説明

超電導線材、超電導線材の接続部、永久電流スイッチ、超電導磁石システム及び超電導線材の接続方法

【課題】良好な磁場安定性と長期間に亘る通電安定性とを得る。
【解決手段】銅マトリックス13の内部にNb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメント11が内蔵された永久電流用の超電導線材において、超電導フィラメントの周囲に動作環境下で超電導性を有さないNb−Ta合金12aが被覆されている。前記Nb−Ta合金は、Taを10質量%以上50質量%以下含有し、温度4.2Kにおける動作磁場の環境下で超電導性を有さない。また、前記Nb−Ta合金は、ビッカース硬さが前記超電導フィラメントの1.0倍以上1.5倍以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久電流用の超電導線材、その接続部、これらを備える永久電流スイッチ及び超電導磁石システム並びに永久電流用の超電導線材の接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニオブ−チタン(Nb−Ti)合金等を用いた超電導線材の適用分野には、例えば永久電流モードによる時間的に安定な磁場を利用した核磁気共鳴分析装置や磁気共鳴イメージング装置がある。特に、医療用の磁気共鳴イメージング装置の超電導磁石システムにおいては、システムの共鳴周波数の増大や高分解能化、並びに、被験者を撮影する均一磁場空間を大きくとるため高い電流密度を有する超電導線材の適用技術やこれを高い信頼性で超電導接続する接続技術が要求されている。
【0003】
永久電流モードで用いる超電導コイルには、Nb−Ti合金やニオブスズ(NbSn)化合物のフィラメントを銅マトリックス中に多数本配置させた永久電流用の超電導線材が使用される。これらの超電導線材の両端を相互に接続した閉回路に永久電流を流すことで、時間的に安定な磁場が得られる。磁場の時間的安定性を向上させるには、超電導線材の接続部の電気抵抗を小さくして磁場減衰を低減することに加え、長期に亘る永久電流モードでの稼働において超電導性が消失しない優れた通電安定性を確保することが重要である。
【0004】
図11(a)に、従来技術を用いて接続された超電導フィラメント51の接続部の断面図を示す。図11(a)に示すように、従来技術では、接続する超電導フィラメント51の束を銅管(Cuスリーブ)54の内部に配置し、銅管54を押しつぶすことで圧着する。例えば特許文献1には、Nb−Ti超電導フィラメントを備える複合多芯超電導線材の接続方法が開示されている。すわなち、銅マトリックスを除去して内部の超電導フィラメントを露出させた後、露出した超電導フィラメントを束ねて接続する。
【0005】
また、Nb−Ti合金からなる超電導線材においては、臨界電流特性を向上させるため時効熱処理を施すことがあり、その際、銅マトリックスと超電導フィラメントとの界面にチタン銅(CuTi)化合物が生成し易い。このチタン銅化合物は伸線加工時の断線要因となる。そこで、例えば超電導フィラメントの周囲に反応を防止するバリア層を被覆する。図11(b)に、従来技術に係る超電導線材50の断面図を示す。図11(b)に示す例では、銅マトリックス53中に配置されるNb−Ti合金からなる超電導フィラメント51がタンタル(Ta)バリア層52で被覆されている。例えば特許文献2には、Nb−Tiフィラメントの周りにNbやTaの単層バリア層、或いはNbとTaとの複合バリア層を配置した超電導線材について開示されており、また、特許文献3には、NbにTa等を添加した超電導金属からなる合金を用いた超電導線材について開示されている。
【0006】
このようなNb−Ti合金からなる永久電流用の超電導線材の接続部は、例えば圧密化で一体化した超電導フィラメントの束から構成され、超電導接続された接続端部間を流れる超電導電流はこれらの超電導フィラメント同士の間を複雑に分流している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2902239号公報
【特許文献2】特開平09−106715号公報
【特許文献3】特開平08−212847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えば特許文献1に記載の方法により得られる接続部では、接続される超電導フィラメント同士が一体化されてしまうため、磁場安定性に乏しく、かつ、個々の超電導フィラメントに流れる電流値が不均一となり、永久電流モードの長期安定性の確保が困難である。このような弊害は、超電導金属からなるバリア層を超電導金属フィラメントの外周に形成した特許文献3の構成を相互に接続した場合においても起こり得る。
【0009】
また、特許文献2のような、Nb−Tiフィラメントよりも軟らかいNb単体のバリア層を介して接続した場合、バリア層が破れてNb−Tiフィラメント同士が直接接触してしまうおそれがある。Nb−Tiフィラメントよりも硬いTaの単層バリア層又は複合バリア層を介して接続した場合、Nb−Tiフィラメント間を隙間なく密着させることが困難となってしまう。
【0010】
本発明の目的は、良好な磁場安定性と長期間に亘る通電安定性とを有する永久電流用の超電導線材、その接続部、これらを備える永久電流スイッチ及び超電導磁石システム並びに永久電流用の超電導線材の接続方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、銅マトリックスの内部にNb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントが内蔵された永久電流用の超電導線材において、前記超電導フィラメントの周囲に動作環境下で超電導性を有さないNb−Ta合金が被覆された超電導線材が提供される。
【0012】
本発明の第2の態様によれば、前記Nb−Ta合金は、Taを10質量%以上50質量%以下含有し、温度4.2Kにおける動作磁場の環境下で超電導性を有さない第1の態様に記載の超電導線材が提供される。
【0013】
本発明の第3の態様によれば、前記Nb−Ta合金は、Taを10質量%以上含有し、温度4.2Kにおける動作磁場が0.15T以上の環境下で超電導性を有さない第2の態様に記載の超電導線材が提供される。
【0014】
本発明の第4の態様によれば、前記銅マトリックスは、Cu−Ni合金からなる第1〜第3の態様のいずれかに記載の超電導線材が提供される。
【0015】
本発明の第5の態様によれば、前記Nb−Ta合金は、ビッカース硬さが前記超電導フィラメントの1.0倍以上1.5倍以下である第1〜第4の態様のいずれかに記載の超電導線材が提供される。
【0016】
本発明の第6の態様によれば、前記Nb−Ta合金は、厚さが0.1μm以下に被覆されている第1〜第5の態様のいずれかに記載の超電導線材が提供される。
【0017】
本発明の第7の態様によれば、Nb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントが機械的手段によって密着され一体化した永久電流用の超電導線材の接続部において、前記超電導フィラメントの周囲に動作環境下で超電導性を有さないNb−Ta合金が被覆され、接続される前記超電導フィラメント同士の接触を抑制しつつ、前記Nb−Ta合金が相互に密着することで前記超電導フィラメントが一体化されている超電導線材の接続部が提供される。
【0018】
本発明の第8の態様によれば、Nb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントが密着され一体化した永久電流用の超電導線材の接続部において、接続される前記超電導フィラメント同士が常電導金属を介して機械的手段により一体化されている超電導線材の接続部が提供される。
【0019】
本発明の第9の態様によれば、前記常電導金属は、Nb−Ta合金である第8の態様に記載の超電導線材の接続部が提供される。
【0020】
本発明の第10の態様によれば、Nb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントが密着され一体化した永久電流用の超電導線材の接続部において、接続される前記超電導フィラメント同士が、前記超電導フィラメントの間を仕切るように前記超電導フィラメントの周囲に冶金的手段で生成され、動作環境下で超電導性を有さないNb−Sn化合物により仕切られている超電導線材の接続部が提供される。
【0021】
本発明の第11の態様によれば、第1〜第6の態様のいずれかの超電導線材を備える永久電流スイッチが提供される。
【0022】
本発明の第12の態様によれば、前記超電導線材には、第7〜第10の態様のいずれかの接続部が設けられている第11の態様に記載の永久電流スイッチが提供される。
【0023】
本発明の第13の態様によれば、第1〜第6の態様のいずれかの超電導線材と、第7〜第10の態様のいずれかの接続部と、を備える超電導磁石システムが提供される。
【0024】
本発明の第14の態様によれば、前記超電導線材には、第11又は第12の態様の永久電流スイッチが接続されている第13の態様に記載の超電導磁石システムが提供される。
【0025】
本発明の第15の態様によれば、Nb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントを密着させ一体化する永久電流用の超電導線材の接続方法において、前記超電導フィラメントを溶融Sn浴に浸漬することで、前記超電導フィラメントの間を仕切るように、動作環境下で超電導性を有さないNb−Sn化合物を前記超電導フィラメントの表面に生成させつつ、前記超電導フィラメントを包む銅マトリックスを除去する冶金的な工程と、前記超電導フィラメントの表面に付着したSnを酸によって除去する工程と、前記Nb−Sn化合物で表面が被覆された前記超電導フィラメント同士を相互に接合して一体化する工程と、を有する超電導線材の接続方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、良好な磁場安定性と長期間に亘る通電安定性とが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係る永久電流用の超電導線材の断面図であり、(b)は超電導線材を構成する超電導フィラメントの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態の変形例に係る永久電流用の超電導線材を構成する超電導フィラメントの断面図である。
【図3】本発明の実施例1に係る超電導線材が備えるNb−Taバリア層中のTaの含有率と臨界温度及び臨界磁場との関係を表わすグラフである。
【図4】本発明の実施例1に係る超電導線材が備えるNb−Taバリア層中のTaの含有率と温度4.2Kにおける臨界磁場との関係を表わすグラフである。
【図5】本発明の実施例1に係るTaの含有率が10質量%のNb−Taバリア層を備える超電導線材を用いた閉回路内に発生する電圧スパイクと経過時間との関係を表わすグラフである。
【図6】本発明の実施例1に係る超電導線材を用いた閉回路における外部磁場と電圧スパイクの発生数との関係を表わすグラフである。
【図7】本発明の実施例1に係る超電導線材を用いた閉回路における外部磁場と永久電流の通電安定性との関係を表わすグラフである。
【図8】本発明の実施例2に係る超電導線材の超電導フィラメントに被覆したNb−Taバリア層を構成するTaの含有率が10質量%のNb−Ta合金のビッカース硬さの測定結果を、比較例としてバリア層を構成する他の材料、超電導フィラメント及び銅マトリックスをそれぞれ構成するNb−Ti合金及びCuのビッカース硬さの測定結果とともにプロットしたグラフである。
【図9】本発明の実施例2に係る超電導線材の超電導フィラメントに被覆したNb−Taバリア層を構成するNb−Ta合金中のTaの含有率とNb−Ta合金のビッカース硬さとの関係を表わすグラフである。
【図10】機械的手段により超電導フィラメントが密着され一体化した超電導線材の接続部の断面観察結果であって、(a)は本発明の実施例2に係る超電導線材の接続部の模式図であり、(b)は比較例に係る超電導線材の接続部の模式図である。
【図11】従来技術を用いた超電導線材及び超電導線材の接続方法の説明図であって、(a)は超電導フィラメントの接続部の断面図であり、(b)は超電導線材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<本発明の一実施形態>
(1)超電導線材及び超電導線材の接続部
以下に、本発明の一実施形態に係る永久電流用の超電導線材について、図1を用いて説明する。また、例えば超電導線材の両端を相互に接続した接続部についても併せて説明する。図1(a)は本実施形態に係る永久電流用の超電導線材10の断面図であり、(b)は超電導線材10を構成する超電導フィラメント11の断面図である。
【0029】
(超電導線材の構成)
図1(a)に示すように、超電導線材10は、銅マトリックス13の内部に、例えばニオブ−チタン(Nb−Ti)合金からなる多数本の超電導フィラメント11が内蔵された複合多芯超電導線材として構成されている。
【0030】
超電導フィラメント11は、例えば六角形等の多角形状に形成され、対辺距離が例えば50μm程度に構成されている。また、図1(b)に示すように、個々の超電導フィラメント11の周囲には、例えば動作環境下で超電導性を有さないニオブ−タンタル(Nb−Ta)合金からなるNb−Taバリア層12aが被覆されている。
【0031】
銅マトリックス13は、例えば銅−ニッケル(Cu−Ni)合金からなる。銅マトリックス13により、Nb−Taバリア層12aが個々に被覆された多数本の超電導フィラメント11が束ねられることで、銅マトリックス13に多数本の超電導フィラメント11が内蔵された超電導線材10が構成されている。銅マトリックス13をCu−Ni合金から構成することで、常電導状態において超電導線材10の全体の電気抵抗値を大きくすることができる。
【0032】
Nb−Taバリア層12aは、例えばTaを10質量%以上50質量%以下含有し、超電導線材10が適用される機器等の動作環境下、例えば温度4.2Kにおける動作磁場の環境下で超電導性を有さないよう構成されている。また、Nb−Taバリア層12aは、例えばビッカース硬さが超電導フィラメント11の1.0倍以上1.5倍以下であり、厚さが例えば0.1μm以下に被覆されている。
【0033】
このように、超電導フィラメント11の周囲にNb−Taバリア層12aを被覆することで、チタン銅(CuTi)化合物の生成反応を抑制することができる。
【0034】
脆性の高いチタン銅化合物は、例えば臨界電流特性を向上させるための時効熱処理等により超電導フィラメントの周囲に生成され、例えば超電導フィラメントの伸線加工(減面加工)時の断線要因となってしまう。
【0035】
本実施形態では、Nb−Taバリア層12aにより、チタン銅化合物の生成を抑えることができ、超電導フィラメント11の断線を低減することができる。
【0036】
(超電導線材の接続部の構成)
上記のように構成される永久電流用の超電導線材10は、例えば超電導線材10の両端を接続する等して設けられた接続部を備え、超電導磁石システムを構成する閉回路等として用いられる場合がある。
【0037】
永久電流用の超電導線材10の接続部は、例えば圧密化等の機械的手段によって、多数本の超電導フィラメント11が密着され一体化した構造を備える。接続部においては、超電導フィラメント11を包む銅マトリックス13が予め取り除かれたうえで、接続される個々の超電導フィラメント11同士の接触を抑制しつつ、動作環境下で超電導性を有さないNb−Taバリア層12aを構成するNb−Ta合金が相互に密着することで、超電導フィラメント11が一体化されている。
【0038】
このように、例えば上記接続部を含む閉回路として構成される超電導線材10は、所定の機器等に組み込まれ、所定の温度及び動作磁場の環境下で使用される。上述のように、Nb−Taバリア層12aは、例えばTaを10質量%以上50質量%以下含有し、このような動作環境下で超電導性を有さないよう構成される。つまり、Nb−Ta合金中のTaの含有率を比較的大きくし、Nb−Ta合金の臨界温度や臨界磁場(臨界磁界)を低下させることで、超電導性を有さないこととすることができる。
【0039】
つまり、Taの含有率は、超電導線材10の構成や材質、動作環境に応じて適宜調整することができる。具体的には、液体ヘリウム(He)等の冷却による温度4.2Kにおいて、動作磁場が0.15T(テスラ)以上の環境下では、Nb−Taバリア層12aのTaが10質量%以上の超電導線材10を用いることができる。
【0040】
このように、超電導性を有さないNb−Ta合金のような常電導金属を介して超電導フィラメント11同士が一体化されることで、良好な磁場安定性と長期間に亘る通電安定性とを得ることができる。
【0041】
上述の特許文献1のように超電導フィラメントを構成するNb−Ti合金同士が直接接続される場合、超電導電流が流れる部位のサイズが大きくなってしまい、フラックスジャンプと呼ばれる磁気跳躍等の磁気的な不安定性が生じ易い。また、特許文献2のようにNbバリア層を介して超電導フィラメント同士が接続される場合、純Nbは動作環境によっては超電導性を有する低特性の超電導体であるため、超電導フィラメント同士が電気的、磁気的に結合し易く、低磁場での不安定性や接続部の超電導性が消失するクエンチ現象が生じる要因となり得る。また、特許文献3のように超電導金属からなるNb−Ta合金等のバリア層を介した接続の場合においても、同様の障害が生じてしまう。
【0042】
本実施形態では、超電導性を有さないNb−Ta合金を介して超電導フィラメント11同士が一体化される構成となっている。これにより、上記特許文献1〜3等の場合と異な
り、低磁場でも安定な超電導性が得られ、また、クエンチ現象が生じ難くなる。
【0043】
また、上述のように、Nb−Taバリア層12aのビッカース硬さが超電導フィラメント11の1.0倍以上1.5倍以下と、超電導フィラメント11よりも若干硬いため、Nb−Taバリア層12aの破れ等によって超電導フィラメント11同士が接触しないよう、超電導フィラメント11を一体化させて接続することができる。
【0044】
上述のように、Nb単体のバリア層は、例えばNb−Ti合金からなる超電導フィラメントよりも軟らかいため、圧密化等による接続時の変形の際、被覆が破れて内部のNb−Ti合金が相互に接触する部位が生じ易い。これにより、超電導フィラメント同士が直接接触する電気抵抗値がゼロの部位と、低特性な超電導性或いは常電導性を有するNbバリア層を介して接触する部位とが混在し、超電導フィラメント毎に接続抵抗が大きく異なってしまう。よって、低抵抗接続部位に電流が集中し、時間経過とともに電気的、磁気的な不安定性が生じることとなる。Taの含有率を0.5質量%あるいは5質量%とする特許文献3の構成においても充分な硬さが得られず、同様の弊害を生ずると考えられる。
【0045】
一方で、例えば特許文献2のTaの単体バリア層又は複合バリア層は、Nb−Ti合金等からなる超電導フィラメントよりも極度に硬いため、伸線加工時等に断線し易いほか、空隙を生じさせずに超電導フィラメントの束を相互に密着させ接続することが困難である。
【0046】
本実施形態では、Nb−Taバリア層12aが適度な硬さを有するため、接続時の変形の際に被覆が破れにくく、また、空隙が生じるのを抑制しつつ超電導フィラメント11の束全体を密着させ易い。このように、接続される個々の超電導フィラメント11同士が常電導金属として機能するNb−Ta合金を介して一体化されることで、接続抵抗のばらつきが低減し、個々の超電導フィラメント11に流れる電流の分布が略均等となって、永久電流の長期的な通電安定性を実現することができる。
【0047】
上述のように、Nb−Taバリア層12aは例えば厚さが0.1μm以下に被覆されており、この場合、接続部の実質的な電気抵抗値を例えば1×10−13Ω以下とすることができる。電気抵抗値が1×10−13Ω以下であれば、核磁気共鳴現象を応用した機器等に適用した場合であっても、永久電流モードでの電流や磁場の減衰を支障のない程度に小さくすることができる。
【0048】
(2)超電導線材の製造方法
次に、本発明の一実施形態に係る超電導線材10の製造方法および超電導線材10の接続方法について説明する。
【0049】
(超電導線材の製造方法)
まず、Nb−Ti合金棒の周囲に、例えばTaを10質量%以上50質量%以下含有するNb−Ta合金シートを数層巻き付けた複合体を銅管に挿入し、単芯ビレットを製作する。この単芯ビレットに押出加工と伸線加工とを施し、多角形状の単芯線材を得る。
【0050】
次に、単芯線材を多数本、例えば数百本束ねて銅管に組み込み、伸線加工とツイスト加工とを施して、Nb−Ti合金からなる超電導フィラメント11が銅マトリックス13に内蔵され、超電導フィラメント11の周囲にNb−Taバリア層12aが被覆された超電導線材10を製造する。
【0051】
上記のような伸線加工やツイスト加工等を経た後、超電導線材10が備えるNb−Taバリア層12aは、加工硬化による効果も加わって、例えばビッカース硬さが超電導フィ
ラメント11の1.0倍以上1.5倍以下となっている。また、上記所定量のTaを含有することで、動作環境下で超電導性を有さないNb−Taバリア層12aとなっている。
【0052】
(超電導線材の接続方法)
超電導線材10を接続するには、まず、超電導線材10の端部の銅マトリックス13を酸により溶解し、接続される相互の端部の露出した超電導フィラメント11同士を束ねて銅管に挿入する。次に、銅管に挿入した多数本の超電導フィラメント11を圧密化等の機械的手段により密着し一体化して、超電導線材10の接続部を得る。
【0053】
すなわち、超電導フィラメント11を挿入した銅管を例えばプレス加工で押しつぶし、超電導フィラメント11の周囲に被覆されたNb−Ta合金を相互に密着させることで超電導フィラメント11を一体化する。このとき、超電導フィラメント11よりも若干硬いNb−Ta合金により、接続される超電導フィラメント11同士の接触が抑制される。
【0054】
このように、動作環境下で超電導性を有さないNb−Taバリア層12aを介し、相互の接触を抑制しつつ超電導フィラメント11同士が密着され一体化することで、良好な磁場安定性と長期間に亘る通電安定性とを得ることができる。
【0055】
(3)変形例に係る超電導線材の接続部及び接続方法
次に、本発明の一実施形態の変形例に係る永久電流用の超電導線材の接続部及びその接続方法について、図2を用いて説明する。図2は、本変形例に係る永久電流用の超電導線材を構成する超電導フィラメント11の断面図である。
【0056】
本変形例に係る超電導線材の接続部は、Nb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメント11が密着され一体化した永久電流用の超電導線材の接続部であって、接続される多数本の超電導フィラメント11同士が、超電導フィラメント11の間を仕切るように超電導フィラメント11の周囲に冶金的手段で生成され、動作環境下で超電導性を有さないNb−Sn(ニオブ−スズ)化合物により仕切られている。
【0057】
具体的には、図2に示すように、個々の超電導フィラメント11の周囲には、生成したNb−Sn化合物からなるNb−Sn化合物層12bが被覆された状態となっている。Nb−Sn化合物層12bは、例えば純Nb或いはNb−Ta合金等のNb合金と、Snと、の化合物から構成される。また、Nb−Sn化合物層12bは、動作環境下、例えば温度4.2Kにおける動作磁場の環境下で超電導性を有さないよう構成され、厚さが例えば0.1μm以下に被覆されている。
【0058】
個々の超電導フィラメント11に被覆されたNb−Sn化合物層12bは、相互に密着し一体化されており、これにより、多数本の超電導フィラメント11が密着され一体化した状態となっている。
【0059】
このように、超電導フィラメント11の間がNb−Sn化合物で仕切られた接続端部が例えば半田等を介して相互に接合されて、本変形例に係る超電導線材の接続部が構成される。
【0060】
以上のように、超電導フィラメント11の間がNb−Sn化合物で仕切られた接続部は、以下の接続方法を用いることで得られる。
【0061】
すなわち、本変形例に係る超電導線材の接続方法は、超電導フィラメント11を溶融Sn浴に浸漬することで、超電導フィラメント11の間を仕切るように、動作環境下で超電導性を有さないNb−Sn化合物を超電導フィラメント11の表面に生成させつつ、超電
導フィラメント11を包む銅マトリックスを除去する冶金的な工程と、超電導フィラメント11の表面に付着したSnを酸によって除去する工程と、Nb−Sn化合物で表面が被覆された超電導フィラメント11同士を相互に接合して一体化する工程と、を有する。
【0062】
具体的には、銅マトリックス13の内部にNb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメント11が内蔵された、上述の図1(a)と同様の構成を備える永久電流用の超電導線材の端部を溶融Sn浴に浸漬する。超電導フィラメント11には、予め、例えば純NbやNb−Ta合金等のNb合金からなるバリア層が被覆されている。Nb−Ta合金からなるバリア層は、例えば上述の実施形態に係るNb−Taバリア層12aであってもよい。つまり、上述の実施形態に係る超電導線材10を用いて本変形例の接続部を得ることもできる。
【0063】
このように、超電導線材を溶融Sn浴に浸漬することで冶金的な反応が起こり、超電導フィラメント11の周囲に被覆された純NbやNb合金の細部にSnが浸入してNbと反応する。これにより、超電導フィラメント11の表面に、例えば厚さが0.1μm以下のNb−Sn化合物層12bを生成させる。一方で、超電導フィラメント11を包む銅マトリックス中のCuが、液相のSnと共晶反応を起こして溶融し除去される。
【0064】
以上により、超電導フィラメント11の表面に、低融点のNb−Sn化合物が形成される。なお、上記の冶金的な工程においては、溶融Sn浴の温度及び浸漬時間を適宜選択する。
【0065】
次に、超電導フィラメント11の表面に付着した未反応のSn等を酸によって除去し、例えば半田付け等により上記の接続端部を相互に接合して、超電導フィラメント11が密着され一体化した超電導線材の接続部を得る。
【0066】
本変形例に係る超電導線材の接続部も、上述の実施形態に係る超電導線材10の接続部と同様の効果を奏する。
【0067】
すなわち、本変形例では、接続される超電導フィラメント11の間が、動作環境下で超電導性を有さないNb−Sn化合物で仕切られた接続部となっている。これにより、超電導フィラメント11同士の接触が抑制され、良好な磁場安定性と長期間に亘る通電安定性とを得ることができる。
【0068】
また、本変形例では、Nb−Sn化合物層12bは例えば厚さが0.1μm以下に被覆されている。これにより、実質的な電気抵抗値が1×10−13Ω以下となって、例えば核磁気共鳴現象を応用した機器等に適用した場合であっても、永久電流モードでの電流や磁場の減衰を支障のない程度に小さくすることができる。このように、本変形例に係る超電導線材の接続部も、超電導磁石システム等に適用され得る。
【0069】
また、本変形例では、超電導フィラメント11の表面にNb−Sn化合物を生成させた状態で、例えば半田付け等で相互に接合している。このように、本変形例では、プレス加工等の機械的手段によらずに超電導線材を接続するので、接続時等にNb−Sn化合物層12bの被覆が破れにくい。これにより、超電導フィラメント11同士の接触がいっそう抑制され、接続抵抗のばらつきが低減し、個々の超電導フィラメント11に流れる電流の分布が略均等となって、永久電流の長期的な通電安定性を実現することができる。
【0070】
(4)永久電流スイッチ及び超電導磁石システム
上述の実施形態に係るNb−Taバリア層12aが被覆された永久電流用の超電導線材10やこれを用いた接続部、或いは、上述の変形例に係る、超電導フィラメント11の表
面にNb−Sn化合物を生成させた接続部は、例えば永久電流スイッチや超電導磁石システムに使用される。以下に、超電導線材10や超電導線材10の接続部を用いた永久電流スイッチ並びに超電導磁石システムの構成について説明する。
【0071】
(永久電流スイッチ)
超電導線材10を用いた永久電流スイッチは、例えばヒータによってスイッチ巻き線の温度を上下させて超電導状態のオン・オフを行う熱式永久電流スイッチとして構成されている。すなわち、永久電流スイッチは、例えばヒータと、超電導線材10から構成されヒータに隣接するスイッチ巻き線と、ヒータに接続されヒータに電流を供給する電源と、を備える。
【0072】
永久電流スイッチの備えるスイッチ巻き線は、例えば後述の超電導磁石システム等を構成する閉回路の一部に組み込まれ、温度4.2Kの液体ヘリウム(He)中に浸漬されるよう構成される。なお、閉回路への組み込みの際、閉回路を構成する超電導線材10と、スイッチ巻き線を構成する超電導線材10とが接続されることで、超電導線材10に設けられた接続部が永久電流スイッチの構成に含まれる場合がある。
【0073】
上記構成において、ヒータへの通電が行われていない状態では、スイッチ巻き線は、液体ヘリウム等により臨界温度以下に冷却され、超電導状態となっている。すなわち、永久電流スイッチがオンとなり、接続される超電導磁石システムの閉回路に永久電流が流れている状態となる。
【0074】
一方、上記構成において、電源からヒータに電流を流してスイッチ巻き線を発熱させると、スイッチ巻き線は常電導状態となる。すなわち、永久電流スイッチがオフとなり、接続される超電導磁石システムの閉回路に永久電流が流れない状態となる。
【0075】
(超電導磁石システム)
超電導線材10を用いた超電導磁石システムは、例えば大電流通電により強力な磁場を発生する電磁石として構成されている。すなわち、超電導磁石システムは、超電導線材10から構成される超電導コイルと、超電導線材10の両端を接続して超電導コイルを含む閉回路を構成するよう超電導線材10に設けられた接続部と、閉回路を構成する超電導線材10に接続された永久電流スイッチと、を備え、永久電流現象が応用された電磁石となっている。なお、永久電流スイッチには、上述の超電導線材10を用いた永久電流スイッチを用いてもよい。
【0076】
超電導磁石システムの備える閉回路内には、例えばソレノイドコイル等の超電導コイルが設けられている。超電導コイルを含む閉回路は、例えば温度4.2Kの液体ヘリウム(He)中に浸漬され、超電導磁石システムには外部電源が接続されている。外部電源から閉回路の超電導コイルに通電して閉回路内に永久電流を流し、その後、外部電源からの通電を止めることで、超電導磁石システムを、新たな電力を供給されることなく永久電流が流れ続ける永久電流モードとすることができる。
【0077】
このように構成される超電導磁石システムは、例えば核磁気共鳴現象を応用した核磁気共鳴分析装置や医療用の磁気共鳴イメージング装置等に適用される。これにより、これらの装置の長期運転における信頼性が大幅に向上する。
【0078】
以上のように、上記においては、超電導線材10及び超電導線材10の接続部を用いた永久電流スイッチ並びに超電導磁石システムの構成について説明したが、上述の変形例に係る超電導線材の接続部を適用する場合も同様の構成とすることができる。
【0079】
また、上述の実施形態に係る超電導線材10やその接続部、変形例に係る超電導線材の接続部が適用される永久電流スイッチや超電導磁石システムの構成は、上記に限られない。
【0080】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【実施例】
【0081】
(1)実施例1
本発明の実施例1に係る超電導線材、及び超電導線材を用いた閉回路の超電導特性を示す各種の測定結果について説明する。
【0082】
(測定サンプルの製作)
まずは、上述の実施形態と同様の手順にて、本実施例に係る超電導線材を製作した。具体的には、直径17mmのNb−Ti合金棒の周囲に、厚さ0.1mmのNb−Ta合金シートを3層巻き付けた複合体を、内径17.8mm、外径30mmの銅管に挿入し、単芯ビレットを製作した。このとき、Taの含有率がそれぞれ0質量%〜100質量%の範囲内のNb−Ta合金シートを複数種類用いた。
【0083】
次に、上述の実施形態と同様の手順にて、上記単芯ビレットから、対辺距離が0.8mmの略六角形の単芯線材を製作した。この単芯線材847本を束ね、内径26mm、外径30mmの銅管に組み込み、上述の実施形態と同様の手順にて、直径が1.0mmの超電導線材を製作した。
【0084】
以上により、Taの含有率が0質量%〜100質量%の範囲内のNb−Taバリア層を備える超電導線材がそれぞれ製造された。これらTaの含有率が異なる超電導線材について、臨界温度及び臨界磁場を測定した。
【0085】
さらに、上述の実施形態と同様の手順にて、本実施例に係る超電導線材の両端を接続して、直径が50mm、巻き数が1ターンの閉回路を製作し、閉回路内に発生する電圧スパイクを測定した。
【0086】
(臨界温度及び臨界磁場の測定結果)
図3に、Nb−Taバリア層中のTaの含有率と臨界温度及び臨界磁場(臨界磁界)との関係を表わすグラフを示す。図3の横軸はNb−Taバリア層中のTaの含有率(質量%:wt%)であり、左側の縦軸は臨界温度Tc(K)であり、右側の縦軸は臨界磁場(磁束密度)B(T)である。また、図中、臨界温度Tcを○印で示し、臨界磁場Bを●印で示している。
【0087】
図3に示すように、Nb−Taバリア層中のTaの含有率が高まるにつれて、超電導性が得られる臨界温度Tc及び臨界磁場Bが低下する傾向にあった。係る傾向は、図4に示す、温度4.2Kにおける臨界磁場の測定値においても同様であった。
【0088】
図4は、Nb−Taバリア層中のTaの含有率と温度4.2Kにおける臨界磁場(臨界磁界)との関係を表わすグラフである。図4の横軸はNb−Taバリア層中のTaの含有率(質量%:wt%)であり、縦軸は臨界磁場(磁束密度)B(T)である。
【0089】
図4からは、温度4.2Kにおいて、それぞれのTaの含有率のNb−Taバリア層が、超電導性を有さない磁場範囲を読み取ることができる。例えばTaの含有率が10質量%の場合は、磁場Bが0.13T以上で超電導性を有さない。よって、Taの含有率が1
0質量%のNb−Taバリア層を備える超電導線材の温度4.2Kにおける動作磁場としては、少なくとも0.13T以上、より好ましくは0.15T以上が望ましい。
【0090】
(電圧スパイクの測定結果)
上記のように製作した閉回路にかける外部磁場を変化させて閉回路内に電流を誘起し、永久電流モードとした。この状態で閉回路が発生する磁場を磁場センサと電圧端子とで精密計測し、磁場変化をモニタすると共に、閉回路内に発生する電圧スパイクを測定した。
【0091】
図5に、Taの含有率が10質量%のNb−Taバリア層を備える超電導線材を用いた閉回路内に発生する電圧スパイクと経過時間との関係を表わすグラフを示す。図5の横軸は経過時間(h)であり、縦軸は閉回路内の端子電圧(μV)である。図5の上段は外部磁場(磁束密度)Bが0.05Tの場合であり、下段は外部磁場(磁束密度)Bが0.15Tの場合である。
【0092】
図5に示すように、外部磁場Bが0.05Tの場合、閉回路内での局所的な常電導転移の発生を示す電圧スパイクが頻繁にみられる。結果、10hまで永久電流モードを保持することができず、クエンチ(超電導消失)が生じている。一方、外部磁場Bが0.15Tの場合、電圧スパイクの大きさ及び頻度が低減し、10h以上に亘って安定的な永久電流モードを保持することができた。
【0093】
また、図6に、本実施例に係る超電導線材を用いた閉回路における外部磁場と電圧スパイクの発生数との関係を表わすグラフを示す。図6の横軸は外部磁場(磁束密度)B(T)であり、縦軸は10hあたりの電圧スパイクの発生数(回/10h)である。また、図中、超電導線材が備えるNb−Taバリア層のTaの含有率が0質量%〜20質量%までの複数の閉回路の測定結果について、0質量%を○印、5質量%を●印、10質量%を□印、20質量%を■印で示している。
【0094】
図6に示すように、Taの含有率に応じて電圧スパイクの発生数が減少する磁場の遷移領域があり、この遷移領域より大きな動作磁場の環境下でそれぞれのTaの含有率の超電導線材を使用することにより、永久電流を安定化できることが分かる。
【0095】
また、図7に、本実施例に係る超電導線材を用いた閉回路における外部磁場と永久電流の通電安定性との関係を表わすグラフを示す。図7の横軸はNb−Taバリア層中のTaの含有率(質量%:wt%)であり、縦軸は外部磁場(磁束密度)B(T)である。図中、永久電流の通電安定性を○印(良好)及び×印(不良)で示している。永久電流の通電安定性の良否を判定する指標としては、超電導特性が不安定であることに起因すると考えられる電流減衰や電圧スパイクの発生頻度等の数値を用いた。
【0096】
図7からは、Nb−Taバリア層中のTaの含有率に応じて、安定な超電導性が得られる動作磁場の境界領域を読み取ることができる。つまり、永久電流の通電安定性の良否に基づき図中に破線で記した境界線より上側が安定な超電導性が得られる領域である。図7に示すように、通電安定性が確保できるTaの含有率は、係るNb−Taバリア層を備える超電導線材の動作環境、すなわち、外部磁場Bに依存する。例えばTaの含有率が10質量%の場合は、少なくとも外部磁場Bが0.15T以上の領域において優れた通電安定性を有することが分かる。
【0097】
(2)実施例2
次に、本発明の実施例2に係る超電導線材が備えるNb−Taバリア層のビッカース硬さの測定結果について説明する。測定サンプルとしては、上述の実施例1と同様の手順で製作した超電導線材を用いた。
【0098】
図8に、超電導線材の超電導フィラメントに被覆したNb−Taバリア層を構成するTaの含有率が10質量%のNb−Ta合金のビッカース硬さの測定結果を、比較例としてバリア層を構成する他の材料、超電導フィラメント及び銅マトリックスをそれぞれ構成するNb−Ti合金及びCuのビッカース硬さの測定結果とともにプロットしたグラフを示す。図8の横軸は超電導フィラメントの伸線加工前後の断面積比、つまり、伸線加工時の減面加工率であり、縦軸はビッカース硬さHvである。また、図中、バリア層を構成する材料のうち、Taを●印、Nb−Ta合金を△印、Nbを○印で示し、超電導フィラメントを構成するNb−Ti合金を□印、銅マトリックスを構成するCuを◆印で示している。
【0099】
図8に示すように、超電導フィラメントの減面加工率が高まるにつれ、各構成材料が加工硬化し、ビッカース硬さHvが増大することが分かる。また、各構成材料同士を比較すると、純NbはNb−Ti合金より軟らかく、純TaはNb−Ti合金と比べて非常に硬いことが分かる。Taの含有率が10質量%のNb−Ta合金は、Nb−Ti合金よりやや硬いことが分かる。
【0100】
また、図9に、超電導線材の超電導フィラメントに被覆したNb−Taバリア層を構成するNb−Ta合金中のTaの含有率とNb−Ta合金のビッカース硬さとの関係を表わすグラフを示す。図9の横軸はNb−Taバリア層中のTaの含有率(質量%:wt%)であり、縦軸はビッカース硬さHvである。
【0101】
図9に示すように、Taをわずかに添加したNb−Ta合金であっても、ビッカース硬さHvが飛躍的に高まることが分かる。このような特性により、Nb−Taバリア層を所定の硬さ、つまり、超電導フィラメントの1.0倍以上1.5倍以下の硬さに調整することが可能となり、超電導線材の接続部における永久電流の通電安定性に寄与するものと考えられる。
【0102】
また、図10に、上述の実施形態と同様、機械的手段により超電導フィラメントが密着され一体化した超電導線材の接続部の断面観察結果の模式図を示す。図10(a)はNb−Taバリア層を用いた本実施例に係る超電導線材の接続部の模式図であり、図10(b)はNbバリア層を用いた比較例に係る超電導線材の接続部の模式図である。
【0103】
図10(b)に示す比較例に係る接続部では、超電導フィラメント51を被覆するNbバリア層52が、超電導フィラメント51を構成するNb−Ti合金よりも軟らかいため、機械的手段による接続時の変形により、Nbバリア層52が破れて内部の超電導フィラメント51が直接接触する部位Ta,Tb,Tc等が多数存在していた。このような接続部の断面構造の観察結果から、上述の特許文献2のようなNbバリア層を用いた場合の接続部では、超電導フィラメント間の接続抵抗が部位によって大きく異なってしまうことにより、個々の超電導フィラメントに流れる電流に大きな偏りが生じ、超電導線材やその接続部における永久電流の通電安定性が不充分となることが分かる。
【0104】
一方、図10(a)に示す本実施例に係る接続部では、超電導フィラメント21を被覆するNb−Taバリア層22aが、超電導フィラメント21を構成するNb−Ta合金よりも若干硬いため、ほとんどのNb−Taバリア層22aが破れることなく圧密化され、略全ての超電導フィラメント21がNb−Taバリア層22aを介して一体化されていた。このような接続部の断面構造の観察結果から、例えば本実施例に係るNb−Taバリア層22aを用いた場合の接続部では、Nb−Taバリア層22aを介して一体化される超電導フィラメント21同士の接続抵抗の差異が小さくなることにより、結果として、個々の超電導フィラメント21に流れる電流が均一化され、超電導線材やその接続部における
永久電流の通電安定性が改善されることが分かる。
【0105】
なお、比較例に係る超電導線材の接続部として、Taバリア層をNbバリア層の外側に配置した複合バリア層を用いた場合、ビッカース硬さの大きいTaバリア層が超電導フィラメントの外周部にあるため伸線加工性が良好ではなく、また、接続部における変形が不均一となっていることが確認された。
【0106】
(3)実施例3
続いて、本発明の実施例3に係る超電導線材を用いた閉回路における電流減衰の測定結果について説明する。測定サンプルとしては、上述の実施例1と同様の手順で製作した超電導線材の両端を接続した閉回路を用いた。このとき、超電導線材の備えるNb−Taバリア層のTaの含有率を10質量%とし、Nb−Taバリア層の厚さを様々に変化させた複数の超電導線材を用いた。
【0107】
上述の実施例1と同様の手順で、上記閉回路を永久電流モードとして磁場変化をモニタし、係る磁場の変化から電流減衰を割り出した。
【0108】
Nb−Taバリア層の厚さを0.1μm以下とすることで、接続部の電気抵抗値は1×10−13Ω以下となり、測定感度の下限と略同等の高特性が得られた。Nb−Taバリア層をより薄くすれば接続抵抗を更に下げることも可能であるが、Nb−Taバリア層が極度に薄いと接続時の圧密化でNb−Taバリア層が破れる懸念がある。このため、Nb−Taバリア層の厚さとしては0.03μm以上0.1μm以下が好適である。この後、永久電流モードを約1ヵ月間保持して通電安定性を確認したところ、安定した良好な結果が得られた。
【0109】
以下の表1に、実施例1〜3の測定に付随するデータ及び上記測定結果のまとめを示す。
【0110】
【表1】

【0111】
(4)実施例4
続いて、本発明の実施例4に係る超電導線材を用いた閉回路における通電安定性の測定結果について説明する。本実施例に係る超電導線材は、超電導フィラメントの表面がNb−Sn化合物で被覆された接続部を備える。
【0112】
すなわち、上述の実施例1と同様の手順で、純NbからなるNbバリア層が超電導フィラメントに被覆された超電導線材を製作した。次に、上述の変形例と同様の手順で、溶融Sn浴の温度を500℃、浸漬時間を90分間として、超電導フィラメントの周囲に厚さが約0.1μmのNb−Sn化合物層を生成させてこの超電導線材の両端を接続し、閉回路とした。
【0113】
係る閉回路について、上述の実施例1と同様の手順で、永久電流の通電安定性を測定したところ、良好な通電安定性が確認できた。これにより、超電導フィラメントの周囲に生成させたNb−Sn化合物層が、上述の実施例に係る超電導線材の接続部におけるNb−Taバリア層と同様の効果を発揮することが確認された。
【0114】
(5)実施例5
次に、本発明の実施例5に係る超電導線材を用いた超電導磁石システムにおける通電安定性の測定結果について説明する。測定サンプルとしては、上述の実施例1と同様の手順で、超電導線材を製作し、両端を接続して製作した閉回路を組み込んだ超電導磁石システムを用いた。
【0115】
すなわち、本実施例に係る超電導線材を用いた閉回路内に、巻きボビンのサイズが内径100mm、外径150mm、軸長100mmのソレノイドコイルを製作し、Nb−Ti合金の超電導線材からなる超電導コイルとした。得られた閉回路の超電導コイルに永久電流スイッチを並列に半田付けし、永久電流モードによる稼働が可能な超電導磁石システムを製作した。
【0116】
上記超電導磁石システムの超電導コイルに通電して永久電流モードとし、約6ヵ月間に亘る長期の通電安定性を測定した結果、経時変化の少ない安定した磁場が発生していることが確認された。以上のことから、本実施例に係る超電導磁石システムを、核磁気共鳴現象を応用した分析装置やイメージング装置等に適用すれば、これら装置の長期運転における信頼性が大幅に向上することが期待される。
【符号の説明】
【0117】
10 超電導線材
11 超電導フィラメント
12a Nb−Taバリア層
12b Nb−Sn化合物層
13 銅マトリックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅マトリックスの内部にNb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントが内蔵された永久電流用の超電導線材において、
前記超電導フィラメントの周囲に動作環境下で超電導性を有さないNb−Ta合金が被覆された
ことを特徴とする超電導線材。
【請求項2】
前記Nb−Ta合金は、
Taを10質量%以上50質量%以下含有し、
温度4.2Kにおける動作磁場の環境下で超電導性を有さない
ことを特徴とする請求項1に記載の超電導線材。
【請求項3】
前記Nb−Ta合金は、
Taを10質量%以上含有し、
温度4.2Kにおける動作磁場が0.15T以上の環境下で超電導性を有さない
ことを特徴とする請求項2に記載の超電導線材。
【請求項4】
前記銅マトリックスは、Cu−Ni合金からなる
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の超電導線材。
【請求項5】
前記Nb−Ta合金は、
ビッカース硬さが前記超電導フィラメントの1.0倍以上1.5倍以下である
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の超電導線材。
【請求項6】
前記Nb−Ta合金は、厚さが0.1μm以下に被覆されている
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の超電導線材。
【請求項7】
Nb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントが機械的手段によって密着され一体化した永久電流用の超電導線材の接続部において、
前記超電導フィラメントの周囲に動作環境下で超電導性を有さないNb−Ta合金が被覆され、
接続される前記超電導フィラメント同士の接触を抑制しつつ、前記Nb−Ta合金が相互に密着することで前記超電導フィラメントが一体化されている
ことを特徴とする超電導線材の接続部。
【請求項8】
Nb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントが密着され一体化した永久電流用の超電導線材の接続部において、
接続される前記超電導フィラメント同士が常電導金属を介して機械的手段により一体化されている
ことを特徴とする超電導線材の接続部。
【請求項9】
前記常電導金属は、Nb−Ta合金である
ことを特徴とする請求項8に記載の超電導線材の接続部。
【請求項10】
Nb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントが密着され一体化した永久電流用の超電導線材の接続部において、
接続される前記超電導フィラメント同士が、前記超電導フィラメントの間を仕切るように前記超電導フィラメントの周囲に冶金的手段で生成され、動作環境下で超電導性を有さないNb−Sn化合物により仕切られている
ことを特徴とする超電導線材の接続部。
【請求項11】
請求項1〜請求項6のいずれかの超電導線材を備える
ことを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項12】
前記超電導線材には、
請求項7〜請求項10のいずれかの接続部が設けられている
ことを特徴とする請求項11に記載の永久電流スイッチ。
【請求項13】
請求項1〜請求項6のいずれかの超電導線材と、
前記超電導線材に設けられた請求項7〜請求項10のいずれかの接続部と、を備える
ことを特徴とする超電導磁石システム。
【請求項14】
前記超電導線材には、
請求項11又は請求項12の永久電流スイッチが接続されている
ことを特徴とする請求項13に記載の超電導磁石システム。
【請求項15】
Nb−Ti合金からなる多数本の超電導フィラメントを密着させ一体化する永久電流用の超電導線材の接続方法において、
前記超電導フィラメントを溶融Sn浴に浸漬することで、前記超電導フィラメントの間を仕切るように、動作環境下で超電導性を有さないNb−Sn化合物を前記超電導フィラメントの表面に生成させつつ、前記超電導フィラメントを包む銅マトリックスを除去する冶金的な工程と、
前記超電導フィラメントの表面に付着したSnを酸によって除去する工程と、
前記Nb−Sn化合物で表面が被覆された前記超電導フィラメント同士を相互に接合して一体化する工程と、を有する
ことを特徴とする超電導線材の接続方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−89416(P2013−89416A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228009(P2011−228009)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】