説明

超音波探査方法

【課題】アスベスト硬化剤がアスベスト中間層のみならず、アスベスト層が付着する母材との境界まで浸透している事を容易に確認できる広帯域超音波探査法を提供することを目的とする。
【解決手段】硬化剤を注入したアスベスト層Aの表面に、発信探触子31および受信探触子32を配置して、広帯域受信波を収録する工程と、アスベスト層厚dと硬化剤完全注入時のアスベストの音速とを用いて、広帯域受信波の起生時刻を求め、該起生時刻に基づいて該起生時刻周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタを定義し、該時系列フィルタを用いて母材Bからの1回目の反射波のみを抽出する処理と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アスベスト層への硬化剤(飛散防止剤)注入施工において、アスベスト層が付着する鉄、コンクリート等の構造物又はその付属物又は配管等(以降、「母材」と呼ぶ。)との境界まで硬化剤が浸透している事を確認することができる広帯域超音波を用いる超音波探査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、社会資本としての構造物(ビル、工場、住宅等)の構築時、耐久性、耐熱性、電気絶縁性、防音性の向上のために、構造物の一部表面及び配管等へ石綿繊維を吹き付け、層状のアスベスト層を構築することが一般的であった。
ところが2006年中旬以降、アスベスト繊維の吸引による人体への悪影響が社会問題化し、これへの対処法の構築の必要性が論じられてきた。
【0003】
この様な状況下、政府及び地方行政機関においては、学校や公共施設におけるアスベスト対策工事として、層状アスベスト層の除去と廃棄を急ピッチで進めている昨今である。
一方、民間建物や工作物(工場及び倉庫)においてもこの対策を急ぐべき必要性より関連法令も幾つか改正され、今後民間での対策工事も急ピッチで進められる状況である。
【0004】
1つ目の法改正は労働安全衛生法施工令の見直しであった。
本改正は2006年9月に行われ、「アスベストの空気層での許容含有率」を従来の1%から0.1%へ規制強化するものであった。
この改正に対する対処法として、
i)アスベストの空気層含有率が大きい場合、アスベスト除去工事が必要である。
ii)アスベストの空気層含有率が少ない場合、アスベスト層への硬化剤(飛散防止剤)注入による封じ込め工事が提言されている。
【0005】
2つ目の法改正は前記ii)に関連して、飛散防止剤の大臣認定制度が、建築基準法の改正(2006年10月)により発足し、「エアーエロージョン」「衝撃」「付着」に関する試験をパスする必要が生じた。
【0006】
ところで、硬化剤(飛散防止剤)の性能として、その規制水準を満足させることが出来たとしても(特許文献1〜3)、硬化剤の浸潤、浸透状況の確実な確認方法は、現時点で存在しない。
簡易な含水検査機を用いたチャレンジもあるが、アスベストの中間層への湿潤状況を確認できてもアスベストの取り付く母材付近の剥離(浮きや剥がれ)部分にも、充分に前記硬化剤(母材との接着効果を期待する)が浸透したか否かを確認するのが困難な状況である。
【0007】
【特許文献1】特開2006−274169号公報
【特許文献2】特開2007−126957号公報
【特許文献3】特開2007−113175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
以上の背景下、本願発明は、前記硬化剤がアスベスト中間層のみならず、アスベスト層が付着する母材との境界まで浸透している事を容易に確認できる広帯域超音波探査法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明(請求項1)は、発信探触子から広帯域超音波を発信し、受信探触子で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材に吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層に液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材の表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入したアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触子を配置して、広帯域受信波を収録する工程と、
アスベスト層厚と硬化剤完全注入時のアスベストの音速とを用いて、広帯域受信波の起生時刻を求め、該起生時刻に基づいて該起生時刻周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタを定義し、該時系列フィルタを用いて前記母材からの1回目の反射波のみを抽出する処理と、
を備えた超音波探査方法であることを特徴とする。
【0010】
上述の時系列フィルタとしては、図14の(a)で示すような正弦関数によるもの、図14の(b)で示すように、t≦ε・t−Δta1で0.0、t=ε・t〜ε・t+Δta2で1.0、t≧ε・t+Δta1+Δta2で0.0、t=ε・t−Δta1〜ε・tを増加関数、t=ε・t+Δta2〜ε・t+Δta1+Δta2を減少関数とするもの、または矩形波、台形波または三角波のような時系列フィルタであってもよい。
これにより、アスベスト吹付け層内部での超音波の散乱現象や散乱減衰の影響を排除して、1回目の反射波のみを明確に抽出することができ、硬化剤完全注入か否かの判断に反映させることができる。
【0011】
また、この発明(請求項2)は、発信探触子から広帯域超音波を発信し、受信探触子で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材に吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層に液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材の表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入したアスベスト層の表面に、前記発信探触子および前記受信探触子を互いの中心間距離を所定値として配置して、広帯域受信波G2(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
外部から与えられるアスベスト層厚d及び外部から与えられる硬化剤が完全に注入されたアスベストの音速Vを用いて、t=2d/Vを計算し、該tに基づいて該t周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタFiLTn5(t)を定義し、前記G2(t)(j=1〜n)をG(t)として用いて、
【数1】

を計算することにより、前記母材からの1回目の反射波のみを抽出する処理とを備えた超音波探査方法であることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、前記時系列フィルタFiLTn5(t)を用いて前記母材からの1回目の反射波のみを抽出処理するので、該1回目の反射波の抽出がさらに明確となって、硬化剤完全注入か否かの判断に反映させることができる。
【0013】
この発明(請求項3)は、発信探触子から広帯域超音波を発信し、受信探触子で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材に吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層に液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材の表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入する前のアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触子を互いの中心間距離を所定値として配置して、広帯域受信波G1(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
前記硬化剤を注入したアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触子を互いの中心間距離を前記所定値として配置して、広帯域受信波G2(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
G1(t)(j=1〜n)とG2(t)(j=1〜n)とを一緒にしてG(t)(G(t)←G1(t)、j=1〜n,Gj+nA(t)←G2(t)、j=1〜n)として整理する工程と、
外部から与えられるアスベスト層厚d及び外部から与えられる硬化剤が完全に注入されたアスベストの音速Vを用いて、t=2d/Vを計算し、外部から与えられる補正関数ε、Δta1、Δta2、n5を用いて所定の時系列フィルタFiLTn5(t)を定義し、前記G(t)(j=1〜n+n)を用いて、
【数1】

を計算し、フーリエ変換でGA(t)に対応するスペクトルをFA(f)として求め、GA(t)の比較表示において、j毎にGA(t)の最大振幅を表示領域に最大表示する第一の処理工程と、
の初期値を(V/2d)×10−3kHzとして、fの最大値fmaxと、Δf(1kHz〜5kHzのいずれかの値)とを外部から与え、fの増分計算
【数2】

の都度、振動数フィルタA(f)をf=0.0で0.0、f=fで1.0、f≧2fで0.0とする正弦関数として作成し、n1を外部から与える1以上の整数として、
【数3】

を計算し、フーリエ逆変換でFB(f)に対応する時系列波GB(t)を作成し、外部から与える比較表示係数ε(1〜2の範囲の実数)及びn2(1以上の整数)を用いて、FB(f)のj毎の最大スペクトル値をASとし、AS(j=1〜(n+n))の中で、最も大きいスペクトル値をASmaxとした時、ASmax≦ε・ASとなるFB(f)を(ASmax/AS)×FB(f)と置き換え、又、GB(t)のj毎の最大振幅をAWとし、AW(j=1〜(n+n))の中で、最も大きい振幅値をAWmaxとした時AWmax≦ε・AWとなるGB(t)を(AWmax/AW)×GB(t)と置き換え、このFB(f)及びGB(t)の比較表示をFBn2(f)、GBn2(t)で行う処理を前記fの増分計算の都度繰返し、測点jでの硬化剤注入が、アスベスト層とこれが付着する前記母材との境界まで浸潤しているか否かを視覚的に表示する第二の処理工程とを備えた超音波探査方法であることを特徴とする。
【0014】
ここで、前記所定の時系列フィルタFiLT(t)はt=0.0で0.0、t=ε・tで1.0、t≧2・ε・tで0.0とする正弦関数としても良いし、t≦ε・t−Δta1で0.0、t=ε・t〜ε・t+Δta2で1.0、t≧ε・t+Δta1+Δta2で0.0、t=ε・t−Δta1〜ε・tを増加関数、t=ε・t+Δta2〜ε・t+Δta1+Δta2を減少関数としても良い。
上記構成によれば、アスベスト層とこれが付着する母材との境界まで浸潤しているか否かを明確に判断および視覚的に表示することができる。
【0015】
この発明(請求項4)は、前記n1の値(1以上の整数)を外部からの入力指示により大きくしていくことができる構成とすることもできる。
これにより、より狭帯域なスペクトルを求めることとなり、対応するGBn2(t)波では硬化剤完全注入測点(j=3,4,5)での成分波のみが大きく生じ、硬化剤完全注入か否かの判断をより明確に下すことができる。
【0016】
更にこの発明(請求項5)は、前記硬化剤注入前の受信波G1(t)(j=1〜n)が収録できない場合、過去に収録したアスベスト層厚を同一とする硬化剤注入前受信波をG1(t)とすることもできる。
これにより、過去に収録したアスベスト層厚が同一の硬化剤注入前の受信波G1(t)を収録できなかったG1(t)波に代用することができ、分析上、まったく問題は生じない。
【0017】
更にこの発明(請求項6)は、前記時系列フィルタFiLTn5(t)作成用係数ε、Δta1、Δta2、n5及びFBn2(f)、GBn2(t)作成時に用いる表示係数ε、n2を外部から与える代わりに、分析用コンピュータソフトウェアに組み込まれたアスベスト層厚d毎のε、Δta1、Δta2、n5、ε、n2値とすることもできる。
この係数値を外部からオペレータが与えるかわりにこの分析処理を行うコンピュータソフトウェアの中にあらかじめセットしておけば、不等定多数のオペレータのだれもが現場での計測分析を誤計測することなく容易に行うことができる。
【0018】
さらにこの発明(請求項7)は、発信探触子から広帯域超音波を発信し、受信探触子で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材に吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層に液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材の表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入したアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触子を互いの中心間距離を所定値として配置して、広帯域受信波G2(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
外部から与えられるアスベスト層厚d及び外部から与えられる硬化剤が完全に注入されたアスベストの音速Vを用いて、t=2d/Vを計算し、該tに基づいて該t周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタFiLTn5(t)を定義し、前記G2(t)(j=1〜n)をG(t)として用いて、
【数1】

を計算し、フーリエ変換でGA(t)に対応するスペクトルをFA(f)として求める第一の処理工程と、
前記FA(f)のスペクトルの面積Sを算出する第二の処理工程と、
所定の閾値と前記第二の処理工程で算出されたスペクトルの面積Sとを比較して、該スペクトルの面積Sが、前記閾値以上であれば、測点jでの硬化剤注入が、アスベスト層とこれが付着する前記母材との境界まで浸潤していると判定する第三の処理工程とを備えた超音波探査方法であることを特徴とする。
【0019】
上記構成によれば、スペクトルの面積が閾値以上の場合に、硬化剤注入が母材との境界まで浸潤していると判定するので、単に波形に基づいて判定する場合と比較して、面積比での判定ができるため、硬化剤完全注入か否かの判断をより一層明確に行なうことができる。
【0020】
さらに、この発明(請求項8)は、さらに前記硬化剤を注入する前のアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触子を互いの中心間距離を前記所定値として配置して、広帯域受信波G1(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
該G1(t)(j=1〜n)と前記G2(t)(j=1〜n)とを一緒にしてG(t)(G(t)←G1(t)、j=1〜n,Gj+nA(t)←G2(t)、j=1〜n)として整理する工程とを備え、
前記第三の処理工程において、G1(t)に基づくスペクトルの面積S(j=1〜n)と、G2(t)に基づくスペクトルの面積S(j=n+1〜n+n)と、前記所定の閾値とを比較表示し、アスベスト層とこれが付着する前記母材との境界まで浸潤しているか否かを視覚的に表示することを特徴とする。
【0021】
上記構成によれば、スペクトルの面積と所定の閾値とを比較表示し、硬化剤が母材との境界まで浸潤しているか否かを視覚的に表示するので、表示内容の目視により硬化剤完全注入か否かを容易に視認判断することができる。また、硬化剤注入前の受信波G1(t)と、硬化剤注入後の受信波G2(t)とに基づくスペクトルの面積を、所定の閾値に対して比較表示するので、G2(t)のみを用いる場合に対して、比較表示がより一層明確化される。
【0022】
さらに、この発明(請求項9)は、前記所定の閾値は、G1(t)に基づくスペクトルの面積S(j=1〜n)に基づいて自動的に設定されることを特徴とする。
これにより、適切な閾値を自動設定することができ、硬化剤完全注入か否かの判断を正確に行なうことができる。
【0023】
さらに、この発明(請求項10)は、前記所定の閾値は、過去に収録したアスベスト層厚を同一とする複数の硬化剤注入前の広帯域受信波と、今回の広帯域受信波G1(t)とに基づく複数のスペクトルの面積を平均した値に基づいて設定されることを特徴とする。
【0024】
上記構成によれば、何等かの原因により今回の広帯域受信波G1(t)が過大または過小となったとしても、この受信波G1(t)と過去に収録したアスベスト層厚を同一とする複数の硬化剤注入前の広帯域受信波との双方に基づく複数のスペクトルの面積を平均した値に基づいて前記所定の閾値が設定されるので、閾値設定の精度向上を図ることができ、硬化剤完全注入か否かの判断を、より一層正確に行なうことができる。
【発明の効果】
【0025】
母材に吹き付けた厚さをほぼ同一とするアスベスト層に液状の硬化剤を注入し硬化させた時、前記硬化剤がアスベスト中間層のみならず、母材とアスベスト層の境界にも充分に浸透しているか、否かを容易に確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本願発明は広帯域超音波装置を用いる超音波探査方法である。
この発明の実施形態における装置を、以下、図1〜図5に基づいて説明する。
【0027】
まず、図1を参照して、超音波探査装置の構成について説明する。
被探知体30(図6に示すアスベスト層A参照)の表面に接触配置する発信探触子31と、受信探触子32とを設けている。
上述の発信探触子31は、広帯域超音波(例えば0〜2.5MHz)を発信するものであり、上述の受信探触子32は、広帯域超音波を受信するものである。
【0028】
上述の発信探触子31には、超音波発信装置の電流供給回路33から電流が供給され、この発信探触子31から超音波が発信して被探知体30(アスベスト層A)内に入射する。
【0029】
また、受信探触子32が受信した超音波信号は、解析装置34に入力されて解析される。
この解析装置34においては、受信探触子32の受信信号が増幅回路35により増幅された後、フィルタ回路36でフィルタリングを受けた信号がAD変換回路37(アナログ・デジタル変換回路)によってデジタル信号に変換され、ゲートアレイ38を介してCPU40に入力される。
【0030】
ハードディスク39には、解析処理アプリケーションソフトウェアと、CPU40により演算処理された時系列データが保存される。ここで、上述のCPU40は、フーリエ変換・フーリエ逆変換を行う処理部である。
【0031】
また、上述の解析結果は表示装置41にも入力されて視覚的に可視表示される。この表示装置41は、FBn2(f)やGBn2(t)の比較表示または後述するスペクトル面積比較表示に用いられる比較表示部である。
【0032】
さらに、必要な情報が入力手段としてのキーボードなどの入力装置42からCPU40に入力されるように構成している。メモリ43は、CPU40が演算する際にデータを一時的に格納するために用いられる。また、CPU40からコントロール回路44に制御信号が出力され、コントロール回路44は、増幅回路35、フィルタ回路36、AD変換回路37、ゲートアレイ38および電流供給回路33に作動指令信号を出力する。
【0033】
電流供給回路33は、同軸ケーブル45を介して発信探触子31に接続されており、発信探触子31には図2に示すように、基盤化されたステップ型電圧発生器46と、振動子47とが内蔵されている。
【0034】
ステップ型電圧発生器46には、図3に示すように、ステップ電圧駆動回路461と、ステップ電圧発生回路462とが設けられており、ステップ電圧駆動回路461で発生するステップ関数型電圧を図2の振動子47に印加する。
【0035】
広帯域超音波を被探知体30(アスベスト層A)に入力する都度、受信探触子32で受信波を得る。
この受信波は、同軸ケーブル49を介して、解析装置34の増幅回路35へ電圧の時間変動データとして送られる。増幅回路35へ送られた時間変動データは、フィルタ回路36を介してAD変換回路37に達し、この電圧のアナログ量が、該AD変換回路37によりデジタル量に変換され、ゲートアレイ38を介してCPU40に転送され、電圧デジタル値の時刻歴が表示装置41に表示される。
【0036】
自動的に、またはキーボードなどの入力装置42を用いた外部からの指示で、電圧の増幅または減幅およびローパス/ハイパスフィルタ処理の指令がCPU40に伝達され、CPU40は、コントロール回路44を介して増幅回路35およびフィルタ回路36を制御する。
【0037】
図4に示すように、受信探触子32には、100kHz〜300kHzの範囲の特性の振動数における漸減型ハイパスフィルタ回路50、増幅回路51および振動子52が内蔵されている。
【0038】
電流供給回路33は、コントロール回路44により制御されて、所定の時間間隔で動作する。
これにより、発信探触子31に内蔵された振動子47(図2参照)から、所定の時間間隔で超音波が被探知体30(アスベスト層A)に入射される。
【0039】
受信探触子32に内蔵された振動子52(図4参照)は、超音波が入力する都度、被探知体30(アスベスト層A)の音圧変化にともなって振動が励起する。この振動励起で振動子52に生じる電圧の時間変化が、受信探触子32内のフィルタ回路50および増幅回路51で1次処理される。
【0040】
図1の増幅回路35およびフィルタ回路36の制御が終了した段階で、CPU40の指示でコントロール回路44が動作し、ゲートアレイ38に受信波の加算処理を命令する。
【0041】
ゲートアレイ38は、AD変換回路37で得られる電圧に関する時刻歴デジタル量を、上記時刻歴を得る都度、指定回数加算する。そして、CPU40のコントロール下にて加算平均時刻歴を作成し、表示装置41にその時刻歴をリアルタイム表示する。
【0042】
フィルタ回路50,36(図4、図1参照)および増幅回路51,35(図4、図1参照)は受信探触子32と解析装置34との双方にそれぞれ内蔵されている。受信探触子32に内蔵されているハイパスフィルタ回路50および増幅回路51は受信波に対して1次処理を行なうものであり、解析装置34に内蔵されている増幅回路35とフィルタ回路36は、1次処理された受信波に対し、CPU40のコントロール下にて微調整するものである。この微調整は、装置機能の高度化のために必要なものであるから、これら増幅回路35、フィルタ回路36は省略してもよい。
【0043】
次に、図5を参照してパルス型電圧積荷による超音波と、ステップ関数型電圧積荷による超音波の相違について説明する。
【0044】
図5(a)は振動子にパルス型電圧(30〜500V)を印加した場合のスペクトルを示し、この場合には、同図に示すように、振動子の厚さ方向共振振動数を中心周波数とする比較的狭帯域のスペクトルをもつ発信超音波を得ることになる(従来技術の狭帯域周波数に相当。)。
図5(b)は発信探触子31内の振動子47(図2参照)にステップ関数型電圧(30〜500V)を印加した場合のスペクトルを示し、この場合には、同図に示すように、共振振動数はもちろんのこと、これよりも低周波の成分も励起されたスペクトルとなり、本実施例の広帯域超音波は図5(b)による超音波を意味する。
【0045】
この発明の超音波探査方法を以下図面に基づいて説明する。
図6に計測図の一例を示す。
【0046】
アスベスト層A内に硬化剤注入前の計測位置を数ヶ所設定し、図6に示すように超音波探査を行う。
硬化剤注入前の計測点の数をnとして、広帯域受信波G1(t)(j=1〜n)を収録する(過去に同一条件での計測波があれば、これを用いても良い。)。
この後、硬化剤をアスベスト層Aに注入し、所定の時間(10分程度)以降、検査対象位置(複数、nヶ所)で図6に示す計測により広帯域受信波G2(t)(j=1〜n)を収録する。
この際の発信探触子31及び受信探触子32の中心間距離は所定値a[mm]として、広帯域受信波G1(t)を収録する場合と、広帯域受信波G2(t)を収録する場合に共通の中心間距離とする。
【0047】
この後、分析用受信波G(t)を、G1(t)とG2(t)とを一緒にして、以下のように整理する。
【数5】

【0048】
図6に示すアスベスト層Aは一般的に15mm〜40mm程度の薄い厚さである。
このアスベスト層Aに硬化剤を注入した時、母材B境界まで硬化剤が浸透し、アスベストと一体となり硬化すれば、この状態での図6の計測で得る受信波の起生時刻t秒と硬化処理アスベスト層の縦波音速Vmm/μ秒より、アスベスト層厚dを数式6で計算し、この計算結果が実際のアスベスト層厚dmmと一致すれば、硬化剤が母材Bまで浸透していると判断する一般的超音波計測法が考えられる。
【数6】

【0049】
しかしながら、アスベスト層Aは密実ではなく、石綿の性質より空気層が多量に含まれ、硬化剤が密に注入されたとしても、入力された超音波がその内部で大きく散乱し、従来の一般的な超音波計測における図6に示す計測で得る受信波をそのまま用いた方法では、アスベスト層Aの厚さdを計測することは出来ない。
【0050】
5kHzから500kHzのホワイトノイズ的な広帯域超音波を入力波とする図6の計測(アスベスト層厚35mm)での受信波比較図を図7に示す。
図7の比較図で、左側から1番目は、硬化剤を注入しない(以降、「硬化剤未注入アスベスト層」と呼ぶ。)場合の広帯域受信波である。
2番目は、硬化剤を注入しているが、不完全な状態のものである。具体的には、アスベスト層A表面より35/2mmまで硬化剤を注入(以降、「硬化剤1/2注入アスベスト層」と呼ぶ。)したものである。
【0051】
3〜5番目はアスベスト層A表面から母材Bとの境界まで、満に硬化剤を注入(以降、「硬化剤完全注入アスベスト層」と呼ぶ。)したものである。2,3〜5番目の受信波共、硬化剤注入後30分前後経過後、収録したものである。
【0052】
図7の広帯域受信波比較図に対応するスペクトル比較図を図8に示す。
図7の受信波比較図によれば、カーソルで示すt=80μ秒付近より波が起生し始め、これより後方の時刻に大きな振幅の波が生じてくる様子を確認できる。
【0053】
硬化剤注入後30分前後のアスベスト層Aの縦波音速Vは、本検討で用いた硬化剤の場合、別途、1.8mm/μ秒と評価されている。
これより、図7の受信波において最初の波の起生はt=2×35mm/1.8mm/μ秒≒39μ秒前後となるはずだが、このt位置に波の起生を確認することが出来ない。
【0054】
それでは、t=80μ秒以降に生じている振幅の大きい波はどのような物理現象で生じた波であろうか。図6の計測図にアスベスト層厚に関する重複反射波の存在を示している。
この重複反射波が繰り返し生じる事で、この波の重畳波がt時刻後方に大きく生じてきたわけである。
図8のスペクトル比較図で32kHz〜72kHzに生じているスペクトルは、この重複反射重畳波のスペクトルである。
以上、図7、図8の受信波比較図を見る限り、前記一般的超音波計測により、硬化剤が母材Bまで浸透したかの判断を数式6の関係を用いて行うことは不可能である。
よって何らかの方法で数式6の関係を前記広帯域受信波を分析することで見出さなければならない。この分析法の提示が、本願発明の目指すところである。
【0055】
以降、この方法論に関して詳述する。
図8の広帯域受信波スペクトルを見る限り72kHzより高振動数側は一見、雑音情報のみが存在しているように判断せざるを得ない。
信じ難い現象ではあるが、実はこの高振動数帯域に数式6の関係を明確に示す情報が隠れている。
この情報を取り出してみよう。図9は図7の受信波より、アスベスト層厚に関する1回目反射波が存在する時刻帯域を図示するTGC関数(FiLTn5(t))を用いて切り出したものである。
この切り出し波に対応するスペクトルを図10に示す。
0〜28kHzに大きなスペクトルが生じ、28kHz以上の振動数帯に小さいスペクトル値のスペクトルが生じているのを確認できる。
この小さいスペクトル値のスペクトルが、アスベスト層1回目反射波のスペクトル群である。
【0056】
100kHz以下及び500kHz以上のスペクトル値を0.0とし、100kHz〜500kHz内のスペクトル群の中の最大スペクトル値を表示画面に最大表示する比較表示で示したスペクトル比較図が図11である。
図10と図11の対比によれば、本例のような散乱減衰の大きい被探知体計測では高振動数成分が、極端に大きく減衰することを端的に示している。
硬化剤を注入しない時のスペクトル(実太線)、硬化剤をアスベスト層A表面からその厚さの1/2まで注入した時のスペクトル(点太線)に比し、母材B境界まで硬化剤を注入した他のスペクトルの方が、スペクトル値が格段に大きくなっているのを確認できる。
【0057】
図11のアスベスト層厚に関する1回目反射波広帯域スペクトルより、同1回目反射波狭帯域スペクトルを抽出し、対応する時系列波の1例を示すと、図12のような時系列比較図を得る事ができる。285kHz狭帯域波である。
硬化剤を母材Bまで満に注入した3,4,5の測点で、アスベスト厚d=35mm位置を起点とする1回目反射波が大きく起生する様子を確認できる。
また、硬化剤注入無しの測点1、表層よりアスベスト層厚1/2までの硬化剤注入の測点2では、アスベスト層厚に関する1回目反射波が生じていない。
【0058】
以上の分析結果の視認で、硬化剤が母材Bまで満に注入されたか否かを計測担当者が容易に判断できる。
尚、前記狭帯域波抽出で用いた285kHzは唯一の値ではない。他にも多数の値で図12と同様の結果を得る事ができる。この方法論に関しては後述実施例で詳述する。
【実施例1】
【0059】
図6の計測で、図13のスペクトル形状の広帯域入力波を発信探触子31から入力して得た広帯域受信波をG(t)とする。ここで、jは計測位置を表示するものである。
j=1〜n位置での受信波G(t)はアスベスト層Aに硬化剤を注入する前に、又j=(n+1)〜(n+n)位置での受信波G(t)は硬化剤をアスベスト層A表面から、注入後30分に計測した受信波である。
【0060】
本実施例では、n=1,n=4とし、アスベスト層厚dを35mmとして示している。
実際の計測はアスベスト層Aに硬化剤を注入する前(以後、「硬化剤未注入」と呼ぶ。)の計測でG1(t)(j=1)を収録し、アスベスト層Aに硬化剤不完全注入(アスベスト層A表面より、層厚dの1/2深さまで硬化剤注入(以後、「層厚1/2硬化剤注入」と呼ぶ。))の30分後の計測でG2(t)(j=1)を収録し、硬化剤をアスベスト層A表面から、これが付着する母材Bまで満に充填(以後、「硬化剤完全注入」と呼ぶ。)の30分後の計測でG2(t)(j=2〜4)を収録している。
この後、G1(t)とG2(t)とを一緒にして、G(t)として整理している。
【数5】

【0061】
(t)(j=1〜5)の比較図を図7に示している。
アスベスト層A表面が粗である状況から、受信波の振幅が測点j毎に変動する事より、G(t)毎にその最大振幅を表示画面に最大表示している。
対応するスペクトル比較図を図8に示している。
【0062】
図7によれば、概略t=80μ秒前後より波が起生し始め、この波が順次大きくなっていく様子を確認できる。
図8のスペクトル比較図では、32kHz〜72kHzに大きくスペクトルが生じている様子が確認できる。
【0063】
一方、アスベスト層Aに硬化剤を注入した「硬化剤完全注入」30分以降の音速は別途V=1.8mm/μ秒程度と計測されている。
また、計測時、アスベスト層A表面より、鉛直に針などを刺す事で、容易にアスベスト層厚dを確認できる。
このV,dの値を以降のコンピュータ分析処理で用いる情報として外部から与えれば数式6を用いて、アスベスト層厚に関する反射波の起生時刻t[μ秒]がt=2×d/V=2×35/1.8≒39μ秒と計算できる。
【0064】
これより、前記t=80μ秒(図7カーソル位置)は、このt値ではない。
図6の計測図で、アスベスト層厚に関する重複反射の存在を示している。
前記t=39μ秒はアスベスト層厚1回目反射波の起生時刻予測値である。
図7のt=80μ秒は概略2回目反射波の起生時刻予測値(2×t)に合致している。これより、図7の順次振幅の大きくなる波は、2回目反射波以降の多くの重複反射波が重畳して生じてきたものと理解できる。
【0065】
図7のアスベスト層厚に関する重複反射の重畳波比較では、「硬化剤完全注入」か、否かの判断を何ら行うことが出来ない。
もしくは、1回目反射を明敏に取り出す分析上の方策があれば、この処理で、j=3〜5位置計測の「硬化剤完全注入」30分以降計測波でのみ1回目反射波の起生を確認できるはずである。
また、j=1〜2の位置計測では、「硬化剤完全注入」時に比し、アスベスト層内部での超音波散乱現象が極端に大きくなることより、前記分析上の方策で対処しても1回目の反射波を取り出すのは困難となることが予想される。
以降、この分析法の方策について説明する。
【0066】
図9は数式6で算定されるアスベスト層厚に関する1回目反射波の前記起生時刻付近の時系列を図示する時系列関数を用いて切り出したものである。
請求項3の第一処理工程に対応する演算である。具体的には、数式6で計算されるt値と外部から与える補正係数εを用い、図14(a)に示すt=0.0で0.0、t=ε・tで1.0、t≧2ε・tで0.0とする正弦関数を時系列フィルタFiLT(t)と定義し、n5を外部から与える1乃至3のいずれかの整数値とし、数式1でGA(t)を演算し、比較表示したものが図9で(ε=1.25、n5=3)ある。
【数1】

【0067】
本例では、アスベスト層A表面の粗さで生ずるG(t)のj毎の振幅の大小関係を補正するために、GA(t)のj毎の最大振幅を表示画面で最大表示している。
なお、FiLT(t)の関数形状は図14(a)に示す正弦関数に限らない。
Δta1、Δta2、補正係数εを外部から与え、t≦ε・t−Δta1で0.0、t=ε・t〜ε・t+Δta2で1.0、t≧ε・t+Δta1+Δta2で0.0、t=ε・t−Δta1〜ε・tを増加関数、t=ε・t+Δta2〜ε・t+Δta1+Δta2減少関数とする図14(b)のような関数としても構わない。
【0068】
GA(t)に対応するFA(f)スペクトルをフーリエ変換で求め、比較表示(j毎にFA(f)の最大スペクトル値を表示画面に最大表示)したものが図10である。
28kHz以下の振動数スペクトルが大きく生じ、28kHz以上の振動数のスペクトル値が極めて小さくなっている。この28kHz以上のスペクトルが、アスベスト層厚に関する1回目反射波のスペクトル群である。
このスペクトル群を見易くするためにfB1、fB2を用いてバンドパスフィルタリングを行い、fB1〜fB2間でのスペクトル群の中の最大スペクトル値を最大表示することで比較表示したものが図11である。
本実施例では、fB1=100kHz、fB2=500kHzとして示している。
【0069】
さて、請求項3で示す「第2処理工程」を図9の代わりに図15を用いて説明する。
図9は図14(a)に示す時系列フィルタを用いて得たものであったが、図15は図14(b)に示す時系列フィルタを用いて得たものである。
図14(a)、図14(b)のいずれの時系列フィルタを用いても、以降の分析結果は概略同一となるが、本実施例では、図14(b)の時系列フィルタを用いることとする。
図14(b)のフィルタ係数(t、Δta1、Δta2、n5、εa)の内、t(数式6で計算できる)以外の値を外部から与え、数式1の演算で得た「第1処理工程」におけるGA(t)を図15に示している。図15を得た具体的なフィルタ係数の値は下記の通りである。
【0070】
=39μ秒(アスベスト層厚35mmに対応)
Δta1=100μ秒 Δta2=17μ秒 n5=200 εa=1.0
なお、図15の比較表示は、GA(t)波のj毎の最大振幅はアスベスト層A表面の粗さ加減で大きく変動するため、GA(t)のj毎の最大振幅を表示画面に最大表示している。
又、第1処理工程の最後の処理として、フーリエ変換でGA(t)に対応するスペクトルFA(f)(図示せず)を求めておく。
「第2処理工程」を詳述する前に、この工程で用いる振動数フィルタ関数A(f)を図16に示し、これを用いた分析結果を図17〜19に示す。
【0071】
「第2処理工程」で、まず最初に行う処理はA(f)フィルタを用いて、図15のGA(t)に対応するスペクトルFA(f)(図示せず。但し、図10とほとんど同一。)よりf値を中心振動数とする狭帯域スペクトルFB(f)を抽出し、対応する時系列GB(t)を数式3、数式4の演算で求める。
【数3】

【数4】

【0072】
前記f値を62kHz、95kHz、186kHzとし、n1=2とした時の分析結果がそれぞれ図17、図18、図19である。
=62kHz:図17
=95kHz:図18
=186kHz:図19
図18、図19スペクトル比較図では、硬化剤完全注入時のj=3、4、5測点のスペクトルが大きく生じ、硬化剤未注入(j=1測点)、硬化剤1/2注入(j=2測点)のスペクトルが小さく生じている。何故、この様な現象が生ずるかを説明する。
【0073】
図9又は図15に示す「第1の処理工程」で得るGA(t)波の中にはアスベスト層厚に関する1回目反射波とその後方散乱波が多量に含まれる。
GA(t)波のスペクトルの形状を示したものが図10であった。図10のスペクトル比較図で28kHz以上の帯域に、この1回目反射波群スペクトルが存在することを前記した。
この1回目反射波などは、硬化剤完全注入の場合、一般的考えではその振幅が大きくなるはずである。又、アスベスト層厚dmmと硬化剤注入アスベスト層の音速Vmm/μ秒で算定される振動数
【数7】

の概略整数倍位置のいずれかで、そのスペクトル値は大きく卓越してくるはずである。
【0074】
図18のf=95kHz狭帯域スペクトル比較図に最左端カーソル位置の振動数を26kHzとして、この振動数の整数倍位置に多数のカーソルを表示している。
左端より3番目のカーソルが硬化剤完全注入のj=3,4の大きなスペクトルの頂点と合致し、4番目のカーソルが硬化剤完全注入のj=5の大きなスペクトルの頂点と合致しているのを確認できる。
【0075】
又、「第1の処理工程」で求めたFA(f)スペクトルよりf=62kHzを中心周波数として数式3を用いて抽出した図17のFB(f)スペクトル比較図では、硬化剤完全注入のj=5のスペクトルが硬化剤1/2注入のj=2のスペクトルより小さくなっている。
=62kHzが前記f=26kHzの整数倍付近でないことより生じた現象である。
【0076】
前記分析結果(図17〜図19)より硬化剤完全注入のアスベスト層厚に関する1回目反射波が卓越するf値を数式7で得る値の整数倍位置付近として特定し、「第1の処理工程」で得たFA(f)に数式3を適用し、FB(f)スペクトルを求め、このf値を用いて、数式3、数式4でGB(t)を求め、これらを比較表示すれば、アスベスト層Aへの硬化剤注入が完全(母材Bとの境界まで注入)か否かを確認できることになる。
【0077】
ところで、本分析はその実用化に当って、不特定多数の人材が計測現場で、即時に、かつ容易に、そして誤計測することなく行う必要がある。
又、アスベスト層Aは超音波伝達に当って、極めて大きな散乱をその内部で生じさせる材質である。
このため、前記f値の整数倍付近の全てのf値で「硬化剤完全注入」の測点でのスペクトルが大きく卓越する保障はない。
この現象を前記不等定多数の分析者に考慮させて、分析作業を行わせるのは難しい。
【0078】
「第2の処理工程」は前記FB(f)スペクトルにおいて、「硬化剤完全注入」測点jのスペクトルが、「硬化剤不完全注入」「硬化剤未注入」測点のスペクトルに比し、大きく卓越するf値を探すために、f値を序々に変化させた時のスペクトル形状の変化を視認する経緯の中で、オペレータが容易に特定できる分析機能を持ち、このf値で定義されるA(f)関数を用いて数式3で狭帯域スペクトルFB(f)を演算し数式4の演算で対応するGB(t)を求め、FB(f)、GB(t)を図18、図19に示す様に比較表示して、「硬化剤完全注入」か否かの情報を現場計測を行うオペレータに与えるものである。
【0079】
具体的には、数式3の振動数関数A(f)を定義するf値の初期値を数式7で示す26kHzとし、f値の最大値を外部から与えるfmax値とし、Δfを外部から与える1kHz乃至5kHzのいずれかの値とし、数式2のfの増分計算
【数2】

の都度、振動数フィルタA(f)を
f=0.0で0.0、f=fで1.0、f≧2fで0.0とする正弦関数として作成し、n1を外部から与える1以上の整数として、数式3でFB(f)を、そして数式4でGB(t)を求め、FB(f)、GB(t)を比較表示した分析結果の一部が図17、図18、図19だったわけである。
【0080】
数式2のfの増分計算の都度、数式3、数式4の演算で得られるFB(f)、GB(t)の成分波及びスペクトル形状の変化を現場計測オペレータが図17〜図19に示すように視認できるようにすれば、硬化剤完全注入測点でのスペクトルが大きく生じ、硬化剤未注入測点のみならず、硬化剤不完全注入測点でのスペクトルが小さく生じるという比較表示画面を得ることができる。
【0081】
このようなスペクトル比較図を得たとき、オペレータ指示で、数式3、数式4の演算を停止して得た分析結果が図18、図19である。
結果として硬化剤完全注入測点でのアスベスト層厚に関する1回目反射波のスペクトルが硬化剤未注入及び不完全注入測点でのそれなどに比し、大きく生ずるf値として特定できる。
このf値を硬化剤完全注入測点でのアスベスト層厚1回目反射波が大きく卓越してくる振動数fと定義する。
【0082】
以上記述した「第2処理工程」で得た結果の視認で、計測点j位置でのアスベスト硬化剤注入が、完全か(硬化剤が母材Bとの境界まで満たされている)、不完全か(硬化剤注入がアスベスト中間層までしか至っていない)、又は硬化剤未注入かを計測現場オペレータが容易に判断できる情報を簡単な計測分析処理で提示することが可能となる。
なお、アスベスト層A表面の粗さなどの違いで、各測点(j)での受信波の振幅が変動することより、前記FB(f)、GB(t)の比較表示は、外部から与える比較表示係数ε(1〜2の範囲の実数)及びn2(1以上の整数)を用いて、スペクトル値及び成分波振幅を調整している。
具体的には以下のようになる。
【0083】
(1)スペクトル比較表示の場合
FB(f)において、j毎の最大スペクトル値をASとし、AS(j=1〜(n+n))の中で、最も大きいスペクトル値をASmaxとしたとき、
ASmax≦ε×ASとなるFB(f)を下記の様に変更する。
【数8】

比較表示をFBn2(f)で行っている。
【0084】
(2)成分波比較表示の場合
GB(t)において、j毎の最大振幅値をAWとし、AW(j=1〜(n+n))の中で最も大きい振幅値をAWmaxとしたとき、
AWmax≦ε×AWとなるGB(t)を下記の様に変更する。
【数9】

比較表示をGBn2(t)で行っている。
【0085】
(1)のFBn2(f)、(2)のGBn2(t)の図17〜図19の比較表示は、ε=1.4、n2=2を外部から入力して行っている。
【0086】
ところで、図19の分析結果では、アスベスト層厚の1回目反射波のスペクトルFBn2(f)がj=3,4,5で大きく生じ、j=1,2で極端に小さくなる様を確認できるが、対応するGBn2(t)では、硬化剤完全注入(j=3,4,5)と硬化剤未注入及び硬化剤1/2注入(j=1,2)との波の振幅の大小関係が明確ではない。
この問題への対処を請求項4とする。
具体的には数式3を用いたFB(f)(図18)の抽出ではn1=2としたが、このn1値を外部からのキーボードなどの入力手段による入力指示で大きくしていくことで、図19に比し更に狭帯域なスペクトルを求めると、対応するGBn2(t)波では硬化剤完全注入測点(j=3,4,5)での成分波のみが大きく生じてくる。
この成分波起生状況の比較で硬化剤完全注入か否かの判断を下すこともできる。
図19で用いたn1=2をn1=20に変更(請求項4による分析)した分析結果を図20に示す。
【0087】
次に、請求項5に関して説明する。
現場計測で、計測対象アスベスト層Aの全領域で硬化剤注入が終了しており、硬化剤注入前の受信波G1(t)を収録できない場合もあろう。
この場合、過去に収録したアスベスト層厚が同一の硬化剤注入前の受信波G1(t)を収録できなかったG1(t)波に代用しても、分析上、まったく問題は生じない。
【0088】
次に、請求項6を提示する理由を示す。
前記までの説明で、「第1の処理工程」の数式2の演算で用いる時系列フィルタFiLTn5(t)を定義する係数(ε、n5、Δta1、Δta2)及び「第2の処理工程」で得るFBn2(f)、GBn2(t)の作成時に用いる係数(ε、n2)は外部から与えるとしている。
本アスベスト層Aとこれが付着する母材Bとの境界に硬化剤が満に浸潤したか否かの分析は不特定多数のオペレータが計測現場で即時に行う必要がある。
【0089】
この時、前記FiLTn5(t)を定義する係数値の決定をオペレータに委ねることは誤計測の要因となる。
この係数値を外部からオペレータが与えるかわりにこの分析処理を行うコンピュータソフトウェアの中にあらかじめセットしておけば、不等定多数のオペレータのだれもが現場での計測分析を誤計測することなく容易に行うことができる。
【0090】
これら係数の最適値(硬化剤完全注入時及び未注入、不完全注入時のFBn2(f)、GBn2(t)の違いをより明確に示す値)はアスベスト層厚d毎に存在する。
d=35mmのとき、
FiLT(t)が図14(a)の場合でε=1.25、n5=3
FiLT(t)が図14(b)の場合でε=1.0、n5=200、Δta1=100μ秒、Δta2=17μ秒
又、FBn2(f)、GBn2(t)作成時に用いる表示係数ε、n2は多くの分析事例よりε=1.4、n2=2と特定されている。
【0091】
アスベスト層厚d毎に、これら係数の最適値をコンピュータソフトウェアの中に組み込んでおき、オペレータの指示で、請求項3の分析処理で用いる係数値をあらかじめソフトに組み込まれたε、n5、Δta1、Δta2及びε、n2値とする分析法である。
【0092】
以上要するに、前記実施例1で示した超音波探査方法は、発信探触子31から広帯域超音波を発信し、受信探触子32で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材Bに吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層Aに液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材Bの表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、前記硬化剤を注入したアスベスト層Aの表面に、前記発信探触子31および前記受信探触子32を配置して、広帯域受信波を収録する工程と、アスベスト層厚dと硬化剤完全注入時のアスベストの音速Vとを用いて、広帯域受信波の起生時刻tを求め、該起生時刻tに基づいて該起生時刻t周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタを定義し、該時系列フィルタ(図14の(a)または(b)参照)を用いて前記母材Bからの1回目の反射波のみを抽出する処理と、を備えたものである(請求項1)。
【0093】
これにより、アスベスト層A内部での超音波の散乱現象や散乱減衰の影響を排除して、1回目の反射波のみを明確に抽出することができ、硬化剤完全注入か否かの判断に反映させることができる。
ここで、上記時系列フィルタは図14の(a)に示す正弦関数によるものに代えて、矩形波または三角波のような時系列フィルタであってもよい。
【0094】
また、発信探触子31から広帯域超音波を発信し、受信探触子32で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材Bに吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層Aに液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材Bの表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入したアスベスト層Aの表面に、前記発信探触子31及び前記受信探触子32を互いの中心間距離aを所定値として配置して、広帯域受信波G2(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
外部から与えられるアスベスト層厚d及び外部から与えられる硬化剤が完全に注入されたアスベストの音速Vを用いて、受信波の起生時刻t=2d/Vを計算し、該tに基づいて該t周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタFiLTn5(t)を定義し、前記G2(t)(j=1〜n)をG(t)として用いて、
【数1】

を計算することにより、前記母材Bからの1回目の反射波のみを抽出する処理とを備えたものである(請求項2)。
【0095】
この構成によれば、前記時系列フィルタFiLTn5(t)を用いて前記母材Bからの1回目の反射波のみを抽出処理するので、該1回目の反射波の抽出がさらに明確となって、硬化剤完全注入か否かの判断に反映させることができる。
【実施例2】
【0096】
次に、図21〜図24を参照して超音波探査方法の他の実施例について説明する。但し、この実施例においても、図1〜図4の回路装置、図5の(b)のステップ関数型電圧積荷、図6の計測図、図13の広帯域入力波スペクトルを用いる。
【0097】
図6に示すように、硬化剤を注入する前のアスベスト層Aの表面に、発信探触子31と受信探触子32とを配置し、これら両探触子31,32の中心間距離を所定値a[mm]として、硬化剤注入前の計測点の数をnとし、広帯域受信波G1(t)(j=1〜n)を収録する。この実施例では、n=1としてアスベスト層Aに硬化剤を注入する前の計測で広帯域受信波G1(t)(j=1)を収録する。
【0098】
また、アスベスト層Aに硬化剤不完全注入(アスベスト層A表面より、層厚の1/2の深さまで硬化剤を注入)し、広帯域受信波G2(t)(j=1)を収録する。
さらに、硬化剤をアスベスト層A表面から、これが付着する母材Bまで満に充填し、この硬化剤完全注入直後と、完全注入後30分と、完全注入後60分とのそれぞれの広帯域受信波G2(t)(j=2〜4)を収録する(収録する工程)。つまり、硬化剤注入後の広帯域受信波G2(t)(j=1〜n)を収録する場合、この実施例2でも先の実施例1と同様にn=4としている。
【0099】
次に、硬化剤未注入の広帯域受信波G1(t)(j=1〜n)と、硬化剤注入後の広帯域受信波G2(t)(j=1〜n)とを一緒にしてG(t)(G(t)←(G1(t)、j=1〜n、Gj+(t)←G2(t)、j=1〜n)として整理する(整理する工程)。
【0100】
次に、外部から与えられるアスベスト層厚d(35mm)と、外部から与えられる硬化剤が完全に注入されたアスベスト層Aの縦波音速V[mm/μ秒](1.8mm/μ秒)とにより、図6の計測で得る受信波の起生時刻t=2d/V≒39μ秒を計算する。
【0101】
次に、前記起生時刻tに基づいて該起生時刻t周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタFiLT(t)を定義する。この時系列フィルタとしては図14の(a)または図14の(b)の時系列フィルタを用いることができる。
【0102】
次に、受信波G1(t)(j=1〜n)と受信波G2(t)(j=1〜n)とを一緒にして整理したG(t)を用いて、数式1によりGA(t)を計算して、母材Bからの1回目の反射波のみを抽出する(図21参照)。なお、図21〜図24中に付したj=1〜j=5はG(t)として整理したものn+(1〜n)を示している。
【数1】

図21は受信波より、アスベスト層厚dに関する1回目の反射波が存在する時刻帯域をTGC関数(FiLTn5(t))を用いて切り出したものである。
【0103】
次にフーリエ変換でGA(t)(図21参照)に対応するスペクトルをFA(f)として求めたものを図22に示す(第一の処理工程)。
【0104】
28kHz以下の振動数のスペクトル値が大きく生じ、28kHz以上の振動数のスペクトル値が極めて小さくなっている。この28kHz以上のスペクトルが、アスベスト層厚dに関する1回目の反射波のスペクトル群である。
このスペクトル群を見易くするために周波数fB1、fB2を用いてバンドパスフィルタリングを行ない、周波数fB1〜fB2の間でのスペクトル群の中の最大スペクトル値を最大表示することで比較表示したものが図23である。
この実施例ではfB1=100kHz、fB2=400kHzとして示している。
【0105】
図23に示す高周波スペクトルの比較において硬化剤完全注入後60分のスペクトル(j=5測点)、完全注入後30分のスペクトル(j=4測点)、完全注入直後のスペクトル(j=3測点)が大きく生じ、硬化剤1/2注入のスペクトル(j=2測点)、硬化剤未注入のスペクトル(j=1測点)が小さく生じていることが判断できる。
【0106】
次に、図23のFA(f)のそれぞれのスペクトルの面積Sを算出する。つまり、図23に示す100kHz〜400kHzの範囲内において、j=1の曲線より下の部分の面積を積分により求めて、図24の面積Sj=1とし、以下同様に、図23のj=2の面積を図24のSj=2とし、図23のj=3の面積を図24のSj=3とし、図23のj=4の面積を図24のSj=4とし、図23のj=5の面積を図24のSj=5とする(第二の処理工程)。
すなわち、G1(t)に基づくスペクトルの面積S(j=1〜n)を面積Sj=1とし、G2(t)に基づくスペクトルの面積S(j=n+1〜n+n)を面積Sj=2〜Sj=5とするものである。
【0107】
次に、図24のそれぞれのスペクトルの面積Sj=1〜Sj=5と、所定閾値Stとを比較表示して、アスベスト層Aとこれが付着する母材Bとの境界まで硬化剤が浸潤しているか否かを図1の表示装置41に視覚的に表示する(第三の処理工程)。
【0108】
前記表示装置41(図1参照)には図24の内容がそのまま可視表示され、この場合、図24に示すように、スペクトルの面積(Sj=3,Sj=4,Sj=5参照)が前記閾値St以上であれば、測点j(j=3,j=4,j=5参照)での硬化剤注入が、アスベスト層Aとこれが付着する母材Bとの境界まで浸潤していると判定することができる。
ここで、前記所定の閾値Sは、G1(t)に基づくスペクトルの面積Sj=1に基づいて自動的に設定してもよい。図24の実施例では、所定の閾値Stは面積Sj=1の約1.5倍の値に設定しているが、これは面積Sj=1の約1.33〜1.66倍などの他の所定の倍率に設定してもよい。
【0109】
また、前記所定の閾値Stは、過去に収録したアスベスト層厚dを同一とする複数の硬化剤注入前の広帯域受信波と、今回の広帯域受信波G1(t)とに基づく複数のスペクトルの面積を平均した値に基づいて設定し、何等かの原因により今回の広帯域受信波G1(t)が、過大または過小となった場合の閾値誤設定による硬化剤注入レベルの誤判定を防止するように構成してもよい。
【0110】
図24からは以下の2点のことが確認できる。
1).硬化剤注入後60分のスペクトルの面積Sj=5は、硬化剤注入直後のスペクトルの面積Sj=3および硬化剤注入後30分のスペクトルの面積Sj=4に対して大きくなる。
2).硬化剤未注入のスペクトルの面積Sj=1および硬化剤1/2注入のスペクトルの面積Sj=2は、硬化剤完全注入の各スペクトルの面積Sj=3,Sj=4,Sj=5と比較して格段に小さくなる。
【0111】
これにより、図24のスペクトル面積比較図において、硬化剤の完全/不完全注入の判定限界を定義すれば、アスベスト層Aに対する硬化剤の注入が完全か、不完全かの検討および判定を行なうことができる。
本実施例では硬化剤未注入アスベスト層及び硬化剤1/2注入アスベスト層についても測定を行なったが、過去の実績に基づく経験的に蓄積された値を用い、閾値を設定することもできる。
【0112】
このように、図21〜図24で示した実施例2の超音波探査方法(請求項7)は、発信探触子31から広帯域超音波を発信し、受信探触子32で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材Bに吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層Aに液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材Bの表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入したアスベスト層Aの表面に、前記発信探触子31及び前記受信探触子32を互いの中心間距離を所定値aとして配置して、広帯域受信波G2(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
外部から与えられるアスベスト層厚d及び外部から与えられる硬化剤が完全に注入されたアスベストの音速Vを用いて、t=2d/Vを計算し、該tに基づいて該t周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタFiLTn5(t)を定義し、前記G2(t)(j=1〜n)をG(t)として用いて、
【数1】

を計算し、フーリエ変換でGA(t)に対応するスペクトルをFA(f)として求める第一の処理工程(図22参照)と、
前記FA(f)のスペクトルの面積Sを算出する第二の処理工程(図24参照)と、
所定の閾値と前記第二の処理工程で算出されたスペクトルの面積Sとを比較して、該スペクトルの面積Sが、前記閾値S以上であれば、測点jでの硬化剤注入が、アスベスト層Aとこれが付着する前記母材Bとの境界まで浸潤していると判定する第三の処理工程とを備えたものである。
【0113】
この構成によれば、スペクトルの面積Sが閾値S以上の場合に、硬化剤注入が母材Bとの境界まで浸潤していると判定するので、単に波形に基づいて判定する場合と比較して、面積比での判定ができるため、硬化剤完全注入か否かの判断をより一層明確に行なうことができる。
【0114】
また、請求項8の発明は、さらに前記硬化剤を注入する前のアスベスト層Aの表面に、前記発信探触子31及び前記受信探触子32を互いの中心間距離を前記所定値aとして配置して、広帯域受信波G1(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
該G1(t)(j=1〜n)と前記G2(t)(j=1〜n)とを一緒にしてG(t)(G(t)←G1(t)、j=1〜n,Gj+nA(t)←G2(t)、j=1〜n)として整理する工程とを備え、
前記第三の処理工程において、G1(t)に基づくスペクトルの面積S(j=1〜n)と、G2(t)に基づくスペクトルの面積S(j=n+1〜n+n)と、前記所定の閾値Stとを比較表示し、アスベスト層Aとこれが付着する前記母材Bとの境界まで浸潤しているか否かを視覚的に表示するものである。
【0115】
この構成によれば、スペクトルの面積Sと所定の閾値Stとを比較表示し、硬化剤が母材Bとの境界まで浸潤しているか否かを視覚的に表示するので、表示内容の目視により硬化剤完全注入か否かを容易に視認判断することができる。
【0116】
さらに、請求項9の発明は、前記所定の閾値Stは、G1(t)に基づくスペクトルの面積S(j=1〜n)に基づいて自動的に設定されるものである。
これにより、適切な閾値Stを自動設定することができ、硬化剤完全注入か否かの判断を正確に行なうことができる。
【0117】
さらに、請求項10の発明は、前記所定の閾値Stは、過去に収録したアスベスト層厚dを同一とする複数の硬化剤注入前の広帯域受信波と、今回の広帯域受信波G1(t)とに基づく複数のスペクトルの面積を平均した値に基づいて設定されるものである。
【0118】
この構成によれば、何等かの原因により今回の広帯域受信波G1(t)が過大または過小となったとしても、この受信波G1(t)と過去に収録したアスベスト層厚dを同一とする複数の硬化剤注入前の広帯域受信波との双方に基づく複数のスペクトルの面積を平均した値に基づいて前記所定の閾値Stが設定されるので、閾値St設定の精度向上を図ることができ、硬化剤完全注入か否かの判断を、より一層正確に行なうことができる。
【0119】
またこの発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではなく、請求項に示される技術思想に基づいて応用することができ、多くの実施の形態を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の超音波探査装置のブロック図。
【図2】発信探触子の説明図。
【図3】発信探触子のステップ型電圧発生器の説明図。
【図4】受信探触子の説明図。
【図5】広帯域超音波の説明図。
【図6】本発明の広帯域超音波アスベスト層の超音波探査説明図。
【図7】アスベスト厚d=35mmの時の受信波比較図。
【図8】アスベスト層d=35mmの時の受信波スペクトル比較図。
【図9】アスベスト層厚1回目反射波の存在時刻帯域の切り出し説明図。
【図10】アスベスト層厚1回目反射波存在時刻帯域波スペクトル説明図(0〜625kHz)。
【図11】アスベスト層厚1回目反射波存在時刻帯域波スペクトル説明図(100〜500kHz)。
【図12】アスベスト層厚1回目反射波説明図。
【図13】計測で用いた広帯域入力波の説明図。
【図14】FiLT(t)関数の説明図。
【図15】第1の処理工程で得るGA(t)波の説明図。
【図16】振動数フィルタ関数A(f)の説明図。
【図17】分析結果説明図(f=62kHz,FB(f),GB(t),n1=2)。
【図18】分析結果説明図(f=95kHz,FB(f),GB(t),n1=2)。
【図19】分析結果説明図(f=186kHz,FB(f),GB(t),n1=2)。
【図20】分析結果説明図(f=186kHz,FB(f),GB(t),n1=20)。
【図21】アスベスト層厚1回目反射波の存在時刻帯域の切り出し説明図
【図22】アスベスト層厚1回目反射波存在時刻帯域波スペクトル説明図(0〜400kHz)。
【図23】図23のスペクトルを100〜400kHzの範囲で拡大したスペクトル拡大図
【図24】スペクトル面積比較図
【符号の説明】
【0121】
31…発信探触子
32…受信探触子
A…アスベスト層
B…母材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発信探触子から広帯域超音波を発信し、受信探触子で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材に吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層に液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材の表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入したアスベスト層の表面に、前記発信探触子および前記受信探触子を配置して、広帯域受信波を収録する工程と、
アスベスト層厚と硬化剤完全注入時のアスベストの音速とを用いて、広帯域受信波の起生時刻を求め、該起生時刻に基づいて該起生時刻周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタを定義し、該時系列フィルタを用いて前記母材からの1回目の反射波のみを抽出する処理と、
を備えた
超音波探査方法。
【請求項2】
発信探触子から広帯域超音波を発信し、受信探触子で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材に吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層に液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材の表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入したアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触
子を互いの中心間距離を所定値として配置して、広帯域受信波G2(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
外部から与えられるアスベスト層厚d及び外部から与えられる硬化剤が完全に注入されたアスベストの音速Vを用いて、t=2d/Vを計算し、該tに基づいて該t周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタFiLTn5(t)を定義し、前記G2(t)(j=1〜n)をG(t)として用いて、
【数1】

を計算することにより、前記母材からの1回目の反射波のみを抽出する処理とを備えた
超音波探査方法。
【請求項3】
発信探触子から広帯域超音波を発信し、受信探触子で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材に吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層に液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材の表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入する前のアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触子を互いの中心間距離を所定値として配置して、広帯域受信波G1(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
前記硬化剤を注入したアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触子を互いの中心間距離を前記所定値として配置して、広帯域受信波G2(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
G1(t)(j=1〜n)とG2(t)(j=1〜n)とを一緒にしてG(t)(G(t)←G1(t)、j=1〜n,Gj+nA(t)←G2(t)、j=1〜n)として整理する工程と、
外部から与えられるアスベスト層厚d及び外部から与えられる硬化剤が完全に注入されたアスベストの音速Vを用いて、t=2d/Vを計算し、外部から与えられる補正関数ε、Δta1、Δta2、n5を用いて所定の時系列フィルタFiLTn5(t)を定義し、前記G(t)(j=1〜n+n)を用いて、
【数1】

を計算し、フーリエ変換でGA(t)に対応するスペクトルをFA(f)として求め、GA(t)の比較表示において、j毎にGA(t)の最大振幅を表示領域に最大表示する第一の処理工程と、
の初期値を(V/2d)×10−3kHzとして、fの最大値fmaxと、Δf(1kHz〜5kHzのいずれかの値)とを外部から与え、fの増分計算
【数2】

の都度、振動数フィルタA1(f)をf=0.0で0.0、f=fで1.0、f≧2fで0.0とする正弦関数として作成し、n1を外部から与える1以上の整数として、
【数3】

を計算し、フーリエ逆変換でFB(f)に対応する時系列波GB(t)を作成し、外部から与える比較表示係数ε(1〜2の範囲の実数)及びn2(1以上の整数)を用いて、FB(f)のj毎の最大スペクトル値をASとし、AS(j=1〜(n+n))の中で、最も大きいスペクトル値をASmaxとした時、ASmax≦ε・ASとなるFB(f)を(ASmax/AS)×FB(f)と置き換え、又、GB(t)のj毎の最大振幅をAWとし、AW(j=1〜(n+n))の中で、最も大きい振幅値をAWmaxとした時AWmax≦ε・AWとなるGB(t)を(AWmax/AW)×GB(t)と置き換え、このFB(f)及びGB(t)の比較表示をFBn2(f)、GBn2(t)で行う処理を前記fの増分計算の都度繰返し、測点jでの硬化剤注入が、アスベスト層とこれが付着する前記母材との境界まで浸潤しているか否かを視覚的に表示する第二の処理工程とを備えた
超音波探査方法。
【請求項4】
前記n1の値(1以上の整数)を外部からの入力指示により大きくしていくことができる
請求項3記載の超音波探査方法。
【請求項5】
前記硬化剤注入前の受信波G1(t)(j=1〜n)が収録できない場合、過去に収録したアスベスト層厚を同一とする硬化剤注入前受信波をG1(t)とする
請求項3記載の超音波探査方法。
【請求項6】
前記時系列フィルタFiLT(t)作成用係数ε、Δta1、Δta2、n5及びFBn2(f)、GBn2(t)作成時に用いる表示係数ε、n2を外部から与える代わりに、分析用コンピュータソフトウェアに組み込まれたアスベスト層厚d毎のε、Δta1、Δta2、n5、ε、n2値とする
請求項3記載の超音波探査方法。
【請求項7】
発信探触子から広帯域超音波を発信し、受信探触子で広帯域受信波を受信する超音波探査装置を用い、母材に吹き付けられた厚さをほぼ同一とするアスベスト層に液状の硬化剤を注入したとき、該硬化剤の浸透が前記母材の表面まで至っているか否か探査する超音波探査方法であって、
前記硬化剤を注入したアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触子を互いの中心間距離を所定値として配置して、広帯域受信波G2(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
外部から与えられるアスベスト層厚d及び外部から与えられる硬化剤が完全に注入されたアスベストの音速Vを用いて、t=2d/Vを計算し、該tに基づいて該t周辺の受信波を重み付けして切り出す所定の時系列フィルタFiLTn5(t)を定義し、前記G2(t)(j=1〜n)をG(t)として用いて、
【数1】

を計算し、フーリエ変換でGA(t)に対応するスペクトルをFA(f)として求める第一の処理工程と、
前記FA(f)のスペクトルの面積Sを算出する第二の処理工程と、
所定の閾値と前記第二の処理工程で算出されたスペクトルの面積Sとを比較して、該スペクトルの面積Sが、前記閾値以上であれば、測点jでの硬化剤注入が、アスベスト層とこれが付着する前記母材との境界まで浸潤していると判定する第三の処理工程とを備えた
超音波探査方法。
【請求項8】
さらに前記硬化剤を注入する前のアスベスト層の表面に、前記発信探触子及び前記受信探触子を互いの中心間距離を前記所定値として配置して、広帯域受信波G1(t)(j=1〜n、nは測点数、jは計測(探触子配置)位置に関する数)を収録する工程と、
該G1(t)(j=1〜n)と前記G2(t)(j=1〜n)とを一緒にしてG(t)(G(t)←G1(t)、j=1〜n,Gj+nA(t)←G2(t)、j=1〜n)として整理する工程とを備え、
前記第三の処理工程において、G1(t)に基づくスペクトルの面積S(j=1〜n)と、G2(t)に基づくスペクトルの面積S(j=n+1〜n+n)と、前記所定の閾値とを比較表示し、アスベスト層とこれが付着する前記母材との境界まで浸潤しているか否かを視覚的に表示することを特徴とする
請求項7記載の超音波探査方法。
【請求項9】
前記所定の閾値は、G1(t)に基づくスペクトルの面積S(j=1〜n)に基づいて自動的に設定されることを特徴とする
請求項8記載の超音波探査方法。
【請求項10】
前記所定の閾値は、
過去に収録したアスベスト層厚を同一とする複数の硬化剤注入前の広帯域受信波と、今回の広帯域受信波G1(t)とに基づく複数のスペクトルの面積を平均した値に基づいて設定されることを特徴とする
請求項8記載の超音波探査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−47679(P2009−47679A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−124582(P2008−124582)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 内野英宏、博士論文「アスベスト対策における施工管理およびその廃棄物処理に関する実験的研究」、2008年3月
【出願人】(506258305)有限会社エッチアンドビーソリューション (5)
【出願人】(000237134)株式会社富士ピー・エス (20)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】