説明

超音波診断装置

【課題】超音波診断装置において、受信信号中に含まれるサイドローブ成分等の不要信号成分を抑圧するに際して過度の抑圧を防止する。
【解決手段】複数の素子受信信号から、チャンネル方向に並ぶ複数の符号ビットが取り出される。二値化回路54は、複数の符号ビットに対して二値化処理を適用し、これによって符号データ列を生成する。評価値演算部38においては、周波数軸上において符号データ列が有するDC付近成分のパワーに基づいて評価値(GSCF)を演算する。その評価値によって乗算器60において受信信号の利得が調整される。二値化処理を経るので、サイドローブ成分が過度に評価されることを防止でき、また、DC付近成分を参照するのでメインローブ成分に若干の揺らぎがあってもそれを適正に評価できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、受信信号中の不要信号成分を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置は、生体への超音波の送受波により超音波画像を形成する装置である。その超音波画像の画質を高めるためには、受信信号処理において、サイドローブ(side lobe)成分、グレーティングローブ(grating lobe)成分、雑音(ノイズ)などの不要信号成分を低減することが望まれる。
【0003】
図1には超音波診断装置において受信部を構成する受信ビームフォーマの働きが示されている。符号200は受波処理の様子を示している。アレイ振動子206は直線状又は円弧状に配列された複数の振動素子206aからなる。符号208は受信フォーカス点からの反射波(メインローブ成分)を示しており、符号210は不要波成分(この例では強反射体からのサイドローブ成分)を示している。受信ビームフォーマーは、遅延処理のための遅延器列212を備え、それは複数の遅延器212aにより構成されている。動的に変化する受信フォーカス点において集束作用が発揮されるように個々の遅延器212aでの遅延時間が設定される。
【0004】
図1において、符号202は3つのケースに対応する3つの素子受信信号列を示している。符号204は、3つのケースに対応する3つの位相分布(振幅分布に相当)を示している。第1のケースは、メインローブ成分を受信した場合であり、遅延処理後の素子受信信号列214において個々の素子受信信号の位相は揃っている(符号220参照)。第2のケースは、サイドローブ成分を受信した場合であり、遅延処理後の素子受信信号列216において個々の素子受信信号の位相がチャンネル方向に順次ずれている(符号222参照)。この場合に観測される位相差あるいは周波数はメインローブ方向とサイドローブ方向の角度差に依存する。第3のケースは、不均一媒体内で音速のばらつき(位相収差)が生じた場合であって、そのような場合には遅延処理後の素子受信信号列218において個々の素子受信信号の位相が乱れる(符号224参照)。受信ビームフォーマーでは、遅延処理後の素子受信信号列に対して加算処理が施される。これによって不要信号成分が抑圧される。しかし、整相加算処理だけで不要信号成分の全部を取り除くのは困難であり、整相加算後の受信信号(ビームデータ)には様々な不要信号成分が入り込んで来る。それが超音波画像の画質低下要因となる。
【0005】
受信信号中に含まれる不要信号成分を整相加算処理後に軽減、抑圧する手法として、以下に2つの手法を説明する。1つは、GCF(Generalized Coherence Factor)という係数を用いて受信信号の抑圧を行う第1方法(GCF方式)である(非特許文献1)。もう1つは、SCF(Sign Coherence Factor)という係数を用いて受信信号の抑圧を行う第2方法(SCF方式)である(非特許文献2、特許文献1)。
【0006】
まず第1方法について説明する。チャンネル方向に並ぶ複数の素子受信信号がある時刻において有する複数の瞬時振幅値から振幅値分布が構成される。それは複数の受信チャンネルを横断する方向(チャンネル方向)に沿って並んだ複数の振幅値で構成される。振幅値分布は個々の時刻(サンプリングタイミング)ごとに構成され、動的に変化する。振幅値分布に対してフーリエ変換(周波数解析)を行うと、パワースペクトルが得られる。図2には上記3つの場合についてのパワースペクトルが示されている。(a)は第1ケースに対応し、メインローブ成分が支配的な場合についてのパワースペクトルを示している。(b)は第2ケースに対応し、サイドローブ成分が支配的な場合についてのパワースペクトルを示している。(c)は第3ケースに対応し、位相収差により位相が乱れている場合のパワースペクトルを示している。第1のケースでは、素子受信信号列において位相が揃っているため、(a)に示すように、メインローブ成分がDC付近に鋭いピークを生じさせる。符号226は周波数軸上において、DC(周波数ゼロ)から一定値までの区間に存在するDC付近成分(パワー成分)を示している。これに対し、第2のケースでサイドローブ成分を受信した場合、(b)に示すように、サイドローブ成分の到来方向(角度)に従って定まる周波数にピーク229が現れる。符号228はその場合におけるDC付近成分を示している。第3のケースで位相収差がある場合には、(c)に示すように、パワースペクトルが広がり、ノイズレベルが上昇する。符号230はその場合のDC付近成分を示している。このようなパワースペクトルの変化を利用して、次の(1)式により、整相度合いの評価値つまり係数としてGCFが定義される。
GCF=(DC付近成分としての部分的パワー)/(パワースペクトル全体のパワー)…(1)
【0007】
上記図2の(a)、(b)及び(c)においてハッチング部分226,228,230が上記(1)式における分子の値を示している。パワースペクトル全体の面積に対し、メインローブ成分(つまりDC付近成分)が多ければ、GCFは1 に近付く。そうでなければGCFは0に近付く。従って、GCFは適正成分の量を指標する評価値であり、それを用いて整相加算後の振幅情報の利得を調整することにより、メインローブ成分についての振幅情報の保持と不要信号成分の低減を行える。
【0008】
この第1方法は、周波数軸上においてある程度の幅をもったDC付近区間内の成分に基づいて係数を定めるので、メインローブ成分からの信号成分が多少ゆらいでもGCFの値は低下しないという特長を有する。それ故、超音波画像上において実質部での細かい黒抜け(低輝度部分の散在)という現象が生じにくい。一方、この第1方法によると、遅延処理後の加算処理においてサイドローブ成分が抑圧されるにもかかわらず(これはローパスフィルタ処理に相当する)、加算処理前の素子受信信号列から係数を定めてしまうために、場合によってはサイドローブ成分を含む受信信号を過度に抑圧してしまう。強反射体と同じ深さであってそこから離れた位置に局所的な黒抜け(強反射体に由来する低輝度部分)が生じ易い。
【0009】
次に、第2方法について説明する。チャンネル番号iの個々の受信信号si について、次のように二値化を行う。実際には、各素子受信信号から符号ビットを取り出すことにより以下の信号を得ることも可能である。
【0010】
bi = −1 if si < 0
+1 if si ≧ 0 …(2)
【0011】
上記の信号bi は、複数の素子受信信号からチャンネル方向(横断方向)に沿って順番に符号を取り出したものに相当する。この信号biを用いて、整相度合いの評価指標として係数SCFが以下の(3)式のように定義される。
【0012】
【数1】

【0013】
ここで、Nは受信チャンネル数(受信開口を構成する作動振動素子数)、pはSCFを調整するパラメータである。位相が全チャンネルで揃っている場合、SCF は1となり、位相が乱れる程、0に近づく。よって、SCFを用いて整相加算後の受信信号の利得を調整することにより、不要信号成分を低減できる。
【0014】
図3には、遅延処理後の素子受信信号列から取り出される、特定タイミングでの振幅値分布232が示されている。横軸がチャンネル番号を示しており、縦軸が振幅値を示している。これに対して二値化処理を行ったものが実線で示される符号データ列234である。通常のパルス波送信が行われる場合、グレーティングローブ成分については、素子受信信号列として図4に示すようなものが得られる。すなわち、ある時刻(ある深さに相当)236に着目した場合、実質的に見て数チャンネルしか位相が揃わない(図4においては2チャンネルでピークが揃っている)。そのような数チャンネルの振幅値は同時刻での他のチャンネルでの振幅値に比べて大きいため、GCFを用いる場合には、数チャンネルの信号の寄与が支配的になり、大きなGCFが求められてしまうことになる。一方、SCFでは、上記のように各チャンネルの振幅値を二値化するために、大きな振幅値が支配的なものではなくなり、個数が多い他のチャンネルの振幅値が支配的なものとなる。つまり、SCFは小さな値となるので、グレーティングローブ成分の低減効果がGCFを利用する場合よりも強くなる。その意味においてSCFを利用する方が画質改善度が高い。一方、位相収差や散乱体によるスペックルの影響によってメインローブ成分も揺らいでいるのが通常であり、そのような揺らぎからSCFが小さくなると、超音波画像上において実質部中に細かい黒抜けが生じやすくなる。二値化後の信号biに着目すると、SCFを求める上記(3)式はパワースペクトルで見ればDC成分のみを用いて係数を算定していることになる。DCから外れた成分が多くなればなる程それに応じてSCFが小さくなる。GCFを利用する場合には図2に示したようにDC近傍までを考慮するから少々の揺らぎがあってもそれに影響され難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開WO2010/018282
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】J. Camacho,et al, "Phase Coherence Imaging", IEEE trans. UFFC, vol.56, No.5, 2009.
【非特許文献2】Pai-Chi Li,et al, "Adaptive Imaging Using the Generalized Coherence Factor", IEEE Transactions Ultrasonics, Vol.50, No.2, 2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
以上のように、GCF方式によると、周波数軸上においてある程度の幅をもったDC近傍成分に注目し、そのパワーに基づいて評価値を演算するので、メインローブの位相が多少揺らいでも評価値は低下しないから、そのような揺らぎがあってもメインローブの過度の抑圧が防止される。一方、遅延処理後の加算処理によってサイドローブ成分が低減されるにもかかわらず、その本来の低減作用を考慮することなく、遅延処理後の複数の素子受信信号から評価値を演算するので、その評価値を利用して遅延処理かつ加算処理後の受信信号の利得を調整するならば、どうしても当該受信信号を過度に低減させてしまうという問題が生じる。その結果、断層画像上において実質部内に細かい黒抜け等を生じさせる。
【0018】
SCF方式によると、個々の素子受信信号の振幅の大小は考慮されず各符号の個数だけが問題となるから、グレーティンググローブにおいて相対的に位相が揃った数チャンネルよりも他のチャンネルが支配的に考慮されることになり、GCF方式よりも強いグレーティングローブ低減効果を期待できる。一方、メインローブ成分であっても、若干の位相収差や散乱体によるスペックルの影響によって評価対象となるDC近傍域から外れる場合もある。その場合にはメインローブ成分の画像化が損なわれてしまう。
【0019】
本発明の目的は、受信信号に含まれる不要信号成分を的確に低減しつつ受信信号に対して過度の低減が行われないようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る超音波診断装置は、複数の振動素子からなるアレイ振動子と、前記複数の振動素子から出力された複数の素子受信信号に対して遅延処理を行う遅延処理部と、前記遅延処理後の複数の素子受信信号に対して加算処理を行って受信信号を出力する加算処理部と、前記遅延処理後且つ前記加算処理前の複数の素子受信信号から、素子配列方向に並んだ複数の符号データからなる符号データ列を取り出す手段と、前記符号データ列に含まれる少なくとも直流付近成分に基づいて評価値を演算する評価値演算部と、前記評価値を用いて前記受信信号の利得を調整する利得調整部と、を含む。
【0021】
上記構成によれば、遅延処理後の複数の素子受信信号から複数の符号データが取り出される。個々の素子受信信号の振幅値をそのまま利用するのではなく、それを符号化(望ましくは二値化)して符号データの形式で利用、評価するので、振幅値の大小に影響されずに振幅値分布の性状を把握することができる。これによりサイドローブ成分等が評価値を過度に支配することがないので、過度の利得抑圧による強反射体由来の黒抜け等の問題を軽減できる。同時に、符号データ列を周波数軸上に展開した場合におけるDC成分のパワーのみならずその付近のパワーまでも含めて評価値を演算できるから、メインローブ成分の揺らぎを捕捉することが可能であり、つまりそのような揺らぎを含めて評価値を計算できるから、過度の抑制が生じて実質部内に細かい黒抜けが生じてしまうことを防止又は軽減できる。このように以上の構成によれば、GCF及びSCFの利点を得つつ、それら欠点を緩和できる。よって、実用的価値の高い信号処理を提供できる。
【0022】
望ましくは、前記評価値演算部は、前記直流付近成分を作動振動素子数を用いて規格化することにより前記評価値を演算する。受信開口のサイズによって受信信号生成数つまり作動振動素子が変化し、それに連動してDC付近成分のパワーが変動するから、開口サイズの変化によって不用意に利得を変化させないために、作動振動素子数での規格化が望まれる。
【0023】
望ましくは、前記複数の素子受信信号に対して重み付け処理を行う手段を含み、前記評価値演算部は前記各素子受信信号に対して与えられる重み値に従って前記評価値を演算する。複数の素子受信信号に対する重み付け処理によって個々の素子受信信号が整相加算後の受信信号に与える寄与度が変化するので、評価値の演算に際しても重み値を考慮するのが望ましい。
【0024】
望ましくは、前記符号データ列を取り出す手段は、前記複数の素子受信信号から複数の符号ビットを取り出すことによって前記符号データ列を取り出す。望ましくは、前記符号データ列を取り出す手段は、前記複数の素子受信信号からそれらの瞬時振幅値で構成される振幅値分布を取り出す手段と、前記振幅値分布をヒステリシス特性をもって二値化処理することにより前記符号データ列を取得する手段と、を含む。ヒステリシス特性をもった二値化処理によればベースライン付近での不安性な挙動によらない自然な二値化を行える。ヒステリシス特定は、周知のように、波形の立ち上がりと立ち下がりとで別々の閾値を設定するものである。なお、ベースライン付近を0に固定してしまい、それを信号処理上無視する三値化処理を適用することも可能である。
【0025】
上記の処理において、DC付近を定義する周波数軸上の幅を超音波画像を観察するユーザーによりあるいはその画質評価結果から自動的に可変設定できるように構成するのが望ましい。その幅を広げればメインローブ成分の揺らぎに強くなり不要信号成分の過度の抑圧をより緩和できる。その幅を狭くすればSCF方式に近い作用が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、受信信号に含まれる不要信号成分を的確に低減しつつ受信信号に対して過度の低減が行われないようにできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】受波処理及び受信信号列を示す説明図である。
【図2】振幅値分布の周波数解析によって得られるパワースペクトルを示す図である。
【図3】二値化処理の例を示す図である。
【図4】サイドローブ成分についての素子受信信号列を示す図である。
【図5】実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図6】評価値演算部の第1構成例を示すブロック図である。
【図7】サイドローブ成分についての二値化処理を示す図である。
【図8】ヒステリシス特性をもった二値化処理を示す図である。
【図9】評価値演算部の第2構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0029】
本発明に係る超音波診断装置は、素子受信信号列から取り出される複数の瞬時振幅値からなる振幅値分布を二値化処理することにより符号データ列を得て、その符号データ列が有するDC近傍のパワー値から評価値としてのGSCF(Generalized Sign Coherence Factor)を算出し、その評価値を用いて整相加算処理後の受信信号の利得を調整するものである。GSCFを利用することにより、GCF方式及びSCF方式での短所を補うことができ、それらの長所を引き出すことができる。もっとも、本発明は、GSCFを用いる方法に限定されるものではなく、二値処理後の符号データ分布を周波数軸上に展開した場合におけるDC付近成分に注目し、それに応じて評価値を定める手法一般を包摂する。
【0030】
図5には、本発明に係る超音波診断装置の好適な実施形態が示されており、図1はその全体構成を示すブロック図である。この超音波診断装置は医療の分野において用いられ、生体に対する超音波の送受波によって得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する装置である。本実施形態においては、超音波画像としてBモード断層画像が形成されているが、もちろんドプラ画像等が形成されてもよい。この超音波診断装置は上述した不要信号成分の抑圧機能を有している。
【0031】
図5において、アレイ振動子10は、超音波探触子内に配置され、複数の振動素子12により構成される。複数の振動素子12は直線状に配列されている。もちろん、それらが円弧状に配列されていてもよい。複数の振動素子12を利用して超音波ビーム(送信ビーム、受信ビーム)が形成され、それが電子的に走査される。電子走査方式としては、電子セクタ走査、電子リニア走査等が知られている。1Dアレイ振動子に代えて2Dアレイ振動子を用いることも可能である。
【0032】
送信部14は送信ビームフォーマーである。すなわち、送信部14は送信時において複数の振動素子12に対して所定の遅延関係を有する複数の送信信号を供給する。これにより送信ビームが形成される。受信時において、生体内からの反射波がアレイ振動子10にて受波される。これにより複数の受信信号(素子受信信号)が生じ、それが増幅部16へ出力される。増幅部16、遅延部20及び信号加算部28が受信部を構成し、その受信部は受信ビームフォーマーである。
【0033】
増幅部16は、複数のアンプ18により構成されている。その後段には遅延部20が設けられ、その遅延部20は複数の遅延器22により構成されている。それらの遅延器22によって遅延処理(整相処理)が実行される。各遅延器22に与える遅延時間すなわちディレイデータは制御部50から供給される。遅延部20の後段にアポダイゼーション処理部が設けられてもよい。遅延処理後の複数の受信信号(複数の素子受信信号)が信号加算部28に入力される。そこで遅延処理後の複数の受信信号が加算され、電子的に受信ビームが形成される。整相加算処理後の受信信号(ビームデータ)が検波部30に出力されている。検波部30は検波処理を行う公知の回路である。制御部50には入力部52が接続されている。本実施形態においては、不要信号成分の抑圧を行うために不要信号成分抑圧部が設けられている。それは、具体的には、評価値演算部38及び乗算器40を有する。
【0034】
乗算器40において検波後の受信信号に対する利得調整が行われる。検波前の受信信号に対して利得調整が行われてもよい。利得調整は評価値(GSCF)に基づいて行われ、例えば、評価値1の場合には利得1であり、その場合には振幅の抑圧は行われず、受信信号は維持される。1よりも小さな評価値が与えられた場合に受信信号が抑圧される。各時刻ごとにリアルタイムで評価値が演算され、これにより受信信号の利得が動的に可変される。
【0035】
信号処理部42は、受信信号に対して対数圧縮等の各種の信号処理を適用する。画像形成部44は、DSC(デジタルスキャンコンバータ)によって構成され、複数の受信信号(ビームデータ)から二次元断層画像を構成する。DSCは座標変換機能、補間処理機能、等を備えている。それにより生成された画像データは表示処理部46を経由して表示器48へ送られる。表示器48においては超音波画像が表示される。
【0036】
次に評価値演算部38について説明する。図6には評価値演算部の第1例が示されている。まず周辺構成について説明すると、加算処理後の素子受信信号列は信号加算部28で加算されて受信信号となり、それに対しては乗算器40において利得調整処理が適用される。
【0037】
評価値演算部38には、複数の素子受信信号から取り出された複数の符号ビットが入力されている。すなわち、図示されていないA/D変換部によって各素子受信信号はアナログ形式からデジタル形式へ変換され、瞬時振幅値は複数のビット列によって表現される。その1つが正又は負を示す符号ビットである。チャンネル方向に並ぶ複数の符号ビットは符号データ列を構成するものである。二値化回路54は、各符号ビットに対して二値化処理を適用する。実際には、上記の(2)式に従って、符号ビット0を符号データ1にし、符号ビット0を符号データ-1にする。もっともその処理を省略することは可能である。二値化処理後の符号データ列は、演算器56,58に入力される。図7には、グレーティングローブにおける二値化処理の概念が示されている。符号238は、あるタイミングにおいてチャンネル方向に存在する複数の瞬時振幅からなる振幅値分布を示している。符号240はそれに対する二値化処理後の信号を示している。グレーティングローブ成分に由来する数ピークが揃っていても、二値化処理により振幅値が捨象されるために、二値化処理後の信号においては、当該グレーティングローブ成分の存在が小さくなっている。
【0038】
二値化処理後の符号データ列は演算器56,58に入力される。それらはそれぞれ以下の(4)式における分子及び分母を演算するモジュールである。
【0039】
【数2】

【0040】
上記演算器56,58はハードウエアで構成されてもよいし、それらがソフトウエアの機能として実現されてもよい。(4)式において、分子は、二値化信号のDC付近成分のパワー値を表し、すなわち、フーリエ展開後において周波数軸上のDC(周波数ゼロ)から周波数一定値までの区間M内に存在するパワー値を表している。(4)式において、分母は、二値化信号の全パワー値に相当し、実際、それは受信チャンネル数の二乗に相当するものである。そこで分母を省略することも可能であるが、受信開口の可変に応じてやはり分母を変化させるのが望ましい。演算器56はFFT機能を備えていてもよいが、DC付近成分だけのパワー値を求めるだけなら、(4)式のみを実現する回路構成を採用すれば足りる。このような構成により演算量又は回路規模を削減できる。
【0041】
演算器60は、分子A及び分母Bを用いて評価値つまり利得調整係数としてのGSCFを演算するモジュールである。その場合には(4)式におけるパラメータpが指数として作用する。それによって抑圧の程度を可変可能である。演算されたGSCFは乗算器40へ利得値として出力される。
【0042】
上記の二値化処理に当たっては、図8に示すようにヒステリシス特性をもった二値化処理を利用するようにしてもよい。+Tは下から上への振幅変化でのみ機能する第1閾値であり、-Tは上から下への振幅変化でのみ機能する第2閾値である。これによって振幅値分布242から二値化信号244が得られる。なお、ベースライン付近を強制的に0とする三値化処理を適用することも可能である。
【0043】
図9には評価値演算部38の第2例が示されている。図6に示した第1例と同様の構成には同一符号を付し、その説明を省略する。この構成例では、重み付け関数発生器66で発生した重みが重み乗算部68へ与えられている。乗算部68は複数の素子受信信号に対応して設けられた複数の乗算器70によって構成されている。各乗算器70は各素子受信信号に対してアポダイゼーション用の重みを乗算するものである。その乗算によって開口可変が行われてもよい。重みを示す数列は、演算器62に入力され、また、演算器64に入力されている。演算器62では、重みがDC付近成分のパワーに乗算されている。演算器64では、重みが加算されている。この処理は以下の(5)式に基づくものである。
【0044】
【数3】

【0045】
図9に示す構成では、乗算部68に入力される前の地点から符号ビットが取り出されている。この構成によれば重みとしてマイナス値があっても適正に処理できる。但し、重みがプラス側の値しかとらないなら、乗算部68の後段から符号ビットを取り出すようにしてもよい。
【0046】
上記の実施形態によれば、素子受信信号に対する二値化処理によって、振幅情報が無くなるので、SCF方式と同等の不要信号抑圧効果を得られる。また素子受信信号の二値化処理によって、パワースペクトルにおいて全体のレベルが高くなる。これによりサイドローブ成分でもDC付近成分にある程度のパワーをもつことになるからGCF方式の短所である過度の振幅抑圧を防止できる。GCF方式と同様に、幅をもったDC付近成分を用いて評価値を算出するのでSCF方式での短所である揺らぎによる問題を改善できる。つまり、メインローブ成分が揺らいでも評価値が極端に下がってしまうことはないから、実質部の黒抜けを防止改善できる。なお、上記(4)式において分母としてチャンネル数の二乗を利用するならば演算量を削減できる。
【符号の説明】
【0047】
38 評価値演算部、40 乗算器、56,58,38 演算器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の振動素子からなるアレイ振動子と、
前記複数の振動素子から出力された複数の素子受信信号に対して遅延処理を行う遅延処理部と、
前記遅延処理後の複数の素子受信信号に対して加算処理を行って受信信号を出力する加算処理部と、
前記遅延処理後且つ前記加算処理前の複数の素子受信信号から、素子配列方向に並んだ複数の符号データからなる符号データ列を取り出す手段と、
前記符号データ列に含まれる少なくとも直流付近成分に基づいて評価値を演算する評価値演算部と、
前記評価値を用いて前記受信信号の利得を調整する利得調整部と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記評価値演算部は、前記直流付近成分を作動振動素子数を用いて規格化することにより前記評価値を演算する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記複数の素子受信信号に対して重み付け処理を行う手段を含み、
前記評価値演算部は前記各素子受信信号に対して与えられる重み値に従って前記評価値を演算する、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項4】
請求項1記載の装置において、
前記符号データ列を取り出す手段は、前記複数の素子受信信号から複数の符号ビットを取り出すことによって前記符号データ列を取り出す、ことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項5】
請求項1記載の装置において、
前記符号データ列を取り出す手段は、
前記複数の素子受信受信信号からそれらの瞬時振幅値で構成される振幅値分布を取り出す手段と、
前記振幅値分布をヒステリシス特性をもって二値化処理することにより前記符号データ列を取得する手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−152311(P2012−152311A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−12701(P2011−12701)
【出願日】平成23年1月25日(2011.1.25)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】