説明

超電導線材の接続構造

【課題】
本発明は、高い電流負荷においても、優れた動作安定性を有する永久電流スイッチに使用される超電導線材の接続構造を提供することにある。
【解決手段】
本発明の超電導線材の接続構造は、複数の超電導フィラメントが金属マトリックスの内部に内蔵された多芯構造の永久電流スイッチ用超電導線材と、金属被覆された超電導線からなる接続用超電導線材と、を接続するものであって、複数の超電導フィラメントの一部を、金属マトリックスから露出させ、複数の超電導フィラメントの端部を部分溶融し、一体化させ、超電導線の一部を、金属被覆から露出させ、一体化した超電導フィラメントの露出部分と前記超電導線の露出部分とを、超電導合金で覆うことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材の接続構造に係り、特に、多芯構造の永久電流スイッチ用超電導線材と、接続用超電導線材との接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
永久電流モードで運転される超電導磁石の閉回路上に設けられる永久電流スイッチには、動作状態において外部から作用する機械的あるいは電磁気的な擾乱に対して高い超電導安定性が要求される。
【0003】
特に、高い外部磁場中や高い運転電流中で動作する超電導磁石に使用される永久電流スイッチには、動作安定性が要求され、この動作安定性を向上する方法としては、特許文献1に記載されるように、複数個の永久電流スイッチを電気的に並列に接続し、一個の永久電流スイッチあたりの電流容量を下げる方法がとられている。
【0004】
また、超電導線材の接続構造を開示しているものとして、特許文献2又は特許文献3がある。
【0005】
【特許文献1】特開昭61−269301号公報
【特許文献2】特開昭62−264575号公報
【特許文献3】特開平09−320728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、複数個の永久電流スイッチを用いた場合には、磁石構造のコンパクト化に制約がある。
【0007】
また、電気配線構造に起因して生じる永久電流スイッチの間のインダクタンス差、あるいは、端子部の接続電気抵抗の差異が生じ、永久電流スイッチに流れる電流値に差異が生じるため、全体的な永久電流スイッチとして、均等に電流を分担させることが困難である。
【0008】
さらに、従来の超電導線材の接続構造では、永久電流スイッチに使用される超伝導線材の複数の超電導フィラメント(多芯構造)に、電流を均一に流すためには、未だ不十分であった。
【0009】
そこで、本発明は、高い電流負荷においても、優れた動作安定性を有する永久電流スイッチに使用される超電導線材の接続構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の超電導線材の接続構造は、複数の超電導フィラメントが金属マトリックスの内部に内蔵された多芯構造の永久電流スイッチ用超電導線材と、金属被覆された超電導線からなる接続用超電導線材と、を接続するものであって、複数の超電導フィラメントの一部を、金属マトリックスから露出させ、複数の超電導フィラメントの端部を部分溶融し、一体化させ、超電導線の一部を、金属被覆から露出させ、一体化した超電導フィラメントの露出部分と超電導線の露出部分とを、超電導合金で覆うことを特徴とする。
【0011】
なお、金属被覆された超電導線からなる接続用超電導線材は、複数の超電導線が金属被覆された多芯構造の接続用超電導線材であってもよい。
【0012】
こうした接続構造においては、永久電流スイッチ用超電導線材と接続用超電導線材とに流れる電流の方向が逆向きであり、いわゆる、プレイングハンド型の接続構造である。
【0013】
また、一体化した超電導フィラメントの露出部分と超電導線の露出部分とを覆う超電導合金はPbBi超電導合金であることが好ましい。
【0014】
そして、端部が一体化された超電導フィラメントの露出部分と露出した超電導線の一部とを、銅スリーブに挿入し、圧着し、固定してもよい。
【0015】
更には、一体化した超電導フィラメントの露出部分の端部は、銅で覆われている構造でもよい。つまり、一体化した超電導フィラメントの露出部分の端部を、銅スリーブに挿入し、圧着し、固定し、露出した超電導線の一部と共にPbBi超電導合金に漬浸し、銅スリーブに挿入された超電導フィラメントの露出部分の端部と、露出した超電導線の一部とを接続してもよい。
【0016】
また、一体化した超電導フィラメントの露出部分と超電導線の露出部分とは、超電導材料から構成される円筒状の容器に収納されてもよい。
【0017】
なお、部分溶融は、スポット溶接あるいは超音波溶接によって接合されることが好ましい。
【0018】
永久電流スイッチと定常磁場コイルとを用いる永久電流回路等のシステムの場合、超電導線材の接続構造の部分は、少ないことが好ましいため、接続用超電導線材を定常磁場コイル用超電導線材として使用することも可能である。
【0019】
なお、永久電流スイッチは、個別の部品として提供される場合があり、この接続構造を含めて永久電流スイッチと呼称する場合がある。
【0020】
こうした場合において、永久電流スイッチに使用される超電導線材のフィラメントの超電導材料と、この永久電流スイッチと永久電流回路を構成する定常磁場コイルに使用される超電導線材の超電導線の超電導材料とが異なることがあり、こうした場合に、特に、この接続構造を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、高い電流負荷においても、優れた動作安定性を有する永久電流スイッチに使用される超電導線材の接続構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態を示す。
【実施例1】
【0023】
本実施例においては、永久電流スイッチに使用する永久電流スイッチ用超電導線材として、直径20μmのNbTi超電導フィラメントが1000本、Cu−30Niマトリックスの内部に多芯配置された直径φ1.0mm の線材を用いた。
【0024】
この超電導線材を長さ10m用いて、二つ折りしてボビンに巻線した無誘導構造の永久電流スイッチ(以下「スイッチ」と呼称する)を作製した。スイッチの製作方法は、従来法と同様であるため、その詳細は省略する。
【0025】
その後、スイッチの口出し部の、この超電導線材の両端部を、長さ50mmの領域において、超電導線材のCu−30Niマトリックスを硝酸にて化学的に溶解除去した。
【0026】
同様に、スイッチと接続する定常磁場コイルに使用する超電導線材と接続するための接続用超電導線材の両端部も、長さ50mmの領域において、安定化銅を硝酸で化学的に除去した。なお、接続用超電導線材も、超電導フィラメントがマトリックスの内部に多芯配置された線材を用いた。
【0027】
つまり、本実施例で適用したスイッチ及び超電導線材の接続構造は、図1に示すように、スイッチ101に使用される永久電流スイッチ用超電導線材103が、超電導線材の接続構造102によって、接続用超電導線材104と接続されている構造をとる。
【0028】
特に、永久電流スイッチ用超電導線材に用いられる超電導フィラメント(超電導材料)と、接続用超電導線材や定常磁場コイル用超電導線材に用いられる超電導線(超電導材料)とは、材料が異なる場合があることから、こうした接続構造が重要となる。
【0029】
そして、図2に示すように、永久電流スイッチ用超電導線材103から露出した超電導フィラメント105の束を、撚り合わせた後に、端部をスポット溶接で溶融させて一体化させ、スポット溶接部2を形成した。
【0030】
このようにして準備された永久電流スイッチ用超電導線材103と、接続用超電導線材104(定常磁場コイル用超電導線材であってもよい)との、露出している超電導フィラメントを、図3に示すように、相互に撚り合わせた後に、銅スリーブ6に挿入し、その銅スリーブ6をプレスで押し潰すことで圧着し、フィラメント接続部5を形成した。
【0031】
図3に示した超電導線材の接続構造102を用いて、永久電流回路16を形成した例を図4に示す。
【0032】
図4に示した永久電流回路16は、スイッチ101と定常磁場コイル3とを備えている。定常磁場コイル3は、励磁電源25により励磁される。また、定常磁場コイル3を保護する目的でコイル保護抵抗24が、定常磁場コイル3と並列に接続される。
【0033】
一方、スイッチ101は、永久電流スイッチ用超電導線材103を有し、永久電流スイッチ用超電導線材103のON/OFFを永久電流スイッチ用ヒータ22にて行う。なお、永久電流スイッチ用加熱ヒータ22は、ヒータ用電源23に接続されている。
【0034】
つまり、スイッチ101がOFF状態(スイッチ101を加熱し、常電導とした状態)で、励磁電源25により、定常磁場コイル3を励磁した後に、スイッチ101をON状態(永久電流スイッチ用加熱ヒータ22による加熱を停止し、超電導とした状態)として、永久電流回路16を永久電流モードとした。
【0035】
永久電流回路16に流れる電流は500Aで、定常磁場コイル3が発生する磁場は、コイル中心で4.0Tであった。
【0036】
この永久電流モードを長期間に渡って保持し、電流の減衰及びクエンチの発生状況を実験的に確認した。
【0037】
その結果、本実施例により超電導フィラメント105の端部を一体化処理した場合は、約1年間(加速試験の結果)の永久電流保持実験においてもスイッチ101がクエンチすることはなかった。
【0038】
比較のために、端部を一体化処理しない場合のものを使用して、同様の永久電流回路を作製して実験した結果、必ずしも一定の結果が得られず、1日でクエンチする場合もあれば、3ヶ月でクエンチする場合もあった。
【0039】
これらを総合的に比較すると、本実施例のように端部を処理することによって、安定性に優れた超電導線材の接続構造を得られることが確認できた。なお、接続構造を接続部と呼称することもある。
【0040】
これは永久電流になる条件において、閉ループを構成する複数のフィラメントに均等に電流を流すことができたためと考えられる。
【0041】
なお、この効果を系統的に調査した結果、超電導線材に流れる電流値が大きいほど、あるいは、永久電流スイッチやその接続構造が受ける外部磁場が大きいほど、端部処理の有無による永久電流保持の安定性向上の差異が顕著であることがわかった。
【0042】
つまり、永久電流スイッチの動作不安定性は、スイッチがOFF状態における電気抵抗を高くする必要性から、超電導フィラメントを内蔵する金属マトリックスには、NiあるいはMnが添加された銅合金が使用されることが多く、その電気抵抗が高い上に、熱伝導性、即ち冷却特性が悪いことに起因するものである。
【0043】
永久電流状態(スイッチがON状態)において、超電導フィラメントに流れる電流に着目すると、超電導フィラメント間に、電流不均一が生じやすい。
【0044】
この要因として、この超電導フィラメントは、例えば接続用超電導線材の超電導フィラメントと電気的に超電導接続されているが、超電導フィラメント毎に接続電気抵抗が完全に一致することはなく、実際は1本1本で異なる。
【0045】
従って、永久電流状態に、長期間保持されると、当初は比較的均一であった超電導フィラメント毎の電流が、接続電気抵抗が低い箇所に集中するようになり、結果として、電流が集中した超電導フィラメントがその臨界電流を越え、超電導状態が消失してクエンチする。
【0046】
このクエンチが生じると、超電導フィラメントに流れていた電流が、他の超電導フィラメントに電磁気的に転流するが、この際に金属マトリックスの電気抵抗が高く、熱伝導性が悪いため、超電導線材全体がクエンチするに至る。
【0047】
従って、スイッチの安定性を確保するために、超電導線材の臨界電流に対して、スイッチ当りの永久電流の運転電流を小さくする、即ち、永久電流回路に複数個のスイッチを並列配置して、スイッチ当りの電流負荷を下げる等の手法がとられていた。
【0048】
本実施例で説明したスイッチは、こうした課題を解決できるものである。
【0049】
また、このような超電導線材の接続構造において、超電導フィラメントの接続面積は、超電導フィラメントの端部を分部溶融させて接続した永久電流スイッチ用超電導線材の方が、接続用超電導線材より小さく、端部にある。
【0050】
そして、スイッチは、巻線された超電導線材とこれを加熱するヒータとが内蔵された構造を有し、ヒータのON/OFFによって超電導線材の常電導/超電導を制御するものである。
【0051】
一般的に、スイッチは、超電導磁石と励磁電源とからなる閉回路において、超電導磁石と並列に接続される。超電導磁石の励磁回路を永久電流モードにする手順は次のとおりである。
(1)スイッチのヒータをONとし、スイッチをOFF(常電導)とする。
(2)励磁電源により超電導磁石に通電する。
(3)スイッチのヒータをOFFとし、スイッチをON(超電導)にする。超電導磁石とスイッチの永久電流回路(閉回路)に電流が流れる。
(4)励磁電源の電流を下げる。
【0052】
ここで、超電導磁石への通電速度を早くするためには、並列接続されたスイッチのOFF時の電気抵抗を高くし、スイッチへの分流を小さくする必要があり、永久電流スイッチ用超電導線材の安定化材には高抵抗材が使用されることが多い。
【0053】
安定化材に高抵抗材を用いることは、永久電流モードの長期間動作における擾乱に対して電磁気的な安定性が小さくなるトレードオフの関係にある。
【0054】
本実施例では、永久電流状態が長期間保持された状態において、超電導接続された超電導フィラメント毎の接続抵抗が不均一であっても、接続端部において超電導フィラメントの束が一体化して、超電導接続されているため、電気回路的に超電導フィラメント間に電流が均等になるように再配分される。このため、電気抵抗が最も低い超電導フィラメントに電流が集中して、その超電導フィラメントがクエンチすることを回避することができる。
【0055】
また、本実施例の接続構造の通電特性は、両者の超電導フィラメントの束を接続する面積が大きいほど、大きい電流を流すことができる。
【0056】
従って、本実施例のように、超電導線材間に大電流を通電できる機能をもたせる電気回路と、超電導フィラメント間に電流配分を均一化させる電気回路と、の2種類を併用させることが好ましい。
【0057】
ここで、接続構造における重要な構造として、超電導線材の配置がある。超電導線材を重ね合わせるラップ接続は、シェイクハンド型とプレイングハンド型の2種類に大別されるが、本実施例の効果は、プレイングハンド型にて十分に発揮できる。
【0058】
これは、超電導線材の内部を電流が流れることで生じる自己磁場によって、電流は、超電導フィラメントの外周部に局在する傾向にあるため、対向する超電導フィラメントの束の電流方向を逆にすることで、個々の超電導フィラメントの内部における電流分布を比較的均一にすることができる。
【0059】
なお、接続構造を超電導材料からなる容器で覆うことで、永久電流で通電される状態において、接続構造が外部から受ける磁場影響を超電導材料で磁気シールドすることができる。
【実施例2】
【0060】
実施例1と同様の方法で、無誘導構造のスイッチ101を作製した。
【0061】
その後、スイッチ101の口出し部の、この超電導線材の両端部を、長さ50mmの領域において、超電導線材のCu−30Niマトリックスを硝酸にて化学的に溶解除去した。
【0062】
同様に、スイッチと接続する定常磁場コイルに使用する超電導線材と接続するための接続用超電導線材の両端部も、長さ50mmの領域において、安定化銅を硝酸で化学的に除去した。
【0063】
そして、図5に示すように、これら露出した超電導フィラメントの束を撚り合わせた後に、これら両方の端部をスポット溶接で溶融させて一体化させた。
【0064】
このようにして準備された永久電流スイッチ用超電導線材と接続用超電導線材とを銅スリーブに挿入し、その銅スリーブをプレスで押し潰すことで圧着した。
【0065】
こうした接続構造を有する超電導閉回路に対して、長期間に渡って永久電流を保持し、電流の減衰及びクエンチの発生状況を実験的に確認した。
【0066】
その結果、実施例1とほぼ同等の効果が得られた。
【0067】
なお、接続用超電導線材は、金属被覆としての超電導マトリックスが、熱伝導性と電気伝導性とに優れた無酸素銅であるため、実施例1のように、その端部の超電導フィラメントを一体化する接続処理を省略しても、特性が大きく劣化することがなかったものと考えられる。
【0068】
ただし、接続構造の性能を十分に確保する観点からは、実施例2を採用することが好ましい。
【0069】
なお、超電導線材の端部における超電導フィラメントの束を一体化する処理は、2種類の超伝導線材の超電導フィラメントをまとめて、一体化処理である部分溶融しても良いし、それぞれの超電導線材の超電導フィラメントを個別に一体化処理である部分溶融しても良い。
【実施例3】
【0070】
図6に示すように、実施例1と同様の方法で永久電流スイッチ用超電導線材の端部において、露出した超電導フィラメントの束を一体化処理した後、端部における長さ約50mmの領域を溶融Snに漬けて銅合金を溶解した後、PbBi超電導合金7に再び漬けて、超電導フィラメントの周囲が超電導のPbBi超電導合金7で覆われる構造とした。
【0071】
同様に、接続用超電導線材の端部においても、PbBi超電導合金7で処理した後に、永久電流スイッチ用超電導線材と接続用超電導線材とを、相互に撚り合わせて、PbBi超電導合金7で半田接続した。
【0072】
永久電流スイッチ用超電導線材の端部において、一体化処理された超電導フィラメントの束は、超電導合金の内部に埋め込まれている。
【0073】
このようにして、作製された永久電流スイッチと定常磁場コイルとを有する永久電流回路に対して、実施例1と同様に、永久電流による長期安定性実験を実施した。
【0074】
結果は、実施例1と同じく、端部処理を施したものは、約1年の長期にわたってクエンチが生じなかった。これに対して、端部処理を施していないものは、永久電流の保持時間にバラツキがあり、1〜2ヶ月でクエンチが生じるものが多かった。
【0075】
ここで、永久電流の保持日数を比較すると、実施例2より実施例3の方が、長期間の傾向がある。
【0076】
また、永久電流スイッチ用超電導線材と接続用超電導線材とを接続する方法において、超電導フィラメントの相互の圧着よりも、超電導合金を使用する冶金的処理の方が、フィラメントとフィラメントとの間の接続抵抗が比較的均質であることも明らかになった。
【0077】
また、図7には、2種類の超伝導線材のフィラメントをまとめて一体化した後、PbBi合金で半田接続したものを示す。こうした構造を採用しても効果は発揮できる。
【実施例4】
【0078】
また、実施例3で作製した接続構造の内部状態を観察したところ、永久電流スイッチ用超電導線材の超電導フィラメントの束を端部で一体化接続した部位において、超電導合金であるPbBiと濡れ性が悪いためか十分に結合していなかった。
【0079】
このような状態では、超電導フィラメントの端部を超電導電流が分流する際に、機械的な固定や冷却性能が不十分となりやすい。
【0080】
そこで、この超電導フィラメントの束が一体化された端部を銅で固定することで、機械的・熱的な安定化を図った。その手順として、次に示すものが、作業性,接続性能において最も良好であった。
(1)永久電流スイッチ用超電導線材の端部、約100mmの安定化超電導マトリックスをSn浴に漬けて、超電導マトリックスを置換除去する。
(2)Snに置換された超電導フィラメントの束の端部、約25mmを、硝酸等の酸に漬けて、内部の超電導フィラメントを露出させる。
(3)露出した超電導フィラメントの束の領域で、最も安定化超電導マトリックスに近い部位をスポット溶接で溶融一体化する。
(4)一体化された部位が完全に隠れるように銅スリーブ6に挿入し、プレスで圧着する。
(5)このように処理された永久電流スイッチ用超伝導線材と、Sn置換された接続用超伝導線材とをならべ、PbBi合金で接続する。
【0081】
このような手順で接続すると、端部を固定する銅スリーブ6をSn浴に漬けることがないので、超電導フィラメントの端部が、銅スリーブ6でしっかりと固定できることがわかった。作成した接続部の構造を図8に示す。
【実施例5】
【0082】
実施例1で説明した定常磁場コイルを上下に対向配置し、その間隙部に均一磁場を発生させた。図9を用いて、本発明を利用した核磁気共鳴イメージング装置について説明する。
【0083】
この核磁気共鳴イメージング装置は、一対の傾斜磁場印加コイル201、高周波磁場を被検体106に対して送信すると共に被検体106からの磁気共鳴信号を受信する高周波送受信手段としての送信コイル202及び受信コイル203、送信コイル202及び受信コイル203と傾斜磁場印加コイル201とに接続され、高周波磁場と傾斜磁場とを制御すると共に核磁気共鳴信号の取込みを制御し画像処理を行うCPU204を有する。
【0084】
なお、図9において、傾斜磁場印加コイルと高周波送受信手段としての送信コイルや受信コイルの詳細は、超電導磁石と一体構造であるため図示していない。
【0085】
本実施例により、対向配置された超電導磁石の中央部に発生させた均一空間に、約2.0Tの磁場が永久電流状態で、擾乱に対して高安定に保持することができた。
【0086】
これにより、磁気共鳴原理を利用したイメージング撮影が繰り返される作業が長期間にわたって安定して実施できるようになった。
【0087】
つまり、実施例1で説明した超電導線材の接続構造は、永久電流スイッチと、傾斜磁場コイルと、高周波磁場コイルとを含み、検査体の磁気共鳴現象を応用して化学情報や形態情報を取得する核磁気共鳴装置や核磁気共鳴イメージング装置に使用できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の超電導線材の接続構造は、核磁気共鳴装置や核磁気共鳴イメージング装置などの超電導線材を永久電流モードで運転するために、永久電流スイッチを使用するような装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本実施例に係わる永久電流スイッチと接続構造の簡略図。
【図2】本実施例に係わる超電導線材に内蔵される超電導フィラメントの先端を一体化した簡略図。
【図3】本実施例に係わる超電導線材の接続構造を示す構造図。
【図4】本実施例に係わる永久電流回路を示す回路図。
【図5】本実施例2に係わる超電導線材の接続構造を示す構造図。
【図6】本実施例3に係わる超電導線材の接続構造を示す構造図。
【図7】本実施例4に係わる超電導線材の接続構造を示す構造図。
【図8】本実施例5に係わる超電導線材の接続構造を示す構造図。
【図9】本実施例に係わる永久電流スイッチを備えた核磁気共鳴イメージング装置の構成図。
【符号の説明】
【0090】
2 スポット溶接部
6 銅スリーブ
7 PbBi超電導合金
101 永久電流スイッチ
102 接続構造
103 永久電流スイッチ用超電導線材
104 接続用超電導線材
105 超電導フィラメント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超電導フィラメントが金属マトリックスの内部に内蔵された多芯構造の永久電流スイッチ用超電導線材と、金属被覆された超電導線からなる接続用超電導線材と、を接続する超電導線材の接続構造において、
前記複数の超電導フィラメントの一部を、前記金属マトリックスから露出させ、前記複数の超電導フィラメントの端部を部分溶融し、一体化させ、
前記超電導線の一部を、前記金属被覆から露出させ、
前記一体化した超電導フィラメントの露出部分と前記超電導線の露出部分とを、超電導合金で覆うことを特徴とする超電導線材の接続構造。
【請求項2】
前記金属被覆された超電導線からなる接続用超電導線材が、複数の超電導線が金属被覆された多芯構造の接続用超電導線材であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の接続構造。
【請求項3】
前記永久電流スイッチ用超電導線材と前記接続用超電導線材とに流れる電流の方向が、逆向きであることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の接続構造。
【請求項4】
前記一体化した超電導フィラメントの露出部分と前記超電導線の露出部分とを覆う超電導合金が、PbBi超電導合金であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の接続構造。
【請求項5】
前記端部が一体化された超電導フィラメントの露出部分と前記露出した超電導線の一部とを、銅スリーブに挿入し、圧着し、固定することを特徴とする請求項1の超電導線材の接続構造。
【請求項6】
前記一体化した超電導フィラメントの露出部分の端部を、銅スリーブに挿入し、圧着し、固定し、前記露出した超電導線の一部と共にPbBi超電導合金に漬浸し、前記銅スリーブに挿入された超電導フィラメントの露出部分の端部と、前記露出した超電導線の一部とを接続することを特徴とする請求項1の超電導線材の接続構造。
【請求項7】
前記一体化した超電導フィラメントの露出部分と前記超電導線の露出部分とが、超電導材料から構成される円筒状の容器に収納されることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の接続構造。
【請求項8】
前記部分溶融が、スポット溶接あるいは超音波溶接によって接合されていることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の接続構造。
【請求項9】
前記接続用超電導線材が、定常磁場コイル用超電導線材であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の接続構造。
【請求項10】
請求項1に記載の超電導線材の接続構造を備えたことを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項11】
請求項1に記載の超電導線材の接続構造を備えたことを特徴とする永久電流回路。
【請求項12】
請求項1に記載の超電導線材の接続構造を備え、時間安定な磁場を発生させることを特徴とする超電導磁石。
【請求項13】
請求項1に記載の超電導線材の接続構造と、永久電流スイッチと、傾斜磁場コイルと、高周波磁場コイルとを含み、検査体の磁気共鳴現象を応用して化学情報や形態情報を取得することを特徴とする核磁気共鳴装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−159404(P2008−159404A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−346906(P2006−346906)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】