説明

超電導線材の製造方法

【課題】小径の超電導素線材を作業効率よく製造することができる超電導線材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る超電導線材の製造方法は、第1の金属材料からなるコア材10に、第2の金属材料を圧延し、焼鈍熱処理を施して形成された金属薄膜テープを所定の巻き数で巻き合わせて、コア材10の長手方向にロールフォーミング成形可能な径を有する第1の線材を作製する線材作製工程と、第1の線材を切断して、複数本の第2の線材を形成する切断工程と、複数本の第2の線材をマルチ用ビレット70に充填してマルチビレット65を作製する充填工程と、マルチビレット65を押出して押出材を作製する押出工程と、押出材を引抜加工して引抜材を作製する引抜工程と、引抜材に熱処理を施して超電導線材を作製する熱処理工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属系の超電導線材は、超電導線材を構成する材料の特性に合わせた製造方法を用いて製造されている。例えば、NbAl系化合物からなる超電導線材の製造方法として、Nbシート及びAlシートをNbコアにジェリーロール法により巻き合わせて作製した数十層の多層巻き構造のジェリーロール線材を細線化し、細線化したジェリーロール線材をマルチ用ビレットに充填してマルチビレットを作製し、マルチビレットを静水圧押出で伸線した上で急熱急冷処理を施して、直径が60μm以上のNbAl系化合物の超電導線材を製造する超電導線材の製造方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
非特許文献1に記載の超電導線材の製造方法によれば、静水圧押出によりマルチビレットを伸線しているので、ビレットと工具との間の摩擦を低減でき、押出工程を低温で実現できる。
【0004】
【非特許文献1】独立行政法人 物質・材料研究機構(NIMS)、“変態法による長尺化”、[平成20年5月13日検索]、インターネット(URL:http://www.nims.go.jp/smcMetal/Nb3Al_mitoh_4.pdf)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、非特許文献1に記載の超電導線材の製造方法は、ジェリーロール法によりNbコアに巻き合わせるNbシート及びAlシートの層数が多く、製造される超電導線材の線径を低減することが困難であり、線径を更に低減させるためには、工数の多い製造工程を経なければならない。
【0006】
したがって、本発明の目的は、小径の超電導素線材を作業効率よく製造することができる超電導線材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、第1の金属材料からなるコア材に、第2の金属材料を圧延し、焼鈍熱処理を施して形成された金属薄膜テープを所定の巻き数で巻き合わせて、コア材の長手方向にロールフォーミング成形可能な径を有する第1の線材を作製する線材作製工程と、第1の線材を切断して、複数本の第2の線材を形成する切断工程と、複数本の第2の線材をマルチ用ビレットに充填してマルチビレットを作製する充填工程と、マルチビレットを押出して押出材を作製する押出工程と、押出材を引抜加工して引抜材を作製する引抜工程と、引抜材に熱処理を施して超電導線材を作製する熱処理工程とを備える超電導線材の製造方法が提供される。
【0008】
また、上記超電導線材の製造方法は、超電導線材は、Nb化合物又はNb合金を有して形成され、第1の金属材料は、Nb、Nb合金、Ta、Cu、Sn、及びSn合金からなる群から選択される少なくとも1つの金属材料を含み、第2の金属材料は、Nb、Sn、Sn合金、Al、及びCuからなる群から選択される少なくとも1つの金属材料を含み、線材作製工程は、第1の金属材料がNb化合物を構成する一の金属を含む金属材料である場合、Nb化合物の構成成分のうち、一の金属と結合することによりNb化合物を形成する他の金属を少なくとも第2の金属材料として選択し、線材作製工程は、第1の金属材料が一の金属を含まない金属材料である場合、一の金属及び他の金属の双方を第2の金属材料として少なくとも選択し、線材作製工程は、第1の金属材料がNb合金である場合、Cuを少なくとも第2の金属材料として選択することができる。また、線材作製工程は、一の金属及び他の金属の双方を第2の金属材料として少なくとも選択した場合、複数の金属薄膜テープをコア材に巻き合わせる工程を含み、複数の金属薄膜テープはそれぞれ一の金属及び他の金属から形成されてもよい。また、充填工程は、マルチビレットに1000本以上の第2の線材を充填してもよい。更に、線材作製工程は、所定の巻き数が、コア材に1.2巻から6巻であってよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る超電導線材の製造方法によれば、小径の超電導素線材を作業効率よく製造することができる超電導線材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る超電導線材の製造方法の流れの概要を示す。
【0011】
本発明の実施の形態に係る超電導線材の製造方法は、極細多芯超電導線材としての超電導線材を製造する。本実施の形態においては、一例として、ジェリーロール法により超電導線材を製造する。また、本実施の形態に係る超電導線材の製造方法により製造される超電導線材は、例えば、NbSn系化合物材料、NbAl系化合物材料、Nb−Ti合金系材料等のNb化合物又はNb合金から形成することができる。
【0012】
まず、所定の第1の金属材料からなるコア材と、薄膜状の金属薄膜テープとを準備する。金属薄膜テープは、製造すべき超電導線材に対応させて選択され、第1の金属材料とは異なる第2の金属材料を含んで形成される。また、金属薄膜テープは、第2の金属材料に圧延加工を施して所定厚に圧延されて形成される。ここで、金属薄膜テープとしては、製造すべき超電導線材に対応させて、複数種類の金属薄膜テープを準備することができる。すなわち、本実施の形態においては、製造すべき超電導線材に応じて、コア材と1種類の金属薄膜テープとを準備するか、あるいは、コア材と一の金属薄膜テープ及び他の金属薄膜テープとを準備する。
【0013】
コア材は、断面直径が数mm以下のロッド形状又は線形状を有する。また、コア材は、第1の金属材料としてのNb、Nb合金(例えば、Nb−Ti合金)、Ta、Cu、Sn、又はSn合金等の金属材料から形成される。一方、金属薄膜テープは、100μm程度以下の厚さの薄膜状を有する。そして、金属薄膜テープは、第2の金属材料として、Nb、Sn、Sn合金、Al、又はCu等の金属材料を含んで形成される。例えば、金属薄膜テープとしては、Nbテープ、Snテープ、Sn合金テープ、Alテープ、Cuテープ、Nbテープ/Sn合金テープの複合テープ(例えば、NbSn超電導素線材用)、Nbテープ/Cuテープの複合テープ(例えば、NbSn超電導素線材用)、又はNbテープ/Alテープの複合テープ(例えば、NbAl超電導素線材用)等を、製造すべき超電導線材に対応させて用いることができる。
【0014】
そして、コア材の周囲に金属薄膜テープを巻き合わせ、第1の線材を作製する(図1:ステップ100(以下、ステップを「S」と略す))。すなわち、コア材の周囲に、複合テープ又は複数種類の金属薄膜テープを巻き合わせることにより第1の線材を作製する。例えば、コア材の周囲に複合テープを巻き合わせて第1の線材を作製する。一例として、コア材の周囲にNbテープ/Sn合金テープの複合テープを巻き合わせることにより第1の線材を作製できる。また、複数種類の金属薄膜テープを巻き合わせる場合は、コア材の周囲に一の金属薄膜テープと他の金属薄膜テープとを多重にして巻き合わせる。一例として、コア材の周囲にNbテープを巻き合わせ、その後Sn合金テープを巻き合わせることにより第1の線材を作製できる。他の複合テープ又は金属薄膜テープを用いる場合も、同様にして第1の線材を作製できる。なお、後述するマルチビレット作成後の熱処理によって複数の第1の線材同士の融着を抑制することを目的として、第1の線材それぞれの最外層に、所定の金属薄膜テープ(例えば、Cuテープ)を更に巻き合わせることもできる。
【0015】
表1に、本実施の形態において用いる第1の金属材料と第2の金属材料との組合せの一例を示す。
【0016】
【表1】

【0017】
表1を参照して、例えば、製造すべき超電導線材がNbSn線材である場合を説明する。まず、第1の金属材料から形成されるコア材としてNb(Nb線)を選択した場合、第2の金属材料から形成される金属薄膜テープは、NbSn化合物の構成成分のうち、Nbと結合することによりNbSn化合物を形成するSnを含む金属薄膜テープを少なくとも選択する。例えば、Nbテープ/Sn合金テープの複合テープ、又はSn合金テープを少なくとも選択する。また、第1の金属材料から形成されるコア材としてTa又はCuを選択した場合、第2の金属材料から形成される金属薄膜テープは、NbSn化合物の構成成分を含む金属薄膜テープを選択する。例えば、Nbテープ/Sn合金テープの複合テープ、又はNbテープ及びSn合金テープを選択する。また、第1の金属材料から形成されるコア材としてSn合金(Sn合金線)を選択した場合、第2の金属材料から形成される金属薄膜テープは、NbSn化合物の構成成分のうち、Snと結合することによりNbSn化合物を形成するNbを含む金属薄膜テープを少なくとも選択する。例えば、Nbテープ/Cuテープの複合テープ、又はNbテープを少なくとも選択する。
【0018】
なお、例えば、コア材の周囲にまずNbテープを巻き合わせ、その後Sn合金テープを巻き合わせる場合、Sn合金テープの外側にバリアテープ(例えば、Nbバリアテープ)を更に巻き合わせることもできる。ここで、コア材の周囲にSn合金テープを巻き合わせた後、Nbテープを巻き合わせる場合には、バリアテープを省くことができる。すなわち、コア材の周囲にNbテープを除く金属薄膜テープを巻き合わせた後、Nbテープを巻き合わせる場合、Nbバリアテープを省くことができる。
【0019】
ここで、本実施の形態においては、コア材の長手方向にロールフォーミング成形可能な範囲の径にすべく、コア材の周囲に金属薄膜テープを所定の巻き数で巻き合わせる。これにより、小径であって、数層巻きの第1の線材を作製する。具体的に、本実施の形態においては、コア材の周囲に金属薄膜テープを1.2巻から6巻して、第1の線材を作製する。
【0020】
次に、第1の線材を所定の長さ毎に切断することにより、複数本の第2の線材を作製する(S110)。例えば、後述するマルチ用ビレットの長手方向の長さに対応させて、第1の線材を切断する。ここで、S100の前又は後、若しくはS110の後において、コア材及び/又は金属薄膜テープ、又は第1の線材、若しくは第2の線材に、これらの材料を軟化させることを目的として、所定の雰囲気下、所定の温度、所定の時間の焼鈍熱処理(焼鈍軟化処理)を予め施すことができる。例えば、S100においてコア材と金属薄膜テープとを準備した後、第1の線材を作製する前に、金属薄膜テープに焼鈍熱処理を施すことができる。なお、複数種類の金属薄膜テープを用いる場合、金属薄膜テープを構成する材料に応じて、金属薄膜テープ毎に異なる条件下の焼鈍熱処理を施すことができる。
【0021】
次に、複数本の第2の線材を、マルチ用ビレットに充填してマルチビレットを作製する(S120)。本実施の形態においては、一例として、マルチ用ビレットの断面の単位面積(単位面積を1mmとする)あたり、第2の線材が0.2本から0.4本程度の範囲で充填される。本実施の形態に係るマルチ用ビレットは、例えば、Cuから形成され、略円筒形状を有する。また、マルチ用ビレットに複数本の第2の線材を充填するときに、複数本の第2の線材とマルチ用ビレット内壁との間に、高融点金属材料(例えば、Ta)からなる反応防止層(バリア層)を更に組み込むこともできる。ここで、反応防止層をマルチ用ビレットに組み込む前に、反応防止層を軟化させることを目的として、反応防止層に焼鈍熱処理を施すこともできる。
【0022】
次に、マルチビレットを押出(冷間押出又は温間押出)して、押出材を作製する(S130)。本実施の形態においては、マルチ用ビレットに第2の線材を充填する前に、当該第2の線材に焼鈍熱処理を施すことにより、第2の線材を焼鈍軟化させることができる。これにより、マルチビレットを低温、すなわち、第2の線材を構成する材料の再結晶温度未満又は常温において押出加工できる。
【0023】
次に、常温において押出材を、所定の形状の穴を有するダイスに通して引き抜くことにより、所定の径を有する引抜材を作製する(S140)。更に、引抜材に、所定の温度、所定の時間の熱処理を施す(S150)。これにより、本実施の形態に係る超電導線材が製造される(S160)。なお、熱処理(S150)の後に、線材の表面に安定化材としてのCuを被覆した超電導線材を製造することもできる。
【0024】
なお、本実施の形態に係る超伝導線材を構成する材料に含まれるNb、Taは、いずれも加工硬化が大きい材料であり、変形抵抗が大きい。一方、Sn、Alは、加工硬化が小さい軟質な材料である。また、安定化材として用いるCuはNb等の金属材料とSn等の金属材料との中間の強度であり、加工硬化はNb、Sn等に比べて早く飽和する。したがって、ロッド法等を用いて、加工硬化が大きい材料と加工硬化が小さい材料との双方を含む材料からシングルスタックで線材を成形すると、加工硬化が大きい材料と加工硬化が小さい材料とが複合加工されることとなる。
【0025】
この場合、Ta等の高融点材料を基準として焼鈍熱処理を実施すると、Sn等が溶融してしまうので、加工硬化が大きい材料と加工硬化が小さい材料との双方に対して同時に焼鈍熱処理を施すことはできず、加工硬化が小さい材料に対してのみ焼鈍熱処理を施すことができる。したがって、加工硬化が大きい材料と加工硬化が小さい材料との双方を含み、いずれの材料も軟化していない場合、加工硬化が大きい材料と加工硬化が小さい材料との双方を含む線材を押出加工する場合には、温間又は熱間において加工を施すことを要する。このような工程を経ると、製造される超電導線材の特性が低下すると共に、加工性も低下するという知見を本発明者は得た。
【0026】
また、例えば、NbTi合金系材料を線材の材料として用いる場合、NbTiの析出物と加工による転位とを発生させて、ピンニング点をNbTi合金系材料に導入することにより高磁場特性を改善する。この場合において、NbTi合金系材料が硬質であるので、この材料から線材を作製する場合、高温下での押出を要するが、係る高温での押出加工時にNbTi合金系材料が軟化する。本発明者は、このような押出材にはピンニング点が導入されず、ピンニング点が導入されるまで大径で押出加工と引抜加工とを繰り返し実施することを要することにより、加工効率が低下するという知見を得た。更に、例えば、NbSn系材料を用いる場合は、NbSn系材料に温間加工又は熱間加工を施すと、Snが溶融する場合があり、線材を作製することができない場合があるとの知見を得た。
【0027】
しかしながら、本実施の形態においては、超伝導線材を構成する材料である加工硬化が大きい材料と加工硬化が小さい材料とはそれぞれ、予め焼鈍熱処理を施すことにより軟化させることができる。すなわち、超伝導線材を構成する材料である加工硬化が大きい材料と加工硬化が小さい材料とのそれぞれについて、加工硬化量を所定値以下にした状態で超電導線材の製造に用いることができる。例えば、第1の金属材料からなるコア材、第2の金属材料からなる金属薄膜テープ、安定化材、及び/又は反応防止層のそれぞれに、焼鈍熱処理を予め施して用いることができる。なお、複数種類の金属薄膜テープを用いる場合は、金属薄膜テープのそれぞれに焼鈍熱処理を施すことができる。
【0028】
よって、加工硬化が大きい材料と加工硬化が小さい材料との双方を含む線材を冷間加工により、比較的低い押出圧力で押出すことができるので、加工効率を向上させることができる。すなわち、本実施の形態においては、例えば、Sn又はSn合金を含んで作製される第2の線材が組み込まれたマルチビレットを、Snを含んだ領域を加工熱で溶解させることなく押出加工することができる。これにより、例えば、ジェリーロール法を用いて、NbSn系材料からなる超電導線材を断線させずに効率よく製造できる。
【0029】
(変形例)
本実施の形態に係る超電導線材の製造方法は、上記材料の他にも、VGa系化合物材料、又はMgB系化合物材料、若しくはY系、Bi系、Tl系、Hg系、又はAg−Pb系の酸化物超電導材料等を用いて超電導線材を形成することもできる。
【0030】
(実施の形態の効果)
本発明の実施の形態に係る超電導線材の製造方法によれば、圧延加工により金属薄膜テープを形成して、当該金属薄膜テープをコア材の周囲に巻きつけるので、生産性よく小型の第1の線材を製造できる。例えば、金属薄膜テープを用いると共に、コア材に巻きつける巻き数を低減することにより、巻き上がりの径が小さな小型の第1の線材を製造できる。したがって、本実施の形態によれば、生産コストの増大を抑制できると共に、一例として、1000本以上、5000本程度の第2の線材を用いたマルチビレットを作製できる。すなわち、本実施の形態によれば、交流ロスを大幅に低減できる超電導線材を作製することができる。
【0031】
また、本実施の形態に係る超電導線材の製造方法によれば、小径のコア材に薄膜テープ状の金属薄膜テープを数層巻きとなる範囲で巻き合わせるので、長手方向に連続的にロールフォーミング及び成形して第1の線材としてのジェリーロール線材を連続的に断線させずに製造できる。そして、製造した所定本数の第1の線材をマルチ用ビレットに充填して、第1の線材が充填されたマルチ用ビレットを所定の形状(例えば、断面六角形状)に成形することにより、素線としてのマルチビレットを形成できる。これにより、本実施の形態に係る超電導線材の製造方法によれば、断面積が小さな超電導線材を、作業工数を大幅に低減させて(作業効率を大幅に向上させて)、歩留りよく製造することができる。
【0032】
すなわち、本実施の形態に係る超電導線材の製造方法によれば、小径のコア材に金属薄膜テープを数層巻きとなる範囲で巻き合わせたジェリーロール線材を連続的に断線させずに製造でき、製造した第2の線材とマルチ用ビレットとから、シングルスタック法を用いてマルチビレットを形成できるので、生産性を向上させることができる。これによりコストを抑え、複数の極細の芯としての第2の線材を有する超電導線材を製造できる。
【0033】
そして、本実施の形態では、シングル超電導素線としての第1の線材を小径のコア材に薄膜テープ状の金属薄膜テープを数層巻きとなる範囲で巻き合わせて製造した後、シングルスタック法を用いて製造した第1の線材から作製される複数の第2の線材をマルチ用ビレットに組み込み、押出加工及び引抜加工を当該マルチ用ビレットに施すことにより、所定の径を有する超電導線材を製造する。したがって、本実施の形態によれば、磁場特性が安定であり、交流ロスを低減した実用に適した超電導線材を安価に製造できる。
【実施例1】
【0034】
図2は、本発明の実施例1に係る内層線の製造工程の一例を示し、図3は、本発明の実施例1に係る素線材の製造工程の一例を示す。また、図4は、本発明の実施例1に係る素線材の断面の一例を示す。更に、図5は、本発明の実施例1に係るマルチビレットの断面の一例を示す。
【0035】
具体的に、本発明の実施例1においては、超電導線材を構成する材料としてNbSnを用いた。そして、図2は、内層線40を連続的ロールフォーミングにより製造する製造工程の概要を示すと共に、図3は、製造した内層線40から第1の線材としての素線材60を連続的ロールフォーミングにより製造する製造工程の概要を示す。
【0036】
まず、図2を参照する。実施例1では、コア材10として、直径0.8mmのNb線を準備した。また、第1の金属薄膜テープとしてのSn合金テープ30(厚さ:50μm、幅:15.1mm)が所定の芯に巻きつけられたSn合金コイル30aと、第2の金属薄膜テープとしてのNbテープ20(厚さ:100μm、幅:15.1mm)が所定の芯に巻きつけられたNbコイル20aとを準備した。コア材10、Nbテープ20、及びSn合金テープ30のそれぞれには、所定の雰囲気下、所定の温度において所定の時間での焼鈍熱処理を予め施した。具体的に、Sn合金テープ30には、不活性雰囲気下(例えば、窒素雰囲気下)、200℃で30分の焼鈍熱処理を施した。また、Nbテープ20には、不活性雰囲気下、800℃で30分の焼鈍熱処理を施した。
【0037】
そして、コア材10を中心にして、コア材10の周囲にSn合金テープ30とNbテープ20とを多重にして数層巻きした。具体的には、コア材10の周囲に各テープを3.1ターンで巻きつけた。そして、コア材10にSn合金テープ30とNbテープ20とを巻きつけつつ、成形ロール100を通してロールフォーミングを実施した。これにより、ジェリーロール線材としての内層線40を製造した。
【0038】
続いて、図3に示すように、Cuテープ50(厚さ:40μm、幅:12mm)が所定の芯に巻きつけられたCuコイル50aを準備した。そして、内層線40の周囲にCuテープ50を被覆して(内層線40の周囲に1.7ターンで巻きつけ)、ロールフォーミングにより断面を略六角形に成形した。これにより、図4に示すような、φ2.2mm円相当の断面積の六角線に相当する第1の線材としての素線材60が得られた。なお、Cuテープ50には、所定の雰囲気下、所定の温度において所定の時間での焼鈍熱処理を予め施した。具体的に、Cuテープ50に、不活性雰囲気下、400℃で30分の焼鈍熱処理を施した。
【0039】
次に、素線材60を矯正すると共に、250mmの長さ毎に切断した。続いて、図5に示すように、銅からなるマルチ用ビレット70(直径:78mm、厚さ:4mm)に、切断した素線材60とバリア層80とを組み込むことにより、マルチビレット65を作製した。ここで、マルチ用ビレット70と複数本の素線材60との間に組み込んだバリア層80としては、Taから形成された厚さが1mmのテープを用いた。また、マルチ用ビレット70に組み込んだ切断した素線材60の本数は、1089本である。
【0040】
続いて、マルチビレット65を冷間で押し出すことにより、直径30mmの押出材としての線材に加工した。本実施例では、冷間で押し出す際の押出圧力を、加工時に発生する加工熱によって素線材60を構成するSn合金が溶解しない範囲における押出圧力に低下させて押し出すことができた。
【0041】
次に、押出材に引抜加工を施して、直径1.5mmの引抜材を作製した。続いて、作製した引抜材に、650℃から750℃、200時間から300時間の熱処理を施した。更に、熱処理後、熱処理済みの引抜材の外周に安定化材としての銅を取り付けることにより、実施例1に係る超電導線材を製造した。
【0042】
このようにして製造した実施例1に係る超電導線材の超電導特性を4.2Kにおいて測定した。その結果、non Copper Jcにおいて、3100A/mm(at 12T)の特性を示した。
【実施例2】
【0043】
本発明の実施例2においては、超電導線材を構成する材料としてNbAlを用いた。実施例2に係る超電導線材は、実施例1に係る超電導線材と略同様の製造工程で製造した。したがって、実施例1との相違点を除き、詳細な説明は省略する。
【0044】
実施例2においては、コア材(直径0.8mmのNb線)の周囲に、第1の金属薄膜テープとしてのAlテープ(厚さ:50μm、幅:23mm)と第2の金属薄膜テープとしてのNbテープ(厚さ:100μm、幅:23mm)とを実施例1と同様にして巻きつけた(4.5巻した)。そして、ロールフォーミングにより断面を略六角形に成形した。これにより、実施例2に係る第1の線材としての素線材を製造した。なお、実施例2に係る素線材の断面は、直径が2.3mm相当の六角形状であった。
【0045】
次に、当該第1の線材を矯正すると共に、500mmの長さ毎に切断した。続いて、銅からなる大型マルチ用ビレット(直径:160mm、厚さ:10mm)に、切断した第1の線材とTaからなるバリア層とを組み込むことにより、マルチビレットを作製した。ここで、大型マルチ用ビレットに組み込んだ切断した第1の線材の本数は、3050本である。
【0046】
続いて、作製したマルチビレットを冷間で押し出すことにより、直径50mmの押出材としての線材に加工した。次に、引抜加工を押出材に施して、直径1.5mmの引抜材を作製した。ここで、実施例2においては、引抜材の外周を被覆している銅からなる大型マルチ用ビレットを硝酸で除去した。そして、銅を除去した後の引抜材に、急熱急冷処理を施した。これにより、実施例2に係る超電導線材を製造した。
【0047】
このようにして製造した実施例2に係る超電導線材の超電導特性を4.2Kにおいて測定した。その結果、non Copper Jcにおいて、2500A/mm(at 12T)の特性を示した。
【実施例3】
【0048】
本発明の実施例3においては、超電導線材を構成する材料としてNbTiを用いた。実施例3に係る超電導線材は、実施例1に係る超電導線材と略同様の製造工程で製造した。したがって、実施例1との相違点を除き、詳細な説明は省略する。
【0049】
実施例3においては、コア材として、直径が1.75mmのNbTi線を用いた。そして、金属薄膜テープとしてCuテープ(厚さ:70μm、幅8.5mm)のみを用いた。そして、コア材にCuテープを2層巻きつけでロールフォーミングした。すなわち、コア材にCuテープを巻きつけて円形断面として成形した後、六角形状に減面加工した。更に、カセットロール引抜を実施した。これにより、銅比が0.33であり、直径が1.5mm相当の第1の線材としての六角線を作製した。なお、Cuテープは、無酸素銅から製造したテープである。
【0050】
次に、作製した六角線を矯正すると共に、250mmの長さ毎に切断した。続いて、銅からなるマルチ用ビレット(直径:76mm、厚さ:5mm)に、切断した六角線を組み込むことにより、マルチビレットを作製した。ここで、マルチ用ビレットに組み込んだ切断した六角線の本数は、1930本である。
【0051】
続いて、作製したマルチビレットを300℃で押し出すことにより、直径27mmの押出材に加工した。次に、押出材に引抜加工を施すと共に、引抜加工の途中において数回の時効熱処理を施すことにより、銅比が0.75であり、直径16μmである六角線を含む超電導線材を製造した。超電導線材の外径は、0.8mmであった。
【0052】
このようにして製造した実施例3に係る超電導線材の超電導特性を4.2Kにおいて測定した。その結果、non Copper Jcにおいて、1200A/mm(at 7T)という良好な特性を示した。
【0053】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の実施の形態に係る超電導線材の製造方法の流れを示す図である。
【図2】本発明の実施例1に係る内層線の製造工程を示す図である。
【図3】本発明の実施例1に係る素線材の製造工程を示す図である。
【図4】本発明の実施例1に係る素線材の断面図である。
【図5】本発明の実施例1に係るマルチビレットの断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10 コア材
20 Nbテープ
20a Nbコイル
30 Sn合金テープ
30 Sn合金コイル
40 内層線
50 Cuテープ
50a Cuコイル
60 素線材
65 マルチビレット
70 マルチ用ビレット
80 バリア層
100 成形ロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属材料からなるコア材に、第2の金属材料を圧延し、焼鈍熱処理を施して形成された金属薄膜テープを所定の巻き数で巻き合わせて、前記コア材の長手方向にロールフォーミング成形可能な径を有する第1の線材を作製する線材作製工程と、
前記第1の線材を切断して、複数本の第2の線材を形成する切断工程と、
前記複数本の第2の線材をマルチ用ビレットに充填してマルチビレットを作製する充填工程と、
前記マルチビレットを押出して押出材を作製する押出工程と、
前記押出材を引抜加工して引抜材を作製する引抜工程と、
前記引抜材に熱処理を施して超電導線材を作製する熱処理工程と
を備える超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記超電導線材は、Nb化合物又はNb合金を有して形成され、
前記第1の金属材料は、Nb、Nb合金、Ta、Cu、Sn、及びSn合金からなる群から選択される少なくとも1つの金属材料を含み、
前記第2の金属材料は、Nb、Sn、Sn合金、Al、及びCuからなる群から選択される少なくとも1つの金属材料を含み、
前記線材作製工程は、前記第1の金属材料が前記Nb化合物を構成する一の金属を含む金属材料である場合、前記Nb化合物の構成成分のうち、前記一の金属と結合することにより前記Nb化合物を形成する他の金属を少なくとも前記第2の金属材料として選択し、
前記線材作製工程は、前記第1の金属材料が前記一の金属を含まない金属材料である場合、前記一の金属及び前記他の金属の双方を前記第2の金属材料として少なくとも選択し、
前記線材作製工程は、前記第1の金属材料が前記Nb合金である場合、Cuを少なくとも前記第2の金属材料として選択する請求項1に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記線材作製工程は、前記一の金属及び前記他の金属の双方を前記第2の金属材料として少なくとも選択した場合、複数の前記金属薄膜テープを前記コア材に巻き合わせる工程を含み、前記複数の前記金属薄膜テープはそれぞれ前記一の金属及び前記他の金属から形成される請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記充填工程は、前記マルチビレットに1000本以上の前記第2の線材を充填する請求項2に記載の超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記線材作製工程は、前記所定の巻き数が、前記コア材に1.2巻から6巻である請求項3に記載の超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−301928(P2009−301928A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156441(P2008−156441)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】