説明

超音波式流量計の零点補正方法及びその装置

【課題】 流路の遮断及び圧力調整という困難な環境設定を経ることなく、適時に零点補正を行うことができる超音波流量計の零点補正方法及びその装置の提供。
【解決手段】 流路1の上流及び下流に、一対の超音波センサ2,2を相対向して設置し流体の流量を検出する超音波式流量計の零点補正方法において、計測波Wの順往復時間と逆往復時間の往復時間差を流量計測のオフセット値に換算し、当該オフセット値のレベルを超音波流量計が導くべき流量の零点として更新する流量補正ステップを経る超音波流量計の零点補正方法及びその装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
超音波式流量計に関するものであって、特に、流量ゼロの状況を正確に検出する零点補正方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波流量計では、流体が流通する流路の上流及び下流に、一対の超音波センサを、当該流路を横切り、且つ相互に対向する位置関係で設置し、流体が流れる方向(順方向)に送信波形を通過させる際の所要時間と、流体の流れに逆らう方向(逆方向)に送信波形を通過させる際の所要時間の差に基いて流体の流量を検出するものである。
【0003】
しかし、前記所要時間は、超音波センサの特性差によって誤差があり、また、当該誤差に起因して、当該所要時間から導かれた流体の流量にオフセットが生じる。そして、当該オフセットは、継時・経年変化も生じ、正確な流量の計測に困難を来す原因となる(例えば特許文献3参照)。
【0004】
従来、この様なオフセットの補正法が種々提供されており、下記特許文献1には、所定の期間を零点計測期間と設定し、この期間中に超音波センサで計測した最低の流量をガス流量の零点とする手法が記され、特許文献2には、ガス非使用時に、そのガス流路を遮断し、その状態下ガス流路遮断部より下流側のガス圧力を検出して、圧力効果の有無を確認し、圧力降下なしと確認された場合に流量計測を実行し、その際の流量を零点に設定する手法が記されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−111043号公報
【特許文献2】特開2002−116076号公報
【特許文献3】特許第3888946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前記従来の方法に観られる様に、ゼロ流量を計測し補正を行うには、配管に接続されていない製造時に行うか、又は配管に接続されている場合にあっては、ガス器具の使用を停止し、且つ配管の圧力変動の影響を受けないように遮断弁を閉じる等により、超音波センサが介在する配管にガスが流通していない環境を作り出して行わなければならなかった。
通常の使用環境においては、何時ガスが流通し遮断しているかが判断できないことから、設置状態において零点を正確に補正することが困難であった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、流路の流通を遮断し、流路内の圧力を常圧にするという極めて困難な環境設定を経ることなく、適時に零点補正を行うことができる超音波流量計の零点補正方法及びその装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明による超音波流量計の零点補正方法は、流路の上流及び下流に、一対の超音波センサを、当該流路を横切り、且つ相互に対向する位置関係となるように設置し、流体が流れる方向に計測波を通過させる際の所要時間と、流体の流れに逆らう方向に計測波を通過させる際の所要時間の往路差に基いて流体の流量を検出する超音波式流量計の零点補正方法において、
上流側の超音波センサを送信モードに設定し、上流側の超音波センサから下流側の超音波センサに向けて計測波を発信し、次いで、上流側の超音波センサを受信モードに設定し、前記計測波を、発信元の上流側の超音波センサで受信し、発信から受信に至る順往復時間を検出する第一の時間計測ステップと、
下流側の超音波センサを送信モードに設定し、下流側の超音波センサから流側の超音波センサに向けて計測波を発信し、次いで、下流側の超音波センサを受信モードに設定し、前記計測波を、発信元の下流側の超音波センサで受信し、発信から受信に至る逆往復時間を検出する第二の時間計測ステップと、
順往復時間と逆往復時間の往復時間差を流量計測のオフセット値に換算し、当該オフセット値のレベルを、超音波流量計が導くべき流量の零点として更新する流量補正ステップを経ることを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明による超音波式流量計の零点補正装置は、流路の上流及び下流に、一対の超音波センサを、当該流路を横切り、且つ相互に対向する位置関係となるように設置し、流体が流れる方向に計測波を通過させる際の所要時間と、流体の流れに逆らう方向に計測波を通過させる際の所要時間の往路差に基いて流体の流量を検出する超音波式流量計の零点補正装置において、
上流側の超音波センサを送信モードに設定し、上流側の超音波センサから下流側の超音波センサに向けて計測波を発信し、上流側の超音波センサを受信モードに設定し、発信した計測波を発信元の上流側の超音波センサで受信する処理と、
下流側の超音波センサを送信モードに設定し、下流側の超音波センサから上流側の超音波センサに向けて計測波を発信し、下流側の超音波センサを受信モードに設定し、発信した計測波を発信元の下流側の超音波センサで受信する処理を行う流量計測手段と、
上流側の超音波センサの発信時と同センサの受信時を受けて発信から受信に至る順往復時間を算出すると共に、下流側の超音波センサの発信時と上流側の超音波センサの受信時を受けて発信から受信に至る逆往復時間を算出し、順往復時間と逆往復時間の往復時間差を導き当該往復時間差を流量計測のオフセット値に換算し、当該オフセット値のレベルを流量検出手段が導くべき流量の零点として更新する演算手段を備えることを特徴とする。
補正制御手段の稼働に際し計測波の発信出力を補正用出力に増加させる出力調整手段を備える零点補正装置としても良い。
【発明の効果】
【0010】
順往復時間と逆往復時間は、環境及び経路が同じで、且つ流体の流れから同じ影響を受けるので、流路の流通の有無にかかわらず理論上は同じである。しかし、上下センサの特性上の相異から、流路の流通の有無にかかわらず共通のオフセット値が生じることとなる。
当該オフセット値を零点補正に用いれば、流路の流通を遮断し、流路内の圧力を常圧にするという極めて困難な環境設定を経ることなく、適時に零点補正を行うことができることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】(A):本発明による超音波式流量計に採用した零点補正方法の一例を示すブロック図、及び(B):本発明による超音波式流量計の原理を示したタイミングチャートである。
【図2】本発明による超音波式流量計測方法における超音波センサの配置例及び動作例を示した説明図である。
【図3】本発明による超音波式流量計の零点補正方法における処理の一例を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明による超音波流量計の零点補正方法及びその装置の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、流体(この例ではガス)が流通する流路(例えば管路)1を斜めに横切る形で一対の超音波センサ(以下センサと記す)2,2を配置した超音波式流量計の一例を示したものである。
【0013】
この例は、一方のセンサ2からバースト波(計測波)Wを発信し、他方のセンサ2で当該バースト波Wを受信し、発信から受信に至るまでの所要時間を計測することによって、流路1を流通するガスの流量を計測する為に、前記一対の超音波センサ2,2と、当該超音波センサ2,2の動作を流量計測モードで制御する流量計測制御手段8と、当該超音波センサ2,2の動作を零点補正モードで制御する零点補正制御手段3と、両センサ2,2の出力を用いて演算を施す演算手段7を備え、当該演算手段7にその演算結果に基いて、前記零点補正制御手段3とともに流量計測に用いる零点の補正に寄与する往復時間検出手段4、オフセット検出手段5、及び零点補正手段6を備える。
【0014】
[流量計測モード]
この計測は、流体が流れる方向(順方向)にバースト波Wを通過させる際の所要時間と、流体の流れに逆らう方向(逆方向)にバースト波Wを通過させる際の所要時間の差を検出し、当該差に基いて流体の流量を導く。
【0015】
その際、流量計測制御手段8は、先ず、上流側の超音波センサ(以下「上センサ」と記す)2を送信モードにし、下流側の超音波センサ(以下「下センサ」と記す)2を受信モードに設定する処理を経て、上センサ2から下センサ2に向けてバースト波Wを発信する。演算手段7は、上センサ2の発信時と下センサ2の受信時を受けて、発信から受信に至る所要時間(以下「順所要時間」と記す)を算出する。
続いて、流量計測制御手段8は、下センサ2を送信モードにし、上センサ2を受信モードに設定する処理を経て、下センサ2から上センサ2に向けてバースト波Wを発信する。演算手段7は、下センサ2の発信時と上センサ2の受信時を受けて、発信から受信に至る所要時間(以下「逆所要時間」と記す)を算出する。
演算手段7は、順所要時間と逆所要時間の往路時間差を導き、当該往路時間差を流体の流量に換算して出力する。
【0016】
[零点補正モード]
零点補正制御手段3は、先ず、上センサ2を送信モードに設定する処理を経て、上センサ2から下センサ2に向けてバースト波Wを発信する。
次いで、上センサ2を受信モードに設定する処理を経て、先に発信したバースト波Wを、発信元の上センサ2で受信する。
往復時間検出手段4は、上センサ2の発信時と同センサ2の受信時を受けて、発信から受信に至る所要時間(以下「順往復時間」と記す)を算出する。
【0017】
続いて、零点補正制御手段3は、下センサ2を送信モードに設定する処理を経て、下センサ2から上センサ2に向けてバースト波Wを発信する。
次いで、下センサ2を受信モードに設定する処理を経て、先に発信したバースト波Wを、発信元の下センサ2で受信する。
往復時間検出手段4は、下センサ2の発信時と上センサ2の受信時を受けて、発信から受信に至る所要時間(以下「逆往復時間」と記す)を算出する。
この際、往復であることを以て発信から受信に至る経路が倍増することに鑑み、バースト波Wの発信出力を補正用出力に増加させ、流量計測モードにおいては、当該バースト波Wの発信出力を計測用出力に下げるなどの機能を奏する出力調整手段を設けることが望ましい。尚、当該例にあっては、零点補正制御手段3及び流量計測制御手段8に、各超音波センサ2,2の送受信モードと共に、計測波Wの出力(振幅)を調整する出力調整手段を具備する。
【0018】
オフセット検出手段5は、順往復時間と逆往復時間の往復時間差を導き、当該往復時間差を流量計測のオフセット値に換算して出力する。例えば、零点補正モードにおける順往復時間と逆往復時間の往復時間差を導き、工場出荷時における順往復時間と逆往復時間の往復時間差を減じて得た値をオフセット値として用いればよい。
【0019】
零点補正手段6は、オフセット検出手段5が出力したオフセット値のレベルを、当該超音波流量計が流量計測モード下において導くべき流量の零点として更新し、以後の流量計測モードにおける演算手段での演算処理(例えば当該オフセット値を流量計測モードにおける所要時間から減ずる等の処理を施せばよい)に用いる。
【符号の説明】
【0020】
1 流路,
2 超音波センサ,
3 零点補正制御手段,
4 往復時間検出手段,
5 オフセット検出手段,
6 零点補正手段,
7 演算手段,
8 流量計測制御手段,



【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路(1)の上流及び下流に、一対の超音波センサ(2,2)を、当該流路(1)を横切り、且つ相互に対向する位置関係となるように設置し、流体が流れる方向に計測波(W)を通過させる際の所要時間と、流体の流れに逆らう方向に計測波(W)を通過させる際の所要時間の往路差に基いて流体の流量を検出する超音波式流量計の零点補正方法において、
上流側の超音波センサ(2)を送信モードに設定し、上流側の超音波センサ(2)から下流側の超音波センサ(2)に向けて計測波(W)を発信し、次いで、上流側の超音波センサ(2)を受信モードに設定し、前記計測波(W)を、発信元の上流側の超音波センサ(2)で受信し、発信から受信に至る順往復時間を検出する第一の時間計測ステップと、
下流側の超音波センサ(2)を送信モードに設定し、下流側の超音波センサ(2)から流側の超音波センサ(2)に向けて計測波(W)を発信し、次いで、下流側の超音波センサ(2)を受信モードに設定し、前記計測波(W)を、発信元の下流側の超音波センサ(2)で受信し、発信から受信に至る逆往復時間を検出する第二の時間計測ステップと、
順往復時間と逆往復時間の往復時間差を流量計測のオフセット値に換算し、当該オフセット値のレベルを、超音波流量計が導くべき流量の零点として更新する流量補正ステップを経ることを特徴とする超音波流量計の零点補正方法。
【請求項2】
流路(1)の上流及び下流に、一対の超音波センサ(2,2)を、当該流路(1)を横切り、且つ相互に対向する位置関係となるように設置し、流体が流れる方向に計測波(W)を通過させる際の所要時間と、流体の流れに逆らう方向に計測波(W)を通過させる際の所要時間の往路差に基いて流体の流量を検出する超音波式流量計の零点補正装置において、
上流側の超音波センサ(2)を送信モードに設定し、上流側の超音波センサ(2)から下流側の超音波センサ(2)に向けて計測波(W)を発信し、上流側の超音波センサ(2)を受信モードに設定し、発信した計測波(W)を発信元の上流側の超音波センサ(2)で受信する処理と、
下流側の超音波センサ(2)を送信モードに設定し、下流側の超音波センサ(2)から上流側の超音波センサ(2)に向けて計測波(W)を発信し、下流側の超音波センサ(2)を受信モードに設定し、発信した計測波(W)を発信元の下流側の超音波センサ(2)で受信する処理を行う零点補正制御手段(3)と、
上流側の超音波センサ(2)の発信時と同センサ(2)の受信時を受けて発信から受信に至る順往復時間を検出すると共に、下流側の超音波センサ(2)の発信時と上流側の超音波センサ(2)の受信時を受けて発信から受信に至る逆往復時間を検出する往復時間検出手段(4)と、
順往復時間と逆往復時間の往復時間差を導き当該往復時間差を流量計測のオフセット値に換算するオフセット検出手段(5)と、
当該オフセット値のレベルを超音波式流量計が導くべき流量の零点として更新する零点補正手段(6)を備えることを特徴とする超音波式流量計の零点補正装置。
【請求項3】
補正制御手段(3)の稼働に際し計測波(W)の発信出力を補正用出力に増加させる出力調整手段を備える前記請求項2に記載の超音波式流量計の零点補正装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−64643(P2013−64643A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203358(P2011−203358)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000222211)東洋ガスメーター株式会社 (34)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000221834)東邦瓦斯株式会社 (440)
【Fターム(参考)】