説明

超電導線材及び超電導コイル

【課題】テープ状の超電導線材を用いた超電導コイルにおいて、コイル全体を大型化することなく、また、コイルの作製を困難とすることなく、超電導線材の広幅面に対して略平行な磁場がかかるようにして臨界電流の低下を防止し、運転電流の向上を図る。
【解決手段】超電導線材の少なくとも一部を、基板1、超電導層3及び安定化層2からなる断面形状が、円形、半円形、楕円形、もしくは、多角形状となっているものとして、この超電導線材が、コイル内の部位によって、超電導層の広幅面の方向が巻枠5の軸線に対する所定の方向となされて保持されるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テープ状の構造を有する超電導線材及びこの超電導線材を用いて構成された超電導コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
Bi系、Y系に代表されるような高温超電導線材は、図6に示すように、基板101a、中間層101b、超電導層101c、安定化層101d等から成るテープ状の構造を有している。ここに基板101aは、例えば、ニッケル基合金などの金属材料からなり、中間層101bは超電導層101cの結晶を規則正しく並べるための層でマグネシウム酸化物などからなり、安定化層101dは例えば、銀や銅などの金属材料からなり、超電導体の冷却に寄与したり、常伝導転位時にバイパスして発熱を抑えるためのものである。
【0003】
このようなテープ状の超電導線材101を巻線して作製される超電導コイルにおいては、超電導線材101に対して、コイルの部位によって異なる方向の磁場がかかる。図7は、円形のコイルの1/4断面の磁場分布例を示している。図7に示すように、超電導線材101に対して、コイルの部位により、大きさ及び方向が異なる磁場H(Hはベクトル)がかかる。
【0004】
また、超電導線材101は、磁場について方向依存性を有しており、超電導線材101の広幅面101aに対して平行な磁場H1がかかる場合よりも、広幅面に垂直や、ある所定の方向から磁場H2がかかる場合に、臨界電流が低下することが知られている。そのため、超電導コイルの運転電流は、使用する超電導線材により、どのような方向の磁場により臨界電流が低下するのか、また、コイル内のどの部位における磁場が最も臨界電流を低下させるのかにより、制限される。一般に、高温超電導材料を適用した場合、コイルの上部や下部における超電導線材101の広幅面に略垂直な磁場により、運転電流が制限されることが多い。
【0005】
特許文献1には、巻枠の軸線方向の中央位置の部位では、超電導線材の広幅面を巻枠の軸線と平行にし、巻枠の軸線方向の少なくとも両端位置の部位では、内周側の超電導線材の広幅面を巻枠の軸線に対して傾斜させるとともに、外周側の超電導線材の広幅面を巻枠の軸線に対して垂直となるように巻付方向を変化させ、交流印加時に発生する磁場方向に対して超電導線材の広幅面を平行にした超電導コイルが記載されている。
【0006】
また、非特許文献1には、コイル両端部における磁場方向を超電導線材の広幅面に対して平行な方向に近づけるように、図8に示すように、超電導線材101からなるコイルの上部や下部にサブコイル102,102を配置して、磁場の方向を制御する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−244280号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】2008年度春期低温工学・超電導学会「他芯テープ線材の活用による超電導コイルの性能向上」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載された超電導コイルにおいては、一本の超電導線材を保持する保持溝を有する巻枠を用いることにより、超電導線材の広幅面の方向を、コイルの部位によって所定の方向となるようにしている。このような巻枠を用いると、超電導線材同士の間隔を狭くすることができず、超電導線材の密度が低くなるため、必要なターン数を確保するためには、コイル全体が大型化してしまうという問題がある。また、このような巻枠を用いることは、コイルの作製にあたっては、超電導線材を保持溝に挿入しなければならないため、作製が困難である。
【0010】
また、非特許文献1に記載された超電導コイルにおいては、サブコイルを用いることによって磁場の方向を制御し、運転電流を向上させることができるが、サブコイルを配置するためのスペースが必要であり、コイル全体が大型化してしまうという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、前述の実情に鑑みて提案されるものであって、テープ状の超電導線材を用いた超電導コイルにおいて、コイル全体を大型化することなく、また、コイルの作製を困難とすることなく、超電導線材の広幅面に対して略平行な磁場がかかるようにして臨界電流の低下を防止し、運転電流の向上を図ることができる超電導線材及び超電導コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前述の課題を解決し、目的を達成するため、本発明に係る超電導線材及び超電導コイルは、以下の構成を有するものである。
【0013】
〔構成1〕
本発明に係る超電導線材は、基板及び安定化層によりテープ状超電導層を挟んだ構造を有する超電導線材であって、基板、超電導層及び安定化層からなる線材断面形状が、円形、半円形、楕円形、もしくは、多角形状となっていることを特徴とするものである。
【0014】
〔構成2〕
構成1を有する超電導線材であって、イットリウム系の超電導線材であることを特徴とするものである。
【0015】
〔構成3〕
本発明に係る超電導コイルは、超電導線材を巻枠に巻線して構成された超電導コイルであって、巻枠の上端部、下端部の超電導線材の少なくとも一部が、構成1、または、構成2を有する超電導線材であり、上端部、下端部に於ける超電導層の広幅面の方向が、巻枠の軸線に対して所定有限角度の角度範囲にあることを特徴とするものである。
【0016】
〔構成4〕
構成3を有する超電導コイルであって、所定有限角の角度範囲は20°<θ<70°であることを特徴とするものである。
【0017】
〔構成5〕
構成3、または、構成4を有する超電導コイルであって、上端部、下端部に於ける超電導層広幅面の法線方向と、発生する磁場方向のなす角φは、80°<φ<100°であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る超電導線材においては、基板、超電導層及び安定化層からなる断面形状が、円形、半円形、楕円形、もしくは、多角形状となっていることにより、巻枠に巻線してコイル化するにあたって、超電導層の広幅面の方向を巻枠の軸線に対する所定の方向とした状態で保持されるので、超電導層の広幅面に対して略平行な磁場がかかるようにして臨界電流の低下を防止し、運転電流の向上が図られた超電導コイルを容易に作製することができる。
【0019】
本発明に係る超電導コイルにおいては、超電導線材の少なくとも一部が、コイル内の部位によって、超電導層の広幅面の方向が、巻枠の軸線に対する所定の方向となされて保持されているので、超電導層の広幅面に対して略平行な磁場がかかるようにして臨界電流の低下を防止し、運転電流の向上を図ることができる。
【0020】
すなわち、本発明は、テープ状の超電導線材を用いた超電導コイルにおいて、コイル全体を大型化することなく、また、コイルの作製を困難とすることなく、超電導線材の広幅面に対して略平行な磁場がかかるようにして臨界電流の低下を防止し、運転電流の向上を図ることができる超電導線材及び超電導コイルを提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る超電導線材の構造を示す断面図である。
【図2】本発明に係る超電導コイルの構造を示す模式的な断面図である。
【図3】本発明に係る超電導コイルの構造を示す断面図である。
【図4】本発明に係る超電導コイルの構造の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明に係る超電導線材をなす超電導層の磁場角度依存性を示すグラフである。
【図6】テープ状の超電導線材の構造を示す斜視図である。
【図7】円形のコイルの1/4断面における磁場分布例を示す断面図である。
【図8】従来の超電導コイルの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明に係る超電導線材の構造を示す断面図である。
【0024】
本発明に係る超電導線材は、図1中の(a)に示すように、基板1及び安定化層2により、超電導層3を挟んだ構造を有する超電導線材である。また、基板1及び安定化層2の間には、超電導層3とともに、中間層4が挟まれているようにしてもよい。この場合には、この超電導線材は、基板1、中間層4、超電導層3及び安定化層2が順次積層された構造を有している。
【0025】
基板1及び安定化層2は、銅、その他の金属材料により形成されている。超電導層3は、例えば、イットリウム系(Y系)の超電導材料により形成されている。
【0026】
また、この超電導線材は、図1中の(b)に示すように、基板1の側にさらに安定化層2を設けて、安定化層2、基板1、中間層4、超電導層3及び安定化層2が順次積層された構造を有するものとしてもよい。また、中間層4、安定化層2など各層は複数層から構成されていてもよい。
【0027】
さらに、この超電導線材は、図1中の(c)に示すように、外周面にさらに安定化層2を設けた構造を有するものとしてもよい。
【0028】
そして、この超電導線材は、図1中の(a)乃至(c)に示すように、基板1、超電導層3及び安定化層2からなる断面形状が円形となっており、円柱状の形状となっている。あるいは、この超電導線材は、図1中の(d)及び(e)に示すように、基板1、超電導層3及び安定化層2からなる断面形状が、六角形、四角形などの多角形状となっており、六角柱状や四角柱状の形状となっている。さらに、この超電導線材は、基板1、超電導層3及び安定化層2からなる断面形状を、半円形や楕円形としてもよい。また断面形状は、前記円形、多角形、半円形、楕円形の他、所定の閉曲線形状とすることもできる。
【0029】
また、基板1、超電導層3及び安定化層2からなる断面形状を多角形状とした場合において、超電導層3の広幅面3aの方向Aは、多角形の一の辺にあたる側面に対して平行としてもよく、また、所定の角度をなすようにしてもよい。
【0030】
この超電導線材は、基板1、超電導層3及び安定化層2からなる断面形状が、円形、または、多角形状等となっていることにより(後述するように)、巻枠に巻線してコイル化するにあたって、超電導層3の広幅面3aの方向Aを巻枠の軸線に対して有限傾斜角を有する所定の方向とした状態で保持される。
【0031】
すなわち、この超電導線材は、断面形状が円形である場合には、巻枠に巻線したときに、超電導層3の広幅面の方向が巻枠の軸線に対する所定の方向となっている状態で、外周面同士の摩擦により保持される。また、この超電導線材は、断面形状が多角形である場合には、巻枠に巻線したときに、超電導層3の広幅面の方向が巻枠の軸線に対する所定の方向となっている状態で、平坦な外周面同士が当接した状態で保持される。
【0032】
そして、この超電導線材においては、このように超電導層3の広幅面の方向を所定の方向として巻線しても、超電導層3に捻れの力が直接加わらず、歪みによって超電導層3が破壊されることが防止される。
【0033】
本発明に係る超電導コイルは、超電導線材を巻枠に巻線して構成された超電導コイルであって、超電導線材の少なくとも一部が、前述した本発明に係る超電導線材となっているものである。
【0034】
図2は、本発明に係る超電導コイルの構造を示す模式的な断面図である。
【0035】
この超電導コイルにおいては、図2に示すように、少なくとも本発明に係る超電導線材を用いた部位においては、超電導線材は、コイル内の部位によって、超電導層3の広幅面3aの方向Aが、巻枠5の軸線oに対して有限傾斜角θを有する所定の方向となされて保持されている。超電導層3の広幅面の方向Aは、この超電導コイルに通電されたときに、発生する磁場の方向に略平行となるようになされている。超電導層3の広幅面の方向が、発生磁場の方向に略平行となっていることにより、臨界電流の低下が防止され、運転電流が向上し、高性能な超電導コイルを提供することができる。
【0036】
図3は、本発明に係る超電導コイルの具体的構造或いは配置を示す断面図である。
【0037】
この超電導コイルにおいては、図3に示すように、超電導線材の断面形状が、円形、または、多角形状等となっていることにより、この超電導線材を巻枠に巻線するにあたって、超電導層3の広幅面の方向Aを、巻枠5の軸線oに対して所定の有限傾斜角θを有する所定の方向とした状態で保持させることができる。これにより超電導層3の広幅面の方向Aを、発生磁場の方向と平行に維持することができる。
【0038】
すなわち、超電導線材の断面形状が円形である場合には、超電導線材を巻枠に巻線したときに、超電導層3の広幅面の方向が巻枠5の軸線に対する所定の方向となっている状態で、超電導線材は、外周面同士の摩擦により保持される。また、この超電導線材の断面形状が多角形である場合には、超電導線材を巻枠に巻線したときに、超電導層3の広幅面の方向が巻枠の軸線に対する所定の方向となっている状態で、超電導線材は、平坦な外周面同士が当接した状態で保持される。
【0039】
超電導コイルにおいては、コイルの上端部5a近傍及び下端部5b近傍において、磁場の方向が巻枠5の軸線に対して傾くので、これら上端部5a近傍及び下端部5b近傍の部位において、超電導層3の広幅面の方向を、磁場の方向に沿って傾けるようにする。
【0040】
図4は、本発明に係る超電導コイルの構造の他の例を示す断面図である。
【0041】
この超電導コイルにおいては、図4に示すように、コイル中央部5cには、従来と同様に、軸線oと平行に巻いたテープ状線材13を用い、コイルの上端部5a及び下端部5bに、前述した断面形状が、円形、または、多角形状等となっている超電導線材を用いる。この場合には、磁場の方向が巻枠5の軸線に対して傾くコイルの上端部5a近傍及び下端部5b近傍の部位において、断面形状が、円形、または、多角形状等となっている超電導線材を用いることにより、超電導層3の広幅面の方向を、磁場の方向に沿って傾けるとよい。
【実施例】
【0042】
本発明の実施例として、超電導層3として、RE(希土類(Rare Earth))系の酸化物超電導材料を用いて、前述した構成の超電導線材を作製した。
【0043】
図5は、本発明に係る超電導線材をなす超電導層の臨界電流の磁場角度依存性を示すグラフである。
【0044】
この酸化物超電導材料からなる超電導層の臨界電流は、図5に示すように、磁場角度依存性を有している。この超電導層3においては、図5に示すように、広幅面の法線oに対する磁場Hの角度φが90°であるとき(すなわち広幅面の表面に対して磁場が平行であるとき)に、最も臨界電流が高くなっており、80°から100°であれば、臨界電流は、それ以外の角度の場合に比べて高くなる。したがって、前記角度φは、80°から100°であるのが好ましく、90°前後(例えば85°から95°)であるのがさらに好ましい。
【0045】
この超電導線材を用いて、内径70mm、外径90mm、高さ72mmのパンケーキ状の超電導コイルを作製した。コイルは6層、ターン数は210ターン、使用温度を77Kとした。
【0046】
そして、磁場の方向が巻枠5の軸線に対して傾くコイルの上端部近傍及び下端部近傍の部位、すなわち、超電導コイルの臨界電流が決定される部位においては、超電導層3の広幅面の表面の方向を以下の表1に示すように傾けた。このとき、超電導層3の広幅面の巻枠5の軸線に対する角度θと、臨界電流との関係は、77Kにおいて、以下の〔表1〕に示すようになった。
【0047】
【表1】

〔表1〕に示すように、超電導コイルの臨界電流が決定される部位における超電導層3の広幅面の方向を変えることにより、臨界電流が改善された。
【0048】
すなわちコイル上端部及び下端部において、巻枠軸線oに対する前記超電導層3の広幅面の方向Aの傾斜角θは、20°<θ<70°であるのが好ましい。なお、誤差を考慮すれば、10°<θ<80°で有っても良い。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、テープ状の構造を有する超電導線材及びこの超電導線材を用いて構成された超電導コイルに適用される。
【符号の説明】
【0050】
1 基板
2 安定化層
3 超電導層
5 巻枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板及び安定化層によりテープ状超電導層を挟んだ構造を有する超電導線材であって、
前記基板、前記超電導層及び前記安定化層からなる線材断面形状が、円形、半円形、楕円形、もしくは、多角形状となっていることを特徴とする超電導線材。
【請求項2】
イットリウム系の超電導線材である
ことを特徴とする請求項1記載の超電導線材。
【請求項3】
超電導線材を巻枠に巻線して構成された超電導コイルであって、
前記巻枠の上端部、下端部の超電導線材の少なくとも一部が、請求項1または2記載の超電導線材であり、
前記上端部、下端部に於ける超電導層の広幅面の方向が、前記巻枠の軸線に対して所定有限角度の角度範囲にある
ことを特徴とする超電導コイル。
【請求項4】
前記所定有限角の角度範囲は、20°<θ<70°である
ことを特徴とする請求項3記載の超電導コイル。
【請求項5】
前記上端部、下端部に於ける超電導層広幅面の法線方向と、発生する磁場方向のなす角φは、80°<φ<100°である
ことを特徴とする請求項3、または、請求項4記載の超電導コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−108427(P2011−108427A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260397(P2009−260397)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】