説明

超音波イメージング

新しい超音波イメージング法が示されている。この方法は、反響ノイズが低減されたイメージ、対象物の非線形散乱および伝搬パラメータのイメージ、超音波伝搬速度の空間的な変動によって生成される波面収差に対する補正の見積もりを与えるものである。本方法は、高周波パルスおよび低周波パルスをオーバーラップさせた送信されたデュアル周波数バンド超音波パルス合成物からの受信信号を処理することに基づいている。高周波パルスは、イメージの再構成に対して使用され、低周波パルスは、高周波パルスの非線形散乱および/または伝搬特性を操作するために使用される。第1の方法は、単一のデュアル・バンド・パルス合成物からの散乱の信号を、速い時間(深さ時間)でのフィルタリングのために利用して、反響ノイズが抑制され、第1高調波の感度を伴い、空間分解能が増加した信号を実現するものである。他の方法では、2つ以上のデュアル・バンド・パルス合成物を送信して、低周波パルスの周波数および/または位相および/または振幅が、各送信パルス合成物に対して変化する。パルス数座標におけるフィルタリングと、非線形伝搬遅延および任意的に振幅の補正とを通して、パルス反響ノイズが抑制された線形の後方散乱信号、非線形の後方散乱信号、定量的な非線形散乱および前方伝搬のパラメータが抽出される。反響が抑制された信号はさらに、波面収差の補正の見積もりに対して有用であり、また特に、複数の平行な受信ビームに対する幅広な送信ビームとともに用いた場合に有用である。収差補正の概略的な見積もりが得られる。非線形信号は、組織特性の違い(たとえば微小石灰化)、繊維組織もしくは泡沫細胞の内部成長、または減圧ともに見出されるかまたは超音波造影剤として導入される微細気泡のイメージングに対して有用である。また本方法は、トモグラフィおよび回折トモグラフィ・イメージ再構成用の測定データを生成するための送信イメージングとともに用いる場合に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物、詳細には対象物内の微細気泡の超音波パラメータの空間的変化をイメージングするための方法およびシステムに関し、生体組織および生体液である対象物が特に重要視されている。
【背景技術】
【0002】
現在の超音波イメージング方法に伴う画質は、多くの患者の場合に、パルス反響ノイズ(多重散乱)および波面収差によって制限されている。加えて、動脈壁の腫瘍およびアテローム性動脈硬化症のような多くのタイプの組織疾患では、病変組織の適切な診断および識別を行なうために必要なイメージ・コントラストの差はほとんど現れない。これらの問題が起きる理由は、イメージ構成方法自体が、軟部組織の物理的な特性を完全には考慮していないことである。
【0003】
組織の線形音響特性(質量密度および圧縮率)における空間的変化が、軟部組織の超音波イメージングに対する基礎を成している。しかし、組織の複雑な構造における音響特性が大きく変化すると、以下のような効果によって、イメージが劣化する。
【0004】
i)音響特性に大きな差がある材料間の界面の場合には、超音波パルスの強い反射が起こるため、多重反射の振幅が大きくなる可能性がある。このような多重反射は、パルス反響と呼ばれ、伝搬する超音波パルスに尾部を加える。この尾部は、超音波イメージ中にノイズとして表れる。
【0005】
ii)複雑な組織構造における音響速度が変化すると、音響波面の前方伝搬収差が生じて、ビーム・メイン・ローブのフォーカシングが消滅し、ビーム・サイドローブが増加する。
【0006】
波面収差によってビーム・メイン・ローブのフォーカシングが減少することで、超音波イメージング・システムの空間分解能が低下する。波面収差によるパルス反響およびビーム・サイド・ローブの増加によって、イメージに加法性雑音が導入され、その結果、互いの付近で検出できる最も強い散乱体と最も弱い散乱体との比率(イメージのコントラスト分解能として規定される)が減少する。このノイズは音響ノイズと呼ばれる。なぜならば、このノイズは、送信される超音波パルス自体によって生成されるからである。したがって、送信するパルス・パワーを増加させても、信号とこのタイプのノイズとのパワー比が改善されることはない。これは、電子受信機ノイズの場合に見られることとは反対である。
【0007】
たとえば心エコー検査では、パルス反響ノイズによって、心臓の心尖部領域のイメージが不明瞭になる結果、心尖部血栓、および心尖部心筋層の収縮の低下を検出することが難しくなる可能性がある。同様に、頸動脈のイメージングでは、反響ノイズによって、頸動脈プラークの検出および描写が不明瞭になる可能性がある。これらの例と同様に、パルス反響ノイズによって、超音波イメージングのすべての態様において、弱いターゲットの検出およびイメージ・コントラストの小さな違いの識別が制限される。
【0008】
第2高調波のイメージングは、体壁内でのパルス反響のイメージ劣化効果を減らす方法である。なぜならば、パルス中の第2高調波コンテントは深さの関数として蓄積され、したがってパルスが体壁内を進むにつれて非常に小さくなるからである。しかし第2高調波イメージングに伴う感度は、第1高調波イメージングに伴うものよりも小さく(〜−20dB)、その結果、最大イメージ深さが制限される。これは特に、肝臓、腎臓、胸部などのような高密度な対象物において、および血流速度イメージングの場合にそうである。リアル・タイムの3Dイメージングの場合、ボリューム・イメージ・レートを増加させるために多くの平行な受信ビームによって覆われる幅広な送信ビームが必要とされる。このような幅広な第2高調波送信ビームを得ることは、幅広なビームにおいては第1高調波の振幅が減少するために難しい。これは、リアル・タイムの3Dイメージングで使用される複数の平行な受信ビームを用いる第2高調波イメージングに対する問題となっている。これは、送信ビームを生成する要素の数が限定されている疎アレイの場合に、特に当てはまる。
【0009】
動脈壁の腫瘍およびアテローム性動脈硬化症のような組織疾患の場合、組織の超音波音響パラメータ(たとえば、せん断弾性係数、圧縮率、および超音波吸収)に影響が出る。これらの特性の変化は主に、泡沫細胞、脂肪、または結合組織繊維分子の内部成長によって、しかしまた組織中のカルシウムの分離を通して、生成される。結合組織の内部成長によって、超音波吸収およびせん断弾性係数が増加する。後者は、触診に対する剛性の増加(組織に触れることによって観察され得る)をもたらすものである。せん断弾性係数を見積もるために多くの努力がなされている。これは、超音波バルク波を用いて組織中のシアー波の変位を記録することを、エラストグラフィと言われることが多い(遠隔超音波触診とも言われる)方法で行なうことでなされている。しかしこれまで、これらの方法では臨床応用が限定されており、超音波によるこのような組織変化の識別を改善することが強く求められている。
【0010】
胸部腫瘍では、今日、X線マンモグラフィによって、分離された微小石灰化が検出され、悪性の腫瘍を示すものとなっている。これらの微小石灰化は非常に小さいため、それらからの散乱の超音波信号は、周囲の組織からの信号の中に埋もれてしまい、現在の超音波イメージングでは検出されない。そのため、このような微小石灰化も検出するように、超音波イメージングを改善する必要がある。またアテローム動脈硬化性プラークにおける微小石灰化からも、プラークの安定性についての情報が得られ、これらの微小石灰化のイメージングを改善することが必要とされている。
【0011】
またいくつかの疾患は、組織を流れる血液灌流にも影響しており、これはたとえば、悪性腫瘍における新脈管形成または微小血管系の壊死を通して、または心臓の冠状動脈および末梢血管の両方における血管の狭窄または血栓症に起因する血流の低下を通して、行なわれる。微小血管系および小さい血管中の血流速度は非常に小さいため、普通の非侵入性の超音波ドップラ技術を用いても検出することはできない。そのため、小さい微細気泡(半径〜3μm)の溶液の形態の超音波造影剤が、微小血管系の超音波イメージングを改善するために、また組織を流れる血液灌流を見積もるために、開発されている。微細気泡は、血流中に導入されて、血液からの超音波の非線形散乱を非常に増加させる。したがって微細気泡によって、このような微細気泡を含む組織からの非線形散乱が非常に増加する。特別な場合には、単一の微細気泡を、高密度な組織内で視覚化することができ、組織固有の目標コントラスト気泡を用いた分子超音波イメージングの可能性が得られる。またこのような微細気泡を、他の体液中に導入したときに、有効なイメージ向上が得られる。たとえば間質液に導入して、リンパ・ドレナージュを見張りリンパ節まで追跡すること、または泌尿器系に導入して、腫瘍組織に対して気泡の目標とする付加を行なうこと、その他である。ダイビングおよび宇宙活動での減圧中に、微細気泡が組織内に自発的に形成されて曲がりが発生することが多い。そのため、このような気泡を早期に検出して、減圧プロファイルを改善しこのような作業の下での作業者における曲がりを回避すること、および活動中の早期の警告としてこのような気泡の形成をモニタすることさえ、必要である。
【0012】
したがって超音波イメージングを改善して、イメージ・ノイズを減らし、組織特性の変化および微細気泡に対するイメージ・コントラストを高めることが強く求められており、本発明は、これらの必要性に対処することを、組織中に送信されるオーバーラップした高周波パルスおよび低周波パルスからなるデュアル周波数バンド超音波パルス合成物を用いて行なうものである。
【0013】
デュアル周波数バンド超音波パルスはこれまで、超音波イメージングにおいて、種々の目的のために使用されている。M−モードおよびドップラでは(ビーアール・ハート・ジャーナル(Br Heart J. )、1984年1月、51(1)、61−9)、同時送信として、3MHzパルスおよび1.5MHzパルスが、パルス間の位相関係を固定した状態で使用されて、最適な心臓のM−モード・イメージング(3MHzパルス)およびドップラ血流速度測定(1.5MHzパルス)が行なわれ、心臓の欠陥が調べられた。同心の環状トランスデューサ配置も用いられた。この場合、3MHzのM−モード超音波パルスが、中央のトランスデューサ・ディスクによって送受信され、1.5MHzのドップラ超音波パルスが、周囲の環状要素によって送受信された。
【0014】
デュアル・バンドの送信パルスを用いることは、米国特許第5,410,516号明細書においても、超音波造影剤微細気泡の検出の改善に対して記載されている。この特許では、中心周波数の異なる2つの超音波パルスの同時送信について記載されており、微細気泡からの散乱のパルスには、微細気泡からの非線形散乱によって生成される送信周波数の和および差が含まれ、これらの和および差の周波数が、微細気泡の検出に対して使用されている。
【0015】
同様にデュアル・バンド・パルスを用いることが、米国特許第6,312,383号明細書において、超音波造影剤の検出に対して記載されている。ここでは、2つのバンド間の位相が、送信間で変えられている。これは、米国特許第5,410,516号明細書の特別な場合として考えることができる。低周波パルスの位相の変化は、低周波数とパルス繰り返し周波数との間のビートとして考えることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし、最後の2つの特許は両方とも、デュアル・バンド・パルスによる非線形散乱を用いて、組織内の造影剤の検出を行なっているが、提示された方法は範囲が限定されており、また両方とも、高バンド・パルスの前方伝搬速度に対する低バンド・パルスの非線形効果を認識できない。この効果は、実際の状況では、造影剤信号に対する組織信号の抑制を制限するものである。累積的な非線形の前方伝搬の効果によって、同様の信号特性が、組織からの強い線形散乱に対して、微細気泡および組織からの局所的な非線形散乱の場合と同様に生成される。この効果によって、微細気泡および組織からの局所的な非線形散乱が隠されて、コントラスト対組織の信号パワーの比(CTR)が限定される。領域中に微細気泡が存在することによって、前方の累積的な非線形伝搬効果が大きく増加し、またこのような領域の向こう側の組織からの線形散乱が、この組織内の微細気泡からの散乱をかなり隠すことになる。この現象は、たとえば造影剤が心筋層に入る前に心室を進むパルスを用いて行なう心筋層内の造影剤のイメージングに大きく影響し、またたとえば虚血性の心筋層内の灌流を誤って示す可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明が従来技術と異なる点は、高周波パルスに対する伝搬速度に対する低周波パルスによる非線形効果を、高周波数の伝搬および散乱の信号に基づいてイメージ信号を形成する際に、利用することである。
【0018】
本方法には、後方散乱信号と角度散乱および/または前方透過測定に基づく電子化された再構成イメージングとの両方を伴う超音波イメージングに対する応用例がある。
時間ドメインにおいてオーバーラップする低周波バンドおよび高周波バンドの両方におけるパルス成分を有するデュアル・バンド超音波パルス合成物を、イメージすべき組織の領域に向けて送信する。高周波パルスに対する組織の散乱および伝搬特性の、低周波パルスによる非線形操作を、イメージ信号を形成するプロセスにおいて用いる。高周波数成分を、イメージ・パラメータ/信号を与えるために処理し、受信信号における低周波数成分は、たとえばフィルタリングを通して、たとえば受信トランスデューサ・アレイにおいて直接的に、取り除くことができる。
【0019】
本発明による処理は、イメージを形成するために必要な完全な処理の一部であり、本発明において開示されていない必要な処理は、公開されている知識の一部である。後方散乱イメージングに対しては、本方法を用いて、放射方向のイメージ・ラインを形成し、このラインにおいて2Dおよび3Dイメージが既知の方法による横方向のビーム走査によって得られる。平行な送信および/または受信ビームを用いて、複数の放射方向のイメージ・ラインを並行して取得し、フレーム・レートを上げることができる。放射方向のイメージ・ラインは、構造的イメージに対する信号包絡線、放射方向の散乱体速度のドップラ測定、相対的な散乱体移動の放射方向の歪みもしくは歪みレート、または組織を特徴付けるための速い時間(深さ時間)スペクトルのパラメータとなることができる。コンピュータ・トモグラフィ(CT)イメージ再構成を用いて、本方法では、再構成に対する測定の改善が行なわれて、パルス反響ノイズが低減され、相補的な情報を提供する非線形イメージ・パラメータが得られる。
【0020】
本発明では、画像を形成するために必要なパルスの数が増加されたイメージングの改善を実現するための複数の方法が考案され、イメージ・フレーム・レートは相補的に減少しているが、画質は増加している。したがって本発明ではさらに、与えられた制約(たとえばフレーム・レート、画質、フレーム・レートおよび画質の組み合わせなど)の下で機器の最良の性能を得るための方法を最適に選択する方法および手順のうちの2つ超を作用させる機器を考案する。
【0021】
本発明による第1の方法では、高周波パルスが、低周波パルス振動の負の空間的勾配上で伝搬して、高周波パルスの後部の伝搬速度がパルスの前部よりも、伝搬速度に対する低周波パルスによる非線形効果に起因して高くなるようにする。この結果、高周波パルスが、組織内へと伝搬しながら累積的に空間圧縮されて、高周波パルスの周波数およびバンド幅が増加する(すなわちパルス長が短くなる)ことが、高周波パルスの非線形の自己歪みがパルスの高調波成分を生成することに加えて、起こる。パルス長の減少によって得られるこの周波数増加は、組織内での周波数依存性の吸収によってパルス中心周波数が低下することと相殺するため、この方法を用いなかったときよりも高い受信中心周波数が実現される。
【0022】
低周波パルスの振幅は、最初の反射においてかなり小さくなるため、複数の散乱パルスの場合には、高周波パルスに対する伝搬速度への低周波パルスによるこの非線形効果は同じではなく、また吸収が原因で、同じ伝搬遅れの一次散乱パルスよりも低い周波数まで低下するため、フィルタ除去して、パルス反響(多重散乱)ノイズを著しく抑制することが実現できる。これは、第2高調波イメージングと類似しているが、第1高調波の感度を用いた場合には、第2高調波イメージングを用いた場合よりも深いイメージングを行ない高い超音波イメージング周波数を用いることが可能になり、空間分解能が向上する。また、第2高調波イメージングと比べて、より広い送信ビームを得ることがより簡単になり、より平行な受信ビームを用いることが可能になるため、2Dおよび特に3Dイメージングに対して、より高いイメージ・フレーム・レートを得ることが可能になる。これは特に、送信ビームに対して疎アレイを用いるときに当てはまる。疎アレイでは、アレイ要素の数が限定されているために、適切な高調波パルス自己歪みを得るための十分に高い振幅を得ることが難しい。
【0023】
本発明による第2の方法では、各放射方向のイメージ・ラインに対して、2つ以上のデュアル・バンド・パルス合成物を順次送信する。この場合、高周波パルスは低周波パルスのピークまたは谷に近いところにあり、低周波パルスの周波数および/または位相および/または振幅が各送信に対して変化して、高周波数成分に対する組織の音響散乱および前方伝搬特性を非線形的に操作する。前方伝搬速度の非線形操作も、この方法では、イメージ信号を形成するプロセスにおいて利用する。
【0024】
たとえば、この方法を用いれば、パルス反響ノイズが非常に抑制され第1高調波の感度を有する第1のイメージ信号(方程式(14))を形成して、前述した単一パルスの場合と同じ優位性を伴って用いることができる。本発明ではさらに、非線形伝搬遅延を見積もることを考案する。これによって、第1の定量的な非線形イメージ・パラメータ(方程式(27))(定量的な非線形の前方伝搬パラメータである)が、見積もった非線形伝搬遅延の微分と低周波パルスの振幅の見積もりとの結合として得られる。このパルスの周波数は、異なる組織および個体間での超音波パワー吸収の差が無視できるほどに十分に低く(〜0.1〜1MHz)選択することができ、また低周波パルス振幅は、水分または油混合物におけるシミュレーションまたは測定値から見積もることができる。
【0025】
本発明により受信信号中の反響ノイズを小さくすることによって、波面収差に対する補正を見積もることが非常に容易になる。これについてはたとえば、米国特許第6,485,423号明細書、米国特許第6,905,465号明細書、および米国特許出願第10/894,387号明細書に、本発明との関連において記載されている。また本発明によって、波面収差に対する遅延補正の概略的な見積もりが得られる。これは、以下の明細書においてさらに規定される各要素またはサブ・アパーチャ信号からの信号に対して見積もられる非線形伝搬遅延から導き出される。
【0026】
本発明ではさらに、イメージ信号を形成するプロセスにおいて非線形伝搬遅延見積もりによって、受信された高周波信号を補正することを考案する。したがって、プロセス中に組織からの線形散乱の信号を非常に抑制することができ、また第2のイメージ信号(方程式(19、28))が得られる。第2のイメージ信号は、波長よりも小さい規模の組織の局所的な非線形の特性を示す非線形散乱の信号である。一方で、非線形伝搬パラメータは、数波長よりも大きい規模の非線形の組織特性を示す。そして非線形信号によって、組織内の急速な変化に対するイメージ・コントラストが、組織の識別が改善された状態で得られる。非線形散乱は、コンプライアンスが大きく異なる材料間の界面において特別に高く、たとえば軟部組織と結合もしくは筋肉組織のようなより堅い組織または石灰沈着のような固形物との間の界面において、または軟部組織と脂肪または微細気泡のような高コンプライアンス対象物との間においてであり、したがって腫瘍およびアテローム動脈硬化性プラークの診断が改善される。
【0027】
微細気泡(減圧中に自発的に形成されるかまたは造影剤として対象物内に導入される)の場合、超音波圧力波による気泡圧縮力学は微分方程式によって記述され、入射波と散乱波との間の周波数依存性の位相遅れを伴う共鳴超音波散乱が得られる。これは、この位相の周波数変化が事実上無視できる普通の組織からの散乱とは反対である。この共鳴周波数、したがって微細気泡からの高周波パルスに対する散乱の信号のこの位相遅れも、信号の振幅に加えて、低周波パルスによって操作される。この結果、微細気泡からの散乱されるパワーのほとんど(線形および非線形の散乱成分の両方)を、この方法によって取り出すことができ、またCNR(コントラスト対雑音比)が既存の方法に比べて著しく増加する。非線形伝搬遅延補正、および振幅補正も良好に見積もることで、本発明による方法では、組織からの線形散乱の信号が強く抑制されて、CTR(コントラスト対組織比)が既存の方法に比べて著しく増加する。高調波イメージング、パルス反転、またはパワー・ドップラのような最先端の造影剤検出方法とは反対に、本発明による方法では、気泡の共鳴周波数と比べてより高い超音波周波数を用いることができ、空間分解能が改善される。またより低いパルス振幅(より低いメカニカル・インデックス(MI))(造影剤気泡の破壊を回避する)を用いることもできる。これは、組織特有の目標の微細気泡をイメージングする場合に重要である。目標とする微細気泡では、限られた微細気泡グループが、気泡を破壊せずにイメージすることが重要な選択された組織(たとえば腫瘍組織、アテローム動脈硬化性プラーク、血栓など)に粘着している。
【0028】
組織または体液中の微細気泡の雲は、通過パルスの伝搬速度に対して強い非線形効果を有し、このような場合、気泡の雲の向こう側での線形散乱の組織信号を良好に抑制するためには、非線形伝搬遅延に対する補正を行なうことが特に重要である。この遅延補正を用いて、本発明では、蓄積された非線形の前方伝搬遅延と局所的な非線形散乱との間の分離が行なわれ(これは、高調波またはパルス反転イメージングなどの他の方法を用いた場合に見られるものとは反対である)、また雲を越えたところにある、たとえば遠位の心筋層内の微細気泡をイメージングするときに、組織イメージ信号の抑制に対して非常に優位である。この場合、非線形の伝搬効果に対して補正が行なわれないかまたは限定されている場合、造影剤の向こう側の領域における組織からの線形散乱は、造影剤からの散乱と同様の特性を示すため、これらの領域における造影剤を検出することは隠されてしまう。この結果、たとえば、心筋層の虚血性領域における血液灌流を誤って示す可能性がある。
【0029】
超音波造影剤微細気泡をイメージングすることの複数の臨床用途以外に、減圧状況でこの方法に基づいて微細気泡をイメージングすることは、このような気泡の形成をモニタして減圧プロファイルを研究および開発するために、または減圧中の湾曲に対する早期の安全性アラームとして、用いることができる。
【0030】
本発明による別のプロセスでは、遅延補正した高周波信号をパルス数座標に沿って結合することで、第3のイメージ信号(方程式(17,29))である線形散乱の信号が得られる。この線形散乱の信号では、非線形散乱の信号と同様に、パワー吸収に起因する減衰が起こる。非線形散乱の信号と線形散乱の信号とを結合すること、および前述の低周波パルス振幅を見積もることによって、本発明では、第2の定量的な非線形イメージ・パラメータ(方程式(30))(定量的な非線形散乱パラメータである)が得られる。そして、この第2の定量的な非線形パラメータは、ほぼ高バンド波長より小さい規模での非線形の組織パラメータの空間的ばらつきを表わし、一方で、第1の定量的な非線形パラメータは、ほぼ高バンド波長よりも大きい規模での非線形の組織パラメータの空間平均を示す。したがって後方散乱および前方伝搬によって、組織特性についての情報を増加させるために視覚化可能な2つの異なる定量的なイメージ・パラメータが示される。定量的な非線形パラメータによって、組織の差別化が改善され、またこのパラメータは、本方法による組織の特徴付けに対して利用可能である。またこれらの定量的なパラメータの熱変動を校正することは、超音波を用いた局所的な温度見積もりに対しても利用可能であり、たとえば腫瘍の加温または微温処理を指導するために利用される。さらに、組織内の造影剤量および組織を流れる血液灌流を定量化する新しい方法が提供される。
【0031】
動かない、一時的に静止している組織の場合、たとえば、低周波数成分の周波数および/または位相および/または振幅が異なる2つのパルスを送信することができ、またこれらのパルスからの散乱または送信信号を結合して、非線形の組織パラメータを見積もり、またパルス反響を抑制することができる。組織と超音波プローブとが互いに対して移動するとき、2つを超えるパルスを各放射方向のイメージ・ラインに対して送信して、線形散乱の信号を適切に抑制するかまたは複数のパルスを伴うパルス反響ノイズを抑制することは、優位なことである。たとえば、K個のパルスの組として、すべて高周波数成分の位相は同じだが、低周波数成分の周波数および/または位相および/または振幅が、各パルスに対して異なるものを、送信することができる。これらのパルスからの後方散乱の信号を、パルス反響を抑制しおよび一次散乱の信号成分を通すパルス間ハイ・パス・フィルタにおいて結合する。非線形伝搬遅延に対する見積もりおよび補正をハイ・パス・フィルタの前に行なうことによって、組織からの局所的な非線形散乱の信号または微細気泡からの散乱の信号、および組織の定量的な非線形伝搬および散乱パラメータを、抽出することができる。
【0032】
この第2の方法では、パルス反響ノイズ(およびわずかながら非線形信号成分自体)によって、非線形伝搬遅延の見積もりの際に誤差が導入される。これらの誤差によって、非線形散乱の信号を見積もるときに、線形散乱の信号を抑制することが限定される。非線形遅延補正の見積もりに対するパルス反響ノイズの影響を効率的に取り除くために、散乱の信号の第2高調波成分を本発明による第2の方法によって用いることができ、または本発明の第3の方法に基づいて、低周波パルスの周波数および/または位相および/または振幅が異なる少なくとも3つのパルスを送信することができる。これについては、方程式(40〜42)に関連して説明する。第3の方法においても、非線形伝搬遅延を見積もる際に非線形散乱の影響がある。方程式(43〜46)に関連して説明する本発明による第4の方法では、低周波パルスの周波数および/または位相および/または振幅が4つの異なるレベルにある少なくとも4つのパルスを送信することで、非線形伝搬遅延、線形散乱の信号、および非線形散乱の信号を見積もることが、互いの間の干渉および反響ノイズからの干渉が最小の状態で可能となる。
【0033】
ビーム方向を電子的に操縦する場合、通常は、各放射方向のイメージ・ラインおよび深さ範囲について、すべての送信パルスに対して同じビーム方向および送信フォーカスを用いるであろう。この場合、受信信号を結合してそのイメージ・ラインに対する線形散乱の組織信号を抑制する。使用する典型的なフィルタリング方式は、FIR型フィルタ、またはたとえばルジャンドル多項式を用いる直交分解のような時間可変インパルス応答を用いたフィルタであり、各深さに対するパルス数座標に沿ってのフィルタリングを行なう。
【0034】
ビーム方向を機械的に走査する場合、環状アレイまたは3Dイメージングの場合と同様に、通常は、ビーム方向を連続的に掃引したときに低周波パルスの周波数および/または位相および/または振幅が変化するパルスを送信して、各深さに対する信号を、パルス数座標に沿ってハイ・パス・フィルタに供給するであろう。そしてハイ・パス・フィルタの出力を、各深さおよび放射方向のイメージ・ラインに対してサンプリングして、深さ範囲におけるその放射方向のイメージ・ラインに沿ってのイメージ再構成に対して使用するべき信号およびイメージ・パラメータを見積もる。
【0035】
本発明ではさらに、本発明による方法により動作するイメージング機器の基本デザインを示す。放射方向のイメージ・ライン当たりパルスの数は、画質および情報と一緒に、本方法の順番とともに増加し、フレーム・レートは方法の順番とともに減少する。最も高性能なバージョンでは、機器は、与えられた制約の下でイメージングの最良の性能を得る方法を最適に選択する手順を用いて、本方法のうちの複数を作用させることができる。典型的な制約は、最小限のフレーム・レート、画質に対する最小限の要求などである。
【0036】
最後の点として、本発明では、高周波パルスの伝搬遅延に対する低周波パルスによる非線形効果を最小にするトランスデューサ・アレイのデザイン手順を提供する。低い振幅(〜50kPa)の低周波パルス成分を用いることで、このようなトランスデューサ・アレイによる超音波造影剤のイメージングが、組織からの線形散乱の信号の抑制を制限してしかし依然として興味深く行ないながら、低周波パルスによって生じる高周波パルスの非線形伝搬遅延を補正することなく、可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
均質材料中の超音波バルク波は、線形波動方程式によって支配される線形領域にあり、ここでは、バルク波伝搬速度cは、均質な伝搬媒体の質量密度ρおよび圧縮率κによって決定される。圧縮率は、材料の相対的な体積圧縮によって以下のように規定されるバルク弾性の線形近似で与えられる。
【0038】
【数1】

ここで、δVは、圧力pを受ける小さい体積ΔVの相対的な体積圧縮であり、ψは、材料中の粒子変位であり、したがって−▽ψは、相対的な体積圧縮である。
【0039】
軟部組織の場合には、組織からの超音波の散乱を生成する圧縮率および質量密度に空間的ばらつきがある。低圧力振幅の場合における空間的に変化する質量密度および圧縮率を、ρ)およびκ)で示す。ここで、は空間的座標である。局所的な点に由来する線形の後方散乱係数は、したがって以下のようになる。
【0040】
【数2】

ここで、ρ0a)およびκ0a)は、ほぼ超音波パルスの数波長λ分の規模での質量密度および圧縮率の空間平均であり、は入射波の方向における単位ベクトルであり、は散乱波を観察する方向における単位ベクトルである。これらを図9a〜bに例示する。スカラ積は、=cosγisであって、γisは、入射波の方向と散乱方向との間の角度である。後方散乱の場合、γis=πおよび=−1である。入射波の波数は、k=ω/c=2π/λ(ωは角周波数およびcは超音波伝搬速度)である。振幅がp、ω)で角周波数がωの圧力波からにおいて線形に後方散乱の信号は、k)p、ω)に比例する。イメージングは通常、中心周波数がωでバンド幅がBの送信パルスを用いて行なわれ、イメージ信号は、2k=2ω/cおよびバンド幅2Bc付近の範囲(r)座標におけるk)のバンド・パス・フィルタリングされたバージョンである。柔らかい材料(圧縮率が増加する)ほど、通常は密度も低いため、方程式(2)における圧縮率および質量項は通常、符号が反対であり、その結果、後方散乱の場合には大きさが発展的に増加する。この場合、圧縮率項は、質量密度項と比べてその〜2.5倍だけ後方散乱を支配する。
【0041】
平均の質量密度および圧縮率、ρ0a)κ0a)の空間的変化によって、伝搬速度の空間的変化が以下のように生成される。
【0042】
【数3】

この伝搬速度の空間的変化が原因で、波面の収差が生じる。これは、特に体壁中に見出されるが、一部の対象物(脂肪または結合組織の領域を含む胸部および腺のような)ではその全体を通しても見い出される。
【0043】
軟部組織の場合の典型的な値は、κ〜400×10−12Pa−1であり、典型的な超音波パルス振幅はp〜10Paであり、δV/ΔV〜0.4×10−3となる。体積圧縮によって、質量密度の増加が、δρ/ρ=κp〜0.4×10−3のように生じる。同様に、組織が圧縮されると圧縮率が減少し、組織内の超音波吸収とともに、方程式(1)を以下のように変更する[1]。
【0044】
【数4】

ここで、β=(1+B/2A)〜5は、非線形のバルク係数に対する広く規定されたパラメータBおよびAに関係づけられる非線形パラメータである[1]。圧力波形とhとの間の時間畳み込みは、材料中での周波数依存性の超音波パワー吸収を表わす。第1項は、圧力の影響を受ける非線形の圧縮率を記述しており、この項、基準圧力pを微分すると、次式が得られる。
【0045】
【数5】

この式によって、圧力変化に伴う圧縮率の相対的な変動が、δκ/κ=−2βκとして与えられる。したがって圧縮率の非線形変化は、2βであり、これは、圧力によって生成される質量密度の非線形変化よりも〜10倍大きい。p〜1MPaの場合、δκ/κ=−2βκ〜4×10−3となる。
【0046】
質量密度および圧縮率の非線形変化によって、波の散乱伝搬速度および前方伝搬速度の両方の非線形的な変更が生じる。本発明では、これらの効果を用いて、パルス反響ノイズを減らし、種々の組織、微小石灰化、および微細気泡に対するイメージ・コントラストを増加させ、組織、微小石灰沈着、および微細気泡の定量的な音響イメージ・パラメータを生成する。以下では、図を参照して本発明の例示的な実施形態について説明する。
【0047】
本発明による第1の方法では、低周波パルスによる高周波パルスの時間圧縮および膨張を用いて、対象物内での前方伝搬パルスの中心周波数およびバンド幅を操作する。この時間圧縮は、前方伝搬速度の圧力依存関係によって生成され、この関係は、以下のように近似することができる。
【0048】
【数6】

ここで、βnaおよびκ0aは、前述のように規定されるゼロ圧力における数波長に渡る局所的な空間平均である。この原理をさらに例示するために、図1aを参照する。同図には、振幅がpの低周波数成分101と振幅がpの高周波数成分102とからなる送信パルスが示されている。高周波数成分は、低周波パルスの負の空間勾配上に配置され、その中心は、この例では低周波パルスのゼロに位置している。高周波パルスを、イメージングを行なうために使用し、受信機内では、低周波パルスを、フィルタリングを通して、たとえば受信機トランスデューサ自体において、取り除く。
【0049】
圧力依存性の伝搬速度によって、累積的に増加するパルスの前方伝搬の歪みが生成される。これは、実際のパルス圧力によって決定され、実際のパルス圧力は、低周波パルスおよび高周波パルス圧力の和である。この歪みは、低周波パルスによって生成される高周波パルスのゼロ点のパルス長圧縮と、瞬時の高周波圧力自体によって生成されるパルス形状自己歪みとに、分離することができる。図1bの103は、時間圧縮によって歪められたパルス(破線)を例示している。歪められていない高周波パルス102を、比較のために示す(点線)。また付加されたパルス自己歪みによって、完全に歪められたパルス104が生成される。パルス圧縮が起こるのは、高周波パルス尾部における低周波用圧力が高いことによってパルス尾部の伝搬速度が高いからであり、これと比較して、高周波パルスの先頭部では低周波用圧力が低い伝搬速度となっている。このパルス圧縮によって、中心周波数が増加するとともに高周波パルスのバンド幅が増加する一方で、パルス形状の歪みによって、高周波パルスの基本周波数バンドの高調波成分が導入される。両方とも、この本発明による第1の方法において利用される。
【0050】
このパルスの非線形の前方伝搬歪みは、前方伝搬パルス中に高調波成分を生成する同じ効果である。高調波成分は、組織から線形的に後方に散乱され、組織の高調波イメージングにおいて使用される。これについては、方程式(10〜14)および図9a〜bに関連してさらに説明する。パルスの高調波成分の振幅は、最初は伝搬距離とともに増加し、その後、高周波パルスの超音波パワー吸収に起因して、伝搬距離の増加とともに減衰する。低周波バンドとしては、非常に低いもの(〜0.1〜1MHz)を選択することができるため、低周波パルスの吸収は、実際のイメージ範囲上では事実上無視できる。また高周波パルスに対する低周波パルスの非線形伝搬の効果は、イメージ範囲全体を通して同じレベルに留まり、本発明による他の状況(たとえば図3a〜bに示すもの)の場合もそうである。この結果、本発明による方法によって、深い範囲における感度が、第2高調波イメージングと比較して増加する。これは、方程式(14)および図7cに関連して再び戻る現象である。
【0051】
高周波パルスの波長λに渡る低周波パルスの圧力差は、Δp=λ∂p/∂z=pλ=2πpλ/λである。ここで、pは振幅であり、k=2π/λは波数であり、λは低周波パルスの波長である。この傾きによって、高周波数波長上での伝搬速度の差として、Δc=−βna0a0aΔpが生じる。この差から、伝搬時間t=z/c0aの後に、波長の圧縮として、Δλ=Δct=zΔc/c0a=−βκ0aΔpzが生じる。この伝搬圧縮によって、以下のような高周波数の圧縮増加が起こる。
【0052】
【数7】

パルス圧縮/膨張に起因する周波数変化は、パルス・バンド幅の比例変化(〜パルス長の逆数)を伴う。超音波吸収によって、パルス・バンド幅を保持しながら、パルス中心周波数の下降が起こる。周波数の圧縮増加は、出て行くパルス(低周波パルスの振幅が十分に大きい)に対してのみ見出され、一方で、吸収下降は、出て行くパルスおよび散乱されるパルスの両方に対して見出され、後方散乱に対しては2zの伝搬距離をもたらす。ガウシアン・パルス包絡線の場合、周波数の下降は、以下のように与えられる。
【0053】
【数8】

ここで、Bは超音波パルスの3dBバンド幅であり、α=dBatt/8.686(mmMHz)−1は、吸収の線形の周波数依存関係を有する吸収係数の周波数定数である。dBatt=0.05dbmmMHzの場合、α=5.76×10−3(mmMHz)−1となる。なお、透過型コンピュータ・トモグラフィ・イメージング(図9a〜bに関連して説明される)を用いた場合、一方向の伝搬(周波数の吸収下降が、方程式(8)の場合の半分である)のみを得ることに注意されたい。
【0054】
後方散乱イメージングに対する典型的なイメージング範囲Rは、周波数とともに線形的に増加する超音波吸収によって制限される。したがって、範囲Rは、高周波数超音波波長λ=c0aに関係づけられ、R〜200λ〜300λである。p=1MPa、β=5,κ0a=400×10−12−1,R=250λ,λ/λ=10に対して、Δf1p=0.458fとなる。この場合、f=10MHzならば、Δf1c=4.58MHzとなる。方程式(7)の分母によって、最終的に周波数の無限の増加が起こる。これは、音響ショックとして知られる現象である。しかし吸収により、方程式(8)において周波数が同時に下降するために、ショックは回避される。B=5MHzに対しては、Δf1a=4MHzとなり、周波数の圧縮アップ・コンバージョンがバランスする。これは、方程式(7)の分母を1と見積もらなければならないということを意味する。これは、周波数の圧縮アップ・コンバージョンとしてΔf1p=3.14MHzをもたらすものである。この値は、吸収媒体における一次の後方散乱に対する受信周波数がすべての深さに対してほぼ10MHz(送信時と同様に)となるように、吸収下降によってバランスされる。
【0055】
パルス圧縮が低周波パルス(前述したようにパワー吸収を実際のイメージング範囲に対して無視することができる)によって生成されるため、バンド幅の対応する増加を伴うパルス長圧縮は事実上、実際のイメージング範囲上での吸収とは無関係である。しかし、高周波パルスの中心周波数の吸収下降は、高周波パルスの吸収によって生成される。周波数下降は、パルスの絶対的なバンド幅Bの2乗に比例しており、吸収下降はバンド幅を保持する。したがって、非線形パルス圧縮と前述の例における吸収ダウン・コンバージョンとの影響を組み合わせたものは、中心周波数はほぼ一定だがバンド幅(〜パルス長の逆数)は深さとともに増加するパルスである。方程式(8)より、B幅深さの増加によって、深さの増加に伴う吸収下降が加速されることに注意されたい。
【0056】
高バンド・パルス周波数の前方伝搬アップ・コンバージョンを用いて、より深い範囲におけるイメージ分解能を向上させることができる。またこの前方伝搬アップ・コンバージョンを用いて、深い範囲における分解能をより良好にして浸入度を増加させることもでき、たとえば、かなり低い周波数が送信されても、低周波パルスによって、より深い範囲においてより高い周波数に増加され、したがって深い範囲において得られる高バンド・パルス周波数に対するパルス経路に沿っての吸収全体が減る。またこの前方伝搬アップ・コンバージョンは、この態様において、伝搬距離を有する低周波パルスの位相と高周波パルスの位相との間のスライディングに対しても利用できる。高周波ビーム・プロファイルに対する低周波ビーム・プロファイルは、後述の図8a〜cに関連して前述するように、特別のデザインである。このスライディングによってたとえば、高周波パルスを、近/中距離において低周波振動の負の空間的勾配において見出し、遠距離において、低周波振動のゼロまたは正の空間的勾配の方にまでスライドさせることができる。この結果、パルス圧縮が減少してゼロになるか、または低周波パルスによる高周波パルスの引き伸ばしさえ導入される。これにより(吸収下降とも組み合わせて)、深い範囲に対する高バンド・パルスの中心周波数およびバンド幅が減少し、浸入度が増加する。
【0057】
低周波パルスの振幅は、最初の反射において大きく低下し、高周波パルスに対する圧縮/膨張効果は、後述の図7a〜cに関連して述べるように、最初の反射の後に事実上は無視できる。一方で、高い中心周波数の吸収下降は、多重散乱の信号の伝搬距離全体に対して広がる。したがって一次散乱の信号とパルス反響ノイズとの間の周波数距離を、イメージ内の深さとともに増加するように作成することができる。このことを、図2に例示する。この図において、201は一次の後方散乱の信号の中心周波数の予想される変化を示しており、信号バンド幅B(z)は深さとともに増加し(境界線202によって例示される)、この増加は、低周波パルスによる高周波パルスの圧縮によって生成される。パルス反響ノイズの中心周波数は、吸収が原因で深さとともに減少し、図の203で示すラインfrev(z)として示される。絶対的なバンド幅Brev(z)は、送信されるバンド幅と実際上同じであり、限界線204によって示される。自己歪みに起因する一次後方散乱の信号の第2高調波バンドを、その中心周波数2f(z)を205として示し、またバンド幅B(z)>B(z)を限界線206によって示す。第2高調波成分の振幅は、最初は深さとともに増加し、その後、高周波数成分の吸収が原因で深さとともに減少する。
【0058】
受信信号内のパルス反響ノイズを強く抑制するために、本発明では、深さ範囲とともにスライドするカット・オフ周波数によって低い方の周波数を抑制する受信機フィルタを用いることを考案する。図2に、一例として、スライドする中心周波数frec(z)を有する受信機バンド・パス・フィルタを示す。中心周波数frec(z)は、ライン207によって示される。バンド幅Brec(z)は、深さともに変化し得るが、図の境界線208によって例示される。近距離では、パルス反響ノイズと一次散乱の信号の第1高調波バンドとの間の周波数差は非常に小さいために、周波数ドメインにおいて2つの成分を分離することはできない。しかし一次散乱の第2高調波バンドは、振幅が急速に増加して、反響ノイズが小さいため、図に示すように低い深さに対して第2高調波バンドの周りに受信周波数を配置することによって、このような深さに対してパルス反響ノイズが強く抑制された受信信号が得られる。zの増加とともに、一次散乱の信号の第1高調波成分とパルス反響ノイズとの間の周波数分離が大きくなるため、受信機フィルタの周波数をスライドして下げることができ、あるいはまたフィルタ・バンド幅を増加させて(図示するように)、受信信号内に、一次散乱の信号の第1高調波成分からの周波数成分を含むようにすることもできる。この結果、受信信号の振幅が大きくなる。なぜならば、第1高調波成分は、第2高調波成分と比べて、より強く、また深さによる減衰がより小さいからである。こうして、より深い深さに対するイメージング・システムの感度が保持される。Brecは、深さとともに増加し得る。なぜならば、第1高調波パルス・バンド幅は、説明したパルス長圧縮に起因して増加し、また信号パワーが増加すると第1および第2高調波成分の両方とも含むからであり、または深い範囲に対して、バンド幅を減らして受信機ノイズを減らすことを決定できるからである。また、前述したように、高周波パルスが、低周波パルスの負から正の空間的勾配へ(すなわちパルス圧縮から膨張へ)スライドすると、パルス・バンド幅が減る。これは、Brecを減らすことでマッチングさせることができる。なお次のことにも注意されたい。パルス反響ノイズは、低周波数範囲にあるため、バンド・パス・フィルタの代わりに受信機ハイ・パス・フィルタを用いることができる。この場合、ハイ・パス・フィルタのカット・オフ周波数が、zとともに下方にスライドして、より多くの第1高調波バンドが含まれるため、パルス反響ノイズの強い抑制が維持される。
【0059】
したがってこの方法を用いることで、パルス反響ノイズを抑制しながら深い範囲に対して第1高調波の感度を保持することが、第2高調波イメージングと同様に可能になり、高密度な対象物(肝臓、腎臓、胸部など)のより深いイメージングが、より高い周波数およびより良好な分解能を伴って可能になる。また高周波パルス長を圧縮減少させることによっても、イメージの範囲分解能が、以前には知られていない方法で向上する。前述したようにデザインされたビーム・プロファイル(低周波パルスと高周波パルスとの間の位相が深さとともにスライドするため、高周波パルスが大きな深さに対して拡げられる)であっても、適切なデザインを用いれば、パルス反響ノイズを周波数ドメインにおいて一次散乱から十分に離しておくことが可能であるため、パルス反響ノイズを、受信機バンド・パス・フィルタによって十分に抑制することができる。したがって、本方法をこのように変更することで、より深い浸入が得られるとともに、中〜近距離場においてより良好な分解能を得るための高周波数が維持される。
【0060】
次のことが明らかである。すなわち、各ビーム方向に対して、図1a〜bに示すパルス合成物を複数送信して、図2のように各パルスからの受信信号にその後の処理を行なうことができる。そして、前記処理された受信信号を、既知であるさらなる処理とともに使用して、イメージ信号を生成する。イメージ信号はたとえば、構造的な信号、移動する散乱体のドップラ速度信号およびそこから得られるすべての信号、散乱体/組織を特徴付けるための深さ/時間における周波数解析などの、当業者には既知のものである。2Dおよび3Dイメージが、可能な平行送信および/または受信ビームによるビームの横方向走査によって、形成される。同じ制限はない。
【0061】
本発明による第2の方法では、時間的にオーバーラップする低バンドおよび高バンドに周波数成分が存在する2つ以上のパルス合成物を送信し、また低周波パルスの振幅および/または位相および/または周波数が、パルスごとに変化する。本方法によって、別のタイプの受信信号が実現されるが、この信号は、本発明によるこれまでの方法と同様にパルス反響ノイズが非常に抑制されているとともに、組織における非線形散乱パラメータのイメージング、特に微小石灰沈着および微細気泡のイメージングを可能にし、また組織の定量的な非線形散乱および伝搬パラメータを実現する。図3aを参照して、本方法の説明を始める。図3aでは、低周波数成分301と高周波数成分302とからなる送信パルスが示されている。高周波数成分は、振幅がpの低周波パルスの正の尾根部分に配置されている。高周波パルスがイメージングに対して使用され、受信機において、低周波パルスはフィルタリングを通して取り除かれる。これらの2つのパルスは組織の中を一緒に伝搬するため、低周波パルスの振幅が、高周波数成分に対する組織の散乱係数に、圧縮率および質量密度の非線形変化を通して、以下のように影響を及ぼす。
【0062】
【数9】

非線形の圧縮率項は、ここでは〜2β×2.5で、これは非線形の質量密度項よりも〜25倍大きく、2つの項は一般的に符号が反対である。中心がω辺りの高周波パルスを用いたイメージングによって、前述したように2k=2ωcの周囲の周波数範囲でのこのパラメータの範囲座標におけるバンド・パス・フィルタが生成される。
【0063】
さらに例として、図3bに例示するように第2のパルスを送信する。ここでは、低周波パルス303の極性が、パルス301と比べて逆になっているが、高周波パルス304のパルス合成物内での時間位置は図3aの302と同じである。そのため、高周波パルスの箇所における低周波用振幅はここでは−pである。方程式(9)における非線形散乱パラメータは、付加された圧力において線形(±p)であるため、図3bでの高周波パルス304からの非線形の散乱の信号は、図3aでの高周波パルス302からの非線形散乱とは、符号が反対である。同時に、組織からの高周波数散乱の線形成分(方程式(2)によって与えられる)は、低周波パルスの影響を受けない。
【0064】
圧力に対する伝搬速度の非線形変化(方程式(6)で与えられる)があるために、高周波パルスの伝搬速度は、図3aおよび3bでのパルス間において以下のように変化する。Δc/c0a=2βnaκ0a。したがって高周波パルスからの後方散乱の信号は、低周波パルスの正および負極性に対して時間シフトされる。軟部組織に対する伝搬速度c0aの平均値は、〜1.54mm/μsである。範囲における散乱体からの後方散乱の信号の時間遅れは、以下の通りである。
【0065】
【数10】

ここで、sはビーム軸に沿っての距離、t)はp=0に対する時間遅れ、τ()は、低周波パルスによる高周波パルスに対する伝搬速度の非線形操作に起因する付加された非線形伝搬時間遅れ、p(s)は、深さの関数としての高周波パルスの箇所における低周波パルスの振幅である。以下では、τ()を非線形伝搬時間遅れまたは非線形伝搬遅延という。また高周波パルスには、累積的な自己歪み(図1bに関連して説明した)が存在する。これによって、高周波パルスの高調波バンドが、ある特定の距離の間だけ増加し、その後、より深い範囲における高周波パルスの吸収が原因で減少する。低バンド・パルスの低周波数(〜0.1から1MHz)が原因で、低周波パルスによって課される非線形伝搬遅れは、はるかに大きい深さに広がる。t)における因子2は、出て行く送信パルスの伝搬時間遅れと後方散乱されたパルスの時間遅れとの和から生じる。低周波数成分は、出て行くパルスの伝搬速度に影響する十分に高い振幅を有しているのみであるため、この因子2は、τ()では見出されない。非線形の時間遅れ操作は、出て行くパルスに対して行なわれるため、この時間遅れ操作は、すべての方向での(また前方での)散乱の信号に対して同じであり、前方伝搬速度の操作である。これについては、図9a〜bに関連して再び述べる。
【0066】
高周波数成分と低周波数成分との位相関係が、ビームに沿って事実上一定であるときには、この時間シフトは、βnaκの局所的な空間平均に対して単調に変化する(図4に示す)。ここで401は、τ)(高周波パルスが低周波パルスの正の尾根上に載っている)を示し、402は、τ)(高周波パルスが低周波パルスの負の谷上に載っている)を示し、τΣ)は、これら2つのパルス間の差遅延であり、403で示す。
【0067】
〜1MPaの低周波パルスの振幅に対しては、Δc/c0a=βnaκ0a〜2×10−3を得る。範囲R=300λ=300c0a(T=1/fは高周波パルスの周期)に対しては、τ(R)の方程式(10)から付加的な時間遅れとして最大〜0.6T(すなわち高バンド中心周波数における周期に近い)を得る。なお、図3a〜bにおける正および負低周波パルスに対する非線形伝搬遅れの差は、この値の2倍であることに注意されたい。したがって、pのより低い振幅、たとえばp〜50kPaまでであっても、方程式(10)に基づいて相当な非線形伝搬遅延が得られ、これは、後述するように非線形散乱の信号を適切に抽出するために補償しなければならない。透過型コンピュータ・トモグラフィ・イメージングを用いると、散乱プロセスにおいて信号が低下しない一方向のみの伝搬が得られる。その結果、透過型コンピュータ・トモグラフィによってイメージ範囲が少なくとも2倍になり、したがって、非線形伝搬遅延の最終的な大きさも2倍になる。これについては、図9a〜bに関連して再び述べる。
【0068】
次に、本発明において、高周波パルスに対する組織の散乱および伝搬パラメータの、本発明の第2の方法に基づく低周波パルスによる非線形操作によって、イメージ信号がどのように確立されるかについて説明する。最初に、状況を後方散乱イメージングを用いて調べ、x(t)によって、送信パルス番号kからの受信された後方散乱の信号を示す。例を図5に示す。時間tは、散乱体の深さを反映しており、速い時間と言うことにする。一方で、パルス数座標kは、組織中でのより遅い変化をサンプリングしており、遅い時間座標と言うことにする。遅い時間座標に沿ってのサンプリング・レートは、パルス繰り返し周波数fprf=1/Tprfである。ここでTprfは、送信パルス間の時間間隔であり、通常、最も深いイメージ範囲遅れTmaxからの散乱の信号を集めるのに必要な時間Tmax〜300Tよりもわずかに長いものが選択される。図では、5つの遅い時間サンプル501〜505に対する受信信号を、速い時間の関数として概略的に例示する。信号は、以下の効果に起因して、遅い時間座標の関数として変化する。
【0069】
kの関数としての低周波パルスp0kの変化。本発明によるいくつかの状況では、低周波パルスの振幅は、p0k〜(−1)である。この結果、後述するように遅い時間周波数〜fprf/2を伴う非線形散乱および伝搬によって生成される、固定tに対する遅い時間座標における受信信号の変化が得られる。
【0070】
散乱体とトランスデューサ・アレイとの間での、高周波ビームの範囲方向への移動。この結果、固定tに対して、遅い時間座標において受信信号のドップラー・シフトが生成される。
【0071】
散乱体とトランスデューサ・アレイとの間のビーム方向に対して横方向への移動。この現象はたとえば、超音波ビームの横方向の機械的な方向走査または心臓の壁の運動とともに見出され、遅い時間座標に沿っての信号の周波数の広がりを生成する。
【0072】
高周波信号x(t)の後方散乱された第1高調波バンドの数学的なモデル(低周波パルスによって送信パルス間の極性が切り換わる、すなわちp0k〜(−1)であり、また散乱体は動いている)は、以下のように書くことができる。
【0073】
【数11】

ここで、ω=−2ω1vは、ビームに沿って各範囲セルにおいてトランスデューサから離れるように平均の放射方向の速度vで移動する散乱体に対する平均のドップラ・シフトであり、ulk(t)は、線形後方散乱の散乱信号の複素包絡線であり、unk(t)は、非線形後方散乱の信号の複素包絡線であり、それぞれ正の振幅pの低周波パルスを伴う高周波パルス番号kからのものである。包絡線はパルス数座標kとともに変化する。なぜならば、散乱体およびビームは互いに対して移動し、また範囲セル内の散乱体は、異なる速度で移動することができ、両方とも、遅い時間座標において信号の周波数広がりを生じるからである。τ(t)は、正の低周波パルスの振幅に対する速い範囲時間座標の関数としての非線形伝搬遅れである。簡単にするために、受信信号の解析形#x#(t)を用いた。ここで、物理的な無線周波数の超音波信号は、x(t)=Re{#x#(t)}である。解析信号は、物理的な信号から次のように得ることができる。#x#(t)=x(t)+iH{x(t)}=&x&(t)exp{iωt}。ここでH{}は、信号のヒルベルト変換を示し、&x&(t)は、信号の複素包絡線である。
【0074】
第2高調波バンドは、方程式(11)と同様の式によって表わすことができる。この場合、角周波数は2ωであり、ドップラ周波数は2ωであり、また非線形散乱の信号は、非常に小さく、微細気泡からの散乱を除いて無視することができる。第2高調波バンドでは、パルス反響ノイズが抑制されており、これは非線形伝搬遅延の見積もりを行なう際に有用であり得る。これについては、方程式(21)に関連して再び述べる。
【0075】
非線形遅延のパルス間切り換え(−1)τ(t)は、包絡線の遅延切り換えt−(−1)τ(t)と比べて、位相切り換え(−1)ωτ(t)として位相に最も強い影響を及ぼす。なぜならば、信号のバンド幅が限定されているからである。包絡線に対する遅延切り換えの影響を視覚化するために、包絡線をt付近で偶関数および奇関数に分離する。その結果、受信信号の複素包絡線を、以下のように表現することができる。
【0076】
【数12】

ここで、上付き文字のeは、t付近のτにおける偶数成分を示し、oは奇数成分を示す。偶数成分はτの符号が変化しても変わらないが、奇数成分は符号を変える。なお、(−1)=exp{iπk}=exp{ikTprfωprf/2}であり、ここでωprf=2πTprfは、角度のパルス繰り返し周波数、したがって遅い時間座標における角度のサンプリング周波数である。この式を導入することによって、方程式(12)をさらに以下のように展開することができる。
【0077】
【数13】

固定された速い時間tに対しては、信号は、図6aに例示するような4つの成分(周波数ライン)からなる遅い時間座標kにある。ここで、601は、(ulk−unk)cosωτ(t)exp{iωprfk}(中心は平均のドップラー・シフトωの辺り)の周波数ラインAを示す。602は、−(ulk−unk)sinωτ(t)exp{i(ω+ωprf/2)Tprfk}(中心はω+ωprf/2の辺り)のラインBを示す。603は、(unk−ulk)cosωτ(t)exp{i(ωd+ωprf/2)Tprfk}(中心は、ω+ωprf/2の辺り)のラインCを示す。604は、−i(unk−ulk)sinωτ(t)exp{iωprfk}(中心は、ωの辺り)のラインDを示す。
【0078】
ラインは、線形および非線形散乱と、非線形伝搬遅延のパルス間切り換え((−1)τ(t))との混合によって生成される。非線形遅延切り換えがない場合、すなわちτ=0のときには、奇数成分はゼロになり、偶数成分は当初の包絡線に等しくなる。ライン602および604は消滅し、線形散乱のパワーはすべて、ライン601(中心はωの辺り)に含まれ、一方で、非線形散乱のパワーは、ライン603(中心はω+ωprf/2の辺り)に含まれる。
【0079】
非線形伝搬遅延切り換えの影響が、信号の位相において最も強いのは、信号バンド幅が限定されているからであり、その結果、シフトωprf/2の周波数混合が生じる。またωprf/2のシフトとの周波数混合が、線形散乱(ulk(t))と非線形散乱(unk(t))とに対する包絡線の奇数成分を通して、包絡線におけるその関与(t−(−1)τ(t))によって生じる。一方で、包絡線遅延切り換えは、包絡線の偶数成分に対しては、周波数シフトの影響はない。位相における遅延シフトによって、線形散乱のパワーの一部が、ω辺りを中心とする状態から、ω+ωprf/2辺りを中心とするライン602(偶数成分ulkによって表わされる)へとシフトすることが生じる。位相および包絡線における切り換えの組み合わせによって、パワーの一部が、ω辺りを中心とする状態から、ω+ωprf/2辺りを中心とする状態へ、そして再びω辺りを中心とする状態へと、奇数成分ulkによって表わされるライン604の一部としてシフトすることが生じる。同様に、非線形遅延切り換えによって、非線形散乱のパワーの一部が、ライン603から604へとシフトすることが、位相における切り換えを通して生じ、また偶数成分unkによって表わされる。一方で、位相および包絡線における切り換えの組み合わせによって、パワーの一部が、ω+ωprf/2辺りを中心とする状態から、ω辺りを中心とする状態へ、そして再びω+ωprf/2辺りを中心とする状態へと、奇数成分unkによって表わされるライン602の一部としてシフトすることが生じる。
【0080】
なおτが増加するにつれて、ライン601の振幅は小さくなり〜cosωτ(t)、一方でライン602の振幅は大きくなり〜sinωτ(t)、そしてωτ(t)=π/2のときに最大になり、同時にライン601に対してゼロを与える。この意味は、線形散乱のパワーのほとんどが、ω辺りを中心とする状態からω+ωprf/2辺りを中心とする状態へと、位相における遅延切り換えによって移動するが、一部の線形散乱のパワーは、混合されて、ω辺りを中心とする状態へと、uk(t)の奇数成分を通してライン604の一部として戻るということである。同じ効果が非線形散乱に対して見出される。ここでは、τが増加するにつれて、ライン603の振幅が小さくなり〜cosωτ(t)、一方でライン604の振幅は大きくなり〜sinωτ(t)、そしてωτ(t)=π/2のときに最大になり、同時にライン603に対してゼロを与える。非線形散乱パワーのほとんどが、ω+ωprf/2辺りを中心とする状態からω辺りを中心とする状態へと、位相における遅延切り換えによって移動するが、一部の非線形のパワーは、混合されて、ω+ωprf/2辺りを中心とする状態へと、unk(t)の奇数成分を通してライン602の一部として戻る。
【0081】
範囲セルが、移動する血液もカバーする場合には、血液からの線形散乱によって、さらなる(通常は幅がより広い)スペクトルが生じて、パワーは、当初のドップラー・シフトω=−2ω/c(vは、広がり血流速度)である605と周波数ω+ωprf/2である606との間で分割される。血液信号を非線形伝搬遅延における切り換えと混合することは、ライン601および602での組織からの線形散乱の場合と同じルールに従う。しかし血液からの非線形散乱は非常に弱いため、ノイズの中で消える。
【0082】
方程式(11〜13)における信号モデルには、一次散乱の信号のみが含まれている。この信号では、出て行く高周波パルスは低周波パルスに続く。出て行く高周波パルスの多重散乱(反響とも言われる)を用いて、このモデルからの多重散乱信号の多少の変更が得られ。低周波数の散乱のパルスの振幅は小さいため、散乱される高周波パルスの伝搬速度に対するその非線形遅延の影響(方程式(6,10))は、無視することができる。これは、出て行くパルスの体壁内での反響に対して特に重要である。図7aに、トランスデューサ・アレイ701および体壁リフレクタの構造例を示す。702は、アレイの前方における強いリフレクタを示す。送信パルスは、703によって示される経路に従い、リフレクタ702に最初に衝突したパルスは、704として部分的に透過し、705として部分的に反射される。反射されたパルスは、トランスデューサ表面、または他の強いリフレクタから再び反射されて、反射パルス706を生成する。パルス706は、再び部分的に透過し部分的に反射される等。
【0083】
より深いリフレクタ707から反射された当初のパルスを、正の低周波パルスに対して図7bにおいて708と示し、また負の低周波パルスに対して709と示す。これらのパルスには、方程式(10)の非線形伝搬遅延の変化によって与えられる遅延差がある。リフレクタ702から2回反射されたパルスを、正の低周波パルスに対して710として示す。702において最初に反射されると、パルス振幅は小さくなり、また低周波パルスの振幅の減少によって、反響パルスに対する方程式(10)の時間遅れ操作が、前方伝搬パルスと比べて、非常に小さくなる。したがって、負の低周波パルスに対して702から2回反射されたパルスは、710からの遅延との差が軽微でしかないため、図では710とオーバーラップする711と示している。したがって、出て行くパルスの体壁内でのパルス反響は、ω=0辺りを中心とする周波数ラインとして見出される。これは、図6aで破線607として例示されており、ここでは、ωprf/2の周りで遅延混合されたラインは振幅が非常に小さい。
【0084】
さて次に、どのようにして、複数の新しいイメージ・パラメータを伝搬および散乱の超音波信号から抽出して、組織、血液、および散乱体の速度の新しい改善された超音波イメージを形成するかについて記述および説明する。パラメータの抽出は、信号x(t)の受信した連続ものに基づいて例証することができる。
【0085】
本発明により抽出される第1のイメージ信号は、遅い時間ドメインにおいてωprf/2の辺りで、受信した連続ものをバンド・パス・フィルタリングすることによって得られる反響補正された散乱の信号に基づいている。これはたとえば、図6aにおけるバンド・パス・フィルタ610によって示される。このフィルタによって、反響ライン607が非常に減衰し、ライン602および603が抽出される。これら2つのラインでは、線形散乱成分が、非線形散乱成分よりも非常に支配的である。受信された高周波信号を、フィルタとして、たとえば低周波の遅い時間成分を減衰させる一方でバンド内の遅い時間成分を通す(これはドップラ・イメージ処理には良く知られている)フィルタにおいて、結合することで、以下のように、反響補正された線形散乱の信号の組を得ることができる。
【0086】
【数14】

これらの信号の振幅は、τとともに単調に増加する。低周波フィールドの適切な周波数(たとえばω〜ω10)を選択することにより、低周波フィールドの吸収減衰は、イメージ範囲内では非常に小さくなり、異なる組織および固体間ではほとんど変化しない。したがって低周波フィールドおよびパルス振幅のデザインとして、図4に示すようなτ(t)の単調増加が得られて、単調に増加する深さ可変の処理ゲイン関数が得られて、反響補正された線形散乱(図7cで711として例示する)が実現するようなものを、作ることができる。低周波フィールドを、ωτ(Tmax)=π/2(Tmaxは最大の範囲時間)となるようにデザインすることで、Tmaxにおいてこのゲイン曲線の最大に近いものが得られる。この深さ可変の処理ゲインは、超音波イメージング機器において利用できるユーザ制御の深さ可変のゲインとともに関与するため、深さゲイン制御にユーザが干渉する必要が減る。対象物の運動(心筋層のように)によって、方程式(14)における成分とともにフィルタを通ることができるドップラー・シフトが生じ得る。これは、静止した体壁のパルス反響ノイズが非常に減衰するために、優位であり得る。運動によって、対象物構造からの一次信号がフィルタを通過することが容易になり、そのため、たとえば心臓の心尖部領域のイメージが、改善される。
【0087】
またフィルタ出力には、ライン602および603の非線形的に散乱される成分が、以下のように含まれる。
【0088】
【数15】

これは、τ=0に対して最大であり、τが増加すると深さとともに減少する。しかし、方程式(15)における非線形散乱の信号成分は、方程式(14)における線形散乱の信号成分と比べて、無視することができる。
【0089】
バンド・パス・フィルタ後の信号を用いてさらなるドップラ処理を施すことで、既知の方法に基づいて散乱体速度のドップラ・スペクトルおよび放射方向ドップラ・イメージ・ラインを生成することができる。そして、完全な2Dまたは3Dイメージが、ビームを横方向に掃引することによって生成される。この方法は、心筋運動および機械的歪みのドップラ見積もりにおいて有用である。なぜならば、反響ノイズはこのような見積もりと強く干渉するからである。血流速度を測定する場合、次のことに注意されたい。方程式(14)における組織クラッタ信号は、ωprf/2の辺りに見出され、組織クラッタを抑制して血液信号を見積もるためには、遅い時間においてωprf/2の辺りでバンド・ストップ・フィルタを用いるか、またはωprf/2からω=0の信号を周波数混合することができ、また標準的なハイ・パス・タイプ・クラッタ・フィルタリングを、血液信号のドップラ周波数を見積もる前に用いることができる。
【0090】
また各kに対してわずかに異なりまたオーバーラップするビーム方向を用いることもできる。これはたとえば、環状アレイを用いたビームの連続掃引により得られる。したがってまた、遅い時間フィルタリングに対してIIRフィルタ(バンド・パス、ロー・パス、ハイ・パス)を用いても良い。この場合、ロー・パス・フィルタは、方程式(75)において類似の処理に対して例示される。
【0091】
パルス反響が抑制された線形の後方散乱の強度に対する放射方向のイメージ・ラインに対して使用するべき本発明による第1の信号は、方程式(14)の&z&lk(t)の1つの包絡線としてか、または複数のkに対する&z&lk(t)の平均の包絡線として、得ることができる。また、受信された高周波信号x(t)の組の一次結合を形成することもできる(たとえば方程式(19)と同様に遅延補正することなく)。これは、ω=0の辺りの遅い時間周波数成分を減衰させる一方で、ωprf/2辺りの遅い時間周波数成分を通過させて、ビーム方向によって決定される放射方向のイメージ・ラインに対する反響補正された線形散乱信号として、信号z(t)を生成し、また包絡線a(r)を以下のように形成する。
【0092】
【数16】

ここで、Enν{}は包絡線オペレータであり、r=ct/2は、ビームに沿っての深さ範囲であり、z(t)に対する式は、方程式(19)の場合と同様のバンド・パス結合の例である。そして、完全な2Dまたは3Dのイメージが、ビームの横方向走査によって得られる。
【0093】
パルス反響は、圧力による非線形伝搬速度操作の累積的な遅延効果(高調波イメージングで用いる前方伝搬パルスにおいて高調波歪みを形成する同じ効果)によって低減される。しかし本方法では、非線形伝搬を生成する低周波パルスの吸収は非常に小さいために、方法に伴う感度は、第1高調波イメージングの場合と同様である。この結果、分解能が向上した第2高調波イメージングの場合よりも高いイメージング周波数を用いることができ、特に、高密度な対象物(肝臓、腎臓、および胸部など)内の深い範囲におけるイメージングをより良好にすることができる。
【0094】
この方法に伴う送信ビームは第1高調波ビームであるため、この方法を用いてより広い送信ビームを形成することは、第2高調波送信ビームの場合よりも簡単である。この結果、3D超音波イメージングによるフレーム・レートを増加させるために、より平行な受信ビームを用いることができる。
【0095】
非線形散乱成分を線形散乱成分から分離するためには、受信信号を遅延補正(時間シフト補償)して、非線形伝搬遅延切り換えの周波数シフト混合が線形信号に対して消滅し、またライン602が消滅して、非線形散乱ライン603のみがバンド内のωprf/2辺りに残るようにしなければならない。遅延補正は、高周波パルスに対する低周波パルスの振幅および/または位相に依存し、また方程式(10)に基づいて深さとともに変化する(図4に例示する)。
【0096】
本発明の一態様によれば、次式におけるパワーを最大にすることによって遅延補正τ(t)を見積もることができる。
【0097】
【数17】

一般的に、基準信号は存在しないため、遅延補正を決定するためには、信号の1つを基準として用いなければならない。この信号に対する遅延補正はゼロになる。したがって、後述する方法に基づいて、K−1個の独立した遅延補正のみを決定することができる。和は、以下のような周波数伝達関数を有する遅い時間ドメインにおけるロー・パス・フィルタを表わす。
【0098】
【数18】

またロー・パス・フィルタの他の変形(たとえば図6bに611として例示されるもの)を用いることができる。これはたとえば、重みWを、方程式(17)の和にFIRフィルタとして導入することによって得られる。しかしIIRフィルタを用いることも、特に既知の方法に基づいて環状アレイの場合と同様にビームの連続掃引を行なうときに、可能である。
【0099】
遅延補正τ(t)によって、周波数混合が導入され、これによって、線形散乱のパワーがすべて図6bのライン621(ω=0辺りを中心とする)に移動する。なぜならば、方程式(17)の遅延補正によって、ドップラー・オフ・セットωも取り除かれるからである。これについては後述する。また遅延補正の周波数混合によって、非線形散乱パワーが、ライン622(ω=ωprf2の辺りを中心とする)に移動する。
【0100】
したがって、非線形散乱の信号を、遅延補正の後に以下のように得ることができる。
【0101】
【数19】

ここで、和は、ωprf2の周囲のバンド・パス・フィルタを表わす。これは、たとえばh(t)=1の場合に、以下の形を取る。
【0102】
【数20】

ここで、h(t)に対する他の値によって、このフィルタ(たとえば図6bに610として示されるフィルタ)に対する変更が与えられる。
【0103】
方程式(17、19)における一次結合によって、遅い時間ドメインにおける1つの信号出力が得られる。この場合、当業者には明らかなように、方程式をFIRまたはIIRフィルタとして変更して、方程式(14、16)に関連して説明したのと同様に、遅い時間ドメインにおける出力信号の組を生成する。遅い時間ドメインにおけるこのような信号の組を用いて、遅い時間ドメインにおける信号をさらにドップラ処理し、既知の方法に基づいて組織および血液のドップラ速度または歪みイメージを形成する。
【0104】
遅延補正を見積もるために、本発明の一実施形態により、受信時間/深さ間隔Tを分割して、より短い時間間隔{T,i=1,…,I}(おそらく、T≦Σとなるようにオーバーラップする)にすることができ、各間隔Tに対する最適な遅延補正を別個に見積もる。したがって、z(t)のTによる級数は、以下の関数によって与えられる。
【0105】
【数21】

また遅延補正は、τipに対してJ1iを最大にすることによって見積もられる。最大にする手順の例を、以下に与える。
【0106】
方程式(6)に関連して図1a〜bで説明した高周波パルスの非線形の自己歪みによって、第1高調波高周波バンドにおける高調波変換が、伝搬距離とともに低下する。この変換の低下は、負のpの場合と正のpの場合とでわずかに異なり、組織からの線形散乱された第1高調波の高周波信号の振幅において、正および負pの場合で小さな差が生じる。また送信増幅器に不正確さが存在すると、指定した振幅を送信して受信信号中に振幅不正確さを正確に設けることが難しくなる可能性がある。方程式(19)における線形散乱の高周波信号の抑制を改善するために、znc(t)におけるパワーが各間隔T上で最小になるように、hがkとともに変化するようにすることができる。このようなhは、たとえば、信号を遅延補正した後に、hに対する各間隔におけるznc(t)でのパワーを最小限にすることによって求めることができる。これは、以下の関数を最小にするように小さくなる。
【0107】
【数22】

最小にする手順の例を、方程式(53〜56)に与える。またhの変化は、低周波パルスの振幅および/または極性および/または位相および/または周波数が送信パルス間で変化したときの、高周波数成分の送信振幅の変化にも対応する。そして遅延τipは、J1iを最大にすることによって効率的に得られ、一方で、hは、Jniを最小限にすることによって得られる。
【0108】
1iを最大にすることによって、各間隔Tに対する平均の遅延補正が見積もられる。方程式(17)に基づいて最良の補正を行なうために、これらの遅延見積もりを、対応する間隔Tの内部の点に割り当て、これらの選択された点間の速い時間tの各サンプル点において、補間した遅延補正見積もりT(t)を生成しなければならない。選択する点はたとえば、間隔の中心、または対応する間隔における受信信号中のパワーの比重の点、または同様のものとすることができる。複数の補間方法を用いることができる。たとえば線形補間、任意の程度までのスプライン補間、およびフーリエ補間である。
【0109】
図6aのライン605および606における血液からの線形散乱の信号は、遅延補正プロセスにおいて、図6bの623に、組織からの線形散乱の信号の場合と同じ仕方で移動する。その後、信号を、良く知られたドップラ処理方法に基づいて処理することができる。607における反響信号に対しては、遅延補正の周波数混合によって、ライン624(−ω辺りを中心とする)およびライン625(ωprf/2−ω辺りを中心とする)へのエネルギーの広がりが生成される。
【0110】
反響ノイズによって、方程式(21)におけるJliの最大化による非線形伝搬遅延に対する補正の見積もりに誤差が導入され、遅延補正の周波数シフト混合によって、同じ遅い時間周波数バンドに反響ノイズが、遅延補正後の非線形散乱(ライン625)として導入され、したがって非線形散乱の信号見積もりにノイズが、たとえば方程式(19)に従って導入される。したがって、後述する方程式(24〜30)で記述されるイメージ信号は、方程式(14,16)に基づくイメージ信号よりも、パルス反響ノイズの影響を受ける。受信される高周波信号の第2高調波成分は、反響ノイズが実質的に抑制されていることは、図2関連して前述した通りである。強い反響ノイズがあるため、方程式(21)における後方散乱の信号の第2高調波成分を、非線形伝搬遅延を見積もるために使用し、そして前述のように第1高調波成分に遅延補正を適用することを、非線形散乱の信号を見積もるために行なうことが優位であり得る。米国特許第6,485,423号明細書および米国特許第6,905,465号明細書に記載される方法も、本発明とともに、非線形遅延の見積もりにおけるパルス反響の影響を低減するのに、有用であり得る。
【0111】
以下ではまた、本発明による第3(方程式(40〜42))および第4(方程式(43〜46))の方法を示す。ここでは、パルス反響ノイズの影響は、伝搬遅延の見積もりにおいて直接抑制される。これらの方法について説明する前に、本発明の第2〜第4の方法に基づいてどのように複数のイメージ・パラメータ信号を抽出できるかについて説明する。
【0112】
方程式(17)に示すようなzlcによるJliの最大化によって、間隔Tにおける対象物/トランスデューサ変位によって生じる非線形伝搬時間遅れおよび平均のドップラ時間遅れの両方に対して遅延補正が導入される。これに対する理由は、方程式(17,18)に示すような加算フィルタは、遅い時間周波数応答がω=0に対して最大となり、またJliの最大は、線形のエネルギーがすべて、ω=0辺りを中心とする状態にシフトされるときに見出されるからである。ω=0の辺りに平坦な応答を有し、ωprf/2の辺りに強い減衰を有する遅い時間のロー・パス・フィルタを用いることで、非線形伝搬遅延のみをもたらすJliの最大を得ることができる。この場合、ライン602および603の線形散乱のエネルギーが、ドップラ遅延に対する補正を行なうことなくフィルタ・パス・バンドに移動する。しかしこのようなフィルタは、各放射方向のイメージ・ラインに対して用いる遅い時間パルスの数が限定された状態では作製が難しく、したがってω=0において最大が規定されるロー・パス・フィルタを用いることによって、最も堅固な見積もりを行なう。そして遅延補正見積もりによって、全伝搬遅延を、対象物散乱体とトランスデューサとの間の相対的な移動の非線形伝搬遅延および平均のドップラ変位遅延(またはドップラ遅延)の和として表わす。
【0113】
方程式(17)に関連して注意したように、K−1個の非線形伝搬遅延、すなわち信号の数よりも1つ少ない数を見積もることができる。3つ以上の信号を用いた場合、方程式(11〜13)においてモデリングされた信号に対する遅延補正の正確な見積もりと、ω=0において周波数応答が最大であるフィルタとによって、非線形伝搬遅延およびドップラ遅延の和である全伝搬遅延としての誤差のない遅延補正が得られる。
【0114】
【数23】

ここで、τ=2v(t)Tprf/cは、送信パルス合成物間の放射方向の散乱体変位2v(t)Tprfに起因するドップラ変位遅延である。ドップラ位相シフトおよびドップラ周波数を、以下のように求めることができる。
【0115】
【数24】

このドップラ見積もりは、組織(たとえば心筋層)の放射方向の変位(方程式(24a)における位相から)および速度(方程式(24b)における角周波数から)を決定する上で、さらに放射方向の歪みおよび歪みレートを放射方向の変位および散乱体速度の放射方向の傾きとして決定する上で、興味深い。クラッタ・ノイズにおける散乱体のドップラ・シフト(血液または他の体液のように)を見積もるために、最初にクラッタ・ハイ・パス・フィルタを用いることを、ドップラを見積もる前に行なう。これについては、図12で説明し、また従来技術により既知である。放射のビーム方向に沿っての散乱体の機械的な歪みの見積もりは、速い時間に沿ってのφdk(t)の微分から得ることができる。同様に、散乱体の放射方向の機械的な歪みレートの見積もりは、速い時間に沿ってのφdk(t)の微分から得ることができる。
【0116】
非線形伝搬遅延は、以下のように求まる。
【0117】
【数25】

τikの見積もりには誤差が含まれているので、方程式(24,25)を、隣接するk上で平均化することによって、見積もり誤差を減らすことができる。散乱体の横方向の移動または超音波ビームの速い機械的掃引があると、パルスごとにビーム内の組織材料が交換されるために、τikのkに対する固有の変化が存在する場合があり、平均すべきパルス(k)の数を限定しなければならない。
【0118】
(r)は、低い低周波パルスの吸収による演繹的な測定から決定することができるため、非線形伝搬遅延から、第1の定量的な非線形イメージング・パラメータ(材料の非線形の前方伝搬特性を表わす)を見積もることができる。隣接する間隔Tの間における遅延補正の増分は、次のように記述できる非線形の前方伝搬パラメータを表わす。
【0119】
【数26】

ここで、βniaおよびkiaは、Tに対応する範囲間隔上での空間平均であり、p0ikは、送信パルス番号kに対応する同じ範囲間隔における低周波数成分の平均振幅である。そして、第1の定量的な非線形イメージ・パラメータ/信号(非線形伝搬イメージ・パラメータ)は、方程式(26)から次のように得られる。
【0120】
【数27】

本発明によりイメージングに対して使用すべき第2の信号は、方程式(19)の非線形散乱の信号zac(2r/c)の包絡線anc(r)である。この包絡線は、材料の非線形散乱パラメータに対して、以下のように関係づけられる。
【0121】
【数28】

ここで、v(r)は、方程式(2,9)に関連して前述したように2kの辺りでフィルタリングされるバンドパスであり、低周波パルスの振幅pとともに、範囲rに対する高周波ビーム・プロファイルに渡って横方向に平均化される。指数関数項は、組織内での高周波超音波パルスの吸収減衰を記述しており、超音波機器におけるユーザ調整可能な時間深さゲイン補償G(r)によって補償される。
【0122】
吸収因子は、遅延補正後の線形散乱の信号の包絡線(方程式(17)のz1c(t))と比較することによって求めることができる。z1c(t)は、線形散乱パラメータおよび組織内での超音波吸収に、以下のように関係づけられる。
【0123】
【数29】

ここで、v1 (r)は、2k1 の辺りでフィルタリングされるバンドパスであり、前述したように範囲rに対する高周波ビーム・プロファイルに渡って横方向に平均化される。
【0124】
(r)が、たとえば前述のように計算または測定値を通して既知である場合には、方程式(28,29)における信号を結合して、組織の第2の定量的な非線形イメージ・パラメータ信号、定量的な非線形散乱パラメータ/信号を、以下のように得ることができる。
【0125】
【数30】

そして、この調整された時間シフトは、局所的な間隔T上で平均化されるβniaκiaの伝搬情報を保持するのに対して、非線形散乱の信号znc(t)は、間隔Tにおけるβκの局所的な空間ばらつきの情報を保持する。また速い時間に沿ってのτikの補間値を、τ(t)に用いることもでき、また方程式(26,27)によって、速い時間サンプリングに沿っての微分を表わして、非線形イメージ・パラメータnpのより滑らかなバージョンnp(t)を示すこともできる。同様に、npの値を間隔T内部の点に割り当てて、これらの点の間の値を、イメージを示すために補間することを、前述の伝搬遅延の補間に対して説明したのと同様に行なうことができる。
【0126】
図2および方程式(14)に関連して説明したパルス反響の低減方法は、波面収差に対する補正を見積もる方法(たとえば米国特許第6,485,423号明細書、米国特許第6,905,465号明細書、および米国特許出願第10/894387号明細書に記載される)とともに、収差補正の見積もりに対する反響ノイズの有害な影響を減らす上で有用である。収差補正を行なう場合、2次元分布の要素を有する超音波トランスデューサ・アレイを使用し、補正を各要素信号に、ビーム形成器において最終的な加算を行なう前に適用するか、または多くの状況において、隣接する要素からの信号を結合してサブ・アパーチャ信号にし、この場合、収差補正をサブ・アパーチャ信号に、最終的なビーム加算を行なう前に適用し、また個々の要素信号に直接適用することはしない。収差補正の見積もりにおいて最良の結果が得られるのは、パルス反響ノイズの抑制をすべての要素(またはサブ・アパーチャ)信号に、収差補正の見積もりを行なう前に適用した場合である。しかしパルス反響ノイズの抑制は、加算したビーム信号に適用することもできる。なぜならば、パルス反響の影響は、要素信号と加算したビーム信号との間の相関関係において減少するからである。これについては引用した特許に説明されている。
【0127】
超音波伝搬速度の空間的変化を、c0a)=c+Δc0a)(cは、均質な材料の仮定に基づいてビーム形成器遅延を計算するときに仮定される一定の伝搬速度(〜1.54mmμs))と書いた場合、波面収差遅延は以下のように見積もることができる。
【0128】
【数31】

ここで、は、実際の要素またはサブ・アパーチャのアレイ表面上での要素位置ベクトルであり、は、ビーム・フォーカスの位置ベクトルであり、Γ()は、要素中心からフォーカスまでの波線経路である。材料間での質量密度の変化と圧縮率の変化との間に強い相関関係が存在する。このことは、方程式(3)に従って、圧縮率の変化と伝搬速度の変化との間に、以下のように相関関係が存在することを意味する。
【0129】
【数32】

ここでβは、実験から決定される比例定数である。なお、βnaκ=npは、方程式(27)における定量的な非線形伝搬パラメータであり、アレイ表面上の箇所によって規定される各要素またはサブ・アパーチャ信号に対して、見積もられる。βn0κおよびnpavgは、すべての要素および遅延間隔に対する空間平均パラメータである。この式を方程式(31)に挿入することによって、収差補正に対する概略的な見積もりが以下のように得られる。
【0130】
【数33】

最後の和は、とは無関係である。またこの見積もりは、前述の引用した特許および特許出願で与えられる手順に対する開始見積もりとして、使用することもできる。
【0131】
np)のに対する変化は主に、体壁を通る伝搬によって生成され、またそれは、τab)の、要素またはサブ・アパーチャ箇所(収差を起こす)に対する変化であるため、方程式(33)における間隔iとして体壁をわずかに過ぎた部分に対してのみ加算することによって、良好な結果が得られる。この近距離場では、低周波フィールドを、p)が各要素に対して体壁内でほぼ一定となるように、デザインすることができるため、p)を、方程式(10)においてτ()に対する積分の外に出すことができる。したがって、収差補正遅延を、体壁を過ぎた非線形伝搬遅延に直接関係づけることができ、またすべての要素に渡るτ()の空間平均τavgを差し引けることが分かる。すなわち以下の通りである。
【0132】
【数34】

ここで、pavg)は、厚みRの体壁を通っての要素箇所からの伝搬経路Γ(、R)に沿っての低周波フィールドp)の空間平均である。
【0133】
非線形パラメータβは、圧縮率κと同様に、硬質材料の場合に非常に低くなる。したがって、特に、軟部組織とより硬い組織(たとえば高密度の結合繊維分子、石灰沈着、または他の高密度材料を伴う組織)との間の界面において、非線形散乱は強くなる。同様に、より柔らかい材料(たとえば脂肪、泡沫細胞、特に組織内の微細気泡)に対する界面において、強い非線形散乱が得られる。ここでは、後述するように非線形散乱がさらに強められる。したがって非線形イメージングによって、このような構造を視覚化することが向上する。したがって本発明は、軟部組織内の微小石灰化の視覚化を、たとえば胸部および他の組織内の腫瘍、またはアテローム動脈硬化性プラーク(現在の超音波イメージング方法では視覚化することが難しい)のイメージングのために行なう上で、有用である。また材料圧縮率の劇的な変化がそれほどない場合、コンプライアンスが結合組織の内部成長とともに減少するか、またはコンプライアンスが脂肪または泡沫細胞の内部成長とともに増加するため、これらの方法を用いて見積もった非線形パラメータによって、組織変化に対するイメージ・コントラストが、現在のイメージングと比べて増加する。そして方程式(27,30)におけるイメージ・パラメータによって、組織変化の定量的な評価が可能になる。
【0134】
微細気泡の場合、これは減圧によって自発的に形成されるかまたは超音波造影剤として対象物内に導入されるが、気泡の散乱力学は微分方程式によって記述され、入射波と散乱波との間での周波数依存性の位相遅れを伴う共鳴散乱が与えられる。これは、この位相遅れの周波数変化が非常に小さい組織からの散乱とは反対である。低周波パルスによって、微細気泡の直径(正のpの小さい直径、および負のpの大きな直径)、したがって微細気泡共鳴周波数が、操作される。これによって、高周波パルスに対する散乱の信号の位相遅れが、散乱の信号の振幅以外に、操作される。操作は、微細気泡共鳴周波数の近辺における高周波パルスに対して特に強い。このことは、米国特許出願第第10/851,820号明細書(2004年5月21日出願)に記載されている。
【0135】
したがって、補正された非線形信号znc(t)(たとえば方程式(19)によるもの)には、造影剤気泡からのほぼすべての高周波数散乱パワー(線形および非線形成分の両方)が含まれる。したがって微細気泡を含む散乱組織に対しては、本発明では、CNR(コントラスト対雑音比)が、このような気泡をイメージングする既存の方法と比べて著しく増加することが、微細気泡からのほぼ全部の散乱高周波信号パワー、特に強い線形の成分(非線形の成分だけでなく)を抽出することによって実現する。非線形伝搬遅延の低周波パルス切り換えに対する補正によって、組織からの線形散乱のパワーが抑制され、大きなCTR(コントラスト対組織比)が実現する。したがって本方法では、非線形の前方伝搬効果を局所的な非線形散乱から分離して、また微細気泡からの散乱の信号の位相の周波数変化を局所的に操作することを用いて、局所的な組織信号が強く抑制された微細気泡からの強い局所的な信号を得る。
【0136】
これは、現在の造影剤イメージング方法とは異なる。現在の方法では、非線形伝搬によって、前方伝搬パルスに対する影響が蓄積されるために、検出プロセス中に組織から起こる線形散乱も増大する結果、組織からのこの線形信号によって微細気泡からの信号が(および組織からの非線形散乱の信号も)隠される。
【0137】
パルスが微細気泡の雲を通過するとき、これらの気泡によって、前方伝搬パルスに対する非線形伝搬遅れが累積して増加し、またパルス振幅が非線形に変化する。この現象は、非線形伝搬遅延およびパルス振幅の変化を補正して、雲の向こう側の組織信号を良好に抑制する必要を高めるものである。したがって本発明は、微細気泡イメージングの既知の方法に対して優位性が大きい。たとえば、高調波イメージングを用いた場合、微細気泡の雲を通過するパルスに対する高調波歪みの累積的な増加が、雲の向こう側の組織からの線形散乱における強い高調波成分として見出される。これによってたとえば、心室内の造影剤の雲を通過したパルスに対して心筋層から強い高調波散乱が生じて、心筋層内の造影剤微細気泡から生じる散乱の信号を隠す可能性がある。この効果によって、灌流が非常に少ないかまったくない心筋層の領域において血液灌流を誤って示す可能性がある。本方法では、心室内の微細気泡の雲の前方伝搬パルスに対する影響を、非線形伝搬遅延に対する補正によって、雲を過ぎた心筋層からの散乱に対して取り除く。本発明では、局所的な非線形散乱が、累積した非線形の前方伝搬の効果から分離されるため、心筋層中に存在しない微細気泡をこのように誤って表示することを大幅に防止する局所的な非線形散乱を測定することが保護される。
【0138】
非線形の高調波イメージング方法と比べて、本発明では、より広帯域の送信パルスを用いることができるため、イメージ範囲分解能を高めることができる。加えて、より高いイメージング周波数を用いることができるため、結果として、横方向および範囲の分解能の両方がイメージング造影剤の他の方法と比べて著しく増加する。本発明の性能は、イメージング・パルスの振幅に対する感度が、高調波イメージング方法と比べて低い。受信される組織信号を抑制して、結果としてCTRが増加することを示してきたが、これだけでなく、単一の造影剤気泡の高分解能の非破壊検出およびイメージングを、低いメカニカル・インデックス(MI)で行なうことが容易になる。
【0139】
感度が向上した高分解能の超音波造影剤イメージングは、微小血管系の変化をイメージングすることにおいて強い可能性がある。このような変化はたとえば、腫瘍における新脈管形成もしくは壊死、または心筋層における血液灌流の低下であり、この場合、造影剤の流入時間を用いたいくつかの標準的な方法が開発されている。方程式(27、30)における定量的なパラメータによって、組織内の造影剤密度についての定量的な情報が得られ、その結果、微小血管系の相対的なボリュームの評価が改善される。領域内の造影剤気泡を破壊すること、および流入時間を測定することによって、組織を流れる血液灌流に対する定量的な値を得ることが、既知である原理により可能である。また造影剤の高感度で高分解能のイメージングは、リンパ・ドレナージュを追跡して、腫瘍外科手術において見張りリンパ節を見つけるのにも有用である。
【0140】
方程式(27,30)によって、組織内での吸収に依存しないイメージング・パラメータが得られるため、これらの組織パラメータを用いて、組織(たとえば脂肪含有物)を特徴付けることができ、特に、実験に基づいて温度に対する伝搬速度の局所的な変化を決定することができる。このことは、病変組織の熱処理(たとえば高出力収束超音波(HIFU)、RF融除、または凍結手術)に対する組織温度の変化をモニタするために用いることができる。温度は、定量的なパラメータの変化からモニタすることができるが、温度が変化している間にイメージごとの後方散乱の信号間に時間遅れを起こす伝搬速度の変化からもモニタすることができる。この時間遅れにおける放射方向の傾きによって、局所的な温度が決定される。
【0141】
高周波パルスの局所的な線形散乱は、低周波パルスの影響を受けないため、図3a〜bに示す以外の送信パルス間の低周波数成分の振幅および/または位相および/または周波数の変化であっても、前述のように、体壁パルス反響を抑制して反響ノイズが低減された線形散乱の信号を得ること、また線形の後方散乱を抑制して非線形散乱の信号を得ることという同様の結果が得られることが意味される。たとえば、図3bの第2のパルスの低周波数部分は無くても良く、また高周波パルスは低周波パルスの正確な正の尾根または負の谷上に載っている必要はない。このような柔軟性は重要である。なぜならば、2つの周波数パルス間の位相は、回折と、低および高周波数成分に対するトランスデューサ・アレイの放射面のミスアラインメントとに起因して、ビームに沿っての伝搬距離とともに変化する可能性があるからである。
【0142】
送信パルスの低および高周波バンドは、多くの場合に非常に広く分離されているので、別個のトランスデューサ・アレイを用いてパルスの2つのバンドを送信することが選択できる。このようなアレイは、共鳴周波数の異なる同心リングとして作製することができる。この場合、アレイからのビームは自動的にオーバーラップするか、またはアレイを、ビーム交差を歪ませて並べて載置することができる。
【0143】
低および高周波数成分に対して、歪んだ方向にオーバーラップするビームを伴う2つの異なるアレイを用いた場合、低周波パルスと高周波パルスとの間の位相関係は、強い空間依存性を有して、2つの放射アレイ表面の幾何学的な配置および寸法に依存する可能性がある。図8aに、z軸に沿って放射する別個の低および高周波トランスデューサ・アレイの本発明による配置例を示す。同図では、801は高周波アレイを示し、802は、高周波アレイの各側面上にある2つの部分からなる低周波アレイを示す。同図ではたとえば、線状アレイ配置として、y−軸が上下方向にあって方位角走査面に垂直であり、方位角走査面は、x−z面でy−z面に垂直である配置の断面を示すことができる。また同図では、放射軸としてz軸を有する環状アレイ配置の断面を表わすこともできる。この場合、801が高周波環状アレイの断面を示し、802が低周波環状要素の断面を示す。線状および環状の配置は両方とも、低および高周波アレイに対して異なる伝搬遅延を示す。これらアレイは、本発明の背後にある基本的な物理的効果が十分に利用されるように、アレイ・デザインおよび信号処理において慎重に対処されなければならない。 低周波ビーム例の境界を803で示し、高周波ビームの境界を804で示す。なおアレイの前方には近距離場805が存在し、ここでは、低および高周波ビーム間のオーバーラップが限定されているため、出て行くパルスの体壁反響が、方程式(14,16)および図7a〜cに関連して説明した方法によって、特に強く抑制されていることに注意されたい。
【0144】
また低周波アレイからz軸に近い散乱体までの伝搬距離は、低および高周波アレイの幾何学的な寸法に応じて、低周波パルスの場合の方が高周波パルスの場合よりも長いことに注意されたい。zにおける点806と角周波数ω=ckとにおける軸方向の低周波フィールドは、以下の通りである。
【0145】
【数35】

ここで、Pltはアレイ表面上の送信圧力であり、Rlo(z)は低周波アレイの外縁からz軸上の806までの距離807であり、Rli(z)は低周波アレイの内縁から806までの距離808である。位相項は平均の伝搬遅れを表わす。
【0146】
【数36】

ここで、τ(z)は低周波アレイから806までの伝搬遅れであり、τ(z)は高周波アレイから806までの伝搬遅れであり、Rho(z)は高周波アレイの外縁から806までの距離809である。伝搬位相遅れ以外に、方程式(35)のH(z)の位相の一部としての正弦項の符号が変化し、これは正弦項のゼロを通過するときの±πのステップとして見られる。図8bの810として示しているのは、低周波フィールドと高周波フィールドとの間での伝搬位相遅れの差であり、これは次式のように、
【0147】
【数37】

zの関数として、次のような典型的な幾何学的形状に対して与えられる。高周波用アパーチャD=7mm、低周波用アパーチャの内部および外部の部分Dli=10mmおよびDlo=15mm。πの位相遅れの低下が、811(z〜6.6mm)において、低周波アレイの外縁と内縁との間の差伝搬位相Δθ(z)=ω(Rlo(z)−Rli(z))/2cがゼロを通るときに、見られる。ゼロを通ると、方程式(35)の正弦項の符号が−1から+1へ変わる。低周波フィールドH(z)の振幅を、スケール変更していない対数値において812で示す。なお振幅のゼロは位相のπシフトに一致する。フィールドのゼロが見られるのは、フィールド点までの位相伝搬遅れのアレイの外縁と内縁との間での差が、πの奇数倍であり、Δθ(z)にステップπが生じるときである。
【0148】
また比較のために813として示しているのは、低周波アレイと高周波アレイとの間での位相伝搬の差であり、これは次式で与えられる。
【0149】
【数38】

なお、Δθ(z)は、811における−π段差の前はΔφ(z)に従い、その後は、πの差を伴って従うことに注意されたい。低周波アレイと高周波アレイとの間に大きなz依存性の伝搬位相遅れがあるために、高周波パルスと低周波パルスとの間はz依存性の相対位置となる。たとえば、本来は低周波パルスの最上部尾根で開始される高周波パルス(814として示す)は、位相遅れΔθ(z)がπ等だけ変化したときに、低周波パルスの底部谷の方へスライドする(815)。
【0150】
以下の圧力、
【0151】
【数39】

を、方程式(10)に挿入し、β=5,κ0a=400×10−12Pa−1,およびc0a=1540m/sとすると、Plt=50kPaの場合に、図8cに816として示す非線形伝搬遅れが得られる。位相遅れΔθ(z)(810)は、図8bにおいてz軸に沿って複数πだけ変化するため、高振動性の非線形伝搬遅延が生じ(816)、最大遅延としてτmax=2nsecが得られる。この非線形伝搬遅延を遅延補正しない場合には、線形後方散乱の信号が最大に抑制されて、2sin(ωτmax)〜−18dB(f=10MHzの場合)となる。
【0152】
造影剤のイメージングに対しては一般的に、より高い低周波用圧力pを用いる。たとえばp〜200kPaであり、この場合、前記例においてτmax=8nsecとなり、また線形散乱の高周波信号の抑制が2sin(ωτmax)〜−6dBだけ、f=10MHzに対して減ることが、このデザイン例で見られるような低および高周波数成分間の位相関係の大きなスライディングがある場合であっても得られる。したがって、低周波用圧力に対して50kPaの振幅は非常に小さいが、造影剤および特別な状況における他の微細気泡の興味深いイメージングを実現することができる。したがって造影剤信号をある程度まで強くすることは、非線形伝搬遅延に対する補正を行なわなくても、816の場合のような非線形伝搬遅延の振動性の変化が見られるようにアレイがデザインされているならば、可能である。なお、高周波パルスが低周波振動のゼロに近いときには、非線形散乱および前方伝搬の効果が小さいことに注意されたい。この効果は、連続した送信パルスにおいて低および高周波数成分間で異なる位相を用いることによって回避することができる。このような位相によって、低周波振動のゼロに近いところで高周波パルスが見出される空間箇所がシフトする。低周波フィールドの振幅|H(s)|のゼロは、連続した送信パルス間において低周波数中心を変えることによって、空間内をシフトさせることができる。また高周波ビームの幅が原因で、|H|≠0である軸の外側からも信号を拾うであろう。またパルスは、多くの周波数に対するゼロ点を平均した周波数バンドからなる。振幅ゼロは、低周波アレイの幅を小さくすることによって回避することができるが、この場合、アレイに対する圧力振幅対駆動電圧の比率も小さくなるであろう。
【0153】
しかし他の組織から(たとえば微小石灰化から)非線形散乱を抽出して、定量的な組織パラメータを生成するためには、より高い低周波用振幅を用いる必要がある。この場合、線形散乱を抑制して非線形散乱を抽出するためには、非線形伝搬遅延を補正することが必須となる。これは、図7a〜cに関連して前述したように、パルス反響ノイズを抑制するために方法を利用する場合でもある。また非線形伝搬遅延の振動性の変化がより小さい場合、低周波パルスの振幅が小さくても遅延を補正して微細気泡を検出するという大きな利益が得られる。
【0154】
多くの場合、低および高周波放射アパーチャのデザインの選択は、低および高周波パルス間の遅延スライディングが最小となって、イメージ範囲全体に沿っての高周波パルスに対する散乱および伝搬パラメータの非線形操作が最大になるように、行なわれる。これは、図4に示すような非線形伝搬遅延の単調増加を生成するのに必要である。810における位相のπシフト(および対応する振幅ゼロ)を回避するためには、より小さい幅の低周波数要素(すなわちRloとRliとの間の差がより少ない)を用いなければならず、また低周波パルスと高周波パルスとの間の位相のスライディングをさらに減らすためには、低周波放射面を動かして高周波放射面の近くにするかあるいは高周波放射面とオーバーラップするようにしなければならない。しかし多くの応用例において、非線形伝搬遅延の振動性の挙動は許容できるものであり、またその挙動を用いて図7cの場合のように低い非線形伝搬遅延を得ること、または近〜中距離場に対するパルス長圧縮から深い範囲に対するパルス長膨張へとシフトして周波数を下げ感度を向上させること(図2に関連して前述した)さえ、可能である。
【0155】
非線形散乱の信号だけでなく非線形伝搬遅延に対する補正の見積もりへのパルス反響ノイズの影響を減らすためには、本発明による第3の方法において、2つ超のパルスを、2つ超の異なる振幅および/または位相および/または周波数の低周波パルスを用いて、送信することができる。本発明による第1の例として、散乱体とトランスデューサ・アレイとの間の移動がない(すなわちゼロ・ドップラ変位の)場合には、たとえば低周波パルスとして振幅が+p、0、−pのものを送信し、高周波パルスが低周波パルスのピークまたは谷の近くに続くようにする(たとえば図3aおよび3bに示すように)。したがって、3つのパルスに基づく受信された高周波信号は、間隔Tにおいて、以下のように書くことができる。
【0156】
【数40】

ここで、x(t)は線形散乱の信号であり、x(t)は低周波パルスの振幅が+pである非線形散乱の信号であり、r(t)は高周波パルスに対する反響信号であり、−τは、高周波パルスに対する非線形伝搬遅延であって、高周波パルスが低周波パルスの圧力+pのときに正の尾根上を伝搬するときのものである。本発明による一実施形態により、これらの3つの信号の結合を以下のように作る。
【0157】
【数41】

ここで、x(t,τ)=x(t)−x(t+τ)は、線形散乱の信号の結合である。結合によって、パルス反響ノイズがz(t)およびz(t)から取り除かれている。また非線形散乱の信号の振幅が線形散乱の信号の場合よりもはるかに小さいため、ほぼz(t)=(t−τ)である。また間隔Tに対して、遅延補正τを、以下の関数をτに対して最大にすることによって、決定することができる。
【0158】
【数42】

τが見積もられたら、方程式(41)から線形および非線形散乱の信号成分を解くことが、たとえば方程式(41)を速い時間でフーリエ変換して、X(ω)およびx(ω)の線形方程式の組を生成することによって、可能である。
【0159】
前述の手順の最も重要な点は、3つ以上のパルスを用いて非線形伝搬遅延の3つ以上のレベルの操作を行なうことにより、測定値を組み合わせて、パルス反響ノイズが非常に抑制された少なくとも2つの信号を取得できることであり、またこれらの新しい信号は、遅延補正を見積もるために用いることができる。説明した手順の場合、隣接する低周波パルスの振幅間の差は一定でなければならず、1つの遅延の全体的なかけ合わせである各信号に対する非線形伝搬遅延が得られる。トランスデューサ・アレイと散乱体との間で一定の放射方向の移動があり、各パルスに対する受信信号間で一定のドップラ遅延が生じる場合には、見積もるべき第4の未知数が存在する。この場合、振幅の異なる低周波パルスを伴う少なくとも4つのパルスを送信する必要がある。または方程式(40)と場合と同様に、3つの振幅の低周波パルスを伴う5つのパルスを用いることができる。この場合、方程式(21,42)の場合と同じ方法で信号パワーを最大にすることにより、非線形伝搬とドップラ遅延との組み合わせが見積もられる。そして非線形伝搬およびドップラ遅延を、方程式(24,25)の場合と同様の演算で分離することができる。この場合、このような手順および同様の手順に対する詳細は、本発明により当業者が導き出すことができる。
【0160】
しかしτ自体は、方程式(42)のような結合、またはフーリエ変換における等価物から見積もらなければならない。またzおよびzには線形および非線形散乱の信号の両方が含まれているため、非線形散乱の信号によって遅延補正見積もりに誤差が(非常に小さいが)導入される。次にこれによって、非線形散乱の信号の見積もりに誤差が導入される。これは、方程式(17〜22)に与えられる見積もりと同じ方法である。
【0161】
この誤差に対する基本的な理由は、静止した対象物に対して、4つの未知数があるからである。すなわち、線形散乱x(t),非線形散乱x(t),パルス反響ノイズr(t),および非線形の前方伝搬遅延τ(t)(ドップラ遅延のない静止した組織)である。τ(t)はtに対する変化が遅いため、前述のように時間間隔T上で一定と見積もることができる。4つの未知数すべてを最も正確に見積もるためには、少なくとも4つの測定値を、たとえば4つのレベル+p,+p/3,−p/3,−pの低周波パルスを用いて、以下のように取得しなければならない。
【0162】
【数43】

次に、r(t)を方程式(41)の場合と同様に消去して、3つの信号z(t),z(t),およびz(t)を生成し、また方程式(42)の場合と同様に、これらの信号がすべて、関数を最大にすることと整合するように、τを決定することができる。τの見積もりにおけるx(t)の影響は、3回の測定の場合よりも低いが、x(t)によって導入される誤差は完全には取り除かれない。
【0163】
τの決定に対するx(t)の影響を切り離す本発明の第4の方法に基づくより良好なアプローチは、方程式(43)を間隔T上でフーリエ変換することによって求まる(この場合、τ(t)を定数τで近似することができる)。この結果、以下の形式の線形方程式の過剰決定の組が得られる。
【0164】
【数44】

ここで、(ω)={Y(ω),Y(ω),Y(ω),Y(ω)}であり、(ω)={X(ω),X(ω),R(ω)}であり、A(ωτ)は、既知の方法による方程式(43)のフーリエ変換から得られる4×3次元の行列である。このような過剰決定系を用いて、(ω)を求めることができる。(ω)により、行列A(ωτ)の擬似逆行列を用いた最小2乗法のセンスでの最良の近似が、以下のように得られる。
【0165】
【数45】

ここで、A(ωτ)は、A(ωτ)のエルミート転置である。τは、以下のような最小2乗法適合においてτに対して誤差を最小にすることから見積もることができる。
【0166】
【数46】

これは、全体的な最小2乗法と言われることが多いプロセスである。この方法によって、少なくとも4つの異なるレベルの低周波パルスを用いた少なくとも4つの測定を利用して、すべての4つの未知数(特に、パルス反響および非線形信号からの影響が大きく低減された非線形伝搬遅れ)を見積もるための体系的な手順が与えられる。一方で、多くの状況において、方程式(17〜22および40〜43)に関連して説明した方法によって適切な結果が得られる。また以下のことにも注意されたい。低周波パルスの振幅は、異なるパルスに対する非線形の遅延がτ=kτと設定できるように、任意に設定することができる。kは、低周波数振幅対基準の比であり、tは、この基準に伴う非線形伝搬遅延(前述の手順に基づいて見積もられる)である。
【0167】
また次のことを強調しておきたい。この構成に基づく方法によって、線形および非線形散乱の信号(およびパルス反響ノイズ)を見積もることが、パルス反響ノイズからの影響が最小の状態で、また原理的に、線形および非線形散乱の信号の見積もり間を完全に切り離して、実現される。したがってこの方法により、見積もったx(t)を用いて、第2の方法に伴う方程式(14)と同様にパルス反響ノイズが強く抑制された線形散乱の第1のイメージング信号と、方程式(29)の場合と同様に線形散乱の第3のイメージング信号とが示され、一方で、見積もったx(t)により、方程式(19,28)の場合と同様に非線形散乱からの第2のイメージ信号が示され、また両方をさらに、方程式(30)の第2の定量的な非線形散乱パラメータを計算する際に用いる。ここでは、見積もった非線形遅延tは、方程式(27)の第1の定量的な非線形パラメータを見積もるために用いる。
【0168】
これまでの方法と同様に、各送信パルス合成物に対する受信信号間に、一定のドップラ遅延τを加えることができる。これにより、5つの未知数、X(ω),X(ω),R(ω),τ,およびτが与えられる。これらは、5つの送信パルス合成物(たとえば振幅が(+p,+p/2,0,−p/2,−p)の低周波パルスと、同じ振幅の高周波パルスとを伴うもの)からの受信信号に基づいて、これらの未知数により方程式(46)のδを最小にすることによって、見積もることができる。
【0169】
したがって前述の説明では、見積もるべきより多くの未知数を生成するさらに複雑な状況をどのようにして取り扱うについての一般的な概要を示している。たとえば、送信された低周波パルスの振幅に不確定性がある可能性がある。たとえば方程式(43)において、+p,+a/3,−a/3,−aである。この場合、ベクトル=(a,a,a)によって、振幅の未知の変化を表わす。これらの不確定性は、非線形散乱の振幅と方程式(43)における遅延との両方に影響を及ぼし、7個の未知数があることが分かる。すなわち、X(ω),X(ω),R(ω),τ,a,a,およびaである。このことは、測定方程式が少なすぎるために、方程式(46)のδを最小化する際にτを適切に決定することができない、ということを意味する。したがって、振幅不確定性の数が最小限になるように注意深く計測した新しい測定値を加えなければならない。たとえば、注意深く計測することによりおそらく、低周波パルスの5つの送信パルスおよび振幅(+p,+ap/2,0,−ap/2,−p)を有する1つの不確定な振幅のみが得られる。これは、5つの未知数X(ω),X(ω),R(ω),τ,aを与える(すなわち方程式(46)のδを最小にすることによってドップラ遅延を伴うことなく5つの未知数がすべて求まる方程式と同じ数である)。
【0170】
高周波パルスに対する散乱および伝搬パラメータを、低周波パルスによって非線形操作することによって、好都合な結果が生じるとともに、組織の透過および角度散乱測定(たとえば図9aに例示される計測による)からトモグラフィのコンピュータ・イメージ再構成を得ることができる。この図において、901は対象物の断面を示している。対象物は、リング状超音波トランスデューサ・アレイ902内に囲まれており、トランスデューサ要素903が対象物全体の周りに載置されている。中間の音響結合媒体904は、たとえば水分または他の流体とすることができる。要素のグループ905は、超音波ビーム906の送信用にグループ全体の中から自由に選択される。対象物を通る送信方向(単位ベクトルによって示される)を、対象物を通るすべての方向に走査することが、要素のグループ全体から送信要素の異なるグループを選択することによって可能である。前方において、パルスはリング・アレイに907において衝突し、その際の前方伝搬遅れは、方程式(10)を次のように変更したものである。
【0171】
【数47】

ここで、Γ(2a;)は、アレイの外径2aに渡るビーム軸に沿っての前方伝搬経路である。低周波パルスの振幅がゼロである伝搬遅延はt0fであり、一方で、低周波パルスによって生成される非線形遅延はτで与えられる。907における受信信号は、最初は送信パルスであり、その後に多重反射パルスの尾部が続く。しかし図7a〜cを参照して、多重散乱の信号は、非線形の時間遅れτがはるかに小さいものであり、低周波送信パルスの振幅および/または位相および/または周波数が変化する少なくとも2つの受信信号を、前述したラインに沿って結合することによって、大きく抑制することができる。高周波パルスが、図1a〜bに示すように低周波パルスの空間的勾配において見出される場合には、この図に関連して前述したように、パルスの共伝搬によって高周波パルス圧縮が生じる。そしてパルス反響ノイズの抑制を、周波数フィルタリング(好ましくは図2に関連して述べたようにスライディング)を用いて行なうことができる。最も深い浸入に対しては、高および低周波放射面のデザインを、低周波パルスに対する高周波パルスの箇所がスライドして、パルス膨張を起こして周波数が下がる(図2に関連して前述したように)ように行なうことができる。スライディングを生成する効果を解析したこのような放射面の例を、図7a〜cおよびその添付説明に示す。
【0172】
コンピュータ・トモグラフィ再構成法によれば、低周波パルスを伴わない遅延(τ0f)を用いて、伝搬速度c0a)を求めることができる。ここで、は、平面内での空間的座標である。低周波パルスを付加すること、および非線形伝搬遅れτを測定することによって、βna)κ0a)を再構成することが可能になる。また前方に伝搬されるパルスの振幅を用いて、組織中での吸収の空間的変化を再構成することもできる。走査平面を垂直方向に移動させることによって、対象物の3Dイメージングが可能になる。これらの再構成されたイメージはすべて、空間分解能が送信ビーム幅によって限定される。なぜならば、パルス遅延および振幅はビーム全体に渡る平均であるが、方程式(47)のモデルでは、遅延がすべてビーム軸に限定されると仮定しているからである。同様のモデルが、吸収に対しても用いられる。
【0173】
分解能の向上は、角度散乱の信号を、回折トモグラフィ、反射性トモグラフィ、逆散乱トモグラフィなどと言われる方法で用いることによっても得ることができる。送信ビーム方向に対してある角度方向(たとえばアレイ中心からの単位ベクトルの角度方向によって規定される図9a,bの908)に存在する要素に対しては、角度散乱の信号が、送信ビームに沿っての異なる深さからの時間の関数として観察される。送信ビームに沿っての深さ(909)から散乱される高周波パルスは、最初に図9bに示す経路Γに沿って910から909へ、振幅が大きい低周波パルスとともに伝搬し、そして909から908へ経路Γに沿って、散乱プロセス中の振幅減少が原因で振幅が無視できるほどの低周波パルスとともに、伝搬する。したがって、910から908への全体的な伝搬時間遅れは以下の形を取る。
【0174】
【数48】

ここで、tに対する最後の式において、ΓおよびΓの両方に沿って一定の伝搬速度C0aを仮定している。図7a〜cに関連して述べたように、多重散乱の高周波信号は、低周波パルスの影響をそれほど受けないため、振幅および/または位相および/または周波数が異なる低周波パルスを伴う2つ以上の高周波信号を結合しることによって、パルス反響ノイズを大きく抑制することができる。同様に、低周波パルスによる高周波パルスの周波数スライディング(図1a〜bおよび2に関連して説明される)を用いて、パルス反響ノイズを抑制することができる。また当業者には明らかであるように、図9a〜bに示した特定のもの以外のトランスデューサ要素配置を用いても、電子化されたトモグラフィ再構成の同じ結果を得ることができる。
【0175】
方程式(21)および同様に方程式(42)に示す形式の関数Jliを最大にする遅延補正は、たとえば方程式(21)に対して例示される微分から、以下のように求めることができる。
【0176】
【数49】

ここで、遅延総数は、方程式(17)に関する説明につきK−1である。$R$kpのエルミート対称性により、この方程式は以下のように変えることができる。
【0177】
【数50】

ここで、Reは和の実部を示す。∂x(t+τip)/∂τip=∂x(t+τip)/∂tであることに注意して、方程式(50)を以下のように組み立て直すことができる。
【0178】
【数51】

ここで、$z$li(t)は、τikによって補正される方程式(17)の遅延における信号である。$R$ldの解析的な式がないため、この方程式の組を満足する遅延は、数値的にたとえば以下の繰り返し方式を通して、求めなければならない。
【0179】
【数52】

ここで、qは繰り返しステップ数を示し、μは、繰り返しの収束を保証するように調整されるゲイン因子である。
【0180】
方程式(22)におけるJniをhipに対して最小化することは、微分をゼロに等しくすることによって行なうことができる。すなわち以下の通りである。
【0181】
【数53】

$N$のエルミート対称性により、この方程式は、以下の固有ベクトル方程式に変換される。
【0182】
【数54】

したがって、Jniの最小値は、最小の固有値λを有する固有ベクトルによって与えられる。相関行列に対する式を方程式(22)に導入することによって、方程式(54)を以下のように組み立て直すことができる。
【0183】
【数55】

ここで、$z$ni(t)は、τikによって補正される方程式(19)の遅延における信号である。したがって補正振幅は、RF要素信号と、遅延および振幅補正されたハイ・パス・フィルタ出力RF信号(hikが含まれる)との間の相関関係を通して求まる。したがって、方程式(55)を、反復手順、たとえば以下のようにして、解くことができる。
【0184】
【数56】

前述の解析では、受信したRF信号から方程式(11)と同様にヒルベルト変換を用いることによって得られる信号の複素解析的な表現を用いた。ヒルベルト変換の近似を、方程式(71)に与える。また次のことも当業者には明瞭である。前述の解析は、解析信号の実部としての受信したRF信号に作用するように変更することができる。
【0185】
方程式(52,56)における手順に対しては、最も小さい遅れにおいて間隔Tに対する見積もりを開始し、その後に、連続する間隔での見積もりを行なうことが自然である。そして、先行する間隔に対して見積もった遅延補正τipフィルタ振幅hipを、新しいそれぞれの間隔に対する繰り返し手順での初期値として用いる。繰り返し手順は、最初の間隔に対する初期状態としてτ0p,0=0およびhip=1から始まる。先行する間隔に対して見積もった値を初期状態として用いることの付加的な優位性は、遅延に付随する位相ωδτにおけるステップが、各間隔の間の±π/ωよりも小さいときに、深さ範囲全体に渡って|ωτip|>>πである付随する位相を伴う遅延を追跡できることである。
【0186】
信号のバンド幅が十分に小さく、遅延が中心周波数の周期よりも小さい場合には、以下の近似が適切である。
【0187】
【数57】

ここで、方程式(56b)において、遅延補正を以下のように分割している。
【0188】
【数58】

ここで、&τ&ikは、τikに対する見積もりまたは近似であり、たとえば以下において、&τ&i,k=τi−l,kを用いる。したがって方程式(57b)は、位相ωδτikを伴う位相遅延と、τikの見積もりの&τ&ikを伴う真の遅延との組み合わせを示している。この近似の精度の改善は、ωの周囲の信号をバンド・パス・フィルタリングしてx^(t)のバンド幅を小さくすることによって得られる。方程式(57)の近似を導入することによって、方程式(51,52)を以下のように変更する。
【0189】
【数59】

最後の式をゼロに等しくすることによって、δτipを以下のように計算することができる。
【0190】
【数60】

ここで、∠{}は複素表示の位相角度を示す。これによって、振幅および遅延補正に対する以下の反復の方程式が与えられる。
【0191】
【数61】

ここで、繰り返しは通常、τip,0=τi−1,pとし、τ0p,0=0を最初の間隔に対する初期状態として、開始する。
【0192】
方程式(57)における近似によって、方程式(17、21)におけるパワーの最大化を、固有値問題へと展開することができる。方程式(58)の場合のように遅延の分割を用いて、以下のようになる。
【0193】
【数62】

方程式(21)の関数は、以下のように変更される。
【0194】
【数63】

1iを、sikの振幅および位相に対して最大化することによって、sikが、以下の固有値問題における最大の固有値λに対する解として与えられる。
【0195】
【数64】

1iの最大値は、最適な補正遅延が固有ベクトル成分の位相から求まるように成分信号をできるだけ最良にアライメントすることによって、求まる。方程式(62)において規定されるベクトルの成分はすべて1のモジュールを有しているが、方程式(64)における固有ベクトルの成分は一般的に、1とは異なるモジュールを有している。なぜならば、Jliの大きさは、異なる成分信号に異なる重みを付すことによって、さらに大きくすることができるからである。そして固有ベクトル成分の位相から、方程式(17,62)におけるパワーを最大にする遅延補正が得られる。なお、行列$R$はエルミートであり、すなわち、$R$lm=($R$mlである。この意味は、固有値が実数で、固有ベクトルがC(複素K次元空間)に対する完全直交基底を形成する、ということである。
【0196】
方程式(57)における近似の精度、したがって方程式(64)における固有ベクトル解は、信号のバンド幅を小さくすることによって改善される。ωにおける部分和信号のフーリエ変換によって、非常に強いバンド・パス・フィルタリングが得られるため、方程式(57a)における微分と方程式(57b)における位相遅延とは、正確なものになる。しかし、位相遅延が、基本的な範囲の±πを超えることを回避するためには、やはり方程式(58)の場合のように遅延を分割することが都合が良い。その結果、以下のようになる。
【0197】
【数65】

したがって、以下の関数を最大にすることによって、遅延を決定することができる。
【0198】
【数66】

最大化によって、方程式(64)と同様に、各周波数に対する固有値問題となり、遅延補正はsikの位相から求まる。フーリエ変換に対する位相遅延は、真の遅延の正確な表現であるため、方程式(65)は、方程式(62)とは反対に十分に正確である。方程式(62)では、位相遅延は、中心周波数においてのみ取り入れられる。
【0199】
前述の解析の大部分は、複素解析的なRF要素信号が利用できること、およびこれをさらに処理して補正済み受信信号にすることに、基づいている。計算は、以下のように実行することで単純にできる。ここでは、方程式(60)における位相は、次のように計算できることに注意されたい。
【0200】
【数67】

についての積分は、以下のアンサンブル期待値の見積もりである。
【0201】
【数68】

ここで、<*>はアンサンブル平均を示し、A(t)は以下の形を取る。
【0202】
【数69】

方程式(68)の近似は、T−>∞のときに等式になる。Tが有限の場合は、アンサンブル平均のランダムな見積もり誤差が生じ、これが方程式(68)における近似記号の理由である。信号処理の教科書から、以下のことが分かる。
【0203】
【数70】

有限のTに対しては、ランダム見積もり誤差から以下の近似が得られる。
【0204】
【数71】

また以下の式にも注意されたい。
【0205】
【数72】

ここで、信号をπ/2ωだけ遅延させることでヒルベルト変換を近似することは、ω辺りを中心とする狭帯域の信号に対して適切である。方程式(71,72)を組み合わせて、以下の単純化された式を得る。
【0206】
【数73】

この式において、ヒルベルト変換またはその遅延近似は、補正されたハイ・パス・フィルタ出力に対してのみ作用するため、1つの信号に対してのみ行なわなくてはならず、動作が単純になる。同様の式を、方程式(71)の最後の部分から展開させることができる。しかしヒルベルト変換またはその遅延近似は、受信信号x(t)に対して行なわなければならないため、より多くの処理が必要となる。見積もり分散を多少減らすことが、方程式(67)のラインに沿って方程式(71)の最初および最後の式を結合することによって得られる。
【0207】
また以下の関係についても注意されたい。
【0208】
【数74】

これによって、解析信号に対する前述の作用の代わりに、複素包絡線に対する作用を利用することができる。この場合、その実部および虚部は、前述したように、標準的な直交復調器出力信号の同相および直交成分として求まる。
【0209】
超音波ビームの連続的な機械的掃引に対しては、無限インパルス応答(IIR)ロー・パスおよびハイ・パス・フィルタを用いることが興味深い。この場合、一次のロー・パス・フィルタの例を、以下のように記述することができる。
【0210】
【数75】

ここで、Tはフィルタ時定数であり、カット・オフ周波数がω=1/Tとなる。添え字kは前述と同様にパルス数を示し、イメージ信号zik(t)は、新しい送信パルスのそれぞれに対して更新される。同じ方程式構造が、解析信号およびその複素包絡線に対して成り立つ。
【0211】
次に、それぞれの新しい送信ビームに対する補正遅延τikの見積もりの再帰的方式を作成する。τimが、k−1までのmに対して与えられると仮定する。受信信号x(t)を伴う新しい送信ビーム番号kを用いて、遅延補正τikを見積もることを試みる。そしてこの見積もりは通常、簡単にするために解析信号近似を用いた関数を最小限にすることによって、行なわれる。
【0212】
【数76】

τikによる微分によって以下の式が得られる。
【0213】
【数77】

方程式(57)における近似を挿入することによって、以下の式を得る。
【0214】
【数78】

積分下の最後の項は、実数であるため、上式は以下の場合に等しいことが分かる。
【0215】
【数79】

高次のハイ・パス・フィルタは、当業者には既知であるフィルタのベクトル状態空間表現と同様の方法で、説明することができる。そして前述のラインに沿ってτikを再帰的に見積もることは、当業者であれば行なうことができる。
【0216】
線形散乱の信号を適切に抑制するためには、遅延精度として、ほとんどの超音波イメージング・システムにおいて受信RF信号のサンプリング間隔よりもはるかに小さいものが必要である。この精度は、既知の方法に基づいてサンプル間の信号を補間することによって得られる。それほど高くないが多くの場合に適切である精度が、最も近いサンプルの精度がt+$τ$ikである遅延補正と、位相補正ωδikとを組み合わせて、方程式(57)と同様に以下のように得ることができる。
【0217】
【数80】

ここで、δτik=τik−$τ$ikである。RF信号は、方程式(80)の実部である。
【0218】
図1a〜bおよび2に関連して説明される本発明による第1の方法は、現在のほとんどのデジタル・スキャナにおいて見出される受信フィルタの変更として実施することができる。または受信フィルタリングを、無線周波数(RF)信号処理経路に導入することができる。本発明による第2または第3の方法により振幅および/または遅延補正を見積もるための処理ユニットのブロック図を、方程式(14〜30,40〜42)で与えられるような本発明によるイメージ・パラメータとともに、図10に示す。連続する送信パルス合成物からの受信されたRF信号x(t)1001は、遅い時間ハイ・パス・フィルタ1002に供給されて、方程式(14)に基づいて反響抑制された線形のイメージング信号1003が生成され、またメモリ・ユニット1004にも供給されて、信号のよりフレキシブルな処理が可能になる。そして受信信号は、振幅および/または遅延補正見積り器1005に供給される。見積り器1005は、前述の方法の1つまたは同様のものに基づいて動作して、振幅および/または非線形伝搬遅延補正の正確な見積もり1006を与える。見積もられた振幅および/または非線形伝搬遅延補正は、補正ユニット1007に供給される。ユニット1007は、メモリ・ユニットから信号を取得して、振幅および/または非線形伝搬遅延に対する補正を行なう。そして補正された信号は、ユニット1008に供給される。ユニット1008は、補正された線形信号1009を、たとえば方程式(17,18)、または方程式(40)の直接解、または同様のものに基づいて抽出する。また補正された信号はユニット1010にも供給される。ユニット1010は、補正された非線形散乱の信号1011を、たとえば方程式(19,20)、または方程式(40)の直接解、または同様のものに基づいて抽出する。なお次のことに注意されたい。方程式(40〜42)と同様の方法を見積もりに対して用いた場合、遅延補正見積もりならびに線形および非線形散乱の信号の見積もりに対するパルス反響の影響は最小限になる。
【0219】
そして遅延補正された線形(1009)および非線形の(1011)信号は、見積もられた遅延補正(1006)とともに、定量的パラメータ見積もりユニット1012に供給される。見積もりユニット1012では、定量的な非線形伝搬パラメータ1015を、方程式(27)または同様のものに基づいて計算し、また定量的な非線形散乱パラメータ1016を、方程式(30)または同様のものに基づいて計算する。また遅延補正ユニット1005は、ドップラ位相1013も、たとえば方程式(24)に基づいて示すことができる。ドップラ位相1013は、ドップラ・ユニット1014に供給される。ユニット1014では、放射方向の散乱体変位1017、放射方向の散乱体速度1018、放射方向の散乱体歪み1019、および放射方向の散乱体歪みレート1020の計算値、または他のパラメータを計算する。そして信号1003,1009,1011,1015,1016,1017,1018,1019,1020は通常、さらなる処理およびディスプレイに渡されて、既知の方法に基づいて完全な超音波イメージが生成される。
【0220】
方程式(43〜46)に関連して説明した本発明による第4の方法は、非線形伝搬遅延ならびに線形および非線形散乱の信号に対する補正を見積もるために、バッチ・モードにおいてより作用する。そしてこのような見積もりを行なうためのプロセッサを、図11におけるブロック図によって表わすことができる。図11では、1101によって、入ってくる測定信号x(t)を表わす。測定信号x(t)は、振幅および/または遅延補正および見積もりユニット1102に供給される。ユニット1102は、その出力として、線形散乱の信号x(t)を1103として、非線形散乱の信号x(t)を1104として、非線形伝搬遅延に対する見積もられた補正τ(t)および振幅変化a(t)を1105として、生成する。この方法については以下のことに注意されたい。すなわち、パルス反響および非線形散乱信号が、遅延補正の見積もりに及ぼす影響は、最小限のものである。そしてx(t),x(t),τ(t),およびa(t)の見積もりは、定量的なパラメータ見積もりユニット1106に供給される。ユニット1106では、非線形伝搬パラメータ1015、非線形散乱パラメータ1016および放射方向の散乱体変位1017、放射方向の散乱体速度1018、放射方向の散乱体歪み1019、および放射方向の散乱体歪みレート1020、または他のパラメータ計算値が生成される。
【0221】
そして処理ユニットは、図9a〜bの場合のように透過および角度散乱測定に基づくトモグラフィの再構成方法に対して、および後方散乱イメージング機器を用いて、行なうことができる。図12に、本発明に基づくその最も広い意味での後方散乱イメージング機器のブロック図を示す。図12では、1201によって、高周波数(HF)および低周波数(LF)セクションを有する超音波トランスデューサ・アレイを示す。本方法のこの最も広い実施において、アレイは2次元分布の要素(高および低周波ビームの完全な電子的3D操縦が可能になる)を有しており、2Dアレイと言われる。また機器は、波面収差に対して見積もることおよび補正することの両方が可能である。しかし本方法は、後述するように、それほど複雑でないアレイとともに利用できることが明らかである。
【0222】
アレイの高周波数部分は、フル3Dイメージング応用例では、多数の要素(たとえば3000〜10,000)を有しているため、受信および送信チャンネルの数は通常、サブ・アパーチャ・ユニット1202では少ない。ユニット1202では、受信モードの場合に、複数の隣接するアレイ要素からの信号が、遅延および加算されて、サブ・アパーチャ信号1203となり、さらなる処理を受ける。収差補正の場合には、サブ・アパーチャ・グループのアレイ表面上の幅は、波面収差の相関長よりも短い。サブ・アパーチャ・グループおよび信号の典型的な数は、100〜1000であり得る。
【0223】
パルス合成物を送信する場合、HF送信ビーム形成器1204からパルスが、サブ・アパーチャ・ユニット1202に供給される。ユニット1202では、信号を遅延してHFアレイ要素のすべてまたはサブ・グループに分配する。一方で、LF送信ビーム形成器1205からは同時にパルスが、LFアレイ要素に供給される。パルス合成物の送信は、機器コントローラ1206によってトリガされる。機器コントローラは、機器バス1207を介してサブ・ユニットと通信する。
【0224】
受信サブ・アパーチャ信号1203は、ユニット1208に供給される。ユニット1208では、サブ・アパーチャ信号を遅延することが、受信ビーム方向を操縦するため、また均一な媒体が一定の平均の伝搬速度を有するという仮定の下でフォーカスするために、行なわれる。これは均一遅延と言われる。3Dビーム操縦およびフォーカシングは、疎アレイによって行なっても良い。疎アレイは、サブ・アパーチャ・ユニット1202には通常設けられていない可能性がある。1.75Dアレイを用いた場合、HFアレイ要素の数を大きく減らして、サブ・アパーチャ・ユニットを省けるようにすることができる。したがって、以下では、要素およびサブ・アパーチャ信号を同意語として用いる。
【0225】
均一遅延によって補正される要素信号1209は、ユニット1210に供給される。ユニット1210では、波面収差に対する補正を適用すること(たとえば方程式(33、34)で説明したように見積もること、または米国特許第6,485,423号明細書、米国特許第6,905,465号明細書、米国特許出願第10/894,38号明細書で説明される方法に基づいて見積もること)が、要素信号を加算して最終的な受信ビーム信号とする前に、行なわれる。3Dイメージングの場合、ずれ角度が小さい複数の受信ビームを用いて、並行する広い送信ビームをカバーする。角度的にずれているビームに対する収差補正は、中央ビームに対する補正のサイド・シフトされたバージョンであり得る。補正は、ユニット1210において角度のずれに対する均一な遅延とともに付加される。
【0226】
したがってユニット1210の出力1211は、並行する1つまたは複数の受信ビーム方向に対する1つまたは複数のRF信号であり、本発明により処理ユニット1212に供給される。処理ユニット1212では、図2、図10、図11に基づく動作の1つまたは複数を行なう。図2に基づく動作に対して、以下のことに注意されたい。高周波パルスは、低周波用圧力振動の負の空間的勾配において見出される伝搬距離の大部分に対するものであり、一方で、図10および図11で説明した方法の場合には、高周波パルスは、低周波用圧力振動のピークまたは谷に近いところで見出される伝搬距離の大部分に対するものである。
【0227】
収差補正は、ユニット1213において見積もられる。見積もりはたとえば、引用した特許および特許出願に関連して説明した方法に基づいて、あるいは方程式(33、34)に基づく方法を用いて、行なわれる。ユニット1213は、その入力として、均一に遅延補正された信号1209を、あるいは本発明によりパルス反響ノイズが抑制された最終的なビーム信号1214も、受け取る。遅延補正された要素信号1209は通常、最初に本発明による方法(通常、図2または方程式(14)に関連して説明した方法)により処理されて、パルス反響ノイズが抑制される。これは、遅延補正を見積もる前に行なわれる。なお次のことに注意されたい。移動する散乱体からの信号(たとえば、血液または心筋層に付随して見出されるものおよび米国特許第6,485,423号明細書に定められるもの)を用いると、方程式(14)に関連して説明したパルス反響ノイズを抑制する方法の機能が向上するであろう。また方程式(33,34)で与えられる個々の要素/サブ・アパーチャ信号に対する非線形伝搬遅延に基づく見積もりは、興味深い見積もり自体も示し、また引用した特許に基づくさらなる見積もりに対する開始点としても、最初の送信ビームをフォーカスするために、また繰り返し方式の開始点として、示される。
【0228】
波面収差に対する補正を見積もることが、反響ノイズが非常に抑制されたビーム形成器の出力信号1214との信号相関に基づいて行なわれる場合には、要素信号中の反響ノイズは、ビーム形成器の出力信号とは相関しない。収差補正見積もりの更新が遅いことが容認される場合には、非常に長い相関時間を用いることができるため、補正見積もりに対する要素信号中の反響ノイズの影響は無視することができる。しかし相関時間は一般に非常に短いため、収差補正を見積もる前に要素信号中の反響ノイズを抑制することも好ましい。
【0229】
ユニット1212の出力は、線形および非線形散乱の信号、2つの定量的な非線形パラメータ、およびドップラ位相および周波数データである。これは、図10および11に関連して説明した通りである。これらのデータは、イメージ構成および走査コンバータ・ユニット1216に直接供給することができる。ユニット1216では、線形および非線形散乱の信号の振幅、定量的な非線形パラメータ/信号、ならびに組織の放射方向の変位、速度、歪み、および歪みレートの、圧縮およびカラー化されたバージョンのイメージが、図10および11に与えられる出力に基づいて、示される。しかし、血液または微細気泡の放射方向の速度を測定するためには、線形または非線形散乱の信号を遅い時間ドメインにおいてさらに処理し、組織からのクラッター・エコーを抑制して血液信号を取り出すことを、既知の方法に基づくドップラ処理(ユニット1215において行なわれる)のために行なわなければならない。このユニットの出力が、イメージ構成ユニット1216に供給されて、選択され、その他の情報のイメージが重ね合わされる。ユニット1216から出力がディスプレイ1217に供給される。
【0230】
当業者には明らかであるように、図12に示した機器を多様に単純化することが、本発明の本質的な態様を機器内でやはり利用しながら可能である。たとえば、要素を上下方向に粗く分割することができる。その結果、上下方向においてビームを電子的に方向操縦することが制限されるが、やはり波面収差に対する補正および上下方向の深さによる動的なフォーカシングを得ることができる。これは、1.75Dアレイと言われることが多く、またアレイ要素の総数が、ビームを完全に3D操縦するための2Dアレイの場合よりもはるかに少ないため、サブ・アパーチャ・ユニットを取り除くことができる。疎アレイは、サブ・アパーチャ・ユニット1202を取り除くことが現実的になるように前述の数の要素を取り除く別の方法である。しかし、サブ・アパーチャ・ユニットを用いる利点は、アレイ表面に沿ってのサブ・アパーチャ・グループの寸法が波面収差の相関長よりも短い限り、見出される。
【0231】
また波面収差に対する見積もりおよび補正(すなわちユニット1210および1213)を取り除くこともでき、それでもやはり、ユニット1212における処理を行なって、前述したように、線形および非線形散乱の信号の両方などを生成することができる。したがってアレイは、さらに単純化することができる。すなわち、ビーム走査軸(方位軸)の周囲に対称的に配置した要素を、電流を生じるように組み合わせて、独立したチャンネルの数をさらに減らして、2分の1にする。これは、1.5Dアレイと言われることが多い。同様に、一次元(1D)アレイ、およびビーム方向を機械的に走査する環状アレイも用いることができる。この場合、図12のブロック図に対する唯一の変更は、サブ・アパーチャ・ユニット1202であり、収差補正ユニット1210および収差補正見積もりユニット1213は取り除く。
【0232】
したがって、複雑さが異なるかまたは複雑さが選択可能である機器が必要とされる可能性があるために、測定状況に応じて最良の性能が得られるように前述した異なる処理方法の間で選択することができる機器も必要とされる。前述した方法の番号付けは、方法の複雑さが増加すること、続いて、放射方向のイメージ・ライン当たりに必要なパルス数が増加すること、したがってイメージ当たりの時間(フレーム・レートの逆数)が増加することに、関係づけられる。本方法の優位性および欠点は、以下の通りである。
【0233】
1.本発明による第1の方法(図1a〜bおよび2に関連して説明される)では、単一の送信パルス合成物を用いた結果が得られ、また図12のユニット1212における速い時間での受信信号の無線周波数(RF)フィルタリングを通しての第1高調波の感度によるパルス反響ノイズの抑制が実現される。反響が抑制された信号は、組織と、移動する血液および組織のドップラ・イメージングとに対する既知の方法に基づいて、ならびに放射方向の歪みと、相対的な散乱体移動の歪みレート・イメージングとに対する既知の方法に基づいて、ユニット1215および1216においてさらに処理される。本方法では、非線形散乱パラメータも非線形伝搬遅延パラメータも提供されないが、すべての方法の最も高いフレーム・レートが提供される。
【0234】
2.第2の方法は、図3a〜7cおよび方程式(10〜39)に関連して説明されており、2つ以上の送信パルス合成物を各放射方向のイメージ・ラインに対して、低周波パルスの周波数および/または位相および/または振幅を各送信パルス合成物に対して変化させて、用いる。複数のパルスからの受信信号を結合することで、パルス反響ノイズが抑制され第1高調波の感度を有した第1のイメージ信号と、組織、微小石灰化、および微細気泡からの非線形散乱を表わす第2のイメージ信号を与える非線形伝搬遅延の見積もりと、第1および第2の定量的な非線形イメージ・パラメータとが得られる。3つ以上のパルスが送信されると、方程式(24)に基づいてドップラ情報も得られる。この情報は、組織(たとえば心筋層)の放射方向の移動および速度、ならびに放射方向の歪みおよび歪みレートを研究する際に非常に有用である。処理された第1および第2のイメージ信号は、ユニット1216における振幅組織/対象物イメージングと、ユニット1215におけるクラッタ・ノイズ・フィルタリングを用いた血液のドップラ・イメージングとを得るために、用いることができる。振幅組織イメージングに対しては、本方法で得られるフレーム・レートは、前述の方法1の場合よりも小さい。なぜならば、放射方向のイメージ・ライン当たり2つ以上のパルス合成物を送信しなければならないからである。一方で、ドップラ、歪み、および歪みレートのイメージングの場合には、2つの方法のフレーム・レートは同様である。第1高調波の信号を、非線形伝搬遅延を見積もるために用いる場合、遅延見積もりには、反響ノイズによって生成される誤差が生じる。一方で、それほど高くない感度で、受信信号の第2高調波成分(反響ノイズが抑制されている)から非線形伝搬遅延を見積もることができるか、または他の方法で反響ノイズを少なくして、反響ノイズによって生成される誤差が少ない状態で非線形伝搬遅延の見積もりを得ることができる。また非線形散乱によって、遅延見積もりに小さな誤差が生じる。この誤差は、第2のイメージ信号および定量的な非線形イメージ・パラメータの見積もりの精度に、影響を及ぼす。しかしこれらの誤差の場合、第2のイメージ信号を形成する際に、線形散乱の信号の抑制の低下が最小限に抑えられる。これは重要な結果である。また本発明によって、デュアル・バンド超音波トランスデューサ・アレイのデザインに対するガイドラインが提供される。このアレイでは、送信された低周波パルスの高周波パルスに対する位相が、深さに対して振動性変化を示す。これは、最大の非線形伝搬遅延を最小にすることで、小さい振幅(〜50kPa)の低周波パルスに対して、おおよその第2の非線形イメージ信号が、非線形伝搬遅延に対する補正を行なうことなく見積もれるようにするためである。
【0235】
3.第3の方法は、方程式(40〜42)に関連して説明され、低周波パルスの少なくとも3レベルの周波数および/または位相および/または振幅を伴う3つ以上の送信パルス合成物を用いて、1つの処理済み信号を生成するものである。本方法では、パルス反響ノイズを取り除くことを、非線形伝搬遅延をさらに見積もる前に行なって、パルス反響ノイズが強く抑制された線形および非線形散乱の信号を見積もる。第1の方程式(27)および第2の方程式(30)の定量的な非線形イメージ・パラメータ/信号は、方法2の場合と同様に得られる。4つ以上のパルスを用いれば、連続パルスから得られる信号間のドップラ遅延(各見積もり間隔Tに対して一定である)を見積もることができる。これは、方法2に対する方程式(24)と同様である。このドップラ遅延は、組織(たとえば心筋層)の放射方向の移動および速度、ならびに放射方向の歪みおよび歪みレートを研究する際に非常に有用である。血流速度のドップラ・イメージング(組織クラッタを取り除くためにクラッタ・フィルタが必要である)の場合、処理は、その他の方法の場合と同様にユニット1215で行なわれる。非線形の散乱の信号によって、やはり小さい誤差が非線形遅延見積もりに導入される。この誤差は、第2の非線形散乱のイメージ信号の見積もりの精度に影響を与える、しかし方法2の場合と同様に、誤差は、第2の非線形イメージ信号を形成する際に、線形散乱の信号の抑制を低下させることはない。これは、重要な結果である。本方法によって、方法2よりも低いフレーム・レートが生じる。
【0236】
4.第4の方法は、方程式(43〜46)に関連して説明され、低周波パルスの4つ以上のレベルの周波数および/または位相および/または振幅を伴う4つ以上の送信パルス合成物を用いて、一次線形散乱、一次非線形散乱、および非線形伝搬遅延の1つの処理済み信号を生成するものである。第1の方程式(27)および第2の方程式(30)の定量的な非線形イメージ・パラメータ/信号は、方法2の場合と同様に得られる。低周波パルスの周波数および/または位相および/または振幅の5つの変化を伴う少なくとも5つの送信パルス合成物を用いれば、低周波パルス位相および/または振幅の誤差、および/または5つの送信パルス間のドップラ遅延も見積もることができる。このドップラ遅延は、組織(たとえば心筋層)の放射方向の移動および速度、ならびに放射方向の歪みおよび歪みレートを研究する際に、非常に有用である。血流速度のドップラ・イメージング(組織クラッタを取り除くためにクラッタ・フィルタが必要である)の場合、処理は、その他の方法の場合と同様にユニット1215で行なわれる。非線形伝搬遅延の見積もりには、パルス反響ノイズおよび非線形散乱による影響が最小限であるため、非線形伝搬遅延、線形および非線形散乱の信号の最も正確な見積もりが、すべての方法の中で最も低いフレーム・レートのコストで行なわれる。
【0237】
本発明では、本方法のうち少なくとも2つに基づいて動作することができ、必要性に応じて最良の方法を選択することができる機器を考案する。機器は、選択をオペレータの直接制御の下で行なうことができるか、またはオペレータが制約を設定することができ、また機器が自動的に、異なる動作条件の下での制約に基づいて最良の性能に対する方法を選択する。
【0238】
オペレータが設定する制約の例は、最小限のフレーム・レートであり得る。この場合、高いパルス繰り返し周波数を用いることができる低い深さ範囲に対して、フレーム・レート制約をやはり満足する前述のリストの中で最も高い番号の方法を用いて、必要なフレーム・レートを有するできるだけ最良の性能を得ることができる。パルス繰り返し周波数を小さくしなければならないより大きな深さ範囲に対しては、機器は、前述の方法のうち、見積もり品質が低いながらもフレーム・レート制約をやはり満足するものを選択する。制約の別の例は、フレーム・レートおよび見積もり品質を組み合わせることである。この場合、範囲を大きくして中間の範囲にすると、品質は落ちるが、フレーム・レートは維持され、より大きな深さ範囲にすると、フレーム・レートは落ちるが、品質は維持される。
【0239】
また方法の選択は、イメージング様式によって自動的に決定され得る。この場合、心臓の線形的な組織イメージングに対しては、最も高いフレーム・レートに対して反響が抑制されたイメージ信号を用いる方法1を使用し、心筋層の運動を研究する場合には、機器は方法2に切り換えて、放射方向のイメージ・ライン当たり2〜4個の送信パルス合成物を使用し、心筋の運動に対して方程式(24)を利用する。血流速度をイメージングする場合には、機器は、方法2に切り換えて、放射方向のイメージ・ライン当たり8〜16個の送信パルス合成物を使用し、ユニット1215における処理を用いる。前立腺、胸部、肝臓などの静止した対象物の場合は通常、方法4を選択して、一次の線形および非線形散乱の信号、非線形伝搬遅延、および定量的なイメージ・パラメータのできるだけ最良の見積もりが得られるようにする。
【0240】
トモグラフィの再構成に対しては、本発明による処理は通常、個々の受信要素信号に対して、種々の種類の再構成アルゴリズムに基づいて信号が処理される前に行なわれる。本発明によるトモグラフィ・イメージ再構成に対する典型的な機器のブロック概略図を図13に示す。同図では、リング・アレイ1301による測定を示す。この場合、当業者には明らかであるように、他のアレイ構成(全体としてまたは部分的に機械的走査を用いてデータを収集するトランスデューサ・アレイなど)も、本発明から逸脱することなく使用することができる。アレイは、対象物1302を囲んでいる。ユニット1303では、すべての要素から自由に送信要素のグループを選択し、時間的にオーバーラップする低周波パルスおよび高周波パルス(たとえば図1a〜bおよび図3a〜bに示すもの)からなる送信パルス合成物を生成する。パルス合成物の送信は、コントローラ・バス1308を介してコントローラ・ユニット1307によってトリガされる。ユニット1304では、受信要素を、順次にもしくは並行して、または並行で順次的な方法の組み合わせで、要素のグループ全体から選択し、またユニット1305における本発明によるさらなる処理に対して要素信号を増幅してデジタル化する。このユニットは、本発明による原理に基づいて動作する。たとえば処理済み信号当たり単一パルス合成物に対して図1a〜bおよび2で説明されるもの、または処理済み信号当たり多重送信パルスに対して図10または11で説明されるものである。ユニット1305における処理によって、パルス反響ノイズ(多重散乱)が実質的に抑制された線形散乱および送信の信号、非線形散乱の信号、定量的な非線形伝搬および散乱パラメータの1つまたは複数が得られる。これらは、ユニット1206に転送されて、対象物の2Dスライスの電子化されたトモグラフィ・イメージが実現される。対象物に対して図に垂直な方向にアレイを機械的に移動させることによって、対象物の3D再構成されたイメージが得られる。
【0241】
以上、本発明の好ましい実施形態に適用される基本的な新しい特徴を図示し、説明し、示してきたが、例示した装置の形態および詳細ならびにそれらの動作において、種々の省略、置換、および変形を、本発明の趣旨から逸脱することなく当業者が行なっても良いことが理解される。
【0242】
また、実質的に同じ機能を実質的に同じ方法で行なって同じ結果を実現する要素および/または方法ステップのすべての組み合わせは、本発明の範囲内であることが、明確に意図されている。さらに次のことを認識されたい。本発明の開示された任意の形態または実施形態に関連して図示しおよび/または説明する構造および/または要素および/または方法ステップを、他の開示しまたは説明しまたは推奨する任意の形態または実施形態に、一般的なデザイン選択の問題として取り入れても良い。したがって、添付の請求項の範囲によって示されるようにのみ限定されることが意図される。
【0243】
請求項において、以下の考え方を用いる。
方程式(11)の前に最初に導入される信号x(t)、または方程式(11)において規定されるその解析的な形式x^(t)、または方程式(12,13)において規定されるその複素包絡線である受信信号。
【0244】
速い時間、および遅い時間またはパルス数座標、は、図5に関連して規定される。
遅い時間フィルタリングまたはパルス数座標に沿ってのフィルタリングは、図6a〜bに関連して規定される。
【0245】
パルス反響ノイズは、図7a〜cに関連して規定される。
トモグラフィの再構成イメージングは、図9a〜bに関連して規定される。
非線形散乱の信号は、方程式(9,11〜13,19,40〜46)において規定され線形散乱の成分が非常に抑制された高周波パルスからの非線形散乱の信号、またはその解析的な形式、またはx(t)に対するそれと同様に規定されるその複素包絡線である。
【0246】
線形散乱の信号は、方程式(9,11〜13,17,40〜46)において規定される組織内の高周波パルスの線形散乱からの受信信号、またはその解析的な形式、またはx(t)に対するそれと同様に規定されるその複素包絡線である。
【0247】
反響が抑制されたイメージング信号、または第1のイメージング信号。これらは、方程式(14,40〜46)においてまたは図2に関連して規定される。
非線形伝搬遅延は、方程式(10)に関連して規定される。
【0248】
伝搬遅延全体は、方程式(23)に関連して規定される非線形伝搬遅延およびドップラ変位遅延(ドップラ遅延)の和である。
遅延補正または非線形伝搬遅延もしくは伝搬遅延全体に対する補正が、方程式(10,17〜25,47,48)において規定される。
【0249】
第2のイメージ信号が、方程式(19,28)および方程式(40〜46)において、非線形散乱の信号として規定される。
第3のイメージ信号が、方程式(17,29)および方程式(40〜46)において、線形散乱の信号として規定される。
【0250】
振幅補正は、方程式(19,22)に関連して規定される。
見積もり間隔Tは、方程式(21,42)に関連して規定される。
第1の定量的な非線形イメージング・パラメータ、または非線形伝搬パラメータは、方程式(27)において規定される。
【0251】
第2の定量的な非線形イメージング・パラメータ、または非線形散乱パラメータは、方程式(30)において規定される。
再帰的な手順は、複数のステップに対して繰り返される計算手順であり、またパラメータの値が手順中の各ステップに対して更新される手順である。方程式(52,56,61,79)に関連して規定される。
【0252】
反復手順は、再帰的な手順と同じである。
尚、本願の国際出願の英文明細書(WO2006/009469)中にJISコードで表記できない箇所があったため、この翻訳文では代替表記を使用した、具体的には、##で挟まれた文字、例えば、#x#は、国際出願の英文明細書中では、
【0253】
【数81】

のように、xの上に^(ハット)を付けて表現されていた文字の代替標表記である。また、&で挟まれた文字、例えば、&x&は、国際出願の英文明細書中では、
【0254】
【数82】

のように、xの上に〜(チルダ)を付けて表現されていた文字の代替表記である。また、$で挟まれた文字、例えば、$x$は、国際出願の英文明細書中では、
【0255】
【数83】

のように表現されていた文字の代替表記である。なお、本文中では、上記の代替表記を用いているが、数1から数80までの数式においては、上記の代替表記ではなく、国際出願の英文明細書通りに表記されていることに注意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0256】
【図1a】低周波パルスおよび高周波パルスの両方を含む本発明による第1のタイプの送信パルスを例示する図であり、高周波パルスは低周波パルスの何らかの空間的勾配に位置決めされている。
【図1b】低周波パルスおよび高周波パルスの両方を含む本発明による第1のタイプの送信パルスを例示する図であり、高周波パルスは低周波パルスの何らかの空間的勾配に位置決めされている。
【図2】図1a〜bに示すようなパルスから得られる受信信号の深さ可変のバンド・パス・フィルタリングを用いて、どのようにしてパルス反響ノイズを高度に抑制することができるかを示す図である。
【図3a】低周波パルスおよび高周波パルスの両方を含む本発明による第2のタイプの送信パルスを例示する図であり、高周波パルスは、一例として、低周波パルスのピーク正またはピーク負の周期に配置されている。
【図3b】低周波パルスおよび高周波パルスの両方を含む本発明による第2のタイプの送信パルスを例示する図であり、高周波パルスは、一例として、低周波パルスのピーク正またはピーク負の周期に配置されている。
【図4】図3a〜bの低周波パルスによって生成される高周波パルスの前方伝搬遅れを例示する図である。
【図5】連続した送信パルスから得られる受信された高周波信号の組を、速い時間(深さ)および遅い時間(パルス数座標)の関数として例示する図である。
【図6a】遅い時間周波数座標に沿っての受信された線形および非線形の周波数ラインを例示する図である。
【図6b】遅い時間周波数座標に沿っての受信された線形および非線形の周波数ラインを例示する図である。
【図7a】パルス反響において、低周波パルスによる非線形伝搬操作が、一次散乱の信号の場合よりも、どのように少ないかを例示する図である。
【図7b】パルス反響において、低周波パルスによる非線形伝搬操作が、一次散乱の信号の場合よりも、どのように少ないかを例示する図である。
【図7c】信号内のパルス反響を抑制する方法によって生成される深さ依存性の処理ゲインを例示する図である。
【図8a】低および高周波数成分の送信用のトランスデューサ・アレイ・アセンブリを示す図である。
【図8b】低および高周波数成分の送信用のトランスデューサ・アレイ・アセンブリを示す図である。
【図8c】低および高周波数成分の送信用のトランスデューサ・アレイ・アセンブリを示す図である。
【図9a】対象物における透過および角度散乱を同時測定するための基本的なトランスデューサ・アレイおよび計測原理を例示する図である。
【図9b】対象物における透過および角度散乱を同時測定するための基本的なトランスデューサ・アレイおよび計測原理を例示する図である。
【図10】本方法を用いて得ることができる信号およびイメージ・パラメータに対する見積もりユニットを示すブロック図である。
【図11】本方法を用いて得ることができる信号およびイメージ・パラメータに対する見積もりユニットのさらに別のブロック図である。
【図12】本発明による散乱イメージング用の機器のブロック図である。
【図13】本発明による透過および角度散乱測定値からのトモグラフィ・イメージ再構成のための機器を示すブロック図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の領域における超音波散乱および/または伝搬特性をイメージングする方法であって、
a)少なくとも1つの超音波パルス合成物が、前記領域に向けて各放射方向のイメージ・ラインに対して送信され、前記パルス合成物は、時間的にオーバーラップしビーム方向が同じかまたはオーバーラップする高周波パルスおよび低周波パルスからなり、
b)イメージ信号を、高周波パルスの前方伝搬特性の低周波パルスによる非線形操作を用いるプロセスにおいて形成する方法。
【請求項2】
a)少なくともイメージ深さ範囲の一部に対する前記高周波パルスが、前記低周波パルス振動の負の空間的勾配上を伝搬することと、
b)前記高周波パルスおよび低周波パルスのビームの配置は、高周波パルスと低周波パルスとの間の位相関係が深さとともにスライドして、ある範囲において前記高周波パルスが前記低周波パルス振動のゼロまたは正の空間的勾配に沿って伝搬するように、行なわれることと、の一方または両方によって、
より深い範囲における前記高周波パルスの分解能の向上が得られ、パルス反響ノイズと高周波パルスの一次散乱の信号との周波数分離の改善が得られるようにする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記高周波パルスからの受信信号を、速い時間ドメイン(深さ時間)において少なくとも低い方の周波数を抑制するフィルタにおいてフィルタリングし、また少なくともフィルタの低い方のカット・オフ周波数を、深さとともにスライドして、各イメージ深さにおいてパルス反響ノイズが実質的に抑制された対象物からの線形散乱の高周波信号を表わす第1の信号を、イメージ信号を形成するためのさらなる処理のために生成する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記低い方のカット・オフ周波数が深さとともに変化して、近距離場では一次散乱の信号の第2高調波バンドが抽出され、遠距離場では一次散乱の信号の第1高調波バンドの少なくとも一部が抽出されて、前記第1の信号が形成されるようにする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも2つのパルス合成物を前記対象物に向けて送信することを、同じかまたはオーバーラップするビーム方向を前記領域に向けて各イメージ・ラインに対して向けて行ない、また低周波パルスの周波数および/または位相および/または振幅が、イメージ信号を形成するプロセスにおいて、各送信パルス合成物に対して変化する請求項1に記載の方法。
【請求項6】
イメージ信号を形成するプロセスにおいて、次の信号、
各イメージ深さにおいてパルス反響ノイズが実質的に抑制された対象物からの線形散乱の高周波信号を表わす第1の信号と、
非線形散乱の信号を表わす第2の信号と、
前記第2の信号と同じ深さ可変のゲインおよび超音波吸収を有する線形散乱の信号を表わす第3の信号との少なくとも1つを見積もる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の信号を、受信した高周波信号から抽出することを、パルス数座標(遅い時間)に沿ってフィルタリングして低周波の遅い時間成分を抑制してより高周波の遅い時間成分を通すステップを含むプロセスにおいて行なう請求項6に記載の方法。
【請求項8】
対象物から角度散乱されおよび/または対象物を通って伝搬した高周波信号を、音響の対象物特性のトモグラフィ・イメージ再構成に対して使用する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
対象物から角度散乱されおよび/または対象物を通って伝搬した高周波信号を、パルス反響ノイズを実質的に抑制するために処理することを、音響の対象物特性のトモグラフィ・イメージ再構成において使用する前に行なう請求項2または6に記載の方法。
【請求項10】
パルス合成物間のドップラ遅延と、高周波パルスに対する伝搬速度の低周波パルスによる非線形操作によって生成される非線形伝搬遅延との和としてのパルス間可変の全伝搬遅延を、少なくとも2つのパルス合成物からの受信した高周波信号から見積もり、また見積もった全伝搬遅延をイメージ信号を形成するプロセスにおいて使用する請求項5に記載の方法。
【請求項11】
非線形伝搬遅延を、
a)ドップラ遅延は、散乱体とトランスデューサ・アレイとの間の移動がないためにゼロであることと、
b)振幅の異なる低周波パルスを有する少なくとも3つのパルス合成物を送信して、非線形伝搬遅延およびドップラ遅延の両方を、受信した高周波信号から別個に見積もり、また見積もったドップラ遅延および/または非線形伝搬遅延をイメージ信号を形成するプロセスにおいて使用することと、の1つから明確に見積もる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記受信した高周波信号を、前記見積もった全伝搬遅延および前記非線形伝搬遅延の一方を用いて遅延補正して、遅延補正した受信信号を形成し、また対象物の局所的な非線形散乱パラメータを表わす非線形散乱の信号の見積もりである前記第2の前記信号の抽出を、前記遅延補正した信号をパルス数座標(遅い時間)に沿って結合して、前記遅延補正した高周波信号の低周波の遅い時間成分を抑制するステップを含むプロセスにおいて行なう請求項6および10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記遅延補正に加えて、受信信号を、前記第2のイメージ信号を形成するプロセスにおいて線形散乱の信号を最大限に抑制するために振幅補正する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記振幅補正を、振幅補正ベクトルはノルムが固定されているという制約の下で前記第2のイメージ信号におけるパワーを最小化することによって見積もる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
対象物の非線形伝搬パラメータを表わす非線形の前方伝搬イメージ・パラメータ/信号である第1の定量的な非線形イメージ・パラメータ/信号を、前記見積もった非線形伝搬遅延の速い時間に沿っての微分と前記送信した低周波パルスの局所的な圧力振幅の見積もりとの結合として形成する請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記受信した高周波信号を、前記見積もった全伝搬遅延および非線形伝搬遅延の一方を用いて遅延補正して、遅延補正した受信信号を形成し、また線形散乱の信号の見積もりである前記第3の信号の抽出を、前記遅延補正した信号をパルス数座標に沿って結合して、ゼロの周囲の遅い時間の周波数成分を通し他の遅い時間の周波数成分を抑制するステップを含むプロセスにおいて行なう請求項6および10または11に記載の方法。
【請求項17】
対象物の局所的な非線形散乱パラメータを表わす非線形散乱のイメージ・パラメータ/信号である第2の定量的な非線形イメージ・パラメータ/信号を、前記第2の信号の包絡線と、前記第3の信号の包絡線と、前記送信した低周波パルスの局所的な圧力振幅の見積もりとを結合することによって形成する請求項6に記載の方法。
【請求項18】
前記見積もったドップラ遅延からの1つによって、
ビームに沿っての深さの関数としてのビーム方向に沿っての対象物の放射方向の変位と、
ビームに沿っての深さの関数としてのビーム方向に沿っての対象物の放射方向の変位速度とのうちの1つまたは複数を見積もり、
ビーム方向に沿っての対象物の放射方向の機械的な歪みを、前記見積もった変位の深さ範囲に沿っての微分から見積もり、
ビーム方向に沿っての対象物の放射方向の機械的な歪みレートを、前記見積もった変位速度の深さ範囲に沿っての微分から見積もる請求項11に記載の方法。
【請求項19】
微細気泡の超音波造影剤を対象物内に導入し、前記第1および第2の定量的な非線形イメージ・パラメータ/信号の一方または両方を、対象物内の相対的な微細血管容積の見積もりと対象物を流れる流体灌流の見積もりとの一方または両方に対して用いる請求項15または17に記載の方法。
【請求項20】
反響ノイズが抑制された前記第1の信号を、波面収差に対する補正を見積もるプロセスにおいて用いる請求項2または6に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも高周波数超音波トランスデューサ・アレイは2次元分布の要素を有し、またいくつかの具体化においては、隣接する要素からの受信された高周波信号を結合してサブ・アパーチャ信号にすることができ、また要素信号またはサブ・アパーチャ信号を請求項2または6に基づいて処理して、パルス反響ノイズが実質的に抑制された新しい要素またはサブ・アパーチャの第1の信号をもたらし、前記新しい要素またはサブ・アパーチャ第1の信号を波面収差に対する補正の見積もりにおいて用いる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
非線形伝搬遅延を、前記要素またはサブ・アパーチャ信号に対して見積もり、また波面収差に対する補正を見積もるプロセスにおいて用いる請求項21に記載の方法。
【請求項23】
複数の平行な受信ビームを含む幅広い高および低周波ビームを送信して、2Dおよび3D超音波イメージングにおけるイメージ・フレーム・レートを増加させ、反響ノイズが抑制された第1の信号を前記平行な受信ビームのそれぞれに対して得る請求項2または6に記載の方法。
【請求項24】
1つの送信ビーム方向に対する収差補正を高度にフォーカスされた高周波ビームを用いて見積もり、その後に、複数の平行な受信ビームを伴う幅広い送信ビームを送信して2Dおよび3Dフレーム・レートを増加させることを、フォーカスされた送信ビームを用いて得られる見積もった収差補正から導き出される各受信ビームに対する収差補正を用いて行なう請求項20および23に記載の方法。
【請求項25】
全受信時間間隔Tをサブ間隔Tに分割し、サブ間隔は全伝搬遅延を各サブ間隔において一定と近似できるほど短く、また前記全伝搬遅延の見積もりを、前記高周波信号の遅延補正によって得られる信号の各サブ間隔におけるパワーを、前記見積もった全伝搬遅延と、前記遅延補正した信号の遅い時間座標におけるロー・パス・フィルタリングとを用いて最大にするプロセスにおいて行なう請求項10に記載の方法。
【請求項26】
前記全伝搬遅延を、トランスデューサ・アレイに最も近いサブ間隔から始まる連続したサブ間隔に対して見積もり、また間隔Tに対して受信された高周波信号を、先行する間隔Ti−1に対して見積もった全伝搬遅延を用いて補正することを、間隔TとTi−1との間の全伝搬遅延間の差を見積もる前に行ない、また間隔Tに対する全伝搬遅延に対する最終的な見積もりを前記見積もった差と間隔Ti−1に対する見積もった全伝搬遅延との和として得る請求項25に記載の方法。
【請求項27】
遅延補正の改善を、各間隔に対して見積もった遅延補正を各間隔内の点に割り当てることによって得て、また前記遅延補正の改善を、見積もった遅延補正を前記割り当てた点間で補間することを通して得る請求項25に記載の方法。
【請求項28】
サンプル点によって表わされない遅延に対して遅延補正した信号値を正確に決定するために、受信信号値をサンプル値間で補間する請求項12、16、20、25に記載の方法。
【請求項29】
遅延補正した信号値を正確に決定するために、受信信号を最も近いサンプル値を用いて遅延補正し、遅延補正と最も近いサンプル値との間の差を用いて位相補正する請求項12、16、20、25に記載の方法。
【請求項30】
前記パワーを最大にする遅延補正を、受信した高周波信号の実際の見積もり間隔T上での相関行列の最大の固有値に対する固有ベクトルの位相を、最も近いサンプルまでの以前の間隔に対して見積もった遅延補正を用いて補正することを含む手順において見出す請求項26および29に記載の方法。
【請求項31】
前記高周波信号を、前記相関行列を形成する前に、バンド・パス・フィルタリングするかまたはフーリエ変換する請求項30に記載の方法。
【請求項32】
各間隔において特定のパルスから受信された高周波信号に対する遅延補正を反復手順で見積もり、また各反復ステップにおける補正は、前記受信された高周波信号と前記遅い時間でロー・パス・フィルタリングされた信号との前記間隔上での相関関数の計算、または前記遅い時間でロー・パス・フィルタリングされた信号の速い時間での時間微分を含む動作に基づき、また相関関係に関与するすべての信号を手順中の以前のステップからの対応する遅延補正見積もりによって補正する請求項26に記載の方法。
【請求項33】
送信パルス合成物の組からの受信信号を最初に結合して、パルス反響ノイズが抑制された新しい信号の組を形成し、また前記新しい信号の組を用いて、前記伝搬遅延とパルス反響ノイズが強く抑制された線形散乱の信号および非線形散乱の信号とを見積もり、また前記第1および第3の信号を前記見積もった線形散乱の信号に等しく設定し、また前記第2の信号を前記非線形散乱の信号に等しく設定する請求項6および10または11に記載の方法。
【請求項34】
振幅が異なる低周波パルスを有する少なくとも5つのパルス合成物を送信し、また測定された受信した高周波信号を各送信パルス合成物に対して取得し、また線形散乱の信号、非線形散乱の信号、前記非線形伝搬およびドップラ遅延を、手順中の前記受信信号から見積もり、
a)受信信号を、線形散乱の信号、非線形散乱の信号、およびパルス反響ノイズの結合である信号モデルによって近似し、前記信号モデルを、前記受信信号の非線形伝搬およびドップラ遅延を表わす遅延パラメータによって規定し、
b)線形散乱の信号、非線形散乱の信号、およびパルス反響ノイズの見積もりを、測定信号に対する信号モデルの規定された意味における最良の適合を与える信号として決定して、
c)前記信号モデルと前記測定された受信信号との間の誤差を最小限にする遅延パラメータとして得られる非線形伝搬およびドップラ遅延の見積もりを行ない、
d)前記第1および第3の信号を前記見積もった線形散乱の信号に等しく設定し、また前記第2の信号を前記見積もった非線形散乱の信号に等しく設定する、請求項6および11に記載の方法。
【請求項35】
線形散乱の信号、非線形散乱の信号、およびパルス反響ノイズの見積もりを、前記測定信号に対する前記信号モデルの最小2乗法のセンスにおける最良の適合を与える見積もりとして見出す請求項34に記載の方法。
【請求項36】
送信パルス合成物間の既知のドップラ遅延またはゼロ・ドップラ遅延に対しては、所定の仕様を有する1つ少ない、すなわち少なくとも4つの超音波パルス合成物を送信して、非線形伝搬遅延のみを見積もる請求項34に記載の方法。
【請求項37】
対象物の領域における超音波非線形散乱特性をイメージングするための方法であって、
連続した少なくとも2つの超音波パルス合成物を前記領域に向けて送信し、前記パルス合成物は、時間的にオーバーラップしビーム方向が同じかまたはオーバーラップする高周波パルスおよび低周波パルスからなり、
前記送信した低周波パルスの前記高周波パルスに対する周波数および/または位相および/または振幅が、送信パルス合成物間で変化して、前記高周波パルスに対する前記対象物のパルス間で変化する音響散乱特性の非線形操作をもたらし、
前記低周波パルスおよび前記高周波パルスを、離間に配置された放射面を有する別個の超音波トランスデューサ・アレイによって生成して、前記低周波パルスの位相が、前記高周波パルスの位相に対して少なくともπラジアンだけ、実際のイメージ範囲の全体を通して変化して、前記低周波パルスにより前記高周波パルスの非線形伝搬遅延を、最大の非線形伝搬遅延を限定する高周波ビームの軸に沿っての非単調変化を行なうように生成することで、
低周波パルスの低い振幅(〜50kPa)に対しては、組織からの線形散乱の高周波信号を抑制することができ、また微細気泡からの信号を見積もることを、少なくとも2つのパルスから受信された高周波信号をパルス数座標において結合することを通して、非線形伝搬遅延に対する速い時間での補正をせずに行なうことができる方法。
【請求項38】
高周波パルスに対する前記トランスデューサ・アレイは線状アレイであり、低周波パルスに対する前記トランスデューサ・アレイは、前記高周波アレイの1つの側面に載置される1つの線状アレイ、および前記高周波アレイの各側面に1つづつ載置される2つの線状アレイの一方である請求項37に記載の方法。
【請求項39】
対象物および超音波トランスデューサ・アレイが互いに対して移動する対象物の領域における超音波散乱および/または伝搬特性をイメージングするための方法であって、
ビーム方向が同じかまたはオーバーラップする連続した少なくとも3つの超音波パルス合成物を前記領域に向けて送信し、前記パルス合成物は、時間的にオーバーラップする高周波パルスおよび低周波パルスからなり、
前記送信した低周波パルスの前記高周波パルスに対する周波数および/または位相および/または振幅が、送信パルス合成物間で変化して、前記高周波パルスに対する前記対象物のパルス間で変化する音響散乱特性の非線形操作をもたらし、
イメージ信号を、受信された高周波信号を遅い時間ドメインにおいてフィルタリングすることによって形成し、前記フィルタは、各出力サンプルに対して少なくとも3つの入力信号を遅い時間ドメインにおいて結合する方法。
【請求項40】
前記遅い時間でのフィルタは、FIRフィルタと、IIRフィルタと、時間可変インパルス応答を伴うフィルタとのうちの1つである請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記定量的な非線形イメージ・パラメータ/信号を、対象物を熱処理する間に局所的な対象物温度をモニタするプロセスにおいて用いる請求項15または17に記載の方法。
【請求項42】
前記第1のイメージ信号を、減圧中に自発的に生じるかまたは超音波造影剤として対象物内に導入される微細気泡のような高コンプライアンス対象物をイメージするために用いる請求項6に記載の方法。
【請求項43】
造影剤である微細気泡のイメージングを、リンパ排液を追跡して見張りリンパ節を見出すために用いる請求項1に記載の方法。
【請求項44】
前記非線形散乱の信号を、脂肪、または対象物の減圧中に自発的に形成されるかもしくは超音波造影剤として対象物内に導入される微細気泡のような高コンプライアンス対象物を検出しおよび/またはイメージするために用いる請求項12、33、34、36に記載の方法。
【請求項45】
前記非線形散乱の信号を、軟部組織における微小石灰沈着または結合組織のような低コンプライアンス対象物を検出しおよび/またはイメージするために用いる請求項12、33、34、36に記載の方法。
【請求項46】
処理に、受信された低周波信号を抑制してさらなる処理のために高周波信号を抽出するステップであって、前記低周波信号の抑制をフィルタにおいて行なうステップを含む請求項1に記載の方法。
【請求項47】
対象物の領域をイメージングするための超音波機器であって、
a)時間ドメインにおいてオーバーラップしビーム方向がオーバーラップした高周波パルスおよび低周波パルスからなる超音波パルス合成物を送信するための手段と、
b)少なくとも散乱された高周波信号を受信するための手段と、
c)受信された高周波信号を処理するための手段であって、前記処理が、
パルス反響ノイズが強く抑制された対象物からの線形散乱の信号の第1の非高調波成分、
対象物の局所的な非線形散乱パラメータを表わす非線形散乱の信号、
対象物の局所的な非線形伝搬パラメータ、
対象物の定量的な非線形伝搬パラメータ、
対象物の定量的な非線形散乱パラメータ、
送信および受信されたビームにおける波面収差に対する補正、
請求項20〜24に記載のパルス反響ノイズが抑制された信号を用いた波面収差に対する補正の見積もり、および
低周波パルスによって生成される高周波パルスの非線形の前方伝搬遅れを用いた波面収差に対する補正の見積もりのうちの少なくとも1つをもたらす、手段と、を含む超音波機器。
【請求項48】
処理方法が、オペレータが予め設定した制約の下で最良の性能が得られるように機器コントローラによって選択される請求項47に記載の機器。
【請求項49】
幅広いビームを複数の平行な受信ビームを伴って送信して処理し、2Dおよび3Dイメージングに対するイメージ・フレーム・レートを増加させる請求項47に記載の機器。
【請求項50】
対象物内で角度散乱されおよび/または透過する超音波からのトモグラフィ・イメージ再構成によって対象物の領域をイメージングするための超音波機器であって、
a)時間ドメインにおいてオーバーラップし対象物を通る複数の角度方向においてビーム方向がオーバーラップした高周波パルスおよび低周波パルスからなる超音波パルス合成物を送信するための手段と、
b)少なくとも対象物内で角度散乱されおよび/または透過する高周波信号を受信するための手段と、
c)受信された高周波信号を処理するための手段であって、前記処理は、以下の信号、
パルス反響ノイズが強く抑制された対象物からの線形散乱の信号の第1高調波成分、
対象物の局所的な非線形散乱パラメータを表わす非線形散乱の信号、
対象物の局所的な非線形伝搬パラメータ、
対象物の定量的な非線形伝搬パラメータ、および
対象物の定量的な非線形散乱パラメータのうちの少なくとも1つに基づいてコンピュータ・トモグラフィの再構成をもたらす、手段と、を含む超音波機器。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2008−507322(P2008−507322A)
【公表日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−522460(P2007−522460)
【出願日】平成17年7月25日(2005.7.25)
【国際出願番号】PCT/NO2005/000278
【国際公開番号】WO2006/009469
【国際公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(502275274)
【氏名又は名称原語表記】ANGELSEN,Bjorn A.J.
【出願人】(507022271)
【氏名又は名称原語表記】HANSEN,Rune
【出願人】(507022260)
【氏名又は名称原語表記】STANDAL,Oyvind
【Fターム(参考)】