説明

超音波モータ

【課題】 回転特性を向上した低コストな超音波モータを提供する。
【解決手段】 圧電体13及び円周方向に配列した多数の櫛歯121を備える櫛歯体12で構成されるステータ1と、櫛歯体12の表面12aに圧接される圧接面21aを有する回転可能なロータ2とを備える超音波モータであって、ロータ2の圧接面21aには、鉛筆硬度F以上の硬度を有し、固体潤滑剤を含むフェノールエポキン樹脂又はポリアミドイド樹脂からなる樹脂膜4が形成される。櫛歯体12とロータ2の圧接面21aとが樹脂膜4を介して密接状態となり、回転効率の高い超音波モータが構成でき、特に負荷状態での回転数を高め、かつ立ち上がり特性を改善し、回転音が抑制される。さらに、樹脂膜4の磨耗が抑制され、耐久性が向上する。スライダは不要となり、樹脂膜4はロータ2の圧接面21aに塗布によって形成することができるので低コストになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波モータに関し、特に回転特性及び耐久性の向上と低コスト化を図った超音波モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波モータは、複数に分極した圧電体を円周配置したステータと、このステータに所定の圧力で当接した回転可能な円板状あるいは円環状のロータとで構成され、ステータの圧電体に高周波電圧を印加して圧電体を振動させ、この振動を圧電体と一体的に設けた櫛歯体によって円周方向に拡大させて櫛歯体を円周方向に向けて進行波動作させることで、圧電体に摩擦係合しているロータを軸回り方向に回転動作させるものである。ステータの櫛歯体は振幅を拡大する機能を有しているが、通常振幅は1〜3μmなのでロータの回転効率(ステータの振動エネルギに対するロータの回転エネルギ)を高めるためには、ステータの櫛歯体に対してロータを円周方向及び径方向に偏りなく密接させることが必要である。従来では、櫛歯体とロータの接触面の面精度と平面度は数μm以内の加工精度が要求されるとともに、櫛歯体とロータの接触面の組立平行度も同程度の精度が要求されている。
【0003】
このような要求を満たすために、ロータの櫛歯体に対する接触面に平面度や面精度の加工調整が容易な高分子樹脂からなるスライダを形成する技術が提案されている。例えば、特許文献1ではロータの表面に高分子樹脂からなるスライダを接着する技術が提案されている。また、特許文献1ではスライダに発生する静電気によってスライダの磨耗が進むことを防止し、静電気により付着した埃等によってロータの回転効率が低下することを防止するためにスライダを導電性有機材料で形成し、あるいはスライダの表面に導電性有機材料を塗布する技術も提案されている。
【特許文献1】特開平9−98587号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、ロータとは別部品のスライダを超音波モータの構成部品とするために、超音波モータの部品点数が増えるとともに、スライダをロータに組み立てる工程が必要になり、超音波モータのコスト高の要因になる。特に、スライダの表面に導電性有機材料を塗布する場合には、さらに塗布工程が必要になり、さらなるコスト高をまねくことになる。また、スライダの厚さや塗布膜の厚さ等について検討されていないため、耐久性、負荷を加えたときの回転数、回転音の発生、立ち上がり特性等の超音波モータに要求される回転特性が改善されているか否かは明確ではない。
【0005】
本発明の目的は、ロータの回転特性を向上する一方で低コスト化を図った超音波モータを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、圧電体及び円周方向に配列した多数の櫛歯を有する櫛歯体を備えるステータと、櫛歯体の表面に圧接される圧接面を有する回転可能なロータとを備える超音波モータであって、ロータの圧接面には、鉛筆硬度「F」以上の硬度を有し、固体潤滑剤を含むフェノールエポキン樹脂又はポリアミドイド樹脂からなる樹脂膜が形成されていることを特徴とする。固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、フッ素、グラファイトの少なくとも1つである。また、フッ素は、PTFE(四フッ化エチレン)、PFA(四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)のいずれか、又はこれらの混合物であることが好ましい。さらに、樹脂膜はロータの圧接面に塗布されている。樹脂膜の膜厚は1〜100μm、好ましくは30〜40μmである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ロータの表面に固体潤滑剤を含むフェノールエポキン樹脂又はポリアミドイド樹脂からなる樹脂膜を備えているので、ステータの櫛歯体とロータの圧接面とが樹脂膜によって密接状態となり、回転効率の高い超音波モータが構成でき、特に固体潤滑剤によって安定した静止摩擦、動摩擦が得られるので負荷状態での回転数を高め、かつ立ち上がり特性を改善する。また、固体潤滑剤によって櫛歯体とロータとの潤滑性が高められ徐々に樹脂膜の磨耗が進み常に新しい面状態が更新されることで回転性能を維持することができる。また、回転音が抑制される。一方、樹脂膜の鉛筆硬度は「F」以上であるので樹脂膜の磨耗が抑制される。樹脂膜の磨耗が進行される場合でも樹脂膜の膜厚を所定の範囲の膜厚とすることで超音波モータに要求される耐久性を確保することができる。その一方で、特許文献1のようなスライダは不要であり、しかも樹脂膜はロータの圧接面に塗布によって形成することが容易であるので低コストに構成できる。
【実施例1】
【0008】
次に、本発明の実施例を図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例1の超音波モータの外観斜視図、図2はその縦断面図である。また、図3は部分分解斜視図である。これらの図において、モータ取付用の取付穴111を有する円板状の台座11の下側に円周方向に複数の櫛歯121を配列した短円筒容器状の櫛歯体12が一体に設けられており、この櫛歯体12の上面には前記櫛歯121に対応して円周方向に複数に分極された円形薄板状の圧電体13が一体的に搭載され、これら圧電体13と櫛歯体12とでステータ1が構成される。また、圧電体13にはフレキシブル基板14を介して高周波電圧が印加されるようになっている。前記台座11の中心には軸穴112が開口され、内周面に円筒状の軸受筒15が固定されている。また、この軸受筒15内には玉軸受17が内装され、この玉軸受17によって回転軸3が軸支され、ワッシャ31により抜け止めされる。この回転軸3の下端部にはロータ2が取着されている。ロータ2は周壁部21の上端面、すなわち圧接面21aには後述する樹脂膜4が形成されており、この樹脂膜4が前記櫛歯体12の表面、換言すれば櫛歯121の表面12aに当接すべく短円筒状に形成されている。また、軸受筒15の下端部と前記球軸受17との軸方向の間に圧縮コイルスプリング16が介挿されており、この圧縮コイルスプリング16の軸方向の弾性力によって玉軸受17及びこれを支持している回転軸3を上方向に付勢し、ロータ2の周壁部21の圧接面21aをステータ1の櫛歯体12の表面12aに向けて付勢している。
【0009】
図4は前記櫛歯体12の表面12aとロータ2の周壁部21の圧接面21aに設けた樹脂膜4とが圧接している部分の拡大断面図である。前記ロータ2の円環状をした圧接面21aの径方向の幅寸法W2はステータ1の櫛歯体12の表面12aの径方向の幅寸法W1よりも小さくされている。ここで、前記ロータ2はアルミニウムで形成され、ステータ1はリン青銅で形成されている。また、ロータ2の圧接面21aには前述した所要の膜厚をした樹脂膜4が一体に形成されている。この樹脂膜4は、フェノールエポキシ樹脂又はポリアミドイミド樹脂で構成される。これに、二硫化モリブデン(MoS2 )、フッ素、グラファイトからなる固体潤滑剤が1つ以上含まれている。前記フッ素としては、PTFE(四フッ化エチレン)、PFA(四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)があり、これらのいずれか又は混合物が使用可能である。実施例1では前記樹脂膜4はロータ2の圧接面21aに塗布されて均一な膜として形成されており、その膜厚は1〜100μmの範囲、ここでは30〜40μmの範囲に設定されている。また、前記樹脂膜4は鉛筆硬度測定器で測定した場合の表面の硬度が鉛筆硬度「F」以上となる硬度に設定されている。鉛筆硬度測定器は、鉛筆で塗装膜の表面を引っ掻いて傷が付く限界の鉛筆に定められた硬度、例えば「HB」,「B」等の硬度として表すものである。この測定を行うために鉛筆測定器では鉛筆の角度や荷重を一定にするための構成を備えているが、ここでは詳細な説明は省略する。
【0010】
この実施例1の超音波モータでは、フレキシブル基板14を通して圧電体13に高周波電圧を印加すると、圧電体13が振動し、これと一体の櫛歯体12が振動し、円周方向に配列されている複数の櫛歯121が円周方向に変位される。圧縮コイルスプリング16の付勢力によってロータ2の圧接面21aは樹脂膜4を介して櫛歯体12の表面12aに圧接されているため、この圧接によってロータ2の樹脂膜4の表面と櫛歯体12の表面12aに生じる摩擦力によって樹脂膜4、すなわちこれと一体のロータ2が円周方向に移動され、ロータ2及びこれを支持している回転軸3が回転される。回転軸3の回転力は回転軸3に取着された図には表れない歯車を介して外部に伝達される。
【0011】
このとき、ロータ2の圧接面21aはステータ1の櫛歯体12の表面12aには直接圧接されておらず樹脂膜4が介在されているため、ロータ2とステータ1の金属同士が直接接触することがなく回転騒音が抑制され、静粛な回転動作が行われる。また、樹脂膜4は前記したようにフェノールエポキシ樹脂又はポリアミドイミド樹脂で形成され、内部に固体潤滑剤が含有されているので、ロータ2とステータ1とは緩衝された状態での接触となり、かつ潤滑性に優れた接触となるので、櫛歯12の表面12aとロータ2の圧接面21a、すなわち樹脂膜4の表面とが円周方向及び径方向にわたって偏りのない良好な密接状態となり、ロータ2の回転効率に優れたものが得られる。その一方で、樹脂膜4の鉛筆硬度は「F」以上であるので、回転動作に伴う樹脂膜4の磨耗が抑制され、超音波モータが適用される機器に要求される寿命を確保することができる。
【0012】
図5は樹脂膜4を構成している樹脂種、固体潤滑剤、鉛筆硬度を相違させた場合の超音波モータにおける耐久回転数と、共振周波数における所定負荷での回転数、回転音、超音波モータの立ち上がり特性の測定値である。ここで、耐久回転数はCW2回転,CCW2回転を1回とした耐久回数であり、樹脂膜4が磨耗して実用的ではない状態になるまでの回数である。共振周波数における所定負荷での回転数は、超音波モータの回転軸3に所定負荷(ここでは30〔gf・cm〕の負荷を加えたときの回転数〔rpm〕である。共振周波数における回転音は超音波モータを共振周波数で回転したときに超音波モータから所定レベル以上の回転音が生じるか否かであり、所定レベル以下の回転音の場合には回転音が無しとしている。立ち上がり特性は超音波モータを始動したときに瞬時に所定の回転速度に達するものと良としている。ここでは本発明にかかる超音波モータとして、樹脂種にポリアミドイミド樹脂を用い、固体潤滑剤を相違させた鉛筆硬度「F」の超音波モータ(d),(e)を用意した。なお、比較のために樹脂膜4を形成していない超音波モータ(a)と、ステータ1の櫛歯体12の表面12aに樹脂膜4を形成した超音波モータ(b)と、樹脂膜4の鉛筆硬度が要件を満たしていない鉛筆硬度「B」の超音波モータ(c)についても同様の特性の測定値を示している。
【0013】
この測定結果から、本願発明の前記要件を満たしている樹脂膜4を備える超音波モータ(d),(e)では、いずれの測定値についても基準を満たしており、静粛で特性に優れた超音波モータが得られている。樹脂膜4を有していない超音波モータ(a)では回転音が高く、また立ち上がり特性が基準を満たしていない。樹脂膜4を櫛歯体12の表面12aに形成した超音波モータ(b)では、回転駆動の経過に伴って樹脂膜4のロータ2の圧接面21aに圧接している箇所が他の箇所に比較して磨耗が進むため、耐久回数が極めて低く、機器に要求される寿命を満たしていない。鉛筆硬度が「B」の超音波モータ(c)では、駆動音、立ち上がり特性は基準を満足するが、樹脂膜が軟らかいため、耐久回数が低下されるとともに、共振周波数における所定負荷での回転数が低く、この点で基準を満たしていない。
【0014】
ここで、前記樹脂膜4は超音波モータが適用される機器に要求される耐久回転数、負荷回転数、回転音等の特性によって適切な膜厚に設定される。すなわち、超音波モータの回転数の増加に伴って樹脂膜4が磨耗されて膜厚が低下されてしまうため、通常では一般的な機器に要求される耐久性から1〜100μmの範囲に設定される。1μmよりも薄いと耐久回転数が極めて小さなものになり、100μmよりも厚くすると樹脂膜4の磨耗に対しては十分であるが、超音波モータを構成する玉軸受やその他の構成部品との耐久性との関係から膜厚を増大する意味がなくなり、また樹脂膜自体の剥離が起こり易くなる。また、負荷回転数を増大する見地からは櫛歯体12とロータ2との間にあまり厚い樹脂膜が存在しない方が好ましく、膜厚は薄い方が良い。回転音を低減する見地からは櫛歯体12とロータ2との間の緩衝膜として膜厚は厚い方が好ましい。本発明者の種々の測定によれば、樹脂膜4の膜厚を30〜40μmにすることにより、要求される負荷回転数を満たすとともに回転音を殆ど無くすことが両立できることが判明している。
【0015】
本発明における樹脂膜は、図5に示した測定時の試料で示した樹脂膜に限られるものではなく、異なる樹脂種のもの、あるいは樹脂種と固体潤滑剤の組み合わせが異なる任意の樹脂膜であってもよいことは言うまでもない。また、樹脂膜の鉛筆硬度も図5の「F」にかぎられるものではなく、「H」,「HB」程度の硬度であってもよいことは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例1の超音波モータの外観斜視図である。
【図2】図1の超音波モータの軸方向の断面図である。
【図3】図1の超音波モータの部分分解斜視図である。
【図4】櫛歯体とロータの圧接部分の拡大断面図である。
【図5】樹脂膜を相違させた超音波モータの回転特性の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0017】
1 ステータ
2 ロータ
3 回転軸
4 樹脂膜
11 台座
12 櫛歯体
12a 櫛歯体表面
13 圧電体
14 フレキシブル基板
15 軸受筒
16 圧縮コイルスプリング
17 玉軸受
21 周壁部
21a 圧接面



【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電体及び円周方向に配列した多数の櫛歯を有する櫛歯体を備えるステータと、前記櫛歯体の表面に圧接される圧接面を有する回転可能なロータとを備える超音波モータであって、前記ロータの圧接面には、鉛筆硬度「F」以上の硬度を有し、固体潤滑剤を含むフェノールエポキン樹脂又はポリアミドイド樹脂からなる樹脂膜が形成されていることを特徴とする超音波モータ。
【請求項2】
前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデン、フッ素、グラファイトの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載の超音波モータ。
【請求項3】
前記フッ素は、PTFE(四フッ化エチレン)、PFA(四フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)のいずれか、又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項2に記載の超音波モータ。
【請求項4】
前記樹脂膜は前記ロータの圧接面に塗布されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波モータ。
【請求項5】
前記樹脂膜の膜厚は1〜100μm、好ましくは30〜40μmであることを特徴とする請求項4に記載の超音波モータ。
【請求項6】
前記ロータの圧接面の径方向の寸法は前記櫛歯体の表面の径方向の寸法よりも短いことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の超音波モータ。
【請求項7】
前記ロータと前記ステータはそれぞれ金属で形成されていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の超音波モータ。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−92748(P2008−92748A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273541(P2006−273541)
【出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】