説明

超音波発受信器および超音波計測装置

【課題】 圧電素子を積層した探触子を有するものであって、インピーダンスを低下させることなく大変位を得ることができ、かつ高周波を発信できる超音波発受信器およびこれを備える超音波計測装置を提供する。
【解決手段】 超音波発受信器は、探触子1と、フェイズドアレイパルサー2とを備え、前記探触子1が、複数枚の圧電素子11a,11bを積層したものであり、前記フェイズドアレイパルサー2が、複数チャンネルのパルサーを備えるものであり、前記の各圧電素子11a,11bが、前記フェイズドアレイパルサー2の各チャンネルのパルサーに接続されている。また、前記圧電素子11a,11bが、二枚の圧電体12を互いの分極方向が対向するように接合したものである。超音波計測装置は、この超音波発受信器を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子を積層した探触子とフェイズドアレイパルサーとを備える超音波発受信器、およびこれを備える超音波計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体内部の傷や空洞を調べるにあたって超音波計測装置が用いられているが、この計測精度を高くするためにSN比を向上させることが課題となっている。たとえば、特許文献1の発明は、プローブに吸音材を設けて目的外の信号を減衰させて検出されないようにする、すなわち雑音のレベルを下げることでSN比を向上させている。一方、SN比の向上のために信号のレベルを上げることも考えられるが、そのためには超音波を発生させる圧電素子をより大きく変位させて、振幅を大きくしなければならない。
【0003】
圧電素子について大変位を得る方法としては、圧電素子をアクチュエータとして用いる場合において、素子を積層させた例がある。しかしながら、アクチュエータは静的に変位するものであり、応答性・追従性については考慮されておらず、動的変位である超音波発生についてこの技術をそのまま適用することは難しい。また、特許文献2の発明のように、超音波探触子において圧電素子を積層させたものもあるが、これは、素子の小型化によってインピーダンスが増大してパルサーのインピーダンスと整合しなくなることを防ぐために、積層化によってインピーダンスを低下させているものであり、大変位を得ることが目的ではない。ここで、実際に圧電素子を積層させた場合にどのような変位が得られるかについての実験結果を示す。この実験では5MHz共振のPZT素子を用い、図3に示すように、単層の素子111と(図3(a))、この素子111を単純に五枚積層した素子(図3(b))とをそれぞれパルサー102に接続して励振した。図4には、それぞれの出力変位、実効素子印加電圧およびインピーダンスのスペクトラムを示す。図4の上段図に示すように、五枚を積層したことで共振周波数は約1/5に低下し、振幅は周波数の低下に伴ってやや増加するものの、期待した五倍の振幅増加は得られない。これは、中下段図からわかるように、積層によりインピーダンスが低下し、各素子の印加電圧が下がることによるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−145357号公報
【特許文献2】特開平1−139041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、圧電素子を単純に積層しても、インピーダンスが低下してしまい、同じ電圧を加えても各素子の印加電圧が低下するため、積層枚数に見合った振幅増加は得られない。また、広範な対象物の超音波計測のためには、空間分解能の確保のためMHzオーダーの高周波が不可欠であるが、圧電素子を単純に積層するだけでは、その分共振周波数が低くなるのでkHzオーダーが限界となってしまう点も問題である。
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みたものであり、圧電素子を積層した探触子を有するものであって、インピーダンスを低下させることなく大変位を得ることができ、かつ高周波を発信できる超音波発受信器およびこれを備える超音波計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のうち請求項1の発明は、探触子と、フェイズドアレイパルサーとを備え、前記探触子が、複数枚の圧電素子を積層したものであり、前記フェイズドアレイパルサーが、複数チャンネルのパルサーを備えるものであり、前記の各圧電素子が、前記フェイズドアレイパルサーの各チャンネルのパルサーに接続されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のうち請求項2の発明は、前記圧電素子が、二枚の圧電体を互いの分極方向が対向するように接合したものであることを特徴とする。
【0009】
本発明のうち請求項3の発明は、請求項1または2記載の超音波発受信器を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のうち請求項1の発明によれば、各パルサーがそれぞれ接続された圧電素子を個別に印加するので、積層によるインピーダンスの低下を避けることができる。よって、印加電圧が大きくなり大変位を得ることができる。また、共振周波数も単層の場合と同等になり、MHzオーダーの高周波を発生させることも可能である。
【0011】
また、積層する圧電素子の分極方向がすべて同じであると、隣接する圧電素子において当接面の極性が一致しないので、間に絶縁体を挟まなくてはならず、この絶縁体が振動伝達の妨げになってしまうが、本発明のうち請求項2の発明によれば、圧電素子を二枚の分極方向が対向する圧電体を接合して構成したため、隣接する圧電素子において当接面の極性が一致するので、絶縁体は不要であり、より効率よく振動が伝達される。なお、探触子をこのように構成した場合、フェイズドアレイパルサーのチャンネル数をNとすると、圧電素子をN枚(圧電体を2N枚)積層して、振幅をN倍に増加させることができる。
【0012】
本発明のうち請求項3の発明によれば、大振幅の超音波を発生させることができるから、相対的に雑音が小さくなるので、SN比が大きく向上する。よって、従来の超音波計測装置では困難であった、減衰の大きな素材や板厚の厚い材料についての計測が可能となり、また、限定的にしか行われていなかった空中超音波計測や非線形超音波計測などについても、実用の範囲が大きく広がる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の超音波発受信器の構成を示す模式図。
【図2】一枚の圧電素子(圧電体二層)と二枚の圧電素子(圧電体四層)の基本特性を示すグラフ。
【図3】単層の圧電素子と五枚積層した圧電素子のそれぞれをパルサーに接続した状態を示す模式図。
【図4】単層の圧電素子と五枚積層した圧電素子の基本特性を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の超音波発受信器の具体的な構成について、図面に基づいて説明する。この超音波発受信器は、図1に示すように、探触子1と、フェイズドアレイパルサー2とを備えるものである。探触子1は、二枚の圧電素子11a,11bを積層したものであり、各圧電素子11a,11bは、二枚の圧電体12を互いの分極方向(図中矢印で表記)が対向するように接合したものである。各圧電体12の上面および下面には電極13が接合されており、一つの圧電素子11a,11bは、上側から電極13、圧電体12、電極13、圧電体12、電極13の順に積層した構造となっている。そして、圧電素子11a,11bの上面および下面の電極13を負極、二枚の圧電体12に挟まれた電極13を正極として、正極がフェイズドアレイパルサー2の各チャンネル(ch1,ch2)のパルサーに接続され、負極がグラウンド(GND)に接続されている。
【0015】
この超音波発受信器において、フェイズドアレイパルサー2の各チャンネルから電圧を印加すれば、圧電素子11a,11bが振動して超音波を発信できる。この際、各素子から発信する超音波の波形が同期するように、各チャンネルのパルサーを制御しなければならない。すなわち、たとえば図1において上方へ超音波を発信する場合、まずch2から電圧を印加して、下側の圧電素子11bを振動させる。この振動は上側の圧電素子11aへと伝達されるので、伝達された振動に同期するようにch1から電圧を印加して、上側の圧電素子11aを振動させることで、上側と下側の圧電素子11a,11bから発信する超音波の波形が同期する。なお、このような制御は、一般のフェイズドアレイパルサーの標準機能により可能である。
【0016】
このように構成した超音波発受信器は、フェイズドアレイパルサーの各チャンネルのパルサーがそれぞれ接続された圧電素子を個別に印加するので、積層によるインピーダンスの低下を避けることができ、印加電圧が大きくなって大変位を得ることができる。また、共振周波数も一枚の圧電素子の場合と同等になり、MHzオーダーの高周波を発生させることも可能である。さらに、二枚の圧電体を互いの分極方向が対向するように接合して一枚の圧電素子を構成したことにより、積層する際に絶縁体を挟む必要がないので、より効率よく振動が伝達される。
【0017】
また、この超音波発受信器は、そのままの構成で超音波を受信できる。受信の際も、発信の際と同様に、各素子で受信した超音波の波形が同期するように、各チャンネルのパルサーを制御しなければならない。すなわち、たとえば図1において上方からの超音波を受信する場合、まず上側の圧電素子11aが超音波により振動してch1に信号を送信し、その後下側の圧電素子11bが振動してch2に信号を送信する。このように位相がずれた信号を、フェイズドアレイパルサー2において同期させ、一つの信号として検出する。なお、このような制御は、一般のフェイズドアレイパルサーの標準機能により可能である。
【0018】
次に、本発明の超音波発受信器の効果を確認するための実験結果を示す。この実験では6MHz共振のPZT素子を用い、一枚の圧電素子(圧電体二層)を一チャンネルのパルサーに接続して励振した場合と、図1に示したような二枚の圧電素子(圧電体四層)を二チャンネルのパルサーに接続して励振した場合とを比較した。図2には、それぞれの変位波形および変位スペクトルを示す。上段図に示すように、一枚の圧電素子(圧電体二層)の場合に比べて二枚の圧電素子(圧電体四層)の場合は略二倍の振幅となっており、積層枚数に比例した振幅が得られることが確認された。また、下段図に示すように、圧電体を二層積層した一枚の圧電素子の場合、中心周波数が3MHzとなっており、PZT素子の共振周波数の半分に低下しているのに対し、圧電体を四層積層した二枚の圧電素子の場合においても、中心周波数は同じく略3MHzである。よって、各圧電素子を個別に印加したことにより、圧電素子を複数枚積層しても一枚の場合と同等の共振周波数となり、高周波を発信可能であることが確認された。
【0019】
このような超音波発受信器によって対象物に向けて超音波を発信し、その反射波を受信することで超音波計測が可能となる。本発明の超音波計測装置は、超音波発受信器に加えて、計測結果を表示する表示部を備えるものであり、さらに計測結果を解析する計算機や、探触子を移動させる走査機構などを備えていてもよい。本発明の超音波計測装置によれば、上記のように超音波発受信器が大振幅の超音波を発生させることができるから、相対的に雑音が小さくなるので、SN比が大きく向上する。よって、従来の装置よりも実用の範囲が大きく広がるものであり、具体的には、以下のような例が挙げられる。
【0020】
まず、本発明の超音波計測装置はTOFD法に利用できる。TOFD法は、レーダーのように縦波超音波を対象物に広範に入射し、欠陥があった場合の回折波の受信時間差から高精度に欠陥のサイジングを行う方法である。計測が迅速で、また欠陥深さ測定精度が高いことが知られており、特に火力発電機器や各種プラント部材で適用が進んでいる。最大の課題は、広範に超音波を入射する分、従来の端部エコー法に比べて欠陥エコーが微弱でSN比が悪い点である。このため、原子力発電機器などに用いられているような、ステンレスなどの減衰が大きい素材や、板厚が厚い溶接材料などには適用できなかった。しかしながら、本発明の超音波計測装置によれば、SN比が大きく向上するので、従来適用できなかった部材まで高精度な欠陥サイジングが可能となる。
【0021】
また、本発明の超音波計測装置は空中超音波計測にも利用できる。空中超音波計測は、通常の超音波計測で不可欠のカップラント(探触子と対象物の間に挟む液体)を使わない計測方法で、濡らすことを嫌う複合材料やセラミックスについて特に需要が高く、ロケット筐体の生産検査などで実用されている。しかし、超音波がほとんど伝搬しない空中をkHzレベルの超音波を伝搬させる技術であり、接触式の測定に比べ100dB程度と極端に感度が低下することが最大の課題であった。そこで、大振幅の超音波を発生させることができる本発明の超音波計測装置を用いることで、従来の限界を超えた空中超音波計測システムが実現できる。
【0022】
さらに、本発明の超音波計測装置は非線形超音波計測にも利用できる。電力機器やプラントなどで、部材の劣化が進行しているが部材内のき裂が残留応力などで閉口した場合、探傷法の中核である超音波法でも、き裂の見逃しや過小評価を生じる。最近、通常より10倍程度以上の大振幅超音波をき裂に入力した場合、入力した周波数f以外の周波数(2f、f/2)の非線形超音波がき裂から発生することが知られている。しかし、実用構造部材におけるき裂は、開口が大きく非線形現象が発生するき裂は限定されることが、広範な実用を阻んでいる。そこで、本発明の超音波計測装置を用いれば、現在のシステムより10倍以上の大振幅超音波が容易に得られるため、実用の範囲が大きく広がる。
【0023】
本発明は、上記の実施形態に限定されない。たとえば、圧電素子の積層枚数は、必要とされる超音波の振幅に応じて適宜増やすことができる。もちろん、その際にはフェイズドアレイパルサーのチャンネル数も増やさなければならない。また、超音波計測装置においては、超音波発受信器を超音波の発信と受信の両方に用いているが、超音波加工などのために超音波を発信する用途のみに用いてもよいし、発信はせず外部からの超音波を受信する用途のみに用いてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 探触子
2 フェイズドアレイパルサー
11a,11b 圧電素子
12 圧電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
探触子(1)と、フェイズドアレイパルサー(2)とを備え、
前記探触子(1)が、複数枚の圧電素子(11a,11b)を積層したものであり、
前記フェイズドアレイパルサー(2)が、複数チャンネルのパルサーを備えるものであり、
前記の各圧電素子(11a,11b)が、前記フェイズドアレイパルサー(2)の各チャンネルのパルサーに接続されていることを特徴とする超音波発受信器。
【請求項2】
前記圧電素子(11a,11b)が、二枚の圧電体(12)を互いの分極方向が対向するように接合したものであることを特徴とする請求項1記載の超音波発受信器。
【請求項3】
請求項1または2記載の超音波発受信器を備えることを特徴とする超音波計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−88113(P2012−88113A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233738(P2010−233738)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(305060567)国立大学法人富山大学 (194)
【Fターム(参考)】