説明

超電導線材,永久電流スイッチ及び超電導マグネット

【課題】4.2K,2T以下の低磁場領域で使用することが可能な超電導線,接続部構造及び接続方法を提供すること、及び超電導線を使用した、信頼性の高い装置を提供することにある。
【解決手段】本願発明の超電導線材は、超電導金属フィラメントを有し、常電導体の金属マトリックス内に超電導金属フィラメントが複数本埋め込まれており、かつ各超電導フィラメントに250℃〜500℃においてSnと反応しない金属よりなるバリア層を用いることを特徴とする。バリア層は、Ta,Moまたはこれらの合金がよく、バリア層の厚さとしては、0.01μm〜1μmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導磁石などの永久電流運転を必要とする回路で、常電導状態と超電導状態との切り替えを行う永久電流スイッチに関する。また、本発明は超電導線材の接続部,接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核磁気共鳴分析装置,医療用磁気共鳴診断装置,磁気浮上式列車,超電導電力貯蔵装置,磁気分離装置,磁場中単結晶引き上げ装置,冷凍機冷却超電導マグネット装置,超電導エネルギー貯蔵,超電導発電機,核融合炉用マグネット等では、永久電流運転を必要とする超電導マグネットを使用する。超電導マグネットの常電導状態と超電導状態との切り替えは、永久電流スイッチで行われる。
【0003】
永久電流スイッチ用の超電導線は、細くかつ複数本の超電導フィラメントと、フィラメントを安定化/一体化する金属マトリックスを有する、多芯構造を有する超電導線材である。超電導フィラメントとして、NbTi超電導線材が最も広く用いられている。一般的に、NbTi超電導線材は多数のNbTi合金フィラメントを安定化のための金属(例えば銅など)のマトリックス中に埋設した状態で熱間押出をし、時効熱処理と線引き加工を繰り返して製造される。しかし、熱間押出や時効熱処理時に、金属マトリックス中のCuとNbTi合金中のTiが反応してCuTi化合物を生成する可能性がある。このCuTi化合物は加工性が悪く、線引き加工の断線の主要因となる。そこで、金属マトリックスとNbTi合金フィラメントの間にTi,Cuのいずれとも反応せず、かつ線引き加工性のよいバリア材料を介在させることが有効である。特許文献1には、バリア材として、Nbなどを使用することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−223425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
5T以上の磁界で使用される超電導マグネットではNbは常電導状態を示す。しかし、一般的に永久電流スイッチは、4.2Kの液体ヘリウム中においては2T以下の領域に設置される。また特に永久電流スイッチと超電導マグネットを接続した部分は1T以下に設置されることが多い。Nbをバリア材料として用いた場合、1T以下であれば、そのバリア層自体が超電導状態となる場合がある。
【0006】
永久電流スイッチが設置される磁場雰囲気においてNbが超電導状態となると、永久電流スイッチの中で超電導フィラメント同士のカップリングが生じ、超電導クエンチが生じやすくなる。特に超電導接続部内では線材の金属マトリクスを除去した状態であるため、超電導フィラメント同士が線材の状態よりさらに接近し、カップリングによる超電導クエンチの確率が高くなる。
【0007】
そこで本願発明の目的は、このような4.2K,2T以下の低磁場領域で使用することが可能な超電導線、接続部構造及び接続方法を提供すること、及び超電導線を使用した、信頼性の高い装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本願発明の超電導線材は、超電導金属フィラメントを有し、常電導体の金属マトリックス内に超電導金属フィラメントが複数本埋め込まれており、かつ各超電導フィラメントに250℃〜500℃においてSnと反応しない金属よりなるバリア層を用いることを特徴とする。さらに、4.2K,0.5T以下で超電導とならないバリア層であれば、低磁場領域でも使用することが可能となる。特に、超電導金属フィラメントがNbTiよりなり、常電導体の金属マトリックスが銅、またはCu−Ni合金などの銅合金よりなり、バリア層がTaよりなることが好ましい。
【0009】
また、本発明の超電導線材の接続方法は、上記の超電導線の金属マトリックスの少なくとも一部をスズまたはスズ合金で置換し、置換されたスズまたはスズ合金を低融点の超電導合金、特に鉛またはPb−Biなどの鉛合金で置換し、置換された超電導合金により複数本の超電導線材を接続するものである、その結果、未置換の常電導体の金属マトリックスの残留が抑制され、良好な超電導接続部を達成可能である。
【0010】
他の本発明は、超電導線材の少なくとも一部で、常電導体の金属マトリクスが除去されており、バリア層を有する複数本の超電導体のフィラメントが低融点の超電導合金を介して一体化されている超電導線材の接続部構造にある。
【0011】
さらに本発明は、上記の接続部を有する超電導線を用いた装置にある。上記接続部を備えるとともに、超電導線の接続部以外の部分は常電導体の金属マトリックスで覆われている。このような構成によれば、4.2K,2T以下の低磁場領域で使用されても欠陥が少なく、クエンチの生じにくい永久電流スイッチを提供できる。
【0012】
また、同様に信頼性の高い永久電流回路を達成可能な装置を提供することが可能となる。このような装置として、核磁気共鳴分析装置,医療用磁気共鳴診断装置,磁気浮上式列車,超電導電力貯蔵装置,磁気分離装置,磁場中単結晶引き上げ装置,冷凍機冷却超電導マグネット装置,超電導エネルギー貯蔵,超電導発電機,核融合炉用マグネットなどで使用される超電導マグネットが挙げられる。
【0013】
また、超電導線材の接続部性能が問題となる装置として、超電導減流器,外乱抑制コイルなどがあり、これらにも本発明の応用展開が可能である。
【発明の効果】
【0014】
上述の通り、本発明によれば信頼性の高い超電導回路を搭載した装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】永久電流運転用の閉回路を示す図である。
【図2】永久電流スイッチ用線材の断面構成を示す図である。
【図3】超電導接続部の断面構成例を示す図である。
【図4】永久電流スイッチの例を示す図である。
【図5】マトリックスをSnで置換した超電導線材の断面を示す図である。
【図6】実施例の永久電流運転用の閉回路を示す図である。
【図7】実施例2の試験結果を示す図である。
【図8】実施例3の試験結果を示す図である。
【図9】超電導マグネットの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、上記本発明について更に詳細を説明する。
【0017】
本発明の線材は、バリア層で覆われた超電動体のフィラメントが常電導体のマトリックス内に複数本埋め込まれることで構成され、多芯構造を有する超電導線材である。これまで、化合物系の超電導線を用いた超電導マグネットで、永久電流運転する場合に、CuNi合金を安定化材としたNbTi超電導線で構成した永久電流スイッチが適用された例がある。
【0018】
本発明の線材は、まず第一に永久電流スイッチで使用されることを想定され、その場合は4.2K以下,2T以下など、低磁場領域で使用される。特に線材の接続部では、1T以下を想定している。従ってバリア層は4.2K以下、2T以下の低磁場領域で超電導性能を示さないものとする必要がある。このようなバリア層を使用すれば、超電導フィラメント間のカップリングを抑制し、接続部を要因とする超電導クエンチを抑制することが可能となる。超電導フィラメントは、NbTiの他,MgB2,Nb3Sn,Nb3Alなどの超電導物質で構成できる。
【0019】
また、バリア層は、Ta,Moまたはこれらの合金がよく、バリア層の厚さとしては、0.01μm〜1μmであることが好ましい。なお、接続部のクエンチの課題は多芯構造を有する超電導線材には限らないため、本発明は単芯構造を有する超電導線材にも適用可能である。
【0020】
また、永久電流回路のクエンチは、特に超電導線の接続部で生じる場合が多い。複数の超電導線を接続する場合、フィラメントを覆う金属マトリックスをPbやPb−Snなどの低融点の超電導体で置換する方法がある。本願発明者らは、置換のときに元の金属マトリックスなどが接続部内に残留することが、接続部性能の劣化の一因であることを突き止めた。金属マトリクスを固溶・溶解させるためにSnを用いる場合、NbとSnが反応し、常電導のNbSn2やNb6Sn5を形成する。金属マトリックスの固溶・溶解が阻害され、健全な超電導接続部の製品の歩留まりが悪かった。
【0021】
接続の工程中にSnとの固溶・拡散反応を使用することを想定すると、超電導金属フィラメントと常電導マトリックスとの間に設置されたバリア層が250℃〜500℃においてSnと反応しないものである必要がある。上記構成によれば、接続部の金属マトリクスを十分に置換可能であり、接続部の不具合を要因とする超電導クエンチを抑制することが可能となる。
【0022】
300℃〜500℃においてSnと反応せず、かつ4.2K以下,2T以下の低磁場領域で超電導とならない金属として、Ta,Moまたはこれらを主とする合金が有効である。なお、本発明の超電導フィラメントは、NbTi線のほか他の超電導体とすることも可能である。超電導体としては、合金系超電導体,化合物系超電導体が知られている。上記接続部の課題は、NbTi線以外の超電導接続部でも共通する。常電導体の金属マトリックスとしては、CuNi,CuSn,CuZn,CuMn,CuMg,CuIn,CuCo,CuCrなどのCuを主とする合金が好ましい。
【0023】
上記のように、適正な接続部を達成するための超電導金属線構造,超電導線の接続方法を特定することで、信頼性の高い永久電流スイッチ,永久電流回路を有する超電導マグネットなどの装置を提供すること可能である。
【0024】
超電導マグネットの運転方法として、(1)常に超電導コイルに電源から電流を通電する方法、(2)図1のような回路で、電源に対して永久電流スイッチと超電導コイルを並列に接続し、超電導コイルを励磁した後、このスイッチにより超電導コイルを電源から切り離して永久電流運転に移行させる方法、がある。現在、核磁気共鳴分析装置(以下、NMR),医療用磁気共鳴診断装置(以下、MRI),磁気浮上式列車などではほとんどが後者の永久電流運転により超電導マグネットが動作している。超電導マグネットの模式図を図9に示す。
【0025】
図1を用いて永久電流スイッチを用いた永久電流運転について説明する。永久電流運転する超電導マグネット1は、超電導コイル2とその端子間に設けられる短絡スイッチ3からなる。この短絡スイッチ3が永久電流スイッチと呼ばれ、短絡時の抵抗を低くするため、超電導線で形成される。
【0026】
永久電流運転の手順は以下の通りである。まず、ヒータ加熱や励磁またはその他の外部擾乱などにより、永久電流スイッチ3を形成している超電導線の臨界温度、臨界磁場をこえる状態として、超電導線を常電導状態(以下、PCS−OFFと略する)とし、高抵抗を発生させる。次に、電源4から定格電流値まで超電導コイル2に通電し、励磁する。その後、永久電流スイッチ3を常電導状態にしている外部擾乱を停止し、永久電流スイッチ3を超電導状態(以下、PCS−ONと略する)し、電源の電流値をさげる。その結果、超電導コイル2と永久電流スイッチ3の間では永久電流運転が可能となる。
【0027】
上記の永久電流運転を達成するため、永久電流スイッチには、PCS−ON時に抵抗が非常に小さく(ほとんどゼロ)、PCS−OFF時の抵抗が大きいことが要求される。また、PCS−ON時には定格電流を安定に長期間、通電することができ、必要時以外に常電導転移しない安定なものである必要がある。
【0028】
これらの特性を満たすため、永久電流スイッチの超電導線では、極細のフィラメントを多数使用し、多芯構造とする。また、線材の長さを長くする。
【0029】
また永久電流スイッチの接続、例えば永久電流スイッチと超電導コイルなどのその他の超電導回路とを超電導体で接続する。さらに超電導接続部を安定な構造とする。
【0030】
従来は、CuNi合金を安定化材とし、高い通電特性のNbTi線を用いることが好ましいと考えられており、バリア材としてNbを使用していた。この永久電流スイッチは一般的には4.2Kの液体ヘリウム中で使用する。しかしNbTiの臨界温度は約9Kであり、使用温度と臨界温度間の温度マージンが約5Kほどしかないため、わずかな擾乱エネルギーが侵入した場合でも、超電導線が臨界温度以上に上昇し、常電導転移が生じやすい。NbTi線を用いた永久電流スイッチには温度マージンが小さいため常電導転移しやすいという問題点がある。従って臨界温度の低いNbTi線を永久電流スイッチ用超電導線として適用する場合、より過酷な条件で適用することが余儀なくされる。
【0031】
さらにこの永久電流スイッチ用のNbTi線の安定化材に、通常の無酸素銅の10倍以上高い電気高抵抗のCuNi合金を使用する。これは超電導コイルの励磁をより迅速にし、永久電流スイッチの電気高抵抗を高くするためである。しかしながら、この金属マトリックスも、永久電流スイッチをより常電導転移しやすい状態とする。
【0032】
さらに、また超電導クエンチの抑制を目的に超電導フィラメントが極細の多芯構造となっていることは、超電導接続部の安定性を下げる。
【0033】
永久電流スイッチの使用条件としては、磁場の低い低磁界雰囲気(2T以下の低磁界)へ設置し、定格電流を低めに設定することが好ましい。またその超電導接続部も1T以下の低磁界に設置される。これより、通常の超電導コイルに使用される超電導線材とは異なる低磁界用の線材設計が必要となる。そのため、永久電流スイッチを構成する超電導線では2T以下の低磁界領域において、また、接続部を構成する超電導線では1T以下の低磁界領域において、超電導フィラメント同士のカップリングがないことが必要である。
【0034】
さらには上述のように、超電導線の接続でCuNiを固溶・拡散させる際にSnを適用するプロセスを適用するのであれば、バリア層とSnとの反応がないことも必要となる。
【0035】
図2に永久電流スイッチ用超電導線の断面構造の例を示す。線材5は、複数の超電導金属フィラメント7と、フィラメントを安定化させる常電導の金属のマトリックス6を有する。各フィラメントには、バリア層8が設けられている。バリア層の厚みは0.01μm〜1μmとし、成分としてはTa,Moが好ましい。Ta,Moは、4.2K,0.5Tでは常電導状態であり、超電導線材内での超電導フィラメントのカップリングは見られない。また、Snを使用して接続部の製造を行っても、Ta,MoはSnと250℃〜500℃において合金層を形成しない。従って、Snとバリア層の反応が抑制され、線材の金属マトリックスのCuNiの固溶・拡散を健全に実施可能である。
【0036】
高抵抗の金属マトリックス6としては、CuNi,CuSn,CuZn,CuMn,CuMg,CuIn,CuCo,CuCrなどが好適である。Cuを主とした合金は、冷却効果と高抵抗を両立することができる。またAl,Ag,Au,Ptなどの冷却効果の高い合金でも使用することは可能である。但し、抵抗値,冷却効果,価格の面からCu合金が望ましい。また、特に実用化を検討した場合、CuNiまたはCuSn合金を使用することが望ましい。
【0037】
図4に永久電流スイッチ3の構造の例を示す。この永久電流スイッチ3では、円筒形状を有し、口出し線固定部15を設けたボビン13を使用している。超電導線材を巻くボビン13の材質はステンレス鋼やFRP,セラミックスなどを使用できる。ボビンの円筒部に、上記の超電導線材と超電導/常電導を切り替えるためのヒータ線とを無誘導巻きもしくはソレノイド巻きし、樹脂含浸させた巻線部14を設けている例である。口出し線固定部15には線材の端部を固定されており、口出し線の先端側には、超電導接続部9が存在する。
【0038】
永久電流スイッチの高抵抗値を高くするため、使用する線材長さは充分に長くすることが好ましい。また、この線材をボビンに巻く際には、永久電流スイッチのインダクタンスが小さくなる無誘導巻きが望ましい。なお、励磁する超電導コイルや電流値が小さい場合は、無誘導巻きではなく、通常のソレノイド巻きでもよい。
【0039】
巻線部に樹脂を含浸させることにより、超電導線材及びヒータ線を固定するとともに、絶縁,破損が防止される。含浸させる樹脂としては、エポキシ樹脂,WAX,蜜ろうなどがある。
【0040】
永久電流スイッチの口出し部の構造としては、口出し線を巻回する口出し溝を設ける構造にすることが好ましい。NbTi線の安定性を向上させるため、Cu線を共線として半田付けし、一緒に巻線するためである。
【0041】
図3に永久電流スイッチと、その他の超電導体との超電導接続部9の断面の例を示す。接続管12の中に、永久電流スイッチ用線材5中の超電導金属フィラメント7と、接続される超電導線の超電導部10とを入れ、間を低融点の金属または合金よりなる超電導体11で充填することで、接続管12の中で超電導体11を介して永久電流スイッチとその他の超電導体とが接続された構造となる。
【0042】
低融点の金属または合金よりなる超電導体11としては、低融点の超電導性能を示す金属または合金であり、融点が400℃以下で、4.2Kの状態で超電導特性を有するものを使用できる。また、4.2K以下のいわゆる超流動状態で用いる場合は、その温度以上で超電導状態になるものが適用できる。Sn,Mg,In,Ga,Pb,Te,Tl,Zn,Bi,Alなどの単体の金属、もしくは2種類以上を組み合わせたこれらの合金とすることが好ましい。特に、PbBi合金またはPbBiSn合金は、超電導特性が高く好ましい。
【0043】
また、図3で接続される超電導部9は、図2の永久電流スイッチの線材と同様の多芯線としてもよい。図5に、二本の多芯線を用い、金属マトリクスのSnでの置換を行った例の模式図を示す。超電導接続部を安定でかつ健全なものにするためには、常電導マトリックスをすべて固溶・拡散させる必要がある。バリア層を設けた多数の超電導体フィラメントをCuNi金属マトリクスで一体化した多芯構造の線材であって、バリア層がTaまたはMoのものと、バリア層がNbのものとをそれぞれ二本用意した。CuNiをSnで置換する実験では、バリア層にTa,Moを使用した永久電流スイッチ用線材同士の接続においては、常電導マトリックス6がすべてSn16に置換された。一方、バリア層にNbを使用した永久電流スイッチ用線材同士の接続においては、中央部の大部分の常電導マトリックス6が残存したままの状態であった。この状態では、常電導マトリックスが残存した部分にある超電導金属フィラメントは接続されていない状態となる。従って、電流が流れるフィラメント本数が低減し、超電導接続部が不安定となる。
【0044】
従って、本発明のようにTa,Moをバリア層とした超電導線材で永久電流スイッチを作製することで、1)PCS−ON時に抵抗がゼロでかつ、安定である、2)PCS−OFF時の抵抗が大きい、3)定格電流を安定に長期間、通電することができる、4)必要時以外に常電導転移しない、永久電流スイッチを提供することができる。このような永久電流スイッチは、これらはMRI,NMR,磁気浮上式列車などの永久電流運転を必要とする超電導マグネットに利用すると効果的である。永久電流運転する超電導マグネットシステムを構築することで、熱的に安定な永久電流運転を実現できる。また、同様に超電導減流器や外乱抑制コイルにも有効である。
【0045】
以下、実施例を用いてさらに具体的な例を説明する。
【実施例1】
【0046】
以下、本実施例では永久電流スイッチの試作例によりその製造プロセスについて説明する。
【0047】
今回、永久電流スイッチの超電導線として、常電導マトリックスにCu−10wt%Ni合金、バリア層にTaを使用し、複数本のNbTi超電導フィラメントよりなる超電導線(CuNi−Ta−NbTiの三重構造を有する多芯線)を使用した。一方、接続されるもう一方の超電導線として、NbTi線を使用した。接続するための低融点の超電導合金としてPbBiSn合金を使用し、永久電流スイッチを作製した。
【0048】
まず、永久電流スイッチ用の超電導線を熱間押出,線引き加工により作製した。NbTi合金ロッドにTaシートを巻きつけ、それらをCu−10wt%Ni管へ封入し、熱間押出,線引き加工を実施し、CuNi/Ta/NbTiの単芯線を作製した。作製したCuNi/Ta/NbTiを六角形に線引き加工した後、CuNi合金管の中に約2000本組み込んだ。組み込んだ金属管を熱間押し出し、線引き加工により、φ1.5mmまで長尺化した。絶縁加工により、エナメルを塗布・焼付けた。なお、超電導線の製法として、線引き加工はドローベンチ加工,押出し加工,その他伸線加工,静水圧プレス加工,圧延加工などに変更しても同様の線材が得られる。また、超電導線の最終加工径は永久電流スイッチの仕様により任意に決定できるが、実際の運転上、φ0.2mm〜φ3.0mmが望ましい。
【0049】
次に、永久電流スイッチ用の超電導線をFRP製ボビンに無誘導巻きで巻線した。永久電流スイッチのPCS−OFF時の高抵抗値が10Ωとした。巻線長さは30mである。そして、その外側にヒータ線としてマンガニン線を巻線した。巻き線部に、樹脂含浸をすることで、永久電流スイッチを形成した。
【0050】
なお、高抵抗値は超電導マグネットの励磁速度で、巻線長さは超電導線の単位長さあたりの電気高抵抗値と調整して決定する。ただし、高抵抗値は大きいほど超電導マグネットの励磁速度を速くすることが可能になる。また線材の単位長さあたりの電気高抵抗値が大きいほど、使用線材が短くなり、コスト低減,安定性及び冷却性が向上する。つまり、単位長さあたりの電気高抵抗値を大きくすることで使用線材を短くするが、永久電流スイッチのPCS−OFF時の電気高抵抗は大きいものが最も望ましい。
【0051】
今回はヒータ線としてマンガニン線を用いたが、ニクロム線などの高抵抗でかつMgB2の熱処理温度以上の融点をもつ一般的なヒータ線であれば同様の効果が得られる。また今回は超電導線を巻きつけた外側にヒータ線を巻線したが、超電導線にヒータ線を巻きつけた状態にして巻線する方法、超電導線の内側にヒータをまきつける方法、ボビンの中心軸の中、ボビンの上下部、ボビンを覆うような形状のヒータを設置することでも同様の効果が得られる。
【0052】
さらにヒータはヒータ線を使用するものに限られず、またヒータのほかに磁場等でも永久電流スイッチの入/切を行うことができる。
【0053】
永久電流スイッチの口出し部を固定し、その先端をもう一方のNbTi線と超電導接続した。まず、永久電流スイッチ用超電導線材の片端50mmを400℃のSn浴中に120分間浸漬させ、CuNi溶融プロセスを行った後、Sn浴から引き上げた。次にNbTi線材の片端50mmを400℃のSn浴中に20分間浸漬させた後、Sn浴から引き上げた。この時点では、超電導線のCuNiのみが溶解し、Taの上からSnが付着した状態になっている。NbTiフィラメントは酸化されていなかった。
【0054】
Sn浴に浸漬させる長さは5mm〜700mm程度が望ましい。通常、接続長さは通電したい電流値に応じて決定するが、5mmより短くなることで通電電流量が激減する。一方逆に700mmより長くしても効果が薄く、装置の大型化,ハイコスト化に繋がる。また、Sn浴中の浸漬条件は250℃〜500℃×10分〜120分程度である。浸漬条件は超電導線のCu比,線材構造,線材径で決定され、高温,長時間としすぎると、超電導線の通電特性が低下する。
【0055】
次に、溶融プロセス後の超電導線及びNbTi線の片端55mmを400℃のPbBiSn合金浴中に10分間浸漬させた後、PbBiSn浴から引き上げた。この時点では、NbTi線は酸化が進行しない状態でPbBiSnが付着した状態になっている。PbBiSn浴に浸漬させる長さは5mm〜500mm程度で、溶融プロセスを行った長さより長くする。PbBiSnの濡れ性を向上させ、Snが残留しないようにする。また、PbBiSn浴中の浸漬条件は150℃〜650℃×10分〜60分程度が望ましい。この場合にも条件は超電導線の線材構造,線材径で決定され、高温化,長時間化させすぎることで超電導線の通電特性が低下する。
【0056】
次に、PbBiSn合金を付着させた超電導線及びNbTi線のPbBiSn合金部(超電導部)同士をCu線で固定し、線材固定部とした。線材固定部を作製することで、超電導部同士をより密着させ、通電特性を向上させることができる。線材を固定する方法としては、超電導フィラメントが破損しない程度に、かしめ接合,スポット溶接,超音波溶接,拡散接合,固相拡散を使用できる。これが可能であるのも、バリア層がTa,Moであるためである。
【0057】
最後に、Cu製の接続金属管内に線材固定部を差込んだ後、PbBiSn合金を充填した。接続金属管はCu製のほか、Al,Ag,Auなどの冷却性に優れたものを同様に使用できる。接続金属管の目的はPbBi合金で管内を充填し、線材固定部となじませるためである。
【0058】
本実施例では、PbBiSn合金を使用したが、Snを含まないPbBi合金も同様に好適に使用可能である。PbBi合金のPb,Biの配合は、Pb−35wt%Bi〜Pb−65wt%Biが望ましい。これは、Ta,Moバリアになったため、従来のNbバリアの超電導化の影響がなくなり、NbTiフィラメント間に存在するPbBi合金の高Jc化が必要となったためである。PbBi合金は、上記配合比以外も使用はできるが、一般的な100mm程度の接続長の場合では、抵抗値は、1×10-11Ω代であるため、使用可能な永久電流コイルに制限がある。そのため、上記配合比にし、特に、Pb−50wt%Bi程度(Pb−45wt%Bi〜Pb−55wt%Bi)にすることで、抵抗値が1/100以上改善するため、非常に安定でかつ、低抵抗な接続部を作製するために有効な手段となる。
【0059】
このような超電導接続部を作製することにより、超電導コイル部と超電導接続部を兼備する永久電流スイッチが完成する。
【実施例2】
【0060】
次に、図6に示す永久電流試験用の閉ループ回路を作成し、実施例1で作製した永久電流スイッチの永久電流試験を実施した。NbTi線を用いた超電導コイル2,永久電流スイッチ3,励磁電源4、を用意し、これらのNbTi線と接続用のNbTi線18とを超電導接続部19で接続した。超電導接続部の構造は、図5(a)のように二本の多芯NbTi線を一体化して接続した構造とした。NbTi線のバリア材としては、Ta,Moをそれぞれ使用した。
【0061】
試験は以下の手順で実施した。まず永久電流スイッチ3のヒータに通電し、永久電流スイッチを常電導に転移(9K以上)させ、スイッチ切の状態とした。次に、励磁電源4を用いて超電導コイル2に通電し、励磁した。充分に超電導コイルが励磁された後、永久電流スイッチのヒータを切り、徐々にスイッチ入の状態に移行させた。励磁電源の電流を下げ、充分に永久電流スイッチが冷却されるのを待って、永久電流運転を評価した。
【0062】
評価は、超電導コイル内にホール素子を設置し、そこで発生する磁場を電流値に換算した値の時間変化量を測定することにより行った。図7に通電電流が600Aの永久電流回路の測定結果を示す。測定は10時間実施した。永久電流運転中の常電導転移が一度もなく、そしてほとんど電流減衰がなく、閉回路全体の高抵抗値が1×10-12Ω以下であることがわかった。
【0063】
また通電電流を100A〜1000Aまで変化させ、同様の試験を実施した。図7と同様に、良好な永久電流回路となった。さらに24時間以上の長時間評価を実施したが、常電導転移や大きな電流減衰はなかった。
【0064】
従って、本発明のTa,Moをバリア材とした超電導線材で接続部を作成した場合には、永久電流スイッチの永久電流特性が高く、さらに非常に安定であることがわかった。
【実施例3】
【0065】
実施例2では永久電流回路の超電導コイルを、NbTi線で作成したが、同様にMgB2線,Nb3Sn線,Nb3Al線で作製した超電導コイルを用いて試験を行った。
【0066】
そのうち、MgB2線超電導コイルを用いた試験結果を図8に示す。電流値は200A、測定は10時間実施した。測定の結果、永久電流運転中の常電導転移が一度もなく、そしてほとんど電流減衰がなく、閉回路全体の高抵抗値が1×10-12Ω以下であった。また、通電電流を100A〜500Aまで変化させ、同様の試験を実施したところ、いずれの電流値でも良好な永久電流運転が可能であった。さらに24時間以上の長時間評価を実施したが、常電導転移や大きな電流減衰は見られなかった。
【0067】
またNb3SnやNb3Alのコイルでは、1500Aまでの電流値の範囲で同様の結果となった。
【0068】
この結果より、どのような種類の超電導線においても、微小な接続抵抗で超電導接続が可能となることがわかる。
【0069】
また、本実施例では、低融点の超電導合金としてPbBi合金を使用して接続したが、MgB2に変更すれば20K以上の永久電流運転が可能となる。
【符号の説明】
【0070】
1 超電導マグネット
2 超電導コイル
3 永久電流スイッチ(短絡スイッチ)
4 電源
5 永久電流スイッチ用線材
6 常電導マトリックス
7 超電導金属フィラメント
8 バリア層
9 超電導接続部
10 超電導部
11 低融点の超電導合金
12 接続管
13 ボビン
14 巻線部
15 口出し固定部
17 Sn
18 電流リード用超電導線
19 NbTi線とNbTi線の接続部
20 閉ループ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常電導状態と超電導状態との切り替えを行う永久電流スイッチであって、
前記永久電流スイッチは、少なくとも一部に巻線部を有する第一の超電導線と、配線用の第二の超電導線と、前記第一の超電導線と第二の超電導線の接続部との接続部を有し、
少なくとも第一の超電導線は、超電導物質よりなる複数本の超電導フィラメントと、前記複数本の超電導金属フィラメントを一体化する常電導物質のマトリックスと、前記超電導フィラメントと前記マトリックスとの間に設けられたバリア層を有し、前記バリア層は250℃〜500℃においてSnと反応せず、かつ4.2K,0.5T以下で超電導状態にならない金属であって、
前記第一の超電導線は前記マトリックスを除去されて前記接続部で前記第二の超電導線と接続されていることを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項2】
請求項1に記載された永久電流スイッチであって、
前記超電導線材は、4.2K,2T以下の低磁場領域で使用され、かつ他の線材との接合のプロセスにSnまたはSn合金中で、前記マトリックスの固溶・拡散を行われるものであることを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項3】
請求項1に記載された永久電流スイッチであって、
前記常電導物質のマトリックスは、銅を主成分とする合金であることを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項4】
請求項1に記載された永久電流スイッチであって、
前記常電導物質のマトリックスは、CuNi,CuSn,CuZn,CuMn,CuMg,CuIn,CuCo,CuCrの少なくともいずれかの合金であることを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項5】
請求項1に記載された永久電流スイッチであって、前記バリア層はTa,Moまたはこれらの金属を主成分とする合金であることを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項6】
請求項1に記載された永久電流スイッチであって、
前記バリア層の厚さは0.01μm〜1μmであることを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項7】
超電導線を有し、常電導状態と超電導状態との切り替えを行う永久電流スイッチであって、
前記永久電流スイッチは4.2K,0.5T以下の条件下で配置され、前記永久電流スイッチは超電導線材同士の接続部を有し、前記接続部は、NbTi線同士又はNbTi線と他の超電導線を接続する接続部であって、前記NbTi線はNbTiの超電導フィラメントと、前記超電導フィラメントを覆うTa,Moまたはこれらを主成分とする合金よりなるバリア層と、前記バリア層を覆うCuNi合金層とを有し、
少なくとも一部の前記CuNi合金層を除去された前記NbTi線と、他方の超電導線とが、Pb合金を介して一体化されていることを特徴とする永久電流スイッチ。
【請求項8】
超電導物質よりなる複数本の超電導フィラメントと、前記複数本の超電導金属フィラメントを一体化する常電導物質のマトリックスとを有する多芯の超電導線材であって、前記超電導物質よりなる金属フィラメントはバリア層を有し、前記バリア層は250℃〜500℃においてSnと反応せず、かつ4.2K,0.5T以下で超電導状態にならない金属であることを特徴とする超電導線材。
【請求項9】
請求項8に記載された超電導線材であって、前記超電導線材は、4.2K,2T以下の低磁場領域で使用され、かつ他の線材との接合のプロセスにSnまたはSn合金中で、前記マトリックスの固溶・拡散を行われるものであることを特徴とする超電導線材。
【請求項10】
請求項8に記載された超電導線材であって、前記常電導物質のマトリックスは、銅を主成分とする合金であることを特徴とする超電導線材。
【請求項11】
請求項8に記載された超電導線材であって、前記常電導物質のマトリックスは、CuNi,CuSn,CuZn,CuMn,CuMg,CuIn,CuCo,CuCrの少なくともいずれかの合金であることを特徴とする超電導線材。
【請求項12】
請求項8に記載された超電導線材であって、前記バリア層はTa,Moまたはこれらの金属を主成分とする合金であることを特徴とする超電導線材。
【請求項13】
請求項8に記載された超電導線材であって、前記バリア層の厚さは0.01μm〜1μmであることを特徴とする超電導線材。
【請求項14】
超電導線よりなるコイルと、前記コイルを励磁する電源と、前記電源に対し超電導コイルと並列に接続された永久電流スイッチとを有する超電導マグネットであって、
前記永久電流スイッチに、請求項8ないし13のいずれかに記載された超電導線材を用いたことを特徴とする超電導マグネット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−238840(P2010−238840A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83991(P2009−83991)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】