説明

超音波探傷システムおよび超音波探傷方法

【課題】検査対象の所定範囲を効率よく網羅的に検査する。
【解決手段】検査対象Aの表面上において移動させられて検査対象A内部の超音波探傷を行う超音波探触子2と、該超音波探触子2の位置および姿勢を検出する位置姿勢検出装置3と、検査対象Aの表面上における超音波探触子2の移動経路Cを記憶する経路記憶部と、経路記憶部に記憶されている移動経路Cに対する超音波探触子2の位置および姿勢のズレ量の許容値を記憶する許容値記憶部と、位置姿勢検出装置3により検出された超音波探触子2の位置および姿勢の移動経路Cに対するズレ量が許容値記憶部に記憶されている許容値を超えた場合にその旨を報知する報知部6とを備える超音波探傷システム1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探傷システムおよび超音波探傷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、検査対象の内部状態を手動によって検査する超音波探傷装置として、探触子の位置と角度を検出し、位置または角度に変化があった時点で探傷データと探傷位置(および角度)とを記憶するとともに、探傷位置を表示部に表示していくものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
この超音波探傷装置によれば、表示される探傷位置を確認しながら超音波探傷を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2755651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の超音波探傷装置では、超音波探傷を行った探傷位置が順次表示されていくのみであるため、手動によって探触子で検査する場合に、検査対象の所定範囲において未探傷領域を残すことなく網羅的に検査しようとすると、十分に狭い間隔で探触子を移動させなければならないという不都合がある。このような場合には、探傷領域が過度に重複することになって、検査の効率が悪いという問題がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、検査対象の所定範囲を効率よく網羅的に検査することができる超音波探傷システムおよび超音波探傷方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、検査対象の表面上において移動させられて検査対象内部の超音波探傷を行う超音波探触子と、該超音波探触子の位置および姿勢を検出する位置姿勢検出装置と、前記検査対象の表面上における前記超音波探触子の移動経路を記憶する経路記憶部と、該経路記憶部に記憶されている移動経路に対する前記超音波探触子の位置および姿勢のズレ量の許容値を記憶する許容値記憶部と、前記位置姿勢検出装置により検出された前記超音波探触子の位置および姿勢に基づいて前記移動経路からのズレ量を算出するズレ量算出部と、該ズレ量算出部により算出されたズレ量が前記許容値記憶部に記憶されているズレ量の許容値を超えたか否かを判定する判定部と、該判定部からの判定結果に応じた報知制御を行う報知制御部とを備えた制御部と、を備える超音波探傷システムを提供する。
【0007】
本発明によれば、作業者が、超音波探触子を把持して、検査対象の表面上において移動させつつ検査対象の超音波探傷を行う場合に、位置姿勢検出装置により超音波探触子の位置および姿勢が検出され、ズレ量算出部により経路記憶部に記憶されている移動経路に対するズレ量が求められる。そして、判定部によりズレ量が許容値記憶部に記憶されている許容値を超えている場合には制御部に備えられた報知制御部により判定結果に応じた報知制御が行われるので、作業者が移動経路からずれていることを認識し、修正動作を行うことができる。報知が行われないように超音波探触子の位置および姿勢を修正しつつ移動させることにより、超音波探触子の不要な移動を伴うことなく、移動経路に従って、検査対象を網羅的に探傷することができる。
【0008】
上記発明においては、前記経路記憶部に記憶されている前記超音波探触子の前記移動経路の表示と、前記超音波探触子の表示とを重ね合わせて表示する表示装置を備え、前記報知制御部は、前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超えた場合に、前記表示装置に表示されている前記超音波探触子の表示状態を変化させてもよい。
【0009】
このようにすることで、作業者は、表示部に移動経路に重ね合わせて表示されている超音波探触子の表示の表示状態の変化によって、検査対象の表面上において移動させている超音波探触子が予め設定されている移動経路からずれていることを認識できる。これに応じて、作業者は修正動作を行うことにより、超音波探触子の不要な移動を伴うことなく、移動経路に従って検査対象を網羅的に探傷することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記許容値記憶部が、複数の許容値を備え、前記報知制御部は、前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超える毎に、前記表示装置に表示されている前記超音波探触子の表示状態を段階的に変化させてもよい。
このようにすることで、作業者は、移動経路に対する超音波探触子の位置および姿勢のズレ量が増大する方向に超音波探触子を移動させているのか否かを認識することができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記超音波探触子または前記制御部は、スピーカを備え、前記報知制御部は、前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超えた場合に、その旨を前記スピーカによって報知してもよい。
このようにすることで、作業者は、表示を見ることなく、検査対象の表面上において移動させている超音波探触子が予め設定されている移動経路からずれていることを、スピーカから発生した音によって認識できる。例えば、超音波探傷像を確認しながら超音波探触子を移動させている場合に、超音波探傷像から眼を離すことなく、移動経路からのズレを認識できる。
【0012】
また、上記発明においては、前記許容値記憶部が、複数の許容値を備え、前記報知制御部は、前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超える毎に、前記スピーカにより報知する音を段階的に変化させてもよい。
このようにすることで、作業者は、移動経路に対する超音波探触子の位置および姿勢のズレ量が増大する方向に超音波探触子を移動させているのか否かを、超音波探傷像等から眼を離すことなく、音によって認識することができる。
【0013】
また、上記発明においては、前記超音波探触子は、前記超音波探触子を振動させる振動手段を備え、前記報知制御部は、前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超えた場合に、その旨を前記振動手段による振動によって報知してもよい。
このようにすることで、作業者は、表示を見ることなく、検査対象の表面上において移動させている超音波探触子が予め設定されている移動経路からずれていることを、振動手段から発生した振動によって認識できる。例えば、超音波探傷像を確認しながら超音波探触子を移動させている場合に、超音波探傷像から眼を離すことなく、移動経路からのズレを認識できる。
【0014】
また、上記発明においては、前記許容値記憶部が、複数の許容値を備え、前記報知制御部は、前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超える毎に、前記振動手段により報知する振動を段階的に変化させてもよい。
このようにすることで、作業者は、移動経路に対する超音波探触子の位置および姿勢のズレ量が増大する方向に超音波探触子を移動させているのか否かを、超音波探傷像等から眼を離すことなく、振動によって認識することができる。
【0015】
また、上記発明においては、前記超音波探触子は、発光部を備え、前記報知制御部は、前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超えた場合に、その旨を前記発光部から発光によって報知してもよい。
このようにすることで、作業者は、検査対象の表面上において移動させている超音波探触子の発光部を確認するだけで、超音波探触子が予め設定されている移動経路からずれていることを認識できる。
【0016】
また、上記発明においては、前記許容値記憶部が、複数の許容値を備え、前記報知制御部は、前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超える毎に、前記発光部により報知する発光状態を段階的に変化させてもよい。
このようにすることで、作業者は、移動経路に対する超音波探触子の位置および姿勢のズレ量が増大する方向に超音波探触子を移動させているのか否かを、超音波探触子の発光部を確認するだけで認識することができる。
【0017】
また、上記発明においては、前記発光部が、前記超音波探触子の進行方向を指示するように複数備えられ、前記報知制御部が、前記移動経路に対するズレ量を低減させる方向を指示するようにいずれかの前記発光部を発光させてもよい。
このようにすることで、作業者は、超音波探触子に設けられた発光部によって指示される方向に超音波探触子を移動させるだけで、移動経路に対する超音波探触子の位置および姿勢のズレ量を低減ることができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記位置姿勢検出装置が、非接触で前記超音波探触子の位置および姿勢を検出してもよい。
このようにすることで、超音波探触子がメカニカルな制限を受けないので、探傷作業の自由度を向上することができる。
【0019】
また、上記発明においては、前記位置姿勢検出装置が、前記検査対象に対して固定された磁場を形成する送信コイルと、前記超音波探触子に設けられ、前記送信コイルにより形成した磁場を検出する受信コイルとを備えていてもよい。
このようにすることで、簡易に非接触で超音波探触子の位置および姿勢を検出することができる。
【0020】
また、本発明は、検査対象の表面上において移動させられて検査対象内部の超音波探傷を行う超音波探触子と、該超音波探触子の位置を検出する位置検出装置と、前記検査対象の表面上における前記超音波探触子の移動範囲を記憶する範囲記憶部と、該範囲記憶部に記憶されている移動範囲の境界に対する前記超音波探触子の位置の距離の許容値を記憶する許容値記憶部と、前記位置検出装置により検出された前記超音波探触子の位置の前記移動範囲の境界に対する距離を算出する距離算出部と、前記距離算出部により算出された距離が前記許容値記憶部に記憶されている距離の許容値より小さくなったか否かを判定する判定部と、前記判定部からの判定結果が許容値より小さい場合、報知制御を行う報知制御部と、を備えた制御部と、を備える超音波探傷システムを提供する。
【0021】
本発明によれば、作業者が、超音波探触子を把持して、検査対象の表面上において移動させつつ検査対象の超音波探傷を行う場合に、位置検出装置により超音波探触子の位置が検出され、距離算出部によって範囲記憶部に記憶されている移動範囲の境界に対する距離が求められる。そして、判定部により距離が許容値記憶部に記憶されている許容値より小さいと判定された場合には、報知制御部が判定結果に基づいて報知制御を行うので、作業者が移動範囲から外れそうであることを認識し、修正動作を行うことができる報知が行われないように超音波探触子の位置を修正しつつ移動させることにより、超音波探触子の不要な移動を伴うことなく、移動範囲内において、検査対象を網羅的に探傷することができる。
【0022】
また、本発明は、検査対象の表面上を移動させられて前記検査対象の超音波探傷を行う超音波探触子を移動させつつ、該超音波探触子の位置および姿勢を検出する位置姿勢検出ステップと、予め記憶されている前記超音波探触子の移動経路に対する、前記位置姿勢検出ステップにおいて検出された位置および姿勢とのズレ量を算出するズレ量算出ステップと、該ズレ量算出ステップにより算出されたズレ量が、前記許容値記憶部に記憶されているズレ量の許容値を超えたか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップからの判定結果に応じた報知制御を行う報知ステップと、を含む超音波探傷方法を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、検査対象の所定範囲を効率よく網羅的に検査することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波探傷システムを示す全体構成図である。
【図2】図1の超音波探傷システムを示すブロック図である。
【図3】図1の超音波探傷システムの制御部および記憶部の詳細を示すブロック図である。
【図4】図1の超音波探傷システムの表示部への表示例を示す図である。
【図5】図1の超音波探傷システムにおいて超音波探触子の状態が正常な場合を示す図である。
【図6】図1の超音波探傷システムにおいて超音波探触子の状態が異常な場合の一例を示す図である。
【図7】図1の超音波探傷システムにおいて超音波探触子の状態が異常な場合の他の一例を示す図である。
【図8】図1の超音波探傷システムにおいて超音波探触子の状態が異常な場合の他の一例を示す図である。
【図9】図1の超音波探傷システムの第1の変形例に係る制御部および記憶部の詳細を示すブロック図である。
【図10】図1の超音波探傷システムの第2の変形例に係る制御部および記憶部の詳細を示すブロック図である。
【図11】図1の超音波探傷システムの第3の変形例に係る制御部および記憶部の詳細を示すブロック図である。
【図12】図1の超音波探傷システムの第4の変形例に係る超音波探触子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態に係る超音波探傷システム1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る超音波探傷システム1は、図1および図2に示されるように、超音波探触子2と、位置姿勢検出装置3と、記憶部4と、制御部5と、表示部6とを備えている。
【0026】
超音波探触子2は、図2に示されるように、検査対象Aの表面上において移動させられることにより、検査対象A内部の超音波探傷像を取得する超音波プローブ7と、後述する受信コイル8とを備えている。
位置姿勢検出装置3は、検査対象Aに固定され、検査対象Aの表面に沿う所定範囲B内に磁場を形成する送信コイル9と、超音波探触子2に固定され送信コイル9によって形成された磁場を検出する受信コイル8と、送信コイル9への電力供給および受信コイル9からの信号処理を行う入出力部10とを備えている。
【0027】
入出力部10には、後述する制御部5からの指令により送信コイル9の切り替えおよび電力供給を指令する一方、受信コイル8により受信した信号を処理して超音波探触子2の位置を算出する信号処理部11が備えられている。信号処理部11は、受信コイル8によって検出された磁場の方向および強度によって超音波探触子2の検査対象A上における位置および姿勢を算出するようになっている。図中、符号12は、検査対象A上に形成する磁場の範囲を切り替えるために送信コイル9を切り替えるマルチプレクサ、符号13はアンプ、符号14は検波部である。
【0028】
記憶部4は、図3に示されるように、超音波探触子2を移動させるべく予め設定された検査対象Aの表面に沿う移動経路Cの情報を記憶する経路記憶部15と、移動経路Cに対する超音波探触子2の位置および角度のズレ量の許容値を記憶する許容値記憶部16とを備えている。
【0029】
制御部5は、経路記憶部15に記憶されている移動経路Cの情報に基づいて移動経路Cの表示を生成するとともに、位置姿勢検出装置3の信号処理部11により算出された姿勢の超音波探触子2の表示を生成し、移動経路Cの表示上の信号処理部11により検出された位置に超音波探触子2の表示を重ね合わせて、図4に示されるように、表示部6に表示させる表示生成部17を備えている。
また、制御部5は、位置姿勢検出装置3により検出された超音波探触子2の位置および姿勢に基づいて移動経路Cからのズレ量を算出するズレ量算出部18と、算出されたズレ量が許容値記憶部16に記憶されている許容値を超えたか否かを判定する判定部19と、該判定部19による判定結果に基づいて表示部6を制御する報知制御部22とを備えている。
【0030】
報知制御部22は、判定部19からの判定結果を受けて、表示部6に表示させる超音波探触子2の表示を切り替えるように、表示生成部17を制御するようになっている。すなわち、表示生成部17は、判定部19によりズレ量が許容値を超えていないと判定されている場合と、許容値を超えたと判定されている場合とで、例えば、生成する超音波探触子2の表示色を異ならせるようになっている。例えば、ズレ量が許容値を超えていない(正常な)場合には、表示色を緑色に、ズレ量が許容値を超えている(異常な)場合には表示色を赤色に設定するようになっている。
【0031】
ここで、判定部19の判定結果が正常である場合とは、図5に示されるように、超音波探触子2と移動経路Cとの距離dが許容値d0以下であり、かつ、超音波探触子2の移動経路Cに対する角度θが許容値θ0以下である場合を示す。また、判定部19の判定結果が異常である場合とは、例えば、図6に示されるように、超音波探触子2と移動経路Cとの距離dが許容値d0より大きい場合、図7に示されるように、超音波探触子2の移動経路Cに対する角度θが許容値θ0より大きい場合、あるいは、図8に示されるように、超音波探触子2が検査対象Aから浮いている場合等である。
【0032】
このように構成された本実施形態に係る超音波探傷システム1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る超音波探傷システム1を用いて検査対象Aの超音波探傷を行うには、超音波探触子2を検査対象Aの表面上に接触状態に配置し、位置姿勢検出装置3を作動させる。
【0033】
位置姿勢検出装置3を構成する送信コイル9に電力を供給すると、送信コイル9の周囲の所定範囲Bに磁場が形成される。超音波探触子2が送信コイル9により磁場が形成されている範囲B内に配置されている場合には、超音波探触子2に備えられ、位置姿勢検出装置3を構成する受信コイル8に電磁誘導による起電力が発生する。この起電力の強度を検出することにより、磁場の方向に対する受信コイル8の方向および送信コイル9に対する受信コイル8の位置を検出することができ、送信コイル9に対する超音波探触子2の位置および姿勢が検出されることになる(位置姿勢検出ステップ)。
【0034】
制御部5は、経路記憶部15に記憶されている移動経路Cの情報を呼び出して表示生成部17によって移動経路Cの表示を生成し、表示部6に表示させる。
また、制御部5は、許容値記憶部16に記憶されているズレ量の許容値を呼び出しておくとともに、位置姿勢検出装置3により検出された超音波探触子2の位置および姿勢の移動経路Cに対するズレ量をズレ量算出部18によって算出し(ズレ量算出ステップ)、判定部19において、ズレ量が許容値を超えているか否かを判定する。
【0035】
そして、制御部5は、表示生成部17によって、位置姿勢検出部3により検出された位置に、検出された姿勢の超音波探触子2の表示を生成するとともに、移動経路Cの表示と重ね合わせて表示部6に表示する。この場合に、制御部5は、判定部19による判定の結果、ズレ量が許容値を超えている場合には、報知制御部22が、表示生成部17によって表示色を赤色とした超音波探触子2の表示を、ズレ量が許容値を超えていない場合には、表示色を緑色とした超音波探触子2の表示を生成させる(報知ステップ)。
【0036】
このように、本実施形態に係る超音波探傷システム1によれば、作業者が超音波探触子2を把持して検査対象Aの表面上において移動させる際に、超音波探触子2の位置および姿勢が検出されて、移動経路Cの表示とともに表示部6に表示されるので、作業者は、表示部6に表示された移動経路Cの表示に対する超音波探触子2の表示を見ることで、検査対象Aのどの位置を検査しているかを認識することができる。
【0037】
また、超音波探触子2の位置または姿勢が移動経路Cから許容値を超えてズレているか否かをその表示色によって一目で認識することができる。
これにより、作業者は、表示部6に表示されている超音波探触子2の表示が、赤色の表示色である場合には、移動経路Cの表示に沿わせるように超音波探触子2を移動させて、緑色の表示色となるように訂正動作を行うことができる。
【0038】
すなわち、作業者は、表示部6に表示されている超音波探触子2の表示色が赤色とならないように超音波探触子2の位置および姿勢を修正しつつ移動させることにより、移動経路Cに従って、最短の移動距離で検査対象Aを網羅的に探傷することができる。その結果、検査対象Aを効率的に短時間で検査することができるという利点がある。
【0039】
なお、本実施形態においては、単一の許容値を超えたか否かによって超音波探触子2の表示色を異ならせることとしたが、これに代えて、複数の許容値を用意し、各許容値の前後において表示色を異ならせることにしてもよい。例えば、2つの許容値を用意し、ズレ量が第1の許容値以下である場合には緑色、第1の許容値を超え第2の許容値以下である場合には黄色、第2の許容値を超える場合には赤色、のように、段階的に表示色を変化させることにしてもよい。このようにすることで、よりズレ量が小さい状態で、訂正動作を行って、移動経路Cに沿った超音波探傷を行うことができる。
【0040】
また、本実施形態においては、表示色を異ならせることにより移動経路Cからのズレ量の増大を報知することとしたが、これに代えて、図9に示されるように、超音波探触子2または制御部5に設けたスピーカから音を発生させることにしてもよい。音により報知することで、作業者は、常に移動経路Cを表示した画面を確認していなくても済み、例えば、超音波探傷結果を確認しながら超音波探触子2を移動させる際にも、移動経路Cからのズレ量が大きくなっていることを音により認識することができる。
また、音により報知する場合においても、ズレ量の許容値を複数備えていて、許容値を超える毎に音色や音量を段階的に切り替えることにしてもよい。また、音声によって報知することにしてもよい。
【0041】
また、本実施形態において、表示色を異ならせることにより移動経路からのズレ量の増大を報知することに代えて、図10に示されるように、超音波探触子2に偏心モータ等の振動手段を設けておき、ズレ量が許容値を超えたときに振動手段を作動させて超音波探触子2を振動させることにしてもよい。振動により報知することで、作業者は、常に移動経路Cを表示した画面を確認していなくても済み、例えば、超音波探傷結果を確認しながら超音波探触子2を移動させる際にも、移動経路Cからのズレ量が大きくなっていることを振動により認識することができる。
また、振動により報知する場合においても、ズレ量の許容値を複数備えていて、許容値を超える毎に振動周波数や振動パターンを段階的に切り替えることにしてもよい。
【0042】
また、本実施形態において、表示色を異ならせることにより移動経路からのズレ量の増大を報知することに代えて、図11に示されるように、超音波探触子2に発光ダイオード等の発光部を設けておき、ズレ量が許容値を超えたときに発光部を発光させることで報知してもよい。
また、発光により報知する場合においても、ズレ量の許容値を複数備えていて、許容値を超える毎に発光色、発光強度あるいは発光パターンを段階的に切り替えることにしてもよい。
【0043】
さらに、超音波探触子2に設けた発光部20により移動経路Cからのズレ量の増大を報知する場合に、図12に示されるように、超音波探触子2の方向を示すように、例えば、4箇所に発光部20を設け、各発光部20を個別に点灯させることで方向指示器として機能させることにしてもよい。すなわち、移動経路Cからのズレ量が許容値を超えた場合に、ズレ量を小さくする方向への超音波探触子2の移動を促すように発光部20を点灯させることができ、これによって、作業者が簡易に訂正動作を行うことができる。また、ズレ量が許容値以下である場合には、図12の発光部20の中央に配置された発光部21を点灯させることにしてもよい。
【0044】
また、本実施形態においては、位置姿勢検出装置3として、送信コイル9と受信コイル8とにより非接触式で超音波探触子2の位置および姿勢を検出するものを例示したが、これに限定されるものではなく、接触式で検出するものを採用してもよい。例えば、複数のリンクを備えるマニピュレータの先端に超音波探触子2を取り付け、各リンクの角度をエンコーダ等で検出することにより超音波探触子2の位置および姿勢を検出してもよい。
【0045】
また、送信コイル9により形成される磁場の範囲Bが、検査対象Aの全域ではなく、図1に示されるように、検査対象Aの所定の限られた領域に形成される場合には、超音波探触子2がその領域から外れると、受信コイル8によって磁場が検出できなくなる。これを防止するために、記憶部4には、範囲Bの境界位置を示す情報を記憶しておき、図3のズレ量算出部18に代えて距離算出部(図示略)を採用し、位置姿勢検出装置(位置検出装置)3により検出された超音波探触子2の位置と記憶されている境界位置との距離を距離算出部により算出し、算出された距離が所定の距離より小さいと判定部19が判定したときには、これを報知することにしてもよい。
【0046】
また、本発明に係る超音波探傷システムは、上述した実施形態に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各実施形態の構成を組み合わせてもよい。
また、上述した実施形態では、ズレ量が許容値を超えたとき、発光部から発光によって報知するようにすることを記載したが、これに限られるものではなく、例えば、ズレ量が許容値を超えないときに、発光部を発光させておき、許容値を超えたときに発光部を消灯させるようにするのであってもよい。
【0047】
また、上述した実施形態では、図11や図12に示すような発光部(発光ダイオード)を設けるものを例示したが、これに限られるものではなく、例えば、液晶の小型ディスプレイのような画像表示部を探触子に設けるようにし、必要な矢印やメッセージといった表示で報知するようにしてもよい。
【0048】
また、上述した実施形態では、報知制御部22は、制御部5内部に備えているものとして示したが、これに限られるものではなく、例えば、表示部6、スピーカ、振動手段、発光部に内蔵するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
A 検査対象
B 移動範囲
C 移動経路
1 超音波探傷システム
2 超音波探触子
3 位置姿勢検出装置(位置検出装置)
4 記憶部(範囲記憶部)
5 制御部(報知部)
6 表示部(表示装置)
8 受信コイル
9 送信コイル
15 経路記憶部
16 許容値記憶部
18 ズレ量算出部
19 判定部
20 発光部
22 報知制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の表面上において移動させられて検査対象内部の超音波探傷を行う超音波探触子と、
該超音波探触子の位置および姿勢を検出する位置姿勢検出装置と、
前記検査対象の表面上における前記超音波探触子の移動経路を記憶する経路記憶部と、
該経路記憶部に記憶されている移動経路に対する前記超音波探触子の位置および姿勢のズレ量の許容値を記憶する許容値記憶部と、
前記位置姿勢検出装置により検出された前記超音波探触子の位置および姿勢に基づいて前記移動経路からのズレ量を算出するズレ量算出部と、該ズレ量算出部により算出されたズレ量が前記許容値記憶部に記憶されているズレ量の許容値を超えたか否かを判定する判定部と、該判定部からの判定結果に応じた報知制御を行う報知制御部とを備えた制御部と、
を備えることを特徴とする超音波探傷システム。
【請求項2】
前記経路記憶部に記憶されている前記超音波探触子の前記移動経路の表示と、前記超音波探触子の表示とを重ね合わせて表示する表示装置を備え、
前記報知制御部は、
前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超えた場合に、
前記表示装置に表示されている前記超音波探触子の表示状態を変化させることを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷システム。
【請求項3】
前記許容値記憶部が、複数の許容値を備え、
前記報知制御部は、
前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超える毎に、
前記表示装置に表示されている前記超音波探触子の表示状態を段階的に変化させることを特徴とする請求項2に記載の超音波探傷システム。
【請求項4】
前記超音波探触子または前記制御部は、スピーカを備え、
前記報知制御部は、
前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超えた場合に、
その旨を前記スピーカによって報知することを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷システム。
【請求項5】
前記許容値記憶部が、複数の許容値を備え、
前記報知制御部は、
前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超える毎に、
前記スピーカにより報知する音を段階的に変化させることを特徴とする請求項4に記載の超音波探傷システム。
【請求項6】
前記超音波探触子は、前記超音波探触子を振動させる振動手段を備え、
前記報知制御部は、
前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超えた場合に、
その旨を前記振動手段による振動によって報知することを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷システム。
【請求項7】
前記許容値記憶部が、複数の許容値を備え、
前記報知制御部は、
前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超える毎に、
前記振動手段により報知する振動を段階的に変化させることを特徴とする請求項6に記載の超音波探傷システム。
【請求項8】
前記超音波探触子は、発光部を備え、
前記報知制御部は、
前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超えた場合に、
その旨を前記発光部から発光によって報知することを特徴とする請求項1に記載の超音波探傷システム。
【請求項9】
前記許容値記憶部が、複数の許容値を備え、
前記報知制御部は、
前記位置姿勢検出装置により検出された位置および姿勢の前記移動経路に対するズレ量が前記許容値記憶部に記憶されている許容値を超える毎に、
前記発光部により報知する発光状態を段階的に変化させることを特徴とする請求項8に記載の超音波探傷システム。
【請求項10】
前記発光部が、前記超音波探触子の進行方向を指示するように複数備えられ、
前記報知制御部が、前記移動経路に対するズレ量を低減させる方向を指示するようにいずれかの前記発光部を発光させることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の超音波探傷システム。
【請求項11】
前記位置姿勢検出装置が、非接触で前記超音波探触子の位置および姿勢を検出することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれかに記載の超音波探傷システム。
【請求項12】
前記位置姿勢検出装置が、前記検査対象に対して固定された磁場を形成する送信コイルと、前記超音波探触子に設けられ、前記送信コイルにより形成した磁場を検出する受信コイルとを備えることを特徴とする請求項11に記載の超音波探傷システム。
【請求項13】
検査対象の表面上において移動させられて検査対象内部の超音波探傷を行う超音波探触子と、
該超音波探触子の位置を検出する位置検出装置と、
前記検査対象の表面上における前記超音波探触子の移動範囲を記憶する範囲記憶部と、
該範囲記憶部に記憶されている移動範囲の境界に対する前記超音波探触子の位置の距離の許容値を記憶する許容値記憶部と、
前記位置検出装置により検出された前記超音波探触子の位置の前記移動範囲の境界に対する距離を算出する距離算出部と、前記距離算出部により算出された距離が前記許容値記憶部に記憶されている距離の許容値より小さくなったか否かを判定する判定部と、前記判定部からの判定結果が許容値より小さい場合、報知制御を行う報知制御部と、を備えた制御部と、
を備えることを特徴とする超音波探傷システム。
【請求項14】
検査対象の表面上を移動させられて前記検査対象の超音波探傷を行う超音波探触子を移動させつつ、該超音波探触子の位置および姿勢を検出する位置姿勢検出ステップと、
予め記憶されている前記超音波探触子の移動経路に対する、前記位置姿勢検出ステップにおいて検出された位置および姿勢とのズレ量を算出するズレ量算出ステップと、
該ズレ量算出ステップにより算出されたズレ量が、前記許容値記憶部に記憶されているズレ量の許容値を超えたか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップからの判定結果に応じた報知制御を行う報知ステップと、
を含むことを特徴とする超音波探傷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−237370(P2011−237370A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111025(P2010−111025)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】