説明

超音波探触子及び超音波診断装置

【課題】バッキング部材の背面に伝熱部材を押圧接着するとともに、組立冶具を大型化することなく、組立工程を煩雑化することなく、放熱効果を向上する。
【解決手段】複数の振動子9の背面に接着されたバッキング部材11と、複数の振動子9とバッキング部材11を収容するヘッド部31に一体形成された把持部33とを有するケース13と、バッキング部材11に接着された伝熱部材とを備え、ヘッド部31のケース13は、複数の振動子9の超音波送受信面側に開口を有し、伝熱部材は、ヘッド部に位置された背面伝熱部材41と、背面伝熱部材41の背面に熱的に接続されてヘッド部31から把持部33にわたって収容された背面伝熱部材43とからなり、背面伝熱部材43が背面伝熱部材41の背面にねじ51で固定される超音波探触子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波探触子及び超音波診断装置に係り、特に、超音波探触子と被検体との接触面の温度上昇を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、超音波診断に用いられる超音波探触子は、安全性確保のため、超音波探触子と被検体との接触面の温度が所定値以下に規制されている。そのため、この規制を満たすように超音波の送信電圧を低くすることが提案されていた。一方、超音波診断装置の診断領域、特に深さ方向を拡大するため、超音波の送信電圧を高くすることが要望されている。そこで、超音波の送信電圧を高くすることによる接触面の温度上昇を抑制する技術が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1の技術は、振動子で発生した熱の放熱を促進するため、複数の振動子と、この振動子の背面側に設置されるバッキング部材の間に第1の伝熱部材を設け、この第1の伝熱部材と熱的に接続される第2の伝熱部材をバッキング部材の周辺に設けることが提案されている。これにより、振動子で発生した熱を第1の伝熱部材と第2の伝熱部材に伝熱して放熱できるから、超音波探触子と被検体との接触面の温度上昇を抑制できるとしている。
【0004】
しかし、特許文献1の技術は、伝熱部材がバッキング部材の周辺にしかないので伝熱面積が小さく、超音波の送信電圧をあまり高くできないという問題がある。
【0005】
一方、特許文献2の技術は、複数の振動子の背面にバッキング部材を接着し、複数の振動子とバッキング部材をT字状のケースのヘッド部に収容するとともに、ケースのヘッド部から把持部に渡って収容されるT字状の伝熱部材を、バッキング部材の背面に接着することが提案されている。これによれば、特許文献1に比べて伝熱面積が大きいから超音波の送信電圧をより高くできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3420954号公報
【特許文献2】特許第4408899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、超音波探触子を組み立てるときは、振動子やバッキング部材などの部材に接着材を塗布して互いに押圧して接着し、超音波探触子の音響特性を確保するようにしている。したがって、引用文献2の技術のように、バッキング部材にT字状の伝熱部材を接着させるときは、組立治具が大型になるとともに、作業が煩雑になるという問題がある。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、バッキング部材の背面に伝熱部材を押圧接着するとともに、組立治具を大型化することなく、かつ、組立工程を煩雑化することなく、放熱効果を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、複数の振動子と、複数の振動子の背面に接着されたバッキング部材と、複数の振動子とバッキング部材を収容するヘッド部とこのヘッド部の背面側に一体形成された把持部とを有してなる樹脂製のケースと、バッキング部材の背面に接着されてヘッド部から把持部にわたって収容された伝熱部材とを備え、ヘッド部のケースは、複数の振動子の超音波送受信面側に開口を有して形成されてなる超音波探触子において、伝熱部材は、バッキング部材の背面に接着されてヘッド部に位置された第1の伝熱部材と、第1の伝熱部材の背面に熱的に接続されてヘッド部から把持部にわたって収容された第2の伝熱部材とからなり、第2の伝熱部材は第1の伝熱部材の背面にねじで固定されていることを特徴とする。
【0010】
すなわち、本発明は、バッキング部材に熱的に接続される伝熱部材を第1の伝熱部材と第2の伝熱部材の2つに分け、第1の伝熱部材をバッキング部材に押圧接着し、第2の伝熱部材を把持部にまで延在させ、第1と第2の伝熱部材をねじで固定したことを特徴とする。これによれば、組立治具を大型化することなく、バッキング部材に直接接する第1の伝熱部材をバッキング部材に押圧接着できるから、バッキング部材における音響特性を確保できる。そして、第2の伝熱部材をねじ止めで固定したので、把持部にまで延在させた第2の伝熱部材を押圧接着する組立治具が不要となり、かつ、組立作業が容易である。さらに、振動子で発生した熱は、第1の伝熱部材からベース部のケースに伝熱させて外部に放熱できる。また、第1の伝熱部材と熱的に接続した伝熱面積の大きな第2の伝熱部材からもベース部と把持部のケースに伝熱させて外部に放熱できる。したがって、超音波の送信電圧を高くすることによる被検体との接触面の温度上昇を抑制できる。なお、伝熱部材は、例えば、銅やアルミニウムなどの金属やカーボングラファイトなど伝熱係数の大きな材料で形成できる。この場合において、ケースと第2の伝熱部材をT字状に形成することができる。
【0011】
また、複数の振動子、バッキング部材、第1と第2の伝熱部材と、ケースとの間に形成される空間に樹脂を充填することができる。これによれば、ケースと第1及び第2の伝熱部材とが樹脂によって熱的に密に接続されるから、第1及び第2の伝熱部材からケースへの伝熱を促進できる。なお、伝熱係数の高い樹脂を充填することはいうまでもない。
【0012】
また、バッキング部材の少なくとも長手方向の側面に第3の伝熱部材を接着することができる。これによれば、伝熱面積を一層大きく確保できるから、被検体との接触面の温度上昇を一層抑制できる。なお、第3の伝熱部材としてヒートパイプを用いることができれば、されに伝熱を促進して接触面への温度上昇を抑制できる。
【0013】
また、ケースの内面に電磁波のシールド層を形成する場合、第1、第2及び第3の伝熱部材の少なくとも1つに電磁波のシールド層を接触させることができる。これによれば、ケースと伝熱部材とを伝熱係数の大きなシールド層で熱的に接続できるから、伝熱部材からケースへの伝熱を促進できる。
【0014】
また、バッキング部材を少なくとも2層に分割し、バッキング部材の層間に第4の伝熱部材を挿入して接着することができる。これによれば、バッキング部材における超音波の減衰によって生じた熱を、バッキング部材の外部に効率的に伝熱できるから、被検体との接触面の温度上昇を一層抑制できる。この場合において、複数の振動子と第4の伝熱部材の間に位置するバッキング部材の層を、バッキング部材の他の層よりも薄くすることが好ましい。これにより、超音波探触子の主な熱源である振動子に近づけ第4の伝熱部材を配置できるから、バッキング部材の音響特性を損なうことなく、振動子によって発生した熱を効率的に外部に伝熱できる。
【0015】
一方、本発明の超音波探触子を用いた超音波診断装置としては、超音波探触子と、超音波探触子に駆動信号を供給する送信部と、超音波探触子から出力される受信信号を受信する受信部と、受信部から出力される受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、超音波画像を表示する表示部とで構成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、バッキング部材の背面に伝熱部材を押圧接着するとともに、組立治具を大型化することなく、かつ、組立工程を煩雑化することなく、放熱効果を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態1の超音波診断装置の概略構成図である。
【図2】実施形態1の超音波探触子の概略構成図である。
【図3】図2の超音波探触子を短軸方向から見た側面図である。
【図4】第1と第2の伝熱部材をねじで締結した状態を示す図である。
【図5】実施形態1の超音波探触子の放熱効果を示す図である。
【図6】実施形態2の超音波探触子の概略構成図である。
【図7】実施形態3の超音波探触子の概略構成図である。
【図8】実施形態3の超音波探触子の放熱効果を示す図である
【図9】実施形態4の超音波探触子の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、超音波診断装置を説明した後、超音波探触子を説明する。
(実施形態1)
図1に示すとおり、本実施形態の超音波診断装置1は、被検体2との間で超音波の送受信を行う超音波探触子3と、超音波探触子に駆動信号を供給するとともに超音波探触子から出力される受信信号を受信する超音波送受信部4と、超音波送受信部4から出力される反射エコー信号に基づいて超音波画像を形成する超音波画像形成部5と、超音波画像を表示する表示部6と、これらを制御する制御部7と、制御部7に指示を与えるコントロールパネル8とを備えている。
【0019】
超音波送受信部4は、例えば、超音波探触子3を駆動するための送波パルスを超音波探触子3に供給するとともに、超音波探触子3が受信した反射エコー信号を受信して処理するようになっている。超音波送受信部4は、超音波探触子3の駆動を制御する駆動信号を供給する送信部と、被検体内からの反射エコー信号を受信する受信部と、受信した反射エコー信号を直交検波して複素信号に変換する複素信号変換部と、これらの各部を制御する超音波送受信制御部などで構成されている。
【0020】
超音波画像形成部5は、例えば、超音波送受信部4の複素信号変換部で変換された複素信号を用いて超音波画像を生成するようになっている。つまり、超音波画像形成部5は、複素信号を用いて検査対象の超音波画像情報を生成する超音波画像情報生成部と、生成された超音波画像情報をテレビ表示画像パターンに走査変換して超音波画像データを生成するディジタルスキャンコンバータ部(Digital Scan Converter;以下、DSC部という。)と、このDSC部で走査変換して得られた画像データに基づく画像に付帯するためのスケールやマーク及び文字等のグラフィックデータを生成するグラフィックデータ生成部と、DSC部で生成した超音波画像データとグラフィックデータ生成部で生成したグラフィックデータとを合成して記憶する合成記憶部、例えば、ハードディスクや一時記憶メモリ(RAM)などを備える合成記憶部と、超音波画像情報生成部、DSC部、グラフィックデータ生成部及び合成記憶部の各種処理に必要な初期値や制御パラメータなどを制御部7から読み出して設定するためのインターフェィスなどを備えて構成される。
【0021】
表示部6は、超音波画像形成部5で形成された超音波画像を表示する周知の表示手段、例えばCRTモニタや液晶モニタなどを備えている。制御部7は、コントロールパネル8からの指示のもとに各構成要素の動作を制御するもので、例えば、制御用コンピュータによって構成されている。制御部7は、それに含まれるユーザインターフェース及びユーザインターフェースからの情報などから超音波送受信部4と超音波画像形成部5を制御するようになっている。また、超音波画像形成部5で画像化した情報を表示部6の表示制御部に伝送するなどの制御を行なうようになっている。
【0022】
このように構成される超音波診断装置1は、例えば、被検体2の診断部位の2次元超音波画像、3次元超音波画像或いは各種ドプラ画像などの種々の超音波画像を形成して表示するようになっている。
【0023】
次に、図2、3を用いて本実施形態の超音波探触子3を説明する。超音波探触子(超音波プローブ)3は、振動子を複数配列して形成された複数の振動子9と、複数の振動子9の背面に接着されたバッキング部材11と、後述する伝熱部材40と、これらを収容するケース13を備えている。
【0024】
複数の振動子9は、信号電極21と接地電極23の間に、例えば、複数の圧電素子を挟んで形成されている。信号電極21は、例えば、アレイ化された信号電極21であり、複数の振動子9の背面側に金、銀等のスパッタリング等で形成されている。信号電極21には、信号線22がはんだ付け等で電気的に接続されている。接地電極23は、複数の振動子9の超音波送受信面側(表面側)及び側面側に、信号電極21と同様に形成されている。接地電極23には、接地線24がはんだ付け等で電気的に接続されている。信号線22と接地線24は、はんだ付け又はコネクタ基板によってケーブル25に接続されている。ケーブル25は、例えば、多数の電線を束ねて形成され、超音波送受信部4と電気的に接続されている。これにより、複数の振動子9と超音波送受信部4が電気的に接続され、これらの間で駆動信号や反射エコー信号などの電気信号が送受されるようになっている。
【0025】
複数の振動子9は、例えば、PZT系などの圧電セラミックス、PZT系やLiNbOなどの単結晶およびPVDFなどの高分子などで構成され、アレイ化されて配列されている。各振動子には、信号線22や接地線24がそれぞれ接続されている。なお、複数の振動子9は、本実施形態に限定されるものではなく、超音波を送受信する周知の振動子を用いることができる。
【0026】
バッキング部材11は、複数の振動子9の背面側に射出された超音波を減衰させるものであり、複数の振動子9の背面に、例えば、接着材で押圧接着されている。複数の振動子9とバッキング部材11のそれぞれの接着面は、同一寸法に形成されている。これにより、複数の振動子9とバッキング部材11の音響特性を確保して、複数の振動子9からバッキング部材11に超音波を効率的に伝播できるようになっている。バッキング部材11は、複数の振動子9と音響インピーダンスを整合する材料や寸法に形成されている。バッキング部材11は、例えば、フェライト粉末を充填したゴム材、エポキシ樹脂、ゴム材にタングステン粉末やマイクロバルーンなどを充填したもので形成されている。バッキング部材11は、超音波を減衰できる厚さに形成されている。なお、複数の振動子9と音響インピーダンスを整合させるため、バッキング部材11を複数の層で形成することができる。
【0027】
ケース13は、T字状に形成され、複数の振動子9とバッキング部材11を収容するヘッド部31とヘッド部31の背面側に一体形成された把持部33とを有している。ケース13は、放熱性、難燃性、電気安全性、耐圧性、耐薬品性、生体適合性等を考慮し、変性ポリフェニレンエーテル等の樹脂で形成されている。ケース13のヘッド部31は、複数の振動子9の超音波送受信面側に開口が形成されている。ヘッド部31の開口には、被検体2に接触される音響レンズ35が配置されている。
【0028】
音響レンズ35は、複数の振動子9から被検体2に向けて送信される超音波信号を収束するように、例えば、短軸方向の端面を円弧状に膨出した形状に形成されている。音響レンズ35は、複数の振動子9に押圧接着された音響整合部材37に接着されている。音響整合部材37は、複数の振動子9の音響インピーダンスを被検体2の音響インピーダンスに整合させるものであり、例えば、被検体2と複数の振動子9の中間の音響インピーダンスをもつように形成できる。なお、音響整合部材37を例えば2層以上の層状に形成することができる。
【0029】
ケース13のT字の脚部にあたる把持部33は、例えば、医師等の操作者によって握られる部分である。把持部33には、ケーブル25を引出す開口が形成されている。
【0030】
このように構成される超音波探触子3は、操作者が把持部33を把持してヘッド部31を被検体2に向け、被検体2に音響レンズ35を接触させて用いられるようになっている。
【0031】
次に、本実施形態の特徴構成を説明する。バッキング部材11の背面側には、超音波の送信によって生じた熱をケース13に伝熱する伝熱部材が設けられている。伝熱部材は、第1の伝熱部材である背面伝熱部材41と、第2の伝熱部材である背面伝熱部材43の2つに分割されている。背面伝熱部材41、43は、銅やアルミニウムなどの金属、カーボングラファイトなどの伝熱係数の大きな材料で形成されている。
【0032】
背面伝熱部材41は、ケース13のヘッド部31に収容され、バッキング部材11の背面に接着材によって押圧接着されている。背面伝熱部材41の背面側には、図4に示すとおり、雌ねじが切られたねじ穴47が形成されている。ねじ穴47は、例えば、背面伝熱部材41の長手方向の両端部にそれぞれ形成されている。
【0033】
背面伝熱部材41の背面、言い換えると、ねじ穴47が形成された面には、ケース13に対応するT字状に形成された背面伝熱部材43が固定されている。背面伝熱部材43は、T字状の頭部がケース13のヘッド部31に収容され、T字の脚部がケース13の把持部33に収容されている。背面伝熱部材43には、貫通穴49が形成されている。貫通穴49は、ねじ穴47に対応させ、背面伝熱部材43のT字状の頭部の長手方向の両端部にそれぞれ形成されている。この貫通穴49にねじ51を挿入して背面伝熱部材41のねじ穴47に螺合させることで、背面伝熱部材41に背面伝熱部材43を締結して熱的に接続できるようになっている。背面伝熱部材43の背面伝熱部材41に対向する面は、背面伝熱部材41の背面よりも面積が大きく形成されている。
【0034】
また、バッキング部材11の長手方向の側面には、それぞれ第3の伝熱部材である板状の側面伝熱部材53が接着されている。側面伝熱部材53は、背面伝熱部材41の長手方向の側面にも接着されている。そして、側面伝熱部材53の端部は、背面伝熱部材43に熱的に接続されている。側面伝熱部材53は、銅やアルミニウムなどの金属、カーボングラファイトなどの伝熱係数の大きな材料で形成されている。
【0035】
また、複数の振動子9、バッキング部材11、音響整合部材37、背面伝熱部材41、43、側面伝熱部材53とケース13の内面によって形成された空間には、図示していない樹脂が充填されている。充填する樹脂には、例えば、伝熱係数の高い樹脂、例えば、シリコン、又はエポキシ樹脂などを用いることができる。これにより、背面伝熱部材41、43、側面伝熱部材53とケース13とが樹脂によって熱的に密に接続されるからケース13への伝熱を促進される。
【0036】
ここで、本実施形態の超音波探触子3における被検体2との接触面の温度上昇を抑制する作用を説明する。超音波送受信部4から複数の振動子9に向けて所定の送信電圧の駆動信号が供給され被検体2に超音波が照射される。この際、圧電素子で発生した熱が音響整合部材37を介して音響レンズ35に伝熱されるとともに、バッキング部材11に伝熱される。
【0037】
バッキング部材11に伝熱された熱、及び超音波の減衰によってバッキング部材11で発生した熱は、側面伝熱部材53に伝熱される。側面伝熱部材53に伝熱された熱は、ケース13内に充填されている樹脂を介してヘッド部31のケース13に伝熱され外部に放熱される。側面伝熱部材53に伝熱しきれなかった熱は、バッキング部材11の背面から背面伝熱部材41に伝熱される。側面伝熱部材53に伝熱された熱は、背面伝熱部材41に伝熱される。背面伝熱部材41に伝熱した熱は、背面伝熱部材41から背面伝熱部材43に伝熱される。背面伝熱部材43に伝熱された熱は、ケース13内に充填されている樹脂を介してヘッド部31及び把持部33のケース13に伝熱され外部に放熱される。これにより、各振動子で発生した熱を外部に放熱できるので、各振動子から音響レンズ35に伝熱される熱を低減でき、被検体2との接触面である音響レンズ35の温度上昇を抑制できる。
【0038】
例えば、本実施形態の超音波探触子3を30分間空中に放置して駆動した後、音響レンズ35の温度を測定した。その結果、図5に示すように、伝熱部材を設けていない従来の超音波探触子に比べて、28%の温度上昇低減効果が得られた。したがって、本実施形態の超音波探触子3を用いると、従来よりも送信電圧を高くできるから、超音波診断の診断領域、特に深さ方向を拡大できるのである。
【0039】
ところで、音響レンズ35の温度上昇を抑制するためには、伝熱面積を大きくすることが好ましい。そのため、本実施形態は、背面伝熱部材43をケース13に沿ったT字状に形成し、把持部33の位置まで背面伝熱部材43に延在し、伝熱面積を大きくしている。このようなT字状の背面伝熱部材43をバッキング部材11に押圧接着するには、組立治具が大型になり、作業が煩雑になる。
【0040】
そこで、本実施形態は、バッキング部材11の背面に、押圧接着が容易な小さな背面伝熱部材41を押圧接着する。そして、T字状の大きな背面伝熱部材43を、背面伝熱部材41にねじ51で締結し熱的に接続している。つまり、押圧接着よりも作業が容易なねじ止めでT字状の背面伝熱部材43を固定することで、組立作業が煩雑になることを防止しているのである。
【0041】
このような本実施形態によれば、超音波探触子3の音響特性を確保し、かつ、組立工程が煩雑化させることなく、伝熱面積の大きなT字状の背面伝熱部材43を用いることができるから、放熱効果を向上できる。
【0042】
また、本実施形態の超音波探触子3は、心臓を診断対象にする場合に好適である。すなわち、心臓に超音波を照射する場合、超音波を肋骨間の隙間に通さなければならないから、薄型の超音波探触子が求められる。そのため、同じ送信電圧でも単位面積あたりの発熱量が高いから、放熱効果の大きな本実施形態の超音波探触子が好適である。
【0043】
また、超音波探触子3のヘッド部31を下に向け超音波を照射する場合、板状の側面伝熱部材53に代えて、密閉した容器に冷媒を封入したヒートパイプを用いることができる。
【0044】
また、板状の側面伝熱部材53に代えて、例えば、銅、アルミニウムなどの金属の薄膜やカーボングラファイト等の伝熱性の高いシートを、バッキング部材11の下層と背面伝熱部材41を覆うように巻き付け、熱的に接続することができる。
【0045】
また、圧電素子で発生する熱量が少ない場合は、側面伝熱部材53を省略できる。一方、圧電素子で発生する熱量が大きい場合は、バッキング部材11の短手方向にも側面伝熱部材53を設けることが好ましい。
【0046】
なお、背面伝熱部材43はT字状に限定されず、伝熱面積を大きくできるように、超音波探触子3の形状に合わせて適宜選択できる。
【0047】
(実施形態2)
図6を用いて、実施形態2の超音波探触子3を説明する。実施形態2が実施形態1と相違する点は、ケース13にシールド層55を形成し、このシールド層55を、背面伝熱部材43に熱的に接続させている点である。その他の構成は実施形態1と同じであるから、同一の符号を付して説明を省略する。
【0048】
シールド層55は、ケース13の内面に形成されており、ケーブル25の接地線24に電気的に接続されている。シールド層55は、銅、カーボングラファイト等の導電性を有し、かつ、伝熱係数の高い材質で箔状に形成されている。シールド層55は、背面伝熱部材43に接着剤、ねじ、嵌め合い等により熱的に接続されている。
【0049】
これによれば、シールド層55によって背面伝熱部材43とケース13の熱的な接続を密にできるから、ケース13への伝熱を促進できる。
【0050】
また、シールド層55の熱的な接続は、背面伝熱部材43に限定されず、背面伝熱部材41又は側面伝熱部材53にすることができるが、伝熱面積が最も大きな背面伝熱部材43に接続すると、音響レンズ35の温度上昇の抑制効果を大きくできる。
【0051】
また、外界からの電磁シールド効果を得るために、音響レンズ35と音響整合部材37の間、音響整合部材37の中間、音響整合部材37と複数の振動子9の間などに、銅などで構成された導電層を形成し、振動子と信号線22と接地線24が導電層とシールド層55によって全て囲まれるように電気的に接続されることが好ましい。
【0052】
なお、本実施形態の超音波探触子3を実施形態1の超音波診断装置1に適用できることはいうまでもない。
【0053】
(実施形態3)
図7を用いて、実施形態3の超音波探触子3を説明する。実施形態3が実施形態1と相違する点は、バッキング部材11を二層に形成し、その中間に第4の伝熱部材である中間伝熱部材57を押圧接着している点である。その他の構成は実施形態1と同じであるから、同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
中間伝熱部材57は、銅、アルミニウム、カーボングラファイト、アルミナの粉末を配合したエポキシ樹脂等により形成されている。中間伝熱部材57は、バッキング部材11の層間に挟み込まれ、端部が側面伝熱部材53に接着されている。中間伝熱部材57は、バッキング部材11の音響減衰効果が低下しないように、中間伝熱部材57の厚さが中間伝熱部材57での音波の波長に対して極力薄く形成されている。また、中間伝熱部材57の音響インピーダンスは、バッキング部材11の音響インピーダンスと同じ、又は近い値に設定され、バッキング部材11と中間伝熱部材57の界面で超音波が反射しないようになっている。
【0055】
これによれば、バッキング部材11に熱を、中間伝熱部材57から側面伝熱部材53に伝熱し、側面伝熱部材53からケース13に伝熱して放熱できるから、音響レンズ35の温度上昇の抑制効果を一層大きくできる。例えば、本実施形態の超音波探触子3を30分間空中に放置して駆動した後、音響レンズ35の温度を測定した。その結果、図8に示すように、伝熱部材を用いていない従来の超音波探触子に比べて33%の温度上昇低減効果が得られた。
【0056】
この場合において、バッキング部材11の層のうち、複数の振動子9側の層を薄くし、中間伝熱部材57を複数の振動子9に近づけて設置することで音響レンズ35の温度上昇の抑制効果を一層大きくできる。つまり、伝熱係数の大きな金属は、導電性を有し複数の振動子9に直接接続すると短絡するので、本実施形態は、複数の振動子9側のバッキング部材11の層によって中間伝熱部材57と複数の振動子9の間を絶縁しているのである。
【0057】
なお、本実施形態の超音波探触子3を実施形態1の超音波診断装置1に適用できることはいうまでもない。
【0058】
(実施形態4)
図9を用いて、実施形態4の超音波探触子3を説明する。実施形態4が実施形態3と相違する点は、ケース13内への樹脂充填に代えて、実施形態2のようにケース13内にシールド層55を形成し、シールド層55を、背面伝熱部材43に熱的に接続している点である。その他の構成は実施形態3と同一であるから、同一の符号を付して説明を省略する。
【0059】
これによれば、背面伝熱部材41、43,側面伝熱部材53、中間伝熱部材57から、ケース13内に充填された樹脂とシールド層55を介してケース13に伝熱されるから、音響レンズ35の温度上昇の抑制効果を一層大きくできる。
【0060】
なお、本実施形態の超音波探触子3を実施形態1の超音波診断装置1に適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0061】
3 超音波探触子
4 超音波送受信部
5 超音波画像形成部
6 表示部
9 複数の振動子
11 バッキング部材
13 ケース
31 ヘッド部
33 把持部
41,43 背面伝熱部材
51 ねじ
53 側面伝熱部材
55 シールド層
57 中間伝熱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の振動子と、該複数の振動子の背面に接着されたバッキング部材と、前記複数の振動子と前記バッキング部材を収容するヘッド部と該ヘッド部の背面側に一体形成された把持部とを有してなる樹脂製のケースと、前記バッキング部材の背面に接着されて前記ヘッド部から前記把持部にわたって収容された伝熱部材とを備え、前記ヘッド部のケースは、前記複数の振動子の超音波送受信面側に開口を有して形成されてなる超音波探触子において、
前記伝熱部材は、前記バッキング部材の背面に接着されて前記ヘッド部に位置された第1の伝熱部材と、該第1の伝熱部材の背面に熱的に接続されて前記ヘッド部から前記把持部にわたって収容された第2の伝熱部材とからなり、該第2の伝熱部材は前記第1の伝熱部材の背面にねじで固定されてなることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波探触子において、
前記ケースと前記第2の伝熱部材は、T字状に形成されてなることを特徴とする超音波探触子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の超音波探触子において、
前記複数の振動子、前記バッキング部材、及び前記第1と第2の伝熱部材と前記ケースとの間に形成される空間に樹脂が充填されてなることを特徴とする超音波探触子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波探触子において、
前記バッキング部材の少なくとも長手方向の側面に第3の伝熱部材が接着されてなることを特徴とする超音波探触子。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波探触子において、
前記第3の伝熱部材はヒートパイプであることを特徴とする超音波探触子。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超音波探触子において、
前記ケースは、内面にシールド層を有してなり、該シールド層を前記第1、第2及び第3の伝熱部材の少なくとも1つに接触させて形成されてなることを特徴とする超音波探触子。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超音波探触子において、
前記バッキング部材は少なくとも2層に分割され、該バッキング部材の層間に第4の伝熱部材が接着されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の超音波探触子に駆動信号を供給する送信部と、前記超音波探触子から出力される受信信号を受信する受信部と、該受信部から出力される受信信号に基づいて超音波画像を形成する画像形成部と、前記超音波画像を表示する表示部とを備えてなることを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−27667(P2013−27667A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167564(P2011−167564)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】