説明

超音波画像処理装置

【課題】対象物の周期性を考慮してパターンマッチングの精度を向上させる。
【解決手段】周期的な運動をする対象物に関する画像列の中から、互いに周期的に対応した複数の参照画像Rが探索され、注目点が設定された起点画像Rsから時相的に近い順にパターンマッチングが行われる。つまり、円弧状の矢印で示すように起点画像Rsから近い順に互いに時相的に隣接する画像データ間で次々に相関演算が実行され、参照画像R1については起点画像Rsとの間で相関演算が実行される。参照画像R1は、起点画像Rsに周期的に対応した画像であるため比較的画像の状態が近似していることから、仮に参照画像R1の手前の時相までの相関演算においてマッチングの誤差等が累積した場合においても、参照画像R1の時点でその誤差の累積がキャンセルされ、パターンマッチングの精度の低下を抑えることが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波画像処理装置に関し、特に、画像データ間において相関演算を実行する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波を送受することにより得られる超音波画像の画像データに対して相関演算を行う超音波画像処理装置や超音波診断装置が知られている。例えば、特許文献1,2には、相関演算に基づいたパターンマッチングにより、複数のフレームに亘って心筋の動きを追跡する旨の画期的な技術が提案されている。また、プローブを移動させつつ得られる複数の画像データをパターンマッチングにより部分的に重ね合わせてパノラマ画像を形成する技術なども知られている。
【0003】
画像データ間のパターンマッチングにおいては、例えば、一方の画像データ内において注目箇所にテンプレートが設定され、他方の画像データ内でテンプレートを移動させつつテンプレート内の画像データ同士が相関演算される。そして、他方の画像データ内で最も類似度の大きいテンプレートの位置が注目箇所に対応した位置とされる。こうして、例えば心筋などに設定された注目箇所が複数の時相に亘って画像データ内で追跡される。
【0004】
ところで、例えば心筋の動きを追跡する場合においては、心臓が周期的な収縮拡張運動をしているために心筋の動きも周期的なものとなる。そのため、例えば複数の時相に亘って心筋の動きを追跡すると、収縮拡張運動の1周期後には1周期前とほぼ同じ位置に心筋が移動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−130063号公報
【特許文献2】特開2007−143606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願の発明者は、上述した心臓などの対象物に関する周期性とパターンマッチングを融合する技術について研究開発を重ねてきた。
【0007】
本発明は、その研究開発の過程において成されたものであり、その目的は、対象物の周期性を考慮してパターンマッチングの精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的にかなう好適な超音波画像処理装置は、周期的な運動をする対象物から超音波を介して得られる複数の時相に対応した複数の画像データを記憶する画像記憶部と、画像データ間の相関演算に基づいて前記運動の複数の周期に亘ってパターンマッチングを行う画像処理部と、を有し、前記画像処理部は、前記複数の周期に亘る複数の画像データの中から、互いに周期的に対応した複数の参照画像データを探索し、前記複数の周期に亘るパターンマッチングにおいて参照画像データ間で相関演算を実行する、ことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、互いに周期的に対応した複数の参照画像データが探索され、例えば心臓や血管や血流などの周期的な運動をする対象物について、比較的画像の状態が近似している参照画像データ間で相関演算が実行されるため、パターンマッチングの精度を向上させることが可能になる。例えば、複数の時相に亘ってマッチングの誤差が累積している場合においても、参照画像データの時相において誤差の累積をキャンセルすることなどが可能になる。なお、上記構成において、各画像データは、例えば、2次元的に収集されたエコーデータから得られる2次元データ、または、3次元的に収集されたエコーデータから得られる3次元データである。
【0010】
望ましい具体例において、前記画像処理部は、複数の参照画像データとして、注目点が設定された起点画像データと起点画像データから前記運動の周期だけ時相的に離れた第1画像データとを探索する、ことを特徴とする。
【0011】
望ましい具体例において、前記画像処理部は、前記複数の周期に亘る複数の画像データを対象として、起点画像データから時相的に近い順に第1画像データの手前の時相まで互いに時相的に隣接する画像データ間で次々に相関演算を実行し、第1画像データについては起点画像データとの間で相関演算を実行する、ことを特徴とする。
【0012】
望ましい具体例において、前記画像処理部は、複数の参照画像データとして、起点画像データと第1画像データに加え、第1画像データからさらに前記運動の周期だけ時相的に離れた第2画像データを探索する、ことを特徴とする。
【0013】
望ましい具体例において、前記画像処理部は、前記複数の周期に亘る複数の画像データを対象として、第1画像データから時相的に近い順に第2画像データの手前の時相まで互いに時相的に隣接する画像データ間で次々に相関演算を実行し、第2画像データについては第1画像データまたは起点画像データとの間で相関演算を実行することを特徴とする。
【0014】
望ましい具体例において、前記画像処理部は、周期的な特徴時相に対応した複数の基準画像データの各々から調整時相だけ離れた複数の画像データを前記複数の参照画像データとする、ことを特徴とする。
【0015】
また、上記目的にかなう好適な超音波診断装置は、周期的な運動をする対象物を含む領域に対して超音波を送受するプローブと、プローブを制御することにより前記領域から受信信号を得る送受信部と、受信信号に基づいて複数の時相に対応した複数の画像データを形成する画像形成部と、画像データ間の相関演算に基づいて前記運動の複数の周期に亘ってパターンマッチングを行う画像処理部と、を有し、前記画像処理部は、前記複数の周期に亘る複数の画像データの中から、互いに周期的に対応した複数の参照画像データを探索し、前記複数の周期に亘るパターンマッチングにおいて参照画像データ間で相関演算を実行する、ことを特徴とする。
【0016】
また、上記目的にかなう好適な超音波画像処理プログラムは、周期的な運動をする対象物から超音波を介して得られる複数の時相に対応した複数の画像データを処理するコンピュータに、前記運動の複数の周期に亘る複数の画像データの中から、互いに周期的に対応した複数の参照画像データを探索する探索機能と、画像データ間の相関演算に基づいて前記複数の周期に亘ってパターンマッチングを行うにあたり、参照画像データ間で相関演算を実行する相関演算機能と、を実現させることを特徴とする。
【0017】
上記超音波画像処理プログラムは、例えば、ディスクやメモリなどのコンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶され、その記憶媒体を介してコンピュータに提供される。もちろん、インターネットなどの電気通信回線を介して上記超音波画像処理プログラムがコンピュータに提供されてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、対象物の周期性を考慮してパターンマッチングの精度を向上させることが可能になる。例えば、本発明の好適な態様によれば、互いに周期的に対応した複数の参照画像データが探索され、周期的な運動をする対象物について比較的画像の状態が近似している参照画像データ間で相関演算が実行されるため、複数の時相に亘ってマッチングの誤差が累積している場合においても、参照画像データの時相において誤差の累積をキャンセルすることなどが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。
【図2】画像データ間のパターンマッチングを説明するための図である。
【図3】相互差分値の変化を示す図である。
【図4】基準画像の探索を説明するための図である。
【図5】参照画像の探索を説明するための図である。
【図6】対象物の周期性を考慮したパターンマッチングを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の実施において好適な超音波診断装置の全体構成を示す図である。図1の超音波診断装置は、本発明に係る超音波画像処理装置の機能を備えている。
【0021】
プローブ10は、例えば心臓や血管などの対象物を含む領域に対して超音波を送受する超音波探触子である。プローブ10は、超音波を送受する複数の振動素子を備えており、複数の振動素子が送受信部12によって送信制御されて送信ビームが形成される。また、複数の振動素子が対象物を含む領域内から得られる超音波を受波し、これにより得られた信号が送受信部12へ出力され、送受信部12が受信ビームを形成して受信ビームに沿ってエコーデータが収集される。
【0022】
プローブ10は、超音波ビーム(送信ビームと受信ビーム)を二次元平面内において走査してエコーデータを収集する。もちろん、超音波ビームを三次元空間内において立体的に走査する三次元プローブが利用されてもよい。
【0023】
対象物を含む領域内で超音波ビームが走査され、送受信部12によりエコーデータが収集されると、画像形成部20は、収集されたエコーデータに基づいて超音波の画像データを形成する。画像形成部20は、例えばBモード画像の画像データを形成する。また、画像形成部20は、複数の超音波画像に対応した複数の画像データを形成する。例えば、複数の時刻に亘って対象物を映し出した複数の画像データを形成する。画像形成部20において形成された複数の画像データは、画像記憶部22に記憶される。
【0024】
パターンマッチング処理部30は、画像データ間のパターンマッチングを行う画像処理部として機能する。パターンマッチング処理部30は、画像記憶部22に記憶された複数の画像データの中から、基準画像データと参照画像データを探索する機能と、画像データ内にテンプレートを設定してテンプレート内の画像データに基づいて相関演算を実行する機能を備えている。そして、パターンマッチング処理部30は、画像記憶部22に記憶された複数の画像データを対象として、相関演算に基づいて画像データ間のパターンマッチングを行う。
【0025】
図2は、画像データ間のパターンマッチングを説明するための図であり、画像データ1と画像データ2との間における処理を示している。画像データ1と画像データ2は、例えば同じ心臓から互いに異なる時刻に得られる画像データである。パターンマッチングにおいては、まず、検査者などのユーザにより画像データ1内に注目点(黒丸)が設定され、その画像データ1内において、注目点を取り囲むようにテンプレートTが設定される。さらに、画像データ2内において、テンプレートTに対応した位置にある画像領域を含むように探索領域SAが設定される。テンプレートTや探索領域SAの設定には、公知の様々な手法を利用することができる。もちろん、画像データ2の全体を探索領域SAとしてもよい。
【0026】
テンプレートTと探索領域SAが設定されると、画像データ2の探索領域SA内においてテンプレートTが移動され、各移動位置において、画像データ1のテンプレートT内の複数の画素と、画像データ2のテンプレートT内の複数の画素とに基づいて、相関値が算出される。例えば、画像データ1内のテンプレートTに対応した位置を初期位置とし、その初期位置からの変位(dx,dy)ごとに相関値が算出され、探索領域SA内の全域に亘る複数の変位に対応した相関値が算出される。
【0027】
こうして、探索領域SA内の全域に亘る複数の変位に対応した相関値が算出されると、複数の変位の中から最も類似の度合が大きい変位が特定され、画像データ1内のテンプレートTの移動先、つまり注目点(黒丸)に関する画像データ2内の移動先とされる。
【0028】
また、画像データ2内において注目点の移動先が決定されると、画像データ2内において、注目点を取り囲むようにテンプレートTが設定され、さらに、画像データ2に続く画像データ内において、テンプレートTに対応した位置にある画像領域を含むように探索領域SAが設定される。そして、画像データ2に続く画像データ内においても、上述したように相関演算に基づいて注目点の移動先が決定される。同様にして、複数の画像データに亘って相関演算に基づいて注目点の移動先が次々に決定される。
【0029】
なお、相関値とは画像データ間の相関関係の程度(類似の程度)を示す数値であり、相関値の算出には相関演算の各手法に応じた公知の数式が用いられる。例えば、位相限定相関法や相互相関法では、類似の度合が大きいほど大きな値を示す相関値が利用され、最小和絶対差法では、類似の度合が大きいほど小さな値を示す相関値が利用される。
【0030】
また、図2においては二次元平面内における平行移動の変位(dx,dy)を示しているが、さらに回転移動の変位を加えて、回転移動の変位も考慮して相関値が算出されてもよい。また、三次元画像の画像データの場合には、三次元的な平行移動や回転移動の各変位ごとに相関値が算出される。
【0031】
上述した相関演算に基づいたパターンマッチングにおいて、図1のパターンマッチング処理部30は、心臓や血管などの対象物に関する運動の周期性を考慮してパターンマッチングを行う。つまり、複数の時相に対応した複数の画像データを対象としたパターンマッチングにおいて、互いに隣接する画像データ間の相関演算を基本としつつ、対象物に関する周期性が考慮される。
【0032】
パターンマッチング処理部30は、画像記憶部22に記憶された複数の画像データの中から、周期的な特徴時相に対応した複数の基準画像データを探索し、さらに、複数の基準画像データの各々から調整時相だけ離れた複数の参照画像データを探索する。周期的な特徴時相とは、対象物が心臓であれば例えば拡張末期や収縮末期などである。心臓の特徴時相は、心電波形などから得ることができる。例えば、心電波形に含まれるR波の発生タイミングにおける時相の画像データが基準画像データとされる。
【0033】
また、画像記憶部22に記憶された複数の画像データに基づいて、拡張末期や収縮末期などの特徴時相を特定して複数の基準画像データを探索することもできる。そこで、パターンマッチング処理部30による複数の画像データに基づいた特徴時相の特定処理について説明する。
【0034】
パターンマッチング処理部30は、画像記憶部22に記憶された複数の画像データに基づいて、心臓に関する仮の周期となる仮想周期を算出する。仮想周期の算出にあたって、パターンマッチング処理部30は、次式で定義される相互差分値を利用する。
【0035】
【数1】

【0036】
数1式におけるx,yは2次元の画像データ内をXY直交座標系で表現した場合の各軸上の座標値であり、zはフレーム番号つまり各画像データの時相を示しており、pは画像データ内の各座標に対応した画素値である。数1式においては、Z軸方向に隣接する2つの画像データ間つまり互いに時相的に隣接する画像データ間の2つの画素値の差分に対して、一方の画素値が乗算されている。これにより、心臓が収縮する場合に比べて心臓が拡張する場合に相互差分値が比較的大きな値となり、単純な差分値では識別が難しい拡張と収縮を相互差分値により識別することが可能になる。
【0037】
例えば、ある画像データz内において、画素p(x,y,z)が心臓内壁の近傍の心筋であると仮定し、その画素値をp(x,y,z)=100とする。心臓が拡張して心腔が大きくなると、画像データzに続いて得られる画像データz+1内において画素p(x,y,z+1)が心腔の画素となる。心筋に比べて心腔の画素値は小さいためその画素値をp(x,y,z+1)=10とする。この例において、数1式の右辺の絶対値を算出すると100×(100−10)=9000となる。心臓が拡張する場合には、心臓内壁の周辺において、心筋から心腔に変化する画素が多く発生するため、数1式の相互差分値の値が比較的大きくなる。
【0038】
一方、心臓が収縮する場合には、上記の例とは反対の現象が発生する。つまり、心臓が収縮して心腔が小さくなるため、心腔に対応した画素p(x,y,z)=10から、心筋に対応した画素p(x,y,z+1)=100に変化する。この例において、数1式の右辺の絶対値を算出すると|10×(10−100)|=900となり、拡張の場合における値9000よりも小さくなる。そのため、拡張と収縮を相互差分値により識別することが可能になる。
【0039】
図3は、相互差分値の変化を示す図である。図3の横軸は、各画像データの時相つまり数1式のzに対応している。数1式を利用して各時相zにおいて相互差分値が算出されると、心臓が拡張する場合に相互差分値が比較的大きな値となる。そこで、パターンマッチング処理部30は、相互差分値のピーク値(極大値)を検出し、隣接するピーク値の間隔を心臓の周期(心拍の周期)と判断する。
【0040】
但し、心臓は心拍の周期が変動する場合があり、心拍の周期が変動するとピーク値の間隔も変動する。そこで、パターンマッチング処理部30は、例えば、ピーク値の間隔のうちの2番目に大きな間隔を仮想周期に設定する。なお、ピーク値の間隔のヒストグラムから得られる最多頻度の値や重心値などを仮想周期としてもよい。また、予め設定された複数の値の中からユーザまたは装置が仮想周期を選択するようにしてもよいし、ユーザが仮想周期の値を入力するようにしてもよい。仮想周期として、超音波診断装置の計測結果(例えばMモード計測の結果)に基づいて得られる値が利用されてもよいし、常に固定値が利用されてもよい。
【0041】
仮想周期が設定されると、パターンマッチング処理部30(図1)は、複数の画像データの中から、仮想周期を利用して複数の基準画像(基準画像データ)を探索する。
【0042】
図4は、基準画像の探索を説明するための図である。図4(A)〜(C)の各々には、図3を利用して説明した相互差分値の変化が図示されている。パターンマッチング処理部30(図1)は、まず、複数の画像データの中から代表となる基準画像(代表基準画像)を探索する。パターンマッチング処理部30は、図4(A)に示すように、相互差分値が最大となる時相に対応した画像データを代表基準画像(代表基準断面)とする。そして、パターンマッチング処理部30は、代表基準画像を起点として、極大の相互差分値に対応した複数の画像データの中から仮想周期だけ離れた時相に最も近い画像データを次々に探索する。
【0043】
まず、図4(A)に示すように、代表基準画像からZ軸方向の正方向と負方向に仮想周期(VHR)だけ離れた時相に最も近い画像データが探索されて基準画像とされる。次にパターンマッチング処理部30は、図4(B)に示すように、探索された基準画像から仮想周期(VHR)だけ離れた時相に最も近い画像データを探索し新たな基準画像とする。図4(B)において、破線の矢印が複数の基準画像(基準断面)の時相を示している。
【0044】
パターンマッチング処理部30は、代表基準画像を起点として次々に複数の基準画像を探索する。こうして、極大の相互差分値に対応した複数の画像データの中から図4(C)に示すように複数の基準画像が探索される。図4(C)において、破線の矢印が複数の基準画像(基準断面)の時相を示している。
【0045】
複数の基準画像が探索されると、パターンマッチング処理部30は、複数の周期に亘る複数の画像データで構成される画像列内において、複数の基準画像(基準画像データ)の各々から調整時相(オフセット時相)だけ離れた箇所を複数の参照画像(参照画像データ)とする。
【0046】
図5は、参照画像の探索を説明するための図である。図5(A)(B)の各々には、画像記憶部22(図1)に記憶された複数の画像データで構成された画像列が図示されている。つまり、各々の横軸は、画像データの時相(フレーム)に対応しており、各々の横軸に沿って複数の画像データがパルス状に実線で示されている。
【0047】
図5(A)には、画像列内において探索された複数の基準画像Fが太く長い実線で明示されている。複数の基準画像Fは、仮想周期と相互差分値の変化に基づいて探索される(図4参照)。そのため、隣接する基準画像F同士の間隔は、心臓などの対象物に関する運動の周期変動に応じて変化する。
【0048】
図5(B)には、図5(A)と同じ画像列内において探索される複数の参照画像Rが太く長い実線で明示されている。先に説明したように(図2参照)、パターンマッチングにおいては、まず検査者などのユーザにより画像データ内に注目点が設定される。そして、その注目点が設定された画像データを起点としてパターンマッチングが開始される。図5(B)において、注目点を設定された起点となる画像データが起点画像Rsである。
【0049】
パターンマッチング処理部30(図1)は、起点画像Rsと、起点画像Rsに最も近い基準画像Fとの間の時相数をオフセット(調整時相)とする。そして、パターンマッチング処理部30は、複数の基準画像Fの各々からオフセットだけ離れた箇所を複数の参照画像Rとする。図5においては、複数の基準画像Fの各々からオフセットだけ時間的に遡った時点に複数の参照画像Rが設定されている。
【0050】
こうして探索された複数の参照画像Rは、例えば拡張末期に対応した複数の基準画像の各々からオフセットだけ時間的に遡った時点に設定されているため、起点画像Rsを含む複数の参照画像Rは、互いに周期的に対応した画像となり、互いに収縮拡張の度合がほぼ同じで比較的画像の状態が近似している。
【0051】
複数の参照画像Rが探索されると、パターンマッチング処理部30は、複数の参照画像Rを含んだ複数の画像データを対象として、相関演算に基づいて画像データ間のパターンマッチングを行う。そのパターンマッチングにおいて、複数の参照画像Rが利用されて対象物の周期性が考慮される。
【0052】
図6は、対象物の周期性を考慮したパターンマッチングを説明するための図である。図6には、画像記憶部22(図1)に記憶された複数の画像データを時相順に配列した画像列が図示されている。図6の横軸は、画像データの時相(フレーム)を示しており、横軸に沿って複数の画像データがパルス状に実線で示されている。そして、画像列内において探索された複数の参照画像R(起点画像Rsを含む)が太い実線で明示されている。
【0053】
パターンマッチングは、注目点が設定された起点画像(起点画像データ)Rsから時相的に近い順に行われる。ます、起点画像RsとそのZ軸正方向の隣に位置する隣接画像との間において、テンプレートを利用した相関演算が実行され、その隣接画像内で注目点の移動先が探索される(図2参照)。さらに、移動先が探索された画像とそのZ軸正方向の隣に位置する新たな隣接画像との間において相関演算が実行され、その新たな隣接画像内で注目点の移動先が探索される。
【0054】
こうして、図6においてZ軸正方向を向いた円弧状の矢印で示すように、起点画像Rsから時相的に近い順に互いに時相的に隣接する画像データ間で次々に相関演算が実行される。そして、参照画像R1の手前の時相まで相関演算が実行されると、参照画像R1については起点画像Rsとの間で相関演算が実行される。つまり、参照画像R1は、起点画像Rsに周期的に対応した画像であるため、互いに収縮拡張の度合がほぼ同じで比較的画像の状態が近似していることから、起点画像Rsが相関演算の対象とされる。そして、起点画像Rsに設定された注目点とテンプレートが利用され、そのテンプレートに対応した探索領域が参照画像R1内に設定されて、参照画像R1と起点画像Rsとの間で相関演算が実行される。
【0055】
そのため、仮に参照画像R1の手前の時相までの相関演算においてマッチングの誤差等が累積した場合においても、参照画像R1の時点でその誤差の累積がキャンセルされ、パターンマッチングの精度の低下を抑えることが可能になる。
【0056】
参照画像R1内において注目点の移動先が探索されると、参照画像R1から時相的に近い順に参照画像R2の手前の時相まで、互いに時相的に隣接する画像データ間で次々に相関演算が実行される。そして、参照画像R2については、参照画像R1との間で相関演算が実行される。つまり、参照画像R1内で探索された注目点に応じて設定されたテンプレートが利用され、そのテンプレートに対応した探索領域が参照画像R2内に設定されて、参照画像R2と参照画像R1との間で相関演算が実行される。
【0057】
なお、参照画像R2については、起点画像Rsとの間で相関演算が実行されてもよい。つまり、起点画像Rsに設定された注目点とテンプレートが利用され、そのテンプレートに対応した探索領域が参照画像R2内に設定されて、参照画像R2と起点画像Rsとの間で相関演算が実行されてもよい。
【0058】
また、起点画像RsからZ軸の負方向にパターンマッチングが行われてもよい。その場合には、図6においてZ軸負方向を向いた円弧状の矢印で示すように、起点画像Rsから時相的に近い順に互いに時相的に隣接する画像データ間で次々に相関演算が実行され、参照画像R−1の手前の時相まで相関演算が実行されると、参照画像R−1については起点画像Rsとの間で相関演算が実行される。つまり、参照画像R−1は、起点画像Rsに周期的に対応した画像であるため、互いに収縮拡張の度合がほぼ同じで比較的画像の状態が近似していることから、起点画像Rsが相関演算の対象とされる。
【0059】
このように、本実施形態においては、複数の参照画像Rを利用して心臓などの対象物の周期性を考慮することにより、例えばマッチングの誤差等の累積がキャンセルされ、パターンマッチングの精度が向上する。
【0060】
上述したパターンマッチング処理により、複数の時相に亘って画像データ内で注目点が動的に追跡されることにより、例えば図1の表示部40にその追跡結果を示した表示画像が表示される。
【0061】
なお、上述したパターンマッチング処理を超音波以外の画像データ、例えば、他の医療画像データやコンピュータなどにより処理される一般の映像データなどに適用することも可能である。
【0062】
以上、本発明の好適な実施形態である超音波診断装置について説明したが、例えば、上述した基準画像探索の処理と参照画像探索の処理と相関演算の処理に対応したプログラムにより、図1に示したパターンマッチング処理部30の機能をコンピュータで実現し、そのコンピュータを超音波画像処理装置として機能させてもよい。また、上述した実施形態は、あらゆる点で単なる例示にすぎず本発明の範囲を限定するものではない。本発明は、その本質を逸脱しない範囲で各種の変形形態を包含する。
【符号の説明】
【0063】
10 プローブ、20 画像形成部、30 パターンマッチング処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的な運動をする対象物から超音波を介して得られる複数の時相に対応した複数の画像データを記憶する画像記憶部と、
画像データ間の相関演算に基づいて前記運動の複数の周期に亘ってパターンマッチングを行う画像処理部と、
を有し、
前記画像処理部は、前記複数の周期に亘る複数の画像データの中から、互いに周期的に対応した複数の参照画像データを探索し、前記複数の周期に亘るパターンマッチングにおいて参照画像データ間で相関演算を実行する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波画像処理装置において、
前記画像処理部は、複数の参照画像データとして、注目点が設定された起点画像データと起点画像データから前記運動の周期だけ時相的に離れた第1画像データとを探索する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の超音波画像処理装置において、
前記画像処理部は、前記複数の周期に亘る複数の画像データを対象として、起点画像データから時相的に近い順に第1画像データの手前の時相まで互いに時相的に隣接する画像データ間で次々に相関演算を実行し、第1画像データについては起点画像データとの間で相関演算を実行する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波画像処理装置において、
前記画像処理部は、複数の参照画像データとして、起点画像データと第1画像データに加え、第1画像データからさらに前記運動の周期だけ時相的に離れた第2画像データを探索する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の超音波画像処理装置において、
前記画像処理部は、前記複数の周期に亘る複数の画像データを対象として、第1画像データから時相的に近い順に第2画像データの手前の時相まで互いに時相的に隣接する画像データ間で次々に相関演算を実行し、第2画像データについては第1画像データまたは起点画像データとの間で相関演算を実行する、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の超音波画像処理装置において、
前記画像処理部は、周期的な特徴時相に対応した複数の基準画像データの各々から調整時相だけ離れた複数の画像データを前記複数の参照画像データとする、
ことを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項7】
周期的な運動をする対象物を含む領域に対して超音波を送受するプローブと、
プローブを制御することにより前記領域から受信信号を得る送受信部と、
受信信号に基づいて複数の時相に対応した複数の画像データを形成する画像形成部と、
画像データ間の相関演算に基づいて前記運動の複数の周期に亘ってパターンマッチングを行う画像処理部と、
を有し、
前記画像処理部は、前記複数の周期に亘る複数の画像データの中から、互いに周期的に対応した複数の参照画像データを探索し、前記複数の周期に亘るパターンマッチングにおいて参照画像データ間で相関演算を実行する、
ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項8】
周期的な運動をする対象物から超音波を介して得られる複数の時相に対応した複数の画像データを処理するコンピュータに、
前記運動の複数の周期に亘る複数の画像データの中から、互いに周期的に対応した複数の参照画像データを探索する探索機能と、
画像データ間の相関演算に基づいて前記複数の周期に亘ってパターンマッチングを行うにあたり、参照画像データ間で相関演算を実行する相関演算機能と、
を実現させる、
ことを特徴とする超音波画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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