説明

超音波薬剤導入方法及びその装置並びに医用画像診断装置

【課題】生体に超音波を照射して遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入治療を行なう際に、加圧状態での超音波照射によって組織深部への導入効果が上昇することを利用して、より局所に効果的な薬剤導入を促進可能にすること。
【解決手段】低周波振動子9から被検体3に付加される低周波超音波による圧力が所定の正圧値以上の正圧になったときに高周波振動子10からの高周波超音波を被検体3に付加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者等の被検体に超音波を照射して遺伝子やタンパク質等の薬剤類を細胞内/核内に導入する超音波薬剤導入方法及びその装置並びに超音波薬剤導入装置を用いた医用画像診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、治療の分野において、MIT(Minimally Invasive Treatment:最少侵襲治療)や、遺伝子治療・再生医療といった超早期での根本的な治療を可能にする治療法が医療の各分野で注目を浴びている。例えば、虚血性脳・心疾患といった動脈硬化症や血栓に起因する疾患は、再発率の高さが大きな問題となっている。さらには日本でも近年の食生活の欧米化から高脂血症患者が増加している。このため、局所再発を抑制したり、完全に梗塞を起こした組織に新たに血管を新生させることで虚血症状を改善する遺伝子導入療法が注目されている。
【0003】
この血管新生因子は、例えば糖尿病性の四肢虚血・壊死疾患に対して血管の新生を促して治療を行う遺伝子治療が実際に欧米において実施されており、効果を上げている。又、その相反する機能を有する血管新生抑制因子は、代謝の活発な腫瘍細胞が血管新生を要求するシグナルを出し、増殖していくことが知られている。このような血管新生抑制因子は、血管新生因子の導入により栄養血管の新生を抑制し、腫瘍の増殖を抑制することが可能である。
【0004】
遺伝子治療は、その導入効率の高さから毒性を抑制したレトロウイルスに標的遺伝子を組み込み、感染により目的細胞の遺伝子に導入を行う方法などのウィルスベクタを利用した方法が主流である。ところが、近年、欧米において遺伝子治療時にウィルス自体の毒性による死者が出たため、これらウィルスの遺伝子導入への利用に対して国内外とも慎重論が出てきている。このような現状を鑑みて他の遺伝子導入法も検討が進んできている。
【0005】
非ウィルスベクタ法としては、例えばリポソーム等を用いた化学的手法、マイクロインジェクション・遺伝子銃・エレクトロポーレーション・レーザ等を用いた導入手法がある。又、新しい導入手法の一つとして超音波によるsonoporation現象を応用した超音波遺伝子導入技術が近年注目を浴びている。
【0006】
この超音波遺伝子導入技術による方法は、画像診断に使用される超音波造影剤(気泡)が超音波の照射により崩壊する際にマイクロジェットを発生し、細胞膜に一過性の孔を生成する現象(sonoporation現象)を利用したもので、この孔から直接遺伝子やタンパク質等を細胞内/核内に導入する。
本来、超音波の連続照射によりキャビテーションとよばれる微小気泡が発生し、これによっても同様の現象が起こる。超音波遺伝子導入技術による方法は、より効率を高めるために人為的に気泡(造影剤)を注入し、その併用により導入効率を高める手法が一般的に知られる様になってきている。この超音波遺伝子導入技術による方法は、例えば特許文献1乃至特許文献4、非特許文献1乃至非特許文献3に開示されている。
【0007】
超音波遺伝子導入技術は、組織の血流動態やperfusion等を超音波診断画像上で観察する際に用いられる既に診断用造影剤として治験認可を受けたLevovistや未だ国内未承認であるがOptison等の超音波造影剤との併用により、薬剤導入効果をエンハンスするもので、薬剤の安全な導入の可能性を秘めており、注目されている。
【0008】
現在、超音波診断において超音波造影剤(マイクロバブル)を併用した造影エコー法が盛んに臨床に利用されている。この超音波診断と前述の超音波治療との融合は非常に相性がよく容易である。これにより、集束超音波を用いた加熱治療(HIFU:High Intensity Focused Ultrasound)や、超音波結石破砕装置等の超音波治療のモニタ手法として非常に有用である。例えば特許文献5、特許文献6及び非特許文献3に開示されている。
【0009】
遺伝子解析の進展などに伴い、これまで形態を中心に飛躍的な進歩を遂げてきた医用画像診断に分子イメージング(Molecular Imaging)の考えが急速に普及してきている。分子イメージングは、光やX線を利用してナノ・オーダの分子自体を画像化する文字通りの分子画像化と、分子内への薬剤等の取り込みや代謝を画像化し、間接的に分子の挙動を画像化する機能画像化とに大きく分けられる。前者の例としては蛍光顕微鏡やX線顕微鏡などが挙げられ、後者の例としては核医学装置(PET、SPECT)やMRSが挙げられる。
【0010】
前者は、画像化のためのエネルギーの組織深達度や放射線被爆の問題から実験室での利用が中心である。これに対して後者は、標的分子を標識した放射線核種や造影剤との組み合わせにより、分解能は低いが代謝機能等をエンハンスして画像化できることから、近年、臨床へ広く応用されるようになってきている。特に最近では、PET−CTの様に、PETの分解能の低さを形態分解能の高いX線CTと組み合わせることで補い、3次元の形態画像に代謝情報を重畳して表示する新たなアプリケーションが大きな注目を浴びている。
【0011】
これら分子画像は、正常組織に対して代謝の活発な腫瘍細胞を画像化したり、将来的には特定の遺伝子の発現やタンパク質の生成を画像化することが可能である。従って、分子画像は、直接、治療の計画や超早期診断、遺伝子治療等のモニタリングに結びつく有用な情報を提供してくれる。
【0012】
前述のごとく、超音波とマイクロバブルとの併用によるドラッグデリバリー手法が注目を浴びている。しかしながら、これまでの超音波による遺伝子導入技術では、未だ導入効率がウィルスベクターを利用した手法に比べて低い。また、導入がマイクロバブル崩壊時のマイクロジェットによるsonoporation現象を利用しているので、薬剤と十分に接することができる臓器・組織表面への薬剤導入には効果的であったが、深部局所への導入は非常に困難であった。
【特許文献1】特表平9−502191号公報
【特許文献2】特表2001−507207号公報
【特許文献3】特表2001−512329号公報
【特許文献4】特開2004−261253号公報
【特許文献5】特開平6−78930号公報
【特許文献6】特開平11−226046号公報
【非特許文献1】古幡博著、馬目佳信著、「超音波遺伝子導入の展開」、BME、日本ME学会、平成14年7月10日、vol.16,No,7,pp3−7
【非特許文献2】田渕圭章著、近藤隆著、「超音波誘導遺伝子治療」、別冊・医学のあゆみ「超音波医学最前線」、医歯薬出版、pp203−208,2004.
【非特許文献3】藤本克彦著、浅野武秀著、「集束超音波による治療法と問題点」、別冊・医学のあゆみ「超音波医学最前線」、医歯薬出版、pp198−202,2004.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、生体に超音波を照射して遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入治療を行なう際に、加圧状態での超音波照射によって組織深部への導入効果が上昇することを利用して、より局所に効果的な薬剤導入を促進可能な超音波薬剤導入方法及びその装置並びに医用画像診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1局面における超音波薬剤導入方法は、被検体に低周波の超音波を付加すると共に、前記被検体のターゲット領域に高周波の超音波を付加し、前記ターゲット領域に薬剤を導入する。
本発明の第2局面における超音波薬剤導入装置は、被検体に低周波の超音波を付加する低周波加圧部と、被検体のターゲット領域に高周波の超音波を付加する高周波加圧部と、被検体への低周波の超音波の付加タイミングと被検体への高周波の超音波の付加タイミングとを調整するタイミング調整部とを具備し、ターゲット領域に対する低周波の超音波と高周波の超音波との付加によりターゲット領域に薬剤を導入する。
【0015】
本発明の第3局面における超音波薬剤導入装置は、被検体に低周波の超音波を付加すると共に、被検体のターゲット領域に高周波の超音波を付加する超音波加圧部と、被検体への低周波の超音波の付加タイミングと被検体への高周波の超音波の付加タイミングとを調整するタイミング調整部とを具備し、ターゲット領域に対する低周波の超音波と高周波の超音波との付加によりターゲット領域に薬剤を導入する。
【0016】
本発明の第4局面における医用画像診断装置は、上記第2局面又は第3局面における超音波薬剤導入装置を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生体に超音波を照射して遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入治療を行なう際に、加圧状態での超音波照射によって組織深部への導入効果が上昇することを利用して、より局所に効果的な薬剤導入を促進可能な超音波薬剤導入方法及びその装置並びに医用画像診断装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の第1の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は超音波薬剤導入装置を備えた医用画像診断装置の全体構成図を示す。気密加圧容器1内には、寝台2が移動可能に設けられている。この寝台2上には、患者等の被検体3が載置される。気密加圧容器1には、医用画像診断装置4が接続されている。この医用画像診断装置4は、例えばPET、MRI又はX線CTを有する。この医用画像診断装置4は、被検体3の例えばPET画像、MRI画像又はX線CT画像を取得すると共に、被検体3の画像診断情報、被検体3内部における特定部位、例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入を行うターゲット領域5の情報等を得る。この医用画像診断装置4は、ネットワーク6を介してシステムコントローラ7に接続されている。
【0019】
気密加圧容器1は、核医学装置、X線、光、MRI等の分子イメージングを可能とする診断モダリティにてイメージングを可能とするために放射線、X線等に対して例えば透過性を有する素材を使用し、光により蛍光イメージングを可能とするために例えばガラス、透明アクリル等の素材を使用し、MRIにより撮像可能とするために例えば非磁性材料の素材を使用する。すなわち、気密加圧容器1は、医用画像診断装置4に有する分子イメージング診断機器に合わせた素材を選択し、例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入効率を確実に把握しながら当該遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入を実現することを可能とする。
【0020】
気密加圧容器1内には、アプリケータ8が設けられている。このアプリケータ8内には、低周波振動子9と高周波振動子10とが設けられ、かつ図示しない水袋当のカップリング媒体を有する。このアプリケータ8は、医用画像診断装置4として例えばPET、MRI又はX線CT等の画像診断モダリティでの使用を考慮して例えばPETであれば放射線透過性の素材、MRIであれば非磁性素材、X線CTであればX線透過素材等を使用する。すなわち、アプリケータ8は、画像診断に使用するエネルギーを遮断せず、かつ医用画像に影響を与えない素材により形成する。
【0021】
低周波振動子9には、低周波駆動回路11が接続されて、これら低周波振動子9と低周波駆動回路11とにより被検体3に低周波の超音波(以下、低周波超音波と省略する)を付加する低周波加圧部が形成されている。低周波振動子9は、被検体3に対して低周波超音波を非集束で照射するもので、いわゆる非集束タイプの音源である。これにより、低周波振動子9から発せられた低周波超音波は、被検体3に対して広領域、例えば被検体3の全体をカバーするように照射される。低周波振動子9から発せられた低周波超音波は、例えば数kHz程度を有する。低周波駆動回路11は、低周波振動子9から例えば数kHz程度の低周波超音波を発せさせるための低周波駆動信号を低周波振動子9に供給する。
高周波振動子10には、高周波駆動回路12が接続され、これら高周波振動子10と高周波駆動回路12とにより被検体3のターゲット領域5に高周波の超音波を付加する高周波加圧部が形成されている。高周波振動子10は、被検体3のターゲット領域5に対して高周波の超音波(以下、高周波超音波と省略する)を集束して照射するもので、いわゆる集束タイプの音源である。この高周波振動子10は、例えば球面片の形状、換言すれば球殻状に形成されている。高周波振動子10は、高周波超音波の導入焦点Pに当該高周波超音波のエネルギーを集束せさ、局所への遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入を促進する薬剤導入用の振動子として使用される。この高周波振動子10から発せられる高周波超音波は、例えば数百kHz乃至数MHzを有する。高周波駆動回路12は、高周波振動子10から例えば数百kHz乃至数MHzの高周波超音波を発せさせるための高周波駆動信号を高周波振動子10に供給する。
駆動タイミング調整回路13は、低周波駆動回路11と高周波駆動回路12とにそれぞれ各タイミング調整信号を送出し、被検体3への低周波超音波の付加タイミングと被検体3への高周波超音波の付加タイミングとを調整する。具体的に駆動タイミング調整回路13は、被検体3に付加される低周波超音波による圧力が所定の正圧値以上、例えば1.05気圧以上の正圧になったときに高周波超音波を被検体3に付加するタイミングの各タイミング調整信号を低周波駆動回路11と高周波駆動回路12とに送出する。
【0022】
システムコントローラ7には、ネットワーク6を介して医用画像診断装置4が接続されると共に、移動機構14と、CRTディスプレイ15と、端末としての入力デバイス16が接続されている。入力デバイス16は、例えばマウス、キーボードを有する。
このシステムコントローラ7は、ネットワーク6を介して医用画像診断装置4から転送される被検体3の例えばPET画像、MRI画像又はX線CT画像を受信してCRTディスプレイ15に表示し、かつ被検体3の画像診断情報や、被検体3内部における特定部位、例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入を行うターゲット領域5の情報等を受信してCRTディスプレイ15に表示する。
【0023】
システムコントローラ7は、入力デバイス16からの操作指示を受けて、アプリケータ8の移動制御と寝台2の移動制御とを行うための各制御指示を移動機構14に発する。この移動機構14は、アプリケータ8の位置を移動制御すると共に、寝台2の位置を移動制御する。又、システムコントローラ7は、入力デバイス16からの操作指示を受けて、低周波及び高周波の各超音波の照射し、停止等の指令を駆動タイミング調整回路13に発する。
次に、上記の如く構成された装置における薬剤等の導入の促進の動作について説明する。
医用画像診断装置4は、被検体3の医用画像として例えばPET画像、MRI画像又はX線CT画像を取得すると共に、被検体3の画像診断情報、被検体3内部における特定部位、例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入を行うターゲット領域5の情報等を取得し、これら情報をネットワーク6を介してシステムコントローラ7に送信する。
このシステムコントローラ7は、医用画像診断装置4から送信されてきた例えばPET画像、MRI画像又はX線CT画像等の医用画像や被検体3の画像診断情報等をCRTディスプレイ15に表示する。
【0024】
術者は、CRTディスプレイ15を観察しながら入力デバイス16を操作し、アプリケータ8と寝台2との各位置を操作する。システムコントローラ7は、入力デバイス16からの操作指示を受け、各制御指示を移動機構14に発する。これにより、アプリケータ8と寝台2とがそれぞれ移動し、被検体3と高周波振動子10から発せられる高周波超音波の導入焦点Pとの各位置が決定される。
CRTディスプレイ15の表示画面上には、システムコントローラ7によって例えばPET画像、MRI画像又はX線CT画像と共に、高周波の超音波の導入焦点Pを示すマーカが重ねて表示されている。従って、術者は、被検体3のターゲット領域5にマーカが位置するようにアプリケータ8と寝台2とをそれぞれ位置制御する操作指示を行う。これにより、アプリケータ8は、例えば被検体3に対して接触し、高周波超音波の導入焦点Pと被検体3のターゲット領域5との正確な位置決めが行われる。
次に、術者は、CRTディスプレイ15の表示画面上に表示されている例えばPET画像、MRI画像又はX線CT画像を観察し、入力デバイス16を操作する。これにより、システムコントローラ7は、駆動タイミング調整回路13を介して低周波駆動回路11と高周波駆動回路12とを動作させ、低周波振動子9から低周波超音波を発生させ、被検体3のターゲット領域5にマイクロバルブや薬剤等が十分到達していることを確認の上、高周波振動子10から導入用の高周波超音波の照射を実施する。
【0025】
すなわち、低周波振動子9は、被検体3に対して例えば数kHz程度を有する低周波超音波を非集束で例えば被検体3の全体をカバーするように照射する。このときの低周波超音波は、図2に示すように例えば数kHz程度の正弦波の波形を有し、被検体3の周囲外気圧(=1気圧)を中心に正負の気圧に周期的に変化する。しかるに、被検体3のターゲット領域5、すなわち例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等を導入したい部位にも周囲外気圧(=1気圧)を中心に正負の気圧に周期的に変化する低周波超音波が加わる。
このように被検体3のターゲット領域5に低周波超音波が加わっている状態で、かつ低周波超音波の正気圧が例えば1.05気圧に達している期間中に、高周波振動子10は、被検体3のターゲット領域5に対して例えば数百kHz乃至数MHzを有する薬剤導入用の高周波超音波を集束して照射する。これにより、正気圧となっている期間中の低周波超音波上に薬剤導入用の高周波超音波が重畳され、当該超音波が被検体3のターゲット領域5に照射される。
【0026】
この結果、マイクロバブルとの相互作用を促進することが可能となり、マイクロバブルの崩壊時に発生するマイクロジェットの発生(sonoporation現象)によりターゲット領域(患部)5への例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入が促進される。なお、駆動タイミング調整回路13は、被検体3である患者等の生体中における超音波の伝播時間を考慮し、低周波振動子9から発生した低周波超音波による圧力波が被検体3のターゲット領域5の位置で正圧、例えば1.05気圧以上の正圧になっている状態に、高周波振動子10から発生した高周波超音波による圧力波が被検体3のターゲット領域5の位置に到達するようにタイミング調整する。
【0027】
このように上記第1の実施の形態によれば、低周波振動子9から被検体3に付加される低周波超音波による圧力が所定の正圧値以上、例えば1.05気圧以上の正圧になったときに高周波振動子10からの高周波超音波を被検体3に付加するので、生体に超音波を照射して例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等を導入して治療を行なう際に、低周波での正圧加圧フェーズに薬剤導入用の高周波超音波を被検体3のターゲット領域5を照射するものとなり、加圧状態での超音波照射によって組織深部への導入効果が上昇し、より局所に効果的な薬剤等の導入が促進し、患者等の被検体3の生体局所へのより確実な例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入が達成できる。これにより、遺伝子治療やドラッグデリバリ治療等に寄与する新しい超音波薬剤局所導入のシステムとして実現できる。
【0028】
アプリケケータ8は、光、核医学、MRI、X線、X線CT等の各診断モダリティ撮像時に影響を与えない素材を採用するので、被検体3のターゲット領域5を分子画像や詳細な形態画像により確認しながら確実な薬剤等の導入が達成できる。
【0029】
なお、本発明は、上記第1の実施の形態は、次のように変形してもよい。
高周波振動子10は、球殻状の集音タイプの音源を用いたが、これに限らず、例えば2次元アレイ状に複数の振動子を配列したフェーズドアレイ音源を用いてもよい。このフェーズドアレイ音源を用いれば、複数の振動子を位相差駆動することにより、高周波超音波の集束や焦点位置の電子的な走査を行うことが可能である。この場合、例えばシステムコントローラ7によって複数の振動子の各駆動位相に基づいて高周波超音波の集束の変更や電子的に走査された高周波超音波の焦点位置を算出し、当該高周波超音波の焦点位置等のマークをCRTディスプレイ15に表示される被検体3の例えばPET画像、MRI画像又はX線CT画像の上に重ねて表示する。
【0030】
低周波振動子9と高周波振動子10とを別々に設けているが、これに限らず、同一の振動子を多周波駆動可能な構成とし、低周波駆動回路11から送出される低周波駆動信号と高周波駆動回路12から送出される高周波駆動信号との各波形を電気的に重畳し、当該重畳された駆動信号を振動子を駆動するようにしてもよい。
低周波振動子9と高周波振動子10とを同一の音源中に配置した構成にしてもよい。
【0031】
次に、本発明の第2の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、図1と同一部分には同一符号を付してその詳しい説明は省略する。
図3は超音波薬剤導入装置を備えた医用画像診断装置の全体構成図を示す。アプリケケータ8には、広帯域又は複数の周波数で振動可能な高周波・低周波複合振動子(以下、複合振動子と省略する)20が設けられている。この複合振動子20は、例えば数kHz程度の低周波超音波と例えば数百kHz乃至数MHzの高周波超音波との多周波で振動し、これら低周波超音波と高周波超音波とを重畳して発生する。この複合振動子20は、被検体3に対して低周波超音波を非集束で照射し、かつ被検体3のターゲット領域5に対して高周波超音波を集束して照射する。
【0032】
駆動タイミング調整回路21は、複合振動子20から例えば数kHz程度の低周波超音波を発せさせ、かつ複合振動子20から例えば数百kHz乃至数MHzの高周波超音波を発せさせるための駆動信号を複合振動子20に供給する。なお、複合振動子20及び駆動タイミング調整回路21は、広帯域又は複数の周波数の超音波を被検体3に付加することを可能とする超音波加圧部を形成する。具体的に駆動タイミング調整回路21は、予め複合振動子20の拡大フェーズすなわち圧縮波発生フェーズに高周波信号を重畳させるような波形によって電気的に複合振動子20を駆動する。これにより、複合振動子20から被検体3に付加される低周波超音波による圧力が所定の正圧値以上、例えば1.05気圧以上の正圧になったときに複合振動子20からの高周波超音波を被検体3に付加される。
【0033】
このような構成であれば、複合振動子20は、被検体3に対して例えば数kHz程度を有する低周波超音波を非集束で例えば被検体3の全体をカバーするように照射する。このときの低周波超音波は、図2に示すように例えば数kHz程度の正弦波の波形を有し、被検体3の周囲外気圧(=1気圧)を中心に正負の気圧に周期的に変化する。
【0034】
このように被検体3のターゲット領域5に低周波超音波が加わっている状態で、かつ低周波超音波の正気圧が例えば1.05気圧に達している期間中に、複合振動子20は、被検体3のターゲット領域5に対して例えば数百kHz乃至数MHzを有する薬剤導入用の高周波超音波を集束して照射する。これにより、正気圧となっている期間中の低周波超音波上に薬剤導入用の高周波超音波が重畳され、当該超音波が被検体3のターゲット領域5に照射される。
この結果、マイクロバブルとの相互作用を促進することが可能となり、マイクロバブルの崩壊時に発生するマイクロジェットの発生(sonoporation現象)によりターゲット領域(患部)5への例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入が促進される。
【0035】
このように上記第2の実施の形態によれば、広帯域又は複数の周波数で振動可能な複合振動子20を設けたので、低周波振動子9から被検体3に付加される低周波超音波による圧力が所定の正圧値以上、例えば1.05気圧以上の正圧になったときに高周波振動子10からの高周波超音波を被検体3に付加するものとなり、上記第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0036】
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されるものではなく、次のように変形してもよい。
超音波での薬剤導入において使用するマイクロバブルは、超音波診断装置において非常に検出感度が高い物質である。高周波振動子10や低周波振動子9を設けたアプリケータ8内に超音波診断用プローブを予め設けておくと、被検体3のターゲット領域5でのマイクロバブルの濃度や到達度を確認した上で、例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入用の高周波超音波の照射を行い、さらに当該薬剤等の導入効果を超音波診断装置により確認する等の使い方をすることが可能である。
【0037】
すなわち、超音波の気泡に対する非常なセンシティビティを利用して、超音波画像で確認しながら高周波超音波の照射を行う。これにより、例えば被検体3のターゲット領域5における腫瘍組織に造影剤が集積する時点を狙ってより効果的な薬剤導入が可能になる。この結果、治療効果を大きく改善できると共に使用する薬剤の量を低減することが可能とになる。
【0038】
更に、超音波による薬剤導入効果は、パルス波よりも連続波の方が効果が高く、又、周波数変化等により薬剤導入効果が更に増強されることを我々は既に確認している。従って、画像化時は、気泡を崩壊させない低MI照射により気泡分布を画像化し、高MI連続照射に切り替えて治療用超音波を照射することで、パルス波のままの照射よりも、より効果的な導入治療を実現できる。
【0039】
診断用超音波振動子を高周波振動子10として利用し、診断用高周波パルスを導入用パルスとして駆動タイミングを調整して照射を行なうように制御することも可能である。この場合、マイクロバブルを破壊しない低MIスキャンにて被検体3の患部の画像取得を実施し、その診断結果に基づいて高MIスキャンにより設定した被検体3の患部に導入用高周波パルスを照射してマイクロバブルを破壊し、例えば遺伝子やタンパク質、薬剤等の導入を促進するということの可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る超音波薬剤導入装置の第1の実施の形態を備えた医用画像診断装置を示す全体構成図。
【図2】同装置による低周波超音波と高周波超音波との重畳の圧力波形のタイムシーケンスを示す図。
【図3】本発明に係る超音波薬剤導入装置の第2の実施の形態を備えた医用画像診断装置を示す全体構成図。
【符号の説明】
【0041】
1:気密加圧容器、2:寝台、3:被検体、4:医用画像診断装置、5:ターゲット領域、6:ネットワーク、7:システムコントローラ、8:アプリケータ、9:低周波振動子、10:高周波振動子、11:低周波駆動回路、12:高周波駆動回路、13:駆動タイミング調整回路、14:移動機構、15:CRTディスプレイ、16:入力デバイス、20:高周波・低周波複合振動子、21:駆動タイミング調整回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に低周波の超音波を付加すると共に、前記被検体のターゲット領域に高周波の超音波を付加し、前記ターゲット領域に薬剤を導入することを特徴とする超音波薬剤導入方法。
【請求項2】
前記高周波の超音波の付加は、前記低周波の超音波による圧力が正圧のときに行うことを特徴とする請求項1記載の超音波薬剤導入方法。
【請求項3】
前記高周波の超音波の付加は、前記低周波の超音波による圧力が所定の正圧値以上になったときに行うことを特徴とする請求項2記載の超音波薬剤導入方法。
【請求項4】
前記高周波の超音波の付加は、前記低周波の超音波による圧力が1.05気圧以上の正圧になったときに行うことを特徴とする請求項3記載の超音波薬剤導入方法。
【請求項5】
前記低周波の超音波は数kHzを有し、前記高周波の超音波は数百kHz乃至数MHzを有することを特徴とする請求項1記載の超音波薬剤導入方法。
【請求項6】
被検体に低周波の超音波を付加する低周波加圧部と、
前記被検体のターゲット領域に高周波の超音波を付加する高周波加圧部と、
前記被検体への前記低周波の超音波の付加タイミングと前記被検体への前記高周波の超音波の付加タイミングとを調整するタイミング調整部とを具備し、
前記ターゲット領域に対する前記低周波の超音波と前記高周波の超音波との付加により前記ターゲット領域に薬剤を導入することを特徴とする超音波薬剤導入装置。
【請求項7】
広帯域又は複数の周波数の超音波を被検体に付加することを可能とする超音波加圧部と、
前記被検体への前記低周波の超音波の付加タイミングと前記被検体への前記高周波の超音波の付加タイミングとを調整するタイミング調整部とを具備し、
前記ターゲット領域に対する前記低周波の超音波と前記高周波の超音波との付加により前記ターゲット領域に薬剤を導入することを特徴とする超音波薬剤導入装置。
【請求項8】
前記タイミング調整部は、前記高周波の超音波の付加を前記低周波の超音波による圧力が正圧のときに行うことを特徴とする請求項6又は7記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項9】
前記タイミング調整部は、前記低周波の超音波による圧力が所定の正圧値以上になったときに前記高周波の超音波を付加することを特徴とする請求項8記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項10】
前記タイミング調整部は、前記低周波の超音波による圧力が1.05気圧以上の正圧になったときに前記高周波の超音波を付加することを特徴とする請求項9記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項11】
前記低周波の超音波は、数kHzを有することを特徴とする請求項6又は7記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項12】
前記低周波加圧部は、前記低周波の超音波を前記被検体の広領域に付加する非集束タイプの低周波振動子を有することを特徴とする請求項6記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項13】
前記高周波の超音波は、数百kHz乃至数MHzを有することを特徴とする請求項6又は7記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項14】
前記高周波加圧部は、前記高周波の超音波を集束して前記被検体に付加する集束タイプの高周波振動子を有することを特徴とする請求項6記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項15】
前記高周波振動子は、球面片の形状を有することを特徴とする請求項14記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項16】
前記超音波加圧部は、被検体に低周波の超音波を付加すると共に、前記被検体のターゲット領域に高周波の超音波を付加することを特徴とする請求項7記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項17】
前記超音波加圧部は、前記被検体に前記低周波の超音波を非集束で付加すると共に、前記被検体のターゲット領域に前記高周波の超音波を集束して付加することを特徴とする請求項7記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項18】
前記超音波加圧部は、多周波で振動可能な複合振動子を有することを特徴とする請求項17記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項19】
前記超音波加圧部は、前記低周波の駆動信号の波形の正サイクル期間に前記高周波の駆動信号の波形を重畳し、当該重畳された前記駆動信号を前記複合振動子に供給することを特徴とする請求項18記載の超音波薬剤導入装置。
【請求項20】
請求項6乃至19のうちいずれか1項記載の超音波薬剤導入装置を備えたことを特徴とする医用画像診断装置。
【請求項21】
PET、MRI又はX線CTを有することを特徴とする請求項20記載の医用画像診断装置。
【請求項22】
少なくとも前記ターゲット領域に対する前記低周波の超音波の付加の位置決めと、前記ターゲット領域に対する前記高周波の超音波の付加の位置決めと、前記ターゲット領域への前記薬剤の導入状況とを確認するための前記被検体の医用画像を表示することを特徴とする請求項20記載の医用画像診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−181568(P2007−181568A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−1822(P2006−1822)
【出願日】平成18年1月6日(2006.1.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】