説明

超音波手術器

【課題】光増感剤を取り込んだ細胞に超音波振動を照射するとその細胞が死滅する効果があるといわれ、超音波力学的治療(Sonodynamic therpy)と呼ばれている。この治療方法に使用される超音波手術器において、キャビテーションの発生が抑制された超音波手術器を実現する。
【解決手段】 駆動回路と、該駆動回路が出力する交流電流に応じた周波数および振幅にて振動するハンドピースとを備える超音波手術器において、前記駆動回路は、マイクと、前記マイクによる音声信号のうち、所定周波数の信号のみを通過させるフィルターと、前記フィルター出力を予め定められた閾値と比較する比較手段と、前記比較手段による比較結果が、前記フィルター出力が前記閾値を超えるものである場合には、前記交流電流の電圧値を下げる電圧制御手段からなるキャビテーション抑制回路を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動を利用した超音波手術器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療関係では、従来より外科分野における各種手術具の一つとして特許文献1(特開2005−152098号公報)に開示されるような超音波手術器が多く使用されている。図7は、このような超音波手術器のハンドピ−スAを示す図である。
【0003】
図7において、1は、磁歪タイプ、電歪タイプ等の振動子を具え、所定周波数の超音波を出力する超音波振動機構を収納する外筒部、2は外筒部の一端開口部に嵌挿されて前記超音波振動機構から伝達される振動によりその先端部で骨等の硬組織を切削するホ−ン、1aはイリゲ−ション液、切削片等を吸引するためのチュ−ブの継ぎ手、1bは振動による先端部の発熱、骨の切削時に発生する摩擦熱を冷却するイリゲ−ション液を注入するためのチュ−ブの継ぎ手、1cは高周波電気エネルギを前記超音波振動機構に送給するためのケ−ブルである。
【0004】
超音波振動機構から伝達される振動によりホ−ン2はその軸方向に所定の周波数で振動し、骨等の硬組織3に当接する先端で所要箇所の切削を行う。
【0005】
図8は外筒部1およびホーン2の内部構造を示す断面図である。
【0006】
円筒部1は、ホーン2と、振動発生部を含めてホーン2を覆うように構成されている。
【0007】
振動発生部は、つば8、ピエゾ素子9,10、電極11,12、前面板13および裏打板14より構成されている。
【0008】
前面板13と裏打板14との間に挟まれる形態に配置されるピエゾ素子9,10は、図7に示したケーブル1cを介して電極11,12に印加される高周波電源に応じて図面左右方向への振動を発生する。前面板13はつば8と一体に形成され、また、裏打板14の反ピエゾ素子10側には不図示の支持部材が設けられている。つば8および上記の支持部材によって各ピエゾ素子9,10、前面板13、裏打板14は外筒部1内に支持されて、振動方向の規制が行われている。
【0009】
上記の各構成部材の接合部にはねじがそれぞれ設けられており、互いに螺合することにより一体とされる。
【0010】
円筒部1より突出するホーン2の先端部は、実際に患部に当接する部分であり、その振幅量(移動量)も大きなものとなるために発熱量も極めて大きなものとなる。
【0011】
また、超音波手術器は、超音波振動を利用して生体組織を破砕、乳化して吸引することにより、患部を選択的に除去するものであるため、外筒部1の外周部には、ホーン2の冷却および除去部分の吸引促進用の1aはイリゲ−ション液を注入するための継ぎ手1bが設けられている。
【0012】
上記のように構成されるホーン2、前面板13、ピエゾ素子9,10、裏打板14および外筒部1には、その中心線に沿って吸入口15が連設されており、該吸入口15および図7に示した継ぎ手1aを介して、外部に設けられた吸引ポンプにより破砕、乳化された組織が吸引される。また、上記の各構成部材は、該吸入口15を軸として略回転対称形に形成されている。
【0013】
使用に際しては、ホーン2の先端を患部に押し当てて、患部の組織を破砕、乳化する。このとき、継ぎ手1bを介して注入されたイリゲーション液は、円筒部1とホーン2の間を通る際にホーン2を冷却し、円筒部1から排出された後には除去部分とともに吸入口15に吸引されて外部へ吸い出される。
【0014】
図9は、超音波振動を発生させる電源回路の構成を示すブロック図である。
【0015】
電源回路は出力回路81と振幅増減調整回路82とから構成され、ホーン2の振幅値が操作パネル83にて設定された振幅値となるようにハンドピースAに対して電流を供給する。
【0016】
出力回路81からハンドピース内のピエゾ素子9、10に、交流電流S81が送られる。基本的に、交流電流の周波数が、振動するホーン2の固有振動数に近ければ、ホーン2の振幅は、ピエゾ素子9、10の負荷状態にかかわらずに交流電流S81の大きさに比例する。
【0017】
振幅増減調整回路82は、操作パネル83で設定された振幅値を示す信号S83に比例した直流電圧信号S82を出力回路81に送る。出力回路81は、直流電圧信号S82を受け、その電圧に比例した交流電流S81をハンドピース内のピエゾ素子9、10に出力する。これにより操作パネル83で設定された振幅値を得ることが出来る。
【特許文献1】特開2005−152098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述したイリゲーション液には、組織の破砕、乳化を補助するとともにホーン2の冷却作用を図るものであり、ホーンの振幅を安定させるためには常にイリゲーション液がホーンの表面を覆っていることが重要となる。ここで、ホーンは超音波振動を行うものであることから、キャビテーションが発生することがある。
【0019】
キャビテーションは、液体の流れ中での圧力が飽和蒸気圧より低くなったときに、液体が蒸発したり溶存気体の遊離で気体が生じたりし、気泡が生じる現象であり、気泡がつぶれるときの衝撃により安定した超音波振動の妨げとなる。また、壊食(エロージョン)などで機器が破壊されることもある。
【0020】
超音波手術器は様々な手術に適用されており、キャビテーションの発生は、骨の切断に使用されるなど、手術する部位の対象が大きな場合には手術の妨げとはならないが、例えば、脳腫瘍の除去など、対象が小さく、また、除去による影響が大きなものとなる部位を手術する場合には大きな問題となる。
【0021】
本発明は上述したような従来の技術が有する問題点に鑑みてなされたものであって、キャビテーションの発生が抑制された超音波手術器を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明による超音波手術器は、駆動回路と、該駆動回路が出力する交流電流に応じた周波数および振幅にて振動するハンドピースとを備える超音波手術器において、
前記駆動回路は、
マイクと、
前記マイクによる音声信号のうち、所定周波数の信号のみを通過させるフィルターと、
前記フィルター出力を予め定められた閾値と比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果が、前記フィルター出力が前記閾値を超えるものである場合には、前記交流電流の電圧値を下げる電圧制御手段からなるキャビテーション抑制回路を備えることを特徴とする。
【0023】
上記構成による本発明はキャビテーションの際に発生する、振動周波数に関連した周波数の連続音が発生することを用いてキャビテーションを抑制するものであり、キャビテーションにより発生した連続音をマイクで確認したときにホーンの振幅値が小さくなるように制御する。
【0024】
駆動回路は、ホーンが周波数10〜200KHz、より好ましくは周波数15〜100KHzであり、振幅1〜10μmで振動する交流電流を出力することとしてもよい。
【0025】
また、駆動回路は、出力値として設定された振幅の値に対し、その1/2以下の振幅からからスタートし、序々に設定された振幅値まで上げることとしてもよい。
【0026】
また、ハンドピースは、その先端部を覆うキャップを備えることとしてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明は以上説明したように構成されているので、以下に記載するような効果を奏する。
【0028】
キャビテーションの発生を抑制することができるため、脳腫瘍の除去など、対象が小さく、また、除去による影響が大きなものとなる部位に対する手術を安全かつ容易に行うことができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の超音波手術器の一実施形態の要部構成を示す図である。
【図2】図1中の出力回路111およびキャビテーション抑制回路114の構成を詳細に示す図である。
【図3】本発明の超音波手術器の他の実施形態の要部構成を示す図である。
【図4】図3中のキャビテーション抑制回路314の要部構成を詳細に示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態の要部構成を示す図である。
【図6】本発明による振幅の設定方法を説明するための図である。
【図7】ハンドピースの構成を示す斜視図である。
【図8】ハンドピースの構成を示す断面図である。
【図9】超音波振動を発生させる電源回路の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明の超音波手術器の一実施形態の要部構成を示す図である。
【0032】
図1中のハンドピースA、出力回路111、振幅象現調整回路112、操作パネル113のそれぞれは図8に示したハンドピースA、出力回路81、振幅増減調整回路82、操作パネル83と同様の動作を行うものであるが、本実施形態においてはこれらの他にキャビテーション抑制回路114が設けられている。
【0033】
キャビテーション抑制回路114は、キャビテーションの発生を抑制するために設けられたもので、出力回路111がハンドピースAに対して出力する交流電流S111の出力端電圧をモニタし、その電圧値が予め定められた閾値を超えると振幅増減調整回路112に対して、制御信号S114を出力する。振幅増減調整回路112は、制御信号S114を受け付けると、出力回路81に対して出力する直流電圧信号S112の内容を、より小さな振幅値を示すものとする。
【0034】
上記の制御は、キャビテーションの発生によりピエゾ素子の負荷状態が変化した場合、出力回路111が出力する交流電流値は殆ど変動しないが出力電圧値は負荷状態に比例して変動することを応用したものである。
【0035】
キャビテーションが発生する場合、事前に負荷が次第に大きくなり、放置によりキャビテーションの発生に至るが、本実施形態においては出力回路111の出力電圧が予め定められた閾値よりも大きくなるとホーンの振幅値が小さくなるように制御される。ホーンの振幅値を小さくすることにより、キャビテーションの発生が抑制されるため、キャビテーションの発生を防止することができる。
【0036】
図2は、図1中の出力回路111およびキャビテーション抑制回路114の構成を詳細に示す図である。
【0037】
出力回路111は、交流安定電流回路205、スイッチング回路206、直流電圧電源207、固有振動数検知回路208およびドライブ回路209から構成されている。
【0038】
直流電圧電源207では、振幅増減調整回路112からの直流電圧信号S112の大きさに比例した直流電圧V1を発生させ、スイッチング回路206に送る。
【0039】
スイッチング回路206では、この直流電圧V1を、ドライブ回路207からの周波数に合わせて交流電圧V2に変換する。このときの交流電圧V2は直流電圧V1に比例したものであり、それを交流定電流回路205に送る。
【0040】
交流定電流回路205では、交流電圧直流電圧V2を、交流電圧直流電圧V2に比例した交流の定電流に変換して(インピーダンスを反転させる)ハンドピースAのピエゾ素子9、10に送る。また、その出力電圧と出力電流の位相を固有振動数検知回路208へ送る。
【0041】
固有振動数検知回路208は、交流定電流回路205が出力する交流定電流の出力電圧と出力電流の位相をモニターしてホーン2の固有振動数を検知し、その振動数の周波数信号をドライブ回路209に送る。
【0042】
ドライブ回路209は、固有振動数検知回路208から周波数信号を増幅し、スイッチング回路207に送る。
【0043】
交流定電流回路205の出力電圧は、トランス201を介してキャビテーション抑制回路114に取り込まれ、トランス201の2次側で整流ダイオード202により整流され、コンパレータ203の一方の入力端子に入力される。
【0044】
コンパレータ203の他方の入力端子には閾値電圧として作用する規定電圧が入力され、その出力はトランジスタ204のベースに印加されている。トランジスタ204はコレクタが振幅増減調整回路112の出力に接続され、エミッタが接地されており、交流定電流回路205の出力電圧が規定電圧値を超えた場合には、トランジスタ204が導通し、振幅増減調整回路112から直流電圧電源111に送られる直流電圧信号S112が下がる。
【0045】
なお、本実施形態では、交流定電流回路205の出力電圧を、トランス201を介してキャビテーション抑制回路114に取り込む例について説明したが、ピエゾ素子のインピーダンスが増加する際には、直流電圧電源207が出力する直流電圧V1、スイッチング回路206が出力する交流電圧V2も同じように増加するので、それらをキャビテーション抑制回路114に取り込んでモニターすることとしても良い。
【0046】
図3は、本発明の超音波手術器の他の実施形態の要部構成を示す図である。
【0047】
図3中のハンドピースチップA、出力回路111、振幅増減調整回路112の構成は図1に示したものと同様である。本実施形態においては、マイク301があらたに設けられ、また、キャビテーション抑制回路114の変わりにマイク301が出力する音声信号S301を受けて動作するキャビテーション抑制回路314が設けられている。
【0048】
本実施形態はキャビテーションの際に発生する、振動周波数に関連した周波数の連続音が発生することを用いてキャビテーションを抑制するものであり、キャビテーションにより発生した連続音をマイクで確認したときにホーンの振幅値が小さくなるように制御する。
【0049】
図4は、図3中のキャビテーション抑制回路314の要部構成を詳細に示す図である。
【0050】
図4に示されるキャビテーション抑制回路314は、主にはトランス401、トランジスタ402,405、フィルター403、コンパレータ5より構成されている。
【0051】
マイク301が出力する音声信号はトランス401に入力され、トランス401の出力側からの音声信号はトランジスタ402により増幅される。フィルター403は、トランジスタ402により増幅された音声信号のうち、キャビテーションにより発生する音の周波数の約数となる周波数成分を通過させるもので、その出力はコンパレータ404の一方の入力端子に入力される。
【0052】
コンパレータ404の他方の入力端子には閾値電圧として作用する規定電圧Bが入力され、その出力はトランジスタ405のベースに印加されている。トランジスタ405はコレクタが振幅増減調整回路112の出力に接続され、エミッタが接地されており、フィルター403の出力電圧が規定電圧値Bを超えた場合には、トランジスタ405が導通し、振幅増減調整回路112から直流電圧電源111に送られる直流電圧信号S112が下がる。
【0053】
フィルター403の出力電圧が規定電圧値Bを超えることは、キャビテーションにより発生する周波数の音の大きさが所定以上となることを意味し、本実施形態においてはキャビテーションが発生すると直に直流電圧信号S112が下げられるため、キャビテーションによる悪影響が生じないものとなっている。
【0054】
なお、本実施形態は、図2に示した構成のキャビテーション構成回路114と併設されてもよい。
【0055】
図5は、本発明の他の実施形態の要部構成を示す図である。
【0056】
本実施形態は、手術部位502とハンドピースAの先端との密着度を高めるため、さらに、キャビテーションが発生しても手術部位502に直接影響を与えない手段として、ハンドピースAの先端にキャップ501を被せた構造としたものである。キャップ501としては、ゼリー状物質やゲル状物質を封止したものやシリコーン物質などが考えられ、その材質や構成は特に限定されない。
【実施例】
【0057】
次に、上述した構成を備える超音波手術器を用いた実施例について説明する。
【0058】
脳腫瘍手術を行なう際、5-アミノレブリン酸(5-ALA:NH2CH2CO(CH2)2COOH・HCl=167.6)を経口投与すると、脳腫瘍部位に光増感剤であるプロトポルフィリンIX(PPIX)が代謝蓄積され、波長が405nmの青紫レーザー光の照射により腫瘍部位だけ光らせることができることが知られ、また、PPIXで発光している部位に波長630nmのレーザー光を照射すると、発光部位のみ死滅させる事が可能であり、これによって腫瘍除去をすることが出来ることが知られている。
【0059】
脳腫瘍手術に使用される上記の波長のレーザー光は、組織の約3mm程度の深部にしか到達することができず、ある大きさ以上の固形の腫瘍すべてを治療することは難しい。
【0060】
また、1MHz以上の超音波振動を細胞に照射する方法も提案されているが、これは、温熱効果により細胞が死滅するとされていて、患者を水を満たした水槽に入れて収束超音波を照射するもので、装置が大がかりになるという問題があった。
【0061】
上記の内容を踏まえ、本発明による超音波手術器を用い、5-アミノレブリン酸(5-ALA)を投与後、超音波を照射したところ、キャビテーションの発生を抑制する条件下で、安全かつ容易に手術を行う事が可能となり、腫瘍を死滅させる効果が確認出来た。
<超音波がPPIXで発光している部位だけを死滅させることの証明>
実施例1
脳腫瘍細胞を使用して実験を行った。
【0062】
脳腫瘍細胞のみ、脳腫瘍細胞に5-ALAを添加した場合、脳腫瘍細胞に5-ALAとヒスチジンを添加した場合の3パターンで実験を行った。周波数25KHz振幅5μmで超音波を当てた場合、コントロールである脳腫瘍細胞とヒスチジンを添加した場合は細胞が破壊されていないが、5-ALAだけを添加した場合細胞が破壊されている事がわかった。
【0063】
ヒスチジンは活性酸素、一重項酸素などの消去能を持つ事が知られており、今回の細胞破壊には活性酸素などが関与している事が推測できる。
【0064】
実験例2
ヌードマウスにヒト脳腫瘍細胞を移植して実験を行った。
【0065】
ヌードマウスにヒト脳腫瘍を生育させた後、5−ALAを経胃投与した。このあと、腫瘍部分が発光していることを確認し、超音波の照射を行った。
【0066】
5-ALAは血液脳関門のため正常脳組織には移行せず、血液脳関門の破壊された腫瘍内に取り込まれる。腫瘍細胞内ではミトコンドリア内で代謝されるが腫瘍細胞では代謝酵素のferrochelataseが低下しているためPPIXの代謝が行われず、PPIXは腫瘍にのみ蓄積することが知られている。
【0067】
マウスの他の部位に影響を与えないために、腫瘍移植部位にのみ超音波が照射されるような形で照射を行なった。その結果、5-ALAを添加したものでは、1週間後には腫瘍が消滅していた事が確認できた。
【0068】
この効果は脳腫瘍に限らず、5-ALAを取り込むことが知られている腫瘍(食道癌、胃癌、膀胱癌など)に見られると思われ、それらの治療にも応用できると考えられる。
【0069】
これらの実施例により推定されるガン細胞死滅のメカニズムは、プロトポルフィリンIXを取り込んだガン細胞に、超音波振動を照射し、細胞内で発生した活性酸素により死滅するというものである。それには、周波数が1MHz以上で小さな振幅の振動を細胞に照射するよりも、細胞自体を振動させるためにある程度の振幅の振動を細胞に照射することが効果的であると思われる。そのために、10〜200KHzの周波数で振幅1〜10μmの振動、より好ましくは15〜100KHzの周波数で振幅1〜10μmの振動であれば細胞自体が振動することが可能という見解に至った。このような周波数および振動に設定することにより、超音波振動が約1cmまでの厚さまで伝播し、その領域内の腫瘍を治療(死滅)することができた。
【0070】
また、その振幅の設定方法としてはハンドピース先端の振動開始時は、図6に示すように、常に振幅が設定値の1/2以下からスタートし、序々に設定値まで増加するように制御することが挙げられる。これは、設定される振幅値がキャビテーションが発生してしまう振幅値である場合には、振動開始と同時にキャビテーションが発生してしまう危険があるためである。図1に示した操作パネル113は設定された周波数および振幅値について、上記のように設定値の1/2以下からスタートし、序々に設定値まで増加するような交流電流S113を出力し、これにより出力回路111は同様の交流電流S111を出力する。
【0071】
上記のように設定値の1/2以下からスタートさせることにより、振動開始と同時にキャビテーションが発生することを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0072】
111 出力回路
112 振幅増減調整回路
113 操作パネル
114 キャビテーション抑制回路
A ハンドピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動回路と、該駆動回路が出力する交流電流に応じた周波数および振幅にて振動するハンドピースとを備える超音波手術器において、
前記駆動回路は、
マイクと、
前記マイクによる音声信号のうち、所定周波数の信号のみを通過させるフィルターと、
前記フィルター出力を予め定められた閾値と比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果が、前記フィルター出力が前記閾値を超えるものである場合には、前記交流電流の電圧値を下げる電圧制御手段からなるキャビテーション抑制回路を備えることを特徴とする超音波手術器。
【請求項2】
請求項1記載の超音波手術器において、
駆動回路は、ホーンが周波数10〜200KHzであり、振幅1〜10μmで振動する交流電流を出力することを特徴とする超音波手術器。
【請求項3】
請求項2記載の超音波手術器において、
駆動回路は、ホーンが周波数15〜100KHzであり、振幅1〜10μmで振動する交流電流を出力することを特徴とする超音波手術器。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の超音波手術器において、
駆動回路は、出力値として設定された振幅の値に対し、その1/2以下の振幅からからスタートし、序々に設定された振幅値まで上げることを特徴とする超音波手術器。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の超音波手術器において、
ハンドピースは、その先端部を覆うキャップを備えることを特徴とする超音波手術器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−35101(P2012−35101A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227924(P2011−227924)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【分割の表示】特願2007−24139(P2007−24139)の分割
【原出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(803000034)学校法人日本医科大学 (37)
【出願人】(591125393)東京医研株式会社 (4)
【Fターム(参考)】