説明

超音波肉厚計測方法

【課題】超音波を用いて被測定物の肉厚を計測するに際して、被測定物表面の凹凸によって斜めに反射した不要な超音波の受信を抑制することができる計測方法を提供すること。
【解決手段】水柱ノズル後方の水供給路内に超音波探触子を配置し、該水柱ノズルのノズル開口から水を噴射して被測定物表面に水柱を形成し、該水柱中に前記超音波探触子より超音波パルスを送信し、該超音波パルスが前記水柱を伝播し被測定物表面及び裏面で反射して前記超音波探触子で受信されるまでの時間を測定し、該時間差から被測定物の肉厚を求める水柱式超音波肉厚測定方法において、水柱を定流速及び定流量の水柱とし、かつその径を被測定物の表面及び裏面の凹凸の平均ピッチ以下としたことを特徴とする水柱式超音波肉厚測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して材料の肉厚を測定する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラント等の構造材料の壁材や配管の傷、腐食等による材料の厚み(肉厚)の変化を検知して評価し、適切な対策を講じることはプラント等を安全に、効率的に操業する上で不可欠である。
このような肉厚の変化を検知するための装置として超音波の反射エコーを利用したものが公知である。この装置は、被測定物に超音波を照射し、被測定物の表面で生じる反射信号と被測定物の裏面(底面)で生じる反射信号の発生位置を確認することによって肉厚を算出するものであり、この方法は探触子を被測定物に接触させることなく、水に超音波を伝搬させることによって被測定物に超音波を伝えるため、探触子の高速走査が可能となる。
【0003】
このような超音波を用いて肉厚を計測する方法としては、次のものが知られている。
(a)直接接触方式1(図2(a)参照)
接触媒質を塗布して直接接触させるもの。
(b)直接接触方式2(図2(b)参照)
(a)と同様の方式であるが探傷面との間に遅延材を介するもの。
Sエコー(表面エコー)を用いることができる。
(c)局部水浸方式(図2(c)参照)
超音波探触子と被測定物との間に水室を設け、この水室中の水を音響結合媒体とするもの。この方式は現場での適用が可能であるが、走査時に水を保持するための手段が必要である。
(d)水柱(噴流)方式(図2(d)参照)
超音波探触子と被測定物との間に水柱を設け、この水柱を音響結合媒体とするもの。製造ライン等で用いられるが、多量の水が必要であるため、現場での使用は困難である。
【0004】
上記の方式のなかでも、局部水浸方式及び水柱方式は超音波探触子を被測定物に接触させることなく計測を行うことができ、しかも水に超音波を伝搬させることで被測定物に超音波を伝えることができるため高速走査が可能であることから広く用いられている。
ところで、水浸方式や水柱方式は被測定物の表面に凹凸があっても、超音波を伝えることが可能であるが、水から被測定物に超音波が入射する際、超音波が凹凸で散乱して反射するため、被測定物表面の信号を確認することが難しくなる。特に、腐食が生じた被測定物の肉厚計測では、腐食による凹凸の最深部を確認する必要があるので、このような散乱による信号を排除する必要がある。
【0005】
上記の問題点について局部水浸方式を示す図3に基づいて説明する。
図3に示すように被測定物の表面に凹凸がある場合、凹凸による散乱反射でSエコーは複数の経路を経て受信されるので凹凸よりも探触子サイズが大きいとSエコーが凹凸のどの部分で反射したのかが分からず、また、送信超音波自体に拡がりがあるため、水室の側面で反射する経路も生じるという問題がある。また、凹凸面がある被測定物の表面において水室内の水を保持するには工夫が必要となる。
【0006】
また、水柱方式は図4に示すように、水噴射ノズルの後方に超音波パルス送受信器を配置し、水ジェットノズルから一定の流速及び量の水柱を被測定物に噴射すると共に、水柱中に超音波パルス送受信器により超音波パルスを送信し、該超音波パルスが水柱を伝播して被測定物の表面及び裏面に達して、反射してくる超音波パルスを超音波パルス送受信器で受信してこの信号から肉厚を算出するようにしたものである。
この水柱方式では通常、探触子サイズと同等以上の水柱を発生させておりこの水柱をこのまま凹凸面に適用すると、表面反射は複数の信号となり、散乱反射も生じる。また、多量の水を供給する必要があるという問題もある。
【0007】
特許文献1〜3には水浸方式又は水柱方式を改良したものが開示されている。
特許文献1には、一部に開口を有し該開口の縁で被測定物に水密的に固着させたジャケットの内部に水を収容し、このジャケット内に水ジェットノズルとその後方に設けた超音波探触子とを配置し、ジャケット内の水を水ジェットノズルに供給して水ジェットが被測定物に達するよう噴出させるようにした装置が開示されている。この装置はジャケットを被測定物に溶接等により水密的に固着させる必要があるため、操作性が悪いという問題がある。
【0008】
特許文献2、3に記載の超音波配管測定装置を図7に示す。この装置は、局部水浸方式に分類されるものであるが、超音波測定ヘッド30が、ヘッド内の超音波伝搬経路に水が充填される水密空間を備えると共に、該水密空間内の水が表面張力によって外部に凸部を形成する小孔を形成して該水の凸部が前記配管表面に接するような構成のものとし、超音波ビームを集束させて前記小孔を出射孔として前記水密空間内に水を充満させるようにしたものである。この装置は、被測定物の表面に超音波を集束させることで表面反射信号の明確化を図っているが、表面位置の変化による焦点のずれや超音波の拡がりがあるため完全ではなく、また、水室内部での多重反射も生じる。
【0009】
特許文献4〜6には水ジェットを用いた超音波測定方法が開示されているが、これらはいずれも高圧水ジェットノズルによって切削された材料の切削深さを測定することを目的としたものであり、材料の肉厚を測定することに関しては記載がない。
【0010】
【特許文献1】特開平5−296756号公報
【特許文献2】特開2000−162195号公報
【特許文献3】特開2002−48769号公報
【特許文献4】特開平2−51010号公報
【特許文献5】特開平2−292459号公報
【特許文献6】特開平4−160306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、超音波を用いて被測定物の肉厚を計測するに際して、被測定物表面の凹凸によって斜めに反射した不要な超音波の受信を抑制することができる計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が鋭意検討を進めたところ、水柱方式の超音波測定方法において、水柱を細く絞った状態で超音波を入射することによって、凹凸最深部の特定を容易にし、凹凸で散乱した不要な反射信号を低減することができるとの知見を得た。
上記の知見に基づいて本発明者が完成した発明は次の通りのものである。
【0013】
(1)水柱ノズル後方の水供給路内に超音波探触子を配置し、該ノズルから水を噴射して被測定物表面に水柱を形成し、該水柱中に前記超音波探触子より超音波パルスを送信し、該超音波パルスが前記水柱を伝播し被測定物表面及び裏面で反射して前記超音波探触子で受信されるまでの時間を測定し、該時間差から被測定物の肉厚を求める水柱式超音波肉厚測定方法において、水柱を定流速及び定流量の水柱とし、かつその径を被測定物の表面及び裏面の凹凸の平均ピッチ以下としたことを特徴とする水柱式超音波肉厚測定方法。
(2)前記水柱が静水柱であることを特徴とする請求項1記載の水柱式超音波肉厚測定方法。
(3)前記水柱ノズルと被測定物間の距離が該ノズルからの側面反射波と該表面反射波とが区別されて認識できる距離であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水柱式超音波肉厚測定方法。
(4)前記被測定物が板状体であって、この板状体の肉厚を測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水柱式超音波肉厚測定方法。
(5)前記被測定対象が管状体であって、この管状体の壁厚を測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水柱式超音波肉厚測定方法。
(6)水供給路に供給された水をノズル開口から被測定物の表面に向けて噴射して水柱を形成する水柱ノズルと、該水柱ノズル内の水供給路の後方に設けられ、該水柱を介して被測定物の表面に向けて超音波を送信して反射エコーを受信する超音波探触子と該超音波探触子で受信した反射エコーを演算処理する演算処理装置とからなり、該水柱ノズルが、被測定物の表面及び裏面の凹凸の平均ピッチ以下の径を有し、かつ定流速及び定流量の水柱を形成する水柱ノズルであることを特徴とする水柱式超音波肉厚測定装置。
【発明の効果】
【0014】
水柱を細く絞ることによって被測定物の表面に凹凸が存在しても計測点を凹凸の一部に限定することができ、また超音波の伝搬経路が直線状の細い水柱であるため、凹凸によって斜めに反射した不要な超音波の受信を抑制することができ、精度の高い測定が可能となる。また、これに加えて用いる水量も低減できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明を図1に基づいて説明する。
図1は本発明の水柱式超音波肉厚測定装置を構成する水柱ノズルの一例を示す図である。
水柱式超音波測定装置の水柱ノズル1は、ノズル開口2、水室3、水供給口4、超音波探触子5、計測器に接続される電気回路9とを備えている。
水供給口4からノズル供給路3に供給された水8は、ノズル開口2から噴射されて水柱6となり被測定物の表面に当たって超音波7の音響結合媒体として作用し、超音波7の伝搬路を形成する。
【0016】
本発明においては、この超音波7の経路となる水柱6自体を細く絞り込み、超音波の入射位置を小面積に限定する。
このようにすることによって被測定物の凹凸面の最深部を選択し、超音波入射点を限定することができ、Sエコーの反射位置を特定することができる。
また、水柱が細いため、凹凸によって斜めに反射する不要な信号は探触子まで戻ることがない。
【0017】
本発明の方法は、局部水浸法のように水室を設けないため、水室内部での不要な反射信号(側面エコー等)が生じない。また、水柱を細く絞り込むことによって従来の噴流法に比べ、水量を削減できるため、現地での適用が可能となり、更に検査装置の小型化が可能となり、また、局部水浸法と異なり、水柱を維持できる範囲であれば、探傷面からの離隔に自由度がある。
【0018】
図5は超音波肉厚測定方法の原理を説明する図である。
本発明の測定原理を図5(c)に基づいて説明すると次の通りである。
圧電素子から発生した超音波は被測定物の表面及び裏面で反射して、Sエコー(表面エコー)、第1回裏面エコー(B1)及び第2回裏面エコー(B2)を生じる。
【0019】
図5(a)のR−B1方式は探触子の位置(零点R)がずれるため値が狂うので好ましくない。図5(b)のB1−B2方式は凹凸による散乱が生じ、超音波が減衰し、B2エコーの確認が難しくなる。S−B1方式は、Sエコーが凹凸面でも明確に得られるように工夫することにより正確な厚さ計測が可能となるが、本発明方法では水柱を細く絞っているので、Sエコーが凹凸面でも明確に得られる。
このため、本発明の方法では表面エコーと第1回裏面エコーとを用いて計測するS−B1方式を用いることが好ましい。
【0020】
本発明においては、水柱ノズルと被測定物間の距離が該ノズルからの側面反射波と該表面反射波とが区別されて認識できる距離以上であることが好ましい。
これは、ノズル内での多重反射信号の発生位置と計測に用いる表面エコー(Sエコー)の発生位置が重ならないようにするためである。表面エコーの発生位置はノズルと被測定対象の距離が離れるほど、遠方にずれることになり、ノズル内多重反射の発生位置と離すことができる。
【0021】
本発明の方法は板状物に限らず管状物にも適用可能である。すなわち、通常の計測では、管の曲率が大きい(すなわち小径管である)場合、平面である圧電素子と管曲率の設置状態を考慮する必要があるが、本発明においては水柱を細く絞っているため、超音波が入射する面積が小さく、曲率の影響が生じない。
【0022】
計測する際の好ましい条件について以下述べる。
上記のように、肉厚の計測には水柱内における超音波の伝搬時間を用いるため、超音波の経路である水柱の流速及び流量が異なると誤差の要因となる。このため、水柱を形成する水については流速及び流量が一定となるようにすることが精度向上の点から好ましい。
【0023】
本発明においては、水柱を形成するための水圧は、水柱の形状を維持することができればよく静水柱であることが好ましい。高圧の水ジェットを用いると、ポンプ等の設備が大がかりとなり、また、使用水量も大量となるので、コスト的に不利である。
更に、高圧の水ジェットであると、気泡の巻き込みや水柱径の変化を生じる可能性がある。そして、水柱内に気泡が存在すると正確な測定ができないので、気泡ができないようにする必要があるが、この点からも超音波の伝搬経路としては静水柱の方が好ましい。
また、ノズル内部での不要な多重反射を抑制するために、ノズル内面には吸音材や反射損失を促す形状加工を施すことが好ましい。
【0024】
水柱の径は、被測定物の表面の凹凸の状態により適宜に設定することができるが、水柱の径は該凹凸の平均ピッチと同程度か、より細いことが好ましい。水柱径が凹凸のピッチより大きいと、一度の計測(1つの水柱内)で、凹凸の位置に応じた複数の反射信号が生じてしまう。すなわち、厚さ計測に用いる探傷面側の反射エコー(Sエコー)の識別が困難になり、肉厚計測の精度が低下する。
鋼の表面に腐食があるかどうかを検査する場合には、腐食がφ5〜10mmであると推定される場合には水柱をφ5〜10mmに設定する。
例えば、大気中に暴露されている配管外表面の腐食診断を対象とする際には、あばた状に拡がる腐食のケースが多く、最小φ5mm程度の凹凸になることが多いので、このとき選択する水柱の径は5mm以下として測定を行えばよい。また、水柱の太さに応じて超音波測定のための諸条件も代わってくるので、水柱の太さを変更する場合には測定の諸条件も適宜適正化して測定を行う。
【0025】
次に、本発明の方法を実施するための装置を図6に基づいて説明する。
図6に、配管表面に発生した腐食部の残肉厚測定を目的とした装置を示す。装置は水柱ノズルおよび探触子を備えたセンサ部と管体に固定でき管表面から一定の離隔を保ったままセンサを保持、走査できる治具とセンサに給水する給水ユニット(ポンプ、水タンク、給水ホース)とセンサの管軸及び周方向位置を検出する位置検出器と超音波送受信装置と計測制御およびデータ収録を行う計測・制御用コンピュータからなる。センサを自動もしくは手動で走査し、一定のピッチでデータを収録することで、一定面積の肉厚分布を計測することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の水柱式超音波肉厚測定方法によれば、被測定物表面の凹凸面での散乱による不要な超音波の受信を抑制することができるので精度良く肉厚を計測できるので、プラント等の構造材料の壁材や配管の傷、腐食等による材料の肉厚の変化を検知して評価するための計測方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の水柱式超音波肉厚測定装置を構成するノズル本体の例を示す図である。
【図2】肉厚測定において採用される種々の測定方式を示す図である。
【図3】局部水浸方式における超音波の散乱状態を示す図である。
【図4】従来の水柱方式を示す図である。
【図5】超音波肉厚測定方法の測定原理を説明する図である。
【図6】本発明の超音波肉厚測定方法を実施するための装置の構成を示す概念図である。
【図7】従来の局部水浸方式の改良型を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
1 水柱ノズル本体
2 ノズル開口
3 水供給路
4 水供給口
5 超音波探触子
6 水柱
7 超音波
8 水
9 電気回路
30 超音波測定ヘッドのヘッド本体
30 出射面
31 溝
31A 排水口
31B 排水路
32 超音波探触子
33 水密空間
34 給水路
35 排水路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水柱ノズル後方の水供給路内に超音波探触子を配置し、該水柱ノズルのノズル開口から水を噴射して被測定物表面に水柱を形成し、該水柱中に前記超音波探触子より超音波パルスを送信し、該超音波パルスが前記水柱を伝播し被測定物表面及び裏面で反射して前記超音波探触子で受信されるまでの時間を測定し、該時間差から被測定物の肉厚を求める水柱式超音波肉厚測定方法において、水柱を定流速及び定流量の水柱とし、かつその径を被測定物の表面及び裏面の凹凸の平均ピッチ以下としたことを特徴とする水柱式超音波肉厚測定方法。
【請求項2】
前記水柱が静水柱であることを特徴とする請求項1記載の水柱式超音波肉厚測定方法。
【請求項3】
前記水柱ノズルと被測定物間の距離が該ノズルからの側面反射波と該表面反射波とが区別されて認識できる距離であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水柱式超音波肉厚測定方法。
【請求項4】
前記被測定物が板状体であって、この板状体の肉厚を測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水柱式超音波肉厚測定方法。
【請求項5】
前記被測定対象が管状体であって、この管状体の壁厚を測定することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水柱式超音波肉厚測定方法。
【請求項6】
水供給路に供給された水をノズル開口から被測定物の表面に向けて噴射して水柱を形成する水柱ノズルと、該水柱ノズル内の水供給路の後方に設けられ、該水柱を介して被測定物の表面に向けて超音波を送信して反射エコーを受信する超音波探触子と該超音波探触子で受信した反射エコーを演算処理する演算処理装置とからなり、該水柱ノズルが、被測定物の表面及び裏面の凹凸の平均ピッチ以下の径を有し、かつ定流速及び定流量の水柱を形成する水柱ノズルであることを特徴とする水柱式超音波肉厚測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−222549(P2009−222549A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67164(P2008−67164)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【出願人】(000231132)JFE工建株式会社 (54)
【Fターム(参考)】