説明

超音波診断装置および超音波画像生成方法

【課題】コンベックス型超音波プローブを用いながらも腹壁から受ける超音波ビームの屈折の影響を低減してBモード画像の生成と正確な音速マップの生成を行うことができる超音波診断装置を提供する。
【解決手段】Bモード画像上で検出された被検体の腹壁の形状が振動子アレイの曲率にほぼ対応している場合は(S4)、関心領域ROIに対し振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させて関心領域ROI内の音速マップを生成し(S5)、腹壁の形状がほぼ直線状である場合は(S8)、関心領域ROIに対し振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをリニア走査させつつ送受信させて関心領域ROI内の音速マップを生成し(S9)、さらに撮影領域の全体に対し振動子アレイからBモード画像用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させてBモード画像を生成して(S6)、Bモード画像と音速マップ画像が表示される(S10)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波診断装置および超音波画像生成方法に係り、特に、超音波プローブの振動子アレイから超音波を送受信することによりBモード画像の生成と関心領域内の音速マップの生成の双方を行う超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療分野において、超音波画像を利用した超音波診断装置が実用化されている。一般に、この種の超音波診断装置は、振動子アレイを内蔵した超音波プローブと、この超音波プローブに接続された装置本体とを有しており、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送信し、被検体からの超音波エコーを超音波プローブで受信して、その受信信号を装置本体で電気的に処理することにより超音波画像が生成される。
【0003】
また、近年、被検体内の診断部位をより精度よく診断するために、診断部位における音速を測定することが行われている。
例えば、特許文献1には、診断部位の周辺に複数の格子点を設定し、各格子点に対して超音波ビームを送受信することにより得られる受信データに基づいて、局所音速値の演算を行う超音波診断装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−99452号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の装置では、超音波プローブから被検体内に向けて超音波ビームを送受信することで、診断部位における局所音速値を求めることができ、例えばBモード画像に局所音速値の情報を重畳させて表示することが可能となる。さらに、所定の領域内の各点における局所音速値の分布を示す音速マップを生成してBモード画像と共に表示すれば、診断部位の診断を行う上で有効なものとなる。
【0006】
また、超音波プローブとしては、コンベックス型、セクタ型、リニア型等の各種走査方式のプローブが知られているが、例えばスクリーニング診察等においては、容易に広角範囲の観察領域を得ることができるコンベックス型超音波プローブが多く用いられている。このコンベックス型超音波プローブでは、振動子アレイを構成する複数の超音波トランスデューサが扇状に配列されており、コンベックス走査を行うことで振動子アレイから複数の超音波ビームが放射状に送信される。
【0007】
しかしながら、被検体内部の臓器等を覆っている腹壁付近は、脂肪の存在等に起因して他の箇所とは異なる音速を有しているため、診断部位における局所音速値を求めようとして、コンベックス型超音波プローブの振動子アレイから複数の超音波ビームを放射状に送信すると、各超音波ビームが腹壁を透過する際に、腹壁から受ける屈折の影響が大きくなり、正確な音速マップを生成することができなくなるおそれがある。
さらに、複数の超音波ビームが放射状に送信されることで、測定深度が大きくなるほど、測定の精度が低下するという問題も生じてしまう。
【0008】
この発明は、このような従来の問題点を解消するためになされたもので、コンベックス型超音波プローブを用いながらも腹壁から受ける超音波ビームの屈折の影響を低減してBモード画像の生成と正確な音速マップの生成を行うことができる超音波診断装置および超音波画像生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係る超音波診断装置は、送信回路から供給された駆動信号に基づいてコンベックス型超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいて画像生成部でBモード画像を生成する超音波診断装置であって、画像生成部で生成されたBモード画像上で被検体の腹壁を検出する腹壁検出部と、腹壁検出部で検出された腹壁の形状が振動子アレイの曲率にほぼ対応している場合は振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように送信回路および受信回路を制御し、腹壁検出部で検出された腹壁の形状がほぼ直線状である場合には振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをリニア走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように送信回路および受信回路を制御する制御部と、取得された音速マップ用受信データに基づいて音速マップを生成する音速マップ生成部とを備えたものである。
【0010】
画像生成部で生成されたBモード画像上で関心領域を設定するための関心領域設定部をさらに備え、腹壁検出部が、関心領域設定部により設定された関心領域の上方に位置する被検体の腹壁を検出するように構成することが好ましい。
また、制御部は、腹壁検出部で検出された腹壁の形状が振動子アレイの曲率に対応せず且つほぼ直線状でもない場合には、音速マップ用超音波ビームの送受信を行わないように送信回路および受信回路を制御することができる。
さらに、制御部は、腹壁検出部で検出された腹壁の形状が振動子アレイの曲率とほぼ直線状の中間の曲率を有する場合には、腹壁の曲率に応じた遅延量を演算し、演算された遅延量で振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように送信回路および受信回路を制御することもできる。
【0011】
この発明に係る超音波画像生成方法は、送信回路から供給された駆動信号に基づいてコンベックス型超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波画像生成方法であって、Bモード画像上で被検体の腹壁を検出し、検出された腹壁の形状が振動子アレイの曲率にほぼ対応している場合は振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように送信回路および受信回路を制御し、腹壁検出部で検出された腹壁の形状がほぼ直線状である場合には振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをリニア走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように送信回路および受信回路を制御し、取得された音速マップ用受信データに基づいて音速マップを生成する方法である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、被検体の腹壁を検出し、腹壁の形状に応じて振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査あるいはリニア走査させつつ送受信させるので、コンベックス型超音波プローブを用いながらも腹壁から受ける超音波ビームの屈折の影響を低減してBモード画像の生成と正確な音速マップの生成を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明の実施の形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】Bモード画像を模式的に示す図である。
【図3】実施の形態における音速演算の原理を模式的に示す図である。
【図4】実施の形態の動作を示すフローチャートである。
【図5】コンベックス走査された音速マップ用超音波ビームを示す図である。
【図6】リニア走査された音速マップ用超音波ビームを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1に、この発明の実施の形態に係る超音波診断装置の構成を示す。超音波診断装置は、超音波プローブ1と、この超音波プローブ1に接続された診断装置本体2とを備えている。
超音波プローブ1は、いわゆるコンベックス型のプローブであり、振動子アレイ3に送信回路4と受信回路5が接続され、送信回路4および受信回路5にプローブ制御部6が接続されている。
【0015】
診断装置本体2は、超音波プローブ1の受信回路5に接続された信号処理部11を有し、この信号処理部11にDSC(Digital Scan Converter)12、画像処理部13、表示制御部14および表示部15が順次接続されている。画像処理部13には、画像メモリ16が接続されると共に腹壁検出部17が接続されている。さらに、診断装置本体2は、超音波プローブ1の受信回路5に接続されたシネメモリ18と音速マップ生成部19を有している。そして、信号処理部11、DSC12、表示制御部14、腹壁検出部17、シネメモリ18および音速マップ生成部19に本体制御部20が接続されている。さらに、本体制御部20には、操作部21と格納部22がそれぞれ接続されている。
また、超音波プローブ1のプローブ制御部6と診断装置本体2の本体制御部20が互いに接続されている。
【0016】
超音波プローブ1の振動子アレイ3は、扇状に配列された複数の超音波トランスデューサを有しており、外部に向かって凸形状となるように所定の曲率で湾曲形成されている。振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサは、それぞれ送信回路4から供給される駆動信号に従って超音波を送信すると共に被検体からの超音波エコーを受信して受信信号を出力する。各超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)に代表される高分子圧電素子、PMN−PT(マグネシウムニオブ酸・チタン酸鉛固溶体)に代表される圧電単結晶等からなる圧電体の両端に電極を形成した振動子によって構成される。
【0017】
そのような振動子の電極に、パルス状又は連続波の電圧を印加すると、圧電体が伸縮し、それぞれの振動子からパルス状又は連続波の超音波が発生して、それらの超音波の合成により超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することにより伸縮して電気信号を発生し、それらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0018】
送信回路4は、例えば、複数のパルサを含んでおり、プローブ制御部6からの制御信号に応じて選択された送信遅延パターンに基づいて、振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサから送信される超音波が超音波ビームを形成するようにそれぞれの駆動信号の遅延量を調節して複数の超音波トランスデューサに供給する。
【0019】
受信回路5は、振動子アレイ3の各超音波トランスデューサから送信される受信信号を増幅してA/D変換した後、プローブ制御部6からの制御信号に応じて選択された受信遅延パターンに基づいて設定される音速または音速の分布に従い、各受信信号にそれぞれの遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれた受信データ(音線信号)が生成される。
プローブ制御部6は、診断装置本体2の本体制御部20から伝送される各種の制御信号に基づいて、超音波プローブ1の各部の制御を行う。
【0020】
診断装置本体2の信号処理部11は、超音波プローブ1の受信回路6で生成された受信データに対し、超音波の反射位置の深度に応じて距離による減衰の補正を施した後、包絡線検波処理を施すことにより、被検体内の組織に関する断層画像情報であるBモード画像信号を生成する。
DSC12は、信号処理部11で生成されたBモード画像信号を通常のテレビジョン信号の走査方式に従う画像信号に変換(ラスター変換)する。
画像処理部13は、DSC12から入力されるBモード画像信号に階調処理等の各種の必要な画像処理を施した後、Bモード画像信号を表示制御部14に出力する、あるいは画像メモリ16に格納する。
これら信号処理部11、DSC12、画像処理部13および画像メモリ16により画像生成部23が形成されている。
【0021】
表示制御部14は、画像処理部13によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、表示部15に超音波診断画像を表示させる。
表示部15は、例えば、LCD等のディスプレイ装置を含んでおり、表示制御部14の制御の下で、超音波診断画像を表示する。
【0022】
腹壁検出部17は、画像処理部13によって画像処理が施されたBモード画像信号に基づいて、図2に示されるように、Bモード画像内に設定された関心領域ROIの上方に位置する被検体の腹壁Pを検出する。
シネメモリ18は、超音波プローブ1の受信回路5から出力される受信データを順次格納する。また、シネメモリ18は、本体制御部20から入力されるフレームレートに関する情報(例えば、超音波の反射位置の深度、走査線の密度、視野幅を示すパラメータ)を上記の受信データに関連付けて格納する。
音速マップ生成部19は、本体制御部20による制御の下で、シネメモリ18に格納されている受信データに基づいて、診断対象となる被検体内の組織における局所音速値を演算し、音速マップを生成する。
本体制御部20は、操作者により操作部21から入力された指令に基づいて超音波診断装置各部の制御を行う。
【0023】
操作部21は、操作者が入力操作を行うためのもので、この発明の関心領域設定部を構成し、キーボード、マウス、トラックボール、タッチパネル等から形成することができる。
格納部22は、動作プログラム等を格納するもので、ハードディスク、フレキシブルディスク、MO、MT、RAM、CD−ROM、DVD−ROM等の記録媒体を用いることができる。
なお、信号処理部11、DSC12、画像処理部13、表示制御部14および音速マップ生成部19は、CPUと、CPUに各種の処理を行わせるための動作プログラムから構成されるが、それらをデジタル回路で構成してもよい。
【0024】
操作者は操作部21から次の3つの表示モードのいずれかを選択することができる。すなわち、Bモード画像を単独で表示するモード、Bモード画像に音速マップを重畳して表示するモード(例えば、局所音速値に応じて色分けまたは輝度を変化させる表示、あるいは局所音速値が等しい点を線で結ぶ表示)、Bモード画像と音速マップ画像とを並べて表示するモードのうち、所望のモードによる表示を行うことができる。
【0025】
Bモード画像を表示する際には、まず、超音波プローブ1の送信回路4から供給される駆動信号に従って振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサから超音波が送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路5に出力され、受信回路5で受信データが生成される。さらに、この受信データを入力した診断装置本体2の信号処理部11でBモード画像信号が生成され、DSC12でBモード画像信号がラスター変換されると共に画像処理部13でBモード画像信号に各種の画像処理が施された後、このBモード画像信号に基づいて表示制御部14により超音波診断画像が表示部15に表示される。
【0026】
一方、局所音速値の演算は、例えば本願の出願人により出願された特開2010−99452号公報に記載の方法により行うことができる。
この方法は、図3(A)に示されるように、被検体内に超音波を送信した際に、被検体の反射点となる格子点Xから振動子アレイ1に到達する受信波Wxに着目したとき、図3(B)に示されるように、格子点Xよりも浅い位置、すなわち振動子アレイ1に近い位置に複数の格子点A1、A2、・・・を等間隔に配列し、格子点Xからの受信波を受けた複数の格子点A1、A2、・・・からのそれぞれの受信波W1、W2、・・・の合成波Wsumが、ホイヘンスの原理により、格子点Xからの受信波Wxに一致することを利用して、格子点Xにおける局所音速値を求める方法である。
【0027】
まず、すべての格子点X、A1、A2、・・・に対する最適音速値をそれぞれ求める。ここで、最適音速値とは、各格子点に対し、設定音速に基づきフォーカス計算をして撮影を行うことにより超音波画像を形成し、設定音速を種々変化させたときに画像のコントラスト、シャープネスが最も高くなる音速値であり、例えば特開平8−317926号公報に記載のように、画像のコントラスト、スキャン方向の空間周波数、分散等に基づいて最適音速値の判定を行うことができる。
【0028】
次に、格子点Xに対する最適音速値を用いて、格子点Xから発せられる仮想的な受信波Wxの波形を算出する。
さらに、格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて、それぞれ格子点A1、A2、・・・からの受信波W1、W2、・・・の仮想的な合成波Wsumを算出する。このとき、格子点Xと各格子点A1、A2、・・・との間の領域Rxaにおける音速は一様で、格子点Xにおける局所音速値Vに等しいものと仮定する。格子点Xから伝播した超音波が格子点A1、A2、・・・に到達するまでの時間はXA1/V、XA2/V、・・・となる。ここで、XA1、XA2、・・・は、それぞれ格子点A1、A2、・・・と格子点Xとの間の距離である。そこで、格子点A1、A2、・・・からそれぞれ時間XA1/V、XA2/V、・・・だけ遅延して発した反射波を合成することにより、仮想的な合成波Wsumを求めることができる。
【0029】
次に、このように格子点Xにおける仮定的な局所音速値Vを種々変化させて算出された複数の仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差をそれぞれ算出し、誤差が最小になる仮定的な局所音速値Vを格子点Xにおける局所音速値と判定する。ここで、仮想的な合成波Wsumと格子点Xからの仮想的な受信波Wxとの誤差の算出方法としては、互いの相互相関をとる方法、受信波Wxに合成波Wsumから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法、合成波Wsumに受信波Wxから得られる遅延を掛けて位相整合加算する方法等を採用することができる。
以上のようにして、超音波プローブ1の受信回路5で生成された受信データに基づき、被検体内の局所音速値を高精度に演算することができる。さらに、同様にして、設定された関心領域内の局所音速値の分布を示す音速マップを生成することができる。
【0030】
次に、図4のフローチャートを参照して実施の形態1の動作を説明する。
まず、ステップS1で、超音波プローブ1の送信回路4からの駆動信号に従って振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサからBモード画像用の超音波ビームが送信され、被検体からの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路5に出力されてBモード画像用の受信データが生成され、さらに、診断装置本体2の画像生成部23で生成されたBモード画像信号に基づいて表示制御部14によりBモード画像が表示部15に表示される。
【0031】
ステップS2で、操作者が操作部21を操作することにより、表示部15に表示されているBモード画像上に関心領域ROIが設定されると、ステップS3で、図2に示されるように、関心領域ROIの上方に位置する被検体の腹壁Pが腹壁検出部17により検出され、さらにステップS4で、本体制御部20により、腹壁検出部17で検出された被検体の腹壁Pの形状が超音波プローブ1の振動子アレイ3が有する曲率と比較される。
【0032】
そして、腹壁Pの形状が所定の許容範囲内で振動子アレイ3の曲率にほぼ対応していると判定された場合は、ステップS5に進み、関心領域ROIに対し振動子アレイ3から音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させて関心領域ROI内の音速マップを生成する。
【0033】
すなわち、本体制御部20により関心領域ROI内に複数の格子点が設定され、これらの格子点のそれぞれに送信焦点を形成してコンベックス走査させつつ順次音速マップ用超音波ビームの送受信が行われる。このとき、腹壁Pの形状が振動子アレイ3の曲率にほぼ対応しているので、図5に示されるように、振動子アレイ3から複数の音速マップ用超音波ビームBを放射状に送信しても、各音速マップ用超音波ビームBは腹壁Pに対してほぼ垂直に入射し、腹壁Pからほとんど屈折の影響を受けることなく、腹壁Pを透過して関心領域ROI内の各格子点に送信焦点を形成することとなる。そして、被検体からの超音波エコーが振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサで受信される。
【0034】
音速マップ用超音波ビームを受信する毎に受信回路5で生成される音速マップ用の受信データは順次シネメモリ18に格納される。関心領域ROI内のすべての格子点に関して音速マップ用の受信データが取得されると、本体制御部20から音速マップ生成部19に音速マップ形成の指令が出力され、音速マップ生成部19は、シネメモリ18に格納されている音速マップ用の受信データを用いて、各格子点における局所音速値を演算し、関心領域ROI内の音速マップを生成する。音速マップ生成部19で得られた音速マップに関するデータは、DSC12でラスター変換され、画像処理部13で各種の画像処理が施される。
【0035】
一方、ステップS4における比較の結果、腹壁Pの形状が所定の許容範囲内で振動子アレイ3の曲率にほぼ対応していないと判定された場合は、ステップS8に進んで、今度は、腹壁Pの形状がほぼ直線状であるか否かが判定される。腹壁Pの形状がほぼ直線状であると判定されると、ステップS9に進み、関心領域ROIに対し振動子アレイ3から音速マップ用超音波ビームをリニア走査させつつ送受信させて関心領域ROI内の音速マップを生成する。
【0036】
すなわち、本体制御部20により関心領域ROI内に複数の格子点が設定され、これらの格子点のそれぞれに送信焦点を形成してリニア走査させつつ順次音速マップ用超音波ビームの送受信が行われる。このとき、腹壁Pの形状がほぼ直線状であるので、図6に示されるように、振動子アレイ3から複数の音速マップ用超音波ビームBを平行に送信しても、各音速マップ用超音波ビームBは腹壁Pに対してほぼ垂直に入射し、腹壁Pからほとんど屈折の影響を受けることなく、腹壁Pを透過して関心領域ROI内の各格子点に送信焦点を形成することとなる。そして、被検体からの超音波エコーが振動子アレイ3の複数の超音波トランスデューサで受信される。
【0037】
音速マップ用超音波ビームを受信する毎に受信回路5で生成される音速マップ用の受信データは順次シネメモリ18に格納され、上述したステップS5におけるコンベックス走査の際と同様にして、音速マップ生成部19により関心領域ROI内の音速マップが生成される。音速マップ生成部19で得られた音速マップに関するデータは、DSC12でラスター変換され、画像処理部13で各種の画像処理が施される。
【0038】
このようにして、ステップS5あるいはステップS9で関心領域ROI内の音速マップが生成されると、ステップS6で、撮影領域の全体に対し振動子アレイ3からBモード画像用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させてBモード画像を生成する。
すなわち、振動子アレイ3から送信されたBモード画像用超音波ビームの超音波エコーを受信した各超音波トランスデューサから受信信号が受信回路5に出力されてBモード画像用受信データが生成され、このBモード画像用受信データが診断装置本体2のシネメモリ18に格納されると共に信号処理部11に入力してBモード画像信号が生成され、DSC12でBモード画像信号がラスター変換されると共に画像処理部13でBモード画像信号に各種の画像処理が施される。
【0039】
そして、ステップS7において、画像処理部13で各種の画像処理が施された関心領域ROI内の音速マップに関するデータとBモード画像信号が表示制御部14へ送られ、操作者により操作部21から入力された表示モードに従って、Bモード画像に音速マップを重畳した状態で表示部15に表示される、あるいは、Bモード画像と音速マップ画像とが並べて表示部15に表示される。
【0040】
さらに、ステップS10で検査を終了するか否かが確認され、検査を継続する場合には、ステップS1に戻り、検査を終了する場合には、一連の処理を完了する。
なお、ステップS8で、腹壁Pの形状がほぼ直線状ではないと判定された場合は、腹壁Pの形状が振動子アレイ3の曲率にほぼ対応することもなく、また、ほぼ直線状でもないということであり、コンベックス型超音波プローブ1の振動子アレイ3から音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信してもリニア走査させつつ送受信しても、腹壁Pに対する音速マップ用超音波ビームBの入射角が大きくなって腹壁Pから屈折の影響を大きく受けるため、関心領域ROI内の音速マップを精度よく生成することはできないとして、音速マップ用超音波ビームBの送受信を行わないように送信回路4および受信回路5が制御され、ステップS11で表示部15等に警告を発した後、ステップS10へ進んで検査を終了するか否かの確認がなされる。
【0041】
なお、ステップS4における、腹壁Pの形状が所定の許容範囲内で振動子アレイ3の曲率にほぼ対応しているか否かの判定は、例えば、次のようにして行うことができる。
まず、腹壁検出部17で検出された腹壁P上に複数の測定点Qi(i=1〜n)を設定し、これら測定点Qiの画像上の座標(Xi,Yi)を用いて最小二乗法により振動子アレイ3と同一の曲率を有する近似曲線を求め、このときの各測定点Qiの残差dYiの変動係数CVを算出する。
複数の測定点Qiの残差dYiの平均値をdYmとしたとき、残差dYiの変動係数CVは、
CV=[(1/n)Σ(dYi−dYm)]1/2/dYm ・・・(1)
で表される。なお、Σは、i=1〜nに対する総和を表している。
そこで、許容範囲として、例えば、しきい値CV1=0.1を設定し、上記の式(1)で算出された残差dYiの変動係数CVがしきい値CV1以下のときには、腹壁Pの形状が振動子アレイ3の曲率にほぼ対応すると判定し、設定値CV1より大きいときには、腹壁Pの形状が振動子アレイ3の曲率にほぼ対応していないと判定することができる。
【0042】
同様に、ステップS8における、腹壁Pの形状がほぼ直線状であるか否かの判定は、例えば、次のようにして行うことができる。
腹壁検出部17で検出された腹壁P上に複数の測定点Qi(i=1〜n)を設定し、これら測定点Qiの画像上の座標(Xi,Yi)を用いて最小二乗法により近似直線を求め、このときの各測定点Qiの残差dYiの変動係数CVを、上記の式(1)を用いて算出する。
算出された残差dYiの変動係数CVがしきい値CV1=0.1以下のときには、腹壁Pの形状がほぼ直線状であると判定し、設定値CV1より大きいときには、腹壁Pの形状がほぼ直線状ではないと判定することができる。
なお、上記のしきい値CV1は、「0.1」に限るものではなく、実際にコンベックス走査あるいはリニア走査させつつ音速マップ用超音波ビームを送受信して、波面の乱れが音速の計測に悪影響を及ぼさない程度となるしきい値CV1を求めることが好ましい。
【0043】
また、ステップS8における、腹壁Pの形状がほぼ直線状であるか否かの判定については、相関係数を用いることもできる。
すなわち、腹壁検出部17で検出された腹壁P上に複数の測定点Qi(i=1〜n)を設定し、これら測定点Qiの画像上の座標(Xi,Yi)の相関係数rを算出する。
Xiの平均値をXm、Yiの平均値をYmとしたとき、相関係数rは、
r=Σ[(Xi−Xm)(Yi−Ym)]/[Σ(Xi−Xm)Σ(Yi−Ym)]1/2
・・・(2)
で表される。なお、Σは、i=1〜nに対する総和を表している。
そこで、許容範囲として、例えば、しきい値r1=0.7を設定し、上記の式(2)で算出された相関係数rの絶対値がしきい値r1以上のときには、腹壁Pの形状がほぼ直線状であると判定し、しきい値r1未満のときには、腹壁Pの形状がほぼ直線状ではないと判定する。
この場合も、しきい値r1は、「0.7」に限るものではなく、実際の計測に適した値とすることが好ましい。
【0044】
このように、腹壁検出部17で検出された腹壁Pの形状が振動子アレイ3の曲率にほぼ対応するか、あるいは、ほぼ直線状であるかを判定し、その結果に応じて振動子アレイ3から音速マップ用超音波ビームBをコンベックス走査あるいはリニア走査させつつ送受信させるので、コンベックス型超音波プローブ1を用いながらも腹壁Pから受ける屈折の影響を低減してBモード画像の生成と正確な音速マップの生成を行うことが可能となる。
【0045】
上記の実施の形態では、腹壁Pの形状が振動子アレイ3の曲率にほぼ対応もせず、ほぼ直線状でもない場合に、音速マップ用超音波ビームBの送受信を行わないように送信回路4および受信回路5を制御したが、腹壁Pの形状が振動子アレイ3の曲率とほぼ直線状の中間の曲率を有する場合には、次のようにして音速マップの生成を行うこともできる。
すなわち、腹壁検出部17で検出された腹壁Pの曲率に応じた遅延量が本体制御部20によって演算され、演算された遅延量がプローブ制御部6を介して送信回路4および受信回路5に伝送され、この演算された遅延量で振動子アレイ3から音速マップ用超音波ビームBをコンベックス走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように送信回路4および受信回路5が制御される。
【0046】
このようにすれば、腹壁Pの曲率に応じた音速マップ用超音波ビームBをコンベックス走査させつつ送受信することができ、腹壁Pが振動子アレイ3の曲率とは異なる曲率を有していても、腹壁Pから受ける屈折の影響を低減して精度のよい音速マップを生成することが可能となる。
【0047】
また、上記の実施の形態では、受信回路5から出力される受信データを一旦シネメモリ18に格納し、音速マップ生成部19がシネメモリ18に格納された受信データを用いて関心領域ROI内の各格子点における局所音速値を演算し、関心領域ROI内の音速マップを生成したが、音速マップ生成部19が受信回路5から出力される受信データを直接入力して音速マップの生成を行うこともできる。
また、シネメモリ18には、音速マップ用受信データだけでなく、Bモード画像生成用の受信データも格納されているため、本体制御部20の制御により、必要に応じてシネメモリ18からBモード画像生成用の受信データを読み出し、画像生成部23でBモード画像を生成することもできる。
なお、上記の実施の形態における超音波プローブ1と診断装置本体2との接続は、有線による接続および無線通信による接続のいずれの形態をとることもできる。
【符号の説明】
【0048】
1 振動子プローブ、2 診断装置本体、3 振動子アレイ、4 送信回路、5 受信回路、6 プローブ制御部、11 信号処理部、12 DSC、13 画像処理部、14 表示制御部、15 表示部、16 画像メモリ、17 腹壁検出部、18 シネメモリ、19 音速マップ生成部、20 本体制御部、21 操作部、22 格納部、23 画像生成部、P 腹壁、ROI 関心領域、X,A1,A2 格子点、W1,W2,Wx 受信波、Wsum 合成波、B 音速マップ用超音波ビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信回路から供給された駆動信号に基づいてコンベックス型超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいて画像生成部でBモード画像を生成する超音波診断装置であって、
前記画像生成部で生成されたBモード画像上で被検体の腹壁を検出する腹壁検出部と、
前記腹壁検出部で検出された腹壁の形状が前記振動子アレイの曲率にほぼ対応している場合は前記振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、前記腹壁検出部で検出された腹壁の形状がほぼ直線状である場合には前記振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをリニア走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御する制御部と、
取得された前記音速マップ用受信データに基づいて音速マップを生成する音速マップ生成部と
を備えたことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記画像生成部で生成されたBモード画像上で関心領域を設定するための関心領域設定部をさらに備え、
前記腹壁検出部は、前記関心領域設定部により設定された関心領域の上方に位置する被検体の腹壁を検出する請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記腹壁検出部で検出された腹壁の形状が前記振動子アレイの曲率に対応せず且つほぼ直線状でもない場合には、音速マップ用超音波ビームの送受信を行わないように前記送信回路および前記受信回路を制御する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記腹壁検出部で検出された腹壁の形状が前記振動子アレイの曲率とほぼ直線状の中間の曲率を有する場合には、前記腹壁の曲率に応じた遅延量を演算し、演算された遅延量で前記振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御する請求項1または2に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
送信回路から供給された駆動信号に基づいてコンベックス型超音波プローブの振動子アレイから被検体に向けて超音波ビームが送信されると共に被検体による超音波エコーを受信した前記超音波プローブの振動子アレイから出力される受信信号を受信回路で処理することで得られる受信データに基づいてBモード画像を生成する超音波画像生成方法であって、
前記Bモード画像上で被検体の腹壁を検出し、
検出された腹壁の形状が前記振動子アレイの曲率にほぼ対応している場合は前記振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをコンベックス走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、前記腹壁検出部で検出された腹壁の形状がほぼ直線状である場合には前記振動子アレイから音速マップ用超音波ビームをリニア走査させつつ送受信させて音速マップ用受信データを取得するように前記送信回路および前記受信回路を制御し、
取得された前記音速マップ用受信データに基づいて音速マップを生成する
ことを特徴とする超音波画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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