説明

超音波伝播速度測定装置及び同測定装置を備えた炭素繊維の製造装置

【課題】測定時間が短く繊維の製造ラインに組み込むことが可能で、且つ測定誤差も小さく、更には多数の単繊維からなる繊維束にも適用でき、被測定物品に非可逆的変化が生じない完全な非破壊評価である超音波伝播速度の測定装置と、同装置を備えた炭素繊維の製造装置とを提供する。
【解決手段】 超音波伝播速度測定装置(10)は、繊維束の内部に超音波を発生させる超音波発生手段(13)と、同発生手段(13)から同一方向に離れた異なる2個所に配され、繊維束内を伝播する超音波を検知する第1及び第2超音波検知手段(14,15) と、同検知手段(14,15) による検知時間を測定する検知時間測定手段(18)と、上記各手段の駆動制御部及び超音波伝播速度の演算部を有する制御演算装置(19)とを備えている。超音波伝播速度が測定される繊維束はニップローラ(11,12) により移動・ 停止されると共に所定の張力が付与される。また、前記超音波発生手段(13)及び前記超音波検知手段(14,15) はそれぞれ、圧接手段(17)により繊維束に圧接されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺な繊維束や同繊維束に樹脂を含浸させた複合材料などの被測定物品における超音波伝播速度を測定するための超音波伝播速度測定装置と同測定装置を備えた炭素繊維の製造装置に関し、前記超音波伝播速度測定装置は、長尺な被測定物品の超音波伝播速度を非破壊的に且つ連続して測定可能である。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、アラミド繊維やガラス繊維などの高強力高弾性繊維は、例えば弾性率や強度などの各種性能が長手方向に均一であることが特に要求される製品である。これらの繊維は製造工程の途中や、或いは中間製品の状態では極めて多数の単繊維から構成される繊維束の形態をなし、その繊維束は多い場合には数万本の単繊維から構成されている。このような繊維束の長手方向での品質の均一性を非破壊的に評価する方法として、従来から超音波伝播速度を測定してその弾性率を求める方法が採用されている。しかしながら、従来の超音波伝播速度測定方法では精度が不十分であり、また測定時間が長く繊維の製造工程に組み込むこともできないため、品質斑を低減させるための解析や品質管理を目的とした測定方法としては好適なものではなかった。
【0003】
このような従来の超音波伝播速度測定方法としては、例えば、「日本複合材料学会誌,16,5(1990),204−210 (P.32〜38) 」に早川らにより発表されている方法(非特許文献1)や、特開平1−209358号公報に開示されている方法(特許文献1)がある。
【0004】
非特許文献1では、まず、試料であるトウ(繊維束)又はトウに樹脂を含浸させた樹脂含浸ストランドをゴム板上に置き、圧電素子からなる発信子と受信子とを前記試料に上部から圧接する。次いで、1MHzの超音波を発信してから受信するまでの所要時間を測定する。この所要時間の測定は発・受信子間距離を300mmした場合と200mmとした場合とについて二回行い、各距離で測定された所要時間の差を超音波が試料内を伝播するに要する時間であるとして、超音波伝播速度を求めている。
【0005】
また、特許文献1は、超音波発生用レーザ発振器により複合材料又は繊維状物質の表面にレーザ光を照射して非接触状態で超音波を発生させ、前記レーザ発振器と所定距離を隔てて設置された超音波検知器により、前記複合材料又は繊維状物質の内部を伝播する超音波を非接触状態で検知する。前記レーザ発振器及び超音波検知器の間の距離と、レーザ照射時期及び検知時期の間の時間差分値とから、超音波の伝播速度を求めている。
【非特許文献1】日本複合材料学会誌,16,5(1990),204−210 (P.32〜38)
【特許文献1】特開平1−209358号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1では超音波伝播速度を求めるに際して、前記発・受信子間の距離を300mmと200mmとの長短二種類に設定して、それぞれの距離での超音波伝播に要する時間を測定し、その所要時間の差から超音波伝播速度を求めている。そのため、長尺の繊維束において長手方向での音速斑を測定する場合に、1点でのの超音波伝播速度を求めるにあたって、2種類の発・受信子間距離に設定すると共に、2度の超音波の発信と検知及び2度の所要時間の測定を要するため、結果として測定時間が長くなるという問題点がある。このため、超音波伝播速度の測定時間よりも繊維の製造速度が速い場合には、繊維の製造ラインに超音波伝播速度の測定を組み込んで、繊維の長手方向にその全長にわたって漏れなく超音波伝播速度を測定して品質管理を行うことは困難である。更に、長短二種類の発・受信子間距離を測定の度に設定し直さなければならず、距離設定に誤差が生じ易いという問題点もある。
【0007】
一方、特許文献1は複合材料又は繊維状物質に対して非接触状態でレーザ光を照射すると共に、非接触状態で超音波を検知しているため、繊維束のように断面形状が長手方向に沿って不均一であるものに対して適用することは、基本的には困難である。というのも、繊維束は各構成繊維の相互の位置関係が長手方向に沿って一定ではなく長手方向に変化しており、全ての繊維同士が常には密着してはおらず、部分的に繊維同士がばらけている。また繊維束としての自然発生的な撚りや或いは強制的な撚りも存在しており、繊維束の断面形状も一定ではない。
【0008】
このため、ある位置で繊維束の表面にあった構成繊維が、他の位置では繊維束内に潜り込んで表面には露出していない場合もあったり、或いは、表面に存在していても、検知器の側とは反対の裏側に存在している場合もある。このような繊維束の表面にレーザ光を照射して超音波を発生させると、その発生した超音波の強度は繊維束の形状によって大きく変化し、その結果、超音波検知器により検知される信号レベルも大きく変動するため、伝播に要する時間の測定を高精度に行うことができないといった問題が生じる。また、特に特許文献1のように超音波検知器も非接触的に検知を行う場合には、検知器の正面に超音波を発生して伝播している繊維が存在しないと、超音波を検知することが困難であるといった問題も生じる。
【0009】
更には、特許文献1は単一の繊維や、樹脂を含浸させて一体化した複合材料(樹脂含浸ストランド)の場合には好適に使用できる方法ではあるが、多数の単繊維から構成される繊維束での超音波伝播速度を測定する方法としては、精度も低く、繊維束の斑を測定する用途として満足な結果を得ることはできない。その理由は、繊維束の繊維は細く光を散乱させるため反射光が弱く、非接触状態で超音波を検知する超音波検知器では検知が容易ではないことにある。特に黒い炭素繊維の場合には殆ど反射光が発生しないため、非接触状態での超音波発生手段と非接触状態での超音波検知手段との組合せによる繊維束の超音波伝播速度の測定は殆ど不可能である。
【0010】
また、特許文献1では、繊維状物質の表面に超音波発生用レーザ発振器によりレーザ光を照射すると、前記繊維状物質の表面に発生する熱応力及び繊維状物質の蒸発等によって繊維状物質に超音波が発生する。すなわち、特許文献1には繊維束に対して非可逆的な変化を起こさせるといった問題もある。繊維束にはその集束性と取扱い性を良くするために油剤などの添加剤が少量添加されているので、この一部分あるいは全部分が蒸発したり、熱応力により微小クラックが発生する場合があり、特許文献1は完全な非破壊評価法とは言えない。
【0011】
特許文献1の更なる問題点は、前記レーザ発振器及び超音波検知器の間の距離と、レーザ光を照射した時期及び超音波検知器が超音波を検知した時期の間の時間差分値とから、超音波伝播速度を求めていることにある。この場合、前記時間差分値には超音波がレーザ発振器と超音波検知器との間の距離を伝播する時間だけでなく、検知器での電子回路の信号伝達時間もが含まれることとなり、超音波伝播速度の測定誤差となる。また、前記信号伝達時間は電子回路部品の温度変化や劣化などにより変動するため、繊維状物質の僅かな音速斑を測定するには支障をきたす場合がある。
【0012】
本発明はかかる従来法の問題点を解決すべくなされたものであり、多数の単繊維から構成される断面形状が不均一な繊維束での超音波伝播速度の測定にも適用でき、繊維束を含む被測定物品に対して非可逆的変化を生じることもない完全な非破壊評価であり、測定時間も短く、繊維の製造ラインに組み込むことが可能である、測定誤差が小さい高精度な超音波伝播速度の測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために、本件請求項1に係る発明は、繊維束又は樹脂含浸繊維束などの被測定物品の長手方向での超音波伝播速度を非破壊的に測定するための超音波伝播速度測定装置であって、前記被測定物品の内部に超音波を発生させる超音波発生手段と、前記超音波発生手段から同一方向に離れた異なる2以上の個所に配され、前記被測定物品内を伝播する超音波を検知する2以上の超音波検知手段と、前記2以上の超音波検知手段による各検知時間の測定手段と、各検知時間差を演算して超音波伝播速度を求める演算部と、前記各手段の駆動制御部と、を備えてなることを特徴とする超音波伝播速度測定装置を主要な構成としている。
【0014】
かかる測定装置にあっては、単一の超音波発生手段により被測定物品の内部に超音波を発生させる。その後、前記2以上の超音波検知手段により前記被測定物品内を同一方向に伝播した超音波が異なる位置で検知される。この2以上の超音波検知手段による各検知時間が検知時間測定手段により測定され、演算部により各検知時間差を演算して超音波伝播速度が求められる。
【0015】
このように、本発明によれば単一の超音波発生手段により被測定物品内に発生した同一の超音波を、前記超音波発生手段からの距離が異なる2以上の箇所でほぼ同時期に検知しているため、測定時間が短い。また、超音波検知手段を2以上配することにより、各検知手段間の距離を伝播するのに要する時間、即ち検知時間差から超音波の伝播速度を求めているため、超音波検知手段において生じる電子回路の信号伝達時間などの誤差は、2つの検知手段の性能を一致させることにより相殺されて最小限に抑えられ、超音波伝播速度を測定誤差が少なく高精度に測定できる。
【0016】
本件請求項2に係る発明によれば、前記超音波発生手段と前記超音波検知手段との間の測定領域にある被測定物品に所定の張力を付与する張力付与手段を更に備えている。このように、張力付与手段により所定の張力を付与することにより、例えば被測定物品が多数の単繊維からなる繊維束である場合に、各単繊維が引き揃えられて直線状になり、超音波が最短距離を伝播するため、超音波伝播速度をより正確に求めることができる。なお、繊維束の場合には特に、超音波伝播速度が張力に依存して僅かではあるが変化するため、長尺な繊維束の長手方向にわたる品質を管理すべく超音波伝播速度を測定する場合には、一連の測定において常に一定の張力を付与することが肝要となる。
【0017】
本件請求項3に係る発明によれば、前記超音波発生手段と前記超音波検知手段とを前記被測定物品に圧接させるための圧接手段を更に備えている。この圧接手段は、前記超音波発生手段及び2以上の前記超音波検知手段のそれぞれに個別に配してもよく、或いは前記超音波発生手段及び2以上の前記超音波検知手段を単一の圧接手段により同時に圧接駆動することもできる。
【0018】
このように、前記圧接手段により前記超音波発生手段を前記被測定物品に対して圧接させることにより、前記被測定物品に対して直接、超音波を付与することがでる。そのため、例えば従来のレーザー光の照射により被測定物品に超音波を発生させる場合に被測定物品に生じていた非可逆的な変化もなく、完全に非破壊的な測定ができる。また、前記超音波検知手段を繊維束に圧接させて超音波を直接検知することにより、被測定物品が多数の単繊維からなる繊維束の場合にも容易に検知が可能となる。また、従来のように反射光を検知するのではないため、炭素繊維のような黒色の繊維束の場合にも適用が可能である。
【0019】
また、本件請求項4に係る発明によれば、前記超音波検知手段は前記被測定物品の長手方向に直交する方向で、同被測定物品に対して線接触する超音波検知部を有している。このように、少なくとも前記超音波検知部を前記被測定物品に対して線接触させることにより、例えば前記被測定物品が多数の単繊維からなる繊維束である場合にも、前記繊維束は扁平に押しつぶされ、内部や裏側に存在していた単繊維にも前記超音波検知部を接触させることができるため、超音波を確実に検知することが可能となる。更には、前記超音波発生手段における超音波伝達部も同様に、前記被測定物品の長手方向に直行する方向で、同被測定物品に対して線接触させることが好ましい。
【0020】
更に本件請求項5に係る発明によれば、前記被測定物品を前記測定領域外の新たな測定領域に一定距離だけ移動させる物品移動手段を備えている。この移動の際には、前記超音波発生手段と前記超音波検知手段とが、前記被測定物品を傷めないように、前記圧接手段を制御することにより被測定物品から離間させている。このように物品移動手段を配することにより、被測定物品が長尺である場合にもその長手方向に一定のピッチで連続的に超音波伝播速度の測定が可能となる。従って、例えば炭素繊維の製造ラインに組み込んで、炭素繊維の長手方向にわたって連続して超音波の伝播速度を測定することができ、製品の全長にわたって品質を管理することが可能となる。
【0021】
また、本件請求項6に係る発明は、上述した超音波伝播速度測定装置をいずれかの製造工程間に備えてなることを特徴とする炭素繊維の製造装置を主要な構成としている。
【0022】
なお、前記超音波伝播速度測定装置では繊維束を同装置に対して停止させた状態で超音波伝播速度を測定するものであるが、炭素繊維の製造装置では繊維束が一定の速度で走行している。そこで、本件請求項7に係る発明によれば、前記超音波伝播速度測定装置の上流側には炭素繊維の貯留部が設けられている。また、超音波伝播速度測定時に、前記超音波伝播速度測定装置が炭素繊維の走行速度と同一の速度で移動する測定装置移動手段を備えていてもよく、この測定装置移動手段は、測定終了後に再びもとの位置まで復帰する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、好適な実施例である超音波伝播速度測定装置を図面を参照して具体的に説明する。図1は上記超音波伝播速度測定装置の概略を示す正面図であり、図2は同装置における圧接手段の側方概略図である。
【0024】
前記超音波伝播速度測定装置10は、多数の単繊維から構成される繊維束Fの供給源1と、繊維束Fの引取り手段2との間に設置されている。なお、本実施例の場合には、前記繊維束供給源1が前記繊維束Fを巻き取ったロールであり、また、測定後の繊維束Fも引取り手段2である巻きロールに引き取っているが、前記測定装置10は繊維束の製造ラインの途中や製造ラインの最後に組み込んで使用することもできる。
【0025】
前記超音波伝播速度測定装置10は、その上流側及び下流側のそれぞれの端部に、繊維束Fの移動手段であると共に張力付与手段であるニップローラ11,12を備えており、両ニップローラ11,12を連係駆動することにより繊維束Fを一定距離だけ移動させ、超音波伝播速度の測定時には繊維束Fの移動を停止して両ニップローラ11,12間にある繊維束Fに所定の張力を付与する。更に測定終了後には次回の測定のために繊維束Fを一定距離だけ移動させ、両ニップローラ11,12間に存在する繊維束Fの一部分又は全部分を新たな未測定の繊維束Fと入れ替える。
【0026】
ここで、超音波伝播速度の測定時に繊維束に張力を付与することにより、繊維束に存在している多数の繊維が直線状に引き揃えられる。そのため、繊維束の一部に付与した超音波を繊維束内の最短距離で伝播させることができ、超音波伝播速度をより正確に測定することができる。このように、繊維束F内の超音波伝播速度は同繊維束Fに付与された張力によって僅かではあるが変化するため、一連の繊維束Fに対して測定を行う際には、繊維束Fには各測定個所ごとに常に一定の張力を付与することが重要である。
【0027】
なお、本実施例にあっては、繊維束Fの供給源1と引取り手段2とがいずれも巻きロールであるため、繊維束Fの移動手段であり且つ張力付与手段としてニップローラを採用し、すなわち、超音波伝播速度測定装置10は繊維束Fの移動手段を備えているものである。しかしながら繊維の製造装置に超音波伝播速度測定装置を組み込む場合には、繊維束Fの移動手段は前記製造装置の移動手段と共有させることができる。なお、この場合には、張力付与手段により走行する繊維束Fを停止させると共に同繊維束Fに所定の張力を付与する。
【0028】
或いは、前記製造ラインの繊維製造装置で通常に使用されている繊維束の駆動手段を超音波伝播速度測定装置の張力付与手段として共用することもできる。例えば、一方のニップローラを位置制御型サーボモータで駆動し、超音波伝播速度の測定時には繊維束を前記ニップローラで把持したまま停止させ、測定後は繊維束を所望の距離だけ移動するよう同ニップローラを回転させる。また、他方のニップローラはトルクモータで駆動し、繊維束に対して常に所定の張力を与えることができる。
【0029】
2つの前記ニップローラ11,12の間には、超音波発生手段13と、その下流側の異なる2箇所に、第1及び第2の超音波検知手段14,15が配されている。
【0030】
前記超音波発生手段13は超音波伝播速度の測定時に繊維束Fに圧接する超音波伝達部材13aと、圧電素子13bと、発信器13cとを備えている。前記超音波伝達部材13aは超音波伝達部であるその先端がナイフエッジ形状をなしており、繊維束Fの軸方向に直交して、同繊維束Fに線接触する。その超音波伝達部材13aのナイフエッジを含む面に圧電素子13bが取り付けられている。この超音波発生手段13は前記発信器13cからのパルス電気信号を前記圧電素子13bに与え、前記超音波伝達部材13aを介して繊維束Fに超音波を出力する。
【0031】
前記超音波検知手段14,15は超音波伝播速度の測定時に繊維束Fに圧接する超音波伝達部材14a,15aと、圧電素子14b,15bと、波形解析器14c,15cとを備えている。同検知手段14,15も前記超音波発生手段13と同様に、超音波伝達部材14a,15aの超音波検知部である先端がナイフエッジ形状をなしており、繊維束Fの軸方向に直交して線接触している。その超音波伝達部材14a,15aのナイフエッジを含む面に圧電素子14b,15bが取り付けられており、繊維束Fに圧接している前記超音波伝達部材14a,15aを介して、伝播した超音波を圧電素子14b,15bにより受信すると共に電気信号に変換し、その電気信号を波形解析器14c,15cに送る。同波形解析器14c,15cでは受信波形の基準点を検知してパルス信号を出力する。
【0032】
なお、本実施例では前記超音波発生手段13の超音波伝達部材13a及び超音波検知手段14,15の各超音波伝達部材14a,15aの繊維束Fに圧接するエッジ部分は、繊維束Fを損傷しない程度に鋭いことが好ましく、エッジ部分の半径と圧接力とは測定する繊維束に応じて適宜選択される。このように超音波伝達部材13a,14a,15aをナイフエッジ形状として繊維束Fに対して線接触させて圧接することにより、繊維束への超音波の出力及び超音波の検知を確実に行うことができ、また前記超音波発生手段13の前記超音波伝達部材13aと、前記超音波検知手段14,15の各超音波検知部材14a,15aとの間の距離を精密に計測でき、その距離の測定誤差を極めて小さくできる。
【0033】
前記超音波発生手段13、第1及び第2超音波検知手段14,15は、それぞれ、各超音波伝達部材13a,14a,15aを繊維束Fへ圧接させるための圧接手段16を備えている。同圧接手段16はエアシリンダ16aを有しており、その先端に前記超音波伝達部材13a,14a,15aが取り付けられている。前記エアシリンダ16aは、装置架台17に固定されたガイドレール16cに沿って繊維束Fの走行方向に平行して移動可能なシリンダ固定台16bに固定されており、前記超音波伝達部材13a,14a,15aの繊維束Fに対する圧接位置を測定条件に応じて適宜調節が可能である。更に前記エアシリンダ16aには図示せぬエアの供給源から三方電磁弁16eを介してエアが給排される。
【0034】
また、前記圧接手段16は、前記超音波発生手段13の前記超音波伝達部材13a及び前記超音波検知手段14,15の各超音波検知部材14a,15aに対向する位置に、繊維束Fの受け台16dが、前記装置架台17に固定して配されている。同受け台16dは例えばゴムやプラスチックのような繊維束Fを損傷することがなく、また、超音波減衰が大きな材質を選ぶことが好ましい。
【0035】
かかる圧接手段16は、測定時に前記エアシリンダー16aに所定圧力のエアを供給源から前記三方電磁弁16eを介して供給し、前記超音波発生手段13、の超音波伝達部材13a及び超音波検知手段14,15の各超音波伝達部材14a,15aを繊維束Fを挟んで前記受け台16dに対して所定の圧力で押し付け、それぞれの超音波伝達部材13a,14a,15aを繊維束Fに対して圧接させる。そして測定後には移動する繊維束を損傷しないように、前記三方電磁弁16eを通して内圧を開放し、前記エアシリンダ16aを上昇させて前記超音波伝達部材13a,14a,15aをそれぞれ繊維束Fから離間させる。
【0036】
なお、本実施例では前記超音波発生手段13、第1及び第2超音波検知手段14,15のそれぞれに前記圧接手段16を取り付けているが、前記超音波発生手段13、第1及び第2超音波検知手段14,15に単一の圧接手段を配して前記繊維束Fに対して同時に圧接及び離間を行うこともできる。
【0037】
更に、超音波伝播速度測定装置10は、前記超音波検知手段14,15による各検知時間を測定する検知時間測定手段18を有している。同検知時間測定手段18は前記超音波発生手段13の発信器13c及び前記超音波検知手段14,15の波形解析器14c,15cに接続されており、各解析器14c,15cから送信された超音波検知パルス信号を検知した時期から、各超音波検知手段14,15による検知時間差を測定し、その結果を制御演算装置19へと送る。或いは、前記検知時間測定手段18では前記発信器13cからパルス電気信号を発信した時期と、各解析器14c,15cから送信された超音波検知パルス信号を検知した時期とから、各超音波検知手段14,15による各検知時間を測定してその結果を制御演算装置19へと送り、検知時間差は前記制御演算装置19により演算することもできる。
【0038】
前記制御演算装置19は各検知時間差を演算して超音波伝播速度を求める演算部と、前記各手段の駆動制御部とを備えている。前記演算部では、前記超音波発生手段13の超音波伝達部材13aの繊維束Fに対する圧接位置P1と第1超音波検知手段14の超音波伝達部材14aの繊維束Fに対する圧接位置P2との間の距離L1、前記超音波発生手段13の圧接位置P1と第2超音波検知手段15の超音波伝達部材15aの繊維束Fに対する圧接位置P3との間の距離L2、及び前記第1超音波検知手段14の圧接位置P2と前記第2超音波検知手段15の圧接位置P3との間の距離L0とが入力されている。この前記第1超音波検知手段14の圧接位置P2と前記第2超音波検知手段15の圧接位置P3との間の距離L0が超音波伝播速度の測定の基準距離となる。
【0039】
これらの距離データと前記時間差演算手段18から送られた検知時間差のデータとから、前記基準距離L0を基に繊維束Fの超音波伝播速度を求める。この超音波伝播速度と、繊維束Fの移動距離から求めた長手方向の測定位置情報とを共に表示/記録して、繊維束Fの超音波伝播速度とその長手方向での斑を評価する。
【0040】
また、前記制御演算装置19の駆動制御部は、図示せぬ信号入出力信号線とインターフェースとを備えており、ニップローラ11,12、超音波発生手段13、第1及び第2超音波検知手段14,15、圧接手段16などの各手段の連係動作を制御して、迅速に且つ高精度に、繊維束Fの長手方向での超音波伝播速度の測定を可能にしている。
【0041】
かかる超音波伝播速度測定装置10により繊維束Fの長手方向に亘って伝播速度の斑を評価するには、先ず、ニップローラ11,12の駆動により両ローラ11,12間に存在する繊維束Fに所定の張力を付与する。その後、超音波発生手段13、及び超音波検知手段14,15のそれぞれに接続されている圧接手段16を作動させて、前記超音波発生手段13の超音波伝達部材13a、及び超音波検知手段14,15の超音波伝達部材14a,15aをそれぞれ位置P1,P2,P3において繊維束Fに対して圧接させる。その状態で前記超音波発生手段13の発信器13cからパルス電気信号を圧電素子13bに与え、前記超音波伝達部材13aを介して繊維束Fに超音波を出力する。
【0042】
この超音波は、繊維束Fに圧接している前記第1及び第2超音波検知手段14,15の各超音波伝達部材14a,15aを介して、各圧電素子14b,15bにより受信される共に電気信号に変換され、その電気信号が各波形解析器14c,15cへと送られる。この波形解析器14c,15cでは受信波形の基準点を検知してパルス信号を出力し前記検知時間測定手段18へと送り、同検知時間測定手段18において2つの超音波検知手段14,15による検知時間差を求め、その結果は更に制御演算装置19へと送られ、基準距離L0と検知時間差とから超音波伝播速度が求められる。
【0043】
この測定終了後、前記圧接手段16のエアシリンダ16aを上昇させて前記超音波発生手段13の超音波伝達部材13a及び超音波検知手段14,15の各超音波伝達部材14a,15aをそれぞれ繊維束Fから離間させる。その後、前記ニップローラ11,12により繊維束Fを所定の距離だけ移動させて再び次回の測定を行う。
【0044】
なお、本実施例では、繊維束Fを巻きロールから供給し、測定後再び巻きロールに引き取っており、超音波伝播速度測定装置10を単独で使用しているが、同装置を製造ラインに組み込んで品質管理に使用することもできる。その場合には、超音波伝播速度の測定時には繊維束の移動を停止させて所定の張力を付与しており、繊維束の移動が間欠的であるため、測定時には製造ラインにおいて連続的に移動している繊維束は、本測定装置の上流側で弛むことになる。この弛みが製造ラインに影響を与えることがないように、本測定装置の上流側に繊維束の溜め機構を組み込むことが好ましいが、もちろん、弛みが製造ラインに影響を与えない限りは、弛みをそのままにして測定を行うことも可能である。
【0045】
また、連続的な繊維束の製造ラインに繊維束の溜め機構を組み込むことが困難である場合には、本測定装置による超音波伝播速度の測定時に、超音波発生手段と一対の超音波検知手段とを設置した装置架台を、前記超音波発生手段及び一対の超音波検知手段が繊維束を圧接すると同時に製造速度で移動させ、測定後、繊維束から離間した後に同架台を元の位置に復帰させるような機構を設けることもできる。
【0046】
次に、上記実施例による超音波伝播速度測定装置の測定誤差について説明する。先ず、超音波伝播速度V0は次の式(1) により定義される。
V0=L0/T0 ―――――――――(1)
ここで、
L0:超音波伝播速度測定の基準距離
T0:基準距離L0を超音波が伝播するのに要する時間
【0047】
実際にはL0及びT0の数値には誤差が含まれているので、求められた超音波伝播速度V0にも誤差が生じる。そこで、先ず最初に時間T0の測定について説明する。今、超音波発生手段13の発信器13cがパルス信号を出力した時間を基準にして、繊維束Fを伝播してきた超音波を、第1及び第2超音波検知手段14,15の各波形解析器14c,15cが検知した実測時間をそれぞれT1’,T2’とすると、それらは以下の式(2) 及び式(3) のように表すことができる。
T1’=ΔTa+T1+ΔTb ―――――――――(2)
T2’=ΔTa+T2+ΔTc ―――――――――(3)
ここで、
ΔTa:超音波が超音波発生手段13の発信器13cから超音波伝達部材13aの繊維束への圧接位置P1まで到達するのに要する時間
ΔTb:第1超音波検知手段14の圧接位置P2まで伝播した超音波が波形解析器14cに検知されるまでの時間
ΔTc:第2超音波検知手段15の圧接位置P3まで伝播した超音波が波形解析器15cに検知されるまでの時間
T1 :超音波が超音波発生手段13の圧接位置P1から第1超音波検知手段14の圧接位置P2まで伝播するのに要する時間
T2 :超音波が超音波発生手段13の圧接位置P1から第2超音波検知手段15の圧接位置P3まで伝播するのに要する時間
【0048】
また、基準距離L0を超音波が伝播するのに要する時間T0は(T2−T1)であるから、前記検知時間測定手段18により演算される実測時間T0’=T2’−T1’は、式(2) と式(3) とから、
T0’=T0+(ΔTc−ΔTb) ―――――――――(4)
となる。即ち、実測時間T0’は基準距離L0を超音波が伝播するのに要する時間T0に(ΔTc−ΔTb)という誤差を含んでいることとなる。しかし、この誤差(ΔTc−ΔTb)は第1及び第2の2つの超音波検知手段の構造と特性とを揃えてΔTcとΔTbとの差を少なくすることで(ΔTc−ΔTb)の値をゼロに近づけることができ、測定精度を向上できる。なお、2つの検知手段により検知される超音波は、同一の超音波発生手段から同一時間に出力されたパルス信号による超音波であるため、超音波発生手段における誤差ΔTaは式(4) では打ち消されてゼロとなっている。
【0049】
次に基準距離L0にも測定誤差を生じるが、上述した実施例では超音波発生手段13の超音波伝達部材13a及び超音波検知手段14,15の超音波伝達部材14a,15aの圧接縁部をナイフエッジ状とし、すなわち、超音波伝達部及び超音波検知部を繊維束Fに対して直交させて所定の位置で線接触させており、且つ圧接手段により常に一定の位置で圧接させることができるため、基本的には位置分解能と設定精度が高い。また、距離測定は通常の手段により高精度に測定することができるため、実用上の問題は少ない。
【0050】
なお、上述の実施例による超音波伝播速度測定装置10では2つの超音波検知手段14,15を備えているがこの超音波検知手段の設置数は2つに限定されるものではなく、前記超音波検知手段は前記測定装置10の設置スペースや超音波の伝播距離に応じて、2以上の超音波検知手段を配することができる。
【0051】
超音波検知手段を多数配することにより、一度の測定で多数の距離での超音波伝播に要する時間を測定でき、単一の基準距離における検知時間差のデータ数がが多くなるため、それらの平均値をとることでより正確な伝播速度を求めることができる。或いは、一度の測定で複数の部位での超音波伝播速度を測定でき、長尺な被測定物品の全長に亘って超音波伝播速度を測定する場合に、測定時間を大幅に短縮することができる。
【0052】
図3は、上述した実施例の超音波伝播速度測定装置により、単繊維数12,000本で全長が100mの炭素繊維束の超音波伝播速度を測定した結果を示す。このとき、超音波発生手段13の圧接位置P1と第1超音波検知手段14の圧接位置P2との間の距離L1は100mm、前記圧接位置P1と第2超音波検知手段15の圧接位置P3との間の距離L2は500mmとして、圧接位置P2とP3との基準距離L0は400mmとした。測定時の繊維束に付与した張力は1N、超音波発生手段13及び超音波検知手段14,15の圧接力は1Nとした。また、各測定ごとの繊維束の移動距離は400mmとして、全長に亘って超音波伝播速度を測定し、全測定点数は250点、測定速度は5秒/点、測定誤差は±0.01km/sである。なお、一点の測定時間の殆どは繊維束を移動させるのに要する時間であり、一桁程度移動時間を短くすることは容易であり、通常の炭素繊維の製造速度にも十分に対応できる。
【0053】
以上、説明したように、本発明によれば、超音波検知手段を2以上配することにより、2以上の距離での超音波伝播時間を、1度の超音波発信で測定できるため、測定時間も短縮できると共に、測定位置のズレもなく、測定精度も向上する。
【0054】
更には、単一の超音波発生手段から出力された同じ超音波を2以上の検知手段で検知しているため、超音波発生手段で生じる誤差を考慮する必要はない。また、超音波検知手段などの内部を伝播する時間による誤差も、同じ構造で同じ特性の対になった超音波検知手段を用いることで最小にしている。このため、若干の誤差が残ったとしてもその経時変化は少ない。
【0055】
また、超音波発生手段及び超音波検知手段を圧接させて各手段により直接、超音波の出力や検知を行う場合には、繊維束の断面形状や光反射率に依存せずに安定に超音波を伝播することが可能であり、黒色の炭素繊維束の測定にも十分に適用が可能である。更に、その圧接を線接触で行う場合には、距離の設定精度も高くなる。更に、直接繊維束に圧接して超音波を出力する超音波発生手段を採用すれば、熱の発生もないので繊維束を破壊することがない。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の好適な実施例である超音波伝播速度測定装置の概略を示す正面図である。
【図2】上記装置における圧接手段の側方概略図である。
【図3】上記装置により、単繊維数12,000本で全長が100mの炭素繊維束の超音波伝播速度を測定した結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0057】
1 繊維束Fの供給源
2 繊維束Fの引取り手段
10 超音波伝播速度測定装置
11,12 ニップローラ
13 超音波発生手段
13a 超音波伝達部材
13b 圧電素子
13c 発信器
14 第1超音波検知手段
14a 超音波伝達部材
14b 圧電素子
14c 波形解析器
15 第2超音波検知手段
15a 超音波伝達部材
15b 圧電素子
15c 波形解析器
16 圧接手段
16a エアシリンダ
16b シリンダ固定台
16c ガイドレール
16e 三方電磁弁
16d 受け台
17 装置架台
18 検知時間測定手段
19 制御演算装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束又は樹脂含浸繊維束などの被測定物品の長手方向での超音波伝播速度を非破壊的に測定するための超音波伝播速度測定装置であって、
前記被測定物品の内部に超音波を発生させる超音波発生手段と、
前記超音波発生手段から同一方向に離れた異なる2以上の個所に配され、前記被測定物品内を伝播する超音波を検知する2以上の超音波検知手段と、
前記2以上の超音波検知手段による各検知時間の測定手段と、
各検知時間差を演算して超音波伝播速度を求める演算部と、
前記各手段の駆動制御部と、
を備えてなることを特徴とする超音波伝播速度測定装置。
【請求項2】
前記超音波発生手段と前記超音波検知手段との間の測定領域にある被測定物品に所定の張力を付与する張力付与手段を更に備えてなる請求項1記載の超音波伝播速度測定装置。
【請求項3】
前記超音波発生手段と前記超音波検知手段とを前記被測定物品に圧接させるための圧接手段を更に備えてなる請求項1又は2記載の超音波伝播速度測定装置。
【請求項4】
前記超音波検知手段は前記被測定物品の長手方向に直交する方向で、同被測定物品に対して線接触する超音波検知部を有してなる請求項3記載の超音波伝播速度測定装置。
【請求項5】
前記被測定物品を前記測定領域外の新たな測定領域に一定距離だけ移動させる物品移動手段を備えてなる請求項1〜4のいずれかに記載の超音波伝播速度測定装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の超音波伝播速度測定装置をいずれかの製造工程間に備えてなることを特徴とする炭素繊維の製造装置。
【請求項7】
前記超音波伝播速度測定装置の上流側には炭素繊維の貯留部が設けられてなる請求項6記載の炭素繊維の製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2006−58307(P2006−58307A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256205(P2005−256205)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【分割の表示】特願平11−233728の分割
【原出願日】平成11年8月20日(1999.8.20)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】