説明

超音波診断装置

【課題】エコーデータからより効果的にノイズ成分の除去し、S/Nをより改善する。
【解決手段】プローブ11によって受波したエコー信号の受信信号は送受信ビームフォーマ12を経、さらにバンドパスフィルタ13を通った後、直交検波器15に入力されて検波される。これらバンドパスフィルタ13および直交検波器15は、信号到来時間に応じてダイナミックに特性が変化させられるものとなっており、バンドパスフィルタ13の通過帯域中心周波数および直交検波器15における検波周波数は合致させられており、信号到来時間に応じてともに低くなっていく。またバンドパスフィルタ13の通過周波数帯域は、信号到来時間に応じて広げられていく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超音波ビームを被検体内に入射しその反射波(エコー)を受波することによって被検体内部のエコーデータ(反射波データ)を得る超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置では、一般に5〜10MHz程度の超音波を用い、これをパルス状に被検体内に入射し、被検体内の組織などで反射した反射波を受波する。受波したエコー信号からキャリア成分(超音波周波数成分)を除去して直流成分を取り出せば、反射の大きさを表す信号を得ることができる。エコー信号は、被検体の浅い部分からは早く戻って来、深い部分になればなるほど戻って来る時間が遅くなる。そこで、エコー信号の時間軸方向の各部で直流成分を取り出すことにより、深さ方向各部でのエコーの大きさを表すデータを得ることができる。
【0003】
ところで、超音波が被検体内を伝達するときの減衰特性が周波数によって異なることに起因して、受波したエコー信号の中心周波数が浅い部分では高く、深い部分ほど低くなる。そこで、従来の超音波診断装置においても、たとえば下記の特許文献1で知られているように、この周波数変化に対応して、エコー信号の到来時間(深さ)ごとに検波周波数をダイナミックに変化させるようにしている。
【特許文献1】特開2000−217825号公報
【0004】
しかしながら、この特許文献1に記載された超音波診断装置では、検波前のエコー信号から直流成分やノイズ成分などを除くためのフィルタとして、通過帯域中心周波数がキャリア成分の周波数に固定されたバンドパスフィルタ特性を有するフィルタを用いており、この部分でS/Nの劣化が見られ、そのためノイズ成分の除去という点では不十分なものである、という問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は、上記に鑑み、より効果的にノイズ成分の除去しS/Nをより改善した超音波診断装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、請求項1記載の発明による超音波診断装置においては、被検体内に超音波を入射するとともに被検体内からの反射波を受波して受信信号を生じるプローブと、該プローブからの受信信号が通される、通過帯域中心周波数が信号到来時間に応じて低くなるバンドパスフィルタ特性を有するフィルタと、該フィルタを経た受信信号を検波する、検波周波数が上記フィルタの通過帯域中心周波数と合致しかつその低下と同じに信号到来時間に応じて低くなる検波器とが備えられることが特徴となっている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1記載の超音波診断装置によれば、エコー信号の受信信号は、バンドパスフィルタを経た後、検波器で検波されることになるが、これらバンドパスフィルタおよび検波器は、信号到来時間に応じてダイナミックに特性が変化させられるものとなっている。すなわち、検波器における検波周波数は、信号到来時間に応じて低くなるので、エコー信号自体の周波数特性が到来時刻に応じて低くなることに対応することができる。そして、バンドパスフィルタの通過帯域中心周波数は、この上記の検波周波数に合致させられており、検波周波数の低下と同じに、信号到来時間に応じて低くなるので、検波前のエコー信号自体の周波数特性が到来時刻に応じて低くなることに対応することができる。このように、検波器および検波前のフィルタにおける周波数特性の両者をともに、エコー信号自体の周波数変化に合わせて変化させることができるので、不要なノイズ成分を効果的に除去し、S/Nの優れた反射データを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
つぎに、この発明を実施した超音波診断装置について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、この発明の一実施例にかかる超音波診断装置を示すブロック図である。この図において、プローブ11は、被検体の表面に接触させて被検体内に超音波ビームを入射するとともにその反射超音波ビームを受波するもので、多数の超音波振動子(圧電素子)が配列されている。送受信ビームフォーマ12は、各振動子を5Mz程度の中心周波数の駆動信号でパルス状に駆動するとともにそのパルスタイミングを制御し、かつ各振動子からの受信信号の遅延時間を制御する。
【0010】
各振動子ごとに駆動パルスの遅延時間をコントロールすることによって、各振動子からの超音波発生タイミングが少しずつずれるようにし、それらの合成波が所望の方向と焦点とを持つような一つの超音波ビームを形成する。また、これらの振動子は反射波の受波によって電気的な受信信号を生じ、これら各受信信号を送波時と同様に各振動子ごとにコントロールされた遅延時間で遅延した上で合成することによって、所望の方向および焦点を持つような一つのビーム状の超音波が受波されたときに相当する受信信号を得る。このような送受波超音波ビームの制御によりたとえば超音波ビームでセクタ面をスキャンするBモードスキャンを行うことなどができる。受信信号は、この送受信ビームフォーマ12内に備えられたA/D変換器(図示しない)でデジタル信号に変換される。
【0011】
このデジタル化受信信号はバンドパスフィルタ13を経ることによって直流成分および不要な高周波成分などのノイズが除去された後、ゲイン調整器14を経てゲイン調整され、その後、直交検波器15で検波され、3〜8MHz程度の高周波から直流が中心周波数となるよう低周波へと周波数変換される。直交検波器15の検波出力はローパスフィルタ16に通されることにより、倍周波数成分などの不要な周波数成分(ノイズ成分)が除去され、つぎにLog変換器17、ダイナミックレンジ調整器18およびエンハンス調整器19を順次経て表示データ生成器20に送られる。表示データ生成器20では、たとえばBモードスキャンにおいて超音波ビームで一つのセクタ面をスキャンした場合の各ビームごとのデータからそのセクタ面でのデータ分布像を作成し、これを画像表示装置21に送って、そのスキャン平面でのBモード画像(超音波断層像)として表示する。
【0012】
ここで、バンドパスフィルタ13は、一つの超音波ビームについての受信信号ごとに、その信号到来時間に応じて周波数特性が、たとえば早い到来時間では図3のAのようになっているが遅い到来時間では図3のBのようになるというように、変化させられるよう構成されている。このバンドパスフィルタ13は、具体的にはたとえば図2のようなデジタルFIR(Finite Impulse Response)フィルタ回路で構成される。
【0013】
図2において、受信信号がたとえばフリップフロップ31、32、…、3nからなるn段の遅延素子に入力され、その各々の遅延出力について乗算器41、42、…、4nにおいて係数C1、C2、…、Cnがそれぞれ乗算された後、これらが加算器51で加算されて出力される。これらの係数C1、C2、…、Cnは、係数発生器52から発生させられる。この係数発生器52は係数C1、C2、…、Cnの多数のセットが格納されたメモリなどからなり、カウンタ53の出力によりその一つのセットが読み出されるようになっている。カウンタ53は、受信信号をA/D変換するA/D変換器のサンプリングクロックに応じてカウントアップするもので、受信信号の到来時間に応じてカウントアップする出力を生じる。
【0014】
これにより、エコー信号の深さごとに係数セットが指定されてバンドパスフィルタ特性が変化させられる。たとえば図3に示すように、時間的に早く到来する深さ1cm以内の浅い部分からのエコー信号については同図Aのような中心周波数7MHz、帯域幅800KHz〜1MHzのバンドパス特性とされ、引き続いて到来するものについては徐々に中心周波数が低くされるとともに帯域幅が広げられ、遅く到来する深さ15cm程度の部分からのエコー信号については同図Bのような中心周波数3MHz、帯域幅2MHzのバンドパス特性とされる。
【0015】
この通過帯域中心周波数は、一般的には、送波超音波周波数の1.5倍〜0.6倍程度の間で変化させられる。1.5倍の通過帯域中心周波数とするときは、受波超音波信号の帯域の高周波側の縁部分を通過させることになる。この通過帯域中心周波数はたとえば64通りに設定できるよう、係数発生器52において対応する係数が格納される。また、通過帯域幅については、たとえば8通りに変化させることができるように係数発生器52において対応する係数が格納される。すなわち、この例では64×8=256通りのフィルタ特性を選択することができ、時間経過に応じてそのフィルタ特性が順次選択され、フィルタ特性がステップ的に変化ていくことになる。
【0016】
このバンドパスフィルタ13において、フィルタ特性をどのように変化させるか、つまりどのような中心周波数・帯域幅を選ぶか、どのように変化させていくかは、図示しないCPUにより指示される。すなわち、送波超音波の周波数(キャリア周波数)についての情報に基づき、その周波数の1.3倍とか1.5倍という中心周波数が選ばれ、これから時間経過に応じて中心周波数がステップ的に低下していき、たとえば0.75倍あるいは0.6倍まで低下していく。すなわち、係数発生器52が、カウンタ53の出力に応じて、どの係数セットC1〜Cnを初期値として発生し、どのように変化させて、どの係数セットC1〜Cnまでとするか、がCPUによって定められる。
【0017】
このように、浅い部分からのエコー信号については、通過帯域中心周波数を高くかつ帯域幅を狭くし、深くなるほど周波数が低くなるとともに帯域幅が広くなるようにしているため、エコー信号の周波数特性に対応した適切なフィルタリングを行うことができるので、不要な周波数成分のノイズを効果的に除去することができる。とくに帯域幅が、深くなるにつれて徐々に拡大されているため、深い部分での超音波のペネトレーション劣化を補うことができる。
【0018】
こうしてフィルタ処理された受信信号は直交検波器15に入力されて周波数変換される。ここで、検波周波数は上記のバンドパスフィルタ13の通過帯域中心周波数と同じものとなっており、エコー信号の到来時間に応じた周波数変化に応じて、バンドパスフィルタ13の通過帯域中心周波数変化と同じに変化させられている。つまり、この検波周波数は、受信信号の到来開始時には送波超音波周波数の1.5倍などとされ、最終的にはたとえば0.6倍となるように、時間経過とともにステップ的に変化させられ、この初期値・最終値・その間の変化度等は、バンドパスフィルタ13におけるものと合致させられる。
【0019】
このように、直交検波器15および検波前のフィルタ13における周波数特性を、エコー信号自体の周波数変化に合わせてダイナミックに変化させることができるので、必要十分なペネトレーションを確保しつつ浅い部分から深い部分に至るまで不要なノイズ成分を効果的に除去し、S/Nの優れた反射データを得ることができる。これによりたとえばノイズのない、S/Nの優れたBモード画像などを得てこれを画像表示装置21において表示することができる。
【0020】
とくに、バンドパスフィルタ13の通過帯域中心周波数および直交検波器15の検波周波数を、受信信号の到来初期に、送波超音波周波数の1.3〜1.5倍等と高める場合には、受信信号の時間軸方向の分解能を高めることができ、表示画像の超音波ビーム方向での空間分解能を高めることができる。この場合、受信超音波信号の周波数帯域幅の高周波側縁部をとらえることになるが、受信信号の到来初期であり、浅い部分からのエコー信号であるから帯域幅の縁部でも振幅が十分に大きく、信号低下はないので、なんらの支障もなく高分解能化できる。
【0021】
なお、上記は一つの実施例について説明したものであり、具体的な構成などは、この発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々に変更可能である。たとえば、バンドパスフィルタ13の具体的な回路構成は図2のものに限定されず、種々のものを採用できる。また、このバンドパスフィルタ13の図3で示した周波数特性は例示に過ぎない。バンドパスフィルタ13の通過周波数帯域幅は、上記では時間経過とともに広がるものとしたが、かならずしもこのように変化させる必要はなく、固定とする場合もあり得る。
【産業上の利用可能性】
【0022】
この発明に超音波診断装置よれば、S/Nを損なうことなくノイズ成分を十分に除去することができ、診断能の高い、優れた超音波画像を得ることなどができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明の一実施例にかかる超音波診断装置のブロック図。
【図2】同実施例におけるバンドパスフィルタの具体的な構成を示すブロック図。
【図3】同実施例におけるバンドパスフィルタの周波数特性を示すグラフ。
【符号の説明】
【0024】
11……………プローブ
12……………送受信ビームフォーマ
13……………バンドパスフィルタ
14……………ゲイン調整器
15……………直交検波器
16……………ローパスフィルタ
17……………Log変換器
18……………ダイナミックレンジ調整器
19……………エンハンス調整器
20……………表示データ生成器
21……………画像表示装置
31〜3n……フリップフロップ
41〜4n……乗算器
51……………加算器
52……………係数発生器
53……………カウンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内に超音波を入射するとともに被検体内からの反射波を受波して受信信号を生じるプローブと、該プローブからの受信信号が通される、通過帯域中心周波数が信号到来時間に応じて低くなるバンドパスフィルタ特性を有するフィルタと、該フィルタを経た受信信号を検波する、検波周波数が上記フィルタの通過帯域中心周波数と合致しかつその低下と同じに信号到来時間に応じて低くなる検波器とを有することを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−230919(P2006−230919A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53547(P2005−53547)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】