超音波診断システム及び温度測定方法
【課題】電気抵抗又は色相に基づいて温度を測定する温度センサーを備えるので、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる超音波診断システムを提供する。
【解決手段】本発明の超音波診断システムは、生体内温度上昇を模擬するファントムと、前記ファントムの内部に分布し、電気抵抗又は色相に基づいて温度を測定する温度センサーとを備える。
【解決手段】本発明の超音波診断システムは、生体内温度上昇を模擬するファントムと、前記ファントムの内部に分布し、電気抵抗又は色相に基づいて温度を測定する温度センサーとを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断システムに関し、特に、超音波ファントムを用いて、生体内温度上昇を模擬(シミュレート)するための超音波診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高出力の超音波が使用される超音波診断装置では、高出力超音波が生体に照射された場合における生体内の温度上昇を把握することが重要である。生体内の温度上昇を把握するために、入手が容易で、安定で、経時変化の小さい材料により生体温度ファントムを1種類のみ作成し、この生体温度ファントムを用いて超音波による温度上昇を測定し、予め既知である生体の熱物性値を用いて、簡単な演算処理を施すことにより生体組織内の温度上昇を予測する生体温度予測方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、超音波照射による生体の温度上昇を、生体模擬して実際に温度測定する手法として、温度センサーを含む検査体(Test Object)が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−320499号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Ultrasonics - Field characterisation - Test objects for determiningtemperature elevation in diagnostic ultrasound fields」,IEC/TS 62306 ed1.0, 2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ファントムを用いた従来の超音波診断システムでは、再現性にばらつきがあり、生体温度予測方法を基に、生体内の温度上昇を推定することは困難である。また、検査体を用いた従来の超音波診断システムでは、本来、超音波照射方向の水平面の温度分布を計測するため、超音波照射方向の垂直面の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することは困難である。さらに、従来の超音波診断システムでは、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することは困難である。
【0007】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、ファントムを用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる超音波診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超音波診断システムは、生体内温度上昇を模擬するファントムと、前記ファントムの内部に分布し、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーとを備える。
【0009】
この構成によれば、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーを備えるので、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0010】
本発明の超音波診断システムは、生体内温度上昇を模擬するファントムと、前記ファントムの内部に分布し、色相に基づいて温度を測定する温度センサーとを備える。
【0011】
この構成によれば、色相に基づいて温度を測定する温度センサーを備えるので、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0012】
本発明の超音波診断システムでは、前記温度センサーは、前記温度の変化によって前記色相が変化するサーモクロミズム効果を有する。
【0013】
この構成によれば、サーモクロミズム効果により色相が変化する温度センサーを備えるので、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0014】
本発明の超音波診断システムは、前記色相を光学的に取得する光学測定部と、前記光学測定部により取得された前記色相に基づいて、前記温度を判定する温度評価部とを備える。
【0015】
この構成によれば、温度センサーの色相情報を光学的に取得することによって、再現性が高く、2次元又は3次元の温度分布を簡便に測定することができる。
【0016】
本発明の超音波診断システムでは、前記温度センサーは、超音波照射方向の垂直面に分布し、前記垂直面の温度を測定する。
【0017】
この構成によれば、温度センサーが垂直面に分布することによって、超音波照射方向の垂直面の2次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0018】
本発明の超音波診断システムでは、前記温度センサーは、複数の前記垂直面に分布する。
【0019】
この構成によれば、温度センサーが複数の垂直面に分布することによって、ファントム内の3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0020】
本発明の超音波診断システムは、前記温度センサーによって測定される前記温度が所定の温度になるように、前記ファントムに照射される超音波の照射条件を調整する調整部を備える。
【0021】
この構成によれば、超音波の照射条件を調整することによって、ファントム内の温度上昇又は温度分布を自動的に制御することができる。
【0022】
本発明の超音波診断システムでは、前記照射条件は、送信電圧、送信口径、送信波数、送信波長、照射出力、照射時間、照射距離、超音波ビーム幅、超音波ビーム形状、超音波フォーカス形状、及び重み付け関数のうちの少なくとも1つである。
【0023】
この構成によれば、送信電圧などの超音波の照射条件を調整することによって、ファントム内の温度上昇又は温度分布を自動的に制御することができる。
【0024】
本発明の超音波診断システムでは、前記ファントムは、生体の部位に相当する模擬部位を含み、前記温度センサーは、前記模擬部位の表面又は内部に分布する。
【0025】
この構成によれば、ファントムが模擬部位を含むことによって、現実に近い状態で、再現性が高く、2次元又は3次元の温度分布を簡便に測定することができる。
【0026】
本発明の温度測定方法は、生体内温度上昇を模擬するファントムの内部で、超音波照射方向の垂直面に分布する温度センサーを用いて、前記垂直面の温度を測定する。
【0027】
この構成によれば、温度センサーが垂直面に分布することによって、超音波照射方向の垂直面の2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、電気抵抗又は色相に基づいて温度を測定する温度センサーを設けることにより、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる超音波診断システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施の形態の超音波診断システムを示す図である。
【図2】色相を光学的に取得するカメラ部(光学測定部)を備える第1の実施の形態の超音波診断システムを示す図である。
【図3】模擬血管を内包するファントムを示す図である。
【図4】模擬頭蓋骨、頭蓋骨標本、模擬骨、及び骨標本などの模擬部位を内包するファントムを示す図である。
【図5】模擬部位の表面に温度センサーを付けたファントムを示す図である。
【図6】第2の実施の形態の超音波診断システムを示す図である。
【図7】色相を光学的に取得するカメラ部(光学測定部)を備える第2の実施の形態の超音波診断システムを示す図である。
【図8】第2の実施の形態の基本的動作の一例を示すフローチャートである。
【図9】第2の実施の形態の温度上昇の一例を示す図である。
【図10】距離分解能に応じて、超音波の照射条件を選択して調整することにより照射条件を再設定する一例を示すフローチャートである。
【図11】超音波の照射条件を組み合わせて調整することにより照射条件を再設定する一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態の超音波診断システムについて、図面を用いて説明する。本発明の第1の実施の形態の超音波診断システムを図1に示す。
【0031】
図1に示すように、超音波診断システム100は、ファントム1、温度センサー2、超音波診断装置3、探触子(超音波探触子)4、温度検知部5、及びコンピュータ6を含む。
【0032】
ファントム1は、生体内温度上昇を模擬するためのものである。ファントム1は、生体での超音波伝播特性を模擬したものであり、ファントム基材の代表的な特性は、例えば、IEC61391−2に示されている。超音波減衰係数が大きいファントム基材を用いれば、超音波エネルギーの熱への変換効率が高くなるので、ファントム1の温度上昇速度が速くなるように設定して模擬することができる。超音波診断の対象となる臓器に合わせて、ファントム基材の物理的特性を変えてもよい。ファントム1の形状は、直方体、円柱形状、及び楕円柱形状が好ましい。
【0033】
温度センサー2は、ファントム1の内部に分布し、電気抵抗に基づいて温度を計測する。例えば、温度センサー2は、ストライプ状導電シートのリード(導電線)における抵抗値又は抵抗値変化により温度を検出する温度センサーであればよい。また、温度センサー2は、検出された温度に関する信号により通電量を制御する制御部を含んでよい。図1に示す温度センサー2は、ストライプ状導電シートを縦横に布線した格子状導電シートである。
【0034】
このような導電シートは、極めて薄い形状であり、折り曲げて使用できるので、超音波放射熱拡散測定の障害にならず、超音波ファントム1の内部に分布して、超音波照射による温度上昇又は温度分布を定量的に測定する温度センサー2として利用される。また、導電シートは、平面状又は曲面状に形成され、2次元温度センサーとして機能する。
【0035】
図1では、ファントム1が直方体である。ファントム1の上面に、探触子4が配置されている。探触子4からの超音波照射による熱上昇を測定する場合は、探触子4の走査面に沿って、温度センサー2が配置される。つまり、温度センサー2は、探触子4の超音波照射方向Dの垂直面に分布し、超音波照射方向Dの垂直面の温度を測定する。また、図1に示すように、温度センサー2は、ファントム1の中央部に分布してもよい。
【0036】
温度センサー2が、探触子4の超音波照射方向Dの垂直面に配置することにより、探触子4のラテラル(lateral)方向の温度上昇分布(2次元分布)を測定することが可能となる。
【0037】
また、温度センサー2は、超音波照射方向Dの複数の垂直面に分布してもよい。例えば、図1に示すように、ラテラル方向の垂直面と直交するエレベーショナル(elevational)方向の垂直面に、温度センサー2が配置され、ラテラル方向とエレベーショナル方向の両方向について、同時に温度上昇又は温度分布を測定してもよい。つまり、図1に示すように、2次元の温度センサー2が互いに直交するように、ファントム1に温度センサー2を埋め込めば、探触子4の超音波走査方向であるラテラル方向の温度上昇(温度分布)とラテラル方向に直交するエレベーショナル方向の温度上昇(温度分布)とを、同時に測定することができる。これにより、同時に複数方向の垂直面について温度を測定することで、測定時間が短縮される。また、温度上昇又は温度分布の3次元分布を測定することができる。また、超音波が照射された部位における温度と超音波が照射されない部位における温度とを比較すれば、超音波照射による温度上昇(温度分布)を計測することができる。
【0038】
また、温度センサー2は、同じ方向の複数の垂直面に分布してもよい。例えば、温度センサー2は、ラテラル方向の複数の垂直面に配置されてもよく、エレベーショナル方向の複数の垂直面に配置されてもよい。この場合、温度測定の距離分解能に応じて、複数の垂直面の間隔を設定すればよい。例えば、温度測定の距離分解能が1mm以下で要求される場合、それぞれの垂直面に分布する温度センサー2の間隔が1mm以下になるように、温度センサー2が垂直面に配置されればよい。
【0039】
超音波診断装置3は、探触子4を通して送受信される超音波信号を生成し制御する。超音波診断装置3は、探触子4が受信した超音波信号に基づいて、被検体の対象組織の超音波画像を生成する。また、超音波診断装置3は、調整部30を含む。調整部30は、ファントム1に照射される超音波の照射条件を調整する。照射条件は、超音波の送信電圧、送信口径、送信波数、送信波長、照射出力、照射時間、照射距離、超音波ビーム幅、超音波ビーム形状、超音波フォーカス形状、及び重み付け関数などを含む。ここで、超音波診断装置3は、複数の超音波受信信号に対する重み付け処理(apodization)を行う。調整部30は、この重み付け処理に用いられる重み付け関数(例えば、窓関数に基づく矩形重みやハニング重みなど)を調整してもよい。
【0040】
探触子4は、振動子から被検体の対象組織に向かって超音波(超音波ビーム)を送受信する。探触子4には、リニア型、コンベックス型、及びセクタ型などがある。探触子4から照射された超音波は、ファントム1の基材特性に従って、超音波エネルギーを吸収する超音波吸収材料(超音波減衰材料)により、熱エネルギーに変換される。この熱エネルギーによって、ファントム1内部の温度が上昇し伝播することで、生体内での熱上昇状況及び熱伝播状況を模擬することができる。ファントム1と探触子4との間に空気が入らないように、超音波ゼリーが塗布されてもよい。
【0041】
温度検知部5は、温度センサー2で測定された温度を検知する。温度センサー2は、温度変化に対して電気抵抗が変化する抵抗体などを含むので、図1に示す温度検知部5は、温度センサー2の抵抗値又は抵抗値変化を検知し、温度センサー2の2次元温度分布を計測する。温度検知部5は、温度センサー2のリード(導電線)に流れる電流を測定することにより、導電線の抵抗値又は抵抗値変化を測定する。温度検知部5は、温度センサー2の複数のリードから2次元温度分布又は3次元温度分布を計測する。ここで、温度センサー2と温度検知部5の間には、導体抵抗の極めて低い導線が用いられることで、温度センサー2以外での電圧低下を抑えた正確な温度計測を実現することができる。
【0042】
コンピュータ6は、温度センサー2の抵抗値又は抵抗値を基に、温度検知部5が検出した2次元温度分布像又は3次元温度分布像(温度マップ)を生成する。また、コンピュータ6は、超音波診断装置3と同期を取って、温度センサー2が温度計測するタイミングを設定/調整するものである。
【0043】
本実施の形態における温度センサー2は抵抗体を含むので、常に電流を流すと、温度センサー2そのものが発熱し、超音波照射によらない温度上昇が発生する可能性がある。したがって、超音波放射による温度上昇又は温度分布を正確に測定するために、超音波の照射時間が所定時間を超えた場合、すなわち、予め実験的に求められた温度平衡状態に達する照射時間が経過した場合に、直ちに温度検知部5が動作し、温度センサー2の抵抗値又は抵抗値変化に基づいて温度を検出し、コンピュータ6が温度マップを生成する。
【0044】
本実施の形態では、超音波照射しながら温度上昇又は温度分布を計測することが可能となるため、超音波照射に伴う温度上昇又は温度分布が、温度マップとして可視化され、時間経過とともに温度マップの変化も観測できる。すなわち、本実施の形態では、ファントム1を用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。また、コンピュータ6が、温度分布の計測結果をデータベースに格納し、温度分布の計測結果をグラフ化することもできる。また、電気抵抗に基づいた電気的測定手法により温度分布を計測することで、温度分布を精密に観測することができる。
【0045】
以上、本発明にかかる実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において変更又は変形することが可能である。
【0046】
例えば、温度センサー2は、色相に基づいて温度を測定する温度センサーであってもよい。この場合、図2に示すように、超音波診断システム100は、色相を光学的に取得するカメラ部7(光学測定部に相当する)を備える。また、コンピュータ6は、カメラ部7により取得された色相に基づいて、温度を判定する温度評価部8を備える。
【0047】
温度センサー2は、温度の変化によって色相が変化するサーモクロミズム効果を有してもよい。サーモクロミズム効果は、フォトクロミズム効果としても知られており、熱又は光によって分光特性が変わる効果である。サーモクロミズム効果を実現するには、液晶やロイコ染料を用いればよい。サーモクロミズム効果を有する温度センサー2としては、高分子化合物材料であるポリマーやカーボン系複合体のプラスチックサーミスタがある。また、温度センサー2としては、高分子化合物焦電素子を用いた赤外線センサーがある。さらに、温度センサー2としては、熱エネルギーにより分光特性(反射スペクトル及び透過スペクトル)に変化を起こすサーモクロミック高分子組成物及びそれを基材としたサーモクロミック高分子成形体がある。サーモクロミズム効果を有する温度センサー2は、温度上昇又は温度分布を色相(色の濃淡変化又は階調変化)で示す。これらの温度センサーによれば、比較的高い温度精度(0.1〜0.5℃程度)で、温度上昇又は温度分布を測定することができる。
【0048】
図2に示すように、サーモクロミズム効果を有する温度センサー2が、探触子4の走査面に沿って配置されてもよい。つまり、温度センサー2は、探触子4の超音波照射方向Dの垂直面に分布し、超音波照射方向Dの垂直面の温度を測定する。また、図2に示すように、温度センサー2は、ファントム1の中央部に分布してもよい。また、図2に示すように、温度センサー2は、超音波照射方向Dの複数の垂直面に分布してもよい。
【0049】
上記と同様、温度センサー2が、探触子4の超音波照射方向Dの垂直面に配置することにより、探触子4のラテラル方向及びエレベーショナル方向の温度上昇分布(3次元分布)を測定することが可能となる。特に、2次元の温度センサー2が互いに直交するように、温度センサー2がファントム1内に配置されれば、3次元の温度上昇又は温度分布の把握が容易となる。
【0050】
カメラ部7(ビデオカメラを含む)は、実験的に求められた温度平衡状態に達する照射時間が経過した場合に、温度センサー2の色相情報を取得する。また、カメラ部7(光学測定部)は、温度上昇又は温度分布をリアルタイムに観察するために、リアルタイムに温度センサー2の色相情報を取得する。
【0051】
温度評価部8は、カメラ部7(光学測定部)により光学的に取得された色相情報を解析する。例えば、温度評価部8は、色相と温度の関係を示すテーブル情報に基づき、取得された色彩情報から温度を測定する。また、超音波が照射された部位における温度と超音波が照射されない部位における温度とを比較すれば、超音波照射による温度上昇(温度分布)を測定することができる。また、超音波照射をしながら、ファントム1内の超音波照射部位の温度上昇を測定する場合は、カメラ部7(光学測定部)としてビデオカメラを用い、温度評価部8がリアルタイムに温度上昇又は温度分布を測定し、超音波照射に伴う温度上昇又は温度分布の時間経過をグラフ化して、温度上昇又は温度分布を温度マップとして可視化する。すなわち、本実施の形態では、ファントム1を用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。また、コンピュータ6が、温度分布の計測結果をデータベースに格納し、温度分布の計測結果をリアルタイムにグラフ化することもできる。また、ファントム1内の温度センサー2に現れた色相情報に基づいて、超音波照射による温度上昇又は温度分布を可視化することができる。さらに、カメラ部7(光学測定部)により取得された色相情報を用いれば、サーモクロミズム効果を有する温度センサーを温度センサー2として用いることができ、ファントム1内の温度上昇又は温度分布を定量評価することが可能となる。
【0052】
また、図3〜図5に示すように、ファントム1は、生体の部位に相当する模擬部位を含み、温度センサー2は、模擬部位の表面又は内部に分布してもよい。血液による熱拡散を模擬する場合は、ファントム1に模擬血管又は血管標本など(模擬部位に相当する)を埋め込んでもよい。模擬血管(模擬部位)の中に、模擬血液又は血液そのものを流せば、超音波照射による熱がどのように血流によって拡散するかを模擬することができ、ファントム1を用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0053】
図3に示すように、ファントム1内に、模擬血管9(標本血管又は血管を模擬したチューブ)を内包し、循環ポンプ10が模擬血管9内に血液もしくは血液を模擬した流体を流す。これにより、血流による熱拡散を模擬した生体内の温度上昇(温度分布)を計測することができる。また、模擬血管9(模擬部位)に温度センサー2が巻きつけられ、温度センサー2が模擬血管9(模擬部位)に配置されてもよい。つまり、温度センサー2が模擬部位の表面又は内部に分布することで、模擬血管9(模擬部位)の温度上昇又は温度分布を測定するとともに、生体周辺組織の温度上昇又は温度分布を模擬することができる。また、ファントム1に模擬血管9を配置することで、血管閉塞を目的とした超音波照射のシミュレーションを行うことができ、血管閉塞を目的とした超音波エネルギーの調整や設定を検討でき、超音波照射による周辺組織ダメージを検討することができる。なお、温度センサー2は、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーであってもよいし、色相に基づいて温度を測定する温度センサーであってもよい。
【0054】
また、図4に示すように、頭蓋骨又は骨での温度上昇を模擬する場合、ファントム1は、模擬頭蓋骨、頭蓋骨標本、模擬骨、及び骨標本などの模擬部位11を含んでもよい。図4に示すように、頭蓋骨(標本)を分割して、その断面間に温度センサー2を挟んだり、頭蓋骨に穴をあけて、その穴部に温度センサー2を埋め込んだりすることで、骨伝道熱を測定してもよい。つまり、温度センサー2が模擬部位の表面又は内部に分布することで、骨内部への熱伝播を可視化することができる。つまり、骨で吸収された超音波エネルギーが熱に変換された場合に、骨断面に接触している温度センサー2が、骨内部の温度分布を測定することができる。
【0055】
また、図5に示すように、骨標本、頭蓋骨標本、骨、又は頭蓋骨の超音波吸収係数を模擬した模擬部位11の表面に温度センサー2を付けることにより、模擬部位表面(骨表面)の超音波照射による温度上昇又は温度分布を測定することができる。超音波照射により、サーモクロミズム効果を有する温度センサー2に色相変化(階調変化)が生じる。カメラ部7が色相変化を画像化し、コンピュータ6が温度上昇又は温度分布を解析する。
【0056】
頭蓋内の脳組織の温度上昇(温度分布)を模擬する場合は、模擬部位11(頭蓋)内に、模擬血管9(標本血管又は血管を模擬したチューブ)が配置され、模擬血管9に血液又は血液を模擬した流体を流すことで、血管を流れる流体による熱伝播が模擬でき、脳内の温度上昇(温度分布)を模擬できるようになる。
【0057】
なお、温度センサー2として、温度測定精度が高い熱電対も考えられる。但し、熱電対の温接点の物理的大きさが距離分解能の制限となるので、測定対象領域の距離分解能を高くして、実際のシミュレーションに有効な距離分解能で測定結果を得るためには、温度センサー2は、電気抵抗又は色相に基づいて温度を測定する温度センサーであることが好ましい。電気抵抗又は色相に基づいて温度を測定する温度センサーは、薄く加工できるので、模擬部位の表面に張り付けたり、模擬部位の間に挟んだりすることで、模擬部位の表面又は内部に分布することができる。また、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーは、導電シートに設置した導電線の密度を調整することにより、測定に必要とする距離分解能を調整することができる。
【0058】
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第2の実施の形態にかかる超音波診断システムについて、図面を用いて説明する。特に言及しない場合は、他の構成は、第1の実施の形態にかかる超音波診断システムと同様である。
【0059】
第1の実施の形態では、探触子4から照射された超音波による、ファントム1内の温度上昇又は温度分布の測定について説明した。
【0060】
超音波エネルギーの吸収係数は、水が0.0022(dB/cm2)、血液が0.12(dB/cm2)、脂肪が0.63(dB/cm2)、骨が13(dB/cm2)、筋(筋繊維に平行)が1.3(dB/cm2)、筋(筋繊維に垂直)が3.3(dB/cm2)とされている。すなわち、内臓のような軟部組織に調整した照射条件で、頭蓋へ超音波照射を行うと、頭蓋骨で予期しない温度上昇が生じるおそれがある。したがって、実際の生体(人体)で、温度上昇又は温度分布を測定しながら、生体内の温度上昇又は温度分布を調整することは危険である。そこで、第1の実施の形態で説明したように、探触子4から照射された超音波による、ファントム1内の温度上昇又は温度分布のシミュレーションを行い、超音波の照射条件を調整する必要がある。
【0061】
図6及び図7に示すように、超音波診断装置3は、調整部30を含む。調整部30は、ファントム1に照射される超音波の照射条件を調整する。照射条件は、超音波の送信電圧、送信口径、送信波数、送信波長、照射出力、照射時間、照射距離、超音波ビーム幅、超音波ビーム形状、超音波フォーカス形状、重み付け関数などを含む。超音波の照射条件は、超音波による生体の温度上昇又は温度分布に関係する条件である。つまり、調整部30は、ファントム1に照射される超音波による温度上昇又は温度分布が所定の温度になるように、超音波の照射条件を調整する。
【0062】
ここで、所定の温度は、WFUMB(The World Federation for Ultrasound in Medicine and Biology)などの公的機関が設定した生体温度上昇の上限温度又は温度範囲であってもよい。
【0063】
また、超音波による温度上昇を利用して、前立腺がん治療や子宮筋腫治療などに用いられるHITU(High Intensity Therapeutic Ultrasound)などの場合は、所定の温度は、熱治療が効果を発揮でき且つ生体の危険を抑制できる上限温度又は温度範囲であってもよい。
【0064】
また、超音波の音響放射力(Acoustic Radiation Force)を利用して、生体内組織の硬さなどの生体組織特性を超音波で測定する場合は、所定の温度は、超音波により生体組織特性を測定しつつ生体の危険を抑制できる上限温度又は温度範囲であってもよい。
【0065】
また、超音波の吸収による熱作用に関連した指標Thermal Index(TI)が提案されている。TIは、超音波による熱的作用の安全性を評価する指標として広く用いられており、超音波診断装置の多くは、この指標を表示画面に表示している。したがって、所定の温度は、TIが所定の条件となるような上限温度又は温度範囲であってもよい。ここで、TIは、理論的等価(均一)モデルにおいて算出され、音響減衰係数は0.3dB/cm/MHzであり、臨床上妥当な最悪条件と等価になるように設定されているため、血流による熱拡散などは考慮されていない。したがって、生体内の超音波吸収係数や生体部位の変化に応じて、所定の温度が設定されてもよい。例えば、等しい超音波エネルギーを与えても、筋肉、内臓組織、脂肪などの軟組織より、骨がより早く温度上昇を生じる。したがって、頭蓋内の温度上昇を模擬する場合、頭蓋骨による超音波吸収、血液循環による温度拡散、及び頭蓋内組織そのものの温度拡散を考慮する必要があり、これらの条件に基づいて所定の温度が設定されてもよい。
【0066】
調整部30は、ファントム1に照射される超音波の照射条件を、時間や超音波照射部位に基づいて変化させてもよい。図6及び図7に示すように、超音波診断装置3の調整部30は、コンピュータ6とネットワークなどを介して接続されている。コンピュータ6は、温度センサー2により測定された温度上昇情報又は温度分布情報を超音波診断装置3にフィードバックする。調整部30は、フィードバックされた温度上昇情報又は温度分布情報に基づいて、ファントム1に照射される超音波の照射条件を自動調整する。
【0067】
次に、本実施の形態に係る超音波診断システムの動作について、フローチャートを用いて説明する。
【0068】
図8は、本実施の形態の基本的動作の一例を示すフローチャートである。図9は、本実施の形態の温度上昇の一例を示す図である。まず、ファントム1と探触子4の位置合わせを行う(ステップS100)。例えば、図1〜図7に示すように、ファントム1の上面に探触子4が配置されるように、ファントム1と探触子4の位置合わせを行う。超音波診断装置3は、超音波を探触子4からファントム1に照射する(ステップS101)。例えば、図9に示すように、超音波診断装置3は、t0において、超音波を探触子4からファントム1に照射する。
【0069】
温度センサー2は、ファントム1内の所定の温度上昇時間まで待機する(ステップS102)。例えば、図9に示すように、超音波照射によってファントム1内の温度が室温から上昇し、温度測定が可能となる測定可能温度T1に達し、t1に温度平衡状態に達する。温度平衡状態に達する照射時間が経過するまで、温度センサー2は温度測定を待機する。
【0070】
所定の温度上昇時間が経過したら、超音波診断装置3は、探触子4からの超音波照射を停止する(ステップS103)。例えば、図9において、t2にまで温度上昇時間が経過したら、超音波診断装置3は超音波照射を停止し、温度センサー2は温度を測定する。温度センサー2は、電気抵抗又は色相に基づいて、ファントム1内の温度上昇又は温度分布を測定し、温度検知部5は、温度センサー2で測定された温度を検知し、カメラ部7(光学測定部)は、温度センサー2の色相情報を取得する(ステップS104)。コンピュータ6は、温度センサー2により測定された温度上昇情報又は温度分布情報を、データとして超音波診断装置3へ送信する(ステップS105)。
【0071】
超音波診断装置3は、コンピュータ6から送信されたデータに基づいて、ファントム1内の温度上昇が所定の温度以上/以下又は所定の温度範囲内であるか否かを判断する。例えば、超音波診断装置3は、ファントム1内の温度上昇が設定された閾値内であるか否かを判断する(ステップS106)。ファントム1内の温度上昇が閾値外である場合、超音波診断装置3の調整部30は、ファントム1に照射される超音波の照射条件を調整して再設定する(ステップS107)。例えば、温度が閾値(上限温度)に達していなければ、超音波の送信出力を上げるように照射条件を再設定し、温度上昇情報が閾値(上限温度)に達していれば、超音波の送信出力を下げるように照射条件を再設定する。照射条件の調整及び再設定は、超音波診断装置3が自動的に行う。図9に示すように、t2において温度センサー2は温度を測定した際に、予め定められた制約温度の下限閾値T2と上限閾値T3の範囲外である場合、調整部30は照射条件(送信電圧及び送信波数など)を制御して再設定する。
【0072】
超音波診断装置3は、再設定された照射条件で、超音波を探触子4からファントム1に照射する(ステップS101)。例えば、図9に示すように、ファントム1内の温度が測定可能温度T1未満に低下するまで、超音波診断装置3は超音波照射を停止する。超音波診断装置3は、再設定された照射条件で、t3に超音波照射を再開する。
【0073】
一方、ステップS106において、ファントム1内の温度上昇が閾値内である場合、コンピュータ6が、超音波の照射条件をデータベースに格納し、温度上昇又は温度分布の計測結果をデータベースに格納し、超音波照射による温度上昇又は温度分布に関する書類を作成する(ステップS200)。図9に示すように、t5において温度センサー2は温度を測定した際に、予め定められた制約温度の下限閾値T2と上限閾値T3の範囲内である場合、コンピュータ6が温度上昇又は温度分布に関する書類を作成する。
【0074】
本実施の形態によれば、超音波照射による温度上昇を所定の温度に自動調整することが可能となる。これにより、超音波照射による生体を模擬したファントム1内における温度上昇又は温度分布を自動的に制御することができるようになるので、シミュレーションに要する時間が短縮されるとともに、シミュレーションによって生体安全を確保することができる。つまり、温度上昇又は温度分布を自動的に制御することで、ファントム1を用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0075】
以上、本発明にかかる実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において変更又は変形することが可能である。
【0076】
例えば、超音波画像の取得条件(例えば、距離分解能)に応じて、超音波診断装置3は、照射条件を選択して調整してもよい。図10は、距離分解能に応じて、超音波の照射条件を選択して調整することにより照射条件を再設定する一例を示すフローチャートである。図10に示すように、超音波診断装置3は、距離分解能に応じて、超音波の送信電圧及び送信波数の何れかを選択し、照射条件を変更してもよい。超音波診断装置3は、超音波の照射条件を再設定する場合に、距離分解能を優先するか否かを判断する(ステップS108)。距離分解能を優先するか否かは、距離分解能と予め設定された閾値を比較することにより判断されてもよいし、予め優先するか否かが設定されることにより判断されてもよい。
【0077】
距離分解能を優先すると判断された場合は、調整部30は、超音波の送信電圧を調整して、再設定する(ステップS109)。一方、距離分解能を優先しないと判断された場合は、調整部30は、超音波の送信波数を調整して、再設定する(ステップS110)。そして、ファントム1内の温度測定は、測定開始可能温度の時間まで待機する(ステップS111)。
【0078】
例えば、超音波断層像(Bモード像)又はMモード像のように、距離分解能又は方位分解能が超音波画像診断の重要な要素である場合、超音波の照射条件のうち送信電圧を選択して調整することで、温度上昇又は温度分布を制御する。これにより、距離分解能又は方位分解能を維持したまま、温度上昇又は温度分布を制御することができる。また、連続波ドプラモードのように、超音波の送信波数の調整が不可能である診断モードでは、超音波の照射条件のうち送信電圧を選択して調整することで、温度上昇又は温度分布を制御する。
【0079】
一方、パルスドプラモードやカラーフローモードのように、距離分解能又は方位分解能よりは、むしろ超音波の送受信感度が重要な要素である場合は、超音波の照射条件のうち送信波数を選択して調整することで、温度上昇又は温度分布を制御する。この場合、超音波の送信波数を離散的に変更しなければならない場合は、送信波数の調整に加え、送信電圧の調整により、温度上昇又は温度分布を制御する。つまり、超音波の照射条件を組み合わせて調整することで、温度上昇又は温度分布を制御することもできる。組み合わせる照射条件は、送信電圧及び送信波数に限られない。また、組み合わせる照射条件は、3つ以上であってもよい。
【0080】
図11は、超音波の照射条件を組み合わせて調整することにより照射条件を再設定する一例を示すフローチャートである。図11に示すように、調整部30が照射条件を調整して再設定する場合、例えば送信電圧と送信波数とを組み合わせて調整して再設定する(ステップS112)。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明にかかる超音波診断システムは、ファントムを用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができるという効果を有し、特に、超音波ファントムを用いて、生体内温度上昇を模擬(シミュレート)するための超音波診断システムなどとして有用である。
【符号の説明】
【0082】
1 超音波ファントム
2 温度センサー
3 超音波診断装置
4 探触子
5 温度検知部
6 コンピュータ
7 カメラ部
8 温度評価部
9 模擬血管
10 循環ポンプ
11 模擬部位
30 調整部
100 超音波診断システム
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断システムに関し、特に、超音波ファントムを用いて、生体内温度上昇を模擬(シミュレート)するための超音波診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
高出力の超音波が使用される超音波診断装置では、高出力超音波が生体に照射された場合における生体内の温度上昇を把握することが重要である。生体内の温度上昇を把握するために、入手が容易で、安定で、経時変化の小さい材料により生体温度ファントムを1種類のみ作成し、この生体温度ファントムを用いて超音波による温度上昇を測定し、予め既知である生体の熱物性値を用いて、簡単な演算処理を施すことにより生体組織内の温度上昇を予測する生体温度予測方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、超音波照射による生体の温度上昇を、生体模擬して実際に温度測定する手法として、温度センサーを含む検査体(Test Object)が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−320499号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「Ultrasonics - Field characterisation - Test objects for determiningtemperature elevation in diagnostic ultrasound fields」,IEC/TS 62306 ed1.0, 2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ファントムを用いた従来の超音波診断システムでは、再現性にばらつきがあり、生体温度予測方法を基に、生体内の温度上昇を推定することは困難である。また、検査体を用いた従来の超音波診断システムでは、本来、超音波照射方向の水平面の温度分布を計測するため、超音波照射方向の垂直面の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することは困難である。さらに、従来の超音波診断システムでは、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することは困難である。
【0007】
本発明は、従来の問題を解決するためになされたもので、ファントムを用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる超音波診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超音波診断システムは、生体内温度上昇を模擬するファントムと、前記ファントムの内部に分布し、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーとを備える。
【0009】
この構成によれば、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーを備えるので、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0010】
本発明の超音波診断システムは、生体内温度上昇を模擬するファントムと、前記ファントムの内部に分布し、色相に基づいて温度を測定する温度センサーとを備える。
【0011】
この構成によれば、色相に基づいて温度を測定する温度センサーを備えるので、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0012】
本発明の超音波診断システムでは、前記温度センサーは、前記温度の変化によって前記色相が変化するサーモクロミズム効果を有する。
【0013】
この構成によれば、サーモクロミズム効果により色相が変化する温度センサーを備えるので、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0014】
本発明の超音波診断システムは、前記色相を光学的に取得する光学測定部と、前記光学測定部により取得された前記色相に基づいて、前記温度を判定する温度評価部とを備える。
【0015】
この構成によれば、温度センサーの色相情報を光学的に取得することによって、再現性が高く、2次元又は3次元の温度分布を簡便に測定することができる。
【0016】
本発明の超音波診断システムでは、前記温度センサーは、超音波照射方向の垂直面に分布し、前記垂直面の温度を測定する。
【0017】
この構成によれば、温度センサーが垂直面に分布することによって、超音波照射方向の垂直面の2次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0018】
本発明の超音波診断システムでは、前記温度センサーは、複数の前記垂直面に分布する。
【0019】
この構成によれば、温度センサーが複数の垂直面に分布することによって、ファントム内の3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0020】
本発明の超音波診断システムは、前記温度センサーによって測定される前記温度が所定の温度になるように、前記ファントムに照射される超音波の照射条件を調整する調整部を備える。
【0021】
この構成によれば、超音波の照射条件を調整することによって、ファントム内の温度上昇又は温度分布を自動的に制御することができる。
【0022】
本発明の超音波診断システムでは、前記照射条件は、送信電圧、送信口径、送信波数、送信波長、照射出力、照射時間、照射距離、超音波ビーム幅、超音波ビーム形状、超音波フォーカス形状、及び重み付け関数のうちの少なくとも1つである。
【0023】
この構成によれば、送信電圧などの超音波の照射条件を調整することによって、ファントム内の温度上昇又は温度分布を自動的に制御することができる。
【0024】
本発明の超音波診断システムでは、前記ファントムは、生体の部位に相当する模擬部位を含み、前記温度センサーは、前記模擬部位の表面又は内部に分布する。
【0025】
この構成によれば、ファントムが模擬部位を含むことによって、現実に近い状態で、再現性が高く、2次元又は3次元の温度分布を簡便に測定することができる。
【0026】
本発明の温度測定方法は、生体内温度上昇を模擬するファントムの内部で、超音波照射方向の垂直面に分布する温度センサーを用いて、前記垂直面の温度を測定する。
【0027】
この構成によれば、温度センサーが垂直面に分布することによって、超音波照射方向の垂直面の2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明は、電気抵抗又は色相に基づいて温度を測定する温度センサーを設けることにより、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる超音波診断システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】第1の実施の形態の超音波診断システムを示す図である。
【図2】色相を光学的に取得するカメラ部(光学測定部)を備える第1の実施の形態の超音波診断システムを示す図である。
【図3】模擬血管を内包するファントムを示す図である。
【図4】模擬頭蓋骨、頭蓋骨標本、模擬骨、及び骨標本などの模擬部位を内包するファントムを示す図である。
【図5】模擬部位の表面に温度センサーを付けたファントムを示す図である。
【図6】第2の実施の形態の超音波診断システムを示す図である。
【図7】色相を光学的に取得するカメラ部(光学測定部)を備える第2の実施の形態の超音波診断システムを示す図である。
【図8】第2の実施の形態の基本的動作の一例を示すフローチャートである。
【図9】第2の実施の形態の温度上昇の一例を示す図である。
【図10】距離分解能に応じて、超音波の照射条件を選択して調整することにより照射条件を再設定する一例を示すフローチャートである。
【図11】超音波の照射条件を組み合わせて調整することにより照射条件を再設定する一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の実施の形態の超音波診断システムについて、図面を用いて説明する。本発明の第1の実施の形態の超音波診断システムを図1に示す。
【0031】
図1に示すように、超音波診断システム100は、ファントム1、温度センサー2、超音波診断装置3、探触子(超音波探触子)4、温度検知部5、及びコンピュータ6を含む。
【0032】
ファントム1は、生体内温度上昇を模擬するためのものである。ファントム1は、生体での超音波伝播特性を模擬したものであり、ファントム基材の代表的な特性は、例えば、IEC61391−2に示されている。超音波減衰係数が大きいファントム基材を用いれば、超音波エネルギーの熱への変換効率が高くなるので、ファントム1の温度上昇速度が速くなるように設定して模擬することができる。超音波診断の対象となる臓器に合わせて、ファントム基材の物理的特性を変えてもよい。ファントム1の形状は、直方体、円柱形状、及び楕円柱形状が好ましい。
【0033】
温度センサー2は、ファントム1の内部に分布し、電気抵抗に基づいて温度を計測する。例えば、温度センサー2は、ストライプ状導電シートのリード(導電線)における抵抗値又は抵抗値変化により温度を検出する温度センサーであればよい。また、温度センサー2は、検出された温度に関する信号により通電量を制御する制御部を含んでよい。図1に示す温度センサー2は、ストライプ状導電シートを縦横に布線した格子状導電シートである。
【0034】
このような導電シートは、極めて薄い形状であり、折り曲げて使用できるので、超音波放射熱拡散測定の障害にならず、超音波ファントム1の内部に分布して、超音波照射による温度上昇又は温度分布を定量的に測定する温度センサー2として利用される。また、導電シートは、平面状又は曲面状に形成され、2次元温度センサーとして機能する。
【0035】
図1では、ファントム1が直方体である。ファントム1の上面に、探触子4が配置されている。探触子4からの超音波照射による熱上昇を測定する場合は、探触子4の走査面に沿って、温度センサー2が配置される。つまり、温度センサー2は、探触子4の超音波照射方向Dの垂直面に分布し、超音波照射方向Dの垂直面の温度を測定する。また、図1に示すように、温度センサー2は、ファントム1の中央部に分布してもよい。
【0036】
温度センサー2が、探触子4の超音波照射方向Dの垂直面に配置することにより、探触子4のラテラル(lateral)方向の温度上昇分布(2次元分布)を測定することが可能となる。
【0037】
また、温度センサー2は、超音波照射方向Dの複数の垂直面に分布してもよい。例えば、図1に示すように、ラテラル方向の垂直面と直交するエレベーショナル(elevational)方向の垂直面に、温度センサー2が配置され、ラテラル方向とエレベーショナル方向の両方向について、同時に温度上昇又は温度分布を測定してもよい。つまり、図1に示すように、2次元の温度センサー2が互いに直交するように、ファントム1に温度センサー2を埋め込めば、探触子4の超音波走査方向であるラテラル方向の温度上昇(温度分布)とラテラル方向に直交するエレベーショナル方向の温度上昇(温度分布)とを、同時に測定することができる。これにより、同時に複数方向の垂直面について温度を測定することで、測定時間が短縮される。また、温度上昇又は温度分布の3次元分布を測定することができる。また、超音波が照射された部位における温度と超音波が照射されない部位における温度とを比較すれば、超音波照射による温度上昇(温度分布)を計測することができる。
【0038】
また、温度センサー2は、同じ方向の複数の垂直面に分布してもよい。例えば、温度センサー2は、ラテラル方向の複数の垂直面に配置されてもよく、エレベーショナル方向の複数の垂直面に配置されてもよい。この場合、温度測定の距離分解能に応じて、複数の垂直面の間隔を設定すればよい。例えば、温度測定の距離分解能が1mm以下で要求される場合、それぞれの垂直面に分布する温度センサー2の間隔が1mm以下になるように、温度センサー2が垂直面に配置されればよい。
【0039】
超音波診断装置3は、探触子4を通して送受信される超音波信号を生成し制御する。超音波診断装置3は、探触子4が受信した超音波信号に基づいて、被検体の対象組織の超音波画像を生成する。また、超音波診断装置3は、調整部30を含む。調整部30は、ファントム1に照射される超音波の照射条件を調整する。照射条件は、超音波の送信電圧、送信口径、送信波数、送信波長、照射出力、照射時間、照射距離、超音波ビーム幅、超音波ビーム形状、超音波フォーカス形状、及び重み付け関数などを含む。ここで、超音波診断装置3は、複数の超音波受信信号に対する重み付け処理(apodization)を行う。調整部30は、この重み付け処理に用いられる重み付け関数(例えば、窓関数に基づく矩形重みやハニング重みなど)を調整してもよい。
【0040】
探触子4は、振動子から被検体の対象組織に向かって超音波(超音波ビーム)を送受信する。探触子4には、リニア型、コンベックス型、及びセクタ型などがある。探触子4から照射された超音波は、ファントム1の基材特性に従って、超音波エネルギーを吸収する超音波吸収材料(超音波減衰材料)により、熱エネルギーに変換される。この熱エネルギーによって、ファントム1内部の温度が上昇し伝播することで、生体内での熱上昇状況及び熱伝播状況を模擬することができる。ファントム1と探触子4との間に空気が入らないように、超音波ゼリーが塗布されてもよい。
【0041】
温度検知部5は、温度センサー2で測定された温度を検知する。温度センサー2は、温度変化に対して電気抵抗が変化する抵抗体などを含むので、図1に示す温度検知部5は、温度センサー2の抵抗値又は抵抗値変化を検知し、温度センサー2の2次元温度分布を計測する。温度検知部5は、温度センサー2のリード(導電線)に流れる電流を測定することにより、導電線の抵抗値又は抵抗値変化を測定する。温度検知部5は、温度センサー2の複数のリードから2次元温度分布又は3次元温度分布を計測する。ここで、温度センサー2と温度検知部5の間には、導体抵抗の極めて低い導線が用いられることで、温度センサー2以外での電圧低下を抑えた正確な温度計測を実現することができる。
【0042】
コンピュータ6は、温度センサー2の抵抗値又は抵抗値を基に、温度検知部5が検出した2次元温度分布像又は3次元温度分布像(温度マップ)を生成する。また、コンピュータ6は、超音波診断装置3と同期を取って、温度センサー2が温度計測するタイミングを設定/調整するものである。
【0043】
本実施の形態における温度センサー2は抵抗体を含むので、常に電流を流すと、温度センサー2そのものが発熱し、超音波照射によらない温度上昇が発生する可能性がある。したがって、超音波放射による温度上昇又は温度分布を正確に測定するために、超音波の照射時間が所定時間を超えた場合、すなわち、予め実験的に求められた温度平衡状態に達する照射時間が経過した場合に、直ちに温度検知部5が動作し、温度センサー2の抵抗値又は抵抗値変化に基づいて温度を検出し、コンピュータ6が温度マップを生成する。
【0044】
本実施の形態では、超音波照射しながら温度上昇又は温度分布を計測することが可能となるため、超音波照射に伴う温度上昇又は温度分布が、温度マップとして可視化され、時間経過とともに温度マップの変化も観測できる。すなわち、本実施の形態では、ファントム1を用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。また、コンピュータ6が、温度分布の計測結果をデータベースに格納し、温度分布の計測結果をグラフ化することもできる。また、電気抵抗に基づいた電気的測定手法により温度分布を計測することで、温度分布を精密に観測することができる。
【0045】
以上、本発明にかかる実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において変更又は変形することが可能である。
【0046】
例えば、温度センサー2は、色相に基づいて温度を測定する温度センサーであってもよい。この場合、図2に示すように、超音波診断システム100は、色相を光学的に取得するカメラ部7(光学測定部に相当する)を備える。また、コンピュータ6は、カメラ部7により取得された色相に基づいて、温度を判定する温度評価部8を備える。
【0047】
温度センサー2は、温度の変化によって色相が変化するサーモクロミズム効果を有してもよい。サーモクロミズム効果は、フォトクロミズム効果としても知られており、熱又は光によって分光特性が変わる効果である。サーモクロミズム効果を実現するには、液晶やロイコ染料を用いればよい。サーモクロミズム効果を有する温度センサー2としては、高分子化合物材料であるポリマーやカーボン系複合体のプラスチックサーミスタがある。また、温度センサー2としては、高分子化合物焦電素子を用いた赤外線センサーがある。さらに、温度センサー2としては、熱エネルギーにより分光特性(反射スペクトル及び透過スペクトル)に変化を起こすサーモクロミック高分子組成物及びそれを基材としたサーモクロミック高分子成形体がある。サーモクロミズム効果を有する温度センサー2は、温度上昇又は温度分布を色相(色の濃淡変化又は階調変化)で示す。これらの温度センサーによれば、比較的高い温度精度(0.1〜0.5℃程度)で、温度上昇又は温度分布を測定することができる。
【0048】
図2に示すように、サーモクロミズム効果を有する温度センサー2が、探触子4の走査面に沿って配置されてもよい。つまり、温度センサー2は、探触子4の超音波照射方向Dの垂直面に分布し、超音波照射方向Dの垂直面の温度を測定する。また、図2に示すように、温度センサー2は、ファントム1の中央部に分布してもよい。また、図2に示すように、温度センサー2は、超音波照射方向Dの複数の垂直面に分布してもよい。
【0049】
上記と同様、温度センサー2が、探触子4の超音波照射方向Dの垂直面に配置することにより、探触子4のラテラル方向及びエレベーショナル方向の温度上昇分布(3次元分布)を測定することが可能となる。特に、2次元の温度センサー2が互いに直交するように、温度センサー2がファントム1内に配置されれば、3次元の温度上昇又は温度分布の把握が容易となる。
【0050】
カメラ部7(ビデオカメラを含む)は、実験的に求められた温度平衡状態に達する照射時間が経過した場合に、温度センサー2の色相情報を取得する。また、カメラ部7(光学測定部)は、温度上昇又は温度分布をリアルタイムに観察するために、リアルタイムに温度センサー2の色相情報を取得する。
【0051】
温度評価部8は、カメラ部7(光学測定部)により光学的に取得された色相情報を解析する。例えば、温度評価部8は、色相と温度の関係を示すテーブル情報に基づき、取得された色彩情報から温度を測定する。また、超音波が照射された部位における温度と超音波が照射されない部位における温度とを比較すれば、超音波照射による温度上昇(温度分布)を測定することができる。また、超音波照射をしながら、ファントム1内の超音波照射部位の温度上昇を測定する場合は、カメラ部7(光学測定部)としてビデオカメラを用い、温度評価部8がリアルタイムに温度上昇又は温度分布を測定し、超音波照射に伴う温度上昇又は温度分布の時間経過をグラフ化して、温度上昇又は温度分布を温度マップとして可視化する。すなわち、本実施の形態では、ファントム1を用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。また、コンピュータ6が、温度分布の計測結果をデータベースに格納し、温度分布の計測結果をリアルタイムにグラフ化することもできる。また、ファントム1内の温度センサー2に現れた色相情報に基づいて、超音波照射による温度上昇又は温度分布を可視化することができる。さらに、カメラ部7(光学測定部)により取得された色相情報を用いれば、サーモクロミズム効果を有する温度センサーを温度センサー2として用いることができ、ファントム1内の温度上昇又は温度分布を定量評価することが可能となる。
【0052】
また、図3〜図5に示すように、ファントム1は、生体の部位に相当する模擬部位を含み、温度センサー2は、模擬部位の表面又は内部に分布してもよい。血液による熱拡散を模擬する場合は、ファントム1に模擬血管又は血管標本など(模擬部位に相当する)を埋め込んでもよい。模擬血管(模擬部位)の中に、模擬血液又は血液そのものを流せば、超音波照射による熱がどのように血流によって拡散するかを模擬することができ、ファントム1を用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0053】
図3に示すように、ファントム1内に、模擬血管9(標本血管又は血管を模擬したチューブ)を内包し、循環ポンプ10が模擬血管9内に血液もしくは血液を模擬した流体を流す。これにより、血流による熱拡散を模擬した生体内の温度上昇(温度分布)を計測することができる。また、模擬血管9(模擬部位)に温度センサー2が巻きつけられ、温度センサー2が模擬血管9(模擬部位)に配置されてもよい。つまり、温度センサー2が模擬部位の表面又は内部に分布することで、模擬血管9(模擬部位)の温度上昇又は温度分布を測定するとともに、生体周辺組織の温度上昇又は温度分布を模擬することができる。また、ファントム1に模擬血管9を配置することで、血管閉塞を目的とした超音波照射のシミュレーションを行うことができ、血管閉塞を目的とした超音波エネルギーの調整や設定を検討でき、超音波照射による周辺組織ダメージを検討することができる。なお、温度センサー2は、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーであってもよいし、色相に基づいて温度を測定する温度センサーであってもよい。
【0054】
また、図4に示すように、頭蓋骨又は骨での温度上昇を模擬する場合、ファントム1は、模擬頭蓋骨、頭蓋骨標本、模擬骨、及び骨標本などの模擬部位11を含んでもよい。図4に示すように、頭蓋骨(標本)を分割して、その断面間に温度センサー2を挟んだり、頭蓋骨に穴をあけて、その穴部に温度センサー2を埋め込んだりすることで、骨伝道熱を測定してもよい。つまり、温度センサー2が模擬部位の表面又は内部に分布することで、骨内部への熱伝播を可視化することができる。つまり、骨で吸収された超音波エネルギーが熱に変換された場合に、骨断面に接触している温度センサー2が、骨内部の温度分布を測定することができる。
【0055】
また、図5に示すように、骨標本、頭蓋骨標本、骨、又は頭蓋骨の超音波吸収係数を模擬した模擬部位11の表面に温度センサー2を付けることにより、模擬部位表面(骨表面)の超音波照射による温度上昇又は温度分布を測定することができる。超音波照射により、サーモクロミズム効果を有する温度センサー2に色相変化(階調変化)が生じる。カメラ部7が色相変化を画像化し、コンピュータ6が温度上昇又は温度分布を解析する。
【0056】
頭蓋内の脳組織の温度上昇(温度分布)を模擬する場合は、模擬部位11(頭蓋)内に、模擬血管9(標本血管又は血管を模擬したチューブ)が配置され、模擬血管9に血液又は血液を模擬した流体を流すことで、血管を流れる流体による熱伝播が模擬でき、脳内の温度上昇(温度分布)を模擬できるようになる。
【0057】
なお、温度センサー2として、温度測定精度が高い熱電対も考えられる。但し、熱電対の温接点の物理的大きさが距離分解能の制限となるので、測定対象領域の距離分解能を高くして、実際のシミュレーションに有効な距離分解能で測定結果を得るためには、温度センサー2は、電気抵抗又は色相に基づいて温度を測定する温度センサーであることが好ましい。電気抵抗又は色相に基づいて温度を測定する温度センサーは、薄く加工できるので、模擬部位の表面に張り付けたり、模擬部位の間に挟んだりすることで、模擬部位の表面又は内部に分布することができる。また、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーは、導電シートに設置した導電線の密度を調整することにより、測定に必要とする距離分解能を調整することができる。
【0058】
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第2の実施の形態にかかる超音波診断システムについて、図面を用いて説明する。特に言及しない場合は、他の構成は、第1の実施の形態にかかる超音波診断システムと同様である。
【0059】
第1の実施の形態では、探触子4から照射された超音波による、ファントム1内の温度上昇又は温度分布の測定について説明した。
【0060】
超音波エネルギーの吸収係数は、水が0.0022(dB/cm2)、血液が0.12(dB/cm2)、脂肪が0.63(dB/cm2)、骨が13(dB/cm2)、筋(筋繊維に平行)が1.3(dB/cm2)、筋(筋繊維に垂直)が3.3(dB/cm2)とされている。すなわち、内臓のような軟部組織に調整した照射条件で、頭蓋へ超音波照射を行うと、頭蓋骨で予期しない温度上昇が生じるおそれがある。したがって、実際の生体(人体)で、温度上昇又は温度分布を測定しながら、生体内の温度上昇又は温度分布を調整することは危険である。そこで、第1の実施の形態で説明したように、探触子4から照射された超音波による、ファントム1内の温度上昇又は温度分布のシミュレーションを行い、超音波の照射条件を調整する必要がある。
【0061】
図6及び図7に示すように、超音波診断装置3は、調整部30を含む。調整部30は、ファントム1に照射される超音波の照射条件を調整する。照射条件は、超音波の送信電圧、送信口径、送信波数、送信波長、照射出力、照射時間、照射距離、超音波ビーム幅、超音波ビーム形状、超音波フォーカス形状、重み付け関数などを含む。超音波の照射条件は、超音波による生体の温度上昇又は温度分布に関係する条件である。つまり、調整部30は、ファントム1に照射される超音波による温度上昇又は温度分布が所定の温度になるように、超音波の照射条件を調整する。
【0062】
ここで、所定の温度は、WFUMB(The World Federation for Ultrasound in Medicine and Biology)などの公的機関が設定した生体温度上昇の上限温度又は温度範囲であってもよい。
【0063】
また、超音波による温度上昇を利用して、前立腺がん治療や子宮筋腫治療などに用いられるHITU(High Intensity Therapeutic Ultrasound)などの場合は、所定の温度は、熱治療が効果を発揮でき且つ生体の危険を抑制できる上限温度又は温度範囲であってもよい。
【0064】
また、超音波の音響放射力(Acoustic Radiation Force)を利用して、生体内組織の硬さなどの生体組織特性を超音波で測定する場合は、所定の温度は、超音波により生体組織特性を測定しつつ生体の危険を抑制できる上限温度又は温度範囲であってもよい。
【0065】
また、超音波の吸収による熱作用に関連した指標Thermal Index(TI)が提案されている。TIは、超音波による熱的作用の安全性を評価する指標として広く用いられており、超音波診断装置の多くは、この指標を表示画面に表示している。したがって、所定の温度は、TIが所定の条件となるような上限温度又は温度範囲であってもよい。ここで、TIは、理論的等価(均一)モデルにおいて算出され、音響減衰係数は0.3dB/cm/MHzであり、臨床上妥当な最悪条件と等価になるように設定されているため、血流による熱拡散などは考慮されていない。したがって、生体内の超音波吸収係数や生体部位の変化に応じて、所定の温度が設定されてもよい。例えば、等しい超音波エネルギーを与えても、筋肉、内臓組織、脂肪などの軟組織より、骨がより早く温度上昇を生じる。したがって、頭蓋内の温度上昇を模擬する場合、頭蓋骨による超音波吸収、血液循環による温度拡散、及び頭蓋内組織そのものの温度拡散を考慮する必要があり、これらの条件に基づいて所定の温度が設定されてもよい。
【0066】
調整部30は、ファントム1に照射される超音波の照射条件を、時間や超音波照射部位に基づいて変化させてもよい。図6及び図7に示すように、超音波診断装置3の調整部30は、コンピュータ6とネットワークなどを介して接続されている。コンピュータ6は、温度センサー2により測定された温度上昇情報又は温度分布情報を超音波診断装置3にフィードバックする。調整部30は、フィードバックされた温度上昇情報又は温度分布情報に基づいて、ファントム1に照射される超音波の照射条件を自動調整する。
【0067】
次に、本実施の形態に係る超音波診断システムの動作について、フローチャートを用いて説明する。
【0068】
図8は、本実施の形態の基本的動作の一例を示すフローチャートである。図9は、本実施の形態の温度上昇の一例を示す図である。まず、ファントム1と探触子4の位置合わせを行う(ステップS100)。例えば、図1〜図7に示すように、ファントム1の上面に探触子4が配置されるように、ファントム1と探触子4の位置合わせを行う。超音波診断装置3は、超音波を探触子4からファントム1に照射する(ステップS101)。例えば、図9に示すように、超音波診断装置3は、t0において、超音波を探触子4からファントム1に照射する。
【0069】
温度センサー2は、ファントム1内の所定の温度上昇時間まで待機する(ステップS102)。例えば、図9に示すように、超音波照射によってファントム1内の温度が室温から上昇し、温度測定が可能となる測定可能温度T1に達し、t1に温度平衡状態に達する。温度平衡状態に達する照射時間が経過するまで、温度センサー2は温度測定を待機する。
【0070】
所定の温度上昇時間が経過したら、超音波診断装置3は、探触子4からの超音波照射を停止する(ステップS103)。例えば、図9において、t2にまで温度上昇時間が経過したら、超音波診断装置3は超音波照射を停止し、温度センサー2は温度を測定する。温度センサー2は、電気抵抗又は色相に基づいて、ファントム1内の温度上昇又は温度分布を測定し、温度検知部5は、温度センサー2で測定された温度を検知し、カメラ部7(光学測定部)は、温度センサー2の色相情報を取得する(ステップS104)。コンピュータ6は、温度センサー2により測定された温度上昇情報又は温度分布情報を、データとして超音波診断装置3へ送信する(ステップS105)。
【0071】
超音波診断装置3は、コンピュータ6から送信されたデータに基づいて、ファントム1内の温度上昇が所定の温度以上/以下又は所定の温度範囲内であるか否かを判断する。例えば、超音波診断装置3は、ファントム1内の温度上昇が設定された閾値内であるか否かを判断する(ステップS106)。ファントム1内の温度上昇が閾値外である場合、超音波診断装置3の調整部30は、ファントム1に照射される超音波の照射条件を調整して再設定する(ステップS107)。例えば、温度が閾値(上限温度)に達していなければ、超音波の送信出力を上げるように照射条件を再設定し、温度上昇情報が閾値(上限温度)に達していれば、超音波の送信出力を下げるように照射条件を再設定する。照射条件の調整及び再設定は、超音波診断装置3が自動的に行う。図9に示すように、t2において温度センサー2は温度を測定した際に、予め定められた制約温度の下限閾値T2と上限閾値T3の範囲外である場合、調整部30は照射条件(送信電圧及び送信波数など)を制御して再設定する。
【0072】
超音波診断装置3は、再設定された照射条件で、超音波を探触子4からファントム1に照射する(ステップS101)。例えば、図9に示すように、ファントム1内の温度が測定可能温度T1未満に低下するまで、超音波診断装置3は超音波照射を停止する。超音波診断装置3は、再設定された照射条件で、t3に超音波照射を再開する。
【0073】
一方、ステップS106において、ファントム1内の温度上昇が閾値内である場合、コンピュータ6が、超音波の照射条件をデータベースに格納し、温度上昇又は温度分布の計測結果をデータベースに格納し、超音波照射による温度上昇又は温度分布に関する書類を作成する(ステップS200)。図9に示すように、t5において温度センサー2は温度を測定した際に、予め定められた制約温度の下限閾値T2と上限閾値T3の範囲内である場合、コンピュータ6が温度上昇又は温度分布に関する書類を作成する。
【0074】
本実施の形態によれば、超音波照射による温度上昇を所定の温度に自動調整することが可能となる。これにより、超音波照射による生体を模擬したファントム1内における温度上昇又は温度分布を自動的に制御することができるようになるので、シミュレーションに要する時間が短縮されるとともに、シミュレーションによって生体安全を確保することができる。つまり、温度上昇又は温度分布を自動的に制御することで、ファントム1を用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができる。
【0075】
以上、本発明にかかる実施の形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において変更又は変形することが可能である。
【0076】
例えば、超音波画像の取得条件(例えば、距離分解能)に応じて、超音波診断装置3は、照射条件を選択して調整してもよい。図10は、距離分解能に応じて、超音波の照射条件を選択して調整することにより照射条件を再設定する一例を示すフローチャートである。図10に示すように、超音波診断装置3は、距離分解能に応じて、超音波の送信電圧及び送信波数の何れかを選択し、照射条件を変更してもよい。超音波診断装置3は、超音波の照射条件を再設定する場合に、距離分解能を優先するか否かを判断する(ステップS108)。距離分解能を優先するか否かは、距離分解能と予め設定された閾値を比較することにより判断されてもよいし、予め優先するか否かが設定されることにより判断されてもよい。
【0077】
距離分解能を優先すると判断された場合は、調整部30は、超音波の送信電圧を調整して、再設定する(ステップS109)。一方、距離分解能を優先しないと判断された場合は、調整部30は、超音波の送信波数を調整して、再設定する(ステップS110)。そして、ファントム1内の温度測定は、測定開始可能温度の時間まで待機する(ステップS111)。
【0078】
例えば、超音波断層像(Bモード像)又はMモード像のように、距離分解能又は方位分解能が超音波画像診断の重要な要素である場合、超音波の照射条件のうち送信電圧を選択して調整することで、温度上昇又は温度分布を制御する。これにより、距離分解能又は方位分解能を維持したまま、温度上昇又は温度分布を制御することができる。また、連続波ドプラモードのように、超音波の送信波数の調整が不可能である診断モードでは、超音波の照射条件のうち送信電圧を選択して調整することで、温度上昇又は温度分布を制御する。
【0079】
一方、パルスドプラモードやカラーフローモードのように、距離分解能又は方位分解能よりは、むしろ超音波の送受信感度が重要な要素である場合は、超音波の照射条件のうち送信波数を選択して調整することで、温度上昇又は温度分布を制御する。この場合、超音波の送信波数を離散的に変更しなければならない場合は、送信波数の調整に加え、送信電圧の調整により、温度上昇又は温度分布を制御する。つまり、超音波の照射条件を組み合わせて調整することで、温度上昇又は温度分布を制御することもできる。組み合わせる照射条件は、送信電圧及び送信波数に限られない。また、組み合わせる照射条件は、3つ以上であってもよい。
【0080】
図11は、超音波の照射条件を組み合わせて調整することにより照射条件を再設定する一例を示すフローチャートである。図11に示すように、調整部30が照射条件を調整して再設定する場合、例えば送信電圧と送信波数とを組み合わせて調整して再設定する(ステップS112)。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明にかかる超音波診断システムは、ファントムを用いて、再現性が高く、2次元又は3次元の温度上昇又は温度分布を簡便に測定することができるという効果を有し、特に、超音波ファントムを用いて、生体内温度上昇を模擬(シミュレート)するための超音波診断システムなどとして有用である。
【符号の説明】
【0082】
1 超音波ファントム
2 温度センサー
3 超音波診断装置
4 探触子
5 温度検知部
6 コンピュータ
7 カメラ部
8 温度評価部
9 模擬血管
10 循環ポンプ
11 模擬部位
30 調整部
100 超音波診断システム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファントムと、
前記ファントムの内部に分布し、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーと
を備えることを特徴とする超音波診断システム。
【請求項2】
ファントムと、
前記ファントムの内部に分布し、色相に基づいて温度を測定する温度センサーと
を備えることを特徴とする超音波診断システム。
【請求項3】
前記温度センサーは、前記温度の変化によって前記色相が変化するサーモクロミズム効果を有することを特徴とする請求項2に記載の超音波診断システム。
【請求項4】
前記色相を光学的に取得する光学測定部と、
前記光学測定部により取得された前記色相に基づいて、前記温度を判定する温度評価部と
を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波診断システム。
【請求項5】
前記温度センサーは、超音波照射方向の垂直面に分布し、前記垂直面の温度を測定することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の超音波診断システム。
【請求項6】
前記温度センサーは、複数の前記垂直面に分布することを特徴とする請求項5に記載の超音波診断システム。
【請求項7】
前記温度センサーによって測定される前記温度が所定の温度になるように、前記ファントムに照射される超音波の照射条件を調整する調整部を備えることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の超音波診断システム。
【請求項8】
前記照射条件は、送信電圧、送信口径、送信波数、送信波長、照射出力、照射時間、照射距離、超音波ビーム幅、超音波ビーム形状、超音波フォーカス形状、及び重み付け関数のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項7に記載の超音波診断システム。
【請求項9】
前記ファントムは、生体の部位に相当する模擬部位を含み、
前記温度センサーは、前記模擬部位の表面又は内部に分布することを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の超音波診断システム。
【請求項10】
ファントムの内部で、超音波照射方向の垂直面に分布する温度センサーを用いて、前記垂直面の温度を測定することを特徴とする温度測定方法。
【請求項1】
ファントムと、
前記ファントムの内部に分布し、電気抵抗に基づいて温度を測定する温度センサーと
を備えることを特徴とする超音波診断システム。
【請求項2】
ファントムと、
前記ファントムの内部に分布し、色相に基づいて温度を測定する温度センサーと
を備えることを特徴とする超音波診断システム。
【請求項3】
前記温度センサーは、前記温度の変化によって前記色相が変化するサーモクロミズム効果を有することを特徴とする請求項2に記載の超音波診断システム。
【請求項4】
前記色相を光学的に取得する光学測定部と、
前記光学測定部により取得された前記色相に基づいて、前記温度を判定する温度評価部と
を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の超音波診断システム。
【請求項5】
前記温度センサーは、超音波照射方向の垂直面に分布し、前記垂直面の温度を測定することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の超音波診断システム。
【請求項6】
前記温度センサーは、複数の前記垂直面に分布することを特徴とする請求項5に記載の超音波診断システム。
【請求項7】
前記温度センサーによって測定される前記温度が所定の温度になるように、前記ファントムに照射される超音波の照射条件を調整する調整部を備えることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の超音波診断システム。
【請求項8】
前記照射条件は、送信電圧、送信口径、送信波数、送信波長、照射出力、照射時間、照射距離、超音波ビーム幅、超音波ビーム形状、超音波フォーカス形状、及び重み付け関数のうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項7に記載の超音波診断システム。
【請求項9】
前記ファントムは、生体の部位に相当する模擬部位を含み、
前記温度センサーは、前記模擬部位の表面又は内部に分布することを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の超音波診断システム。
【請求項10】
ファントムの内部で、超音波照射方向の垂直面に分布する温度センサーを用いて、前記垂直面の温度を測定することを特徴とする温度測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−85898(P2013−85898A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232143(P2011−232143)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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