超音波探触子及び超音波画像診断装置、音響レンズの製造方法及び整合層の製造方法
【課題】超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置に関する技術を提供すること。
【解決手段】圧電素子層5、整合層6、音響レンズ9を備えた超音波探触子1において、音響レンズ9はイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含む複数の層からなる積層構造を有し、その音響レンズ9の中央側から、音響レンズ9の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が速くなるように、イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整して形成することとした。
【解決手段】圧電素子層5、整合層6、音響レンズ9を備えた超音波探触子1において、音響レンズ9はイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含む複数の層からなる積層構造を有し、その音響レンズ9の中央側から、音響レンズ9の厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が速くなるように、イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整して形成することとした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子及び超音波画像診断装置、音響レンズの製造方法及び整合層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像診断装置は超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を低侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波画像診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等の特長を有している。そのため、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、及び産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
このような医療用超音波画像診断装置に使用される超音波探触子には、高感度、高解像度の超音波の送受信を行うために、ジルコン酸チタン酸鉛を材料とした圧電素子が一般的に用いられる。こうした超音波探触子としては、単一型探触子であるシングル型または複数の探触子を2次元配置したアレイ型探触子がよく使用される。アレイ型は精細な画像を得ることができるので、診断検査のための医療用画像として広く普及している。
【0004】
そして、高調波信号を用いたハーモニックイメージング診断は、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから標準的な診断方法となりつつある。
ハーモニックイメージングを行うために十分な超音波信号を得るには、基本波よりも周波数が高く減衰しやすい高調波をいかに効率的に受信できる設計とするかが重要になる。
【0005】
そのため、超音波探触子には、超音波のビームを収束させて分解能を向上させる音響レンズが設けられている。音響レンズは被検体(生体)と密着させるので、被検体と密着させやすく、診断に使用する周波数において減衰率の小さい材料が求められている。
従来、このような材料としてシリコーンゴムが主に用いられている。シリコーンゴムは、被検体(生体)より音波の伝播速度(以下、音速ともいう)が遅いので、シリコーンゴム製の音響レンズは、その断面形状の中央部を凸状に形成し、超音波が中央の厚みの厚い部分を通過する時間を、厚みの薄い部分より長くして超音波を収束させるようにしている。
但し、シリコーンゴムは超音波の伝播損失が大きいため、超音波探触子の受信感度を向上させるには難しい材料であった。特に、高周波の伝播損失が大きいため、高調波信号を用いたハーモニックイメージングには不向きな材料であるといえる。
【0006】
そのシリコーンゴムと比較して伝播損失の少ない材料としては、例えばポリメチルペンテンが知られている。ポリメチルペンテンは被検体(生体)より音速が速いので、ポリメチルペンテン製の音響レンズは、その断面形状の中央部を凹状に形成して、超音波を収束させるようにする必要がある。
但し、音響レンズの断面形状が凹状である場合、被検体(生体)の表面との接触性が悪く、音響レンズと被検体(生体)の間に気泡が混入するなどして、鮮明な画像が得られないことがある。
こうした不具合を解消するため、ポリメチルペンテンを用いた凹状の音響レンズの平坦面側を生体接触側、凹面側を圧電素子側とし、その凹状の部分を音響媒体で埋めて空気層を介在させないようにした音響レンズが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、圧電素子から離間するにつれて含有割合が変化するように添加物を添加し、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスを徐々に変化させるようにして超音波の送受信感度を向上させた音響整合レンズを備えた超音波プローブに関する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、レンズの中央部の両側に、その中央部から離間するにつれて超音波の伝播速度が速くなるように複数の層から構成された周辺部を備え、その断面形状を平面状とするように形成されてなる音響レンズに関する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
さらに、超音波探触子には、圧電素子と音響レンズの間での超音波の反射を低減して、超音波の送受信感度を向上させる整合層が設けられている。
従来、整合層は、音響インピーダンスの異なる複数の層を積層してなり、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスを徐々に変化させるようにして超音波の送受信感度を向上させている。
【0010】
そして、複数の材料の混合割合を変化させながら複数の層を成膜して形成した、多層構造の音響整合層に関する技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
また、複数の先細柱状体からなる第一の音響整合材と、複数の先細柱状体の隙間に充填してなる第二の音響整合材とで構成される音響整合層を備えた超音波探触子に関する技術が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−254100号公報
【特許文献2】特開2006−263385号公報
【特許文献3】特開2010−252065号公報
【特許文献4】特開2006−101204号公報
【特許文献5】特開平11−89835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1の場合、ポリメチルペンテン製の音響レンズの凹部を埋める音響媒体がシリコーンゴムであると、その分、伝播損失が大きくなってしまうという問題があった。
【0014】
また、上記特許文献2の場合、音響整合レンズは、圧電素子との間の音響インピーダンスが徐々に変化する音速分布を有しているが、この音響整合レンズはシリコーンを基材とする凸面形状を有しているので、依然として超音波の伝播損失が大きいという問題があった。また、この音響整合レンズはシリコーンを基材としているため、物理的強度の弱いシリコーンが摩耗するなど変形してしまい、そのレンズにおける焦点距離が変化して超音波の収束性が悪化してしまうという問題があった。
【0015】
また、上記特許文献3の場合、周辺部の複数の層に添加する微粒子状の添加剤の量を調整することで、超音波の伝播速度を異ならせているため、超音波が微粒子によって散乱してしまい、超音波の透過率が減少してしまうという問題があった。
【0016】
また、上記特許文献4の場合、音響インピーダンスが比較的生体に近いポーラスアルミナの混合割合を調整することで、多層構造の音響整合層を形成しているが、ポーラスアルミナといったポーラス微粒子の空隙に含まれている微小気泡によって超音波の散乱が生じて、超音波の透過率が減少してしまうという問題があった。
【0017】
また、上記特許文献5の場合、巨視的にはその厚み方向に連続的に音響インピーダンスが変化しているものの、第一の音響整合材と第二の音響整合材の2層構造の整合層であるので、第一の音響整合材と第二の音響整合材の界面で超音波の反射が問題となることがあった。
また、構造上、第一の音響整合材と第二の音響整合材の界面に対して斜めに入射する超音波成分が多くなることで、臨界角を越えて全反射する超音波が増えるために、音響整合層内で音波が多重反射してしまうことがある。そして、超音波が音響整合層を通過する時間にばらつきが生じてパルス幅が長くなったり、伝搬長が長くなったりすることによって、吸収散乱減衰が増大し、超音波の透過率が減少してしまうという問題があった。
さらに、反射しなかった超音波についても、先細柱状体の底部側から第二の音響整合材に入射した超音波と、先細柱状体の先端側から第二の音響整合材に入射した超音波とでは、各音響整合材の音速の違いにより第二の音響整合材の上面部に到達する時間が異なるため、これによってもパルス幅が長くなってしまう問題があった。
【0018】
本発明の目的は、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置に関する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
超音波を送受信する圧電素子部と、
平面状のレンズ面を有し、前記圧電素子部から送信された超音波を前記レンズ面から出射して所定の焦点距離に収束させる音響レンズと、
前記圧電素子部と前記音響レンズの間に配されて、前記圧電素子部と前記音響レンズの間での音響インピーダンスを整合させる整合層と、
を備えた超音波探触子において、
前記音響レンズと前記整合層の少なくとも一方が、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含む複数の層からなる積層構造を有することを特徴とする。
【0020】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超音波探触子において、
前記音響レンズは、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含み、前記レンズ面と略直交する向きに積層された複数の層を備えており、
前記音響レンズの前記複数の層は、前記音響レンズの中央側から、前記音響レンズの厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が速くなるように、前記複数の層における前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成が調整されて形成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の超音波探触子において、
前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整していることを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の超音波探触子において、
前記音響レンズに含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることを特徴とする。
【0023】
請求項5に記載の発明は、
超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項2〜4の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明は、請求項2〜4の何れか一項に記載の超音波探触子における音響レンズの製造方法であって、
前記音響レンズの中央部を成すレンズ基板の両面にそれぞれ、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥して形成した層上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥する工程を繰り返して、前記複数の層を形成することを特徴とする。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の音響レンズの製造方法において、
前記音響レンズにおける複数の層の各層は、イオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液を、交互に塗布して乾燥することによって形成することを特徴とする。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の超音波探触子において、
前記整合層は、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含み、前記音響レンズのレンズ面と略平行に積層された複数の層を備えており、
前記整合層の前記複数の層は、前記圧電素子部と前記音響レンズの間の音響インピーダンスを段階的に変化させて整合させるように、前記複数の層における前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成が調整されて形成されていることを特徴とする。
【0027】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の超音波探触子において、
前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整していることを特徴とする。
【0028】
請求項10に記載の発明は、請求項8又は9に記載の超音波探触子において、
前記整合層に含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることを特徴とする。
【0029】
請求項11に記載の発明は、
超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項8〜10の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項8〜10の何れか一項に記載の超音波探触子における整合層の製造方法であって、
所定の基板上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥して形成した層上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥する工程を繰り返して、前記複数の層を形成することを特徴とする。
【0031】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の整合層の製造方法において、
前記整合層における複数の層の各層は、イオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液を、交互に塗布して乾燥することによって形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】超音波画像診断装置の外観構成を示す斜視図である。
【図2】超音波画像診断装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】超音波探触子を示す概略図である。
【図4】音響レンズを示す概略斜視図である。
【図5】音響レンズが超音波を収束させる原理を示す説明図である。
【図6】音響レンズの製造工程を示す説明図(a)(b)(c)である。
【図7】実施形態2における超音波探触子を示す概略図である。
【図8】実施形態2の比較例4における音響整合層の製造工程を示す説明図(a)(b)(c)である。
【図9】実施形態2の比較例5における音響整合層の製造装置(成膜装置)を示す概略図である。
【図10】実施形態2の比較例5における音響整合層の製造工程を示す説明図(a)(b)(c)である。
【図11】実施形態2の比較例5における音響整合層の製造工程を示す説明図(a)(b)(c)である。
【図12】実施形態2における超音波探触子に関し、各種整合層における周波数毎の振幅変化をdBにて標記したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0035】
(超音波画像診断装置)
超音波画像診断装置は、生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体内で反射した超音波の反射波(エコー)を受信して、その受信波に基づき、被検体内の内部状態を超音波画像として画像化して表示する医療用の装置である。
図1は、本実施形態における超音波画像診断装置の外観構成を示す図である。図2は、本実施形態における超音波画像診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【0036】
超音波画像診断装置100は、図1、図2に示すように、装置本体10と、装置本体10にケーブル17を介して接続された超音波探触子1(1a)を備えている。
装置本体10は、例えば、操作入力部11、送信回路12、受信回路13、画像処理部14、表示部15、制御部16等を備えている。
【0037】
超音波探触子1(1a)は、被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体内で反射した超音波の反射波を受信する。超音波探触子1(1a)は、ケーブル17を介して装置本体10と接続されており、送信回路12、受信回路13と電気的に接続されている。
【0038】
送信回路12は、制御部16の指令により、ケーブル17を介して超音波探触子1(1a)に電気信号を送信し、超音波探触子1(1a)から被検体に向けて超音波を送信させる。
受信回路13は、超音波探触子1(1a)が受信した被検体内からの超音波の反射波に応じた電気信号を、制御部16の指令により、ケーブル17を介して超音波探触子1(1a)から受信する。
【0039】
画像処理部14は、制御部16の指令により、受信回路13が受信した電気信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する。
表示部15は、制御部16の指令により、画像処理部14が画像化した超音波画像を表示する。この表示部15は、例えば、液晶パネルなどから成る。
【0040】
操作入力部11は、スイッチやキーボードなどから構成されており、ユーザが診断開始を指示するコマンドや、被検体の個人情報等のデータを入力するために設けられている。
制御部16は、CPU、メモリなどから構成されており、操作入力部11から入力されたコマンド等に基づき、予めプログラムされた手順に従って超音波画像診断装置100(装置本体10)の各部の制御を行う。
【0041】
(超音波探触子)
次に、超音波画像診断装置100の超音波探触子について説明する。
【0042】
[実施形態1]
超音波画像診断装置100の超音波探触子の実施形態1について説明する。
なお、本実施形態では、単一の圧電素子で超音波の送受信を行う超音波探触子を例として説明するが、本発明はこれに限定されず、複数の圧電素子(例えば、送信用圧電素子と受信用圧電素子)を有する超音波探触子にも適用できる。
また、以降の説明では各種方向を、図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X軸方向はエレベーション方向、Y軸方向は圧電素子の配列方向(走査方向)、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。
【0043】
超音波探触子1は、例えば、図3に示すように、圧電素子層5、整合層6、音響レンズ9等を備えている。
具体的に、超音波探触子1は、バッキング材2の上に第2電極25、圧電素子層5、第1電極56、整合層6、音響レンズ9が順に、Z軸方向に積層された構成を有している。
なお、第2電極25、第1電極56は、他の構成層に比べて極薄い部材(薄膜)であるため、図3中、界面における線状の部材として図示している。
【0044】
圧電素子層5は、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛などの圧電材料から成る圧電素子であり、厚み方向の両面に対を成す第1電極56、第2電極23を備えている。
この圧電素子層5の厚さは要求される送受信周波数により異なるが、概ね100〜2000μm程度である。
【0045】
第1電極56、第2電極23は、図示しないコネクタによってケーブル17と接続されており、ケーブル17を介して送信回路12と接続している。そして、送信回路12から第1電極56と第2電極23に電気信号が入力されると圧電素子が振動し、圧電素子層5からZ軸正方向に超音波を送信するように構成されている。
また、第1電極56、第2電極23は、図示しないコネクタによってケーブル17と接続されており、ケーブル17を介して受信回路13と接続している。そして、圧電素子層5が被検体で反射した超音波の反射波を受信して圧電素子が振動すると、その振動に応じて圧電素子を挟んだ第1電極56と第2電極23の間に電気信号が発生する。第1電極56と第2電極23の間に発生した電気信号は、ケーブル17を介して受信回路13で受信され、画像処理部14で画像化される。
この第1電極56と第2電極23は、圧電素子層5の両面にそれぞれ、金、銀、アルミなどの金属材料の薄膜が、蒸着法やフォトリソグラフィー法により成膜されて形成された電極である。
なお、第1電極56、第2電極23、圧電素子層5が積層された部分が圧電素子部として機能する。
【0046】
整合層6は、例えば、被検体の一つである人体と圧電素子層5の音響インピーダンスの中間の音響インピーダンスを有し、圧電素子層5と音響レンズ9の間での音響インピーダンスの整合を図る機能を有する。整合層6は、例えば、樹脂材料を成型してなる部材である。
この整合層6に用いられる材料は、音響インピーダンスが1.7〜1.8程度で、音速が人体に近い1300m/s以上、2200m/s以下の材料であることが好ましい。例えば、ポリメチルペンテンなどを好適に用いることができる。
【0047】
上記した、第1電極56と第2電極23が形成された圧電素子層5と、整合層6が順に、バッキング材2の上に積層されて、それぞれが接着剤により接着されている。
そして、バッキング材2に圧電素子層5と整合層6を接着した後、整合層6側から超音波放射方向と反対の方向に向かってダイシングが行われて、バッキング材2と第2電極25の接着面からさらにZ軸負方向に100μmの深さの溝部(図示省略)が形成されている。そのダイシングによって形成された溝部(図示省略)に、シリコーン樹脂などから成る充填剤を充填した後、整合層6の上の最上層に音響レンズ9が接着されて積層される。
【0048】
音響レンズ9は、圧電素子層5から送信された超音波を所定の焦点距離に収束させる機能を有する。なお、音響レンズ9は、少なくとも一つの方向(本実施形態ではX軸方向)について超音波を集束させる機能を有していればよく、必ずしも超音波を1点に集束させるものでなくてもよい。
音響レンズ9は、図3、図4に示すように、中央部7と、中央部7の両側にそれぞれ配された周辺部8とから構成されている。
なお、以降の説明では各種方向を、図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X軸方向はエレベーション方向(ダイシングを行う方向)であり、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。
【0049】
音響レンズ9は、図4に示すように、X軸方向の幅がW、Z軸方向の幅(厚さ)がH、Y軸方向の幅がLの直方体形状を呈している。Z軸と直交する配置で対を成す2面のうち、Z軸負方向の下面は、図示しない圧電素子から放射した超音波が入射させるレンズ面であり、Z軸正方向の上面は図示しない被検体に密着させ被検体の内部に超音波を放射させるレンズ面である。このZ軸方向の両面で対を成す2面のレンズ面はともにX−Y面に平行な平面状に形成されている。
【0050】
音響レンズ9は、樹脂材料から成る中央部7と、中央部7の樹脂材料よりも超音波の伝播速度(音速ともいう)が速い樹脂材料から成り、複数の層からなる積層構造を有する周辺部8を備えている。
この音響レンズ9の周辺部8は、レンズ面(X−Y面)と略直交する向きであって、Y−Z面に平行に積層された複数の層を備えている。本実施形態における周辺部8は、例えば、中央部7を挟んだ両側に配され、それぞれY−Z面に平行に積層された20層を有している。
具体的に、周辺部8は、図4に示すように、X軸方向に沿い中央部7側から離間する方向に同じ幅wで形成され、Y−Z平面に平行に積層された層8a〜層8tの20層を有している。なお、図3、図4においては周辺部8の図示を簡略化しており、20層分の図示は省略している。
また、中央部7のX軸方向の幅はW0、中央部7を挟む周辺部8のX軸方向の幅はそれぞれW1、中央部7と周辺部8のZ軸方向の幅(厚さ)はともにHである。
【0051】
この音響レンズ9は、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含むように形成されており、特に、音響レンズ9の周辺部8を形成する樹脂材料に、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含む樹脂材料が用いられている。
音響レンズ9に含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0052】
そして、周辺部8の層8a〜層8tは、中央部7からの距離が遠い層ほど音速の速い樹脂材料から形成されている。
例えば、中央部7が音速V1の樹脂材料から形成されているとすると、周辺部8の層8aは音速V1より速い音速Vaの樹脂材料から成る。また、周辺部8の層8bは音速Vaより速い音速Vbの樹脂材料から成る。同様に繰り返すようにして、周辺部8の層8sは音速Vrより速い音速Vsの樹脂材料から成り、周辺部8の層8tは音速Vsより速い音速Vtの樹脂材料から成る。この最も外側の層8tは音響レンズ9の中で最も速い音速Vtの樹脂材料から成る。
【0053】
ここで、図5に基づき、本発明の音響レンズ9が超音波を収束させる原理を説明する。図5では説明を簡単にするため、周辺部8が全て同じ材料で形成されている場合を例に説明する。
中央部7は音速V1の材料から成り、周辺部8は音速V1より速い音速V2の材料から成るものとする。また、音響レンズ9のZ軸正方向のレンズ面は図示しない容器に貯えられた音速V0の液体に接しているものとする。
【0054】
I2は、中央部7の中央から入射した超音波が、中央部7を通過し液体中を進行する状態を示している。I1は、図中左側の周辺部8の中央から入射した超音波が、周辺部8を通過し液体中を進行し、焦点距離fの位置(点q)でI2と収束する状態を示している。xは音響レンズ7に入射したI1とI2との距離である。
【0055】
周辺部8の音速V2は、中央部7の音速V1より速いので、周辺部8から入射した超音波は、同時に中央部7から入射した超音波より早く液体に到達し、液体中を同心円状に波面が進行する。
周辺部8から入射した超音波と中央部7から入射した超音波の音響レンズ9を通過する時間差t1は下記の式(1)で求めることができる。
【0056】
【数1】
【0057】
図5のmは時間差t1の間に周辺部8から入射した超音波が液体中を進行する距離である。液体の音速をV0とすると、距離mは下記の式(2)で求めることができる。
m=V0×t1 ・・・(2)
図中左側の周辺部8の中央から入射した超音波は、距離mを進行した後、中央部7の中央から入射した超音波と同じ距離fを進行し点qに収束する。焦点距離fはピタゴラスの定理を用いて下記の式(3)で求めることができる。
f=(x2−m2)/2m ・・・(3)
この式(3)に式(1)、式(2)を代入すると、焦点距離fは下記の式(4)で求めることができる。
なお、Hは音響レンズ9のZ軸方向の幅(厚み)、V1は中央部7の音速、V2は周辺部8の音速、V0は液体の音速である。
【0058】
【数2】
【0059】
このように、中央部7と周辺部8の音速の差によって、中央部7から入射した超音波I2と周辺部8から入射した超音波I1を一点(点q)に収束させることができる。
例えば、V0=1530m/sec、V1=2500m/sec、H=2.5mm、x=3mm、V2=2771m/secとすると、焦点距離fはf=30mmである。また、他の値は同じでH=5mmに変更すると、焦点距離fはf=14.9mmになる。
【0060】
そして、図4に示すように、周辺部8が中央部7を挟んだ両側の20層から構成される場合は、中央部7から入射した超音波と平行に周辺部8の各層(8a〜8t)に入射した超音波が一点に収束するよう各層(8a〜8t)の音速を設定する。
例えば、焦点距離fに収束する周辺部8を形成する樹脂材料の音速V2は、下記の式(5)で求めることができる。
【0061】
【数3】
【0062】
例えば、焦点距離f=30mm、V0=1530m/sec、V1=2500m/sec、H=2.5mm、x=3mmとすると、V2=2771m/secである。
同様に式(5)を用いて、同じ焦点距離fに超音波を収束させる層8a〜層8tを形成するための樹脂材料の音速Va〜Vtを求めることができる。
なお、後述するように、音速の異なる樹脂材料は、イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、周辺部8の各層を構成するイオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整することにより得ることができる(表1A、1B参照)。
【0063】
次に、音響レンズ9の製造方法について説明する。
【0064】
まず、音響レンズ9の中央部7となるレンズ基板7aを用意する。
中央部7となるレンズ基板7aは、例えば、図6(a)に示すように、幅L、高さW0、奥行きMの長方体形状を呈する樹脂基板である。このレンズ基板7aの大きさは特に限定されないが、一例としては、L=100mm、M=150mm、W0=2mmのサイズを有する。
中央部7となるレンズ基板7aを形成する材料には、各種樹脂材料を用いることができるが、超音波の減衰特性に関し、周波数5MHzで2dB/cm以下の樹脂材料が好ましい。例えば、メチルペンテン、スチレン、メチルメタクリレート、カーボネート、プロピレンなどの重合体または共重合体を用いることができる。
このレンズ基板7aは、例えば、金型に樹脂材料を注型して作製することができる。
【0065】
次いで、レンズ基板7aの両面に、中央部7(レンズ基板7a)よりも速い音速が得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥させて、樹脂材料を加熱硬化させることで、所定の厚みwを有する層8aを形成する。さらに、層8aよりも速い音速が得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥させて、樹脂材料を加熱硬化させることで、所定の厚みwを有する層8bを形成する。このように各層を形成する工程を繰り返して、図6(b)に示すように、層8sよりも速い音速が得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し加熱硬化させて層8tまで形成する。
なお、レンズ基板7aの一方の面に層8a〜層8tを形成した後、レンズ基板7aを反転させて、そのレンズ基板7aの他方の面に層8a〜層8tを形成するようにしてもよく、また、レンズ基板7aの反転を、樹脂層(層8a〜層8t)を1層形成する毎に行い、レンズ基板7aの両面に対し層8a〜層8tを1層ずつ順に形成するようにしてもよい。
【0066】
次いで、図6(b)に示したような、レンズ基板7aの両面に層8a〜層8tが形成された積層体から音響レンズ9を切り出す。この際、レンズ面の間隔が所定の厚みHとなるように、各層(8a〜8t)を積層した面に直交する面(X−Y面)に沿い、積層体をX軸方向にダイシングする切断を行って、図6(c)に示すように、音響レンズ9を切り出す。その切り出した切断面を研磨して音響レンズ9が形成される。この図6(c)に示す音響レンズ9は、図4に示した音響レンズ9と同一形状である。
なお、音響レンズ9を切り出す切断法としては、ダイシングソー、レーザーカッター、超音波カッター、高圧水カッターなどを用いることができる。
【0067】
このように、音響レンズ9は、被検体と接触する面を被検体に密着させやすい平面形状にしたレンズ面を有するとともに、超音波の伝播速度(音速)が異なり中央部7からX軸方向に離間した層ほど音速が速い複数の層(8a〜8t)を有する周辺部8を備えた構成をとることにより、音響レンズ9のレンズ面から放射する超音波を所定の距離に収束させることを可能にしている。
【0068】
また、この音響レンズ9は、シリコーンゴムから成り凸形状を有する音響レンズに比べて、被検体と接触するレンズ面が磨耗しにくい。それにより、超音波探触子1を長期に亘って使用した場合でも、音響レンズ9のレンズ面が徐々に磨耗し、フォーカス位置が当初の設計からずれてしまうという問題が生じにくい。
【0069】
また、この音響レンズ9に用いる樹脂材料は、シリコーンゴムに比べてガスや液体を透過しにくいので、音響レンズ9が被検体と接するレンズ面から消毒用のガスや液体などが侵入して、超音波探触子1の特性が悪化しまうという問題が生じにくい。
【0070】
また、この音響レンズ9に用いる樹脂材料は、シリコーンゴムに比べて伝播損失の少ない樹脂材料であるので、減衰の少ない音響レンズ9を作製することができる。特に、周波数5MHzで2dB/cm以下の樹脂材料を用いることにより、高調波信号を利用するアレイ型超音波探触子に好適な音響レンズ9を作製することができる。
【0071】
次に、具体的な実施例1〜3を挙げて、本発明に係る超音波探触子1における音響レンズ9の製造方法について説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
まず、音響レンズ9の周辺部8の各層(8a〜8t)を形成するための各種塗工液(1)〜(6)を以下のように調整する。なお、表1A、表1Bに、周辺部8の各層(8a〜8t)を形成するための各種塗工液の配合等の具体例を示している。
【0073】
(1)イオン性ポリマー水溶液(P−1)
ポリエチレン製ビーカー中に、数平均分子量25万のポリアクリル酸を31.4g含む水溶液500ccと、NaOHを20g含む水溶液250ccを投入し、十分に撹拌・溶解して、イオン性ポリマー水溶液(P−1)を得た。
【0074】
(2)イオン性ポリマー水溶液(P−2)
ポリエチレン製ビーカー中に、数平均分子量25万のポリアクリル酸を31.4g含む水溶液500ccと、水250ccを投入し、十分に撹拌・溶解して、イオン性ポリマー水溶液(P−2)を得た。
【0075】
(3)イオン性ポリマー水溶液に混入して用いる金属化合物コロイド分散溶液(M−1)
30%水分散ジルコアニゾル(ナノユースZR−30BF;日産化学社製)520gに水を加えて総量500ccとして、金属化合物コロイド分散溶液(M−1)を得た。
【0076】
(4)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−1)
64gのBaCl2・2H2Oを水に溶解し、総量500ccとして、架橋剤溶液(I−1)を得た。
【0077】
(5)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−2)
23gのAlCl3を水に溶解し、総量500ccとして、架橋剤溶液(I−2)を得た。
【0078】
(6)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−3)
15.5gのエチレンジアミンを水に溶解し、総量500ccとして、架橋剤溶液(I−3)を得た。
【0079】
【表1A】
【0080】
【表1B】
【0081】
[実施例1]
常法の注型加工法によって、100mm×150mm、厚さ2mmのスチレン/ジビニルベンゼン(95/5;重量比)の樹脂製基板を形成し、音響レンズ9の中央部7となるレンズ基板7aを得た。
このレンズ基板7aの両面に、まず第1層目としての層8aを形成した。
具体的には、レンズ基板7a上に、乾燥後の厚みが100μmとなるようにイオン性ポリマー水溶液(P−2)をコーティングした後、120℃で乾燥し、更にこの上に、ウェット厚が100μmとなるように架橋剤溶液(I−3)を塗布し、120℃で乾燥を行うことでイオン架橋を行い、加熱硬化させた層8aを形成した。その後、第1層目の層8aを充分水洗し、未反応物および副生成した塩を除去した。
続いて、第1層目の層8a上に、第2層目の層8bを第1層目と同様に形成し、第2層目以降の各層(8b〜8t)を順次形成した。なお、第1層目の層8aから第20層目の層8tを形成するために用いるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせは、表1A、表1Bに示している。この表中における括弧内の数値は、各溶液の体積比を表している。また、この表中で上下2段に区切られているものは、その何れの溶液を用いてもよい。
【0082】
こうしてレンズ基板7aの両面に層8a〜層8tを形成した積層体を、5.5mm厚で切断し、その切断面を研磨することで、厚さ5mm、100×6mmの音響レンズ9を得た。この音響レンズ9の焦点距離は、30mmであった。
【0083】
[実施例2]
実施例1と同様に、表1A、表1Bに示す実施例2におけるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせで、レンズ基板7aの両面に層8a〜層8tを形成し、その積層体を4mm厚で切断し、その切断面を研磨することで、厚さ3.5mm、100×6mmの音響レンズ9を得た。実施例2の音響レンズ9の焦点距離は、30mmであった。
【0084】
[実施例3]
実施例1と同様に、表1A、表1Bに示す実施例3におけるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせで、レンズ基板7aの両面に層8a〜層8tを形成し、その積層体を3mm厚で切断し、その切断面を研磨することで、厚さ2.5mm、100×6mmの音響レンズ9を得た。実施例3の音響レンズ9の焦点距離は、30mmであった。
【0085】
[比較例1]
シリコーンゴムを常法により成型して、曲率半径10mmの凸面形状のレンズ面を有し、焦点距離30mmの単一材料構成からなる音響レンズを得た。
【0086】
[比較例2]
周辺部の積層総数を、特許文献3「特開2010−252065号公報」の表2に示す通りに10層とするとともに、1層毎の乾燥後の厚みを200μmとした以外は実施例1と同様にして積層体を得て、これを切断、研磨することによって、厚さ2.5mmの音響レンズを得た。
【0087】
以上のように形成した実施例1〜3の音響レンズ9の音波減衰特性は各々、6.8dB/15MHz、6.1dB/15MHz、6.8dB/15MHzであった。
これに対し、同一の焦点距離を有する比較例1、比較例2の音響レンズの減衰特性は、21.3dB/15MHz、8.3dB/15MHzであったので、本発明の音響レンズ9は、優れた低減衰特性を有していることがわかる。
【0088】
また、音響レンズのレンズ面を、不織布ワイパー(ベンコット;旭化成社製)で50gの荷重を掛けて、5000回の摩擦試験を行った後、再度焦点距離を測定したところ、本発明の実施例1〜3の音響レンズ9の焦点距離に変化が無かったことに対し、シリコーンゴム製の音響レンズ(従来品)は摩耗が生じたことに起因して、焦点距離が30mmから41mmに変化してしまった。
【0089】
このように、本発明の音響レンズ9は、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好であり、高い周波数でも送受信可能であって耐久性が高いという優れた性能を有しているので、超音波探触子1及び超音波画像診断装置100に関する技術を向上させることができる。
【0090】
[実施形態2]
超音波画像診断装置100の超音波探触子の実施形態2について説明する。なお、実施形態1と同様の構成については、同符号を付して説明を割愛する。
【0091】
超音波探触子1aは、例えば、図7に示すように、圧電素子層5、整合層66、音響レンズ99等を備えている。
具体的に、超音波探触子1aは、バッキング材2の上に第2電極25、圧電素子層5、第1電極56、整合層66、音響レンズ99が順に、Z軸方向に積層された構成を有している。
なお、音響レンズ99は、実施形態1の音響レンズ9と同様のものであっても、その他周知の音響レンズであってもよい。また、超音波探触子1aは、場合によって音響レンズのない構成をとることも可能である。本発明の実施例においては、整合層の効果をより明確化するため、音響レンズのない構成にて説明するが、本発明はこの構成に限定されない。
【0092】
整合層66は、例えば、被検体の一つである人体と圧電素子層5の音響インピーダンスの中間の音響インピーダンスを有し、圧電素子層5と音響レンズ99の間での音響インピーダンスの整合を図る機能を有する。
特に、整合層66は、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含むように形成されており、複数の層からなる積層構造を有している。
整合層66に含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0093】
具体的に、整合層66は、レンズ面(X−Y面)と略平行に積層された複数の層を備えている。本実施形態における整合層66は、例えば、圧電素子層5側の層6aから音響レンズ99側の層6tまでが積層された20層を有している。なお、図7においては整合層66の図示を簡略化しており、20層分の図示は省略している。
【0094】
この整合層66の複数の層(6a〜6t)は、圧電素子層5と音響レンズ99の間の音響インピーダンスを段階的に変化させて整合させるようになっている。
つまり、圧電素子層5側の層6aは、比較的圧電素子層5の音響インピーダンスに近い値の音響インピーダンスを有しており、音響レンズ99側の層6tは、比較的音響レンズ99の音響インピーダンスに近い値の音響インピーダンスを有している。そして、整合層66の層6aから層6tにかけて、音響インピーダンスの値が段階的に変化するようにして、その整合が図られている。
【0095】
例えば、整合層66の層6a〜層6tは、下層側である圧電素子層5側の層6aほど、重く、硬い樹脂材料で形成されている。
なお、後述するように、比重や硬度が異なる樹脂材料は、イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、整合層66の各層を構成するイオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整することにより得ることができる(表2A、2B参照)。
【0096】
次に、整合層66の製造方法について説明する。
【0097】
整合層66を形成するための所定の作業用基板(例えば、ガラス基板)上に、比較的高い硬度であって圧電素子層5の音響インピーダンスに近い値の音響インピーダンスが得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥させて、樹脂材料を加熱硬化させることで、所定の厚みを有する層6aを形成する。さらに、層6aよりも低い硬度が得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥させて、樹脂材料を加熱硬化させることで、所定の厚みを有する層6bを形成する。このように各層を形成する工程を繰り返して、層6sよりも低い硬度が得られ、音響レンズ99の音響インピーダンスに近い値の音響インピーダンスが得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し加熱硬化させて層6tまで形成する。
なお、層6tから層6aの順で積層して整合層66を作製するようにしてもよい。
【0098】
次いで、層6a〜層6tが形成された積層体から整合層66を所定のサイズに切り出す。その切り出した切断面を研磨して整合層66が形成される。
なお、整合層66を切り出す切断法としては、ダイシングソー、レーザーカッター、超音波カッター、高圧水カッターなどを用いることができる。
【0099】
次に、具体的な実施例4〜6を挙げて、本発明に係る超音波探触子1aにおける整合層66の製造方法について説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0100】
まず、整合層66の各層(6a〜6t)を形成するための各種塗工液(7)〜(12)を以下のように調整する。なお、表2A、表2Bに、整合層66の各層(6a〜6t)を形成するための各種塗工液の配合等の具体例を示している。
【0101】
(7)イオン性ポリマー水溶液(P−1)
ポリエチレン製ビーカー中に、数平均分子量25万のポリアクリル酸を31.4g含む水溶液1000ccと、NaOHを20g含む水溶液500ccを投入し、十分に撹拌・溶解して、イオン性ポリマー水溶液(P−1)を得た。
【0102】
(8)イオン性ポリマー水溶液(P−2)
ポリエチレン製ビーカー中に、数平均分子量25万のポリアクリル酸を31.4g含む水溶液1000ccと、水500ccを投入し、十分に撹拌・溶解して、イオン性ポリマー水溶液(P−2)を得た。
【0103】
(9)イオン性ポリマー水溶液に混入して用いる金属化合物コロイド分散溶液(M−1)
30%水分散ジルコアニゾル(ナノユースZR−30BF;日産化学社製)520gに水を加えて総量1000ccとして、金属化合物コロイド分散溶液(M−1)を得た。
【0104】
(10)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−1)
64gのBaCl2・2H2Oを水に溶解し、総量1000ccとして、架橋剤溶液(I−1)を得た。
【0105】
(11)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−2)
23gのAlCl3を水に溶解し、総量1000ccとして、架橋剤溶液(I−2)を得た。
【0106】
(12)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−3)
15.5gのエチレンジアミンを水に溶解し、総量1000ccとして、架橋剤溶液(I−3)を得た。
【0107】
【表2A】
【0108】
【表2B】
【0109】
[実施例4]
ガラス基板上に、まず第1層目としての層6aを形成した。
具体的には、ガラス基板の上面に、ウェット厚が100μmとなるようにイオン性ポリマー水溶液(P−1)をコーティングした後、120℃で乾燥し、更にこの上に、ウェット厚が100μmとなるように架橋剤溶液(I−2)を塗布し、120℃で乾燥を行うことでイオン架橋を行い、加熱硬化させた層6aを形成した。その後、第1層目の層6aを充分水洗し、未反応物および副生成した塩を除去した。
続いて、第1層目の層6a上に、第2層目の層6bを第1層目と同様に形成し、第2層目以降の各層(6b〜6t)を順次形成した。なお、第1層目の層6aから第20層目の層6tを形成するために用いるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせは、表2A、表2Bに示している。この表中における括弧内の数値は、各溶液の体積比を表している。また、この表中で上下2段に区切られているものは、その何れの溶液を用いてもよい。
【0110】
こうして層6a〜層6tを積層して形成した積層体を所定のサイズに切断し、その切断面を研磨することで、実施例4の整合層66を得た。
【0111】
[実施例5]
実施例4と同様に、表2A、表2Bに示す実施例5におけるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせで、層6a〜層6tを形成し、その積層体を所定のサイズに切断し、その切断面を研磨することで、実施例5の整合層66を得た。
【0112】
[実施例6]
実施例4と同様に、表2A、表2Bに示す実施例6におけるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせで、層6a〜層6tを形成し、その積層体を所定のサイズに切断し、その切断面を研磨することで、実施例6の整合層66を得た。
【0113】
[比較例3]
比較例3として、従来公知技術によって音響整合層を作製した。
常法により厚さ61μmの充填エポキシ樹脂(音響インピーダンス:8.8MRayls)と、厚さ72μmのポリウレタン(音響インピーダンス:2.3MRayls)の整合層材料を接着して、2層構成からなる音響整合層を得た。
【0114】
[比較例4]
比較例4として、特開平11−89835号公報(特許文献5)に記載の方法によって音響整合層を作製した。
まず、図8(a)に示すように、第一の音響整合材で多数の先細柱状体60を作製した。第一の音響整合材としては音響インピーダンスが8.8MRaylsの充填エポキシ樹脂を用いた。この先細柱状体60は、図8(a)に示すように、圧電素子層5側となる面の断面積が大きく且つ被検体側(音響レンズ99側)となる面の断面積が小さく形成されるとともに、超音波の波長よりも短い間隔でマトリクス状に多数配列するように形成した。特に、多数の先細柱状体60は、母線が指数関数で表される錐状となるように形成した。なお、この先細柱状体60は、ベース部材600の上面を機械加工により研削して形成した。
次いで、図8(b)に示すように、第一の音響整合材で作製された多数の先細柱状体60間の隙間に、第二の音響整合材69を充填させて固化した。第二の音響整合材69としては音響インピーダンスが2.3MRaylsのポリウレタンを用いた。これにより、図8(b)に示すように、第一の音響整合材で作製された多数の先細柱状体60間の隙間が総て第二の音響整合材69で埋められる。
次いで、第一の音響整合材で作製された多数の先細柱状体60間の隙間を総て第二の音響整合材69で埋めたものを、厚さ3mmに仕上げて音響整合層を完成させた。なお、図8(c)に示すように、ベース部材600の下面を削るなどして所定の厚さに仕上げ、第一の音響整合材と第二の音響整合材との複合材から成る音響整合層を得た。
【0115】
[比較例5]
比較例5として、特開2006−101204号公報(特許文献4)に記載の方法によって音響整合層を作製した。この比較例5において製造される音響整合層は、対象となる振動子の圧電素子部(圧電素子層)上に形成した。
図9は、比較例5の音響整合層を製造する際に用いられる成膜装置の構成を示す模式図である。この成膜装置は、原料の粉体(成膜粉)を下層に吹き付けて堆積させるエアロゾルデポジション(AD)法を用いている。なお、この成膜装置の詳細は特許文献4に記載されている。
まず、図10(a)に示すように、PZT部材61に電極層62を形成したものを用意し、電極層62側を成膜面として、図9に示した成膜装置の基板ステージ23にセットする。PZT部材61としては、PZT板材を用いた。また、電極層62は、PZT部材61上にスパッタリングにより白金の導電膜を成膜することによって形成した。なお、電極層62の厚さは200nmとした。
次いで、図9に示した成膜装置において、音響整合層を作製するための2種類の成膜粉のうち、一方(材料A)をエアロゾル生成室24aに配置し、他方(材料B)をエアロゾル生成室24bに配置した。材料AとしてPZTを用い、材料Bとしてポーラスアルミナを用いた。さらに、エアロゾル生成室24a及び24bにおいて、エアロゾルの生成をそれぞれ開始した。
次いで、制御弁29a及び29bを開いてサイドノズル30a及び30bからエアを噴出させるとともに、エアロゾル生成室24a及び24bにおいて生成されたエアロゾルを噴射ノズル26a及び26bにそれぞれ導入して噴射させた。それにより、図10(a)に示すように、噴射ノズル26aから噴射されたエアロゾルと、噴射ノズル26bから噴射されたエアロゾルとは、サイドノズル30a及び30bから噴出するエアによってそれぞれ擾乱した。
次いで、制御弁29aを閉じることにより、図10(b)に示すように、噴射ノズル26aから噴射されるエアロゾルの噴射圧力を回復させた。そして、基板ステージ23を移動させながら、エアロゾルビーム33aを電極層62上に吹き付けることにより、PZTの層64aを形成した。
次いで、制御弁29aを所定の量だけ開くとともに、制御弁29bを所定の量だけ閉じることにより、図10(c)に示すように、エアロゾルビーム33a及び33bの噴射圧力を調整した。それにより、成膜面において、PZTとポーラスアルミナとが混合されて堆積する。さらに、基板ステージ23を移動させることにより、層64a上に所定の割合で混合されたPZT及びポーラスアルミナを含む層64bを形成した。
次いで、制御弁29aを徐々に開くとともに、制御弁29bを徐々に閉じることにより、図11(a)(b)に示すように、エアロゾルビーム33aの噴射圧力を次第に抑制し、反対に、エアロゾルビーム33bの噴射圧力を次第に回復させた。それにより、PZTとポーラスアルミナが所定の割合で混合された層64c及び64dを順次形成した。層64b〜64dにおいては、PZTの混合割合が次第に減少し、それに伴い、ポーラスアルミナの混合割合が次第に増加した。
次いで、制御弁29aを全開にすると共に、制御弁29bを完全に閉じることにより、図11(c)に示すように、噴射ノズル26aから噴射されるエアロゾルを遮断し、エアロゾルビーム33bの噴射圧力を回復させた。それにより、層64d上に、ポーラスアルミナの層64eを形成した。
この比較例5においては、上記の要領により一層の厚さを10μmとして音響整合層を35層で構成し、例えば、その音響インピーダンスを、振動子(PZT)に近い方から4層目において約25MRayl、10層目において約15MRayl、22層目において約5MRayl、35層目において約2MRaylとなるように変化させた。
所望の音響インピーダンスを得るための33aと33bの噴射圧力比Pa、Pbは、各層所望の音響インピーダンス値Zxを用い、下記の式(6)と式(7)により算出して調整し、混合割合M:Nを変化させた。
【0116】
【数4】
【0117】
[比較例6]
比較例6として、樹脂液を塗布して複数の層を積層する方法によって音響整合層を作製した。
まず、スチレンとジビニルベンゼンに、添加剤としての酸化亜鉛と熱重合開始剤とを、表3に示した質量比で混合した樹脂液1〜7を作製した。
なお、表3に示した樹脂液1〜7に含まれる添加剤の質量比は、所望する音響インピーダンスが得られるように、添加剤を母材の樹脂材料に添加する体積割合を求め、質量比に換算して求めた。
ここで用いた酸化亜鉛は、親油性酸化亜鉛ナノ微粒子(デグサ社製VP AdNano Z805)であり、平均粒径は250nmである。また、熱重合開始剤はアゾビスイソブチロニトリルを用いた。
【0118】
【表3】
【0119】
次いで、エポキシ樹脂基材上に樹脂液1を厚さ3μmになるように塗布し、直ちに強熱乾燥して架橋強化し、樹脂液1の塗布物からなる層を形成した。同様に、樹脂液2〜7についても同じ手順で塗布及び加熱硬化を行って、7層の音響整合層を得た。
【0120】
上記のようにして得られた、実施例4〜6および比較例3〜6の整合層(音響整合層)について、機能評価した。
まず、超音波探触子1a(図7参照)における圧電素子層5の厚みを変化させ、中心周波数が1〜20MHzまで1MHz毎に異なる整合層のない振動子を20種得た。
得られた20種の振動子の各々についてその中心周波数と合致する周波数の正弦波1波で駆動した際の送受信強度(振幅比)と20dBパルス幅を測定し、これを基準値とした。
その後、これら20種の振動子上に、各整合層(実施例4〜6および比較例3〜6の整合層)を設置して、同様の方法にて送受信強度と20dBパルス幅を測定し、整合層を設置していない振動子(基準値)からの変化率を評価値とした。
各整合層の周波数毎の振幅変化をdBにて標記したグラフを図12に示す。また、各整合層のパルス幅変化率の平均値(20種の振動子でのパルス幅変化率平均値)を表4に示す。
【0121】
【表4】
【0122】
比較例3では、周波数変化による振幅比増減が激しく広帯域の超音波探触子を得ることが難しい上に、整合層部材を中心周波数に応じて各々用意する必要があることがわかる。
比較例4では、周波数変化での振幅比増減が少なく、比較的広帯域の超音波探触子を得ることが可能であるが、整合層の通過時間が整合層内で一定でないため、パルス幅が大きく伸びてしまい、分解能が劣化してしまう。
比較例5では、ポーラスアルミナを用いるために整合層内に微小な気泡が残存し、低周波領域では比較的良好な特性を示すものの、高周波領域では気泡による超音波の散乱が問題となり急激に特性が劣化してしまうため、適用範囲が限定されてしまう。
比較例6では、比較例3〜5の様な大きな問題はないものの、音響インピーダンスを変化させるために用いている微粒子による超音波の散乱減衰の影響により、高周波領域での特性は必ずしも充分ではなかった。
【0123】
これに対し実施例4〜6では、低周波から高周波までほぼ一定して振幅比が増加している上に、パルス幅が伸びてしまうこともなく、良好な特性を有していることがわかる。これにより中心周波数が異なる超音波探触子1aを作製する場合でも同一の整合層を用いることができ、なおかつ周波数帯域の広い超音波探触子1aを得ることが可能となる。
【0124】
このように、本発明の整合層66は、振動子(圧電素子層5)で生じた超音波の損失を、高い周波数領域にまで広い帯域にわたって非常に小さくして、高い透過率とすることができるという優れた性能を有しているので、超音波探触子1a及び超音波画像診断装置100に関する技術を向上させることができる。
【0125】
以上のように、本発明(実施形態1、実施形態2)によれば、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置を得ることができる。
【0126】
なお、本発明の適用は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0127】
1 超音波探触子
1a 超音波探触子
5 圧電素子層(圧電素子部
6 整合層
7 中央部
7a レンズ基板
8 周辺部
8a〜8t 層
9 音響レンズ
66 整合層
6a〜6t 層
99 音響レンズ
100 超音波画像診断装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子及び超音波画像診断装置、音響レンズの製造方法及び整合層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波画像診断装置は超音波パルス反射法により、体表から生体内の軟組織の断層像を低侵襲に得る医療用画像機器である。この超音波画像診断装置は、他の医療用画像機器に比べ、小型で安価、X線などの被爆がなく安全性が高い、ドップラー効果を応用して血流イメージングが可能等の特長を有している。そのため、循環器系(心臓の冠動脈)、消化器系(胃腸)、内科系(肝臓、膵臓、脾臓)、泌尿科系(腎臓、膀胱)、及び産婦人科系などで広く利用されている。
【0003】
このような医療用超音波画像診断装置に使用される超音波探触子には、高感度、高解像度の超音波の送受信を行うために、ジルコン酸チタン酸鉛を材料とした圧電素子が一般的に用いられる。こうした超音波探触子としては、単一型探触子であるシングル型または複数の探触子を2次元配置したアレイ型探触子がよく使用される。アレイ型は精細な画像を得ることができるので、診断検査のための医療用画像として広く普及している。
【0004】
そして、高調波信号を用いたハーモニックイメージング診断は、従来のBモード診断では得られない鮮明な診断像が得られることから標準的な診断方法となりつつある。
ハーモニックイメージングを行うために十分な超音波信号を得るには、基本波よりも周波数が高く減衰しやすい高調波をいかに効率的に受信できる設計とするかが重要になる。
【0005】
そのため、超音波探触子には、超音波のビームを収束させて分解能を向上させる音響レンズが設けられている。音響レンズは被検体(生体)と密着させるので、被検体と密着させやすく、診断に使用する周波数において減衰率の小さい材料が求められている。
従来、このような材料としてシリコーンゴムが主に用いられている。シリコーンゴムは、被検体(生体)より音波の伝播速度(以下、音速ともいう)が遅いので、シリコーンゴム製の音響レンズは、その断面形状の中央部を凸状に形成し、超音波が中央の厚みの厚い部分を通過する時間を、厚みの薄い部分より長くして超音波を収束させるようにしている。
但し、シリコーンゴムは超音波の伝播損失が大きいため、超音波探触子の受信感度を向上させるには難しい材料であった。特に、高周波の伝播損失が大きいため、高調波信号を用いたハーモニックイメージングには不向きな材料であるといえる。
【0006】
そのシリコーンゴムと比較して伝播損失の少ない材料としては、例えばポリメチルペンテンが知られている。ポリメチルペンテンは被検体(生体)より音速が速いので、ポリメチルペンテン製の音響レンズは、その断面形状の中央部を凹状に形成して、超音波を収束させるようにする必要がある。
但し、音響レンズの断面形状が凹状である場合、被検体(生体)の表面との接触性が悪く、音響レンズと被検体(生体)の間に気泡が混入するなどして、鮮明な画像が得られないことがある。
こうした不具合を解消するため、ポリメチルペンテンを用いた凹状の音響レンズの平坦面側を生体接触側、凹面側を圧電素子側とし、その凹状の部分を音響媒体で埋めて空気層を介在させないようにした音響レンズが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、圧電素子から離間するにつれて含有割合が変化するように添加物を添加し、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスを徐々に変化させるようにして超音波の送受信感度を向上させた音響整合レンズを備えた超音波プローブに関する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
また、レンズの中央部の両側に、その中央部から離間するにつれて超音波の伝播速度が速くなるように複数の層から構成された周辺部を備え、その断面形状を平面状とするように形成されてなる音響レンズに関する技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
さらに、超音波探触子には、圧電素子と音響レンズの間での超音波の反射を低減して、超音波の送受信感度を向上させる整合層が設けられている。
従来、整合層は、音響インピーダンスの異なる複数の層を積層してなり、圧電素子と音響レンズとの間の音響インピーダンスを徐々に変化させるようにして超音波の送受信感度を向上させている。
【0010】
そして、複数の材料の混合割合を変化させながら複数の層を成膜して形成した、多層構造の音響整合層に関する技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0011】
また、複数の先細柱状体からなる第一の音響整合材と、複数の先細柱状体の隙間に充填してなる第二の音響整合材とで構成される音響整合層を備えた超音波探触子に関する技術が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平6−254100号公報
【特許文献2】特開2006−263385号公報
【特許文献3】特開2010−252065号公報
【特許文献4】特開2006−101204号公報
【特許文献5】特開平11−89835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1の場合、ポリメチルペンテン製の音響レンズの凹部を埋める音響媒体がシリコーンゴムであると、その分、伝播損失が大きくなってしまうという問題があった。
【0014】
また、上記特許文献2の場合、音響整合レンズは、圧電素子との間の音響インピーダンスが徐々に変化する音速分布を有しているが、この音響整合レンズはシリコーンを基材とする凸面形状を有しているので、依然として超音波の伝播損失が大きいという問題があった。また、この音響整合レンズはシリコーンを基材としているため、物理的強度の弱いシリコーンが摩耗するなど変形してしまい、そのレンズにおける焦点距離が変化して超音波の収束性が悪化してしまうという問題があった。
【0015】
また、上記特許文献3の場合、周辺部の複数の層に添加する微粒子状の添加剤の量を調整することで、超音波の伝播速度を異ならせているため、超音波が微粒子によって散乱してしまい、超音波の透過率が減少してしまうという問題があった。
【0016】
また、上記特許文献4の場合、音響インピーダンスが比較的生体に近いポーラスアルミナの混合割合を調整することで、多層構造の音響整合層を形成しているが、ポーラスアルミナといったポーラス微粒子の空隙に含まれている微小気泡によって超音波の散乱が生じて、超音波の透過率が減少してしまうという問題があった。
【0017】
また、上記特許文献5の場合、巨視的にはその厚み方向に連続的に音響インピーダンスが変化しているものの、第一の音響整合材と第二の音響整合材の2層構造の整合層であるので、第一の音響整合材と第二の音響整合材の界面で超音波の反射が問題となることがあった。
また、構造上、第一の音響整合材と第二の音響整合材の界面に対して斜めに入射する超音波成分が多くなることで、臨界角を越えて全反射する超音波が増えるために、音響整合層内で音波が多重反射してしまうことがある。そして、超音波が音響整合層を通過する時間にばらつきが生じてパルス幅が長くなったり、伝搬長が長くなったりすることによって、吸収散乱減衰が増大し、超音波の透過率が減少してしまうという問題があった。
さらに、反射しなかった超音波についても、先細柱状体の底部側から第二の音響整合材に入射した超音波と、先細柱状体の先端側から第二の音響整合材に入射した超音波とでは、各音響整合材の音速の違いにより第二の音響整合材の上面部に到達する時間が異なるため、これによってもパルス幅が長くなってしまう問題があった。
【0018】
本発明の目的は、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置に関する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
超音波を送受信する圧電素子部と、
平面状のレンズ面を有し、前記圧電素子部から送信された超音波を前記レンズ面から出射して所定の焦点距離に収束させる音響レンズと、
前記圧電素子部と前記音響レンズの間に配されて、前記圧電素子部と前記音響レンズの間での音響インピーダンスを整合させる整合層と、
を備えた超音波探触子において、
前記音響レンズと前記整合層の少なくとも一方が、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含む複数の層からなる積層構造を有することを特徴とする。
【0020】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の超音波探触子において、
前記音響レンズは、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含み、前記レンズ面と略直交する向きに積層された複数の層を備えており、
前記音響レンズの前記複数の層は、前記音響レンズの中央側から、前記音響レンズの厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が速くなるように、前記複数の層における前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成が調整されて形成されていることを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の超音波探触子において、
前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整していることを特徴とする。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の超音波探触子において、
前記音響レンズに含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることを特徴とする。
【0023】
請求項5に記載の発明は、
超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項2〜4の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする。
【0024】
請求項6に記載の発明は、請求項2〜4の何れか一項に記載の超音波探触子における音響レンズの製造方法であって、
前記音響レンズの中央部を成すレンズ基板の両面にそれぞれ、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥して形成した層上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥する工程を繰り返して、前記複数の層を形成することを特徴とする。
【0025】
請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の音響レンズの製造方法において、
前記音響レンズにおける複数の層の各層は、イオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液を、交互に塗布して乾燥することによって形成することを特徴とする。
【0026】
請求項8に記載の発明は、請求項1に記載の超音波探触子において、
前記整合層は、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含み、前記音響レンズのレンズ面と略平行に積層された複数の層を備えており、
前記整合層の前記複数の層は、前記圧電素子部と前記音響レンズの間の音響インピーダンスを段階的に変化させて整合させるように、前記複数の層における前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成が調整されて形成されていることを特徴とする。
【0027】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の超音波探触子において、
前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整していることを特徴とする。
【0028】
請求項10に記載の発明は、請求項8又は9に記載の超音波探触子において、
前記整合層に含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることを特徴とする。
【0029】
請求項11に記載の発明は、
超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項8〜10の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする。
【0030】
請求項12に記載の発明は、請求項8〜10の何れか一項に記載の超音波探触子における整合層の製造方法であって、
所定の基板上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥して形成した層上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥する工程を繰り返して、前記複数の層を形成することを特徴とする。
【0031】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の整合層の製造方法において、
前記整合層における複数の層の各層は、イオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液を、交互に塗布して乾燥することによって形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】超音波画像診断装置の外観構成を示す斜視図である。
【図2】超音波画像診断装置の内部構成を示すブロック図である。
【図3】超音波探触子を示す概略図である。
【図4】音響レンズを示す概略斜視図である。
【図5】音響レンズが超音波を収束させる原理を示す説明図である。
【図6】音響レンズの製造工程を示す説明図(a)(b)(c)である。
【図7】実施形態2における超音波探触子を示す概略図である。
【図8】実施形態2の比較例4における音響整合層の製造工程を示す説明図(a)(b)(c)である。
【図9】実施形態2の比較例5における音響整合層の製造装置(成膜装置)を示す概略図である。
【図10】実施形態2の比較例5における音響整合層の製造工程を示す説明図(a)(b)(c)である。
【図11】実施形態2の比較例5における音響整合層の製造工程を示す説明図(a)(b)(c)である。
【図12】実施形態2における超音波探触子に関し、各種整合層における周波数毎の振幅変化をdBにて標記したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に、本発明を実施するための好ましい形態について図面を用いて説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0035】
(超音波画像診断装置)
超音波画像診断装置は、生体等の被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体内で反射した超音波の反射波(エコー)を受信して、その受信波に基づき、被検体内の内部状態を超音波画像として画像化して表示する医療用の装置である。
図1は、本実施形態における超音波画像診断装置の外観構成を示す図である。図2は、本実施形態における超音波画像診断装置の電気的な構成を示すブロック図である。
【0036】
超音波画像診断装置100は、図1、図2に示すように、装置本体10と、装置本体10にケーブル17を介して接続された超音波探触子1(1a)を備えている。
装置本体10は、例えば、操作入力部11、送信回路12、受信回路13、画像処理部14、表示部15、制御部16等を備えている。
【0037】
超音波探触子1(1a)は、被検体に対して超音波(超音波信号)を送信し、被検体内で反射した超音波の反射波を受信する。超音波探触子1(1a)は、ケーブル17を介して装置本体10と接続されており、送信回路12、受信回路13と電気的に接続されている。
【0038】
送信回路12は、制御部16の指令により、ケーブル17を介して超音波探触子1(1a)に電気信号を送信し、超音波探触子1(1a)から被検体に向けて超音波を送信させる。
受信回路13は、超音波探触子1(1a)が受信した被検体内からの超音波の反射波に応じた電気信号を、制御部16の指令により、ケーブル17を介して超音波探触子1(1a)から受信する。
【0039】
画像処理部14は、制御部16の指令により、受信回路13が受信した電気信号に基づいて被検体内の内部状態を超音波画像として画像化する。
表示部15は、制御部16の指令により、画像処理部14が画像化した超音波画像を表示する。この表示部15は、例えば、液晶パネルなどから成る。
【0040】
操作入力部11は、スイッチやキーボードなどから構成されており、ユーザが診断開始を指示するコマンドや、被検体の個人情報等のデータを入力するために設けられている。
制御部16は、CPU、メモリなどから構成されており、操作入力部11から入力されたコマンド等に基づき、予めプログラムされた手順に従って超音波画像診断装置100(装置本体10)の各部の制御を行う。
【0041】
(超音波探触子)
次に、超音波画像診断装置100の超音波探触子について説明する。
【0042】
[実施形態1]
超音波画像診断装置100の超音波探触子の実施形態1について説明する。
なお、本実施形態では、単一の圧電素子で超音波の送受信を行う超音波探触子を例として説明するが、本発明はこれに限定されず、複数の圧電素子(例えば、送信用圧電素子と受信用圧電素子)を有する超音波探触子にも適用できる。
また、以降の説明では各種方向を、図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X軸方向はエレベーション方向、Y軸方向は圧電素子の配列方向(走査方向)、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。
【0043】
超音波探触子1は、例えば、図3に示すように、圧電素子層5、整合層6、音響レンズ9等を備えている。
具体的に、超音波探触子1は、バッキング材2の上に第2電極25、圧電素子層5、第1電極56、整合層6、音響レンズ9が順に、Z軸方向に積層された構成を有している。
なお、第2電極25、第1電極56は、他の構成層に比べて極薄い部材(薄膜)であるため、図3中、界面における線状の部材として図示している。
【0044】
圧電素子層5は、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛などの圧電材料から成る圧電素子であり、厚み方向の両面に対を成す第1電極56、第2電極23を備えている。
この圧電素子層5の厚さは要求される送受信周波数により異なるが、概ね100〜2000μm程度である。
【0045】
第1電極56、第2電極23は、図示しないコネクタによってケーブル17と接続されており、ケーブル17を介して送信回路12と接続している。そして、送信回路12から第1電極56と第2電極23に電気信号が入力されると圧電素子が振動し、圧電素子層5からZ軸正方向に超音波を送信するように構成されている。
また、第1電極56、第2電極23は、図示しないコネクタによってケーブル17と接続されており、ケーブル17を介して受信回路13と接続している。そして、圧電素子層5が被検体で反射した超音波の反射波を受信して圧電素子が振動すると、その振動に応じて圧電素子を挟んだ第1電極56と第2電極23の間に電気信号が発生する。第1電極56と第2電極23の間に発生した電気信号は、ケーブル17を介して受信回路13で受信され、画像処理部14で画像化される。
この第1電極56と第2電極23は、圧電素子層5の両面にそれぞれ、金、銀、アルミなどの金属材料の薄膜が、蒸着法やフォトリソグラフィー法により成膜されて形成された電極である。
なお、第1電極56、第2電極23、圧電素子層5が積層された部分が圧電素子部として機能する。
【0046】
整合層6は、例えば、被検体の一つである人体と圧電素子層5の音響インピーダンスの中間の音響インピーダンスを有し、圧電素子層5と音響レンズ9の間での音響インピーダンスの整合を図る機能を有する。整合層6は、例えば、樹脂材料を成型してなる部材である。
この整合層6に用いられる材料は、音響インピーダンスが1.7〜1.8程度で、音速が人体に近い1300m/s以上、2200m/s以下の材料であることが好ましい。例えば、ポリメチルペンテンなどを好適に用いることができる。
【0047】
上記した、第1電極56と第2電極23が形成された圧電素子層5と、整合層6が順に、バッキング材2の上に積層されて、それぞれが接着剤により接着されている。
そして、バッキング材2に圧電素子層5と整合層6を接着した後、整合層6側から超音波放射方向と反対の方向に向かってダイシングが行われて、バッキング材2と第2電極25の接着面からさらにZ軸負方向に100μmの深さの溝部(図示省略)が形成されている。そのダイシングによって形成された溝部(図示省略)に、シリコーン樹脂などから成る充填剤を充填した後、整合層6の上の最上層に音響レンズ9が接着されて積層される。
【0048】
音響レンズ9は、圧電素子層5から送信された超音波を所定の焦点距離に収束させる機能を有する。なお、音響レンズ9は、少なくとも一つの方向(本実施形態ではX軸方向)について超音波を集束させる機能を有していればよく、必ずしも超音波を1点に集束させるものでなくてもよい。
音響レンズ9は、図3、図4に示すように、中央部7と、中央部7の両側にそれぞれ配された周辺部8とから構成されている。
なお、以降の説明では各種方向を、図中のX、Y、Zで示す座標軸に基づいて説明する。X軸方向はエレベーション方向(ダイシングを行う方向)であり、Z軸正方向は超音波を送信する方向である。
【0049】
音響レンズ9は、図4に示すように、X軸方向の幅がW、Z軸方向の幅(厚さ)がH、Y軸方向の幅がLの直方体形状を呈している。Z軸と直交する配置で対を成す2面のうち、Z軸負方向の下面は、図示しない圧電素子から放射した超音波が入射させるレンズ面であり、Z軸正方向の上面は図示しない被検体に密着させ被検体の内部に超音波を放射させるレンズ面である。このZ軸方向の両面で対を成す2面のレンズ面はともにX−Y面に平行な平面状に形成されている。
【0050】
音響レンズ9は、樹脂材料から成る中央部7と、中央部7の樹脂材料よりも超音波の伝播速度(音速ともいう)が速い樹脂材料から成り、複数の層からなる積層構造を有する周辺部8を備えている。
この音響レンズ9の周辺部8は、レンズ面(X−Y面)と略直交する向きであって、Y−Z面に平行に積層された複数の層を備えている。本実施形態における周辺部8は、例えば、中央部7を挟んだ両側に配され、それぞれY−Z面に平行に積層された20層を有している。
具体的に、周辺部8は、図4に示すように、X軸方向に沿い中央部7側から離間する方向に同じ幅wで形成され、Y−Z平面に平行に積層された層8a〜層8tの20層を有している。なお、図3、図4においては周辺部8の図示を簡略化しており、20層分の図示は省略している。
また、中央部7のX軸方向の幅はW0、中央部7を挟む周辺部8のX軸方向の幅はそれぞれW1、中央部7と周辺部8のZ軸方向の幅(厚さ)はともにHである。
【0051】
この音響レンズ9は、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含むように形成されており、特に、音響レンズ9の周辺部8を形成する樹脂材料に、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含む樹脂材料が用いられている。
音響レンズ9に含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0052】
そして、周辺部8の層8a〜層8tは、中央部7からの距離が遠い層ほど音速の速い樹脂材料から形成されている。
例えば、中央部7が音速V1の樹脂材料から形成されているとすると、周辺部8の層8aは音速V1より速い音速Vaの樹脂材料から成る。また、周辺部8の層8bは音速Vaより速い音速Vbの樹脂材料から成る。同様に繰り返すようにして、周辺部8の層8sは音速Vrより速い音速Vsの樹脂材料から成り、周辺部8の層8tは音速Vsより速い音速Vtの樹脂材料から成る。この最も外側の層8tは音響レンズ9の中で最も速い音速Vtの樹脂材料から成る。
【0053】
ここで、図5に基づき、本発明の音響レンズ9が超音波を収束させる原理を説明する。図5では説明を簡単にするため、周辺部8が全て同じ材料で形成されている場合を例に説明する。
中央部7は音速V1の材料から成り、周辺部8は音速V1より速い音速V2の材料から成るものとする。また、音響レンズ9のZ軸正方向のレンズ面は図示しない容器に貯えられた音速V0の液体に接しているものとする。
【0054】
I2は、中央部7の中央から入射した超音波が、中央部7を通過し液体中を進行する状態を示している。I1は、図中左側の周辺部8の中央から入射した超音波が、周辺部8を通過し液体中を進行し、焦点距離fの位置(点q)でI2と収束する状態を示している。xは音響レンズ7に入射したI1とI2との距離である。
【0055】
周辺部8の音速V2は、中央部7の音速V1より速いので、周辺部8から入射した超音波は、同時に中央部7から入射した超音波より早く液体に到達し、液体中を同心円状に波面が進行する。
周辺部8から入射した超音波と中央部7から入射した超音波の音響レンズ9を通過する時間差t1は下記の式(1)で求めることができる。
【0056】
【数1】
【0057】
図5のmは時間差t1の間に周辺部8から入射した超音波が液体中を進行する距離である。液体の音速をV0とすると、距離mは下記の式(2)で求めることができる。
m=V0×t1 ・・・(2)
図中左側の周辺部8の中央から入射した超音波は、距離mを進行した後、中央部7の中央から入射した超音波と同じ距離fを進行し点qに収束する。焦点距離fはピタゴラスの定理を用いて下記の式(3)で求めることができる。
f=(x2−m2)/2m ・・・(3)
この式(3)に式(1)、式(2)を代入すると、焦点距離fは下記の式(4)で求めることができる。
なお、Hは音響レンズ9のZ軸方向の幅(厚み)、V1は中央部7の音速、V2は周辺部8の音速、V0は液体の音速である。
【0058】
【数2】
【0059】
このように、中央部7と周辺部8の音速の差によって、中央部7から入射した超音波I2と周辺部8から入射した超音波I1を一点(点q)に収束させることができる。
例えば、V0=1530m/sec、V1=2500m/sec、H=2.5mm、x=3mm、V2=2771m/secとすると、焦点距離fはf=30mmである。また、他の値は同じでH=5mmに変更すると、焦点距離fはf=14.9mmになる。
【0060】
そして、図4に示すように、周辺部8が中央部7を挟んだ両側の20層から構成される場合は、中央部7から入射した超音波と平行に周辺部8の各層(8a〜8t)に入射した超音波が一点に収束するよう各層(8a〜8t)の音速を設定する。
例えば、焦点距離fに収束する周辺部8を形成する樹脂材料の音速V2は、下記の式(5)で求めることができる。
【0061】
【数3】
【0062】
例えば、焦点距離f=30mm、V0=1530m/sec、V1=2500m/sec、H=2.5mm、x=3mmとすると、V2=2771m/secである。
同様に式(5)を用いて、同じ焦点距離fに超音波を収束させる層8a〜層8tを形成するための樹脂材料の音速Va〜Vtを求めることができる。
なお、後述するように、音速の異なる樹脂材料は、イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、周辺部8の各層を構成するイオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整することにより得ることができる(表1A、1B参照)。
【0063】
次に、音響レンズ9の製造方法について説明する。
【0064】
まず、音響レンズ9の中央部7となるレンズ基板7aを用意する。
中央部7となるレンズ基板7aは、例えば、図6(a)に示すように、幅L、高さW0、奥行きMの長方体形状を呈する樹脂基板である。このレンズ基板7aの大きさは特に限定されないが、一例としては、L=100mm、M=150mm、W0=2mmのサイズを有する。
中央部7となるレンズ基板7aを形成する材料には、各種樹脂材料を用いることができるが、超音波の減衰特性に関し、周波数5MHzで2dB/cm以下の樹脂材料が好ましい。例えば、メチルペンテン、スチレン、メチルメタクリレート、カーボネート、プロピレンなどの重合体または共重合体を用いることができる。
このレンズ基板7aは、例えば、金型に樹脂材料を注型して作製することができる。
【0065】
次いで、レンズ基板7aの両面に、中央部7(レンズ基板7a)よりも速い音速が得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥させて、樹脂材料を加熱硬化させることで、所定の厚みwを有する層8aを形成する。さらに、層8aよりも速い音速が得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥させて、樹脂材料を加熱硬化させることで、所定の厚みwを有する層8bを形成する。このように各層を形成する工程を繰り返して、図6(b)に示すように、層8sよりも速い音速が得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し加熱硬化させて層8tまで形成する。
なお、レンズ基板7aの一方の面に層8a〜層8tを形成した後、レンズ基板7aを反転させて、そのレンズ基板7aの他方の面に層8a〜層8tを形成するようにしてもよく、また、レンズ基板7aの反転を、樹脂層(層8a〜層8t)を1層形成する毎に行い、レンズ基板7aの両面に対し層8a〜層8tを1層ずつ順に形成するようにしてもよい。
【0066】
次いで、図6(b)に示したような、レンズ基板7aの両面に層8a〜層8tが形成された積層体から音響レンズ9を切り出す。この際、レンズ面の間隔が所定の厚みHとなるように、各層(8a〜8t)を積層した面に直交する面(X−Y面)に沿い、積層体をX軸方向にダイシングする切断を行って、図6(c)に示すように、音響レンズ9を切り出す。その切り出した切断面を研磨して音響レンズ9が形成される。この図6(c)に示す音響レンズ9は、図4に示した音響レンズ9と同一形状である。
なお、音響レンズ9を切り出す切断法としては、ダイシングソー、レーザーカッター、超音波カッター、高圧水カッターなどを用いることができる。
【0067】
このように、音響レンズ9は、被検体と接触する面を被検体に密着させやすい平面形状にしたレンズ面を有するとともに、超音波の伝播速度(音速)が異なり中央部7からX軸方向に離間した層ほど音速が速い複数の層(8a〜8t)を有する周辺部8を備えた構成をとることにより、音響レンズ9のレンズ面から放射する超音波を所定の距離に収束させることを可能にしている。
【0068】
また、この音響レンズ9は、シリコーンゴムから成り凸形状を有する音響レンズに比べて、被検体と接触するレンズ面が磨耗しにくい。それにより、超音波探触子1を長期に亘って使用した場合でも、音響レンズ9のレンズ面が徐々に磨耗し、フォーカス位置が当初の設計からずれてしまうという問題が生じにくい。
【0069】
また、この音響レンズ9に用いる樹脂材料は、シリコーンゴムに比べてガスや液体を透過しにくいので、音響レンズ9が被検体と接するレンズ面から消毒用のガスや液体などが侵入して、超音波探触子1の特性が悪化しまうという問題が生じにくい。
【0070】
また、この音響レンズ9に用いる樹脂材料は、シリコーンゴムに比べて伝播損失の少ない樹脂材料であるので、減衰の少ない音響レンズ9を作製することができる。特に、周波数5MHzで2dB/cm以下の樹脂材料を用いることにより、高調波信号を利用するアレイ型超音波探触子に好適な音響レンズ9を作製することができる。
【0071】
次に、具体的な実施例1〜3を挙げて、本発明に係る超音波探触子1における音響レンズ9の製造方法について説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0072】
まず、音響レンズ9の周辺部8の各層(8a〜8t)を形成するための各種塗工液(1)〜(6)を以下のように調整する。なお、表1A、表1Bに、周辺部8の各層(8a〜8t)を形成するための各種塗工液の配合等の具体例を示している。
【0073】
(1)イオン性ポリマー水溶液(P−1)
ポリエチレン製ビーカー中に、数平均分子量25万のポリアクリル酸を31.4g含む水溶液500ccと、NaOHを20g含む水溶液250ccを投入し、十分に撹拌・溶解して、イオン性ポリマー水溶液(P−1)を得た。
【0074】
(2)イオン性ポリマー水溶液(P−2)
ポリエチレン製ビーカー中に、数平均分子量25万のポリアクリル酸を31.4g含む水溶液500ccと、水250ccを投入し、十分に撹拌・溶解して、イオン性ポリマー水溶液(P−2)を得た。
【0075】
(3)イオン性ポリマー水溶液に混入して用いる金属化合物コロイド分散溶液(M−1)
30%水分散ジルコアニゾル(ナノユースZR−30BF;日産化学社製)520gに水を加えて総量500ccとして、金属化合物コロイド分散溶液(M−1)を得た。
【0076】
(4)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−1)
64gのBaCl2・2H2Oを水に溶解し、総量500ccとして、架橋剤溶液(I−1)を得た。
【0077】
(5)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−2)
23gのAlCl3を水に溶解し、総量500ccとして、架橋剤溶液(I−2)を得た。
【0078】
(6)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−3)
15.5gのエチレンジアミンを水に溶解し、総量500ccとして、架橋剤溶液(I−3)を得た。
【0079】
【表1A】
【0080】
【表1B】
【0081】
[実施例1]
常法の注型加工法によって、100mm×150mm、厚さ2mmのスチレン/ジビニルベンゼン(95/5;重量比)の樹脂製基板を形成し、音響レンズ9の中央部7となるレンズ基板7aを得た。
このレンズ基板7aの両面に、まず第1層目としての層8aを形成した。
具体的には、レンズ基板7a上に、乾燥後の厚みが100μmとなるようにイオン性ポリマー水溶液(P−2)をコーティングした後、120℃で乾燥し、更にこの上に、ウェット厚が100μmとなるように架橋剤溶液(I−3)を塗布し、120℃で乾燥を行うことでイオン架橋を行い、加熱硬化させた層8aを形成した。その後、第1層目の層8aを充分水洗し、未反応物および副生成した塩を除去した。
続いて、第1層目の層8a上に、第2層目の層8bを第1層目と同様に形成し、第2層目以降の各層(8b〜8t)を順次形成した。なお、第1層目の層8aから第20層目の層8tを形成するために用いるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせは、表1A、表1Bに示している。この表中における括弧内の数値は、各溶液の体積比を表している。また、この表中で上下2段に区切られているものは、その何れの溶液を用いてもよい。
【0082】
こうしてレンズ基板7aの両面に層8a〜層8tを形成した積層体を、5.5mm厚で切断し、その切断面を研磨することで、厚さ5mm、100×6mmの音響レンズ9を得た。この音響レンズ9の焦点距離は、30mmであった。
【0083】
[実施例2]
実施例1と同様に、表1A、表1Bに示す実施例2におけるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせで、レンズ基板7aの両面に層8a〜層8tを形成し、その積層体を4mm厚で切断し、その切断面を研磨することで、厚さ3.5mm、100×6mmの音響レンズ9を得た。実施例2の音響レンズ9の焦点距離は、30mmであった。
【0084】
[実施例3]
実施例1と同様に、表1A、表1Bに示す実施例3におけるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせで、レンズ基板7aの両面に層8a〜層8tを形成し、その積層体を3mm厚で切断し、その切断面を研磨することで、厚さ2.5mm、100×6mmの音響レンズ9を得た。実施例3の音響レンズ9の焦点距離は、30mmであった。
【0085】
[比較例1]
シリコーンゴムを常法により成型して、曲率半径10mmの凸面形状のレンズ面を有し、焦点距離30mmの単一材料構成からなる音響レンズを得た。
【0086】
[比較例2]
周辺部の積層総数を、特許文献3「特開2010−252065号公報」の表2に示す通りに10層とするとともに、1層毎の乾燥後の厚みを200μmとした以外は実施例1と同様にして積層体を得て、これを切断、研磨することによって、厚さ2.5mmの音響レンズを得た。
【0087】
以上のように形成した実施例1〜3の音響レンズ9の音波減衰特性は各々、6.8dB/15MHz、6.1dB/15MHz、6.8dB/15MHzであった。
これに対し、同一の焦点距離を有する比較例1、比較例2の音響レンズの減衰特性は、21.3dB/15MHz、8.3dB/15MHzであったので、本発明の音響レンズ9は、優れた低減衰特性を有していることがわかる。
【0088】
また、音響レンズのレンズ面を、不織布ワイパー(ベンコット;旭化成社製)で50gの荷重を掛けて、5000回の摩擦試験を行った後、再度焦点距離を測定したところ、本発明の実施例1〜3の音響レンズ9の焦点距離に変化が無かったことに対し、シリコーンゴム製の音響レンズ(従来品)は摩耗が生じたことに起因して、焦点距離が30mmから41mmに変化してしまった。
【0089】
このように、本発明の音響レンズ9は、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好であり、高い周波数でも送受信可能であって耐久性が高いという優れた性能を有しているので、超音波探触子1及び超音波画像診断装置100に関する技術を向上させることができる。
【0090】
[実施形態2]
超音波画像診断装置100の超音波探触子の実施形態2について説明する。なお、実施形態1と同様の構成については、同符号を付して説明を割愛する。
【0091】
超音波探触子1aは、例えば、図7に示すように、圧電素子層5、整合層66、音響レンズ99等を備えている。
具体的に、超音波探触子1aは、バッキング材2の上に第2電極25、圧電素子層5、第1電極56、整合層66、音響レンズ99が順に、Z軸方向に積層された構成を有している。
なお、音響レンズ99は、実施形態1の音響レンズ9と同様のものであっても、その他周知の音響レンズであってもよい。また、超音波探触子1aは、場合によって音響レンズのない構成をとることも可能である。本発明の実施例においては、整合層の効果をより明確化するため、音響レンズのない構成にて説明するが、本発明はこの構成に限定されない。
【0092】
整合層66は、例えば、被検体の一つである人体と圧電素子層5の音響インピーダンスの中間の音響インピーダンスを有し、圧電素子層5と音響レンズ99の間での音響インピーダンスの整合を図る機能を有する。
特に、整合層66は、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含むように形成されており、複数の層からなる積層構造を有している。
整合層66に含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることが好ましい。
【0093】
具体的に、整合層66は、レンズ面(X−Y面)と略平行に積層された複数の層を備えている。本実施形態における整合層66は、例えば、圧電素子層5側の層6aから音響レンズ99側の層6tまでが積層された20層を有している。なお、図7においては整合層66の図示を簡略化しており、20層分の図示は省略している。
【0094】
この整合層66の複数の層(6a〜6t)は、圧電素子層5と音響レンズ99の間の音響インピーダンスを段階的に変化させて整合させるようになっている。
つまり、圧電素子層5側の層6aは、比較的圧電素子層5の音響インピーダンスに近い値の音響インピーダンスを有しており、音響レンズ99側の層6tは、比較的音響レンズ99の音響インピーダンスに近い値の音響インピーダンスを有している。そして、整合層66の層6aから層6tにかけて、音響インピーダンスの値が段階的に変化するようにして、その整合が図られている。
【0095】
例えば、整合層66の層6a〜層6tは、下層側である圧電素子層5側の層6aほど、重く、硬い樹脂材料で形成されている。
なお、後述するように、比重や硬度が異なる樹脂材料は、イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、整合層66の各層を構成するイオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整することにより得ることができる(表2A、2B参照)。
【0096】
次に、整合層66の製造方法について説明する。
【0097】
整合層66を形成するための所定の作業用基板(例えば、ガラス基板)上に、比較的高い硬度であって圧電素子層5の音響インピーダンスに近い値の音響インピーダンスが得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥させて、樹脂材料を加熱硬化させることで、所定の厚みを有する層6aを形成する。さらに、層6aよりも低い硬度が得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥させて、樹脂材料を加熱硬化させることで、所定の厚みを有する層6bを形成する。このように各層を形成する工程を繰り返して、層6sよりも低い硬度が得られ、音響レンズ99の音響インピーダンスに近い値の音響インピーダンスが得られる配合に調整されているイオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し加熱硬化させて層6tまで形成する。
なお、層6tから層6aの順で積層して整合層66を作製するようにしてもよい。
【0098】
次いで、層6a〜層6tが形成された積層体から整合層66を所定のサイズに切り出す。その切り出した切断面を研磨して整合層66が形成される。
なお、整合層66を切り出す切断法としては、ダイシングソー、レーザーカッター、超音波カッター、高圧水カッターなどを用いることができる。
【0099】
次に、具体的な実施例4〜6を挙げて、本発明に係る超音波探触子1aにおける整合層66の製造方法について説明する。但し、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0100】
まず、整合層66の各層(6a〜6t)を形成するための各種塗工液(7)〜(12)を以下のように調整する。なお、表2A、表2Bに、整合層66の各層(6a〜6t)を形成するための各種塗工液の配合等の具体例を示している。
【0101】
(7)イオン性ポリマー水溶液(P−1)
ポリエチレン製ビーカー中に、数平均分子量25万のポリアクリル酸を31.4g含む水溶液1000ccと、NaOHを20g含む水溶液500ccを投入し、十分に撹拌・溶解して、イオン性ポリマー水溶液(P−1)を得た。
【0102】
(8)イオン性ポリマー水溶液(P−2)
ポリエチレン製ビーカー中に、数平均分子量25万のポリアクリル酸を31.4g含む水溶液1000ccと、水500ccを投入し、十分に撹拌・溶解して、イオン性ポリマー水溶液(P−2)を得た。
【0103】
(9)イオン性ポリマー水溶液に混入して用いる金属化合物コロイド分散溶液(M−1)
30%水分散ジルコアニゾル(ナノユースZR−30BF;日産化学社製)520gに水を加えて総量1000ccとして、金属化合物コロイド分散溶液(M−1)を得た。
【0104】
(10)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−1)
64gのBaCl2・2H2Oを水に溶解し、総量1000ccとして、架橋剤溶液(I−1)を得た。
【0105】
(11)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−2)
23gのAlCl3を水に溶解し、総量1000ccとして、架橋剤溶液(I−2)を得た。
【0106】
(12)架橋イオン水溶液・架橋剤溶液(I−3)
15.5gのエチレンジアミンを水に溶解し、総量1000ccとして、架橋剤溶液(I−3)を得た。
【0107】
【表2A】
【0108】
【表2B】
【0109】
[実施例4]
ガラス基板上に、まず第1層目としての層6aを形成した。
具体的には、ガラス基板の上面に、ウェット厚が100μmとなるようにイオン性ポリマー水溶液(P−1)をコーティングした後、120℃で乾燥し、更にこの上に、ウェット厚が100μmとなるように架橋剤溶液(I−2)を塗布し、120℃で乾燥を行うことでイオン架橋を行い、加熱硬化させた層6aを形成した。その後、第1層目の層6aを充分水洗し、未反応物および副生成した塩を除去した。
続いて、第1層目の層6a上に、第2層目の層6bを第1層目と同様に形成し、第2層目以降の各層(6b〜6t)を順次形成した。なお、第1層目の層6aから第20層目の層6tを形成するために用いるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせは、表2A、表2Bに示している。この表中における括弧内の数値は、各溶液の体積比を表している。また、この表中で上下2段に区切られているものは、その何れの溶液を用いてもよい。
【0110】
こうして層6a〜層6tを積層して形成した積層体を所定のサイズに切断し、その切断面を研磨することで、実施例4の整合層66を得た。
【0111】
[実施例5]
実施例4と同様に、表2A、表2Bに示す実施例5におけるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせで、層6a〜層6tを形成し、その積層体を所定のサイズに切断し、その切断面を研磨することで、実施例5の整合層66を得た。
【0112】
[実施例6]
実施例4と同様に、表2A、表2Bに示す実施例6におけるイオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液の組み合わせで、層6a〜層6tを形成し、その積層体を所定のサイズに切断し、その切断面を研磨することで、実施例6の整合層66を得た。
【0113】
[比較例3]
比較例3として、従来公知技術によって音響整合層を作製した。
常法により厚さ61μmの充填エポキシ樹脂(音響インピーダンス:8.8MRayls)と、厚さ72μmのポリウレタン(音響インピーダンス:2.3MRayls)の整合層材料を接着して、2層構成からなる音響整合層を得た。
【0114】
[比較例4]
比較例4として、特開平11−89835号公報(特許文献5)に記載の方法によって音響整合層を作製した。
まず、図8(a)に示すように、第一の音響整合材で多数の先細柱状体60を作製した。第一の音響整合材としては音響インピーダンスが8.8MRaylsの充填エポキシ樹脂を用いた。この先細柱状体60は、図8(a)に示すように、圧電素子層5側となる面の断面積が大きく且つ被検体側(音響レンズ99側)となる面の断面積が小さく形成されるとともに、超音波の波長よりも短い間隔でマトリクス状に多数配列するように形成した。特に、多数の先細柱状体60は、母線が指数関数で表される錐状となるように形成した。なお、この先細柱状体60は、ベース部材600の上面を機械加工により研削して形成した。
次いで、図8(b)に示すように、第一の音響整合材で作製された多数の先細柱状体60間の隙間に、第二の音響整合材69を充填させて固化した。第二の音響整合材69としては音響インピーダンスが2.3MRaylsのポリウレタンを用いた。これにより、図8(b)に示すように、第一の音響整合材で作製された多数の先細柱状体60間の隙間が総て第二の音響整合材69で埋められる。
次いで、第一の音響整合材で作製された多数の先細柱状体60間の隙間を総て第二の音響整合材69で埋めたものを、厚さ3mmに仕上げて音響整合層を完成させた。なお、図8(c)に示すように、ベース部材600の下面を削るなどして所定の厚さに仕上げ、第一の音響整合材と第二の音響整合材との複合材から成る音響整合層を得た。
【0115】
[比較例5]
比較例5として、特開2006−101204号公報(特許文献4)に記載の方法によって音響整合層を作製した。この比較例5において製造される音響整合層は、対象となる振動子の圧電素子部(圧電素子層)上に形成した。
図9は、比較例5の音響整合層を製造する際に用いられる成膜装置の構成を示す模式図である。この成膜装置は、原料の粉体(成膜粉)を下層に吹き付けて堆積させるエアロゾルデポジション(AD)法を用いている。なお、この成膜装置の詳細は特許文献4に記載されている。
まず、図10(a)に示すように、PZT部材61に電極層62を形成したものを用意し、電極層62側を成膜面として、図9に示した成膜装置の基板ステージ23にセットする。PZT部材61としては、PZT板材を用いた。また、電極層62は、PZT部材61上にスパッタリングにより白金の導電膜を成膜することによって形成した。なお、電極層62の厚さは200nmとした。
次いで、図9に示した成膜装置において、音響整合層を作製するための2種類の成膜粉のうち、一方(材料A)をエアロゾル生成室24aに配置し、他方(材料B)をエアロゾル生成室24bに配置した。材料AとしてPZTを用い、材料Bとしてポーラスアルミナを用いた。さらに、エアロゾル生成室24a及び24bにおいて、エアロゾルの生成をそれぞれ開始した。
次いで、制御弁29a及び29bを開いてサイドノズル30a及び30bからエアを噴出させるとともに、エアロゾル生成室24a及び24bにおいて生成されたエアロゾルを噴射ノズル26a及び26bにそれぞれ導入して噴射させた。それにより、図10(a)に示すように、噴射ノズル26aから噴射されたエアロゾルと、噴射ノズル26bから噴射されたエアロゾルとは、サイドノズル30a及び30bから噴出するエアによってそれぞれ擾乱した。
次いで、制御弁29aを閉じることにより、図10(b)に示すように、噴射ノズル26aから噴射されるエアロゾルの噴射圧力を回復させた。そして、基板ステージ23を移動させながら、エアロゾルビーム33aを電極層62上に吹き付けることにより、PZTの層64aを形成した。
次いで、制御弁29aを所定の量だけ開くとともに、制御弁29bを所定の量だけ閉じることにより、図10(c)に示すように、エアロゾルビーム33a及び33bの噴射圧力を調整した。それにより、成膜面において、PZTとポーラスアルミナとが混合されて堆積する。さらに、基板ステージ23を移動させることにより、層64a上に所定の割合で混合されたPZT及びポーラスアルミナを含む層64bを形成した。
次いで、制御弁29aを徐々に開くとともに、制御弁29bを徐々に閉じることにより、図11(a)(b)に示すように、エアロゾルビーム33aの噴射圧力を次第に抑制し、反対に、エアロゾルビーム33bの噴射圧力を次第に回復させた。それにより、PZTとポーラスアルミナが所定の割合で混合された層64c及び64dを順次形成した。層64b〜64dにおいては、PZTの混合割合が次第に減少し、それに伴い、ポーラスアルミナの混合割合が次第に増加した。
次いで、制御弁29aを全開にすると共に、制御弁29bを完全に閉じることにより、図11(c)に示すように、噴射ノズル26aから噴射されるエアロゾルを遮断し、エアロゾルビーム33bの噴射圧力を回復させた。それにより、層64d上に、ポーラスアルミナの層64eを形成した。
この比較例5においては、上記の要領により一層の厚さを10μmとして音響整合層を35層で構成し、例えば、その音響インピーダンスを、振動子(PZT)に近い方から4層目において約25MRayl、10層目において約15MRayl、22層目において約5MRayl、35層目において約2MRaylとなるように変化させた。
所望の音響インピーダンスを得るための33aと33bの噴射圧力比Pa、Pbは、各層所望の音響インピーダンス値Zxを用い、下記の式(6)と式(7)により算出して調整し、混合割合M:Nを変化させた。
【0116】
【数4】
【0117】
[比較例6]
比較例6として、樹脂液を塗布して複数の層を積層する方法によって音響整合層を作製した。
まず、スチレンとジビニルベンゼンに、添加剤としての酸化亜鉛と熱重合開始剤とを、表3に示した質量比で混合した樹脂液1〜7を作製した。
なお、表3に示した樹脂液1〜7に含まれる添加剤の質量比は、所望する音響インピーダンスが得られるように、添加剤を母材の樹脂材料に添加する体積割合を求め、質量比に換算して求めた。
ここで用いた酸化亜鉛は、親油性酸化亜鉛ナノ微粒子(デグサ社製VP AdNano Z805)であり、平均粒径は250nmである。また、熱重合開始剤はアゾビスイソブチロニトリルを用いた。
【0118】
【表3】
【0119】
次いで、エポキシ樹脂基材上に樹脂液1を厚さ3μmになるように塗布し、直ちに強熱乾燥して架橋強化し、樹脂液1の塗布物からなる層を形成した。同様に、樹脂液2〜7についても同じ手順で塗布及び加熱硬化を行って、7層の音響整合層を得た。
【0120】
上記のようにして得られた、実施例4〜6および比較例3〜6の整合層(音響整合層)について、機能評価した。
まず、超音波探触子1a(図7参照)における圧電素子層5の厚みを変化させ、中心周波数が1〜20MHzまで1MHz毎に異なる整合層のない振動子を20種得た。
得られた20種の振動子の各々についてその中心周波数と合致する周波数の正弦波1波で駆動した際の送受信強度(振幅比)と20dBパルス幅を測定し、これを基準値とした。
その後、これら20種の振動子上に、各整合層(実施例4〜6および比較例3〜6の整合層)を設置して、同様の方法にて送受信強度と20dBパルス幅を測定し、整合層を設置していない振動子(基準値)からの変化率を評価値とした。
各整合層の周波数毎の振幅変化をdBにて標記したグラフを図12に示す。また、各整合層のパルス幅変化率の平均値(20種の振動子でのパルス幅変化率平均値)を表4に示す。
【0121】
【表4】
【0122】
比較例3では、周波数変化による振幅比増減が激しく広帯域の超音波探触子を得ることが難しい上に、整合層部材を中心周波数に応じて各々用意する必要があることがわかる。
比較例4では、周波数変化での振幅比増減が少なく、比較的広帯域の超音波探触子を得ることが可能であるが、整合層の通過時間が整合層内で一定でないため、パルス幅が大きく伸びてしまい、分解能が劣化してしまう。
比較例5では、ポーラスアルミナを用いるために整合層内に微小な気泡が残存し、低周波領域では比較的良好な特性を示すものの、高周波領域では気泡による超音波の散乱が問題となり急激に特性が劣化してしまうため、適用範囲が限定されてしまう。
比較例6では、比較例3〜5の様な大きな問題はないものの、音響インピーダンスを変化させるために用いている微粒子による超音波の散乱減衰の影響により、高周波領域での特性は必ずしも充分ではなかった。
【0123】
これに対し実施例4〜6では、低周波から高周波までほぼ一定して振幅比が増加している上に、パルス幅が伸びてしまうこともなく、良好な特性を有していることがわかる。これにより中心周波数が異なる超音波探触子1aを作製する場合でも同一の整合層を用いることができ、なおかつ周波数帯域の広い超音波探触子1aを得ることが可能となる。
【0124】
このように、本発明の整合層66は、振動子(圧電素子層5)で生じた超音波の損失を、高い周波数領域にまで広い帯域にわたって非常に小さくして、高い透過率とすることができるという優れた性能を有しているので、超音波探触子1a及び超音波画像診断装置100に関する技術を向上させることができる。
【0125】
以上のように、本発明(実施形態1、実施形態2)によれば、超音波の伝播損失が少なく、超音波の透過率が良好な超音波探触子及び超音波画像診断装置を得ることができる。
【0126】
なお、本発明の適用は上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0127】
1 超音波探触子
1a 超音波探触子
5 圧電素子層(圧電素子部
6 整合層
7 中央部
7a レンズ基板
8 周辺部
8a〜8t 層
9 音響レンズ
66 整合層
6a〜6t 層
99 音響レンズ
100 超音波画像診断装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送受信する圧電素子部と、
平面状のレンズ面を有し、前記圧電素子部から送信された超音波を前記レンズ面から出射して所定の焦点距離に収束させる音響レンズと、
前記圧電素子部と前記音響レンズの間に配されて、前記圧電素子部と前記音響レンズの間での音響インピーダンスを整合させる整合層と、
を備えた超音波探触子において、
前記音響レンズと前記整合層の少なくとも一方が、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含む複数の層からなる積層構造を有することを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記音響レンズは、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含み、前記レンズ面と略直交する向きに積層された複数の層を備えており、
前記音響レンズの前記複数の層は、前記音響レンズの中央側から、前記音響レンズの厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が速くなるように、前記複数の層における前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成が調整されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整していることを特徴とする請求項2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記音響レンズに含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波探触子。
【請求項5】
超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項2〜4の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項6】
請求項2〜4の何れか一項に記載の超音波探触子における音響レンズの製造方法であって、
前記音響レンズの中央部を成すレンズ基板の両面にそれぞれ、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥して形成した層上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥する工程を繰り返して、前記複数の層を形成することを特徴とする音響レンズの製造方法。
【請求項7】
前記音響レンズにおける複数の層の各層は、イオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液を、交互に塗布して乾燥することによって形成することを特徴とする請求項6に記載の音響レンズの製造方法。
【請求項8】
前記整合層は、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含み、前記音響レンズのレンズ面と略平行に積層された複数の層を備えており、
前記整合層の前記複数の層は、前記圧電素子部と前記音響レンズの間の音響インピーダンスを段階的に変化させて整合させるように、前記複数の層における前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成が調整されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項9】
前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整していることを特徴とする請求項8に記載の超音波探触子。
【請求項10】
前記整合層に含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることを特徴とする請求項8又は9に記載の超音波探触子。
【請求項11】
超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項8〜10の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項12】
請求項8〜10の何れか一項に記載の超音波探触子における整合層の製造方法であって、
所定の基板上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥して形成した層上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥する工程を繰り返して、前記複数の層を形成することを特徴とする整合層の製造方法。
【請求項13】
前記整合層における複数の層の各層は、イオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液を、交互に塗布して乾燥することによって形成することを特徴とする請求項12に記載の整合層の製造方法。
【請求項1】
超音波を送受信する圧電素子部と、
平面状のレンズ面を有し、前記圧電素子部から送信された超音波を前記レンズ面から出射して所定の焦点距離に収束させる音響レンズと、
前記圧電素子部と前記音響レンズの間に配されて、前記圧電素子部と前記音響レンズの間での音響インピーダンスを整合させる整合層と、
を備えた超音波探触子において、
前記音響レンズと前記整合層の少なくとも一方が、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含む複数の層からなる積層構造を有することを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記音響レンズは、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含み、前記レンズ面と略直交する向きに積層された複数の層を備えており、
前記音響レンズの前記複数の層は、前記音響レンズの中央側から、前記音響レンズの厚み方向と交差する方向に離間するにつれて、超音波の伝播速度が速くなるように、前記複数の層における前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成が調整されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整していることを特徴とする請求項2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記音響レンズに含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波探触子。
【請求項5】
超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項2〜4の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項6】
請求項2〜4の何れか一項に記載の超音波探触子における音響レンズの製造方法であって、
前記音響レンズの中央部を成すレンズ基板の両面にそれぞれ、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥して形成した層上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥する工程を繰り返して、前記複数の層を形成することを特徴とする音響レンズの製造方法。
【請求項7】
前記音響レンズにおける複数の層の各層は、イオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液を、交互に塗布して乾燥することによって形成することを特徴とする請求項6に記載の音響レンズの製造方法。
【請求項8】
前記整合層は、少なくともイオン性ポリマーの金属イオン架橋物を含み、前記音響レンズのレンズ面と略平行に積層された複数の層を備えており、
前記整合層の前記複数の層は、前記圧電素子部と前記音響レンズの間の音響インピーダンスを段階的に変化させて整合させるように、前記複数の層における前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成が調整されて形成されていることを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項9】
前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物中の金属イオン種を異ならせて、前記イオン性ポリマーの金属イオン架橋物の組成を調整していることを特徴とする請求項8に記載の超音波探触子。
【請求項10】
前記整合層に含まれているイオン性ポリマーの金属イオン架橋物におけるイオン性ポリマーは、アクリル酸重合体またはアクリル酸共重合体であることを特徴とする請求項8又は9に記載の超音波探触子。
【請求項11】
超音波を被検体に向けて送信し、その被検体から受信した超音波の反射波に応じて画像を形成する超音波画像診断装置において、
請求項8〜10の何れか一項に記載の超音波探触子を備えることを特徴とする超音波画像診断装置。
【請求項12】
請求項8〜10の何れか一項に記載の超音波探触子における整合層の製造方法であって、
所定の基板上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥して形成した層上に、イオン性ポリマー溶液および金属イオンを含有している架橋剤溶液を塗布し乾燥する工程を繰り返して、前記複数の層を形成することを特徴とする整合層の製造方法。
【請求項13】
前記整合層における複数の層の各層は、イオン性ポリマー溶液と、金属イオンを含有している架橋剤溶液を、交互に塗布して乾燥することによって形成することを特徴とする請求項12に記載の整合層の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−34138(P2013−34138A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169712(P2011−169712)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】
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