説明

超音波探触子およびその製造方法

【課題】有機圧電体への熱伝導量を低減しながら複数の信号線用引き出し電極を容易に外部の接続用配線に接続することができる超音波探触子を提供する。
【解決手段】複数の有機圧電素子の複数の信号線電極層42は、それぞれ有機圧電体41の外側へ引き出されて信号線用引き出し電極42aを形成し、音響整合層3の表面から側面に沿うように折り曲げられ、この信号線用引き出し電極42aの折り曲げ部8に、溶融はんだ等の流動性を有する電気接続材に対する信号線用引き出し電極42aの濡れ性を向上させるための溝形状の接続部位9が形成されている。信号線用引き出し電極42aの接続部位9に、受信回路を形成する回路基板に接続された接続用配線が溶融はんだ等により接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波探触子およびその製造方法に係り、特に、アレイ状に配列された複数の有機圧電素子を有する超音波探触子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、超音波探触子から被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーを超音波探触子で受信して、その受信信号を電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
また、近年、より正確な診断を行うために、被検体の非線形性により超音波波形が歪むことで発生する高調波成分を受信して映像化するハーモニックイメージングが脚光を浴びつつある。
このハーモニックイメージングに適した超音波探触子として、例えば、特許文献1に開示されているように、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)等の無機圧電体を用いた複数の無機圧電素子とポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の有機圧電体を用いた複数の有機圧電素子とを積層形成したものが提案されている。
無機圧電素子により高出力の超音波ビームを送信し、有機圧電素子により高調波の信号を高感度に受信することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−155863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機圧電素子は、有機圧電体の表面に接合された信号線電極層を有し、この信号線電極層から引き出された信号線用引き出し電極が、受信回路を形成する回路基板の配線部にはんだ等を用いて接続されており、有機圧電素子により得られた受信信号は、信号線用引き出し電極を介して受信回路に取り込まれる。
しかしながら、有機圧電体は、一般に耐熱性が低く、たとえば80℃を超える温度で脱分極してしまうという性質を有している。このため、信号線用引き出し電極を溶融はんだ等により回路基板の配線部に接続する際に、信号線用引き出し電極を介した有機圧電体への熱伝導量をいかにして低減するかが課題であった。特に、多数の有機圧電素子をコンパクトにアレイ状に配列する場合に、大きな問題となっていた。
【0006】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、有機圧電体への熱伝導量を低減しながら複数の信号線用引き出し電極を容易に外部の接続用配線に接続することができる超音波探触子およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に係る超音波探触子は、アレイ状に配列された複数の有機圧電素子を有する超音波探触子であって、複数の有機圧電素子から引き出された複数の信号線用引き出し電極のそれぞれに、流動性を有する電気接続材に対する濡れ性を向上させるための形状を有する接続部位が形成されているものである。
【0008】
接続部位は、溝、切り込み、貫通孔のいずれかの形状を有することができる。
また、接続部位は、信号線用引き出し電極の折り曲げ部または先端部に形成されることが好ましい。
複数の有機圧電素子にわたって延在する音響整合層をさらに備え、複数の有機圧電素子は、複数の有機圧電素子にわたって延在する共通の有機圧電体と、有機圧電体の一方の面と音響整合層との間に配列され且つ互いに分離された複数の信号線電極層と、有機圧電体の他方の面上に配置され且つ複数の有機圧電素子にわたって延在する共通の接地電極層とを含み、複数の信号線用引き出し電極が、複数の信号線電極層からそれぞれ引き出されている構成とすることができる。
【0009】
この場合、音響整合層は、複数の信号線用引き出し電極に当接する表面上に、互いに隣接する信号線用引き出し電極の間に形成された複数の溝を有することが好ましい。
また、複数の信号線用引き出し電極を、交互に反対方向に引き出すこともできる。
有機圧電体は、ポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体から形成することができる。
また、音響整合層を挟んで複数の有機圧電素子と反対側にアレイ状に配列された複数の無機圧電素子をさらに備えてもよい。
さらに、電気接続材として、溶融はんだまたは硬化温度が80℃以下の導電ペーストを用いることができる。
【0010】
この発明に係る第1の超音波探触子の製造方法は、音響整合層の上に複数の有機圧電素子がアレイ状に配列された超音波探触子の製造方法であって、絶縁シートの表面上に複数の信号線用引き出し電極を配列形成すると共にそれぞれの信号線用引き出し電極に流動性を有する電気接続材に対する濡れ性を向上させるための形状を有する接続部位を形成し、それぞれの信号線用引き出し電極の一部が音響整合層の表面からはみ出すように絶縁シートの裏面を音響整合層の表面上に接合し、音響整合層の表面からはみ出したそれぞれの信号線用引き出し電極の一部を絶縁シートと共に音響整合層の側面に沿って折り曲げ、音響整合層の表面上に絶縁シートを介して配置された複数の信号線用引き出し電極の上に複数の有機圧電素子を形成する方法である。
【0011】
また、この発明に係る第2の超音波探触子の製造方法は、音響整合層の上に複数の有機圧電素子がアレイ状に配列された超音波探触子の製造方法であって、音響整合層に隣接して犠牲層を配置し、音響整合層と犠牲層の表面上に導電層を形成し、音響整合層と犠牲層の境界部に直交する方向に導電層を所定のピッチでダイシングすることにより複数の信号線電極層とこれら複数の信号線電極層に一体に接続された複数の信号線用引き出し電極を形成し、音響整合層と犠牲層の境界部の上に位置するそれぞれの信号線用引き出し電極に流動性を有する電気接続材に対する濡れ性を向上させるための形状を有する接続部位を形成し、犠牲層を除去することにより音響整合層の表面からはみ出したそれぞれの信号線用引き出し電極の一部を音響整合層の側面に沿って折り曲げ、音響整合層の表面上に配置された複数の信号線電極層の上に複数の有機圧電素子を形成する方法である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、複数の信号線用引き出し電極のそれぞれに、流動性を有する電気接続材に対する濡れ性を向上させるための形状を有する接続部位が形成されているので、有機圧電体への熱伝導量を低減しながら複数の信号線用引き出し電極を容易に外部の接続用配線に接続することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態1に係る超音波探触子の構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態1に係る超音波探触子の要部を示す側面図である。
【図3】実施の形態1に係る超音波探触子の信号線用引き出し電極を示す部分斜視図である。
【図4】実施の形態1に係る超音波探触子の信号線用引き出し電極の製造方法を工程順に示す図である。
【図5】実施の形態1の変形例に係る超音波探触子の信号線用引き出し電極の製造方法を工程順に示す図である。
【図6】実施の形態2に係る超音波探触子の信号線用引き出し電極を示す部分斜視図である。
【図7】実施の形態2に係る超音波探触子の信号線用引き出し電極の製造方法を工程順に示す図である。
【図8】実施の形態3に係る超音波探触子の信号線用引き出し電極を示す部分斜視図である。
【図9】実施の形態4に係る超音波探触子の信号線用引き出し電極を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
実施の形態1
図1に、この発明の実施の形態1に係る超音波探触子の構成を示す。
バッキング材1の表面上に複数の無機圧電素子2が配列形成されている。複数の無機圧電素子2は、互いに分離された複数の無機圧電体21を有し、それぞれの無機圧電体21の一方の面に信号線電極層22が接合され、他方の面に接地電極層23が接合されている。すなわち、それぞれの無機圧電素子2は、専用の無機圧電体21と信号線電極層22と接地電極層23から形成されている。また、互いに隣接する無機圧電素子2の間には、充填材24が充填されている。
このような複数の無機圧電素子2の上に音響整合層3が接合されている。音響整合層3は、複数の無機圧電素子2に合わせて複数に分断されることはなく、複数の無機圧電素子2の全体にわたって延在している。
【0015】
この音響整合層3の上に複数の有機圧電素子4が配列形成されている。複数の有機圧電素子4は、複数に分断されることなく、これら複数の有機圧電素子4にわたって延在する共通の有機圧電体41を有している。そして、音響整合層3に対向する有機圧電体41の面上に複数の有機圧電素子4に対応して互いに分離された複数の信号線電極層42が接合され、音響整合層3とは反対側の有機圧電体41の全面上に複数の有機圧電素子4にわたって延在する共通の接地電極層43が接合されている。
さらに、複数の有機圧電素子4の上に保護層5を介して音響レンズ6が接合されている。
【0016】
無機圧電素子2の無機圧電体21は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)に代表される圧電セラミックまたはマグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体(PMN−PT)に代表される圧電単結晶から形成されている。一方、有機圧電素子4の有機圧電体41は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体等の高分子圧電素子から形成されている。
【0017】
図2に示されるように、複数の有機圧電素子4の複数の信号線電極層42は、それぞれ有機圧電体41の一端から他端まで延びると共に有機圧電体41の外側へ引き出されて信号線用引き出し電極42aを形成し、信号線用引き出し電極42aが音響整合層3の表面から側面に沿うように折り曲げられている。この信号線用引き出し電極42aに、受信回路を形成する回路基板に接続された接続用配線7が溶融はんだ等により接続されることとなる。
信号線用引き出し電極42aの表面には、図3に示されるように、音響整合層3に沿って折り曲げられた折り曲げ部8に信号線用引き出し電極42aの長さ方向に沿った1条の溝の形状を有する接続部位9が形成されている。この接続部位9は、溶融はんだ等の流動性を有する電気接続材に対する信号線用引き出し電極42aの濡れ性を向上させるためのものである。
【0018】
この超音波探触子は、複数の無機圧電素子2の複数の信号線電極層22がそれぞれ図示しない送信回路および受信回路を形成する回路基板に接続された対応の接続用配線にはんだ等により接続されると共に、複数の有機圧電素子4の複数の信号線電極層42がそれぞれ図示しない受信回路を形成する回路基板に接続された対応の接続用配線にはんだ等により接続された状態で使用される。
【0019】
このとき、有機圧電体41は、一般に耐熱性が低いので、有機圧電素子4の信号線電極層42を溶融はんだ等により回路基板の接続用配線に接続する際に、大きな熱量が有機圧電体41に伝導しないように考慮する必要があるが、この実施の形態1に係る超音波探触子においては、それぞれの信号線電極層42から引き出された信号線用引き出し電極42aの表面に溝形状を有する接続部位9が形成されている。
このため、信号線用引き出し電極42aの濡れ性が向上し、毛管現象により溶融はんだが信号線用引き出し電極42aに浸透しやすく、短時間ではんだ付け作業を完了することができる。従って、多数の有機圧電素子4がアレイ状に高密度に配列されていても、有機圧電体41に悪影響を及ぼすことなく、信号線用引き出し電極42aと回路基板の接続用配線との接続を行うことが可能となる。
【0020】
超音波探触子の動作時には、例えば、複数の無機圧電素子2が超音波の送信専用の振動子として、複数の有機圧電素子4が超音波の受信専用の振動子として使用される。
複数の無機圧電素子2の信号線電極層22と接地電極層23の間にそれぞれパルス状または連続波の電圧を印加すると、それぞれの無機圧電素子2の無機圧電体21が伸縮してパルス状または連続波の超音波が発生する。これらの超音波は、音響整合層3、有機圧電素子4、保護層5および音響レンズ6を介して被検体内に入射し、互いに合成され、超音波ビームを形成して被検体内を伝搬する。
被検体からの超音波エコーが音響レンズ6および保護層5を介してそれぞれの有機圧電素子4に入射すると、有機圧電体41が超音波の高調波成分に高感度に応答して伸縮し、信号線電極層42と接地電極層43の間に電気信号が発生し、信号線用引き出し電極42aを介して受信信号として出力される。
複数の有機圧電素子4から出力された受信信号に基づいて、高調波画像を生成することができる。
【0021】
また、複数の無機圧電素子2を超音波の送受信兼用の振動子として使用することもできる。この場合、音響レンズ6および保護層5を介して有機圧電素子4で受信された超音波エコーが、さらに有機圧電素子4および音響整合層3を介してそれぞれの無機圧電素子2に入射し、無機圧電体21が主に超音波の基本波成分に応答して伸縮し、信号線電極層22と接地電極層23の間に電気信号を発生する。
このようにして複数の無機圧電素子2から得られた基本波成分に対応する受信信号と、有機圧電素子4から得られた高調波成分に対応する受信信号とに基づいて、基本波成分と高調波成分を複合したコンパウンド画像を生成することができる。
【0022】
このような超音波探触子は、次のようにして製造することができる。
まず、バッキング材1の表面上に複数の無機圧電素子2を配列形成した後、これら複数の無機圧電素子2の上に音響整合層3を接合する。
ここで、図4(A)に示されるように、絶縁シート10の表面上に複数の信号線電極層42とこれら複数の信号線電極層42にそれぞれ一体に接続された複数の信号線用引き出し電極42aを配列形成すると共に、それぞれの信号線用引き出し電極42aの表面に溝形状の接続部位9を形成する。なお、複数の信号線電極層42および複数の信号線用引き出し電極42aは、例えば、絶縁シート10の全面上に形成された導電層をウェットエッチングでパターニングすることにより形成することができる。
そして、それぞれの信号線用引き出し電極42aの一部が音響整合層3の表面からはみ出すように、絶縁シート10を音響整合層3に対して位置決めし、絶縁シート10の裏面を音響整合層3の表面上に接合する。
【0023】
図4(B)に示されるように、音響整合層3の表面からはみ出しているそれぞれの信号線用引き出し電極42aの一部を絶縁シート10と共に音響整合層3の側面に沿って折り曲げた後、音響整合層3の表面上に絶縁シート10を介して配置されている複数の信号線電極層42の上に、複数の信号線電極層42の全体にわたって延びるだけの大きさを有する有機圧電体41を接合する。複数の信号線電極層42に対向する面とは反対側の有機圧電体41の表面の全面上に接地電極層43が予め形成されており、これにより、複数の有機圧電素子4が配列形成される。
さらに、接地電極層43の上に保護層5を介して音響レンズ6を接合することにより、図1に示した超音波探触子が製造される。
【0024】
なお、図4に示した上記の製造方法では、有機圧電素子4の信号線電極層42と信号線用引き出し電極42aとが互いに一体に接続されていたが、信号線電極層42とは別体の信号線用引き出し電極42aを信号線電極層42に電気的に接続するように構成してもよい。
この場合、例えば、図5(A)に示されるように、絶縁シート10の表面上に複数の信号線用引き出し電極42aを配列形成すると共に、それぞれの信号線用引き出し電極42aの表面に溝形状の接続部位9を形成し、それぞれの信号線用引き出し電極42aの一部が音響整合層3の表面からはみ出すように、絶縁シート10の裏面を音響整合層3の表面上に接合する。
さらに、図5(B)に示されるように、音響整合層3の表面からはみ出しているそれぞれの信号線用引き出し電極42aの一部を絶縁シート10と共に音響整合層3の側面に沿って折り曲げた後、音響整合層3の表面上に絶縁シート10を介して配置されている複数の信号線用引き出し電極42aの上に、予め作製された複数の有機圧電素子4を接合する。
【0025】
ここで、複数の有機圧電素子4は、複数の有機圧電素子4にわたって延在する共通の有機圧電体41と、有機圧電体の一方の面上に配列され且つ互いに分離された複数の信号線電極層42と、有機圧電体の他方の面上に配置され且つ複数の有機圧電素子4にわたって延在する共通の接地電極層43とを有している。さらに、複数の信号線電極層42は、絶縁シート10の表面上に配列形成された複数の信号線用引き出し電極42aと同一のピッチで配列されているものとする。
そして、複数の信号線用引き出し電極42aの上にそれぞれ対応する信号線電極層42が当接するようにして、導電性接着剤等を用いて、複数の有機圧電素子4を複数の信号線用引き出し電極42aおよび絶縁シート10の上に接合する。
【0026】
このように、互いに別体に作製された信号線電極層42と信号線用引き出し電極42aを電気的に接続しつつ、超音波探触子を製造することもできる。この超音波探触子においても、それぞれの信号線用引き出し電極42aの表面に溝形状を有する接続部位9が形成されているので、短時間で信号線用引き出し電極42aと回路基板の接続用配線との間のはんだ付け作業を行うことが可能となる。
【0027】
実施の形態2
図6に、実施の形態2に係る超音波探触子の信号線用引き出し電極42aの近傍の様子を示す。この実施の形態2は、上述した実施の形態1の超音波探触子において、音響整合層3が、複数の信号線用引き出し電極42aに当接する表面上に、互いに隣接する信号線用引き出し電極42aの間に形成された複数の溝31を有するものである。すなわち、隣接する信号線用引き出し電極42aが、溝31を介して互いに分離される。
このような溝31で隣接する信号線用引き出し電極42aを互いに分離することにより、個々の信号線用引き出し電極42aに対してはんだ付け作業がしやすくなり、多数の有機圧電素子4がアレイ状に高密度に配列されていても、有機圧電体41に悪影響を及ぼすことなく、短時間で信号線用引き出し電極42aと回路基板の接続用配線との接続を行うことが可能となる。
【0028】
この実施の形態2に係る超音波探触子は、次のようにして製造することができる。
まず、図7(A)に示されるように、音響整合層3に隣接して犠牲層11を配置する。この犠牲層11は、音響整合層3と同じ厚さを有するものとする。
次に、音響整合層3と犠牲層11の双方にわたるように、これら音響整合層3および犠牲層11の表面の全面上に導電層12を形成した後、音響整合層3と犠牲層11の境界部に直交する方向に導電層12を所定のピッチでダイシングすることにより、音響整合層3および犠牲層11の表面上に、複数の信号線電極層42とこれら複数の信号線電極層42に一体に接続された複数の信号線用引き出し電極42aを形成する。それぞれの信号線電極層42は、音響整合層3の表面上に位置し、それぞれの信号線用引き出し電極42aは、音響整合層3の一部と犠牲層11の表面上に位置している。
【0029】
このとき、導電層12を完全に所定のピッチで分断するため、ダイシングは、音響整合層3の表面部分に到達するまで行われ、それぞれの信号線電極層42および信号線用引き出し電極42aは溝31を介して隣接する信号線電極層42および信号線用引き出し電極42aから分断されることとなる。
さらに、それぞれの信号線用引き出し電極42aの表面に溝形状の接続部位9を形成する。
【0030】
次に、図7(B)に示されるように、犠牲層11を除去し、これにより音響整合層3の表面からはみ出したそれぞれの信号線用引き出し電極42aの一部を音響整合層3の側面に沿って折り曲げた後、図7(C)に示されるように、音響整合層3の表面上に配置されている複数の信号線電極層42の上に複数の信号線電極層42の全体にわたって延びるだけの大きさを有する有機圧電体41を接合する。複数の信号線電極層42に対向する面とは反対側の有機圧電体41の表面の全面上に接地電極層43が予め形成されており、これにより、複数の有機圧電素子4が配列形成される。
このような音響整合層3を、バッキング材1の表面上に配列形成された複数の無機圧電素子2の上に接合し、さらに、複数の有機圧電素子4の接地電極層43の上に保護層5および音響レンズ6を順次接合することにより、隣接する信号線用引き出し電極42aが溝31を介して互いに分離された実施の形態2の超音波探触子が製造される。
【0031】
実施の形態3
上記の実施の形態1および2では、音響整合層3に沿って折り曲げられた信号線用引き出し電極42aの折り曲げ部8に溝形状の接続部位9が形成されていたが、図8に示されるように、音響整合層3の側面に沿っている信号線用引き出し電極42aの先端部13に溝形状の接続部位14を形成し、受信回路を形成する回路基板に接続された接続用配線を、この接続部位14の上に溶融はんだ等により接続してもよい。
また、1条の溝ではなく、複数条の溝を接続部位として形成してもよい。
さらに、溝の代わりに、切り込みまたは貫通孔の形状を有する接続部位を、信号線用引き出し電極42aの折り曲げ部8または先端部13に形成することもできる。
このようにしても、実施の形態1および2と同様に、接続部位の存在により信号線用引き出し電極42aの濡れ性が向上し、毛管現象により溶融はんだが信号線用引き出し電極42aに浸透しやすくなり、短時間で信号線用引き出し電極42aと回路基板の接続用配線との間のはんだ付け作業を行うことが可能となる。
【0032】
実施の形態4
上述した実施の形態1〜3において、図9に示されるように、複数の有機圧電素子4から複数の信号線用引き出し電極42aを交互に反対方向に引き出すこともできる。
このような構成とすれば、互いに隣接する信号線用引き出し電極42aの間隔が拡がるので、個々の信号線用引き出し電極42aに対して、さらに、はんだ付け作業がしやすくなり、特に多数の有機圧電素子4がアレイ状に高密度に配列されている場合でも、有機圧電体41に悪影響を及ぼすことなく、短時間で信号線用引き出し電極42aと回路基板の接続用配線との接続を行うことが可能となる。
【0033】
また、上記の実施の形態1〜4では、流動性を有する電気接続材として溶融はんだを用いて信号線用引き出し電極42aと回路基板の接続用配線との接続を行ったが、溶融はんだの代わりに、例えば、硬化温度が80℃以下の流動性を有する導電ペーストを用いることもできる。この場合にも、信号線用引き出し電極42aに形成された接続部位により、導電ペーストに対する信号線用引き出し電極42aの濡れ性が向上し、毛管現象により導電ペーストが信号線用引き出し電極42aに浸透しやすくなり、短時間で信号線用引き出し電極42aと回路基板の接続用配線との間の接続を行うことが可能となる。
例えば、低温銀ペーストは、50〜60℃程度の硬化温度を有しており、導電ペーストとして低温銀ペーストを用いれば、信号線用引き出し電極42aと回路基板の接続用配線との接続に伴う有機圧電体41への熱伝導量をさらに低減することができる。
このような導電ペーストを使用することにより、配線の修正を容易に行うことができるという利点も生じることとなる。
【符号の説明】
【0034】
1 バッキング材、2 無機圧電素子、3 音響整合層、4 有機圧電素子、5 保護層、6 音響レンズ、7 接続用配線、8 折り曲げ部、9,14 接続部位、10 絶縁シート、11 犠牲層、12 導電層、13 先端部、21 無機圧電体、22 信号線電極層、23 接地電極層、24 充填材、31 溝、41 有機圧電体、42 信号線電極層、43 接地電極層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレイ状に配列された複数の有機圧電素子を有する超音波探触子であって、
複数の有機圧電素子から引き出された複数の信号線用引き出し電極のそれぞれに、流動性を有する電気接続材に対する濡れ性を向上させるための形状を有する接続部位が形成されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記接続部位は、溝、切り込み、貫通孔のいずれかの形状を有する請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記接続部位は、前記信号線用引き出し電極の折り曲げ部または先端部に形成されている請求項1または2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記複数の有機圧電素子にわたって延在する音響整合層をさらに備え、
前記複数の有機圧電素子は、前記複数の有機圧電素子にわたって延在する共通の有機圧電体と、前記有機圧電体の一方の面と前記音響整合層との間に配列され且つ互いに分離された複数の信号線電極層と、前記有機圧電体の他方の面上に配置され且つ前記複数の有機圧電素子にわたって延在する共通の接地電極層とを含み、
前記複数の信号線用引き出し電極は、前記複数の信号線電極層からそれぞれ引き出されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記音響整合層は、前記複数の信号線用引き出し電極に当接する表面上に、互いに隣接する前記信号線用引き出し電極の間に形成された複数の溝を有する請求項4に記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記複数の信号線用引き出し電極は、交互に反対方向に引き出されている請求項4または5に記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記有機圧電体は、ポリフッ化ビニリデンまたはポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体からなる請求項4〜6のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項8】
前記音響整合層を挟んで前記複数の有機圧電素子と反対側にアレイ状に配列された複数の無機圧電素子をさらに備えた請求項1〜7のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項9】
前記電気接続材は、溶融はんだまたは硬化温度が80℃以下の導電ペーストである請求項1〜8のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項10】
音響整合層の上に複数の有機圧電素子がアレイ状に配列された超音波探触子の製造方法であって、
絶縁シートの表面上に複数の信号線用引き出し電極を配列形成すると共にそれぞれの前記信号線用引き出し電極に流動性を有する電気接続材に対する濡れ性を向上させるための形状を有する接続部位を形成し、
それぞれの前記信号線用引き出し電極の一部が前記音響整合層の表面からはみ出すように前記絶縁シートの裏面を前記音響整合層の表面上に接合し、
前記音響整合層の表面からはみ出したそれぞれの前記信号線用引き出し電極の一部を前記絶縁シートと共に前記音響整合層の側面に沿って折り曲げ、
前記音響整合層の表面上に前記絶縁シートを介して配置された前記複数の信号線用引き出し電極の上に前記複数の有機圧電素子を形成する
ことを特徴とする超音波探触子の製造方法。
【請求項11】
音響整合層の上に複数の有機圧電素子がアレイ状に配列された超音波探触子の製造方法であって、
前記音響整合層に隣接して犠牲層を配置し、
前記音響整合層と前記犠牲層の表面上に導電層を形成し、
前記音響整合層と前記犠牲層の境界部に直交する方向に前記導電層を所定のピッチでダイシングすることにより複数の信号線電極層とこれら複数の信号線電極層に一体に接続された複数の信号線用引き出し電極を形成し、
前記音響整合層と前記犠牲層の境界部の上に位置するそれぞれの前記信号線用引き出し電極に流動性を有する電気接続材に対する濡れ性を向上させるための形状を有する接続部位を形成し、
前記犠牲層を除去することにより前記音響整合層の表面からはみ出したそれぞれの前記信号線用引き出し電極の一部を前記音響整合層の側面に沿って折り曲げ、
前記音響整合層の表面上に配置された前記複数の信号線電極層の上に前記複数の有機圧電素子を形成する
ことを特徴とする超音波探触子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−70731(P2013−70731A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210290(P2011−210290)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】