説明

超音波応力測定方法及び装置

【課題】測定対象物の残留応力をより高精度に測定することができる超音波測定方法を提供する。
【解決手段】層構造を有する測定対象物の残留応力を、超音波を用いて測定する超音波測定方法であって、測定対象物内の測定対象層の自由度の数に応じて複数の振動モードを設定し、設定した振動モードに対応する超音波を測定対象層に発信し当該測定対象層で反射された超音波を受信して測定対象層の固有振動数を測定する測定動作を、前記それぞれの振動モードについて行ない、前記測定動作により得られた各振動モードに対する固有振動数の複数の測定データに基づいて測定対象層の残留応力を測定する、ことを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、層構造を有する測定対象物の残留応力を、超音波を用いて測定する超音波応力測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの電子機器で使用される充電池においては、充放電時の電気特性、保存特性、及びサイクル特性の向上と、電池体積の縮小とが求められている。特に電池体積においては、充電池が充放電を繰り返すことで膨張していくという性質を有するため、充放電の回数が増加するに従い電池体積が増加して、充電池の規格寸法を外れてしまうことがある。この電池体積の増加を抑制するため、充電池の内部の残留応力を測定し、これを制御することが求められている。
【0003】
この残留応力を非破壊で測定する方法として、原子間距離の変化から残留応力を求める方法、磁化した際の磁気歪みから残留応力を求める方法、超音波の伝播速度の変化から残留応力を求める方法(以下、音弾性法という)などがある。
【0004】
前記音弾性法の一つとして複屈折音弾性法がある。複屈折音弾性法は、測定対象物の厚み方向に超音波を伝搬させることにより、測定対象物の厚み方向の平均残留応力を測定する方法である。図5は、この複屈折音弾性法を利用した従来の超音波応力測定装置の構成を示す概略図である(例えば、特許文献1:特開2004−077460号公報参照)。
【0005】
図5に示す従来の超音波応力測定装置においては、超音波発生用レーザ101が周波数の異なる2つのレーザビームを発信することにより、測定対象物102の内部に縦波、圧延方向変位横波、幅方向変位横波の各超音波が発生する。これらの各超音波は、測定対象物102の底面で反射されて、測定対象物102の表面の超音波検出位置を超音波振動させる。この超音波検出位置に対して超音波検出用レーザ103からレーザビームが発信されると、前記超音波振動に起因するドップラーシフトを受けて、前記レーザビームの周波数が変化する。この周波数変化を干渉計104が検出する。コンピュータ105は、干渉計104が検出した前記縦波による周波数変化に基づいて測定対象物102の内部温度を求めると共に、干渉計104が検出した前記2つの横波による周波数変化に基づいて音速を算出する。その後、コンピュータ105は、前記内部温度と音速とを、音速比法を利用した式に代入して計算する。これにより、測定対象物102の残留応力を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−077460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記従来の超音波応力測定装置においては、測定対象物の材料自体の異方性(音響異方性)の影響を受けてしまうため、残留応力の測定を高精度に行うことができないという課題がある。すなわち、測定対象物の材料自体の異方性(音響異方性)は、材料の厚み、超音波の入射角などに依存する。このため、例えば、測定対象物が多層構造である場合には、各層の厚みのバラツキなどにより、前記異方性が変化することになる。この異方性の変化は、超音波の伝播速度に影響を与える。このため、超音波の伝播速度の変化から応力を求める音弾性法では、前記異方性による測定誤差が生じる。従って、複屈折音弾性法を利用する前記従来の超音波応力測定装置では、残留応力の測定を高精度に行うことができない。
【0008】
従って、本発明の目的は、前記従来の課題を解決することにあって、測定対象物の残留応力をより高精度に測定することができる超音波応力測定方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、以下のように構成する。
本発明の第1態様によれば、測定対象物内の測定対象層の残留応力を、超音波を用いて測定する超音波測定方法であって、
前記測定対象層の自由度の数に応じて複数の振動モードを設定し、
前記設定した振動モードに対応する超音波を前記測定対象層に発信し当該測定対象層で反射された超音波を受信して前記測定対象層の固有振動数を測定する測定動作を、前記それぞれの振動モードについて行ない、
前記測定動作により得られた前記各振動モードに対する前記固有振動数の複数の測定データに基づいて、前記測定対象層の残留応力を測定する、
超音波応力測定方法を提供する。
【0010】
本発明の第2態様によれば、前記測定動作により得られた前記各振動モードに対する前記測定対象層の固有振動数のデータを、前記測定対象層の固有振動数を求める定義式に代入して複数の式を得、それらの式を連立させることで、前記測定対象層の残留応力を測定する、第1態様に記載の超音波応力測定方法を提供する。
【0011】
本発明の第3態様によれば、前記振動モードの数が、前記測定対象層の自由度の数と等しい、第1態様に記載の超音波応力測定方法を提供する。
【0012】
本発明の第4態様によれば、前記測定動作は、前記設定した振動モードに対応する超音波を前記測定対象層で収束するように発信し、当該測定対象層で反射された超音波を超音波遮蔽部に設けたピンホール内で収束させ、当該ピンホールを通過した超音波のみを受信して、前記測定対象層の固有振動数を測定する動作である、
第1態様に記載の超音波応力測定方法を提供する。
【0013】
本発明の第5態様によれば、前記ピンホールの径が前記測定対象層で反射された超音波の収束径と等しい、第4態様に記載の超音波応力測定方法を提供する。
【0014】
本発明の第6態様によれば、前記振動モードは、前記測定対象層の材質と層厚とに基づいて設定される、第1態様に記載の超音波応力測定方法を提供する。
【0015】
本発明の第7態様によれば、前記測定対象物は、複数の層で構成される多層構造を有しており、
前記複数の層のそれぞれに対して残留応力の測定を行い、
前記複数の層のそれぞれの残留応力の測定結果に基づいて前記測定対象物の内部応力分布を求める、第1態様に記載の超音波応力測定方法を提供する。
【0016】
本発明の第8態様によれば、測定対象物内の測定対象層の残留応力を、超音波を用いて測定する超音波測定装置であって、
前記測定対象層の自由度の数に応じて設定された複数の振動モードに対応する複数の超音波を、前記測定対象層に発信する超音波発信部と、
前記測定対象層で反射された各超音波を受信する超音波受信部と、
前記超音波受信部が受信した各超音波に基づいて前記測定対象層の固有振動数を測定し、当該測定により得られた前記固有振動数の複数の測定データに基づいて前記測定対象層の残留応力を測定する応力測定部と、
を備える、超音波応力測定装置を提供する。
【0017】
本発明の第9態様によれば、前記測定対象層で反射された超音波を収束位置に収束させる音響レンズと、
前記収束位置にピンホールが形成され、前記測定対象層で反射された超音波を前記ピンホールを通じて通過させて前記超音波受信部に受信させる一方、前記測定対象層以外の部分で反射された超音波を遮断する超音波遮蔽部と、
をさらに備える、第8態様に記載の超音波応力測定装置を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の超音波応力測定方法及び装置によれば、測定対象物の残留応力をより高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態における超音波応力測定装置の概略図
【図2】本発明の実施の形態における超音波応力測定方法を示すフローチャート
【図3A】一般的なパルス信号の波形を示す図
【図3B】本発明の実施の形態において、送信パルスが発生させる電気信号の波形を示す図
【図4A】本発明の実施の形態における超音波応力測定装置において、第1探傷子から発信され測定対象層で反射された超音波がピンホールを通過する様子を示す概略図
【図4B】本発明の実施の形態における超音波測定装置において、第1探傷子から発信され測定対象層以外の層で反射された超音波が超音波遮断板に遮断される様子を示す概略図
【図5】従来の超音波応力測定装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明の実施の形態の説明において、同一構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0021】
(実施の形態)
本発明の実施の形態における超音波応力測定装置の構成について説明する。
【0022】
図1は、本実施の形態における超音波応力測定装置の概略図である。
【0023】
図1において、本実施の形態における超音波応力測定装置により残留応力を測定される測定対象物1は、カップリング剤2で満たされた容器3内に配置されている。
【0024】
測定対象物1は、多層構造を有するもの、例えば、携帯電話などの電子機器で使用されるリチウムイオン電池などの充電池である。リチウムイオン電池は、正極にコバルト酸リチウム、負極にグラファイトを用い、それぞれの極板を複数積み重ねた多層構造になっている。
【0025】
カップリング剤2は、超音波の伝播速度を安定化させるためのものである。カップリング剤2としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、水、油、ジェルなどを用いることができる。
【0026】
測定対象物1の材質、内部構造(各層の層厚など)、拘束条件などの諸条件は、X線CT装置などによる測定データや設計データなどを用いて、予め求めておく。そして、その諸条件のデータは、応力測定部の一例であるコンピュータ4に、使用者による入力動作などにより予め保存(記憶)されている。ここで、本実施の形態の拘束条件とは、測定対象物1を物理的に拘束している条件である。例えば、長方形の測定対象物の2辺が固定されていて、2辺が自由な場合、測定対象物の拘束条件は、「2辺が拘束されている」となる。
【0027】
コンピュータ4は、測定対象物1の諸条件のデータに基づいて、測定対象物1の測定対象層1aの予想固有振動数(振動モード:基本振動、2倍振動、3倍振動、・・・)を、測定対象層1aの自由度の数だけ定義(設定)する。ここで、測定対象層1aの自由度とは、測定対象層1aの幅、長さ、面密度、単位長さ当たり応力など、測定対象層1aに関する未知の項目を意味する。例えば、測定対象層1aの幅と長さの2つの項目が未知である場合、コンピュータ4は、2つの振動モードを予想固有振動数の振動モードとして設定する。
【0028】
前記設定後、コンピュータ4は、前記設定した振動モードに対応するデジタル信号を出力する。前記デジタル信号は、D/A変換部5と送信パルス6とにより電気信号に変換され、超音波発信部の一例である第1探傷子7に入力される。
【0029】
第1探傷子7は、前記電気信号を超音波信号に変換する。なお、測定対象層1aの自由度の数が2以上である場合、前述したように、2以上の振動モードが設定される。この場合、1つの第1探傷子7では対応できる振動モードの幅が小さいので、第1探傷子7を複数設け、各第1探傷子7の固有振動数を、複数の振動モードのいずれかに対応させることが好ましい。この場合、コンピュータ4が設定した振動モードに対応する固有振動数を持つ第1探傷子7に、当該振動モードに対応する前記電気信号が入力されるようにすればよい。
【0030】
第1探傷子7から発信された超音波は、第1探傷子7の先端部に設置された第1音響レンズ8により収束される。当該超音波の収束位置は、第1音響レンズ8の設計情報、第1探傷子7と測定対象物1との配置関係、各部材(測定対象物1、カップリング剤2など)の組成等の条件から決まる。第1探傷子7は、探傷ヘッド9に保持されている。探傷ヘッド9は、制御部10の制御により、前記収束位置が測定対象層1aの内部に位置するように移動(位置調整)される。制御部10は、コンピュータ4が出力する前記デジタル信号に基づいて、探傷ヘッド9を移動(位置調整)させる。
【0031】
前記のように探傷ヘッド9が位置調整された状態で第1探傷子7から発信された超音波は、測定対象層1aの表面で反射される。当該反射された超音波は、発散しながら超音波受信部の一例である第2探傷子11の先端部に設置された第2音響レンズ12に入射し、第2音響レンズ12によって収束される。第2音響レンズ12の内部には、超音波遮蔽部の一例である超音波遮蔽板13が設置されている。超音波遮蔽板13には、ピンホール13aが形成されている。第2探傷子11と第2音響レンズ12とは、前記第2音響レンズ12により収束された超音波の収束位置が、超音波遮蔽板13のピンホール13aに一致するように、探傷ヘッド9に保持されている。言い換えれば、ピンホール13aの径が測定対象層1で反射された超音波の収束径と等しくなるように、各部及び各装置が調整されている。
【0032】
第2音響レンズ12により収束されてピンホール13aを通過した超音波は、第2探傷子11に受信され、電気信号に変換される。当該電気信号は、増幅器14によって増幅された後、A/D変換部15によりデジタル信号に変換され、コンピュータ4に入力される。コンピュータ4は、前記入力されたデジタル信号に基づいて、測定対象層1aの固有振動数を測定する。
【0033】
コンピュータ4は、前記動作を、前述した測定対象層1aの自由度の数だけ予想固有振動数(振動モード)を変えながら行い、これにより取得したデータに基づいて、測定対象層1aの残留応力を算出する。この算出方法については、後で詳しく説明する。コンピュータ4が算出したデータなどは、ディスプレイ16に適宜表示される。
【0034】
次に、本実施の形態における測定対象物1の残留応力を超音波応力測定するフローについて説明する。
【0035】
図2は、本実施の形態における超音波応力測定方法を示すフローチャートである。
【0036】
まず、測定対象物1の設計情報又はX線CT画像などより、多層構造を有する測定対象物1の材質、内部構造(層厚等)、拘束条件などの諸条件を、予めコンピュータ4に入力し記憶させる(ステップS1)。なお、以下に説明する動作は、特に断りがない限り、コンピュータ4が主体として行う。
【0037】
次いで、記憶した測定対象物1の諸条件に基づいて、1つの測定対象層1aに対する予想固有振動数(振動モード:基本振動、2倍振動、3倍振動、・・・)を、測定対象層1aの自由度の数だけ設定(定義)する(ステップS2)。
【0038】
例えば、測定対象層1aが長方形膜であり、当該長方形膜の周囲4辺が固定(拘束)されている場合、測定対象層1aの固有振動数ωm,nの定義式は、下記式1のように示される。
【0039】
【数1】

【0040】
前記式1において、aは測定対象物である長方形膜の短辺の長さ、bは長辺の長さ、ρは膜の面密度、Tは膜に加わっている単位面積当たりの応力、mは長方形膜の表面のX方向における振動モード、nは長方形膜の表面のY方向における振動モードを示している。なお、本実施の形態では、前記式1において定義している応力Tが、測定対象物である長方形膜の残留応力となる。したがって、前記式1などを用いて応力Tを求めることで、測定対象物の残留応力を求めることができる。
【0041】
一般に、未知数がM個ある場合(Mは自然数)、M個以上の式を連立させることで、全ての未知数を算出することができる。例えば、前記式1において短辺の長さa、長辺の長さb、面密度ρ、応力Tが未知数である場合、実験条件Mexpを4通り用意し、それらの実験条件から得られたデータを前記式1に代入して4つの式を得、それらの式を連立させることで、前記4つの未知数を算出することができる。なお、短辺の長さa、長辺の長さb、面密度ρについては、応力Tの測定を高精度に行なうために、応力Tと同時に算出することが好ましい。
【0042】
前記ステップS2の後、実験条件MexpをMexp=1として測定対象層1aの固有振動数ωm,nを測定する(ステップS3)。ここで、実験条件Mexpは、測定対象層1aの自由度の数だけ予め用意されている。具体的には、実験条件毎に、X方向振動モードmとY方向振動モードnとの組合せが設定されている。例えば、実験条件が4つある場合、Mexp=1には(m=1,n=2)、Mexp=2には(m=2,n=2)、Mexp=3には(m=2,n=1)、Mexp=4には(m=2,n=3)の組合せが設定されている。ここで、m=1は基準振動、m=2は2倍振動、m=3は3倍振動を示す。同様に、n=1は基準振動、n=2は2倍振動、n=3は3倍振動を示す。
【0043】
次いで、コンピュータ4は、実験条件Mexpが測定対象層1aの自由度の数以下であるか否かを判定する(ステップS4)。
【0044】
実験条件Mexpが測定対象層1aの自由度の数以下であるとき、当該実験条件Mexpにおける振動モード(X方向振動モードmとY方向振動モードnとの組合せ)にて、測定対象層1aの固有振動数ωm,nを測定する(ステップS5)。例えば、実験条件Mexp=1のとき、振動モード(m=1,n=2)に対応する超音波を第1探傷子7から発信し、測定対象層1aで反射された超音波に基づいて、測定対象層1aの固有振動数ωm,nを測定する。
【0045】
次いで、実験条件Mexpをインクリメント(変数の値を1増やす演算)して、前記ステップS4に戻る(ステップS6)。前記ステップS4〜S6の動作を、実験条件Mexpが測定対象層1aの自由度の数より大きくなるまで繰り返し、測定対象層1aの固有振動数ωm,nの測定データを複数得る。
【0046】
実験条件Mexpが測定対象層1aの自由度の数より大きくなった時、測定対象層1aの固有振動数の測定を終了する。その後、前記得られた複数の測定データを前記式1に代入して、複数の式を得、それらの式を連立させて、応力Tを算出する(ステップS7)。なお、ここでは、未知数の項目の数だけ定義式を連立させるため、応力Tだけでなく、他の未知数の項目の全てを算出することが可能である。例えば、測定対象層1aである長方形膜の短辺及び長辺の長さが未知数の場合、当該長方形膜の短辺及び長辺の長さを、前記応力Tと同時に算出することが可能である。これにより、応力T(残留応力)の測定をより高精度に行なうことができる。
【0047】
前記ステップS1〜S7を、測定対象物1の全ての層に対してそれぞれ行なうことで、多層構造である測定対象物1の各層の残留応力をそれぞれ算出することができる。また、測定対象物1の各層の残留応力を全て算出することで、測定対象物1の内部の残留応力分布を求めることが可能となる。
【0048】
次に、送信パルス6が発生させる電気信号の波形について説明する。
【0049】
図3Aは、一般的なパルス信号の波形を示す図であり、図3Bは、本実施の形態において、送信パルスが発生させる電気信号の波形を示す図である。図3A及び図3Bの左図は、時間(t)に対する電圧値(V)の変化を示す図であり、図3A及び図3Bの右図は、周波数(f)に対する電圧値(V)の変化を示す図である。
【0050】
図3Aに示すように、一般的なパルスの電気信号の波形は、完全なパルス形状となっている。これに対し、本実施の形態において、送信パルス6が発生させる電気信号は、図3Bに示すように、完全なパルス形状となっておらず、広帯域の周波数を持つ電気信号となっている。これにより、測定対象層1aの予想固有振動数と実際の固有振動数とが大きく異なる場合であっても、層間で共振が起こる可能性を高くし、多層構造物である測定対象物1の層間(測定対象層1aとその近傍の層との間)の影響を小さくしている。
【0051】
また、本実施の形態においては、図2に示すフローチャートに従って、測定対象層1aの残留応力を算出する。この時、測定対象層1aとその近傍の層との層間距離が短い場合には、その近傍の層で反射された超音波も第2探傷子11が受信してしまう可能性がある。この場合、高精度な応力測定ができないことになる。本実施の形態では、測定対象層1a以外の層で反射された超音波の影響を軽減するために、ピンホール13aを有する超音波遮蔽板13を設けている。すなわち、測定対象層1aで反射された超音波は、ピンホール13aを通じて超音波遮蔽板13を通過する一方、測定対象層1a以外の層で反射された超音波は、超音波遮蔽板13により遮断するようにしている。従って、さらに高精度な残留応力の測定を行なうことが可能となる。
【0052】
ここで、ピンホール13aの好ましい配置について説明する。
【0053】
図4Aは、本実施の形態における超音波測定装置において、第1探傷子7から発信され測定対象層1aで反射された超音波がピンホールを通過する様子を示す概略図であり、図4Bは、本実施の形態における超音波測定装置において、第1探傷子7から発信され測定対象層1a以外の層で反射された超音波が超音波遮断板13に遮断される様子を示す概略図である。
【0054】
第1音響レンズ8の焦点距離をF1とし、第2音響レンズ12の焦点距離をF2とし、第2音響レンズ12からピンホール13aまでの距離をF3とし、カップリング剤2中での音速をV1とし、第2探傷子11に使われている材料中での音速をV2としたとき、下記式2関係を満たすようにピンホール13aを配置することが好ましい。
【0055】
【数2】

【0056】
また、第2音響レンズ12の開口直径をD2とし、ピンホール13aの径をR3とし、測定対象層1aの固有振動数のうち最小のものをωminとしたとき、下記式3の関係を満たすようにピンホール13aの径を設定することが好ましい。
【0057】
【数3】

【0058】
例えば、焦点距離F1が40mm、焦点距離F2が10mm、カップリング剤2中での音速V1が1500m/s(水)、第2音響レンズ11中での音速V2が5900m/s(溶融石英)、最小固有振動数ωminが20MHzのとき、第2音響レンズ12からピンホール13aまでの距離F3は52.4mmとし、ピンホール13aの径R3は0.98mmよりも小さくすることが好ましい。このように配置した場合、図4Aに示すように測定対象層1aで反射された超音波は、ピンホール13aを通過する。一方、図4Bに示すように測定対象層1a以外の層で反射された超音波は、超音波遮蔽板13で遮断することができる。これにより、SN比の高い高精度な残留応力の測定を実現することができる。
【0059】
以上、本実施の形態の構成によれば、測定対象物1の内部構造(測定対象層1a等)が正確に把握できない場合においても、振動モードを変えた固有振動数での解析を行うことで、各層の残留応力をそれぞれ高精度に測定することが可能となる。さらに、残留応力に加え、未知の項目として算出された測定対象物1の内部構造(短辺の長さ、長辺の長さなど)も測定することが可能となる。また、測定対象層1a以外の層で反射される超音波は、超音波遮蔽板13により遮断することができる。これにより、測定対象層1a以外の層で反射される超音波の影響を受けにくい測定が可能となる。
【0060】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、前記では、カップリング剤2が満たされた容器3内に測定対象物1を設置するとしたが、本発明はこれに限定されない。第1探傷子7と測定対象物1との間、及び第2探傷子11との間にカップリング剤2を充填させるものがあればよい。この場合でも、同様の効果を奏することができる。
【0061】
また、本実施の形態においては、第2音響レンズ12により収束された超音波の収束位置に超音波遮蔽板13のピンホール13aを設けたが、本発明はこれに限定されない。ピンホール13aは、前記収束位置以外の位置に設けられてもよい。但し、この場合、測定対象層1aで反射された超音波が超音波遮蔽板13に完全に遮断されてしまうと、測定対象層1aの超音波応力測定が不可能になる。このため、測定対象層1aで反射された超音波が超音波遮蔽板13に完全に遮断されないように、ピンホール13aの設置位置及びピンホール13aの径を設定することが必要である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明にかかる超音波応力測定方法及び装置によれば、測定対象物の残留応力をより高精度に測定することができるので、例えば、充電池、実装基板などの層構造を有する測定対象物の残留応力を測定するのに有用である。
【符号の説明】
【0063】
1 測定対象物
1a 測定対象層
2 カップリング剤
3 容器
4 コンピュータ(応力測定部)
5 D/A変換部
6 送信パルス
7 第1探傷子(超音波発信部)
8 第1音響レンズ
9 探傷ヘッド
10 制御部
11 第2探傷子(超音波受信部)
12 第2音響レンズ
13 超音波遮蔽板
13a ピンホール
14 増幅器
15 A/D変換部
16 ディスプレイ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物内の測定対象層の残留応力を、超音波を用いて測定する超音波測定方法であって、
前記測定対象層の自由度の数に応じて複数の振動モードを設定し、
前記設定した振動モードに対応する超音波を前記測定対象層に発信し当該測定対象層で反射された超音波を受信して前記測定対象層の固有振動数を測定する測定動作を、前記それぞれの振動モードについて行ない、
前記測定動作により得られた前記各振動モードに対する前記固有振動数の複数の測定データに基づいて、前記測定対象層の残留応力を測定する、
超音波応力測定方法。
【請求項2】
前記測定動作により得られた前記各振動モードに対する前記測定対象層の固有振動数のデータを、前記測定対象層の固有振動数を求める定義式に代入して複数の式を得、それらの式を連立させることで、前記測定対象層の残留応力を測定する、請求項1記載の超音波応力測定方法。
【請求項3】
前記振動モードの数が、前記測定対象層の自由度の数と等しい、請求項1記載の超音波応力測定方法。
【請求項4】
前記測定動作は、前記設定した振動モードに対応する超音波を前記測定対象層で収束するように発信し、当該測定対象層で反射された超音波を超音波遮蔽部に設けたピンホール内で収束させ、当該ピンホールを通過した超音波のみを受信して、前記測定対象層の固有振動数を測定する動作である、請求項1に記載の超音波応力測定方法。
【請求項5】
前記ピンホールの径が前記測定対象層で反射された超音波の収束径と等しい、請求項4記載の超音波応力測定方法。
【請求項6】
前記振動モードは、前記測定対象層の材質と層厚とに基づいて設定される、請求項1記載の超音波応力測定方法。
【請求項7】
前記測定対象物は、複数の層で構成される多層構造を有しており、
前記複数の層のそれぞれに対して残留応力の測定を行い、
前記複数の層のそれぞれの残留応力の測定結果に基づいて前記測定対象物の内部応力分布を求める、請求項1記載の超音波応力測定方法。
【請求項8】
測定対象物内の測定対象層の残留応力を、超音波を用いて測定する超音波測定装置であって、
前記測定対象層の自由度の数に応じて設定された複数の振動モードに対応する複数の超音波を、前記測定対象層に発信する超音波発信部と、
前記測定対象層で反射された各超音波を受信する超音波受信部と、
前記超音波受信部が受信した各超音波に基づいて前記測定対象層の固有振動数を測定し、当該測定により得られた前記固有振動数の複数の測定データに基づいて前記測定対象層の残留応力を測定する応力測定部と、
を備える、超音波応力測定装置。
【請求項9】
前記測定対象層で反射された超音波を収束位置に収束させる音響レンズと、
前記収束位置にピンホールが形成され、前記測定対象層で反射された超音波を前記ピンホールを通じて通過させて前記超音波受信部に受信させる一方、前記測定対象層以外の部分で反射された超音波を遮断する超音波遮蔽部と、
をさらに備える、請求項8記載の超音波応力測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−169680(P2010−169680A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295690(P2009−295690)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)