説明

超音波探触子

【課題】超音波探触子に衝撃力が及んだ場合にアレイ振動子や音響レンズ等の破損を防止する。
【解決手段】本体ケース12の収容室20内には可動体としての振動子ユニット14が収容されている。通常状態において、振動子ユニット14の前端部が部分的に開口部から突出した状態となるように振動子ユニット14が設けられている。振動子ユニット14の前後方向の運動は案内構造によって案内される。それは2つの案内ピン22,23と2つの案内孔26,30とにより構成される。2つのピン22,23を取り囲むように2つのバネ22A,23Aが設けられ、それらによって前方への付勢力が発揮される。これにより前方からの衝撃力が2つのバネ22A,23Aによって吸収される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波探触子に関し、特に衝撃吸収構造を備えた超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、超音波診断装置本体とそれに接続される超音波探触子とにより構成される。超音波探触子は、コネクタ、ケーブル、ヘッドにより構成される。ヘッドがユーザーにより把持され、その生体当接面(音響レンズの表面)が生体表面上に当接される。その状態で超音波診断が実行される。超音波探触子として各種のプローブが提供されている。代表的なものとしてはコンベックス型プローブがあげられる。それは音響レンズが電子走査方向に凸型に湾曲しているものである。音響レンズは音響的な超音波集束作用を発揮するためにエレベーション方向(電子走査方向と直交する方向)にも丸みをもっている。コンベックス型プローブでは、超音波ビームが電子リニア走査され、その走査エリアである走査面は扇状の形状となる。
【0003】
ところで、従来の超音波探触子は、アレイ振動子、整合層、バッキング、音響レンズ等を備えた振動子ユニットを備える。振動子ユニットは探触子ケースに対して接着剤やネジによって固着されている。すなわち、探触子ケースと振動子ユニットとは一体化されており、振動子ユニットが探触子ケースに対して運動することはない。
【0004】
超音波探触子がプローブホルダや手から離脱して落下すると、多くの場合に、音響レンズがフロア面に衝突する。超音波探触子において振動子ユニットはその前端側(生体側)に設けられており、重心点が通常前側にあり、また探触子ケースの後端からケーブルが引き出されているからである。特にコンベックスプローブにおいては、大きな音響レンズが凸型をもって配置されているので、そこに落下時の衝撃が及ぶ可能性は非常に高い。
【0005】
そのような衝撃による問題として、振動素子の破損、音響レンズの破損等があげられる。故障が生じると、超音波探触子を修理又は交換しなければならなくなる。そこまでの故障ではないとしても、一部の振動素子の動作不良は超音波画像上で筋やノイズを生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006―6485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1には体腔内挿入型のプローブが開示されている。ケース内には振動子や揺動機構を備えたユニットが設けられ、当該ユニットは前後方向にスライド可能であり、後方への運動力がバネによって吸収されている。この構成では、外部からの衝撃力はケース先端部に直接及んでいる。ケースはハンドピース全体を構成しており、このプローブは体腔内挿入型であってユニットを封入する必要があるから、かかる構成を採用したものと推察される。この従来技術では、ユニットの前後運動を許容しつつもその運動方向を正確に規定する構造は認められない。
【0008】
本発明の目的は、超音波探触子の落下時における音響レンズ及びアレイ振動子の保護を図ることにある。あるいは、本発明の目的は、コンベックスプローブの耐衝撃性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超音波探触子は、開口部に連なるユニット収容室を有する探触子ケースと、前記ユニット収容室に運動可能に設けられ、前記開口部から露出する音響レンズとその後方に設けられた振動素子列とを有する可動体としての振動子ユニットと、前記振動子ユニットの前後方向の運動を案内する案内構造と、前記振動子ユニットに対して前方から及んだ衝撃力を吸収する衝撃吸収手段と、を含み、前記振動子ユニットが前進端にある場合には前記音響レンズが前記開口部よりも前方へ突出した突出状態が形成され、前記振動子ユニットに対して前方から衝撃力が及んだ場合には前記振動子ユニットが後退運動し、当該衝撃力が前記衝撃吸収手段によって吸収される、ことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、振動子ユニットが可動体として構成され、すなわち、探触子ケースに対して振動子ユニットを運動させることが可能となっている。振動子ユニットに対して前方から衝撃力が加わると、振動子ユニットが後退運動し、その衝撃力が衝撃吸収手段によって吸収される。衝撃吸収手段は、バネ、弾性材料、その他によって構成される。衝撃吸収手段が振動子ユニットに対して常時前方への付勢力を生じさせるように構成してもよい。体表面上への振動子ユニットの当接時に不用意に振動子ユニットが後退しないように、かつ、プローブ落下等によって衝撃力が実際に生じた場合には振動子ユニットの後退運動が生じるように、前方への付勢力あるいは衝撃吸収手段の作用を適宜定めておくのが望ましい。望ましくは、通常使用状態において振動子ユニットの音響レンズが部分的に開口部から前方へ突出した状態となる。よって、生体表面への密着性を良好にできる。なお、発展的な構成として生体当接時に振動子ユニットが若干後退するような態様も考えられる(ソフトタッチ機能)。前方への付勢力の大きさを弱めることによってそれを実現可能である。
【0011】
望ましくは、前記案内構造は、前記探触子ケース内の壁部及び前記振動子ユニットの一方に形成された前後方向に伸長する少なくとも1つの案内ピンと、前記探触子ケース内の壁部及び前記振動子ユニットの他方に形成され、少なくとも1つの案内ピンが挿入される少なくとも1つの案内孔と、を含む。この構成によれば、案内ピンと案内孔の係合を利用して振動子ユニットの運動方向を規定することができる。振動子ユニットの運動時にその中心軸を前方に向けたまま平行移動するように構成するのが望ましい。
【0012】
望ましくは、前記案内構造は、前記探触子ケース内の壁部及び前記振動子ユニットの一方において左右方向に並んで設けられた複数のピンであって、それぞれが前後方向に伸長する複数の案内ピンと、前記探触子ケース内の壁部及び前記振動子ユニットの他方において左右方向に並んで設けられた複数の孔であって、前記複数の案内ピンが挿入される複数の案内孔と、を含む。このように複数の案内ピンと複数の挿入孔を利用すれば振動子ユニットの周囲に隙間があってもそれを確実に平行移動させることが可能となる。
【0013】
望ましくは、前記開口部と前記振動子ユニットの前端部との間には隙間が形成され、前記隙間には前記振動子ユニットの前後方向の運動を許容しつつも前記隙間をシールするシール材が設けられる。シール材としてはOリングの他、充填シール材料等を用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、超音波探触子の落下時における音響レンズ及びアレイ振動子の保護を図れる。あるいは、コンベックスプローブの耐衝撃性を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る超音波探触子の部分断面図である。
【図2】図1に示すA部分の拡大図である。
【図3】図1に示すA部分の拡大図であって特に振動子ユニットが後退した状態を示す図である。
【図4】超音波探触子の側面図である。
【図5】超音波探触子の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0017】
図1には、本発明に係る超音波探触子の好適な実施形態が示されている。この超音波探触子は超音波診断装置本体に対して着脱自在に接続されるものである。この超音波探触子を用いて生体に対する超音波の送受波が実行される。
【0018】
図1において、超音波探触子10は、コンベックス型のプローブであり、すなわち生体に当接される部分が丸みをもって凸型に湾曲した形態を有している。後に説明するアレイ振動子は複数の振動素子によって構成され、その素子配列方向が円弧状に湾曲している。超音波探触子10は、本体ケース12と可動体としての振動子ユニット14とを有する。本体ケース12はグリップ部12Aとその前方側に設けられた先端部12Bとを有している。ちなみに図1において上下方向が超音波探触子10の前後方向であり、すなわちプローブ中心軸方向である。
【0019】
本体ケース12における先端部12Bは収容室20を有している。その収容室20は生体側に形成された開口部に連なる空洞である。その収容室20内に振動子ユニット14が配置されている。振動子ユニット14は前後動が可能な状態で収容室20に設けられている。先端部12B内には図1において左右方向に広がった中間壁18が設けられている。そのような内部の構造体に対して2つの案内ピン22,23が起立形成されている。各案内ピン22,23は前方に伸長した円柱形状の支柱である。2つの案内ピン22,23は可動体としての振動子ユニット14に形成された2つの案内孔26,30にスライド可動に係合している。この2つの案内ピン22,23と2つの案内孔26,30との係合により振動子ユニット14の前後運動が案内されている。振動子ユニット14はその中心軸方向に平行運動する。各ピン22,23の周囲に各バネ22A,23Aが設けられている。
【0020】
先端部12Bにおいてその前端部分が周縁部12Cでありすなわちその周縁部12Cは開口部の周囲を構成している。図1において、振動子ユニット14は前進端にあり、すなわちそれは突出状態にある。具体的には、振動子ユニット14の前方側の端部すなわち音響レンズの一部が開口部から生体側に突出した状態となっている。なお、本体ケース12の後端部にはケーブル16が設けられている。
【0021】
図2には、図1に示したA部分の拡大図が示されている。振動子ユニット14は、上述した2つの案内孔を有するベース部材32と、そのベース部材32の前方側に形成されたバッキング34とを有している。バッキング34は左右方向に一定の厚みをもって形成されており、具体的には湾曲した形態を有している。バッキング34の上にはアレイ振動子36が設けられている。アレイ振動子36は複数の振動素子により構成され、それらは電子走査方向に湾曲して配列されている。各振動素子間には音響的な隔絶を行うためのスリットが形成されており、そのスリット内には一般的には充填材が設けられる。アレイ振動子36の生体側には整合層が形成されており、その整合層も複数の振動素子に対応して複数の整合素子からなる。整合層38の生体側には音響レンズ40が設けられている。音響レンズ40の周縁は非生体側に延長しておりすなわちスカート部40Aが構成されている。
【0022】
ベース部材32はその下部に水平方向に広がった肩部32Aを有する。その肩部32Aの上面が本体ケース側に形成された引っ掛け部12Dにあたり、これによって振動子ユニット14が前方に抜け出てしまうことが防止されている。すなわち、2つのピンに設けられた2つのバネにより振動子ユニット14に対しては前方への付勢力が常時及んでおり、肩部32Aが引っ掛け部12Dに突き当たることによって振動ユニット14の前進端が構成されている。その状態においては図2においてL1で示されるように周縁部よりも音響レンズが部分的に前方に突出した状態となっており、具体的にはそのL1は例えば1〜2mmである。このような突出状態を形成すれば、生体への接触時において音響レンズの全面を生体表面に密着させることが容易となる。ちなみに、本実施形態においては2つのバネの付勢力は生体当接時において容易には振動子ユニット14が後退しない程度の大きさに設定されている。また、超音波探触子の落下等によって前方から衝撃力が振動子ユニットに及んだ場合には当該振動子ユニットが若干後退する程度の大きさとなっている。2つのバネに代えて弾性体その他の付勢力発生手段を設けるようにしてもよい。いずれにしても衝撃が及んだ場合において当該衝撃を吸収できる手段を設けるのが望ましい。コンベックス型のプローブの場合、落下時においては、多くの場合に丸みをもって突出した音響レンズにその衝撃力が及ぶことになり、その衝撃力が上述したように2つのバネによって吸収されている。したがってそのような衝撃吸収によりアレイ振動子や音響レンズの破損といった問題を効果的に防止又は軽減することが可能となる。
【0023】
図3には衝撃力が及んで振動子ユニットが若干後退した状態が示されている。図3において符号100は前方からの衝撃力を表している。この場合においては周縁部の端12Eと同じレベルあるいはそれよりも引っ込んだレベルに音響レンズの表面40Bが位置することになる。またその状態では引っ掛け部12Dから肩部の上面32Bが離れることになる。
【0024】
図4には超音波探触子の側面が示されている。周縁部12Cよりも音響レンズ40の上面が前方に若干突出している。Cは図4においてBで示される部分の拡大図である。突出量がL2で示されている。前方からの衝撃力が及ぶと振動子ユニットが若干ながら後方へ後退する。その状態がDで示されている。ここでは符号L3として後退運動のストロークが若干誇張して示されている。
【0025】
図5には超音波探触子の部分拡大図が示されている。振動子ユニット14前端部と周縁部12Cとの間には隙間102が存在する。そのような隙間があったとしても上述した実施形態においては上述したような案内構造が採用されているため、振動子ユニット14を平行状態を維持したまま後方へ運動させることが可能である。周縁部12Cの内側すなわち開口部側の内面には2つのリング状の溝44,46が形成されている。それらには2つのOリング48,50が設けられている。それらはシール機能を発揮するものである。また隙間102及び隙間に連通する内部空間には充填材52が充填されている。それらは振動子ユニット14の動きを妨げない程度の粘性等を有しており、そのような充填材の充填により外部から水や異物の進入を効果的に排除することができる。その場合においても、振動子ユニット14の前後運動は何ら妨げられない。
【0026】
上述した案内構造として、本実施形態においては、2つの案内ピンと2つの案内孔とが設けられている。2つの案内ピンは例えばアルミニウム等の金属部材によって構成するのが望ましく、またそれを受け入れる側の材料として金属部材を利用してもよい。あるいはそのような部材として硬質の材料を利用するようにしてもよい。上述した2つのバネは圧縮状態で入れられており、前方への付勢力が発揮されている。もちろん伸長状態でバネを入れて前方への付勢力を発揮させるような構造を採用することも可能である。振動子ユニットの前後運動を妨げないようにケース内においてケーブルあるいは信号線にたるみをもってそれらを配設するのが望ましい。
【符号の説明】
【0027】
10 超音波探触子、12 本体ケース、14 振動子ユニット(可動体)、20 収容室、22,23 案内ピン、26,30 案内孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部に連なるユニット収容室を有する探触子ケースと、
前記ユニット収容室に運動可能に設けられ、前記開口部から露出する音響レンズとその後方に設けられた振動素子列とを有する可動体としての振動子ユニットと、
前記振動子ユニットの前後方向の運動を案内する案内構造と、
前記振動子ユニットに対して前方から及んだ衝撃力を吸収する衝撃吸収手段と、
を含み、
前記振動子ユニットが前進端にある場合には前記音響レンズが前記開口部よりも前方へ突出した突出状態が形成され、前記振動子ユニットに対して前方から衝撃力が及んだ場合には前記振動子ユニットが後退運動し、当該衝撃力が前記衝撃吸収手段によって吸収される、
ことを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
請求項1記載の超音波探触子において、
前記案内構造は、
前記探触子ケース内の壁部及び前記振動子ユニットの一方に形成された前後方向に伸長する少なくとも1つの案内ピンと、
前記探触子ケース内の壁部及び前記振動子ユニットの他方に形成され、少なくとも1つの案内ピンが前後動可能に挿入される少なくとも1つの案内孔と、
を含むことを特徴とする超音波探触子。
【請求項3】
請求項2記載の超音波探触子において、
前記案内構造は、
前記探触子ケース内の壁部及び前記振動子ユニットの一方において左右方向に並んで設けられた複数のピンであって、それぞれが前後方向に伸長する複数の案内ピンと、
前記探触子ケース内の壁部及び前記振動子ユニットの他方において左右方向に並んで設けられた複数の孔であって、前記複数の案内ピンが前後動可能に挿入される複数の案内孔と、
を含むことを特徴とする超音波探触子。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波探触子において、
前記開口部と前記振動子ユニットの前端部との間には隙間が形成され、
前記隙間には前記振動子ユニットの前後方向の運動を許容しつつも前記隙間をシールするシール材が設けられた、ことを特徴とする超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−85723(P2012−85723A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233469(P2010−233469)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】