説明

超音波画像処理装置

【課題】シャドー領域、アーティファクト等による画質の劣化を回避または抑制した超音波画像データを生成することを目的とする。
【解決手段】ステップS104〜S112においては、S101〜S103によって1つの広範囲座標値が指定されるごとに、1つの合成ボクセルデータを生成する処理が実行される。1つの合成ボクセルデータを生成する処理では、対象ボクセル値の個数が0、1、2および3以上のそれぞれの場合について、対象ボクセル値の個数に応じた処理が実行される。対象ボクセル値の個数が3以上の場合に実行される分類合成処理では、異なる数値範囲を有する下位区分、中位区分または上位区分に対象ボクセル値が分類される。そして、分類された対象ボクセル値の個数が最も多い多数区分に分類された対象ボクセル値に基づいて合成ボクセルデータが生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体観測用の超音波画像処理装置に関し、特に、複数の超音波プローブによって得られた複数の超音波画像データを合成する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において、生体内の組織を超音波画像として表示する超音波診断装置が広く用いられている。超音波診断装置は、超音波プローブで送受信される超音波ビームを生体内で走査する。そして、超音波プローブで受信された超音波に基づくエコーデータに基づいて画像データを生成し、その画像データに基づく画像を表示する。
【0003】
断層画像を表示する場合、超音波診断装置は、生体内の平面上で超音波ビームを1次元走査することで断層画像データを取得し、その超音波画像データに基づく断層画像を表示する。3次元画像を表示する場合、超音波診断装置は、生体内で超音波ビームを3次元走査することでボリュームデータを取得し、ボリュームデータに基づいて生体内の組織を奥行感のある3次元画像を表示する。
【0004】
なお、引用文献1および2には、表示される画像の質を向上させる超音波診断装置として、超音波の送受信方向が異なる複数の超音波プローブを用い、生体内の同一の部位について複数のボリュームデータを取得するものが記載されている。これらの超音波診断装置では、同一位置について取得された複数の画素値が重み付け合成される。引用文献1には、画素値を取得するのに寄与した超音波プローブから画素までの距離に応じて重み付け値が求められる旨が記載されている。また、引用文献2には、同一位置について取得された複数の画素値の相互相関係数に応じて重み付けの値が求められる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−307087号公報
【特許文献2】特開2010−029281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
超音波を透過し難い組織が生体内にある場合、そのような生体組織によって超音波が遮られたシャドー領域が生体内に生じる。これによって、超音波プローブによって取得されたボリュームデータには、シャドー領域を示す画素が生じることがある。また、超音波プローブのビーム形状にサイドローブがある場合、その超音波プローブによって取得されたボリュームデータには、アーティファクトと呼ばれる偽像を示す画素が生じることがある。
【0007】
複数の超音波プローブを用いて複数のボリュームデータを取得し、その複数のボリュームデータを合成する従来の超音波診断装置では、シャドー領域を示す画素、およびアーティファクトを示す画素をも含めてボリュームデータの合成が行われ、表示される画像の質が劣化することがある。
【0008】
本発明は、シャドー領域、アーティファクト等による画質の劣化を回避または抑制した超音波画像データを生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、複数の超音波プローブによって複数の超音波画像データを取得する超音波画像データ取得手段と、前記複数の超音波画像データに対する合成画像データを生成する画像合成手段と、を備え、前記画像合成手段は、前記複数の超音波画像データが同一位置において示す複数の画素値を、異なる画素値範囲が定められた複数の区分に分類する分類手段と、前記複数の画素値のうち、分類された画素値の個数が最も多い多数区分に分類された画素値に基づいて、前記複数の画素値に対する合成画素値を求める画素合成手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、複数の超音波画像データが同一位置において示す複数の画素値が、異なる画素値範囲が定められた複数の区分に分類される。そして、これらの複数の画素値のうち、分類された画素値の個数が最も多い多数区分に分類された画素値に基づいて、複数の画素値に対する合成画素値が求められる。多数区分に分類された画素値は、シャドー領域、アーティファクト等の劣化領域ではなく、生体内の組織を適切に表す画素値である可能性が高い。したがって、多数区分に分類された画素値に基づいて合成画素値が求められることで、合成画素値によって示される画像の劣化を回避または抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る超音波画像処理装置は、望ましくは、前記画像合成手段は、前記多数区分が、前記複数の区分のうちの最大の画素値範囲を有する区分である場合には、前記多数区分に分類された画素値のうち最大のものを前記合成画素値とする。
【0012】
また、本発明に係る超音波画像処理装置は、望ましくは、前記画像合成手段は、前記多数区分が、前記複数の区分のうちの最小の画素値範囲を有する区分である場合には、前記多数区分に分類された画素値のうち最小のものを前記合成画素値とする。
【0013】
また、本発明に係る超音波画像処理装置は、望ましくは、前記画像合成手段は、前記多数区分が、前記複数の区分のうちの最大の画素値範囲を有する区分でなく、かつ、前記複数の区分のうちの最小の画素値範囲を有する区分でない場合には、前記多数区分に分類された画素値の平均値を前記合成画素値とする。
【0014】
また、本発明に係る超音波画像処理装置は、望ましくは 前記画像合成手段は、前記多数区分が、前記複数の区分のうちの最大の画素値範囲を有する区分でなく、かつ、前記複数の区分のうちの最小の画素値範囲を有する区分でない場合には、前記多数区分に分類された画素値の中央値を前記合成画素値とする。
【0015】
また、本発明に係る超音波画像処理装置は、望ましくは、前記画素合成手段は、前記多数区分に該当する区分がない場合には、前記複数の画素値の平均値を前記合成画素の画素値とする。
【0016】
また、本発明に係る超音波画像処理装置は、望ましくは、前記超音波画像データ取得手段は、前記複数の超音波プローブのそれぞれが送受信する超音波のビームを走査させる走査手段を備え、前記複数の超音波画像データのそれぞれを3次元ボリュームデータとして取得する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、シャドー領域、アーティファクト等による画質の劣化を回避または抑制した超音波画像データを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る超音波診断システムの模式図である。
【図2】画像処理装置の構成を示す図である。
【図3】3つの超音波プローブについて、それぞれの走査範囲を例示する図である。
【図4】3次元情報合成部が実行する処理を示すフローチャートである。
【図5】分類合成処理を示すフローチャートである。
【図6】同一の広範囲座標値における3つの対象ボクセル値につき、合成ボクセルデータのボクセル値がどのように設定されるかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1には、本発明の実施形態に係る超音波診断システム10の模式図が示されている。この超音波診断システム10は、ベッド12に横たえられた被検体14について3次元超音波画像データを取得するものである。被検体14は、例えば、被検者の腹部である。
【0020】
筐体16には、複数の超音波プローブ18、各超音波プローブ18を支持するアーム26、および音響結合バルーン20が備えられている。図1には、音響結合バルーン20の断面が示されている。音響結合バルーン20は複数の袋体22を含む。複数の袋体22は、音響結合バルーン20全体の形状が、筒形状をその延伸方向に沿った断面で切断した筒片形状となるよう配置されている。各袋体22の内部には水、油等の音響結合剤24が充填されている。音響結合バルーン20は、その筒片形状の内側面が下方に向けられるよう筐体16に固定されている。音響結合バルーン20には、1つの袋体を筒片形状としたものを採用してもよい。
【0021】
アーム26は、一定曲率をもった円弧形状の金具として構成されている。複数の超音波プローブ18は、アーム26に所定の角度間隔で固定され、超音波が送受信される面が音響結合バルーン20の外周面に接触するよう音響結合バルーン20の外周面に配置されている。図1の矢印28で示されるように、アーム26は、図示しない走査機構によって各超音波プローブ18と共に揺動方向に運動可能である。
【0022】
超音波プローブ18は、複数の超音波振動子が図1の描画面に垂直な方向に配列された、1次元配列アレイ振動子を備える。1次元配列アレイ振動子は、描画面に垂直な走査面30内で超音波ビームの電子走査(1次元走査)を行う。
【0023】
筐体16は、1対の支柱32によって左右の側面が支持されている。支柱32は、図示しない駆動機構によって筐体16を図1の上下方向に駆動する。超音波診断が行われる前には、被検者がベッド12に横たわるため、筐体16は支柱32の上方に支持される。そして、被検者がベッド12に横たわった後、支柱32が備える駆動機構は、筐体16を下方に移動させ、音響結合バルーン20の筒片形状の内側面を被検体14に密着させる。このように、超音波プローブ18と被検体14との間に音響結合バルーン20を介在させることで、超音波プローブ18から放射された超音波を効率良く被検体14に導き、被検体14で反射した超音波を効率良く超音波プローブ18に導くことができる。
【0024】
各超音波プローブ18は、画像処理装置34に接続されており、画像処理装置34の制御に基づいて走査面30内で超音波ビームを電子走査する。各超音波プローブ18が、アーム26と共に揺動運動をしながら超音波ビームを走査することで、各超音波プローブ18の走査範囲につき1つのボリュームデータが取得される。このようにして取得された1つのボリュームデータが示す画像の3次元空間は、他のボリュームデータが示す画像の3次元空間と重複する。そこで、画像処理装置34は、後述のように、これら複数のボリュームデータを合成して1つの合成ボリュームデータを生成する。
【0025】
なお、ここでは、各超音波プローブ18をアーム26の揺動運動によって機械走査しながら、各超音波プローブ18が1次元走査を行う構成について説明した。このような構成の他、超音波プローブ18として2次元配列アレイ振動子を備えるものを採用し、超音波プローブ18の1次元走査面を電子的に揺動させる3次元走査を行う構成としてもよい。ここで、2次元配列アレイ振動子とは、複数の超音波振動子が図1の描画面に垂直な方向、およびそれに垂直な方向に配列されたものをいう。超音波プローブ18の1次元走査面を電子的に揺動させる場合、超音波プローブ18は、超音波が送受信される面が音響結合バルーン20の外周面に接触するよう固定配置される。
【0026】
次に、画像処理装置34の具体的な構成および処理について説明する。図2には画像処理装置34の構成が超音波プローブ18−1〜18−nと共に示されている。ここでは、n個の超音波プローブが設けられているものとする。画像処理装置34においては、1つの超音波プローブ18−jに対して、送受信制御部38−j、整相加算部40−j、ディジタルスキャンコンバータ(DSC)42−jおよび3次元メモリ44−jが備えられる。ここで、jは1〜nのうちのいずれかの整数である。これらの構成要素は中央制御部36によって制御される。また、中央制御部36は、図1に示されたアーム26の走査機構、および支柱32に備えられた駆動機構を制御する。
【0027】
送受信制御部38−jは、複数の送信信号を生成しそれらを超音波プローブ18−jが備えるアレイ振動子へ並列的に出力することにより、送信超音波ビームフォーマーとして機能する。超音波プローブ18−jでは、それらの送信信号に基づいて超音波が生成される。この超音波は音響結合バルーン20を介して被検体14内へ放射され、これによって送信超音波ビームが形成される。
【0028】
超音波プローブ18−jが備えるアレイ振動子は、被検体14内で生じた反射波を音響結合バルーン20を介して受信し、受信した反射波に基づき複数の受信信号を生成してそれらを送受信制御部38−jに並列的に出力する。送受信制御部38−jは、超音波プローブ18−jから出力された複数の受信信号に対し増幅処理等を施し、複数の受信信号を整相加算部40−jに出力する。整相加算部40−jは、送受信制御部38−jから出力された複数の受信信号を位相を合わせながら加算し、これによって整相加算後の受信信号としてのビームデータをDSC42−jに出力する。ビームデータは、送受信超音波ビーム1本分に相当するエコーデータ列として構成される。ビームデータは、特定の超音波送受信方向について、超音波プローブ18−jからの各距離上で生じた反射波の強度を時間軸上に表したデータである。
【0029】
このような機能に基づき、送受信制御部38−jおよび整相加算部40−jは、超音波ビームの1次元走査を行い、整相加算部40−jは、走査面内の複数方向に対して得られた複数のビームデータをDSC42−jに出力する。DSC42−jは、1つの走査面において得られた複数のビームデータに対する座標変換、補間処理等を行って1つのフレームデータ(2次元超音波画像データ)を生成し、3次元メモリ44−jに記憶する。
【0030】
画像処理装置34は、さらに、超音波プローブ18−jを機械走査させながら、あるいは超音波プローブ18−jの一次走査面を電子的に揺動させながらフレームデータを生成し記憶させる処理を繰り返し行う。これによって、複数の走査面に対する複数のフレームデータが各3次元メモリ44−jに記憶される。各3次元メモリ44−jに記憶された複数のフレームデータは、3次元画像を示すボリュームデータをなす。ボリュームデータは、3軸からなる直交座標系の個々の座標点にデータ値を対応付けた画素データの集合に相当する。ボリュームデータによって示される画素は、ボクセルと称されることが一般的であり、以下ではボクセルの語を用いることとする。
【0031】
超音波プローブ18−1〜18−nに対して備えられた送受信制御部38−1〜38−n、整相加算部40−1〜40−nおよびDSC42−1〜42−nは、それぞれ、このような処理によってボリュームデータを生成し、超音波プローブ18−1〜18−nに対応する3次元メモリ44−1〜44−nにそれぞれボリュームデータを記憶する。
【0032】
1つの超音波プローブを用いて生成されたボリュームデータの3次元空間は、他の超音波プローブを用いて生成されたボリュームデータの3次元空間と重複する。そこで、3次元情報合成部46は、複数のボリュームデータにつき3次元空間の重複範囲での合成を行うことで1つの合成ボリュームデータを生成する。
【0033】
図3には、3つの超音波プローブ18−1〜18−3について、それぞれの走査範囲60−1〜60−3が例示されている。ただし、ここでは、各超音波プローブを機械走査する構成ではなく、各超音波プローブの1次元走査面30を矢印68に示すように電子的に揺動させる構成を示している。3つの超音波プローブ18−1〜18−3のそれぞれの走査範囲60−1〜60−3は互いに重複する。 そして、各超音波プローブの走査範囲は、各超音波プローブによるボリュームデータの3次元空間に対応する。そのため、超音波プローブ18−1〜18−3を用いて生成されたボリュームデータの3次元空間は重複することとなる。
【0034】
被検体の骨部等、超音波を透過しない反射組織62が、超音波プローブ18−1〜18−3のいずれかの走査範囲内に位置している場合、反射組織62を挟んで超音波プローブの反対側にシャドー領域64が生じる。また、超音波プローブ18−1〜18−3のいずれかの超音波ビーム形状にサイドローブがある場合、サイドローブのある超音波プローブの走査範囲内にアーティファクト66が生じることがある。シャドー領域64を示すボクセル値は、エコーレベルが低いことを示す値を有し、アーティファクト66を示すボクセル値は、エコーレベルが高いことを示す値を有する。
【0035】
このように、複数の超音波プローブによって生成された複数のボリュームデータのいずれかに、シャドー領域、アーティファクト等の劣化領域を示すデータが含まれる場合、これらの劣化領域による影響が回避または抑制されるよう、複数のボリュームデータが合成されることが好ましい。そこで、3次元情報合成部46は、以下に説明するように、劣化領域による影響が回避または抑制されるようボリュームデータを合成する。
【0036】
図4には、3次元情報合成部46が実行する処理を示すフローチャートが示されている。図4において丸印で囲まれた2つの符号「A」は、この部分で処理の流れが接続されることを示す。同様に、丸印で囲まれた2つの符号「B」は、この部分で処理の流れが接続されることを示す。
【0037】
ここで、図4のフローチャートによる処理において用いられる座標系について説明する。超音波診断システム10においては、3次元メモリ44−1〜44−nに記憶されたボリュームデータのボクセルの位置を表す局所座標系と、合成ボリュームデータのボクセルの位置を表す広範囲座標系とが定義されている。局所座標系は、超音波プローブ18−1〜18−nのそれぞれに対し個別に定義されている。局所座標系は、各超音波プローブによる超音波の走査範囲内に原点が固定された座標系として定義することができる。広範囲座標系は、総ての超音波プローブ18−1〜18−nによる超音波の走査範囲内に原点が固定された座標系として定義することができる。
【0038】
図1においては、アーム26の最高点から所定の距離だけ下方に位置する点が広範囲座標系の原点として定義され、原点から右側へ向かう方向を正とする軸がx軸、描画面から奥へ向かう方向を正とする軸がy軸、そして、原点から上方を正とする軸がz軸として定義されている。また、合成ボリュームデータの3次元空間は、−Xs≦x≦Xe、−Ys≦x≦Ye、および−Zs≦x≦Zeとして定義されているものとする。
【0039】
3次元情報合成部46は、対象ボクセル読出部48およびボクセル値決定部50を備え、これらの構成要素の処理によって合成ボリュームデータを生成する。ステップS101〜S103において、対象ボクセル読出部48は、広範囲座標系におけるx軸、y軸およびz軸のそれぞれについて、刻み値Δx、ΔyおよびΔzの間隔で座標値を変化させ、座標値を変化させるごとに広範囲座標値V(x,y,z)を指定する。
【0040】
具体的には、対象ボクセル読出部48はステップS101を最初に実行するときは、z座標値を初期値ZeとしてステップS102に移行する。また、ステップS102からステップS101に移行したときは(B)、その時点のz座標値に刻み幅Δzを加えてz座標値を更新する。そして、更新後のz座標値と最終値Zeとの比較を行い、更新後のz座標値が最終値Ze以下であるときはステップS102に移行し、更新後のz座標値が最終値Zeを超えるときはステップS113に移行する。
【0041】
対象ボクセル読出部48はステップS101からステップS102に移行したときは、y座標値を初期値YeとしてステップS103に移行する。また、ステップS103からステップS102に移行したときは(A)、その時点のy座標値に刻み幅Δyを加えてy座標値を更新する。そして、更新後のy座標値と最終値Yeとの比較を行い、更新後のy座標値が最終値Ye以下であるときはステップS103に移行し、更新後のy座標値が最終値Yeを超えるときはステップS101に移行する(B)。
【0042】
対象ボクセル読出部48はステップS102からステップS103に移行したときは、x座標値を初期値XeとしてステップS104に移行する。また、ステップS107、S109、S111またはS112からステップS103に移行したときは、その時点のx座標値に刻み幅Δxを加えてx座標値を更新する。そして、更新後のx座標値と最終値Xeとの比較を行い、更新後のx座標値が最終値Xe以下であるときはステップS104に移行し、更新後のx座標値が最終値Xeを超えるときはステップS102に移行する(A)。
【0043】
ステップS104〜S112においては、S101〜S103によって1つの広範囲座標値V(x,y,z)が指定されるごとに、1つの合成ボクセルデータを生成する処理が実行される。したがって、S101〜S103によって各軸の刻み値間隔で3次元空間の全体の座標値が指定されることで、各座標値に対応する合成ボクセルデータの集合としての合成ボリュームデータが生成される。
【0044】
ステップS104〜S112に示される、各合成ボクセルデータを生成する処理について説明する。対象ボクセル読出部48は、広範囲座標値V(x,y,z)を、3次元メモリ44−1〜44−nのそれぞれに対して定義されている局所座標系での局所座標値L1(u,v,w)〜Ln(u,v,w)に変換する(S104)。この座標変換は、対象ボクセル読出部48および中央制御部36による座標変換処理に基づいて行われる。すなわち、対象ボクセル読出部48は、広範囲座標値V(x,y,z)を中央制御部36に出力し、中央制御部36は、広範囲3次元座標テーブル52を参照して、広範囲座標値V(x,y,z)に対応する局所広範囲座標値L1(u,v,w)〜Ln(u,v,w)を取得する。中央制御部36は、その局所座標値L1(u,v,w)〜Ln(u,v,w)を対象ボクセル読出部48に出力する。
【0045】
対象ボクセル読出部48は、3次元メモリ44−1〜44−nを参照し、それぞれ、局所座標値で示される位置にボクセルデータが存在する場合には、そのボクセル値を対象ボクセル値として読み出す(S105)。そして、対象ボクセル値を広範囲座標値V(x,y,z)と共にボクセル値設定部50に出力する。
【0046】
次に、ボクセル値設定部50は、対象ボクセル値読出部48から出力された対象ボクセル値の個数が0、1、2および3以上のそれぞれの場合について、対象ボクセル値の個数に応じた処理を実行する(S106〜S112)。
【0047】
ボクセル値設定部50は、対象ボクセル値の個数が0であるか否かを判定する(S106)。そして、対象ボクセル値の個数が0である場合には、ボクセル値をマスク値に設定した合成ボクセルデータを生成する(S107)。このマスク値は、エコーが存在しない場合の値、例えば0とする。他方、ボクセル値設定部50は、対象ボクセル値の個数が0でない場合にはステップS108に移行する。
【0048】
ボクセル値設定部50は、対象ボクセル値の個数が1であるか否かを判定する(S108)。そして、対象ボクセル値の個数が1であるときはボクセル値をその1つの対象ボクセル値に設定した合成ボクセルデータを生成する(S109)。他方、ボクセル値設定部50は、対象ボクセル値の個数が1でない場合にはステップS110に移行する。
【0049】
ボクセル値設定部50は、対象ボクセル値の個数が2であるか否かを判定する(S110)。そして、対象ボクセル値読出部48から出力された対象ボクセル値の個数が2であるときは、ボクセル値をその2個の対象ボクセル値の平均値に設定した合成ボクセルデータを生成する(S111)。他方、ボクセル値設定部50は、対象ボクセル値の個数が2でない場合、すなわち、対象ボクセル値の個数が3以上である場合には分類合成処理を実行する(S112)。図5には、分類合成処理を示すフローチャートが示されている。分類合成処理は、対象ボクセル値読出部48から出力された対象ボクセル値を3つの区分に分類し、分類結果に基づいて合成ボクセルデータを生成する処理である。
【0050】
第1の区分は、対象ボクセル値が第1閾値T1未満である下位区分であり、第2の区分は、対象ボクセル値が第1閾値T1以上、かつ、第2閾値T2未満である中位区分である。そして、第3の区分は、対象ボクセル値が第2閾値T2以上の上位区分である。ここで、第1閾値および第2閾値は、中位区分に分類される対象ボクセル値が、シャドー領域およびアーティファクトのいずれをも示さない可能性が高くなるよう決定されている。
【0051】
このように第1閾値および第2閾値を決定すると、下位区分には、低エコー領域(超音波を反射する傾向が弱い被検体内の領域)を示す対象ボクセル値に加え、シャドー領域を示す対象ボクセル値が分類されることがある。また、上位区分には、高エコー領域(超音波を反射する傾向が強い被検体内の領域)を示す対象ボクセル値に加え、アーティファクトを示す対象ボクセル値が分類されることがある。このように、1つの区分にシャドー領域またはアーティファクトを示す対象ボクセル値が混在して分類された場合において、その区分に分類された総ての対象ボクセル値を用いると、シャドー領域およびアーティファクトの影響を受けた合成ボクセルデータが生成される可能性が高い。
【0052】
そこで、分類合成処理においては、下位区分、中位区分および上位区分のうち、分類された対象ボクセル値の個数が最も多い多数区分の特定を試みる。そして、多数区分が特定された場合には、多数区分に分類された対象ボクセル値を採用し、シャドー領域およびアーティファクト等の劣化領域が合成ボクセルデータに与える影響を回避または抑制する。
【0053】
ボクセル値設定部50は、下位区分、中位区分および上位区分のそれぞれについて、分類された対象ボクセル値の個数をカウントする(S112−1)。そして、これらの区分のうち、分類された対象ボクセル値の個数が最も多い多数区分を特定する(S112−2)。ボクセル値設定部50は、下位区分が多数区分であるか否かを判定する(S112−3)。そして、下位区分が多数区分である場合には、下位区分に分類された対象ボクセル値のうち最小のものにボクセル値を設定した合成ボクセルデータを生成する(S112−4)。他方、ボクセル値設定部50は、下位区分が多数区分でない場合にはステップS112−5に移行する。
【0054】
ステップS112−5においてボクセル値設定部50は、中位区分が多数区分であるか否かを判定する。そして、中位区分が多数区分であるときは、中位区分に分類された対象ボクセル値の平均値を求め、その平均値にボクセル値を設定した合成ボクセルデータを生成する(S112−6)。ここで、平均値の代わりに、中位区分に分類された対象ボクセル値の中央値(メジアン)にボクセル値を設定した合成ボクセルデータを生成してもよい。他方、ボクセル値設定部50は、中位区分が多数区分でない場合にはステップS112−7に移行する。
【0055】
ステップS112−7においてボクセル値設定部50は、上位区分が多数区分であるか否かを判定する。そして、上位区分が多数区分であるときは、上位区分に分類された対象ボクセル値のうち値が最大のものにボクセル値を設定した合成ボクセルデータを生成する(S112−8)。
【0056】
他方、ボクセル値設定部50は、多数区分を特定することができない場合は、対象ボクセル値読出部48から出力された総ての対象ボクセル値の平均値を求め、その平均値にボクセル値を設定した合成ボクセルデータを生成する(S112−9)。このステップS112−9においては、対象ボクセル値読出部48から出力された総ての対象ボクセル値の中央値にボクセル値を設定した合成ボクセルデータを生成してもよい。
【0057】
ここで、多数区分を特定することができない場合とは、下位区分、中位区分および上位区分に同一個数の対象ボクセル値が分類された場合や、下位区分、中位区分および上位区分のうち2つの区分に同一個数の対象ボクセル値が分類され、その2つの区分に分類された対象ボクセル値の個数が残りの1つの区分に分類された対象ボクセル値の個数より多い場合等をいう。同一個数の対象ボクセル値が分類された区分が2つである場合には、総ての対象ボクセル値の平均値を合成ボクセルデータのボクセル値に設定する代わりに、その2つの区分に分類された対象ボクセル値の平均値または中央値を合成ボクセルデータのボクセル値に設定してもよい。
【0058】
分類合成処理によれば、3次元空間における同一位置、すなわち、同一の広範囲座標値における3個以上の対象ボクセル値が3つの区分に分類され、分類結果に基づいて合成ボクセルデータのボクセル値が設定される。図6には、同一の広範囲座標値における3つの対象ボクセル値につき、合成ボクセルデータのボクセル値がどのように設定されるかが例示されている。図6の横軸に付した番号は分類パターンを示す識別番号である。各分類パターンについては、ボクセル値を示す縦軸方向に3つの対象ボクセル値が丸印でプロットされている。
【0059】
パターン番号1〜3で示される分類パターンでは、下位区分が多数区分となる。したがって、分類合成処理におけるステップS112−4に基づき、黒丸で示された最小の対象ボクセル値が合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。
【0060】
パターン番号4、7および8で示される分類パターンでは、中位区分が多数区分となる。したがって、ステップS112−6に基づき、中位区分に分類された対象ボクセル値の平均値が合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。あるいは、これらの対象ボクセル値の中央値が合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。図6ではこれらの対象ボクセル値が横線のハッチングが施された丸印で示されている。
【0061】
パターン番号6、9および10で示される分類パターンでは、上位区分が多数区分となる。したがって、ステップS112−8に基づき、黒丸で示された最大の対象ボクセル値が合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。
【0062】
パターン番号5で示される分類パターンでは、下位区分、中位区分および上位区分に同一個数の対象ボクセル値が分類され、多数区分が特定されない。したがって、S112−9に基づき、総ての対象ボクセル値の平均値が合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。図6ではこれらの対象ボクセル値が斜線のハッチングが施された丸印で示されている。
【0063】
図5のフローチャートに戻り、3次元情報合成部46は、広範囲座標系の各軸の刻み値間隔で3次元空間の全体における座標値が指定され、各広範囲座標値に対する合成ボクセルデータの集合としての合成ボリュームデータが生成されると、合成ボリュームデータを広範囲3次元メモリ54に記憶する(S113)。このような処理によって、広範囲3次元メモリ54に合成ボリュームデータが記憶される。
【0064】
次に、合成ボリュームデータにを用いた画像表示処理について説明する。中央制御部36は、ユーザの操作に従い、画像表示処理を実行させる指令情報を画像構成部56に出力する。中央制御部36から3次元画像表示処理を実行する旨の指令情報が出力された場合、画像構成部56は、広範囲3次元メモリ54に記憶された合成ボリュームデータに基づいて3次元画像データを生成し、ディスプレイ58に出力する。デイスプレイは、その3次元画像データに基づく表示を行う。
【0065】
3次画像データの生成に当たっては、望ましくはボリュームレンダリング法が採用される。ボリュームレンダリング法は、視点から伸びる各視線上において奥行き方向に各ボクセルデータを参照して、不透明度を示す情報を所定のボクセル値演算によって求め、最終的なボクセル演算結果を当該視線に対応する画素値とする公知のレンダリング処理法である。ボリュームレンダリング法によれば、視点から奥行き方向側にある生体組織が、輝度の強弱を以て立体的に表示される。
【0066】
また、ユーザによって特定の断層面が指定され、中央制御部36からその断層面に対する表示処理を実行する旨の指令情報が出力された場合、画像構成部56は、広範囲3次元メモリ54に記憶された合成ボリュームデータから、その断層面を示す断層画像データを抽出し、ディスプレイ58に出力する。ディスプレイ58は、その断層画像データに基づく表示を行う。
【0067】
このような処理によれば、以下に説明される原理によって、シャドー領域、アーティファクト等の劣化領域による影響が回避または抑制された上で合成ボリュームデータが生成され、表示画像の質の劣化を回避または抑制することができる。
【0068】
分類合成処理におけるステップS112−4によれば、下位区分が多数区分となる場合、下位区分に分類された対象ボクセル値のうち最小のものが合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。第1閾値および第2閾値が上述のように決定されている場合、下位区分には、低エコー領域を示す対象ボクセル値に加えて、シャドー領域を示す対象ボクセル値が分類されることがある。しかし、ステップS112−4においては下位区分が多数区分であるため、処理対象の広範囲座標値に対応する位置は低エコー領域上の位置である可能性が高い。したがって、ボクセル値として最小の対象ボクセル値を選択することで、低エコー領域である可能性の高い領域を適切に表現することができる。
【0069】
ステップS112−6によれば、中位区分が多数区分となる場合、中位区分に分類された対象ボクセル値の平均値または中央値が合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。中位区分が多数区分となる場合、処理対象となっている対象ボクセル値はシャドー領域およびアーティファクトのいずれをも示さない可能性が高い。この場合、中位区分に分類された対象ボクセル値の平均値または中央値をボクセル値として設定することで生体組織を適切に表現することができる。
【0070】
ステップS112−8によれば、上位区分が多数区分となる場合、上位区分に分類された対象ボクセル値のうち最大のものが合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。第1閾値および第2閾値が上述のように決定されている場合、上位区分には、高エコー領域を示す対象ボクセル値に加えて、アーティファクトを示す対象ボクセル値が分類されることがある。しかし、ステップS112−8においては上位区分が多数区分であるため、処理対象の広範囲座標値に対応する位置は、高エコー領域上の位置である可能性が高い。したがって、ボクセル値として値が最大の対象ボクセル値を選択することで、高エコー領域である可能性の高い領域を適切に表現することができる。
【0071】
このように、ステップS112−4、S112−6およびS112−8によれば、劣化領域による影響が回避または抑制され、被検体内の領域を適切に表現する合成ボリュームデータを生成することができる。
【0072】
なお、多数区分が特定できない場合には、ステップS112−9により、総ての対象ボクセル値の平均値または中央値が合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。総ての対象ボクセル値の中には、劣化領域を示すものが含まれる可能性があるが、これらの平均値または中央値を採用することで、劣化領域による影響が抑制された合成ボクセルデータを生成することができる。
【0073】
同様に、対象ボクセル読出部48から出力された対象ボクセル値の個数が2個である場合には、図4のフローチャートにおけるS110およびS111により、2個の対象ボクセル値の平均値が合成ボクセルデータのボクセル値として設定される。これら2個の対象ボクセル値の中には、劣化領域を示すものが含まれる可能性があるが、これらの平均値を採用することで、劣化領域による影響が抑制された合成ボクセルデータを生成することができる。
【0074】
本実施形態に係る超音波診断システム10では、超音波ビームの走査範囲が重複する複数の超音波プローブの個数を増加させる程、1つの区分に対象ボクセル値が分類される傾向が強くなる。これによって、劣化領域を回避する効果を高めることができる。
【符号の説明】
【0075】
10 超音波診断システム、12 ベッド、14 被検体、16 筐体、18,18−1〜18−n 超音波プローブ、20 音響結合バルーン、22 袋体、24 音響結合剤、26 アーム、30 走査面、32 支柱、34 画像処理装置、36 中央制御部、38−1〜38−n 送受信制御部、40−1〜40−n 整相加算部、42−1〜42−n ディジタルスキャンコンバータ(DSC)、44−1〜44−n 3次元メモリ、46 3次元情報合成部、48 対象ボクセル読出部、50 ボクセル値設定部、52 広範囲3次元座標テーブル、54 広範囲3次元メモリ、56 画像構成部、58 ディスプレイ、60−1〜60−4 走査範囲、62 反射組織、64 シャドー領域、66 アーティファクト。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の超音波プローブによって複数の超音波画像データを取得する超音波画像データ取得手段と、
前記複数の超音波画像データに対する合成画像データを生成する画像合成手段と、
を備え、
前記画像合成手段は、
前記複数の超音波画像データが同一位置において示す複数の画素値を、異なる画素値範囲が定められた複数の区分に分類する分類手段と、
前記複数の画素値のうち、分類された画素値の個数が最も多い多数区分に分類された画素値に基づいて、前記複数の画素値に対する合成画素値を求める画素合成手段と、
を備えることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波画像処理装置において、
前記画像合成手段は、
前記多数区分が、前記複数の区分のうちの最大の画素値範囲を有する区分である場合には、前記多数区分に分類された画素値のうち最大のものを前記合成画素値とすることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の超音波画像処理装置において、
前記画像合成手段は、
前記多数区分が、前記複数の区分のうちの最小の画素値範囲を有する区分である場合には、前記多数区分に分類された画素値のうち最小のものを前記合成画素値とすることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超音波画像処理装置において、
前記画像合成手段は、
前記多数区分が、前記複数の区分のうちの最大の画素値範囲を有する区分でなく、かつ、前記複数の区分のうちの最小の画素値範囲を有する区分でない場合には、前記多数区分に分類された画素値の平均値を前記合成画素値とすることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の超音波画像処理装置において、
前記画像合成手段は、
前記多数区分が、前記複数の区分のうちの最大の画素値範囲を有する区分でなく、かつ、前記複数の区分のうちの最小の画素値範囲を有する区分でない場合には、前記多数区分に分類された画素値の中央値を前記合成画素値とすることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超音波画像処理装置において、
前記画素合成手段は、
前記多数区分に該当する区分がない場合には、前記複数の画素値の平均値を前記合成画素の画素値とすることを特徴とする超音波画像処理装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の超音波画像処理装置において、
前記超音波画像データ取得手段は、
前記複数の超音波プローブのそれぞれが送受信する超音波のビームを走査させる走査手段を備え、
前記複数の超音波画像データのそれぞれを3次元ボリュームデータとして取得することを特徴とする超音波画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−120692(P2012−120692A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273666(P2010−273666)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】