説明

超音波を用いた波浪計測方法および波浪計測システム

【課題】波浪が高い場合でも、精度良く計測し得る超音波を用いた波浪計測方法を提供する。
【解決手段】海面に配置された海洋構造物1及びブイ3の海面下に設けられた第1,第2超音波送受信機2,4から海中に超音波を発信し、海面下に配置された3つの音波中継器5からの超音波を受信し、超音波の片道伝播時間に基づき音波中継器と両超音波送受信機との間の距離をそれぞれ検出すると共に両距離データの差を求め、この差にハイパスフィルタ処理を施して短周期変動成分を抽出し、超音波送受信機の音波中継器に対する方位角及び俯角を係数とする両超音波送受信機間の相対変位ベクトルの三次元座標軸の変位を未知数とする式が上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各音波中継器毎に作成し、この三元一次連立方程式を解いて短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いた波浪計測方法および波浪計測システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
波浪の定常観測、すなわち波浪の計測を行う場合、海底における圧力変動を計測する水圧式波高計を用いるのが一般的であった。
ところで、この水圧式波高計を水深が浅い海域に用いるのは良いが、大水深域で用いる場合には、海面波による水粒子の運動が海底まで到達しないため、短周期の波に対するほど、水圧式波高計の感度が鈍くなってしまう。
【0003】
このため、この水圧式波高計を用いる場合には、ローパスフィルタを通した観測波形を得ることになり、観測データの精度および信頼性が低下せざるを得なかった。
これに対して、水圧式波高計に比べて、直接、海面の波形が得られる点で優位なのが超音波式波高計であり、現在、全国各地の沿岸域で広く用いられている。
【0004】
この超音波式波高計は、海底に設置された送受波器から鋭いビームの超音波パルスを海面に向けて発射し、海面からの反射波を受信して、この超音波パルスの往復伝播時間(海面水位に相当)を連続的に記録することで、海面の波を観測するようにしたものである。(非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「沿岸波浪・海象観測データの解析・活用に関する解説書(第3頁〜第4頁)」財団法人 沿岸開発技術研究センター 平成12年8月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した従来の超音波式波高計によると、海底に設置された送受波器から超音波を海面に向けて発信し、海面からの反射波を受信するようにしているが、波浪が高い時には、波の砕波に伴って海面が乱れるとともに多量の気泡が巻き込まれて超音波が吸収・散乱されるなどして、計測精度が低下し、場合によっては計測不能に陥るという問題もある。
【0007】
そこで、本発明は、波浪が高い場合でも、精度良く計測し得る超音波を用いた波浪計測方法および波浪計測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の超音波を用いた波浪計測方法は、海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測方法であって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された超音波送信機から発信された超音波を、上記海洋構造物の海面下に設けられた基準となる第1超音波受信機および上記浮体の海面下に設けられた観測用の第2超音波受信機にて受信し、
上記超音波送信機から発信された超音波の発信から受信するまでの伝播時間に基づき上記超音波送信機と上記各超音波受信機との間の距離をそれぞれ求めるとともに、これら両距離データの差を求め、
上記求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施して短周期変動成分を抽出し、
上記第1超音波受信機の超音波送信機に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各超音波送信機毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る方法である。
【0009】
また、本発明の第1の超音波を用いた波浪計測システムは、海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測システムであって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の下方にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波受信機および観測用の第2超音波受信機と、
上記海洋構造物および浮体の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された超音波送信機と、
上記超音波送信機から発信された超音波の発信から受信するまでの伝播時間に基づき上記超音波送信機と上記各超音波受信機との間の距離を求めることにより波浪高さを計測する波浪計測装置とを具備し、
上記波浪計測装置を、
上記超音波送信機から発信された超音波の発信から受信するまでの伝播時間に基づき上記超音波送信機と上記各超音波受信機との間の距離をそれぞれ求める距離演算部、この距離演算部で求められた両距離データの差を求める差演算部、この差演算部で求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施して短周期変動成分を抽出する短周期変動成分抽出部、および上記第1超音波受信機の超音波送信機に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各超音波送信機毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る短周期変動成分演算部から構成したものである。
【0010】
また、本発明の第2の超音波を用いた波浪計測方法は、海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測方法であって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の海面下にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波送受信機および観測用の第2超音波送受信機から海中に超音波を発信してこれらの下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された音波中継器からの超音波を上記各超音波送受信機にて受信し、
上記超音波送受信機から発信された超音波の発信から受信するまでの往復伝播時間に基づき上記音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離をそれぞれ求めるとともに、これら両距離データの差を求め、
上記求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施して短周期変動成分を抽出し、
上記第1超音波送受信機の音波中継器に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各音波中継器毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る方法である。
【0011】
また、本発明の第2の超音波を用いた波浪計測システムは、海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測システムであって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の下方にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波送受信機および観測用の第2超音波送受信機と、
上記海洋構造物および浮体の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された音波中継器と、
上記超音波送受信機から発信された超音波の発信から受信するまでの往復伝播時間に基づき上記音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離を求めることにより波浪高さを計測する波浪計測装置とを具備し、
上記波浪計測装置を、
上記超音波送受信機から発信された超音波の発信から受信するまでの往復伝播時間に基づき上記音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離をそれぞれ求める距離演算部、この距離演算部で求められた両距離データの差を求める差演算部、この差演算部で求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施すことにより短周期変動成分をそれぞれ抽出する短周期変動成分抽出部、および上記第1超音波送受信機の音波中継器に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各音波中継器毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る短周期変動成分演算部から構成したものである。
【0012】
また、本発明の第3の超音波を用いた波浪計測方法は、海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測方法であって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の海面下にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波送受信機および観測用の第2超音波送受信機から海中に超音波を発信し、
これら超音波送受信機の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された音波中継器にて中継された超音波および中継時刻を上記各超音波送受信機にて受信して当該音波中継器からの伝播時間に基づき音波中継器と各超音波送受信機との間の距離をそれぞれ求めるとともに、これら両距離データの差を求め、
上記求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施して短周期変動成分を抽出し、
上記第1超音波送受信機の音波中継器に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各音波中継器毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る方法である。
【0013】
さらに、本発明の第3の超音波を用いた波浪計測システムは、海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測システムであって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の下方にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波送受信機および観測用の第2超音波送受信機と、
上記海洋構造物および浮体の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置されて上記超音波送受信機からの超音波を中継して当該超音波および中継時刻を一緒に発信する音波中継器と、
上記音波中継器から発信された超音波の発信から受信するまでの伝播時間に基づき上記各音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離を求めることにより波浪高さを計測する波浪計測装置とを具備し、
上記波浪計測装置を、
上記音波中継器から発信された超音波および中継時刻を受信して当該音波中継器からの伝播時間に基づき上記音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離を求める距離演算部、この距離演算部で求められた両距離データの差を求める差演算部、この差演算部で求められた両距離データの差に対してハイパスフィルタ処理を施すことにより短周期変動成分をそれぞれ抽出する短周期変動成分抽出部、および上記第1超音波送受信機の音波中継器に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各音波中継器毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る短周期変動成分演算部から構成したものである。
【発明の効果】
【0014】
上記第1の波浪計測方法および波浪計測システムによると、海底または海底近傍に配置された超音波送信機からの超音波を海面に向けて発信するとともに海面に配置された海洋構造物および浮体の海面下にそれぞれ設けられた超音波受信機で受信して、超音波の伝播時間を検出することにより、海洋構造物および浮体と各超音波送信機との距離を求めるとともに、この求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施すことにより、つまり、長周期変動成分を除去して海水の影響を含まない短周期変動成分だけを抽出することにより、波浪高さを計測するようにしたので、従来のように海底に設置された超音波の送受波器から海面に向けて超音波を発射し海面で反射させて計測するものに比べて、海面の影響を受けることなく、つまり波浪が高い場合でも、波浪高さを精度良く計測することができ、したがって計測不能に陥ることも殆どない。
【0015】
上記第2の波浪計測方法および波浪計測システムによると、海面に配置された海洋構造物および浮体の海面下にそれぞれ設けられた超音波送受信機から海中に向けて超音波を発信して海底または海底近傍に配置された音波中継器からの超音波を上記超音波送受信機で受信して、超音波の往復伝播時間を検出することにより、海洋構造物および浮体と音波中継器との距離をそれぞれ求めるとともに、この求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施すことにより、つまり、長周期変動成分を除去して海水の影響を含まない短周期変動成分だけを抽出することにより、波浪高さを計測するようにしたので、従来のように海底に設置された超音波の送受波器から海面に向けて超音波を発射し海面で反射させて計測するものに比べて、海面の影響を受けることなく、つまり波浪が高い場合でも、波浪高さを精度良く計測することができ、したがって計測不能に陥ることも殆どない。
【0016】
上記第3の波浪計測方法および波浪計測システムによると、海面に配置された海洋構造物および浮体の海面下から海中に向けて超音波を発信して海底または海底近傍に配置された音波中継器からの超音波をその発信時刻と一緒に海洋構造物および浮体に設けられた各超音波送受信機で受信して超音波の片道伝播時間を検出することにより、海洋構造物および浮体と音波中継器との距離をそれぞれ求めるとともに、この求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施すことにより、つまり、長周期変動成分を除去して海水の影響を含まない短周期変動成分だけを抽出することにより、波浪高さを計測するようにしたので(簡単に言えば、塩分濃度や海水温の変化による音速変化がもたらす誤差フリーの計測法である)、従来のように海底に設置された超音波の送受波器から海面に向けて超音波を発射し海面で反射させて計測するものに比べて、海面の影響を受けることなく、つまり波浪が高い場合でも、波浪高さを精度良く計測することができ、したがって計測不能に陥ることも殆どない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例1に係る波浪計測システムの概略全体構成を示す図である。
【図2】同波浪計測システムにおける計測原理を説明する座標系を示す斜視図である。
【図3】同波浪計測システムにおける計測原理を説明する模式図である。
【図4】同波浪計測システムが用いられる海域での具体的機器配置状態を示す鳥瞰図である。
【図5】同波浪計測システムにおける波浪計測装置の概略構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施例2に係る波浪計測システムの概略全体構成を示す図である。
【図7】同波浪計測システムにおける計測原理を説明する座標系を示す斜視図である。
【図8】同波浪計測システムにおける計測原理を説明する模式図である。
【図9】同波浪計測システムにおける波浪計測装置の概略構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の実施例3に係る波浪計測システムの概略全体構成を示す図である。
【図11】同波浪計測システムにおける計測原理を説明する座標系を示す斜視図である。
【図12】同波浪計測システムにおける計測原理を説明する模式図である。
【図13】同波浪計測システムにおける波浪計測装置の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0018】
以下、本発明の実施例1に係る超音波を用いた波浪計測方法および波浪計測システムについて説明する。
本実施例1においては、沿岸海域だけでなく、特に、大水深海域での波浪高さを、水中に発信(発射)された超音波を用いて計測するものとして説明する。
【0019】
まず、本発明に係る波浪計測方法の原理を概略的に説明する。
この波浪計測方法は、所定海域に浮遊・係留されて海面の変動(変位)に追従する浮体の三次元位置を計測することにより、海面の変動量(変位量)つまり波浪高さを計測するもので、この変動量を超音波を用いて計測するようにしたものである。しかも、その計測に際しては、殆ど変動しない海洋構造物に設けられた基準用としての第1超音波受信機と波浪などにより変動する浮体に設けられた計測用つまり観測用の第2超音波受信機とを用いるとともに、これら両超音波受信機と海中または海底に配置された複数の超音波送信機との間の距離を超音波を用いて計測し、さらに両超音波受信機における座標位置同士を結ぶ相対変位ベクトルを考えるとともに、この相対変位ベクトルを変動が大きい短周期変動成分と変動が小さい長周期変動成分とに分け、この短周期変動成分を求めることにより、海面の変動すなわち波浪を計測するものである。
【0020】
以下、この計測原理を用いた波浪計測システムについて説明する。
この波浪計測システムは、図1〜図3に示すように、係留索(図示せず)により、大水深海域の海面に浮遊・係留(配置)されるとともに超音波を受信し得る基準用としての第1超音波受信機2が設けられた海洋構造物1と、同じく、大水深海域の海面で且つ上記海洋構造物1の近傍位置で浮遊・係留されるとともに超音波を受信し得る観測用としての第2超音波受信機4が設けられた浮体であるブイ3と、このブイ3の略真下、つまりブイ3と海洋構造物1の海底近傍に配置されて超音波を海面に向けて発信し得る少なくとも3個の超音波送信機5と、この超音波送信機5で発信された超音波を上記両超音波受信機2,4で受信してブイ3の三次元位置つまりブイ3の変動を検出することにより波浪高さを計測する波浪計測装置6とから構成されている。なお、上記各超音波受信機2,4は、海洋構造物1およびブイ3の下部、すなわち海面下(海中)に設けられている。また、上記各超音波送信機5の筒状容器本体5a内には超音波を発信する送信機本体が内蔵されている。なお、図4に、ブイ3および3個の超音波送信器(1,2,3)5の配置状態を具体的に示した海域の鳥瞰図を示す。
【0021】
ところで、上記海洋構造物1は、ブイ3よりも大きい浮体構造物で、波浪の影響を受けにくいものである。なお、後述するが、この海洋構造物1は音波を計測する際に基準となる超音波受信機が設けられるもので、その位置が固定されるのが好ましく(変動が殆どない海中に配置された没水型の浮体に支持されるようにしてもよい)、したがって海底に支持されるものがよいが、海底に支持できない場合には、海面に浮遊・係留された海洋構造物1の位置を時々刻々検出し得るようにしておけばよい。
【0022】
また、上記超音波送信機5は海底に投下された例えば錨7に索体8を介して係留されて移動が可能であるが、大水深海域の海底付近では海流は殆どないため、静止状態とみなしても差し支えない。つまり、超音波送信機5の位置は固定とみなしてよい。なお、超音波送信機5を直接海底に投下・設置してもよい。
【0023】
簡単に言えば、海洋構造物1に設けられた殆ど変動しない第1超音波受信機2と波浪などにより変動するブイ3に設けられた第2超音波受信機4との間の距離を、超音波を用いて計測するようにしたものであり、以下、上記計測原理に基づく波浪計測装置6について説明する。
【0024】
この波浪計測装置6は、海洋構造物1およびブイ3に設けられた各超音波受信機2,4と3個の超音波送信機5との距離を連続的に測定することによりブイ3の変動を検出する、つまり海面の変位を検出して波浪高さを計測するものである。なお、この波浪計測装置6は、超音波送信機5から発信された超音波を受信したデータがあれば、どこにおいても波浪高さを演算により求めることができる。したがって、通常、この波浪計測装置6は陸上の基地局Kに配置されるため、超音波受信機2,4にて受信されたデータ、例えば時間データが衛星Sなどを介して基地局Kに送信されて、この基地局Kに設けられた波浪計測装置6により求められる。勿論、海洋構造物1またはブイ3側に波浪計測装置6を配置するとともに、この波浪計測装置6にて求められた波浪高さを、衛星Sを介して基地局Kなどの所定場所に送信するようにしてもよい。
【0025】
そして、この波浪計測方法では、海洋構造物1およびブイ3に設けられた各超音波受信機2,4と大水深海域でしかも海底または海底近傍に配置した超音波送信機5との間の距離を超音波の伝播時間を用いて測定するが、その測定に際しては、海水の影響を大きく受けることになる。すなわち、超音波の速度は、海水の温度、圧力、塩分濃度により大きく変化するため、これらの変動成分を除去する必要がある。
【0026】
そこで、本実施例1では、これらの海水の影響による変動成分、つまり超音波受信機2,4と超音波送信機5との間の海水の温度、圧力および塩分濃度の分布の時間変化が長いこと、言い換えれば、この時間変化が波浪によるブイ3の上下動の周期より遥かに長いことに着目して、海水による影響を除去するようにしたものである。
【0027】
具体的には、ブイ3の変動には、海水の影響による長周期変動成分と波浪による短周期変動成分とが含まれており、したがって基準となる海洋構造物1に対するブイ3の変動データから長周期変動成分を差し引くことにより、短周期変動成分を求め、そしてこの短周期変動成分の高さ方向分が波浪高さとして求められる。
【0028】
以下、波浪高さを求める手順について詳しく説明する。
ここでは、図3に示すように、浮体構造物1に設けられている第1超音波受信機(0)を基準点P、ブイ3の所定位置に設けられている第2超音波受信機(1)2の設置位置を観測点Pとして、また超音波送信機5に付す部材番号をi(i=1,2,3)として説明する。
【0029】
超音波送信機i(i=1,2,3)と第2超音波受信機である観測点Pとの距離ρは下記(1)式で求められ、また超音波送信機iと第1超音波受信機である基準点Pとの距離ρは下記(2)式で求められる。
【0030】
【数1】

ここで、上記両距離データの差(受信機間一重差とも言える)をとると、下記(3)式が得られる。
【0031】
【数2】

ところで、超音波送信機i、基準点Pおよび観測点Pは、図3に示すような位置関係にあり、ρとρとの距離に比べて、基準点Pと観測点Pとの間の距離があまり大きくない場合には、上記(3)式の右辺を簡単にすることができる。
【0032】
すなわち、基準点Pと観測点Pとの相対変位ベクトルをΔ*r(*は、後に続く記号がベクトルであることを示し、以下、同じ)とし、この相対変位ベクトルの成分を(Δx01,Δy01,Δz01)とすると、下記(4)式が得られる。この(4)式を上記(3)式に代入すると、下記(5)式が得られる。
【0033】
【数3】

なお、上記(5)式中の(e0,x,e0,y,e0,z)は、基準点Pから超音波送信機iに対する方向単位ベクトル(*e)の三次元座標成分を表わしており、図3に示すように、基準点Pから見た超音波送信機iの俯角θおよび方位角ψを用いると、下記(6)式のように表わされる。
【0034】
【数4】

したがって、俯角θおよび方位角ψを計測することにより、(e0,x,e0,y,e0,z)は既知となる。なお、これらの角度θ,ψについては、ブイ3および超音波送信機iの設置時に計測することができる。
【0035】
そして、上記(5)式を(3)式に代入すれば、下記(7)式が得られる。
【0036】
【数5】

なお、基準点Pと観測点Pとの間の相対変位ベクトルΔ*r01を求めるのに、基準点Pの絶対座標は不要である。
【0037】
ここで、観測点Pと基準点Pとの間の相対変位ベクトルΔ*r01(Δx01,Δy01,Δz01)を殆ど変動しない長周期変動成分Δ*r101(Δx101,Δy101,Δz101)と変動が大きい短周期変動成分Δ*r201(Δx201,Δy201,Δz201)とに分けると、下記(8)式のようになる。
【0038】
なお、上述した「r,x,y,z」に続く数字の「1」は長周期変動成分を表わし、「r,x,y,z」に続く数字の「2」は短周期変動成分を表わし、また以下の式中、長周期変動成分(r1,x1,y1,z1)は「ハットr」で、また短周期変動成分(r2,x2,y2,z2)は「チルダr」で示す。また、「ρ」および「φ(後述する)」についても、同様に、「1」は長周期変動成分を、「2」は短周期変動成分を表わし、式中、長周期変動成分は「ハット」、短周期変動成分は「チルダ」で示す。
【0039】
【数6】

上記(8)式を(7)式に代入すると、下記(9)式が得られる。
【0040】
【数7】

また、(∇ρ)01の短周期変動成分を(∇ρ2)01とすると、下記(10)式が得られる。
【0041】
【数8】

ここで、超音波送信器iと超音波受信機(0,1)との間の観測値(距離データ)をφ,φで表わすと、超音波送信機に起因する誤差が少ない場合には、下記(11)式が成立する。なお、両距離データの差(∇φ)01の短周期変動成分を(∇φ2)01とする。
【0042】
【数9】

したがって、3個以上の超音波送信機により得られる距離データから3個以上の(∇φ2)01が得られれば、(10)式より相対変位ベクトルの短周期変動成分Δ*r201(Δx201,Δy201,Δz201)を決定することができる。
【0043】
そして、短周期変動成分(∇φ2)については、生の観測データ(φ,φ)の差(∇φ)にハイパスフィルタ処理を施す(ハイパスフィルタをかける)ことにより求められる。
【0044】
したがって、3個の超音波送信機iにより、上記(10)式の三元一次方程式が3個(i=1,2,3)得られることになり、これら3個の三元一次連立方程式を解くことにより、短周期変動成分を求めることができる。この短周期変動成分の上記方向単位ベクトルの3つのx,y,z成分のうち、鉛直方向のz成分が波浪高さに相当する。すなわち、基準点Pおよび観測点Pと海底の超音波送信機iとの間の観測データの差の短周期変動成分(∇φ2)01が分かれば、波浪高さが求まることになる。
【0045】
ところで、基準点Pおよび観測点Pに設けられた超音波受信機と海底に設けられた超音波送信機iとの間の距離φについては、超音波送信機iから発信された超音波が超音波受信機に到達するまでの伝播時間をt、基準音速を固定値c(実際の音速は海中で大きく変化するが、例えば平年の海面付近の温度に対応する音速値を用いても差し支えない)とすれば、下記(12)式にて求められる。
【0046】
φ=c×t ・・・(12)
そして、上記(12)式で表わされる距離データφにハイパスフィルタ処理を施して長周期変動成分φ1を除去することにより、短周期変動成分φ2が求められる。
【0047】
なお、超音波送信機から発信されて超音波受信機で受信するまでの超音波の伝播時間を検出するのに、当然ながら、超音波受信機側で、超音波送信機から超音波が発信されるタイミングつまり時刻が分かるようにされている。すなわち、精度の良い時計が超音波受信機および超音波送信機にそれぞれ設けられるとともに両者の時刻が一致するようにされており、また超音波送信機から発信される時刻が予め分かっている。
【0048】
ここで、上述した波浪高さの計測を実行し得る波浪計測装置6を図5に基づき説明する。
この波浪計測装置6は、超音波送信機5から発信された超音波を第1および第2超音波受信機2,4で受信するまでの伝播時間t,tを検出してブイ3と超音波送信機5との距離データφ,φを上記(12)式に基づき演算する距離演算部11と、この距離演算部で求められた両距離データの差(φ−φ)を求める差演算部12と、この差演算部12で求められた両距離データの差(∇φ)01にハイパスフィルタ処理を施して長周期変動成分φ1,φ1を除去して短周期変動成分(∇φ2)01を抽出する短周期変動成分抽出部13と、この短周期変動成分抽出部13で得られた短周期変動成分(∇φ2)01に基づき3個の超音波送信機5に対して三元一次方程式を作成する方程式作成部14と、この方程式式作成部14で得られた三元一次連立方程式を解く方程式解演算部15とから構成されている。なお、少なくとも、距離演算部11、差演算部12、短周期変動成分抽出部13、方程式作成部14、方程式解演算部15などについては、プログラムによりその機能が実現されるものである。勿論、必要に応じて、各構成部は同一のプログラムに組み込まれているが、ここでは、説明を分かり易くするために、機能に応じた構成部でもって説明を行っている。
【0049】
次に、上記波浪計測装置6を用いて波浪高さを計測する方法を全体的な流れでもって説明する。
海底の超音波送信機5から海面に向けて発信された超音波が、海面に浮遊するブイ3に設けられた超音波受信機2,4で受信されて、これら超音波受信機2,4と各超音波送信機5との伝播時間t,tが検出されると、距離演算部11にて超音波受信機2,4と超音波送信機5との距離データφ,φがそれぞれ求められ、そしてこれら両距離データφ,φが差演算部12に入力されてその差(∇φ)01が求められる。
【0050】
次に、上記差演算部12で求められた差(∇φ)01が短周期変動成分抽出部13に入力され、ここで、短周期変動成分(∇φ2)01が抽出される。
次に、この抽出された短周期変動成分(∇φ2)01が方程式作成部14に入力されて3個の超音波送信機5に対して上記(5)式に基づく三元一次方程式がそれぞれ作成される。
【0051】
そして、この作成された三元一次連立方程式が方程式解演算部15に入力されて、両超音波受信機2,4間における相対変位ベクトルの変位量である3つの未知数Δx01,Δy01,Δz01が求められ、そのz成分が波浪高さとして取り出される。
【0052】
このように、上記波浪計測方法および波浪計測システムによると、海底または海底近傍に配置された超音波送信機から超音波を海面に向けて発信するとともに海洋構造物およびブイの海面下に設けられた第1超音波受信機および第2超音波受信機でそれぞれ受信して、超音波の伝播時間を検出することにより、海洋構造物およびブイと超音波送信機との距離をそれぞれ求めるとともにこれら両距離データの差を求め、そしてこの両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施すことにより、つまり、長周期変動成分を除去して海水の影響を含まない短周期変動成分だけを抽出することにより、波浪高さを計測するようにしたので(簡単に言えば、塩分濃度や海水温の変化による音速変化がもたらす誤差フリーの計測法である)、従来のように海底に設置された超音波の送受波器から海面に向けて超音波を発射し海面で反射させて計測するものに比べて、海面の影響を受けることなく、つまり波浪が高い場合でも、波浪高さを精度良く計測することができ、したがって計測不能に陥ることも殆どない。
【実施例2】
【0053】
以下、本発明の実施例2に係る超音波を用いた波浪計測方法および波浪計測システムについて説明する。
上記実施例1においては、海底に配置された超音波送信機から発信された超音波を海洋構造物およびブイ(浮体)にそれぞれ設けられた超音波受信機で受信して超音波の片道伝播時間を検出するようにしたが、本実施例2においては、海洋構造物およびブイの海面下にそれぞれ設けられた各超音波送受信機から発信された超音波を海底に配置された音波中継器(トランスポンダともいう)で受信して発信された、つまり中継された超音波の往復伝播時間を検出するようにしたものである。
【0054】
なお、本実施例2については、実施例1と同様に、初めから説明するものとする。
まず、本発明に係る波浪計測方法の原理を概略的に説明する。
この波浪計測方法は、所定海域に浮遊・係留されて海面の変動(変位)に追従する浮体の三次元位置を計測することにより、海面の変動量(変位量)つまり波浪高さを計測するもので、この変動量を超音波を用いて計測するようにしたものである。しかも、その計測に際しては、殆ど変動しない海洋構造物に設けられた基準用としての第1超音波送受信機と波浪などにより変動する浮体に設けられた計測用つまり観測用の第2超音波送受信機とを用いるとともに、これら両超音波送受信機と海中または海底に配置された複数の音波中継器との間における各距離を超音波を用いて計測し、さらにその計測に際しては、両超音波送受信機における座標位置同士を結ぶ相対変位ベクトルを考えるとともに、この相対変位ベクトルを変動が大きい短周期変動成分と変動が小さい長周期変動成分とに分け、この短周期変動成分を求めることにより、海面の変動すなわち波浪を計測するものである。
【0055】
以下、この計測原理を用いた波浪計測システムについて説明する。
この波浪計測システムは、図6〜図9に示すように、係留索(図示せず)により、大水深海域の海面に浮遊・係留(配置)されるとともに超音波の送受信を行い得る基準用としての第1超音波送受信機22が設けられた海洋構造物21と、同じく、大水深海域の海面で且つ上記海洋構造物21の近傍位置で浮遊・係留されるとともに超音波の送受信を行い得る観測用としての第2超音波送受信機24が設けられた浮体であるブイ23と、このブイ23の略真下、つまりブイ23と海洋構造物21の海底近傍に配置されて超音波を海面に向けて発信し得る少なくとも3個の音波中継器25と、この音波中継器25で発信された超音波を上記両超音波送受信機22,24で受信してブイ23の三次元位置つまりブイ23の変動を検出することにより波浪高さを計測する波浪計測装置26とから構成されている。なお、上記各超音波送受信機22,24は、海洋構造物21およびブイ23の下部、すなわち海面下(海中)に設けられている。また、上記各音波中継器25の筒状容器本体25a内には超音波を受信するとともにこの超音波を増幅させて海面に発信する中継器本体が内蔵されている。
【0056】
ところで、上記海洋構造物21は、ブイ23よりも大きい浮体構造物で、波浪の影響を受けにくいものである。なお、後述するが、この海洋構造物21は音波を計測する際に基準となる超音波送受信機が設けられるもので、その位置が固定されるのが好ましく(変動が殆どない海中に配置された没水型の浮体に支持されるようにしてもよい)、したがって海底に支持されるものがよいが、海底に支持できない場合には、海面に浮遊・係留された海洋構造物21の位置を時々刻々検出し得るようにしておけばよい。
【0057】
また、上記音波中継器25は海底に投下された例えば錨27に索体28を介して係留されて移動が可能であるが、大水深海域の海底付近では海流は殆どないため、静止状態とみなしても差し支えない。つまり、音波中継器25の位置は固定とみなしてよい。なお、音波中継器25を直接海底に投下・設置してもよい。
【0058】
簡単に言えば、海洋構造物21に設けられた殆ど変動しない第1超音波送受信機22と波浪などにより変動するブイ23に設けられた第2超音波送受信機24との間の距離を、超音波を用いて計測するようにしたものであり、以下、上記計測原理に基づく波浪計測装置26について説明する。
【0059】
この波浪計測装置26は、海洋構造物21およびブイ23に設けられた各超音波送受信機22,24と3個の音波中継器25との距離を連続的に測定することによりブイ23の変動を検出する、つまり海面の変位を検出して波浪高さを計測するものである。なお、この波浪計測装置26は、音波中継器25からの超音波の受信データがあれば、どこにおいても波浪高さを演算により求めることができる。したがって、通常、この波浪計測装置26は陸上の基地局Kに配置されるため、超音波送受信機22,24にて受信されたデータ、例えば時間データが衛星Sなどを介して基地局Kに送信されて、この基地局Kに設けられた波浪計測装置26により求められる。勿論、海洋構造物21またはブイ23側に波浪計測装置26を配置するとともに、この波浪計測装置26にて求められた波浪高さを、衛星Sを介して基地局Kなどの所定場所に送信するようにしてもよい。
【0060】
そして、この波浪計測方法では、海洋構造物21およびブイ23に設けられた各超音波送受信機22,24と大水深海域でしかも海底または海底近傍に配置した音波中継器25との間の距離を超音波の伝播時間を用いて測定するが、その測定に際しては、海水の影響を大きく受けることになる。すなわち、超音波の速度は、海水の温度、圧力、塩分濃度により大きく変化するため、これらの変動成分を除去する必要がある。
【0061】
そこで、本実施例2では、これらの海水の影響による変動成分、つまり超音波送受信機22,24と音波中継器25との間の海水の温度、圧力および塩分濃度の分布の時間変化が長いこと、言い換えれば、この時間変化が波浪によるブイ23の上下動の周期より遥かに長いことに着目して、海水による影響を除去するようにしたものである。
【0062】
具体的には、ブイ23の変動には、海水の影響による長周期変動成分と波浪による短周期変動成分とが含まれており、したがって基準となる海洋構造物21に対するブイ23の変動データから長周期変動成分を差し引くことにより、短周期変動成分を求め、そしてこの短周期変動成分の高さ方向分が波浪高さとして求められる。
【0063】
以下、波浪高さを求める手順について詳しく説明する。
ここでは、図8に示すように、浮体構造物21に設けられている第1超音波送受信機(0)を基準点P、ブイ23の所定位置に設けられている第2超音波送受信機(1)の設置位置を観測点Pとして、また音波中継器25に付す部材番号をi(i=1,2,3)として説明する。
【0064】
音波中継器i(i=1,2,3)と第2超音波送受信機である観測点Pとの距離ρは下記(21)式で求められ、また音波中継器iと第1超音波送受信機である基準点Pとの距離ρは下記(22)式で求められる。
【0065】
【数10】

ここで、上記両距離の差(送受信機間一重差に相当する)をとると、下記(2
3)式が得られる。
【0066】
【数11】

ところで、音波中継器i、基準点Pおよび観測点Pは、図8に示すような位置関係にあり、ρとρとの距離に比べて、基準点Pと観測点Pとの間の距離があまり大きくない場合には、上記(23)式の右辺を簡単にすることができる。
【0067】
すなわち、基準点Pと観測点Pとの相対変位ベクトルをΔ*r(*は、後に続く記号がベクトルであることを示し、以下、同じ)とし、この相対変位ベクトルの成分を(Δx01,Δy01,Δz01)とすると、下記(24)式が得られる。(24)式を上記(23)式に代入すると、下記(25)式が得られる。
【0068】
【数12】

なお、上記(25)式中の(e0,x,e0,y,e0,z)は、基準点Pから音波中継器iに対する方向単位ベクトル(*e)の三次元座標成分を表わしており、図7に示すように、基準点Pから見た音波中継器iの俯角θおよび方位角ψを用いると、下記(26)式のように表わされる。
【0069】
【数13】

したがって、俯角θおよび方位角ψを計測することにより、(e0,x,e0,y,e0,z)は既知となる。なお、これらの角度θ,ψについては、ブイ23および音波中継器iの設置時に計測することができる。
【0070】
そして、上記(25)式を(23)式に代入すれば、下記(27)式が得られる。
【0071】
【数14】

なお、基準点Pと観測点Pとの間の相対変位ベクトルΔ*r01を求めるのに、基準点Pの絶対座標は不要である。
【0072】
ここで、基準点Pと観測点Pとの間の相対変位ベクトルΔ*r01(Δx01,Δy01,Δz01)を殆ど変動しない長周期変動成分Δ*r101(Δx101,Δy101,Δz101)と変動が大きい短周期変動成分Δ*r201(Δx201,Δy201,Δz201)とに分けると、下記(28)式のようになる。
【0073】
なお、上述した「r,x,y,z」に続く数字の「1」は長周期変動成分を表わし、「r,x,y,z」に続く数字の「2」は短周期変動成分を表わしており、また以下の式中、長周期変動成分(r1,x1,y1,z1)は「ハットr」で、また短周期変動成分(r2,x2,y2,z2)は「チルダr」で示す。また、「ρ」および「φ(後述する)」についても、同様に、「1」は長周期変動成分を、「2」は短周期変動成分を表わし、式中では、長周期変動成分は「ハット」、短周期変動成分は「チルダ」で示す。
【0074】
【数15】

上記(28)式を(27)式に代入すると、下記(29)式が得られる。
【0075】
【数16】

また、(∇ρ)01の短周期変動成分を(∇ρ2)01とすると、下記(30)式が得られる。
【0076】
【数17】

ここで、音波中継器iと超音波送受信機(0,1)との間の観測値(距離データ)をφ,φで表わすと、音波中継器に起因する誤差が少ない場合には、下記(31)式が成立する。なお、両距離データの差(∇φ)01の短周期変動成分を(∇φ2)01とする。
【0077】
【数18】

したがって、3個以上の音波中継器により得られる距離データから3個以上の(∇φ2)01が得られれば、(30)式より相対変位ベクトルの短周期変動成分Δ*r201(Δx201,Δy201,Δz201)を決定することができる。
【0078】
そして、短周期変動成分(∇φ2)については、生の観測データ(φ,φ)の差(∇φ)にハイパスフィルタ処理を施す(ハイパスフィルタをかける)ことにより求められる。
【0079】
したがって、3個の音波中継器iにより、上記(30)式の三元一次方程式が3個(i=1,2,3)得られることになり、これら3個の三元一次連立方程式を解くことにより、短周期変動成分を求めることができる。この短周期変動成分の上記方向単位ベクトルの3つのx,y,z成分のうち、鉛直方向のz成分が波浪高さに相当する。すなわち、基準点Pおよび観測点Pと海底の超音波送信機iとの間の観測データの差の短周期変動成分(∇φ2)01が分かれば、波浪高さが求まることになる。
【0080】
ところで、基準点Pおよび観測点Pに設けられた超音波送受信機と海底に設けられた音波中継器iとの間の距離ρについては、超音波送受信機から発信された超音波が音波中継器iを介して再び超音波送受信機に到達するまでの往復伝播時間をt、基準音速を固定値c(実際の音速は海中で大きく変化するが、例えば平年の海面付近の温度に対応する音速値を用いても差し支えない)とすれば、下記(32)式にて求められる。
【0081】
φ=c×t/2・・・(32)
そして、上記(32)式で表わされる距離データφにハイパスフィルタ処理を施して長周期変動成分φ1を除去することにより、短周期変動成分φ2が求められる。
【0082】
ここで、上述した波浪高さの計測を実行し得る波浪計測装置26を図9に基づき説明する。
この波浪計測装置26は、第1および第2超音波送受信機22,24から発信(発射)された超音波を音波中継器25を経由して第1および第2超音波送受信機22,24で受信するまでの往復伝播時間t,tを検出してブイ23と音波中継器25との距離φ,φを上記(32)式に基づき演算する距離演算部31と、この距離演算部31で求められた両距離データの差(φ−φ)を求める差演算部32と、この差演算部32で求められた両距離データの差(∇φ)01iにハイパスフィルタ処理を施して長周期変動成分(∇φ1)01を除去して短周期変動成分(∇φ2)01を抽出する短周期変動成分抽出部33と、この短周期変動成分抽出部33で得られた短周期変動成分(∇φ2)01に基づき3個の音波中継器25に対して三元一次方程式を作成する方程式作成部34と、この方程式式作成部34で得られた三元一次連立方程式を解く方程式解演算部35とから構成されている。なお、少なくとも、距離演算部31、差演算部32、短周期変動成分抽出部33、方程式作成部34、方程式解演算部35などについては、プログラムによりその機能が実現されるものである。勿論、必要に応じて、各構成部は同一のプログラムに組み込まれているが、ここでは、説明を分かり易くするために、機能に応じた構成部でもって説明を行っている。
【0083】
次に、上記波浪計測装置26を用いて波浪高さを計測する方法を全体的な流れでもって説明する。
海洋構造物21およびブイ23に設けられた第1および第2超音波送受信機22,24から海底の音波中継器25に向けて発信された超音波が、この音波中継器25にて中継されて上記両超音波送受信22,24で受信されて、その往復伝播時間t,tが検出されると、距離演算部31にて各超音波送受信機22,24と音波中継器25との各距離データφ,φがそれぞれ求められ、そしてこれら両距離データφ,φが差演算部32に入力されてその差(∇φ)01が求められる。
【0084】
次に、上記差演算部32で求められた差(∇φ)01が短周期変動成分抽出部33に入力され、ここで、短周期変動成分(∇φ2)01が抽出される。
次に、この抽出された短周期変動成分(∇φ2)01が方程式作成部34に入力されて3個の音波中継器25に対して上記(25)式に基づく三元一次方程式がそれぞれ作成される。
【0085】
そして、この作成された三元一次連立方程式が方程式解演算部35に入力されて、両超音波受信機22,24間における相対変位ベクトルの変位量である3つの未知数Δx01,Δy01,Δz01が求められ、そのz成分が波浪高さとして取り出される。
【0086】
このように、上記波浪計測方法および波浪計測システムによると、海洋構造物およびブイの海面下に設けられた第1超音波送受信機および第2超音波送受信機から海底または海底近傍に配置された音波中継器に向けて超音波を発信し、この音波中継器で中継された超音波を上記両超音波送受信機でそれぞれ受信して、超音波の往復伝播時間を検出することにより、海洋構造物およびブイと音波中継器との距離をそれぞれ求めるとともにこれら両距離データの差を求め、そしてこの両距離データの差にハイパスフィルタを施すことにより、つまり、長周期変動成分を除去して海水の影響を含まない短周期変動成分だけを抽出することにより、波浪高さを計測するようにしたので(簡単に言えば、塩分濃度や海水温の変化による音速変化がもたらす誤差フリーの計測法である)、従来のように海底に設置された超音波の送受波器から海面に向けて超音波を発射し海面で反射させて計測するものに比べて、海面の影響を受けることなく、つまり波浪が高い場合でも、波浪高さを精度良く計測することができ、したがって計測不能に陥ることも殆どない。
【実施例3】
【0087】
以下、本発明の実施例3に係る超音波を用いた波浪計測方法および波浪計測システムについて説明する。
上記実施例2においては、ブイ(浮体)の海面下に設けられた超音波送受信機から発信された超音波を海底近傍に配置された音波中継器(トランスポンダとも言う)で受信して発信した、つまり中継した超音波の往復伝播時間を検出するようにしたが、本実施例3においては、音波中継器で中継された超音波の片道伝播時間を検出するようにしたものである。
【0088】
本実施例3においても、実施例2と同様に、初めから説明するものとする。
まず、本発明に係る波浪計測方法の原理を概略的に説明する。
この波浪計測方法は、所定海域に浮遊・係留されて海面の変動(変位)に追従する浮体の三次元位置を計測することにより、海面の変動量(変位量)つまり波浪高さを計測するもので、この変動量を超音波を用いて計測するようにしたものである。しかも、その計測に際しては、殆ど変動しない海洋構造物に設けられた基準用としての第1超音波送受信機と波浪などにより変動する浮体に設けられた計測用つまり観測用の第2超音波送受信機とを用いるとともに、これら両超音波送受信機と海中または海底に配置された複数の音波中継器との間における各距離を超音波を用いて計測し、さらにその計測に際しては、両超音波送受信機における座標位置同士を結ぶ相対変位ベクトルを考えるとともに、この相対変位ベクトルを変動が大きい短周期変動成分と変動が小さい長周期変動成分とに分け、この短周期変動成分を求めることにより、海面の変動すなわち波浪を計測するものである。
【0089】
以下、この計測原理を用いた波浪計測システムについて説明する。
この波浪計測システムは、図10〜図13に示すように、係留索(図示せず)により、大水深海域の海面に浮遊・係留(配置)されるとともに超音波の送受信を行い得る基準用としての第1超音波送受信機42が設けられた海洋構造物41と、同じく、大水深海域の海面で且つ上記海洋構造物1の近傍位置で浮遊・係留されるとともに超音波の送受信を行い得る観測用としての第2超音波送受信機44が設けられた浮体であるブイ43と、このブイ43の略真下、つまりブイ43と海洋構造物21の海底近傍に配置されて超音波を海面に向けて発信し得る少なくとも3個の音波中継器45と、この音波中継器45で発信された超音波を上記両超音波送受信機42,44で受信してブイ43の三次元位置つまりブイ43の変動を検出することにより波浪高さを計測する波浪計測装置46とから構成されている。なお、上記各超音波送受信機42,44は、海洋構造物41およびブイ43の下部、すなわち海面下(海中)に設けられている。また、上記各音波中継器45の筒状容器本体45a内には超音波を受信するとともにこの超音波を増幅させて海面に発信する中継器本体が内蔵されている。
【0090】
そして、この音波中継器45には、精度の良い時計が設けられており、超音波を受信して発信する際に、その発信時刻(タイムスタンプであり、中継時刻ともいえる)の信号も一緒に発信され、また超音波送受信機42,44側にも、音波中継器45に設けられている時計と同期がとられた(同じ時刻の)時計が設けられて、超音波の発信から受信するまでの片道伝播時間を検出し得るようにされている。
【0091】
ところで、上記海洋構造物41は、ブイ43よりも大きい浮体構造物で、波浪の影響を受けにくいものである。なお、後述するが、この海洋構造物41は音波を計測する際に基準となる超音波送受信機が設けられるもので、その位置が固定されるのが好ましく(変動が殆どない海中に配置された没水型の浮体に支持されるようにしてもよい)、したがって海底に支持されるものがよいが、海底に支持できない場合には、海面に浮遊・係留された海洋構造物41の位置を時々刻々検出し得るようにしておけばよい。
【0092】
また、上記音波中継器45は海底に投下された例えば錨47に索体48を介して係留されて移動が可能であるが、大水深海域の海底付近では海流は殆どないため、静止状態とみなしても差し支えない。つまり、音波中継器45の位置は固定とみなしてよい。なお、音波中継器45を直接海底に投下・設置してもよい。
【0093】
簡単に言えば、海洋構造物41に設けられた殆ど変動しない第1超音波送受信機42と波浪などにより変動するブイ43に設けられた第2超音波送受信機44との間の距離を、超音波を用いて計測するようにしたものであり、以下、上記計測原理に基づく波浪計測装置46について説明する。
【0094】
この波浪計測装置46は、海洋構造物41およびブイ43に設けられた各超音波送受信機42,44と3個の音波中継器45との距離を連続的に測定することによりブイ43の変動を検出する、つまり海面の変位を検出して波浪高さを計測するものである。なお、この波浪計測装置46は、音波中継器45からの超音波の受信データがあれば、どこにおいても波浪高さを演算により求めることができる。したがって、通常、この波浪計測装置46は陸上の基地局Kに配置されるため、超音波送受信機42,44にて受信されたデータ、例えば時間データが衛星Sなどを介して基地局Kに送信されて、この基地局Kに設けられた波浪計測装置46により求められる。勿論、海洋構造物41またはブイ43側に波浪計測装置46を配置するとともに、この波浪計測装置46にて求められた波浪高さを、衛星Sを介して基地局Kなどの所定場所に送信するようにしてもよい。
【0095】
そして、この波浪計測方法では、海洋構造物41およびブイ43に設けられた各超音波送受信機42,44と大水深海域でしかも海底または海底近傍に配置した音波中継器45との間の距離を超音波の伝播時間を用いて測定するが、その測定に際しては、海水の影響を大きく受けることになる。すなわち、超音波の速度は、海水の温度、圧力、塩分濃度により大きく変化するため、これらの変動成分を除去する必要がある。
【0096】
そこで、本実施例3では、これらの海水の影響による変動成分、つまり超音波送受信機42,44と音波中継器45との間の海水の温度、圧力および塩分濃度の分布の時間変化が長いこと、言い換えれば、この時間変化が波浪によるブイ43の上下動の周期より遥かに長いことに着目して、海水による影響を除去するようにしたものである。
【0097】
具体的には、ブイ43の変動には、海水の影響による長周期変動成分と波浪による短周期変動成分とが含まれており、したがって基準となる海洋構造物41に対するブイ43の変動データから長周期変動成分を差し引くことにより、短周期変動成分を求め、そしてこの短周期変動成分の高さ方向分が波浪高さとして求められる。
【0098】
以下、波浪高さを求める手順について詳しく説明する。
ここでは、図12に示すように、浮体構造物41に設けられている第1超音波送受信機(0)を基準点P、ブイ43の所定位置に設けられている第2超音波送受信機(1)の設置位置を観測点Pとして、また音波中継器45に付す部材番号をi(i=1,2,3)として説明する。
【0099】
音波中継器i(i=1,2,3)と第2超音波送受信機である観測点Pとの距離ρは下記(41)式で求められ、また音波中継器iと第1超音波送受信機である基準点Pとの距離ρは下記(42)式で求められる。
【0100】
【数19】

ここで、上記両距離の差(送受信機間一重差に相当する)をとると、下記(4
3)式が得られる。
【0101】
【数20】

ところで、音波中継器i、基準点Pおよび観測点Pは、図12に示すような位置関係にあり、ρとρとの距離に比べて、基準点Pと観測点Pとの間の距離があまり大きくない場合には、上記(43)式の右辺を簡単にすることができる。
【0102】
すなわち、基準点Pと観測点Pとの相対変位ベクトルをΔ*r(*は、後に続く記号がベクトルであることを示し、以下、同じ)とし、この相対変位ベクトルの成分を(Δx01,Δy01,Δz01)とすると、下記(44)式が得られる。(44)式を上記(43)式に代入すると、下記(45)式が得られる。
【0103】
【数21】

なお、上記(45)式中の(e0,x,e0,y,e0,z)は、基準点Pから音波中継器iに対する方向単位ベクトル(*e)の三次元座標成分を表わしており、図11に示すように、基準点Pから見た音波中継器iの俯角θおよび方位角ψを用いると、下記(46)式のように表わされる。
【0104】
【数22】

したがって、俯角θおよび方位角ψを計測することにより、(e0,x,e0,y,e0,z)は既知となる。なお、これらの角度θ,ψについては、ブイ43および音波中継器iの設置時に計測することができる。
【0105】
そして、上記(45)式を(43)式に代入すれば、下記(47)式が得られる。
【0106】
【数23】

なお、基準点Pと観測点Pとの間の相対変位ベクトルΔ*r01を求めるのに、基準点Pの絶対座標は不要である。
【0107】
ここで、基準点Pと観測点Pとの間の相対変位ベクトルΔ*r01(Δx01,Δy01,Δz01)を殆ど変動しない長周期変動成分Δ*r101(Δx101,Δy101,Δz101)と変動が大きい短周期変動成分Δ*r201(Δx201,Δy201,Δz201)とに分けると、下記(48)式のようになる。
【0108】
なお、上述した「r,x,y,z」に続く数字の「1」は長周期変動成分を表わし、「r,x,y,z」に続く数字の「2」は短周期変動成分を表わしており、また以下の式中、長周期変動成分(r1,x1,y1,z1)は「ハットr」で、また短周期変動成分(r2,x2,y2,z2)は「チルダr」で示す。また、「ρ」および「φ(後述する)」についても、同様に、「1」は長周期変動成分を、「2」は短周期変動成分を表わし、式中では、長周期変動成分は「ハット」、短周期変動成分は「チルダ」で示す。
【0109】
【数24】

上記(48)式を(47)式に代入すると、下記(49)式が得られる。
【0110】
【数25】

また、(∇ρ)01の短周期変動成分を(∇ρ2)01とすると、下記(50)式が得られる。
【0111】
【数26】

ここで、音波中継器iと超音波送受信機(0,1)との間の観測値(距離データ)をφ,φで表わすと、音波中継器に起因する誤差が少ない場合には、下記(51)式が成立する。なお、両距離データの差(∇φ)01の短周期変動成分を(∇φ2)01とする。
【0112】
【数27】

したがって、3個以上の音波中継器により得られる距離データから3個以上の(∇φ2)01が得られれば、(50)式より相対変位ベクトルの短周期変動成分Δ*r201(Δx201,Δy201,Δz201)を決定することができる。
【0113】
そして、短周期変動成分(∇φ2)については、生の観測データ(φ,φ)の差(∇φ)にハイパスフィルタ処理を施す(ハイパスフィルタをかける)ことにより求められる。
【0114】
したがって、3個の音波中継器iにより、上記(50)式の三元一次方程式が3個(i=1,2,3)得られることになり、これら3個の三元一次連立方程式を解くことにより、短周期変動成分を求めることができる。この短周期変動成分の上記方向単位ベクトルの3つのx,y,z成分のうち、鉛直方向のz成分が波浪高さに相当する。すなわち、基準点Pおよび観測点Pと海底の超音波送信機iとの間の観測データの差の短周期変動成分(∇φ2)01が分かれば、波浪高さが求まることになる。
【0115】
ところで、基準点Pおよび観測点Pに設けられた超音波送受信機と海底に設けられた音波中継器iとの間の距離ρについては、音波中継器iから発信された超音波が超音波送受信機に到達するまでの片道伝播時間をt、基準音速を固定値c(実際の音速は海中で大きく変化するが、例えば平年の海面付近の温度に対応する音速値を用いても差し支えない)とすれば、下記(52)式にて求められる。
【0116】
φ=c×t・・・(52)
そして、上記(52)式で表わされる距離データφにハイパスフィルタ処理を施して長周期変動成分φ1を除去することにより、短周期変動成分φ2が求められる。
【0117】
ここで、上述した波浪高さの計測を実行し得る波浪計測装置46を図13に基づき説明する。
この波浪計測装置46は、第1および第2超音波送受信機42,44から発信(発射)された超音波を音波中継器45を経由して第1および第2超音波送受信機42,44で受信するまでの片道伝播時間t,tを検出してブイ43と音波中継器45との距離φ,φを上記(52)式に基づき演算する距離演算部51と、この距離演算部51で求められた両距離データの差(φ−φ)を求める差演算部52と、この差演算部52で求められた両距離データの差(∇φ)01iにハイパスフィルタ処理を施して長周期変動成分(∇φ1)01を除去して短周期変動成分(∇φ2)01を抽出する短周期変動成分抽出部53と、この短周期変動成分抽出部53で得られた短周期変動成分(∇φ2)01に基づき3個の音波中継器45に対して三元一次方程式を作成する方程式作成部54と、この方程式式作成部54で得られた三元一次連立方程式を解く方程式解演算部55とから構成されている。なお、少なくとも、距離演算部51、差演算部52、短周期変動成分抽出部53、方程式作成部54、方程式解演算部55などについては、プログラムによりその機能が実現されるものである。勿論、必要に応じて、各構成部は同一のプログラムに組み込まれているが、ここでは、説明を分かり易くするために、機能に応じた構成部でもって説明を行っている。
【0118】
次に、上記波浪計測装置46を用いて波浪高さを計測する方法を全体的な流れでもって説明する。
海洋構造物41およびブイ43に設けられた第1および第2超音波送受信機42,44から海底の音波中継器45に向けて発信された超音波が、この音波中継器45にて受信され、この受信と同時にその超音波およびその発信時刻の信号が海面に向かって発信される。
【0119】
この超音波は上記両超音波送受信42,44で受信されて、その片道伝播時間t,tが検出されると、距離演算部51にて各超音波送受信機42,44と音波中継器45との各距離データφ,φがそれぞれ求められ、そしてこれら両距離データφ,φが差演算部52に入力されてその差(∇φ)01が求められる。
【0120】
次に、上記差演算部52で求められた差(∇φ)01が短周期変動成分抽出部53に入力され、ここで、短周期変動成分(∇φ2)01が抽出される。
次に、この抽出された短周期変動成分(∇φ2)01が方程式作成部54に入力されて3個の音波中継器45に対して上記(45)式に基づく三元一次方程式がそれぞれ作成される。
【0121】
そして、この作成された三元一次連立方程式が方程式解演算部55に入力されて、両超音波受信機42,44間における相対変位ベクトルの変位量である3つの未知数Δx01,Δy01,Δz01が求められ、そのz成分が波浪高さとして取り出される。
【0122】
このように、上記波浪計測方法および波浪計測システムによると、海面に配置された海洋構造物および浮体の海面下から海中に向けて超音波を発信して海底または海底近傍に配置された音波中継器からの超音波をその発信時刻と一緒に海洋構造物および浮体に設けられた各超音波送受信機で受信して超音波の片道伝播時間を検出することにより、海洋構造物および浮体と音波中継器との距離をそれぞれ求めるとともに、この求められた両距離データの差にハイパスフィルタを施すことにより、つまり、長周期変動成分を除去して海水の影響を含まない短周期変動成分だけを抽出することにより、波浪高さを計測するようにしたので(簡単に言えば、塩分濃度や海水温の変化による音速変化がもたらす誤差フリーの計測法である)、従来のように海底に設置された超音波の送受波器から海面に向けて超音波を発信し海面で反射させて計測するものに比べて、海面の影響を受けることなく、つまり波浪が高い場合でも、波浪高さを精度良く計測することができ、したがって計測不能に陥ることも殆どない。
【符号の説明】
【0123】
1 海洋構造物
2 第1超音波受信機
3 ブイ(浮体)
4 第2超音波受信機
5 超音波送信機
6 波浪計測装置
11 距離演算部
12 差演算部
13 短周期変動成分抽出部
14 方程式作成部
15 方程式解演算部
21 海洋構造物
22 第1超音波送受信機
23 ブイ(浮体)
24 第2超音波送受信機
25 音波中継器
26 波浪計測装置
31 距離演算部
32 差演算部
33 短周期変動成分抽出部
34 方程式作成部
35 方程式解演算部
41 海洋構造物
42 第1超音波送受信機
43 ブイ(浮体)
44 第2超音波送受信機
45 音波中継器
46 波浪計測装置
51 距離演算部
52 差演算部
53 短周期変動成分抽出部
54 方程式作成部
55 方程式解演算部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測方法であって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された超音波送信機から発信された超音波を、上記海洋構造物の海面下に設けられた基準となる第1超音波受信機および上記浮体の海面下に設けられた観測用の第2超音波受信機にて受信し、
上記超音波送信機から発信された超音波の発信から受信するまでの伝播時間に基づき上記超音波送信機と上記各超音波受信機との間の距離をそれぞれ求めるとともに、これら両距離データの差を求め、
上記求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施して短周期変動成分を抽出し、
上記第1超音波受信機の超音波送信機に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各超音波送信機毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得ることを特徴とする超音波を用いた波浪計測方法。
【請求項2】
海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測システムであって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の下方にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波受信機および観測用の第2超音波受信機と、
上記海洋構造物および浮体の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された超音波送信機と、
上記超音波送信機から発信された超音波の発信から受信するまでの伝播時間に基づき上記超音波送信機と上記各超音波受信機との間の距離を求めることにより波浪高さを計測する波浪計測装置とを具備し、
上記波浪計測装置を、
上記超音波送信機から発信された超音波の発信から受信するまでの伝播時間に基づき上記超音波送信機と上記各超音波受信機との間の距離をそれぞれ求める距離演算部、この距離演算部で求められた両距離データの差を求める差演算部、この差演算部で求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施して短周期変動成分を抽出する短周期変動成分抽出部、および上記第1超音波受信機の超音波送信機に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各超音波送信機毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る短周期変動成分演算部から構成したことを特徴とする超音波を用いた波浪計測システム。
【請求項3】
海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測方法であって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の海面下にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波送受信機および観測用の第2超音波送受信機から海中に超音波を発信してこれらの下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された音波中継器からの超音波を上記各超音波送受信機にて受信し、
上記超音波送受信機から発信された超音波の発信から受信するまでの往復伝播時間に基づき上記音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離をそれぞれ求めるとともに、これら両距離データの差を求め、
上記求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施して短周期変動成分を抽出し、
上記第1超音波送受信機の音波中継器に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各音波中継器毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得ることを特徴とする超音波を用いた波浪計測方法。
【請求項4】
海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測システムであって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の下方にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波送受信機および観測用の第2超音波送受信機と、
上記海洋構造物および浮体の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された音波中継器と、
上記超音波送受信機から発信された超音波の発信から受信するまでの往復伝播時間に基づき上記音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離を求めることにより波浪高さを計測する波浪計測装置とを具備し、
上記波浪計測装置を、
上記超音波送受信機から発信された超音波の発信から受信するまでの往復伝播時間に基づき上記音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離をそれぞれ求める距離演算部、この距離演算部で求められた両距離データの差を求める差演算部、この差演算部で求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施すことにより短周期変動成分をそれぞれ抽出する短周期変動成分抽出部、および上記第1超音波送受信機の音波中継器に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各音波中継器毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る短周期変動成分演算部から構成したことを特徴とする超音波を用いた波浪計測システム。
【請求項5】
海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測方法であって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の海面下にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波送受信機および観測用の第2超音波送受信機から海中に超音波を発信し、
これら超音波送受信機の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置された音波中継器にて中継された超音波および中継時刻を上記各超音波送受信機にて受信して当該音波中継器からの伝播時間に基づき音波中継器と各超音波送受信機との間の距離をそれぞれ求めるとともに、これら両距離データの差を求め、
上記求められた両距離データの差にハイパスフィルタ処理を施して短周期変動成分を抽出し、
上記第1超音波送受信機の音波中継器に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各音波中継器毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得ることを特徴とする超音波を用いた波浪計測方法。
【請求項6】
海面に浮遊する浮体の変動を検出することにより、所定海域での波浪高さを計測する波浪計測システムであって、
所定海域の海面に配置された海洋構造物および浮体の下方にそれぞれ設けられた基準となる第1超音波送受信機および観測用の第2超音波送受信機と、
上記海洋構造物および浮体の下方の海底または海底近傍に少なくとも3箇所で配置されて上記超音波送受信機からの超音波を中継して当該超音波および中継時刻を一緒に発信する音波中継器と、
上記音波中継器から発信された超音波の発信から受信するまでの伝播時間に基づき上記各音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離を求めることにより波浪高さを計測する波浪計測装置とを具備し、
上記波浪計測装置を、
上記音波中継器から発信された超音波および中継時刻を受信して当該音波中継器からの伝播時間に基づき上記音波中継器と上記各超音波送受信機との間の距離を求める距離演算部、この距離演算部で求められた両距離データの差を求める差演算部、この差演算部で求められた両距離データの差に対してハイパスフィルタ処理を施すことにより短周期変動成分をそれぞれ抽出する短周期変動成分抽出部、および上記第1超音波送受信機の音波中継器に対する方位角および俯角を係数とする上記両超音波受信機間における三次元座標軸上での各相対変位量を未知数とする式が、上記抽出された短周期変動成分に等しくなるようにした三元一次方程式を各音波中継器毎に作成するとともに、この三元一次連立方程式を解いて少なくとも短周期変動成分の高さ方向の変位を求めて波浪高さを得る短周期変動成分演算部から構成したことを特徴とする超音波を用いた波浪計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−181117(P2012−181117A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44567(P2011−44567)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(501241911)独立行政法人港湾空港技術研究所 (84)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】