説明

超電導線材、超電導コイル、及び超電導保護装置

【課題】超電導体の温度変化を容易に検知可能な超電導線材、超電導コイル、及び超電導保護装置の提供。
【解決手段】本発明の超電導線材1Aは、第1超電導線材1aと、温度検知用の第2超電導線材10とを備え、第1超電導線材1aの臨界温度Tc、第2超電導線材10の臨界温度Txが、Tx<Tcの関係を満たすことを特徴とする。本発明の超電導線材1Aにおいて、第1超電導線材1aを超電導状態とする運転温度Top、前記臨界温度Tc、前記臨界温度Txが、Top<Tx<Tcの関係を満たすことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材、超電導コイル、及び超電導保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
NbTi等の合金系超電導体やNbSn等の化合物系超電導体などの金属系の低温超電導体を使用した低温超電導コイルは、超電導体の臨界温度が10K以下と低いため、運転温度は4K程度と極低温であり、比熱が小さい。そのため、低温超電導コイルにおいて何らかの原因で超電導状態から常電導状態へ遷移するクエンチが発生する。そのため、超電導コイルにおけるクエンチの発生を確実かつ速やかに検出して常電導領域の拡大を防ぐことが重要である。金属系の低温超電導体を使用した低温超電導コイルにおける常電導転移の検出手法としては、常電導転移により発生した電圧を検知する方法や、バランス電圧を検知する方法が知られている。
【0003】
しかし、Bi系やY系に代表されるような酸化物超電導体は、臨界温度が100K程度と高いため、運転温度20K以上が想定され、冷凍機など消費電力が軽減できる。金属系の低温超電導体と比較すると運転温度での比熱が大きく、常電導転移した際の伝搬速度が遅くなる。そのため、従来の電圧測定による検出法では、常電導転移の発生を上手く検出できない可能性がある。
微小な温度上昇を検知する方法として、超電導体上にカーボン膜を設けて電圧を検出し、この検出電圧を温度に変換する方法が提案されている(特許文献1参照)。また、電圧測定による検出法ではなく、電磁的にノイズに強いクエンチ検出法として、光ファイバを使用した方法も提案されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2577682号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】フジクラ技報80号 1991年4月 第1頁〜第6頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法は、電気抵抗Rの温度依存性を利用した手法であり、温度Tが10K以下でdR/dTの変化率が大きいことを利用してクエンチ(常電導転移)検出精度を上げている。しかしながら、特許文献1に記載の方法では、合金系超電導体NbTiの外周に銅層と絶縁皮膜とが設けられた超電導体上に、塗布またはスパッタリングによりカーボン膜を接着しているが、長尺の超電導線材の長手方向にカーボン膜を設けるとなると、生産性が著しく低下してしまうため実用的ではない。
また、非特許文献1では、2つのコアを有した光ファイバを伝搬するレーザ光で干渉系を組み、レーザ光の位相変化により10K程度の温度上昇を検出する方法が提案されている。しかしながら、この検出方法では、温度上昇の光ファイバ加熱長が2〜6mと長く、大型の超電導コイルには適用可能であるが、数cm程度の微小な区間の温度上昇を検知するのは困難と考えられる。
【0007】
本発明は、このような従来の実情に鑑みてなされたものであり、超電導体の温度変化を容易に検知可能な超電導線材、超電導コイル、及び超電導保護装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成とした。
本発明の超電導線材は、第1超電導線材と、温度検知用の第2超電導線材とを備え、前記第1超電導線材の臨界温度Tc、前記第2超電導線材の臨界温度Txが、Tx<Tcの関係を満たすことを特徴とする。
本発明の超電導線材は、前記第1超電導線材を超電導状態とする運転温度Top、前記臨界温度Tc、前記臨界温度Txが、Top<Tx<Tcの関係を満たすことが好ましい。
本発明の超電導線材において、前記第1超電導線材は、超電導層と金属安定化層とを備え、前記第2超電導線材は、前記第1超電導線材の前記金属安定化層に接する位置に配されていることが好ましい。
本発明の超電導線材において、前記第2超電導線材は、少なくともその一部が前記第1超電導線材の前記金属安定化層の内部に配されていることも好ましい。
本発明の超電導線材は、前記第1超電導線材の前記超電導層と前記金属安定化層との間に金属安定化基層が介在されてなり、前記第2超電導線材は前記金属安定化基層に接触するように配されている構成とすることもできる。
本発明の超電導線材は、前記第1超電導線材の前記金属安定化層は、前記超電導層の上部及び側部に配され、前記第2超電導線材は前記超電導層の側方に配されている構成とすることもできる。
本発明の超電導線材は、前記第2超電導線材を、少なくとも2つ備えることも好ましい。
また、本発明は、上記超電導線材を用いてなる超電導コイルを提供する。
さらに、本発明は、上記超電導コイルを用いてなる超電導保護装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の超電導線材は、温度検知用の第2超電導線材を備えることにより、万一、常電導転移が発生した場合にも、温度検知用の第2超電導線材の臨界温度Txを超えた時点で、第2超電導線材が常電導状態となり、第2超電導線材の電圧が急激に上昇する。これにより、超電導線材における常電導転移に伴う温度上昇を容易に検知することができる。
また、本発明の超電導線材は、第1超電導線材の臨界温度Tcを、温度検知用の第2超電導線材の臨界温度Txよりも高く設定することにより、万一、超電導線材の一部で常電導転移が発生した場合、温度Txにて常電導転移の発生を検知した時点で、電流値を低下させるなどの処置を施すことができるため、超電導線材における常電導転移領域が拡大することを防ぐことができる。
本発明の超電導線材は、温度検知用の第2超電導線材が、超電導層に近い金属安定化層に接する位置、又は、少なくとも一部が金属安定化層の内部に位置するように配されていることにより、万一、常電導転移が発生した場合にも、良好な精度および応答性で、温度変化(温度上昇)を検知することができる。
【0010】
本発明の超電導コイルは、上記本発明の超電導線材を巻回して形成されたコイル体を備えることにより、万一、常電導転移が発生した場合にも、温度検知用の第2超電導線材の臨界温度Txまで温度が上昇した時点で、第2超電導線材の電圧値が大幅に上昇するので、容易に超電導コイル内の温度変化(常電導転移)を検知することができる。
本発明の超電導保護装置は、上記本発明の超電導コイルを備えることにより、万一、常電導転移が発生した場合にも、温度検知用の第2超電導線材の臨界温度Txまで温度が上昇した時点で、第2超電導線材の電圧値が大幅に上昇し、直ちに検出器で検出される電圧値が大きく変化するので、容易に超電導コイル内の温度変化(常電導転移)を検知することができる。また、本発明の超電導保護装置を構成する超電導コイルにおいて、第1超電導線材の臨界温度Tcは、温度検知用の第2超電導線材の臨界温度Txよりも高く設定されている。そのため、本発明の超電導保護装置は、温度Txにて常電導転移の発生を検知した時点で、電流値を低下させるなどの処置を施すことができるため、超電導コイル内の常電導転移領域が拡大することを防いで、超電導コイルを良好な状態で保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る超電導線材の他の例を示す概略斜視図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る超電導線材の他の例を示す概略断面図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の他の実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。
【図8】本発明に係る超電導コイルの一例を示す概略斜視図である。
【図9】本発明に係る超電導保護装置の一例を示す概略構成図である。
【図10】MgBの抵抗−温度特性の一例をプロットしたグラフである。
【図11】本発明の第3実施形態に係る超電導線材の他の例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[超電導線材]
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。
本実施形態の超電導線材1Aは、第1超電導線材1aと温度検知用の第2超電導線材10とを備えてなる。
本実施形態の超電導線材1Aは、テープ状の基材11の上にベッド層15と中間層16と超電導層17とが積層されるとともに、超電導層17の上に金属安定化基層18と金属安定化層19が積層されて構成された第1超電導線材1aと、第1超電導線材1aの金属安定化層19の上部(上層部)に設けられた収納溝9に収容された温度検知用の第2超電導線材10により概略構成されている。
【0013】
本実施形態の超電導線材1Aを構成する第1超電導線材1aに適用できる基材11は、通常の超電導線材の基材として使用でき、高強度であれば良く、長尺のケーブルとするためにテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。例えば、銀、白金、ステンレス鋼、銅、ハステロイ等のニッケル合金等の各種金属材料、もしくはこれら各種金属材料上にセラミックスを配したもの等が挙げられる。各種耐熱性の金属の中でも、ニッケル合金が好ましい。中でも、市販品であれば、ハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)が好適であり、ハステロイとして、モリブデン、クロム、鉄、コバルト等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmである。
【0014】
ベッド層15は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層15は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y)、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層15は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
また、本発明において、第1超電導線材1aは図1に示す構造に限るものではなく、基材11とベッド層15との間に拡散防止層が介在された構造としても良い。拡散防止層は、基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。なお、拡散防止層の結晶性は問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
このように基材11とベッド層15との間に拡散防止層を介在させることにより、後述する中間層16や超電導層17等の他の層を形成する際に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合に、基材11の構成元素の一部がベッド層15を介して超電導層17側に拡散することを効果的に抑制することができる。基材11とベッド層15との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl、ベッド層15としてYを用いる組み合わせを例示することができる。
【0015】
中間層16は、単層構造あるいは複層構造のいずれでも良く、その上に積層される超電導層17の結晶配向性を制御するために2軸配向する物質から選択される。中間層16の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、AlO3、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物を例示することができる。なお、本実施形態の超電導線材1Aにおいて、図1に示す構造に限定されるものではなく、中間層16と超電導層17との間にキャップ層が介在されていることが好ましい。
この中間層16をイオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)により良好な結晶配向性(例えば結晶配向度15゜以下)で成膜するならば、その上に形成するキャップ層の結晶配向性を良好な値(例えば結晶配向度5゜前後)とすることができ、これによりキャップ層の上に成膜する超電導層17の結晶配向性を良好なものとして優れた超電導特性を発揮できるようにすることができる。
【0016】
中間層16の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.005〜2μmの範囲とすることができる。
中間層16は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(IBAD法)、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、超電導層17やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、下地の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層16は、IBAD法における結晶配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0017】
キャップ層は、中間層16の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層からなる中間層16よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0018】
このCeO層は、PLD法(パルスレーザ蒸着法)、スパッタリング法等で成膜することができるが、大きな成膜速度を得られる点でPLD法を用いることが望ましい。PLD法によるCeO層の成膜条件としては、基材温度約500〜1000℃、約0.6〜100Paの酸素ガス雰囲気中で行うことができる。
CeO層の膜厚は、50nm以上であればよいが、十分な配向性を得るには100nm以上が好ましく、500nm以上であれば更に好ましい。但し、厚すぎると結晶配向性が悪くなるので、500〜1000nmとすることが好ましい。
【0019】
超電導層17は、臨界温度Tcが後述する第2超電導線材10を構成する超電導体の臨界温度Txよりも高温のものであれば特に限定されないが、臨界温度が高い酸化物超電導体が好ましく、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のものを例示できる。この超電導層17として、具体的には、臨界温度が液体窒素温度(77K)よりも高い酸化物超電導体であるY123(YBaCu7−X:臨界温度Tc=93K)又はGd123(GdBaCu7−X:臨界温度Tc=95K)などが挙げられる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δ(Bi2223相(n=3:臨界温度Tc=110K)、Bi2212相(n=2:臨界温度Tc=80K)など)、BiSrCaCu(臨界温度Tc=105K)、TlBaCaCu(臨界温度Tc=120K)なる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
【0020】
超電導層17の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
超電導層17は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相成長法(CVD法)等の物理的蒸着法;熱塗布分解法(MOD法)等で積層することができ、なかでも生産性の観点から、TFA−MOD法(トリフルオロ酢酸塩を用いた有機金属堆積法、塗布熱分解法)、PLD法又はCVD法を用いることが好ましい。
【0021】
ここで前述のように、良好な配向性を有するキャップ層上に超電導層17を形成すると、このキャップ層上に積層される超電導層17もキャップ層の配向性に整合するように結晶化する。よってキャップ層上に形成された超電導層17は、結晶配向性に乱れが殆どなく、この超電導層17を構成する結晶粒の1つ1つにおいては、基材11の厚さ方向に電気を流しにくいc軸が配向し、基材11の長さ方向にa軸どうしあるいはb軸どうしが配向している。従って得られた超電導層17は、結晶粒界における量子的結合性に優れ、結晶粒界における超電導特性の劣化が殆どないので、基材11の長さ方向に電気を流し易くなり、十分に高い臨界電流密度が得られる。
【0022】
超電導層17の上に積層されている金属安定化基層18はAgなどの良電導性かつ超電導層17と接触抵抗が低くなじみの良い金属材料からなる層として形成される。金属安定化基層18の厚さは1〜30μmとすることが好ましい。金属安定化基層18は、公知の方法で形成することができるが、中でもスパッタ法で形成することが好ましい。
【0023】
金属安定化層19は、良導電性の金属材料からなり、超電導層17が超電導状態から常電導状態に遷移しようとした時に、金属安定化基層18とともに、超電導層17の電流が転流するバイパスとして機能する。
金属安定化層19を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銅、黄銅(Cu−Zn合金)等の銅合金、ステンレス等の比較的安価なものを用いるのが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることから銅がより好ましい。これにより、材料コストを低く抑えながら金属安定化層19を厚膜化することが可能となり、事故電流に耐える超電導線材1Aを安価に得ることができる。金属安定化層19の厚さは10〜300μmとすることが好ましい。下限値以下とすることにより超電導層17を安定化する一層高い効果が得られ、上限値以下とすることで超電導線材1Aを薄型化できる。金属安定化層19は、公知の方法で形成することができ、スパッタ法や、銅などの金属テープを金属安定化基層18上に半田付けする方法により形成することができる。
【0024】
温度検知用の第2超電導線材10は、超電導コア部10aを有する長尺の線材であり、超電導コア部10aの外周には金属被覆層10bが形成され、金属被覆層10bの外周には絶縁層(図示略)が形成されて構成されている。
第2超電導線材10の超電導コア部10aは、第1超電導線材1aの超電導層17の臨界温度Tcよりも低い臨界温度Txである超電導体より形成されている。また、第2超電導線材10の臨界温度Txは、超電導線材1Aを超電導状態とする運転温度Topよりも高く設定されている。すなわち、第1超電導線材1aの臨界温度Tc、第2超電導線材10の臨界温度Tx、超電導線材1Aの運転温度Topは、Top<Tx<Tcの関係を満たすように設定されている。第1超電導線材1aの臨界温度Tc、第2超電導線材10の臨界温度Tx、超電導線材1Aの運転温度Topは、前記関係を満たしていれば特に限定されるものではないが、更に、Tc≧77K、Top≦Tx−5Kの関係を満たすように設定されていることが好ましい。
【0025】
第2超電導線材10の超電導コア部10aを形成する超電導体としては、上記温度関係を満たす超電導体であれば特に限定されない。超電導線材1Aを超電導状態とする運転温度Topは、具体的には、例えば、液体ヘリウム温度(4.2K)や、冷凍機冷却温度(20K〜77K程度)などとすることができ、汎用の冷凍機を使用する方が安価であるため、冷却機冷却温度とすることが好ましい。また、第1超電導線材1aの超電導層17は、上述の如く、臨界温度の高い酸化物超電導体より形成されていることが好ましい。従って、第2超電導線材10の臨界温度Txはこれらの間の温度であるため、超電導コア部10aを形成する超電導体は、第1超電導線材1aの臨界温度Tcと運転温度Topとの間の温度領域の臨界温度を有するものが好ましい。超電導コア部10aを形成する超電導体としては、具体的には、MgB(臨界温度Tx=39K)、LaFeAsO1−x(臨界温度Tx=26K)、NdFeAsO1−x(臨界温度Tx=51K)、SmFeAsO1−x(臨界温度Tx=55K)、Gd1−xThFeAsO(臨界温度Tx=56K)、CeFeAsO1−x(臨界温度Tx=41K)、La2−xSrCuO(臨界温度Tx=40K)、La2−xBaCuO(臨界温度Tx=30K)、NbGe(臨界温度Tx=23K)などを例示することができ、中でも、MgBが好ましい。
【0026】
超電導コア部10aの断面形状は、図1に示す円形に限定されるものではなく、扁平でも多角形でもよく、また、多芯化されていてもよい。超電導コア部10aの径や厚さ又はその領域の幅は、0.01〜0.3mmとすることが好ましい。また、温度検知用の第2超電導線材10の電流密度等の超電導特性は、温度検知用の電流を流すことができれば、特に限定されるものではない。
【0027】
第2超電導線材10の金属被覆層10bは、超電導コア部10aと反応しないものであれば特に限定されないが、銅、銅合金、銀、銀合金などより形成されていることが好ましく、導電性や加工性が良好であり、安価であることから、銅より形成されていることが特に好ましい。金属被覆層10bの厚さは、0.01〜0.3mmとすることが好ましい。
第2超電導線材10の絶縁層は、絶縁性を有し、超電導臨界温度のような低温にも耐えうるものであれば特に限定されず、例えば、ポリイミド樹脂や、ETFE(テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)等のフッ素樹脂などより形成されていることが好ましい。絶縁層の厚さは、5〜20μmとすることが好ましい。
【0028】
長尺線状の第2超電導線材10の径または厚さは、0.01〜0.3mmである。
第2超電導線材10の製造方法は特に限定されないが、PIT法(Powder In Tube法)により製造されることが、簡便であり細径化も可能であるため好ましい。このPIT法とは、超電導コア部10aを形成する超電導体の粉末や、超電導体を形成しうる原料粉末を、金属被覆層10bを構成する金属である銅や銀等の金属管に装入し、加熱・焼結し、この管状金属と共に延伸加工して線材化する手法である。
第2超電導線材10の製造方法の一例として、超電導コア部10aがMgB、金属被覆層10bが銅より形成されている場合について例示する。この場合、MgB粉末を銅製の金属管内に収容し、伸線、圧延、焼成を繰り返して細径長尺化する方法(ex situ法)や、銅製の金属管内にMg粉末とB粉末が1:2のモル比で混合された原料粉末を封入して伸線、圧延、焼成を繰り返して細径長尺化したのち、加熱処理にて線材内でMgBを形成する方法(in situ法)などにより超電導素線を作製したのち、ポリイミド樹脂などによりその外周に絶縁層を形成することにより第2超電導線材10を製造することができる。
【0029】
温度検知用の第2超電導線材10は、第1超電導線材1aの金属安定化層19の上部(上層部)に、超電導線材1A(第1超電導線材1a)の長手方向に連続的に形成された収納溝9の内部に、超電導線材1A(第1超電導線材1a)の長手方向に沿って収納されている。収納溝9は、金属安定化層19が金属安定化基層18上に積層された後に、レーザ等により加工することにより形成しても良いし、金属安定化層19が銅などの金属テープを半田付けしたものである場合は、予め従来公知の方法で金属テープ上部に収納溝9を形成した後に、金属安定化層19を積層させてもよい。収納溝9への第2超電導線材10の設置方法は、第1超電導線材1aの短手方向の収納溝9の幅を、第2超電導線材10の径(大きさ)とほぼ同等、或いは僅かに大きく設定して、第2超電導線材10を収納溝9へ嵌め込む方法や、接着剤や半田による接合などが挙げられる。なお、接着剤を用いて収納溝9に第2超電導線材10を接合する場合、温度変化の検知精度の低下を招かないように、第2超電導線材10と収納溝9(すなわち、金属安定化層19)との間に接着剤が介在する領域をなるべく小さくすることが好ましい。これらの中でも、収納溝9へ第2超電導線材10を嵌め込む方法の方が、簡便であり、第2超電導線材10と収納溝9(すなわち、金属安定化層19)との接触面積が増え、温度変化の検知精度が良好となるので好ましい。
【0030】
収納溝9の深さは、第2超電導線材10の径(大きさ)に合わせて適宜調整することができるが、第2超電導線材10の径をdとし、収納溝9の深さをLとした場合、d≦Lであることが好ましい。第2超電導線材10の一部が、金属安定化層19の上面よりも突出する構造とすることも可能であるが、前記のようにd≦Lとし、金属安定化層19の内部に第2超電導線材10が配されている構造とする方が、第2超電導線材10と金属安定化層19の接触面積が増加して温度変化の検知精度が一層向上するだけでなく、超電導線材1Aを薄型化できるので、超電導線材1Aを同心円状に巻回して超電導コイルとする場合、超電導線材1Aを高密度で巻回でき、良好な電流密度とすることができるので好ましい。
なお、図1においては、収納溝9の断面形状が四角形の場合を例示しているが、本実施形態はこの例に限定されるものではない。例えば、図1に破線で示すように、第2超電導線材10の断面形状に合わせて(図1では円形)、収納溝9の底部形状を円弧状等に形成することにより、第2超電導線材10と金属安定化層19との接触面積を増やして温度変化の検知精度を向上させたり、収納溝9と第2超電導線材10との嵌め込みによる接合構造をより一層強固にすることができる。
【0031】
また、超電導線材1Aは、図2に示すように、その周囲の露出面を絶縁性の絶縁層20で被覆されている構成とすることもできる。絶縁層20は、通常使用される各種樹脂や酸化物等、公知の材質からなるものである。前記樹脂として具体的には、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリエステル樹脂、ケイ素樹脂、シリコン樹脂、アルキッド樹脂、ビニル樹脂等が例示できる。絶縁層20による被覆の厚さは特に限定されず、被覆対象部位等に応じて、適宜調節すれば良い。絶縁層20は、その材質に応じて公知の方法で形成すれば良く、例えば、原料を塗布して、これを硬化させれば良い。また、シート状のものが入手できる場合には、これを使用して被覆しても良い。
【0032】
本発明では、第1超電導線材1aの臨界温度Tc、第2超電導線材10の臨界温度Tx、超電導線材1Aを超電導状態とする運転温度Topが、Top<Tx<Tcの関係を満たすように設定することにより、超電導線材1Aを運転温度Topで運転すると、第1超電導線材1aと第2超電導線材10は、夫々、臨界温度TcおよびTxよりも低温に冷却されているので、超電導状態となる。しかし、超電導線材1Aの運転中に、万が一、第1超電導線材1aの一部において、超電導状態から常電導状態へと遷移する常電導転移が発生した場合、金属安定化基層18及び金属安定化層19には、超電導層17の電流が転流する。その際、金属安定化基層18あるいは金属安定化層19では、転流した電流が流れることで、ジュール熱が発生し発熱が起こる。本実施形態の超電導線材1Aは、このように常電導転移に伴う発熱により温度が上昇すると、温度検知用の第2超電導線材10の臨界温度Txを超えた時点で、第2超電導線材10が常電導状態となり、第2超電導線材10の抵抗が急激に上昇して電圧が急激に上昇する。これにより、超電導線材1Aにおける常電導転移に伴う温度上昇を検知することができる。
【0033】
一般的に、超電導体が常電導転移する際の抵抗値の変化量はかなり大きい。一例として、図10にMgBの抵抗−温度特性をプロットしたグラフを示す。図10に示すように、MgB(臨界温度39K)では、超電導状態では抵抗値は0であるが、常電導状態における抵抗値は約100μΩcm程度である。従って、本発明のように温度検知用に第2超電導線材10を用いる構成とすることにより、従来公知の温度により電圧値が変化する温度検知媒体(カーボン抵抗や半導体など)を用いる場合と比較して、温度変化に対する抵抗の上昇が著しく大きいので、容易に温度変化(常電導転移)を検知することができる。また、本発明においては、第1超電導線材1aの臨界温度Tcは、温度検知用の第2超電導線材10の臨界温度Txよりも高く設定されているため、温度Txにて常電導転移の発生を検知した時点で、電流値を低下させるなどの処置を施すことができるため、第1超電導線材1a(超電導線材1A)の常電導転移領域が拡大することを防ぐことができる。
【0034】
なお、本実施形態においては、第1超電導線材1aの金属安定化層19の内部に、温度検知用の第2超電導線材10が1つ配されている構成を例示したが、本発明はこれに限定されず、超電導線材1Aの信頼性を向上させるために、2つ以上の第2電導線材10が金属安定化層19の内部に配されている構成とすることも好ましい。
【0035】
<第2実施形態>
図3は、本発明の第2実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。図3において、図1および図2に示した超電導線材1Aと同じ構成要素には同一の符号を付した。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と異なる部分について主に説明し、同様の部分については説明を省略する。
本実施形態の超電導線材2Aは、テープ状の基材11の上にベッド層15と中間層16と超電導層17と金属安定化基層18とがこの順に積層された積層体S1と、この積層体S1の上面、一方の側面、他方の側面および下面を覆うように形成された金属安定化層19a、19b、19c、19d(金属安定化層19)とにより構成された第1超電導線材2aと、第1超電導線材2aの積層体S1上の金属安定化層19a内に、積層体S1の上面である金属安定化基層18の上面と接するように配された温度検知用の第2超電導線材10とにより概略構成されている。
第2実施形態の超電導線材2Aは、積層体S1の周囲に金属安定化層19がある点、および、温度検知用の第2超電導線材10が金属安定化基層18に接している点において、上述した第1実施形態の超電導線材1Aとは異なっている。
【0036】
第1超電導線材2aの金属安定化層19a、19b、19c、19d(金属安定化層19)は、良導電性の金属材料からなり、超電導層17が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたときに、金属安定化基層18とともに、超電導層17の電流が転流するバイパスとして機能する。金属安定化層19a〜19d(金属安定化層19)を構成する金属材料としては、良導電性を有するものであればよく、特に限定されないが、銅等の比較的安価なものを用いるのが好ましい。これにより、材料コストを低く抑えながら金属安定化層19a〜19d(金属安定化層19)を厚膜化することが可能となり、事故電流に耐える超電導線材2Aを安価に得ることができる。
金属安定化層19a〜19bの厚さは10〜300μmとすることが好ましい。下限値以下とすることにより超電導層17を安定化する一層高い効果が得られ、上限値以下とすることで超電導線材2Aを薄型化できる。金属安定化層19a〜19dは、メッキ法により形成されている。
【0037】
本実施形態において、温度検知用の第2超電導線材10は、金属安定化基層18上の金属安定化層19内に、金属安定化基層18の上面と第2超電導線材10の下面とが接するように配されている。このように第2超電導線材10を金属安定化層19a内に設置する方法としては、第1超電導線材2aの基材11とベッド層15と中間層16と超電導層17と金属安定化基層18との積層体S1を形成した後に、積層体S1の上面(金属安定化基層18の上面)に第2超電導線材10を沿わせた状態で銅等の良導電性の金属をメッキすることにより、金属安定化層19a〜19dが形成されると同時に、第2超電導線材10を金属安定化層19a内に埋没させて固定する方法が挙げられる。
【0038】
超電導線材2Aの第1超電導線材1aにおいて、万が一、その一部で常電導転移が発生した場合、金属安定化基層18及び金属安定化層19には、超電導層17の電流が転流してジュール熱が発生し発熱が起こる。本実施形態の超電導線材2Aは、温度検知用の第2超電導線材10の下面が超電導層17上に積層された金属安定化基層18の上面に接する状態で金属安定化層19a内に配されていることにより、上述の第1実施形態の超電導線材1Aの効果に加えて、より一層温度変化(温度上昇)の検知精度および応答性を向上させることができる。
【0039】
なお、図3では、金属安定化層19aの厚さと第2超電導線材10の径がほぼ同一である場合について例示しているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。金属安定化層19aの厚さを第2超電導線材10の径よりも大きく設定し、温度検知媒体10が金属安定化層19a内に完全に埋没していてもよいし、第2超電導線材10の径(厚さ)を金属安定化層19aの厚さよりも大きくして、第2超電導線材10の一部が露出していてもよい。
【0040】
また、本実施形態においては、1つの温度検知用の第2超電導線材10が金属安定化層19aの内部に配されている構成を例示したが、本発明はこれに限定されない。超電導線材2Aの信頼性を向上させるために、2つ以上の第2超電導線材10が金属安定化層19aの内部に配されている構成とすることも好ましい。
【0041】
<第3実施形態>
図4は、本発明の第3実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。図4において、図1および図2に示した超電導線材1A、並びに、図3に示した超電導線材2Aと同じ構成要素には同一の符号を付した。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態および第2実施形態と異なる部分について主に説明し、同様の部分については説明を省略する。
本実施形態の超電導線材3Aは、テープ状の基材11の上にベッド層15と中間層16と超電導層17と金属安定化基層18とがこの順に積層された積層体S1と、この積層体S1の上面、一方の側面、他方の側面および下面を覆うように形成された金属安定化層19a、19b、19c、19d(金属安定化層19)とにより構成された第1超電導線材3aと、第1超電導線材3aの超電導層17の側方の金属安定化層19b内に配された温度検知用の第2超電導線材10とにより概略構成されている。
第3実施形態の超電導線材3Aは、温度検知用の第2超電導線材10が金属安定化層19b内に配されている点において、上述した第2実施形態の超電導線材2Aとは異なっている。
【0042】
金属安定化層19a〜19dとしては第2実施形態と同様のものが挙げられ、メッキ法により形成されている。第2超電導線材10を金属安定化層19b内に設置する方法としては、第1超電導線材3aの積層体S1の一方の側面に第2超電導線材10を沿わせた状態で銅等の良導電性の金属をメッキすることにより、金属安定化層19a〜19dが形成されると同時に、第2超電導線材10を金属安定化層19b内に埋没させて固定する方法が挙げられる。
【0043】
本実施形態の超電導線材3Aは、第1超電導線材3aの超電導層17の側面と接する金属安定化層19b内に温度検知用の第2超電導線材10が配されているので、万一、常電導転移が発生した場合、超電導層17より金属安定化層19bへと電流が転流することによる発熱を、良好な精度および応答性で検知することができる。さらに、第2超電導線材10を、金属安定化層19b内のうち、超電導層17の近傍に配する構成とすることにより、温度検知の精度および応答性をより一層向上させることができる。
【0044】
なお、図4では、金属安定化層19bの厚さと第2超電導線材10の径(厚さ)がほぼ同一である場合について例示しているが、本実施形態はこれに限定されるものではない。金属安定化層19bの厚さを第2超電導線材10の径よりも大きく設定し、第2超電導線材10が金属安定化層19b内に完全に埋没していてもよいし、第2超電導線材10の径(厚さ)を金属安定化層19bの厚さよりも大きくし、第2超電導線材10の一部が露出していてもよい。
【0045】
また、本実施形態においては、1つの温度検知用の第2超電導線材10が金属安定化層19bの内部に配されている構成を例示したが、本発明はこれに限定されない。超電導線材3Aの信頼性を向上させるために、2つ以上の温度検知用の第2超電導線材10を備える構成とすることも好ましい。超電導線材3Aが、2つ以上の第2超電導線材10を備える場合、複数の第2超電導線材10の配置は特に限定されず、金属安定化層19b内に複数配されていても良いし、積層体S1の一方の側面側の金属安定化層19bと、積層体S1の他方の側面側の金属安定化層19cとにそれぞれ配されていても良い。また、本実施形態の変形例として、図5に示す超電導線材3Bのように、積層体S1の側方の金属安定化層19bと、積層体S1上の金属安定化層19aとに、温度検知用の第2超電導線材10が配されていても良い。さらに、積層体S1上の金属安定化層19aと、積層体S1の両側面の金属安定化層19b、19cとに、それぞれ第2超電導線材10が配されている構成とすることも勿論可能であるし、第1超電導線材1本あたりの温度検知用の第2超電導線材10の数は、特に限定されるものではない。
【0046】
さらに、本実施形態の変形例の他例として、図11に示す超電導線材3Cの様に、基材1とベッド層15と中間層16と超電導層17とがこの順に積層された積層体S2と、この積層体S2の上面、一方の側面、他方の側面および下面を覆うように形成された金属安定化基層18a、18b、18c、18d(金属安定化基層18)と、金属安定化基層18の外周を覆うように形成された金属安定化層19a、19b、19c、19d(金属安定化層19)とにより構成された第1超電導線材3cの、第1超電導線材3cの超電導層17の側方の金属安定化層19b内に、金属安定化基層18bに接するように温度検知用の第2超電導線材10が配されていてもよい。この場合、金属安定化基層18a、18b、18c、18d(金属安定化基層18)は、前記した第1実施形態と同様の材料よりメッキ法により形成されている。図11に示す超電導線材3Cにおいても、さらに、金属安定化層19c、19a等に、金属安定化基層18に接するように第2超電導線材10が配されている構成とすることも勿論可能であるし、第1超電導線材3c1本あたりの温度検知用の第2超電導線材10の数は、特に限定されるものではない。
【0047】
<第4実施形態>
図6は、本発明の第4実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。図6において、図1および図2に示した超電導線材1Aと同じ構成要素には同一の符号を付した。なお、以下の説明では、上述した第1実施形態と異なる部分について主に説明し、同様の部分については説明を省略する。
本実施形態の超電導線材4Aは、テープ状の基材11の上にベッド層15と中間層16と超電導層17とが積層されるとともに、超電導層17の上に金属安定化基層18と金属安定化層19が積層されて構成された第1超電導線材4aと、第1超電導線材4aの上面(金属安定化層19の上面)に接するように設けられた温度検知用の第2超電導線材10により概略構成されている。
【0048】
第1超電導線材4aの上面(金属安定化層19の上面)に温度検知用の第2超電導線材10を設置する方法としては、接着剤などにより固定する方法や、図2に示すように外周部に絶縁層20を設ける際に、第1超電導線材4aの上面に接するように沿わせた状態で絶縁性のテープなどを巻きつけることにより、第1超電導線材4aの上面と絶縁層20との間に配する方法等を例示できる。本実施形態の超電導線材4Aは、第1超電導線材4aへの第2超電導線材10の設置方法が簡便であり、生産性が良好であるため好ましい。
なお、図6に示す本実施形態の超電導線材4Aでは、第1超電導線材4aの金属安定化層19の上面に接するように第2超電導線材10が設置された例を示したが、本発明はこれに限定されない。図2に示す如く、第1超電導線材の外周を覆うように形成された絶縁層20の上面に第2超電導線材が配されていても良いし、絶縁層20の内部に第2超電導線材が配されていてもよい。
【0049】
<他の実施形態>
第1〜第4実施形態では、薄膜積層構造の超電導線材について述べたが、本発明はこれに限定されない。
図7は、本発明の他の実施形態に係る超電導線材の一例を示す概略断面図である。この実施形態の超電導線材5Aは、扁平な断面形状を有する線材であり、長手方向に伸びる複数の超電導体フィラメントにより形成された扁平な断面形状の超電導層37と、超電導層37の周囲を被覆する扁平な金属安定化層39とで構成された第1超電導線材5aと、第1超電導線材5aの金属安定化層39に形成された収納溝9に収容された温度検知用の第2超電導線材10とで概略構成されている。
【0050】
超電導層37形成する材料としては、例えば、BiSrCaCu(Bi2212相:臨界温度Tc=80K)、BiSrCaCu(Bi2223相:臨界温度Tc=110K)、Bi1.6Pb0.4SrCaCu、TlBaCaCu、YBaCu7−xなどで示される組成を持つ酸化物超電導材料のような高温超電導材料から選択された1種以上のものが用いられ、特に、Bi2223相またはBi2212相のBi系酸化物超電導材料が用いられる。
金属安定化層39は、銀あるいは銀合金より形成されている。収納溝9および第2超電導線材10としては、上述の第1実施形態と同様の構成および構造とすることができる。
【0051】
本実施形態の超電導線材5Aは、超電導層37の原料粉末が充填された銀または銀合金製のパイプを伸線して多芯化し、さらに伸線、圧延および焼成を繰り返すPIT法(Powder In Tube法)により製造される。超電導線材5A(第1超電導線材5a)の厚さは、テープ状の導体構造の場合、0.2〜0.3mm程度であり、超電導層37と金属安定化層39との体積比率は、例えば、2:3程度とすることができる。
本実施形態の超電導線材5Aの第1超電導線材5aにおいて、金属安定化層39は超電導層37の全周を覆っているが、超電導層37の幅方向両端側においては、超電導層37の外方に突出部39aが形成されている。温度検知用の第2超電導線材10は、超電導層37の幅方向の一端側の突出部39aの上部に、第1超電導線材5aの長手方向に連続的に形成された収納溝9の内部に、第1超電導線材5aの長手方向に沿って収納されている。収納溝9の形成は、例えば、伸線、圧延および焼成等により超電導層37と金属安定化層39が形成された後に、金属安定化層19をレーザ等により加工することにより、或いは、ロール圧延時に超電導層37がない部分の突出部39aにロール圧延で溝を形成することにより行うことができる。収納溝9への第2超電導線材10の設置方法は、上述の第1実施形態と同様である。
【0052】
本実施形態の超電導線材5Aも、上記実施形態と同様に第1超電導線材5aと温度検知用の第2超電導線材10を備えることにより、超電導線材5Aの一部で温度上昇が起こり、第2超電導線材10の臨界温度Txに達した時点で、第2超電導線材10の電圧値が大幅に上昇するので、容易に温度変化(温度上昇)を検知することができる。
また、本実施形態の超電導線材5Aも、第1〜第3実施形態の超電導線材と同様に、第1超電導線材5aの金属安定化層39に温度検知用の第2超電導線材10が配されていることにより、万一、常電導転移が発生した場合にも、良好な精度および応答性で、温度変化(温度上昇)を検知することができる。さらに、本実施形態の超電導線材5Aは、温度検知媒体を超電導線材の外周面に設置する場合と比較して、薄型化することができ、超電導線材5Aを同心円状に巻回して超電導コイルとする場合、超電導線材5Aを高密度で巻回でき、良好な電流密度とすることができる。
【0053】
なお、本実施形態においては、1つの温度検知用の第2超電導線材10が金属安定化層39の内部に配されている構成を例示したが、本発明はこれに限定されず、超電導線材5Aの信頼性を向上させるために、2つ以上の第2超電導線材10が金属安定化層39の内部に配されている構成とすることも好ましい。また、金属安定化層39における第2超電導線材10の配置も適宜変更可能である。さらに、本実施形態においては、複数本の超電導フィラメントより超電導層37が形成されている例を示したが、本実施形態はこれに限定されず、1本の超電導フィラメントより超電導層37が形成されていてもよい。
【0054】
[超電導コイル]
次に、本発明に係る超電導コイルの一実施形態について説明する。
図8は、本発明の超電導コイル50の一実施形態を示す概略斜視図である。
超電導コイル50は、第1コイル体51上に、第2コイル体52が、同軸的に積層されて構成されている。
第1コイル体51は、上述した本発明に係る第2実施形態の超電導線材2Aが、金属安定化層19a側を外側にして、同心円状、反時計回りに多数回巻回されて構成されたパンケーキ型のコイル体である。第1コイル体51を構成する超電導線材2Aの金属安定化層19a内には、温度検知用の第2超電導線材10が配されており、超電導線材2Aの巻回に伴い、第2超電導線材10も同心円状、反時計回りに多数回巻回されている。
第2コイル体52は、上述した本発明に係る第2実施形態の超電導線材2Aが、金属安定化層19a側を外側にして、同心円状、時計回りに多数回巻回されて構成されたパンケーキ型のコイル体である。第2コイル体52を構成する超電導線材2Aの金属安定化層19a内には、温度検知用の第2超電導線材10が配されており、超電導線材2Aの巻回に伴い、第2超電導線材10も同心円状、時計回りに多数回巻回されている。
第1コイル体51の巻回終端である外周端部51aと、第2コイル体52の巻回端部である外周端部52aとは、互いに隣接するように配されており、良導電性の接続板(図示略)により、電気的および機械的に接続されている。
【0055】
なお、本実施形態の超電導コイル50において、第1コイル体51及び第2コイル体52を構成する各超電導線材2A、2Aが備える温度検知用の第2超電導線材10、10は、超電導コイル50内の温度変化(温度上昇)を検知可能であれば、夫々のコイル体に独立に配されていても良いし、2つのコイル体に連続的に配されていても良い。例えば、第1コイル体51の超電導線材2Aが備える温度検知用の第2超電導線材10と、第2コイル体52の超電導線材2Aが備える温度検知用の第2超電導線材10が、個々に、外部の検出手段(図示略)に連通されていてもよい。また、第1コイル体51の温度検知用の第2超電導線材10と、第2コイル体52の温度検知用の第2超電導線材10が、第1コイル体51の巻回終端である外周端部51aと、第2のコイル体52の巻回端部である外周端部52aで連続的に繋がった状態で配されており、第2超電導線材10の端部が外部の検出手段(図示略)に連通されていてもよい。
【0056】
本発明の超電導コイル50は、本発明の超電導線材2Aを巻回して形成された第1および第2コイル体51、52を備えることにより、万一、常電導転移が発生した場合にも、温度検知用の第2超電導線材10の臨界温度Txまで温度が上昇した時点で、第2超電導線材の電圧値が大幅に上昇するので、容易に超電導コイル50内の温度変化(常電導転移)を検知することができる。また、本発明の超電導線材2Aにおいては、第1超電導線材の臨界温度Tcは、温度検知用の第2超電導線材10の臨界温度Txよりも高く設定されているため、温度Txにて常電導転移の発生を検知した時点で、電流値を低下させるなどの処置を施すことができるため、超電導コイル50を構成する第1超電導線材の常電導転移領域が拡大することを防ぐことができる。
【0057】
なお、本実施形態においては、コイル体を2個積層させた構成の超電導コイル50を例示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、3個以上のコイル体より形成されていても良いのは勿論である。また、超電導コイル50を構成する第1コイル体51および第2コイル体52は、上述した本発明に係る第1〜第4実施形態のおよび他の実施形態の超電導線材1A、2A、3A、3B、4A、5Aのうち、いずれの超電導線材より形成されていても良いのは勿論である。
【0058】
[超電導保護装置]
次に、本発明に係る超電導保護装置の一実施形態について説明する。
図9は、本発明の超電導保護装置100の一実施形態を示す概略構成図である。
超電導保護装置100は、上記本発明の超電導コイル50が備える温度検知用の第2超電導線材手段60の一端60aが電源61と連通され、第2超電導線材60の他端60bが検出器62に連通されて概略構成されている。この超電導保護装置100は、電源61を作動させて第2超電導線材60の一端60aより第2超電導線材60に電流を流し、第2超電導線材60の他端60bにおいて検出器62により、第2超電導線材60の電圧値の変化を観測して超電導コイル50内の温度変化(常電導転移)を検出する。これにより、万一、超電導コイル50において超電導転移が発生した場合、超電導コイル中の温度が第2超電導線材60の臨界温度Txまで上昇した時点で直ちに検出される電圧値に変化が現れるため、常電導転移を検出することができる。
【0059】
本発明の超電導保護装置100は、本発明の超電導コイル50を備えることにより、万一、常電導転移が発生した場合にも、温度検知用の第2超電導線材60の臨界温度Txまで温度が上昇した時点で、第2超電導線材60の電圧値が大幅に上昇し、直ちに検出器62で検出される電圧値が大きく変化するので、容易に超電導コイル50内の温度変化(常電導転移)を検知することができる。また、本発明の超電導保護装置100を構成する超電導コイル50において、第1超電導線材の臨界温度Tcは、温度検知用の第2超電導線材の臨界温度Txよりも高く設定されている。そのため、本発明の超電導保護装置100は、温度Txにて常電導転移の発生を検知した時点で、電流値を低下させるなどの処置を施すことができるため、超電導コイル50内の常電導転移領域が拡大することを防いで、超電導コイル50を良好な状態で保護することができる。
【0060】
以上、本発明の超電導線材、超電導コイルおよび超電導保護装置について説明したが、上記実施形態において、超電導線材の各部、超電導コイルを構成する各部、および超電導保護装置を構成する各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例)
「第1超電導線材の作製」
幅5mm、厚さ0.1mmのテープ状のハステロイ(米国ヘインズ社製商品名)製の基材上に、イオンビームアシストスパッタ法(IBAD法)により1.2μm厚のGdZr(GZO;中間層)を形成した上に、パルスレーザー蒸着法(PLD法)により1.0μm厚のCeO(キャップ層)を成膜した。次いでCeO層上にPLD法により1.0μm厚のYBaCu(超電導層)を形成し、さらに超電導層上にスパッタ法により10μmの銀層(金属安定化基層)を形成した。その後、0.1mm厚の銅層(金属安定化層)を半田により銀層上に積層することにより、第1超電導線材(臨界温度Tc=93K)を作製した。
【0062】
「第2超電導線材の作製」
PIT法(Powder In Tube法)により製造された直径Φ=0.8mmのMgB超電導線材(臨界温度Tx=39K)を準備し、このMgB超電導線材の外周部に厚さ12.5μmのポリイミドテープを巻き付けることにより、第2超電導線材を作製した。
【0063】
「超電導線材および超電導コイルの作製」
上記で作製した第1超電導線材の銅層の上面に、第2超電導線材を配置して、この線材の周囲に、厚さ12.5μmのポリイミドテープを巻きつけることにより、図6に示す構造の超電導線材を作製した。
次いで、得られたポリイミドテープ付きの超電導線材を、内径70mmとして同心円状に35回巻回させてコイル体を作製した。次に、同様の手順で作製した2個のコイル体を同軸的に積層させることにより、高さ10mm、総ターン数70ターン(35ターン×2)の超電導コイルを作製した。
【0064】
「評価」
作製した超電導コイルを、冷凍機による伝導冷却により20Kまで冷却し、超電導状態とした。次に、温度調整器により昇温させたところ、温度が39Kを越えた時点で直ちに、第2超電導線材の電圧値が発生することを確認した。この結果より、本発明によれば、超電導コイル(および超電導線材)内における常電導転移(温度上昇)を容易に検出可能であることが明らかである。
【符号の説明】
【0065】
1A、2A、3A、3B、4A、5A…超電導線材、1a、2a、3a、3b、4a、5a…第1超電導線材、9…収納溝、10、60…第2超電導線材、11…基材、15…ベッド層、16…中間層、17、37…超電導層、18…金属安定化基層、19、19a、19b、19c、19d、39…金属安定化層、20…絶縁層、50…超電導コイル、51…第1コイル体、52…第2コイル体、100…超電導保護装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1超電導線材と、温度検知用の第2超電導線材とを備え、
前記第1超電導線材の臨界温度Tc、前記第2超電導線材の臨界温度Txが、Tx<Tcの関係を満たすことを特徴とする超電導線材。
【請求項2】
前記第1超電導線材を超電導状態とする運転温度Top、前記臨界温度Tc、前記臨界温度Txが、Top<Tx<Tcの関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
【請求項3】
前記第1超電導線材は、超電導層と金属安定化層とを備え、
前記第2超電導線材は、前記第1超電導線材の前記金属安定化層に接する位置に配されていることを特徴とする請求項1または2に記載の超電導線材。
【請求項4】
前記第2超電導線材は、少なくともその一部が前記第1超電導線材の前記金属安定化層の内部に配されていることを特徴とする請求項3に記載の超電導線材。
【請求項5】
前記第1超電導線材の前記超電導層と前記金属安定化層との間に金属安定化基層が介在されてなり、前記第2超電導線材は前記金属安定化基層に接触するように配されていることを特徴とする請求項4に記載の超電導線材。
【請求項6】
前記第1超電導線材の前記金属安定化層は、前記超電導層の上部及び側部に配され、前記第2超電導線材は前記超電導層の側方に配されていることを特徴とする請求項3または4に記載の超電導線材。
【請求項7】
前記第2超電導線材を、少なくとも2つ備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の超電導線材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載の超電導線材を用いてなる超電導コイル。
【請求項9】
請求項8に記載の超電導コイルを用いてなる超電導保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−238455(P2011−238455A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108544(P2010−108544)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】