説明

超音波診断装置

【課題】超音波診断装置において、被検者及び被検部位の組み合わせに適合する現プリセットデータが設定されるようにする。
【解決手段】プリセット管理テーブル40においては、被検者及び被検部位の組み合わせごとにプリセットデータ識別子及びサブプリセットデータ識別子が管理されている。被検部位はボディマーク種類及びプローブマーク位置から特定される。制御部10は、プリセット管理テーブル40に従って、プリセット記憶部12から特定のプリセットデータを取得し、また必要に応じて、サブプリセット記憶部26から特定のサブプリセットデータを取得する。制御部10は、取得したデータに基づいて現プリセットデータ36を構成し、その内容に従って装置動作条件を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置に関し、特に、装置動作条件の設定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
医療の分野において超音波診断装置が活用されている。超音波診断装置は、生体への超音波の送受波によって得られた受信信号に基づいて超音波画像を形成する装置である。超音波診断は様々な診療科目で利用され、超音波診断対象となる部位も多様である。しかも、超音波診断装置上には多数の動作モードが存在し、個々の動作モードにおいて設定すべきあるいは調整可能な値は多数存在する。そのような値として、例えば、ゲイン値、診断深さ、フィルタ係数、コントラスト値等をあげることができる。
【0003】
例えば、超音波診断を行うに際しては、装置動作に関わる500-1000個のパラメータ(パラメータセット)に値を与える必要がある。実際には、複数のプリセットデータが事前に登録されており、その中から特定のプリセットデータが自動的に又は手動で選択される。個々のプリセットデータは上記パラメータセットに与える500-1000個の値(パラメータ値セット)によって構成されるものである。勿論、選択されたプリセットデータにおける1又は複数のパラメータ値につきその大きさを手動で事後的に変更することも可能であり、被検者、被検部位、体型、検査目的、検査者の嗜好、等によって1又は複数のパラメータ値が調整され得る。
【0004】
被検者ごとにパラメータ値セットの最適内容は相違するから、個々の被検者ごとにパラメータ値の組み合わせをプリセットデータとして登録しておくのが理想的である。しかし、その場合には記憶容量が膨大となるし、僅かな違いでも別のプリセットデータとしての登録が必要となるから記憶領域の効率的な利用が図れないという問題が生じる。プリセットデータの登録数についてはそれを制限せざるを得ない。
【0005】
一方、検査条件(装置動作条件)の再現性の観点からは、個々の被検者ごとに過去の検査で使用したパラメータ値の組み合わせ内容にできるだけ近い内容で装置のセットアップが行われるのが望ましい。しかし、プリセットデータの登録数の限界はそのような要望を満たす際の障害となる。そこで、プリセットデータの中に、選択的に使用し得る複数のサブプリセットデータを含めておき、個々の検査時に、それらの内のいずれか1つを選択して使用する方式が有力となる。そのような部分修正方式によれば、プリセットデータ自体の個数を増加させることなく、プリセットデータ数を増大させたのと同じような利便性を得られる。またサブプリセット以外の部分を共用できるから記憶容量の点でも有利であるし、例えば体型に応じた部分的なカスタマイズを行える。しかしながら、プリセットデータ内に含めることができるサブプリセットデータの個数には上記同様の理由からやはり上限を設ける必要がある。すなわち、プリセットデータ個々を巨大化するのでは検査条件の再現性の観点からの要望を十分に満たすことはできない。よって、登録しておくプリセットデータという観点では個数や規模を制限しつつも、実際に使用するプリセットデータの内容をユーザーに負担をあまりかけずに柔軟にカスタマイズできるようにすることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4567844号公報
【特許文献2】特開2010−136873号公報
【特許文献3】特開2010ー63757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来においては、被検体及び被検部位の組み合わせとプリセットデータとの関係については格別管理されていない(特許文献1−3参照)。例えば、一回の超音波検査において複数の被検部位に対して超音波診断を連続して順次行う場合に、被検部位の変更の都度、新しい被検部位に適合したプリセットデータを簡便に選択あるいは利用することができなかった。
【0008】
本発明の目的は、プリセットデータの選択あるいは構成に当たってユーザー負担を軽減することにある。あるいは、本発明の目的は、被検体及び被検部位に適合したプリセットデータを簡便に利用できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は超音波検査の開始後に被検部位が変更された場合に当該被検部位に適合したプリセットデータを再構成できるようにすることにある。あるいは、本発明の目的は、装置動作条件の設定に関して良好な再現性を得られるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る超音波診断システムは、現在使用する現プリセットデータの元となる元データが格納された元データ記憶手段と、被検者及び被検部位の組み合わせに対応したプリセットデータ内容を管理するための管理情報が格納された管理情報記憶手段と、前記管理情報に従って前記元データ記憶部に格納された元データを利用して現被検者及び現被検部位の組み合わせに適合する現プリセットデータを構成し、当該現プリセットデータに基づいて装置動作条件を設定する手段であって、現被検者について現被検部位の変更が検知された場合に現プリセットデータ内容を再構成する制御手段と、を含む。
【0010】
上記構成によれば、現被検者及び現被検部位の組み合わせに応じて現プリセットデータを構成してそれを装置動作条件の設定に利用できるから、超音波検査を的確に実行でき、あるいは、ユーザーの設定負担を軽減できる。特に、一回の超音波検査が複数の診断工程からなる場合、すなわち、同じ被検者について複数の被検部位を順番に超音波診断するような場合に、診断工程の切り替わり(現被検部位の切り替わり)の時点で現プリセットデータ内容を新しい被検部位に自動的に適合させることが可能となる。上記構成によれば、仮に、各診断行程で幾つかのパラメータ値がユーザー調整されるとしても、多くのパラメータ値についてユーザー調整を行わなければならない場合に比べて、ユーザーの負担を大幅に軽減できる。
【0011】
いずれかの元プリセットデータを選択してそれをそのまま現プリセットデータとして利用するようにしてもよいが、そのような方法によると、多数の元プリセットデータを登録しておかなければならなくなる。また、かなり部分的に重複した関係にある複数のプリセットデータを登録することになるから、記憶効率が悪くなる。そこで、プリセットデータを構成し得る複数の要素データを組み合わせて、必要な都度、現プリセットデータをカスタマイズできるようにするのが望ましい。その場合に、元プリセットデータを基本とし、それに対して部分修正を行うデータを別途登録しておくように構成するのが特に望ましい。後者のデータを個々の超音波診断装置に保有するようにしてもよいし、それらをサーバー上に登録して複数の超音波診断装置間で共用できるように構成してもよい。上記の超音波診断システムは、超音波診断装置単体、及び、超音波診断装置を含むネットワークシステムを含む概念である。
【0012】
現被検部位の変更は、ユーザーによる入力情報(例えば診断部位の入力)に基づいて検知するようにしてもよいし、ボディマークの変更、ボディマーク上におけるプローブマークの位置の変更、等に基づいて検知するようにしてもよい。管理情報の一部として、被検者と被検部位の組み合わせ単位で、プローブ種別、選択回数、選択頻度、前回検査日時(前回使用日時)、前回使用順序(前回の超音波検査における選択順位)、等を管理するようにしてもよい。いったん自動的に設定された現プリセットデータ(初期プリセットデータ)の一部をユーザーがマニュアル変更した場合に適時にその内容をもって新しい元データとして新規登録を行うのが望ましい。なお、同じ被検部位に対して複数の計測モードで複数の超音波診断が行われるような場合には検査項目の変更を検知してプリセットデータの再構成を行うようにしてもよい。
【0013】
ちなみに、管理情報を参照しても被検者及び被検部位の組み合わせに適合する元データを特定できない場合には従来同様にデフォルトとして指定されている元データを利用して現プリセットデータを自動的に構成するか、ユーザーにより元データを選択させて現プリセットデータを構成するようにしてもよい。その場合、検査開始後の適時の段階であるいは実際の超音波診断に先立って、ユーザーによって1又は複数のパラメータ値が適宜変更され得る。
【0014】
望ましくは、前記元データ記憶手段は、複数の元プリセットデータを格納した第1のデータ記憶部と、前記複数の元プリセットデータに組み込み可能な複数の拡張サブプリセットデータを格納した第2のデータ記憶部と、を含み、前記管理情報においては、前記被検者及び被検部位の組み合わせに対して、少なくともプリセットデータ識別子が対応付けられ、且つ、拡張サブプリセットデータを利用することになる拡張方式が適用される前記組み合わせについては更に拡張サブプリセットデータ識別子が対応付けられ、前記現被検者及び現被検部位の組み合わせに応じて拡張サブプリセットデータが組み込まれた現プリセットデータを利用し得る。
【0015】
上記構成によれば、複数の元プリセットデータの中から被検者及び被検部位に適合した元プリセットデータを選択でき、それをそのまま利用して(標準方式)あるいはそれを部分的に修正して(拡張方式)、実際に使用する現プリセットデータを構成することができる。後者の場合、例えば、元プリセットデータが1000個のパラメータ値で構成される場合、その内で例えば500個のパラメータ値が拡張サブプリセットデータで代替され得る。その場合、拡張サブプリセットデータは置換データとして機能する(置換的拡張方式)。なお、拡張サブプリセットデータが追加的に組み合わされるようにしてもよい(付加的拡張方式)。
【0016】
望ましくは、前記各元プリセットデータは、基本部分と、選択的に利用可能な部分としての標準サブプリセットデータと、を有し、前記拡張方式が適用される場合に、前記プリセットデータ識別子によって指定された特定の元プリセットデータにおける標準プリセットデータに代えて前記拡張サブプリセットデータ識別子によって指定された特定の拡張サブプリセットデータが組み込まれる。
【0017】
上記構成によれば、個々の元プリセットデータには、1又は複数の標準サブプリセットデータが含まれる。複数の標準サブプリセットデータが含まれる場合にはそれらは択一的選択関係に立つ。すなわち、それらは内部的な選択肢として機能する。プリセットデータのカスタマイズに当たり、内部的な選択肢の個数を増大させることも可能であるが、その場合には元プリセットデータのサイズが増大してしまって管理が面倒あるいは煩雑になるので、上記構成のように、外部的選択肢あるいは共用選択肢として複数の拡張サブプリセットデータを用意しておくのが望ましい。つまり、プリセットデータの一部分について外部に複数のバリエーションを用意しておくものである。通常、当該一部分は変動可能性の高い複数のパラメータからなる。
【0018】
望ましくは、現在使用されている現ボディマークの種別を判定する第1判定手段と、現在使用されている現プローブマークの種別及び位置の少なくとも一方を判定する第2判定手段と、前記第1判定手段の判定結果及び前記第2判定手段の判定結果から前記被検部位の変更を検知する検知手段と、を含み、前記被検部位を特定する情報として、前記現ボディマークの種別と前記現プローブマークの種別及び位置の少なくとも一方とが用いられる。
【0019】
超音波検査の初期セットアップ時においては、被検部位(ボディマーク種別等)によらずに当該被検者についての前回の超音波検査で最初に使用されたプリセットデータ内容と同一内容が現プリセットデータとして選択されるようにしてもよい。そして、その後においてボディマーク種別の変更、プローブマーク位置の変更等があった場合に現プリセットデータの内容がその時点の状況特に被検部位に相応しい内容に再構成されるようにしてもよい。
【0020】
望ましくは、前記制御手段は、前記現ボディマークの種別が変更された場合、及び、前記現ボディマーク上における前記現プローブマークの位置について変更検知条件を満たす変更があった場合の少なくとも1つが生じたときに前記現被検部位の変更を検知する検知手段を有する。
【0021】
現ボディマークの種別が変更された場合には同じ被検者について引き続いて別の超音波診断が行われることを推定できるので、それに応じて現プリセットデータの内容を更新するのが望ましい。同じく、現ボディマーク上における現プローブマークの位置が実質的に変更された場合にも現プリセットデータの内容を更新するのが望ましい。変更検知条件としては、ボディマーク上に設定された区分を超えたプローブ位置変化等をあげることができる。プローブ位置が甲状腺から腹部へ、腹部から下肢(下肢血管)へ移動した場合に自動的に現プリセットデータ内容が更新されるように構成するのが望ましい。
【0022】
望ましくは、前記制御手段は、前記現プリセットデータにおける標準サブプリセットデータ又は拡張サブプリセットデータの内容がユーザーにより変更された場合に前記第2のデータ記憶部に対する新規登録を実行する登録手段を有する。この構成によれば使用実績のあるサブプリセットデータを元データとして保存しておくことができる。その場合には、拡張サブプリセットデータの追加となるから、プリセットデータそれ自体の個数の増大を防止できる。
【0023】
望ましくは、当該超音波診断システムは、送受信部及び少なくとも前記制御手段を備える超音波診断装置と、前記超音波診断装置に対してネットワークを介して接続され、前記第2の記憶部を有する拡張サブプリセットデータサーバーと、を有する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ユーザーに格別の負担をかけることなく、カスタマイズされたプリセットデータを簡便に利用できる。あるいは、超音波検査の進行に伴って各段階において良好な再現性を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る超音波診断システムの基本的な構成を示す概念図である。
【図2】本発明に係る超音波診断システムの実施形態を示すブロック図である。
【図3】図2に示した超音波診断装置における動作例を示すフローチャートである。
【図4】図3に示したS106の具体的な構成例を示すフローチャートである。
【図5】ボディマーク上に設定される複数の区分を説明するための図である。
【図6】図1に示したプリセット管理テーブルの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1には、本発明に係る超音波診断システム(あるいは超音波診断装置)についての基本構成が概念図として示されている。この超音波診断システムは医療機関等において設けられるものであり、被検者に対して超音波診断を実行することにより被検者についての超音波画像を形成するものである。
【0028】
制御部10は、超音波診断装置に含まれる各構成の動作制御を行うモジュールであり、制御部10は、装置動作条件を規定する複数のパラメータに対してそれぞれパラメータ値を与える機能を有している。すなわち装置動作条件の設定にあたってプリセットを行う機能を有している。この制御部10に対しては、被検者識別情報(被検者ID)、ボディマーク(BM)識別情報、プローブマーク(PM)識別情報、プローブマーク位置情報等が入力され、また必要に応じて他の情報が入力される。それらの情報に基づいて、制御部10は実際に使用するプリセットデータ(現プリセットデータ)36を構成し、その内容に基づいて実際に装置動作条件の設定を行う。また制御部10は、既に設定されたプリセットデータつまりパラメータ値セットに対して、ユーザー入力に基づいてその一部を変更する制御も実行している。制御部10それ自体はCPU及び動作プログラムによって構成される。
【0029】
プリセット記憶部12は、複数のプリセットデータを格納した第1記憶部であり、図1においては、PS1〜PSnまでのn個のプリセットデータが格納されている。各プリセットデータは実際に使用する現プリセットデータの元になるデータである。それぞれのプリセットデータは基本的に同一の構造を有しており、ここで一番目のプリセットデータPS1を代表させてその構造を説明する。プリセットデータ14は、基本部分(共通部分)16と選択部分とからなる。選択部分は図示の例において4つのサブプリセットデータ(標準サブプリセットデータ)18,20,22,24により構成されている。それらのサブプリセットデータ18〜24は択一的に選択されるものであり、その選択されたサブプリセットデータだけが実際に使用される。ただし、後に説明するように拡張サブプリセットデータが利用される拡張方式が適用される場合、標準サブプリセットデータとして用意されている4つのサブプリセットデータ18〜24は利用されず、特定の拡張サブプリセットデータが代替使用される。図1においては、符号14が付されたプリセットデータPS1においてはa,b,c,dというラベル付けがなされた標準サブプリセットデータ18〜24が含まれている。プリセットデータは数百個あるいは千個以上のパラメータ値からなるデータセットであり、ここで各標準サブプリセットデータは例えば数百からなるパラメータ値により構成されている。ちなみに、それぞれのプリセットデータが単一のサブプリセットデータだけを有していてもよい。
【0030】
サブプリセット記憶部26は、複数のサブプリセットデータ(拡張サブプリセットデータ)を格納した第2記憶部である。図1においては、a1,a11,...等によって個々のサブプリセットデータが表されている。ここで符号28によって特定される第1段目の複数のサブプリセットデータは、それぞれプリセットデータPS1におけるサブプリセットデータaに代替されるサブプリセットデータである。以下同様に符号30で特定される第2段目の複数のサブプリセットデータは、それぞれプリセットデータPS1におけるサブプリセットデータbに代替されるデータであり、このことは符号32に示される第3段目及び符号34で示される第4段目のサブプリセットデータ群についても同様である。サブプリセット記憶部26においてはサブプリセットデータを基本的に自由に追加格納することが可能であり、すなわち第1記憶部としてのプリセット記憶部12において一定のデータ数あるいはデータボリュームという制限を設けつつも、第2記憶部としてのサブプリセット記憶部26の記憶内容の増大(あるいは共用)を許容することによって、重複格納の防止と柔軟性あるサブプリセット構成とを両立させることが可能となる。ちなみに、サブプリセット記憶部26に格納されている個々のサブプリセットデータも現プリセットデータの一部を構成し得る元データである。
【0031】
後述するように、現サブプリセットデータの構成方式として、本実施形態においては標準方式と拡張方式とが用意されており、前者の標準方式が採用される場合にはプリセット記憶部12に格納されているプリセットデータがそのまま現プリセットデータとして利用され(いずれかの標準サブプリセットデータが選択的利用され)、後者の拡張方式が採用される場合にはプリセット記憶部12からいずれかのプリセットデータが選択された上で、それに対して、サブプリセット記憶部26から選択されたいずれかのサブプリセットデータが組み込まれ、組み込み完了後すなわちカスタマイズ後のプリセットデータが現プリセットデータとして利用される。
【0032】
現プリセットデータを構成するため、より詳しくは、被検者(現被検者)及び被検部位(現被検部位)の組み合わせに適合した現プリセットデータの内容を実現するために、本実施形態においては、プリセット管理テーブル40が設けられている。そこにはプリセットを管理するための管理情報が格納されている。その管理情報は、複数のレコード42からなるものである。各レコード42は被検者及び被検部位の組み合わせごとに生成されている。具体的には、各レコード42は、被検者IDに対して、プリセットデータ識別子(図1においてPSと表記)とサブプリセットデータ識別子(図1においてSPSと表記)とが対応づけられている。さらに被検者IDに対して、選択回数、ボディマーク(BM)種類及びプローブマーク(PM)位置情報、その他の情報が対応付けられている。ここで、選択回数は、当該レコードが使用された回数(累積選択数)を表すものであり、BM種類はボディマークの種別を表す情報であり、PM位置は特定のボディマーク上におけるプローブマークの位置、具体的にはプローブマークが位置する区分の情報を表している。BM種類とPMの位置の2つの情報は被検部位を間接的に特定する情報であり、すなわちボディマークの種別から種別単体であるいはそれとプローブマーク位置の位置から、被検部位を自動的に認識することが可能である。
【0033】
本実施形態においては、後に説明するように、特定の被検者に対して複数の診断工程からなる超音波検査を実施する場合、最初の診断工程での初期設定においては被検者IDに基づいて特定のプリセットデータが現プリセットデータとして利用され(その場合、複数の標準サブプリセットデータの中から、管理情報によって指定されるデータが選択され、あるいは、デフォルトとして事前に指定されているデータが選択される)、その上でBM種類及びPM位置に基づいて新しいレコードが順次選択される。すなわち、一連の超音波検査において診断工程を繰り返す際において、すなわち被検部位の特定あるいは変更がなされる都度、プリセットデータ及びサブプリセットデータが更新される。ちなみに、図1に示すプリセット管理テーブル40において、サブプリセットデータ識別子において(a)及び(b)のように括弧が付されたものは標準サブプリセットデータを表している。それに対して、括弧が付されていないものは拡張サブプリセットデータを表している。
【0034】
制御部10は、プリセット管理テーブル40における管理情報に基づいて、プリセット記憶部12及びサブプリセット記憶部26から必要なデータを取得し、そのように取得されたデータに基づいて現サブプリセットデータ36を構成する。図1に示す例では、プリセットデータPS1が取得されており、そこには拡張サブプリセットデータa1が組み込まれている。いずれの標準サブプリセットデータも図示例では利用されていない。このように、制御部10は現サブプリセットデータを構成する機能を有し、それに先立って必要な元データを収集する検索取得機能を備えている。さらに制御部10は、同じ被検者について現被検部位が変更されたことを検知する機能を備えており、また新しいサブプリセットデータが生じた場合にそれをサブプリセット記憶部26へ適時のタイミングで登録する機能を備えている。それらの機能については後に図3及び図4を用いて詳述する。
【0035】
図2には、超音波診断システムの構成例がブロック図として示されている。図1に示した基本的な構成を具体化したものが図2に示す構成例である。
【0036】
図2において、超音波診断システムはネットワーク52に接続された超音波診断装置50を有している。図2に示す構成例では、ネットワーク52には他の超音波診断装置54及びサブプリセットデータベース56が接続されている。図2に示すシステムは例えば病院内に設置されるものであるが、例えばインターネット等の外部のネットワークを含むシステムとして構成することも可能である。すなわち、サブプリセットデータベース56がインターネット上に設けられていてもよい。
【0037】
超音波診断装置50は、上述した制御部10を備えている。制御部10にはキーボードやトラックボールなどを有する入力部72が接続されている。ユーザーは、この入力部72を利用して、パラメータ値の入力や変更を行うことができ、また、ボディマーク種別の指定やプローブマーク種別の指定を行うことができ、更に、プローブマーク位置の指定等を行うことができる。制御部10は通信部74を介してネットワーク52に接続されている。通信部74はネットワーク52との間においてデータ通信を行うためのモジュールである。制御部10には上述したプリセット記憶部12、サブプリセット記憶部26及びプリセット管理テーブル40が接続されている。それらが単一の記憶部上に構成されてもよい。サブプリセット記憶部26は図示の例においてをローカル記憶部として構成されている。本実施形態においてはサブプリセット記憶部26とともにネットワーク52上にサブプリセットデータベース56が設けられている。制御部10は、それらに対して横断的に検索を行う機能を備え、その場合に、サブプリセットデータベース56内に記憶されている複数のサブプリセットデータも検索対象となる。このような構成によれば、複数の超音波診断装置において個々のサブプリセットデータを共用することが可能となる。
【0038】
プローブ58は、本実施形態において複数の振動素子からなるアレイ振動子を備えている。このアレイ振動子によって超音波ビームが形成され、その超音波ビームは電子的に走査される。電子走査方式としては電子リニア走査、電子セクタ走査等が知られている。送受信部60は体表面上に当接されるものであるが、体腔内に挿入されるものが用いられてもよい。プローブ58に2Dアレイ振動子を設けるようにしてもよい。送受信部60は、送信ビームフォーマ及び受信ビームフォーマとして機能する。送信時において送受信部60は複数の送信信号をプローブ58へ出力する。これによりアレイ振動子において送信ビームが形成される。生体内からの反射波がプローブ58において受波され、これによりプローブ58から複数の受信信号が送受信部60へ出力される。送受信部60においては複数の受信信号に対して整相加算処理を適用し、これにより整相加算後の受信信号としてビームデータを生成する。そのビームデータは信号処理部62へ出力されている。
【0039】
信号処理部62はビームデータに対する各種の処理を実行するものであり、それには検波処理、対数変換処理等が含まれる。信号処理部62がドプラ情報を抽出する回路を備えていてもよい。DSC(デジタルスキャンコンバータ)64は、複数のビームデータに基づいて二次元断層画像(Bモード画像)を形成するモジュールである。もちろん二次元血流画像等が形成されてもよい。表示処理部66は超音波画像とイメージ生成部70から出力されるグラフィックイメージとを合成することにより表示イメージを生成する。その画像データが表示部68に送られ、表示部68の画面上には表示イメージが表示される。表示イメージには、例えば二次元断層画像が含まれ、またその近傍にはボディマーク及びプローブマークが表示される。プローブマークはボディマーク上における任意の位置に表示可能であり、その位置をユーザーにより指定可能である。
【0040】
次に、図3及び図4を用いて図2に示した制御部10の機能についての具体例を説明する。図3及び図4には、制御部10が有する機能の内で、プリセット関連機能が示されている。
【0041】
図3において、S101では、被検者IDが入力される。例えば被検者に配付された磁気カードから被検者IDを読み取ることができ、あるいはマニュアル入力によって被検者IDを入力することが可能である。ネットワークから当該情報を取得するようにしてもよい。S102においては、被検者IDをキーとしてプリセット管理テーブルが検索される。S103において、プリセット管理テーブル上において、S101で入力された被検者IDに対応するレコードが存在していた場合にはS104が実行され、そうでない場合にはS105が実行される。
【0042】
ちなみに、特定の被検者IDに対して複数のレコードがヒットした場合には、選択回数が参照され、選択回数として最も大きな数値を有するレコードが選択される。ただし、後に図6を用いて説明するように、頻度、前回検査日時、前回選択順序、等の他の情報に基づいて最初に選択するプリセットデータを特定するようにしてもよい。
【0043】
S104においては、被検者IDに基づいて特定されたプリセットデータが取得され、それに基づいて現プリセットデータが構成される。その際、取得されたプリセットデータに含まれる複数の標準サブプリセットデータの中から、プリセット管理テーブルによって指定される標準サブプリセットデータが選択される。それを特定できない場合には、デフォルトとして指定された標準サブプリセットデータを選択するようにしてもよい。最初の現プリセットデータの構成時点から拡張サブプリセットデータを利用するようにしてもよい。現プリセットデータが構成された場合に、当該現プリセットデータが有する複数のパラメータ値に従って装置動作条件が設定される。装置動作条件には、例えば診断深さ、送信周波数、フィルタ係数、コントラスト値、等の多種多様のパラメータ値が含まれる。
【0044】
一方、S105においては、デフォルトとして指定されているプリセットデータが現プリセットデータとして設定されることになる。この場合においては、被検者ID以外の情報に基づいて適当なプリセットデータが選択されるようにしてもよい。
【0045】
S106においては、現在設定されている現プリセットデータ(つまりパラメータセット)に基づいて超音波診断装置が有する各構成が制御される。但し、特に変更制限が課されていない任意のパラメータ値をユーザーによって自由に変更することが可能である。後に図4を用いて説明するように、ボディマーク種別が変更されたりあるいは特定のボディマーク上においてプローブマーク位置について一定の変更があった場合には、現プリセットデータ(つまりパラメータ値セット)の再構成すなわち更新が実行される。S107において検査終了が判定されるまで、S106の工程が繰り返し実行される。一般的には、被検部位が変更され、すなわち診断工程が切り替わった段階で、ボディマークがユーザーによりあるいは自動的に再選択され、あるいは、ボディマーク上におけるプローブマーク位置が変更される。そのようなイベントをトリガとして、以下に詳述するプリセットデータの更新が実行される。S108ではその時点において有効となっている現プリセットデータに基づいてそこに含まれているサブプリセットデータを拡張サブプリセットデータとして登録する処理が実行される。もちろん、そのサブプリセットデータを標準サブプリセットデータとして置換登録することも可能である。プリセットデータ自体を置換登録するようにしてもよい。そのような登録に際しては、必要に応じて、プリセット管理テーブルにレコードが追加され、あるいは、いずれかのレコードの内容が更新される。レコード追加等にあたっては、ボディマーク種別やプローブマーク位置等の情報も登録される。また選択回数をインクリメントする処理等も実行される。
【0046】
図4には、図3に示したS106の具体的な内容がフローチャートとして示されている。
【0047】
S201においては、ユーザーによってマニュアル入力で条件の変更が行われたか否かが判断される。すなわちパラメータ値のマニュアル修正が行われた否かが判断される。修正が確定した段階で、S202が実行され、すなわち現プリセットデータの内容が更新される。ここで、サブプリセットデータに対する修正が行われた場合、S203において更新前のサブプリセットデータを新しく登録する処理が実行される。もちろん、すでに更新前のサブプリセットデータについての登録が完了していれば、このS203を実行させる必要はない。ユーザーが明示的にプリセットデータ自身の更新を指示した場合にはプリセットデータを新しい内容に書き換えることも可能である。またそのような登録処理を検査が全て終了した段階で行わせることも可能である。
【0048】
S204においてはボディマーク種別の変更があったか否かが判断され、S205においてはプローブマーク位置について一定の変更があったか否かが判断されている。S204及びS205は二段階の判定ステップを構成し、それら全体として検知ステップを構成している。すなわち被検部位の変更を検知するプロセスが実現されている。ボディマーク種別の変更あるいは特定のボディマーク上において有意のプローブマーク位置変更があった場合にはS206が実行される。ちなみに、例えばプローブマークが位置している区分が変更されたような場合、被検部位変更が判定されることになる。区分については後に図5を用いて説明する。
【0049】
以上のように、被検者の同一性が維持されつつ被検部位変更があったと認められると、S206において、プリセット管理テーブルが参照され、同じ被検者について、現在のプローブマーク種別及びプローブマーク位置の組み合わせに合致するレコードがあるか否かが判断される。すなわち被検者及び被検部位の新しい組み合わせに適合するレコードの有無が探索される。S207において、一致するものがなければ現プリセットデータがそのまま維持され、一方、一致するものがあればS208において一致したレコードの内容が取り込まれ、現プリセットデータが再構成されることになる。例えばプローブ位置の変更が行われた場合には、基礎となるプリセットデータが維持されつつ、実際に使用するサブプリセットデータが新しいものに置換される。この場合において、拡張サブプリセットデータへの置換及び標準サブプリセットデータへの置換の両方が考えられる。また被検部位の変更に伴い、基礎となるプリセットデータそれ自体も更新され得る(その場合には実際に使用するサブプリセットデータも更新される)。いずれにしても、S208においては管理情報に基づいて新たに現プリセットデータを再構成し、その内容にしたがって装置動作条件が再設定される。その際において、S209においては、必要に応じて、更新前のサブプリセットデータの新規登録処理が実行される。上述同様に、その段階においてプリセットデータそれ自身の置換登録が行われてもよい。
【0050】
以上のような工程を繰り返すと、超音波検査の進行に伴って実際に使用されたサブプリセットデータが拡張プリセットデータとして保存されることになる。次の超音波検査においては、過去に使用したサブプリセットデータを順次利用することが可能であるので、計測の再現性を良好にでき、またユーザにおける設定負担を大幅に軽減することが可能である。すなわち、被検者及び被検部位の組み合わせに基づいてそれに適合する現プリセットデータを適応的に設定することが可能である。
【0051】
図5には、ボディマーク72が示されている。図5に示す例では下肢を表すボディマークが示されている。それはグラフィックイメージである。ボディマーク72に対してはX方向Y方向に複数の区間が設定されており、ボディマーク72の全体として複数の区分すなわちセルが設定されている。符号74はプローブマークを示しており、プローブマーク74の重心点の位置がいずれの区分にあるのかが常に検出される。そして現在所属している区分が変更された場合、被検部位の変更が判定される。また、上述したようにボディマーク種別そのものが変更された場合にも被検部位の変更が判定される。それ以外にも、プローブマークの向きの変更やプローブマークの種別の変更等があった場合に被検部位の変更あるいは検査項目の変更を判定し、それをトリガーとして現プリセットデータを再構成するようにしてもよい。
【0052】
図6には、図1に示したプリセット管理テーブルの変形例が示されている。
【0053】
プリセット管理テーブル40Aは、すでに説明したプリセット管理テーブルと同様に、複数のレコードを有し、各レコードが被検者ID、プリセット識別子、サブプリセット識別子、ボディマーク種類、プローブマーク位置の情報を有している。さらに、各レコードが頻度の情報76、前回検査日時の情報78及び前回選択順序の情報80を有している。必要に応じて他の情報を管理するようにしてもよい。
【0054】
ここで、頻度は当該レコードが選択された度合いを示すものである。前回検査日時は当該被検者についての前回検査が行われた年月日及び時間を表し、前回選択順序は当該被検者についての前回の超音波検査において選ばれた順位を示している。そのような情報に基づいて、被検部位の変更があった場合に、あるいはユーザーから明示的な何らかの入力があった場合に、自動的に現プリセットデータの再構成を行うようにしてもよい。その場合においては、上述した情報に基づいていずれかのレコードを特定することすなわちプリセットデータとサブプリセットデータの組み合わせを特定することが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 制御部、12 プリセット記憶部、26 サブプリセット記憶部、40 プリセット管理テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
現在使用する現プリセットデータの元となる元データが格納された元データ記憶手段と、
被検者及び被検部位の組み合わせに対応したプリセットデータ内容を管理するための管理情報が格納された管理情報記憶手段と、
前記管理情報に従って前記元データ記憶手段に格納された元データを利用して現被検者及び現被検部位の組み合わせに適合する現プリセットデータを構成し、当該現プリセットデータに基づいて装置動作条件を設定する手段であって、現被検者について現被検部位の変更が検知された場合に現プリセットデータ内容を再構成する制御手段と、
を含むことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項2】
請求項1記載のシステムにおいて、
前記元データ記憶手段は、
複数の元プリセットデータを格納した第1のデータ記憶部と、
前記複数の元プリセットデータに組み込み可能な複数の拡張サブプリセットデータを格納した第2のデータ記憶部と、
を含み、
前記管理情報においては、前記被検者及び被検部位の組み合わせに対して、少なくともプリセットデータ識別子が対応付けられ、且つ、拡張サブプリセットデータを利用することになる拡張方式が適用される前記組み合わせについては更に拡張サブプリセットデータ識別子が対応付けられ、
前記現被検者及び現被検部位の組み合わせに応じて、拡張サブプリセットデータが組み込まれた現プリセットデータを利用し得る、
ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項3】
請求項2記載のシステムにおいて、
前記各元プリセットデータは、基本部分と、選択的に利用可能な部分としての標準サブプリセットデータと、を有し、
前記拡張方式が適用される場合に、前記プリセットデータ識別子によって指定された特定の元プリセットデータにおける標準プリセットデータに代えて前記拡張サブプリセットデータ識別子によって指定された特定の拡張サブプリセットデータが組み込まれる、
ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシステムにおいて、
現在使用されている現ボディマークの種別を判定する第1判定手段と、
現在使用されている現プローブマークの種別及び位置の少なくとも一方を判定する第2判定手段と、
前記第1判定手段の判定結果及び前記第2判定手段の判定結果から前記現被検部位の変更を検知する検知手段と、
を含み、
前記被検部位を特定する情報として、前記現ボディマークの種別と前記現プローブマークの種別及び位置の少なくとも一方とが用いられる、
ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項5】
請求項4記載のシステムにおいて、
前記制御手段は、前記現ボディマークの種別が変更された場合、及び、前記現ボディマーク上における前記現プローブマークの位置について変更検知条件を満たす変更があった場合の少なくとも1つが生じたときに前記現被検部位の変更を検知する検知手段を有する、
ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項6】
請求項3記載のシステムにおいて、
前記制御手段は、前記現プリセットデータにおける標準サブプリセットデータ又は拡張サブプリセットデータの内容がユーザーにより変更された場合に前記第2のデータ記憶部に対する新規登録を実行する登録手段を有する、
ことを特徴とする超音波診断システム。
【請求項7】
請求項2記載のシステムにおいて、
当該超音波診断システムは、
送受信部及び少なくとも前記制御手段を備える超音波診断装置と、
前記超音波診断装置に対してネットワークを介して接続され、前記第2の記憶部を有する拡張サブプリセットデータサーバーと、
を有する、
ことを特徴とする超音波診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−205610(P2012−205610A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71328(P2011−71328)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(390029791)日立アロカメディカル株式会社 (899)
【Fターム(参考)】