超電導化合物積層板20となっている。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明によれば、銅箔を金属板に積層した後に加熱処理を施して銅の結晶配向と拡散処理を行うので、超電導化合物用基板に求められる密着強度を銅の結晶配向と同時に実現することができ、産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0045】
T1、L1 非磁性金属板、
T2、L2 銅層(銅箔)、
T3 保護層(ニッケル層)、
T4 酸化物中間層、
T5 超電導化合物層、
T6 保護膜、
D1 表面活性化接合装置、
S1,S2 リコイラー部、
S3 電極A、
S4 電極B、
S5 圧接ロール工程、
S6 巻き取り工程、
5 実施の形態1の超電導化合物用基板、
10 実施の形態2の超電導化合物用基板、
15 参考形態1の超電導化合物積層板
20 参考形態2の超電導化合物積層板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性の金属板と、その上層に設けられた銅層と、その上層に設けられた保護層とを有する、超電導化合物用基板であって、
前記非磁性金属板に前記銅が10nm以上拡散している、ことを特徴とする超電導化合物用基板。
【請求項2】
前記金属板が非磁性ステンレス鋼板であることを特徴とする請求項1に記載の超電導化合物用基板。
【請求項3】
圧下率90%以上で加工された銅箔の表面をスパッタエッチングして表面の吸着物を除去する工程と、
非磁性の金属板の表面をスパッタエッチングする工程と、
前記銅箔と前記金属板とを圧延ロールにより加圧して接合し積層体を形成する工程と、
前記積層体を加熱して前記銅を結晶配向させるとともに、前記銅を前記金属板に10nm以上熱拡散させる熱処理工程と、
前記積層体の銅表面上に保護層を積層する工程と、を有する、
ことを特徴とする超電導化合物用基板の製造方法。
【請求項4】
前記金属板が非磁性ステンレス鋼板であることを特徴とする請求項3に記載の超電導化合物用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−108592(P2011−108592A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265285(P2009−265285)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】