説明

超音波データ処理装置

【課題】超音波ビームが走査される走査面上の深い領域において、フレーム間での注目点の変位の推定精度を高められるようにする。
【解決手段】フレーム間での第1マッチング処理の結果として、注目点の変位について整数部が演算される。第1マッチング処理の結果に対して第1サブピクセル処理を適用することによって、注目点の変位についての第1小数部が演算される。フレーム間での第1マッチング処理とは異なる第2マッチング処理の結果として、注目点の変位についての第2小数部が演算される。そして、第1小数部及び第2小数部に基づく高精度小数値が演算される。注目点の変位として、整数部及び高精度小数部に基づく実数情報を出力し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波データ処理装置に関し、特にフレーム間(あるいはボリューム間)での注目点の変位の演算に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体に対する超音波の送受波により得られたデータに基づいて超音波画像を形成する装置である。より詳しくは、超音波ビームが走査されてビーム走査面(二次元取込空間)が順次形成される。これにより送受波座標系及び送受波レートに従う受信フレーム列が取得される。個々の受信フレームは複数のビームデータで構成され、各ビームデータは複数のエコーデータにより構成される。受信フレーム列がデジタルスキャンコンバータによって表示フレーム列に変換される。表示フレーム列は表示座標系及び表示フレームレートに従うものである。デジタルスキャンコンバータにおいては、受信フレームと表示フレームとの間におけるデータ配列の相違に対応するために必要な画素群が補間処理によって生成される。走査面が深さ方向に広がるセクタ走査方式やコンベックス走査方式等が実行される場合、浅い部位よりも深い部位において実データ密度が低くなるので、浅い部位よりも深い部位において補間画素がより多く配置される。なお、超音波診断装置は超音波データ処理装置を包含する概念である。超音波データ処理装置が情報処理装置として構成されることもある。
【0003】
ところで、時系列順のフレーム列(受信フレーム列、表示フレーム列)において注目点の動きを検出するための技術としてフレーム間マッチング処理が知られている。それは、フレーム列における個々のフレーム間においてある点(注目点)の変位(二次元変位ベクトル)を演算するものである(特許文献1参照)。その手法として、ブロックマッチング法(相互相関法、最小和絶対差法、等)が周知である。それは、例えば2つの表示フレーム間で両者の相対的位置を変更しながら相関指標を演算しそれにより得られた相関指標の二次元分布においてピークをとる時の水平方向のシフト量Δx、垂直方向のシフト量Δyを特定し、それをもって変位(Δx,Δy)とするものである。ここで言うところのピークは、相互相関法では相関指標の最大値であり、最小和絶対差法では相関指標の最小値である。Δx及びΔyは、それぞれ整数値として演算される。以上のようなマッチング処理は表示フレーム列の他、受信フレーム列にも適用可能であり、その場合には受信フレーム間においてビーム走査方向(方位方向))のシフト量Δθ、ビーム深さ方向のシフト量Δrが演算される。その場合にもΔθ及びΔrはそれぞれ整数値として演算される。
【0004】
表示フレーム列を構成する各表示フレームは補間処理後のものなので、つまり表示フレームを構成する個々の画素値は基本的に補間値であって実値ではないため、その表示フレーム列に対するフレーム間マッチング処理においては変位演算精度が問題となり易い。そこで、受信フレーム列に対してフレーム間マッチング処理を適用してフレーム間における変位を求めることが望まれるが、セクタ走査やコンベックス走査等によって得られた受信フレーム列では、深い領域ほどビームデータ間隔が広がっているので、整数値を求めるマッチング処理を行った場合、特に走査方向において変位推定精度がかなり低下してしまうという問題が生じる。
【0005】
この問題に対処するためにマッチング処理に続けて公知のサブピクセル処理を適用することが考えられる。サブピクセル処理は、真のピークを推定する処理であり、整数に対する小数を求める処理である。この処理によれば整数に小数を加えてなる実数として変位を演算することが可能である。しかし、深い部位等のビーム間隔が広がってしまうところではより推定精度を高めることが望まれる。また、処理効率の観点からは状況に応じて推定方式を切り替えることが望まれる。
【0006】
なお、非特許文献1には高精度なサブピクセル推定法が記載されている。但し超音波画像への適用あるいは複数の推定法の適応的選択については記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−325686号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】清水他、画像のマッチングにおける高精度なサブピクセル推定手法、電子情報学会論文誌、d-II Vol. J84-D-II No.7, pp.1409-1418, 2001.7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、末広がりのビーム走査空間が形成され、座標変換前のデータに対して変位演算を行う場合に、特に深い部位における変位演算の精度を高めることにある。あるいは、本発明の目的は、状況に応じた相応しい変位推定法が適用されるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、深さ方向に広がる超音波ビーム走査空間を順次形成することによって取得される第1ビームデータ群と第2ビームデータ群との間で注目点の変位を演算する超音波データ処理装置において、前記第1ビームデータ群と前記第2ビームデータ群との間における第1マッチング処理の結果に基づいて、前記注目点の変位を表す整数部として、深さ方向の整数値及び走査方向の整数値を演算する整数値演算手段と、前記第1マッチング処理の結果に対して第1サブピクセル処理を適用することによって、前記注目点の変位を表す小数部として、少なくとも走査方向の第1小数値を演算する第1小数値演算手段と、前記第1ビームデータ群と前記第2ビームデータ群との間における第2マッチング処理の結果に基づいて、前記注目点の変位を表す小数部として、少なくとも走査方向の第2小数値を演算する第2小数値演算手段と、前記注目点の変位を表す高精度小数部として、前記第1小数値及び前記第2小数値に基づく高精度小数値を演算する高精度小数値演算手段と、前記注目点の変位として、前記整数部及び前記高精度小数部に基づく実数情報を出力し得る出力部と、を含むことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、第1ビームデータ群と第2ビームデータ群との間で注目点の変位が演算される。各ビームデータ群は望ましくは二次元の受信フレーム又は三次元のボリュームデータを構成するものである。変位の演算に際しては、まず第1マッチング処理が実行され、これにより整数部として、深さ方向及び走査方向についての整数値が演算される。この場合、通常、パターンマッチング法が利用され、一方のフレーム上に注目点を含むテンプレートが設定され、他方のフレーム上において検索ブロック(テンプレート相当のブロック)がその位置を変えながら順次設定され、両者間でのパターンマッチング結果が順次演算される。最良のマッチング結果を生じさせる位置として、注目点の変位の整数部が特定される。しかし、整数部だけでは特に深い部位においてビーム間隔が広がっているところで変位推定精度が大きく低下してしまう。そこで、整数部の演算結果に対してサブピクセル処理が適用されて、整数部に付加される小数部が演算される。この場合には、少なくとも走査方向について小数値が演算されるが、更に深さ方向について小数値が演算されるようにしてもよい。以上によって整数部と小数部の組合せとして注目点の変位が実数として推定されることになる。
【0012】
サブピクセル処理においては誤差の変動が認められており、それを低減することによってより高精度に変位を推定することが望まれる。そこで、本発明では、第1ビームデータ群と第2ビームデータ群との間において第1マッチング処理とは異なる第2マッチング処理を適用し、更にサブピクセル処理を適用して第2小数値を演算するようにしている。第1小数値と第2小数値とを併せて考慮すれば小数値演算上の誤差を低減できることが確認されており、そのような性質を利用して、注目点の変位をより高精度に推定するものである。第2小数値の演算は、少なくとも走査方向について行われるのが望ましいが、更に深さ方向について行われてもよい。
【0013】
望ましくは、前記第1ビームデータ群及び前記第2ビームデータ群は第1受信フレーム及び第2受信フレームを構成し、前記第1受信フレーム及び前記第2受信フレームに対して補間処理を伴う座標変換処理を実行して第1表示フレーム及び第2表示フレームを生成する変換手段を含み、前記変位演算手段は前記変換手段の前段に設けられる。座標変換処理における補間処理によって誤差が生じるため、変位の演算は座標変換処理前に行うのが望ましい。
【0014】
望ましくは、前記高精度小数値演算手段は、前記第1小数値及び前記第2小数値の平均値として前記高精度小数値を演算する。このため、第2小数値の演算に際しては、第1小数値との比較、統合によって高精度小数値が得られるように、その演算条件が定められる。望ましくはその際に半ピクセル補正処理が適用され、その場合にシフトさせる方向が第1小数値によって定められる。
【0015】
望ましくは、前記第2小数値演算手段は、前記第1ビームデータ群を半ピクセルシフトさせた補正ビームデータ群を生成する手段と、前記補正ビームデータ群と前記第2ビームデータ群との間において、前記第1マッチング処理と同じ処理としての前記第2マッチング処理を実行することにより、少なくとも走査方向の第2小数値を演算する手段と、を含む。第2小数値の演算に際しては半ピクセルシフトに相当する半ピクセル加減算処理が適用される。
【0016】
望ましくは、前記出力部は、前記注目点の変位として、前記整数部及び前記高精度小数部に基づく実数情報、及び、前記整数部及び前記第1小数部に基づく実数情報、を選択的に出力し得る。望ましくは、前記出力部は、更に、前記注目点の変位として、前記整数部を選択的に出力し得る。望ましくは、前記出力部は、少なくとも前記注目点の深さに応じて出力対象を切り替える。望ましくは、少なくともビーム間隔に応じて出力対象を切り替える。演算量と推定精度との兼ね合いにおいて演算方式を動的に切り替えるのが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、末広がりのビーム走査空間が形成される場合において、特に深い部位における注目点の変位推定の演算を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る超音波データ処理装置(超音波診断装置)の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示した変位推定部の構成例を示すブロック図である。
【図3】フレーム間におけるマッチング処理を説明するための図である。
【図4】マッチング処理の結果を示すSAD値のグラフである。
【図5】小数値を求めるサブピクセル処理(パラボラフィッティング法)を説明するための図である。
【図6】方位方向に一次元パラボラフィッティング法を適用した場合におけるSAD値の演算範囲を示す図である。
【図7】深さ方向に一次元パラボラフィッティング法を適用した場合におけるSAD値の演算範囲を示す図である。
【図8】第1小数推定部による誤差関数と半ピクセルシフトを前提とした第2小数推定部による誤差関数とを示す図である。
【図9】半ピクセル補正を伴う第2テンプレートブロックの生成を説明するための図である。
【図10】3つの推定部の動作及び出力部の動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
図1には本発明に係る超音波データ処理装置の好適な実施形態が示されている。この超音波データ処理装置は超音波診断装置として構成されている。
【0021】
プローブ10は、被検体の体表面上に当接して用いられ超音波の送受波を行うものである。プローブ10は1Dアレイ振動子を備えている。1Dアレイ振動子は複数の振動素子で構成され、それによって超音波ビームが形成され、それが電子的に走査される。本実施形態では電子セクタ走査が適用されている。その他にコンベックス走査等が適用されてもよい。それらの走査方式においては、扇状に広がる複数のビームラインが構成され、深い部位ほどビーム間隔が増大することになる。図1においてはセクタ走査面が示され、rは深さ方向を示し、θは電子走査方向を示している。走査面は繰り返し形成され、その都度、受信フレーム(複数ビームデータの配列)が構成される。
【0022】
送受信部12は送信ビームフォーマー及び受信ビームフォーマーとして機能する。送信時において、複数の送信信号がアレイ振動子に供給され、これによって送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波がアレイ振動子にて受波され、アレイ振動子から複数の受信信号が出力される。送受信部12では複数の受信信号に対する整相加算処理によってビームデータを生成する。そのビームデータは画像形成部18側へ出力される。
【0023】
変位推定部14は隣接フレーム間において注目点の変位(二次元移動ベクトル)を演算するモジュールであり、その機能は例えばソフトウエア機能によって実現される。変位推定部14の具体的内容については後に詳述するが、推定された変位の情報は必要に応じて変位補正部16、画像形成部18及び表示処理部20へ出力される。変位補正部16は、推定された変位を利用してフレームに対して補正処理を適用するものである。各画素が注目画素とされる場合、各注目画素の変位を利用して各注目画素の移動を補正によってキャンセルすることが可能となる。変位補正部16は必要に応じて設けられるものである。
【0024】
画像形成部18は、デジタルスキャンコンバータ(DSC)を含み、各受信フレームに対して座標変換処理や補間処理を適用し、表示フレームを順次生成する。この画像形成部18によってBモード画像が形成される。表示フレームは表示処理部20へ送られる。なお、画像形成部18においてフレーム相関処理が行われる場合、上記の変位の情報を利用して変位分をキャンセルしつつフレーム相関処理を行うようにしてもよい。表示処理部20は、画像合成機能を備え、変位に基づいてグラフその他の画像を形成する機能も備えている。表示部22には超音波画像が表示される。制御部24は、CPU及び動作プログラムによって構成され、図1に示される各構成の動作を制御している。入力部26は操作パネルによって構成される。
【0025】
図2には、図1に示された変位推定部14の構成例が示されている。この変位推定部14は、ブロック抽出部30、マッチング実行部32、整数推定部34、第1小数推定部36、第2小数推定部38、出力部40、サイズ決定部42及び動作制御部44を有している。サイズ決定部42は、ライン密度D1の情報に基づいてマッチング処理で参照するテンプレート及び検索ブロックのサイズを適応的に設定するものである。但し、ライン密度や深さ方向によらずにそのサイズを一定にするようにしてもよい。動作制御部44は、ブロック深さR1の情報及びライン密度D1の情報に基づいて、変位の推定方式を切り替えるものであり、具体的には、第1小数推定部36及び第2小数推定部38の動作をオンオフ制御している。出力部40においても動作の有無が参照されている。深さによって段階的に推定精度を高めるのが望ましい。浅い領域において簡易な推定方法を選択するならば演算量を削減できるから効率的である。図2に示すブロック抽出部30、マッチング実行部32及び整数推定部34は以下に説明する整数値演算法を実行するものである。第1小数推定部36は以下に説明する第1のサブピクセル推定法を実行するものである。第2小数推定部38は以下に説明する第2のサブピクセル推定法を実行するものである。それは、実際のところ、ブロック抽出部30及びマッチング実行部32に相当する機能を備えているが、図1においてはそれらについて図示省略されている。変位前のデータ及び変位後のデータが第2小数推定部38にも入力されている(図1に示す概念図においてはそれらのデータは整数推定部34及び第1小数推定部36を経由して第2小数推定部38へ送られている)。
【0026】
(1)整数値演算法:ブロックマッチング(Block-Matching)法では、変位前の基準画像(実際には受信フレーム)上において注目点を含む第1テンプレートブロックR(θ,r)が設定され、その第1テンプレートブロックR(θ,r)が変位後の画像(実際には受信フレーム)上において検索エリア中のどこに移動したかの総当り探索が実行される。図3の(A)には変位前の受信フレームの一部分が示されている。図3の(B)には変位後の受信フレームの一部分(検索エリア)が示されている。同図においては各格子点がデータ座標を示している。変位前の受信フレーム上においては、注目点を中心として所定形状をもったテンプレートブロック46が設定される。一方、後の受信フレームにおいては注目点に対応する対応点を中心として大きな検索エリアが設定され、その範囲内において検索ブロック48を各方向に1ピクセルずつ順次移動させながら(例えばラスタースキャンの実行)、マッチング処理が実行される。これにより各位置において相関指標が計算される。相関指標としては、相互相関(Cross Correlation)と、差分の絶対和(SAD: Sum of Absolute Difference)が広く知られている。ここでは以下の(1)式に示すSADを説明する。SADの値が小さいほど、相関は高いと評価される。このため、図4に示すように、SAD(Δθ,Δr)が最小値となる検索ブロックをマッチングブロック(最適位置にある検索ブロック)とし、テンプレートブロックとマッチングブロックの座標差を整数単位での推定変位(Δθ,Δr)とする(図4には方位方向についてのSAD関数が示されている)。なお、相互相関を採用する場合、それは値が高いほど、相関が高いと評価されるため、値が最大値となる検索ブロックをマッチングブロックとすることになる。以降の説明では(θ,r)は、各ブロック中心点(V0(θ,r)&V1(θ,r))の座標とする。
【0027】
【数1】

【0028】
上記(1)において、ブロックのサイズ=MB*MBであり、検索エリアのサイズ=MA*MAであり、SADのサイズ=MC*NC=(MA−MB+1)*(NA−NB+1)であり、Δθの範囲=−MC/2〜MC/2−1であり、Δrの範囲=−NC/2〜NC/2−1である。(Δθ,Δr)=SAD(Δθ,Δr)である。
【0029】
図2において、ブロック抽出部30は、変位前の受信フレームV0(θ,r)に対してテンプレートブロックを設定し、変位後の受信フレームV1(θ,r)に対して検索エリアS(θ,r)及び検索ブロックを設定するものである。マッチング実行部32は、テンプレートブロックと各位置に設定された検索ブロックとの間で相関指標としてSADを演算するものである。整数推定部34は、最良値をとるSAD(Δθ,Δr)に基づいて整数部として推定変位(Δθ,Δr)を求める。
【0030】
(2)第1のサブピクセル推定法:上記の整数値演算法で求めたSAD(Δθ,Δr)と整数単位の推定変位(Δθ,Δr)から、変位の小数部として、サブピクセル(Sub-Pixel (整数未満)) (dθ,dr)を推定する。なお、(dθ,dr)は整数成分を含まない整数未満の成分のみとする。つまり、|dθ|≦0.5、かつ、|dr|≦0.5である。
【0031】
サブピクセル推定法としては、キュービックスプライン(Cubic-Spline)補間法やパラボラフィッティング(Parabolic-Fitting)法等、多くの方式が提案されている。ここでは、最も一般的なパラフィッティング法を説明する。同法は、整数値演算法で求めたSADの分布を2次曲線と仮定することで、図5に示すように、以下の(2)式および(3)式でSub-Pixelを算出する方法である。なお、方向毎のパラボラフィッティング法に使用するSAD(Δθ,Δr)は、整数単位の変位(Δθ,Δr)前後の3個のみとなる。それらが図6及び図7に図解されている。
【0032】
【数2】

【0033】
【数3】

【0034】
図2に示した第1小数推定部は以上の演算を行うものである。推定結果として、変位の小数部(dθ,dr)が得られる。
【0035】
(3)第2のサブピクセル推定法(高精度サブピクセル推定法、半ピクセル補正法):上記の伝統的なサブピクセル推定では何れの方式でも、整数単位もしくは±1/2に偏る誤差(Pixel-Locking現象と呼ばれる)が含まれる。これに関し、図8に示すように、第1テンプレートブロックでの推定誤差と、正負に0.5ピクセル並進した第2テンプレートブロックg(m,n)によるサブピクセル推定誤差は、ほぼ正負対称となる。半ピクセル補正は、この特性を利用し、整数値演算法及び上記サブピクセル推定法の適用による第1テンプレートブロックによるサブピクセル推定値dθと、第2テンプレートブロックによるサブピクセル推定値dθとを平均し、サブピクセル推定誤差を低減するものである。手順は以下の通りである。
【0036】
まず、±0.5並進した第2テンプレートブロックg(m,n)を作成する。それが図9に示されている。第1小数部dθが負なら、正側へ+0.5並進させた第2テンプレートブロックを線形補間処理により生成する(図9の(A))。第1小数部dθが正なら、負側へ―0.5並進させた第2テンプレートブロックを線形補間処理により生成する(図9の(B))。図9の(C)には変位後の受信フレームが示されている。上記処理を数式で表現すれば以下の(4)式となる。
【0037】
【数4】

【0038】
次に、第2テンプレートブロックg(m,n)を用いて、相関指標を計算する。その場合、整数値演算法で利用した相関指標と同じ相関指標を用いる。上記の例ではSADが利用されていたのでここではSADが演算される。すなわち、以下の(5)式が演算される。ちなみに、演算量の削減の観点からは、距離方向(深さ方向)については整数値演算法で求められたΔrをそのまま用い、方位方向Δθの近傍のみで探索を行うのが望ましい。パラボラフィッティング法によるSAD(Δθ)はΔθ=[−1,0,+1]の3個のみでよいので、その意味で半ピクセル補正法の適用にする処理時間の増加はあまり大きくはない。
【0039】
【数5】

【0040】
続いて、第2テンプレートブロックg(m,n)のサブピクセルdθを計算する。この場合には上記のサブピクセル推定法と同じ推定法が用いられる。すなわち、本例ではパラボラフィッティング法が利用され、以下の(6)式が演算される。
【0041】
【数6】

【0042】
次に、以下の(7)式に示すように、±0.5並進した分を差し引き、|dθ|≦0.5とする。この段階で、dθとdθの間の誤差は、ほぼ正負対称となる(図8参照)。
【0043】
【数7】

【0044】
以上の(4)式から(7)式までを実行するのが図2に示した第2小数推定部38である。
【0045】
図2に示した出力部40は、図10に示される条件に従って出力を合成あるいは選択する。すなわち、第1の場合には、整数推定部のみが機能し、それによって推定された整数部が最終的な出力となる。例えば、浅い領域、ビーム密度が大きい領域についてこの条件が適用される。第2の場合には、整数推定部及び第1小数推定部が機能し、それによって推定された整数部及び第1小数部が合成された上で出力される。例えば、中間領域、ビーム密度が中程度の領域についてこの条件が適用される。図10においては、方位方向及び深さ方向の両方向について整数値に小数値が付加されている。但し、一方方向だけについて小数値の演算、付加を行うようにしてもよい。第3の場合には、整数推定部、第1小数推定部及び第2小数推定部の3つが機能する。特に、第1小数値と第2小数値の平均値が演算され、それは高精度小数値と言いうるものである。整数値に高精度小数値が付加され、それが出力とされる。例えば、深い領域、ビーム密度が小さい領域についてこの条件が適用される。図10に示す例では方位方向について高精度小数値が演算されているが、両向についてそのような演算を行うようにしてもよい(図2においては両方向について第2小数値が演算されている)。
【0046】
上記実施形態は二次元データに対する処理であったが三次元データに対して上記同様の処理を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
14 変位推定部、34 整数推定部、36 第1小数推定部、38 第2小数推定部、40 出力部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
深さ方向に広がる超音波ビーム走査空間を順次形成することによって取得される第1ビームデータ群と第2ビームデータ群との間で注目点の変位を演算する超音波データ処理装置において、
前記第1ビームデータ群と前記第2ビームデータ群との間における第1マッチング処理の結果に基づいて、前記注目点の変位を表す整数部として、深さ方向の整数値及び走査方向の整数値を演算する整数値演算手段と、
前記第1マッチング処理の結果に対して第1サブピクセル処理を適用することによって、前記注目点の変位を表す小数部として、少なくとも走査方向の第1小数値を演算する第1小数値演算手段と、
前記第1ビームデータ群と前記第2ビームデータ群との間における第2マッチング処理の結果に基づいて、前記注目点の変位を表す小数部として、少なくとも走査方向の第2小数値を演算する第2小数値演算手段と、
前記注目点の変位を表す高精度小数部として、前記第1小数値及び前記第2小数値に基づく高精度小数値を演算する高精度小数値演算手段と、
前記注目点の変位として、前記整数部及び前記高精度小数部に基づく実数情報を出力し得る出力部と、
を含むことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記第1ビームデータ群及び前記第2ビームデータ群は第1受信フレーム及び第2受信フレームを構成し、
前記第1受信フレーム及び前記第2受信フレームに対して補間処理を伴う座標変換処理を実行して第1表示フレーム及び第2表示フレームを生成する変換手段を含み、
前記変位演算手段は前記変換手段の前段に設けられた、ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の装置において、
前記高精度小数値演算手段は、前記第1小数値及び前記第2小数値の平均値として前記高精度小数値を演算する、ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の装置において、
前記第2小数値演算手段は、
前記第1ビームデータ群を半ピクセルシフトさせた補正ビームデータ群を生成する手段と、
前記補正ビームデータ群と前記第2ビームデータ群との間において、前記第1マッチング処理と同じ処理としての前記第2マッチング処理を実行することにより、少なくとも走査方向の第2小数値を演算する手段と、
を含むことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の装置において、
前記出力部は、前記注目点の変位として、前記整数部及び前記高精度小数部に基づく実数情報、及び、前記整数部及び前記第1小数部に基づく実数情報、を選択的に出力し得る、ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記出力部は、更に、前記注目点の変位として、前記整数部を選択的に出力し得る、ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項7】
請求項5又は6記載の装置において、
前記出力部は、少なくとも前記注目点の深さに応じて出力対象を切り替える、ことを特徴とする超音波データ処理装置。
【請求項8】
請求項5又は6記載の装置において、
前記出力部は、少なくともビーム間隔に応じて出力対象を切り替える、ことを特徴とする超音波データ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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