説明

超音波診断装置及び超音波診断用プログラム

【課題】より多くの診断情報量を獲得し、診断の効能を向上させる超音波診断装置及び超音波診断装置用プログラムを提供する。
【解決手段】超音波診断装置において、駆動パルスを作成する超音波送信ユニットと、駆動パルスに基づき超音波を発生させるとともに、エコー信号を受信する超音波プローブと、受信したエコー信号に基づき、周波数帯域が異なる複数のエコー信号データを作成する超音波受信ユニットと、複数のエコー信号データに基づきプローブ特性除去エコー信号データを作成する減衰算出ユニットと、減衰画像データを作成する画像作成ユニットと、減衰画像データに基づき表示を行なう表示装置と、を有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置及び超音波診断用プログラムに関する。より具体的には、生体内を超音波で走査して臓器の断層像を画像化し、疾患等を診断する超音波診断装置及びそれに用いられるプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体内組織に向けて超音波を照射し、その反射波(エコー信号)を受信し解析することで生体内組織の状態を画像として表示する診断装置であり、X線診断装置やX線コンピュータ断層撮影装置等の他の診断装置に比べ、安価で被曝が無く、より非侵襲性に優れ実時間で観測することができる。超音波診断装置の適用範囲は広く、心臓などの循環器から肝臓、腎臓などの腹部、抹消血管、産婦人科、乳癌の診断などに適用されている。
【0003】
超音波診断装置は通常、探触子から1回超音波パルスを送信し、その反射パルス(エコー信号)を受信して一次元的な生体情報を作成し、さらにこの超音波パルスの送受信方向を変えて繰り返すことで、二次元生体情報を作成することができる。これは被検体内部の臓器などの形態を表すのに適しており、Bモード像、または単に断層像と呼ばれ、超音波診断の最も基本的な映像モードとなっている。
【0004】
なお上記二次元生体情報の作成と同様に、超音波パルスの送受信を3次元方向に繰り返し行えば、生体臓器の三次元情報を得ることができる。現在では、機械的に探触子を揺動して、または二次元的に配列した複数の振動子の遅延を電子的に制御して、生体臓器の三次元情報を作成する技術が臨床的に実現されている。
【0005】
ところで、生体組織は固有の減衰特性を有しているため、照射された超音波は減衰しながら生体内を伝搬する。また一般的に、エコー信号強度は深部になるほど小さくなる。この生体減衰によるエコー信号の減弱が大きくなると、診断情報の獲得のための阻害要因となることが起こりえる。そこで、現在、殆どの超音波診断装置には、深度に応じてゲインを変化させて感度を高めるための機能(STC(sensitivity time control))が具備されている。特に近年、このSTCを自動で調整するという機能も一般化してきている。これは受信信号強度の深度ごと(あるいは横方向)に分析し、受信信号が一定となるよう深度毎に係数を計算していくというものである。
【0006】
なお、上記の課題を逆手に取り、エコー信号の減弱の様子を積極的に観察することで生体組織の特徴を観測しようとすることもしばしば行われている。例えば肝臓の場合、エコー信号が極端に減少する被検体は脂肪滴が多く含まれている脂肪肝であると推測できる。
【0007】
上記生体組織中の音波の減衰量を定量計測し、診断情報に役立ようとする技術として、例えば下記特許文献1及び特許文献2がある。
【0008】
まず、下記特許文献1には、周波数帯域の異なる超音波パルスを同一方向へ2回に分けて送受信する技術が開示されている。この技術は、生体減衰量が周波数によって異なる点に着目し、2つのパルスの減衰量を比較することで媒質の減衰定数を類推しようとするものである。
【0009】
また、下記特許文献2には、1回の送受信のみ行い、受信信号に含まれる2つの異なる周波数帯域成分を抽出し、その比を比較することで媒質の減衰定数を推定する技術が開示されている。この技術は、1回の送受信で媒質の減衰定数を推定することができるため実現性の高い簡便な手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平3024868号公報
【特許文献2】特開平7−51270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで一般的に考えられている「減衰定数」は、単位[dB/cm/MHz]で表され、送受信の周波数で規格化されている。すなわち、周波数に依存しない物質固有の値であると考えられている。例えば上記特許文献2の例では、2つの異なる周波数で計測されるのは各々の「減衰量」であり、「使用した周波数[MHz]の差」と「減衰量[dB/cm]の差」から「減衰定数」を算出している。
【0012】
しかしながら、本発明者らは、鋭意検討を行なったところ、エコー信号から推定される減衰定数には周波数依存があることを見いだした。しかもこの周波数依存性は、物質そのものの特性というよりも、計測対象となる生体組織の構造に起因するものであることを見出した。肝臓、特に疾患のある肝臓を例にとると、送信するパルスの波長(音速×周波数)が、組織の脂肪滴の間隔又は微視的な病変である線維化構造の間隔に合致する場合、減衰量が強調されたり、逆に弱めあったりすることが確認された。したがって、周波数を変化させて減衰定数を計測すると、物理定数に従った減衰量と、組織病変の構造に依存した減衰量が重畳した状態となっていると推定される。
【0013】
そこで、本発明は上記見地を応用し、より多くの診断情報量を獲得し、診断の効能を向上させる超音波診断装置及び超音波診断装置用プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、上記課題を解決する第一の観点に係る超音波診断装置は、駆動パルスを作成する超音波送信ユニットと、駆動パルスに基づき超音波を発生させるとともに、エコー信号を受信する超音波プローブと、受信したエコー信号に基づき、周波数帯域が異なる複数のエコー信号データを作成する超音波受信ユニットと、複数のエコー信号データに基づきプローブ特性除去エコー信号データを作成する減衰算出ユニットと、減衰画像データを作成する画像作成ユニットと、減衰画像データに基づき表示を行なう表示装置と、を有する。
【0015】
また上記課題を解決する第二の観点に係る超音波診断装置用プログラムは、コンピュータに、駆動パルスデータを作成させ、超音波ユニットが受信したエコー信号に基づき、周波数帯域が異なる複数のエコー信号データを作成させ、複数のエコー信号データに基づきプローブ特性除去エコー信号データを作成させ、減衰画像データを作成させ、減衰画像を表示させる。
【発明の効果】
【0016】
以上本発明によれば、より多くの診断情報量を獲得し、診断の効能を向上させる超音波診断装置及び超音波装置用プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す図である。
【図2】超音波送信部及びエコー信号受信部の詳細を示す図である。
【図3】プローブによる音圧特性の例を示す図である。
【図4】音圧分布特性による規格化前後の深度に対する振幅強度を示す図である。
【図5】ファントムにおけるエコー信号から複数の周波数帯域成分を抽出し、観測深度毎にそれらの比演算した結果を示す図である。
【図6】異なるフォーカス深度毎の音圧分布特性データの例を示す図である。
【図7】異なる状態の肝臓に対し、複数の周波数帯域に対する減衰率を求めた図である。
【図8】エコー信号の周波数スペクトルのイメージを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例の例示にのみ限定されるわけではない。
【0019】
(実施形態1)
図1は、本実施形態に係る超音波診断装置(以下「本装置」という。)の構成を示す図である。本装置は、超音波診断装置本体11と、超音波プローブ12と、入力装置13と、表示装置14と、を有して構成される。
【0020】
本実施形態において、超音波プローブ12は、超音波送信ユニット21及びエコー信号受信ユニット22を介して装置本体11に接続され、装置本体11からの指示に基づき超音波を発生させて診断対象となる被検体に送信するとともに、被検体の生体組織からの反射波(エコー信号)を受信して装置本体11に出力することのできるものである。
【0021】
超音波プローブ12としては、上記の機能を有する限りにおいて限定されるわけではなく、一般的に用いられているものを用いることができ、例えば、装置本体11からの信号を受けて超音波を発生させる一方、被検体からの反射波(以下「エコー信号」という。)を電気信号に変換する複数の圧電振動子と、この圧電振動子に設けられる整合層と、圧電振動子から後方(装置本体側)に超音波が伝達してしまうことを防止するバッキング材と、これらを収納するハウジングと、を有して構成されていることが好ましい。
【0022】
なお、この超音波プローブ12から被検体に超音波が送信された場合、この超音波は生体組織の音響インピーダンスの不連続面で次々と反射され、エコー信号として超音波プローブ12に戻り装置本体11に出力される。なおこの場合において、エコー信号の振幅は、反射した不連続面における音響インピーダンスの差に依存している。また、超音波プローブ12から送信された超音波が、移動している血流や心臓壁等の表面で反射した場合、このエコー信号はドプラ効果により、移動体の超音波送信方向の速度成分に依存した周波数偏移を受ける。すなわちここで「エコー信号」とは、被検体によって反射された超音波をいう。
【0023】
また、本実施形態において、限定されるわけではないが、超音波プローブ12は、3次元生体情報を得るため、機械的に揺動するメカニカル3次元プローブ、又は、電子的に遅延方向を制御可能な2次元マトリクスアレイプローブであることも好ましい一例である。
【0024】
本実施形態において、入力装置14は、装置本体11にインターフェース111を介して接続され、オペレータからの各種指示、具体的には動作、条件、関心領域(ROI)の設定、画質条件等に関する指示を装置本体11に取り込ませるための装置であって、この機能を有する限りにおいて限定されるわけではないが、例えばスイッチ、ボタン、トラックボール、マウス、キーボード等を例示することができる。
【0025】
また本実施形態において、表示装置13は、装置本体11に画像作成ユニット26を介して接続され、装置本体11が作成する画像データに基づき、生体内の生態学的情報や血流情報等を画像として表示することができるものである。この表示装置13は上記の機能を有する限りにおいて限定されず、例えば液晶ディスプレイ等を例示することができる。
【0026】
本実施形態において、装置本体11は、入力装置14により取り込んだオペレータからの指示に基づき、各種処理を行い、超音波プローブ12に駆動信号を送信する一方、超音波プローブ12からエコー信号を受信し、この信号に基づき画像データを作成し、表示装置14に出力することのできるものである。
【0027】
本実施形態において、装置本体11は、限定されるわけではないが、図1で示すように、インターフェース111、制御プロセッサ112、メモリ113及びハードディスク114、バス115、超音波送信ユニット21、エコー信号受信ユニット22、減衰算出ユニット23、Bモード処理ユニット24、ドプラ処理ユニット25、画像作成ユニット26と、を有して構成されている。
【0028】
インターフェース111は、バス115に接続され、入力装置13と装置本体を接続するために用いられる。
【0029】
制御プロセッサ112は、バス115に接続され、メモリ113、ハードディスク114等からデータの出力を受け、これらに対し各種計算処理を行うことができるものであり、いわゆるCPUがこれに相当する。
【0030】
メモリ113は、バス115に接続され、ハードディスク等に格納された各種プログラムを一時的に記録し、制御プロセッサ112に出力し、各種計算を行なわせることができる。また必要に応じ、上記減衰算出ユニット23、Bモード処理ユニット24、ドプラ処理ユニット25、画像作製ユニット26等が作成した各種データを一時的に格納することもできる。メモリ113としては、限定されるわけではないが、いわゆるRAMを使用することができる。
【0031】
超音波送信ユニット21は、バス115に接続され、超音波プローブ12により被検体に放射される超音波の基となる駆動パルスを作成し、超音波プローブ12に出力させるために用いられるものである。
【0032】
エコー信号受信ユニット22は、バス115に接続され、超音波プローブ12が受信したチャンネル毎のエコー信号の入力を受け、各種処理を行った後エコー信号データを作成し、バス115を介して減衰算出ユニット23、Bモード処理ユニット24と、ドプラ処理ユニット25にエコー信号データを出力する。
【0033】
図2は、本実施形態に係る超音波診断装置の超音波送信ユニット21、エコー信号受信ユニット22の構成の一例に関するより詳細なブロック図を示す。
【0034】
図2で示されるように、本実施形態に係る超音波送信ユニット21は、パルス発生部21A、送信遅延部21B、パルサ21Cと、を有して構成されている。
【0035】
本実施形態においてパルス発生部21Aは、パルスを発生させることのできるものである。この発生させたパルスは送信遅延部21Bに出力される。
【0036】
本実施形態において送信遅延部21Bは、パルス発生部21Aが作成したパルスに遅延時間を与えることができるものである。本超音波診断装置1は、この遅延時間を調整することにより、超音波をビーム状に収束させること、及び、超音波の送信指向性を決定することができる。
【0037】
本実施形態においてパルサ21Cは、上記送信遅延部21Bにより遅延が加えられたパルスを所定の周波数及びパルス長に調整して駆動パルスを発生させ、この駆動パルスを超音波プローブ12に出力する。超音波プローブ12は、この駆動パルスを受けた後、チャンネル毎に所定のタイミングで超音波を発生させ、被検体に対して放出する。なお本実施形態において、駆動パルスはチャンネル毎に異なる周波数で作成される。
【0038】
本実施形態において、エコー信号受信ユニット22は、超音波プローブ12が受信したチャンネル毎のエコー信号の入力を受け、各種処理を行った後エコー信号データを作成し、減衰算出ユニット23、Bモード処理ユニット24と、ドプラ処理ユニット25にエコー信号データを出力する。
【0039】
本実施形態においてエコー信号受信ユニット22は、図2の一例で示すように、プリアンプ22A、A/Dコンバータ22B、受信遅延部22C、加算器22Dを有して構成される。
【0040】
本実施形態においてプリアンプ22Aは、プローブ12を介して取り込まれたエコー信号を増幅することのできるものである。なおプリアンプ22Aにより増幅されたエコー信号は、A/Dコンバータ22Bに出力され、アナログからデジタルの信号となり、受信遅延部22Cに出力される。
【0041】
本実施形態において受信遅延部22Cは、増幅されたエコー信号に対し遅延時間を与えるものである。これにより、被検体に出力された超音波の送信指向性に対応させてエコー信号の受信指向性を決定することができる。なおこの遅延時間が与えられたエコー信号は加算部22Dに出力される。
【0042】
本実施形態において加算部22Dは、遅延時間が与えられたエコー信号に対し加算処理を行うものである。この加算により、受信指向性に応じた方向からの反射成分を強調することができる。なおこの処理により、エコー信号はエコー信号データとして作成され、必要に応じ減衰算出ユニット23、Bモード処理ユニット24、ドプラ処理ユニット25に出力される。なおここで、エコー信号受信ユニット22が作成するエコー信号データは、プローブの開口方向の位置情報と深さの位置情報からなる位置情報と、この位置情報に対応した強度情報を有して構成され、一次元的に配列された超音波プローブを用いた場合は二次元のエコー信号データを得ることができ、機械的に揺動するメカニカル3次元プローブ、又は、電子的に遅延方向を制御可能な2次元マトリクスアレイプローブを用いた場合は、三次元的なエコー信号データを得ることができる。
【0043】
本実施形態において、減衰算出ユニット23は、複数のチャンネルのエコー信号データに基づきプローブ特性除去エコー信号を作成し、格納することができるユニットである。
【0044】
理論上、エコー信号の強度は距離に依存し、深度が深くなればなるほど深度に比例し信号の強度はなだらかに弱くなっていくと考えられる。しかしながら、殆どの超音波プローブは、超音波プローブ毎の、又はプローブの調整された条件に応じて非線形的な特性を有しており、たとえ理想的に均質な散乱媒質であっても深度と強度情報の間に非線形的な部分が発生してしまう。図3は、この非線形的な減少のイメージを示す図であり、図4の上右側グラフは、このような非線形特性の実際の例を示す図である。図3の例によると、一定の深度毎に同じ大きさの観測対象が存在したとしても、送信ビーム(超音波)の特性、焦点位置等に応じて異なる大きさの観測対象の信号が得られてしまうことがある。これが結果的に図4のような非線形的な現象として現れると考えられる。
【0045】
そこで、本実施形態に係る減衰算出ユニット23は、周波数の異なる複数のエコー信号データを格納し、これらを割ることで、上記非線形低な特性をキャンセルし、プローブ特性除去エコー信号を作成する。プローブの特性は、均質な媒体であっても発生し、被検体の状態によらず発生するものであるため、その特性を含む複数のデータを用い、一方で他方を割ることでそのプローブ特有な特性をキャンセルすることができる。図4の下右側グラフは、このような非線形特性をキャンセルした場合の例を示す図である。
【0046】
また図5(A)は、0.5dB/cm/MHzの減衰を有する均一なファントムから得られる複数の周波数帯域成分(2MHz、4MHz)のエコー信号データの深さに依存した減衰量をグラフ化したものである。図5(B)は、上記2MHzのエコー信号データを4MHzのエコー信号データで割った結果を示している。両者の周波数の差は2MHzであり、10cm深度における超音波伝搬は往復で20cmとなるため、このファントムにおける10cmあたりの減衰量は、0.5×20cm×2MHz=20dBとなる。図5(B)の結果、符号57の、例えば5cmから15cmの間を見ると、その差は約20dBであり、減衰量はファントムの公称値から算出される上記値とほぼ等しい値となっていることが確認できた。またこの結果、符号57はほぼ均一に増加する直線状となっており、減衰率の周波数依存性を考慮したより正確な状態推定が可能となっている。
【0047】
よって、上記のとおり減衰算出ユニット23は、バス115に接続され、複数のチャンネルのエコー信号データに基づきプローブ特性除去エコー信号データを作成し、格納することができるユニットである。なおこのプローブ特性除去信号データは、複数のエコー信号データから作成されるデータであり、プローブの開口方向情報及び深さ情報からなる位置情報と、この各位置情報に対応する数値情報を有するものである。
【0048】
Bモード処理ユニット24は、バス115に接続され、上記エコー信号データを受け取り、対数増幅処理、包絡線検波処理等を適宜施し、上記エコー信号データにおける強度情報を輝度情報に変換したBモードデータを生成して自身に設けられる記録媒体又はハードディスクに格納するとともに、必要に応じて画像生成ユニットに出力する。
【0049】
ドプラ処理ユニット25は、バス115に接続され、上記エコー信号データを受け取り、周波数解析を行なってドプラ効果の影響を求め、エコー信号データに含まれる速度情報を抽出する。この結果、例えば血流、組織、造影剤の速度情報を得ることができ、平均移動速度、分散、パワー等の情報をエコー信号データの各位置について求めることができる。なおこの結果得られたデータはドプラデータとして生成され自身に設けられる記録媒体又はハードディスクに格納されるとともに、必要に応じて画像生成ユニットに出力される。
【0050】
画像生成ユニット26は、バス115に接続され、上記減衰データ、Bモードデータ、及び、ドプラデータに基づき、それぞれ対応した画像データを作成し、適宜画像を合成し、必要な診断情報を付加して表示装置13に表示させることができるものである。具体的にはBモードデータからはBモード画像データ、ドプラデータからはドプラ画像データを作成する。なお、上記プローブ特性除去エコー信号データは、本画像生成ユニット26を介して減衰画データとして作成される。「画像データ」とは、上記Bモード画像データ、ドプラ画像データ、減衰画像データを含めた総称をいう。
【0051】
Bモードデータは、上記の通り、プローブの開口方向情報及び深さ情報からなる位置情報と、この各位置情報に対応する輝度情報とを有するものであるため、この位置情報を一般的な表示装置の画素位置情報に変換することでBモード画像データとなる。なおこの変換は、予め画像生成ユニットに記録されているルックアップテーブルを用いて行なうことができる。
【0052】
またドプラデータも上記Bモードデータと同様、プローブの開口方向情報及び深さ情報からなる位置情報を、予め記録されているルックアップテーブルを用いて表示装置の画素位置情報に変換される。
【0053】
また減衰データも上記Bモードデータと同様、プローブの開口方向情報及び深さ情報からなる位置情報を、予め記録されているルックアップテーブルを用いて表示装置の画素位置情報に変換される。
【0054】
更に上記画像生成ユニット26は、上記生成、記録した画像データを、オペレータの指示に従い合成し、合成画像データを作成することもできる。複数の画像データを合成することでオペレータが一度に複数の情報を把握することができるようになる。なお複数の画像データが合成された結果の画像データを「合成画像データ」という。
【0055】
また画像合成データは、作成された後更に、画像データに対応する他のデータ、例えば測定日時のデータ、患者IDデータ、医師の所見データ等、送受信情報等の各種情報が付加され、必要に応じて表示装置に画像とともに表示される。これにより、オペレータは測定及び診断に役立てることができる。またこの場合において、一つの画像データを常時表示させる(静止画表示させる)こととしてもよいし、一定の時間間隔で複数の画像データを連続的に表示させる(動画表示させる)こととしてもよい。なお、オペレータが合成の必要がないと判断した場合は、元のBモード画像データ、ドプラ画像データ、減衰画像データをそのまま表示装置に表示させるようにしてもよい。
【0056】
本実施形態に係るハードディスク114は、上記各ユニットが作成した画像データや患者の氏名や測定条件等の各種データ、情報管理プログラムや各ユニットを制御するプログラム等の各種プログラム等を記録することができる装置であり、上記プログラムを格納し実行させることで、所望の機能を本体装置11に実行させることができる。
【0057】
以上、本実施形態係る超音波診断装置によると、簡易な処理で診断の効能を向上させることができるといった利点がある。
【0058】
(実施形態2)
本実施形態では、上記実施形態1における減衰算出ユニット23の処理におけるプローブ特性除去エコー信号データの作成手法する手法が異なり、更に、減衰率を求めてより詳細な検討を行なうことができる点が異なる。それ以外の構成はほぼ同様であり、説明は省略する。
【0059】
図6は、本実施形態において用いるプローブの音圧特性分布データを示す図である。本図で示すように、音圧特性分布データはエコー信号データと同様、プローブの開口方向情報及び深さ情報からなる位置情報と、この位置情報に対応した強度情報を有して構成されており、更に、送受信する超音波の周波数、フォーカス深度によってそれぞれ異なる音圧分布特性データとなっている。
【0060】
本実施形態では、まず、上記得た複数のエコー信号データ各々を、上記音圧特性分布データで割り、プローブ特性が除去された複数のプローブ特性除去エコー信号データを得る。次に、これらプローブ特性除去エコー信号データ各々において減衰率データを作成する。これにより、プローブ特性が除去された正確な減衰率を求めることができる。
【0061】
図7は、複数の状態の肝臓に対し、それぞれ複数の周波数のチャンネル(1.9MHz、2.8MHz、4MHz、5MHz、6MHz)でプローブ特性除去エコー信号データを取得し、そのエコー信号データ中の診断対象となる生体組織に相当する領域全体において平均減衰率を求め、それぞれを表示したものである。図中横軸は周波数を、縦軸は減衰率を意味している。
【0062】
この図によると、均一な正常肝の場合はいずれの周波数の場合であっても同様の減衰率を有している一方、軽度脂肪肝、脂肪性肝炎、重度脂肪肝となるに従い、周波数が増加するほど強度情報が減少している即ち減衰が大きいことが確認できる。この結果、低周波数の減衰率の高周波数の減衰率に対する比を取ることで、この減衰率の変化比が大きい、即ち減衰率比が1より十分に大きくなってしまっている場合、何らかの異常があると推定することができるようになる。
【0063】
ここで、生体組織の状態に応じた減衰率の周波数特性が生じる原理について、推論の域ではあるが説明する。図8は、超音波プローブが受信するエコー信号の周波数スペクトルのイメージ図である。
【0064】
まず基本的な事項として、近距離におけるエコー信号の周波数スペクトル51は、遠距離部のエコー信号の周波数スペクトル52に比べて減衰量が少ない。これは遠距離になればなるほど距離が長くなるためそれに伴い減衰量が大きくなるためである。そして更に、生体内を伝搬するエコー信号は高周波ほど減衰するため、遠距離部のエコー信号の周波数スペクトルは、近距離のエコー信号の周波数スペクトルに比べ、低周波帯域f1より高周波帯域f2の方の減衰量が大きくなっている。この結果、低周波帯域f1と高周波帯域f2の信号強度比を演算すれば、近距離部では差が小さく、遠距離部では差が大きくなると考えられる。
【0065】
以上の事項を踏まえ、本実施形態における減衰算出ユニット23では、減衰を正しく算出するために、超音波の音圧分布特性データを予め記録しておき、エコー信号データとこの音圧分布特性データとを掛け合わせることで規格化する。理論上、エコー信号の強度は距離に依存し、深度が深くなればなるほど信号の強度は弱くなっていくと考えられる。しかし上記の通り、殆どの超音波プローブは、超音波プローブ毎の非線形的な特性を有しており、たとえ理想的に均質な散乱媒質であっても深度と強度情報の間に非線形的な部分が発生してしまう。そこで、予め均質な散乱媒質において超音波プローブの音圧分布特性データを格納させておくことで、媒質の特性に由来しない照射音波の特性の影響を排除することができる。
【0066】
また、本実施形態では、上記エコー信号データの規格化後、複数のエコー信号データ各々において減衰比を求める。具体的には、複数のエコー信号データ各々の位置情報それぞれに対応する減衰率を求め、更に、複数のエコー信号データ間の同じ位置にある減衰率の比(減衰率比)を求める。なお、ここで減衰率比の算出は、同じ位置情報における減衰率の比を求めることが好ましいが、例えば各エコー信号データに対し複数の位置情報を含む所定の領域を指定し、その指定された領域内の平均減衰率を求めて、複数のエコー信号データ間の同じ領域同士の平均減衰率の比を求めることとしても良い。
【0067】
本実施形態に係る超音波診断装置は、減衰率比を求めることで、正常な生体組織であるか異常を含む生体組織であるかについてより詳細に評価することが可能となる。例えば上記図7において正常な肝臓における減衰率比はほぼどの周波数でも同様な値を示すため1に近い一方、重度脂肪肝にいたっては、高周波の減衰率に比べ、低周波の減衰率が非常に高くなっている。これは比が非常に大きくなり1よりも極めて高くなっていることが考えられる。このように、減衰率比を求めることで、より客観的な評価が可能になるといった利点がある。
【0068】
以上、本実施形態係る超音波診断装置によると、簡易な処理でより多くの診断情報量を獲得し、診断の効能を向上させることができる。具体的には、臓器等の関心部位の減衰の特徴から、脂肪肝、線維化(肝硬変)といった複数のパラメータを抽出でき、診断情報量と診断の効能を向上させることができる。
【0069】
なお、本実施形態では、チャンネル毎に周波数を異ならせて超音波プローブから送信し、複数のエコー信号を取得し、そのそれぞれに対して各処理を施すこととしているが、一つのチャンネルで広い周波数範囲の超音波を超音波プローブから送信し、この超音波からのエコー信号から所望の周波数領域を抜き出し複数のエコー信号データを作成するようにしても良い。
【0070】
また、本実施形態では、各ユニットとし、超音波送信ユニット21、エコー信号受信ユニット22、減衰算出ユニット23、Bモード処理ユニット24、ドプラ処理ユニット25、画像生成ユニット26を各ユニットの動作を実行するチップが搭載されたボードを想定しているが、処理速度等適宜必要とされる状況に応じて、例えばハードディスク等の記録媒体に上記機能を実現するためのプログラムとして格納し、これを実行させることで実現しても良い。この場合、コンピュータに、駆動パルスデータを作成させ、超音波ユニットが受信したエコー信号に基づき、周波数帯域が異なる複数のエコー信号データを作成させ、複数のエコー信号データに基づきプローブ特性除去エコー信号データを作成させ、減衰画像データを作成させ、減衰画像を表示させる、ための超音波診断装置用プログラムとすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、超音波診断装置及び超音波診断装置用プログラムとして産業上の利用可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動パルスを作成する超音波送信ユニットと、
前記駆動パルスに基づき超音波を発生させるとともに、エコー信号を受信する超音波プローブと、
受信した前記エコー信号に基づき、周波数帯域が異なる複数のエコー信号データを作成する超音波受信ユニットと、
前記複数のエコー信号データに基づきプローブ特性除去エコー信号データを作成する減衰算出ユニットと、
減衰画像データを作成する画像作成ユニットと、
前記減衰画像データに基づき表示を行なう表示装置と、を有する超音波診断装置。
【請求項2】
前記プローブ特性除去エコー信号データは、一の前記エコー信号データを他の前記エコー信号データで割ることにより作成される請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記プローブ特性除去エコー信号データは、前記エコー信号データを音圧分布特性データで割ることにより作成される請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記減衰算出ユニットは、前記プローブ特性除去エコー信号データ各々に対し減衰率を求めて複数の減衰率信号データを作成する請求項3記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記減衰算出ユニットは、一の前記減衰率信号データを他の減衰率信号データで割り減衰比信号データを作成する請求項4記載の超音波診断装置。
【請求項6】
コンピュータに、
駆動パルスデータを作成させ、
超音波ユニットが受信したエコー信号に基づき、周波数帯域が異なる複数のエコー信号データを作成させ、
前記複数のエコー信号データに基づきプローブ特性除去エコー信号データを作成させ、
減衰画像データを作成させ、
前記減衰画像を表示させる、ための超音波診断装置用プログラム。
【請求項7】
前記プローブ特性除去エコー信号データは、一の前記エコー信号データを他の前記エコー信号データで割ることにより作成される請求項6記載の超音波診断装置用プログラム。
【請求項8】
前記プローブ特性除去エコー信号データは、前記エコー信号データを音圧分布特性データで割ることにより作成される請求項6記載の超音波診断装置用プログラム。
【請求項9】
前記プローブ特性除去エコー信号を作成後、前記特性除去エコー信号データ各々に対し減衰率を求めて複数の減衰率信号データを作成する請求項8記載の超音波診断装置用プログラム。
【請求項10】
作成した前記複数の減衰率信号データのうち、一の減衰率信号データを他の減衰率信号データで割り減衰比信号データを作成する請求項9記載の超音波診断装置用プログラム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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