説明

超電導線材の特性検査方法及び超電導線材の特性検査装置

【課題】短時間で特性の測定が可能な超電導線材の特性検査方法、及び特性検査装置を提供する。
【解決手段】超電導線材の幅方向における臨界電流密度の分布と、当該超電導線材の通電損失との相関データを求めておき、測定対象である超電導線材の通電損失を測定し、測定した通電損失を上記相関データに参照して、測定対象である線材の臨界電流密度の分布を求める。測定対象は、基板150の上に、希土類元素を含む酸化物からなる超電導相の薄膜110が成膜された薄膜線材10が挙げられる。通電損失は比較的短時間で測定可能であるため、薄膜線材10の通電損失を測定し、かつ上記相関データを利用することで、薄膜線材10における幅方向の臨界電流密度の分布を短時間で求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物からなる超電導相を具えた超電導線材の特性を調べるときに利用される超電導線材の特性検査方法、及び特性検査装置に関するものである。特に、短時間で特性を測定可能な超電導線材の特性検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルなどといった、超電導層と、この超電導層を冷却する冷媒とを具える超電導機器が利用されつつある。超電導層は、代表的には、複数の超電導線材により構成される。
【0003】
上記冷媒に液体窒素を利用する超電導線材としては、Bi(ビスマス)を含む酸化物超電導相を具えるBi系超電導線材や、RE(希土類元素)を含む酸化物超電導相を具える希土類系超電導線材(薄膜線材とも呼ばれる)が代表的である。
【0004】
超電導線材の代表的な特性として、臨界電流が挙げられる。従来、工業的に実施されている特性検査の指標の一つは、臨界電流である。
【0005】
別の超電導線材の特性として、臨界電流密度分布がある。臨界電流密度分布の非破壊測定方法として、誘導法が挙げられる(特許文献1など)。近年、磁気ナイフ法と呼ばれる方法が提案されている。磁気ナイフ法は、図5に示すように筒状のコイル210とC型鉄心220とを具える一対のC型鉄心コイル200を、C型鉄心220の開口部が対向するように配置して、これらC型鉄心コイル200間に同じ強さで逆向きの磁場を発生させる。この磁場内に超電導線材100を配置して線材100に電流を流すと、C型鉄心コイル200がつくる磁場がゼロとなる領域(Null Line)近傍に集中して電流が流れる。これは、臨界電流密度は磁場依存性を有しており、超電導線材100に印加される磁場が小さいほど、当該線材100の臨界電流密度が大きくなるためである。従って、外部磁場が印加された状態で測定した臨界電流は、Null Line近傍の臨界電流密度を強く反映していることから、当該臨界電流を数学的に変換することで臨界電流密度を求められる。磁気ナイフ法は、Null Lineを移動する、つまり、超電導線材100を矢印の方向に移動して、磁場がゼロとなる領域をずらすことで、磁場がゼロとなる領域の大きさに応じた範囲の臨界電流密度を精度よく測定することができる。また、磁場がゼロとなる領域をずらすことで、例えば、種々の大きさの超電導線材の幅方向の臨界電流密度分布を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-207526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
臨界電流だけでは、超電導線材、ひいては当該線材を用いた超電導層を有する種々の超電導機器(例えば、超電導ケーブル)の特性の評価として不十分な場合がある。
【0008】
本発明者らが調べたところ、臨界電流が高い超電導線材を用いて超電導層を形成した場合でも、交流損失が大きくなることがあった。この理由は、以下のように考えられる。Bi系、希土類系の超電導線材の臨界電流は、当該線材全体の臨界電流を平均化した値を測定しており、例えば、線材の幅方向に局所的に特性が劣る箇所が存在しても測定値にほとんど影響しない。しかし、例えば、薄膜線材を超電導ケーブルとした場合、当該線材の特性は、ケーブルの周方向に隣り合う線材間(エッジ間)に生じる磁場により低下する傾向にある。従って、超電導線材の幅方向の一部、特に薄膜線材の場合にはエッジ部分の特性が他の部分よりも劣る場合、超電導層としたときの交流損失の増加が顕著になる、と考えられる。特に、電流値が3kA以上、更に5kA以上、特に10kA以上、とりわけ20kA以上といった大容量の送電用途に薄膜線材を利用すると、上記磁場による特性(代表的には臨界電流)の低下が顕著になる。
【0009】
また、臨界電流が高くても、超電導線材の幅方向の一部に臨界電流密度が低い部分が存在すれば、通電特性は、この臨界電流密度が低い箇所に規制される可能性がある。
【0010】
従って、超電導ケーブルなどの超電導線材を用いた超電導層を有する超電導機器の性能保証をより確実なものとするためには、臨界電流だけでなく、臨界電流密度を測定すること、特に、超電導線材の幅方向における臨界電流密度の分布を調べることが好ましい、と考えられる。
【0011】
しかし、従来の誘導法や磁気ナイフ法は、測定時間が非常に長い(1日〜3日程度)。そのため、これら誘導法や磁気ナイフ法は、大量の線材の特性や長尺な線材の特性を調べることが望まれる工業分野においては不向きであり、時間の短縮が望まれる。
【0012】
そこで、本発明の目的は、超電導線材の特性を短時間で調べられる超電導線材の特性検査方法、及び超電導線材の特性検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
例えば、薄膜線材では、製造条件などによって、エッジ部分の臨界電流密度が幅方向の中央部分よりも低い場合がある。そこで、臨界電流密度の大きさが線材の幅方向に均一的である理想状態の超電導線材を用いた参照用の超電導層と、線材の幅方向において臨界電流密度が小さい領域を有する超電導線材を用いた試料用の超電導層について、交流損失を比較した。その結果、試料用超電導層は、参照用超電導層よりも交流損失が大きかった。超電導層を形成した場合に交流損失に大小があることから、超電導層に用いた超電導線材自体にも、交流損失に大小がある、と考えられる。
【0014】
そこで、本発明者らは、臨界電流密度の大きさが幅方向において異なる超電導線材、つまり、幅方向における臨界電流密度の分布を有する線材の交流損失(通電損失:自己磁場損失)を調べた。その結果、超電導線材の幅方向において臨界電流密度が小さい領域(以下、低Jc領域と呼ぶ)の大きさ(線材の幅方向の一方の縁から他方の縁に向かう方向の長さ)と通電損失とが相関関係にある、との知見を得た。そして、超電導線材の通電損失は、比較的短時間(測定長さにもよるが、数十秒からせいぜい数分)で測定可能である。従って、上述の相関関係のデータを予めとっておき、特性検査では、超電導線材の通電損失を調べ、この通電損失を上記相関関係のデータに参照することで、当該線材の低Jc領域の大きさ、ひいては臨界電流密度の分布を把握することができる、と言える。本発明は、上記知見に基づくものである。
【0015】
本発明の超電導線材の特性検査方法は、酸化物からなる超電導相を具えた超電導線材の特性を調べるための方法であり、超電導線材の幅方向における臨界電流密度の分布と、当該超電導線材の通電損失との相関データを求めておき、測定対象である超電導線材の通電損失を測定し、測定した通電損失を上記相関データに参照して、測定対象である超電導線材の臨界電流密度の分布を求める。
【0016】
上記本発明特性検査方法には、以下の本発明の特性検査装置を好適に利用することができる。本発明の超電導線材の特性検査装置は、酸化物からなる超電導相を具えた超電導線材の特性を測定するための装置であり、以下の相関データ記憶手段と、データ参照手段と、Jc分布演算手段とを具える。
相関データ記憶手段:超電導線材の幅方向における臨界電流密度の分布と、当該超電導線材の通電損失との相関データを記憶する手段。
データ参照手段:測定対象である超電導線材から測定した通電損失を、上記相関データ記憶手段から呼び出した上記相関データに参照する手段。
Jc分布演算手段:参照結果から、上記測定対象である超電導線材の臨界電流密度Jcの分布を求める手段。
【0017】
本発明は、比較的短時間で測定可能な超電導線材の通電損失を測定することで、当該線材の幅方向における臨界電流密度の分布を求められ、特性検査の所要時間を大幅に短縮できる。従って、本発明は、大量の線材や長尺な線材の特性検査に好適に利用できると期待される。また、例えば、本発明を超電導線材の出荷試験や線材製造時の中間試験などに利用すると、超電導線材を用いた超電導層を具える種々の超電導機器(例えば、超電導ケーブルなど)の性能保証に寄与することができると期待される。
【0018】
本発明の一形態として、上記超電導線材が希土類元素を含む酸化物からなる超電導相が基板上に成膜された薄膜線材である形態が挙げられる。
【0019】
薄膜線材は、その幅方向における臨界電流密度が異なる(分布を有する)場合があるため、上記形態は、臨界電流密度の分布を短時間で調べられる。
【発明の効果】
【0020】
本発明超電導線材の特性検査方法及び特性検査装置は、超電導線材の特性を短時間で調べることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】RE系酸化物超電導相を具える超電導線材(薄膜線材)の概略構成を示す模式断面図である。
【図2】薄膜線材の幅方向における臨界電流密度の分布を示すグラフである。
【図3】負荷率と通電損失(実測値)との関係を示すグラフである。
【図4】負荷率と通電損失(演算値)との関係を示すグラフである。
【図5】磁気ナイフ法を用いて超電導線材の幅方向における臨界電流密度の分布を測定する状態を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をより詳細に説明する。まず、図1を参照して測定対象、及び相関データを作成するための試料となる超電導線材を説明する。図1では、分かり易いように線材を構成する各層の厚さを等しくしている。
【0023】
[超電導線材]
上記超電導線材は、冷媒として液体窒素を使用可能な高温酸化物超電導相を具えるものが挙げられる。具体的には、(RE)Ba2Cu3Ox(RE:希土類元素、x:6〜7.5)で表わされるRE123相といった希土類元素を含む酸化物超電導相からなる薄膜110が基板150上に成膜された希土類系超電導線材、いわゆる薄膜線材10が挙げられる。薄膜線材10は、液体窒素温度における臨界電流密度がBi系超電導線材よりも高く、特に、大電流用途に好ましいと期待される。
【0024】
希土類元素は、特にY,Sm,Ho,Gdが挙げられ、YB2C3Oxで表わされるY123が代表的である。HoB2C3Oxで表わされるHo123は、耐水性や成膜レートがY123よりも高く、GdB2C3Oxで表わされるGd123は、Ho123よりも臨界電流が高い。
【0025】
基板150は、金属材料からなるものが代表的である。特に、磁性体からなり、配向性を有する層を具える形態が挙げられる。磁性体は、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、Ni-W合金といったニッケル合金、珪素鋼、パーマロイ、フェライト、強磁性ステンレス(例えば、SUS430)といった鉄含有物が挙げられる。ハステロイ(登録商標)といった非磁性材料からなるものを利用することもできる。基板150は、単一種の金属から構成される形態、複数種の金属層が積層されたクラッド材からなる形態が挙げられる。
【0026】
酸化物超電導相からなる薄膜110を挟むように、銀や銀合金、銅や銅合金などからなる安定化層160(最表面に設けられた場合、保護層を兼ねることもある)を具える形態が代表的である。その他、基板150と超電導相の薄膜110との間に、中間層170を具える形態が挙げられる。中間層170は、基板側150から順に、二軸配向したセラミックス(主として超電導相)を形成するための種結晶となる下地層(例えば、CeO2といった希土類酸化物)、基板150からの元素が薄膜110に拡散することを防止する拡散防止層(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア),MgOといった酸化物)、格子の整合や界面反応の制御を行う整合層(例えば、CeO2といった希土類酸化物)を具える形態が挙げられる。
【0027】
基板150上の各層の形成には、種々の成膜法:化学蒸着法、物理蒸着法などを利用できる。例えば、超電導相の成膜には、パルスレーザ蒸着法(PLD法)、金属有機化合物分解法(MOD法)、中間層の成膜には、高周波スパッタリング法(RFスパッタリング法)、安定化層の成膜には、直流スパッタリング法(DCスパッタリング法)などが挙げられる。最表面の保護層の成膜には、めっきなどを利用することができる。薄膜線材は、所望の幅の基板を予め用意して成膜することで所望の幅のものを製造したり、広幅の線材を形成した後、適宜なスリッタにより所望の幅に切断して、所望の幅のものを製造したりすることができる。交流損失の低減には、細幅化が効果的であり、細幅の線材は、上述のスリッタによる製造が、生産性に優れて好ましい。
【0028】
その他、超電導線材は、Bi2Sr2Ca2Cu3O10で表わされるBi2223相といったBi系酸化物超電導相からなるフィラメントが銀やその合金などの安定化材中に埋設されたBi系超電導線材、例えば、DI-BSCCO(住友電気工業株式会社の登録商標)が挙げられる。
【0029】
試料となる超電導線材として、種々の仕様(材質、幅、超電導相の薄膜の厚さ、線材厚さ、線材長さなど)の線材であって、低Jc領域の大きさが種々の大きさである線材などについて、各線材の幅方向における臨界電流密度の分布と、当該線材の通電損失との相関データ(以下、Jc-loss相関データと呼ぶ)を作成することで、任意の超電導線材の特性を調べられる。従って、測定対象となる超電導線材の仕様は特に問わない。
【0030】
[Jc-loss相関データ]
次に、Jc-loss相関データの作成方法を説明する。
【0031】
(臨界電流密度Jc)
種々の仕様の超電導線材について、その幅方向における臨界電流密度の分布を測定する。この測定には、磁気ナイフ法、誘導法など、種々の方法を利用することができる。図2は、磁気ナイフ法を用いて、二種類の線材:線材A,線材Bについてその幅方向に沿って臨界電流密度Jc(A/m2)を測定した結果を示す。
【0032】
線材A,Bは、広幅の線材を幅4mmに切断して作製した。この広幅の線材は、SUS316L/Cu/Niのクラッド材からなる基板(厚さ:100μm)を具え、基板の一面に基板側から順に、中間層(RFスパッタリング法により成膜)と、Gd123からなる希土類酸化物超電導相からなる超電導層(PLD法により成膜、厚さ:2μm)と、Agからなる安定化層(DCスパッタリング法により成膜、厚さ:2μm)、Cuからなる保護層(めっきにより形成、厚さ:20μm)とを具え、基板の他面に上記安定化層及び保護層を具えるものを用意した。中間層は、基板側から順に、CeO2層,YSZ層,CeO2層の合計3層(合計厚さ:0.5μm)を形成した。
【0033】
ここでは、測定間隔:0.05mm(50μm)とし、線材A(B)の幅方向の一端から幅方向に沿って、Null Lineを0.05mmずつ移動して臨界電流Icを測定し、臨界電流密度Jcを数学的に求めた。図2に示すように、線材A,Bは、その幅方向の中央部分の臨界電流密度Jcが大きく、2.0×1010A/m2〜2.5×1010A/m2程度であり、概ね均一的である。しかし、線材A,Bは、その幅方向におけるエッジ部分(測定位置x:0.0mmの近傍、及び4.0mmの近傍)の臨界電流密度Jcが中央部分よりも小さく、臨界電流密度Jcが低い領域:低Jc領域が存在すること、即ち、台形状の分布をとることが分かる。線材Aでは、低Jc領域が0.5mm程度(合計で1.0mm程度)、線材Bでは、低Jc領域が0.2mm〜0.3mm程度(合計で0.4mm〜0.6mm)程度である。低Jc領域の大きさの差は、切断によるエッジ部分の損傷度合いの差に基づくものであると考えられる。
【0034】
このように材質・幅といった仕様が同じ超電導線材であっても、低Jc領域の大きさや中央部分の臨界電流密度の大きさ(平均値、最大値、或いは最小値など)など、超電導線材の幅方向における臨界電流密度の分布を示すパラメータが、複数存在し得る。従って、臨界電流密度の分布を示すパラメータは、任意に選択した一つ(例えば、低Jc領域の大きさ)のデータを利用してもよいし、複数のパラメータのデータを利用すると、当該分布をより正確に把握することができる。
【0035】
上記臨界電流密度Jcの分布を示すパラメータのデータは、線材の仕様ごと(例えば、ある材質のある幅ごと、など)に適宜な記憶手段などに保存しておくと、Jc-loss相関データを作成する際に利用し易い。例えば、超電導線材の材質や幅といった仕様を一定とし、低Jc領域の大きさが異なる超電導線材について、幅方向における臨界電流密度の分布をとり、上述した種々のパラメータについてデータを求めるとよい。なお、低Jc領域が小さい線材Bの方が、その幅方向における中央部分の臨界電流密度が、低Jc領域が大きい線材Aよりも高い傾向にあることが分かる。従って、低Jc領域の大きさと線材の中央部分の臨界電流密度との相関データを作成して保存しておき、利用できるようにすることができる。
【0036】
(通電損失)
上述の臨界電流密度の分布測定に利用した線材と同様の仕様のものについて、通電損失を測定する。通電損失の測定には、公知の手法(例えば、特許第4670839号公報記載の手法など)を利用することができる。或いは、通電損失は、線材の構造や臨界電流密度の分布とN値とをパラメータとして、解析シミュレーションにより求めた値を利用することができる。解析シミュレーションは、例えば、無限長の超電導線材(特に、超電導層)の断面を一次元の解析領域とし、ファラデーの法則を電流ベクトルポテンシャルを用いて数値変換して得られた式を支配方程式とし、有限要素法による数値解析を行うことが挙げられる。超電導体の電圧-電流密度特性(E-J特性)には、E=Ec(J/Jc)Nで表わされるN値モデル、非線形計算の解法には緩和法、連立方程式の解法には、全体節点方程式の係数マトリクスが400×400程度の非対称完全密行列となることから、ガウスの消去法を用いることが挙げられる。
【0037】
図3は、上述した線材A,Bについて負荷率(Ip/Ic:線材に交流電流を通電したときのピーク電流値Ipを当該線材の臨界電流値Icで除した値))と通電損失との関係を調べた結果を示す。図3において、太実線の直線は、線材A,Bと同じ仕様の線材であって、低Jc領域が存在しない理想状態の線材(以下、Flat線材と呼ぶ)における通電損失をNorrisのストリップモデルの計算式から求めたものである。理想状態の線材は、予め4mmの基板を用意して、この基板に超電導相などを形成した線材である。図3に示すように、低Jc領域が存在する線材A,Bは、理想状態のFlat線材よりも損失が大きいことが分かる。そして、低Jc領域が大きい線材Aは、低Jc領域が小さい線材Bに比較して、通電損失が大きいことが分かる。なお、各線材について通電損失の測定に要する時間は、10秒〜10分程度である。
【0038】
図4は、上述の線材A,Bと同じ材質からなる幅4mmの線材であって、低Jc領域が0.3mm(合計0.6mm)の薄膜線材と、低Jc領域が0.6mm(合計1.2mm)の薄膜線材を想定し(N値:30)、上述の解析シミュレーションにより通電損失を求めた結果を示す。また、上述の理想状態のFlat線材、線材A,Bの結果も合わせて図4に示す。想定した二つの線材の臨界電流Icは、線材A,Bの臨界電流値から設定した。図4に示すように、通電損失は、材質・幅・製造方法が同じ線材である場合、低Jc領域の大きさによって異なることが分かる。具体的には、低Jc領域が小さいほど、通電損失が小さいことが分かる。ここでは、通電損失は、Flat線材<線材B(低Jc領域:0.2mm〜0.3mm程度)<低Jc領域0.3mmの線材<線材A(低Jc領域:0.5mm程度)<低Jc領域0.6mmの線材となっている。
【0039】
更に、超電導線材の幅と通電損失との関係を調べたところ、低Jc領域が同じ大きさであっても、線材の幅によって通電損失が異なっていた。具体的には、低Jc領域の大きさが同じである場合、超電導線材の幅が狭いほど、通電損失は理想状態のFlat線材よりも大きくなる傾向にあった。
【0040】
以上のことから、超電導線材の幅方向における低Jc領域の大きさ(幅方向における臨界電流密度の分布を表わすパラメータの一つ)と通電損失とは、相関関係にあると言える。従って、本発明では、超電導線材の通電損失を調べ、この通電損失を上記相関関係に参照して、低Jc領域の大きさ、ひいては、超電導線材の幅方向における臨界電流密度Jcの分布を求めることを提案する。
【0041】
なお、図3に示すように通電損失は、負荷率が大きくなるほど、端的に言えば、通電電流値が大きくなるほど、理想状態のFlat線材の通電損失と、測定対象である超電導線材の通電損失との差が小さくなる、と言える。従って、本発明を利用すると、特に、負荷率が小さい場合、端的に言えば、通電電流値が小さい場合において、線材の特性を評価する場合に好適に利用できると言える。
【0042】
(Jc-loss相関データ)
上述の臨界電流密度の分布と線材の通電損失との相関データを作成する。具体的には、超電導線材の材質、幅、超電導相の厚さ(薄膜の厚さ)、線材厚さなどといった線材の仕様ごとに、臨界電流密度Jcの分布を示すパラメータ(低Jc領域の大きさや中央部分の臨界電流密度など)と通電損失との相関データ:Jc-loss相関データを作成する。作成したJc-loss相関データは、適宜な記憶手段に保存しておくと利用し易い。上述のように仕様ごとにJc-loss相関データを作成すると、線材の仕様に応じて、適切なJc-loss相関データを容易に選択できる。
【0043】
(特性検査方法)
上述のようにして作成したJc-loss相関データを利用して、超電導線材の特性として、当該線材の幅方向における臨界電流密度の分布を調べる方法を説明する。
【0044】
まず、測定対象である超電導線材の通電損失を実測又は解析シミュレーションにより求める。
【0045】
次に、測定した通電損失をJc-loss相関データに参照して、測定対象である超電導線材の幅方向における臨界電流密度の分布(上述のパラメータ)を求める。上述のように超電導線材の仕様ごとにJc-loss相関データを作成している場合、測定対象である線材の仕様に応じたJc-loss相関データを選択して、臨界電流密度の分布を求めるとよい。
【0046】
上述のJc-loss相関データの参照にあたり、作業者が逐一、通電損失の結果とJc-loss相関データとを参照してもよいが、以下の特性検査装置を利用することで、検査能率を更に向上することができる。この特性検査装置(図示せず)は、上述のJc-loss相関データを記憶する相関データ記憶手段と、測定した通電損失に相関データ記憶手段から呼び出したJc-loss相関データを参照するデータ参照手段と、参照結果に基づいて、当該通電損失を測定した線材の臨界電流密度の分布を求めるJc分布演算手段とを具える。その他、この特性検査装置は、Jc-loss相関データや測定した通電損失、線材の仕様などの各種のデータを入力する入力手段、入力したデータを記憶する入力データ記憶手段、Jc-loss相関データを参照するにあたり、上記入力データ記憶手段から呼び出した当該線材の仕様を参照して、この仕様に応じたJc-loss相関データを選択する選択手段、演算結果を表示する表示手段などを具えることができる。
【0047】
[効果]
本発明特性検査方法を利用することで、超電導線材の特性、特に薄膜線材の幅方向における臨界電流密度の分布を短時間で測定することができる。特に、本発明特性検査装置を利用することで、超電導線材の特性を更に短時間で調べられる。従って、本発明を利用することで、超電導線材の出荷試験などで性能を確認するにあたり、線材の性能の優劣を容易にかつ精度よく把握できる。そのため、例えば、通電電流値が小さい用途では、低Jc領域が小さい線材を利用して超電導層を作製するなど、本発明による検査結果を利用して、用途に応じた超電導線材をより適切に選定することができると期待される。或いは、例えば、本発明による検査結果を利用して、低Jc領域の大きい線材を超電導ケーブルの超電導層に用いない(除去する)ことで、低損失な超電導ケーブルである、という信頼性を高められると期待される。また、この場合、製造初期の段階で劣化材料(低特性材料)を除去できるため、ケーブルの歩留まりを高められると期待される。
【0048】
本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明超電導線材の特性検査方法、及び特性検査装置は、超電導線材の出荷試験、交流送電線路や直流送電線路に利用される超電導ケーブル、超電導コイルを具える超電導モータや超電導マグネットなどの超電導機器の超電導層を形成する前などでの性能の確認のために行う試験といった種々の場面において、超電導線材の特性を調べる際に好適に利用することができる。特に、本発明特性検査方法及び特性検査装置は、大量の線材や長尺な線材の特性検査や長尺な線材を連続測定する場合に好適に利用することができると期待される。
【符号の説明】
【0050】
10 薄膜線材 110 酸化物超電導相からなる薄膜
150 基板 160 安定化層 170 中間層
100 超電導線材 200 C型鉄心コイル 210 コイル 220 C型鉄心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物からなる超電導相を具えた超電導線材の特性を調べるための超電導線材の特性検査方法であって、
超電導線材の幅方向における臨界電流密度の分布と、当該超電導線材の通電損失との相関データを求めておき、
測定対象である超電導線材の通電損失を測定し、測定した通電損失を前記相関データに参照して、当該超電導線材の臨界電流密度の分布を求めることを特徴とする超電導線材の特性検査方法。
【請求項2】
前記超電導線材は、希土類元素を含む酸化物からなる超電導相が基板上に成膜された薄膜線材であることを特徴とする請求項1に記載の超電導線材の特性検査方法。
【請求項3】
酸化物からなる超電導相を具えた超電導線材の特性を調べるための超電導線材の特性検査装置であって、
超電導線材の幅方向における臨界電流密度の分布と、当該超電導線材の通電損失との相関データを記憶する相関データ記憶手段と、
測定対象である超電導線材から測定した通電損失を、前記相関データ記憶手段から呼び出した前記相関データに参照するデータ参照手段と、
参照結果から、前記測定対象である超電導線材の臨界電流密度の分布を求めるJc分布演算手段とを具えることを特徴とする超電導線材の特性検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−83614(P2013−83614A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−225350(P2011−225350)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(391004481)公益財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】