説明

超音波トランスデューサ、超音波探触子および超音波撮像装置

【課題】簡単な構造で超音波送受信の性能を向上させることができる超音波トランスデューサ、超音波探触子および超音波撮像装置を提供する。
【解決手段】超音波トランスデューサは、基板1上に形成した下部電極2(第1の電極)の上に、内部に空隙4を有する内側ダイヤフラム層5aを形成し、その上に上部電極3(第2の電極)、外側ダイヤフラム層5bを順に形成し、さらに外側ダイヤフラム層5bの上にダイヤフラムの対向する頂点間を結ぶ梁7を形成したものである。下部電極2と上部電極3とは、内部に空隙4を有する内側ダイヤフラム層5aを介して対向し、コンデンサを構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤフラム型の超音波トランスデューサ、超音波探触子および超音波撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を送受信するトランスデューサの主流は、PZT(lead zirconate titanate; チタン酸ジルコン酸鉛)に代表されるセラミックス系の圧電素子の圧電効果および逆圧電効果を利用して、超音波の送信および受信を行うタイプのトランスデューサである。この圧電セラミックス系超音波トランスデューサは現在も、実用に供されている超音波トランスデューサの大半を占めているが、これを置き換えるべく、半導体マイクロ加工技術によるマイクロメートルオーダの構造を有する微細なダイヤフラム型の超音波トランスデューサの研究開発が1990年代より始まった(非特許文献1参照)。
【0003】
そのトランスデューサ(超音波トランスデューサ100p)の典型的な構造は、図40の断面摸式図に示したように、空隙4を挟んで基板1と平坦な外側ダイヤフラム層5bの双方に設けられた下部電極2(基板側の電極。単に電極2ともいう。)および上部電極3(外側ダイヤフラム層5b側の電極。単に電極3ともいう。)がコンデンサを形成するものである。
なお、説明の便宜上、超音波トランスデューサ100pが超音波を受信する方向(図40の下方向)をz方向とし、図40の右手方向をx方向とし、さらに、図40の紙面に対しての垂直下方向をy方向とする。
【0004】
図40に示したように、この電極2,3間に電圧を印加すれば、両電極上に反対符号の電荷が誘起され、互いに引力を及ぼしあうので、外側ダイヤフラム層5bが変位する。このとき、外側ダイヤフラム層5bの外側が水や生体に接していれば、これらの媒体中に音波を放射する。これが送信における電気・音響(超音波)変換の原理である。一方、DCバイアス電圧を印加して電極2,3上に一定の電荷を誘起しておき、外側ダイヤフラム層5bの接している媒体から強制的に振動を加え、外側ダイヤフラム層5bに変位を与えると、変位に対応する電圧が両電極2,3間に付加的に生ずる。この受信における音響(超音波)・電気変換の原理は、可聴音域のマイクロフォンとして用いられているDCバイアス型コンデンサマイクロフォンの原理と同じである。
【0005】
また、超音波ビームの形成においては、上記トランスデューサを多数並べ、図43のようにアレイ化して使用する。図43では、複数個の六角形の超音波トランスデューサ100を超音波トランスデューサ間の結線13で電気的に結合し、図示した破線20で区画される一つのチャンネルを形成している。超音波トランスデューサを用いて超音波パルスの送受信を行い、エコー信号から対象物の断層像を画像化する場合において、超音波トランスデューサの電気・機械変換効率の周波数特性が平坦であるほど、時間軸上のパルス幅が狭くなり高分解能となる。また、超音波トランスデューサから対象までの距離に応じて異なる周波数を選択できるなど、装置の制御方法の自由度が広がる利点がある。このため、図44に示すように、径の異なるダイヤフラムを有する超音波トランスデューサ100を超音波トランスデューサ間の結線で繋いで1つの素子14として同時に駆動して、広帯域化を図る方法が特許文献1に開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、膜の中央部分を補強層(stiffing layer)によって補強した容量性超音波トランスデューサが提案されている。
さらに、特許文献3では、膜の厚さ寸法内に、絶縁層部分と上部電極とを配置したものを、キャビティの上方に配置した音響トランスデューサが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,870,351号明細書
【特許文献2】米国特許第6,426,582号明細書
【特許文献3】米国特許第6,271,620号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】“A surface micromachined electrostatic ultrasonic air transducer”, Proceedings of 1994 IEEE Ultrasonics Symposium, pp.1241-1244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の技術において、図44に示すように、大きさが異なる多角形や、円形のダイヤフラムを敷き詰めて超音波探触子を構成した場合には、超音波トランスデューサ間に必ず隙間が生じる。この隙間によって、以下の二つの理由により、超音波探触子の性能を劣化させてしまうという問題が生じてしまう。まず、有効な素子面積が減少することによって、実効的な送受波の感度が低下する。また、ダイヤフラムが形成されていない素子部分が超音波探触子の送受波口径中に露出していると、その部分から基板内に入った音が残響音の原因となり、診断画像上の虚像の原因となる。残響音に関しては、ダイヤフラムから、ダイヤフラムが形成されていない部分を通って、伝播した超音波が隣接する超音波トランスデューサの端で反射され、再び元のダイヤフラムに戻ってくることも、その原因となりうる。
【0010】
また、一般に、トランスデューサアレイにおいては、個々の超音波トランスデューサの大きさは、超音波の回折などを考慮した配置間隔から上限が決まり、所要の放射効率を得られる放射インピーダンスを確保する観点から下限が決まる。したがって、設計に当たっては、これらの超音波トランスデューサの大きさは、通常、狭い範囲から選ばれることとなる。
【0011】
さらに、前記従来の静電型トランスデューサ(非特許文献1記載)では、半導体製造技術を利用しているので、製造工程において、ダイヤフラムの平面形状に応じたマスクを使用する。そして、ダイヤフラムの周波数特性を変更する一方法に、その大きさ(平面形状)を変える方法がある。しかし、これを行うには、新たにマスクを設計および製造する必要がある。このため、手間と費用がかかり、製造効率が低下する問題点があった。
【0012】
また、ダイヤフラムの周波数特性を変更する他の方法に、ダイヤフラムの厚さを変える方法がある。しかし、前記したように、ダイヤフラムの大きさは狭い範囲に制限されるため、所望の中心周波数を得るためのダイヤフラムの厚さは、ほぼ一意に決まってしまう。そして、ダイヤフラムの大きさおよび厚さから、この超音波トランスデューサの感度および比帯域幅が決まってしまう。このため、所望の周波数特性、すなわち、中心周波数および比帯域幅の組み合わせが実現できない問題点があった。
【0013】
さらに、前記従来の容量性超音波トランスデューサ(特許文献2参照)では、ダイヤフラムを補強層(stiffing layer)で補強しているが、補強層を設けることにより所望の中心周波数を得たとしても、比帯域幅は自動的に決まってしまい、所望の周波数特性が実現できない問題点があった。
【0014】
さらに、前記従来の音響トランスデューサ(特許文献3記載)では、上側電極をダイヤフラム内に設けているため、感度の向上を図ることができるとしても、同様に所望の周波数特性を得るための手段は提供されていない問題点があった。
また、一枚の平坦なダイヤフラムでは、励起される振動モードと、振動モードごとの振動周波数が決まってしまい、同様に所望の周波数特性が得られない問題点があった。
【0015】
そこで、本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で超音波送受信の性能を向上させることができる超音波トランスデューサ、超音波探触子および超音波撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明に係る超音波トランスデューサは、その内部または表面に第1の電極を有する基板と、その内部または表面に第2の電極を有するダイヤフラムとを、空隙を介して配置している。
そして、ダイヤフラムまたは第2の電極の表面または内部に、少なくとも1つの梁を具備している。
その他の手段については、後記する実施の形態で説明する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、簡単な構造で超音波送受信の性能を向上させることができる超音波トランスデューサ、超音波探触子および超音波撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態の超音波撮像装置の構成例を示す図である。
【図2】ダイヤフラム間の距離とパルス波形の関係を説明する図である。
【図3】ダイヤフラム間の距離と反射波形の関係を説明する図である。
【図4】ダイヤフラム間の距離と反射波形の強度を説明する図である。
【図5】第1実施形態の超音波探触子を示す上面図である。
【図6】第1実施形態の半導体ダイヤフラム型の超音波トランスデューサの構造を示す図である。
【図7】第1実施形態の半導体ダイヤフラム型の超音波トランスデューサの上面図である。
【図8】第1実施形態の半導体ダイヤフラム型の超音波トランスデューサの上面図である。
【図9】広帯域化した周波数帯域の利用形態の説明図である。
【図10】モードによって電気的な1素子の幅を切り替えて使うための超音波トランスデューサである。
【図11】焦点までの距離に応じて副素子の束ね方を切り替える効果の説明図である。
【図12】副素子束ね切替スイッチと周辺部分の説明図である。
【図13】第1実施形態のトランスデューサアレイの上面図である。
【図14】第1実施形態の半導体ダイヤフラム型の超音波トランスデューサの断面摸式図である。
【図15】電気的な1素子の幅を切り替えて使うトランスデューサアレイの上面図である。
【図16】第2実施形態の超音波トランスデューサの上面図である。
【図17】第2実施形態の超音波トランスデューサの断面摸式図である。
【図18】第3実施形態の超音波トランスデューサを示す垂直断面図である。
【図19】第3実施形態の超音波トランスデューサを示す平面図である。
【図20】トランスデューサアレイを示す斜視図である。
【図21】超音波トランスデューサの周波数−感度特性例を示すグラフである。
【図22】梁の屈曲状態を示す模式図である。
【図23】振動体と、比較例の振動体とを模式的に示す斜視図である。
【図24】振動体の梁の幅を、ベースの幅の20パーセントとしたときの共振周波数および比帯域幅の計算結果を示すグラフである。
【図25】振動体の梁の幅を、ベースの幅の80パーセントとしたときの共振周波数および比帯域幅の計算結果を示すグラフである。
【図26】変形例の梁を模式的に示す斜視図である。
【図27】別の変形例の梁の形状を示す斜視図である。
【図28】第4実施形態の超音波トランスデューサを示す垂直断面図である。
【図29】第5実施形態の超音波トランスデューサを示す垂直断面図である。
【図30】第6実施形態の超音波トランスデューサを示す垂直断面図である。
【図31】第7実施形態の超音波トランスデューサを示す垂直断面図である。
【図32】第7実施形態の超音波トランスデューサの動作を模式的に示す垂直断面図である。
【図33】第8実施形態の外側ダイヤフラム層を示す平面図である。
【図34】第9実施形態の超音波トランスデューサを示す平面図である。
【図35】第10実施形態の超音波トランスデューサを示す平面図である。
【図36】第11実施形態の超音波トランスデューサを示す平面図である。
【図37】第12実施形態の超音波トランスデューサを示す平面図である。
【図38】第13実施形態の超音波トランスデューサを示す垂直断面図である。
【図39】第14実施形態の超音波トランスデューサを示す平面図である。
【図40】比較例(従来例)の超音波トランスデューサを示す垂直断面図である。
【図41】縦横比が1:2の矩形の平面形状を有するダイヤフラムの周波数−感度特性を示すグラフである。
【図42】第3実施形態の超音波トランスデューサ100および比較例の超音波トランスデューサ100pの水中における周波数特性を示したグラフである。
【図43】トランスデューサアレイの上面図である。
【図44】径が異なるダイヤフラムを並べた超音波トランスデューサの説明図である。
【図45】ダイヤフラム間を反射する超音波の経路を説明する図である。
【図46】ダイヤフラムの隙間から基板に入った超音波によるノイズ生成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明による各実施形態について、図1〜図42、図44〜図46を参照しながら、詳細に説明する。
なお、以下では、電気と超音波の変換器を超音波トランスデューサ、複数の超音波トランスデューサをアレイ状に集めたものをトランスデューサアレイ、複数のトランスデューサアレイを有して被検体に超音波を送受信するものを超音波探触子と呼ぶ。また、超音波探触子、画像作成部(超音波探触子によって得られた信号から画像を作成する手段)、表示部(画像を表示する手段)、制御部などを備えた超音波による撮像装置を、超音波撮像装置と呼ぶ。
【0020】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の超音波トランスデューサを用いた超音波撮像装置の構成例を示す図である。この図1を用いて、超音波撮像装置の動作を説明する。
【0021】
送信遅延・重み選択部203は、予めプログラミングされた送受信シークエンス制御部201の制御に基づき、送波ビームフォーマ204に与えるための各チャンネルの送信遅延時間、重み関数の値を選択する。これらの値に基づいて、送波ビームフォーマ204は送受波を切り替えるための複数のスイッチ205を介して、電気・音響変換素子101に送波パルスを与える。このとき、電気・音響変換素子101にはバイアス電圧制御部202によって、バイアス電圧も印加されており、その結果、電気・音響変換素子101から、ここには図示しない被検体に対して超音波が送波される。
【0022】
そして、被検体内の散乱によって反射した超音波の一部は、再び電気・音響変換素子101で受信される。送受信シークエンス制御部201では、送波を行うタイミングから所定の時間が経過した後に、今度は受波ビームフォーマ206を、受信モードを起動するように制御する。前記の所定の時間とは、例えば、被検体の深さ1mmより深いところから画像を取得する場合には、1mmを音が往復する時間のことである。送波直後に受信モードに入らないのは、通常、送信する電圧の振幅に対して、受信する電圧の振幅は100分の1から1000分の1と極めて小さいからである。受波ビームフォーマ206では、いわゆるダイナミックフォーカスと呼ばれる、反射超音波の到達時間に応じて、連続的に遅延時間と重み関数の制御を行う。ダイナミックフォーカス後のデータは、画像作成手段、例えば、フィルタ207、包絡線信号検出器208、スキャンコンバータ209で画像信号に変換されたあと、表示部210に超音波断層像として表示される。
【0023】
超音波トランスデューサを様々な用途で実用化する際に重要となる基本的特性の一つは、中心周波数と比帯域幅で表される周波数特性である。中心周波数fは、電気・機械変換効率(感度)が最も良い周波数のことである。また、比帯域幅fは、例えば3dB幅といった場合には、中心周波数での感度から3dB落ちた二つの周波数の間隔を中心周波数で割ったものとして定義される。比帯域幅は広いほど、一つの超音波トランスデューサを様々な周波数帯に用いることができ、あるいは時間幅の短い超音波パルスを形成できるため、超音波ビームを用いた撮像の場合には高い距離分解能が得られるなどの有益な特性が得られる。ダイヤフラム型の超音波トランスデューサにおける中心周波数fは、ダイヤフラムの共振周波数とほぼ等しい値となるので、ダイヤフラムの剛性をD、質量をmとすると、次式(1)で表わされ、比帯域幅fは次式(2)で表わされる。
【0024】
【数1】

【0025】
振動ダイヤフラムの剛性および質量は、材料が固体の場合、振動ダイヤフラムの形状とその寸法、および振動ダイヤフラムの厚さによって決定される。したがって、原理的には適切な振動ダイヤフラムの形状と厚さを決定することによって、望みの周波数特性が得られることになる。しかし中心周波数、感度の最大値、比帯域幅と三つのパラメータを最適化するのに、Dとmの二つの設計自由度だけでは不足することになる。
【0026】
通常の2次元断層像を撮像する超音波撮像装置用の超音波探触子は、断層面に垂直な方向(短軸方向)は音響レンズによる固定フォーカスで、断層面に沿った方向(長軸方向)に振動子をアレイ化して並べ、電子フォーカスで断層面内の所望の位置に超音波ビームをフォーカスするように構成されている。そして、良好な超音波ビームを形成するには、ビームの中心周波数での波長の半分程度の幅で超音波トランスデューサをアレイ化することが理想的であり、例えば中心周波数が5MHzでは、0.15mm程度の幅でアレイ化される。短軸方向では、超音波トランスデューサの幅が広いほど焦点でのビーム幅は狭くなり、空間分解能の高い断層像を得ることができるが、短軸の固定フォーカスの焦域があまり狭いと、長軸の電子フォーカスでフォーカス域を制御するのが難しくなる。また患者の肋骨の隙間など、患部に押し当てて操作する場合の使い勝手の観点からも、短軸幅は7〜8mm程度が望ましい。
【0027】
つまり、電気的な1つの素子の大きさは7〜8mm×0.15mm程度であるので、例えばダイヤフラムの直径が50μm程度の場合には、150×3=450個のダイヤフラムが電気的な1素子の中に並べられた状態で使うことになる。この数百個のダイフラムそれぞれの形状、材質を変えると、電気的な1素子全体での比帯域幅をより自由に設計できるようになる。原理的には形状、材質に関して自由度があるが、実際の半導体プロセスでは、基板の上に順に層構造を作製していくので、隣接する超音波トランスデューサ毎に材質を変えることは現実的でなく、ダイヤフラムの厚さを変えることも難しい。結果として、ダイヤフラムの直径を変えることによって所望の比帯域幅を設計するのが最も現実的な方法である。
【0028】
米国特許第5,870,351号明細書(特許文献1)には、図44に示すように、電気的に結合された一つの素子の中にダイヤフラムの径が異なる六角形を多数並べた例が示されている。しかし、直径が異なる円や多角形で領域を敷き詰めた場合には、充填効率が下がってしまうという問題がある。これは、(ダイヤフラムの面積)/(素子全体の面積)の比率が低下して感度が低下するという問題以上に、素子のパルス特性に大きな影響を与える。このパルス特性の劣化について、図45を用いて説明する。図45に示すように、大きさの異なる六角形のダイヤフラムを複数配置した場合には、着目しているダイヤフラムから、ダイヤフラムの形成されていない部分を通り、着目したダイヤフラムの周囲のダイヤフラムの端面で反射され再び着目ダイヤフラムに超音波が戻ってくる経路(図中の矢印)の長さが、単一の大きさの六角形ダイヤフラムを敷き詰めて形成されたアレイの場合に比べ、長くなる。
【0029】
図2は、着目するダイヤフラムと隣接ダイヤフラムとの間の距離を変えたときの、超音波受波パルス特性を有限要素法によってシミュレーションした結果を示すグラフである。ここでは、ダイヤフラムの幅は60μm、長さは無限の二次元モデルの例を扱っている。ダイヤフラムの材料は窒化シリコン(SiN)で、厚みは1.2μmである。アレイの前面から到達する超音波は、中心周波数10MHzの正弦波で、サイクル数は1周期分である。横軸は時間であり、アレイの前面から到達する超音波パルスがダイヤフラム表面に到達した時間を原点にとっている。縦軸は、ダイヤフラム中心部分の垂直方向への速度である。4つのグラフは、隣接ダイヤフラム間の距離が、それぞれ5μm、20μm、40μm、60μmの場合を示している。
【0030】
図2から、隣接ダイヤフラム間の距離を広げるに従い、パルス幅が広がっていることがわかる。隣接ダイヤフラム間の距離が5μmのときは、ほぼ外部から到達した超音波波形と同様なダイヤフラムの変形となっており、ダイヤフラム中心部分は1周期分の正弦波の振動をしたあと(約0.1マイクロ秒後)、振動振幅が急速に小さくなり、パルス幅は狭く、超音波からダイヤフラムの変形へ変換する伝達関数の周波数特性はほぼ平坦である。一方、隣接ダイヤフラム間の距離が広がるに従い、パルス波形が伸びている。隣接ダイヤフラム間距離が60μmでは、隣接ダイヤフラム間距離が5μmの場合に比べ、パルス幅がほぼ1.5倍に伸び、このような条件のアレイを用いた場合には空間分解能が劣化することを示している。
【0031】
図3は、隣接ダイヤフラム間距離が20μm、40μm、60μmの場合の受波パルス波形から、隣接ダイヤフラム間距離が5μmの場合の受波パルス波形を差し引いた波形を示すグラフである。隣接ダイヤフラムからの反射波の影響がほぼ無い条件である、隣接ダイヤフラム間距離が5μmの受波波形と比べることで、隣接ダイヤフラムからの反射波を抽出することができる。この隣接ダイヤフラムからの反射波が、隣接ダイヤフラム間距離に応じて大きくなっていることが顕著に示されている。
【0032】
この反射波の絶対値の積分値を縦軸にとり、隣接ダイヤフラム間距離を横軸にとったグラフが図4である。縦軸は、元の受波波形の絶対値の積分値で規格化してある。縦軸の値が、反射波の影響がほぼ無視できる0.1以下になるのは、隣接ダイヤフラム間距離が10μm以下であることが示されている。これは、シリコン内を伝播する音速が8000m/sであることを考えると、10MHzでの超音波の波長が800μmであるから、波長の1/80以下という条件であることがわかる。
【0033】
複数のダイヤフラム型の超音波トランスデューサを電気的に結合して構成される1つの素子としての超音波トランスデューサの領域にダイヤフラムが形成されていない領域が存在すると、以下に示す過程によってもパルス特性が劣化する。図46はダイヤフラムの隙間から基板に入った超音波がノイズを生成するメカニズムの説明図であり、(a)はダイヤフラムとその周辺の断面模式図、(b)は受波電圧信号の時間変化を表す図である。
【0034】
図46(a)に示すように、ダイヤフラムの上の方からくる超音波パルスを受信する場合を考えると、まずダイヤフラムに直接入射した超音波パルスAは、図46(b)の横軸時間、縦軸受波電圧信号のグラフ上のAで示されるように電気信号に変換される。一方、ダイヤフラム間の隙間の領域に到達した超音波パルスBは、図46(a)の経路a,b,cに示すように、基板内で多重反射を繰り返しながら、ダイヤフラムのリム部を通ってダイヤフラムに到達する。この経路a,b,cを通った超音波パルスも、ダイヤフラムを変形させて電気信号に変換され、図46(b)に示す波形B,B’,B”として、電気信号上に現れる。
【0035】
超音波撮像装置においては、血管の内部構造を観察する場合など、血管外の組織部と血管の内腔のように、互いに反射率強度が40dBから60dBも異なるような部位を観察するために、輝度の圧縮を行って広いダイナミックレンジで画像化している。そのため、BやB’などのエコーが微弱なものであっても、血管周辺の組織からの反射信号Aに、時間が遅れたBやB’のエコーが伴うと、これが血管内部の像として観察され、血管内のプラーク(かたまり)なのか、Bなどの虚像なのか区別できなくなってしまう。通常の超音波撮像装置の画像のダイナミックレンジから判断すると、反射信号Bの振幅は反射信号Aの振幅に比べて、1000分の1、すなわち−60dB程度まで小さく抑える必要がある。前述のように、ダイヤフラムの隙間の長さを波長の1/80程度まで短くすれば、隙間を介しての音の伝播効率が低下して、Bの様な残響音の影響が問題とならなくなってくる。この経路aでウエハ内に入る超音波の大きさを十分に小さくしておけば、経路bの多重反射の反射率を十分に小さくできなくても、Bの残響音を小さくできるので、結果として、経路bの多重反射の反射率に大きな影響を与えるウエハと背面材料の接着剤の厚みや材質に関する選定の自由度が増え、製造工程の取り得る自由度が向上する。
【0036】
本実施形態では、このダイヤフラムの隙間の面積を最小化しつつ、互いに異なる共振周波数を持たせて比帯域幅を拡大するのに適したダイヤフラムの形状および構造を採用する。
【0037】
図5は、本実施形態の超音波探触子の一例を示す図であり、超音波探触子を構成する半導体ダイヤフラム型トランスデューサアレイの一部を示す上面図である。図6は、図5に示したアレイ中の一つのダイヤフラム型の超音波トランスデューサを切断し、斜め上方から観察した様子を示す断面模式図である。
【0038】
個々のダイヤフラム型の超音波トランスデューサは、図6に示すように、基板1上に形成した下部電極2(第1の電極)の上に、内部に空隙4を有する内側ダイヤフラム層5aを形成し、その上に上部電極3(第2の電極)、外側ダイヤフラム層5bを順に形成し、さらに外側ダイヤフラム層5bの上にダイヤフラムの対向する頂点間を結ぶ梁7を形成したものである。下部電極2と上部電極3とは、内部に空隙4を有する内側ダイヤフラム層5aを介して対向し、コンデンサを構成する。六角形の形状をした各ダイヤフラムの中心部には、ダイヤフラムの形状と相似形の膜が梁7と連続するように形成されている。
なお、内側ダイヤフラム層5aと外側ダイヤフラム層5bの両方あるいは片方を、単にダイヤフラムと表記することもある。また、他の構成についても、符号を省略することがある。
【0039】
図7に示すように、梁7のみを形成すると、ダイヤフラムの中央付近の梁7が交差する部分において、鋭角な部分が生じ、半導体のエッチングプロセスなどによって、鋭角部分を削るときにバラつきが生じる可能性がある。ここで中央に相似形部分を形成すると、鋭角な部分を作らないですむという利点がある。また、ダイヤフラム型の超音波トランスデューサにおいては、大きなDCバイアスを印加した方が、蓄積される電荷が多いため、送受波の感度を向上することができるが、このときに過度なDCバイアスを印加すると、ダイヤフラムの一部が空隙4の反対側面に接触してしまう。このような接触は、ダイヤフラムへの電荷注入の原因となり、素子の電気音響変換特性にドリフトをもたらすことになる。梁7を形成した場合、梁7の隙間の部分で、かつダイヤフラムの中心近傍の部分から接触することになる。接触なく印加できるDCバイアスの上限を大きくするには、凹凸なく変形したほうが有利であるので、梁7の交点部近傍にはダイヤフラムの相似形の膜を形成するのが有利である。このとき、相似形部の大きさがあまり大きいと、梁7の隙間が全て埋まってしまい、梁7を形成した意味が無くなるので、相似形部の直径はダイヤフラム全体の直径に対して50%から80%程度であることが望ましい。
【0040】
ここで、梁7とは、幅が長さに比べ小さく、ダイヤフラムの一部のみを覆う形状の構造体である。梁7は、以下に示すような硬さの条件を備えることで、ダイヤフラム型の超音波トランスデューサ全体の共振周波数に影響を与える。すなわち、空隙4の上方壁部を構成するダイヤフラム部の材料の硬さに比べ梁7の硬さを十分に大きくする、もしくはダイヤフラム部の厚みに比べ梁7の厚みを十分に大きくすることで、ダイヤフラム型の超音波トランスデューサ全体の共振周波数は、梁7の形状と材質によって制御することができる。例えば、幅W、長さl、厚さtの単純な直方体形状の梁7を考えると、厚み方向の共振周波数fは次式(3)で与えられる。ここで、Eはヤング率、Iは断面モーメント、mは質量である。
【0041】
【数2】

【0042】
断面形状が長方形の梁7では、断面モーメントIはWt3/3であるため、式(3)は式(4)のようになる。なお、式(4)は比例式なので、係数を省略している。
【0043】
【数3】

【0044】
したがって、梁7の材質が同じで、厚みtと長さlが一定の場合、共振周波数fは幅Wの平方根に比例することになる。
【0045】
梁7が、周辺部で幅Wの直方体状であり、ダイヤフラムの中心部ではダイヤフラムと相似形の、図5や図6に示すような形状の場合には、近似的にダイヤフラム中心部を質量Mの錘とみなすと、式(3)は式(5)のようになり、前記とほぼ同じように取り扱うことが可能となる。
【0046】
【数4】

【0047】
このように、ダイヤフラムの共振周波数を梁7の幅Wの大きさで制御できるようになると、ダイヤフラムの径は一定で、ダイヤフラムの表面あるいは裏面に設けた梁7の幅Wが異なる超音波トランスデューサを図5に示すように敷き詰めることで、ダイヤフラム間の隙間がなく、共振周波数が異なる複数のダイヤフラム型の超音波トランスデューサで、1つの超音波トランスデューサを構成することが可能になる。図5では、1つの素子として機能する超音波トランスデューサの境界線を破線20によって示している。このとき、下部電極2は1つの超音波トランスデューサを構成する複数のダイヤフラム型の超音波トランスデューサに共通であり、1つの超音波トランスデューサを構成する複数のダイヤフラム型の超音波トランスデューサの上部電極同士は結線13によって電気的に相互に接続されている。
【0048】
以下に、図6に示したダイヤフラム型の超音波トランスデューサを構成する材料と寸法の例について説明する。基板1はシリコンからなり、シリコン基板の上に、厚み500nm程度の金属もしくはポリシリコンなどからなる下部電極2が形成されている。下部電極2の上には、酸化シリコンなどの絶縁膜が50nm程度の厚みで形成され、その上に厚み方向の寸法が200nm程度の空隙4が形成され、空隙4の上壁を構成する絶縁膜(第1のダイヤフラム)5が100nm程度形成され、その上にアルミニウムなどの金属で形成される上部電極3が厚み400nm程度形成され、この上に空隙4の全面を覆う窒化シリコンからなる外側ダイヤフラム層5bが厚み200nm程度形成され、その上に梁7を構成する窒化シリコンの膜が厚み1000nm程度形成されている。
【0049】
ただし、これらの材質や寸法は単なる一例であり、上記に説明した通りでなくても構わない。例えば、梁7を窒化シリコンで構成し、ダイヤフラムの直径を60μm、膜の厚みおよび梁7の厚みをそれぞれ2μmと4μmとすると、W1が0.5μmのとき中心周波数が7.8MHzで−6dB比帯域幅が120%(−6dB比帯域が3〜12.5MHz)、W2が4μmのとき中心周波数が10MHzで−6dB比帯域幅が100%(−6dB比帯域が5〜15MHz)、W3が20μmのとき中心周波数が11.5MHzで−6dB比帯域幅が96%(−6dB比帯域が6〜17MHz)となる。梁の幅W1,W2,W3を有する超音波トランスデューサの数をそれぞれ最適にすることにより(W1とW3の数をW2の数より多くした方が、より平坦な周波数特性が得られる)、−6dB帯域が3〜17MHzすなわち、−6dB比帯域幅が140%となる。従来公知のダイヤフラム構造では−6dB比帯域幅は100〜120%程度であるので、−6dB比帯域幅が40〜20ポイント改善することになる。
【0050】
図5に示した例では、多角形の形状をしたダイヤフラムの中心部にダイヤフラムの形状と相似形の膜を梁7と連続するように形成しているが、もちろん図7に示すように、中心部にダイヤフラムの形状と相似形の膜を形成しない梁7としても、同じ効果を期待できる。一方、図8に示すように、ダイヤフラム中心部に硬い領域15を設け、その硬い領域15の大きさを変えることで、全体のダイヤフラムの大きさを保ったまま、個々のダイヤフラムの共振周波数を異なるように設定することも可能である。しかし、ダイヤフラムの共振周波数は、質量と、構造と材質で決まるバネの寄与に分解して考えることができるが、バネの強さに対しては、ダイヤフラムの厚みが厚い場合には、ダイヤフラムのリム部での材質、形状の寄与が支配的であるため、図8のような形状では、個々のダイヤフラムで周波数を異なるように設定するのは困難である。よって、図8に示したようにダイヤフラムの中心に大きさの異なる硬い領域15を形成する構造よりは、図5や図7に示したように、多角形の形状をしたダイヤフラムの表面又は裏面にダイヤフラムの対向する頂点間を結ぶ幅の異なる梁7を形成した構造の方が好ましい。
【0051】
次に、本発明による超音波探触子の広帯域特性を活用する方法に関して説明する。図9(a)は、比帯域幅が60%程度の従来の探触子を使った場合の、観察部位毎の周波数の選択の仕方を説明する図である。一般的に周波数が高い方が、波長が短くなるので、空間分解能が向上する。しかし、超音波の伝播に伴う減衰は、周波数にほぼ比例して大きくなるので、被検体の深部を観察する場合には、減衰のためほとんど信号が返ってこなくなってしまう。このように、減衰による信号対雑音比の劣化と空間分解能とはトレードオフの関係にあるので、所望の信号対雑音比を満足する範囲でなるべく高い周波数を選択する。したがって、観察対象となる深さによって、ほぼ自動的に最適な周波数が決まり、体表から15〜20cmくらいの深いところ(肝臓など)を観察するには2MHz程度の周波数、甲状腺など体表から数センチのところを観察するには10MHz程度の周波数、血管内プローブのような場合にはさらに高周波が選択される。
【0052】
従来は、このような2MHzから15MHz程度までの広い周波数をカバーするような超音波探触子が無かったので、それぞれの対象部位毎に探触子を最適化して、所定の中心周波数を設定したプローブを使っていた。そのため、素子の幅も一定であればよく、波長の半分から75%程度になるような、固定素子幅の素子にアレイ化していた。しかし本発明によれば、図9(b)に示すように、一つの探触子で、人体を対象にする場合に必要な周波数域をほぼカバーすることが可能となる。図9(b)におけるf,f,fは、各モードにおける駆動周波数である。
【0053】
ここで、一つの探触子で、対象部位の体表からの深さによって駆動周波数を切り替えて、中心周波数を大きく異なるように動作させるために、素子幅が切り替わるように構成する必要がある。素子幅の切り替えは、対象部位の選択時に決定され、一つの撮像面内では一定の場合や、対象部位が比較的大きく、一つの画面内でも対象部位を設定する場所の変化に応じて切り替わる必要がある場合や、対象部位が体表の近傍から深い部分に広がっており、超音波を受信しながらフォーカス位置の移動に伴って素子幅も切り替えていく必要がある場合もある。例えば、受信しながら素子幅を切り替える場合に関して装置図を用いて説明する。図1の送波ビームフォーマ204から広帯域の超音波パルスをスイッチ205および副素子束ね切替用のスイッチ17を介して、副素子16から構成される超音波探触子に印加し、ここには図示しない被検体に超音波パルスを送波する。
【0054】
送波ビームフォーマ204においては、ビームを絞って空間分解能を上げることよりも、広く超音波パルスを送波し、信号対雑音比を向上することが重要なので、1チャンネル内の副素子数は少なくして、全口径を狭くする。被検体内で散乱された超音波は浅いところから順に戻ってくるので、生体内での伝播距離が短い超音波から順に戻ってくる。この被検体から戻ってくる超音波を従来技術においては、スイッチ205を介して受波ビームフォーマ206で受け、各チャンネル間での遅延時間、重み係数を調整し、包絡線検波、スキャンコンバータを介して断層像が表示される。一方、本発明では、副素子16とスイッチ205の間の副素子束ねスイッチ17において、浅い部分からの超音波の受波時では送波した帯域の上端の帯域に対応した束ね数で束ね、深い部分からの超音波の受波時では送波した帯域の下端の帯域に対応した束ね数で束ねる。浅い部分からの超音波の受信から深い部分からの超音波の受信まで時間的には連続しているので、副素子数の切替も時間的に連続的に行う必要がある。
【0055】
図5の例では、六角形のダイヤフラムを縦横に繋いで電気的な1素子の超音波トランスデューサとしているが、上記のモードを実現するために、図10のように、複数の超音波トランスデューサを短軸方向にのみ結線13によって超音波トランスデューサ間の結線を行い、この電気的に結線された超音波トランスデューサを副素子として、長軸方向(アレイ方向)に束ねる副素子の数を変えることで、モードによって素子幅を切り替えることができる。ここでモードとは、対象部位の深さによって自動的に決まる撮像条件のことである。撮像条件としては、駆動周波数、受信での周波数フィルタのカットオフ値、送波正弦波の波数、時間軸重み関数、口径重み関数などである。
【0056】
超音波トランスデューサの操作者が対象部位を選択もしくは入力すると、通常は撮像の深さの範囲が決まり、介在物の減衰の程度が推定可能なため、最適な周波数などの諸条件が決定される。場合によっては、肝臓や心臓など、比較的大きな臓器を観察する場合などは、対象部位が決まっても、対象部位が近傍から遠方まで広く広がっていることが多いので、一つの対象部位でも複数のモードを持ち、反射エコーの生成する深度によって、自動的にモードを切り替えながら使う場合もある。副素子は、上部電極同士を導電体によって恒久的に接続されたダイヤフラム型の超音波トランスデューサの集まりで構成される。副素子はまた、ビームフォーミングをするための1素子を構成するとき、切替可能なスイッチによって束ねられる単位超音波トランスデューサとなる。図10において、破線20は、電気的に結線された超音波トランスデューサ副素子間の境界線を示す。図10には、アレイ化方向に対して垂直な方向に電気的に接続された4つの副素子16a〜16dが示されている。
【0057】
例えば、1個のダイヤフラム型の超音波トランスデューサを構成するダイヤフラムの直径が50μmであるとき、もちろんダイヤフラム一つの幅より狭い範囲では調整できないが、2MHzでの波長の75%となる0.55mmの素子幅は直径50μmのダイヤフラム11列で実現でき、20MHzでの波長の75%となる55μmの素子幅は直径50μmのダイヤフラム1列で実現できるので、2MHzから20MHzの範囲で、モードごとに最適な素子ピッチを実現できる。すなわち、この場合には、超音波探触子を2MHzで駆動するときには、隣接する副素子を11個ずつ束ねたものを1素子として同時に駆動することで素子幅0.55mmを実現することができ、超音波探触子を20MHzで駆動するときには、個々の副素子を独立して駆動することにより素子幅55μmを実現することができる。
【0058】
図11は、この副素子を束ねる数の切替え方、およびそれによる効果を具体的に説明した図である。図11(a)は、最も近い距離Fnに送波もしくは受波の焦点をあわせた状態を示している。このときは、各素子は、幅Wsの1つの副素子を1素子として構成されているので、チャンネル数Nのシステムの場合、全口径幅Wnは、Wn=Ws×Nとなる。一方、図11(b)は、より深い距離Ffに焦点を合わせた状態を示している。このとき、幅Wcの素子は、副素子を2個束ねて構成されているので、全口径幅WfはWf=Wc×N=2×Ws×Nとなる。さらに深い焦点に対しては、副素子を束ねる数を増やしていくことで、全口径幅を広げていくことが可能となる。このように、超音波探触子の焦点を変えても、F値、すなわち焦点距離/口径幅をほぼ一定に保つことができるので、素子幅およびチャンネル数が一定の場合に比べ、近傍においてはF値が小さくなり過ぎることによるグレーティングローブ(不要放射)の生成を抑えることが可能となり、遠方においては、F値が大きくなることによるフォーカスのボケを抑えることができる。
【0059】
この副素子の束ねスイッチは、超音波撮像装置内に搭載することも可能であるが、図12に示すように、超音波撮像装置に接続するコネクタ19と超音波トランスデューサを結ぶケーブル18よりも、副素子16側に副素子の束ねスイッチ17を設けることによって、ケーブル18の本数を必要最小限に抑えることができる。その結果、操作者が超音波トランスデューサを手に持って操作するときの負担を極力低減することが可能となる。
【0060】
次に、六角形以外の形状のダイヤフラムを用いるダイヤフラム型トランスデューサアレイの例について説明する。ダイヤフラムの隙間の面積を最小にしつつ、共振周波数が異なるダイヤフラムで超音波探触子の送受波面を埋めることは、長方形のダイヤフラムを用いることによっても実現可能である。このとき、長方形ダイヤフラムの長辺と短辺の比が1対1に近いと、夫々の辺の長さに対応したモード間での結合振動のため、共振モードが複雑になり、見かけは広帯域でも、周波数特性を絶対値と位相の両方で見た場合に位相が一定ではなく、結果として周波数成分毎に異なる遅延を持ち、時間軸上でのパルス特性が劣化してしまうことがある。しかし、長辺と短辺の長さが大きく異なる(例えば1:8以上など)ようにしておけば、長方形のダイヤフラムは短辺に沿って変形する樋型に振動し、ほとんど短辺の長さで共振周波数が定まるようになる。
【0061】
図13(a)は、長方形のダイヤフラムを有するダイヤフラム型の超音波トランスデューサを用いた超音波探触子の例を示す平面摸式図である。また、図14にアレイ化方向の断面図を示す。図14に示すように空洞部分の幅が異なるように構成することで、異なる共振周波数をもつ複数のダイヤフラムを電気的に結線された1素子中に備えることが可能となる。この超音波探触子は、それぞれが個々のダイヤフラム型の超音波トランスデューサの構成要素であるところの複数のダイヤフラムを、その長辺の方向が電気的に結線された1つの素子14の長辺の方向と一致するように、すなわちトランスデューサアレイのアレイ化方向と直交する方向になるように配置している。個々のダイヤフラムの下方には、そのダイヤフラムとほぼ同形状の上部電極および空隙が設けられており、空隙の下方に設けられた共通の下部電極と上部電極とによってコンデンサが構成される。
【0062】
また、長方形のダイヤフラムを備える個々の超音波トランスデューサは、そのダイヤフラムの短辺の長さによって決まる共振周波数を有する。電気的に結線された1つの素子14の短辺を複数に分割するような、ダイヤフラムの短辺の長さの組み合わせを選ぶことで、隙間なく配置された、中心周波数が異なる複数のダイヤフラムが、電気的に同時に駆動される一つの超音波トランスデューサが得られる。例えば、W0を500μm、窒化シリコンで構成された膜の厚みを3μmとすると、W1が60μmのとき中心周波数が7.8MHzで−6dB比帯域幅が120%(−6dB比帯域が3〜12.5MHz)、W2が50μmのとき中心周波数が10MHzで−6dB比帯域幅が100%(−6dB比帯域が5〜15MHz)、W3が40μmのとき中心周波数が11.5MHzで−6dB比帯域幅が100%(−6dB比帯域が6〜17MHz)となる。短辺の長さW1,W2,W3を有する超音波トランスデューサの数をそれぞれ最適にすることにより(W1とW3の数をW2の数より多くした方が、より平坦な周波数特性が得られる)、−6dB帯域が1〜15MHzすなわち、−6dB比帯域幅が140%となる。従来公知のダイヤフラム構造では−6dB比帯域幅は100〜120%程度であるので、−6dB比帯域幅が20〜40ポイント改善することになる。
【0063】
図13(b)は、長方形のダイヤフラムを有するダイヤフラム型トランスデューサアレイを用いた超音波探触子の他の例を示す平面摸式図である。この超音波探触子は、それぞれが個々の超音波トランスデューサの構成要素であるところの複数のダイヤフラムを、その長辺の方向が電気的な1つの素子14の短辺と同じ向き、すなわちトランスデューサアレイのアレイ化方向と同じ方向になるように配置している。個々のダイヤフラムの下方には、そのダイヤフラムとほぼ同形状の上部電極および空隙が設けられており、空隙の下方に設けられた共通の下部電極と上部電極とによってコンデンサが構成される。このようなダイヤフラムの配置によっても、中心周波数が異なる複数のダイヤフラムで超音波探触子の表面を隙間無く充填することが可能となる。これらの、異なる中心周波数のダイヤフラムを並べるときに、規則性がなるべく出ないように配列する方が、不要なグレーティングビームを発生しないので好ましい。なお、図13(b)においても、図13(a)と同じようにW1,W2,W3に対して共振周波数が決定されるので、選択の仕方、および効果に関しても図13(a)の場合と同様である。
【0064】
本実施形態においても、図15に示すように、アレイの長軸方向の素子幅をモードによって自由に変えられるように設定することは、本発明の超音波撮像素子が有する広帯域特性を十分に使いこなすという観点から有益である。なお、図15においては、複数の超音波トランスデューサをアレイ化方向と垂直な方向にのみ結線して多数の副素子を構成しておき、副素子の束ね方を変更することによってアレイの長軸方向の素子幅を変更するものであるが、図13(a)あるいは図13(b)に示すように結線された複数のダイヤフラム型の超音波トランスデューサからなる素子14を1つの副素子とし、副素子の束ね方を束ねスイッチによって変更することによって、アレイの長軸方向の素子幅をモードに応じて変更するようにしてもよい。
【0065】
(第2実施形態)
図16は、第2実施形態の超音波トランスデューサを示す平面模式図である。図17(a)は、その断面模式図である。図16、図17(a)に示すように、幅の異なる複数の梁7a〜7eを外側ダイヤフラム層5bの表面に設けることによって、広帯域な超音波トランスデューサ100qを実現できる。本実施形態の超音波トランスデューサ100qは、1つの電気信号によって駆動される素子、すなわち電気的な1素子を1つのダイヤフラムで構成するが、1つのダイヤフラム上に中心周波数の異なる梁7を複数並べてダイヤフラム全体としての帯域幅を広げたものである。
【0066】
図16の例では、1つの超音波トランスデューサを構成する長方形の外側ダイヤフラム層5b上に、ダイヤフラムの短辺方向を横切るように矩形の梁7a〜7eを複数形成した。梁7aの短辺の幅はW1、梁7bの短辺の幅はW2、梁7cの短辺の幅はW3、梁7dの短辺の幅はW4、梁7eの短辺の幅はW5であり、幅W1〜W5は互いに異なる。図16のダイヤフラムと梁7の関係は梁7の交差点部の寄与が大きくない場合には、図5におけるW1,W2,W3と共振周波数の関係と同じである。なお、図17(b)に示すように、幅の異なる梁を外側ダイヤフラム層5bの内部に埋め込むようにして設けてもよい。
【0067】
図16に示した超音波トランスデューサ100qの場合も、やはり前記のように、各々の中心周波数をもつ梁7ごとの並べ方に、なるべく周期性がないように配置して、グレーティングローブ(不要放射)が形成されないように注意する必要がある。
【0068】
上記各実施形態においては、2次元断層像を撮像するための1次元アレイの例で説明を行ったが、2次元アレイや、1.5次元アレイにおいても、電気的な1素子を構成するダイヤフラムの数は減るものの、複数のダイヤフラムで電気的な1素子を構成することに変わりはないので、本発明の特徴である、隙間を最小限に抑えた、中心周波数が異なる複数のダイヤフラムで構成される電気的な素子を配置したトランスデューサアレイを実現することができる。なお、1.5次元アレイとは、超音波ビーム位置もしくは方向を走査する方向(長軸)、すなわち撮像面に直交する方向(短軸)に関してもアレイ化することにより、短軸側のフォーカスも可変にすることができる構成をもったアレイのことである。
【0069】
(第3実施形態)
続いて、図18から図27の各図を参照し、本発明による第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態や第2実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する点に関しては適宜説明を省略する。
図18は、第3実施形態の超音波トランスデューサ100を示す垂直断面図であり、図19は、この超音波トランスデューサ100を示す平面図である。
【0070】
なお、図40の場合と同様に、説明の便宜上、超音波トランスデューサ100が超音波を受信する方向、すなわち、図18の下方、および、図19の紙面に対しての垂直下方向を、z方向とする。また、図18および図19の右手方向をx方向とし、図18の紙面に対しての垂直下方向および図19の上方向を、y方向とする。
【0071】
図18および図19に示すように、この超音波トランスデューサ100は、静電型のダイヤフラム型トランスデューサであって、シリコン(Si)単結晶などの絶縁体または半導体からなる平板状の基板1と、アルミニウム(Al)などの導電体からなり基板1の上面に薄膜状に形成された基板1側の電極2と、この電極2の上面に薄板状に形成されたダイヤフラム5と、このダイヤフラム5の上面に形成された1つまたは複数の梁7と、を具備している。なお、説明の便宜上、この超音波トランスデューサ100において、ダイヤフラム5が備えられ超音波を送受する面を上面、基板1側の面を下面とする。
【0072】
ダイヤフラム5は、内部に空隙4を有し、この空隙4の上面をカバーする部分が、振動により超音波を発生するための振動部分5cとなっている。ダイヤフラム5は、ダイヤフラム5の振動部分5cと基板1側の電極2との間隔を示す空隙4を含み、この振動部分5cが過剰に変位しても基板1側の電極2とダイヤフラム5側の電極3(後記)とが導通しないように絶縁する内側ダイヤフラム層5aと、この内側ダイヤフラム層5aの上面を覆うように形成された外側ダイヤフラム層5bと、電極2と同様の材質からなり内側ダイヤフラム層5aと外側ダイヤフラム層5bとの間に薄膜状に形成されたダイヤフラム5側の電極3と、を具備している。
【0073】
ダイヤフラム5および梁7の材質は、例えば、米国特許第6,359,367号明細書に記載されたものである。例示すれば、シリコン、サファイア、あらゆる形式のガラス材料、ポリマ(ポリイミドなど)、多結晶シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、金属薄膜(アルミニウム合金、銅合金、またはタングステンなど)、スピン・オン・グラス(SOG)、埋め込み(implantable)ドープ剤または拡散ドープ剤、ならびに酸化シリコンおよび窒化シリコンなどからなる成長フィルムなどである。
【0074】
定常時において、ダイヤフラム5の振動部分5cと基板1との間隔、すなわち空隙4の厚さ(z方向の寸法)は、主に、内側ダイヤフラム層5aおよび外側ダイヤフラム層5bの両方またはいずれかの上下方向(z方向)の剛性によって維持されている。さらに、この剛性は、梁7によって所定方向に強化されている。
【0075】
すなわち、本実施形態の超音波トランスデューサ100の大きな特徴は、ダイヤフラム5に梁7が配設され、ダイヤフラム5の剛性が調節されていることである。超音波トランスデューサ100は、ダイヤフラム5の厚さ(z方向の長さ)と梁7の厚さ(z方向の長さ)との組み合わせを適切に設定することにより、所望の共振周波数fと比帯域幅fとの組み合わせを実現できる。
【0076】
ダイヤフラム5および梁7の平面形状(x方向およびy方向の寸法)を変えるには、製造工程において異なるマスク(図示せず)を要するが、これらの厚さ(z方向の寸法)を変えるには、ダイヤフラムの材料となる物質が所望の厚さにまで堆積する時間を調節するなど、単に製造工程の制御を変更すればよく、同一の製造設備で製造を行える利点がある。
【0077】
この超音波トランスデューサ100は、電気素子として概観すると、誘電体として機能する空隙4を挟んで、各々極板となる基板1側の電極2およびダイヤフラム5側の電極3を配置した可変容量コンデンサとして動作する。具体的には、ダイヤフラム5に力を加えると変位するため、電極2と電極3との間隔が変わり、このコンデンサの静電容量が変化する。また、電極2と電極3とに電位差を与えると各々異なる電荷が貯まって相互に力が作用し、ダイヤフラム5が変位する。すなわち、この超音波トランスデューサ100は、入力された高周波電気信号を超音波信号に変換して水や生体などの媒体へ放射し、媒体から入力された超音波信号を高周波電気信号に変換して出力する機能を有する電気音響変換素子である。
【0078】
図20は、トランスデューサアレイ1000を示す斜視図である。
このトランスデューサアレイ1000は、超音波探触子(図示せず)の超音波送受信面をなすものであって、基板1に、前記した超音波トランスデューサ100を多数形成し、所定個数ごとに結線13によって接続したものである。超音波トランスデューサ100の個数は、図示したものに限られず、半導体製造技術に応じてさらに多数の超音波トランスデューサ100を、より大型の基板1に集積してもよい。個々の、または、所定個数ごとにまとめられた超音波トランスデューサ100は、送受スイッチを介して、この超音波探触子を具備した超音波撮像装置の送信ビームフォーマおよび受信ビームフォーマに接続され(いずれも図示せず)、フェーズドアレイとして動作し、超音波の送受信のために利用される。なお、図示した超音波トランスデューサ100の配列は一例であって、蜂の巣(honeycomb)状のほか、碁盤目(grid)状など、他の配列形態でもよい。また、配列面は、平面状または曲面状のいずれでもよく、その面形状も、円形状または多角形状などとすることができる。あるいは、超音波トランスデューサ100を、直線状または曲線状に並べてもよい。
【0079】
この超音波探触子は、例えば、複数の超音波トランスデューサ100の群を短冊状に配列してアレイ型に形成したり、複数の超音波トランスデューサ100を扇状に配列してコンベックス型に形成したりしたトランスデューサアレイ1000を具備する。また、この超音波探触子において、超音波トランスデューサ100の媒体(被検体)側には、超音波ビームを収束させる音響レンズと、超音波トランスデューサ100と媒体(被検体)との音響インピーダンスを整合する音響整合層が配置されており、また、その背面側(媒体側に対して逆側)には、超音波の伝播を吸収するバッキング材が設けられている。
【0080】
図21は、超音波トランスデューサ100の周波数−感度特性例を示すグラフである。
このグラフでは、横軸に周波数fをとり、縦軸に電気・機械変換効率を示す感度G(利得; Gain)をとって示す。感度Gが最も高くなる周波数fをピーク周波数fpとし、感度Gが、最も高い値から−3[dB]までの範囲となる周波数帯幅fとする。周波数帯幅fの中心となる周波数を中心周波数fとし、周波数帯幅fを中心周波数fで除した値(つまり、周波数帯幅fを、中心周波数fで規格化した値)を比帯域幅f(図示せず)とする。
【0081】
超音波トランスデューサ100の重要な基本的特性のひとつに、感度Gが挙げられる。感度Gは、電気エネルギーと、音波などの機械エネルギーとを相互に変換する効率を意味する。したがって、送信効率を高め、また、微弱な音波信号を検出する観点から、超音波トランスデューサ100の感度Gは高い方が望ましい。
【0082】
また、超音波トランスデューサ100の重要な基本的特性のもうひとつに、比帯域幅fが挙げられる。比帯域幅fが大きいほど、使用可能な周波数範囲が広くなり、ひとつの超音波トランスデューサ100をさまざまな目的に共用できる利点がある。さらに、比帯域幅fが大きいほど、パルス幅の狭い(すなわち、占有周波数帯幅の広い)超音波パルスを形成でき、超音波撮像などにおいて高い距離分解能を得られる利点がある。
【0083】
しかし、エネルギー保存の法則から導かれるとおり、感度Gの高さと、比帯域幅fの広さとは、相反関係にある。したがって、超音波トランスデューサ100を設計するに当たって重要なことは、この限界内で、所望の中心周波数fと比帯域幅fとの組み合わせを選べることである。
【0084】
超音波トランスデューサ100は、ダイヤフラム型であるので、中心周波数fと、共振周波数fとは、ほぼ等しい。共振周波数fは、ダイヤフラム5の剛性をD、質量をmとすると、前記した式(1)の関係にある。また、比帯域幅fは、前記した式(2)の関係にある。
【0085】
ダイヤフラム5の剛性Dおよび質量mは、その材質が既定であるとき、その平面形状および厚さにより定まる。したがって、ダイヤフラム5の平面形状および厚さの両方を適切に設定できれば、所望の周波数特性(中心周波数f(≒共振周波数f)と比帯域幅fとの組み合わせ)が得られることになる。
【0086】
図22は、梁7の屈曲状態を示す模式図である。
この梁7は、力を加えない状態では、幅がw、長さがv、厚さがtの直方体状である。この梁7の厚さ方向(ダイヤフラム5の振動方向;z方向)の剛性Dは、この梁7の質量をm、ヤング率をEとすると、次式(6)の関係にある。
【0087】
【数5】

【0088】
一方、梁7の質量mは、その密度をρとすると、次式(7)で求めることができる。
【0089】
【数6】

【0090】
この梁7の厚さt方向(z方向;ダイヤフラム5の振動方向)の共振周波数fは、次式(8)の関係にある。
【0091】
【数7】

【0092】
したがって、梁7の振周波数fは、厚さtに比例することになる。
【0093】
また、比帯域幅fは減衰定数ζに比例し、減衰定数ζは、次式(9)の関係にある。
【0094】
【数8】

【0095】
ここで、式(8)を式(9)に代入すると、次式(10)が得られる。
【0096】
【数9】

【0097】
この式(10)から、減衰定数ζは、共振周波数fが一定である場合、梁7の質量mに反比例することがわかる。つまり、梁7の幅wおよび長さvが既定であれば、比帯域幅fは、厚さtに反比例することがわかる。
【0098】
直方体状の梁7は、その平面形状(幅wおよび長さv)が既定であるとき、所望の共振周波数fを実現するためには、その厚さtは、ひとつの値に決まる。また、梁7の材質と各寸法が決まると、質量mも決まるため、比帯域幅fも一意に決まる。また、例えば、ダイヤフラム5の振動部分5c(梁7を除いた平板状の部分)など、均質な直方体とみなせるものについても、この梁7と同様のことがいえる。
【0099】
図23は、本発明による振動体6aと、比較例の振動体6bとを模式的に示す斜視図である。
図23(a)に示すように、本発明による振動体6aは、第3実施形態のダイヤフラム5の振動部分5cを模したものであって、平板状のベース20aと、このベース20aに配設された1本の梁7dとを具備している。ベース20aの厚さはtであり、梁7dの厚さはtである。また、図23(b)に示すように、比較例の振動体6bは、前記した振動体6aから梁7dを取り除いた形状を有するものであり、平板状のベース20bからなる。ベース20bの厚さはtである。
【0100】
振動体6aのベース20aおよび梁7d、ならびに、振動体6bのベース20bの長さ(y方向の寸法)は、いずれもvである。また、ベース20aおよびベース20bの幅(x方向の寸法)は、いずれもwであり、梁7dの幅(x方向の寸法)は、wである。さらに、ベース20a、ベース20b、および梁7dは、いずれも同じ材質である。
【0101】
図24は、本発明による振動体6aの梁7dの幅wを、ベース20aの幅wの20パーセントとしたときの共振周波数fおよび比帯域幅fの計算結果を示すグラフである。
横軸方向は、梁の比厚さt/t、すなわち、振動体6aの梁7dの厚さtを、振動体6bのベース20bの厚さtで規格化した値の大きさを示す。また、縦軸方向は、比厚さt/t、すなわち、振動体6aのベース20aの厚さtを、同様に、振動体6bのベース20bの厚さtで規格化した値の大きさを示す。
【0102】
このグラフの実線は、本発明による振動体6aの共振周波数fを、比較例の振動体6bの共振周波数fで規格化した値を示す。このグラフにおいて、各実線に付された数字は、この共振周波数fを規格化した値を示し、同一の実線上の任意の位置で、この共振周波数fを規格化した値が同じ値であることを意味する。
【0103】
また、このグラフの破線は、同様に、本発明の振動体6aの比帯域幅fを、比較例の振動体6bの比帯域幅fで規格化した値を示す。このグラフにおいて、各破線に付された数字は、この比帯域幅fを規格化した値を示し、同一の破線上の任意の位置で、この比帯域幅fを規格化した値が同じ値であることを意味する。
【0104】
例えば、本発明による振動体6aに梁7dを備えない場合(梁7dの厚さtを0としたといってもよい)、この振動体6aは、厚さtの比較例のベース20bと等価である。すなわち、この振動体6aのベース20aの比厚さt/tの値を1.0とし、その梁7dの比厚さt/tの値を0.0とする。このとき、共振周波数fを一定とし、比帯域幅fを変えるには、共振周波数fを規格化した値が1.0となるように(グラフ上では、「1.0」が付された実線上をたどって)、比厚さt/tと比厚さt/tとの組み合わせを選び、ベース20aの厚さtおよび梁7dの厚さtを求めればよい。
【0105】
また例えば、本発明の振動体6aの共振周波数fを、比較例の振動体6bの2倍にし、所望の比帯域幅fを得るには、共振周波数fを規格化した値が2.0となるように(グラフ上では、「2.0」が付された実線上をたどって)、所望の比帯域幅fの規格化値を得ることができる比厚さt/tと比厚さt/tとの組み合わせを選び(グラフ上では、前記した実線と所望の比帯域幅fの規格化値が付された破線との交点を探し)、ベース20aの厚さtおよび梁7dの厚さtを求めればよい。
【0106】
このように、振動体6aが、ベース20aに梁7dを配設した構造を有するため、各素子(ベース20aおよび梁7d)の平面形状を変えなくても、これらの各素子の厚さ(z方向の寸法)を適切に設定することにより、所望の周波数特性(共振周波数fと比帯域幅fとの組み合わせ)を実現できる。
【0107】
図25は、本発明による振動体6aの梁7dの幅wをベース20aの幅wの80パーセントとしたときの共振周波数fおよび比帯域幅fの計算結果を示すグラフである。
図24と図25とを比較すると、振動体6aの梁7dの幅wの、ベース20aの幅wに対する比率が異なる場合、梁7dの厚さtおよびベース20aの厚さtを同様に変化させたとき、周波数特性の変化が異なることがわかる。
【0108】
すなわち、ベース20aの幅wを一定とし、梁7dの幅wを大きくした場合、梁7dの平面形状と、ベース20aの平面形状とが近似することとなる。このため、共振周波数fを一定としたとき、ベース20aの厚さtと梁7dの厚さtとの組み合わせを選択することによって、比帯域幅fを調節できる範囲が狭くなる。
したがって、梁7dの厚さtを変えることにより、効果的に周波数特性を変化させるには、製造技術上許容される範囲内で、梁7dの幅wを、ベース20aの幅wに対して、なるべく小さくすればよい。なお、ベース20aおよび梁7dが同じ材質である場合について説明したが、異なる材質を用いて、同様の結果を得ることもできる。
【0109】
図26は、変形例の梁7bを模式的に示す斜視図である。
この梁7bは、幅wを有する梁部材7baと、これと異なる幅w22を有する梁部材7bbとを、長軸方向を一致させて厚さ方向(z方向)に接合した構成を有する。この梁7bでは、梁部材7baの厚さt21と、梁部材7bbの厚さt22とを、独立に選ぶことができる。このため、梁部材7baおよび梁部材7bbの平面形状を変えずに、梁7b全体の厚さ方向の剛性Dと質量mとの比を一定となるような、梁部材7baの厚さt21と梁部材7bbの厚さt22との組み合わせが無数に得られる。つまり、この梁7bを用いれば、共振周波数fを一定としつつ、梁部材7baの厚さt21と梁部材7bbの厚さt22との組み合わせを変えて、比帯域幅fを連続的に変えることができる。
【0110】
図27は、別の変形例の梁7c1,7c2,7c3の形状を示す斜視図である。
例えば、図27(a)に示すように、三角形状の断面形状を有する梁7c1を用いてもよい。また、図27(b)に示すように、台形状の断面形状を有する梁7c2を用いてもよい。さらに、図27(c)に示すように、幅が長軸方向に沿って変化する梁7c3を用いることもできる。
【0111】
このように、梁は、直方体形状、すなわち、短軸方向および長軸方向の断面形状が矩形であるもののほか、製造工程において、厚さ(ダイヤフラム5の振動方向;z方向の寸法)を制御できる形状であれば、他の形状のものを用いてもよい。例えば、梁は、台形など他の四角形や三角形などの多角形状、あるいは、円形状または楕円形状などの断面形状を有するものでもよく、所定方向に沿って断面形状が変化する形状を有するものでもよい。
【0112】
次に、図28から図39の各図を参照して、本発明による他の実施形態について説明する。これらの各実施形態における構成および動作は、以降に説明を行うほかは、原則として第3実施形態と同様としてよい。後記する第4実施形態から第14実施形態の超音波トランスデューサ100b〜100lも、前記した超音波探触子において、同様に使用できる。
【0113】
(第4実施形態)
図28は、第4実施形態の超音波トランスデューサ100bを示す垂直断面図である。
この超音波トランスデューサ100bは、梁7を、ダイヤフラム5(内側ダイヤフラム層5a)内の空隙4内に具備した構成を有する。すなわち、本実施形態において、梁7は、ダイヤフラム5表面の電極3近傍であって、基板1側の電極2に対面する側に配設されている。
この超音波トランスデューサ100bによれば、第3実施形態と同様な効果が得られ、また、ダイヤフラム5の表面を平坦にできる。
【0114】
(第5実施形態)
図29は、第5実施形態の超音波トランスデューサ100cを示す垂直断面図である。
この超音波トランスデューサ100cは、ダイヤフラム5(より具体的には、外側ダイヤフラム層5b)の基材内部に、梁7を埋設した構成を有する。この梁7は、ダイヤフラム5より剛性(ヤング率)の高い材質、または、ダイヤフラム5より剛性の低い材質からなる。あるいは、梁7を、空洞により構成し、空洞内を真空とするか、空気または他のガスを充填してもよい。
この超音波トランスデューサ100cによれば、ダイヤフラム5の外形や厚さを変えずに、その剛性を変化させる方向および大きさを所望に調節できる。また、電極2と電極3との間隔を狭めて、電気音響変換効率を高めることができる。
【0115】
なお、梁7は、内側ダイヤフラム層5aまたは外側ダイヤフラム層5b内部に直接に形成してもよいし、内側ダイヤフラム層5aまたは外側ダイヤフラム層5bの表面に溝を設け、内側ダイヤフラム層5aと外側ダイヤフラム層5bとを接合することによりこの溝を封止して形成してもよい。
【0116】
(第6実施形態)
図30は、第6実施形態の超音波トランスデューサ100dを示す垂直断面図である。
この超音波トランスデューサ100dは、前記したダイヤフラム側の電極3および梁7の代わりに、梁7zを具備した構成を有する。この梁7zは、例えば、前記したダイヤフラム5側の電極3と同様の材質または他の導電性の材質からなり、前記したダイヤフラム5側の電極3と同様の形状の電極層部7zbと、図のy方向に細長い形状を有しダイヤフラム5のy方向の剛性を付加する梁部7zaと、を具備している。あるいは、梁部7zaは、一方向に限らず、例えば格子状に配設してもよい。
【0117】
この超音波トランスデューサ100dによれば、梁部7zaおよび電極層部7zbを一体に形成できるので、製造工程の簡略化を図ることができ、また、構造の堅固化を図ることができる。
【0118】
また、この超音波トランスデューサ100dは、電極を兼ねた梁7zと、内側ダイヤフラム層5aまたは外側ダイヤフラム層5bのいずれかによって、ダイヤフラム5の剛性の大部分を担保する構造としてもよい。これにより、内側ダイヤフラム層5aまたは外側ダイヤフラム層5bのいずれかは、剛性を担保する必要がなくなり、薄型化または省略化できる。梁7zが剛性の大部分を担保すれば、内側ダイヤフラム層5aは原理的に必要ではなくなる。これにより、電極2と電極3との距離を狭め、電気音響変換効率の向上を図ることができる。
【0119】
あるいは、梁7zを外部の物体(図示せず)から保護または絶縁する観点からは、外側ダイヤフラム層5bは、保護または絶縁に充分な厚さを有すればよい。外側ダイヤフラム層5bを薄型化することにより、製造工程の簡略化を図ることができ、また、梁7zおよび基板1側の電極2からなる電気音響変換部と、被測定媒体(図示せず)との距離が短くなるので、感度の向上を図ることができる。
【0120】
(第7実施形態)
図31は、第7実施形態の超音波トランスデューサ100eを示す垂直断面図である。
この超音波トランスデューサ100eは、第3実施形態の梁7の代わりに、ダイヤフラム5が自身を基板1側の電極2上に保持している箇所(断面において、柱状に現れる箇所)近傍に、ダイヤフラム5の材質よりも剛性の低い材質または空洞からなる梁7nを設けた構成を有する。換言すれば、この箇所は、空隙4の周縁部の上方に位置する、ダイヤフラム5内部の環状部分であって、ダイヤフラム5の振動部分5cを囲む部分である。
【0121】
この超音波トランスデューサ100eによれば、梁7nによって、ダイヤフラム5の振動部分5cの周縁部の剛性が低下し、相対的に振動部分5c全体の剛性が向上することとなる。
【0122】
図32は、第7実施形態の超音波トランスデューサ100eの動作を模式的に示す垂直断面図である。
この超音波トランスデューサ100eは、基板1表面の電極2上に、ダイヤフラム5n(実線で示す)を支柱5dで保持した構造と解釈できる。なお、比較のため、梁7nを設けない場合のダイヤフラム5m(点線で示す)を図示する。
【0123】
この超音波トランスデューサ100eでは、超音波の送受信に伴いダイヤフラム5が振動するとき、梁7n付近は大きく変形するが、ダイヤフラム5(ダイヤフラム5mとして示す)の振動部分5c全体は良好な平面性を保って均等に変位する。したがって、ダイヤフラム5の最大変位量を変えなくても平均変位量を大きくでき、また、空隙4の厚さ(z方向の長さ)を小さくし、電極2と電極3との距離を縮めることができる。これらにより、電気音響変換効率の向上を図ることができ、高感度化および高出力化を実現できる。
【0124】
この梁7nを設けたダイヤフラム5nを、梁7nを設けないダイヤフラム5mと比較すると、たわみが小さくなり、その中央部が基板1表面の電極2に接触しにくいことがわかる。
【0125】
(第8実施形態)
図33は、第8実施形態の外側ダイヤフラム層5pを示す平面図である。
第8実施形態の超音波トランスデューサ100f(図示せず)は、前記した外側ダイヤフラム層5bの代わりに、外側ダイヤフラム層5pを具備した構成である。
この外側ダイヤフラム層5pは、平面形の周縁部に、多数の穴(または空洞)状の梁7pを多数設けた構成を有する。この多数の梁7pは、前記した梁7nと同様に、外側ダイヤフラム層5pの周縁部の剛性を低下させ、これに囲まれた平板状部分の剛性を相対的に向上させる。
したがって、この第8実施形態の超音波トランスデューサ100fによれば、前記した第7実施形態の超音波トランスデューサ100eと同様の効果を得られる。
【0126】
(第9実施形態)
図34は、第9実施形態の超音波トランスデューサ100gを示す平面図である。
この超音波トランスデューサ100gは、円形状のダイヤフラム5gと、このダイヤフラム5gの上面に配設された放射状の梁7grと、同様に配設された環状の梁7gcとを含んでいる。また、ダイヤフラム5gは、楕円形状でもよい。
【0127】
(第10実施形態)
図35は、第10実施形態の超音波トランスデューサ100hを示す平面図である。
この超音波トランスデューサ100hは、六角形状のダイヤフラム5hと、このダイヤフラム5hの上面に配設された放射状の梁7hrと、同様にダイヤフラム5hの内縁に沿って配設された環状の梁7hcとを含んでいる。六角形状は一例であって、三角形状、五角形状、七角形状など、ダイヤフラム5hは、他の多角形状でもよい。
【0128】
前記した第9実施形態の放射状の梁7grは、4本(中心から8方向)配設し、この第10実施形態の放射状の梁7hrは、3本(中心から6方向)配設した場合を例示的に図示したが、ダイヤフラム5g,5hの形状や所望の周波数特性などによって、適切な本数を配設するとよい。また、第9実施形態の環状の梁7gc、および、第10実施形態の素子形状の梁7hrは、それぞれ1つ配設した場合を例示的に図示したが、ダイヤフラム5g,5hの形状や所望の周波数特性などによって、例えば同心状に、適切な本数を配設するとよい。
【0129】
(第11実施形態)
図36は、第11実施形態の超音波トランスデューサ100iを示す平面図である。
この超音波トランスデューサ100iは、y方向に細長い複数の梁7を、不均等な間隔で配設した構成を有する。
第11実施形態の超音波トランスデューサ100iによれば、これら複数の梁7を配設する間隔を適切に設定することにより、ダイヤフラム5の振動部分5cの剛性の分布が部分的に調整され、所望の振動モードを抑制または励起できる。
【0130】
(第12実施形態)
図37は、梁7同士の長軸方向が異なるように配設した第12実施形態の超音波トランスデューサ100jを示す平面図である。
この超音波トランスデューサ100jは、x方向に細長く、ダイヤフラム5の振動部分5cのx方向よりも長軸方向が短い梁7xと、y方向に細長く、ダイヤフラム5の振動部分5cのy方向よりも長軸方向が短い梁7yと、を外側ダイヤフラム層5bに配設した構成を有する。
このように、長軸方向が異なる梁7xおよび梁7yを、同一のダイヤフラム5上の異なる箇所に混在させて配設してもよい。また、梁7xおよび梁7yは、目的に応じて、振動部分5cの平面方向の寸法に渡る長さを有さなくてもよい。また、梁7x,7yの寸法は、各々異なっていてもよい。
第12実施形態の超音波トランスデューサ100jによれば、梁7yおよび梁7xの配設位置、配設間隔、および配設本数などを適切に設定することにより、振動部分5cの部分ごとに、所望の振動モードを抑制または励起できる。
【0131】
(第13実施形態)
図38は、第13実施形態の超音波トランスデューサ100kを示す垂直断面図である。
この超音波トランスデューサ100kは、y方向に細長く、長軸を横切る断面形状が各々異なる梁7i,7j,7kを、ダイヤフラム5上に混在させて配設した構成を有する。
【0132】
この例では、ダイヤフラム5上において、最も断面形状が大きい梁7iが中央近傍に配設され、この梁7iより断面形状が小さい梁7jがその外側に配設され、この梁7jより断面形状が小さい梁7kがさらにその外側に配設されている。このため、ダイヤフラム5の中央近傍の剛性は大きく強化され、ダイヤフラム5の周縁部に向かっては、より小さくその剛性が強化される。この配設方法は一例であって、梁7i,7j,7kの配設順序を変えてもよい。
【0133】
第13実施形態の超音波トランスデューサ100kによれば、ダイヤフラム5の剛性の分布を調節することができるので、所望の振動モードと、振動モードごとの共振周波数fを得ることができる。
【0134】
(第14実施形態)
図39は、梁7の長軸方向が相互に交差するように配設した第14実施形態の超音波トランスデューサ100lを示す平面図である。
この超音波トランスデューサ100lは、外側ダイヤフラム層5bの上面に、x方向(図の横方向)に細長い梁7qと、y方向(図の縦方向)に細長い梁7rとを具備した構成を有する。
【0135】
この超音波トランスデューサ100lでは、横長の梁7qによって、ダイヤフラム5のx方向(図の横方向)の剛性を変えることができ、また、縦長の梁7rによって、ダイヤフラム5のy方向(図の縦方向)の剛性を変えることができる。このため、ダイヤフラム5の振動部分5cの平面形状や大きさが既定であっても、x方向の振動モードの共振周波数fbxと、y方向の振動モードの共振周波数fbyとを、独立して、任意に設定できる。
【0136】
この超音波トランスデューサ100lでは、ダイヤフラム5の振動部分5cの平面形状は、概略正方形状である。しかし、この振動部分5cは、x方向に細長い1本の梁7q、および、y方向に細長い3本の梁7rによって、剛性が強化されている。ここで、梁7qおよび梁7rの剛性がそれぞれ同等とすると、ダイヤフラム5の振動部分5cは、概略正方形状であるにも拘わらず、x方向の剛性は小さく、y方向の剛性は大きい。
【0137】
このように、梁7qおよび梁7rの剛性(短軸方向の断面積や材質)、配設方向、配設本数などを変えることにより、所望の振動モードと、振動モードごとに所望の共振周波数fとを設定できる。なお、梁7qと梁7rとは、結合していてもよいし、z方向(図の紙面と垂直方向)に層をなして交差していてもよい。
【0138】
各実施形態の超音波トランスデューサ100,100b〜100lによれば、例えば、次の効果が得られる。
(1)ダイヤフラム(5など)に梁(7など)を配設したため、ダイヤフラム(5など)の厚さと梁(7など)の厚さとを独立して変えることができ、振動部分5cの剛性と質量のバランスを自由に設定して、所望の中心周波数fを実現しつつ感度Gと比帯域幅fとを制御できる。
【0139】
(2)ダイヤフラム(5など)および梁(7など)の厚さを調節することにより、ダイヤフラム(5など)および梁(7など)の平面形状(縦横の寸法)を変えることなく、ダイヤフラム(5など)の周波数特性(共振周波数fおよび比帯域幅f)を変更できる。
【0140】
(3)ダイヤフラム(5など)および梁(7など)の平面形状(x方向およびy方向の寸法)を変えずに、周波数特性を変更できるので、製造工程の制御を変更すれば、同一のマスク(図示せず)を用いて同一の製造設備で製造を行えるため、手間および費用を低減できる。
【0141】
(比較例)
次に、図40および図41を参照して、比較例について説明する。
図40は、比較例の超音波トランスデューサ100pを示す垂直断面図である。
この超音波トランスデューサ100pは、梁7を有しないほかは、第3実施形態の超音波トランスデューサ100(図18参照)と同様の構成である。
【0142】
図41は、縦横比が1:2の矩形の平面形状を有するダイヤフラム5の周波数−感度特性を示すグラフである。
このグラフには、0.8MHz付近にノッチ(感度Gが急峻に低下する箇所)が現れている。このため、ダイヤフラム5の周波数−感度特性が、平坦な値とならない問題点がある。このノッチは、縦の振動モードと横の振動モードとの結合により発生する。したがって、縦横の剛性を変えれば、一方の振動モードを抑圧し、ノッチを抑制できることがわかる。
【0143】
例えば、縦横比を1:2とせず、縦横比を極端に大きくするか極端に小さくすれば(つまり、ダイヤフラム5の平面形状を極端に細長くすれば)、縦横いずれかの振動モードの影響を実質的に排除し、ノッチを抑制して、広帯域に渡って平坦な周波数特性が得られるはずである。しかし、ノッチを抑制できる程度に縦横比が極端に大きいかまたは小さいダイヤフラム5は、非常に製造が困難であり、また、実用性に乏しい問題点がある。
【実施例】
【0144】
本発明による第3実施形態の超音波トランスデューサ100(図18参照)および比較例の超音波トランスデューサ100pの設計例を後記のとおり作成した。そして、計算機に詳細な設計値を与え、水中での特性について高精度の数値シミュレーションを行わせ、前記した計算結果(図24参照)と比較した。
【0145】
これらの超音波トランスデューサ100および100pでは、いずれも、基板1の材質はシリコン(Si)とし、ダイヤフラム5の材質は窒化シリコンとし、電極2および電極3の材質はアルミニウムとした。また、ダイヤフラム5の縦方向(図19の上下方向;y方向)の寸法は40μmとし、同一板面上でこれと直角な方向(図19の左右方向;x方向)の長さは400μm程度とした。これは、縦/横比を十分小さくし、不要な振動モードが励起しないように配慮したためである。また、基板1側の電極2と基板1と合わせた厚さは充分に大きいので、実質的に変位は無視できる。なお、超音波トランスデューサ100の梁7の材質は、ダイヤフラム5と同じとした。
【0146】
第3実施形態の超音波トランスデューサ100では、梁7の幅wを梁7同士の配設間隔(ピッチ)の20パーセントとした。ダイヤフラム5の共振周波数fを、比較例のダイヤフラム5の共振周波数fと同じとし、比帯域幅fを1.5倍にするため、計算結果(図23参照)から、超音波トランスデューサ100のダイヤフラム5の厚さを、比較例の超音波トランスデューサ100pのダイヤフラム5の厚さの0.54倍とし、梁7の厚さを、このダイヤフラム5の0.66倍とした。なお、電極2、空隙4および電極3の厚さは、比較例の超音波トランスデューサ100pのものと同じとした。
【0147】
比較例の超音波トランスデューサ100pでは、基板1側の電極2上に空隙4を300nmの厚さとし、内側ダイヤフラム層5aを200nmの厚さで形成した。そして、ダイヤフラム5側の電極3を400nmの厚さで形成し、さらに外側ダイヤフラム層5bを2000nmの厚さで作成した。
【0148】
図42は、第3実施形態の超音波トランスデューサ100および比較例の超音波トランスデューサ100pの水中における周波数特性を示したグラフである。
横軸方向に周波数fの高さを示し、縦軸方向に感度(利得)の高さを対数目盛で示す。このグラフにおいて、曲線31は第3実施形態の超音波トランスデューサ100の測定値を示し、曲線30は比較例の超音波トランスデューサ100pの測定値を示す。
【0149】
第3実施形態の超音波トランスデューサ100では、中心周波数fは、15.4MHzであり、比帯域幅fは157%であった。
また、比較例の超音波トランスデューサ100pでは、中心周波数fは、14.8MHzであり、比帯域幅fは、120%であった。
したがって、第3実施形態の超音波トランスデューサ100は、比較例の超音波トランスデューサ100pと比較すると、中心周波数fはほぼ同じ値を保ち、比帯域幅fは、より大きい値を示していることがわかる。この結果は、前記した計算結果の傾向と一致する。
【0150】
しかし、計算結果(図24参照)によれば、本発明による超音波トランスデューサ100の比帯域幅fは、比較例の超音波トランスデューサ100pの比帯域幅fの1.5倍程度となるべきところであるが、数値シミュレーション結果(図42参照)によれば、1.3倍程度となっている。これは、この計算結果(図24参照)が、各要素が均質であることを前提としているのに対し、この数値シミュレーション(図42参照)では、実際の素子構造をより忠実に模しており、ダイヤフラム5には電極3などが含まれ、均質ではないからである。
【0151】
このような若干の差異は、実用上、たいてい問題とならない。しかし、さらに正確な計算結果を求めるには、電極3など他の要素の影響を加味してさらに高精度な計算を行うか、試作を行って試作品の実測値と計算値との違いを定量的に把握しておき、計算値を補正すればよい。
【符号の説明】
【0152】
1 基板
2,3 電極
4 空隙
5 ダイヤフラム
7 梁
13 結線
14 素子
17 スイッチ
100 超音波トランスデューサ
1000 トランスデューサアレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
その内部または表面に第1の電極を有する基板と、その内部または表面に第2の電極を有するダイヤフラムとを、空隙を介して配置してなる超音波トランスデューサであって、
前記ダイヤフラムまたは前記第2の電極の表面または内部に、少なくとも1つの梁を具備したことを特徴とする超音波トランスデューサ。
【請求項2】
前記梁は複数であり、その複数の前記梁が結合して構造体をなしていることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項3】
前記梁は複数であり、その複数の前記梁は、当該梁の長軸方向が相互に交差するように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項4】
前記梁は、前記ダイヤフラムよりヤング率が大きい材質、または、前記ダイヤフラムよりヤング率が小さい材質からなることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項5】
前記梁は、前記第2の電極と同一の材質からなり当該第2の電極と一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項6】
前記梁は、前記ダイヤフラムと同一の材質からなることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項7】
前記梁は、前記ダイヤフラムに設けられた穴または空洞であることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項8】
前記梁は、前記ダイヤフラムの前記空隙の外縁付近に沿って設けられていることを特徴とする請求項7に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項9】
前記梁は、その長軸方向または短軸方向の断面形状が、円形状または多角形状であることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項10】
前記ダイヤフラムは、円盤状もしくは多角形盤状であることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項11】
前記梁は複数であり、その複数の前記梁は、不均等な間隔で配設されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項12】
前記梁は複数であり、その複数の前記梁は、当該梁同士の長軸方向が異なるように配設されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項13】
前記梁は、前記ダイヤフラムに当接した第1の梁部材と、当該第1の梁部材より短軸方向の寸法が小さい第2の梁部材とを、相互に長軸方向を一致させて接合した形状を有することを特徴とする請求項1に記載の超音波トランスデューサ。
【請求項14】
請求項1から13のいずれか1項に記載の超音波トランスデューサを複数配列してなるトランスデューサアレイを具備したことを特徴とする超音波探触子。
【請求項15】
基板と、前記基板上に設けられた複数の超音波トランスデューサとを有する超音波探触子において、
前記複数の超音波トランスデューサは、それぞれ下部電極と、上部電極と、前記上部電極と共に振動するダイヤフラムと、前記下部電極および上部電極の間に設けられた空隙と、を有し、
前記ダイヤフラムは多角形の形状を有し、当該ダイヤフラムの表面に梁が設けられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項16】
請求項15に記載の超音波探触子において、前記ダイヤフラムは六角形であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項17】
請求項16に記載の超音波探触子において、前記梁は前記ダイヤフラムの対向する頂点間を結ぶように形成されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項18】
請求項15に記載の超音波探触子において、前記ダイヤフラムは長方形であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項19】
請求項18に記載の超音波探触子において、前記梁は長方形のダイヤフラムの長辺と長辺との間を結ぶように設けられていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項20】
請求項15に記載の超音波探触子において、幅の異なる複数の梁を有し、1つのダイヤフラムに対して設けられた梁の幅は同じであることを特徴とする超音波探触子。
【請求項21】
請求項15に記載の超音波探触子において、隣接するダイヤフラム間の間隔は前記基板内を伝播する超音波の最も成分の多い周波数における波長の1/80以下であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項22】
請求項15に記載の超音波探触子において、当該超音波探触子のアレイ化方向と直交する方向に配置された複数の超音波トランスデューサは、それぞれの上部電極が電気的に接続されて副素子を構成していることを特徴とする超音波探触子。
【請求項23】
請求項22に記載の超音波探触子において、前記副素子の束ね方を変更する束ねスイッチを有することを特徴とする超音波探触子。
【請求項24】
基板と、前記基板上に設けられた複数の超音波トランスデューサとを有する超音波探触子において、
前記複数の超音波トランスデューサは、それぞれ下部電極と、上部電極と、前記上部電極と共に振動する長方形のダイヤフラムと、前記下部電極と上部電極の間に設けられた空隙とを有し、長辺と短辺の長さの比が異なるダイヤフラムを含んでいることを特徴とする超音波探触子。
【請求項25】
請求項24に記載の超音波探触子において、前記長方形のダイヤフラムは、長辺が当該超音波探触子のアレイ化方向と直交する方向になるように配置されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項26】
請求項24に記載の超音波探触子において、前記長方形のダイヤフラムは、長辺が当該超音波探触子のアレイ化方向と同じ方向になるように配置されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項27】
請求項24に記載の超音波探触子において、隣接するダイヤフラム間の間隔は前記基板内を伝播する超音波の波長の1/80以下であることを特徴とする超音波探触子。
【請求項28】
請求項24に記載の超音波探触子において、当該超音波探触子のアレイ化方向と直交する方向に配置された複数の超音波トランスデューサは、それぞれの上部電極が電気的に接続されて副素子を構成していることを特徴とする超音波探触子。
【請求項29】
請求項28に記載の超音波探触子において、前記副素子の束ね方を変更する束ねスイッチを有することを特徴とする超音波探触子。
【請求項30】
被検体に超音波を送受波する超音波探触子と、
前記超音波探触子によって得られた信号から画像を作成する画像作成部と、
前記画像を表示する表示部と、
被検体の測定部位の深さに応じて前記超音波探触子の焦点を制御する制御部とを備える超音波撮像装置において、
前記超音波探触子は基板上に、それぞれ下部電極と、上部電極と、前記上部電極と共に振動するダイヤフラムと、前記下部電極と上部電極の間に設けられた空隙とを有する複数の超音波トランスデューサを有し、前記ダイヤフラムは多角形の形状を有し、当該ダイヤフラムの表面に梁が設けられていることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項31】
請求項30に記載の超音波撮像装置において、前記ダイヤフラムは六角形であり、前記梁は前記ダイヤフラムの対向する頂点間を結ぶように形成されているとともに、幅の異なる複数の梁が設けられ、1つのダイヤフラムに対して設けられた梁の幅は同じであることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項32】
請求項30に記載の超音波撮像装置において、隣接するダイヤフラム間の間隔は前記基板内を伝播する超音波の最も成分の多い周波数における波長の1/80以下であることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項33】
被検体に超音波を送受波する超音波探触子と、
前記超音波探触子によって得られた信号から画像を作成する画像作成部と、
前記画像を表示する表示部と、
被検体の測定部位の深さに応じて前記超音波探触子の焦点を制御する制御部とを備える超音波撮像装置において、
前記超音波探触子は基板上に、それぞれ下部電極と、上部電極と、前記上部電極と共に振動する長方形のダイヤフラムと、前記下部電極と上部電極の間に設けられた空隙とを有する複数の超音波トランスデューサを有し、長辺と短辺の長さの比が異なるダイヤフラムを含んでいることを特徴とする超音波撮像装置。
【請求項34】
請求項33に記載の超音波撮像装置において、隣接するダイヤフラム間の間隔は前記基板内を伝播する超音波の最も成分の多い周波数における波長の1/80以下であることを特徴とする超音波撮像装置。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−23735(P2012−23735A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162766(P2011−162766)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【分割の表示】特願2007−540890(P2007−540890)の分割
【原出願日】平成18年8月2日(2006.8.2)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】