説明

超音波測定装置及び超音波測定装置の制御方法

【課題】測定対象血管の血管径を正しく測定するための新たな手法の提案。
【解決手段】複数の超音波振動子を有する超音波の送受信部であるプローブ10から超音波が送受信される。内腔内膜境界検出部310は、超音波の受信結果に基づいて、測定対象血管の内腔内膜境界からの反射波を検出する。そして、送受信制御部320は、内腔内膜境界検出部310による内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるようにプローブ10を制御する。血管径算出部340は、超音波の受信結果に基づいて、測定対象血管の血管径を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いて被検者の測定対象血管の血管径を算出する装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、超音波を用いて血流や血管径、血圧を測定する装置や、血管の弾性率を測定する装置が考案されている。これらの装置は、被検者に痛みや不快感を与えることなく測定ができることを特徴としている。
【0003】
例えば、特許文献1には、血管径若しくは血管断面積を用いて血圧を算出する技術が開示されている。また、特許文献2には、生体内を通過する超音波ビームの反射波について、血管壁の内部構造を反映した振幅値のピークを検出し、その検出結果を利用して、血管変位、血管径、血管壁厚などの計測を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−41382号公報
【特許文献2】特開2000−271117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
測定対象血管の血管径を測定する場合には、超音波ビームを測定対象血管の長軸に対して垂直に照射し、その反射波を検出することで測定を行うのが理想である。しかし、例えば、被検者が自由行動下にある場合、被検者の動作に起因して超音波ビームと測定対象血管との相対的な位置関係や向きが変化する可能性がある。つまり、測定対象血管の長軸に対して超音波ビームが常に垂直に照射されることが保障されず、測定対象血管の長軸に対して超音波ビームが斜めに照射される可能性がある。この場合、超音波の反射波に基づいて血管径を測定すると、真の血管径よりも大きめに測定してしまうおそれがある。
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みて為されたものであり、測定対象血管の血管径を正しく測定するための新たな手法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以上の課題を解決するための第1の形態は、複数の超音波振動子を有する超音波の送受信部と、前記超音波の受信結果に基づいて、測定対象血管の内腔内膜境界からの反射波を検出する検出部と、前記検出部による前記内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるように前記送受信部を制御する制御部と、前記超音波の受信結果に基づいて、前記測定対象血管の血管径を算出する血管径算出部と、を備えた超音波測定装置である。
【0008】
また、他の形態として、複数の超音波振動子を有する超音波の送受信部を備えた超音波測定装置の制御方法であって、前記超音波の受信結果に基づいて、測定対象血管の内腔内膜境界からの反射波を検出することと、前記内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるように前記送受信部を制御することと、前記超音波の受信結果に基づいて、前記測定対象血管の血管径を算出することと、を含む制御方法を構成することとしてもよい。
【0009】
この第1の形態等によれば、複数の超音波振動子を有する超音波の送受信部による超音波の受信結果に基づいて、測定対象血管の内腔内膜境界からの反射波を検出する。送受信部と測定対象血管との相対的な位置関係や向きが適切であれば、内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となり、その検出結果に基づいて、測定対象血管の血管径を算出することができる。
【0010】
しかし、送受信部と測定対象血管との相対的な位置関係や向きが不適切であると、内腔内膜境界からの反射波が検出できなくなる場合がある。そこで、内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるように送受信部を制御する。これにより、送受信部と測定対象血管との相対的な位置関係や向きが適切な状態を維持することができるようになり、測定対象血管の血管径を正しく測定することが可能となる。
【0011】
また、第2の形態として、第1の形態の超音波測定装置において、前記検出部は、前記送受信部から見て前壁側及び後壁側それぞれの内腔内膜境界からの反射波を検出可能であり、前記制御部は、前記前壁側の内腔内膜境界からの反射波の検出有無と、前記後壁側の内腔内膜境界からの反射波の検出有無との組み合わせに応じて、前記送受信部の制御内容を変更する、超音波測定装置を構成することとしてもよい。
【0012】
送受信部から見て前壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出できたとしても、送受信部から見て後壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出できない場合がある。その逆の場合もあり得る。そこで、第2の形態のように、前壁側の内腔内膜境界からの反射波の検出有無と、後壁側の内腔内膜境界からの反射波の検出有無との組み合わせに応じて、送受信部の制御内容を変更する。これにより、送受信部の制御を適確に行うことが可能となる。
【0013】
また、第3の形態として、第1又は第2の形態の超音波測定装置において、前記制御部は、前記送受信部による超音波ビームの送信位置、フォーカス、及び送信方向の何れかを制御する、超音波測定装置を構成することとしてもよい。
【0014】
この第3の形態によれば、送受信部による超音波ビームの送信位置、フォーカス、及び送信方向の何れかを制御することで、内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるように送受信部の制御を行うことが可能となる。
【0015】
また、第4の形態として、第1〜第3の何れかの形態の超音波測定装置において、前記超音波の受信結果に基づいて前記測定対象血管の壁厚を測定する壁厚測定部を更に備え、前記制御部は、前記検出部による検出が不可能となり、且つ、不可能となる前後に前記壁厚測定部で測定された壁厚に変化があった場合に、前記送受信部による超音波ビームの送信方向を制御する壁厚変化時制御部を有する、超音波測定装置を構成することとしてもよい。
【0016】
内腔内膜境界からの反射波の検出が不可能となる要因の1つに、測定対象血管に対する超音波ビームの照射角の変化が挙げられる。超音波ビームの照射角が変化すると、測定対象血管の壁厚の測定結果も変化する。そこで、第4の形態のように、超音波の受信結果に基づいて測定対象血管の壁厚を測定する。そして、内腔内膜境界からの反射波の検出が不可能となり、且つ、不可能となる前後に測定された壁厚に変化があった場合に、送受信部による超音波ビームの送信方向を制御する。
【0017】
また、第5の形態として、第4の形態の超音波測定装置において、前記壁厚変化時制御部は、前記壁厚が増加した場合に、当該増加を打ち消すための前記超音波ビームの送信方向を算出して当該超音波ビームの送信方向を制御する、超音波測定装置を構成することとしてもよい。
【0018】
測定対象血管に対して超音波ビームが斜めに照射されると、測定対象血管の壁厚は実際よりも大きめに測定される。そこで、第5の形態のように、測定対象血管の壁厚が増加した場合に、当該増加を打ち消すための超音波ビームの送信方向を算出して当該超音波ビームの送信方向を制御する。これにより、測定対象血管に対して超音波ビームを適切な角度で照射するように制御することができる。
【0019】
また、第6の形態として、第4又は第5の形態の超音波測定装置において、前記制御部は、前記送受信部から見て前壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出され、且つ、後壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出されていない場合に、前記壁厚変化時制御部を機能させる、超音波測定装置を構成することとしてもよい。
【0020】
特に、送受信部から見て後壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出されない場合は、測定対象血管に対して超音波ビームが斜めに照射されている可能性がある。そこで、第6の形態のように、送受信部から見て前壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出され、且つ、後壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出されていない場合に、壁厚変化時制御部を機能させる。
【0021】
また、第7の形態として、第1〜第6の何れかの形態の超音波測定装置において、前記制御部は、前記検出部による検出が不可能な場合に、前記送受信部による超音波ビームの送信方向を優先的に制御する、超音波測定装置を構成することとしてもよい。
【0022】
この第7の形態によれば、内腔内膜境界からの反射波の検出が不可能な場合に、送受信部による超音波ビームの送信方向を優先的に制御する。これにより、超音波ビームの送信方向を適正化した上で、超音波ビームの他の制御(例えば送信位置やフォーカスの制御)を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(1)超音波測定装置の概略構成図。(2)各超音波振動子アレイの構成図。
【図2】プローブと測定対象血管との位置関係を示す図。
【図3】超音波の反射波の強さを輝度に変換した結果を示す図。
【図4】検出パターンの説明図。
【図5】検出パターン別の要因及び処理内容の説明図。
【図6】相対角の補正方法の説明図。
【図7】相対角の補正方法の説明図。
【図8】相対角と壁厚増加率との相関関係の一例を示す図。
【図9】照射位置の変更方法の説明図。
【図10】超音波測定装置の機能構成の一例を示すブロック図。
【図11】メイン処理の流れを示すフローチャート。
【図12】異常時処理の流れを示すフローチャート。
【図13】プローブの変形例の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明を適用した実施形態として、被検者の頸部を測定対象部位とし、頸動脈を測定対象血管として、頸動脈の血管径を測定する超音波測定装置について説明する。但し、本発明を適用可能な形態が以下説明する実施形態に限定されるわけでないことは勿論である。
【0025】
1.装置構成
図1(1)は、本実施形態における超音波測定装置1の概略構成図である。超音波測定装置1は、プローブ10と、本体装置20とを有して構成される。プローブ10には伸縮性を有する環状の帯状部15が取り付けられており、被検者は帯状部15を用いて測定対象部位である頸部にプローブ10を装着する。
【0026】
プローブ10は、探触子110を有して構成される。探触子110は、複数の超音波振動子アレイ11−1〜11−Nを平行に配置して備える。また、図1(2)に示すように、各超音波振動子アレイ11−1〜11−Nは、超音波を送受信する複数の超音波振動子(11−1a、11−1b、・・・)を列状に配置して備える。従って、プローブ10は、縦横方向にマトリクス状に超音波振動子を備えているとも言える。
【0027】
頸部にプローブ10を装着する際の適正な姿勢(以下、「適正装着姿勢」と称する。)は、プローブ10の測定面10Xの法線方向と測定対象血管の長軸方向とが直交し、且つ、超音波振動子アレイ11−1〜11−Nの配列方向が測定対象血管の長軸方向に沿った方向となる姿勢である。
【0028】
また、プローブ10は、超音波ビームを送信する超音波振動子アレイ(或いは超音波振動子)を切り替えたり、送信する超音波ビームの送信方向を変化させたり、いわゆるフォーカス位置を変化させることが可能に構成されている。これらの制御項目自体は公知であるため、詳細な説明は割愛する。
【0029】
本体装置20は、超音波測定装置1の装置本体であり、ケーブルを介してプローブ10と有線接続されている。本体装置20の所定位置には、被検者が本体装置20を首からぶら下げて使用するための首掛けストラップ23が取り付けられている。
【0030】
本体装置20の前面には、操作ボタン24と、液晶ディスプレイ25と、スピーカー26とが設けられている。また、図示を省略しているが、本体装置20の内部には、超音波測定装置1を統合的に制御するための制御基板が内蔵されている。制御基板には、マイクロプロセッサーやメモリー、超音波の送受信に係る回路、内部バッテリー等が実装されている。
【0031】
2.原理
図2は、プローブ10と測定対象血管との位置関係を模式的に示す頸部の横断面図である。プローブ10は、適正装着姿勢で装着されている。各超音波振動子アレイ11−1〜11−Nの長さ(アレイを構成する超音波振動子の配列長)は、測定対象血管の直径よりも大きく構成されている。一方、血管は、内腔と、内膜と、中膜と、外膜とを有して構成されるが、簡明化のために中膜の図示を省略している。
【0032】
プローブ10を構成する超音波振動子アレイ11−1〜11−Nのうち、駆動させる一の超音波振動子アレイが選択され、当該一の超音波振動子アレイを構成する超音波振動子から超音波ビームが送信される。図2では、第1番目の超音波振動子アレイ11−1が駆動対象となっている。超音波ビームは、音響インピーダンスの差がある部分において反射する性質を有する。外膜を透過した超音波ビームは中膜から内膜へと進行し、内膜と内腔との境界(以下、「内腔内膜境界」と称す。)において反射する。なお、図2では、簡明化のため、各超音波振動子から送信される超音波ビームのうち、1つのみが反射することとして示している。
【0033】
内腔内膜境界には、プローブ10から見て前壁側及び後壁側それぞれの内腔内膜境界が存在する。本実施形態では、前壁側の内腔内膜境界のことを「前壁内腔内膜境界」と称し、後壁側の内腔内膜境界のことを「後壁内腔内膜境界」と称する。超音波ビームは、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界においてそれぞれ反射し、その反射波は超音波振動子によって受信(検出)される。例えば、いわゆるBモード画像で観察した場合、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界は、それぞれ半円弧状となって観測される。
【0034】
図3は、プローブ10からの距離(横軸)に対する、適正装着姿勢において検出された反射波の強さを輝度に変換した結果を示す図である。図3のグラフを見ると、距離「d1」より短い距離領域においてピーク群「P0」が現れていることがわかる。これらのピーク群「P0」は、測定対象血管の前壁側の外膜〜内膜の部分に相当するピーク群である。距離「d1」においては、ピーク群「P0」よりも低いピーク「P1」が現れている。このピーク「P1」が、前壁内腔内膜境界に相当するピークである。
【0035】
測定対象血管の内腔部分では超音波の反射がほとんど起こらない。そのため、距離「d1」と距離「d2」の間では輝度の値が比較的小さい状態が維持されている。距離「d2」において輝度が上昇し、再び中程度の高さのピーク「P2」が現れている。このピーク「P2」が、後壁内腔内膜境界に相当するピークである。
【0036】
このように、超音波の反射波の強さを輝度で表現した場合、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界において中程度の高さのピークが観測される。これらのピークを検出することで、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界からの反射波を検出できる。
【0037】
このピーク検出は、例えば、予め定められた輝度の閾値範囲内でピーク探索を行うことによって実現することができる。図3からわかるように、外膜〜内膜の位置では輝度の値が高い状態が維持されているが、内腔内膜境界において輝度の値が中程度まで低下する。外膜〜内膜の厚みは0.3[mm]程度であり、この厚み分の輝度の変化分は大凡定まる。従って、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界のピークが観測される輝度の範囲は想定可能であり、この範囲を閾値範囲としてピーク探索を行えばよい。
【0038】
なお、上記の方法以外にも、ピーク検出の手法は適宜に選択可能である。例えば、血管壁と外部組織とでは組成が異なるために、その境目において強い反射信号(超音波エコー)が得られる。この現象を利用して、例えば、特開平11−318896号公報や特開2009−39277号公報に開示されている手法を適用することで、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界のピークを検出することができる。
【0039】
図4は、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界の検出パターンの説明図である。縦欄の後壁内腔内膜境界の検出/非検出と、横欄の前壁内腔内膜境界の検出/非検出との組み合わせを示したものである。
【0040】
プローブ10は被検者の頸部に装着されるが、被検者は自由行動下にあるため、被検者の身体動作に起因して、プローブ10の装着位置にズレが生じ得る。その結果、測定対象血管に対するプローブ10の相対的な位置関係や向きが変化し、適正装着姿勢ではない姿勢(以下、「非適正装着姿勢」と称する。)となり得る。非適正装着姿勢では、測定対象血管の内腔内膜境界からの反射波の検出が不可能になる場合がある。
【0041】
前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界からの反射波が両方とも検出できている状態であれば、プローブ10と測定対象血管との相対的な位置関係や向きは適切である(以下、「測定許容状態」と称する。)と言える(OK)。しかし、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界からの反射波の何れか一方又は両方の検出が不可能な状態(以下、「測定非許容状態」と称する。)であれば、プローブ10と測定対象血管との相対的な位置関係や向きが不適切であると言える(NG)。
【0042】
なお、適正装着姿勢及び非適正装着姿勢と、測定許容状態及び測定非許容状態とはそれぞれが必ず対応関係にあるわけではない。非適正装着姿勢であっても、測定許容状態となるように制御するのが本実施形態の特徴の1つだからである。
【0043】
本実施形態では、前壁内腔内膜境界からの反射波が検出できており、後壁内腔内膜境界からの反射波が非検出である検出パターンを「パターンA」と定義する。後壁内腔内膜境界からの反射波が検出できており、前壁内腔内膜境界からの反射波が非検出であるパターンを「パターンB」と定義する。また、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界からの反射波が両方とも非検出である検出パターンを「パターンC」と定義する。
【0044】
図5は、上記の検出パターン別に、当該検出パターンとなる要因及び当該検出パターンに対する処理内容を示した図である。要因の欄に括弧書きで表記した平仮名は、処理内容の欄に括弧書きで表記した片仮名とそれぞれ対応している。
【0045】
パターンAの要因としては、(い)超音波ビームと測定対象血管との相対角の変化、(ろ)後壁の平坦性の欠如位置が被照射位置となった、(は)プローブと測定対象血管間の距離の変化、が定められている。また、これらの要因に対する処理内容として、(イ)相対角補正、(ロ)被照射位置変更、(ハ)認識可能範囲調整、が定められている。
【0046】
パターンBの要因としては、(に)前壁の平坦性の欠如位置が被照射位置となった、(は)プローブと測定対象血管間の距離の変化、が定められている。また、これらの要因に対する処理内容として、(二)被照射位置変更、(ハ)認識可能範囲調整、が定められている。
【0047】
パターンCの要因としては、(ほ)超音波ビームと測定対象血管との相対角の大きな変化、が定められている。また、この要因に対する処理内容として、(ホ)超音波ビーム角調整、が定められている。
【0048】
本実施形態では、プローブ10(送受信部)から見て前壁側及び後壁側それぞれの内腔内膜境界からの反射波の検出可否のパターンを判定する。そして、判定した検出パターンに対応付けて定められた処理内容に応じた処理を実行する。これは、前壁側の内腔内膜境界からの反射波の検出有無と、後壁側の内腔内膜境界からの反射波の検出有無との組み合わせに応じて、送受信部の制御内容を変更することに相当する。以下、それぞれの検出パターンについて詳細に説明する。
【0049】
(1)検出パターンがパターンAとなる場合
検出パターンがパターンAとなる第1の要因としては、(い)超音波ビームと測定対象血管との相対角の変化、が考えられる。
【0050】
図6及び図7は、プローブ10と測定対象血管との位置関係を模式的に示す図であり、第4番目の超音波振動子アレイ11−4の超音波振動子から送信された超音波ビームが測定対象血管に照射される様子を横から見た図である。また、図6は、適正装着姿勢の場合を示しており、超音波振動子から送信された超音波ビームが測定対象血管の長軸方向に対して垂直に照射されている。ここで、測定対象血管の長軸方向に対して超音波ビームが垂直に照射した場合を基準とし、そこからの超音波ビームの振れ角のことを「相対角」と定義する。図6の状態では「相対角θ=0度」である。
【0051】
一方、図7では、プローブ10の装着姿勢が僅かに傾斜している結果、超音波振動子から送信される超音波ビームが測定対象血管の長軸方向に対して所定の角度だけ斜めに照射されている。図7の状態では「相対角θ≠0度」である。
【0052】
超音波ビームは、反射と透過を繰り返して後壁内腔内膜に到達するため、出射時よりも減衰している。また、後壁内腔内膜境界は、前壁内腔内膜境界と比べて超音波の送信源からの距離が遠い。そのため、図7のように相対角θが「0度」でない場合には、屈折した反射波を受信することが前壁よりも後壁の方が困難となり、非検出となる場合がある。そこで、本実施形態では、前壁内腔内膜境界からの反射波が検出され、且つ、後壁内腔内膜境界からの反射波が検出されていない場合に、処理内容(イ)として、相対角を補正する。
【0053】
図8は、相対角と壁厚増加率との相関関係を示すグラフである。壁厚増加率とは、「θ=0度」の場合の壁厚を基準とし、この基準壁厚に対する壁厚の比率を示したものである。図8の通り、壁厚増加率は相対角が大きくなるに従って指数関数的に増大する傾向がある。
【0054】
本実施形態では、初期設定として反射波の受信結果に基づいて基準壁厚を測定しておく。その後の測定中は、反射波の受信結果に基づいて測定対象血管の壁厚を測定する処理を随時行う。そして、検出パターンとしてパターンAに該当した場合で、且つ、測定対象血管の壁厚の測定値に変化があった場合に、壁厚増加率を算出する。そして、図8に示した相対角と壁厚増加率との相関関係に基づいて、算出した壁厚増加率に対応する相対角θを判定することで、超音波ビームを測定対象血管に対して垂直に照射させるために必要な角度の補正量を求める。そして、求めた補正量を用いて相対角を補正する。
【0055】
本実施形態では、相対角の補正を、超音波ビームの送信方向を制御することにより行う。つまり、壁厚が増加した場合に、当該増加を打ち消すための超音波ビームの送信方向を算出して当該超音波ビームの送信方向を制御する。
【0056】
検出パターンがパターンAとなる第2の要因としては、(ろ)血管の後壁の平坦性の欠如位置が被照射位置となること、が挙げられる。血管の外面及び内面は、必ずしも滑らかな平坦ではない。平坦性が欠如した位置が超音波ビームの被照射位置となった場合が、この(ろ)に該当する。
【0057】
より具体的に説明すると、プローブ10の装着姿勢が変化することにより、測定対象血管の後壁の平坦性の欠如位置が超音波ビームの被照射位置となる場合が、この(ろ)に該当する。測定対象血管の後壁の非平坦な部分に超音波ビームが照射される結果、後壁内腔内膜境界からの反射波が検出できなくなるのである。この場合は、処理内容(ロ)として、超音波ビームの送信位置を制御することにより超音波ビームの被照射位置を変更する。
【0058】
図9は、超音波ビームの送信位置の制御を説明するための図である。超音波振動子アレイ11−1〜11−Nのうちの駆動制御するアレイを変更することで、超音波ビームの送信位置を制御する。例えば、後壁内腔内膜境界が検出できるようになるまで、駆動制御するアレイを順次に切り替えていく制御を行う。
【0059】
検出パターンがパターンAとなる第3の要因としては、(は)プローブ10と測定対象血管間の距離の変化、が挙げられる。例えば、被検者の運動による頸部(測定対象部位)の筋繊維の収縮や、伸縮性を有する帯状部15によって、測定対象部位(頸部)に対するプローブ10の接触圧が変化することでフォーカス位置が変化し、超音波の反射波を認識可能な距離範囲が変化する場合である。この場合は、処理内容(ハ)として、認識可能範囲の調整を行う。本実施形態では、認識可能範囲の調整を、超音波ビームのフォーカスを制御することで行う。
【0060】
具体的なフォーカスの制御は、例えば電子フォーカス法によって実現することができる。詳細には、超音波振動子を駆動させるタイミングを調整することでフォーカス位置をずらし、これにより認識可能範囲を調整する。本実施形態では、認識可能範囲の調整を、超音波振動子から測定対象血管の前壁の外膜位置までの距離(以下、「外膜位置距離」と称す。)に基づいて行う。
【0061】
例えば、初期設定として、プローブ10を適正装着姿勢で装着した状態で、超音波の受信結果に基づいて外膜位置距離を算出し、その値を基準外膜位置距離として記憶部に保存しておく。そして、測定開始後は、超音波の受信結果に基づいて外膜位置距離を随時算出し、記憶部に保存しておいた基準外膜位置距離と比較する。
【0062】
外膜位置距離が基準外膜位置距離に対して短くなっているのであれば、プローブ10と測定対象血管間の距離が短くなったことが想定される。従って、この場合は、フォーカス位置を奥側にずらすように超音波振動子の駆動制御を調整する。
【0063】
それに対し、外膜位置距離が基準外膜位置距離に対して長くなっているのであれば、プローブ10と測定対象血管間の距離が長くなったことが想定される。従って、この場合は、フォーカス位置を手前側にずらすように超音波振動子の駆動制御を調整する。
【0064】
(2)検出パターンがパターンBとなる場合
検出パターンがパターンBとなる第1の要因としては、(に)前壁の平坦性の欠如位置が被照射位置となること、が挙げられる。測定対象血管の前壁の非平坦な部分に超音波ビームが照射される結果、前壁内腔内膜境界からの反射波が検出できなくなる場合である。この場合は、パターンAと同様に、超音波ビームの送信位置を制御することにより超音波ビームの被照射位置を変更する。具体的には、駆動させるアレイを順次に切り替えることで、超音波ビームの血管前壁に対する照射位置を変更する。
【0065】
検出パターンがパターンBとなる第2の要因としては、(は)プローブ10と測定対象血管間の距離の変化、が挙げられる。被検者の測定対象部位に対するプローブ10と測定対象血管間の距離が変化することで、認識可能範囲が変化する場合である。この場合も、パターンAと同様に、例えば電子フォーカス法によってフォーカス位置を変化させることで認識可能範囲を調整する。
【0066】
なお、検出パターンがパターンBとなる要因として、パターンAの場合と同様に、超音波ビームと測定対象血管との相対角の変化、を考えることもできる。しかし、超音波ビームが測定対象血管に対して多少斜めに照射されたとしても、前壁は後壁と比べて超音波ビームの出射源に物理的な距離が近いため、前壁内腔内膜境界からの反射波が検出できなくなる状況が生じにくい。そこで、本実施形態では、検出パターンがパターンBの場合は、相対角の補正は行わないこととする。
【0067】
(3)検出パターンがパターンCとなる場合
検出パターンがパターンCとなる要因としては、(ほ)超音波ビームと測定対象血管との相対角の大きな変化、が挙げられる。超音波ビームと測定対象血管との相対角が大きく変化することで、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界からの反射波が何れも非検出となる場合である。
【0068】
この場合は、測定対象血管の長軸方向に対して超音波ビームのビーム角を変化(スイング)させ、前壁内腔内膜境界からの反射波及び後壁内腔内膜境界からの反射波のうちの少なくとも何れかが検出可能な方向を探索する制御を行う。超音波ビームのビーム角は、各超音波振動子から超音波を送信させるタイミングをずらすことにより変化させることができる(いわゆる位相シフト)。
【0069】
何れかの内腔内膜境界からの反射波が検出されれば、パターンA及びパターンBの何れかの検出パターンとなる。従って、その後は、検出パターンに対応付けられた処理内容に従って処理を行えばよい。この処理手順は、内腔内膜境界からの反射波の検出が不可能な場合に、送受信部による超音波ビームの送信方向を優先的に制御することに相当する。
【0070】
3.機能構成
図10は、超音波測定装置1の機能構成の一例を示すブロック図である。超音波測定装置1は、プローブ10と、本体装置20とを有する。
【0071】
プローブ10は、被検者の測定対象部位に装着される小型の接触子であり、探触子110と、送受信回路部120とを有して構成される。プローブ10は、複数の超音波振動子を有する超音波の送受信部に相当する。
【0072】
探触子110は、複数の超音波振動子アレイ11−1〜11−Nを有して構成され、送受信回路部120からの駆動信号に従って、超音波振動子アレイを切り替えて超音波の送受信を行う。
【0073】
送受信回路部120は、送受信制御部320から出力されるトリガー信号に従って、上記の送信モードと受信モードとを時分割方式で切り替える送受信回路である。送受信回路部120は、送信用の構成として、所定周波数のパルス信号を生成する超音波発振回路や、生成されたパルス信号を遅延させる送信遅延回路等を有して構成される。また、受信用の構成として、受信信号を遅延させる受信遅延回路や、受信信号から所定の周波数成分を抽出するフィルター、受信信号を増幅する増幅器等を有して構成される。
【0074】
送受信回路部120は、送受信制御部320からトリガー信号を受信している間は、そのトリガー信号に同期したタイミングでパルス信号を発生させ、所定の遅延時間設定値に応じてパルス信号を遅延させて探触子110に出力する。これにより、アレイ状に配列した超音波振動子に対して送信波を随時遅延させ、超音波ビームの角度を変化させる位相シフトを実現する。一方、送受信制御部320からトリガー信号を受信していない間は、探触子110から出力される超音波の受信信号を受信し、所定の遅延時間設定値に応じて受信信号を遅延させて所定の周波数成分を減衰させた後、検波部220に出力する。
【0075】
なお、送受信回路部120をプローブ10が備える構成として図示したが、本体装置20が備える構成としてもよい。
【0076】
本体装置20は、例えば、検波部220と、信号処理部240と、処理部300と、操作部400と、表示部500と、音出力部600と、通信部700と、時計部800と、記憶部900とを備えて構成される。
【0077】
検波部220は、送受信回路部120から出力される超音波エコーの受信信号(RF信号)を検波する。検波部220は、超音波の反射波に対して対数圧縮や振幅包絡検波を行う対数検波回路等を有して構成される。
【0078】
信号処理部240は、検波部220により検波された信号に対して、処理部300が血管径の算出や内腔内膜境界の検出等を行うために必要な信号処理を実行する。信号処理部240は、例えばDSP(Digital Signal Processor)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を有して構成される。信号処理部240は、例えば、超音波エコーの受信信号の位相や振幅を演算する処理を行う他、超音波エコーの受信信号の強さを輝度に変換する処理を実行する。
【0079】
処理部300は、超音波測定装置1の各部を統括的に制御する制御装置及び演算装置であり、例えばCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサーを有して構成される。処理部300は、主要な機能部として、内腔内膜境界検出部310と、送受信制御部320と、壁厚測定部330と、血管径算出部340とを有する。但し、これらの機能部は一実施例として記載したものに過ぎず、必ずしもこれら全ての機能部を必須構成要素としなければならないわけではない。
【0080】
内腔内膜境界検出部310は、信号処理部240の処理結果に基づいて、内腔内膜境界(前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界)からの反射波を検出する。
【0081】
送受信制御部320は、プローブ10による超音波の送受信を制御する。特に、本実施形態では、送受信制御部320は、内腔内膜境界検出部310による内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるように送受信回路部120を制御する。より具体的には、前壁内腔内膜境界からの反射波の検出有無と、後壁内腔内膜境界からの反射波の検出有無との組み合わせに応じて、プローブ10の制御内容を変更する。送受信制御部320は、壁厚変化時制御部321を機能部として有する。
【0082】
壁厚変化時制御部321は、内腔内膜境界検出部310による検出が不可能となり、且つ、不可能となる前後で壁厚測定部330によって測定された測定対象血管の壁厚に変化があった場合に、プローブ10による超音波ビームの送信方向を制御する。
【0083】
壁厚測定部330は、超音波の受信結果に基づいて測定対象血管の壁厚を測定する。また、血管径算出部340は、超音波の受信結果に基づいて測定対象血管の血管径を算出する。
【0084】
操作部400は、ボタンスイッチ等を有して構成される入力装置であり、押下されたボタンの信号を処理部300に出力する。この操作部400の操作により、血管径の測定開始指示等の各種指示入力がなされる。操作部400は、図1の操作ボタン24に相当する。
【0085】
表示部500は、LCD(Liquid Crystal Display)等を有して構成され、処理部300から入力される表示信号に基づく各種表示を行う表示装置である。表示部500には、血管径算出部340によって算出された血管径等が表示される。表示部500は、図1の液晶ディスプレイ25に相当する。
【0086】
音出力部600は、スピーカー等を有して構成され、処理部300から入力される音出力信号に基づく各種音出力を行う音出力装置である。音出力部600は、図1のスピーカー26に相当する。
【0087】
通信部700は、処理部300の制御に従って、装置内部で利用される情報をパソコン(PC(Personal Computer))等の外部の情報処理装置との間で送受するための通信装置である。この通信部700の通信方式としては、所定の通信規格に準拠したケーブルを介して有線接続する形式や、クレイドルと呼ばれる充電器と兼用の中間装置を介して接続する形式、近距離無線通信を利用して無線接続する形式等、種々の方式を適用可能である。
【0088】
時計部800は、水晶振動子及び発振回路でなる水晶発振器等を有して構成され、時刻を計時する計時装置である。時計部800の計時時刻は、処理部300に随時出力される。
【0089】
記憶部900は、ROM(Read Only Memory)やフラッシュROM、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置を有して構成される。記憶部900は、超音波測定装置1のシステムプログラムや、送受信制御機能、血管径算出機能といった各種機能を実現するための各種プログラム、データ等を記憶している。また、各種処理の処理中データ、処理結果などを一時的に記憶するワークエリアを有する。
【0090】
記憶部900には、プログラムとして、例えば、処理部300によって読み出され、メイン処理(図11参照)として実行されるメインプログラム910が記憶されている。メインプログラム910は、異常時処理(図12参照)として実行される異常時処理プログラム911をサブルーチンとして含む。これらの処理については、フローチャートを用いて詳細に後述する。
【0091】
また、記憶部900には、データとして、パターン定義データ920と、相対角判定用データ930と、初期校正データ940と、壁厚データ950と、血管径データ960とが記憶される。
【0092】
パターン定義データ920は、内腔内膜境界からの反射波の検出パターンが定義されたデータであり、例えば図4に示したようなテーブルのデータがこれに含まれる。
【0093】
相対角判定用データ930は、超音波ビームと測定対象血管との相対角を判定するために用いられるデータである。例えば、図8に示したように、相対角と壁厚増加率との相関関係を定めたテーブルや、相関関係を定式化した相関式のデータがこれに含まれる。
【0094】
初期校正データ940は、初期校正処理において算出したデータであり、例えば基準壁厚や基準外膜位置距離といったデータがこれに含まれる。
【0095】
壁厚データ950は、壁厚測定部330によって測定された測定対象血管の壁厚のデータであり、例えば測定された壁厚が時系列に記憶される。
【0096】
血管径データ960は、血管径算出部340によって算出された血管径のデータであり、例えば算出された血管径が時系列に記憶される。
【0097】
4.処理の流れ
図11は、処理部300が、記憶部900に記憶されているメインプログラム910に従って実行するメイン処理の流れを示すフローチャートである。
【0098】
最初に、処理部300は、測定位置合わせを行う(ステップA1)。具体的には、プローブ10が適正装着姿勢で装着されるように被検者に指示する。被検者は、装置からの指示に従って、プローブ10を測定対象部位に適正装着姿勢で装着する。
【0099】
次いで、処理部300は、プローブ10による超音波の送受信制御を開始する(ステップA3)。そして、内腔内膜境界検出部310は、信号処理部240の処理結果に基づいて、内腔内膜境界からの反射波を検出する内腔内膜境界検出処理を開始する(ステップA5)。この内腔内膜境界検出処理で検出された前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界からの反射波の検出有無の組み合わせが検出パターンとなる。
【0100】
次いで、処理部300は、初期校正処理を行う(ステップA7)。具体的には、処理部300は、超音波の反射波の受信結果に基づいて測定対象血管の壁厚を測定し、その測定値を基準壁厚として初期校正データ940に記憶させる。また、電子フォーカス法によってフォーカス位置の初期設定を行う。そして、処理部300は、超音波振動子から測定対象血管の前壁の外膜位置までの距離を測定し、その測定値を基準外膜位置距離として初期校正データ940に記憶させる。
【0101】
初期校正処理を終了すると、壁厚測定部330が、超音波の受信結果に基づいて測定対象血管の壁厚の測定を開始し、その測定値を壁厚データ950に随時記憶させる(ステップA9)。
【0102】
次いで、処理部300は、内腔内膜境界検出部310による検出結果を判定する(ステップA11)。検出結果が「OK」である場合は(ステップA11;OK)、血管径算出部340が、超音波の受信結果に基づいて測定対象血管の血管径を算出する(ステップA13)。
【0103】
具体的には、信号処理部240によって超音波の反射波の強さを輝度に変換した結果に基づいて、前壁内腔内膜境界から後壁内腔内膜境界までの距離を計算することで、測定対象血管の血管径を算出する。そして、算出した血管径を記憶部900の血管径データ960に記憶させる。そして、処理部300は、算出した血管径を表示部500に表示制御する(ステップA15)。
【0104】
一方、ステップA11において内腔内膜境界検出部310による検出結果が「NG」である場合は(ステップA11;NG)、処理部300は、記憶部900に記憶されている異常時処理プログラム911に従って異常時処理を行う(ステップA17)。
【0105】
図12は、異常時処理の流れを示すフローチャートである。
最初に、処理部300は、検出パターンを判定する(ステップB1)。そして、検出パターンが「パターンA」である場合は(ステップB1;パターンA)、壁厚測定部330は、測定対象血管の壁厚の測定値に変化があったか否かを判定する(ステップB3)。壁厚の測定値に変化がなかったと判定した場合は(ステップB3;No)、処理部300は、ステップB15へと処理を移行する。
【0106】
それに対し、壁厚の測定値に変化があったと判定した場合は(ステップB3;Yes)、処理部300は、初期校正データ940に記憶されている基準壁厚と、壁厚データ950に記憶されている最新の壁厚の測定値とを用いて、壁厚変化率を算出する(ステップB5)。処理部300は、算出した壁厚変化率に基づいて壁厚が増加しているか否かを判定し(ステップB7)、増加していないと判定した場合は(ステップB7;No)、ステップB15へと処理を移行する。
【0107】
それに対し、壁厚が増加していると判定した場合は(ステップB7;Yes)、処理部300は、記憶部900に記憶された相対角判定用データ930を用いて、壁厚増加率に対応する相対角を判定する(ステップB9)。そして、処理部300は、判定した相対角に基づいて相対角補正処理を行う(ステップB11)。
【0108】
相対角補正処理は、壁厚変化時制御部321が、超音波ビームの送信方向を制御することにより行う。これは、送受信部から見て前壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出され、且つ、後壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出されていない場合に、壁厚変化時制御部321を機能させることに相当する。
【0109】
次いで、処理部300は、後壁内腔内膜境界からの反射波が検出できたか否かを判定し(ステップB13)、検出できたと判定した場合は(ステップB13;Yes)、異常時処理を終了する。また、検出できなかったと判定した場合は(ステップB13;No)、処理部300は、ステップB15へと処理を移行する。
【0110】
一方、ステップB1において検出パターンが「パターンB」であると判定した場合は(ステップB1;パターンB)、処理部300は、被照射位置変更処理を行う(ステップB15)。被照射位置変更処理は、送受信制御部320が、駆動制御するアレイを変更することによって、超音波ビームの送信位置を制御することで行う。
【0111】
処理部300は、前壁内腔内膜境界からの反射波が検出できたか否かを判定し(ステップB17)、検出できたと判定した場合は(ステップB17;Yes)、異常時処理を終了する。また、検出できなかったと判定した場合は(ステップB17;No)、処理部300は、全アレイを駆動制御したか否かを判定し(ステップB19)、駆動させていないアレイが存在する場合は(ステップB19;No)、ステップB15に戻る。
【0112】
また、全アレイを駆動制御したと判定した場合は(ステップB19;Yes)、処理部300は、認識可能範囲調整処理を行う(ステップB21)。認識可能範囲調整処理は、送受信制御部320が、超音波ビームのフォーカスを制御することで行う。つまり、外膜位置距離が初期校正データ940に記憶されている基準外膜位置距離よりも短い場合は、フォーカス位置を奥側にシフトさせる制御を行う。逆に、外膜位置距離が基準外膜位置距離よりも長い場合は、フォーカス位置を手前側にシフトさせる制御を行う。
【0113】
一方、ステップB1において検出パターンが「パターンC」であると判定した場合は(ステップB1;パターンC)、処理部300は、超音波ビーム角調整処理を行う(ステップB23)。具体的には、送受信制御部320が、超音波ビームのビーム角を所定角度分だけ変更するように制御する。
【0114】
処理部300は、前壁及び後壁の何れかの内腔内膜境界からの反射波が検出できたか否かを判定し(ステップB25)、何れも検出できなかったと判定した場合は(ステップB25;No)、ステップB23に戻る。また、何れかが検出できたと判定した場合は(ステップB25;Yes)、処理部300は、内腔内膜境界からの反射波の検出パターンを判定する(ステップB27)。
【0115】
検出パターンが「パターンA」であると判定した場合は(ステップB27;パターンA)、処理部300は、ステップB3へと処理を移行する。また、検出パターンが「パターンB」であると判定した場合は(ステップB27;パターンB)、処理部300は、ステップB15へと処理を移行する。
【0116】
図11のメイン処理に戻り、ステップA15又はA17の後、処理部300は、測定を終了するか否かを判定する(ステップA19)。まだ測定を終了しないと判定した場合は(ステップA19;No)、ステップA11に戻る。また、測定を終了すると判定した場合は(ステップA19;Yes)、処理部300は、メイン処理を終了する。
【0117】
5.作用効果
複数の超音波振動子を有する超音波の送受信部であるプローブ10から超音波が送受信される。内腔内膜境界検出部310は、超音波の受信結果に基づいて、測定対象血管の内腔内膜境界からの反射波を検出する。そして、送受信制御部320は、内腔内膜境界検出部310による内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるようにプローブ10を制御する。血管径算出部340は、超音波の受信結果に基づいて、測定対象血管の血管径を算出する。
【0118】
プローブ10と測定対象血管との相対的な位置関係や向きによっては、内腔内膜境界検出部310による内腔内膜境界からの反射波の検出が不可能となる場合がある。そこで、送受信制御部320が、内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるようにプローブ10を制御する。これにより、内腔内膜境界からの反射波を常時捉えることを可能にし、血管径算出部340が、内腔内膜境界の位置に基づいて測定対象血管の血管径を精度良く測定することが可能となる。
【0119】
前壁内腔内膜境界からの反射波が検出されたとしても、後壁内腔内膜境界からの反射波が検出されない場合がある。その逆の場合もあり得る。そこで、本実施形態では、前壁内腔内膜境界からの反射波の検出有無と、後壁内腔内膜境界からの反射波の検出有無との組み合わせである検出パターンに応じて、プローブの制御内容を変更する。これにより、プローブの制御を適確に行うことが可能となる。
【0120】
前壁内腔内膜境界からの反射波は検出されるが、後壁内腔内膜境界からの反射波が検出されない場合(パターンA)は、主な要因として、超音波ビームと測定対象血管との相対角の変化が考えられる。そこで、この場合は、後壁内腔内膜境界からの反射波の検出が不可能となる前後に壁厚測定部330で測定された壁厚に変化があった場合に、超音波ビームの送信方向を制御することによって、相対角を補正する。これにより、超音波ビームが測定対象血管の長軸方向に対して垂直に照射されるように制御することができる。
【0121】
後壁内腔内膜境界からの反射波は検出されるが、前壁内腔内膜境界からの反射波が検出されない場合(パターンB)は、主な要因として、血管前壁の平坦性の欠如位置が超音波ビームの被照射位置となったことが考えられる。そこで、この場合は、超音波ビームの送信位置を制御することによって、超音波ビームの被照射位置を変更する。これにより、超音波ビームが測定対象血管の平坦な位置に照射されるように制御することができる。
【0122】
また、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界からの反射波が何れも検出されない場合(パターンC)は、主な要因として、超音波ビームと測定対象血管との相対角の大きな変化が考えられる。そこで、この場合は、超音波ビームの送信方向を優先的に制御することによって、超音波ビームのビーム角を調整する。これにより、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界の少なくとも何れかの境界からの反射波が検出されるように制御することができる。
【0123】
6.変形例
本発明を適用可能な実施例は、上記の実施例に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは勿論である。以下、変形例について説明する。
【0124】
6−1.適用例
上記の実施形態の超音波測定装置1は、例えば被検者の血圧を測定する血圧測定装置に組み込んで利用することが可能である。血管径と血圧との間には、ある非線形の相関関係があることが知られている。従って、血管径と血圧との相関関係を定めたデータ(例えば相関関係のテーブルや相関式)を予め記憶部900に記憶させておくことで、上記の実施形態の超音波測定装置1を用いて測定した血管径から被検者の血圧を算出することができる。算出した血圧(血圧の算出値)は、表示部500に表示させるなどして被検者に報知する。
【0125】
6−2.超音波測定装置
上記の実施形態では、被検者の首からぶら下げて使用する超音波測定装置1の本体装置20を例に挙げて説明したが、これは一例に過ぎない。例えば、被検者の上腕部に巻きつけて使用する構成としてもよいし、被検者の手首に装着して使用する構成としてもよい。また、プローブ10と本体装置20とは必ずしも別体である必要はなく、プローブ10と本体装置20とを同一筐体内に設けることとしてもよい。
【0126】
また、上記の実施形態では、自由行動下にある被検者が、個人で血管径を測定することを目的とする超音波測定装置の実施形態であるが、本発明を適用可能な超音波測定装置はこれに限られない。例えば、医療用の超音波測定装置として、横たわった状態の被検者に対して技師がプローブ10を用いて超音波診断を行う超音波測定装置に本発明を適用することも可能である。
【0127】
6−3.プローブ
上記の実施形態では、伸縮性を有する環状の帯状部15を用いて被検者の測定対象部位に巻きつけて使用するプローブを例に挙げて説明したが、プローブの構成はこれに限られない。例えば、粘着性ソリッドゲル等を用いてプローブをコーティングし、被検者がプローブを測定対象部位に貼り付けて使用する構成としてもよい。他にも、粘着テープを用いて貼り付ける構成としてもよい。
【0128】
また、プローブを構成する超音波振動子の構成としては、リニア電子スキャンを行うリニア型の構成としてもよいし、セクタ電子スキャンを行うセクタ型の構成としてもよい。また、コンベックス電子スキャンを行うコンベックス型の構成としてもよい。
【0129】
また、上記の実施形態では、探触子110及び送受信回路部120がプローブ10に設けられているものとして説明したが、探触子110と送受信回路部120とを別体とすることも可能である。具体的には、プローブ10には探触子110を設けることとし、本体装置20に送受信回路部120を設ける構成としてもよい。
【0130】
また、上記の実施形態では、測定対象血管に対する超音波ビームの送信位置の変更を駆動制御するアレイを変更することによって実現したが、超音波ビームの送信位置を変更する方法はこれに限られない。例えば、被検者が手動で超音波ビームの送信位置を変更する構成とすることも可能である。
【0131】
図13は、変形例におけるプローブ30の構成を示す図であり、プローブ30の平面図である。プローブ30は、主に、枠体31とセンサー部33とで構成され、センサー部33は、枠体31の上枠及び下枠の対向部に形成されたスライド溝35に左右方向に移動自在に嵌め込まれている。
【0132】
このプローブ30の構成では、被検者がセンサー部33を手動でスライドさせることで、測定対象血管に対する超音波振動子の相対的な位置を変化させる。例えば、検出パターンがパターンBである場合に、処理部300は、センサー部33を左右方向にスライドさせるように被検者に指示する。指示方法としては、センサー部33をスライドさせることを指示するメッセージを表示部500に表示させてもよいし、音声ガイダンスを音出力部600から音出力させてもよい。装置からの指示に従って、被検者は、センサー部33を手動でスライドさせることで、超音波ビームの送信位置を変更する。
【0133】
6−4.超音波ビームの送信方向の制御
上記の実施形態では、前壁内腔内膜境界からの反射波が検出され、且つ、後壁内腔内膜境界からの反射波が検出されていない場合(パターンAの場合)に、壁厚変化時制御部321を機能させて、超音波ビームの送信方向を制御するものとして説明した。しかし、この制御はあくまでも一例であり、適宜変更可能である。
【0134】
例えば、後壁内腔内膜境界からの反射波が検出され、且つ、前壁内腔内膜境界からの反射波が検出されていない場合(パターンBの場合)に、壁厚変化時制御部321を機能させることとしてもよい。また、前壁内腔内膜境界及び後壁内腔内膜境界からの反射波が何れも検出されていない場合(パターンCの場合)に、壁厚変化時制御部321を機能させることとしてもよい。
【0135】
6−5.相対角補正
上記の実施形態では、相対角を補正するためのデータ(相対角補正用データ)が予め記憶部に格納されているものとして説明したが、初期校正処理において相対角補正用データを生成することとしてもよい。
【0136】
この場合は、初期校正処理において、測定対象血管に対して超音波ビームを垂直に照射した状態から、超音波ビームのビーム角を振りながら測定対象血管の壁厚の変化を測定していく。この際、拍動によっても測定対象血管の壁厚は変化するため、拡張時血圧時(径変動が最小値となる時)の壁厚を数点ずつ測定していくことにすると好適である。この際、血圧の経時変化を考慮し、比較的短い時間の間に壁厚を測定するようにすると効果的である。
【符号の説明】
【0137】
1 超音波測定装置、 10 プローブ、 15 帯状部、 20 本体装置、 23 首掛けストラップ、 24 操作ボタン、 25 液晶ディスプレイ、 26 スピーカー、 110 探触子、 120 送受信回路部、 220 検波部、 240 信号処理部、 300 処理部、 400 操作部、 500 表示部、 600 音出力部、 700 通信部、 800 時計部、 900 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波振動子を有する超音波の送受信部と、
前記超音波の受信結果に基づいて、測定対象血管の内腔内膜境界からの反射波を検出する検出部と、
前記検出部による前記内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるように前記送受信部を制御する制御部と、
前記超音波の受信結果に基づいて、前記測定対象血管の血管径を算出する血管径算出部と、
を備えた超音波測定装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記送受信部から見て前壁側及び後壁側それぞれの内腔内膜境界からの反射波を検出可能であり、
前記制御部は、前記前壁側の内腔内膜境界からの反射波の検出有無と、前記後壁側の内腔内膜境界からの反射波の検出有無との組み合わせに応じて、前記送受信部の制御内容を変更する、
請求項1に記載の超音波測定装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記送受信部による超音波ビームの送信位置、フォーカス、及び送信方向の何れかを制御する、
請求項1又は2に記載の超音波測定装置。
【請求項4】
前記超音波の受信結果に基づいて前記測定対象血管の壁厚を測定する壁厚測定部を更に備え、
前記制御部は、前記検出部による検出が不可能となり、且つ、不可能となる前後に前記壁厚測定部で測定された壁厚に変化があった場合に、前記送受信部による超音波ビームの送信方向を制御する壁厚変化時制御部を有する、
請求項1〜3の何れか一項に記載の超音波測定装置。
【請求項5】
前記壁厚変化時制御部は、前記壁厚が増加した場合に、当該増加を打ち消すための前記超音波ビームの送信方向を算出して当該超音波ビームの送信方向を制御する、
請求項4に記載の超音波測定装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記送受信部から見て前壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出され、且つ、後壁側の内腔内膜境界からの反射波が検出されていない場合に、前記壁厚変化時制御部を機能させる、
請求項4又は5に記載の超音波測定装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記検出部による検出が不可能な場合に、前記送受信部による超音波ビームの送信方向を優先的に制御する、
請求項1〜6の何れか一項に記載の超音波測定装置。
【請求項8】
複数の超音波振動子を有する超音波の送受信部を備えた超音波測定装置の制御方法であって、
前記超音波の受信結果に基づいて、測定対象血管の内腔内膜境界からの反射波を検出することと、
前記内腔内膜境界からの反射波の検出が可能となるように前記送受信部を制御することと、
前記超音波の受信結果に基づいて、前記測定対象血管の血管径を算出することと、
を含む制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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