説明

超音波複合振動装置

【課題】複合振動の振動軌跡が複雑であり、穴あけ加工や溶接・溶着等に利用可能な超音波複合振動装置を提供する。
【解決手段】超音波複合振動を生成する超音波複合振動装置は、縦振動体10と、ロッド20と、駆動部30と、縦−ねじり振動変換部40とからなる。ロッド20は、縦振動を励起する縦振動体10からの縦振動を伝達するものである。駆動部30は、縦振動用発振器31とねじり振動用発振器32と加算器33とから構成される。縦振動用発振器31は縦振動用の共振周波数信号を発生するものであり、ねじり振動用発振器32はねじり振動用の共振周波数信号を発生するものである。加算器33は、これらの各共振周波数信号を加算して縦振動体10に印加するものである。そして、縦振動をねじり振動に変換する縦−ねじり振動変換部40が、ロッド20のねじり振動の腹となる位置近傍に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波振動装置に関し、特に、超音波複合振動を生成する超音波複合振動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超音波振動装置は、穴あけ加工や溶接・溶着等の用途にも用いられている。これらの用途では、振動軌跡が直線的な単一振動モードよりも2つ以上の振動を複合させた複合振動モードの方が加工対象の仕上がり等に優れるため、より好ましいものとして知られている。そこで、従来から複合振動を発生させる超音波複合振動装置が種々開発されている。
【0003】
超音波複合振動装置の例としては、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1には、縦振動子とねじり振動子の2種類の振動子を用いて、縦振動とねじり振動の2つの複合振動を得ることが可能な装置が開示されている。
【0004】
また、例えば特許文献2には、縦振動子に単一周波数を印加し、縦振動の腹から節の間の位置に周波数調整用素子を設けると共に、縦振動をねじり振動に変換する斜めスリットを縦振動の縦振動の節となる位置に配置する超音波複合振動装置が開示されている。
【0005】
また、2つの異なる共振周波数を加算した信号を用いて複合振動を発生させる超音波複合振動装置の例としては、例えば特許文献3が挙げられる。特許文献3は、縦振動とたわみ振動を共振体に発生させるものである。具体的には、この装置は、たわみ振動発生手段が設けられた面内複合共振体に、縦振動用の信号とたわみ振動用の信号の2つの異なる共振周波数信号を加算して印加することにより、縦振動とたわみ振動の2つの複合振動を得ることが可能なものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−44970号公報
【特許文献2】特開2005−288351号公報
【特許文献3】特開2010−149017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載の装置では、得られる複合振動の振動軌跡が直線や円形、楕円形となり、この軌跡をそのまま繰り返すような振動であるため、それほど複雑な振動軌跡とはなっていなかった。
【0008】
さらに、特許文献1に記載の装置では、振動子が2つ必要となり、コスト的な問題もあった。
【0009】
また、特許文献2では、単一周波数を印加しているため、縦振動とねじり振動をそれぞれ分離して別々に制御できないという問題があった。
【0010】
一方、特許文献3に記載の構成は、縦振動用とたわみ振動用の2つの異なる共振周波数を加算した信号を印加するものであり、振動軌跡は複雑となるが、面内複合共振体自体が角棒状のものであり、これをそのまま穴開け加工等に利用することは、その構造上難しかった。例えば、さらにロッド等を面内複合共振体に接続する必要等が生じ、たわみ振動の振動軌跡を得られず、その軌跡は複雑なものとはならない可能性があった。
【0011】
本発明は、斯かる実情に鑑み、複合振動の振動軌跡が複雑であり、穴あけ加工や溶接・溶着等に利用するのに適した超音波複合振動装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した本発明の目的を達成するために、本発明による超音波複合振動装置は、縦振動を励起する縦振動体と、縦振動体からの縦振動を伝達するロッドと、縦振動用の共振周波数信号を発生する縦振動用発振器と、ねじり振動用の共振周波数信号を発生するねじり振動用発振器と、これらの各共振周波数信号を加算して縦振動体に印加する加算器と、からなる駆動部と、ロッドのねじり振動の腹となる位置近傍に配置され、縦振動をねじり振動に変換する縦−ねじり振動変換部と、を具備するものである。
【0013】
ここで、縦−ねじり振動変換部は、ロッドの軸方向に対して斜めにスリットが設けられる斜めスリットであれば良い。
【0014】
また、縦−ねじり振動変換部は、断面多角形の棒状体をロッドの軸方向を中心にねじって構成されるねじり棒からなるものであっても良い。
【0015】
また、縦−ねじり振動変換部は、ロッド先端の超音波複合振動の軌跡が、塗り潰される略矩形軌跡となり、縦振動の最大値近傍のところでねじり振動が正の最大値から負の最大値まで変化し、ねじり振動軌跡の辺が、縦振動軌跡の辺と略直交するように、配置位置が調整されれば良い。
【発明の効果】
【0016】
本発明の超音波複合振動装置には、複合振動の振動軌跡が複雑であり、穴あけ加工や溶接・溶着等に利用するのに適しているという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の超音波複合振動装置の構成を説明するための概略構成図である。
【図2】図2は、本発明の超音波複合振動装置の振動軌跡を表すグラフである。
【図3】図3は、本発明の超音波複合振動装置の縦−ねじり振動変換部がねじり棒で構成された例を説明するための、縦−ねじり振動変換部の概略拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を図示例と共に説明する。図1は、本発明の超音波複合振動装置の構成を説明するための概略構成図である。図示の通り、本発明の超音波複合振動装置は、縦振動体10と、ロッド20と、駆動部30と、縦−ねじり振動変換部40とから主に構成されている。
【0019】
縦振動体10は、縦振動を励起するものである。縦振動体10は、例えば縦振動子11と振動増幅部12からなる。具体的には、例えば縦振動子11がボルト締めランジュバン型振動子からなるものである。ボルト締めランジュバン型振動子の共振周波数の一例を挙げると、20kHzである。また、振動増幅部12は、エキスポネンシャルホーンからなるものである。エキスポネンシャルホーンの一例を挙げると、ジュラルミン製であり、振幅拡大比が約5.0のものである。また、縦振動子11としては、圧電セラミックス素子や磁歪振動子等を用いても良い。
【0020】
この縦振動体10に、ロッド20が結合されている。ロッド20の長さを調整することで、縦振動の共振周波数が調整可能である。ロッド20の一例を挙げると、例えばジュラルミン製であり、円筒形のものである。その寸法は、例えば長さが120mmであり、直径が12mmである。ロッド20は、加工対象物に直接接触させるものであり、摩耗に強いことが好ましい。本発明の超音波複合振動装置では、ロッド20は交換可能に縦振動体10にねじ込まれるものであれば良く、摩耗した際には交換することも可能である。また、加工効率を上げるようにロッド20の先端部分を適宜加工することも可能である。さらに、加工対象物に施す加工の種類に応じて、ロッドをそれらに適したものに交換することも可能である。
【0021】
そして、駆動部30は、縦振動体10に共振周波数信号を印加するものである。駆動部30は、縦振動用発振器31と、ねじり振動用発振器32と、加算器33とからなる。駆動部30は、縦振動体10を駆動させるものである。縦振動用発振器31は、縦振動用の共振周波数信号を発生するものである。ねじり振動用発振器32は、ねじり振動用の共振周波数信号を発生するものである。具体的には、例えば縦振動用発振器31は、19.25kHzの信号を生成し、ねじり振動用発振器32は、18.55kHzの信号を生成する。そして、加算器33は、これらの各共振周波数信号を加算して縦振動体に印加するものである。加算器33は、加算された共振周波数信号を出力するものであり、必要により加算信号を増幅する増幅器を備えても良い。
【0022】
縦−ねじり振動変換部40は、ロッドに配置されるものであり、縦振動をねじり振動に変換するものである。一例を挙げると、縦−ねじり振動変換部40は、例えば斜めスリットからなるものである。斜めスリットは、ロッド20の軸方向に対して斜めにスリットが設けられるものである。この斜めスリットにより、ロッド20に伝達された縦振動がねじり振動に変換される。そして、縦−ねじり振動変換部40は、ロッド20のねじり振動の腹となる位置近傍に配置されている。
【0023】
以下、より具体的に縦−ねじり振動変換部40について説明する。縦−ねじり振動変換部40を構成する斜めスリットは、例えばスリットの長さが19mm、溝幅が0.5mm、深さが3.5mm、斜め角度が35度、スリット本数を8として構成される。例えば、上述の具体例のように、ロッド20を長さ120mmで直径12mmで構成した場合、ロッド20のねじり振動の腹となる位置は、縦振動体10の結合部から概ね30mmの位置となる。したがって、この場合、斜めスリットは、ロッド20の縦振動体10の結合部から概ね30mmの位置を中心に配置されれば良い。
【0024】
このように構成された本発明の超音波複合振動装置の振動軌跡について説明する。図2は、本発明の超音波複合振動装置の振動軌跡を表すグラフである。横軸が縦振動の振動幅であり、縦軸がねじり振動の振動幅である。図中、30mmと示された振動軌跡が、本発明の超音波複合振動装置において縦−ねじり振動変換部を30mmの位置に配置した例である。超音波複合振動装置の構成としては、ロッドの寸法が120mmで直径が12mmのものを用い、縦−ねじり振動変換部として斜めスリットを用いたものである。駆動部としては、縦振動用発振器が19.49kHzの信号を生成し、ねじり振動用発振器が19.10kHzの信号を生成するものを用いた。
【0025】
また、比較例として、縦−ねじり振動変換部をロッドの縦振動の節の位置に配置した例も示した。これが、58mmと示された振動軌跡である。なお、ロッドの縦振動の節の位置に縦−ねじり振動変換部を配置するのは、縦振動で大きな複合振動が得られる位置と考えられている所であるためである。ここで、58mmの例では、ロッドの寸法は上述の例と同様であるが、縦振動用発振器が19.25kHzの信号を生成し、ねじり振動用発振器が18.55kHzの信号を生成するものとした。
【0026】
図示の通り、本発明の超音波複合振動装置のロッド先端の超音波複合振動の振動軌跡は、塗り潰される略矩形軌跡となっていることが分かる。より詳しくは、縦振動の最大値近傍のところでねじり振動が正の最大値から負の最大値まで変化している。また、図面上、縦軸がねじり振動軌跡の辺となり、横軸が縦振動軌跡の辺となるが、これらが略直交するような軌跡となっていることも分かる。また、比較例の配置位置が58mmの例の複合振動軌跡に比べて、30mmの複合振動軌跡のほうが振動軌跡の面積が大きいことが分かる。即ち、全体的に各振動の振幅が大きくなっていることが分かる。また、超音波複合振動装置を用いて対象物を加工する場合、ロッドの軸方向の先に加工対象物が置かれることになるが、本発明の30mmの複合振動軌跡の場合には、加工対象物に対していわば垂直方向に複合振動を加えることが可能となり、縦振動の最大値を有効に作用させることができる(縦振動の最大値近傍のところでねじり振動が正の最大値から負の最大値まで変化している)。一方、比較例の場合には複合振動軌跡が加工対象物に対していわば斜め方向に加わることになり、縦振動の最大値を有効に作用させることができない(縦振動の最大値においてねじり振動の変化が少ない)。
【0027】
また、本発明の超音波複合振動装置のように、縦−ねじり振動変換部が30mmの配置位置の場合には、縦振動共振時には大きな縦振動に対してねじり振動があまり得られず、また、ねじり振動共振時には大きなねじり振動に対して縦振動があまり得られない特徴がある。一方、縦−ねじり振動変換部を58mmに配置した場合には、何れの振動もある程度の大きさが得られるものの、これらの振動を別々に分けて制御することはできない。即ち、本発明の場合には、縦振動共振時にはねじり振動に対して大きな縦振動が得られ、ねじり振動共振時には縦振動に対して大きなねじり振動が得ることができる。したがって、縦振動とねじり振動を別々に分けて振動制御が可能となる。
【0028】
このように、本発明の超音波複合振動装置によれば、複合振動の振動軌跡が複雑であり、穴あけ加工や溶接・溶着等に利用する場合には、有効に複合振動を加工対象物に作用させることが可能となる。また、本発明の超音波複合振動装置では、2つの発振器を用いて縦振動とねじり振動の2つの共振周波数信号をそれぞれ生成し、これを加算器により加算して縦振動体に印加しているため、縦振動とねじり振動をそれぞれ別々に分けて振動制御可能である。したがって、より柔軟に所望な複合振動が得られる。
【0029】
なお、縦−ねじり振動変換部は、ロッドのねじり振動の腹の位置に正確に配置される必要は必ずしもなく、加工対象物に対して複合振動の最大値を有効に作用させるように、ねじり振動の腹の位置の近傍である程度その配置位置を調整すれば良い。
【0030】
次に、本発明の超音波複合振動装置の縦−ねじり振動変換部の他の例について説明する。図3は、本発明の超音波複合振動装置の縦−ねじり振動変換部がねじり棒で構成された例を説明するための、縦−ねじり振動変換部の概略拡大斜視図である。図中、図1と同一の符号を付した部分は概ね同一物を表している。図示の通り、この例の縦−ねじり振動変換部40は、ねじり棒からなっている。ねじり棒は、断面多角形の棒状体をロッド20の軸方向を中心にねじってなるものである。このようなねじり棒であっても、上述の斜めスリットと同様に、縦振動をねじり振動に変換可能である。ねじり棒を、上述のようにロッド20のねじり振動の腹となる位置近傍に配置することで、同じような作用・効果が得られる。
【0031】
なお、本発明の超音波複合振動装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。また、説明上具体的な一例として挙げた寸法や周波数等については、あくまでも一例であり、これらの具体的な数字に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0032】
10 縦振動体
11 縦振動子
12 振動増幅部
20 ロッド
30 駆動部
31 縦振動用発振器
32 ねじり振動用発振器
33 加算器
40 縦−ねじり振動変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波複合振動を生成する超音波複合振動装置であって、該超音波複合振動装置は、
縦振動を励起する縦振動体と、
前記縦振動体からの縦振動を伝達するロッドと、
縦振動用の共振周波数信号を発生する縦振動用発振器と、ねじり振動用の共振周波数信号を発生するねじり振動用発振器と、これらの各共振周波数信号を加算して縦振動体に印加する加算器と、からなる駆動部と、
ロッドのねじり振動の腹となる位置近傍に配置され、縦振動をねじり振動に変換する縦−ねじり振動変換部と、
を具備することを特徴とする超音波複合振動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波複合振動装置において、前記縦−ねじり振動変換部は、ロッドの軸方向に対して斜めにスリットが設けられる斜めスリットからなることを特徴とする超音波複合振動装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波複合振動装置において、前記縦−ねじり振動変換部は、断面多角形の棒状体をロッドの軸方向を中心にねじって構成されるねじり棒からなることを特徴とする超音波複合振動装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れかに記載の超音波複合振動装置において、前記縦−ねじり振動変換部は、ロッド先端の超音波複合振動の軌跡が、塗り潰される略矩形軌跡となり、縦振動の最大値近傍のところでねじり振動が正の最大値から負の最大値まで変化し、ねじり振動軌跡の辺が、縦振動軌跡の辺と略直交するように、配置位置が調整されることを特徴とする超音波複合振動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−111508(P2013−111508A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258357(P2011−258357)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(598131650)株式会社アポロ技研 (4)
【Fターム(参考)】