説明

超電導限流素子

【課題】 超電導膜における相対的な臨界電流密度特性のばらつきの影響を除去し、良好な所定の限流特性を得るとともに、構造を可及的に簡潔にした超電導限流素子を提供する。
【解決手段】 基板1上に超電導膜2を形成した超電導限流素子であって、一部に狭窄部2Aを有する超電導膜2と、狭窄部2Aを覆うように狭窄部2Aに当接させたヒートシンク3とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超電導限流素子に関し、特に基板上に超電導の薄膜を形成して電路に流れる短絡電流を限流する場合に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
超電導体は、超電導状態において電気抵抗ゼロで大きな電流を流すことができるが、ある決まった電流値(臨界電流)より大きな電流を流すと電気抵抗が発生する。さらに、電流を大きくして行くと、発生する熱のため超電導体の温度が上昇し、常電導状態になって、より大きな電気抵抗を生じる。このような超電導体の特徴を生かして、通常時は抵抗ゼロで、電力系統の短絡事故時には大きな抵抗を発生して事故電流の増大を抑制する超電導限流素子が提案されている。この超電導限流素子は、基板上に形成された超電導薄膜が、短絡時には超電導状態から常電導状態へと転移して、短絡時に流れる大電流を瞬時に抑制することができる。
【0003】
ところで、この種の超電導限流素子において、事故直後の限流初期に超電導薄膜の通電電流が急激に増加すると、それに伴って、薄膜中で相対的に臨界電流密度の小さい部分が急激に常電導転移(クエンチ)する。常電導転移した部分で発生する熱が、拡散で除去される熱よりもはるかに大きい場合には、局所的に温度が急上昇して薄膜が焼損してしまう。
【0004】
このようなホットスポット現象を防止するためには、金や銀等の常電導金属を超電導薄膜の上に蒸着して常電導転移時の分流層(焼損防止のための保護層)として用いるのが一般的な解決策である。しかし、このような金属分流層を付加すると超電導線路の電気抵抗を大きく低下させ、限流時の発熱を増大させるため、分担電界を下げざるを得ない。その結果、要求される限流容量を達成するために素子長が増大し、高価な超電導薄膜を大量に使用しなければならず、これは実用化を阻む大きな障害となっている。
【0005】
かかる問題を解決することを目的として、絶縁性基板の少なくとも一側面に形成された超電導膜と、該超電導膜の一側面に、第1抵抗部と第2抵抗部とが通電方向に交互に配置されて縞状に形成された常電導抵抗膜を有することで、通電方向に対して垂直方向に縞状を形成する超電導限流素子が提案されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、他の超電導薄膜限流素子として、絶縁体基板上に形成された超電導薄膜上に純金属の室温抵抗率より2倍以上高い室温抵抗率を有する合金層が形成された分流保護層付超電導薄膜と、分流保護層付超電導薄膜と並列に接続された純金属又は合金からなる線材で作製された分流抵抗と、分流保護層付超電導薄膜と並列に接続され、分流抵抗の20倍以上のインピーダンスを有するコンデンサとからなるものも提案されている。かくして、前記分流保護層付超電導薄膜、分流抵抗及びコンデンサを液体窒素中に配置することにより優れた限流特性を維持したまま電流容量を増加させ、超電導薄膜の面積を低減することを可能にしたものである(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−278349号公報
【特許文献2】特開2008−283106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、特許文献1に開示する超電導限流素子は、第1抵抗部と第2抵抗部とを通電方向に交互に配置して縞状に形成しているので、その分構造が複雑になる。また、特許文献2は、分流保護層付超電導薄膜、分流抵抗およびコンデンサ等を設けているので、部品点数の増大とともに、構造が複雑になるという問題を有している。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、超電導膜における相対的な臨界電流密度特性のばらつきの影響を除去し、良好な所定の限流特性を得るとともに、構造を可及的に簡潔にした超電導限流素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、基板上に超電導膜を形成した超電導限流素子であって、一部に狭窄部を有する超電導膜と、前記狭窄部を覆うように前記狭窄部に当接させたヒートシンクとを有することを特徴とする超電導限流素子にある。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載する超電導限流素子において、前記狭窄部は、電流の流通方向と直交する方向の中心線に対して線対称となるよう前記流通方向に沿って電路の幅が連続的に漸減する形状となっていることを特徴とする超電導限流素子にある。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載する超電導限流素子において、前記狭窄部の縁は曲線で連続されるように形成されていることを特徴とする超電導限流素子にある。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の態様の何れか一つに記載する超電導限流素子において、クエンチ発生後の所定時間後に前記超電導膜と前記ヒートシンクとの間に間隙が形成されるよう前記ヒートシンクを前記超電導膜から離れる方向に移動させる移動機構を有することを特徴とする超電導限流素子にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、狭窄部が超電導状態から常電導状態へと、よりクエンチし易い超電導状態の脆弱部となるので、クエンチは狭窄部から始まるが、このとき狭窄部に集中する電流によるジュール熱はヒートシンクに良好に吸収される。この結果、狭窄部が焼損することはなく、その間にクエンチ領域を他に広げることができ、常電導状態となった超電導膜の全体で大電流を分担して流すことができる。この結果、超電導膜に狭窄部を形成するとともに、ヒートシンクを追加するというきわめて簡単な構成の変更で超電導膜における相対的な臨界電流密度特性のばらつきの影響を除去して良好な所定の限流特性を得ることができる。また、ヒートシンクは超電導膜の全体ではなく、狭窄部に限定的に当接させるように構成しているので、例え狭窄部がヒートシンクの面で覆われていても液体窒素の冷却熱は、超電導膜のうちヒートシンクで覆われた狭窄部以外の領域が液体窒素に接触することにより良好に伝熱される。この結果、超伝導状態への復旧も良好に実現される。
【0015】
さらに、狭窄部はその表面側からヒートシンクで押圧されているので、常電導状態となって流れる電流に伴うジュール熱による膨張も抑制することができる。このことにより、狭窄部の変形も良好に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る超電導限流素子を概念的に示す斜視図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る超電導限流素子を概念的に示す斜視図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る超電導限流素子を概念的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
図1は本発明の第1の実施の形態に係る超電導限流素子を概念的に示す斜視図である。同図に示すように、本形態に係る超電導限流素子は、基板1上に一部が狭窄部2Aとなるように形成された超電導膜2と、狭窄部2Aを覆うように狭窄部2Aに当接させたヒートシンク3とを有する。ここで、基板1は、例えばサファイア基板(アルミナ単結晶基板)等の絶縁体で好適に構成することができる。また、超電導膜2は、基板1上に、必要に応じ酸化物を形成する中間層を介して例えばYBaCu(YBCO)等の高温超電導酸化物の薄膜を作製することで好適に構成することができる。なお、超電導膜2の表面は、通常金、銀等の薄膜で形成した保護膜(図示せず)で覆うことにより液体窒素環境に設置する前の空気中の水分による劣化を防止するとともに、クエンチ時の電流を分流させるようになっている。
【0019】
また、ヒートシンク3は、例えば比較的大きな熱伝導率を有するサファイア等のセラミックスのブロックで好適に構成することができる。また、他との絶縁を確保すれば、ヒートシンク3を金属で構成することもできる。特に、大きな熱伝導率を有する銅等の金属で構成すれば超電導膜2がクエンチした場合に流れる電流に起因するジュール熱を良好に吸収することができる。
【0020】
本形態における狭窄部2Aは、電流の流通方向(図中の左右方向;以下同じ)と直交する方向の中心線に対して対称となるよう流通方向に沿って電路の幅が連続的に漸減するとともに、その縁が曲線となっている。また、当該超電導限流素子の全体は液体窒素を充填した容器の中に収納されている。
【0021】
上述の如き本形態によれば、超電導膜2に相対的な臨界電流密度特性のばらつきを生起していても、狭窄部2Aが超電導状態から常電導状態へと、最もクエンチし易い超電導状態破壊の脆弱部となるので、事故等により大電流が流れた場合には、まず狭窄部2Aがクエンチする。この結果、狭窄部2Aには大電流が集中することにより大きなジュール熱が発生する。しかしながら発生したジュール熱はヒートシンク3に吸収される。この結果、狭窄部2Aがジュール熱により焼損するのを未然に防止し得る。
【0022】
一方、その間で超電導膜2の狭窄部2A以外の領域も順次クエンチする。この結果、事故時等の大電流は超電導膜2の全体で分担してこれを流す。
【0023】
したがって、超電導膜2は事故時等の大電流によって焼損されることなく、この大電流の増大を良好に抑制するともに、大電流が途絶えた後、液体窒素に冷却されて元の超電導状態に戻る。ここで、ヒートシンク3は超電導膜2の全体ではなく、狭窄部2Aに限定的に当接させるように構成しているので、狭窄部2Aがヒートシンク3の下面で覆われていても液体窒素の冷却熱は、超電導膜2のうちヒートシンク3で覆われた狭窄部2A以外の領域が液体窒素に接触することにより良好に伝熱され、狭窄部2Aを含め全体を冷却する。この結果、超伝導状態への復旧も迅速かつ確実に実現される。
【0024】
第1の実施の形態では、上述の如く狭窄部2Aの縁が曲線となるように形成したが、この曲線に限る必要はない。第2の実施の形態として図2に示すように、電流の流通方向と直交する方向の中心線に対して線対称となるよう流通方向に沿って電路の幅が連続的に漸減する形状となっていれば、狭窄部12Aの縁が直線であっても構わない。本形態においてもヒートシンク13は狭窄部12Aのみを限定的に覆うように狭窄部12Aに当接させてある。
【0025】
さらに、本発明においては、超電導膜の一部に、他の部分に較べて幅狭の狭窄部、すなわちクエンチし易い超電導状態の脆弱部が形成されていれば良く、狭窄部の形状に特別な限定はない。例えば、図3に示す第3の実施の形態に係る超電導限流素子のような形状であっても良い。同図に示すように、本形態に係る超電導限流素子では、超電導膜22の中央部を矩形にくり抜いた狭窄部22Aが形成され、この狭窄部22Aの上面にヒートシンク23が載置してある。
【0026】
ただ、第2および第3の実施の形態のように狭窄部12A,22Aの外縁形状が直線となっている場合、直線同士が交差する角部が形成されることになるので、この部分に電界が集中する結果、クエンチに対する脆弱部となる虞がある。この点を考慮すれば、図1に示す第1の実施の形態のような曲線形状となっている場合が最も望ましい。
【0027】
要するに、クエンチが必ず狭窄部から始まり、このことにより発生するジュール熱をヒートシンクで吸収することにより狭窄部の焼損を防止しつつ、狭窄部以外の超電導膜にクエンチ領域が広がるような構成になっていれば良い。
【0028】
さらに、ヒートシンク3,13,23が存在することにより液体窒素の熱がヒートシンク3,13,23に吸収されて特に超電導膜2,12,22中でヒートシンク3,13,23に接触している狭窄部2A,12A,22Aが超伝導状態に復旧するタイミングが遅延する虞がある。これを防止して所定の超伝導状態に速やかに復旧させるためには、クエンチ発生後の所定時間後に超電導膜2,12,22とヒートシンク3,13,23との間に間隙が形成されるようヒートシンク3,13,23を超電導膜から離れる方向(図1〜図3中の上方向)に移動させる移動機構を設けることが有効である。この場合、超電導状態に復旧した後で、ヒートシンク3,13,23を反対方向に移動させて再度狭窄部2A,12A,22Aに接触させる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は電力系統を運用、保守管理する産業分野や当該産業分野で使用する電気機器を製造販売する産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 基板
2,12,22 超電導膜
2A,12A,22A 狭窄部
3,13,23 ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に超電導膜を形成した超電導限流素子であって、
一部に狭窄部を有する超電導膜と、
前記狭窄部を覆うように前記狭窄部に当接させたヒートシンクとを有することを特徴とする超電導限流素子。
【請求項2】
請求項1に記載する超電導限流素子において、
前記狭窄部は、電流の流通方向と直交する方向の中心線に対して線対称となるよう前記流通方向に沿って電路の幅が連続的に漸減する形状となっていることを特徴とする超電導限流素子。
【請求項3】
請求項2に記載する超電導限流素子において、
前記狭窄部の縁は曲線で連続されるように形成されていることを特徴とする超電導限流素子。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一つに記載する超電導限流素子において、
クエンチ発生後の所定時間後に前記超電導膜と前記ヒートシンクとの間に間隙が形成されるよう前記ヒートシンクを前記超電導膜から離れる方向に移動させる移動機構を有することを特徴とする超電導限流素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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