説明

超音波血流イメージング装置

【課題】 動態表示に優れた広範囲のBMI(Blood Motion Imaging)画像データの生成が可能な超音波血流イメージング装置の提供。
【解決手段】 被検体の複数方向に対し所定間隔Trで順次超音波送受波を行ってBMI画像データの生成を行なう際に、所定方向に対する最初の超音波送受波から次の超音波送受波を行う間に他の複数方向(M−1)に対する超音波送受波を順次行なう、所謂M段の定間隔交互走査によって前記所定方向からの受信信号を間隔Tx(Tx=M・Tr)でM回収集する。そして、複数の走査方向の各々において前記間隔Txで得られる所定深さの受信信号に対し血球からの反射波成分を抽出するためのFIRフィルタ処理を行ない、このFIRフィルタ処理において順次出力されるデータ列のデータに基づいて複数時相における複数枚のBMI画像データを生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検体から得られる超音波受信信号に基づいて血流の可視化を行なう超音波血流イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断法は、超音波プローブに内蔵された圧電振動子から発生する超音波を被検体内に放射し、被検体組織の音響インピーダンスの差異によって生ずる反射波を前記圧電振動子によって受信してモニタ上に表示するものである。この診断方法は、超音波プローブを体表に接触させるだけの簡単な操作でリアルタイムの2次元画像データが容易に得られるため、臓器の機能診断や形態診断に広く用いられている。
【0003】
被検体の組織あるいは血球からの反射波により生体情報を得る超音波診断法は、超音波パルス反射法と超音波ドプラ法の2つの大きな技術開発により急速な進歩を遂げ、上記技術を用いて得られるBモード画像とカラードプラ画像は、今日の超音波診断において不可欠なものとなっている。
【0004】
カラードプラ画像の観測が可能な従来の超音波血流イメージング装置では、同一方向にN回の超音波送受波を行い、このとき得られるN個のデータ数(以下では、パケットと呼ぶ。)から超音波送受波方向における血流の平均速度や分散、更にはパワー値の算出と表示を行なってきた。
【0005】
このような、血流の平均速度、分散、パワーの表示を行なう従来のカラードプラ法の他に、近年、赤血球からの反射波の干渉に起因するスペックルデータを高速度で収集し、得られたスペックルデータを通常の速度にスローモーション表示して血流の流れを可視化する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。この方法によれば、スペックルの微妙な時間的及び空間的な変化を連続して捉えることができるため、上述のカラードプラ法と比較して血流情報を実際に流れているように可視化することが可能となる。
【0006】
図14は、上述の特許文献1に記載されている方法における走査方法とデータ処理方法を示した図であり、図14(a)の横軸は時間、縦軸は走査方向に対応し、各点は超音波送受波に対応している。例えば、セクタ走査によって所定断面の超音波走査を行なう場合、時間間隔(以下、レート周期と呼ぶ。)Trで方向Rp(p=1乃至P)に対する超音波送受波を繰り返し複数の走査SP1,SP2,SP3,・・・・を行なう。
【0007】
そして、例えば、走査RP1乃至RP6における超音波送受波によって時間間隔Tx(Tx=Tr・P)で得られた所定送受波方向RPpの6つの受信信号をパケットとして血流情報の検出を行なう。但し、従来のカラードプラ法では上記パケット内の全データに対してフィルタ処理を行ない送受波方向Rpの所定位置における血流の平均速度、分散、パワーの算出を行なってきたが、この方法においては、例えば、送受波方向Rpにおいて時間間隔Txで連続して得られる3つの受信データを単位としてFIR(Finite Impulse Response)フィルタ処理を行ない、パワーを計算する。従来法では、1つのパケット内で平均したパワーデータを1個出力するのに対して、この方法では1つのパケット内で複数(図14では4個)のパワーデータを出力する。
【0008】
図14(b)は、前記パワーデータによる画像データ(以下では、BMI画像データと呼ぶ。)Fd1、Fd2、・・・と、このBMI画像データと並行して生成される組織画像データ(所謂、Bモード画像データ)Fb1、Fb2、・・・を模式的に示しており、横軸は画像の収集順序、縦軸は走査方向に対応している。そして、BMI画像データFd1を構成する送受波方向Rpのデータ(以下、BMIデータと呼ぶ。)は、走査SP1乃至SP3によって得られた受信信号に対してFIRフィルタ処理を行なうことによって得られ、このような処理を全ての送受波方向R1乃至RPに対して行なうことによってBMI画像データFd1が生成される。
【0009】
同様にして、BMI画像データFd2乃至Fd4も、走査SP2乃至SP4、SP3乃至SP5、SP4乃至SP6の受信信号に対するFIRフィルタ処理によって生成される。即ち、6つの受信信号から構成されたパケットの中の連続した3つの受信信号を用いてFIRフィルタ処理を行なうことにより4枚のBMI画像データFd1乃至Fd4を得ることができる。
【0010】
このような処理によって、時間方向に隣接するBMI画像データ間(例えば、BMI画像データFd1とFd2)のフレーム間時間間隔はTxとなり、フレーム間時間間隔がN・Tx(N=6)のカラードプラ画像データの場合と比較して高いフレームレートでBMI画像データを生成することが可能となる。
【0011】
次いで、上述の方法によって高速で生成したBMI画像データを通常の表示スピードに変換することによって短時間で変化するスペックルデータを連続して映像化することができ、このスペックルデータの移動情報に基づいて血流の流れを可視化することが可能となる。
【特許文献1】米国特許第6277075号明細書(第5−9頁、第2−6図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述の特許文献1の方法によって血球からの反射波に起因したスペックルデータを広範囲で連続して映像化することは実際には困難である。
【0013】
何故ならば、上述のスペックルデータを空間的及び時間的に連続して観察するには、(1)BMI画像データを構成する隣接BMIデータ(例えばRRpとRRp+1)のスペックルデータに強い相関がある程度に超音波送受波間隔dは十分密であること、(2)折り返りが発生しない程度の高い繰り返し周波数fx(fx=1/Tx)で所定方向Rpの超音波送受波が行なわれること、(3)少ないデータ数(Nx=3<N)によるフィルタ処理によって、生体組織からの反射波と血球からの反射波を分離し血流情報のみを感度よく抽出することが可能なこと、(4)生体組織からの反射波と血球からの反射波が分離できる程度に前記繰り返し周波数fxが低いこと、等の条件を満たす必要があるからである。
【0014】
例えば、8MHzの中心周波数をもつ超音波による頚動脈の血流計測において、送受波方向に対する最大血流速度成分が10cm/secの場合、上述の折り返りが発生しない最小繰り返し周波数fxは2.1KHzとなる。ここで、超音波送波繰り返し周波数(レート周波数)fr(fr=1/Tr)を16.8KHzとすれば各々の2次元走査において可能な超音波送波回数は8となり、例え4方向に対する並列同時受信を適用した場合であっても32方向に対する受信信号に基づいて1枚のBMI画像データを生成することになる。
【0015】
即ち、特許文献1の方法によって生成されるBMI画像データは、十分密な間隔で配置された32本のBMIデータによって構成されなくてはならないため、十分な視野幅(走査幅)を得ることができない。又、視野幅を広げるために上述の2次元走査を2つ以上のブロックで行ない、得られた複数のBMI画像データを合成する方法も考えられるが、この方法によれば、合成されたBMI画像データは時相の不連続なBMI画像データによって合成されるためその境界において許容できない不連続が発生し診断能を著しく低下させる。
【0016】
一方、前記並列同時受信によって受信方向数を更に増加させる方法は、送信超音波ビームの拡散に伴って所定方向に対する送受信感度が劣化し、又、受信回路が複雑となるため限界がある。
【0017】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、動態表示に優れた広範囲のBMI画像データの生成を可能とする超音波血流イメージング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、請求項1に係る本発明の超音波血流イメージング装置は、超音波振動子を備えた超音波プローブと、前記超音波振動子を用いて被検体の所定走査方向に対して超音波送受波を行う超音波送受波手段と、この超音波送受波手段により、所定の方向を基準方向として前記基準方向を含む所定領域における複数の方向に対し超音波送受波を順次行なった後、前記基準方向に対して所定間隔ずつ離れた方向を新たな基準方向として前記新たな基準方向を含む所定領域における複数の方向に対し超音波送受波を順次行なう超音波走査を複数回繰り返す走査制御手段と、この走査制御手段により、前記所定領域の複数の方向から得られた各々の受信信号に対してフィルタ処理を行なって、前記被検体の血球の流れに起因した受信信号成分を検出するフィルタリング手段と、このフィルタリング手段によって順次出力されるデータ列の各データに基づいてスペックルの変化を表示した画像データを生成する画像データ生成手段と、生成された前記画像データを表示する表示手段を備えたことを特徴としている。
【0019】
又、請求項2に係る本発明の超音波血流イメージング装置は、超音波振動子を備えた超音波プローブと、前記超音波振動子を用いて被検体の所定走査方向に対して超音波送受波を行う超音波送受波手段と、この超音波送受波手段により、所定の方向を基準方向として前記基準方向を含む所定領域における複数の方向に対し超音波送受波を順次行なった後、前記基準方向に対して所定間隔ずつ離れた方向を新たな基準方向として前記新たな基準方向を含む所定領域における複数の方向に対し超音波送受波を順次行なう超音波走査を複数回繰り返す走査制御手段と、この走査制御手段により、前記所定領域の複数の方向から得られた各々の受信信号に対してフィルタ処理を行なって、前記被検体の血球の流れに起因した受信信号成分を検出するフィルタリング手段と、このフィルタリング手段によって順次出力されるデータ列の各データに基づいて時相の異なる複数枚のスペックルの変化を表示した画像データを生成する画像データ生成手段と、この画像データ生成手段によって生成された複数枚の前記画像データの画像間処理によって血流データを生成する流れデータ生成手段と、生成された血流データを表示する表示手段を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、動態表示に優れた広範囲のBMI画像データの生成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0022】
以下に述べる本発明の実施例では、被検体の複数方向に対し所定間隔Trで順次超音波送受波を行ってBMI画像データの生成を行なう際に、所定方向に対する最初の超音波送受波から次の超音波送受波を行う間に他の複数方向(M−1)に対する超音波送受波を順次行なう、所謂M段の定間隔交互走査によって前記所定方向からの受信信号を間隔Tx(Tx=M・Tr)でM回収集する。
【0023】
そして、複数の走査方向の各々において前記間隔Txで得られる受信信号に対し血球からの反射波成分を抽出するためのFIRフィルタ処理を行ない、このFIRフィルタ処理において順次出力されるデータ列のデータに基づいて複数時相における複数枚のBMI画像データを生成する。
【0024】
(装置の構成)
以下では、本発明の実施例における超音波血流イメージング装置の構成と各ユニットの動作につき図1乃至図12を用いて説明する。尚、図1は、本実施例における超音波血流イメージング装置の全体構成を示すブロック図であり、図2及び図4は、この超音波血流イメージング装置を構成する送受信部及びデータ生成部の詳細な構成を示すブロック図である。
【0025】
図1に示す超音波血流イメージング装置100は、1次元配列された複数の圧電振動子を備え被検体に対して超音波の送受波を行なう超音波プローブ10と、これらの圧電振動子に対して駆動信号を供給すると共に、前記圧電振動子によって得られた受信信号に対して整相加算(所定方向から得られた受信信号を位相合わせして加算)を行なう送受信部20を備え、更に、送受信部20から得られた受信信号に対してBモードデータ、カラードプラデータ、更には、血球からの反射波に起因したスペックル情報に基づくBMIデータの生成を行なうデータ生成部30と、このデータ生成部30において生成された上記データを保存して2次元のBモード画像データ、カラードプラ画像データ、BMI画像データの生成を行なうとともに、前記BMI画像データを用いて血流の流れベクトルデータや流線データを生成するデータ記憶・演算部50と、生成されたこれらの画像データを表示する表示部9を備えている。
【0026】
更に、超音波血流イメージング装置100は、送受信部20に対して送信超音波の中心周波数とほぼ等しい周波数の連続波あるいは矩形波を発生する基準信号発生部1と、操作者によって被検体情報や装置の設定条件、更には各種コマンド信号等が入力される入力部11と、超音波の走査方向を制御する走査制御部12と、上述の各ユニットを統括的に制御するシステム制御部13を備えている。
【0027】
超音波プローブ10は、被検体の表面に対してその前面を接触させ超音波の送受波を行なうものであり、例えば、1次元配列されたM0個の圧電振動子をその先端部に有している。この圧電振動子は電気音響変換素子であり、送信時には電気的なパルスを送信超音波に変換し、又、受信時には超音波反射波(受信超音波)を電気信号(受信信号)に変換する機能を有している。
【0028】
次に、図2に示した送受信部20は、M0チャンネルの圧電振動子に対して駆動信号を供給する送信部2と、前記圧電振動子によって得られた受信信号に対して整相加算を行なう受信部3を備えている。
【0029】
送信部2は、レートパルス発生器21と、送信遅延回路22と、駆動回路23を備え、レートパルス発生器21は、基準信号発生部1から供給される連続波を分周することによって送信超音波の繰り返し周期(レート周期)を決定するレートパルスを生成する。又、送信遅延回路22は、送信において細いビーム幅を得るために所定の深さに送信超音波を収束するための遅延時間と所定の方向に送信超音波を放射するための遅延時間を前記レートパルスに与える。そして、駆動回路23は、超音波プローブ10におけるM0チャンネルの圧電振動子を駆動するための駆動信号を前記レートパルスのタイミングに基づいて生成する。
【0030】
一方、受信部3は、プリアンプ24と、A/D変換器25と、ビームフォーマ26を備えている。プリアンプ24は、超音波プローブ10から供給されるM0チャンネルの受信信号を増幅して十分なS/Nを確保するためのものであり、その初段部には駆動回路23から供給される高電圧の駆動信号から保護するための図示しないリミッタ回路が設けられている。このプリアンプ24において所定の大きさに増幅された受信信号は、A/D変換器25にてデジタル信号に変換され、ビームフォーマ26に送られる。
【0031】
ビームフォーマ26は、図示しない遅延回路と加算回路を有し、A/D変換器25においてデジタル信号に変換されたM0チャンネルの受信信号に対して、所定の深さからの超音波反射波を収束するための収束用遅延時間と超音波反射波の受信指向性を順次変更して当該被検体を走査するための偏向用遅延時間を与えた後これらの受信信号を加算合成(整相加算)する。尚、ビームフォーマ26は、被検体の複数方向から同時に得られる受信超音波の各々を分離して受信する、所謂、並列同時受信機能を有している。
【0032】
このビームフォーマ26によるビームフォーミングには種々の方法があり、例えば、図示しない直交位相検波回路を用いた直交位相検波によって得られた複素信号(I信号及びQ信号)に対して整相加算が行なわれる。
【0033】
次に、走査制御部12は、被検体に対して2次元の超音波走査を行なうために、上述の送信遅延回路22の送信遅延時間及びビームフォーマ26の受信遅延時間を制御する。特に、カラードプラ画像データやBMI画像データを生成する場合には、定間隔交互走査法によってI/Q信号の収集を行なう。尚、定間隔交互走査については特許第2772049号公報に記載されている。
【0034】
図3は、本実施例におけるBMI画像データの生成において用いる定間隔交互走査法について示したものであり、横軸は走査方向θ1乃至θP、縦軸は時間に対応し、超音波の送受波方向は紙面に垂直な方向に対応している。尚、本実施例では、8段の定間隔交互走査を用いた場合について述べるが、これに限定されない。
【0035】
即ち、送受信部20は、走査制御部12から供給される走査制御信号に従って、先ずθ1乃至θ8に対するレート周期Trの超音波送受波により第1の走査SP1を行ない、次いで、θ2乃至θ9に対してレート周期Trの超音波送受波により第2の走査SP2を行なう。
【0036】
同様にして、走査方向を1つずつシフトさせながら第3以降の走査SP3,SP4,・・・を繰り返すことによって、例えば、走査方向θ8では、走査SP1乃至走査SP8によって受信信号a1乃至a8が収集され、走査方向θ9では、走査SP2乃至走査SP9によって受信信号b1乃至b8が、又、走査方向θ10では、走査SP3乃至走査SP10によって受信信号c1乃至c8が収集される。そして、走査方向θ11以降についても同様にして受信信号d1乃至d8、e1乃至e8・・・が収集される。
【0037】
次に、図4に示したデータ生成部30は、上述の受信部3のビームフォーマ26から出力された受信信号を信号処理してBモードデータを生成するBモードデータ生成部4とカラードプラデータを生成するカラードプラデータ生成部5と、BMIデータを生成するBMIデータ生成部6を備えている。
【0038】
Bモードデータ生成部4は、包絡線検波器31と対数変換器32を備えている。この包絡線検波器31は、受信部3のビームフォーマ26から出力された受信信号(複素信号)の絶対値を算出することによって包絡線検波を行ない、対数変換器32は、包絡線検波後の受信信号に対する対数変換処理によって小さな信号振幅を相対的に強調して走査方向単位のBモードデータを生成する。
【0039】
カラードプラデータ生成部5は、I/Q信号記憶回路34、MTIフィルタ35、自己相関演算器36及び速度・分散・パワー算出回路37を備えている。
【0040】
そして、受信部3のビームフォーマ26から供給される複素信号は、I/Q信号記憶回路34に一旦保存され、次いで、高域通過用のデジタルフィルタであるMTIフィルタ35は、定間隔交互走査によってI/Q信号記憶回路34に順次保存された所定走査方向のM個の複素信号を読み出し、この複素信号に対するフィルタ処理によって臓器等の固定反射体からの受信信号成分あるいは臓器の呼吸性移動や拍動性移動などに起因する受信信号成分を除去して血流に起因するドプラ信号成分を抽出する。
【0041】
次いで、自己相関演算器36は、MTIフィルタ35によって抽出された前記ドプラ信号に対して自己相関値を算出し、速度・分散・パワー算出回路37は、この自己相関値に基づいて血流の平均流速値、分散値、更にはパワー値等を算出して走査方向単位のカラードプラデータを生成する。
【0042】
一方、BMIデータ生成部6は、I/Q信号記憶回路38と、FIRフィルタ39と、データシフト回路40を備えており、I/Q信号記憶回路38は、図4において既に述べた定間隔交互走査によって収集された受信信号(複素信号)を一旦保存する。
【0043】
図5は、I/Q信号記憶回路38に保存されたI信号及びQ信号を模式的に示したものであり、走査方向θ8に対応した記憶領域には、走査SP1乃至SP8によって得られたI信号a1(I)乃至a8(I)及びQ信号a1(Q)乃至a8(Q)が保存され、走査方向θ9に対応した記憶領域には、走査SP2乃至SP9によって得られたI信号b1(I)乃至b8(I)及びQ信号b1(Q)乃至b8(Q)が保存されている。更に、走査方向θ10以降に対応した記憶領域の各々にも同様にして8つのI信号とQ信号が保存されている。
【0044】
次に、FIRフィルタ39は、I/Q信号記憶回路38に一旦保存された各走査方向のI/Q信号を読み出し、FIRフィルタ処理を行なう。
【0045】
図6は、FIRフィルタ処理の原理を示したものであり、例えば、間隔Txで収集されたI/Q信号a1乃至a7に対してフィルタ定数(h1、h2、h3)=(0.5、−1.0,0.5)のFIRフィルタ39を用いた次式(1)のFIRフィルタ処理によって、パワー値データ列A1乃至A5が算出される。
【数1】

【0046】
尚、図4の定間隔交互走査において収集される受信信号a8、b8、c8、・・・は、M段の交互走査の最初の超音波送受波によって収集されるため、生体深部からの反射波(残響エコー)による影響が他の受信信号と異なる。このため、上述のフィルタ処理において前記残響エコーが強調されて検出される可能性がある。従って、受信信号a8、b8、c8、・・・を用いずにFIRフィルタ処理を行なうことが望ましい。
【0047】
次に、データシフト回路40は、FIRフィルタ39によって得られた各走査方向のパワー値データ列に対し所定のデータシフトを行なって走査方向単位のBMIデータを生成する。
【0048】
図7は、データシフト回路40が行なうパワー値データ列のデータシフトを説明するための図であり、図7(a)の横軸はパワー値データ列A1乃至A5、B1乃至B5、C1乃至C5・・・が得られる走査方向θ8、θ9、θ10、・・・、縦軸は前記パワー値データの各々が得られる走査SP1、SP2,・・・に対応している。
【0049】
一方、図7(b)は、データシフト回路40によるパワー値データ列のデータシフトによって生成されたBMIデータを示しており、データシフト回路40は、FIRフィルタ39によって得られた各走査方向のパワー値データ列Aq、Bq、Cq、・・・(q=1乃至5)をその先頭データA1,B1,C1,・・・が一致するようにシフトしてBMIデータを生成する。そして、生成した走査方向単位のBMIデータを後述のデータ記憶・演算部50におけるデータ記憶部7に保存する。
【0050】
図1に戻って、データ記憶・演算部50は、データ記憶部7と流れデータ生成部8を備えている。
【0051】
データ記憶部7は、データ生成部30において走査方向単位で生成されたBモードデータ、カラードプラデータ及びBMIデータを順次保存してBモード画像データ、カラードプラ画像データ及びBMI画像データを生成する。
【0052】
図8は、データ記憶部7において生成されるBMI画像データを模式的に示しており、図7(b)に示したBMIデータを用いて生成される。例えば、BMI画像データFd1は、走査方向θ8のパワー値A1、走査方向θ9のパワー値B1、走査方向θ10のパワー値C1・・・によって構成され、同様にして、BMI画像データFd2は、走査方向θ8のパワー値A2、走査方向θ9のパワー値B2、走査方向θ10のパワー値C2・・・によって構成される。
【0053】
一方、流れデータ生成部8は、データ記憶部7において生成された時相の異なる複数枚のBMI画像データFd1,Fd2,Fd3,・・・を用いて、血球(即ち、スペックルパターン)の移動方向や移動量(あるいは、移動速度)を推定し、更に、これらの結果に基づいて流れベクトルデータや流線データを生成する。
【0054】
即ち、上述の流れデータ生成部8は、図示しない演算回路を備え、例えば、時間方向に隣接した2枚のBMI画像データを用いた画像間相互相関演算によってこれらの画像データにおけるスペックルパターンの移動量と移動方向を推定し、これらの推定結果に基づいて血液の流れベクトルデータあるいは流線データを生成する。
【0055】
以下に、流れベクトルの推定方法につき図9を用いて説明する。流れデータ生成部8は、データ記憶部7において生成された2次元のBMI画像データを、その走査方向及び送受波方向に対して図9に示すような複数のブロックに区分し、例えば、n番目のBMI画像データFdnのブロックB(0,0)とn+1番目のBMI画像データFdn+1の各ブロックとの相互相関係数を算出する。尚、図9(a)に示したBMI画像データは5x5のブロックに区分され、更に、各々のブロックは3x3の画素から構成されている場合について示しているが、ブロック数や画素数は上記の値に限定されない。
【0056】
即ち、流れデータ生成部8は、BMI画像データFdnのブロックB(0,0)とBMI画像データFdn+1のブロックB(−2,−2)乃至B(2,2)において、同一座標にある画素のパワー値を乗算した後、3x3の画素で得られた乗算結果を加算あるいは加算平均することによってBMI画像データFdnのブロックB(0,0)に対するBMI画像データFdn+1の各ブロックの相互相関係数を算出する。
【0057】
次いで、BMI画像データFdnのブロックB(0,0)に対して最も大きな相互相関係数を有するBMI画像データFdn+1のブロックB(α、β)を検出し、ブロックB(0,0)を基準としブロックB(α、β)までの距離や方向に基づいて流れベクトルの大きさ(長さ)と方向を設定する。又、このときBMI画像データFdnのブロックB(0,0)における画素値(パワー値)の平均値や積算値等に基づいて流れベクトルの太さを設定してもよい。そして、上述の相互相関係数の算出と流れベクトルの設定をBMI画像データFdnの他のブロックに対しても行ない、更に、他のBMI画像データにおいても行なう。
【0058】
更に、流れデータ生成部8は、流れベクトルの長さや太さを決定する上述の距離やパワー値に基づいて流れベクトルの表示/非表示を判定する図示しない表示判定部を備え、所定のブロックにおけるパワー値の平均値や積算値等が予め設定された閾値より小さい場合にはノイズと判断し、流れベクトルを非表示に設定する。同様にして、前記距離が所定の閾値より大きな場合には折り返し等の理由で相互相関係数が正しく算出されていないと判断し、流れベクトルを非表示に設定する。
【0059】
次に、表示部9は、図示しない表示用データ生成回路と変換回路とモニタを備え、データ記憶・処理部70において生成されたBモード画像データ、カラードプラ画像データ及びBMI画像データに対して前記表示用データ生成回路は、所定の表示形態に対応した走査変換処理を行なって表示用画像データを生成する。
【0060】
そして、前記変換回路は、この表示用画像データに対してD/A変換とテレビフォーマット変換を行なって映像信号を生成し、この映像信号を前記モニタに表示する。即ち、データ記憶・演算部50のデータ記憶部7において生成された2次元のBMI画像データは、前記表示用データ生成回路による走査変換処理によって図8の模式図に示したセクタ表示方式のBMI画像データFd1,Fd2,Fd3・・・に変換されてモニタに表示される。
【0061】
尚、この表示用データ生成回路は、通常、後述の入力において予め設定される画像表示モードに従ってBモード画像データ、カラードプラ画像データ、BMI画像データ、更には、流れベクトルデータや流線データの中から所望のデータを合成して表示用画像データの生成を行なう。例えば、BMI画像データ、流れベクトルデータ、流線データは、Bモード画像データやカラードプラ画像データと合成されて表示部9のモニタに表示される。
【0062】
図10は、流れベクトル表示の具体例を示したものであり、既に述べたように流れデータ生成部8によってBMI画像データに設定された各ブロックの中心を起点として、このBMI画像データにおけるスペックルの移動方向、移動量、更には画素値(スペックルのパワー値)が反映された流れベクトルが表示される。尚、この流れベクトル表示におけるベクトル数が多すぎて観測が困難な場合には、適当な密度の流れベクトル表示を行なうために上記ベクトルを間引いて表示してもよい。
【0063】
一方、図11は、流線表示の具体例を示したものであり、この流線表示における流線の方向や太さの設定方法は上述の流れベクトルの場合と同様である。例えば、BMI画像データFdnのブロックB(0,0)を基準とした場合、流れデータ生成部8は、このブロックB(0,0)と最も相関が高いBMI画像データFdn+1におけるブロックB(α、β)の位置と前記ブロックB(0,0)の画素のパワー値を検出する。そして、表示部9は、検出された上記ブロックB(0,0)とブロックB(α、β)の各中心を前記ブロックB(0,0)のパワー値に対応した太さあるいは輝度の線分によって繋いで流線を形成する。
【0064】
このような演算をBMI画像データFdnにおける他のブロックについても行ない、更に、他のBMI画像データにおいても行なう。尚、この流線表示は、流れベクトル表示と比較して高密度で連続性に優れた流れの2次元分布を表示することが可能であるが、この場合においても流線数が多すぎて観測が困難な場合には、適当に間引いて表示してもよい。
【0065】
更に、表示部9は、送受信部20やデータ生成部30によって高速で収集された複数枚のBMI画像データを通常の表示速度に変換する、所謂、スローモーション表示機能を有している。
【0066】
例えば本実施例において、レート周波数frが10KHz、同一送受波方向において間隔Txで収集される受信データ数が8、定間隔交互走査の段数が8、1枚のBMI画像データを構成する画像ラスタ数が128本としたとき、図8に示したBMI画像データFd1,Fd2,Fd3、・・・の画像収集間隔Txは、Tx=8/10KHz=0.8msecとなり、一方、所定領域の画像データ(例えば、送受波方向θ1乃至θPの受信信号によって生成されるBMI画像データの画像収集間隔Tfは(128x8)/10KHz=102msecとなる。
【0067】
本実施例では、画像収集間隔Tx=800μsec(即ち、繰り返し周波数が1.25KHz)で高速収集されたBMI画像データを表示する際に、このBMI画像データをそのままのフレームレートで表示部9における通常のモニタに表示することは不可能なため表示速度を変換してスローモーション表示を行なう。
【0068】
図12は、スローモーション表示の説明図であり、図12(a)は、データ記憶・演算部50のデータ記憶部7において生成される走査方向θ8乃至θ15のBMI画像データFd1乃至Fd5の生成タイミングを示し、図12(b)は、前記BMI画像データFd1乃至Fd5のスローモーション表示における表示タイミングを示している。
【0069】
図12(a)で示すように、走査方向θ8乃至θ15におけるBMI画像データFd1乃至Fd5は、夫々の画像データの繰り返し周期(即ち、走査方向θ1乃至θPの全領域におけるBMI画像データの画像収集間隔)Tf=102msecの中の3.2msecの期間で生成される。
【0070】
このようにして高速で得られた5枚のBMI画像データFd1乃至Fd5を表示する際に、表示部9は、これらのBMI画像データFd1乃至Fd5を例えば20.4msec間隔で読み出してモニタ上に表示することによって連続的なスローモーション表示が可能となる。
【0071】
次に、図1に戻って、入力部11は、操作パネル上に表示パネルやキーボード、トラックボール、マウス、選択ボタン、入力ボタン等の入力デバイスを備え、患者情報の入力、画像データ収集モードや表示モード等の設定、定間隔交互走査選択及び交互段数の設定、種々のコマンド信号の入力等を行なう。
【0072】
又、システム制御部13は、図示しないCPUと記憶回路を備え、操作者によって入力部11から入力あるいは設定される上述の各種情報は前記記憶回路に保存される。又、この記憶回路には、流れベクトル表示や流線表示における流れベクトルや流線の表示/非表示を判定するための閾値や、相互相関係数を算出する際のブロックサイズ等の値が予め保管されている。
【0073】
そして、前記CPUは、これらの情報に基づいて、走査制御部12、送受信部20、データ生成部30、データ記憶・演算部50及び表示部9の制御やシステム全体の制御を統括して行なう。
【0074】
(画像データの生成手順)
次に、本実施例におけるBMI画像データ等の生成手順につき図1乃至図12を用いて説明する。
【0075】
先ず、超音波血流イメージング装置100の操作者は、入力部11において患者情報の入力、画像データ収集モード及び表示モードの選択、定間隔交互走査における交互段数等の設定を行ない、これらの患者情報、選択情報及び設定情報はシステム制御部13の図示しない記憶回路に保存される。尚、以下では、Bモード画像データとBMI画像データに対する収集モードと表示モードを選択し、交互段数を8段に設定した場合について述べるが、これらに限定されない。
【0076】
次いで、入力部11より上記画像データ収集モードの選択情報と交互段数情報を受信したシステム制御部13は、超音波血流イメージング装置100の各ユニットに対してこれらの画像データの生成を行なうための制御信号を供給し、この制御信号を受信した各ユニットは、走査方向θ1乃至θPに対してBモード画像データの生成と8段の定間隔交互走査によるBMI画像データの生成を行なう。
【0077】
BMI画像データの生成に際して、図1のシステム制御部13は、図3に示した走査SP1の走査方向θ1に対して超音波送受波を行なうために送受信部20の送信遅延時間及び受信遅延時間を制御する。次いで、図2の送信部2におけるレートパルス発生器21は、基準信号発生部1から供給される基準信号を分周することによって、送信超音波(超音波パルス)のレート周期Trを決定するレートパルスを生成し、このレートパルスをM0チャンネルの送信遅延回路22に供給する。
【0078】
送信遅延回路22は、システム制御部13から供給された遅延時間制御信号に従って、所定の深さに超音波を収束するための収束用遅延時間と走査方向θ1に超音波を放射するための偏向用遅延時間を前記レートパルスに与え、このレートパルスをM0チャンネルの駆動回路23に供給する。そして、駆動回路23は、レートパルスの駆動によって生成されたインパルスあるいは所定波形の駆動信号を、図示しないM0チャンネルのケーブルを介して超音波プローブ10におけるM0チャンネルの圧電振動子に供給し、走査方向θ1に対して送信超音波を放射する。
【0079】
被検体に放射された送信超音波の一部は、音響インピーダンスの異なる臓器間の境界面あるいは組織にて反射する。又、この超音波が心臓壁や血球などの動きのある反射体で反射する場合、その超音波周波数はドプラ偏移を受ける。
【0080】
被検体の組織や血球にて反射した受信超音波(超音波反射波)は、超音波プローブ10の前記圧電振動子によって受信されて電気信号(受信信号)に変換され、更に、前記M0チャンネルのケーブルを介して受信部3のプリアンプ24に供給され所定の大きさに増幅された後、A/D変換器25にてデジタル信号に変換される。
【0081】
そして、デジタル信号に変換されたM0チャンネルの受信信号は、ビームフォーマ26に供給され、直交位相検波して得られたI信号及びQ信号の各々に対して整相加算が行なわれる。そして、整相加算されたI信号及びQ信号は、図4のBMIデータ生成部6におけるI/Q信号記憶回路38に一旦保存される。
【0082】
同様にして、システム制御部13は、走査SP1の走査方向θ2乃至θ8に対し超音波送受波を行なって得られたI/Q信号をBMIデータ生成部6のI/Q信号記憶回路38に保存し、更に、走査SP2の走査方向θ2乃至θ9、走査SP3の走査方向θ3乃至θ10・・・に対する超音波送受波によって得られたI/Q信号もI/Q信号記憶回路38に保存する。
【0083】
一方、FIRフィルタ39は、上述の手順によってI/Q信号記憶回路38に保存された各走査方向のI信号及びQ信号(図5参照)の中から、例えば、走査方向θ8に対して時間間隔Txで得られた走査SP1乃至SP8のI信号a1(I)乃至a8(I)及びQ信号a1(Q)乃至a8(Q)を読み出し、既に示した式(1)に基づくFIRフィルタ処理によってパワー値データ列A1乃至A5を算出する(図6参照)。そして、得られたこれらのパワー値データ列をデータシフト回路40の図示しないバッファ回路に一旦保存する。
【0084】
同様にして、走査方向θ9に対して得られた走査SP2乃至SP9のI信号b1(I)乃至b8(I)及びQ信号b1(Q)乃至b8(Q)、走査方向θ10に対して得られた走査SP3乃至SP10のI信号c1(I)乃至c8(I)及びQ信号c1(Q)乃至c8(Q)・・・・を読み出し、FIRフィルタ処理によって得られたパワー値データ列B1乃至B5、C1乃至C5をデータシフト回路40の前記バッファ回路に保存する(図7(a)参照)。
【0085】
そして、データシフト回路40は、前記バッファ回路に保存された走査方向θ8乃至θPのパワー値データ列に対して、その先頭データA1,B1,C1,・・・が一致するようにデータシフトを行なってBMIデータを生成し、このBMIデータをデータ記憶・演算部50のデータ記憶部7に保存する。
【0086】
次いで、データ記憶・演算部50のデータ記憶部7は、BMIデータ生成部6のデータシフト回路40から供給される走査方向単位のBMIデータを順次保存して2次元のBMI画像データを生成する。
【0087】
上述のBMI画像データの生成が終了したならば、Bモード画像データを生成するための超音波送受波を行なう。即ち、システム制御部13は、走査方向θ1乃至θPにおけるBモードデータを得るために送受信部20の送信遅延時間及び受信遅延時間を制御する。次いで、送受信部20及び超音波プローブ10は、先ず走査方向θ1に対して超音波送受波を行ない、受信部3のビームフォーマ26において整相加算されたI信号及びQ信号をBモードデータ生成部4に供給する。
【0088】
Bモードデータ生成部4の包絡線検波器31は、ビームフォーマ26から出力されたI/Q信号の絶対値を算出することによって包絡線検波を行ない、対数変換器32は、包絡線検波後の受信信号に対して対数変換を行ないBモードデータを生成する。そして、生成されたBモードデータは、データ記憶・演算部50のデータ記憶部7に保存される。
【0089】
同様にして、走査方向θ2乃至θPに対して超音波送受波を行ない、得られたBモードデータはデータ記憶部7に保存される。即ち、Bモードデータ生成部4において走査方向単位で生成されたBモードデータはデータ記憶部7において順次保存され、2次元のBモード画像データが生成される。
【0090】
一方、流れデータ生成部8は、データ記憶部7に保存された時相の異なる複数枚のBMI画像データの中から時間方向に隣接した2枚のBMI画像データを用いて画像間相互相関演算を行なって、このBMI画像データにおけるスペックルパターンの移動量と移動方向を推定する。そして、これらの推定結果に基づいて血液の流れベクトルデータあるいは流線データを生成し、得られた流れベクトルデータあるいは流線データを前記データ記憶部7に保存する。
【0091】
次に、図1の表示部9の図示しない表示用データ生成回路は、データ記憶・処理部70において生成されたBモード画像データとBMI画像データを読み出し、所定の表示形態(セクタ表示)に対応した走査変換処理を行なった後合成して表示用画像データを生成する。このとき、高速収集された複数枚のBMI画像データを通常のモニタに表示するためのスローモーション表示変換処理が行なわれる。
【0092】
そして、前記変換回路は、この表示用画像データに対してD/A変換とテレビフォーマット変換を行なって映像信号を生成し、この映像信号を前記モニタに表示する。
【0093】
又、Bモード画像データに流れベクトルデータあるいは流線データを合成して表示する場合には、流れベクトルデータあるいは流線データに対してもスローモーション表示変換処理を行なった後Bモード画像データとの合成が行なわれる。
【0094】
以上述べた本発明の実施例によれば、定間隔交互走査法を適用してBMI画像データを生成しているため、極めて高いフレームレートでBMI画像データを得ることができ、従って血球の流れを時間的に連続して観察することが可能となる。しかも、前記定間隔交互走査によって空間的にも連続した広範囲のBMI画像データを観察することが可能となる。
【0095】
又、高フレームレートで生成された複数のBMI画像データは、本実施例の表示速度変換手段によって通常のモニタで連続して観測することが可能となる。更に、前記BMI画像データに基づいて生成された流れベクトルデータあるいは流線データの表示によって血流状態を正確かつ定量的に診断することができる。
【0096】
即ち、本実施例によって得られたBMI画像データや流れベクトルデータ、更には流線データの表示によって、操作者は、広範囲における血流情報を実際に流れているように観察することが可能となるため診断能が大幅に向上するとともに操作者の負担が軽減される。
【0097】
以上、本発明の実施例について述べてきたが、本発明は上記の実施例に限定されるものでは無く、変形して実施することが可能である。例えば、上述の実施例の定間隔交互走査における超音波受波方向は1つの方向に設定したが、超音波送波方向を中心とした複数方向からの受信超音波を同時に受信する、所謂、並列同時受信を適用してもよい。図13は、図3の定間隔交互走査に対して2段の並列同時受信を適用した場合であり、走査方向θ1乃至θPの各々に対して複数の受信信号が収集される。このような並列同時受信法を組み合わせることによってBMI画像データのフレームレートを更に向上させることが可能となる。
【0098】
又、上述の実施例においては、BMI画像データ間の相互相関処理によってスペックルパターンの移動情報を検出したが、相互相関処理に限定されるものではなく、例えば、対応する画素の画素値(パワー値)の差の絶対値を求め、この絶対値をブロック内で積算するSAD(Sum Absolute Difference)法によって上記移動情報を推定してもよい。
【0099】
又、上述の表示方法において、BMI画像データ、流れベクトルデータ及び流線データはBモード画像データと合成して表示する場合について述べたが、独立して表示してもよく、カラードプラ画像データと合成表示してもよい。更に、流れベクトルデータあるいは流線データとBMI画像データを合成表示してもよい。
【0100】
又、上記Bモード画像データを得るための超音波送受波の順序は、上記実施例の方法に限定されるものではなく、例えば、BMI用の超音波送受波によって得られた受信信号の1部を用いて生成してもよい。
【0101】
尚、上述の実施例の超音波プローブの圧電振動子は1次元に配列した場合について述べたが、2次元配列された圧電振動子を用いてもよく、特に、この方法によれば複数の任意断面におけるBMI画像データを同時に生成することも可能となる。更に、走査方式は上述のセクタ走査方式の他にリニア走査方式やコンベックス走査方式、更にはラジアル走査方式等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】本発明の実施例における超音波血流イメージング装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】同実施例における送受信部の構成を示すブロック図。
【図3】同実施例のBMI画像データの生成において用いる定間隔交互走査を示す図。
【図4】同実施例におけるデータ生成部の構成を示すブロック図。
【図5】同実施例におけるBMIデータ生成部のI/Q信号記憶回路に保存されたI信号及びQ信号を模式的に示す図。
【図6】同実施例におけるFIRフィルタ処理の原理を示す図。
【図7】同実施例におけるパワー値データ列のデータシフトを説明するための図。
【図8】同実施例によって生成されるBMI画像データを模式的に示す図。
【図9】同実施例における流れベクトルの推定方法を示す図。
【図10】同実施例における流れベクトル表示の具体例を示す図。
【図11】同実施例における流線表示の具体例を示す図。
【図12】同実施例におけるスローモーション表示を説明するための図。
【図13】同実施例の変形例における並列同時受信を適用した定間隔交互走査を示す図。
【図14】従来のBMI法における走査法とデータ処理法を示す図。
【符号の説明】
【0103】
1…基準信号発生部
2…送信部
3…受信部
4…Bモードデータ生成部
5…カラードプラデータ生成部
6…BMIデータ生成部
7…データ記憶部
8…流れデータ生成部
9…表示部
10…超音波プローブ
11…入力部
12…走査制御部
13…システム制御部
20…送受信部
30…データ生成部
38…I/Q信号記憶回路
39…FIRフィルタ
40…データシフト回路
50…データ記憶・演算部
100…超音波血流イメージング装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動子を備えた超音波プローブと、
前記超音波振動子を用いて被検体の所定走査方向に対して超音波送受波を行う超音波送受波手段と、
この超音波送受波手段により、所定の方向を基準方向として前記基準方向を含む所定領域における複数の方向に対し超音波送受波を順次行なった後、前記基準方向に対して所定間隔ずつ離れた方向を新たな基準方向として前記新たな基準方向を含む所定領域における複数の方向に対し超音波送受波を順次行なう超音波走査を複数回繰り返す走査制御手段と、
この走査制御手段により、前記所定領域の複数の方向から得られた各々の受信信号に対してフィルタ処理を行なって、前記被検体の血球の流れに起因した受信信号成分を検出するフィルタリング手段と、
このフィルタリング手段によって順次出力されるデータ列の各データに基づいてスペックルの変化を表示した画像データを生成する画像データ生成手段と、
生成された前記画像データを表示する表示手段を
備えたことを特徴とする超音波血流イメージング装置。
【請求項2】
超音波振動子を備えた超音波プローブと、
前記超音波振動子を用いて被検体の所定走査方向に対して超音波送受波を行う超音波送受波手段と、
この超音波送受波手段により、所定の方向を基準方向として前記基準方向を含む所定領域における複数の方向に対し超音波送受波を順次行なった後、前記基準方向に対して所定間隔ずつ離れた方向を新たな基準方向として前記新たな基準方向を含む所定領域における複数の方向に対し超音波送受波を順次行なう超音波走査を複数回繰り返す走査制御手段と、
この走査制御手段により、前記所定領域の複数の方向から得られた各々の受信信号に対してフィルタ処理を行なって、前記被検体の血球の流れに起因した受信信号成分を検出するフィルタリング手段と、
このフィルタリング手段によって順次出力されるデータ列の各データに基づいて時相の異なる複数枚のスペックルの変化を表示した画像データを生成する画像データ生成手段と、
この画像データ生成手段によって生成された複数枚の前記画像データの画像間処理によって血流データを生成する流れデータ生成手段と、
生成された血流データを表示する表示手段を
備えたことを特徴とする超音波血流イメージング装置。
【請求項3】
前記フィルタリング手段は、FIR型の高域通過フィルタによって前記血球の流れに起因した受信信号成分を検出することを特徴とした請求項1又は請求項2に記載した超音波血流イメージング装置。
【請求項4】
前記画像データ生成手段は、前記複数の走査方向に対する超音波送受波によって得られた夫々のデータ列をデータシフトして合成することにより時相の異なる複数枚の前記画像データを生成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した超音波血流イメージング装置。
【請求項5】
Bモード画像データ生成手段あるいはカラードプラ画像データ生成手段の少なくとも何れかを備え、前記表示手段は、前記Bモード画像データ生成手段が生成したBモード画像データあるいは前記カラードプラ画像データ生成手段が生成したカラードプラ画像データと前記画像データを合成して表示することを特徴とする請求項1記載の超音波血流イメージング装置。
【請求項6】
前記流れデータ生成手段は、前記画像間処理によって得られた血流速度と血流方向の情報に基づいて流れベクトルデータあるいは流線データの少なくとも何れかを生成することを特徴とする請求項2記載の超音波血流イメージング装置。
【請求項7】
前記流れデータ生成手段は、前記時相の異なる複数枚の前記画像データに対する相互相関演算あるいはSAD演算によって前記血流データの生成を行うことを特徴とする請求項2記載の超音波血流イメージング装置。
【請求項8】
Bモード画像データ生成手段あるいはカラードプラ画像データ生成手段の少なくとも何れかを備え、前記表示手段は、前記Bモード画像データ生成手段が生成したBモード画像データ、前記カラードプラ画像データ生成手段が生成したカラードプラ画像データ及び前記画像データの少なくとも何れかと前記流れベクトルデータあるいは流線データを合成して表示することを特徴とする請求項6記載の超音波血流イメージング装置。
【請求項9】
前記超音波送受波手段は、前記超音波送受波方向の各々を中心とした複数の方向からの受信超音波を分離して略同時に受信することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した超音波血流イメージング装置。
【請求項10】
前記走査制御手段は、所定の走査方向を基準走査方向として所定間隔で逐次設定された複数の走査方向に対する超音波送受波を順次行なった後、前記基準走査方向に対して前記所定間隔離れた走査方向を新たな基準走査方向として前記所定間隔で逐次設定された複数の走査方向に対する超音波送受波を順次行なうことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した超音波血流イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−421(P2006−421A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−180377(P2004−180377)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】