説明

超音波流量計

【課題】フッ素樹脂製測定用管体の内表面を処理して親水性を持たせる。
【解決手段】 測定用管体2は測定流体Fの入口部3から出口部4に向かって配置されている。クランク状に折曲された測定用管体2の角部5、6には超音波送受信器7、8が対向して取り付けられている。測定用管体2はフッ素樹脂から成り、その内表面を処理液により濡れ性を改質し、測定用管体2中に流れる液体に含まれる気泡の内表面への付着を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定用管体に気泡が付着し難い測定用管体を用いた超音波流量計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体製造装置等で使用する超音波流量計における測定用管体には、化学的安定性の点からフッ素樹脂製の配管が成型、加工されたままの状態で使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−314041号公報
【特許文献2】特開昭63−120745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フッ素樹脂は多くの高分子材料の中でも特に化学的安定性に優れた材料であり、それが長所となってフッ素樹脂の応用製品が使用されている。しかし、半導体製造装置等で使用する超音波流量計に備えられたフッ素樹脂製の測定用管体に、気泡が含まれている測定流体を流すと、管体の内表面に気泡が付着し易くなって、超音波ビームの進行を阻害し、正確な流量測定を不能にする。このように、管体の内表面に気泡が付着するのはフッ素樹脂が撥水性を有し、フッ素樹脂の表面に対して液体が濡れ難くなるためである。
【0005】
特許文献1には、フッ素樹脂表面の撥水性を改良するために、光触媒をコーティングして材料表面の親水性を著しく向上させる方法が開示されている。
【0006】
また特許文献2には、フッ素樹脂と他の材料の接着性を向上させるために、フッ素樹脂表面からフッ素を引き抜く前処理方法が開示されている。
【0007】
本発明の目的は、上述の課題を解消し、フッ素樹脂から成る測定用管体の内表面の液体に対する濡れ性を改良して気泡の付着を防止し、測定液体中に気泡が含まれていても、測定精度を劣化させることのない超音波流量計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る超音波流量計は、フッ素樹脂製の測定用管体を用いた超音波流量計において、前記測定用管体の内表面に処理液を作用させて、前記内表面に対して流す液体の濡れ性を高め、前記測定液体中に含まれる気泡の前記測定用管体の前記内表面への付着を防止したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る超音波流量計によれば、フッ素樹脂製の測定用管体の内表面において測定液体中の気泡の付着が防止され、流量測定における誤動作発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】超音波流量計の通液部の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は超音波流量計の通液部1の構成図を示し、測定用管体2は測定流体Fの入口部3から出口部4に向かって配置されている。クランク状に折曲された測定用管体2の角部5、6には超音波送受信器7、8が対向して取り付けられている。測定用管体2はフッ素樹脂から成り、その内表面は後述する処理方法によって加工されている。
【0012】
超音波送受信器7、8からは交互に超音波ビームが出射され、測定用管体2内の測定流体Fを経て、相手側の超音波送受信器8、7に送信されることが繰り返される。この過程において、測定流体Fの流れ方向と同方向に進む超音波ビームの相手側までの到達時間は小さくなり、逆方向に進む超音波ビームの到達時間は大きくなる。これらの到達時間差を基に測定流体Fの速度が得られ、流体速度と測定用管体2の断面積の積により流量を求めることができる。しかし、測定用管体2の内表面に気泡が付着すると、超音波ビームの進行が阻止され、流量測定が不可能になることがある。
【0013】
フッ素樹脂製の測定用管体2の内表面の液体に対する濡れ性を改良するために、例えば特許文献2に記載されているように、フッ素樹脂の表面からフッ素を引き抜く前処理方法が採られる。この方法は、フッ素樹脂表面の表面張力を下げて濡れ性を改良する目的で使用され、フッ素樹脂の撥水性を著しく緩和する。前処理工程で使う処理液中には、金属ナトリウムが含まれており、それがフッ素樹脂に作用して表面のフッ素を引き抜き、同時にフッ化ナトリウムを生成する。
【0014】
測定用管体2の内表面を処理するには、表面処理液としては金属ナトリウムをそれに反応しない有機溶媒、ジメチルハイドロフラン(THF)、1.3−ジメチル−2−イミダゾリシン(DMI)、ジメチルアセトアミド(DMA)などに分散した液を用いる。これらの分散溶液のうち、一種又は数種混合の溶液に、或いはTHFを共存させたそれらの混合溶液に、金属ナトリウムとナフタリンを徐々に加えて24時間放置した後に、十分に攪拌して調合する。
【0015】
このように調合された処理液で測定用管体2の内表面を処理するには、注射器状の注入器等で吸引した処理液を測定用管体2内に注入すればよい。更に、生成したフッ化ナトリウムを除去するために、純水で十分に洗浄することが好ましい。
【0016】
なお、表面処理方法としてはフッ素樹脂の表面を改善できるものであれば、例えば液体アンモニアに1%の金属ナトリウムを添加して調合した処理液を用いるアンモニア法、水と苛性ソーダとアルコールを3:1:1の割合で混合して調合した処理液を用いる苛性ソーダ法、或いはTHF1リットルにナフタリン128gと金属ナトリウム23gを添加して調合した処理液を用いるナフタリン法なども応用可能である。
【0017】
また、前述のナフタリンに代えてアントラセンも使用できる。更に、使用するアルカリ金属としては金属ナトリウムの他に金属リチウム、金属カリウム等も使用できる。
【0018】
表1は超音波流量計にフッ素樹脂の4フッ化エチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)から成る測定用管体2を用い、内表面を先の方法で表面処理した場合と、未処理の場合との測定状態を比較して示したものである。
【0019】
測定流体Fは気泡を混入させた純水と、CMPスラリ液とに対し実験を行い、15時間の計測中に測定不能が発生した回数をエラー継続時間ごとに示している。エラー継続時間とは、測定用管体2中を測定流体Fが流れている場合でも、気泡の付着により超音波ビームの進行が阻止され、測定値が得られなくなる時間幅である。
【0020】
表1
測定液体 純水
エラー継続時間 処理直後 処理なし
1秒 2回 73回
2〜5秒 2 35
6〜10秒 0 9
11〜20秒 0 26
21秒以上 0 131

測定液体 CMPスラリ液
エラー継続時間 処理後2ヶ月経過 処理なし
1秒 16回 51回
2〜5秒 11 65
6〜10秒 0 2
11〜20秒 0 1
21秒以上 0 2
【0021】
測定用管体2の内表面を処理せずに純水を流した場合には、15時間の計測時間内に、気泡の付着に基づく誤動作の1秒間続く発生回数は73回、21秒以上続く発生回数は131回にも達した。
【0022】
しかし、測定用管体2の内表面を処理した直後に純水を流した場合には、1秒間続く発生回数が2回、2〜5秒間続く発生回数が2回、そしてそれ以上は発生せず、激減することが分かる。
【0023】
また、CMPスラリ液を未処理の測定用管体2に流した場合には、1秒間に続くエラー継続時間の発生回数が51回、2〜5秒続く発生回数が65回にも達した。これに対して、処理後2ヶ月通液した後の測定用管体2では、1秒間続く発生回数が16回、2〜5秒間続く発生回数は11回になり、明らかに処理の効果は直後に顕著となり、その後も持続することが分かる。
【0024】
測定用管体2の内表面の処理により、混入する気泡が容易に排出されるために、付着した気泡による流体の圧力変動がなくなり、安定した流量制御が可能になる。
【0025】
また、測定用管体2の内表面に気泡が付着し難くなると、通液開始時に費やす気泡除去のための作業時間も短縮し、測定効率は一段と向上する。
【0026】
なお、フッ素樹脂としては上述のPFAの他にNewPFAや、ポリ4フッ化エチレン、ポリ3フッ化エチレン、4フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体も使用できる。
【符号の説明】
【0027】
1 超音波流量計の通液部
2 測定用管体
3 入口部
4 出口部
5、6 角部
7、8 超音波送受信器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂製の測定用管体を用いた超音波流量計において、前記測定用管体の内表面に処理液を作用させて、前記内表面に対して流す液体の濡れ性を高め、前記測定液体中に含まれる気泡の前記測定用管体の前記内表面への付着を防止したことを特徴とする超音波流量計。
【請求項2】
前記処理液として、沸点が高く金属ナトリウムと反応しない単独又は複合の溶液に金属ナトリウムとナフタリンを添加して調合した溶液を使用することを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。
【請求項3】
前記処理液として、沸点が高く金属ナトリウムと反応しない単独又は複合の溶液にテトラヒドロフラン(THF)を混合した溶液を使用することを特徴とする請求項1に記載の超音波流量計。

【図1】
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【公開番号】特開2010−243245(P2010−243245A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−90191(P2009−90191)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(390026996)東京計装株式会社 (57)
【Fターム(参考)】