説明

超電導導体

【課題】 短絡電流の電路を確保できる超電導導体を提供する。
【解決手段】 超電導層2の外周に短絡電流を流すための金属層(金属パイプ3)を設ける。金属層は金属テープの巻回により構成してもよい。これら超電導層2と金属層とが交互に積層され、超電導層2と金属層との間が絶縁されている。この構成により、定格運転時は電流の大半は超電導層に流れ、短絡時には短絡電流は金属層を流れるため、短絡電流による発熱を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導導体に関するもので、特に短絡時に短絡電流の電路を確保できる超電導導体の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の超電導ケーブルの構造としては、特開平5-28847号公報記載のものが知られている。これは冷媒流路となる芯材(フォーマ)の外周に超電導線材を螺旋状に複数層巻回したものである。通常、この超電導線材はセラミックス系超電導材料を金属(銀など)で被覆して形成されている。各層における超電導線材の巻回方向は交互に逆になっており、右巻き層と左巻き層の数はほぼ同数にされている。
【特許文献1】特開平5−28847号公報
【特許文献2】特開平4−22011号公報
【特許文献3】特開平1−102811号公報
【特許文献4】特開平7−122133号公報
【特許文献5】特開平6−325631号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記の超電導ケーブルでは短絡事故が発生した場合に短絡電流の電路が十分確保できないために短絡電流を許容できないという問題がある。超電導導体は臨界電流以下では高い電流密度で通電が可能で、導体断面積は小さくされている。このような超電導導体に短絡事故などで大電流(66kv系統で数10kA)が流れると臨界電流を超え、導体に抵抗が発生する。このとき、電流は安定化材である銀にも分流するが、導体断面積が小さいため導体抵抗が高く、かつ熱容量が小さいために温度上昇が大きくなる。また、過電流はフォーマにも分流するが、フォーマは導体の内側に位置するためインダクタンスが導体より大きくなり、分流する割合は小さい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は短絡電流の電路を確保できる超電導導体を提供することを主目的とするもので、その特徴は、超電導層の外周に短絡電流を流すための金属層を具え、これら超電導層と金属層とを交互に積層し、前記超電導層と金属層との間が絶縁されていることにある。
【0005】
ここで、金属層は超電導層の外周に金属パイプをはめ込んだり、金属テープ(線)を巻回して構成することが挙げられる。金属層の材質としては銅やアルミが適切である。金属層を金属パイプとした場合、コルゲートパイプとしてもよい。金属層を金属テープで構成した場合、積層して巻回される各金属テープ層の間を絶縁することが好ましい。この絶縁を行うには、エナメル,マイラー紙,カプトンテープなどの絶縁テープを金属テープの層間に挿入することが挙げられる。
【0006】
また、超電導層と金属層とは交互に積層することが望ましい。その場合、超電導層は超電導線材を螺旋状に巻回し、金属層は金属テープを螺旋状に巻回して、隣接する超電導層と金属層とを1組としたとき、1組内の超電導層と金属層とは巻回方向が同じで、隣接する組同士は巻回方向を逆にすることが好適である。
【0007】
以上の構成により、定格運転時は電流の大半を超電導層に流して発熱ロスを極小化し、短絡事故時には電流を超電導層以外(主に金属層)に分流させて発熱を最小限にすることができる。
【0008】
特に、積層して巻回される金属テープで金属層を構成し、各金属テープ層の間を絶縁すれば、短絡電流のパスを螺旋状として短絡電流用の導体のインダクタンスを大きくすると共に、金属テープ層間の渦電流パスを切断してロスをより小さくすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明超電導導体によれば、超電導層に金属層を複合することで、定格運転時は電流の大半を超電導層に流し、短絡事故時は短絡電流の大半を金属層に流すことができ、短絡電流を許容することができる。また、超電導層と金属層との間を絶縁することで、層間を流れる渦電流のパスを遮断でき、発熱ロスを低減できる。
【0010】
ここで、金属層を金属テープの巻回により構成すると、金属層のインダクタンスを大きくし、定格時の金属層のインピーダンスを超電導層のそれよりも大きくすることができ、定格時の電流の大半を確実に超電導層に流すことができる。
【0011】
また、金属テープの層間に絶縁テープを挿入することで、各金属テープ層間の渦電流のパスを遮断し、発熱を低減することができる。
【0012】
さらに、超電導線材と金属線(テープ)を交互に螺旋状に巻回し、隣接する超電導層と金属層とを1組としたとき、1組内の超電導層と金属層とは巻回方向が同じで、隣接する組同士は巻回方向を逆にすることで、自己の磁場を相殺することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
(実施例1)
図1に本発明超電導導体の概略図を示す。この超電導導体は中心から順にフォーマ1,超電導層2,短絡電流用の金属パイプ3,電気絶縁層4を具えている。
【0015】
フォーマ1は液体窒素などの冷媒流路となる中空の金属管で、丸パイプ状のものの他、波付け加工されたパイプを用いることもできる。フォーマ1の材質としてはアルミニウム合金などが挙げられる。
【0016】
超電導層2はこのフォーマ1の上に超電導線材を螺旋状に巻回して構成されている。本例では超電導線材を2層積層して巻回し、各層の巻回方向を逆にした。各層の巻回方向を逆にすることで、各層の超電導線材で発生する磁場は方向が逆になって相殺されるため、自己磁場によって超電導特性が低下すること抑制できる。ここで用いる超電導線材は、超電導材料を金属で被覆して線状に形成したもの等が適切である。この超電導材料としてはY-Ba-Cu-O系、Bi-(Pb)-Sr-Ca-Cu-O系、Tl-Ba-Ca-Cu-O系などのセラミックス系材料が挙げられる。超電導材料を金属で被覆するには、金属製パイプ内に超電導材料を充填し、所定の断面積、断面形状に成形した後、所定の熱処理を施すこと等により製作する。超電導線材の被覆金属には、導電性に優れた材料、例えばAg(合金),Cu(合金)などが好適である。なお、超電導線材の積層数は特に限定されない。
【0017】
この超電導層2の上に配置されている金属パイプ3が短絡電流の流路となる。すなわち、定格運転時は超電導層2に電流の大半が流れ、短絡事故時にはこの金属パイプ3に最も多く電流が流れるようにしている。そして、この金属パイプ3を超電導層2の上に配置する際、金属パイプ3と超電導層2の間を絶縁すればよい。
【0018】
一般に、金属に電流を流すと表皮効果が生じ、導体の外側の方が内側と比較して電流密度が大きくなる。これは、円筒形状を考えると外側の方がインダクタンスが小さいためである。フォーマ(1)、超電導層(2)、金属パイプ(3)の各部の抵抗R,インダクタンスL,インピーダンス(√{(ωL)2 +R2 })は次の表1のような関係になる。
【表1】

【0019】
インダクタンスは形状で決定されるのに対し、抵抗は超電導層2が超電導状態か常電導状態かによって大きく異なる。電流の各部への分流はインピーダンスにより決定される。従って、上記のような関係になれば、定格運転時は超電導層2に電流の大半が流れ、短絡事故時には金属パイプ3に最も多く電流が流れるようになる。
【0020】
なお、電気絶縁層4はクラフト紙とポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂を一体化したいわゆるPPLP等を巻回したものが利用できる。
【0021】
(実施例2)
上記の実施例1でも短絡電流の流路を確保することができるが、「短絡電流/定格電流」の比率が大きな場合、金属パイプ3の断面積を大きくする必要がある。そのとき、抵抗RだけでなくインダクタンスLも小さくなるため、インピーダンス(√{(ωL)2+R2})が超電導層2より金属パイプ3の方が小さくなることがある。この場合、定格時においても短絡時と同様に電流が金属パイプ3に最も多く流れるため、金属パイプ3のジュール発熱が大きくなり好ましくない。
【0022】
そこで、「短絡電流/定格電流」の比率が大きいときは、図2に示すように、前記金属パイプ3を金属テープ5に置き換えて構成する。すなわち、超電導層2の上に金属テープ5を螺旋状に巻回し、短絡電流の流路を直線状から螺旋状とする。これにより、金属テープ層のインダクタンスを大きくし、定格時のインピーダンスを超電導層2より大きくして、定格時の電流の大半を超電導層2に流すことができる。なお、フォーマ1,超電導層2,電気絶縁層4の構成は実施例1と同様なので説明を省略する。
【0023】
金属テープ層の抵抗は巻回数により調整でき、インダクタンスは巻回方向によって調整ができる。なお、電流が流れることによって発生する磁場により金属テープ層に渦電流が発生する。この渦電流を低減するには、積層して巻回した金属テープの層間にマイラー紙などの絶縁テープを挿入することで層間の渦電流のパス遮断すればよい。
【0024】
(実施例3)
さらに、上記実施例1,2とは別構成の超電導導体の構造を図3に示す。この超電導導体はフォーマ1の外周に超電導線材2と金属線6とを交互に螺旋状に巻回し、その上に電気絶縁層4を形成している。ここで、隣接する超電導線材2と金属線6とを1組としたとき、1組内の超電導線材2と金属線6とは巻回方向が同じで、隣接する組み同士は巻回方向が逆になっている。このような構成により、各組における超電導線材[1]と金属線[6]の抵抗R、インダクタンスL、インピーダンス(√{(ωL)2+R2})は次の表2のようになるため、定格時には超電導線材2に、事故時には金属線6に電流を流すことができる。
【表2】

【0025】
また、1組内の超電導線材1と金属線6とは巻回方向を同じとし、隣接する組み同士は巻回方向は逆にすることで、超電導導体全体のインダクタンスLを小さくすると共に、定格時および事故時のいずれも長手方向に発生する磁場を相殺することができる。これにより、超電導線材2の磁場による臨界電流の低下防止に有効である。
【0026】
さらに、本構成においても超電導線材2と金属線6との層間に絶縁紙を挿入すれば、層間を流れる渦電流のパスを遮断でき、一層発熱ロスを低減できる。
【0027】
なお、本例もフォーマ1,超電導層2,電気絶縁層4の構成は実施例1と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は超電導ケーブルなどの超電導導体に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】金属パイプを用いた本発明超電導導体の説明図である。
【図2】金属テープを用いた本発明超電導導体の説明図である。
【図3】超電導線材と金属線とを交互に巻回した本発明超電導導体の説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 フォーマ
2 超電導層(線材)
3 金属パイプ
4 電気絶縁層
5 金属テープ
6 金属線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導層の外周に短絡電流を流すための金属層を具え、
これら超電導層と金属層とが交互に積層され、
前記超電導層と金属層との間が絶縁されていることを特徴とする超電導導体。
【請求項2】
前記金属層は、金属テープが積層して巻回され、各金属テープ層の間が絶縁されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導導体。
【請求項3】
超電導層と金属層の各々は螺旋状に巻回して構成され、
隣接する超電導層と金属層とを1組とし、1組内の超電導層と金属層とは巻回方向が同じで、
隣接する組同士は巻回方向が逆であることを特徴とする請求項1または2記載の超電導導体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−124042(P2008−124042A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20102(P2008−20102)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【分割の表示】特願平10−235639の分割
【原出願日】平成10年8月21日(1998.8.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】