説明

超音波変換器及び超音波流量計

【課題】金属製板状体とセラミックス製圧電体との接着状態を良好に維持して耐久性の高い超音波変換器を提供する。
【解決手段】変形を受けて電圧を発生するセラミック製圧電体3と、セラミック製圧電体3の特定面に接着される金属製板状体1とを備えて構成され、金属製板状体1が超音波Wを受けて、セラミック製圧電体3から電圧信号が発生され、セラミック製圧電体3が電圧信号を受けて、金属製板状体1から超音波Wが発生される超音波変換器100であって、金属製板状体1が、セラミック製圧電体3の特定面fに、超音波変換器100の最低使用温度より低いガラス転移温度の接着剤2を使用して接着されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変形を受けて電圧を発生するセラミック製圧電体と、前記セラミック製圧電体の特定面に接着される金属製板状体とを備えて構成され、前記金属製板状体が超音波を受けて、前記セラミック製圧電体から電圧信号が発生され、前記セラミック製圧電体が電圧信号を受けて、前記金属製板状体から超音波が発生される超音波変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の超音波変換器は、金属製ケーシングの内面にセラミック製圧電体の特定面を接着剤を介して接着して構成されている。
このような超音波変換器としては、セラミック製圧電体と金属製板状体とをロー材を使用して接着したもの(特許文献1を参照)や、接着剤として熱硬化性エポキシ系樹脂を使用して接着したもの(特許文献2を参照)が知られている。この文献に記載の例では、接着剤の硬度は、セラミックや金属に比べて軟質な硬度(鉛筆強度の硬さの範囲でHから5B程度)とされている。
【0003】
【特許文献1】特開平4−309817号公報
【特許文献2】特開2003−270013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような超音波変換器は、流体の流量を計測する超音波流量計の一部として用いられることがある。このような超音波流量計は、様々な温度環境下で使用される。従って、熱膨張率に比較的大きな差があるセラミック製圧電体と金属製板状体との間に設けられる接着剤が適切に選択されない場合、当該熱膨張率の差により接着剤にひずみに起因する応力が発生し、両者の良好な接着状態を長期に渡って適切に維持できないという課題があった。
【0005】
具体的には、特許文献1のように、ロー材により接着している場合、使用環境の状態、又は長期に渡る使用より、ロー材自体に経時的に無理な応力が発生し、ロー材に亀裂等が発生する等の問題があった。
【0006】
特許文献2のように、接着剤として樹脂を使用する場合、通常、超音波変換器が良く用いられる常温において、当該樹脂が可撓性をほとんど有しないガラス状態となるため、使用環境の状態、又は長期に渡る使用により、接着剤に経時的に無理な応力が発生し、亀裂等を発生させる虞があった。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、金属製板状体とセラミックス製圧電体との接着状態を良好に維持すると共に、亀裂等を発生せずに長期間に亘る耐久性を有する超音波変換器を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る超音波変換器は、変形を受けて電圧を発生するセラミック製圧電体と、
前記セラミック製圧電体の特定面に接着される金属製板状体とを備えて構成され、
前記金属製板状体が超音波を受けて、前記セラミック製圧電体から電圧信号が発生され、前記セラミック製圧電体が電圧信号を受けて、前記金属製板状体から超音波が発生されるように構成され、その特徴構成は、前記金属製板状体が、前記セラミック製圧電体の特定面に、超音波変換器の最低使用温度より低いガラス転移温度の接着剤を使用して接着されている点にある。
【0009】
ここで、ガラス転移温度とは、非晶質固体材料が結晶並みに剛性が高く流動性がない状態から、剛性が低下して可撓性を有する状態へ変化する温度のことである。そして、超音波変換器の最低使用温度よりも低いガラス転移温度を有する接着剤は、超音波変換器が使用される温度域において、軟化して可撓性を有する状態を維持できる。
上記特徴構成によれば、金属製板状体とセラミック製圧電体とが、超音波変換器が使用される温度域において、軟化して可撓性を有する状態を維持する接着剤により接着される。当該接着剤が、熱膨張率が大きい金属製板状体と熱膨張率の小さいセラミック製圧電体とを接着することで、超音波変換器が使用される温度域において、金属製板状体とセラミック製圧電体との間に発生するひずみを吸収できる。これにより、接着剤は、超音波変換器が使用される温度域において、金属製板状体とセラミックス製圧電体との接着状態を良好に維持すると共に、亀裂等を発生させず、長期間に亘り耐久性を有する超音波変換器を提供することができる。
【0010】
本発明に係る超音波変換器の更なる特徴構成は、前記接着剤のガラス転移温度が、0℃以下である点にある。
【0011】
これにより、接着剤は、超音波変換器が通常使用される0℃を超える温度域において、軟化して可撓性を有する状態となるので、金属製板状体とセラミック製圧電体との間に発生するひずみに起因する応力を良好に吸収できる。
【0012】
本発明に係る超音波変換器の更なる特徴構成は、前記接着剤が、柔軟骨格を含むエポキシ系材料である点にある。
【0013】
従来のエポキシ系材料を主成分とする接着剤は、硬くて脆いという性質を有していた。上記特徴構成によれば、接着剤が、一対のエポキシ系官能基の間に特殊な結合基を介して柔軟骨格を導入した構造の材料により構成されているので、柔軟性を有すると共に脆さが低減された接着剤となるため、当該接着剤のガラス転移温度は、低くなる。結果、当該接着剤は、超音波変換器が使用される温度域において、軟化して可撓性を有する状態を良好に維持できる。
【0014】
本発明に係る超音波変換器の更なる特徴構成は、測定対象流体が流通する測定対象流路を横断する超音波伝搬路と、前記超音波伝搬路の両端部に一対設けられた上述の前記超音波変換器とを有し、一対の前記超音波変換器が、互いに送受信する超音波の伝搬時間から前記測定対象流路を流通する前記測定対象流体の流速及び流量を導出する流量導出手段を備える。
【0015】
上記特徴構成によれば、超音波流量計が、上述の超音波変換器を備えることで、この超音波変換器が奏する作用効果を好適に発揮することができる。これにより、特に、温度変化が激しい環境であっても、長期に亘り耐久性を発揮する超音波流量計を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1に示す超音波変換器100は、変形を受けて電圧を発生するセラミック製圧電体3と、前記セラミック製圧電体3の特定面fに接着される金属製板状体1とを備えて構成されている。金属製板状体1は、セラミック製圧電体3を外囲するケーシング4の一部として構成されており、当該ケーシング4の一端に負電極6が備えられている。そして、セラミック製圧電体3には、上記負電極6と対を成す形態で、セラミック製圧電体3の特定面fの反対の面とリード線7を介して接続される正電極5が備えられている。上記正電極5及び負電極6は、後述する制御装置23と接続するように構成されている。
【0017】
超音波変換器100は、金属板状体1に超音波Wが到達した場合、セラミック製圧電体3から生成された電圧信号を制御装置23に送ると共に、セラミック製圧電体3が制御装置23から電圧信号を受けた場合、金属板状体1が超音波Wを送信するように機能する。
従って、制御装置23がこの電圧信号を受けることで、超音波Wの到達を検知できる。一方、制御装置23側から電圧信号を送ることで、セラミック製圧電体3を振動させ、金属板状体1を介して超音波Wを発信できる。
ここで、この超音波変換器の通常の使用温度は常温であり、その最低使用温度は具体的には0℃である。
【0018】
上記金属製板状体1は、セラミック製圧電体3の特定面fに、超音波変換器100の最低使用温度より低いガラス転移温度の接着剤2を使用して接着されている。従って、本願においては、この接着剤2のガラス転移温度として、超音波変換器100の最低使用温度より低い温度(具体的には0℃以下の温度)が選択されている。本実施形態では、この超音波変換器100の通常の使用温度は常温であり、その最低使用温度は具体的には0℃を超えるため、上記温度は0℃以下であれば十分である。
【0019】
上記接着剤2は、エポキシ系材料を主成分とするものを用いることが好ましく、更に、柔軟骨格を含む柔軟強靭性エポキシ材料を主成分とするものを用いることが好ましい。好ましい例として、図2に示すように、柔軟性骨格8として変性ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂(例えば、大日本インキ化学工業株式会社、EXA−4850)を挙げることができる。柔軟骨格8としては、ゴム状のセグメント(例えば、ポリアルキレンオキシド)が好適に適用される。この他、接着剤2として用いることができるものの例としては、天然ゴム系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、クロロプレンゴム系接着剤、シリコーン系接着剤、スチレンブタジエンゴム溶液系接着剤、ニトリルゴム系接着剤等がある。
【0020】
上述したエポキシ系材料を接着剤2に適用することで、接着剤2が、通常超音波変換器100が使用される温度域において、軟化して可撓性を有する状態を維持する。これにより、接着剤2は、金属製板状体1とセラミック製圧電体3とを良好に接着すると共に、金属製板状体1とセラミック製圧電体3との熱膨張率の差により発生するひずみに起因する応力を良好に吸収して、亀裂等を発生することなく、長期間に亘る優れた耐久性を発揮する。
【0021】
次に、本発明の超音波変換器100を備えた超音波流量計200について、図3に基づいて説明する。
超音波流量計200は、都市ガスGが流通する測定対象流路21を横断する超音波伝搬路22と、上記測定対象流路21を横断する形態で超音波伝搬路22の両端部に一対設けられた超音波変換器100a、100bとを有し、当該一対の前記超音波変換器100a、100bが、互いに送受信する超音波Wの伝搬時間から前記測定対象流路21を流通する都市ガスGの流速及び流量を導出する制御装置23(流量関連値導出手段の一例)を備えて構成されている。
【0022】
制御装置23は、測定対象流路21の上流側の超音波変換器100aが超音波Wを送信するタイミングと当該超音波Wを下流側の超音波変換器100bで受信するタイミングとから超音波Wの順方向伝搬時間を計測すると共に、下流側の超音波変換器100bが超音波Wを送信するタイミングと当該超音波Wを上流側の超音波変換器100aが受信するタイミングとから超音波Wの逆方向伝搬時間を計測し、当該順方向伝搬時間と逆方向伝搬時間とから、測定対象流路21を流通する都市ガスGの流速及び流量を導出するように機能する。
【0023】
超音波変換器100は、都市ガスGが測定対象流路21を流通する際に、都市ガスGの温度に応じてその温度が変化し、超音波変換器100を構成する金属製板状体1とセラミック製圧電体3とが異なる熱膨張率で膨張し、それらを接着する接着剤2にひずみを生じ応力がかかることとなる。このような場合であっても、本発明の超音波変換器100は、金属製板状体1とセラミック製圧電体3とが、超音波変換器100の使用温度以下のガラス転移温度の接着剤2により接着されるため、当該接着剤2が、金属製板状体1とセラミック製圧電体3との間に発生するひずみに起因する応力を良好に吸収する。
上述した超音波変換器100を備えた超音波流量計200は、高い耐久性と信頼性を備えた超音波流量計200として良好に機能する。
【0024】
〔試験結果〕
本発明の超音波変換器100を試作し、本発明の超音波変換器100に対し、5年間使用された場合に相当するヒートショック試験を行った試験結果を示す。
ヒートショック試験の条件は、超音波変換器100を−40℃まで冷却した後、80℃まで加熱する温度サイクルを1サイクルとして、300サイクルさせるものとする。
本発明の超音波変換器100として、ガラス転移温度を室温より低い値に設定した接着剤2(ガラス転移温度0℃)を用いたものを用意し、比較例である従来の超音波変換器として、ガラス転移温度を室温に設定した接着剤2を用いたものを用意し、夫々に対してヒートショック試験を行った。
【0025】
ヒートショック試験を行った後の本発明の超音波変化器100と、比較例であるヒートショック試験を行った後の従来の超音波変換器のX線透過写真の模式図を図4に示す。
本発明の超音波変換器100〔図4(a)〕では、接着剤2は良好にセラミック製圧電体3と金属製板状体1とを接着しているのに対し、従来の超音波変換器〔図4(b)〕では、接着剤2に亀裂が生じており、セラミック製圧電体3と金属製板状体1との間に亀裂が生じていることがわかる。
以上より、本発明の超音波変換器100は、従来の超音波変換器よりも、高い耐久性を有することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本願発明の超音波変換器は、金属製板状体とセラミックス製圧電体との接着状態を良好に維持して耐久性の高い超音波変換器として、有効に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の超音波変換器の概略構成図
【図2】本発明の接着剤の一例を示す化学式を示す図
【図3】本発明の超音波変換器を備えた超音波流量計の概略構成図
【図4】本発明の超音波変換器と従来の超音波変換器に耐久試験を行った場合の模式図
【符号の説明】
【0028】
1:金属製板状体
2:接着剤
3:圧電体
8:柔軟骨格
21:測定対象流路
22:超音波伝搬路
23:制御装置(流量関連値導出手段の一例)
f:特定面
W:超音波
G:都市ガス
100:超音波変換器
200:超音波流量計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変形を受けて電圧を発生するセラミック製圧電体と、
前記セラミック製圧電体の特定面に接着される金属製板状体とを備えて構成され、
前記金属製板状体が超音波を受けて、前記セラミック製圧電体から電圧信号が発生され、前記セラミック製圧電体が電圧信号を受けて、前記金属製板状体から超音波が発生される超音波変換器であって、
前記金属製板状体が、前記セラミック製圧電体の特定面に、超音波変換器の最低使用温度より低いガラス転移温度の接着剤を使用して接着されている超音波変換器。
【請求項2】
前記接着剤のガラス転移温度が、0℃以下である請求項1に記載の超音波変換器。
【請求項3】
前記接着剤が、柔軟骨格を含むエポキシ系材料である請求項1又は2に記載の超音波変換器。
【請求項4】
測定対象流体が流通する測定対象流路を横断する超音波伝搬路と、
前記超音波伝搬路の両端部に一対設けられた請求項1乃至3の何れか一項に記載の前記超音波変換器とを有し、
一対の前記超音波変換器が、互いに送受信する超音波の伝搬時間から前記測定対象流路を流通する前記測定対象流体の流速及び流量を導出する流量関連値導出手段を備える超音波流量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−21738(P2010−21738A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−179508(P2008−179508)
【出願日】平成20年7月9日(2008.7.9)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】