説明

超音波の音圧強度分布の測定方法、超音波のエネルギー密度分布を測定する方法およびそれらの測定装置

【課題】超音波による音圧強度分布を正確に測定することができる音圧強度分布の測定方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る超音波の音圧強度分布の測定方法は、超音波による音圧強度分布を測定する方法であって、応力発光粒子を分散させた基材4に超音波を照射して、該超音波のエネルギーによって当該応力発光粒子が発する光強度及びその分布のうち少なくとも一方を測定することにより、超音波による音圧強度分布を正確に測定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波の音圧強度分布を測定する方法、超音波のエネルギー密度分布を測定する方法およびそれらの方法に用いる装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、例えば洗浄機器、治療器および診断装置等には、超音波が使用されている。これら装置の信頼性を高めるためには、使用する超音波の音圧強度分布を把握する必要がある。特に、例えば人体に使用する超音波診断装置または治療装置に超音波を用いる場合には、安全および安心の観点からも、該強度分布を測定することは非常に重要視されている。
【0003】
また、超音波洗浄操作をする際に洗浄度をより高めるためには、洗浄後の機器の洗浄度を評価する必要がある。これを実現するためには、超音波の音圧強度分布を正確に測定し、管理することが必須である。
【0004】
これまで、超音波振動による音圧を測定する技術は数多く検討されており、例えば、液体中の超音波の強度や周波数の測定方法が特許文献1に開示されている。この方法では、ある形状の物品に衝撃力センサーまたは超音波の波長を検出するセンサーを貼り付け、その物品を超音波の音場を検出するプローブとしている。したがって、該物品を液体中で上下左右に動かすことによって、音場の分布を測定できる。また、超音波洗浄操作において超音波の音圧を検出するための音圧センサーが特許文献2に開示されている。この音圧センサーの感圧部となる圧電素子は、圧電セラミックス材料をシート化し、金型を用いて該シートを打ち抜き、さらに焼成することによって作成されている。このように作成することによって、従来の圧電セラミックスを用いた圧電素子には困難であった、500kHz以上の周波数を有する超音波の振動を検知することができる。
【0005】
また、特許文献3には、振動および音波を検知する媒質マイクロホンが開示されている。この媒質マイクロホンの音波を検知する感圧部は、シリコンゴムからなるゴム感圧層であり、構造物、水中、または地中を伝播する広帯域の振動および音波を検知することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−304029号公報(2006年11月2日公開)
【特許文献2】特開2001−50808号公報(2001年2月23日公開)
【特許文献3】特開2003−348695号公報(2003年12月5日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1の技術では、従来のガラスまたは金属製の棒に感圧部となる圧電素子を貼り付けて超音波の音場を測定する方法に比べて、受圧面積が大きくなるので感度を向上させることができるが、音圧の細かな分布状態を検出することができない。
【0008】
特許文献2および3の技術では、センサーが存在する一点において音圧を検出できるが、定常状態と異なり時間的に変化する過渡状態の音圧分布を測定するためには、センサーをアレイ状にする必要があり、複雑な構成となる。またセンサーアレイそのものが音圧分布に影響を与える。
【0009】
また、特許文献1〜3に記載のセンサー、または媒質マイクロホンを用いた技術では、例えば、音圧強度測定を液体内において行なう場合に、該センサーおよび媒質マイクロホンを液体内に浸漬する必要があるため、これらの浸漬物が存在している状態では、通常の液体内の環境とは異なる。
【0010】
さらに、圧電素子が存在する特定の位置での音圧強度を測定することは可能であるが、音圧強度の分布全体を詳細、且つ正確に測定することはいずれも考慮されていない。また、超音波による音圧の強度を測定するために、応力発光粒子を用いるという技術は知られていない。
【0011】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、液体内等の環境において、超音波による音圧強度分布を正確、且つ詳細に測定することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題に対して長年検討を重ねた結果、ついに応力発光粒子が超音波のエネルギーでも発光する現象を突き止め、本発明を成すに至った。本発明に係る測定方法は、上記課題を解決するために、超音波による音圧強度分布を測定する方法であって、応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射して、上記超音波のエネルギーによって当該応力発光粒子が発する光強度及びその分布のうち少なくとも一方を測定することを特徴としている。
【0013】
また、本発明に係る測定方法では、上記基材は、音響インピーダンスの変化を少なくし超音波の伝搬を効率的に行なうためにゲルまたは液体であることが好ましいが、弾性体を用いてもよい。
【0014】
また、本発明に係る測定方法では、上記応力発光粒子の粒径は、基材中の超音波の音場に影響を与えないために、その波長以下であることが望ましく、10nm以上、100μm以下であることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る測定方法では、上記応力発光粒子の母体材料は、スタフドトリジマイト構造、3次元ネットワーク構造、長石構造、ウルツ構造、スピネル構造、コランダム構造またはβ−アルミナ構造を有する酸化物、硫化物、炭化物または窒化物であることが好ましい。
【0016】
また、本発明に係る測定方法では、上記応力発光粒子の母体材料は、格子欠陥を含むα−SrAl構造であることがより好ましい。
【0017】
本発明に係る測定装置は、上記課題を解決するために、超音波による音圧強度分布を測定する装置であって、応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射する超音波発生手段と、上記超音波のエネルギーによって上記応力発光粒子が発する光から、発光強度あるいはその分布を検出する検出手段とを含むことを特徴としている。上記検出手段は、浅い焦点深度を持ち、その焦点を走査させることによって三次元的な光の強度分布を検出できる機構を備えていることが好ましい。
【0018】
また、本発明に係る測定装置は、上記検出手段により検出された上記発光強度を電気信号に変換する処理手段と、上記処理手段によって変換された電気信号から発光強度の分布を表示する表示手段を、さらに備えることが好ましい。
【0019】
なお、本発明には、超音波のエネルギー密度分布を測定する方法であって、応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射して、上記超音波のエネルギーによって当該応力発光粒子が発する光強度及びその分布のうち少なくとも一方を測定する方法、および、超音波のエネルギー密度分布を測定する装置であって、応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射する超音波発生手段と、上記超音波のエネルギーによって上記応力発光粒子が発する光から、発光強度を検出する検出手段と、を含む測定装置も包含される。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る測定方法は、以上のように、超音波による音圧強度分布を測定する方法であって、応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射して、上記超音波のエネルギーによって当該応力発光粒子が発する光強度及びその分布のうち少なくとも一方を測定する方法である。また、本発明に係る測定装置は、以上のように、超音波による音圧強度分布を測定する装置であって、応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射する超音波発生手段と、上記超音波のエネルギーによって上記応力発光粒子が発する光から、発光強度を検出する検出手段とを含んでいる。したがって、液体内等の環境において、超音波による音圧強度分布を正確、且つ詳細に測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る実施形態1の測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明に係る実施形態1´の測定装置の概略構成を示す図である。
【図3】実施例の応力発光シートにおける選択区域の発光強度平均値変化を示すグラフである。
【図4】実施例において測定した、超音波OFF時および超音波ON時の発光強度の空間分布を示す図である。
【図5】図5の(a)は、応力発光フィルムにおける選択区域を示す図であり、図5の(b)および図5の(c)は、図5の(a)に示す超音波振動子に載せた応力発光フィルムの超音波発振時における発光画像を示す図である。
【図6】図6の(a)は、図5の(b)において破線で囲んで示す発光強度の水平方向(X軸方向)における分布を示すグラフであり、図6の(b)は、図5の(c)において破線で囲んで示す発光強度の垂直方向(Y軸方向)における分布を示すグラフであり、図6の(c)は振動子周辺の発光強度の3次元分布を示す。
【図7】図7の(a)は、異なる超音波エネルギーに対する発光強度を比較したグラフであり、図7の(b)は、振動センサで計測した音圧レベルに対する発光強度を比較したグラフである。
【図8】図8の(a)は、別の実施例における応力発光フィルムにおける選択区域を示す図であり、図8の(b)は、図8の(a)に示す応力発光フィルムの超音波発振時における発光画像を示す図である。
【図9】図8の(b)に示す選択区域(1〜9)における発光強度の時間による変化を示すグラフである。
【図10】図10の(a)は、超音波洗浄機内に設置した応力発光フィルムの超音波発振時における発光画像を示す図であり、図10の(b)は、図10の(a)に示す画像からバックグランドを差し引いた後の発光画像を示す図であり、図10の(c)は、実施例2−3において得られた超音波のエネルギー密度分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<1.本発明に係る測定方法>
本発明に係る測定方法は、超音波による音圧強度分布を測定する方法であって、応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射して、上記超音波のエネルギーによって当該応力発光粒子が発する光の強度及びその分布のうち少なくとも一方を測定すればよい。
【0023】
音圧強度分布とは、測定対象物に生じた音圧の強度の分布を意味する。この分布については、測定した強度をグラフ化してもよい。また、この分布は、例えば、測定対象物に生じた音圧の強度を検出手段によって検出し、検出したデータを処理手段等によって処理することで作成されてもよい。
【0024】
応力発光粒子とは、外力等の機械的な刺激によって発光する発光体である。この刺激とは、応力発光粒子を発光させることができる限り特に限定されるものではなく、例えば、音圧、応圧および加圧等が挙げられる。応力発光粒子は、後で詳細に説明するが、母体材料に発光中心を添加させた構造を有する。
【0025】
基材とは、該応力発光粒子を分散させるためのものである。そのような基材としては、応力発光粒子を分散させることができる限り特に限定されず、例えば、液体またはゲル等であってもよいし、弾性体であってもよい。
【0026】
ここで、本発明に係る測定方法の具体的な手順の一例について、以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
まず、応力発光粒子が分散された基材に超音波を照射する(超音波照射工程)。基材の形態は特に限定されるものではなく、容器等に格納する形態であっても、シート状にした形態であってもよい。また、基材の形態は、例えばそれ自体が測定対象物であってもよく、支持体等の別の測定対象物にシート状にした基材を設置してもよく、シート状にした測定対象物の壁面全体にコーティングしてもよい。また、これらの形態は単独で採用されてもよく、複数の形態が併せて採用されてもよい。
【0028】
超音波の発生源としては特に限定されず、例えば、超音波振動子、圧電素子、磁歪素子、パルスレーザー、キャビテーション、打撃等による衝撃、爆薬等であってもよく、基材を格納する容器自身が超音波を発するものであってもよい。応力発光粒子に照射する超音波の周波数としては特に限定されないが、例えば、医療用に用いられる場合には2MHz〜20MHzの周波数がより好ましい。
【0029】
応力発光粒子を基材へ分散する方法としては、特に限定されず、基材に照射される超音波の音圧強度分布を正確に測定することができるように分散すればよい。
【0030】
また、該基材を容器に格納する場合、容器の材質および形状は、超音波が容器内部の基材に伝播し得るものであれば特に限定されるものではないが、その一部に開口部を有しているか、あるいは一部または全体が透光性を有する材質であることが好ましい。このような材質または形状であることにより、基材に分散された応力発光粒子が発する光を検出手段により検出することが容易になる。
【0031】
超音波照射工程において基材に照射された超音波は振動となり、基材中に伝播する。この振動(音圧)が基材中に音場エネルギーを形成し、分散されている応力発光粒子に伝わることにより、応力発光粒子が光を発する(発光工程)。この光は、音圧の強度の関数となる音場エネルギーに対応して強度が変化するために、発光強度から音圧の強度を求めることが可能である。
【0032】
次に、発光工程において応力発光粒子から放射された光を検出するとよい(検出工程)。検出するための手段(検出手段)の具体的態様としては、光を検出するものである限り特に限定されないが、当該光を電気信号に変換してもよい。検出手段の構成としては、光を受光して電気信号に変換することに限定されるものではないが、例えば、ここで説明したように、光を受けて電気信号に変換する態様である場合、集光レンズおよび撮像素子(受光素子)を備えていてもよく、また光ファイバーを受光素子に導くように備えていてもよい。例えば、集光レンズおよび撮像素子を備えた検出手段を用いた場合には、応力発光粒子から放射された光は集光レンズを介して撮像素子に受光される。該撮像素子では受光した光が電気信号に変換される。上記撮像素子には、例えばCCDやフォトダイオードを用いることができる。また、上記検出手段の焦点深度を浅く設定すると、光強度の検出箇所の同定に有利であり、この焦点を三次元的に走査すると、光強度の三次元的な分布を測定することができる。
【0033】
また、検出手段を設置する位置は特に限定されないが、応力発光粒子の光を検出することができる位置に設置するとよい。例えば、基材が容器に格納されており、その一部のみ透光性を有する材質により形成する場合、該検出手段の位置は、当該材質から光を受けることが可能な位置に固定されていてもよく、容器全体が透光性を有する材質により形成されている場合には、該検出手段が可動するように設置してもよい。
【0034】
検出工程において光から電気信号に変更した場合、検出手段が該電気信号を、該検出手段に接続された処理手段に送信して、発光強度を数値化(処理工程)してもよい。処理手段としては演算処理ができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、パーソナルコンピュータ、マイコン、FPGA等を用いてもよい。電気信号を数値化する場合、その具体的な方法については、検出手段により検出した発光の強度あるいはその分布が把握できればよい。
【0035】
なお、記録媒体を上記検出手段等に接続して、該記録媒体が、処理工程により数値化されたデータを格納してもよい。また、表示手段を上記検出手段および/または上記記録媒体に接続して、該表示手段が上記数値化されたデータを表示してもよい。この数値化されたデータの具体的な構成としては、特に限定されず、例えばJPEG形式またはTIFF形式等が挙げられる。表示手段としては特に限定されず、処理手段と接続されていても、独立していてもよく、例えばモニター、プロジェクター、プロッター、プリンター、およびシンクロスコープ等であってもよい。データの表示形態としては、発光の強度および分布が示されるものであれば特に限定されるものではない。このように表示された発光強度の分布は、超音波による音圧強度の分布に相当する。
【0036】
<2.本発明に係る測定装置>
次に、本発明に係る測定装置の一実施形態について、図1〜2に基づいて以下に説明するが、本発明はこの形態に限定されるものではない。
【0037】
〔測定装置の実施形態1〕
(測定装置1の構成)
図1は、本実施形態に係る音圧強度分布の測定装置1における概略構成を示す図である。図1に示すように、本実施の形態に係る測定装置1は、超音波発生手段2、容器3、基材4、検出手段5、処理手段6および表示手段7を備えている。
【0038】
超音波発生手段2は、超音波を発生させる発生源として機能する部材である。超音波発生手段2としては、超音波を発生することができる限り特に限定されるものではなく、例えば、超音波振動子、圧電素子、磁歪素子、パルスレーザー、キャビテーション、打撃等による衝撃、および爆薬等を用いてもよい。
【0039】
容器3は、基材4を格納するための部材である。本実施の形態において、容器3は矩形であり、その一部には透光性を有する窓が設けられているが、容器3が矩形でなくてもよく、また、例えば容器3全体が透光性を有する材質により形成されていてもよい。
【0040】
基材4は、上述したように、応力発光粒子が分散された部材である。基材4としては、特に限定されず、例えば液体またはゲル等を用いてもよい。液体としては、特に限定されず、例えば、水、各種アルコール、油類、および水銀等が挙げられ、ゲルとしては、例えば、水等を主成分とした、カルボキシビニルポリマーまたはグリチルリチン酸等の高分子物質を混合した混合物が挙げられる。
【0041】
検出手段5は、応力発光粒子が発する光の強度を検出するための部材である。検出手段5は、音圧から生じる超音波エネルギーによって生じた応力発光粒子の光を受光できるように設置すればよい。また、検出手段5は、該光の強度を検出して電気信号に変換する。検出手段5には、集光レンズ51および撮像素子(受光素子)52が具備されており、応力発光粒子が発する光は、集光レンズ51を介して撮像素子52に受光される。なお、光を受光する受光手段としては、集光レンズ51に限定されるものではなく、例えば、光ファイバー等を用いてもよい。
【0042】
処理手段6は、検出手段5によって検出された電気信号を処理する手段である。処理手段6は検出手段5と接続されており、例えば演算処理等によって、検出された電気信号を処理することによって、発光強度を数値化している。そのような処理手段6としては、特に限定されるものではなく、例えばパーソナルコンピュータ、マイコン、FPGA等を用いてもよい。
【0043】
表示手段7は、処理手段6によって数値化された発光強度を表示するための手段である。表示手段7としては、特に限定されるものではなく、例えば、上述したパーソナルコンピュータに接続されたモニターであってもよい。
【0044】
なお、本実施の形態においては、処理手段6および表示手段7は一体化されているように示したが、これらは一体化されていなくてもよい。
【0045】
また、基材4に分散される応力発光粒子とは、外力が加わることによって発光する性質を有し、母体材料に発光中心を添加させたものである。
【0046】
応力発光粒子の母体材料としては、これに限定されるものではないが、スタフドトリジマイト(Stuffed tridymite)構造、3次元ネットワーク構造、長石構造、格子欠陥制御した結晶構造、ウルツ構造、スピネル構造、コランダム構造またはβ−アルミナ構造を有する酸化物、硫化物、炭化物または窒化物が例示できる。
【0047】
応力発光粒子の発光中心としては、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの希土類イオン、および、Ti,Zr,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Nb,Mo,Ta,Wの遷移金属イオンが挙げられる。
【0048】
例えば、母体材料としてストロンチウムおよびアルミニウム含有複合酸化物を用いる場合、発光中心には、xSrO・yAl・zMO(Mは二価金属、Mg,CaまたはBaであり、x,y,zはそれぞれ独立して正の整数である)、xSrO・yAl・zSiO(x,y,zはそれぞれ独立して正の整数である)を用いることがより好ましく、SrMgAl1017:Eu(SrBa1−x)Al:Eu(0<x<1)、BaAlSi:Euを用いることがさらに好ましい。
【0049】
応力発光粒子の平均粒径は、特に限定されるものではないが、10nm以上、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。このような粒径を有していることにより、液体またはゲル等の基材全体に均一に分散することができる。さらに、応力発光粒子が該範囲内の微細な形状であることによって、超音波による音圧を測定する空間における分解能を高くすることができるという効果を奏する。
【0050】
また、応力発光粒子の周囲に透光性のコーティング層をさらに設けてもよい。応力発光粒子には、分散させる基材との比重の差が少ない程、該粒子の分散性が高まるという傾向がある。例えば、基材が水であり、応力発光粒子の母体材料がα−SrAl構造である場合には、水の比重は1であり、応力発光粒子の比重は3.34である。そこで、応力発光粒子の周囲に透光性のコーティング層を設けた場合には、応力発光粒子の比重が軽くなる。したがって、基材との比重の差は縮減されるために、該粒子の分散性が高まるという効果を奏する。また、母体材料としては、格子欠陥を含むα−SrAl構造がより好ましい。SrAlは、対称性の低い単斜晶であるα相と、より対称性が高い六方晶であるβ相のどちらかの相状態になる。格子欠陥を含むα−SrAl構造とは、このα相状態のSrAlにおいて、SrないしOが一部分抜けている結晶構造を言う。
【0051】
(測定装置1の使用方法)
次に、本実施の形態に係る測定装置1の使用方法について以下に説明する。
【0052】
まず、超音波発生手段2から超音波を発生させ、容器3に照射する(超音波照射工程)。照射された超音波による振動は、容器3を介して格納されている基材4に伝播する。この振動により生じた音圧から生じる音場エネルギーによって、基材4に分散された応力発光粒子から光が放射される(発光工程)。この光は、容器3に設置された透光性の窓を介して検出手段5に入射する。
【0053】
検出手段5には、集光レンズ51および撮像素子52が具備されており、応力発光粒子から放射された光は集光レンズ51を介して撮像素子52に受光される。受光された光は、撮像素子52において光電変換が行なわれ、受光した光が電気信号に変換される(検出工程)。このように変換された電気信号は、検出手段5と接続された処理手段6に送信される。
【0054】
処理手段6は、受信した電気信号をA/D変換して、撮像素子52の画素毎の発光強度を数値化する(処理工程)。この数値化されたデータは、JPEG形式またはTIFF形式等において記録媒体に格納される。このように格納されたデータは、表示手段において測定結果として表示される。
【0055】
ここで、表示手段によって表示される発光強度のデータは、超音波の音圧強度分布として表わされる。例えば、基材4における超音波の音圧の分布状態は、音圧の発生位置をXY軸とし、発光強度をZ軸として立体的に表示される。このとき、音圧が発生していない状態の発光強度のバックグラウンドデータを事前に測定し、該データを用いて音圧発生時の発光強度を補正することにより、音圧の正確な強度を測定することができる。
【0056】
〔測定装置の実施形態2〕
次に、本発明に係る測定装置の別の実施形態について、以下に説明する。
(測定装置1´の構成)
図2は、本発明に係る音圧強度分布の測定装置1´における概略構成を示す図である。なお、本実施形態においては、実施形態1と同一の構成要素には同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0057】
図2に示すように、本実施の形態に係る測定装置1´は、図1の超音波発生手段2と容器3とが一体化された超音波発生容器9を備えているという点で実施形態1とは異なる。超音波発生容器9は開口部を有しており、その内部には液体が格納され、測定対象物10が設置されている。超音波発生容器9に格納されている溶液とは、測定対象物10に超音波による振動を伝播することができるのであれば特に限定されるものではないが、測定対象物10を設置することができる程度の硬さであることが好ましい。測定対象物10は特に限定されず、例えば、ビーカーまたはアルミ箔等であってもよい。
【0058】
さらに、測定対象物10には基材4´が備えられている。基材4´内には応力発光粒子が分散している。基材4´の材料としては、特に限定されるものではないが、分散させる応力発光粒子を強く保持・固定して封止することが可能であるものが好ましい。そのような材料としては、例えば、一液硬化型または二液硬化型のアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、および透明シリコンゴム等のような高分子材料が挙げられる。また、本実施の形態において、基材4´の形状は測定対象物10に塗布されて層を形成している。測定対象物10に基材4´の層を形成する方法は特に限定されないが、例えば、上述した材料と応力発光粒子とを混合してペースト状にして、測定対象物10に塗布することによって形成してもよい。なお、該層の厚さは特に限定されるものではないが、溶液内に伝播する超音波の振動に影響を与えないよう考慮して、測定対象物10に設置することが好ましい。
【0059】
(測定装置1´の使用方法)
次に、本実施の形態に係る測定装置1´の使用方法について以下に説明する。本実施形態における超音波照射工程、発光工程、および検出工程は、実施形態1とは異なっている。
【0060】
まず、超音波照射工程では、超音波発生容器9から超音波を発生させて、溶液内に振動を伝播させる。この振動は、超音波発生容器9の内部に設置された測定対象物10に伝わり、音圧が生じる。該音圧が、測定対象物10に設置された基材4´にも伝わり、音場エネルギーが生じることによって、基材4´に分散された応力発光粒子が発光する(発光工程)。
【0061】
このように放射された応力発光粒子の光は、超音波発生容器9の上部に設置された検出手段5によって検出される(検出工程)。
【0062】
なお、本発明は、上述した形態に限定されるものではなく、応力発光粒子と、上記応力発光粒子に超音波を照射する超音波発生装置と、上記超音波のエネルギーによって上記応力発光粒子が発する光から、音圧強度を検出する検出装置と、を備えている超音波による音圧強度分布を測定するキットであってもよい。
【0063】
また、本発明の構成によれば、超音波のエネルギー密度分布を測定する装置にも適用でき、好適に超音波のエネルギー密度分布を測定することができる。
【0064】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0065】
〔実施例1:音圧強度分布測定〕
本実施例で用いる超音波による音圧強度分布測定には、次の装置を用いた。本実施例には、超音波発振機(Panametrics-NDT製、Model:5072PR、周波数20MHz)、および受光手段(検出手段)であるカメラ(フォトロン製FASTCAM-512PCI, Model 2K)を用いた。また、厚さ12μmのアルミニウム箔の両面にSrAl:Eu応力発光膜をコーティグして、厚さ約160μmの応力発光シートを作成し、超音波用ゲルの表面に設置した。
【0066】
なお、SrAl:Eu応力発光膜については次のようにして作製した。すなわち、まず、Sr0.9Eu0.01Ho0.01Alになるように秤量した。また、この物質をエタノール中で十分混合し、さらに乾燥・仮焼成・本焼成をした。その後、該物質を粉砕することによって得られたSrAl:Euの粉末を透明エポキシ系樹脂に混合し、これをアルミ箔上にスクリーン印刷によって塗布した。
【0067】
これらを用いて、応力発光シートにおける選択区域の発光強度を測定した。図3は、本実施例の応力発光シートにおける選択区域の発光強度平均値変化をグラフにした図である。なお、このグラフは時間(横軸)と光強度の平均値(縦軸)との関係を示しており、グラフ中の点は代表例であり、すべてをプロットしているのではない。
【0068】
このグラフから、超音波を発生させる(超音波ON)と応力発光シートの発光強度は増大することが分かった。また、音場エネルギーの強いところ、すなわち音圧の強いところでは発光が強くなり、発光強度は時間によって変化した。このことから、音場は時間によって変化するということが分かった。なお、予め作成した校正曲線を用いて、発光強度から音圧を逆計算することによって、発光強度を定量的に計測することができた。
【0069】
次に、図4は超音波OFF時(フレーム100)および超音波ON時(フレーム800)の発光強度の空間分布を示すグラフである。これらのグラフを比較することにより、空間内の超音波の音圧強度分布がリアルタイムに観察できることが分かった。
【0070】
〔実施例2:空間超音波エネルギー密度分布の定量化〕
(実施例2−1:20MHzの超音波振動子を用いた場合の空間超音波エネルギー密度分布の定量化)
次に、超音波発振機の超音波発振により20MHzの周波数で振動する超音波振動子を用いて、空間超音波エネルギー密度分布を定量化した。具体的には、超音波振動子の表面にゲル1mmを載せ、その上に応力発光フィルムを載せて、超音波発振時の発光強度と超音波エネルギーとの関係を計測した。
【0071】
本実施例には、超音波発振機(Panametrics-NDT製、Model:5072PR)、および受光手段(検出手段)であるカメラ(フォトロン(Photron)製)を用いた。また、厚さ100μmの応力発光膜をシリコンフィルム上に設けた応力発光フィルム(厚さ0.2mm、大きさ15mm×15mm)を作製し、ゲルの表面に設置した。これらを用いて、応力発光フィルムにおける選択区域の発光強度を測定した。図5の(a)は、応力発光フィルムにおける選択区域を示す図であり、図5の(b)および図5の(c)は、図5の(a)に示す超音波振動子に載せた応力発光フィルムの超音波発振時における発光画像を示す図である。なお、本実施例2−1および後述の実施例2−2の応力発光膜は実施例1と同様の方法により製造した。
【0072】
また、このときの選択区域における発光強度の変化を図6に示す。図6の(a)は、図5の(b)において破線で囲んで示す発光強度の水平方向(X軸方向)における分布を示すグラフである。なお、このグラフにおいて縦軸は発光強度、横軸は水平の距離を示しており、最も左(図5の(a)に示す選択区域「2」)は0mmとして、振動子の中心は5mmに位置する。このグラフにおいて、発光強度が振動子の中心である5mm近傍において高くなることから、発光強度は振動子の直径4mmの範囲内に分布していることが分かった。この結果は、図6の(b)に示すように、Y軸方向の分布と同様であることを示した。図6の(b)は、図5の(c)において破線で囲んで示す発光強度の垂直方向(Y軸方向)における分布を示すグラフである。なお、図6の(b)に示すグラフにおいても振動子の中心は5mmに位置する。このときの振動子周辺の発光強度の3次元分布を図6の(c)に示す。
【0073】
なお、予め作成した発光強度と超音波エネルギーとの対応関係を示すグラフから、発光強度から超音波エネルギーを逆計算することによって、超音波エネルギーを定量的に計測した。
【0074】
超音波エネルギーの変化は振動子に入力する電気エネルギーを、発振機の(1)エネルギーレンジ、(2)PRF(Pulse repeat frequency)パルス繰り返し周波数、(3)減衰率の3つのパラメータを調整することによって行った。超音波エネルギーは、振動子に入力された電気エネルギーに比例する(比例係数Kは振動子の機械―電気変換係数である)。この異なる超音波エネルギーに対する発光強度を比較したグラフを図7の(a)に示す。このグラフにおいて、縦軸は発光強度、横軸は超音波エネルギーを示しており、直線はy=16.44405x−56.54768を示す。また、図7の(a)に示す各点における超音波エネルギー及び発光強度を表1に示す。同時に音圧センサで計測した音圧レベルに対する発光強度を比較したグラフを図7の(b)に示す。
【0075】
つまり、図7の(a)および表1に示すように、応力発光粒子からの発光強度(光エネルギー)は、発光粒子に照射した超音波のエネルギーの強さに比例しているが、音圧レベルには直線的な比例関係はないことが、図7の(b)から明らかになった。
【0076】
【表1】

【0077】
図7の(a)および表1に示すように、発光強度は超音波エネルギーに比例することは明らかである。このように、発光強度と超音波エネルギーとの係数から、発光強度をその空間に対応する超音波エネルギーの強度として算出することができることがわかった。したがって、各選択区域における発光強度を求め、超音波エネルギーの強度を算出することにより、図5の(b)に示すように、20MHzの超音波振動子の発振時における発光画像から、3次元の超音波強度分布(超音波エネルギー密度分布)が得られることがわかった。
【0078】
(実施例2−2:6MHzの超音波振動子を用いた場合の空間超音波エネルギー密度分布の定量化)
次に、6MHzの周波数で振動する環状超音波振動子を用いて、空間超音波エネルギー密度分布を定量化した。なお、本実施例では、上述した実施例と応力発光フィルムの大きさ(35×35mm)が異なるのみであり、その他は同じ条件とした。このときの応力発光フィルムにおける選択区域の発光強度を測定した。図8の(a)は、応力発光フィルムにおける選択区域を示す図であり、図8の(b)は、図8の(a)に示す応力発光フィルムの超音波発振時における発光画像を示す図である。
【0079】
また、このときの選択区域における発光強度の変化を図9に示す。図9は、図8の(b)に示す選択区域(1〜9)における発光強度の時間による変化を示すグラフである。なお、このグラフにおいて縦軸は発光強度、横軸は時間を示す。このように、本実施例によれば、図8の(b)に示す発光画像から、上述した実施例と同様に応力発光フィルムにおける発光分布を定量することにより、超音波強度分布が観察できることがわかった。
【0080】
(実施例2−3:40KHzの超音波洗浄機を用いた場合の空間超音波エネルギー密度分布の定量化)
次に、超音波の発生源として40KHzの超音波洗浄機を用いて、空間超音波エネルギー密度分布を定量化した。具体的には、超音波洗浄機の中に応力発光フィルム(12×25cm)を設置し、カメラ(フォトロン(Photron)製)を用いて応力発光フィルムにおける発光を検出し、超音波発振時の発光強度の分布から超音波エネルギーを定量化した。なお、本実施例では、厚さ150μmの発光粒子分散膜を応力発光フィルムとして用いて、応力発光フィルムにおける発光強度を測定した。この結果を図10に示す。なお、発光粒子分散膜はシリコンゴムに分散して製造した。
【0081】
図10の(a)は、超音波洗浄機内に設置した応力発光フィルムの超音波発振時における発光画像を示す図であり、図10の(b)は図10の(a)に示す画像からバックグランドを差し引いた後の発光画像を示す図である。また、本実施例において得られた超音波のエネルギー密度分布を図10の(c)に示す。本実施例によれば、図10の(b)に示すように超音波励起によって応力発光フィルムにおける発光分布が特定できるため、上述した実施例と同様に超音波のエネルギー密度分布が観察できることがわかった。
【0082】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に係る測定方法は、超音波による音圧強度分布およびエネルギー密度分布を正確、詳細、且つ容易に測定することができるので、医療用検査、治療用、および精密機器の洗浄等に適用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1、1´ 測定装置
2 超音波発生手段
3 容器
4、4´ 基材
5 検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波による音圧強度分布を測定する方法であって、
応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射して、上記超音波のエネルギーによって当該応力発光粒子が発する光強度及びその分布のうち少なくとも一方を測定することを特徴とする測定方法。
【請求項2】
上記基材は、ゲルまたは液体であることを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
上記基材は、弾性体であることを特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項4】
上記応力発光粒子の粒径は、10nm以上、100μm以下であることを特徴とする請求項1から3に記載の測定方法。
【請求項5】
上記応力発光粒子の母体材料は、スタフドトリジマイト構造、3次元ネットワーク構造、長石構造、ウルツ構造、スピネル構造、コランダム構造またはβ−アルミナ構造を有する酸化物、硫化物、炭化物または窒化物であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項6】
上記応力発光粒子の母体材料は、格子欠陥を含むα−SrAl構造であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の測定方法。
【請求項7】
超音波による音圧強度分布を測定する装置であって、
応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射する超音波発生手段と、
上記超音波のエネルギーによって上記応力発光粒子が発する光から、発光強度を検出する検出手段と、を含むことを特徴とする測定装置。
【請求項8】
上記検出手段により検出された上記発光強度を電気信号に変換する処理手段と、
上記処理手段によって変換された電気信号から発光強度の分布を表示する表示手段を、さらに備えることを特徴とする請求項7に記載の測定装置。
【請求項9】
超音波のエネルギー密度分布を測定する方法であって、
応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射して、上記超音波のエネルギーによって当該応力発光粒子が発する光強度及びその分布のうち少なくとも一方を測定することを特徴とする測定方法。
【請求項10】
超音波のエネルギー密度分布を測定する装置であって、
応力発光粒子を分散させた基材に超音波を照射する超音波発生手段と、
上記超音波のエネルギーによって上記応力発光粒子が発する光から、発光強度を検出する検出手段と、を含むことを特徴とする測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図9】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−2415(P2010−2415A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−122371(P2009−122371)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】